JP2021030235A - 溶接構造物 - Google Patents

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Abstract

【課題】溶接ルート部を起点とする疲労き裂の発生を効果的に抑制する。【解決手段】第1の部材、第2の部材、および第1の部材と第2の部材との間に充填または積層される溶接金属を含む溶接構造物であって、第1の部材と第2の部材との間に、溶接金属が充填または積層される溶接領域と、溶接金属が充填または積層されない非溶接領域とが形成され、非溶接領域に含まれる接触領域において、第1の部材と第2の部材とが接触することによって互いの間で応力が伝達される、溶接構造物が提供される。【選択図】図2

Description

本発明は、溶接構造物に関する。
繰返し応力下にある溶接継手では、溶接金属の表面と母材の表面との交点、具体的には溶接止端や溶接ルート部から疲労き裂が発生する場合がある。溶接止端や溶接ルート部が疲労き裂の起点になりやすいのは、(1)形状急変部であるために応力が集中する、(2)溶接熱によって引っ張り残留応力が導入される場合がある、(3)溶接熱によって母材の組織が劣化する、などの理由による。このうち、溶接止端については、切削加工や打撃処理などの後処理によって上記の原因を取り除き、疲労き裂の発生を抑制することが提案されている。
その一方で、特に片側からしかアクセスできない箇所における溶接ルート部については、上記のような後処理が困難であり、従って疲労き裂の発生を抑制することが容易ではなかった。そこで、例えば特許文献1では、裏置きビードを溶接することによって、片側からの溶接施工であっても溶接ルート部側に未溶着部を残さずに適当な溶接ビードを形成する技術が提案されている。また、特許文献2では、通常とは逆向きの開先加工を施して片側溶接を実施することで、溶接ルート部側にき裂状の未溶着部が形成されることを防ぐ技術が提案されている。
特許第5681568号公報 特許第4779815号公報
しかしながら、上記の特許文献1および特許文献2に記載された技術では、溶接ルート部側に新たな溶接止端が形成されることになる。片側からしかアクセスできない箇所の場合、この新たな溶接止端については後処理が困難であるため、溶接止端を起点とする疲労き裂の発生が抑制されない可能性があった。
そこで、本発明は、溶接ルート部を起点とする疲労き裂の発生を効果的に抑制することが可能な溶接構造物を提供することを目的とする。
本発明のある観点によれば、第1の部材、第2の部材、および第1の部材と第2の部材との間に充填または積層される溶接金属を含む溶接構造物であって、第1の部材と第2の部材との間に、溶接金属が充填または積層される溶接領域と、溶接金属が充填または積層されない非溶接領域とが形成され、非溶接領域に含まれる接触領域において、第1の部材と第2の部材とが接触することによって互いの間で応力が伝達される、溶接構造物が提供される。
第1の部材または第2の部材の少なくともいずれかが、接触領域の近傍で弾性変形してもよい。
第2の部材は、第1の部材に向かって凸な形状を有し、接触領域では、第2の部材の凸な形状を有する部分と第1の部材とが接触してもよい。
凸な形状を有する部分は、第2の部材の第1の部材に対向する面の少なくとも一部に形成される斜角面の端縁であってもよい。
第1の部材または第2の部材の少なくともいずれかが、板状部材であってもよい。この場合において、溶接領域および非溶接領域は、第2の部材の端面と第1の部材の板面との間に形成されてもよい。あるいは、溶接領域および非溶接領域は、第2の部材の段継ぎ面と第1の部材との間に形成されてもよい。また、溶接領域および非溶接領域は、第1の部材の板面と第2の部材の板面との間に形成されてもよい。この場合において、溶接構造物は、第3の部材をさらに含み、溶接金属は、第1の部材および第3の部材のそれぞれの端面と、第2の部材の板面との間に充填または積層され、第2の部材は、第1の部材と第3の部材とのそれぞれの板面に添接されてもよい。
第1の部材および第2の部材は、互いに接合されることによって閉断面を形成する長尺状の部材であってもよい。
第1の部材または第2の部材の少なくともいずれかは、疲労耐久性の高い鋼材で形成されてもよい。
