以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。又、図では本発明の内容を理解しやすいように、大きさや形状を一部誇張している場合がある。
なお、以下では、車両用のフロントガラスを例にして説明するが、これには限定されず、本実施形態に係る合わせガラスは、車両用のフロントガラス以外、例えばサイドガラス、リアガラス等にも適用可能である。
又、以下の説明において、平面視とは合わせガラスの所定領域を合わせガラスの主表面の法線方向から視ることを指し、平面形状とは合わせガラスの所定領域を合わせガラスの主表面の法線方向から視た形状を指すものとする。
〈第1実施形態〉
図1は、第1実施形態に係る合わせガラスを例示する平面図であり、ガラス板12側を紙面手前側に向けて配置した様子を模式的に示している。図2は、第1実施形態に係る合わせガラスを例示する断面図であり、図1のA−A線に沿う断面を拡大して示している。
図3は、合わせガラスの分解図であり、図1及び図2に示す合わせガラス10をガラス板11、ガラス板12、及び電波透過部材14に分解した状態を示している。
図1〜図3では、説明の便宜上、実際の湾曲した形状を省略して合わせガラス10を図示している。
なお、以下の説明において、符号101を合わせガラス10の上縁部と称し、符号102を下縁部と称し、符号103を左縁部と称し、符号104を右縁部と称する。ここで、合わせガラス10を右ハンドル車の車両に取り付けた場合において、上縁部とは車両のルーフ側の縁部を指し、下縁部とはエンジンルーム側の縁部を指し、左縁部とは右ハンドル車の場合は助手席側の縁部を指し、右縁部とは右ハンドル車の場合は運転席側の縁部を指す。
図1〜図3に示すように、合わせガラス10は、車外側ガラス板であるガラス板11と、車内側ガラス板であるガラス板12と、中間膜13と、電波透過部材14と、接着層15と、遮光層16とを有する。又、合わせガラス10は、ガラス板11の車内側にガラス板12が位置する第1領域E1と、ガラス板11の車内側に電波透過部材14が位置する第2領域E2とを備える。
第1領域E1において、ガラス板12はガラス板11と対向しており、中間膜13を介してガラス板11に固着されている。中間膜13は、複数層の中間膜から形成されてもよい。ガラス板12の上縁部には、切り欠き121が設けられている。
第2領域E2において、電波透過部材14はガラス板11と対向しており、接着層15及び遮光層16を介してガラス板11に固着されている。電波透過部材14は、ガラス板12の切り欠き121に嵌め込まれている。なお、接着層15の代わりに中間膜13を用いてもよい。すなわち、ガラス板11の車内側の面11bの全体に中間膜13を設け、中間膜13を介して電波透過部材14をガラス板11に固着してもよい。
第2領域E2は、合わせガラス10の用途に応じて、60GHz〜100GHzの周波数の電波に対して高い電波透過性が要求される部分に形成される。例えば、合わせガラス10を自動車の窓ガラスとして用いる場合は、第2領域E2はミリ波レーダー等のミリ波を送受信する情報デバイスの周辺に形成される。そのため、図1のようにガラス板12を切り欠いて電波透過部材14を嵌め込む構成だけではなく、ガラス板12をくり貫いて電波透過部材14を嵌め込む構成としてもよい。なお、本明細書において電波透過性が高い/低い、等の評価については、特に条件を示さない場合には、60GHz〜100GHzの周波数に対する電波透過性を指す。
電波透過部材14の形状は任意であるが、厚さは、取り扱いの観点から0.3mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましく、1.0mm以上が更に好ましい。又、軽量性の観点からは2.3mm以下が好ましく、2.0mm以下がより好ましい。
電波透過部材14の面積は、400mm2以上であることが好ましく、1000mm2以上であることがより好ましく、4000mm2以上であることが更に好ましく、10000mm2以上であることが更に好ましく、40000mm2以上であることが特に好ましい。電波透過部材14の面積が大きいほど、電波透過部材14の車内側にミリ波レーダー等のミリ波を送受信する情報デバイスを配置しやすくなる。
なお、図1〜図3の例では、合わせガラス10は電波透過部材14を1つ備えるが、電波透過部材14の個数は、これには限定されず、合わせガラス10は電波透過部材14を複数備えてもよい。すなわち、合わせガラス10は複数の第2領域E2を備えてもよい。例えば、合わせガラス10の車内側に、ミリ波を送受信する情報デバイスを複数個配置する場合である。その場合、上述の面積は各電波透過部材14別の面積である。
電波透過部材14の材料は、所定のミリ波の透過性を高くできる材料であれば特に限定されないが、低誘電率で低誘電損失の材料が好ましく、特に誘電損失の低い材料からなる部材が好ましく用いられる。具体的には、電波透過部材14は、例えば、樹脂であって、アクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリビニルクロライド、フッ素系樹脂、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、変性ポリフェニレンエーテル、ウレタン樹脂、ポリスチレンから選択される少なくとも1種以上の材料を含有する。又、電波透過部材14は、例えば低誘電率で低誘電損失の無機ガラスであってもよく、無アルカリガラスが一例として挙げられる。
又、接着層15としては、例えば、アクリル系粘着剤やシリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤等が用いられる。なお、接着層15を別途設けず、中間膜13により電波透過部材14が固定されてもよい。例えば、図2において中間膜13が合わせガラス10の上辺まで存在してもよい。接着層15及び電波透過部材14の厚さは適宜設定される、例えば、接着層15の厚さは中間膜13の厚さと異なってもよく、又電波透過部材14の厚さはガラス板12の板厚と異なってもよい。
