JP2020190084A - コンクリート構造物の補強防食構造及び補強防食方法 - Google Patents

コンクリート構造物の補強防食構造及び補強防食方法 Download PDF

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Abstract

【課題】陽極部材がモルタル又はセメントペーストを介して構造物に密着するとともに補強繊維をコンクリート構造物に強固に効率よく貼り付けることができる補強防食構造及び補強防食方法を提供する。【解決手段】コンクリート構造物1の表面に塗布されたセメントペースト層15の上に帯状の陽極部材11を貼り付け、該陽極部材を覆うように、2方向に連続する繊維を帯状に織った補強繊維シート12を貼り付ける。補強繊維シートは、陽極部材の軸線方向に連続してコンクリート構造物を補強する補強繊維12aが、陽極部材に重ねられる領域Aでは、陽極部材の側方となる領域Bより粗に織られたものとする。補強繊維シートの横方向繊維12bは補強繊維より弾性係数が小さいものとし、横方向に引張力が導入された状態で貼り付ける。そして、上記陽極部材とコンクリート構造物に埋め込まれた鉄筋14との間に直流電圧を印加する。【選択図】図3

Description

本発明は、コンクリート構造物に、補強と電気防食との双方を施す構造及び補強と電気防食とを施す方法に関するものである。
コンクリート構造物は、コンクリートの中性化や塩害等さまざまな要因で劣化することがある。劣化したコンクリート構造物は補修又は補強が必要となり、連続繊維を織ったシートを貼り付ける連続繊維補強工法や、プレストレスを追加する補強工法等が行われている。
一方、コンクリートの劣化が塩害による場合等では、補修又は補強を行っても、その後に再び劣化が進行するおそれがある。このため塩害等による鉄筋の腐食を抑えるために、電極をコンクリート構造物に取り付け、鉄筋との間に電圧を印加する電気防食を施すことが行われている。
上記のような補強と電気防食とをそれぞれ別個に行うことは工期や費用の点で不合理であり、補強と電気防食とを同時に施すことが、例えば特許文献1及び特許文献2に提案されている。
特許文献1に記載されているコンクリート構造物の補強及び防食方法は、繊維強化樹脂を格子状に形成したFRP格子材と網状の電気防食電極とを重ね合わせた補強・防食材を用いるものである。この補強・防食材をコンクリート構造物の表面に締結具を用いて固定し、セメントモルタルで被覆するものとしている。
また、特許文献2に記載のコンクリート構造物の補強防食施工方法は、構造物を補強する高強度の合成樹脂繊維で形成された補強部と、導電性を有する金属を含み、電極として機能する電極部と、を連続するシートに織った補強防食シートを用いるものである。この補強防食シートをコンクリート構造物の表面に固着するものとなっている。
特開2007−39996号公報 特開2010−222653号公報
しかしながら、従来の技術には次のような解決が望まれる課題がある。
特許文献1に記載されるように補強材と電気防食電極とを重ね合わせた補強・防食材を用いる方法では、補強・防食材を締結具又はセメントモルタルでコンクリート構造物に固着することになる。つまり、鉄筋と電気防食電極との間の防食電流を維持するためには、電気防食電極はモルタル又はセメントペーストを介してコンクリート構造物に付着させる必要がある。しかし、補強材はモルタル等による被覆ではコンクリート構造物への付着強度が不足することがあり、付着強度が不足するときには多数の締結具が必要になる。このため、補強・防食材を固定するための作業量が多くなってしまう。
一方、特許文献2に記載されているように、補強部と電極部とに領域を分けたシートをコンクリート構造物に貼り付ける方法では、電極部をセメントモルタルによってコンクリート構造物に密着させ、補強部は合成樹脂接着剤を用いて強固に貼り付けることができる。しかし、電極部が当接される部分を除外して合成樹脂接着剤をコンクリート構造物に塗布するために、電極部が当接される部分のマスキングが繰り返し必要となり、作業性が良好ではない。
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、電極がモルタル又はセメントペーストを介して構造物に密着するとともに補強繊維が強固に貼り付けられたコンクリート構造物の補強防食構造、及びモルタル又はセメントペーストを介して電極を構造物に密着させるとともに、補強繊維を強固に貼り付ける作業を効率よく行うことができるコンクリート構造物の補強防食方法を提供することである。
