本発明は、例えば各種建築物等に設置される防火扉に関するものである。
従来より、各種建築物には、火災発生時の延焼を防止したり、避難通路を確保するために防火扉が設置されることがある(例えば、特許文献1、2参照)。特許文献1の防火扉の表面材は冷延鋼板や熱延鋼板からなるものである。この表面材には、Mn、Ti、Cr等を5〜50重量%含有するアルミニウム系合金の被覆層が形成されている。
また、特許文献2の防火扉は、扉枠に対して蝶番により開閉可能に支持された扉本体を備えている。扉本体の上部には突起が形成される一方、扉枠の上部には、扉本体と対向する部分に凹部が形成されている。火災時の加熱によって扉本体の上部が表側へ向けて湾曲したとき、扉本体の突起が扉枠の凹部に嵌合して扉本体の上部が扉枠から外れにくくなっている。特許文献2には、鎮火後、扉本体が収縮して原型に復元し、これに伴い扉本体の突起と扉枠の凹部との係合が自動的に解かれると記載されている。
特許第3189472号公報
実公昭58−36791号公報
ところで、特許文献1では、アルミニウム系合金の被覆層を形成することで防火扉の表面材の遮熱性及び耐熱性を高めることができると記載されているが、火災時の火力が強く、かつ長時間に亘って高温にさらされる環境下を想定すると、アルミニウム系合金の被覆層を形成しただけでは不十分である場合が考えられる。
また、特許文献2では、火災時の加熱によって扉本体の上部が表側へ湾曲して扉本体の突起が扉枠の凹部に嵌合し、鎮火後、扉本体が収縮して原型に復元すると記載されているが、一旦熱膨張によって変形した扉本体の温度が常温に戻ったとしてもその形状が原型に復元することは考えにくい。特に、火災時の火力が強く、かつ長時間に亘って高温にさらされた場合には、原型とはかけ離れた形状となっているのが通常である。従って、扉本体を開放しようとした際に、扉本体の突起と扉枠の凹部との嵌合状態が解けないことも考えられる。
また、扉本体が変形すると、扉本体と扉枠との隙間が広がり、火災時の火や熱が入るおそれもある。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、火災時の火力が強い場合であっても扉本体の変形を抑制し、鎮火後に扉本体を開放できるようにするとともに、扉本体と扉枠との隙間が広がるのを防止して火災時の火や熱が入るのを抑制することにある。
上記目的を達成するために、本発明では、扉本体の表側に、火災時の熱を直接受ける犠牲部材を設けることで犠牲部材を積極的に変形させ、このことで扉本体の変形を抑制するようにした。
第1の発明は、扉本体と、扉枠と、前記扉本体を前記扉枠に対して開閉可能に支持する支持手段とを備えた防火扉において、前記扉本体には、当該扉本体の表面から離れて配置された犠牲部材が設けられていることを特徴とする。
この構成によれば、扉本体の表側、即ち火災の発生が想定される側に犠牲部材が設けられているので、火災発生時の熱を犠牲部材が直接受けることになる。これにより、犠牲部材の温度が上昇することになるが、この犠牲部材と扉本体の表面とは離れているので、犠牲部材の熱が扉本体に伝達し難く、扉本体の温度上昇が抑制され、扉本体が変形し難くなる。一方、犠牲部材は扉本体よりも高温になるとともに、この扉本体に固定されているので、犠牲部材の内部には熱膨張の力に起因して熱応力が発生する。熱応力による犠牲部材の変形が許容されるとともに、その変形許容量が大きく確保されることにより、犠牲部材の熱応力が低減される。また、扉本体が相対的に高強度であるため、犠牲部材が大きく変形したとしても扉本体の変形は抑制され、鎮火後に扉本体を開放することが可能になる。
また、扉本体の変形が抑制されることで、扉本体と扉枠との隙間が広がるのを防止して火災時の火や熱が入るのを抑制することもできる。
第2の発明は、前記犠牲部材は、前記扉本体よりも低強度の部材からなるものであることを特徴とする。
この構成によれば、犠牲部材は扉本体よりも低強度であるため、熱応力による犠牲部材の変形量を大きく確保することができる。
第3の発明は、前記扉本体は、鋼板からなり、前記犠牲部材は、前記扉本体の鋼板よりも薄い鋼板からなるものであることを特徴とする。
この構成によれば、犠牲部材の強度が扉本体の強度よりも確実に低下するので、犠牲部材が火災時の熱応力によって容易に変形するようになる。
第4の発明は、前記犠牲部材の周縁部と、前記扉本体の周縁部とは、断続的に溶接されていることを特徴とする。
この構成によれば、犠牲部材の扉本体に対する接合面積が少なくなるので、火災時における犠牲部材の熱が扉本体に伝達し難くなるとともに、犠牲部材の変形時に当該犠牲部材の周縁部と扉本体の周縁部との間に部分的に隙間ができやすくなり、犠牲部材の熱応力に起因して扉本体に作用する力が減少する。
第5の発明は、前記扉本体の表側には、断熱材が配置され、前記犠牲部材は、前記断熱材を覆うカバー部材で構成されていることを特徴とする。
この構成によれば、断熱材が扉本体の表側に配置されることになるので、火災時の熱が扉本体に伝達し難くなる。また、火災時に積極的に変形させる犠牲部材を、断熱材のカバー部材とすることで、部材の共通化が可能になる。
尚、断熱材に加えて、または断熱材の代わりに、犠牲部材と扉本体との間に空気層を設けてもよい。空気層によっても断熱効果を得ることが可能である。
第6の発明は、前記犠牲部材は、前記扉枠の表面よりも表側に位置していることを特徴とする。
この構成によれば、火災時に犠牲部材が変形した際、扉枠と干渉し難くなるので、鎮火後における扉本体の開放時に犠牲部材が開放を阻害しなくなる。
第7の発明は、前記犠牲部材の周縁部には、前記扉本体が閉状態にあるときに前記扉枠に対して表側から接触するパッキンと、当該パッキンが取り付けられるパッキン取付部材とが設けられていることを特徴とする。
この構成によれば、犠牲部材を利用してパッキンを取り付けることが可能になり、このパッキンにより扉枠と犠牲部材との間がシールされる。
第8の発明は、前記扉本体の周縁部と前記扉枠の内面との間には、熱膨張部材が設けられていることを特徴とする。
この構成によれば、火災時の熱によって熱膨張部材が膨張することで、扉本体の周縁部と扉枠の内面との間がシールされる。
第1の発明によれば、犠牲部材を扉本体の表側に設けたので、火災時の火力が強い場合であっても扉本体の変形を抑制し、鎮火後に扉本体を開放することができるとともに、扉本体と扉枠との隙間が広がるのを防止して火災時の火や熱が入るのを抑制することができる。
第2の発明によれば、犠牲部材が扉本体よりも低強度の部材からなるものなので、熱応力による犠牲部材の変形量を大きく確保することができ、扉本体の変形抑制効果をより一層高めることができる。
第3の発明によれば、犠牲部材を扉本体の鋼板よりも薄い鋼板からなるものとすることで、犠牲部材が火災時の熱応力によって容易に変形するようになり、扉本体の変形抑制効果をより一層高めることができる。