遮光層16は、例えば、ガラス板11の車内側の面11bに設けられている。合わせガラス10には、JIS R 3212(2015)で規定される試験領域Bが画定されており、遮光層16は、平面視において、試験領域Bよりも外側に配置される。
遮光層16は、例えば、合わせガラス10の上縁部101に沿って形成される遮光領域161と、下縁部102に沿って形成される遮光領域162と、左縁部103に沿って形成される遮光領域163と、右縁部104に沿って形成される遮光領域164と、平面視で遮光領域161から合わせガラス10の中央側に突出する突出部165とを含む。突出部165の平面形状は、例えば、等脚台形、矩形、扇型等である。
遮光層16は、電波透過部材14の車外側に設けられる。具体的には、遮光層16は、平面視において、少なくとも第2領域E2の全体と重なるように配置される。すなわち、遮光層16は、平面視において、少なくとも電波透過部材14の全体と重なるように配置される。図1〜図3の例では、遮光層16の遮光領域161と突出部165の一部分が、平面視において、第2領域E2の全体と重なるように配置されている。
遮光層16は、例えば、不透明な着色セラミック層である。着色セラミック層は、例えば、黒色であるが、可視光透過率や紫外線透過率が低ければよく、黒色には限定されない。遮光層16は、可視光透過率や紫外線透過率が低ければ、カーボンブラック等の層、着色中間膜や着色フィルム、着色中間膜と着色セラミック層の組み合わせ等であってもよい。着色フィルムは、赤外線反射フィルム等と一体化されていてもよい。
合わせガラス10に不透明な遮光層16が存在することで、合わせガラス10の周縁部を車体に保持するウレタン等の樹脂や、デバイスを係止するブラケットを合わせガラス10に貼り付ける接着部材等の紫外線による劣化を抑制できる。
又、少なくとも第2領域E2の全体と重なるように遮光層16を配置することにより、車外から合わせガラス10を通して照射される紫外線が電波透過部材14に達することを防止できる。電波透過部材14の材料は紫外線に弱い場合があるが、電波透過部材14に照射される紫外線が遮光層16に遮光されるため、紫外線による電波透過部材14の劣化を抑制できる。遮光層16は、可視光透過率が1%以下、かつ紫外線透過率が1%以下であることが好ましい。これにより、紫外線による電波透過部材14の劣化を効果的に抑制できる。なお、本願明細書において、可視光透過率はJIS 3106(1998)で規定される値であり、紫外線透過率はISO13837(2008)のConventionAで規定されたSolar UV transmittance Tuv(400)である。
なお、遮光層16に遮光される電波透過部材14は、合わせガラス10を車両に取り付けたときに、運転者の視界を阻害しないと同時に、情報の取得に有利なため、試験領域Aよりも上側に配置されることが好ましい。
遮光層16は、平面視において、電波透過部材14より1mm以上大きいことが好ましく、3mm以上大きいことがより好ましく、5mm以上大きいことが更に好ましい。言い換えれば、平面視において、遮光層16の外周端部(エッジ)と電波透過部材14の外周端部(エッジ)との距離L1は1mm以上であること、つまり遮光層16の外周端部が電波透過部材14の外周端部より1mm以上外側にあることが好ましく、3mm以上外側にあることがより好ましく、5mm以上外側にあることが更に好ましい。突出部において上記構成であることが、特に好ましい。
遮光層16を電波透過部材14より1mm以上大きくすることで、合わせガラス10を通して照射される紫外線が電波透過部材14に達することを確実に防止できる。遮光層16を電波透過部材14より大きくするに従って、合わせガラス10を通して照射される紫外線が電波透過部材14に達することを一層確実に防止できる。
但し、電波透過部材14において、合わせガラス10の上縁部101側が、合わせガラス10を車両に取り付けたときに車両に隠れて紫外線が当たり難い場合は、電波透過部材14において、合わせガラス10の上縁部101側は、遮光層16のエッジと電波透過部材14のエッジとの距離L1が0mmであってもよい。
遮光層16は、所定のミリ波の透過性が高いことが好ましい。具体的には、第2領域E2に、ガラス板11の車外側の面11aに対して67.5°の入射角で入射する周波数F(GHz)の電波の透過率T(F)が、60GHz≦F≦100GHzの範囲で下記式(1)を満足することが好ましい。
T(F)>−0.0061×F+0.9384 ・・・(1)
式(1)を満足することで、遮光層16が形成されている第2領域E2でも合わせガラス10は所定のミリ波の透過性が十分高いため、電波透過部材14の車内側にミリ波レーダー等のミリ波を送受信する情報デバイスを配置できる。なお、式(1)の技術的意義については後述する。
遮光層16は、例えば着色セラミック層であれば、黒色顔料を含有する溶融性ガラスフリットを含むセラミックカラーペーストをガラス板上にスクリーン印刷等により塗布し、焼成することで形成できるが、これには限定されない。遮光層16は、例えば、黒色又は濃色顔料を含有する有機インクをガラス板上にスクリーン印刷等により塗布し、乾燥させて形成してもよい。遮光層16は、紫外線透過率が低い点で、着色セラミック層が好ましい。
図4は、第1実施形態に係る合わせガラスが車両の前方に形成された開口部に装着された状態を示す模式図である。図4に示すように、自動車100の前方に形成された開口部110に合わせガラス10が装着されている。合わせガラス10には、車両の走行安全性を確保するためにミリ波を送受信する情報デバイスが収納されたハウジング120が、車両内部側の表面に取り付けられている。ここでは、ミリ波を送受信する情報デバイスとしてミリ波レーダー201を例示する。