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、 コンクリート構造物の補強と、該コンクリート構造物に使用されている鉄筋の電気防食とを行う補強防食構造であって、 該コンクリート構造物の表面に塗布されたモルタル層又はセメントペースト層の上に、帯状の陽極部材が貼り付けられ、 2方向に連続する繊維を織った補強繊維シートが、合成樹脂接着剤で前記陽極部材を覆うように該コンクリート構造物の表面に貼り付けられ、
前記陽極部材と前記鉄筋との間に直流電圧が印加されており、 前記補強繊維シートは、帯状となった前記陽極部材の軸線方向に連続してコンクリート構造物を補強する補強繊維が、前記陽極部材に重ねられる領域では、前記陽極部材の側方となる領域より粗に織られたものであるコンクリート構造物の補強防食構造を提供する。
この補強防食構造では、陽極部材と鉄筋との間に印加される直流電圧によって鉄筋の腐食が抑えられる。そして、コンクリート構造物の表面に貼り付けられた補強繊維シートの補強繊維がコンクリート構造物の表面近くに作用する引張力を負担し、コンクリート構造物が補強される。補強繊維シートは、合成樹脂接着剤によってコンクリート構造物に強固に接着され、陽極部材を覆うことによって該陽極部材が外部環境から保護される。
一方、補強繊維シートの補強繊維が構造物に作用する引張力を負担するときに、補強繊維とコンクリート構造物の表面との間で、補強繊維の軸線方向にずれようとする力つまりせん断力が作用する。補強繊維は陽極部材の上に重ね合わされる部分では粗に織られている。これにより、コンクリート構造物の表面からモルタル層又はセメントペースト層及び陽極部材を介して補強繊維に伝達される上記せん断力は低減され、陽極部材の剥離が抑制される。
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のコンクリート構造物の補強防食構造において、 前記補強繊維シートは、前記陽極部材の軸線を横切る方向に連続する横方向繊維が、前記補強繊維より引張力に対する弾性係数の小さいものであり、 前記補強繊維シートは、前記陽極部材を横切る方向に引張力が導入された状態で貼り付けられているものとする。
上記補強防食構造では、横方向繊維の弾性係数が小さく、伸びが生じやすい。この横方向繊維に伸びが生じた状態で帯状の陽極部材を覆うように貼り付けられると、横方向繊維の引張力で帯状の陽極部材の両側方から該陽極部材をモルタル層又はセメントペースト層の上に押さえ付けようとする力が作用する。これにより、陽極部材の剥離が抑えられる。
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載のコンクリート構造物の補強防食構造において、 前記陽極部材に前記補強繊維シートが重ねられる領域では、該補強繊維シートと該陽極部材との間に前記合成樹脂接着剤が塗布されない部分が設けられているか、又は塗布された前記合成樹脂接着剤の層に複数の透気孔が設けられているものとする。
陽極部材と鉄筋との間に直流電圧を印加すると、陽極部材の表面付近で気体が発生することがある。この気体を合成樹脂接着剤の層で遮蔽すると発生した気体の圧力で補強繊維シートや陽極部材を剥離することがある。本発明に係る補強防食構造では、陽極部材が貼り付けられた領域に合成樹脂接着剤が塗布されていない部分又は合成樹脂接着剤の層に透気孔を設けることによって気体が解放され、補強繊維シート及び陽極部材の剥離が抑制される。
請求項4に係る発明は、 コンクリート構造物の補強と、該コンクリート構造物に使用されている鉄筋の電気防食とを行う方法であって、 該コンクリート構造物の表面にモルタル又はセメントペーストを塗布し、形成されたモルタル層又はセメントペースト層の上に帯状の陽極部材を貼り付ける工程と、 2方向に連続する繊維を用いて織った補強繊維シートを、前記陽極部材を覆うように合成樹脂接着剤で該コンクリート構造物の表面に貼り付ける工程と、を有し、 前記補強繊維シートは、 帯状となった前記陽極部材の軸線方向に連続する補強繊維が、前記陽極部材に重ねられる領域では、前記陽極部材の側方となる領域より粗に織られたものを用い、 前記陽極部材と前記鉄筋との間に直流電圧を印加するコンクリート構造物の補強防食方法を提供するものである。
