JP2020200729A - コンクリート床版及びコンクリート床版の補修方法 - Google Patents

コンクリート床版及びコンクリート床版の補修方法 Download PDF

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Abstract

【課題】損傷が生じたプレキャスト版を容易に取り替えることができるコンクリート床版及びこのコンクリート床版のプレキャスト版の一部を取り替える方法を提供する。【解決手段】橋桁1の上に複数のプレキャスト版10を配列し、橋桁の軸線方向に配置した緊張材13でプレストレスを導入する。緊張材は軸線方向に配列された複数の繊維を合成樹脂で決着したFRP部材を用いる。プレキャスト版のそれぞれには、隣接するプレキャスト版との接合端面付近に、他のコンクリート部材との接合に用いることができる接合用鉄筋31を埋め込んでおく。接合用鉄筋は、隣接するプレキャスト版との接合端付近に、定着強化部31bを有するものであり、プレキャスト版を取り替えるときには、この接合用鉄筋を斫りだし、新たに形成するコンクリート版と接合する。【選択図】図2

Description

本発明は、橋桁の上にコンクリートのプレキャスト版を配列して形成されたコンクリート床版に係り、特に一部のプレキャスト版の取り替えが容易となったコンクリート床版、及びコンクリート床版を構成するプレキャスト版の一部を取り替える方法に関するものである。
橋桁の上に形成されるコンクリート床版には、橋桁の軸線方向に複数のプレキャスト版を配列し、これらを一体に連結したものが広く採用されている。そして、プレキャスト版が強固に一体となるように橋桁の軸線方向にプレストレスを導入することが行われており、例えば特許文献1に開示されている。
このように形成されたコンクリート床版は、経年劣化等によって損傷が生じることがある。損傷が生じたコンクリート床版は、補修によって機能を回復することが必要となり、損傷した部分のプレキャスト版を取り替えることが行われている。しかし、橋桁の軸線方向にプレストレスが導入されているコンクリート床版は、複数のプレキャスト版にわたって連続する緊張材が埋め込まれている。そして、一部のプレキャスト版を撤去するために緊張材を切断すると広い範囲でプレストレスが解放されてしまうおそれがある。このため、プレキャスト版を取り替えようとするときには広い範囲を同時に取り替えることになり、多くの作業と費用を要するものとなっている。
このような事情から、プレキャスト版の一部を後に取り替えることを想定したコンクリート床版が、特許文献2に開示されている。
このコンクリート床版は、プレキャストコンクリートからなる複数のパネルを桁上に配列したものであり、橋梁の一径間毎に3つのパネルからなる緊張定着用パネル群が設けられている。緊張定着用パネル群は、2つの定着パネルとこれらの間に配置される1つの連結パネルで構成され、複数の緊張定着用パネル群の間には複数の通常パネルが配列されている。緊張材は接続具によって接続され、順次に緊張力が導入されているが、一連の通常パネルとこれらの両側で隣接する2つの定着パネルとに連続するプレストレスを導入して、これらの両端に定着具が装着されている。したがって、連結パネルを撤去しても、その両側にある定着パネルと通常パネルのプレストレスは維持される。これにより、2つの緊張定着用パネル群の連結パネルを撤去し、2つの連結パネルとこれらの間にある一連の通常パネル及びこれに隣接する定着パネルとを撤去して、取り替えることができるものとなっている。
特開平07−102529号公報 特開平07−268808号公報
しかしながら、上記従来の技術では、次のような解決が望まれる課題がある。
プレキャストコンクリートからなるパネルの一部に損傷が生じ、これを取り替えようとするときに、少なくとも2つの定着パネルと2つの連結パネルと、2つの定着パネルの間にある一連の通常パネルとを取り替えなければならない。このため、取り替えるパネルの数を最小限に抑えて補修の費用を低減しようとする要請に、充分に対応できるものではない。また、コンクリート床版を設置するときに、定着パネルにはキャップケーブルの定着用ブロックをあらかじめ設けておく必要がある。キャップケーブルはパネルの取り替え後に緊張定着用パネル群にプレストレスを導入するために用いられるものであり、コンクリート床版の設置時には使用しない定着用ブロックを設けておくことになる。