図5は、図4におけるS部分の拡大図であり、合わせガラス10にハウジング120が取り付けられている部分を示す斜視図である。ハウジング120には、情報デバイスとしてミリ波レーダー201が格納されている。図5に示すように、合わせガラス10では、電波透過性に優れる領域である第2領域E2がミリ波レーダー201の周辺に位置するようにして用いられる。ハウジング120は、通常バックミラー150よりも車外側に取り付けられるが、他の部分に取り付けられてもよい。
図6は、図5のB−B線に沿う断面図である。ミリ波レーダー201の通信に用いられる電波300のガラス板11の車外側の面11aに対する入射角θは、67.5°で評価できる。なお、ガラス板11の車外側の面11aをガラス板11の主表面と称する場合がある。
前述のように、合わせガラス10では、平面視において電波透過部材14を備える第2領域E2に、ガラス板11の車外側の面11aに対して入射角θ=67.5°で入射する周波数F(GHz)の電波の透過率T(F)が、60GHz≦F≦100GHzの範囲で式(1)を満足する。
ミリ波レーダー201を用いて外部と通信を行う際に電波300がガラス板11の車外側の面11aに対して入射する角度は、合わせガラス10の構造や通信相手の位置、ミリ波レーダー201の電波の進行方向の仰角等によって異なる。しかし、本実施形態では、一般的な自動車について、水平面に対するフロントガラスの傾斜角度を鑑みたとき、ミリ波レーダー201がガラス板11の車外側の面11aに入射する入射角として、67.5°程度を一つの目安とする。
つまり、本発明者らは、67.5°の入射角でガラス板11の車外側の面11aに入射するミリ波の電波透過率T(F)が自動車の窓ガラスのミリ波透過性の指標として重要であり、67.5°近傍の入射角についても、同様にミリ波透過性の評価をする上で有用であることを見出した。
本発明者らが上記知見をもとに更に検討を重ねた結果、上記の式(1)を満足するような合わせガラスを、特に自動車の窓ガラスに用いた場合において、数十GHz〜100GHzの周波数帯域の電波に対しても高い透過性を有することを見出した。
ここで、ガラス板11、ガラス板12、及び中間膜13について詳述する。
〔ガラス板〕
本実施形態では、合わせガラス10の外側に位置するガラス板11は無機ガラスである。合わせガラス10の内側に位置するガラス板12は、無機ガラスが好ましい。
無機ガラスとしては、例えば、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス等が特に制限なく用いられる。ガラス板11は、耐傷付き性の観点から無機ガラスを用いるが、成形性の点から無機ガラスの中でもソーダライムガラスであることが好ましい。ガラス板12がソーダライムガラスであってもよい。ガラス板11及び12がソーダライムガラスである場合、クリアガラス、鉄成分を所定量以上含むグリーンガラス及びUVカットグリーンガラスが好適に使用できる。
無機ガラスは、未強化ガラス、強化ガラスの何れでもよい。未強化ガラスは、溶融ガラスを板状に成形し、徐冷したものである。強化ガラスは、未強化ガラスの表面に圧縮応力層を形成したものである。
強化ガラスは、例えば風冷強化ガラス等の物理強化ガラス、化学強化ガラスの何れでもよい。物理強化ガラスである場合は、例えば、曲げ成形において均一に加熱したガラス板を軟化点付近の温度から急冷させる等、徐冷以外の操作により、ガラス表面とガラス内部との温度差によってガラス表面に圧縮応力層を生じさせることで、ガラス表面を強化できる。
化学強化ガラスである場合は、例えば、曲げ成形の後、イオン交換法等によってガラス表面に圧縮応力を生じさせることでガラス表面を強化できる。又、紫外線又は赤外線を吸収するガラスを用いてもよく、更に、透明であることが好ましいが、透明性を損なわない程度に着色されたガラス板を用いてもよい。
ガラス板11及び12の形状は、特に矩形状に限定されるものではなく、種々の形状及び曲率に加工された形状であってもよい。ガラス板11及び12の曲げ成形には、重力成形、プレス成形、ローラー成形等が用いられる。ガラス板11及び12の成形法についても特に限定されないが、例えば、無機ガラスの場合はフロート法等により成形されたガラス板が好ましい。
ガラス板11の板厚は、1.1mm以上3.0mm以下であることが好ましい。ガラス板11の板厚が1.1mm以上であると、耐飛び石性能等の強度が十分であり、3mm以下であると、合わせガラス10の質量が大きくなり過ぎず、車両の燃費の点で好ましい。ガラス板11の板厚は、最薄部が1.8mm以上2.8mm以下がより好ましく、1.8mm以上2.6mm以下が更に好ましく、1.8mm以上2.2mm以下が更に好ましく、1.8mm以上2.0mm以下が更に好ましい。ガラス板11の板厚が薄いほど、所定のミリ波の透過性を高くできる。
ガラス板12の板厚は、0.3mm以上2.3mm以下であることが好ましい。ガラス板12の板厚が0.3mm以上であることによりハンドリング性がよく、2.3mm以下であることによりの質量が大きくなり過ぎない。
又、ガラス板11及び12は、平板形状であっても湾曲形状であってもよいが、ガラス板11及び12が湾曲形状であって、かつガラス板12の板厚が適切でない場合、ガラス板11及び12として特に曲がりが深いガラスを2枚成形すると、2枚の形状にミスマッチが生じ、圧着後の残留応力等のガラス品質に大きく影響する。
しかし、ガラス板12の板厚を0.3mm以上2.3mm以下とすることで、残留応力等のガラス品質を維持できる。ガラス板12の板厚を0.3mm以上2.3mm以下とすることは、曲がりの深いガラスにおけるガラス品質の維持に特に有効である。ガラス板12の板厚は、0.5mm以上2.1mm以下がより好ましく、0.7mm以上1.9mm以下が更に好ましい。この範囲であれば、上記の効果が更に顕著となる。