この補強防食方法では、鉄筋の腐食が抑えられるとともに、コンクリート構造物の表面に貼り付けられた補強繊維シートの補強繊維によってコンクリート構造物が補強される。また、補強繊維シートで陽極部材を覆うことによって陽極部材を外部環境から保護することが可能となる。さらに、補強繊維シートとして、補強繊維が陽極部材の上に重ね合わされる部分では粗に織られたものを使用することにより、モルタル層又はセメントペースト層の上に貼り付けられた陽極部材の剥離を抑制することが可能となる。
請求項5に係る発明は、請求項4に記載のコンクリート構造物の補強防食方法において、 前記補強繊維シートは、 前記陽極部材の軸線を横切る方向に連続する横方向繊維の引張力に対する弾性係数が、前記補強繊維より小さいものを用い、 前記陽極部材の軸線を横切る方向に引張力を導入した状態で該コンクリート構造物に貼り付けるものとする。
上記補強防食構造では、横方向繊維に伸びが生じやすく、伸びが生じた状態で帯状の陽極部材を覆うように貼り付けることにより、横方向繊維の引張力で帯状の陽極部材をモルタル層又はセメントペースト層の上に押さえ付けようとする力が作用する。これにより、陽極部材の剥離が抑えられる。
請求項6に係る発明は、請求項5に記載のコンクリート構造物の補強防食方法において、 前記補強繊維シートは、前記陽極部材より幅の広い帯状のものを用い、 該補強繊維シートの両側縁部に沿って棒状又は板状の補剛部材を取り付け、 変形した弾性部材の反発力によって両側縁部の前記補剛部材に互いに離隔する方向の力を付与して前記補強繊維シートに引張力を導入するものとする。
この補強防食構造では、簡単な構造で帯状の補強繊維シートを幅方向に引き伸ばした状態に保持することができる。そして、帯状の補強繊維シートの軸線方向に均等に近い状態で幅方向の引張力が導入された状態とすることができる。このように引張力が導入された補強繊維シートを、陽極部材を覆うように貼り付けることによって、補強繊維シートは帯状の陽極部材をモルタル層又はセメントペースト層の上に押さ付けるように作用するものとなる。
以上説明したように、本発明のコンクリート構造物の補強防食構造では、防食用の陽極部材がモルタル層又はセメントペースト層を介して構造物に密着し、剥離が抑制されるとともに補強繊維シートが強固に貼り付けられたものとなる。また、本発明のコンクリート構造物の補強防食方法では、陽極部材をモルタル層又はセメントペースト層によって構造物に密着させるとともに、補強繊維を合成樹脂接着剤で強固に貼り付ける作業を効率よく行うことが可能となる。
本発明の補強防食構造を適用することができるコンクリート構造物の一例示す概略側面図である。 図1に示すコンクリート構造物に本発明の補強防食構造を施した状態を示す概略断面図及び底面図である。 本発明の補強防食構造を示す拡大断面図及び本発明で使用する補強繊維シートの構成を示す拡大底面図である。 本発明の補強防食方法で補強繊維シートを貼り付けるときの状態の一例を示す概略図である。 本発明の補強防食方法で補強繊維シートを貼り付けるときの状態の他の例を示す概略図である。
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は、本発明の補強防食構造を適用することができるコンクリート構造物の一例であって、コンクリートからなる橋桁を示す概略側面図である。また、図2は図1に示す橋桁の概略断面図及びこの橋桁に本発明の補強防食構造を施した状態を示す底面図である。
この橋桁1は、2つの橋台2,3間に架け渡されており、断面形状は図2に示すように中空孔を有する版桁となっている。この実施の形態の補強防食構造は、上記橋桁1の底面に陽極部材11を貼り付け、さらに陽極部材11に重ねて補強繊維シート12を貼り付けるものである。そして、電源装置13から上記陽極部材11と橋桁に埋め込まれた鉄筋14との間に電圧を印加し、陽極部材11と鉄筋14との間に生じる微弱電流によって鉄筋の酸化を抑制する。また、この橋桁1は既に鉄筋14の腐食が生じて補強が必要となっており、陽極部材11に重ねて貼り付けた補強繊維シート12が橋桁1の下縁付近に作用する引張力の一部を負担し、橋桁1の曲げ強度を増大するものとなっている。
陽極部材11は、図2(b)に示すように、橋桁1の軸線方向に長い帯状の部材であり、橋桁1の一方の支承付近から他方の支承付近までの範囲に貼り付けられている。補強繊維シート12は、陽極部材11より幅が大きい帯状の部材であり、幅方向のほぼ中央部が陽極部材11と重ね合わされ、該陽極部材11を覆うように橋桁1の底面に貼り付けられている。このように貼り付けられた陽極部材11及び補強繊維シート12は橋桁1の幅方向に複数が配列されている。