上記の構成によれば、溶接ルート部を起点とする疲労き裂の発生を効果的に抑制することができる。
本発明の第1の実施形態に係る溶接構造物の全体的な断面図である。 図1に示す溶接構造物の溶接継手部分を拡大して示す断面図である。 本発明の第1の実施形態における応力伝達を模式的に示す図である。 比較例における応力伝達を模式的に示す図である。 溶接継手部分の別の例を示す断面図である。 溶接継手部分のさらに別の例を示す断面図である。 本発明の第2の実施形態に係る溶接構造物の溶接継手部分の断面図である。 本発明の第2の実施形態に係る溶接構造物の別の例における溶接継手部分の断面図である。 本発明の第3の実施形態に係る溶接構造物の溶接継手部分の断面図である。 本発明の第3の実施形態に係る溶接構造物の別の例における溶接継手部分の断面図である。 本発明の第4の実施形態に係る溶接構造物の溶接継手部分の断面図である。 本発明の実施例に係る試験装置を示す図である。 本発明の実施例に係る試験装置を示す図である。 本発明の実施例における試験結果を示すグラフである。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る溶接構造物の全体的な断面図である。本実施形態において、溶接構造物は、互いに接合されることによって閉断面を形成する長尺状の第1の部材および第2の部材を含む。図示された例において、第1の部材は鋼床版のデッキプレート1であり、第2の部材はデッキプレート1に取り付けられるU形リブ2である。このような溶接構造物は、例えば橋梁において用いられる。U形リブ2は、両方の端面2Eにおいてデッキプレート1の板面1Sに溶接されている。より具体的には、U形リブ2の端面2Eとデッキプレート1の板面1Sとの間に溶接金属3が充填または積層されることによって、U形リブ2がデッキプレート1に接合されている。
上記のような溶接構造物では、U形リブ2の内側が閉じられた空間になるため、デッキプレート1とU形リブ2との間の溶接継手部分には片側、すなわちU形リブ2の外側からしかアクセスできない。従って、溶接金属3は、デッキプレート1の板面1SとU形リブ2の端面2Eとの間に外側から充填または積層され、後処理も同様にU形リブ2の外側からのアクセスのみによって行われる。
このような場合において、U形リブ2の外側に位置する溶接金属3の表面と母材の表面との交点、すなわち溶接止端3A,3Bについては、図示された例のように切削加工などの後処理を行うことで疲労き裂の発生を抑制することができる。なお、本実施形態において溶接止端3A,3Bの後処理は公知の手法によって適宜行われるため、詳細な説明は省略する。切削加工以外の方法で溶接止端3A,3Bの後処理が施されてもよく、また後処理が省略されてもよい。
一方、U形リブ2の内側に位置する溶接金属3の表面と母材の表面との交点、溶接ルート部3Cについては、アクセスが困難であることから、後処理によって疲労き裂の発生を抑制することが容易ではない。そこで、本実施形態では、以下で説明するようにデッキプレート1とU形リブ2との間の非溶接領域で鋼材同士が接触して互いに応力を伝達することを可能にする構造を採用し、それによって溶接ルート部を起点とする疲労き裂の発生を効果的に抑制する。なお、簡単のためデッキプレート1の板面1Sと溶接金属3との交点が溶接ルート部3Cとして図示されているが、U形リブ2の端面2Eと溶接金属3との交点である溶接ルート部についても同様に疲労き裂の発生が抑制される。
図2は、図1に示す溶接構造物の溶接継手部分を拡大して示す断面図である。図2に示されるように、デッキプレート1とU形リブ2との間の溶接継手部分では、U形リブ2の外側から溶接金属3が充填または積層されることによって、デッキプレート1とU形リブ2との間に溶接領域R1と非溶接領域R2とが形成される。溶接領域R1は、デッキプレート1とU形リブ2との間に溶接金属が充填または積層される領域である。図2では、デッキプレート1の板面1SとU形リブ2の端面2Eとの間に形成される溶接領域R1が図示されている。なお、溶接領域R1では設計上、デッキプレート1の板面1SとU形リブ2の端面2Eとの間に溶接金属3が充填されるが、溶接によって母材であるデッキプレート1およびU形リブ2と溶接金属3とが溶融するため、溶接後の溶接領域R1において板面1Sおよび端面2Eが明確に判別できるとは限らない。