第4の発明によれば、犠牲部材の周縁部と扉本体の周縁部とを断続的に溶接するようにしたので、火災時における犠牲部材の熱が扉本体に伝達し難くなるとともに、犠牲部材の熱応力に起因して扉本体に作用する力を減少させることができ、扉本体の変形抑制効果をより一層高めることができる。
第5の発明によれば、犠牲部材と扉本体との間に断熱材を配置し、犠牲部材を、断熱材のカバー部材としたので、犠牲部材とカバー部材とを共通化して構造の簡素化を図りながら、扉本体の変形抑制効果を得ることができる。
第6の発明によれば、犠牲部材が扉枠の表面よりも表側に位置しているので、鎮火後に犠牲部材が扉本体の開放を阻害しなくなり、扉本体の開放作業が容易になる。
第7の発明によれば、犠牲部材を利用してパッキンを取り付けることができ、パッキンにより埃等の侵入を抑制できる。
第8の発明によれば、扉本体の周縁部と扉枠の内面との間に熱膨張部材を設けたので、火災時の熱が内部に入るのを抑制できる。
本発明の実施形態に係る防火扉の正面図である。
図1におけるA−A線断面図である。
図1におけるB−B線断面図である。
図2におけるC部拡大図である。
実施形態の変形例に係る図2相当図である。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
図1は、本発明の実施形態に係る防火扉1の正面図である。この防火扉1は、例えば各種建築物に設置され、火災発生時の延焼を防止したり、避難通路を確保するために使用されるものである。防火扉1が設置される建築物としては、例えば各種ビル、工場、研究施設等を挙げることができる。この実施形態では、防火扉1が研究施設に設置される場合について説明する。防火扉1は、研究施設を構成している壁部や骨格部材等に設置することができる。
防火扉1の表側とは、火災の発生が想定される側である。一方、防火扉1の裏側とは、火災の延焼を防止する空間が存在する側であり、例えば制御室や避難通路等が設けられている側とすることができる。防火扉1の右側とは、防火扉1を表側から見て右に位置する側であり、防火扉1の左側とは、防火扉1を表側から見て左に位置する側である。尚、方向の定義は、説明の便宜を図るためであり、実際の使用状態を限定するものではない。
(防火扉1の全体構成)
図1、図2や図3に示すように、防火扉1は、扉本体10と、扉枠2と、扉本体10を扉枠2に対して開閉可能に支持する支持手段としての上側ヒンジ11及び下側ヒンジ12とを備えている。扉本体10の表側には、断熱材14が配置されており、この断熱材14を覆うようにカバー部材13が設けられている。断熱材14は、必須なものではなく、省略してもよい。カバー部材13は、本発明の犠牲部材であり、防火扉1の構成要素の一つである。
扉本体10及び扉枠2の形状は、任意の形状とすることができ、例えば左右方向に長い形状であってもよい。また、この実施形態では、上側ヒンジ11及び下側ヒンジ12が右側に設けられているが、左側に設けられていてもよい。
また、扉本体10の内部及び扉枠2の内部には、それぞれ、気泡コンクリートなどの耐火材が充填されている。
(扉枠2の構成)
扉枠2は、後述する扉本体10によって開閉される矩形の開口を形成するとともに、扉本体10を支持する高強度な部材で構成されている。すなわち、扉枠2は、該扉枠2の上辺部分を構成する上辺部材2Aと、該扉枠2の下辺部分を構成する下辺部材2Bと、該扉枠2の右辺部分を構成する右辺部材2Cと、該扉枠2の左辺部分を構成する左辺部材2Dとを備えている。上辺部材2A及び下辺部材2Bは、上下方向に互いに離間した状態で左右方向に略水平に延びている。右辺部材2C及び左辺部材2Dは、左右方向に互いに離間した状態で略鉛直に延びている。下辺部材2Bの右端部に右辺部材2Cの下端部が接続され、下辺部材2Bの左端部に左辺部材2Dの下端部が接続されている。上辺部材2Aの右端部に右辺部材2Cの上端部が接続され、上辺部材2Aの左端部に左辺部材2Dの上端部が接続されている。
上辺部材2A、下辺部材2B、右辺部材2C及び左辺部材2Dは、それぞれ、鋼板で構成されており、内部には、気泡コンクリート等の耐火材が充填されている。
(扉本体10の構成)
図2や図3に示すように、扉本体10は、表側板材1Aと、側部板材16と、裏側板材17とを備えている。表側板材1A、側部板材16及び裏側板材17は、例えば鋼板等からなるものである。表側板材1Aは、扉枠2によって形成される開口を閉塞するための部材であり、扉枠2における表側の開口部の形状に対応した矩形状に形成されている。表側板材1Aの表面は、扉本体10が閉状態にあるときに、扉枠2の表面と略同一面上に位置するようになっている。
図4にも示すように、側部板材16は、表側板材1Aの周縁部の形状に対応した略矩形の枠状部材である。また、裏側板材17は、側部板材16の裏側の開口を閉塞するように、上下方向及び左右方向に延びており、側部板材16の裏側の端部に固定されている。
表側板材1A、側部板材16及び裏側板材17の厚みを比較したとき、表側板材1Aの厚みが最も厚く、側部板材16及び裏側板材17は同程度である。
表側板材1A、側部板材16及び裏側板材17により、扉本体10の内部には、表側板材1A側に気泡コンクリートなどの耐火材を充填している耐火層Tが形成されており、裏側板材17側に中空部Rが形成されている。中空部Rには、カンヌキ33を動作させるための開閉機構34等が収容されている。開閉機構34には、図2や図3に示す表側ハンドル30と裏側ハンドル31とが取り付けられている。表側ハンドル30及び裏側ハンドル31は、扉本体10の構成要素である。表側ハンドル30は、扉本体10の表側から開閉機構34を操作するための部材であり、また、裏側ハンドル31は、扉本体10の裏側から開閉機構34を操作するための部材である。火災鎮火後は、表側ハンドル30は消失しているため、裏側ハンドル31を利用して扉本体10を裏側から開放することができる。
開閉機構34は、表側ハンドル30及び裏側ハンドル31の回動力をカンヌキ33に対して水平方向の力に変換して伝達し、当該カンヌキ33を図4に示す進出状態と、図示しない後退状態とに切り替え可能に構成された従来から周知の機構である。進出状態にあるカンヌキ33は、扉枠2の凹状部材21bに入るので、扉本体10を開けようとしてもカンヌキ33が扉枠2と係合して扉本体10の開放は不可能になる。一方、後退状態にあるカンヌキ33は、扉枠2の凹状部材21bから抜け出るので、扉本体10の開放が可能になる。この開閉機構34の構成は一例であり、従来から周知の各種開閉機構を用いることができる。
(上側ヒンジ11及び下側ヒンジ12の構成)