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、損傷が生じて取り替えが必要になったプレキャスト版の数が少数であっても多数であっても容易に補修することができるコンクリート床版を提供すること、及びこのコンクリート床版を補修する方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、 橋桁の上に複数のプレキャスト版を配列し、前記橋桁の軸線方向にプレストレスを導入して複数の前記プレキャスト版を接合したコンクリート床版であって、 前記プレストレスを導入するための緊張材は、軸線方向に連続する複数の繊維を合成樹脂で結着したFRP部材であり、 前記プレキャスト版のそれぞれには、他のコンクリート部材に一部を埋め込んで接合に用いることができる接合用鉄筋が、該接合用鉄筋の全長にわたって埋め込まれており、 前記接合用鉄筋は、隣接するプレキャスト版との接合端付近に、他のコンクリート部材中に埋め込まれたときに該コンクリート部材への定着機能を強化する定着強化部を有するものであるコンクリート床版を提供する。
このコンクリート床版では、プレキャスト版のそれぞれには接合用鉄筋が埋め込まれており、一部のプレキャスト版に取り替えが必要となって、これらのプレキャスト版を撤去したときに、残存するプレキャスト版の一部を斫ることによって接合用鉄筋を露出させることができる。この接合用鉄筋に他の新設の鉄筋を重ね合わせ、この新設の鉄筋と接合用鉄筋とを重ね合わせた部分を埋め込むようにコンクリートを打設することによって、プレキャスト版を撤去した後に設置された新たなコンクリート版と残存するプレキャスト版とを強固に接合することができる。設置された新たなコンクリート版は、新たなプレキャスト版を配置したものとするのが望ましいが、未硬化のコンクリートを橋桁上で打設して形成されたコンクリート版であってもよい。
また、このコンクリート床版では、橋桁の軸線方向にプレストレスを導入する緊張材としてFRP部材が用いられているので、コンクリートとの付着性が良好であり、取り替えが必要となったプレキャスト版の撤去とともに緊張材であるFRP部材を切断しても残存させるプレキャスト版のプレストレスの低減が小さく限定された範囲に抑えられる。
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のコンクリート床版において、 前記接合用鉄筋の定着強化部は、円弧状又は放物線状に湾曲するように加工され、湾曲する部分が前記プレキャスト版の上面及び下面に沿って前記橋桁の軸線方向に埋め込まれた直状部と連続するものとする。
このコンクリート床版では、湾曲してループ状となった接合用鉄筋を容易に斫りだすことができる。そして、隣接される位置に配置される新たなプレキャスト版から突き出したループ状の鉄筋、又は隣接する位置に打設されるコンクリートに埋め込まれるループ状の鉄筋と重ね合わせ、新たなプレキャスト版又は現場打設によって形成されるコンクリート版と強固に接合することが可能となる。
請求項3に係る発明は、請求項1に記載のコンクリート床版において、 前記定着強化部は、前記プレキャスト版の上面及び下面に沿ってそれぞれ前記橋桁の軸線方向に埋め込まれた接合用鉄筋の、隣接するプレキャスト版との接合端付近で断面が拡大されたものとする。
このコンクリート床版では、接合用鉄筋が断面拡大部を備えており、斫りだされた部分が短くても、新たに打設されるコンクリートに強固に定着される。したがって、隣接される位置に配置される新たなプレキャスト版から突き出した鉄筋、又は隣接する位置に打設されるコンクリートに埋め込まれる鉄筋と重ね合わせ、残存するプレキャスト版を新たなプレキャスト版又は現場打設によって形成されるコンクリート版と強固に接合することが可能となる。
請求項4に係る発明は、 請求項1から請求項3までのいずれかに記載のコンクリート床版の補修方法であって、 配列された前記プレキャスト版の内の取り替えが必要なプレキャスト版を撤去するとともに、撤去するプレキャスト版と残存させるプレキャスト版との境界部で前記FRP部材を切断する工程と、 残存させる前記プレキャスト版の、撤去したプレキャスト版と対峙していた接合端部を斫り、前記接合用鉄筋の定着強化部を露出させる工程と、 残存するプレキャスト版から露出した接合用鉄筋と、該接合用鉄筋と前記橋桁の軸線方向で重なり合うように配置された新設接合用鉄筋と、を埋め込むように未硬化のコンクリートを打設し、残存するプレキャスト版と連続する新たなコンクリート版を形成する工程と、を有するコンクリート床版の補修方法を提供するものである。
