図1乃至図8は、本発明の杭打機の一形態例を示すもので、杭打機11は、図1に示すように、クローラ12aを備えた下部走行体12と、該下部走行体12上に旋回可能に設けられた上部旋回体13とで構成されたベースマシン14と、上部旋回体13の前部に立設したリーダ15と、該リーダ15を後方から支持するリーダ用の起伏シリンダ16とを備えている。また、上部旋回体13の前部には、リーダ15を起伏可能に支持するフロントブラケット17が設けられ、上部旋回体13の前部上方には、油圧配管を支持する配管支持部材18が設けられている。さらに、上部旋回体13の右側部には運転室19が、左側部にはエンジンや油圧ユニットを収納した機器室20がそれぞれ設けられている。また、上部旋回体13の前後左右の4箇所には、フロントジャッキ21及びリヤジャッキ22がそれぞれ設けられている。
リーダ15は、断面が角筒状に形成された複数のリーダ部材を互いに着脱可能に連結したもので、後面に設けられたシリンダブラケット23に起伏シリンダ16のシリンダロッド16aが接続ピン24を介して回動可能に連結されている。また、リーダ15は、前記フロントブラケット17に設けられたベースマシン幅方向の支軸25に回動可能に取り付けられた基本リーダ26と、該基本リーダ26の上部に連結された上部リーダ27と、基本リーダ26の下部に連結された下部リーダ28とに分割形成され、さらに、上部リーダ27は、上部第1部材27a、上部第2部材27b、上部第3部材27c、上部第4部材27d及び上部第5部材27eの各リーダ部材に分割形成されている。
各リーダ部材は、隣接する部分において、ボルト・ナットによる締結がなされるフランジ結合部29を有して形成されている。また、各フランジ結合部29は、ボルト孔のサイズ及び配置ピッチを全て共通にして形成されており、ボルト・ナットを外すことによってリーダ長さの異なる仕様に組み替え可能になっている。さらに、上部リーダ27の上端部にはトップシーブブロック30が、下部リーダ28の下部前方には振止部材31がそれぞれ配置されており、リーダ15の前面側中央には、ラックピニオン式昇降装置の構成品の一つであるラックギヤ32が、幅方向両側面の前端部には、ガイド部材である左右一対のガイドパイプ33が、リーダ15の全長にわたってそれぞれ連続的に設けられている。
ラックギヤ32は、縦長な板状部材の両側端面に歯列32aを有するとともに、各フランジ結合部29に対応する位置で上下に分割され、基本リーダ26の長さに対応する長さを有した基本ラックギヤ部材32bと、上部リーダ27の各リーダ部材27a,27b,27c,27d,27eの長さに対応する長さを有した複数の上部ラックギヤ部材32cと、下部リーダ28の長さに対応する長さを有した下部ラックギヤ部材32dとからなる。したがって、各ラックギヤ部材32b,32c,32dは、これらに対応するリーダ部材と共に一体で分離・結合が可能になっている。
作業装置となるオーガ34は、その後面側に、前記ガイドパイプ33に摺接する係合部材である左右一対のガイドギブ35が後方に突出して設けられるとともに、前記ラックギヤ32に歯合する上下多段の左右一対のピニオンギヤ36をピニオン駆動装置である昇降用油圧モータ37でそれぞれ回転駆動することにより、リーダ15の前面に沿って昇降する。この杭打機11を地盤改良を目的として使用する場合には、下端に掘削具を備えた掘削ロッドをオーガ34に装着し、該オーガ34によって掘削ロッドを回転駆動するとともに、昇降用油圧モータ37を作動させてラックギヤ32を介してオーガ34をリーダ15に沿って下降させながら、掘削ロッドの上端に設けたスイベルジョイントを介してホースからセメントミルクを地中に注入することによって行われる。