一方、非溶接領域R2は、デッキプレート1とU形リブ2との間に溶接金属が充填または積層されない領域である。図2では、デッキプレート1の板面1SとU形リブ2の端面2Eとの間に形成される非溶接領域R2が図示されている。デッキプレート1の板面1SとU形リブ2の端面2Eとの間で溶接領域R1と非溶接領域R2との境界に位置する溶接金属3の端縁が、溶接ルート部3Cである。本実施形態では、この非溶接領域R2に含まれる接触領域R3において、デッキプレート1とU形リブ2とが接触することによって互いの間で応力が伝達される。より具体的には、図示された例において、U形リブ2の端面2Eは全体が斜角面であり、接触領域R3では斜角面の端縁2Gを含む部分とデッキプレート1の板面1Sとが接触する。
なお、図2に示された例では、接触領域R3においてデッキプレート1とU形リブ2とが応力伝達が可能な程度に強く接触するため、接触領域R3の近傍でデッキプレート1が弾性変形している。なお、説明のために大きな弾性変形が図示されているが、必ずしもこのように大きな弾性変形が生じるとは限らない。デッキプレート1に加えてU形リブ2にも弾性変形が生じてもよく、U形リブ2だけに弾性変形が生じてもよい。このような弾性変形は、例えば溶接後の熱収縮によってU形リブ2がデッキプレート1に対して押し付けられることによって発生する。
また、図2に示された例では、U形リブ2が、デッキプレート1に向かって凸な形状、具体的には端面2Eの全体に形成される斜角面の端縁2Gを有する。これによって、例えば、溶接前には端縁2Gがデッキプレート1の板面1Sに接触しないか、またはわずかに接触する程度であったとしても、溶接後の熱収縮によって端面2Eと板面1Sとの間の距離が縮まることによって端縁2Gを板面1Sに押し付け、接触領域R3においてデッキプレート1とU形リブ2との間で応力が伝達される状態を実現することができる。
図3は、本発明の第1の実施形態における応力伝達を模式的に示す図であり、図4は比較例における応力伝達を模式的に示す図である。図3に示される例では、U形リブ2の端縁2Gを含む部分がデッキプレート1の板面1Sに接触する接触領域R3(図2参照)で集中的に応力STが伝達されることによって、溶接ルート部3Cへの応力集中が緩和される。応力が集中する接触領域R3が疲労き裂の起点になる可能性はあるものの、上述のように接触領域R3は非溶接領域R2にあるため、溶接熱による残留応力や母材の組織劣化などの影響が小さく、従って接触領域R3を起点とする疲労き裂が発生する可能性は溶接ルート部3Cに比べて低い。母材、すなわちデッキプレート1またはU形リブ2の少なくともいずれかを、例えば特許第4000049号公報、特許第4466196号公報、および特許第5304619号公報などに記載されたような疲労耐久性が高い鋼材で形成することによって、接触領域R3から疲労き裂が発生する可能性をさらに小さくすることができる。また、接触領域R3を溶接領域R1から離隔させることによって、残留応力や母材の組織劣化などの影響をより小さくしてもよい。
一方、図4に示される例では、非溶接領域R2においてデッキプレート1とU形リブ2とが接触していないため、非溶接領域R2と溶接領域R1との境目に位置する溶接ルート部3Cに応力STが集中する。既に述べたように、溶接ルート部3Cでは溶接熱による残留応力や母材の組織劣化などの影響が大きいため、疲労き裂が発生しやすい。なお、図3および図4では、例としてデッキプレート1の板面1Sに対して平行な方向の応力STが図示されているが、U形リブ2の板面に対して平行な方向の応力や、それぞれの方向の曲げ応力の伝達についても同様の傾向が示される。
図5は、溶接継手部分の別の例を示す断面図である。図5に示された例では、U形リブ2の端面2Eの一部に斜角面2Bが形成され、斜角面2Bの端縁2Gが非溶接領域R2に含まれる接触領域R3でデッキプレート1の板面1Sに接触する。このように、U形リブ2の端面2E(デッキプレート1に対向する面)に形成される斜角面の端縁がデッキプレート1に向かって凸な形状になり、この端縁を含む部分がデッキプレート1の板面1Sに接触させられる構成については様々な変形例が可能である。
