以下、本発明の各実施形態を、図面を参照して説明する。
<第一実施形態>
本発明の第一実施形態に係る椅子は、オフィスや家庭にて好適に使用することができる事務用回転椅子と称されるものである。
当該椅子は、図1〜図8に示すように、床面から立設される脚1と、この脚1の上方に設けられた座3と、この座3に一体的に形成されている背凭れ4とを主に有している。
脚1は、平面視放射状に形成された脚羽根11と、この脚羽根11の下側に取り付けられ床面に転動可能に接地するキャスタ12と、脚羽根11の中央から立設される脚支柱13と、この脚支柱13に内装されて座3を昇降可能に支持する昇降機構であるガススプリング14と、脚支柱13の上端近傍において、脚支柱13に対しガススプリング14のロッドを相対回転可能として座3を水平回転可能に支持する回転支持機構16と、ガススプリング14上端に設けられたプッシュボタン17を押圧することによりガススプリング14を伸縮させて座3の上下位置を調節するための操作レバー15とを有している。
座3は、本実施形態では背凭れ4と一体的に形成された板状をなす座本体30を主体とし、この座本体30の上面を座面3aとしつつ、下面側には下方から支持されるための座受31が取り付けられたものである。
ここで本実施形態に係る椅子は、脚1と座3との間に介在した支持機構2が、座3の下方に配置され、座3を少なくとも前後方向の2箇所及び左右方向の2箇所で所定の軌跡に沿って移動可能に支持するものであって、座3が移動するに従い座3の移動方向先端側を下向きに傾斜させる座傾斜機能たる座傾斜機構Qを備えるものであり、基準位置(S)から前後又は左右方向に移動した座3を基準位置(S)へ戻す方向の復帰力を移動量に応じて発生させる復帰力発生機構をさらに備えたことを特徴とする。
すなわち本実施形態に係る支持機構2は、支持機構2単体で上記の座3の挙動を実現すべく、座3の下面を少なくとも前後方向の2箇所で直接又は間接に支持する前支持構造及び後支持構造と、座3の下面を左右方向の2箇所で直接又は間接に支持する左支持構造及び右支持構造とを組み合せて、座3への支持箇所を前後左右に移動させるものであって、前記支持箇所が移動に従い当該座3の移動方向先端側を下向きに傾斜させる軌跡を描くように構成するとともに、基準位置(S)から前後又は左右方向に移動した座3への支持箇所を基準位置(S)へ戻す方向の復帰力を移動量に応じて発生させる復帰力発生機構たる後述する重心移動機構Pをさらに備えているものとしている。以下、支持機構2の構成について具体的に説明する。
支持機構2は、本実施形態では図1〜図6に示すように、脚1と座3との間に介在し座3を前後方向および左右方向に動作させるための所定の軌跡に沿って形成されたガイド面23a、23b、25a、25bおよびこのガイド面23a、23b、25a、25bに追従したスライド動作を行うフォロワー24a、24b、26a、26bを有しこれらガイド面23a、23b、25a、25bおよびフォロワー24a、24b、26a、26bの相対動作により座3を動作可能に支持するものである。
支持機構2は、脚1の上端部分から座受31の下端部分に亘って構成されている。具体的には脚1の上端部分と、座受31の下端部分と、これら脚1の上端部分および座受31の下端部分に介在する支持筐体20とによって構成されているものである。この支持機構2は、脚1の上端部分と支持筐体20の下半分の領域とに亘り座3を左右方向に動作可能に支持する前後に一対の左右支持部21が構成されるとともに、座受31の下端部分と支持筐体20の上半分の領域とに亘り座3を前後方向に動作可能に支持する左右一対の前後支持部22が構成されている。すなわちこれら左右支持部21および前後支持部22とは平面視重複する位置に重ねられ且つそれぞれ独立して別体に構成されている。そして本実施形態では前後支持部22が背凭れ4に一体に構成されている座3を直接的に支持していることから、本実施形態では前後支持部22に背凭れ4が間接的に取り付けられている構成をなしているが勿論、支持筐体20の上半分の領域に背凭れ4を直接的に取り付ける態様とする構成を妨げない。
左右支持部21は、座3を左右方向に3.4°傾斜可能に支持するためのものであり、支持筐体20の下半分の領域に形成された左右ガイド穴23と、脚1の上端部に形成され両端が左右ガイド穴23に挿入される左右支持軸24とを有している。この左右支持軸24の前後両端には、左右ガイド穴23内をスムーズに動作し得るように構成された左フォロワー24aと右フォロワー24bとが設けられている。そして左右ガイド穴23においてこれら左フォロワー24aと右フォロワー24bに接する面が、左ガイド面23aおよび右ガイド面23bである。そしてこれら左ガイド面23aおよび右ガイド面23bは、あらかじめ設定された所定の軌跡に沿うべく上向きの山形形状をなしている。すなわち本実施形態では、左ガイド面23aと左フォロワー24aとによって左支持構造を構成している。また右ガイド面23bと右フォロワー24bとによって右支持構造を構成している。
そして本実施形態では、斯かる上向きの山形形状を、基準位置(S)を含む一定の動作範囲を第1領域23a1、23b1とし、その動作範囲を越えて動作端近傍に至る範囲を第2領域23a2、23b2として、第1領域23a1、23b1ではフォロワー24a、24bを介し協働して座3の高さ方向への重心移動を小さく抑えつつ(したがって基準位置(S)への復帰力を小さく抑えつつ)かつ座3の傾斜角度を小さく抑えつつ座3を基準位置(S)から離れる方向へガイドし、第2領域23a2、23b2に入るとフォロワー24a、24bを介し協働して座3の高さ方向への重心移動をより大きくしつつ(したがって基準位置への復帰力をより高めつつ)かつ座3の傾斜角度をより大きくしつつ座3を基準位置(S)から離れる方向へガイドするように設定されている。すなわち本実施形態では、これら第1領域23a1、23b1から第2領域23a2、23b2へとフォロワー24a、24bが従動するに従い、座3の動き易さが復帰力の増大により徐々に緩慢になるように構成することにより、緩慢部を構成している。換言すれば、前記緩慢部は、第1領域23a1、23b1及び第2領域23a2、23b2からなる。第1領域23a1、23b1と第2領域23a2、23b2は連続性のものであるため境界位置は明示し難いが、座3の高さ方向への重心移動率が低から高へ切り替わる位置を持って境界位置と捉えることができる。
なお本実施形態では左側のガイド穴23の左端に位置する動作端および右側のガイド穴23の右端に位置する動作端においては座の傾斜角度を一定に保ちながら急峻に座3を持ち上げる方向に変更することで、左フォロワー24a及び右フォロワー24bが左右ガイド穴23の左右両端面に実用上殆ど接触しないようにするショックレス部Rを構成している。これにより、動作端における左フォロワー24a及び右フォロワー24bと左右ガイド穴23の端面との衝突を回避せしめている。なお、左右ガイド穴23を連続させて一体的に設けても良い。
前後支持部22は、左右支持部21よりも上方に設けて、より着座者に近く位置付けておくことで着座者の動きにより反応しやすく設定されたものであり、座3を前方へ8°、後方へ10°傾斜させ得るよう支持するためのものであり、支持筐体20の上半分の領域に形成された前後ガイド穴25と、座受31の下端部に形成され両端が前後ガイド穴25に挿入される前後支持軸26とを有している。この前後支持軸26の左右両端には、前後ガイド穴25内をスムーズに動作し得るように構成された前フォロワー26aと後フォロワー26bとが設けられている。そして前後ガイド穴25においてこれら前フォロワー26aと後フォロワー26bに接する面が、前ガイド面25aおよび後ガイド面25bである。そしてこれら前ガイド面25aおよび後ガイド面25bは、あらかじめ設定された所定の軌跡に沿うべく上向きの山形形状をなしている。すなわち本実施形態では、前ガイド面25aと前フォロワー26aとによって前支持構造を構成している。また後ガイド面25bと後フォロワー26bとによって後支持構造を構成している。