上記陽極部材11には、チタンを薄いテープ状に加工したものが用いられている。また、チタンにイリジウム、ルテニウム等の白金系金属を焼き付け、コーティングを施したもの等を用いることもできる。また、この他に耐腐食性を有する導電性の部材を用いることもできる。
テープ状となった陽極部材11は、幅が5mm〜100mm程度のものを用いるのが望ましく、10mm〜60mmとするのがより望ましい。また厚さは、貼り付ける表面に多少の凹凸があっても容易に密着させることができる程度に柔軟に変形が可能な厚さとするのが望ましい。
この陽極部材11は、図3(a)に示すように桁の底面にセメントペースト又はモルタルを塗布し、このセメントペースト層15又はモルタル層と直接に密着するように貼り付けられており、セメントペースト又はモルタルの付着力によって保持されるものとなっている。
なお、橋桁1の底面は、劣化が生じているときには、劣化している部分をはつり取り、モルタル又はコンクリートで修復しておく。
上記補強繊維シート12は、補強繊維12aとしてアラミド繊維を用い、横方向繊維12bとしてナイロン繊維を用い、補強繊維12aを縦糸、横方向繊維12bを横糸として帯状に織ったものである。つまり、帯状となった補強繊維シート12の軸線方向に補強繊維12aであるアラミド繊維が連続するように織られており、補強繊維シートの幅方向にはアラミド繊維より弾性係数が小さいナイロン繊維が用いられている。これらの繊維は、複数を束ねてより糸とし、これらを織ってシート状の補強繊維シートを形成している。
織られた補強繊維シート12の補強繊維12aは、帯状となった補強繊維シート12の幅方向に均一に配列されるのではなく、図3(b)に示すように陽極部材11と重ね合わされる中央部分Aでは、両側部分つまり補強繊維シート12が橋桁1に直接に貼り付けられる部分Bより間隔が粗になっている。これにより、陽極部材11と重ね合わされる部分Aでは所定の幅当たりの補強繊維量がその両側に比べて少なくなっている。
なお、上記補強繊維シート12では、陽極部材11と重ね合わされる中央部分Aで、補強繊維からなる縦糸の間隔を粗にしているが、陽極部材11と重ね合わされる部分で縦糸の間隔を同一又は粗くし、縦糸を構成するアラミド繊維の数が両側の部分で用いる糸より少ない細い糸を用いるものであってもよい。
上記補強繊維シート12は、合成樹脂接着剤を用いて陽極部材11を覆うように貼り付ける。このとき合成樹脂接着剤は、陽極部材11の両側で補強繊維シート12が橋桁1の底面に直接に当接される領域Bでは全域に合成樹脂接着剤を塗布し、陽極部材11に重ね会わされる領域Aでは一部に合成樹脂接着剤を塗布し、合成樹脂接着剤が塗布されない部分Cを設けておく。そして、補強繊維シート12は、幅方向に張力を導入して幅方向の伸びが生じた状態で橋桁1の底面に当接し、接着する。上記合成樹脂接着剤は、例えばエポキシ樹脂接着剤を用いることができる。
なお、上記補強シート12を貼り付けるときに、合成樹脂接着剤が塗布されない部分Cを設けるのに代えて、陽極部材11が重ね合わされる領域の全域にも合成樹脂接着剤を塗布し、塗布後に透気孔を設けるものであってもよい。透気孔は、例えば流動性がなくなる程度まで合成樹脂接着剤が硬化した後に針等の先端が尖った部材を突き入れて形成することができる。
橋桁1の底面に貼り付けられた補強繊維シート12の上には、紫外線を遮蔽する塗料を塗布する。これにより、補強繊維シートを構成するアラミド繊維の紫外線による劣化を抑制することができるものとなる。
補強繊維シート12に幅方向の張力を導入した状態で橋桁1に接着するには、例えば次のような方法を採用することができる。
補強繊維シート12には、図4に示すように両側縁に沿って補剛部材16を仮に貼り付けておく。この補剛部材16は、補強繊維シート12の軸線方向に連続するものであって補強繊維シート12の面に沿った方向の曲げに対して曲げ剛性を有するものである。そして、板バネからなる弾性支持金具17を弾性的に湾曲させた状態で上記補剛部材16に両端部を接続し、弾性支持金具17の弾性反発力を2つの補剛部材16が互いに離隔する方向に作用させる。このような弾性支持金具17を補強繊維シート12の軸線方向に所定の間隔で取り付ける。弾性支持金具17を取り付ける間隔は、補剛部材16に大きな変形が生じることなく、補強繊維シート12に一様に近い状態で張力が幅方向に導入されるように設定することができる。