合わせガラス10が例えばヘッドアップディスプレイに用いられる場合、ガラス板11及び/又は12は一定の板厚ではなく、必要に応じて場所毎に板厚が変わっても良い。例えば、合わせガラス10がフロントガラスである場合、ガラス板11及び12の何れか一方、又は両方は、フロントガラスを車両に取り付けた状態でフロントガラスの下辺から上辺に向かうにつれて板厚が厚くなる断面楔形状であってもよい。この場合、中間膜13の膜厚が一定であれば、ガラス板11とガラス板12の合計の楔角は、例えば、0mradより大きく1.0mrad以下の範囲で変化する。
ガラス板11及び/又は12の外側に撥水、紫外線や赤外線カットの機能を有する被膜や、低反射特性、低放射特性を有する被膜を設けてもよい。又、ガラス板11及び/又は12の中間膜13と接する側に、紫外線や赤外線カット、低放射特性、可視光吸収、着色等の被膜を設けてもよい。
ガラス板11及び12が湾曲形状の無機ガラスである場合、ガラス板11及び12は、フロート法による成形の後、中間膜13による接着前に、曲げ成形される。曲げ成形は、ガラスを加熱により軟化させて行われる。曲げ成形時のガラスの加熱温度は、大凡550℃〜700℃である。又、ガラス板12が例えば1mm以下の板厚の場合、湾曲したガラス板11に沿って平板状のガラス板12を押し曲げて貼り付け、合わせガラス10を製造してもよい。
〔中間膜〕
中間膜13としては熱可塑性樹脂が多く用いられ、例えば、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂、可塑化ポリ塩化ビニル系樹脂、飽和ポリエステル系樹脂、可塑化飽和ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、可塑化ポリウレタン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレン−エチルアクリレート共重合体系樹脂、シクロオレフィンポリマー樹脂、アイオノマー樹脂等の従来からこの種の用途に用いられている熱可塑性樹脂が挙げられる。又、特許第6065221号に記載されている変性ブロック共重合体水素化物を含有する樹脂組成物も好適に使用できる。
これらの中でも、透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性、及び遮音性等の諸性能のバランスに優れることから、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂が好適に用いられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。上記可塑化ポリビニルアセタール系樹脂における「可塑化」とは、可塑剤の添加により可塑化されていることを意味する。その他の可塑化樹脂についても同様である。
但し、中間膜13にフィルム等を封入する場合、封入する物の種類によっては特定の可塑剤により劣化することがあり、その場合には、その可塑剤を実質的に含有していない樹脂を用いることが好ましい。つまり、中間膜13が可塑剤を含まないことが好ましい場合がある。可塑剤を含有していない樹脂としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂等が挙げられる。
上記ポリビニルアセタール系樹脂としては、ポリビニルアルコール(以下、必要に応じて「PVA」と言うこともある)とホルムアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルホルマール樹脂、PVAとアセトアルデヒドとを反応させて得られる狭義のポリビニルアセタール系樹脂、PVAとn−ブチルアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルブチラール樹脂(以下、必要に応じて「PVB」と言うこともある)等が挙げられ、特に、透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性、及び遮音性等の諸性能のバランスに優れることから、PVBが好適なものとして挙げられる。なお、これらのポリビニルアセタール系樹脂は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
但し、中間膜13を形成する材料は、熱可塑性樹脂には限定されない。又、中間膜13は、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、発光剤等の機能性粒子を含んでもよい。又、中間膜13は、シェードバンドと呼ばれる着色部を有してもよい。
中間膜13の膜厚は、最薄部で0.5mm以上であることが好ましい。中間膜13の最薄部の膜厚が0.5mm以上であると合わせガラスとして必要な耐衝撃性が十分となる。又、中間膜13の膜厚は、最厚部で3mm以下であることが好ましい。中間膜13の膜厚の最大値が3mm以下であると、合わせガラスの質量が大きくなり過ぎない。中間膜13の膜厚の最大値は2.8mm以下がより好ましく、2.6mm以下が更に好ましい。
合わせガラス10が例えばヘッドアップディスプレイに用いられる場合、中間膜13は一定の膜厚ではなく、必要に応じて場所毎に膜厚が変わっても良い。例えば、合わせガラス10がフロントガラスである場合、中間膜13は、フロントガラスを車両に取り付けた状態でフロントガラスの下辺から上辺に向かうにつれて膜厚が厚くなる断面楔形状であってもよい。この場合、ガラス板11及び12の板厚が一定であれば、中間膜13の楔角は、例えば、0mradより大きく1.0mrad以下の範囲で変化する。
なお、中間膜13は、複数層の中間膜から形成してもよい。例えば、中間膜13を3層の中間膜から構成し、真ん中の層のショア硬度を可塑剤の調整等により両外側の層のショア硬度よりも低くすることにより、合わせガラスの遮音性を向上できる。この場合、両外側の層のショア硬度は同じでもよいし、異なってもよい。