図1に示すように、上側ヒンジ11は、扉本体10の上側部分を扉枠2に対して開閉可能に支持するものであり、また、下側ヒンジ12は、扉本体10の下側部分を扉枠2に対して開閉可能に支持するものである。上側ヒンジ11は、扉枠2の右辺部材2Cの上側の表面に固定される枠側固定部材11aと、扉本体10の表側板材1Aの上側部分に固定される扉側固定部材11bと、扉側固定部材11bから下方へ突出する支軸11cとを備えている。支軸11cが枠側固定部材11aに挿入されており、支軸11cに支持され扉側固定部材11bが回動可能になっている。下側ヒンジ12についても同様な構造であり、枠側固定部材12aと、扉側固定部材12bと、支軸12cとを備えている。
従って、扉本体10が上側ヒンジ11の支軸11c及び下側ヒンジ12の支軸12cに支持され回動することにより、図1に示す閉状態と、図示しないが扉枠2を開放した開状態とに切り替えられる。
尚、ヒンジの数は2つに限られるものではなく、3つ以上であってもよい。また、ヒンジの構造は上述した構造に限られるものではなく、扉本体10を扉枠2に対して回動可能に支持するものであればよい。
(断熱材14の構成)
図2や図3に示すように、断熱材14は、扉本体10の表側板材1Aの表面に沿って延びる板状に成形されており、例えば、アルミナファイバー等で構成されている。断熱材14は、ガラス繊維や発泡材等で構成されていてもよいし、アルミナファイバー、ガラス繊維、発泡材等の中から複数種を組み合わせることによって構成されていてもよい。断熱材14には空気層が含まれていてもよい。
この実施形態では、図2に示すように、複数枚の断熱材14を左右方向に並べて配置しているが、これに限らず、1枚の板材からなる断熱材14を表側板材1Aの表面に配置してもよい。断熱材14と表側板材1Aの表面との間には空気層を設けてもよい。断熱材14の厚みは、素材によって変えることもできるが、例えば数cm〜10cm程度の間で設定することができる。
図4に示すように、扉本体10が閉状態にあるときに、表側板材1Aの表面と扉枠2の表面とが略同一面上に位置しているので、断熱材14はその殆どが扉枠2の表面から表側へ突出した状態で配置される。これにより、火災時の熱が断熱材14によって効果的に断熱ないし遮熱されて表側板材1Aの温度上昇が抑制される。
(カバー部材13の構成)
扉本体10には、当該扉本体10の表側板材1Aよりも低強度の部材からなり、当該扉本体10の表側板材1Aの表面から離れて配置されたカバー部材13が設けられている。カバー部材13は、例えば鋼板等で構成されており、断熱材14を覆うための部材である。カバー部材13が鋼板からなるものである場合、カバー部材13の厚みは表側板材1Aの厚みよりも薄く設定されている。例えば、カバー部材13の厚みは表側板材1Aの厚みの1/3以下、1/4以下、1/6以下に設定することができ、例えば、0.8mm〜1.8mmの範囲で設定することができる。
カバー部材13は、断熱材14の表側の面に沿って上下方向及び左右方向に延びる略矩形板状の表側部13aと、表側部13aの周縁部から裏側へ向けて表側板材1Aに達するまで延びる周板部13bとを有している。カバー部材13の表側部13aは、表側板材1Aの表面から所定寸法だけ表側へ離れて配置されており、カバー部材13の表側部13aと表側板材1Aの表面との間には、断熱材14を収容可能な断熱材収容空間が形成される。カバー部材13の表側部13aは、断熱材14の表側の面の全体を覆うように形成されている。また、カバー部材13の周板部13bは、断熱材14の上面及び下面を覆うととともに、一番右に配置される断熱材14の右側面及び一番左に配置される断熱材14の左側面を覆うように形成されている。従って、断熱材14の全体が表側板材1Aとカバー部材13とによって覆われることになる。
カバー部材13の周板部13bは、扉本体10の表側板材1Aの周縁部に対して断続的に溶接されている。すなわち、カバー部材13の周板部13bは、表側板材1Aの周縁部を囲むように形成されており、図4に示すように、カバー部材13の周板部13bの内方に表側板材1Aが配置されるようになっている。図4において符号13cで示す黒塗りの部分が、周板部13bの表側板材1Aに対する溶接部である。また、図1において破線の円で囲まれた部分に溶接部13cがある。この実施形態では、溶接部13cが表側板材1Aの端面に対して溶接された部分であるが、これに限らず、カバー部材13の周板部13bを表側板材1Aの表面に突き当てて溶接した突き当て溶接部であってもよい。
図1に破線の円で示す部分にある溶接部13cは、カバー部材13の周板部13bの周方向について断続している。例えば、周板部13bを周方向に数cm程度溶接した後、非溶接部分を数cm程度挟んで、周板部13bを数cm程度溶接するといった、断続溶接を繰り返し行うことによって溶接部13cと非溶接部とを周板部13bの周方向に設けることができる。溶接部13cのトータルの長さは、非溶接部のトータルの長さと同程度であってもよいし、溶接部13cのトータルの長さの方が長くてもよいし、溶接部13cのトータルの長さの方が短くてもよい。
また、図4に示すように、扉本体10が閉状態にあるときに、表側板材1Aの表面と扉枠2の表面とが略同一面上に位置しているので、カバー部材13は溶接部13cを除いた殆どが扉枠2の表面から表側へ突出した状態で配置される。
詳細は後述するが、火災が発生したとき、カバー部材13は、扉本体10よりも火に近くなるので、火によって直接加熱されることになる。このときにカバー部材13を構成する板材の内部に発生する熱応力によって当該カバー部材13が容易に変形するように、カバー部材13の強度が設定されている。カバー部材13が容易に変形するとは、上述した火災時に、扉本体10の表側板材1Aの変形を殆ど誘発することなく、カバー部材13の大きな変形を許容することである。カバー部材13の強度は、カバー部材13を構成する板材の厚みによって変更することができる他、材質や熱処理によっても変更することができ、また、リブを設ける等、形状や構造によっても変更することができる。
すなわち、本実施形態では、扉本体10の内部に気泡コンクリートなどの耐火材を充填しているため、火災により扉本体10が一方の面側から加熱されると、一方の面側の方が他方の面側に比べて熱延び量が大きくなり、耐火材を充填していない鋼板からなる扉に比べて、熱延びによるそりが生じやすくなる懸念がある。そこで、扉本体10の表面から離れて犠牲部材となるカバー部材13を設けておくことで、耐火材を充填した扉本体10であっても、その変形を抑制できる。また、カバー部材13は、扉本体10に対して後から容易に取り付けることもでき、例えば既設の扉本体10に対して取り付けることも容易である。
また、図4に示すように、カバー部材13の内部における左端部及び右端部には、それぞれ、断熱材14を位置決め保持するための端部位置決め部材39が設けられている。端部位置決め部材39は、カバー部材13の表側部13aに固定される固定板部39aと、固定板部39aから表側板材1Aへ接近する方向へ突出する突出板部39bと、突出板部39bの突出方向先端部から表側板材1Aに沿う方向に延びる先端板部39cとを備えている。先端板部39cには、断熱部材39dが固着されている。また、カバー内部13には、断熱材14を位置決めする位置決め部材が設けられている。