また、例えば、U形リブ2がデッキプレート1に対して直角ではなく角度をもって当接される場合(つまり、デッキプレート1の板面1SとU形リブ2の端面2Eとの間に自然開先が形成されるような場合)、端面2Eに斜角面を形成しなくても、端面2Eの端縁がデッキプレート1に向かって凸な形状になり、この端縁を含む部分をデッキプレート1の板面1Sに接触させることによって、接触領域R3においてデッキプレート1とU形リブ2との間で応力が伝達される状態を実現することができる。
図6は、溶接継手部分のさらに別の例を示す断面図である。図6に示された例では、U形リブ2の端面2Eに斜角面2Bが形成されるが、斜角面の端部が角張った端縁を形成するのではなく、曲面2Cを形成する。曲面2Cは、例えば円筒面であってもよい。この場合も、曲面2Cがデッキプレート1に向かって凸な形状になり、U形リブ2の曲面2Cを含む部分が接触領域R3でデッキプレート1に接触することによって応力が伝達される。この例のように、U形リブ2に形成される凸な形状は必ずしも角張った形状でなくてもよい。接触領域R3におけるデッキプレート1とU形リブ2との間の接触は、必ずしも線状(断面では点状)の領域における接触でなくてもよく、ある程度の幅をもった領域における接触であってもよい。また、溶接線に沿った方向(図6では奥行き方向)について、接触領域R3におけるデッキプレート1とU形リブ2との間の接触状態は一様でなくてもよい。具体的には、例えば、溶接線に沿った方向で接触領域R3の幅が変化したり、一部の区間では接触領域R3が途切れたりしてもよい。
以上、本発明の第1の実施形態について説明した。なお、本実施形態の構成は、デッキプレート1とU形リブ2を含む溶接構造物だけではなく、同様に第1の部材と第2の部材とをT形に組み合せることによって構成される継手を含む様々な溶接構造物に適用することが可能である。
(第2の実施形態)
図7は、本発明の第2の実施形態に係る溶接構造物の溶接継手部分の断面図である。本実施形態において、溶接構造物は、第1の部材11と第2の部材12とをL形に組み合わせることによって構成される角継手を含む。図7に示された例では、第2の部材12の端面12Eが、第1の部材11の端部の板面11Sに溶接される。より具体的には、第2の部材12の端面12Eと第1の部材11の端部の板面11Sとの間に溶接金属3が充填または積層されることによって、第2の部材12が第1の部材11に接合されている。
本実施形態でも、上記の第1の実施形態と同様に、第1の部材11と第2の部材12との間の溶接継手部分では、第1の部材11の端部側から溶接金属3が充填または積層されることによって、第1の部材11の板面11Sと第2の部材12の端面12Eとの間に溶接領域R1と非溶接領域R2とが形成され、非溶接領域R2は接触領域R3が含まれる。図7に示された例において第2の部材12の端面12Eは全体が斜角面であり、接触領域R3では斜角面の端縁12Gを含む部分と第1の部材11の板面11Sとが接触する。
これによって、図7に示された例では、第1の部材11の板面11Sと第2の部材12の端面12Eとの間に形成される溶接ルート部への応力集中を緩和し、溶接ルート部を起点とする疲労き裂の発生を効果的に抑制することができる。第2の部材12の端面12Eの構成として、例えば上記で図5および図6を参照して説明したような例を採用することも可能である。
図8は、本発明の第2の実施形態に係る溶接構造物の別の例における溶接継手部分の断面図である。図8に示された例では、第2の部材12に板面に対して略垂直な段継ぎ面12Pが形成され、段継ぎ面12Pに第1の部材11の端部の板面11Sが載置されることによって角継手が構成される。ここで、図示された例では第1の部材11の端面11Eが斜角面を含み、端面11Eと第2の部材12の立ち上がり面12Qとの間に形成される開先に溶接金属3が充填または積層される。溶接金属3は開先の底部まで到達し、溶接ルート部3Cは第1の部材11の板面11Sと第2の部材12の段継ぎ面12Pとの間に形成される。
上記のような図8に示された例では、第1の部材11の板面11Sと第2の部材12の段継ぎ面12Pとの間に溶接領域R1と非溶接領域R2とが形成され、非溶接領域R2は接触領域R3を含む。ここで、溶接領域R1は、第1の部材11の端面11Eと第2の部材12の立ち上がり面12Qとの間に形成された開先に充填または積層された溶接金属3が流れ込むことによって、第1の部材11の板面11Sと第2の部材12の段継ぎ面12Pが部分的に溶融した領域である。図示された例において、段継ぎ面12Pは全体が斜角面である。接触領域R3では斜角面である段継ぎ面12Pの端縁12Gを含む部分と第1の部材11の板面11Sとが接触する。
