JP3728086B2 - 防食補強コンクリート組立体及び組立方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、防食補強コンクリート組立体並びにその防食方法及び組立方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
鉄筋コンクリート(RC)構造物及びプレストレスドコンクリート(PC)構造物等のコンクリート構造物においては、酸素、水、及び塩化物イオン等の浸透によって、鉄筋あるいは鋼材の腐食が発生する。鋼材等が腐食すると腐食生成物によりコンクリートにひび割れが発生し、腐食をさらに加速させ、最終的にはコンクリート構造物の強度等が低下する。
【0003】
コンクリート構造物における鋼材等の腐食を防止する極めて有効な方法として、電気防食法がある。電気防食法とは、金属を電気化学的に安定な電位領域に変化させ腐食を停止させることをいい、特にコンクリート構造物においては、コンクリート構造物中の鋼材等の電位を、外部電源等により強制的に変化させることによって鋼材等の腐食を停止させることをいう。即ち、電位を変化させない状態におけるコンクリート構造物中の鋼材等の表面ではアノード反応(酸化反応)及びカソード反応(還元反応)が同時並行的に起こり腐食電池を形成してその結果鉄水和酸化物等が発生し腐食が起こるのに対し、鋼材等の電位を変化させることにより、鋼材等の表面でカソード反応のみが起こる状態とすることができ、その結果鉄水和酸化物等の発生を防止することができる。
【0004】
電気防食法を行うためには、一般的にはコンクリート表面に陽極を設け、一方鋼材等を陰極とする。これによりコンクリートを介して鋼材へ電流を供給して鋼材の電位を卑方向に変化させ、防食を実現する。
【0005】
コンクリート表面に設ける陽極の材料には、電気伝導性が高いこと、安定性、耐久性、経済性に優れること、及び施工が簡便であること等の性能が求められる。現在実用化されている陽極としては、白金系金属酸化物を表面に被覆したチタン線、亜鉛、炭素繊維線等が使用されている。
【0006】
しかしながら、これらの線状陽極を用いて電気防食を行うと、コンクリートの表面に電位分布の不均一が生じたり、また、コンクリート表面と電極とが接する部分での電圧が大きくなるために塩素ガスが発生する等の問題が生じる。
【0007】
また、鋼材等が腐食しているコンクリート構造物に対し、その耐力を補強するために補修を行う際に、併せて電気防食のための装置を設け、補修後に電気防食を行ってさらなる鋼材の腐食を停止させることが行われる。しかしながら、このような電気防食のための装置を設ける工程は、従来コンクリート構造物の耐力を補強するための補修とは別個独立に行われているのが現状である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、電気防食を行う際コンクリートの表面の電位分布が均一となり、塩素ガス等の発生を低減することができ、通電する電圧を高くしなくても防食が達成され、且つ強度等に優れたコンクリート組立体を提供することにある。
【0010】
本発明の別の目的は、既存のコンクリート構造物を簡便な方法で補強し、且つコンクリートの表面の電位分布が均一となり、塩素ガス等の発生を低減することができ、通電する電圧を高くしなくても防食が達成される電気防食を行えるようにする、防食補強コンクリート組立体の組立方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、コンクリート及び該コンクリート内に設けられた鋼材を含むコンクリート構造物、該コンクリート構造物表面上に設けられた、導電性接着剤と、シートの長さ方向に炭素繊維を延長して並べた、体積抵抗率が5×10-4〜1×10-3Ω・cmである、炭素繊維シート、又は該炭素繊維シートを備えた接着剤含浸炭素繊維シートとからなる陽極用導通部、並びに前記鋼材と前記陽極用導通部の前記炭素繊維シートの端部とに接続された通電手段を含み、且つ前記鋼材を前記通電手段の陰極に、前記陽極用導通部を前記通電手段の陽極に接続した防食補強コンクリート組立体が提供される。
【0013】
さらに本発明によれば、コンクリート及び該コンクリート内に設けられた鋼材を含む既存のコンクリート構造物の表面上に、シートの長さ方向に炭素繊維を延長して並べた、体積抵抗率が5×10-4〜1×10-3Ω・cmである、炭素繊維シートを導電性接着剤を介して貼付し、導電性接着剤と炭素繊維シートとからなる陽極用導通部を設け、前記鋼材を陰極とし前記陽極用導通部の炭素繊維シートの端部を陽極とするよう通電手段を接続することを特徴とする請求項1に記載の防食補強コンクリート組立体の組立方法が提供される。