そして本実施形態では、斯かる上向きの山形形状を、基準位置(S)を含む一定の動作範囲を第1領域25a1、25b1とし、その動作範囲を超えて動作端近傍に至る範囲を第2領域25a2、25b2とし、第1領域25a1、25b1ではフォロワー26a、26bを介して協働して座3の高さ方向への重心移動を小さく抑えつつ(したがって基準位置(S)への復帰力を小さく抑えつつ)かつ座3の傾斜角度を小さく抑えつつ座3を基準位置(S)から離れる方向へガイドし、第2領域25a2、25b2に入るとフォロワー26a、26bを介し協働して座3の高さ方向への重心移動をより大きくしつつ(したがって基準位置(S)への復帰力をより高めつつ)かつ座3の傾斜角度をより大きくしつつ座3を基準位置(S)から離れる方向へガイドするように設定されている。すなわち本実施形態では、これら第1領域25a1、25b1から第2領域25a2、25b2へとフォロワー26a、26bが従動するに従い、座3の動き易さが復帰力の増大により徐々に緩慢になるように構成することにより、緩慢部を構成している。換言すれば、前記緩慢部は、第1領域25a1、25b1及び第2領域25a2、25b2からなる。第1領域25a1、25b1及び第2領域25a2、25b2は連続性のものであるため境界位置は明示し難いが、座3の高さ方向への重心移動率が低から高へ切り替わる位置をもって境界位置と捉えることができる。
なお本実施形態では前後ガイド穴25の前後の動作端においては座の傾斜角度を一定に保ちながら急峻に座3を持ち上げる方向に変更することで、前フォロワー26a及び後フォロワー26bが前後ガイド穴25の前後両端面に接触しないように衝撃を吸収するショックレス部Rを構成している。これにより、動作端における前フォロワー26a及び後フォロワー26bと前後ガイド穴25の端面との衝突を回避せしめている。なお、前後ガイド穴25を連続させて一体的に設けても良い。
座3の前後動作を具体的に説明すると、基準位置(S)にある座3が前方へ揺動する際、後フォロワー26bが上り方向に傾斜した第1領域25b1を従動する一方、前フォロワー26aは下り方向に傾斜した第1領域25a1を従動する。これにより、基準位置(S)近傍での座3の前方向の動作に対しては殆ど復帰力が働かない。しかる後、座3が基準位置(S)から前方へさらに動作することにより、前後のフォロワー26a、26bはそれぞれ上り方向に傾斜した第2領域25a2、25b2にさしかかると座3の重心Gの上昇度合いが大きくなるにつれて復帰力が増していく。そして動作端近傍では斜度を実用上殆ど動作端へは到達し得ないまでに更に大きく構成することにより、ショックレス部Rが形成されている。換言すれば、ショックレス部Rは、部材同士の衝突による衝撃を回避するためのものである。
また、基準位置(S)にある座3が後方へ揺動する際、後フォロワー26b、前フォロワー26aともに上り方向に傾斜した第1領域25a1、25b1を従動し、さらに揺動すると、更に斜度が大きく構成された第2領域25a2、25b2にさしかかる。しかる後、動作端近傍では、斜度を実用上殆ど動作端へは到達し得ないまでに更に大きく構成することにより、ショックレス部Rが形成されている。
すなわち本実施形態では、前後左右に自由に動作する座3の動作角度及び動作距離が、前後方向が左右方向よりも大きくなるように設定している。更に具体的には座3の前後方向の動作角度に関し、前方向よりも後方向の方が大きくなるように設定している。
ここで本実施形態では特に図7および図8に示すように、左ガイド面23a、右ガイド面23b、前ガイド面25aおよび後ガイド面25bに追従し、左フォロワー24a、右フォロワー24b、前フォロワー26aおよび後フォロワー26bが相対動作するときの前後左右方向の座面3aの動きが、あらかじめ設定された所定の軌跡に沿うように構成されている。この所定の軌跡とは、本実施形態では基準位置(S)を中心として座3が前方へ8°、後方へ10°、そして左右方向へそれぞれ3.4°傾斜し得る動作範囲に沿って形成される。またこの所定の軌跡による座3の移動寸法について説明する。座3は、前方へ8°傾動したときには水平方向前方へ50mm且つ上方へ4mm動作する。また座3は、後方へ10°移動したときには水平後方へ50mm且つ上方へ6.5mm動作する。そして左右方向の動作端においては、基準位置(S)より水平方向に30mm且つ上方へ1.8mm動作する。
図7では、ガイド面23a、23bに設定された所定の基準位置(S)から左右方向に動作したときの座3の挙動を示している。同図に示すように、左右支持部21により座面3aが左右に動作したとき、左右の支持点すなわち左右のフォロワー24a、24bの間にある座3の重心Gの位置が実線で示す基準位置(S)にあるときの重心Gの位置から若干上昇するように、左ガイド面23aおよび右ガイド面23bの位置および形状が調整されている。これにより、左右に動作したときには自ずと座3を基準位置(S)へ戻す方向の復帰力が発生する。すなわち本実施形態では、この左ガイド面23aおよび右ガイド面23bが復帰力発生機構のうち左右方向の復帰力を発生させる左右復帰部であり、基準位置(S)からの座3の動作に伴い座3の重心Gを上昇させる重心移動機構Pとして機能している。加えて同図において左右に動作した座面3aは、動作先端側よりも動作基端側の持ち上げ量が多くなるように前ガイド面25aおよび後ガイド面25bの位置および形状が調整されており、その結果、動作先端側が下降する姿勢となっている。すなわち本実施形態ではこの左ガイド面23aおよび右ガイド面23bが、座傾斜機構Qの役割も担っている。
図8では、ガイド面25a、25bに設定された所定の基準位置(S)から前後方向に動作したときの座3の挙動を示している。同図に示すように、前後支持部22により座面3aが前後に動作したとき、前後の支持点すなわち前後のフォロワー26a、26bの間にある座3の重心Gの位置が実線で示す基準位置(S)にあるときの重心Gの位置から若干上昇するように、前ガイド面25aおよび後ガイド面25bの位置および形状が調整されている。これにより、前後に動作したときには自ずと座3を基準位置(S)へ戻す方向の復帰力が発生する。すなわち本実施形態では、この前ガイド面25aおよび後ガイド面25bが復帰力発生機構のうち前後方向の復帰力を発生させる前後復帰部であり、基準位置(S)からの座3の動作に伴い座3の重心Gを上昇させる重心移動機構Pとして機能している。加えて同図において前後に動作した座面3aは、動作先端側よりも動作基端側の方が持ち上げ量が多くなるように前ガイド面25aおよび後ガイド面25bの位置および形状が調整されており、その結果、動作先端側が下降する姿勢となっている。すなわち本実施形態ではこの前ガイド面25aおよび後ガイド面25bが、座傾斜機構Qの役割も担っている。
すなわち本実施形態では、支持機構2を構成しているこれら左ガイド面23a、右ガイド面23b、前ガイド面25a、後ガイド面25bおよび左フォロワー24a、右フォロワー24b、前フォロワー26a、後フォロワー26bにより、復帰力発生機構たる重心移動機構Pおよび座傾斜機構Qを構成している。
加えて本実施形態では、前後のガイド面23a、23b、左右のガイド面25a、25bともに上述の通り第1領域23a1、23b1、25a1、25b1並びに第2領域23a2、23b2、25a2、25b2を設けることで、基準位置(S)近傍における座3の動作時には各フォロワー24a、24b、26a、26bは第1領域23a1、23b1、25a1、25b1に案内されることで基準位置(S)への揺れ戻し力が着座者には感じ難い程度にしか働かず、他方、前後左右の動作端近傍では各フォロワー24a、24b、26a、26bが第2領域23a2、23b2、25a2、25b2に案内されるために揺れ戻し力が強力に働く。これにより、着座者は基準位置(S)近傍での心地良い座3の動作を体感でき、また座3を動作端近傍としても基準位置(S)への強力な揺れ戻しのために再び基準位置(S)近傍での心地良い動作へと案内されるという安心感を得ることできる。