これによって、図8に示された例でも、第1の部材11の板面11Sと第2の部材12の段継ぎ面12Pとの間に形成される溶接ルート部への応力集中を緩和し、溶接ルート部を起点とする疲労き裂の発生を効果的に抑制することができる。第2の部材12の段継ぎ面12Pの構成として、例えば上記で図5および図6を参照して説明したような例を採用することも可能である。
(第3の実施形態)
図9は、本発明の第3の実施形態に係る溶接構造物の溶接継手部分の断面図である。本実施形態において、溶接構造物は、第1の部材11と第2の部材12とを端面同士で突き合わせることによって構成される突合せ継手を含む。図9に示された例では、第2の部材12に板面に対して略平行な段継ぎ面12Pが形成され、段継ぎ面12Pに第1の部材11の端部の板面11Sが載置されることによって角継手が構成される。なお、図9に示された例の構成は、段継ぎ面12Pが第2の部材12の板面に対して略平行である点を除いて上記で図8を参照して説明した例と同様であるため、重複した説明は省略する。
図10は、本発明の第3の実施形態に係る溶接構造物の別の例における溶接継手部分の断面図である。図10に示された例では、第1の部材21の端面21Eと第3の部材23の端面23Eとが互いに突き合わされることによって突合せ継手が構成される。図示された例において、第2の部材22は第1の部材21と第3の部材23とのそれぞれの板面に添接される板状の部材である。第3の部材23の端面23Eは斜角面を含み、第1の部材21の端面21Eと第3の部材23の端面23Eとの間に形成される開先に溶接金属3が充填または積層される。溶接金属3は開先の底部まで到達し、溶接ルート部3Cは第1の部材21の板面21Sと第2の部材22の板面22Sとの間、および第3の部材23の板面23Sと第2の部材22の板面22Sとの間にそれぞれ形成される。
上記のような図10に示された例では、第1の部材21の板面21Sと第2の部材22の板面22Sとの間に溶接領域R1と非溶接領域R2とが形成され、非溶接領域R2は接触領域R3が含まれる。ここで、溶接領域R1は、第1の部材21の端面21Eと第3の部材23の端面23Eとの間に形成された開先に充填または積層された溶接金属3が流れ込むことによって、第1の部材21の板面21Sと第2の部材22の板面22Sとが部分的に溶融した領域である。図示された例において、第2の部材22の板面22Sの一部には斜角面22Bが形成され、接触領域R3では斜角面22Bの端縁22Gを含む部分と第1の部材21の板面21Sとが接触する。
これによって、図10に示された例でも、第1の部材21の板面21Sと第2の部材22の板面22Sとの間に形成される溶接ルート部への応力集中を緩和し、溶接ルート部を起点とする疲労き裂の発生を効果的に抑制することができる。第2の部材22の板面22Sの構成として、例えば上記で図2および図6を参照して説明したような例を採用することも可能である。また、図示されているように、第3の部材23の板面23Sと第2の部材22の板面22Sとの間にも溶接領域および非溶接領域が形成され、非溶接領域に含まれる接触領域で板面22S,23Sを互いに接触させることによって応力を伝達させ、第3の部材23側での溶接ルート部を起点とする疲労き裂の発生を抑制してもよい。
(第4の実施形態)
図11は、本発明の第4の実施形態に係る溶接構造物の溶接継手部分の断面図である。本実施形態において、溶接構造物は、第1の部材31と第2の部材32とを板面同士で重ね合わせることによって構成される重ね継手を含む。図11に示された例では、第1の部材31の端部において端面31Eおよび板面31Sが第2の部材32の板面32Sに溶接される。より具体的には、第2の部材32の板面32S上で、第1の部材31の端面31Eおよび板面31Sにまたがって溶接金属3が充填または積層されることによって、第1の部材31と第2の部材32とが接合されている。