さらにまた本発明によれば、コンクリート及び該コンクリート内に設けられた鋼材を含む既存のコンクリート構造物の表面上に、シートの長さ方向に炭素繊維を延長して並べた、体積抵抗率が5×10-4〜1×10-3Ω・cmである、炭素繊維シートを導電性接着剤を介して貼付し、該貼付した炭素繊維シートに含浸用接着剤を含浸させ、導電性接着剤と接着剤含浸炭素繊維シートとからなる陽極用導通部を設け、前記鋼材を陰極とし前記陽極用導通部の炭素繊維シートの端部を陽極とするよう通電手段を接続することを特徴とする請求項1に記載の防食補強コンクリート組立体の組立方法が提供される。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の防食補強コンクリート組立体は、コンクリート及び該コンクリート内に設けられた鋼材を含むコンクリート構造物を含む。
【0015】
前記コンクリートは、セメント、水、細骨材及び粗骨材等を含む通常のコンクリートに加えモルタル、セメントペースト等を硬化させたものをも含む。
【0016】
前記鋼材とは、広くコンクリート内に設けられる金属をいい、RC中に設けられる鉄筋及びPC中に設けられる鋼材等の、コンクリートの耐久性等を高める等の目的でコンクリート内に設けられる金属を含む。
【0017】
本発明の防食補強コンクリート組立体は、コンクリート構造物表面上に設けられた、導電性接着剤と、シートの長さ方向に炭素繊維を延長して並べた、体積抵抗率が5×10-4〜1×10-3Ω・cmである、炭素繊維シート、又は該炭素繊維シートを備えた接着剤含浸炭素繊維シートとからなる陽極用導通部を含む。
【0018】
前記炭素繊維シートとは、炭素繊維を含み、電気防食を行う際に陽極として使用した場合、貼付した面の電位分布が均一となる形状を有するものである。具体的には、シートの長さ方向に延長する直径7〜10μmの炭素繊維を、幅方向1mあたり1千万本以上並べて織込んだシートであって、厚さが0.05〜0.2mmのものを挙げることができる。このような炭素繊維シートとしては、例えば「TUクロス」(商品名、日本石油(株)製)を用いることができる。
【0020】
前記炭素繊維シートの引張強度は、約30,000kgf/cm2以上、特に約35,000〜72,000kgf/cm2以上、また引張弾性係数は約2.35×106〜8.00×106kgf/cm2であることが、強度の高い防食補強コンクリート組立体を得ることができるために好ましい。
【0021】
前記炭素繊維シートは、コンクリート構造物表面上に、炭素繊維の引張強度がコンクリート構造物を補強する方向となるように設けられることが好ましい。さらに、必要に応じ、十分な補強を達成するために、炭素繊維シートを、コンクリート構造物表面上に2層以上設けることができる。
【0022】
前記炭素繊維シートをコンクリート構造物表面上に設ける態様としては、コンクリート表面上に電流を分配できる態様であれば特に限定されないが、導電性接着剤によりコンクリート構造物表面上に貼付することが、コンクリート構造物を補強しながら導電性を確保できるために好ましい。
【0023】
前記導電性接着剤は、硬化した際の体積抵抗率が10Ω・cm以下であり、硬化した際にコンクリート表面と前記炭素繊維シートとの間において20kgf/cm2以上の接着強度が得られることが好ましい。
【0024】
前記導電性接着剤としては、具体的には例えば銀、炭素等の導電性を有する粉末を含むエポキシ樹脂等の樹脂を挙げることができる。前記樹脂中の前記粉末の含有割合は、60〜90重量%であることが好ましい。
【0025】
また、前記炭素繊維シートをコンクリート構造物表面上に設ける際には、前記炭素繊維シートを前記導電性接着剤によりコンクリート構造物表面上に貼付した後、さらに他の含浸用接着剤を繊維の中に含浸させ、接着剤含浸炭素繊維シートとすることが、炭素繊維シートの接着強度及び耐久性を向上させることができるため好ましい。前記他の含浸用接着剤としては、エポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0026】
本発明の防食補強コンクリート組立体は、前記鋼材及び前記陽極用導通部に接続された通電手段を含む。
【0027】