(パッキンの固定構造)
カバー部材13の周縁部には、扉本体10が閉状態にあるときに扉枠2に対して表側から接触するパッキン41と、当該パッキン14が取り付けられるパッキン取付部材40とが設けられている。パッキン取付部材40は、例えば鋼板等からなるものである。パッキン取付部材40は、カバー部材13への固定部分として、表側部13aの周縁部に接合される第1接合板部40aと、カバー部材13の周板部13bの外周面に沿って延び、該外周面に接合される第2接合板部40bとを有している。接合方法は例えば溶接を挙げることができる。第1接合板部40aと第2接合板部40bとは連続している。
さらに、パッキン取付部材40は、第2接合板部40bの先端部に連続し、周板部13bから離れる方向へ突出する第1突出板部40cと、第1突出板部40cの先端部に連続し、枠体2の表面に接近する方向へ突出する第2突出板部40dとを有している。第1突出板部40c及び第2突出板部40dにパッキン41が取り付けられている。パッキン取付部材40の形状は上述した形状に限定されるものではなく、少なくともカバー部材13の周板部13bに固定される板状の部分と、パッキン41が取り付けられる板状の部分とを有していればよく、これらは板材を屈曲させることによって形成できる。また、パッキン取付部材40は、第1接合板部40a、第2接合板部40b、第1突出板部40c及び第2突出板部40dを有する屈曲した板材で構成されているので、カバー部材13の周板部13bを補強する補強部材にもなる。
パッキン41は、中空状に形成された弾性材で構成されている。パッキン41を構成する弾性材としては、例えばゴムや熱可塑性エラストマー等を用いることができるが、これらに限られるものではなく、各種弾性材を用いることができる。扉本体10が閉状態になると、パッキン41の外周面が、枠体2の表面と、第1突出板部40c及び第2突出板部40dと、カバー部材13の周板部13bの外周面とに接触し、これにより、扉本体10と枠体2との間をシールすることができる。パッキン41は、必要に応じて設ければよく、本発明に必須なものではない。パッキン41は全周に亘って設けることができる。
(熱膨張部材25)
図4に示すように、扉本体10の周縁部と扉枠2の内面との間には、熱膨張部材25が設けられている。具体的には、扉枠2に熱膨張部材25が固着されている。熱膨張部材25は、従来から周知の部材であり、火災時の熱によって加熱されると、元の体積の数倍、数十倍に膨張する部材である。加熱前(通常時)には、図4に示すように、熱膨張部材25と扉本体10の周縁部との間には、隙間が形成されているが、熱膨張部材25が膨張すると、扉本体10の周縁部と扉枠2の内面との間が熱膨張部材25によって閉塞され、扉本体10の周縁部と扉枠2の内面との間がシールされる。
熱膨張部材25は、扉本体10の周縁部に固着させてもよい。また、熱膨張部材25は、必要に応じて設ければよく、本発明に必須なものではない。熱膨張部材25は、全周に亘って設けることができる。
(実施形態の作用効果)
扉本体10が閉状態にあるとき、扉本体10の表側で火災が発生すると、扉本体10の表側にはカバー部材13が設けられているので、火災発生時の熱をカバー部材13が直接受けることになる。これにより、カバー部材13の温度が上昇することになるが、このカバー部材13と扉本体10の表面とは離れているので、カバー部材13の熱が扉本体10に伝達し難い。さらに、カバー部材13の表側部13aと扉本体10の表側板材1Aとの間には、断熱材14が配置されている。これらのことにより、扉本体10の表側板材1Aの温度上昇が抑制され、その結果、扉本体10が変形し難くなる。尚、断熱材14の代わりに空気層が設けられている場合も同様に表側板材1Aの温度上昇が抑制される。
一方、カバー部材13は扉本体10の表側板材1Aよりも高温になるとともに、この扉本体10の表側板材1Aに固定されているので、カバー部材13には熱膨張の力に起因して熱応力が発生する。このとき、カバー部材13は表側板材1Aよりも低強度であるため、カバー部材13の熱応力によって当該カバー部材13の変形が許容されるとともに、その変形許容量が大きく確保され、その結果、カバー部材13の熱応力が低減される。このときのカバー部材13は、表側へ膨出するように変形する。また、表側板材1Aが相対的に高強度であるため、カバー部材13が大きく変形したとしても表側板材1Aの変形は抑制され、その結果、扉本体10の変形が起こらずに済み、鎮火後に扉本体10を開放することが可能になる。
また、カバー部材13は扉本体10の表側板材1Aに対して断続的に溶接されているので、カバー部材13の扉本体10に対する接合面積が少なくなる。これにより、火災時におけるカバー部材13の熱が扉本体10に伝達し難くなるとともに、カバー部材13の変形時に当該カバー部材13の周縁部と表側板材1Aの周縁部との間に部分的に隙間ができやすくなり、カバー部材13の熱応力に起因して扉本体10に作用する力が減少する。
鎮火後、温度が低下すると、カバー部材13には収縮する力が作用し、またカバー部材13には圧縮方向の熱応力が残存しているため、カバー部材13は変形することになるが、ここでもカバー部材13の強度が低く、表側板材1Aの強度が高いので、表側板材1Aの変形は抑制される。
また、断熱材14が扉本体10の表側板材1Aの表側に配置されることになるので、火災時の熱が表側板材1Aに伝達し難くなる。また、火災時に積極的に変形させるカバー部材13を、断熱材14を覆う部材とすることで、犠牲部材とカバー部材13との共通化が可能になる。
また、カバー部材13が扉枠2の表面よりも表側に位置しているので、火災時にカバー部材13が変形した際、扉枠2と干渉し難くなる。これにより、鎮火後における扉本体10の開放時にカバー部材13が開放を阻害しなくなる。
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
例えば、図5に示す実施形態の変形例のように、断熱材を省略して空気層を断熱層として利用することができる。この場合、カバー部材13は空気層からなる断熱層を覆う部材とすることができる他、単に犠牲部材とすることもできる。また、カバー部材13は、扉本体10の表側板材1Aの表側全面を覆うことが可能な形に形成されている。
以上説明したように、本発明に係る防火扉は、例えば研究施設に設置することができる。
1 防火扉
2 扉枠
10 扉本体
11 上側ヒンジ(支持手段)
12 下側ヒンジ(支持手段)
13 カバー部材(犠牲部材)
13c 溶接部
25 熱膨張部材
40 パッキン取付部材
41 パッキン
