JP2004190119A - 防食補強コンクリート組立体、その防食方法及び組立方法 - Google Patents

防食補強コンクリート組立体、その防食方法及び組立方法 Download PDF

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Abstract

【課題】導電性と付着強度との両方を兼ね備えるように炭素繊維シートがコンクリート構造物に固定され、電気防食効果と補強効果との両効果が得られる防食補強コンクリート組立体、その防食方法及び組立方法を提供する。
【解決手段】コンクリート構造物と、コンクリート構造物の表面上に設けられた炭素繊維シートと、鋼材及び炭素繊維シートに接続された通電手段とを備え、炭素繊維シートは炭素繊維が不働態被膜を有する耐酸化金属により被覆されたものであり、コンクリート構造物表面と炭素繊維シートとの間には、不働態被膜の破壊を抑制するための不働態保護剤と電解質とを含む充填材層が設けられた。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は防食補強コンクリート組立体、その防食方法及び組立方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
鉄筋コンクリート構造物やプレストレストコンクリート構造物などのコンクリート構造物においては、酸素、水および塩化物イオン等の浸透によって、鉄筋あるいは鋼材に腐食が発生することがある。このように鋼材等が腐食すると腐食生成物によりコンクリートにひび割れが発生し、腐食をさらに加速させ、最終的にはコンクリート構造物の強度等が低下する。
【0003】
このような鋼材等の腐食を防止する方法として、電気防食法がある。即ち、電位を変化させない状態におけるコンクリート構造物中の鋼材等の表面ではアノード反応(酸化反応)及びカソード反応(還元反応)が同時並行的に起こり腐食電池を形成してその結果鉄水和酸化物等が発生し腐食が起こるのに対し、鋼材等の電位を変化させることにより、鋼材等の表面でカソード反応のみが起こる状態とすることができ、その結果鉄水和酸化物等の発生を防止することができるものである。
【0004】
コンクリート構造物に対して、電気防食法を行うと共に構造耐力の補強を行う技術が、特願平11−200516号公報(特許文献1)に開示されている。すなわち、特許文献1には、コンクリート及び鋼材を含むコンクリート構造物の表面上に炭素繊維シートが設けられ、通電手段が鋼材及びシートに接続された防食補強コンクリート組立体が記載されており、ここでは、鋼材を陰極とし炭素繊維シートを陽極とするよう通電されている。
【0005】
【特許文献1】特願平11−200516号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
特許文献1のように炭素繊維シートを電気防食用陽極兼耐力補強材として適用する場合、炭素繊維シートは導電性接着剤によりコンクリート構造物表面に貼り付けられる。この導電性接着剤は、炭素繊維シートから鋼材に充分に電流を流すため、高い導電率が求められるものであり、同時にコンクリート構造物を補強するためには大きな付着強度が要求されるものであるが、導電性接着剤の導電性と付着強度を自在に調整することは容易ではない。
またコンクリート構造物が特に沿海地域に在る場合、上記のような電気防食法を行なう際に、コンクリート構造物のみならず、炭素繊維シートにも塩害防止のための対策を実施することが好ましい。ただし、電気防食時に炭素繊維シートが陽極として作用すると、この陽極反応により酸素ガスや塩素ガスが発生することがあるため、これらのガスが外側に放出され得る通気性も求められる。
【0007】
本発明の課題は、充分な導電性能と付着強度との両方が得られるように炭素繊維シートがコンクリート構造物に固定され、電気防食効果と補強効果との両効果が得られる防食補強コンクリート組立体、その防食方法及び組立方法を提供することにある。
【0008】