このコンクリート床版の補修方法では、取り替えが必要となったプレキャスト版を撤去しても、隣接する位置で残存させるプレキャスト版に導入されているプレストレスの低減が小さく抑えられる。また、残存させるプレキャスト版の一部を斫ることによって露出する接合用鉄筋を用い、取り替えられた新たなプレキャスト版からなるコンクリート版又はコンクリートの現場打設によって形成された新たなコンクリート版と強固に接合することが可能となる。
請求項5に係る発明は、請求項4に記載のコンクリート床版の補修方法において、 新たなコンクリート床版を形成する工程は、 新たなプレキャスト版であって、残存させるプレキャスト版と接合される端面からは該残存させるプレキャスト版と接合するための新設接合用鉄筋が突き出した新たなプレキャスト版を、前記橋桁上の取り替えるプレキャスト版を撤去した位置に設置する工程と、 残存させるプレキャスト版と新たなプレキャスト版との間で、残存するプレキャスト版から露出した接合用鉄筋と新たなプレキャスト版から突き出した新設接合用鉄筋とが橋桁の軸線方向で重なり合う空間に、連結用のコンクリートを打設して硬化させる工程と、を有するものとする。
このコンクリート版の補修方法では、取り替えが必要となったプレキャスト版を撤去し、新設接合用鉄筋が突き出した新たなプレキャスト版と迅速に取り替える変えることができるとともに、新たなプレキャスト版と強固に連結することが可能となる。
請求項6に係る発明は、請求項5に記載のコンクリート床版の補修方法において、 新たなプレキャスト版には、残存させるプレキャスト版と新たなプレキャスト版との間に連結用のコンクリートを打設する前に、新たなプレキャスト版を貫通する新設緊張材の緊張力によって前記橋桁の軸線方向のプレストレスを導入しておき、 残存させるプレキャスト版と新たなプレキャスト版との間の接合部にコンクリートを打設し、硬化した後に前記新設緊張材の一部又は全部の緊張力を解放するものとする。
このコンクリート床版の補修方法では、残存させるプレキャスト版と新たなプレキャスト版との接合部にもプレストレスを導入することができる。つまり、連結用のコンクリートを打設する前に、新たなプレキャスト版にプレストレスを導入することによって新たなプレキャスト版に収縮が生じる。そして、接合部に打設したコンクリートが硬化した後に新設緊張材の緊張力を解放すると、新たなプレキャスト版の伸びが隣接している残存させたプレキャスト版によって拘束され、接合部にプレストレスが導入される。
請求項7に係る発明は、請求項6に記載のコンクリート床版の補修方法において、 前記新設緊張材の緊張力の解放は、新たなプレキャスト版に前記新設緊張材の一部が露出する切り欠きをあらかじめ形成しておき、該切り欠き内で前記新設緊張材を切断することによって行うものとする。
この補修方法では、新設緊張材を切断するという簡単な作業で緊張力を解放し、残存させたプレキャスト床版と新たなプレキャスト床版との接合部にプレストレスを導入することができる。
以上説明したように、本発明のコンクリート床版では、損傷が生じたプレキャスト版の数が少数であっても多数であっても容易に補修することができる。また、本発明の補修方法では、損傷が生じたコンクリート床版を少ない費用で効率よく補修することが可能となる。
本発明のコンクリート床版を有する橋梁の構成を示す概略斜視図である。 本発明のコンクリート床版を有する橋梁の一例を示す概略側面図、及び本発明のコンクリート床版の断面図である。 図2に示すコンクリート床版を構成するプレキャスト版の一部を取り替える工程を示す概略図である。 プレキャスト版の一部を取り替えた後の状態の他の例を示す概略断面図である。 プレキャスト版の一部を取り替えた後に、残存させるプレキャスト版と新たなプレキャスト版との接合部にプレストレスを導入する工程を示す概略図である。 プレキャスト版の一部を取り替えた後に、残存させるプレキャスト版と新たなプレキャスト版との接合部にプレストレスを導入する工程の他の例を示す概略図である。 プレキャスト版の一部を取り替えた後に、残存させるプレキャスト版と新たなプレキャスト版との接合部にプレストレスを導入する工程の他の例を示す概略図である。 本発明のコンクリート床版の他の例を示す断面図である。
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は、本発明のコンクリート床版を有する橋梁の構成を示す概略斜視図である。また、図2は、本発明のコンクリート床版を有する橋梁の一例を示す概略側面図、及び本発明のコンクリート床版の断面図である。
この橋梁は、道路橋として用いられるものであり、橋台又は橋脚2,3に支持された橋桁1の上にプレキャスト版10を配列し、これらを連結するとともに橋桁1に固定してコンクリート床版11としたものである。そして、それぞれのプレキャスト版10には橋桁1の軸線方向に複数のダクト12が設けられており、これらに挿通した緊張材を緊張及び定着することによってコンクリート床版11には橋桁1の軸線方向のプレストレスが導入されている。