前記通電手段としては、防食電流を供給することができるものであれば特に限定されず、市販のもの等の各種の直流安定化電源装置等を用いることができる。
【0028】
前記鋼材への前記通電手段の接続は、例えば、前記鋼材に被覆リード線をスポット溶接、ねじ止め等で接続して設けた排流端子等と、前記通電手段とを接続することにより行うことができる。
【0029】
前記陽極用導通部への前記通電手段の接続は、前記炭素繊維シートの端部等にねじ止め等で接続したリードと、前記通電手段とを接続することにより行うことができる。
【0030】
本発明の防食補強コンクリート組立体は、必要に応じて、電気防食における防食電流量の調整や防食効果を確認するための鉄筋電位の確認等のため、照合電極を含むことができる。前記照合電極としては、塩化銀電極又は鉛電極等を用いることができる。前記照合電極は、前記コンクリート構造物中の、前記鋼材の近傍に設けることが好ましい。
【0031】
本発明の防食補強コンクリート組立体は、新たにコンクリート構造物を建造するにあたり組み立てることができるが、既存のコンクリート構造物の補修として、既存のコンクリート構造物の表面上に炭素繊維シートを導電性接着剤を介して貼付し、導電性接着剤と接着剤含浸炭素繊維シートとからなる陽極用導通部を設け、既存のコンクリート中の鋼材を陰極とし前記陽極用導通部を陽極とするよう通電手段を接続することにより組み立てることもできる。
【0032】
既存のコンクリート構造物の補修として本発明の防食補強コンクリート組立体を組み立てる場合は、前記炭素繊維シートの貼付に先立ち、コンクリート構造物中の鋼材に排流端子等を設け、又コンクリート構造物中に前記照合電極を設けることが好ましい。また、コンクリート構造物中の全ての鋼材が電気的に導通しているかを確認し、必要に応じて溶接等により鋼材を導通させることが好ましい。そして、コンクリート構造物表面に付着している汚れやレイタンス等を、サンドブラストや超高圧ウォータージェット等で取り除き、さらにコンクリートの粉末を圧縮空気で取り除く等の処理を行うことが好ましい。
【0033】
前記炭素繊維シートの貼付は、乾燥したコンクリート構造物表面に前記導電性接着剤をローラー刷毛やゴムべら等で均一に下塗りした後直ちに前記炭素繊維シートを付着させ、さらにシート表面を繊維方向へゴムべら等でしごき、さらに前記含浸用の接着剤を含浸させることにより行うことができる。
【0034】
本発明の防食補強コンクリート組立体の防食方法では、前記防食補強コンクリート組立体の該鋼材を陰極とし該陽極用導通部を陽極とするよう通電する。
【0035】
前記通電する際の好ましい通電量は、防食補強コンクリート組立体の構造等に応じて異なるため、通電試験によって決定することが好ましい。具体的には、以下の手順により決定することができる。
【0036】
1)前記鋼材の自然電位を測定する。
【0037】
2)分極試験により、通電電流量と前記鋼材の電位との関係を求める。
【0038】
3)自然電位からの所要分極量を得るための通電電流量を求める。
【0039】
4)3)で求められた通電電流量で24時間以上通電する。
【0040】
5)復極試験により、所定の復極量(100mV以上)が得られるか確認する。
【0041】
【発明の効果】
本発明の防食補強コンクリート組立体は、特定の構造を有するため、電気防食を行う際コンクリートの表面の電位分布が均一となり、塩素ガス等の発生を低減することができ、通電する電圧を高くしなくても防食が達成され、且つ強度等に優れたコンクリート組立体となる。
【0043】
本発明の防食補強コンクリート組立体の組立方法は、既存のコンクリート構造物に特定の構造を設け前記特定の防食補強コンクリート組立体とする組立方法であるため、既存のコンクリート構造物を、電気防食を行う際コンクリートの表面の電位分布が均一となり、塩素ガス等の発生を低減することができ、通電する電圧を高くしなくても防食が達成され、且つ強度等に優れたコンクリート組立体として補修することができる。
【0044】
【実施例】
以下、実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
既存の鉄筋コンクリート構造物に、図1に模式的に示されるように炭素繊維シート、電源装置等を設け、防食補強コンクリート組立体1を組み立てた。
【0046】