上記補強繊維シート12は、横糸に弾性係数が小さいナイロン繊維が用いられており、張力の導入によって伸びが生じ易くなっている。したがって、上記のように弾性支持金具17によって補強繊維シート12に幅方向の張力が導入され、ほぼ一様に伸びが生じた状態で橋桁1の底面に当接し、接着する。このとき、陽極部材11が貼り付けられた部分は、セメントペースト層15又はモルタル層と陽極部材11の厚さによって橋桁1の底面から凸状に突き出しており、補強繊維シート12の幅方向に作用している張力によって陽極部材11を橋桁1の底面に押し付ける方向の力が作用する。また、図4中の矢印aで示すように陽極部材11の両側方で補強繊維シート12を橋桁1の底面に押し付けように加圧した状態で接着剤を硬化させても良い。
このように陽極部材11と補強繊維シート12が重ね合わせて貼り付けられた補強防食構造では、コンクリートに埋め込まれた鉄筋14と陽極部材11との間に電源装置13から印加された電圧によって双方間に微弱な防食電流が生じ、鉄筋14の腐食が抑制される。そして、陽極部材11を覆うように貼り付けられた補強繊維シート12が橋桁1の下縁付近に作用する引張力の一部を負担することになり、橋桁1の曲げに対する耐力が向上する。
また、補強繊維シート12の軸線方向に配置された補強繊維12aが引張力を負担するときには、橋桁1の底面から補強繊維シート12に引張力が伝達されることによって橋桁1の底面と補強繊維シート12との間にせん断力が作用する。そして、補強繊維シート12が陽極部材11に重ね合わせて貼り付けられた部分では橋桁1の底面からセメントペースト層15又はモルタル層及び陽極部材11を介して力が伝達されることになる。しかし、補強繊維シート12は陽極部材11に重ねて貼り付けられた部分で補強繊維が粗に配置されており、橋桁1の底面と補強繊維シート12との間に作用するせん断力が低減される。これにより、陽極部材11がセメントペースト層15又はモルタル層を介して橋桁1の底面に貼り付けられた部分の負荷は少なくなっている。したがって、陽極部材11の剥離を抑制するものとなる。
一方、鉄筋14と陽極部材11との間に防食電流が生じていると、陽極部材11の表面付近で気体が発生することがある。このような気体が補強繊維シート12で封じ込められて蓄積すると陽極部材11が剥離する原因となる虞がある。しかし、補強繊維シート12を貼り付けるときに、陽極部材11に重ね合わされる領域では、合成樹脂接着剤を塗布しない部分が設けられるか、又は透気孔が設けられており、この部分では通気性を有するものとなっている。これにより、陽極部材11の表面付近で気体が発生しても補強繊維シート12を透過して解放され、陽極部材11の剥離が抑えられる。
なお、補強繊維シート12の上に塗布され、紫外線を遮蔽する塗料は、陽極部材11の表面付近で発生する気体を解放するために透気性を有するものを用いるか、又は補強繊維シートを貼り付けるときに合成樹脂接着剤を塗布しなかった部分Cには上記塗料も塗布しないものとするのが望ましい。
以上に説明したコンクリート構造物の補強防食構造及び補強防食方法は、本発明の一実施形態であって、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で適宜に態様を変更して実施することができる。
例えば、上記実施の形態ではコンクリートの橋桁の補強及び防食を行うものであるが、補強及び防食の対象となるコンクリート構造物は橋桁に限定されず、橋脚、橋台、カルバート、桟橋、その他の電気防食が必要となる様々なコンクリート構造物について適用することができる。
陽極部材は、寸法、厚さ、材質等を、陽極部材として機能する範囲で適宜に選定することができるものである。また、補強繊維シートは、補強繊維としてアラミド繊維を使用し、横方向繊維にナイロン繊維を用いているが、これらに限定されるものではなく、他の繊維を用いるものであっても良い。縦糸は、例えば炭素繊維、鉱物繊維等を用いることができる。
一方、帯状となった陽極部材及び補強繊維シートをコンクリート構造物に貼り付ける方向、間隔、態様等は、コンクリート構造物の用途、構造等に応じて適宜に設計することができる。一般に、帯状となった陽極部材及び補強繊維シートの軸線方向がコンクリート構造物の引張応力度が生じる方向に沿って貼り付けるのが望ましい。また、上記実施の形態では一つの陽極部材に対して一つの補強繊維シート重ねるように貼り付けるものであるが、帯状となった2以上の陽極部材に一つの補強繊維シートを重ね合わせるものであっても良い。