上記橋桁1は、複数の鋼桁4を平行に架け渡し、これらを横桁5で連結したものであり、それぞれの鋼桁4は、上フランジ6と下フランジ7とこれらを上下に連結するウェブ8とを有するものである。上フランジの上面にはプレキャスト版を固定するためのずれ止め部材9が設けられている。
プレキャスト版10は、あらかじめ工場又は製作ヤード等においてコンクリートを打設し、形成されたものであり、橋桁1の軸線方向に所定の寸法となっている。また、橋桁の軸線と直角方向には道路の幅と対応した寸法となっている。これらのプレキャスト版10には、橋桁上でコンクリート床版11とされたときに作用する輪荷重等に耐え得るように鉄筋が配置されている。また、橋桁1の軸線と直角方向にプレストレスが導入されたものであってもよく、プレストレスはプレテンション方式又はポストテンション方式のいずれによって導入されたものであってもよい。
これらのプレキャスト版10が橋桁上で該橋桁の軸線方向に配列され、連結されるとともにずれ止め部材9で鋼桁4に固定されている。隣り合うプレキャスト版は合成樹脂系の接着剤等によって結合されるものであってもよいし、10mm〜40mm程度の隙間をおいてプレキャスト版を配列し、これらの間に無収縮モルタルを充填して結合されるものであってもよい。
プレキャスト版10には、図2(b)に示すように、橋桁の軸線方向に複数の接合用鉄筋31が配置され、これらは橋桁1の幅方向に所定の間隔で配置されている。また、橋桁と直角となる方向には所定の間隔で横方向鉄筋32が配置されている。接合用鉄筋31はプレキャスト版10の上面、下面に沿って橋桁1の軸線方向に配置された直状部31aと、隣り合うプレキャスト版との接合端面付近で円弧状又は放物線状に湾曲するように加工された定着強化部31bとを有し、定着強化部31bは、上面付近及び下面付近に配置された直状部31aと連続するものとなっている。これらの接合用鉄筋31は、全長にわたってそれぞれのプレキャスト版10に埋め込まれており、プレキャスト版10の接合に用いられていない。しかし、隣接するプレキャスト版を互いに接合するときに用いることができるものである。つまり、プレキャスト版から湾曲した定着強化部31bが突き出した状態となったときには、接合する2つのプレキャスト版から互いに突き出した接合用鉄筋を、橋桁の軸線方向の位置が重なるように配置し、これらの双方を埋め込むように2つのプレキャスト版の間に連結用のコンクリートを打設することによって、2つのプレキャスト版を強固に接合することができるものである。このとき湾曲するように加工された定着強化部31bは、接合部に打設された連結用のコンクリートに埋め込まれる長さが小さくても強固に定着されるように機能するものである。
プレキャスト版10に橋桁の軸線方向のプレストレスを導入する緊張材13は、高強度の繊維を合成樹脂で結束したFRPロッドが用いられている。高強度の繊維は、アラミド繊維、炭素繊維、鉱物繊維等を用いることができるものであり、複数の繊維を束ねて結束したもの、繊維の複数の束を撚り合わせたもの、複数の繊維の束を組み紐状に組み合わせたもの等を用いることができる。
緊張材13は、それぞれのプレキャスト版に設けられたダクト12内に配置される。これらのダクト12は、プレキャスト版10が橋桁1の上に配列されたときに橋桁1の軸線方向に連通するように設けられている。そして、所定の数のプレキャスト版10ごとに、例えば橋桁1の支間ごとに、ダクト12内に緊張材13を挿入し、緊張及び定着を行って一連のプレキャスト版にプレストレスを導入することができる。
ダクト12は、所定の数のプレキャスト版ごとに設けられた定着用突起部14に開口を有するものであり、緊張材13はこの開口から挿入することができる。そして、所定の数のプレキャスト版を貫通した端面において緊張され、プレキャスト版10に定着されている。緊張材13は、橋桁1の軸線方向に配置された複数の緊張材13が一部で重複するものとなっている。すなわち、図2(a)中に示す定着突起部14−1からダクト内に挿入された緊張材13−1は、プレキャスト版10aの端面Aで定着され、定着突起部14−2からダクト内に挿入された緊張材13−2とプレキャスト版10a内で重複するものとなっている。このように配置された複数の緊張材13の緊張及び定着を繰り返し、橋桁1の軸線方向に連続するようにコンクリート床版11のプレストレスが導入されている。