続いて図9及び図10では、座3の前傾時における着座者の特に下半身の挙動について説明する。通常着座者が着座時に椅子を前傾(或いは後傾)させると、同図に示すように膝NE、足首AN、臀部近傍HPのうち、特に足首ANを主たる回動支点として動こうとする。しかしながら従来の椅子では座を前後動作させる回動支点が、自ずと座の下側であり且つ座3の近傍となっているため、座が大きく降下する動作を前後動作に併せて行っていた。そのため上記動作を行おうとする着座者にとっては臀部近傍HPが当該動作よりも降下して膝NEを必要以上に屈曲させてしまうような感覚を無意識に覚えていたのが現状であった。
そこで本実施形態に係る椅子は、同図に示すように座3の前傾時に重心移動機構Pが作用することにより上記足首ANを主たる回動支点とした動作に沿った臀部近傍HPの浮上しようとする動きに近似した座3の動作を実現している。併せて、座傾斜機構Qの作用により、座3の前端部分が着座者の膝NE近傍に不要に干渉してしまうことをも有効に回避せしめている。
また本実施形態では、座3の左右方向の動作に関しても上記図9及び図10に準じた動作を行い得る。それ故に着座者の足首ANを回動支点とした膝NE、臀部近傍HPの動作に準ずるかのように座3が重心Gを上昇させながら且つ動作基端よりも動作先端が低くなるよう動作するため、着座者の膝NE、臀部近傍HPに違和感を与えたり不要な負担を掛けてしまったりするという不具合が起こることは無い。
以上のように、本実施形態に係る椅子は斯かる構成により、着座時に着座者が快適さを維持するために無意識に行っているような腰部、臀部の動作に対しても本実施形態に係る椅子は追従するのみならず、復帰力発生機構により着座者は快適さを保ちながら元の姿勢に戻ったりまた別の動作を行うといったりした、いわゆる人体としての自然な動きに起因する快適さを得ることができる。換言すれば、着座時の着座者の人体の構造に起因する動作傾向を踏まえた上で当該動作を好適にサポートし得る椅子を実現している。
具体的には、本実施形態に係る椅子は、脚1と座3との間に介在した支持機構2が、座3の下方に配置され、座3を少なくとも前後方向の2箇所及び左右方向の2箇所で所定の軌跡に沿って移動可能に支持するものであって、座3が移動するに従い座3の移動方向先端側を下向きに傾斜させる座傾斜機能たる座傾斜機構Qを備えるものであり、基準位置(S)から前後又は左右方向に移動した座3を基準位置(S)へ戻す方向の復帰力を移動量に応じて発生させる復帰力発生機構をさらに備えたことを特徴とする。
斯かる構成により、本実施形態に係る椅子は、着座時の着座者の姿勢が好適に維持されるのみならず、着座中の着座者の動きをも好適にサポートし得るものとなっている。すなわち、着座者が前後左右に重心を移動させても、座3が前後方向の2箇所にある前後のフォロワー26a、26bに設けた支持箇所の間に重心Gが位置する限り、或いは、座3が左右方向の2箇所に設けた支持箇所である左右のフォロワー24a、24bの間に重心Gが位置する限り、支持機構2に大きな倒れモーメントが掛からないように設計しているので、着座者がある適切な姿勢で静止するにあたって足で踏ん張る必要性を低減せしめている。加えて、前後方向と左右方向にそれぞれ適した軌跡を与えることができるため、前と後ろで着座者の体の動きが異なっても、或いは前後と左右で着座者の体の動きが異なっても、着座者の体の動きに適切に対応したサポート状態を実現している。
また、着座者が足で踏ん張ってバランスをとる必要性が低いため、脚1の下端がキャスタ12で支持されていてもキャスタ12が逃げるおそれが低減し、椅子の安定した利用が実現されている。特に、上記の支持機構2によって支持された座3は、床近くの特定の支点回りに単調な回動動作をしない設定ができるため、座3の回動軌跡と着座者の膝から下の動きとが合致或いは近接し、前傾しても足が突っかえないような適切なサポート状態を実現している。
さらに、かかる支持機構2により、着座者が着座する度に座3が沈み込むこといった不具合を生じることもなく、支柱の下端を床に接地させて回動させる場合のような不都合を伴うこともない。以上により、本発明の椅子は、座面3aが傾くと傾いた方向に座が移動するため、着座者の体の動きに極めて良好にフィットせしめている。
つまり本実施形態によれば、着座者が長時間着座していても快適な着座感を得ることができ、ひいては高い作業効率を安定して維持し得る椅子が実現されている。
加えて本実施形態では、脚1がガススプリング14を擁する上下昇降機構を備え、座3が上下昇降機構の上方に設けられて、支持機構2が上下昇降機構と座3との間に介在するようにしているので、かかる支持機構2を上下昇降機構と融合した複雑な構造とせずにコンパクトな構成を実現している。
そして本実施形態では、支持機構2を、所定の軌跡に沿って少なくとも前後方向および左右方向にそれぞれ独立して動作可能に支持するようにしているので、座3の前後左右の動作をそれぞれよりスムーズに行い得るようになっている。
加えて本実施形態では、座3の動作角度及び動作距離を、前後方向が左右方向よりも大きくなるように設定することにより、着座者の動きに座3の動きを適切に対応させるとともに、座3の動作角度を前方向よりも後方向の方が大きくなるように設定することで、着座者の動きに座3の動きを更に適切に対応せしめている。
また本実施形態では、復帰力発生機構を、基準位置(S)からの座3の動作に伴い座3の重心Gを上昇させる重心移動機構Pとすることにより、復帰力発生機構をより簡素な構成にて実現している。特に本実施形態ではこの重心移動機構Pと上述した座傾斜機構Qによる動作とが相まって、座面3aを前傾させるような動作においても着座者の足がつかえてしまうような姿勢となり難いので、着座時のさらなる快適さの向上を実現している。
また本実施形態では座3を水平回転可能に支持する回転支持機構16を有しているので、作業中の着座者の動作により好適に追従し得る。
そして本実施形態では支持機構2を、座を前後方向に動作可能に支持する前後支持部22および当該前後支持部22とは別体に構成され座を左右方向に動作可能に支持する左右支持部21を有するものとし、復帰力発生機構を、前後方向の復帰力を発生させる前後復帰部および当該前後復帰部とは別体に構成された左右方向の復帰力を発生させる左右復帰部を有するものとしているので、個々の構成部分の構成を簡素なものとしながら快適な着座姿勢が維持できるようになっている。
特に本実施形態では前後支持部22および左右支持部21を平面視重複する位置に重層して設けることで、椅子全体が平面視においてよりコンパクトなものとなっている。
加えて本実施形態では、前後支持部22に背凭れ4を間接的に取り付けることで、着座者の背を好適に支持し、より快適な着座感が得られるようになっている。
そして本実施形態では、支持機構2を、所定の軌跡に沿って形成されたガイド面23a、23b、25a、25bと、このガイド面23a、23b、25a、25bに追従した相対動作を行うフォロワー24a、24b、26a、26bとを有したものとすることで、正確且つ安定した座3の動作を実現している。
そして本実施形態では、支持機構2を、フォロワー24a、24b、26a、26bの動作端に近接するに従いフォロワー24a、24b、26a、26bの動作を緩慢にする第1領域23a1、23b1、25a1、25b1及び第2領域23a2、23b2、25a2、25b2からなる緩慢部を有したものとしているので、座3の意図しない急な動作によって着座者に不要な「怖さ」や違和感を与えてしまうことを有効に回避している。