又、中間膜13を複数層の中間膜から形成する場合、全ての層を同一の材料で形成することが望ましいが、一部の層を異なる材料で形成してもよい。但し、ガラス板11及び12との接着性、或いは合わせガラス10の中に入れ込む機能材料等の観点から、中間膜13の膜厚の50%以上は上記の材料を使うことが望ましい。
中間膜13を作製するには、例えば、中間膜となる上記の樹脂材料を適宜選択し、押出機を用い、加熱溶融状態で押し出し成形する。押出機の押出速度等の押出条件は均一となるように設定する。その後、押し出し成形された樹脂膜を、合わせガラスのデザインに合わせて、上辺及び下辺に曲率を持たせるために、例えば必要に応じ伸展することで、中間膜13が完成する。
〔合わせガラス〕
合わせガラス10の総厚は、2.8mm以上10mm以下であることが好ましい。合わせガラス10の総厚が2.8mm以上であれば、十分な剛性を確保できる。又、合わせガラス10の総厚が10mm以下であれば、十分な透過率が得られると共にヘイズを低減できる。
合わせガラス10の少なくとも1辺において、ガラス板11とガラス板12の板ずれが1.5mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましい。ここで、ガラス板11とガラス板12の板ずれとは、すなわち、平面視におけるガラス板11の端部とガラス板12の端部のずれ量である。
合わせガラス10の少なくとも1辺において、ガラス板11とガラス板12の板ずれが1.5mm以下であると、外観を損なわない点で好適である。合わせガラス10の少なくとも1辺において、ガラス板11とガラス板12の板ずれが1.0mm以下であると、外観を損なわない点で更に好適である。
合わせガラス10を製造するには、ガラス板11と、切り欠き121を備えたガラス板12と、中間膜13を準備する。そして、ガラス板11とガラス板12との間に中間膜13を挟んで積層体とする。そして、例えば、この積層体をゴム袋の中に入れ、−65〜−100kPaの真空中で温度約70〜110℃で接着する。加熱条件、温度条件、及び積層方法は適宜選択される。
次に、ガラス板12の切り欠き121内に、接着層15を介して、電波透過部材14を嵌め込む。そして、例えば100〜150℃、圧力0.6〜1.3MPaの条件で加熱加圧する圧着処理を行うことで、電波透過部材14を備えた合わせガラス10を得られる。
ガラス板11とガラス板12との間に、本願の効果を損なわない範囲で、中間膜13の他に、電熱線、赤外線反射、発光、発電、調光、タッチパネル、可視光反射、散乱、加飾、吸収等の機能を持つフィルムやデバイスを有してもよい。又、合わせガラス10の表面に防曇、撥水、遮熱、低反射等の機能を有する膜を有していてもよい。又、ガラス板11の車外側面やガラス板12の車内側面に遮熱、発熱等の機能を有する膜を有していてもよい。
〈第2実施形態〉
第2実施形態では、遮光層に可視光透過領域を設ける例を示す。なお、第2実施形態において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
図7は、第2実施形態に係る合わせガラスを例示する平面図であり、ガラス板12側を紙面手前側に向けて配置した様子を模式的に示している。図8は、第2実施形態に係る合わせガラスを例示する断面図であり、図7のC−C線に沿う断面を拡大して示している。
図7及び図8では、説明の便宜上、実際の湾曲した形状を省略して合わせガラス10Aを図示している。
図7及び図8を参照すると、合わせガラス10Aは、遮光層16に可視光透過領域となる開口部18を備える点が、合わせガラス10(図1〜図3等参照)と相違する。
開口部18は、平面視において、第2領域E2の外側の領域に設けられる。すなわち、電波透過部材14は透視歪やヘイズがガラスより悪いため、電波透過部材14の車内側にカメラや照度センサ等の可視光を取得する情報デバイスが配置されることは好ましくない。そのため、本実施形態では、開口部18を電波透過部材14が配置される第2領域E2とは平面視で重複しない位置に配置している。
図7及び図8の例では、開口部18は、平面視において、第2領域E2の下側、すなわち下縁部102側に設けられているが、開口部18と第2領域E2の位置関係は、これには限定されない。開口部18は、合わせガラス10Aを車両に取り付けたときに、運転者の視界を阻害しないと同時に、情報の取得に有利なため、試験領域Aよりも上側に配置されることが好ましい。
開口部18の車内側には、カメラや照度センサ等の可視光を取得する情報デバイスが配置される。そのため、合わせガラス10Aにおいて、開口部18の可視光透過率は50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることが更に好ましい。合わせガラス10Aにおいて、開口部18の可視光透過率が50%以上であれば、カメラや照度センサ等の可視光を取得する情報デバイスの情報取得性能を向上できる。
なお、カメラや照度センサ等の可視光を取得する情報デバイスは、ミリ波レーダー等のミリ波を送受信する情報デバイスと共に、図5に示すハウジング120に格納されてもよい。
平面視において、開口部18と電波透過部材14との距離L2は、1mm以上であることが好ましく、3mm以上であることがより好ましく、5mm以上であることが更に好ましい。距離L2が1mm以上、つまり開口部18と電波透過部材14とが距離L2以上離間していれば、開口部18を通して照射される紫外線が漏れて電波透過部材14に達することを防止できる。距離L2を3mm以上、5mm以上と大きくするに従って、開口部18を通して照射される紫外線が漏れて電波透過部材14に達するおそれを一層低減可能となり、紫外線による電波透過部材14の劣化を一層抑制できる。又、合わせガラス10が湾曲している場合、ガラス板12の切り欠き部ではガラス板11とガラス板12との曲げ形状に差が生じ透視歪が発生しやすい。そのため、距離L2を上記範囲にすることが好ましい。