なお、緊張材13に緊張力が導入された後には、ダクト12内にグラウト材が注入され、硬化して緊張材13とプレキャスト版10とが結合されている。また、鋼桁4に固定されているずれ止め部材9とプレキャスト版との間にモルタル等が充填され、プレキャスト版が橋桁1に固定される。
上記のようなコンクリート床版11の一部に損傷が生じたときには、損傷が生じた部分のプレキャスト版10を取り替えることによって補修することができる。
プレキャスト版10の取り替えは次のように行うことができる。
図3(a)に示すように、損傷が生じたプレキャスト版10−1は残存させるプレキャスト版10−2を残して撤去する。そして、残存させるプレキャスト版10−2の撤去したプレキャスト版10−1と隣接していた端部を斫り、残存させるプレキャスト版10−2に埋め込まれていた接合用鉄筋31の定着強化部31bを露出させる。また、これにともなって橋桁1の軸線方向に配置されている緊張材13は切断して撤去する。緊張材13はダクト12内で硬化したグラウト材でプレキャスト版10と結合されており、FRPロッドの付着性能が良好なことから切断された緊張材13の緊張力は切断された端よりわずかの長さ、200mm〜400m程度の範囲で緊張力が解放されるにすぎない。したがって、残存させるプレキャスト版10−2に導入されているプレストレスは、切断位置付近の限定された範囲を除いて維持される。
続いて,図3(b)に示すように取り替えるプレキャスト版を撤去した位置に新たなプレキャスト版10−3を設置する。新たなプレキャスト版10−3は端面から橋桁1の軸線方向に新設接合用鉄筋33が突き出したものである。新設接合用鉄筋33は残存させるプレキャスト版10−2から突き出している接合用鉄筋31と同様の形状を有するものであって、上面付近の直状部からループ状に湾曲した部分及び下面付近の直状部に連続するものである。この新設接合用鉄筋33が、残存させるプレキャスト版10−2から突き出している接合用鉄筋31と橋桁の軸線方向の位置が重なり合うように配置する。
残存させるプレキャスト版10−2と新たなプレキャスト版10−3とから突き出した接合用鉄筋31と新設接合用鉄筋33とのループ状となった部分が重なり合い、これらに囲まれた領域には、図3(c)に示すように双方の端面に沿った方向に連結部横方向鉄筋34を配置する。そして、これらの接合用鉄筋31、新設接合用鉄筋33及び連結部横方向鉄筋34を埋め込むように連結用のコンクリート28を打設する。打設したコンクリートが硬化することによって残存させるプレキャスト版10−2と取り替えた新たなプレキャスト版10−3は強固に接合され、コンクリート床版11の損傷が生じた部分が補修される。
このように補修されたコンクリート床版11では、新たなプレキャスト版10−3及び新たなプレキャスト版10−3と残存させるプレキャスト版10−2との接合部にはプレストレスが導入されておらず、橋桁1の軸線方向の断面力に対して鉄筋コンクリート部材として抵抗するものとなる。
このように補修した後の、プレストレスが導入されていない部分を補強するために、コンクリート床版11の下側に繊維補強シート27を貼り付ける。繊維補強シート27は、アラミド繊維、炭素繊維等の高強度の繊維をシート状に織ったものを用いることができ、エポキシ樹脂等の合成樹脂接着剤を用いて貼り付けることができる。この繊維補強シート27を貼り付ける範囲は、新たなプレキャスト版10−3及び残存させるプレキャスト版10−2との接合部を含むとともに、残存させるプレキャスト版10−2に配置されている緊張材13の緊張力が解放される範囲つまり緊張材13を切断した端から該緊張材13の定着に必要な長さの範囲に及ぶものとするのが望ましい。
図3に示すコンクリート床版の補修は、一つのプレキャスト版を取り替えるものであるが、連続する複数のプレキャスト版を取り替える補修は次のように行うことができる。
連続する複数のプレキャスト版を撤去した後、残存させるプレキャスト版10−4と新たなプレキャスト版10−5との間は図3に示す工程と同様にして接合することができる。そして、複数の新たなプレキャスト版10−5,10−5間の接合にも、図4(a)に示すように、それぞれの新たなプレキャスト版10−5から突き出したループ状に湾曲する新設接合用鉄筋35を用いることができる。これらの新設接合用鉄筋35,35は隣り合う新たなプレキャスト版10−5,10−5間で軸線方向の位置が重なるように配置する。そして、これらを埋め込むように双方のプレキャスト版間に連結用のコンクリート29を打設することによって複数の新たなプレキャスト版10−5が残存させるプレキャスト版10−4と連続するようにコンクリート床版を補修することができる。