本発明は、例えば各種建築物等に設置される防火扉に関するものである。
従来より、各種建築物には、火災発生時の延焼を防止したり、避難通路を確保するために防火扉が設置されることがある(例えば、特許文献1、2参照)。特許文献1の防火扉の表面材は冷延鋼板や熱延鋼板からなるものである。この表面材には、Mn、Ti、Cr等を5〜50重量%含有するアルミニウム系合金の被覆層が形成されている。
また、特許文献2の防火扉は、扉枠に対して蝶番により開閉可能に支持された扉本体を備えている。扉本体の上部には突起が形成される一方、扉枠の上部には、扉本体と対向する部分に凹部が形成されている。火災時の加熱によって扉本体の上部が表側へ向けて湾曲したとき、扉本体の突起が扉枠の凹部に嵌合して扉本体の上部が扉枠から外れにくくなっている。特許文献2には、鎮火後、扉本体が収縮して原型に復元し、これに伴い扉本体の突起と扉枠の凹部との係合が自動的に解かれると記載されている。
特許第3189472号公報
実公昭58−36791号公報
ところで、特許文献1では、アルミニウム系合金の被覆層を形成することで防火扉の表面材の遮熱性及び耐熱性を高めることができると記載されているが、火災時の火力が強く、かつ長時間に亘って高温にさらされる環境下を想定すると、アルミニウム系合金の被覆層を形成しただけでは不十分である場合が考えられる。
また、特許文献2では、火災時の加熱によって扉本体の上部が表側へ湾曲して扉本体の突起が扉枠の凹部に嵌合し、鎮火後、扉本体が収縮して原型に復元すると記載されているが、一旦熱膨張によって変形した扉本体の温度が常温に戻ったとしてもその形状が原型に復元することは考えにくい。特に、火災時の火力が強く、かつ長時間に亘って高温にさらされた場合には、原型とはかけ離れた形状となっているのが通常である。従って、扉本体を開放しようとした際に、扉本体の突起と扉枠の凹部との嵌合状態が解けないことも考えられる。
また、扉本体が変形すると、扉本体と扉枠との隙間が広がり、火災時の火や熱が入るおそれもある。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、火災時の火力が強い場合であっても扉本体の変形を抑制し、鎮火後に扉本体を開放できるようにするとともに、扉本体と扉枠との隙間が広がるのを防止して火災時の火や熱が入るのを抑制することにある。
上記目的を達成するために、本発明では、扉本体の表側に、火災時の熱を直接受ける犠牲部材を設けることで犠牲部材を積極的に変形させ、このことで扉本体の変形を抑制するようにした。
第1の発明は、鋼板からなる扉本体と、扉枠と、前記扉本体を前記扉枠に対して開閉可能に支持する支持手段とを備えた防火扉において、前記扉本体における火災が発生する側には、当該扉本体の表面から離れて配置され、前記扉本体の鋼板よりも薄い鋼板からなるとともに、火災時の熱により前記扉本体よりも大きく変形する犠牲部材が、前記扉本体における火災が発生する側の面全体を覆うように設けられていることを特徴とする。
この構成によれば、扉本体の表側、即ち火災の発生が想定される側に犠牲部材が設けられているので、火災発生時の熱を犠牲部材が直接受けることになる。これにより、犠牲部材の温度が上昇することになるが、この犠牲部材と扉本体の表面とは離れているので、犠牲部材の熱が扉本体に伝達し難く、扉本体の温度上昇が抑制され、扉本体が変形し難くなる。一方、犠牲部材は扉本体よりも高温になるとともに、この扉本体に固定されているので、犠牲部材の内部には熱膨張の力に起因して熱応力が発生する。熱応力による犠牲部材の変形が許容されるとともに、その変形許容量が大きく確保されることにより、犠牲部材の熱応力が低減される。また、扉本体が相対的に高強度であるため、犠牲部材が大きく変形したとしても扉本体の変形は抑制され、鎮火後に扉本体を開放することが可能になる。
また、扉本体の変形が抑制されることで、扉本体と扉枠との隙間が広がるのを防止して火災時の火や熱が入るのを抑制することもできる。
また、犠牲部材の強度が扉本体の強度よりも確実に低下するので、犠牲部材が火災時の熱応力によって容易に変形するようになる。
第2の発明は、前記犠牲部材は、前記扉本体よりも低強度の部材からなるものであることを特徴とする。
この構成によれば、犠牲部材は扉本体よりも低強度であるため、熱応力による犠牲部材の変形量を大きく確保することができる。
第3の発明は、前記犠牲部材の周縁部と、前記扉本体の周縁部とは、断続的に溶接されていることを特徴とする。
この構成によれば、犠牲部材の扉本体に対する接合面積が少なくなるので、火災時における犠牲部材の熱が扉本体に伝達し難くなるとともに、犠牲部材の変形時に当該犠牲部材の周縁部と扉本体の周縁部との間に部分的に隙間ができやすくなり、犠牲部材の熱応力に起因して扉本体に作用する力が減少する。
第4の発明は、前記扉本体の表側には、断熱材が配置され、前記犠牲部材は、前記断熱材を覆うカバー部材で構成されていることを特徴とする。
この構成によれば、断熱材が扉本体の表側に配置されることになるので、火災時の熱が扉本体に伝達し難くなる。また、火災時に積極的に変形させる犠牲部材を、断熱材のカバー部材とすることで、部材の共通化が可能になる。
尚、断熱材に加えて、または断熱材の代わりに、犠牲部材と扉本体との間に空気層を設けてもよい。空気層によっても断熱効果を得ることが可能である。
第5の発明は、前記犠牲部材は、前記扉枠の表面よりも表側に位置していることを特徴とする。
この構成によれば、火災時に犠牲部材が変形した際、扉枠と干渉し難くなるので、鎮火後における扉本体の開放時に犠牲部材が開放を阻害しなくなる。
第6の発明は、前記犠牲部材の周縁部には、前記扉本体が閉状態にあるときに前記扉枠に対して表側から接触するパッキンと、当該パッキンが取り付けられるパッキン取付部材とが設けられていることを特徴とする。
この構成によれば、犠牲部材を利用してパッキンを取り付けることが可能になり、このパッキンにより扉枠と犠牲部材との間がシールされる。
第7の発明は、前記扉本体の周縁部と前記扉枠の内面との間には、熱膨張部材が設けられていることを特徴とする。
この構成によれば、火災時の熱によって熱膨張部材が膨張することで、扉本体の周縁部と扉枠の内面との間がシールされる。
第1の発明によれば、犠牲部材を扉本体の表側に設けたので、火災時の火力が強い場合であっても扉本体の変形を抑制し、鎮火後に扉本体を開放することができるとともに、扉本体と扉枠との隙間が広がるのを防止して火災時の火や熱が入るのを抑制することができる。
また、犠牲部材を扉本体の鋼板よりも薄い鋼板からなるものとすることで、犠牲部材が火災時の熱応力によって容易に変形するようになり、扉本体の変形抑制効果をより一層高めることができる。
第2の発明によれば、犠牲部材が扉本体よりも低強度の部材からなるものなので、熱応力による犠牲部材の変形量を大きく確保することができ、扉本体の変形抑制効果をより一層高めることができる。