平面視において、開口部18のエッジと遮光層16のエッジとの距離L3は、1mm以上であることが好ましく、3mm以上であることがより好ましく、5mm以上であることが更に好ましい。距離L3が1mm以上であれば、カメラや照度センサ等の情報デバイスを係止するブラケットの取付が容易となる。
距離L3を3mm以上、5mm以上と大きくするに従って、開口部18の透視歪を更に小さくできる。開口部18の透視歪を小さくすることで、カメラや照度センサ等の可視光を取得する情報デバイスの情報取得性能を向上できる。又、L3を3mm以上、5mm以上と大きくするに従って、カメラや照度センサ等の情報デバイスを係止するブラケットの取付が一層容易となる。
なお、図7に示す開口部18のように、開口部の周縁部の全部が遮光層16に囲まれている場合には、開口部18の周縁部の全部について、距離L3が適用される。つまり、開口部18の周縁部の全部が遮光層16に囲まれている場合には、開口部18の周縁部の全部について、距離L3が1mm以上であることが好ましく、3mm以上であることがより好ましく、5mm以上であることが更に好ましい。
又、後述の図12に示す開口部18A及び18Bのように、開口部の周縁部の一部が遮光層16に囲まれており、周縁部の他部が遮光層16に囲まれていない場合には、遮光層16に囲まれている開口部の周縁部の一部について、距離L3が適用される。
開口部18の平面形状は、例えば、矩形、等脚台形、扇型等である。開口部18の面積は、例えば、1500mm2以上である。開口部18の面積を1500mm2以上とすることにより、カメラ等の情報デバイスの情報取得に必要な画角を確保できる。開口部18の面積を、3000mm2以上、4500mm2以上、6000mm2以上、9000mm2以上としてもよい。
なお、図7及び図8の例では、合わせガラス10Aは開口部18を1つ備えるが、開口部18の個数は、これには限定されず、合わせガラス10Aは開口部18を複数備えてもよい。例えば、可視光カメラ対応の開口部、赤外線センサ対応の開口部等を別個に有する場合である。その場合、上述の面積は各開口部別の面積である。
このように、合わせガラス10Aが電波透過部材14と開口部18の両方を備える場合、開口部18と電波透過部材14との距離L2を1mm以上とすることが好ましい。これにより、開口部18を通して照射される紫外線が漏れて電波透過部材14に達するおそれを低減可能となり、紫外線による電波透過部材14の劣化を抑制できる。
〈第2実施形態の変形例〉
第2実施形態の変形例では、電波透過部材と開口部との位置関係等のバリエーションの例を示す。なお、第2実施形態の変形例において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
[変形例1]
図7及び図8では、合わせガラス10Aが車両に取り付けられた状態での平面視で、電波透過部材14と開口部18とが上下方向に並ぶ例を示したが、これには限定されない。
図9は、第2実施形態の変形例1について説明する図であり、図7と同一方向から視た図である。
電波透過部材と開口部との位置関係のバリエーションは様々であり、例えば、図9(a)に示すように、合わせガラス10Aが車両に取り付けられた状態での平面視で、電波透過部材14と開口部18とが左右方向に並ぶように配置してもよい。又、図9(b)に示すように、合わせガラス10Aが車両に取り付けられた状態での平面視で、電波透過部材14と開口部18とが斜め方向に並ぶように配置してもよい。
又、前述のように、電波透過部材14と開口部18の少なくとも一方が2個以上設けられてもよい。例えば、図9(c)に示すように、合わせガラス10Aが車両に取り付けられた状態での平面視で、1つの電波透過部材14と2つの開口部18とが左右方向に並ぶように配置してもよい。又、図9(d)に示すように、合わせガラス10Aが車両に取り付けられた状態での平面視で、2つの電波透過部材14と1つの開口部18とが左右方向に並ぶように配置してもよい。もちろん、合わせガラス10Aに、電波透過部材14と開口部18が2個ずつ設けられてもよいし、何れか一方又は両方が3個以上設けられてもよい。
[変形例2]
図7及び図8では、電波透過部材14がガラス板12の切り欠きに嵌め込まれている例を示したが、これには限定されない。
図10は、第2実施形態の変形例2について説明する図であり、図7と同一方向から視た図である。
図10の例では、ガラス板12の上縁部近傍に電波透過部材14と同形状のくり抜き部が設けられ、電波透過部材14は、ガラス板12のくり抜き部に嵌め込まれている。このように、電波透過部材14は、必ずしも、合わせガラスの外側の辺に接するように配置されなくてもよい。
[変形例3]
図11は、第2実施形態の変形例3について説明する図であり、図7と同一方向から視た図である。
図11の例では、平面視において、開口部18と重なり、電波透過部材14と重ならない位置に発熱手段168を有する。発熱手段168は、開口部18からはみ出してもよい。
発熱手段168は、特に限定されないが、例えば、基材上に、金、銀、銅、スズドープ酸化インジウム等の導電性薄膜をスパッタ法や真空蒸着法やイオンプレーティング法等により形成したものである。発熱手段168は、基材上に、波線状や折れ線状に形成された複数の電熱線を所定の間隔で並置したものでもよい。或いは、波線状や折れ線状に形成された複数の電熱線に代えて、メッシュ状の金属を用いてもよい。発熱手段168は、合わせガラス10の車内面に貼り付けてもよく、ガラス板11とガラス板12の間に配置してもよい。発熱手段は、銀を主成分とする導電性線条であってもよい。