また、補強繊維シートを、幅方向の引張力を付与した状態で貼り付けるときに用いる弾性支持金具は、図4に示すような板バネを用いたものに限定されるものではなく、他の形態のものを用いることができ、例えば図5に示すようなものを用いることもできる。
この弾性支持金具18は、棒状の支持部材19と、この支持部材19に装着されて該支持部材19の軸線方向に移動が可能となった2つの可動アーム20と、それぞれの可動アーム20を互いに離隔する方向に力を付与するコイルばね21と、を有するものである。2つの可動アーム20をそれぞれ補強繊維シート12の両側縁付近に取り付けられた補剛部材16に係止し、コイルばね21の弾性反発力によって補強繊維シート12に幅方向の引張力を作用させるものとなっている。
1:橋桁, 2:橋台, 3:橋台,
11:陽極部材, 12:補強繊維シート, 12a:補強繊維, 12b:横方向繊維, 13:電源装置, 14:鉄筋, 15:セメントペースト層, 16:補剛部材, 17:弾性支持金具, 18:弾性支持金具, 19:支持部材, 20:可動アーム, 21:コイルばね

Claims (6)

  1. コンクリート構造物の補強と、該コンクリート構造物に使用されている鉄筋の電気防食とを行う補強防食構造であって、
    該コンクリート構造物の表面に塗布されたモルタル層又はセメントペースト層の上に、帯状の陽極部材が貼り付けられ、
    2方向に連続する繊維を織った補強繊維シートが、合成樹脂接着剤で前記陽極部材を覆うように該コンクリート構造物の表面に貼り付けられ、
    前記陽極部材と前記鉄筋との間に直流電圧が印加されており、
    前記補強繊維シートは、帯状となった前記陽極部材の軸線方向に連続してコンクリート構造物を補強する補強繊維が、前記陽極部材に重ねられる領域では、前記陽極部材の側方となる領域より粗に織られたものであることを特徴とするコンクリート構造物の補強防食構造。
  2. 前記補強繊維シートは、前記陽極部材の軸線を横切る方向に連続する横方向繊維が、前記補強繊維より引張力に対する弾性係数の小さいものであり、
    前記補強繊維シートは、前記陽極部材を横切る方向に引張力が導入された状態で貼り付けられていることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート構造物の補強防食構造。
  3. 前記陽極部材に前記補強繊維シートが重ねられる領域では、該補強繊維シートと該陽極部材との間に前記合成樹脂接着剤が塗布されない部分が設けられているか、又は塗布された前記合成樹脂接着剤の層に複数の透気孔が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のコンクリート構造物の補強防食構造。
  4. コンクリート構造物の補強と、該コンクリート構造物に使用されている鉄筋の電気防食とを行う方法であって、
    該コンクリート構造物の表面にモルタル又はセメントペーストを塗布し、形成されたモルタル層又はセメントペースト層の上に帯状の陽極部材を貼り付ける工程と、
    2方向に連続する繊維を用いて織った補強繊維シートを、前記陽極部材を覆うように合成樹脂接着剤で該コンクリート構造物の表面に貼り付ける工程と、を有し、
    前記補強繊維シートは、
    帯状となった前記陽極部材の軸線方向に連続する補強繊維が、前記陽極部材に重ねられる領域では、前記陽極部材の側方となる領域より粗に織られたものを用い、
    前記陽極部材と前記鉄筋との間に直流電圧を印加することを特徴とするコンクリート構造物の補強防食方法。
  5. 前記補強繊維シートは、
    前記陽極部材の軸線を横切る方向に連続する横方向繊維の引張力に対する弾性係数が、前記補強繊維より小さいものを用い、
    前記陽極部材の軸線を横切る方向に引張力を導入した状態で該コンクリート構造物に貼り付けることを特徴とする請求項4に記載のコンクリート構造物の補強防食方法。
  6. 前記補強繊維シートは、前記陽極部材より幅の広い帯状のものを用い、
    該補強繊維シートの両側縁部に沿って棒状又は板状の補剛部材を取り付け、
    変形した弾性部材の反発力によって両側縁部の前記補剛部材に互いに離隔する方向の力を付与して前記補強繊維シートに引張力を導入することを特徴とする請求項5に記載のコンクリート構造物の補強防食方法。
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