まず、陽極設置前処理工として、既存の鉄筋コンクリート3(長さ2.25m、幅1.99m、厚さ0.21mで、長さ方向に延長するD19鉄筋ST345をかぶり30mm、ピッチ150mmの間隔で内部に有するRC橋梁床板)の劣化部をはつり、コンクリートの表面金属を除去し、セメントペーストでコンクリートの表面を下地処理した。コンクリート中の鉄筋2にリード線をスポット溶接により接続し、排流端子9及び測定端子12を設けた。さらに、鉄筋にプラスチックバンドで塩化銀照合電極10を固定した。また、コンクリート構造物中に存在する鉄筋2の全てが電気的に導通しているかどうかを測定し、導通していない鉄筋があれば溶接して接続し全ての鉄筋を導通させた。
【0047】
次に、陽極設置工として、コンクリート構造物3の底面に付着している汚れやレイタンス等をサンドブラストや超高圧ウォータージェット等で取り除き、コンクリートの粉末を圧縮空気で取り除いた。コンクリートの表面が乾燥した後、コンクリート表面に炭素エポキシ系導電性接着剤4(エポキシ樹脂:炭素粉末=2:8の混合物)をローラー刷毛やゴムべら等で均一に塗布した後、直ちに炭素繊維シート(商品名「TUクロス」、日本石油株式会社製)5を貼り付け、シート表面を繊維方向へゴムべらでしごき、さらにその上からエポキシ系樹脂接着剤6(日本石油株式会社製、商品名「ボンドE200P」)を繊維の中に含浸させた。炭素繊維シートの端部をねじ止めでリード7と接続した後、直流電圧計を用いて、設置した炭素繊維シート陽極が電気的に導通していることを確認した。
【0048】
さらに、防食回路形成工として、直流電源装置8を収納する電源ボックスをコンクリート製の台座にアンカーボルトで固定した。排流端子9が陰極側となり、リード線7が陽極側となるよう、これらと直流電源装置8とを接続した。接続のための線及び接続箇所等は全て絶縁材と防水材で処理した。
【0049】
このようにして形成した本発明の防食補強コンクリート組立体について、直流電源装置8及び電圧計11を用いて分極試験を行ったところ、10mA/m2で所要の分極量(100mV以上)が得られることが分かった。
【0050】
この通電量にて1時間通電を行った。通電中、陽極表面においては、塩素ガスの発生は見られなかった。また、24時間通電後、復極試験を行ったところ、100mV以上の復極量が得られることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の防食補強コンクリート組立体の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
1;防食補強コンクリート
2;鉄筋
3;鉄筋コンクリート構造物
4;導電性接着剤
5;炭素繊維シート
8;電源装置
9;排流端子
10;照合電極
11;電圧計
12;測定端子
Claims (3)
- コンクリート及び該コンクリート内に設けられた鋼材を含むコンクリート構造物、
該コンクリート構造物表面上に設けられた、導電性接着剤と、シートの長さ方向に炭素繊維を延長して並べた、体積抵抗率が5×10-4〜1×10-3Ω・cmである、炭素繊維シート、又は該炭素繊維シートを備えた接着剤含浸炭素繊維シートとからなる陽極用導通部、並びに
前記鋼材と前記陽極用導通部の前記炭素繊維シートの端部とに接続された通電手段を含み、且つ前記鋼材を前記通電手段の陰極に、前記陽極用導通部を前記通電手段の陽極に接続した防食補強コンクリート組立体。 - コンクリート及び該コンクリート内に設けられた鋼材を含む既存のコンクリート構造物の表面上に、シートの長さ方向に炭素繊維を延長して並べた、体積抵抗率が5×10-4〜1×10-3Ω・cmである、炭素繊維シートを導電性接着剤を介して貼付し、導電性接着剤と炭素繊維シートとからなる陽極用導通部を設け、前記鋼材を陰極とし前記陽極用導通部の炭素繊維シートの端部を陽極とするよう通電手段を接続することを特徴とする請求項1に記載の防食補強コンクリート組立体の組立方法。
- コンクリート及び該コンクリート内に設けられた鋼材を含む既存のコンクリート構造物の表面上に、シートの長さ方向に炭素繊維を延長して並べた、体積抵抗率が5×10-4〜1×10-3Ω・cmである、炭素繊維シートを導電性接着剤を介して貼付し、該貼付した炭素繊維シートに含浸用接着剤を含浸させ、導電性接着剤と接着剤含浸炭素繊維シートとからなる陽極用導通部を設け、前記鋼材を陰極とし前記陽極用導通部の炭素繊維シートの端部を陽極とするよう通電手段を接続することを特徴とする請求項1に記載の防食補強コンクリート組立体の組立方法。
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