このように、開口部18と重なる位置に発熱手段168を配置することで、凍結や曇等によりデバイスのセンシング性能が阻害されにくい合わせガラスを実現できる。すなわち、バッテリー等の電源から発熱手段168に電流が供給されると、発熱手段168が発熱して、開口部18内の合わせガラス10Aを温め、ガラス板11及び12の表面の凍結や曇を取り除く。これにより、カメラ等の情報デバイスによる良好なセンシングを確保できる。
[変形例4]
図7等の例では、平面視で開口部18の全体が遮光層16に囲まれている形態としたが、これには限定されない。
図12は、第2実施形態の変形例4について説明する図であり、図7と同一方向から視た図である。図12の例では、平面視で、開口部18は遮光層16に囲まれていない部分を有する。
例えば、図12(a)に示す開口部18Aや図12(b)に示す開口部18Bのように、開口部の周縁部の一部が遮光層16に囲まれており、周縁部の他部が遮光層16に囲まれていない形態としてもよい。例えば、開口部の周縁部全体を囲む遮光層16にスリットを設け、遮光層16が不連続な領域を設けてもよい。
なお、開口部の周縁部に遮光層16が不連続な領域が存在する場合、カメラ等の画角に対応した合わせガラス10Aの領域を可視光透過領域とする。
〈実施例〉
以下、実施例について説明するが、本発明は、これらの例に何ら限定されるものではない。なお、説明には、適宜、図13〜図16を参照する。
[例1〜例3]
例1〜例3は、遮光層の有無や遮光層の種類による電波透過部材の劣化の程度を確認する試験である。
(例1)
合わせガラスとした際に外板(車外側ガラス板)となるガラス板511と、内板(車内側ガラス板)となるガラス板512を準備した(AGC社製 通称VFL)。ガラス板511及び512の寸法は、何れも、縦300mm×横300mm×板厚2mmとした。そして、ガラス板511の車内側面の全面に遮光層516として黒色の着色セラミック層を形成した。着色セラミック層は黒色セラミックペーストをガラス板511の表面にスクリーン印刷し、120℃で15分間乾燥し、その後600℃で5分間焼成して形成した。又、ガラス板512に、開口部519を形成した。着色セラミック層の紫外線透過率は0.1%、可視光透過率は0.2%であった。
なお、開口部519の平面形状は100mm×100mmの矩形とした。又、ガラス板512のエッジから開口部519のエッジまでの距離L4を50mmとした。
次に、中間膜513(積水化学工業社製 PVB、厚み0.76mm)を準備した。そして、ガラス板511とガラス板512との間に中間膜513を挟んで積層体を作製し、積層体をゴム袋の中に入れ、−65〜−100kPaの真空中で温度約70〜110℃で接着した。
次に、ガラス板512の開口部519内に、厚さ0.5mmのシリコーン系粘着剤からなる接着層515を介して、厚さ2mmのポリカーボネート製の電波透過部材514を嵌め込んだ。そして、温度100〜150℃、圧力0.6〜1.3MPaの条件で加熱及び加圧し、評価用合わせガラス500Aを作製した。
評価用合わせガラス500Aは、図13及び図14において、開口部518を有しない構造である。なお、図13は、評価用合わせガラスの平面図であり、ガラス板512側を紙面手前側に向けて配置した様子を模式的に示している。図14は、評価用合わせガラスの断面図であり、図13のD−D線に沿う断面を示している。
(例2)
遮光層516として着色セラミック層に代えてカーボンブラック(オリエント化学工業社製)をコーティングした以外は例1と同様にして、評価用合わせガラス500Bを作製した。つまり、評価用合わせガラス500Bでは、ガラス板511の車内側面の全面にカーボンブラックからなる遮光層516が設けられている。カーボンブラック層の紫外線透過率は2.0%、可視光透過率は2.0%であった。
(例3)
ガラス板511の車内側面に遮光層516を全く設けなかった以外は例1と同様にして、評価用合わせガラス500Cを作製した。
(評価1)
評価用合わせガラス500A、B、Cの各々について、JIS R 3212(2015)の規定に基づいて、紫外線照射試験を行った。具体的には、評価用合わせガラス500A、B、Cを45±5℃の装置内に入れ、各評価用合わせガラスのガラス板511の車外面から230mm離れた所から750±50Wの紫外線を照射し、電波透過部材514に幅0.5mm以上のクラックが入り始める照射時間Hを測定した。評価基準は、照射時間Hが2000hr以上を〇(合格)、2000hr未満を×(不合格)とた。結果を表1に示す。
なお、電波透過部材514にクラックが入ると、落球試験の安全性が確保できなくなる。落球試験とは、所定高さから合わせガラスに鉄球を落下させ、合わせガラスの破損を確認する試験であり、JIS R 3212(2015)の規定に基づいて測定した。
表1に示すように、遮光層516として着色セラミック層を用いた場合には、電波透過部材514にクラックが入り始める照射時間Hが3000hrとなり、合格基準(照射時間H≧2000hr)を十分に満たした。又、遮光層516としてカーボンブラックを用いた場合には、電波透過部材514にクラックが入り始める照射時間Hが2100hrとなり、合格基準(照射時間H≧2000hr)を満たした。一方、遮光層516を全く設けない場合には、合格基準(照射時間H≧2000hr)を満たさなかった。
すなわち、遮光層516として着色セラミック層やカーボンブラックを用いることで、紫外線による電波透過部材514の劣化を抑制できることが確認された。特に、遮光層516として紫外線透過率がカーボンブラックよりも小さい着色セラミック層を用いることで、紫外線による電波透過部材514の劣化を抑制できる効果が大きくなることが確認された。
なお、紫外線照射試験後の評価用合わせガラス500A、Bについて、79GHzでの電波透過損失を確認したところ3dB以下であり、実用上問題ないことが確認された。
[例4〜例8]
例4〜例8は、遮光層に開口部を設け、遮光層の開口部とガラス板の開口部との距離を変えたときの電波透過部材の劣化の程度を確認する試験である。
