以下、例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1には、本実施形態に係る冷却システム60(図3参照)が適用された過給機付エンジン1(以下、単にエンジン1という)の構成を示す。エンジン1は、燃焼室17が吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程を繰り返すことにより運転する4ストロークエンジンである。エンジン1は、四輪の車両(ここでは、自動車)に搭載される。エンジン1が運転することによって、車両は走行する。エンジン1の燃料は、この構成例においてはガソリンを主成分とする液体燃料である。
(エンジンの構成)
エンジン1は、シリンダブロック12と、その上に載置されるシリンダヘッド13とを有するエンジン本体10を備えている。エンジン本体10は、シリンダブロック12の内部に複数の気筒11(シリンダボア)が形成された多気筒エンジンである。図1では、一つの気筒11のみを示す。エンジン本体10の他の気筒11は、図1の紙面に垂直な方向に並んでいる。
各気筒11内には、ピストン3が摺動自在に内挿されている。ピストン3は、コネクティングロッド14を介してクランクシャフト15に連結されている。ピストン3は、気筒11及びシリンダヘッド13と共に燃焼室17を区画する。具体的には、ピストン3は燃焼室17の底壁部を構成し、気筒11は燃焼室17の側壁部を構成し、シリンダヘッド13の気筒11側の壁部13a(以下、ヘッド壁部13aという)は、燃焼室17の天井部を構成する。尚、「燃焼室」は、ピストン3が圧縮上死点に至ったときの空間の意味に限定されない。「燃焼室」の語は広義で用いる場合がある。つまり、「燃焼室」は、ピストン3の位置に関わらず、ピストン3、気筒11及びシリンダヘッド13によって形成される空間を意味する場合がある。
シリンダブロック12における各気筒11の周囲には、ブロック側ウォータジャケットが設けられている。ブロック側ウォータジャケットには、気筒11を冷却するエンジン冷却液が流通している。つまり、ブロック側ウォータジャケットは、気筒11(シリンダボア)を冷却するためにエンジン冷却液が流通するボア通路63を構成する。本実施形態では、図2に示すように、ボア通路63には、ウォータジャケットスペーサ12aが配置されている。ウォータジャケットスペーサ12aにより、エンジン冷却液を、気筒11に出来る限り近い領域に流通させることができるとともに、エンジン冷却液を不図示のヒータコア等に送るための通路に適宜分岐させることができるようになっている。
エンジン冷却液は、ボア通路63を通った後、シリンダヘッド13内に設けられたヘッド側ウォータジャケットに流入する。図2に示すように、ヘッド側ウォータジャケットは、燃焼室17の直上及び後述の排気ポート19の周囲に形成されている。つまり、ヘッド側ウォータジャケットは、シリンダヘッド12の燃焼室17近傍の部分、特に、ヘッド壁部13aを冷却するためにエンジン冷却液が流通するヘッド通路64を構成する。詳しくは後述するが、ヘッド通路64を通過したエンジン冷却液は、ラジエータ通路65及びラジエータ迂回通路66に分岐する。
シリンダヘッド13には、気筒11毎に、吸気ポート18が形成されている。吸気ポート18は、燃焼室17に連通している。吸気ポート18には、吸気弁21が配設されている。吸気弁21は、燃焼室17と吸気ポート18との間を開閉する。吸気弁21は、動弁機構によって、所定のタイミングで開閉する。動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構とすればよい。本実施形態では、可変動弁機構は、吸気電動S−VT(Sequential-Valve Timing)23(図4参照)を有している。吸気電動S−VT23は、吸気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更するよう構成されている。それによって、吸気弁21の開時期及び閉時期は、連続的に変化する。尚、吸気動弁機構は、電動S−VTに代えて、油圧式のS−VTを有していてもよい。