また、複数のプレキャスト版を取り替えるときには、図4(b)に示すように、複数の新たなプレキャスト版10−6を貫通する新設緊張材15によって締め付け、複数の新たなプレキャスト版10−6間を接合することもできる。このとき接合する新たなプレキャスト版10−6,10−6の双方の端面は、ほぼ鉛直の面となっており、図2(b)に示す補修前のプレキャスト版10と同様に接着剤層又は無収縮モルタル層を介して接合することができる。また、新たなプレキャスト版10−6と残存させたプレキャスト版10−7との間は、図3に示す工程と同様に接合することができる。
なお、新たなプレキャスト版10−6には、新たなプレキャスト版を互いに接合する端面付近にループ状になった定着強化部を有する接合用鉄筋36を全長にわたって埋め込んでおくのが望ましい。これにより、補修後に再度補修が必要となったときに、任意のプレキャスト版を選択して取り替えが可能となる。
図4(b)に示すように補修されたコンクリート床版では、新たなプレキャスト版10−6にはプレストレスが導入されているが、残存させたプレキャスト版10−7と取り替えた新たなプレキャスト版10−6との接合部にはプレストレスが導入されていない。また、図3又は図4(a)に示すように補修されたコンクリート床版でも新たなプレキャスト版及び新たなプレキャスト版と残存させたプレキャスト版との接合部にはプレストレスが導入されていない。
新たなプレキャスト版及び新たなプレキャスト版と残存させたプレキャスト版との接合部にプレストレスを導入するためには、次のような手段を採用することができる
図5(a)に示すように、補修が必要となったプレキャスト版を撤去して取り替える新たなプレキャスト版10−8を配置する。そして、新たなプレキャスト版10−8に両端が定着される複数の新設緊張材16によって複数の新たなプレキャスト版10−8を接合するとともに、橋桁の軸線方向のプレストレスを導入する。その後、図5(b)に示すように残存させるプレキャスト版10−9と新たなプレキャスト版10−8との接合部に連結用のコンクリート17を打設して双方を接合する。連結用のコンクリート17が硬化した後、新設緊張材16の一部又は全部の緊張力を解放する。緊張力の解放は、例えば図5(b)に示すように新設緊張材16の中間部が露出するように設けられた切り欠き18内で新設緊張材16を切断することによって緊張力を解放することができる。
新設緊張材16の緊張力によってプレストレスが導入された新たなプレキャスト版10−8は、緊張力が解放されても残存させたプレキャスト版10−9によって伸びが拘束される。これにより、新たなプレキャスト版10−8と残存させたプレキャスト版10−9との間にプレストレスが導入される。
また、新たなプレキャスト版へのプレストレスの導入及び緊張力の解放は次のように行うこともできる。
図6(a)に示すように、配列された複数の新たなプレキャスト版10−10の両端には定着用突起部19を設けて置き、新たなプレキャスト版10−10を貫通する複数のダクトは定着用突起部19で両端が開口するものとする。これらのダクトに挿通した新設緊張材20を緊張して新たなプレキャスト版10−10にプレストレスを導入する。そして、新たなプレキャスト版10−10と残存させたプレキャスト版10−11との間に連結用のコンクリート21を打設して接合した後に、定着用突起部19で緊張材の定着を解放することができる。
新たなプレキャスト版及び新たなプレキャスト版と残存させるプレキャスト版との接合部にプレストレスを導入する方法としては、次のような手段を採用することもできる。
この方法では、図7(a)に示すように配列される複数の新たなプレキャスト版10−12の両端部に緊張材の定着用突起部22を設けておく。一端がこれらの定着用突起部22で開口するダクト23の他端は、配列された新たなプレキャスト版10−12の他端側の端面で開口するものとなっている。一方、残存させるプレキャスト版10−13の接合用鉄筋36が露出された端面には、新たなプレキャスト版10−12の端面でダクト23が開口する位置と対応して水平方向に緊張材のアンカー穴24を穿設しておく。
取り替えるプレキャスト版を撤去して新たなプレキャスト版10−12を配列した後、図7(b)に示すように新たなプレキャスト版10−12に設けられたダクト23内に新設緊張材25を挿入する。新設緊張材25aは、配列された新たなプレキャスト版10−12の一方の端部に設けられた定着用突起部22aの開口から挿入し、新たなプレキャスト版10−12を貫通して残存させるプレキャスト版10−13の端面に形成されたアンカー穴24aに先端部を挿入する。そして、アンカー穴24aにはエポキシ樹脂等の合成樹脂系の接着剤を充填し、新設緊張材25aを定着する。また、新たなプレキャスト版10−12の他端付近に設けられた定着用突起部22bの開口からも新設緊張材25bを挿入し、同様に新たなプレキャスト版10−12を貫通して反対側の残存させるプレキャスト版10−13のアンカー穴24bに挿入して定着する。