併せて本実施形態では、支持機構を、動作端におけるガイド面23a、23b、25a、25bの端部とフォロワー24a、24b、26a、26bとの衝突を回避するショックレス部Rを有したものとしているので、座3の急な動作に起因する不要な衝撃や騒音を着座者に与えないようにしている。
加えて本実施形態では、脚1がキャスタ12を有するものとすることより、座3が前後左右に動作しても椅子が容易に移動してしまうことを防止する一方で、所要のときには着座者は座ったまま椅子ごと移動することができる。つまり、特表平10−513374号公報のように着座時に座3を揺動させるために床面に対して摩擦力によりグリップさせる要素が必要ない。
特に本実施形態では、支持機構2単体で上記の座3の挙動を実現すべく、支持機構2は、座3の下面を少なくとも前後方向の2箇所で直接又は間接に支持する前ガイド面25a及び前フォロワー26aからなる前支持構造及び後ガイド面25b及び後フォロワー26bからなる後支持構造と、座3の下面を左右方向の2箇所で直接又は間接に支持する左ガイド面23a及び左フォロワー24aからなる左支持構造及び右ガイド面23b及び右フォロワー24bからなる右支持構造とを組み合せて、座3への支持箇所を前後左右に移動させるものであって、前記支持箇所が移動に従い当該座3の移動方向先端側を下向きに傾斜させる軌跡を描くように構成するとともに、基準位置(S)から前後又は左右方向に移動した座3への支持箇所を基準位置(S)へ戻す方向の復帰力を移動量に応じて発生させる復帰力発生機構をさらに備えているものとしている。
具体的な実施の態様として本実施形態では、基準位置(S)から前後支持部22による前後の支持箇所が前方向へ移動するに伴って、前側の支持箇所が後側の支持箇所よりも相対的に低くなり、基準位置(S)から前後の支持箇所が後方向への移動に伴って、座3の後側の支持箇所が前側の支持箇所よりも相対的に低くなるように構成しているもの、或いは、基準位置(S)から左右支持部21による左右の支持箇所が左方向へ移動するに伴って、左側の支持箇所が右側の支持箇所よりも相対的に低くなり、基準位置(S)から左右の支持箇所が右方向へ移動するに伴って、座3の右側の支持箇所が左側の支持箇所よりも相対的に低くなるように構成している構成を適用している。ここで「支持箇所」とは勿論、前後左右のガイド穴23a、23b、25a、25bと前後左右のフォロワー24a、24b、26a、26bとの接点或いは接触部分であることはいうまでもない。また、座の動作の過程で、接点或いは接触部分が上下に変化することもある。特に、着座者の重心が支持箇所の間に無い場合に、接点或いは接触部分が上下に変化し得る。
以下、本発明の変形例並びに他の実施形態について説明していく。以下の変形例並びに実施形態において、上記実施形態の構成要素に相当するものに対しては同じ符号を付すとともに、その詳細な説明を省略する。
<変形例>
図11では、上記実施形態に開示した支持筐体20に代わる支持筐体20Fを図示している。すなわち上記実施形態では支持筐体20により左右支持部21および前後支持部22が平面視重複する位置に位置付けられるようにこれら前後支持部22及び左右支持部21を構成する各部分を上下方向に重層する構成としたが、当該支持筐体20Fは、前後支持部22及び左右支持部21を上下方向に重複させるように設けた構成としている。なお当該変形例の場合、椅子の脚1上端近傍部分や座受31近傍部分の構成は、当該支持筐体20Fの形状に応じるように適宜変形されることはいうまでもない。
当該構成により前後一対の左右支持部21と左右一対の前後支持部22とが同じ高さ位置で構成されることにより、上記第一実施形態同様の動作を実現しつつ上下方向にコンパクトな椅子を提供し得る。
さらに図12では、上記実施形態に開示した支持筐体20に代わる支持筐体20Nの模式的な平断面を図示している。すなわち上記実施形態では支持筐体20により左右支持部21および前後支持部22が平面視重複する位置に位置付けられるようにこれら前後支持部22及び左右支持部21を構成する各部分を上下方向に重層する構成としたが、当該支持筐体20Nは、前後支持部22及び左右支持部21をそれぞれ内外に入れ子状に平面視、正面視(図示せず)とも重複させるように設けた構成としている。なお当該変形例の場合、椅子の脚1上端近傍部分や座受31近傍部分の構成は、当該支持筐体20Nの形状に応じるように適宜変形されることはいうまでもない。
当該構成によっても上記同様、前後一対の左右支持部21と左右一対の前後支持部22とが同じ高さ位置で構成されることにより、上記第一実施形態同様の動作を実現しつつ上下方向にコンパクトな椅子を提供し得る。
そして図13(a)、(b)では、上記ショックレス部Rの他の変形例を示している。すなわち座3が基準位置(S)へ向けて付勢するように、前後のフォロワー26a、26bに対し椅子の固定部分に設けられた引張コイルバネ等の弾性手段R1を接続することにより、上記同様のショックレス部Rを構成している態様を示している。また同図(a)、(b)では、弾性手段R1の付勢方向を異ならせた態様としているが、何れも座3が基準位置(S)となるよう前後のフォロワー26a、26bを付勢している点は同様である。
<第二実施形態>
本発明の第二実施形態に係る椅子は、上記第一実施形態同様事務用回転椅子として好適に利用され得るものである。
すなわち、当該実施形態に係る椅子も脚1と座3との間に介在した支持機構5が、座3の下方に配置され、座3を少なくとも前後方向の2箇所及び左右方向の2箇所で所定の軌跡に沿って移動可能に支持するものであって、座3が移動するに従い座3の移動方向先端側を下向きに傾斜させる座傾斜機能たる座傾斜機構Qを備えるものであり、基準位置(S)から前後又は左右方向に移動した座3を基準位置(S)へ戻す方向の復帰力を発生させる復帰力発生機構をさらに備えたことを特徴とする。
当該椅子は、床面に接地する脚1と、この脚1の上方に設けられた座3と、この座3に一体的に形成されている背凭れ4とを主に有している点は、座本体30にクッションが設けられている点を除き、その構成は上記実施形態と同様であるため説明を省略する。そして本実施形態に係る椅子は、脚1の上端部分から座受31の下端部分に亘って支持機構が構成されている点は上記実施形態同様である。
しかしながら本実施形態に係る椅子は、当該支持機構5の構成を上記実施形態とは異なる懸吊支持機構とすることにより、併せて復帰力発生機構および座傾斜機構Qも異なった態様として構成されている。
ここで、本実施形態に係る椅子は、脚1の一部から座3の一部を上方から懸吊することによって座3を所定の軌跡に沿って少なくとも前後方向および左右方向に動作可能に支持する懸吊支持機構としての支持機構5を具備することを特徴とする。
以下、本実施形態に係る椅子の構成を懸吊支持機構たる支持機構5の構成を主に説明する。
支持機構5は、図14〜図19に示すように、脚1と座3との間に介在し座3を前後方向および左右方向に動作させるための所定の軌跡に沿って座3を動作可能に支持できるよう、上下方向に延びるリンク部材55、58、59を有したリンク機構を適用したものである。この支持機構5は、脚1の上端部分と、座受31の下端部分と、これら脚1の上端部分および座受31の下端部分に介在する揺動支持体50とによって構成されているものである。この支持機構5は、脚1の上端部分と揺動支持体50の下側の領域とに亘り座3を左右方向に動作可能に支持する左右支持部51が構成されるとともに、座受31の下端部分と揺動支持体50の上側の領域とに亘り座3を前後方向に動作可能に支持する前後支持部52が構成されている。すなわちこれら左右支持部51および前後支持部52とは平面視重複する位置に上下方向にオーバーラップし且つ座3の平面視中心たる脚支柱13を囲む位置に独立して別体に構成されている。そして本実施形態では前後支持部52が背凭れ4に一体に構成されている座3を直接的に支持していることから、本実施形態では前後支持部52に背凭れ4が間接的に取り付けられている構成をなしているが勿論、揺動支持体50の上半分の領域に背凭れ4を取り付ける態様とする構成を妨げない。