本実施形態でも、上記の第1の実施形態と同様に、第1の部材31と第2の部材32との間の溶接継手部分では、第1の部材31の端部側から溶接金属が充填または積層されることによって第1の部材31の板面31Sと第2の部材12の板面32Sとの間に溶接領域R1と非溶接領域R2とが形成され、非溶接領域R2は接触領域R3が含まれる。図11に示された例において、第2の部材32の板面32Sには、第1の部材31と重なる部分に斜角面32Bが形成され、接触領域R3では斜角面32Bの端縁32Gを含む部分と第1の部材31の板面31Sとが接触する。
これによって、図11に示された例では、第1の部材31の板面31Sと第2の部材32の板面32Sとの間に形成される溶接ルート部への応力集中を緩和し、溶接ルート部を起点とする疲労き裂の発生を効果的に抑制することができる。第2の部材32の板面32Sの構成として、例えば上記で図6を参照して説明したような例を採用することも可能である。
上記の第1から第4の実施形態では、溶接構造物を構成する第1の部材および第2の部材は、いずれも板状部材である例について説明した。ここで、板状部材は、長さ方向または幅方向の少なくともいずれかの寸法が厚さ方向の寸法よりも大きい部材であり、長さ方向と幅方向とを含む1対の板面と、厚さ方向を含む2対の端面とを有する。上記のいくつかの例で説明した段継ぎ面は、板面の長さ方向または幅方向の一辺について、板面の端部から端面にまたがる領域を切り欠くことによって形成される。この場合、切り欠きによって形成される板面に平行な面および端面に平行な面のいずれか一方が段継ぎ面になり、他方が立ち上がり面になる。板面および端面がいずれも平面である場合、板状部材は直方体になる。板面または端面の少なくともいずれかが曲面であってもよい。この場合、板状部材は例えば全体として湾曲した曲板状、または平板の端面が膨出したような形状になる。長さ方向の寸法が大きく、幅方向の寸法と厚さ方向の寸法とが同程度である場合、板状部材は棒状部材とも呼ばれる。
なお、第1の部材または第2の部材が板状部材とは呼ばれない形状、例えば立方体であるような場合も、第1の部材と第2の部材とを対向させ、第1の部材と第2の部材との間に溶接金属を充填または積層することが可能な場合には、第1の部材と第2の部材との間に溶接領域と非溶接領域とを形成し、被溶接領域に含まれる接触領域において第1の部材と第2の部材とを接触させることによって互いの間で応力を伝達するという本発明の実施形態に係る構成を採用することが可能である。従って、本発明の実施形態において、第1の部材および第2の部材は板状部材には限定されない。
続いて、本発明の実施例について説明する。図12Aおよび図12Bは、本発明の実施例に係る試験装置を示す図である。図12Aに示されるように、試験では、両側を支持された梁51の中央に被溶接材52を溶接した試験体を用いた。梁51と被溶接材52と間の溶接継手部分から両側の支点までの距離がL1、溶接継手部分から繰り返し荷重の載荷点までの距離がL2として図示されている。繰り返し荷重の載荷によって梁51には曲げモーメントが発生し、曲げモーメントによって溶接継手部分には引張応力または圧縮応力が発生する。図12Bに示されるように、被溶接材52の端面52Eには斜角面は形成されておらず、被溶接材52を梁51に対して78°の角度で(すなわち、直角から12°傾けて)当接させた状態で溶接金属53を用いて溶接することによって、梁51と被溶接材52とを非溶接領域で接触させた。
図13は、本発明の実施例における試験結果を示すグラフである。図13のグラフには、応力比(最小応力の最大応力に対する比)が−1(溶接継手部分に引張応力を発生させる荷重と圧縮応力を発生させる荷重とが同じ大きさで交互に載荷される)および0.1(溶接継手部分に引張応力を発生させる所定の荷重を載荷した状態とその1/10の荷重を載荷した状態とが交互に繰り返される)の場合について、応力範囲(N/mm)と疲労寿命(疲労き裂によって試験体が構造物としての機能を失うまでの繰り返し回数)との関係が示されている(いずれも対数表示)。なお、矢印がつけられている結果は、疲労き裂が発生しないまま所定の繰り返し回数に到達したために試験が終了したケースである。