なお、新設緊張材25としてFRPロッドを用いると、アンカー穴24a,24bへの定着性能が良好となり、アンカー穴24a,24bの切削長を小さく抑えることができる。
その後、残存させるプレキャスト版10−13と新たなプレキャスト版10−12と間には、図7(b)に示すように双方から突き出している接合用鉄筋36と新設接合用鉄筋37を埋め込むように連結用のコンクリート26を打設して残存させるプレキャスト版10−13と新たなプレキャスト版10−12とを接合する。打設した連結用のコンクリート26が硬化した後、新設緊張材25a,25bに緊張力を導入し、定着用突起部22a,22bに定着する。これにより、残存させるプレキャスト版10−13と新たなプレキャスト版10−12との接合部及び新たなプレキャスト版10−12にプレストレスを導入することができる。
なお、この方法は図5及び図6に示すプレストレスの導入方法と併用することもできる。
図8は、本発明の他の実施形態であるコンクリート床版41の一部を示す断面図である。
このコンクリート床版41では、プレキャスト版40に埋め込まれている接合用鉄筋42の構成が異なるものとなっている。
この接合用鉄筋42は、プレキャスト版40の上面及び下面に沿った位置にそれぞれ配置されており、隣接するプレキャスト版との接合端面付近に断面拡大部42aを有するものとなっている。この断面拡大部42aが定着強化部として機能するものである。この断面拡大部42aは、例えば高温状態又は常温状態で接合用鉄筋42の本体部を機械的に変形させることによって形成することができる。また、鋼プレート等を溶接で接合することによって形成することもできる。溶接は、鋼プレート又は鉄筋を、鉄筋の軸線回りに高速で回転させ、高温状態にして圧接するもの等を採用することもできる。
このようなコンクリート床版も、図2に示すコンクリート床版と同様に一部のプレキャスト版を容易に取り替えることができる。そして、接合用鉄筋42が上記断面拡大部42aを有することによって、残存させるプレキャスト版と新たなプレキャスト版との間の接合部に打設された連結用のコンクリートからの引き抜き抵抗が増大する。これにより接合部のコンクリートへの埋め込み長が短くても接合用鉄筋が強固に定着され、残存させるプレキャスト版と新たなプレキャスト版とは強固に接合されるものとなる。
以上に説明したコンクリート床版及びコンクリート床版の補修方法は、いずれも本発明の実施の形態であって本発明はこれらの実施の形態で限定されるものではなく、本発明の範囲内で適宜に設計し、他の形態で実施することができる。
例えば、上記実施の形態の補修方法では、取り替えるプレキャスト版を撤去した後に形成するコンクリート版は、新たなプレキャスト版を用いるものであるが、現場で打設するコンクリートで同様の形状のコンクリート版を形成するものであってもよい。特に取り替えるプレキャスト版が少ないときに有効に適用することができる。このときには、残存するプレキャスト版から斫り出した接合用鉄筋と重なるように新設接合用鉄筋を配置した後、コンクリート版を形成するコンクリートを残存させるプレキャスト版と密接するように打設することができる。
また、本発明のコンクリート床版を支持する橋桁は、図1に示すような鋼のI形断面を有する桁を用いるものに限定されず、鋼トラスやコンクリート桁等を用いるものであってもよく、コンクリートのプレキャスト版が用いられている床版について適用することができる。
その他、プレキャスト版の鉄筋の配置、緊張材の配置、配置間隔等を適宜に設計することができる。
1:橋桁, 2:橋脚, 3:橋脚, 4:鋼桁, 5:横桁, 6:上フランジ, 7:下フランジ, 8:ウェブ, 9:ずれ止め部材,
10:プレキャスト版, 10−1:取り替えるために撤去するプレキャスト版, 10−2:残存させるプレキャスト版, 10−3:新たなプレキャスト版, 10−4:残存させるプレキャスト版, 10−5:新たなプレキャスト版, 10−6:新たなプレキャスト版, 10−7:残存させたプレキャスト版, 10−8:新たなプレキャスト版, 10−9:残存させたプレキャスト版, 10−10:新たなプレキャスト版, 10−11:残存させるプレキャスト版, 10−12:新たなプレキャスト版, 10−13:残存させるプレキャスト版,