炭素繊維シートの陽極反応により発生した酸素ガスや塩素ガスが放出され得る通気性を備えると共に、コンクリート構造物が塩害から保護され得る防食補強コンクリート組立体、その防食方法及び組立方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
前記従来の課題を解決するために提供される本発明の防食補強コンクリート組立体は、コンクリート及び該コンクリート内に設けられた鋼材を含むコンクリート構造物と、該コンクリート構造物の表面上に設けられた炭素繊維シートと、該鋼材及び該炭素繊維シートに接続された通電手段とを備え、前記炭素繊維シートは不働態被膜を有する耐酸化金属により炭素繊維が被覆されたものであり、前記コンクリート構造物表面と前記炭素繊維シートとの間に、前記不働態被膜の破壊を抑制するための不働態保護剤と電解質とを含む充填材層が設けられ、該充填材層により前記コンクリート構造物と前記炭素繊維シートとが一体化させられたことを特徴とする。
【0010】
本発明では、炭素繊維シートは不働態被膜を有する耐酸化金属により炭素繊維が被覆されたものであるため、これを陽極材として用いた場合、分極抵抗を小さくできて、高アノード分極や、塩化物が高濃度な高アルカリ環境下で炭素繊維シートの消耗を抑制することができる。
【0011】
また本発明では、前記コンクリート構造物表面と前記炭素繊維シートとの間に、不働態保護剤と電解質とを含む充填材層が設けられ、この充填材層では電荷移動反応が効率的に進められる。この電荷移動反応は、電子伝導とは異なり、電気防食の施されている陽極(炭素繊維シート)面で、陽極と充填材層との界面で陽極内の電子と電解質中のマイナスイオンとの間で電荷の受け渡しをする反応である。また電解質中では、マイナスイオンが陰極(鉄筋)から陽極へ移動して電荷が運ばれる。言い換えれば電流は、陽極から電解質を通って陰極に流れ、陽極から外部の電気回路に引き渡される。以上の作用により、電気防食の施されているコンクリート構造物の陰極面では、アノード反応をストップさせるために必要十分な電流を流すことによって酸素のイオン化反応だけが起こり、鉄筋の腐食反応を停止する効果が得られる。
【0012】
本発明では、上記防食補強コンクリート組立体の該鋼材を陰極とし、該炭素繊維シートを陽極とするように通電することを特徴とする防食補強コンクリート組立体の防食方法が提供される。
【0013】
本発明では、コンクリート及び該コンクリート内に設けられた鋼材を含むコンクリート構造物の表面において、不働態保護剤と電解質とを含む充填材層が縞模様状に設けられる予定の箇所を囲み且つ該予定箇所が残されるように接着剤層を設け、不働態被膜を有する耐酸化金属で被覆された炭素繊維シートを前記接着剤層によりコンクリート構造物の表面に貼付し、前記充填材層が設けられる予定箇所に連通するように前記炭素繊維シートに管体を貫通させ、前記充填材を前記管体を通して前記炭素繊維シートと前記コンクリート構造物表面との間に充填し、前記鋼材を陰極とし前記炭素繊維シートを陽極とするよう通電手段を接続することを特徴とする防食補強コンクリート組立体の組立方法が提供される。
以上の防食補強コンクリート組立体の組立方法では、炭素繊維シートを接着剤層でコンクリート構造物の表面に貼付すると、コンクリート表面におけるイオン伝導性材料層を設ける予定箇所が、炭素繊維シートおよび接着剤層により囲まれて縞模様状の空間として残され、この縞模様状の空間に管体を挿通させれば、この管体を介して縞模様状空間にイオン伝導性材料を注入することができるので、比較的容易に施工することが可能である。
【0014】
前記防食補強コンクリート組立体の組立方法では、前記通電手段を接続する工程に続けて、前記炭素繊維シートを挟んで前記充填材層に対向する位置に通気路を形成するための手段を配置し、遮水性と気密性を有する気密シートで前記炭素繊維シートの全面を被覆する工程を行なうことが可能である。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明では、コンクリート構造物表面と炭素繊維シートとの間に、接着剤層と、不働態被膜の破壊を抑制するための不働態保護剤と電解質とを含む充填材層とを重ならないように配置することができる。これにより、炭素繊維シートは、コンクリート構造物の耐力補強機能を果たす部分と電極機能を果たす部分とに区分けされ、両機能による効果は確実かつ効率的に得ることができる。