左右支持部51は、揺動支持体50の下半分の領域に形成された左右揺動部54と、脚1の上端部に形成された左右揺動部54を懸吊支持するための左右懸吊部53と、これら左右揺動部54および左右懸吊部53に枢着する対をなす左右リンク55とを有している。この左右リンク55は上下方向に延びるリンク本体55aと、このリンク本体55aの上端部に構成され左右懸吊部53に枢着されるための懸吊軸55bと、リンク本体55aの下端部に構成され左右揺動部54に枢着されるための揺動軸55cとを有している。そしてこの対をなす左右リンク55は、当該左右リンク55の上端部に設けられた懸吊軸55b間の距離よりも、左右リンク55の下端部に設けられた揺動軸55c間の距離の方が短く設定されている。また本実施形態では、この左右リンク55及び当該左右リンク55の支持箇所により、左支持構造及び右支持構造を構成している。
前後支持部52は、座受31の下端部に形成された前後揺動部57と、揺動支持体50の上半分の領域に形成され前後揺動部57を懸吊支持するための前後懸吊部56と、これら前後揺動部57および前後懸吊部56に枢着する前リンク58および後リンク59とを有している。前リンク58は上下方向に延びる前リンク本体58aと、この前リンク本体58aの上端部に構成され前後懸吊部56の前側の位置に枢着されるための前懸吊軸58bと、前リンク本体58aの下端部に構成され前後揺動部57の前側の位置に枢着されるための前揺動軸58cとを有している。後リンク59は上下方向に延びる後リンク本体59aと、この後リンク本体59aの上端部に構成され前後懸吊部56に枢着されるための後懸吊軸59bと、後リンク本体59aの下端部に構成され前後揺動部57に枢着されるための後揺動軸59cとを有している。そしてこれら前リンク58および後リンク59は、当該前リンク58および後リンク59の上端部に設けられた前懸吊軸58b―後懸吊軸59b間の距離よりも、前リンク58および後リンク59の下端部に設けられた前揺動軸58c―後揺動軸59c間の距離の方が短く設定されている。また本実施形態では、前リンク58及び当該前リンク58を支持している箇所で前支持構造を構成し、後リンク59及び当該後リンク59を支持している箇所で後支持構造を構成している。
ここで本実施形態では特に図20および図21に示すように、左右支持部51および前後支持部52の作用によって前後左右方向に揺動する座面3aの動きが、あらかじめ設定された所定の軌跡に沿うように構成されている。
図20では、座3が自重により静止している所定の基準位置(S)から左右方向に動作したときの挙動を示している。同図に示すように、左右支持部51により座面3aが左右に動作するときには重力に反する動作となる。具体的には、左右リンク55の下端部に設けられた揺動軸55cの何れか又は両方が上昇することにより、当該座面3aの重心Gの位置が実線で示す基準位置(S)から上昇する。そしてこのとき座3には自ずと基準位置(S)へ戻す方向の重力による復帰力が掛かる。すなわち本実施形態では、この左右リンク55が復帰力発生機構のうち左右方向の復帰力を発生させる左右復帰部であり、基準位置(S)からの座3の動作に伴い座3の重心Gを上昇させる重心移動機構Pとして機能している。加えて同図において左右に動作した座面3aは、動作先端側が下降する姿勢となっている。これは上述した通り、左右リンク55の上端部に設けられた懸吊軸55b間の距離よりも、左右リンク55の下端部に設けられた揺動軸55c間の距離の方が短く設定されていることに起因する。すなわち本実施形態ではこの左右リンク55が、座傾斜機構Qの役割も担っている。
図21では、座3が自重により静止している所定の基準位置(S)から前後方向に動作したときの挙動を示している。同図に示すように、前後支持部52により座面3aが前後に動作するときには重力に反する動作となる。具体的には、前リンク58および後リンク59の下端部に設けられた前揺動軸58cおよび後揺動軸59cの何れか又は両方が上昇することにより、当該座面3aの重心Gの位置が実線で示す基準位置(S)から上昇する。そしてこのとき座3には自ずと基準位置(S)へ戻す方向の重力による復帰力が掛かる。すなわち本実施形態では、これら前リンク58および後リンク59が復帰力発生機構のうち前後方向の復帰力を発生させる前後復帰部であり、基準位置(S)からの座3の動作に伴い座3の重心Gを上昇させる重心移動機構Pとして機能している。加えて同図において前後に動作した座面3aは、動作先端側が下降する姿勢となっている。これは上述した通り、前リンク58および後リンク59の上端部に設けられた前懸吊軸58b―後懸吊軸59b間の距離よりも、前リンク58および後リンク59の下端部に設けられた前揺動軸58c―後揺動軸59c間の距離の方が短く設定されていることに起因する。すなわち本実施形態ではこの前リンク58および後リンク59が、座傾斜機構Qの役割も担っている。
すなわち本実施形態では、支持機構5を構成しているこれら対をなす左右リンク55、前リンク58、および後リンク59により、復帰力発生機構たる重心移動機構Pおよび座傾斜機構Qを構成している。
<変形例>
図22は、上記第一実施形態において開示したショックレス部Rを当該第二実施形態に適用した一例を示している。すなわち、当該ショックレス部Rは左右リンク55の動作終端付近において弾性手段が左右リンク55に当たり、構成要素同士の衝突を回避し得るようにしたものである。勿論当該弾性手段を設ける位置は左右リンク55の外側に限られることは無く、左右リンク55の内側や、座とともに動作する他の構成要素に対し接し得るように構成したものであっても良い。
また、図示しないが上記とは異なる態様によって、上記実施形態に開示した緩慢部やショックレス部Rを設けようとすれば、リンク部材55、58、59に対し、別途ロータリーダンパのような部品を装着すれば良い。すなわちロータリーダンパの如き部品を装着すれば、各リンク部材55、58、59の動作端へ向けて動作が緩慢となるようにすることも、動作端における椅子の他の構成要素との衝突も有効に回避し得る。
以上のように、本実施形態に係る椅子においても、上記第一実施形態同様の効果を実現し得るものとなっている。加えて本実施形態では、支持機構5を、所定の軌跡に沿って動作端が動作し得るリンク部材55、58、59を有した懸吊支持機構とすることで、着座者の動作に応じたよりスムーズな動作を実現している。
加えて本実施形態では、脚1がガススプリング14を擁する上下昇降機構を備え、座3が上下昇降機構の上方に設けられて、支持機構5が上下昇降機構と座3との間に介在するようにしているので、かかる支持機構5を上下昇降機構と融合した複雑な構造とせずにコンパクトな構成を実現している。
そして本実施形態では、支持機構5を、リンク部材55、58、59を有した懸吊支持機構とすることで、所定の軌跡に沿って少なくとも前後方向および左右方向にそれぞれ独立して動作可能に支持するようにしているので、座3の前後左右の動作をそれぞれよりスムーズに行い得るようになっている。
また本実施形態では前後支持部52および左右支持部51が平面視重複する位置に上下方向にオーバーラップして設けられているため、支持機構5の一層のコンパクト化も併せて実現している。