第3の発明によれば、犠牲部材の周縁部と扉本体の周縁部とを断続的に溶接するようにしたので、火災時における犠牲部材の熱が扉本体に伝達し難くなるとともに、犠牲部材の熱応力に起因して扉本体に作用する力を減少させることができ、扉本体の変形抑制効果をより一層高めることができる。
第4の発明によれば、犠牲部材と扉本体との間に断熱材を配置し、犠牲部材を、断熱材のカバー部材としたので、犠牲部材とカバー部材とを共通化して構造の簡素化を図りながら、扉本体の変形抑制効果を得ることができる。
第5の発明によれば、犠牲部材が扉枠の表面よりも表側に位置しているので、鎮火後に犠牲部材が扉本体の開放を阻害しなくなり、扉本体の開放作業が容易になる。
第6の発明によれば、犠牲部材を利用してパッキンを取り付けることができ、パッキンにより埃等の侵入を抑制できる。
第7の発明によれば、扉本体の周縁部と扉枠の内面との間に熱膨張部材を設けたので、火災時の熱が内部に入るのを抑制できる。
本発明の実施形態に係る防火扉の正面図である。
図1におけるA−A線断面図である。
図1におけるB−B線断面図である。
図2におけるC部拡大図である。
実施形態の変形例に係る図2相当図である。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
図1は、本発明の実施形態に係る防火扉1の正面図である。この防火扉1は、例えば各種建築物に設置され、火災発生時の延焼を防止したり、避難通路を確保するために使用されるものである。防火扉1が設置される建築物としては、例えば各種ビル、工場、研究施設等を挙げることができる。この実施形態では、防火扉1が研究施設に設置される場合について説明する。防火扉1は、研究施設を構成している壁部や骨格部材等に設置することができる。
防火扉1の表側とは、火災の発生が想定される側である。一方、防火扉1の裏側とは、火災の延焼を防止する空間が存在する側であり、例えば制御室や避難通路等が設けられている側とすることができる。防火扉1の右側とは、防火扉1を表側から見て右に位置する側であり、防火扉1の左側とは、防火扉1を表側から見て左に位置する側である。尚、方向の定義は、説明の便宜を図るためであり、実際の使用状態を限定するものではない。
(防火扉1の全体構成)
図1、図2や図3に示すように、防火扉1は、扉本体10と、扉枠2と、扉本体10を扉枠2に対して開閉可能に支持する支持手段としての上側ヒンジ11及び下側ヒンジ12とを備えている。扉本体10の表側には、断熱材14が配置されており、この断熱材14を覆うようにカバー部材13が設けられている。断熱材14は、必須なものではなく、省略してもよい。カバー部材13は、本発明の犠牲部材であり、防火扉1の構成要素の一つである。
扉本体10及び扉枠2の形状は、任意の形状とすることができ、例えば左右方向に長い形状であってもよい。また、この実施形態では、上側ヒンジ11及び下側ヒンジ12が右側に設けられているが、左側に設けられていてもよい。
また、扉本体10の内部及び扉枠2の内部には、それぞれ、気泡コンクリートなどの耐火材が充填されている。
(扉枠2の構成)
扉枠2は、後述する扉本体10によって開閉される矩形の開口を形成するとともに、扉本体10を支持する高強度な部材で構成されている。すなわち、扉枠2は、該扉枠2の上辺部分を構成する上辺部材2Aと、該扉枠2の下辺部分を構成する下辺部材2Bと、該扉枠2の右辺部分を構成する右辺部材2Cと、該扉枠2の左辺部分を構成する左辺部材2Dとを備えている。上辺部材2A及び下辺部材2Bは、上下方向に互いに離間した状態で左右方向に略水平に延びている。右辺部材2C及び左辺部材2Dは、左右方向に互いに離間した状態で略鉛直に延びている。下辺部材2Bの右端部に右辺部材2Cの下端部が接続され、下辺部材2Bの左端部に左辺部材2Dの下端部が接続されている。上辺部材2Aの右端部に右辺部材2Cの上端部が接続され、上辺部材2Aの左端部に左辺部材2Dの上端部が接続されている。
上辺部材2A、下辺部材2B、右辺部材2C及び左辺部材2Dは、それぞれ、鋼板で構成されており、内部には、気泡コンクリート等の耐火材が充填されている。
(扉本体10の構成)
図2や図3に示すように、扉本体10は、表側板材1Aと、側部板材16と、裏側板材17とを備えている。表側板材1A、側部板材16及び裏側板材17は、例えば鋼板等からなるものである。表側板材1Aは、扉枠2によって形成される開口を閉塞するための部材であり、扉枠2における表側の開口部の形状に対応した矩形状に形成されている。表側板材1Aの表面は、扉本体10が閉状態にあるときに、扉枠2の表面と略同一面上に位置するようになっている。
図4にも示すように、側部板材16は、表側板材1Aの周縁部の形状に対応した略矩形の枠状部材である。また、裏側板材17は、側部板材16の裏側の開口を閉塞するように、上下方向及び左右方向に延びており、側部板材16の裏側の端部に固定されている。
表側板材1A、側部板材16及び裏側板材17の厚みを比較したとき、表側板材1Aの厚みが最も厚く、側部板材16及び裏側板材17は同程度である。
表側板材1A、側部板材16及び裏側板材17により、扉本体10の内部には、表側板材1A側に気泡コンクリートなどの耐火材を充填している耐火層Tが形成されており、裏側板材17側に中空部Rが形成されている。中空部Rには、カンヌキ33を動作させるための開閉機構34等が収容されている。開閉機構34には、図2や図3に示す表側ハンドル30と裏側ハンドル31とが取り付けられている。表側ハンドル30及び裏側ハンドル31は、扉本体10の構成要素である。表側ハンドル30は、扉本体10の表側から開閉機構34を操作するための部材であり、また、裏側ハンドル31は、扉本体10の裏側から開閉機構34を操作するための部材である。火災鎮火後は、表側ハンドル30は消失しているため、裏側ハンドル31を利用して扉本体10を裏側から開放することができる。
開閉機構34は、表側ハンドル30及び裏側ハンドル31の回動力をカンヌキ33に対して水平方向の力に変換して伝達し、当該カンヌキ33を図4に示す進出状態と、図示しない後退状態とに切り替え可能に構成された従来から周知の機構である。進出状態にあるカンヌキ33は、扉枠2の凹状部材21bに入るので、扉本体10を開けようとしてもカンヌキ33が扉枠2と係合して扉本体10の開放は不可能になる。一方、後退状態にあるカンヌキ33は、扉枠2の凹状部材21bから抜け出るので、扉本体10の開放が可能になる。この開閉機構34の構成は一例であり、従来から周知の各種開閉機構を用いることができる。
(上側ヒンジ11及び下側ヒンジ12の構成)