すなわち、接着剤層により炭素繊維シートはコンクリート構造物表面に強固に付着されて一体となり、炭素繊維自体が有する引張強度により、コンクリート構造物の耐力の補強が行なわれる。
【0016】
本発明では、遮水性と気密性を有する気密シートで前記炭素繊維シートの全面が被覆されると共に、前記気密シートと前記炭素繊維シートとの間において、前記炭素繊維シートを挟んで前記充填材層に対向する位置に外気へ連通する通気路が設けられることが好ましい。この通気路は、前記気密シートと前記炭素繊維シートとの間に設けられた間隔保持部材と通気部材とを備える構成とすることができる。
このように前記炭素繊維シートの外側全面が気密シートで被覆されることにより、酸素、水および塩化物イオン等が気密シートよりも内側へ浸透することができず、コンクリート構造物のみならず炭素繊維シートも塩化物イオン等による劣化から保護される。しかも、気密シートと炭素繊維シートとの間には通気路が設けられているため、炭素繊維シートの陽極反応により酸素ガスや塩素ガスが発生した場合にも、これらのガスは外側に放出される。
なお、前記間隔保持部材は、前記気密シートと前記炭素繊維シートとの間に所定の間隔を保持することができるものであれば特に限定されるものでは無いが、例えば、合成樹脂等からなる棒を使用することが可能であり、この合成樹脂棒を前記充填材層に対向する位置に延設すれば良い。また前記通気部材は、間隔保持部材によって保持されている隙間が前記充填材などにより目詰りすることのないように通気性を確保できるものであれば良く、例えば、内部が中空で外周に多数の孔が穿設された平坦な有孔管、通気性の或るスポンジ、通気性の或る合成樹脂繊維などが使用可能である。
【0017】
本発明において、前記充填材層としては、セメントと水酸化物と水とを含む混合物、またはベントナイトと水酸化物と水とを含む混合物を使用することが可能である。この水酸化物は、特に限定されるものではないが、例えば、NaOHを使用することが好ましい。NaOHは強アルカリ性を示し、不働態被膜の破壊を抑制するための不働態保護剤としては特に好ましいものの一つである。
比較的多くの塩素イオンが空気中に存在する沿海部のような環境において、耐酸化金属の不働態被膜は腐蝕し易いものであるが、充填材層が不働態保護剤として水酸化物を含む場合には、その水酸化イオンの作用により炭素繊維シートの不働態被膜の破壊を抑制することが可能である。さらに、水酸化物は電解質としてイオン伝導性を高める作用もあるため、炭素繊維シートの電極としての負担を低下させて耐久性の向上が図られる。
【0018】
前記炭素繊維シートは、例えば、シートの長さ方向に延長する直径7〜10μmの炭素繊維を、密に、例えば幅方向1mあたり1千万本以上並べて織込んだシートであって、厚さが0.05〜0.2mmのものを挙げることができる。
また炭素繊維が不働態被膜を有する耐酸化金属により被覆された炭素繊維シートとは、例えば、不働態被膜を有するニッケルなどの高い耐酸化力を有する金属により薄く均一に被覆されたシートである。この高耐酸化金属による被覆の態様としては、例えば、炭素繊維の一本一本を薄く均一に被覆してこの炭素繊維により炭素繊維シートが構成されるか、あるいは、シートの表面、裏面、端辺の全てを薄く均一に被覆されるか、いずれかの態様を選択可能である。
【0019】
前記耐酸化金属としてはニッケルを用いることが好ましい。すなわち、ニッケルは、電極として高い電流密度で通電することができて、機械加工も容易で極間も変化せず、消耗が少なく、スラッジの発生も無いことが利点として挙げられるためである。また純ニッケルは、苛性アルカリ水溶液の全濃度にわたり、常温から高温まで良好な耐食性を有する。
ニッケルにより被覆された炭素繊維シートのうち、例えば、炭素繊維の一本一本をニッケルで薄く均一に被覆した炭素繊維シートの体積抵抗率は、7.5×10-5Ω・cmであり、陽極の荷電電圧をより低くすることができるので好ましい。
前記ニッケル被覆炭素繊維シートの引張強度は約3335N/mm2以上、また引張弾性係数は約2.3×105N/mm2であることが、強度の高いコンクリート防食補強組立体を得るために好ましい。