特に本実施形態では、支持機構5単体で上記の座3の挙動を実現すべく、支持機構5は、座3の下面を少なくとも前後方向の2箇所で直接又は間接に支持する前リンク58を有した前支持構造及び後リンク59を有した後支持構造と、座3の下面を左右方向の2箇所で直接又は間接に支持する左右リンク55を有する左支持構造及び右支持構造とを組み合せて、座3への支持箇所を前後左右に移動させるものであって、支持箇所が移動に従い当該座3の移動方向先端側を下向きに傾斜させる軌跡を描くように構成するとともに、基準位置(S)から前後又は左右方向に移動した座3への支持箇所を基準位置(S)へ戻す方向の復帰力を移動量に応じて発生させる復帰力発生機構をさらに備えているものとしている。
具体的な実施の態様として本実施形態では、基準位置(S)から前後のリンク58、59による前後の支持箇所が前方向へ移動するに伴って、前リンク58の支持箇所が後リンク59の支持箇所よりも相対的に低くなり、基準位置(S)から前後の支持箇所が後方向への移動に伴って、座3の後側の支持箇所が前側の支持箇所よりも相対的に低くなるように構成しているもの、或いは、基準位置(S)から左右リンク55による左右の支持箇所が左方向へ移動するに伴って、左側の支持箇所が右側の支持箇所よりも相対的に低くなり、基準位置(S)から左右の支持箇所が右方向へ移動するに伴って、座3の右側の支持箇所が左側の支持箇所よりも相対的に低くなるように構成している構成を適用している。
<第三実施形態>
以下、本発明の第三実施形態について図23〜図26を参照して説明する。上記した各実施形態では、座3を前後又は左右に動作させる構造として、ガイド面23a、23b、25a、25bとフォロワー24a、24b、26a、26bとの相対動作による構造および左右リンク55、前リンク58、および後リンク59の動作による構造をそれぞれ開示した。これら実施形態に対して本実施形態では、座3を前後方向に動作させる構造に、ガイド面25aとフォロワー26aとの相対動作による構造および後リンク59の動作による構造を併せて用いた合同支持機構6を適用した。すなわち、当該実施形態に係る椅子も脚1と座3との間に介在した合同支持機構6が、座3の下方に配置され、座3を少なくとも前後方向の2箇所及び左右方向の2箇所で所定の軌跡に沿って移動可能に支持するものであって、座3が移動するに従い座3の移動方向先端側を下向きに傾斜させる座傾斜機能たる座傾斜機構Qを備えるものであり、基準位置(S)から前後又は左右方向に移動した座3を基準位置(S)へ戻す方向の復帰力を発生させる復帰力発生機構をさらに備えたことを特徴とする。
当該椅子の構成について、特に上記第二実施形態に係る椅子との相違点に着目しつつ説明する。
本実施形態に係る椅子は、上記第二実施形態に記載の椅子における揺動支持体50に代えて支持構造体60を配するとともに座受31側には前後揺動部57に代えて、前後動作部67を配する構成とした。
支持構造体60は、下側部分において上記第二実施形態同様の左右揺動部54を配するとともに上側部分の後端には上記第二実施形態と同じ構成をなす後リンク59を配した。また、支持構造体60の上側部分の前端には、上記第一実施形態と同じ前フォロワー26aを配した。
前後動作部67は、座受31の下側において左右対をなして垂下している形状並びに後側にて後リンク59に接続している構成は上記第二実施形態と略同様であるが、その前側において、前フォロワー26aを挿入させるための上記第一実施形態同様の前後ガイド穴25、具体的には前後ガイド穴25のうち、前ガイド面25aを有する前後ガイド穴25を形成した。
そして支持構造体60よりも下側の構成、換言すれば左右揺動部54に接続する椅子の下側の部分については上記第二実施形態と同じ構成をなすため、これらの具体的な構成説明を省略する。さらに左右揺動部54を擁する左右支持部51の構成も勿論上記第二実施形態と同じであるため、図24に示すように、上記第二実施形態における図19同様の座3の左右方向の動作をおこなうため、図24にて図示する座3の左右方向の動作に係る説明も省略する。
また、前後動作部67よりも上側の構成、すなわち座3および背凭れ4の構成についても上記第二実施形態と同じ構成であるため、詳細な説明を省略する。
ここで本実施形態では図26に示すように、支持構造体60と前後動作部67との相対動作により、座3を前後方向に動作させ得る構成をなす。具体的に説明すると、座3はなんら動作をさせていないとき、後リンク59が機構部品の自重により揺動せず安定する実線で示す基準位置(S)にあり、支持構造体60に設けた前フォロワー26aも前ガイド面25a上の対応する位置で静止している。
そして同図に実線で示す基準位置(S)では揺動可能な後リンク59は後揺動軸59cの接続先である座3や背凭れ4といった椅子の上側の部分の自重によって静止している。よって図示想像線で示すような、座面3aが前後に動作するときにはすなわち重力に反する動作となる。つまり上記各実施形態同様、座の動作時には自ずと基準位置(S)へ戻す方向の重力による復帰力が掛かる。すなわち本実施形態では前フォロワー26a、前ガイド面25a、後リンク59が復帰力発生機構のうち前後方向の復帰力を発生させる前後復帰部であり、基準位置(S)からの座3の動作に伴い座3の重心Gを上昇させる重心移動機構Pとして機能している。加えて同図において前後に動作した座面3aは、動作先端側が下降する姿勢となっている。これは後リンク59の姿勢および当該後リンク59の前側で前フォロワー26aと相対動作する前ガイド面25aの形状に起因するものである。すなわち本実施形態ではこの前ガイド面25aおよび後リンク59が、座傾斜機構Qの役割を担っている。
すなわちこのような本発明の第三実施形態に係る構成であっても、上記各実施形態同様の効果を奏する。そして特に本実施形態では、前フォロワー26aによるスライド動作と後リンク59による揺動動作とを併せて適用することで、座3のスムーズな動作と高い剛性とを両立させることが実現されている。また勿論、本実施形態は左右リンク55の上側に、上記第一実施形態同様の前後のフォロワー26a、26bを擁した座3の前後方向の支持構造を適用する態様を妨げるものではない。
また本実施形態においても、前ガイド穴25を設けた位置や左右リンク55を配した位置に、上記各実施形態同様のショックレス部Rを設けることも可能である。
<第四実施形態>
本発明の第四実施形態に係る椅子は、図27〜図31に示すように、回転椅子として好適に利用され得るものである。当該椅子は、床面に接地する脚1と、この脚1の上方に設けられた座3とを有している点は上記実施形態同様である。また、座3については本実施形態では図示の便宜上、板状をなす座受31のみを図示しているが、上記実施形態同様の態様をなす座3を適用しても良い。当該座3については、上記実施形態に係る座3とは異なり背凭れ4を一体的に設けない態様のものを適用してもよく、既存の構成のものを広く適用し得る。
また脚1については座3を回転可能に支持する脚1の一部としての回転支持機構16を有さない構成である以外は上記実施形態と同様の構成であるため説明を省略する。そして本実施形態に係る椅子は、脚1の上端部分から座受31に亘って支持機構が構成されている点は上記実施形態同様である。
しかしながら本実施形態に係る椅子は、当該支持機構の構成が上記実施形態とは異なることにより、併せて復帰力発生機構および座傾斜機構Qも異なった態様として構成されている。
すなわち本実施形態に係る椅子は、脚1と座3との間に介在し座3を前後方向および左右方向に動作させるための所定の軌跡に沿って形成されたガイド面およびこのガイド面に追従したスライド動作を行うフォロワーを有しこれらガイド面およびフォロワーの相対動作により座3を動作可能に支持する支持機構とを有している点は上記実施形態同様であるが、ガイド面が一体に成形されたガイド曲面83であり、複数のフォロワーたる摺接フォロワー82がガイド曲面83に沿って前後および左右いずれの方向にも動作し得るように構成することにより上記実施形態と同じ作用をなす支持機構としての役割に加え、座3を水平方向に回転可能に支持する回転支持機構としての役割をも担い得るガイド支持機構8を有しているものである。