(例4)
合わせガラスとした際に外板(車外側ガラス板)となるガラス板511と、内板(車内側ガラス板)となるガラス板512を準備した(AGC社製 通称VFL)。ガラス板511及び512の寸法は、何れも、縦300mm×横300mm×板厚2mmとした。そして、ガラス板511の車内側面の、開口部518を除く全面に、遮光層516として黒色の着色セラミック層を形成した。ガラス板511及び512には、縦方向及び横方向に曲率半径3000mmの曲率を有するように曲げ成形が施された。なお、着色セラミック層の可視光透過率と紫外線透過率は例1と同じであった。又、ガラス板512に、開口部519を形成した。
なお、開口部518の平面形状は50mm×50mmの矩形とし、開口部519の平面形状は100mm×100mmの矩形とした。又、ガラス板512のエッジから開口部519のエッジまでの距離L4を50mmとした。又、開口部518と開口部519の対向する辺間の距離L5を1mmとした。
次に、中間膜513(積水化学工業社製 PVB、厚み0.76mm)を準備した。そして、ガラス板511とガラス板512との間に中間膜513を挟んで積層体を作製し、積層体をゴム袋の中に入れ、−65〜−100kPaの真空中で温度約70〜110℃で接着した。
次に、ガラス板512の開口部519内に、厚さ0.5mmのシリコーン系粘着剤からなる接着層515を介して、厚さ2mmのポリカーボネート製の電波透過部材514を嵌め込んだ。そして、温度100〜150℃、圧力0.6〜1.3MPaの条件で加熱及び加圧し、図13及び図14に示す評価用合わせガラス500Dを作製した。なお、評価用合わせガラス500Dの開口部518内の可視光透過率は80%であった。又、評価用合わせガラス500Dの開口部519に対応する部分に、ガラス板511側から79GHzの電波を入射角65.5°で入射した際の電波の透過率T(F)は60%であった。
(例5)
距離L5を5mmとした以外は例4と同様にして、評価用合わせガラス500Eを作製した。
(例6)
距離L5を10mmとした以外は例4と同様にして、評価用合わせガラス500Fを作製した。
(例7)
距離L5を0mmとした以外は例4と同様にして、評価用合わせガラス500Gを作製した。
(例8)
距離L5を0.5mmとした以外は例4と同様にして、評価用合わせガラス500Hを作製した。
(評価1)
評価用合わせガラス500D、E、F、G、Hの各々について、例1〜例3と同様の紫外線照射試験を行った。評価基準は、照射時間Hが2000hr以上を〇(合格)、2000hr未満を×(不合格)とした。結果を表2に示す。
(評価2)
評価用合わせガラス500D、E、F、G、Hの各々について、透視歪の大小を目視で確認した。詳細は以下の通りである。
図15に示すように、評価用合わせガラス500Dを車両に取り付けるときと同様の角度に傾斜させて配置するとともに、その車外側にゼブラパターン510を配置した。ゼブラパターン510は、白地510aに複数の黒線510bが設けられたものである。黒線510bは、ゼブラパターン510の下辺に対して45度の角度となるように、かつ互いに平行となるように設けた。
ゼブラパターン510を評価用合わせガラス500Dの車内側から見た場合に開口部518と遮光層516との境界付近において、ゼブラパターン510に歪みが発生した度合いにより、透視歪を評価した。
図16(a)及び図16(b)は、図13の評価用合わせガラス500Dにおいて長円で囲んだ、開口部518と遮光層516の境界F付近において、ゼブラパターン510を評価用合わせガラス500Dの車内側から見た例を拡大して示したものである。
図16(a)は、透視歪が全くない例であり、図16(b)は、透視歪が発生した例である。図16(b)では、開口部518と遮光層516との境界F付近でゼブラパターン510の黒線510bが湾曲するように歪んで見える。このため、黒線510bの右辺をそのまま延長した延長線Gが境界Fに交わる位置と、実際に黒線510bが境界Fに交わる位置との距離を歪み(W)として以下の基準で評価用合わせガラス500Dの透視歪を評価した。Wが5mm以下が合格(〇)、Wが5mmより大きいと不合格(×)。
次に、評価用合わせガラス500E、F、G、Hについても、評価用合わせガラス500Dと同様にして、順番に透視歪を評価した。結果を表2に示す。
表2に示すように、開口部518と開口部519との距離L
5が1mm以上である場合には、電波透過部材514にクラックが入り始める照射時間Hが2500hr以上となり、合格基準(照射時間H≧2000hr)を満たした。一方、開口部518と開口部519との距離L
5が1mm未満である場合には、電波透過部材514にクラックが入り始める照射時間Hが合格基準(照射時間H≧2000hr)を満たさなかった。
すなわち、開口部518と開口部519との距離L5を1mm以上とすることで、紫外線による電波透過部材514の劣化を抑制できることが確認された。
なお、紫外線照射試験後の評価用合わせガラス500D、E、Fについて、79GHzでの電波透過損失を確認したところ3dB以下であり、実用上問題ないことが確認された。
又、表2に示すように、開口部518と開口部519との距離L5が1mm以上である場合には、図16(b)に示すWが5mm以下であり、透視歪の評価は合格であった。一方、開口部518と開口部519との距離L5が1mm未満である場合には、図16(b)に示すWが5mmより大きくなり、透視歪の評価は不合格であった。
すなわち、開口部518と開口部519との距離L5を1mm以上とすることで、開口部18内の透視歪、特に開口部518と遮光層516との境界F付近での透視歪を小さくできることが確認された。
以上、好ましい実施形態等について詳説したが、上述した実施形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。