【0020】
前記炭素繊維シートは、1方向性シート(シートの面上の1方向のみに炭素繊維が密に配置されているもの)、2方向性シート(シートの面上の1方向及びそれに直交する方向に炭素繊維が密に配置されているもの)及びそれ以上の方向に炭素繊維が配置されているもののいずれでもよい。特に、直線性に優れ、炭素繊維の引張強度をより効率的に利用できる2方向性シートが好ましい。
また、前記炭素繊維シートは、炭素繊維以外の他の繊維を含むことができる。具体的には、例えば、1方向性の炭素繊維を保持するためのガラス繊維等の繊維を含むことができる。
【0021】
前記炭素繊維シートは、矩形又はそれ以外の形状のコンクリート構造物の表面に適合する形状としても良く、通常、少なくともその長さ方向に炭素繊維が密に配置された矩形の形状とすることができる。
【0022】
本発明において、前記炭素繊維シートは、コンクリート構造物表面上に、炭素繊維の引張強度がコンクリート構造物を補強する方向になるように設けることが好ましい。例えば、細長い直方体の梁の底面に、その長さ方向に炭素繊維が延長するように炭素繊維シートを設けることができる。また、コンクリート構造物全表面の電気防食を達成するために、補強が必要な面以外の面に前記防食補強装置及び/又は他の電気防食用の電極を設けることができる。さらに、必要に応じ、十分な補強を達成するために、炭素繊維シートを、コンクリート構造物表面上に1層以上設けることができる。
【0023】
前記炭素繊維シートをコンクリート構造物表面上に設ける際には、前記接着剤層及び前記充填材層により炭素繊維シートをコンクリート構造物表面に貼付した後、さらにエポキシ樹脂等の接着剤を炭素繊維シートの中に含浸させることが好ましく、これにより炭素繊維シートの接着強度及び耐久性を向上させることができる。
【0024】
前記接着剤層と前記充填材層とは、前記炭素繊維シートの繊維方向に延びる縞模様状に配置することが好ましい。このように配置すれば、炭素繊維の電極部分と補強部分を均一に分散することができる、繊維方向の導電率と引張強度は繊維直角方向に比較して極めて高いなどの理由により、電極と補強機能を有効且つ均一に利用することができる効果が得られる。
【0025】
前記充填材層は、不働態被膜の破壊を抑制するための不働態保護剤と電解質とを含む充填材から構成され、さらに詳細には、セメントと水酸化物と水とを含む混合物、またはベントナイトと水酸化物と水とを含む混合物から構成することができる。
前記セメントと水酸化物と水とを含む混合物では、ポルトランドセメントが使用され、混和材または混和剤が添加されてペーストが生成され、このセメントペーストが陽極としての炭素繊維シートとコンクリート構造物表面との間に注入されて水和反応により硬化し、炭素繊維シートがコンクリート構造物表面から剥がれない程度の付着力を生じ、硬化後もセメントの毛細管内の水分は保持され、この水分にセメント成分や水酸化物が電解質として存在し、この充填材には、pH12以上の高アルカリ環境で1000〜1500Ω・cm程度の体積抵抗率を示すイオン伝導性が得られる。
一方、前記ベントナイトと水酸化物と水とを含む混合物は、バックフィル(陽極性能保持材)と呼ばれ、このバックフィルは陽極としての炭素繊維シートの接地抵抗を下げて陽極性能を保持するために、炭素繊維シートの内面に充填する物質である。ベントナイトを含む混合物としては、例えば、ベントナイトと水酸化物と水と石膏と塩化マグネシウムとからなる混合物、ベントナイトと水酸化物と水とコークスと重量比40%の石膏と重量比10%のNaClとからなる混合物、重量比20%のベントナイトと重量比75%の石膏と重量比5%のNa2SO4と水とからなる混合物、重量比70%のベントナイトと重量比20%の石膏と重量比1%のMgSO4と重量比3〜5%のMgCl2と水とからなる混合物、ベントナイトと硫酸カルシウムと消石灰と水とからなる混合物がある。
【0026】
前記接着剤層は、炭素繊維シートがコンクリート構造物表面に強固に付着するものであれば良く、例えば、エポキシ樹脂等を挙げることができて、硬化した際にコンクリート表面と炭素繊維シートとの間において20kgf/cm2以上の接着強度が得られることが好ましい。