図1に示すように、上側ヒンジ11は、扉本体10の上側部分を扉枠2に対して開閉可能に支持するものであり、また、下側ヒンジ12は、扉本体10の下側部分を扉枠2に対して開閉可能に支持するものである。上側ヒンジ11は、扉枠2の右辺部材2Cの上側の表面に固定される枠側固定部材11aと、扉本体10の表側板材1Aの上側部分に固定される扉側固定部材11bと、扉側固定部材11bから下方へ突出する支軸11cとを備えている。支軸11cが枠側固定部材11aに挿入されており、支軸11cに支持され扉側固定部材11bが回動可能になっている。下側ヒンジ12についても同様な構造であり、枠側固定部材12aと、扉側固定部材12bと、支軸12cとを備えている。
従って、扉本体10が上側ヒンジ11の支軸11c及び下側ヒンジ12の支軸12cに支持され回動することにより、図1に示す閉状態と、図示しないが扉枠2を開放した開状態とに切り替えられる。
尚、ヒンジの数は2つに限られるものではなく、3つ以上であってもよい。また、ヒンジの構造は上述した構造に限られるものではなく、扉本体10を扉枠2に対して回動可能に支持するものであればよい。
(断熱材14の構成)
図2や図3に示すように、断熱材14は、扉本体10の表側板材1Aの表面に沿って延びる板状に成形されており、例えば、アルミナファイバー等で構成されている。断熱材14は、ガラス繊維や発泡材等で構成されていてもよいし、アルミナファイバー、ガラス繊維、発泡材等の中から複数種を組み合わせることによって構成されていてもよい。断熱材14には空気層が含まれていてもよい。
この実施形態では、図2に示すように、複数枚の断熱材14を左右方向に並べて配置しているが、これに限らず、1枚の板材からなる断熱材14を表側板材1Aの表面に配置してもよい。断熱材14と表側板材1Aの表面との間には空気層を設けてもよい。断熱材14の厚みは、素材によって変えることもできるが、例えば数cm〜10cm程度の間で設定することができる。
図4に示すように、扉本体10が閉状態にあるときに、表側板材1Aの表面と扉枠2の表面とが略同一面上に位置しているので、断熱材14はその殆どが扉枠2の表面から表側へ突出した状態で配置される。これにより、火災時の熱が断熱材14によって効果的に断熱ないし遮熱されて表側板材1Aの温度上昇が抑制される。
(カバー部材13の構成)
扉本体10には、当該扉本体10の表側板材1Aよりも低強度の部材からなり、当該扉本体10の表側板材1Aの表面から離れて配置されたカバー部材13が設けられている。カバー部材13は、例えば鋼板等で構成されており、断熱材14を覆うための部材である。カバー部材13が鋼板からなるものである場合、カバー部材13の厚みは表側板材1Aの厚みよりも薄く設定されている。例えば、カバー部材13の厚みは表側板材1Aの厚みの1/3以下、1/4以下、1/6以下に設定することができ、例えば、0.8mm〜1.8mmの範囲で設定することができる。
カバー部材13は、断熱材14の表側の面に沿って上下方向及び左右方向に延びる略矩形板状の表側部13aと、表側部13aの周縁部から裏側へ向けて表側板材1Aに達するまで延びる周板部13bとを有している。カバー部材13の表側部13aは、表側板材1Aの表面から所定寸法だけ表側へ離れて配置されており、カバー部材13の表側部13aと表側板材1Aの表面との間には、断熱材14を収容可能な断熱材収容空間が形成される。カバー部材13の表側部13aは、断熱材14の表側の面の全体を覆うように形成されている。また、カバー部材13の周板部13bは、断熱材14の上面及び下面を覆うととともに、一番右に配置される断熱材14の右側面及び一番左に配置される断熱材14の左側面を覆うように形成されている。従って、断熱材14の全体が表側板材1Aとカバー部材13とによって覆われることになる。
カバー部材13の周板部13bは、扉本体10の表側板材1Aの周縁部に対して断続的に溶接されている。すなわち、カバー部材13の周板部13bは、表側板材1Aの周縁部を囲むように形成されており、図4に示すように、カバー部材13の周板部13bの内方に表側板材1Aが配置されるようになっている。図4において符号13cで示す黒塗りの部分が、周板部13bの表側板材1Aに対する溶接部である。また、図1において破線の円で囲まれた部分に溶接部13cがある。この実施形態では、溶接部13cが表側板材1Aの端面に対して溶接された部分であるが、これに限らず、カバー部材13の周板部13bを表側板材1Aの表面に突き当てて溶接した突き当て溶接部であってもよい。
図1に破線の円で示す部分にある溶接部13cは、カバー部材13の周板部13bの周方向について断続している。例えば、周板部13bを周方向に数cm程度溶接した後、非溶接部分を数cm程度挟んで、周板部13bを数cm程度溶接するといった、断続溶接を繰り返し行うことによって溶接部13cと非溶接部とを周板部13bの周方向に設けることができる。溶接部13cのトータルの長さは、非溶接部のトータルの長さと同程度であってもよいし、溶接部13cのトータルの長さの方が長くてもよいし、溶接部13cのトータルの長さの方が短くてもよい。
また、図4に示すように、扉本体10が閉状態にあるときに、表側板材1Aの表面と扉枠2の表面とが略同一面上に位置しているので、カバー部材13は溶接部13cを除いた殆どが扉枠2の表面から表側へ突出した状態で配置される。
詳細は後述するが、火災が発生したとき、カバー部材13は、扉本体10よりも火に近くなるので、火によって直接加熱されることになる。このときにカバー部材13を構成する板材の内部に発生する熱応力によって当該カバー部材13が容易に変形するように、カバー部材13の強度が設定されている。カバー部材13が容易に変形するとは、上述した火災時に、扉本体10の表側板材1Aの変形を殆ど誘発することなく、カバー部材13の大きな変形を許容することである。カバー部材13の強度は、カバー部材13を構成する板材の厚みによって変更することができる他、材質や熱処理によっても変更することができ、また、リブを設ける等、形状や構造によっても変更することができる。
すなわち、本実施形態では、扉本体10の内部に気泡コンクリートなどの耐火材を充填しているため、火災により扉本体10が一方の面側から加熱されると、一方の面側の方が他方の面側に比べて熱延び量が大きくなり、耐火材を充填していない鋼板からなる扉に比べて、熱延びによるそりが生じやすくなる懸念がある。そこで、扉本体10の表面から離れて犠牲部材となるカバー部材13を設けておくことで、耐火材を充填した扉本体10であっても、その変形を抑制できる。また、カバー部材13は、扉本体10に対して後から容易に取り付けることもでき、例えば既設の扉本体10に対して取り付けることも容易である。
また、図4に示すように、カバー部材13の内部における左端部及び右端部には、それぞれ、断熱材14を位置決め保持するための端部位置決め部材39が設けられている。端部位置決め部材39は、カバー部材13の表側部13aに固定される固定板部39aと、固定板部39aから表側板材1Aへ接近する方向へ突出する突出板部39bと、突出板部39bの突出方向先端部から表側板材1Aに沿う方向に延びる先端板部39cとを備えている。先端板部39cには、断熱部材39dが固着されている。また、カバー内部13には、断熱材14を位置決めする位置決め部材が設けられている。