このように形成された杭打機11を輸送する際には、あらかじめ、オーガ34を下部リーダ28の部分に降下させた後、基本リーダ26及び下部リーダ28間のフランジ結合部29においてボルトを外して解除を行うとともに、起伏シリンダ16を縮小作動させて基本リーダ26及び上部リーダ27を一体で後方に倒伏させた輸送姿勢とする。ここで、輸送車の荷台には、車両を自走によって積み込み又は積み下ろしすることから、地面と荷台との段差を解消する登坂板の傾斜角度よりも大きな角度が、つまり地面とオーガ34下端との干渉を回避可能な登坂角度が得られるまでオーガ34を下部リーダ28の前面に沿って上昇させることとなる。そこで、図2乃至図4に示すように、下部リーダ28の上端部には、基本リーダ26の離反によってなくなった基本ラックギヤ部材32b及び左右一対のガイドパイプ33,33を補うための補完ラックギヤ部材39及び左右一対の補完ガイドパイプ40,40を有するアダプタリーダ38が取り付けられる。
アダプタリーダ38は、着脱可能な輸送用治具として、下部リーダ28に保持されたオーガ34を昇降可能にするための補完ラックギヤ部材39及び左右一対の補完ガイドパイプ40,40を主要構成部材とする小型で軽量な溶接構造であって、下部リーダ28の上面前部に複数のボルト41及びナット42で固定されるボルト孔43aを有した下板43と、中央に吊り上げ用の吊り部44aが設けられた上板44と、下部リーダ28の下部ラックギヤ部材32d及び左右一対のガイドパイプ33,33の位置に対応してそれぞれ配置され、上下板43,44間をつなぐように設けられたギヤ板固定部45及び左右一対の補完ガイドパイプ40,40とを有して形成され、背板46や複数の補強板47によって全体として剛性が高められている。そして、補完ラックギヤ部材39が複数のボルト48でギヤ板固定部45に固定されることにより、アダプタリーダ38の取り付け時に、ガイドパイプ33及び補完ガイドパイプ40同士が一体的に連結されるとともに、下部ラックギヤ部材32dの上端と補完ラックギヤ部材39の下端とが互いに接近した状態となる。これにより、上下の歯列32a,39a同士の突き合わせ部分には、ピニオンギヤ36の歯に対応する等ピッチの連結歯列49が形成される。
また、上板44の高さ位置は、アダプタリーダ38を取り付けた状態で、基本リーダ26の上面の高さPよりも若干低くなるように設定されている。さらに、ギヤ板固定部45に固定された補完ラックギヤ部材39についても、その上端部の位置が高さPを超えない長さで形成されている。これにより、アダプタリーダ38全体として、その高さが輸送時の全高を飛び出さない程度に確保されている。また、下板43のボルト孔43aは、基本リーダ26と下部リーダ28とのフランジ結合がなされるボルト孔の位置に対応して設けられており、アダプタリーダ38の取り付けに使用されるボルト41及びナット42は、このフランジ結合に使用されたものの一部が用いられている。
ここで、杭打機11の輸送方法について、図5乃至図8を参照しながら説明する。まず、図5に示すように、あらかじめ、下部リーダ28の下端部から振止部材31及びストッパ50を取り外し、オーガ34を下部リーダ28の部分に降下させた後、基本リーダ26及び下部リーダ28間のフランジ結合部29においてボルトを外して解除を行い、基本リーダ26から上の部分を後方に倒伏させた輸送姿勢とする。このとき、オーガ34は、上中下の3段のピニオンギヤ対(全部で6個のピニオンギヤ)の全てのピニオンギヤ36a,36b,36cを下部ラックギヤ部材32dに噛合させた状態で下部リーダ28の前面に保持されている。また、下部リーダ28は、フロントブラケット17の前下部に斜め下方に突出して設けられたリンク連結片17aのピン孔と、下部リーダ28に設けられたリンク51の先端のピン孔とを一致させた状態で、連結ピン52及びベータピン53によって固定されているため、連結軸54回りの回動が規制されて起立状態に保持されている。
次いで、用意したアダプタリーダ38の吊り部44aにワイヤロープを取り付けた後、図6に示すように、クレーンの巻き上げ操作によって吊り上げたアダプタリーダ38を下部リーダ28の上面前部に配置し、複数のボルト41及びナット42で固定する。これにより、上下のガイドパイプ33及び補完ガイドパイプ40同士が一体的に連結されるとともに、下部ラックギヤ部材32dの上端と補完ラックギヤ部材39の下端とが互いに接近した等ピッチの状態となり、上下の歯列32a,39a同士の突き合わせ部分に連結歯列49が形成される。