【0027】
本発明の組立体は、防食電流を供給するために通電装置を備える。この通電装置は、防食電流を供給することができるものであれば特に限定されず、市販のもの等の各種の直流安定化電源装置等を用いることができる。前記通電装置の陰極には鋼材が接続され、前記通電装置の陽極には炭素繊維シートが接続されることが、電気防食を効果的に行うことができるため好ましい。前記通電装置と前記炭素繊維シートとの接続は、電気的な接続が達成されるものであれば特に限定されず、脱着可能なものでも固着されたものでも一体として成形されたものでもよい。
【0028】
本発明の防食補強コンクリート組立体は、必要に応じて、電気防食における防食電流量の調整、鉄筋電位による防食効果の確認などのために、照合電極を含むことができる。前記照合電極としては、塩化銀電極又は鉛電極等を用いることができる。前記照合電極は、前記コンクリート構造物中の、前記鋼材の近傍に設けることが好ましい。
【0029】
前記コンクリート構造物を構成するコンクリートは、セメント、水、細骨材及び粗骨材等を含む通常のコンクリートに加え、モルタル、セメントペースト等を硬化させたものを含む。前記コンクリート構造物は、前記コンクリートと、鋼材とを含む構造物である。前記鋼材とは、広くコンクリート内に設けられる金属をいい、鉄筋コンクリート中に設けられる鉄筋及びプレストレストコンクリート中に設けられる鋼材等の、コンクリートの耐久性等を高める等の目的でコンクリート内に設けられる金属を含む。
【0030】
本発明の防食補強コンクリート組立体は、新たにコンクリート構造物を建造するにあたり組み立てることができるが、既存のコンクリート構造物の補修として、既存のコンクリート構造物の表面上に前記炭素繊維シートを設け、既存のコンクリート中の鋼材を陰極とし前記炭素繊維シートを陽極とするよう通電装置を接続することにより組み立てることもできる。
【0031】
既存のコンクリート構造物の補修として本発明の防食補強コンクリート組立体を組み立てる場合は、前記防食補強装置を設けるのに先立ち、コンクリート構造物中の鋼材に排流端子等を設け、又コンクリート構造物中に前記照合電極を設けることが好ましい。また、コンクリート構造物中の全ての鋼材が電気的に導通しているかを確認し、必要に応じて溶接等により鋼材を導通させることが好ましい。そして、コンクリート構造物表面に付着している汚れやレイタンス等を、サンドブラストや超高圧ウォータージェット等で取り除き、さらにコンクリートの粉末を圧縮空気で取り除く等の処理を行うことが好ましい。
【0032】
前記炭素繊維シートの貼付は、乾燥したコンクリート構造物表面において不働態保護剤と電解質とを含む充填材層が設けられる予定の箇所にマスキングテープを貼り、このマスキングテープが貼られていないコンクリート表面にローラー刷毛やゴムべら等で均一に接着剤を塗布し、その後マスキングテープを剥がして、直ちに前記炭素繊維シートを付着させ、さらにシート表面を繊維方向へゴムべら等で押圧する。炭素繊維シートの貼付後に、充填材層が設けられる予定箇所に連通するように炭素繊維シートに少なくとも2本の管体を貫通させ、一方の管体から空気を排出しながら、他方の管体を通して充填材を炭素繊維シートとコンクリート構造物表面との間に注入し、その後、さらに炭素繊維シートの上から含浸用接着剤を含浸させることができる。
【0033】
本発明の防食方法は、前記防食補強コンクリート組立体内の鋼材を陰極とし該炭素繊維シートを陽極とするよう通電して防食することができる。
【0034】
前記通電する際の好ましい通電量は、防食補強コンクリート組立体の構造等に応じて異なるため、通電試験によって決定することが好ましい。具体的には、以下の手順により決定することができる。
1)前記鋼材の自然電位を測定する。
2)分極試験により、通電電流量と前記鋼材の電位との関係を求める。
3)自然電位からの所要分極量を得るための通電電流量を求める。
4)3)で求められた通電電流量で24時間以上通電する。
5)復極試験により、所定の復極量(100mV以上)が得られるか確認する。