(パッキンの固定構造)
カバー部材13の周縁部には、扉本体10が閉状態にあるときに扉枠2に対して表側から接触するパッキン41と、当該パッキン14が取り付けられるパッキン取付部材40とが設けられている。パッキン取付部材40は、例えば鋼板等からなるものである。パッキン取付部材40は、カバー部材13への固定部分として、表側部13aの周縁部に接合される第1接合板部40aと、カバー部材13の周板部13bの外周面に沿って延び、該外周面に接合される第2接合板部40bとを有している。接合方法は例えば溶接を挙げることができる。第1接合板部40aと第2接合板部40bとは連続している。
さらに、パッキン取付部材40は、第2接合板部40bの先端部に連続し、周板部13bから離れる方向へ突出する第1突出板部40cと、第1突出板部40cの先端部に連続し、枠体2の表面に接近する方向へ突出する第2突出板部40dとを有している。第1突出板部40c及び第2突出板部40dにパッキン41が取り付けられている。パッキン取付部材40の形状は上述した形状に限定されるものではなく、少なくともカバー部材13の周板部13bに固定される板状の部分と、パッキン41が取り付けられる板状の部分とを有していればよく、これらは板材を屈曲させることによって形成できる。また、パッキン取付部材40は、第1接合板部40a、第2接合板部40b、第1突出板部40c及び第2突出板部40dを有する屈曲した板材で構成されているので、カバー部材13の周板部13bを補強する補強部材にもなる。
パッキン41は、中空状に形成された弾性材で構成されている。パッキン41を構成する弾性材としては、例えばゴムや熱可塑性エラストマー等を用いることができるが、これらに限られるものではなく、各種弾性材を用いることができる。扉本体10が閉状態になると、パッキン41の外周面が、枠体2の表面と、第1突出板部40c及び第2突出板部40dと、カバー部材13の周板部13bの外周面とに接触し、これにより、扉本体10と枠体2との間をシールすることができる。パッキン41は、必要に応じて設ければよく、本発明に必須なものではない。パッキン41は全周に亘って設けることができる。
(熱膨張部材25)
図4に示すように、扉本体10の周縁部と扉枠2の内面との間には、熱膨張部材25が設けられている。具体的には、扉枠2に熱膨張部材25が固着されている。熱膨張部材25は、従来から周知の部材であり、火災時の熱によって加熱されると、元の体積の数倍、数十倍に膨張する部材である。加熱前(通常時)には、図4に示すように、熱膨張部材25と扉本体10の周縁部との間には、隙間が形成されているが、熱膨張部材25が膨張すると、扉本体10の周縁部と扉枠2の内面との間が熱膨張部材25によって閉塞され、扉本体10の周縁部と扉枠2の内面との間がシールされる。
熱膨張部材25は、扉本体10の周縁部に固着させてもよい。また、熱膨張部材25は、必要に応じて設ければよく、本発明に必須なものではない。熱膨張部材25は、全周に亘って設けることができる。
(実施形態の作用効果)
扉本体10が閉状態にあるとき、扉本体10の表側で火災が発生すると、扉本体10の表側にはカバー部材13が設けられているので、火災発生時の熱をカバー部材13が直接受けることになる。これにより、カバー部材13の温度が上昇することになるが、このカバー部材13と扉本体10の表面とは離れているので、カバー部材13の熱が扉本体10に伝達し難い。さらに、カバー部材13の表側部13aと扉本体10の表側板材1Aとの間には、断熱材14が配置されている。これらのことにより、扉本体10の表側板材1Aの温度上昇が抑制され、その結果、扉本体10が変形し難くなる。尚、断熱材14の代わりに空気層が設けられている場合も同様に表側板材1Aの温度上昇が抑制される。
一方、カバー部材13は扉本体10の表側板材1Aよりも高温になるとともに、この扉本体10の表側板材1Aに固定されているので、カバー部材13には熱膨張の力に起因して熱応力が発生する。このとき、カバー部材13は表側板材1Aよりも低強度であるため、カバー部材13の熱応力によって当該カバー部材13の変形が許容されるとともに、その変形許容量が大きく確保され、その結果、カバー部材13の熱応力が低減される。このときのカバー部材13は、表側へ膨出するように変形する。また、表側板材1Aが相対的に高強度であるため、カバー部材13が大きく変形したとしても表側板材1Aの変形は抑制され、その結果、扉本体10の変形が起こらずに済み、鎮火後に扉本体10を開放することが可能になる。
また、カバー部材13は扉本体10の表側板材1Aに対して断続的に溶接されているので、カバー部材13の扉本体10に対する接合面積が少なくなる。これにより、火災時におけるカバー部材13の熱が扉本体10に伝達し難くなるとともに、カバー部材13の変形時に当該カバー部材13の周縁部と表側板材1Aの周縁部との間に部分的に隙間ができやすくなり、カバー部材13の熱応力に起因して扉本体10に作用する力が減少する。
鎮火後、温度が低下すると、カバー部材13には収縮する力が作用し、またカバー部材13には圧縮方向の熱応力が残存しているため、カバー部材13は変形することになるが、ここでもカバー部材13の強度が低く、表側板材1Aの強度が高いので、表側板材1Aの変形は抑制される。
また、断熱材14が扉本体10の表側板材1Aの表側に配置されることになるので、火災時の熱が表側板材1Aに伝達し難くなる。また、火災時に積極的に変形させるカバー部材13を、断熱材14を覆う部材とすることで、犠牲部材とカバー部材13との共通化が可能になる。
また、カバー部材13が扉枠2の表面よりも表側に位置しているので、火災時にカバー部材13が変形した際、扉枠2と干渉し難くなる。これにより、鎮火後における扉本体10の開放時にカバー部材13が開放を阻害しなくなる。
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
例えば、図5に示す実施形態の変形例のように、断熱材を省略して空気層を断熱層として利用することができる。この場合、カバー部材13は空気層からなる断熱層を覆う部材とすることができる他、単に犠牲部材とすることもできる。また、カバー部材13は、扉本体10の表側板材1Aの表側全面を覆うことが可能な形に形成されている。
以上説明したように、本発明に係る防火扉は、例えば研究施設に設置することができる。
1 防火扉
2 扉枠
10 扉本体
11 上側ヒンジ(支持手段)
12 下側ヒンジ(支持手段)
13 カバー部材(犠牲部材)
13c 溶接部
25 熱膨張部材
40 パッキン取付部材
41 パッキン