ガイド支持機構8は、図27〜図30に示すように、脚1と座3との間に介在し座を前後方向および左右方向に動作させるための所定の軌跡に沿って座3を動作可能に支持できるよう、概略円錐形状又は円錐台形状をなすガイド曲面83を有するガイド板81とこのガイド曲面83上を何れの方向にも摺動し得る摺接フォロワー82とを有する構造を適用したものである。このガイド支持機構8は、脚1の上端部分および座受31の下端部分に介在するように構成されているものである。
ガイド板81は、脚1の上端に固定された硬質素材からなるものであり、外縁近傍部分を平面視略真円形状下方に凹ませ、さらに凹ませた部分に囲まれた箇所を中央部分へ向けて漸次高くなるよう概略円錐台形状に隆起させた形状をなす。そして外縁近傍部分を凹ませることにより形成された立面部分を摺接フォロワー82の動作範囲を規制する規制壁84とし、この規制壁84に囲まれた曲面をガイド曲面83としている。このガイド曲面83の形状は、具体的には、ガイド板81の外周近傍から中央へ近づくにつれ漸次斜度が大きくなるような曲面形状をなしている。なおガイド板81中央は本実施形態では平面状に構成されているが当該平面部分には摺接フォロワー82が乗り上げ得ないように設定されている。
摺接フォロワー82は、座受31に対し、本実施形態では少なくとも安定して自立し得る四つ以上の数である六箇所に、平面視正六角形の各頂点に該当する相対位置となるように、換言すれば真円の外形線上に等間隔に配され得る相対位置となるように配置されている。この摺接フォロワー82は、ガイド曲面83に摺接する概略球形状をなすフォロワー本体85と、このフォロワー本体85に下端部分を支持されるとともに上端部分が座受31に固定された座支持柱86とを有している。
以下、本実施形態における座3の動作について説明する。図27では、座受31のみ図示しているが座3が自重により静止している所定の基準位置(S)にあり、図30では基準位置から座3が何れかの方向に動作したときの座受31の挙動を示している。本実施形態では、図30に示す状態のみならず座3が基準位置(S)から動作するときは何れの方向であっても重力に反する動作となる。具体的には、これら六つの摺接フォロワー82が座の動作時に上昇する摺接フォロワー82と下降する摺接フォロワー82が常に存在するようにガイド面たるガイド曲面83が設定されている。これにより本実施形態の構成では、座受31の重心位置が基準位置(S)から上昇する。そしてこのとき座3には自ずと基準位置(S)へ戻す方向の重力による復帰力が掛かる。すなわち本実施形態では、このガイド曲面83および摺接フォロワー82が復帰力発生機構であり、且つ、基準位置(S)からの座3の動作に伴い座3の重心Gを上昇させる重心移動機構Pとして機能している。加えて動作した座受31は、動作先端側が下降する姿勢となっている。これは上述した通り、ガイド曲面83が概略円錐台形状をなしていることに起因する。すなわち本実施形態ではこのガイド曲面83が、座傾斜機構Qの役割も担っている。
<変形例>
上記の本実施形態では六つの摺接フォロワー82がそれぞれ座受31に固着された態様を開示したが勿論図31に示すように、摺接フォロワー82に別途スプリング87を配するようにしてもよい。
本変形例では摺接フォロワー82は、上記実施形態同様のフォロワー本体85および座支持柱86に加え、この座支持柱86と座受31との間に介在したスプリング87を更に有している。このスプリング87は、上端部分が座受31側に固定され下端部分が座支持柱86の上端に固定された圧縮コイルバネを内装したものである。これにより着座者が着座時に掛かる衝撃を緩和するとともに、よりスムーズな座3の動作にも資するものとなっている。
また図31に示すように、摺接フォロワー82の数は六つに限られないことは勿論であり、六つよりも多い数の摺接フォロワー82を同心円状に配しても良い。なお同変形例では十八個の摺接フォロワー82を同心円状に配している。
以上のような構成とすることにより、本実施形態並びに変形例に係る椅子によっても、上記第一〜第三実施形態に準じた構成とすることにより、第一実施形態同様の作用効果を奏し得るものとなっている。
特に本実施形態では、ガイド面を一体に成形されたガイド曲面83とし、複数のフォロワーたる摺接フォロワー82がガイド曲面83に沿って前後および左右すなわち少なくとも前後方向の2箇所及び左右方向の2箇所でいずれの方向にも自由に摺接動作し得るように構成することで上記実施形態同様の支持機構と上記実施形態では脚1の一構成要素であった回転支持機構16と同様の回転支持機構とを一体に構成することにより、椅子全体をよりコンパクトなものとせしめている。
そして本実施形態では、摺接フォロワー82を複数、具体的には四つ以上有するものとし、これら複数の摺接フォロワー82が、座3の動作時に上昇する摺接フォロワー82と下降する摺接フォロワー82とが常に存在するようにガイド曲面83を設定することで、上記実施形態同様の重心移動機構Pをより簡素に構成せしめている。
加えて本実施形態では、ガイド面たるガイド曲面83を、概略円錐形状をなしたものとすることで、スムーズな座3の動作を実現し得るようにしている。
特に本実施形態では、摺接フォロワー82が常に三箇所以上でガイド曲面83に接する構成とすることで、ガイド曲面83に対して摺接フォロワー82が安定して接することにより座受31ひいては座3が安定して支持されるようになっている。
<第五実施形態>
本発明の第五実施形態に係る椅子は、図32〜図34に示すように、背凭れ4の図示を省略し、座3の構成及び座面3aの位置がより明確となるよう図示しているものであり、背凭れ4の組み付けを否定するものではない。
当該椅子は、床面に接地する脚1と、この脚1の上方に設けられた座3とを有している点は上記実施形態同様である。また、座3については上記実施形態とは形状が異なる平面視略真円形状をなし上述の通り背凭れ4が一体的に形成されていない。しかしながら当該座3の構成については座本体30を主体として上面側を座面3aとし下面側に座受31を設けている点は上記実施形態並びに既存の構成と同様である。
また脚1については上記実施形態と同様の構成であるため説明を省略する。そして本実施形態に係る椅子は、脚1の上端部分から座受31の下端部分に亘って支持機構が構成されている点は上記実施形態同様である。
しかしながら本実施形態に係る椅子は、当該支持機構の構成が上記実施形態とは異なることにより、併せて復帰力発生機構および座傾斜機構Qも異なった態様として構成されている。
つまり本実施形態に係る椅子は、脚1の一部から座3の一部を上方から懸吊することによって座3を所定の軌跡に沿って少なくとも前後方向および左右方向に動作可能に支持する懸吊支持機構が、上下方向に延びるリンク部材を有したリンク機構である点は上記第二実施形態に共通するものの上記実施形態に係る懸吊支持機構とは異なり、リンク部材が、両端を前後方向および左右方向ともに動作可能に支持された自在継手たる両端自在継手72である。そして本実施形態では、この両端自在継手72を介して座3および脚1が連結されるという継手支持機構7を設けることにより、座3を前後方向および左右方向に動作可能に構成している。
ここで、本実施形態では、リンク部材たる両端自在継手72を四本或いは五本以上とする構成とし、座3を少なくとも前後方向の2箇所及び左右方向の2箇所で所定の軌跡に沿って移動可能に支持する態様とすることにより本発明に係る椅子を好適に構成する態様を説明しているが、特に両端自在継手72の詳細な構成を明確に図示並びに説明をすべく、あくまで便宜上図32〜図34では三本のリンク部材たる両端自在継手72を配した椅子を図示している。