【0035】
【実施例】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0036】
図4は本発明の防食補強コンクリート組立体1を示す模式図である。
防食補強コンクリート組立体1は、既存の鉄筋コンクリート構造物3の表面に炭素繊維シート5を設け、鉄筋2及び炭素繊維シート5に電源装置8などを接続して組み立てたものであって、鉄筋コンクリート構造物3の表面と炭素繊維シート5との間には、接着剤層22と、不働態被膜の破壊を抑制するための不働態保護剤と電解質とを含む充填材層24とが重ならないように区分けして配置されている。
【0037】
さらに詳細に説明すれば、既存の鉄筋コンクリート構造物3の劣化部ははつられ、コンクリートの表面金属が除去され、セメントペーストでコンクリートの表面が下地処理される。コンクリート中の鉄筋2にはリード線がスポット溶接により接続され、排流端子9a及び測定端子12が設けられる。そして、鉄筋2にはプラスチックバンドで塩化銀照合電極10が固定される。また、鉄筋コンクリート構造物中に存在する鉄筋2の全てが電気的に導通しているかどうかが測定され、導通していない鉄筋があれば溶接して接続し全ての鉄筋が導通される。
【0038】
次に、コンクリート構造物3の表面に付着している汚れやレイタンス等はサンドブラストや超高圧ウォータージェット等で取り除かれ、コンクリートの粉末が圧縮空気で取り除かれる。コンクリートの表面が乾燥した後、コンクリート表面には、不働態保護剤と電解質とを含む充填材層24を設ける予定の箇所に図1に示したようにマスキングテープ21が縦縞模様状に貼られ、これらマスキングテープ21が貼られていないコンクリート表面にローラー刷毛やゴムべら等で均一にエポキシ系樹脂接着剤が塗布されて図2のように接着剤層22が形成され、その後マスキングテープ21が剥がされて、直ちに炭素繊維シート5が貼り付けられ、シート表面が繊維方向へゴムべらでしごかれて定着される。この炭素繊維シート5は、炭素繊維が不働態被膜を有するニッケルにより被覆されたものが用いられる。
【0039】
炭素繊維シート5が貼り付けられると、各マスキングテープ21が剥がされた跡にはそれぞれ隙間が形成されるので、外側から炭素繊維シート5を貫通して各隙間に連通するように少なくとも2つのパイプ、すなわち、不働態保護剤と電解質とを含む充填材の注入管(図示せず)と空気排出管(図示せず)とがそれぞれ設けられる。これらの注入管を通して各隙間に充填材が注入され、空気排出管から充填材が出てきたら、充填材の注入が停止される。この充填材としては、不働態保護剤としてのNaOHを水に添加し、これをセメントと混合して生成したセメントペーストが用いられる。このように各隙間に充填材が注入されると、図3に示したように接着剤層22と充填材層24とが縦縞状に交互に並ぶ状態ができあがる。
そして、炭素繊維シート5の上からエポキシ系樹脂接着剤6が繊維の中に含浸させられ、さらに、図4に示したように炭素繊維シート7を貼り付けることも可能である。
【0040】
炭素繊維シートの端部に金属製の長尺板4が固定され、この長尺板4にリード線9bが接続された後、直流電圧計を用いて、設置した炭素繊維シート陽極が電気的に導通していることが確認される。
【0041】
さらに、直流電源装置8を収納する電源ボックスがコンクリート製の台座にアンカーボルトで固定される。排流端子9aが陰極側となり、リード線9bが陽極側となるよう、これらと直流電源装置8とが接続される。接続のための線及び接続箇所等は全て絶縁材と防水材で処理される。
以上のようにして本発明の防食補強コンクリート組立体1は形成される。
【0042】
次に、上記とは異なる本発明の実施態様について、図5の一部拡大断面図を参照して説明する。図5において、図1〜図4で説明した構成と同じものには同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