グラフに示されているように、本発明の実施例に係る試験結果では、いずれも、応力範囲と疲労寿命との関係について規定された日本鋼構造協会(JSSC:Japanese Society of Steel Construction)の疲労等級Aに相当する。この疲労等級Aは、一般に溶接継手部分ではなく鋼材自体の疲労強度の評価に用いられる(つまり、一般の溶接継手部分は、より低い疲労等級になる)ことから、本発明の実施形態に従って溶接継手部分が形成された溶接構造物では、溶接ルート部を起点とする疲労き裂の発生が効果的に抑制されているといえる。また、応力比を0.1とした場合にも疲労き裂の発生が抑制されたことから、例えば接触領域R3を接触方向に開口させるような外力が継続的に作用する場合でも、本発明によって疲労き裂の発生を効果的に抑制できるといえる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、各種の変形例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
1…デッキプレート、1S…板面、2…U形リブ、2B…斜角面、2C…曲面、2E…端面、2G…端縁、3…溶接金属、3C…溶接ルート部、11,21,31…第1の部材、11E,21E,31E…端面、11S,21S,31S…板面、12,22…第2の部材、12E…端面、12G…端縁、12P…段継ぎ面、12Q…立ち上がり面、22B,32B…斜角面、22G,32G…端縁、22S,32S…板面、23…第3の部材、23E…端面、23S…板面、51…梁、52…被溶接材、52E…端面、53…溶接金属。

Claims (11)

  1. 第1の部材、第2の部材、および前記第1の部材と前記第2の部材との間に充填または積層される溶接金属を含む溶接構造物であって、
    前記第1の部材と前記第2の部材との間に、前記溶接金属が充填または積層される溶接領域と、前記溶接金属が充填または積層されない非溶接領域とが形成され、
    前記非溶接領域に含まれる接触領域において、前記第1の部材と前記第2の部材とが接触することによって互いの間で応力が伝達される、溶接構造物。
  2. 前記第1の部材または前記第2の部材の少なくともいずれかが、前記接触領域の近傍で弾性変形している、請求項1に記載の溶接構造物。
  3. 前記第2の部材は、前記第1の部材に向かって凸な形状を有し、
    前記接触領域では、前記第2の部材の前記凸な形状を有する部分と前記第1の部材とが接触する、請求項1または請求項2に記載の溶接構造物。
  4. 前記凸な形状を有する部分は、前記第2の部材の前記第1の部材に対向する面の少なくとも一部に形成される斜角面の端縁である、請求項3に記載の溶接構造物。
  5. 前記第1の部材または前記第2の部材の少なくともいずれかが、板状部材である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の溶接構造物。
  6. 前記溶接領域および前記非溶接領域は、前記第2の部材の端面と前記第1の部材の板面との間に形成される、請求項5に記載の溶接構造物。
  7. 前記溶接領域および前記非溶接領域は、前記第2の部材の段継ぎ面と前記第1の部材との間に形成される、請求項5に記載の溶接構造物。
  8. 前記溶接領域および前記非溶接領域は、前記第1の部材の板面と前記第2の部材の板面との間に形成される、請求項5に記載の溶接構造物。
  9. 前記溶接構造物は、第3の部材をさらに含み、
    前記溶接金属は、前記第1の部材および前記第3の部材のそれぞれの端面と、前記第2の部材の板面との間に充填または積層され、
    前記第2の部材は、前記第1の部材と前記第3の部材とのそれぞれの板面に添接される、請求項8に記載の溶接構造物。
  10. 前記第1の部材および前記第2の部材は、互いに接合されることによって閉断面を形成する長尺状の部材である、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の溶接構造物。
  11. 前記第1の部材または前記第2の部材の少なくともいずれかは、疲労耐久性の高い鋼材で形成される、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の溶接構造物。
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