すなわち継手支持機構7は、図32〜図34に示すように、脚1と座3との間に介在し座3を少なくとも前後方向の2箇所および左右方向の2箇所で支持しつつ動作させるための所定の軌跡に沿って座3を動作可能に支持できるよう、上下方向に延びるリンク部材たる図示では便宜上三本の両端自在継手72を有したリンク機構を適用したものである。
この継手支持機構7は、脚1の上端部分に設けられた懸吊板71と、この懸吊板71に上端部分が接続された両端自在継手72と、この両端自在継手72の下端部分に接続する揺動板73と、揺動板73から立設され懸吊板71よりも高い高さ位置で座3を支持する座支柱74とを有している。
懸吊板71は、脚1が具備している回転支持機構16により当該脚1の上端における水平回転可能な箇所に固定され且つ脚支柱13を周回した平面視環状をなすものであり、外側における三箇所において一部分を垂下させ、この垂下させた部分に両端自在継手72の上端と接続するための上接続穴75を穿ち設けている。
両端自在継手72は、懸吊板71の上接続穴75から上端部分を下方に垂下するように取り付けられるとともに、下端部分において揺動板73に接続している三本のリンク部材である。この両端自在継手72は上下方向に延びる継手本体76と、この継手本体76の上端部に構成され懸吊板71に枢着されるための上接続部77と、継手本体76の下端に構成され揺動板73に枢着されるための下接続部78とを有している。そして三本のリンク部材たる両端自在継手72は、その上端部に設けられた上接続部77間の距離よりも、その下端部に設けられた下接続部78間の距離の方が短く設定されている。
揺動板73は、懸吊板71に両端自在継手72を介して懸吊支持された脚支柱13を中心とした平面視環状をなす板状のものであり、外周面における三箇所において両端自在継手72の下端部に設けられた下接続部78と接続するための下接続穴79を有している。
座支柱74は、揺動板73の上面における三箇所でそれぞれ下端部分が固定された、座3がなんら動作していない基準位置(S)で略鉛直方向へ立ち上がり、上端部分が座受31に固定されている。すなわち、座3は図示の通り上下の厚みが略一定に構成されているので、揺動板73の上面と座面3aとが略同じ向きを向くように構成される。そして当該座支柱74は両端自在継手72間の略中間位置に設けられることで、その動作が両端自在継手72自体並びにその動作と干渉しないように配置されている。
以下、本実施形態における座の動作について説明する。図32では、座3が自重により静止している所定の基準位置(S)、図34では座3が何れかの方向に動作したときの座3の挙動を示している。図34に示す状態のみならず、座3が基準位置(S)から動作するときは何れの方向であっても重力に反する動作となる。具体的には、両端自在継手72の下端部に設けられた下接続部78の何れか又は全てが上昇することにより、座面3aの重心Gの位置が基準位置(S)から上昇する。そしてこのとき座には自ずと基準位置(S)へ戻す方向の重力による復帰力が掛かる。すなわち本実施形態では、この両端自在継手72が復帰力発生機構であり、且つ、基準位置(S)からの座3の動作に伴い座3の重心Gを上昇させる重心移動機構Pとして機能している。加えて動作した座面3aは図34に示すように、必ず動作先端側が下降する姿勢となる。これは上述した通り、両端自在継手72の上端部に設けられた上接続部77間の距離よりも、両端自在継手72の下端部に設けられた下接続部78間の距離の方が短く設定されていることに起因する。すなわち本実施形態ではこの両端自在継手72が、座傾斜機構Qの役割も担っている。
以上のように、本発明の第五実施形態によっても、上記第一〜第三実施形態に準じた構成とすることにより、上記実施形態同様の作用並びに効果を得ることができる。
特に本実施形態では、懸吊支持機構の一態様として、リンク部材を、両端を前後方向および左右方向ともに回動可能に支持された両端自在継手72とし、当該両端自在継手72を介して座および脚1に連結されるものとしているので、よりフレキシブルな動作を可能として着座者の動作への追従性をより向上せしめている。
そして本実施形態では、リンク部材たる両端自在継手72を、座3の平面視中心を囲む位置に上下位置が重複するように複数設けたものとして、上下方向によりコンパクトに構成された椅子を実現している。
また本実施形態では、三本のリンク部材たる両端自在継手72により座3を懸吊する構成を適用することによって、本発明に準ずる作用効果を奏しつつも支持された座3のがたつきを最小限に抑え、着座者により快適な着座感を与えている。
本実施形態は上述の通り、単一の両端自在継手72の詳細な説明及び図示の都合上三本のリンク部材たる両端自在継手72により座3を懸吊する構成を適用したが、あくまで本実施形態に係る椅子は、座3のより安定した支持を実現すべくリンク部材たる両端自在継手72を四本或いは五本以上とする構成としたものである。
すなわち本実施形態は、リンク部材たる両端自在継手72を四本或いは五本以上とする構成とし、座3を少なくとも前後方向の2箇所及び左右方向の2箇所で所定の軌跡に沿って移動可能に支持する態様とすることにより本発明に係る椅子を好適に実現したものである。
そして当該実施形態は勿論、複数本のリンク部材たる両端自在継手により座を懸吊する態様を限定するものではない。換言すれば、両端自在継手により座を下方から支持する態様を本発明から除外するものではない。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
例えば上記実施形態では背凭れを設けたものにおいては座に一体的に設けられた態様のもののみを開示したが勿論、座とは別体に設けられたもの、さらには座と背凭れとが別体に設けられつつも、座の動作に応じて背凭れが動作し得るシンクロチルト機構を設けた態様であっても良い。特に、前後支持部および/または座に背凭れを設けると簡素な構成でシンクロチルト機構を得ることができる。
また、座の前部を折り曲げるベンディング機能を備えてもよく前後支持部と関連付けて座を前後方向の3箇所で支持させても良い。
そして上記各実施形態では肘を開示していなかったが勿論、上記各実施形態は肘を設けることを妨げない。特に、脚の上端部近傍より直接又は間接に肘を設けたものであれば、座の動作に連動して肘が前後左右に動作しないので、着座者にさらなる安心感を与えることができる。
加えて上記実施形態では復帰力発生機構の構成として何れも重心移動機構Pとして開示していたが勿論、座を基準位置へ復帰させ得る構成であればバネ等の弾性手段を設けることを妨げない。
更に、座又は背凭れと、支持機構との間、若しくは支持機構内において、座の動作端に到達した際の衝突感を緩衝する「緩衝手段」を設けても良い。具体的には、座の下面側に設けられた接触部と、支持機構の外壁に設けられた被接触部との何れかに設けた緩衝部材や、支持機構においてガイド穴の端部に設けられフォロワーと接触する弾性部材等が挙げられる。
そして上記各実施形態では座を基準位置に保持するのはもっぱら座の自重を利用したものであったが、当該基準位置を任意に設定できるような「基準位置保持手段」を設けても良い。具体的には、座に設けられ座の重心位置を調整可能なバランサーといったものが考えられる。また着座者が着座していないときに座を基準位置に固定し着座時にロックが解除されるようなロック手段を支持機構の一部として設けても良い。このようなものであれば、着座前の座の不要な揺動を抑えて着座者が容易に基準位置にある座に着座し得るとともに、着座によりロックが解除されることで着座者は所望の座り心地を得ることができる。
また、座の具体的な形状や素材といったその他の詳細な構成も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。