図5に示した防食補強コンクリート組立体は、既存の鉄筋コンクリート構造物3の表面に、接着剤層22と充填材層24とが重ならないように区分けして設けられ、この外側に炭素繊維シート5が貼り付けられ、炭素繊維シート5の外側には充填材24aが滲み出ている。この滲み出た充填材24aに沿って両側に延長するように、合成樹脂棒からなる間隔保持部材31は固定され、この間隔保持部材31の間で充填材24aに当接するように通気部材32が固定され、以上の構成の全てを炭素繊維シート5と共に外側から覆うように気密シート33が設けられる。
上記の間隔保持部材31と通気部材32とは通気路を構成するものであり、炭素繊維シート5の陽極反応により酸素ガスや塩素ガスが発生した場合に、この通気路により、これらのガスを気密シート33の外側に導くものである。前記間隔保持部材31及び前記通気部材32は、接着剤あるいは固定具により固定される。また前記気密シート33は、例えば、アラミド繊維などにより形成された非導電性シートを使用することができて、接着剤により固定される。前記充填材層24は不働態被膜の破壊を抑制するための不働態保護剤と電解質とを含むものである。なお、防食補強コンクリート組立体の鋼材を陰極とし、炭素繊維シートを陽極として通電するための構成は、図4で説明したものと同じ構成が採られる。
【0043】
以上のように炭素繊維シート5の外側全面が気密シート33で被覆されることにより、酸素、水および塩化物イオン等が気密シート33よりも内側へ浸透することができず、鉄筋コンクリート構造物3のみならず炭素繊維シート5も塩化物イオン等による劣化から保護され得る。そして、同時に、気密シート33と炭素繊維シート5との間には、間隔保持部材31と通気部材32とによる通気路が設けられているので、この通気路を通って酸素ガスや塩素ガスなどは気密シート33の外側に排出される。
【0044】
以上、図5を参照して説明した防食補強コンクリート組立体を構築する際には、上記図1〜図4を参照して説明した組立方法に加えて、炭素繊維シート5を挟んで充填材層24に対向する位置に間隔保持部材31と通気部材32とを配置して通気路を形成する工程を行ない、次いで、遮水性と気密性を有する気密シート33で炭素繊維シート5の全面を被覆する工程を行なうことにより、図5の防食補強コンクリート組立体が形成される。
【0045】
【発明の効果】
本発明の防食補強コンクリート組立体では、前記コンクリート構造物表面と前記炭素繊維シートとの間に、不働態保護剤と電解質とを含む充填材層が設けられるので、この充填材層では電荷移動反応が効率良く進められ得る。
本発明の防食補強コンクリート組立体では、接着剤層と充填材層とが重ならないように、コンクリート表面上に別々に区分けして配置されるので、炭素繊維シートは接着剤層によりコンクリート構造物表面に強固に付着されて一体となり、コンクリート構造物の耐力補強がなされる一方で、充填材層では導電性能に優れた電解質や、不働態被膜の破壊を抑制するための不働態保護剤の使用が可能になり、コンクリート構造物に安定した電位分布をもたらすことができ、従来と比較すると低い電圧で防食達成が可能になる。また接着剤層と充填材層の面積比は容易に調整可能であるため、電気防食効果と耐力補強効果とをそれぞれ自在に調整することが可能になった。
さらに、本発明の防食補強コンクリート組立体では、遮水性と気密性を有する気密シートで炭素繊維シートの全面が被覆されると共に、炭素繊維シートを挟んで充填材層に対向する位置に外気へ連通する通気路が設けられているので、酸素、水および塩化物イオン等が気密シートよりも内側へ浸透することができず、コンクリート構造物のみならず炭素繊維シートも塩化物イオン等による劣化から保護され、さらに、炭素繊維シートの陽極反応により発生した酸素ガスや塩素ガスは通気路を通って外側に放出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の防食補強コンクリート組立体の構成を説明するための図である。
【図2】本発明の防食補強コンクリート組立体の構成を説明するための図である。
【図3】本発明の防食補強コンクリート組立体の構成を説明するための断面図である。
【図4】本発明の防食補強コンクリート組立体の一例を示す図である。
【図5】本発明の防食補強コンクリート組立体の異なる実施態様を示す一部拡大断面図である。
【符号の説明】
1 防食補強コンクリート