11:コンクリート床版, 12:ダクト, 13:緊張材, 14:定着用突起, 15:新設緊張材, 16:新設緊張材, 17:連結用のコンクリート, 18:緊張材を露出させる切り欠き, 19:定着用突起, 20:新設緊張材, 21:連結用のコンクリート, 22:定着用突起, 23:ダクト, 24:アンカー穴, 25:新設緊張材, 26:連結用のコンクリート, 27:繊維補強シート, 28:連結用のコンクリート, 29:連結用のコンクリート,
31:接合用鉄筋, 31a:接合用鉄筋の直状部, 31b:接合用鉄筋の定着強化部, 32:横方向鉄筋, 33:新設接合用鉄筋, 34:連結部横方向鉄筋, 35:新設接合用鉄筋, 36:新設接合用鉄筋, 37:新設接合用鉄筋,
40:プレキャスト版, 41:コンクリート床版, 42:接合用鉄筋, 42a:接合用鉄筋の断面拡大部

Claims (7)

  1. 橋桁の上に複数のプレキャスト版を配列し、前記橋桁の軸線方向にプレストレスを導入して複数の前記プレキャスト版を接合したコンクリート床版であって、
    前記プレストレスを導入するための緊張材は、軸線方向に連続する複数の繊維を合成樹脂で結着したFRP部材であり、
    前記プレキャスト版のそれぞれには、他のコンクリート部材に一部を埋め込んで接合に用いることができる接合用鉄筋が、該接合用鉄筋の全長にわたって埋め込まれており、
    前記接合用鉄筋は、隣接するプレキャスト版との接合端付近に、他のコンクリート部材中に埋め込まれたときに該コンクリート部材への定着機能を強化する定着強化部を有するものであることを特徴とするコンクリート床版。
  2. 前記接合用鉄筋の定着強化部は、円弧状又は放物線状に湾曲するように加工され、湾曲する部分が前記プレキャスト版の上面及び下面に沿って前記橋桁の軸線方向に埋め込まれた直状部と連続するものであることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート床版。
  3. 前記定着強化部は、前記プレキャスト版の上面及び下面に沿ってそれぞれ前記橋桁の軸線方向に埋め込まれた接合用鉄筋の、隣接するプレキャスト版との接合端付近で断面が拡大されたものであることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート床版。
  4. 請求項1から請求項3までのいずれかに記載のコンクリート床版の補修方法であって、
    配列された前記プレキャスト版の内の取り替えが必要なプレキャスト版を撤去するとともに、撤去するプレキャスト版と残存させるプレキャスト版との境界部で前記FRP部材を切断する工程と、
    残存させる前記プレキャスト版の、撤去したプレキャスト版と対峙していた接合端部を斫り、前記接合用鉄筋の定着強化部を露出させる工程と、
    残存するプレキャスト版から露出した接合用鉄筋と、該接合用鉄筋と前記橋桁の軸線方向で重なり合うように配置された新設接合用鉄筋と、を埋め込むように未硬化のコンクリートを打設し、残存するプレキャスト版と連続する新たなコンクリート版を形成する工程と、を有することを特徴とするコンクリート床版の補修方法。
  5. 新たなコンクリート床版を形成する工程は、
    新たなプレキャスト版であって、残存させるプレキャスト版と接合される端面からは該残存させるプレキャスト版と接合するための新設接合用鉄筋が突き出した新たなプレキャスト版を、前記橋桁上の取り替えるプレキャスト版を撤去した位置に設置する工程と、
    残存させるプレキャスト版と新たなプレキャスト版との間で、残存するプレキャスト版から露出した接合用鉄筋と、新たなプレキャスト版から突き出した新設接合用鉄筋とが橋桁の軸線方向で重なり合う空間に、連結用のコンクリートを打設して硬化させる工程と、を有することを特徴とする請求項4に記載のコンクリート床版の補修方法。
  6. 新たなプレキャスト版には、残存させるプレキャスト版と新たなプレキャスト版との間に連結用のコンクリートを打設する前に、新たなプレキャスト版を貫通する新設緊張材の緊張力によって前記橋桁の軸線方向のプレストレスを導入しておき、
    残存させるプレキャスト版と新たなプレキャスト版との間の接合部にコンクリートを打設し、硬化した後に前記新設緊張材の一部又は全部の緊張力を解放することを特徴とする請求項5に記載のコンクリート床版の補修方法。
  7. 前記新設緊張材の緊張力の解放は、新たなプレキャスト版に前記新設緊張材の一部が露出する切り欠きをあらかじめ形成しておき、該切り欠き内で前記新設緊張材を切断することによって行うことを特徴とする請求項6に記載のコンクリート床版の補修方法。
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