次いで、図7に示すように、補完ラックギヤ部材39及び下部ラックギヤ部材32dに噛合する各ピニオンギヤ36a,36b,36cの回転により、オーガ34を設定高さ位置に上昇させる。ここで、「設定高さ位置に上昇させる」とは、例えば、クローラ12aの接地部の前端とフロントジャッキ21の下端とを結ぶ直線が地面との間になす角度A(デパーチャアングル)を基準とした場合に、オーガ34の下端34aの位置が角度A(例えば略19度)をなす直線よりも高位置にあることを意味する。これにより、車両を輸送車の荷台に積み込む際に、登坂板の傾斜角度(例えば略15度)よりも大きな角度が、つまり地面とオーガ34の下端34aとの干渉を回避可能な十分な登坂角度が得られる。また、この状態では、ガイドギブ35の上部が補完ガイドパイプ40に係合しているので、オーガ34の前後方向のガタつきも抑制されている。
次いで、オーガ34を前記設定高さ位置に保持したままで、自走によって輸送車の荷台に搭載した後、図8に示すように、下部リーダ28の下端部にストッパ50を取り付け、枕木55で下部リーダ28の下端を支持する。そして、オーガ34を輸送高さ位置に降下させることにより、輸送車への積み込みが完了し、この状態で目的地まで輸送される。すなわち、着脱可能なアダプタリーダ38を備えることによって、オーガ34を車体に保持した状態のままで輸送することが可能となる。こうして、別の現場に搬入された杭打機11は、上述と逆の手順で輸送車の荷台から下ろされ、アダプタリーダ38が取り外された後、基本リーダ26から上の部分を前方に起仰させた使用状態に組み立てられる。
このように、基本リーダ26から上の部分を後方に倒伏させた輸送姿勢で、下部リーダ28の上端部に、補完ラックギヤ部材39を有したアダプタリーダ38を取り付け、補完ラックギヤ部材39及び下部ラックギヤ部材32dに噛合するピニオンギヤ36の回転により、オーガ34を下部リーダ28の前面に沿って昇降可能に構成しているので、比較的に大きなオーガ34であっても、輸送車への積み込み積み下ろしの際に、地上から高い位置でオーガ34を保持することが可能となり、十分な登坂角度を確保することができる。また、下部リーダ28とアダプタリーダ38との互いのラックギヤ部材32d,39が合うのでピニオンギヤ36を円滑に昇降させることができる。
また、補完ラックギヤ部材39の上端部の位置が、アダプタリーダ38を下部リーダ28に取り付けた状態で、基本リーダ26の高さPを超えない長さで形成されているので、輸送車の荷台上で全高を低く抑えた状態を維持することができ、輸送中の安全も確保される。さらに、アダプタリーダ38の上部に吊り上げ用の吊り部44aを設けているので、下部リーダ28の前部にオーガ34が存在しているような込み入った状況であっても、アダプタリーダ38の着脱を安全に行うことができ、さらには小型で軽量な溶接構造と相俟って、現場での取り扱いが極めて容易な輸送用治具の構造を得ることができる。
なお、本発明は、前記形態例に限定されるものでなく、アダプタリーダは、車両の積み込み積み下ろし時に、必要な登坂角度が得られる設定高さ位置にオーガを保持可能に構成できればよく、例えば、補完ガイドパイプの長さを補完ラックギヤ部材の長さよりも短くしたり、補完ガイドパイプ自体をなくしたりするなど、アダプタリーダが取り付けられる杭打機の形式や構造に応じて適宜に変更することができる。また、本形態例では、アダプタリーダを比較的に薄い鋼板で構成して安価で製作を容易なものとしたが、これに限られず、例えば、補完ラックギヤ部材の板厚を下部ラックギヤ部材の板厚と同一になるように大きくして、上下の歯列の突き合わせ部分に板厚差のないラックギヤ部材同士からなる連結歯列を形成してもよい。