2 鉄筋
3 鉄筋コンクリート構造物
5 炭素繊維シート
6 エポキシ系樹脂接着剤
7 炭素繊維シート
8 電源装置
9a 排流端子
9b リード線
10 照合電極
11 電圧計
12 測定端子
22 接着剤層
24 充填材層

Claims (9)

  1. コンクリート及び該コンクリート内に設けられた鋼材を含むコンクリート構造物と、該コンクリート構造物の表面上に設けられた炭素繊維シートと、該鋼材及び該炭素繊維シートに接続された通電手段とを備え、
    前記炭素繊維シートは不働態被膜を有する耐酸化金属により炭素繊維が被覆されたものであり、
    前記コンクリート構造物表面と前記炭素繊維シートとの間に、前記不働態被膜の破壊を抑制するための不働態保護剤と電解質とを含む充填材層が設けられ、該充填材層により前記コンクリート構造物と前記炭素繊維シートとが一体化させられた防食補強コンクリート組立体。
  2. 前記充填材層に加えて、前記コンクリート構造物表面と前記炭素繊維シートとの間には、両者の付着を更に強化するための接着剤層が設けられ、該接着剤層と前記充填材層とは区分けして配置されたことを特徴とする請求項1に記載の防食補強コンクリート組立体。
  3. 遮水性と気密性を有する気密シートで前記炭素繊維シートの全面が被覆されると共に、前記気密シートと前記炭素繊維シートとの間において、前記炭素繊維シートを挟んで前記充填材層に対向する位置に外気へ連通する通気路が設けられたことを特徴とする請求項2に記載の防食補強コンクリート組立体。
  4. 前記通気路は、前記気密シートと前記炭素繊維シートとの間に設けられた間隔保持部材と通気部材とを備えることを特徴とする請求項3に記載の防食補強コンクリート組立体。
  5. 前記充填材層が、セメントと水酸化物と水とを含む混合物、またはベントナイトと水酸化物と水とを含む混合物である請求項1から4のいずれか一項に記載の防食補強コンクリート組立体。
  6. 前記充填材層と前記接着剤層とは、前記炭素繊維シートの繊維方向に延びる縞模様状に配置されたことを特徴とする請求項5に記載の防食補強コンクリート組立体。
  7. 請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の防食補強コンクリート組立体の該鋼材を陰極とし、該炭素繊維シートを陽極とするように通電することを特徴とする防食補強コンクリート組立体の防食方法。
  8. コンクリート及び該コンクリート内に設けられた鋼材を含むコンクリート構造物の表面において、不働態保護剤と電解質とを含む充填材層が縞模様状に設けられる予定の箇所を囲み且つ該予定箇所が残されるように接着剤層を設け、不働態被膜を有する耐酸化金属で被覆された炭素繊維シートを前記接着剤層によりコンクリート構造物の表面に貼付し、前記充填材層が設けられる予定箇所に連通するように前記炭素繊維シートに管体を貫通させ、前記充填材を前記管体を通して前記炭素繊維シートと前記コンクリート構造物表面との間に注入し、前記鋼材を陰極とし前記炭素繊維シートを陽極とするよう通電手段を接続することを特徴とする防食補強コンクリート組立体の組立方法。
  9. コンクリート及び該コンクリート内に設けられた鋼材を含むコンクリート構造物の表面において、不働態保護剤と電解質とを含む充填材層が縞模様状に設けられる予定の箇所を囲み且つ該予定箇所が残されるように接着剤層を設け、不働態被膜を有する耐酸化金属で被覆された炭素繊維シートを前記接着剤層によりコンクリート構造物の表面に貼付し、前記充填材層が設けられる予定箇所に連通するように前記炭素繊維シートに管体を貫通させ、前記充填材を前記管体を通して前記炭素繊維シートと前記コンクリート構造物表面との間に注入し、前記鋼材を陰極とし前記炭素繊維シートを陽極とするよう通電手段を接続し、前記炭素繊維シートを挟んで前記充填材層に対向する位置に通気路を形成するための手段を配置し、遮水性と気密性を有する気密シートで前記炭素繊維シートの全面を被覆することを特徴とする防食補強コンクリート組立体の組立方法。
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