シリンダヘッド13には、気筒11毎に、排気ポート19が形成されている。排気ポート19は、燃焼室17に連通している。排気ポート19には、排気弁22が配設されている。排気弁22は、燃焼室17と排気ポート19との間を開閉する。排気弁22は動弁機構によって、所定のタイミングで開閉する。この動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構とすればよい。本実施形態では、可変動弁機構は、排気電動S−VT24(図4参照)を有している。排気電動S−VT24は、排気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更するよう構成されている。それによって、排気弁22の開時期及び閉時期は、連続的に変化する。尚、排気動弁機構は、電動S−VTに代えて、油圧式のS−VTを有していてもよい。
シリンダヘッド13には、気筒11毎に、気筒11内に燃料を直接噴射するインジェクタ6が取り付けられている。インジェクタ6は、その噴口が燃焼室17の天井部の中央部分(厳密には、中央よりも僅かに排気側の部分)から、その燃焼室17内に臨むように配設されている。インジェクタ6は、エンジン本体10の運転状態に応じた量の燃料を、エンジン本体10の運転状態に応じて設定された噴射タイミングで燃焼室17内に直接噴射する。
シリンダヘッド13には、気筒11毎に、点火プラグ25が取り付けられている。点火プラグ25は、燃焼室17の中の混合気に強制的に点火をする。点火プラグ25は、本実施形態では、吸気側に配設されている。点火プラグ25の電極は、燃焼室17の中に臨んでかつ、燃焼室17の天井部の付近に位置している。尚、点火プラグ25は、排気側に配置されていてもよい。また、点火プラグ25を気筒11の中心軸上に配置する一方、インジェクタ6を、気筒11の中心軸よりも吸気側又は排気側に配設してよい。
本実施形態において、エンジン本体10の幾何学的圧縮比は、13以上30以下に設定されている。後述するようにエンジン1は、該エンジン1の暖機後の全運転領域において、燃料と吸気との混合気を点火プラグ25により火花点火させるSI(Spark Ignition)燃焼と、燃料と吸気との混合気を圧縮自着火させるCI(Compression Ignition)燃焼とを組み合わせたSPCCI(Spark Controlled Compression Ignition)燃焼を行う。SPCCI燃焼は、SI燃焼による発熱と圧力上昇とを利用して、CI燃焼をコントロールする。エンジン1の幾何学的圧縮比は、レギュラー仕様(燃料のオクタン価が91程度)においては、14〜17とし、ハイオク仕様(燃料のオクタン価が96程度)においては、15〜18としてもよい。
エンジン本体10の一側面には吸気通路40が接続されている。吸気通路40は、各気筒11の吸気ポート18に連通している。吸気通路40は、燃焼室17に導入する吸気が流れる通路である。
吸気通路40の上流端近傍には、新気を濾過するエアクリーナー41が配設されている。吸気通路40の下流端近傍には、サージタンク42が配設されている。サージタンク42よりも下流の吸気通路40は、気筒11毎に分岐する独立通路を構成している。独立通路の下流端が、各気筒11の吸気ポート18に接続されている。
吸気通路40におけるエアクリーナー41とサージタンク42との間には、スロットル弁43が配設されている。スロットル弁43は、弁の開度を調整することによって、燃焼室17の中への新気の導入量を調整するよう構成されている。
吸気通路40には、スロットル弁43の下流に、機械式過給機44(以下、単に過給機44という)のコンプレッサが配設された過給側通路40aが設けられている。過給機44は、燃焼室17に導入する吸気を過給するよう構成されている。本実施形態において、過給機44は、エンジン本体10によって駆動される過給機である。過給機44は、例えばリショルム式としてもよい。過給機44の構成は特に限定されない。過給機44は、ルーツ式、ベーン式、又は遠心式であってもよい。
過給機44とエンジン本体10との間には、電磁クラッチ45が介設している。電磁クラッチ45は、過給機44とエンジン本体10との間で、エンジン本体10から過給機44へ駆動力を伝達したり、該駆動力の伝達を遮断したりする。後述するように、ECU100が電磁クラッチ45の遮断及び接続を切り替えることによって、過給機44は駆動状態と非駆動状態とが切り替わる。つまり、電磁クラッチ45は、過給機44の駆動と非駆動とを切り換えるクラッチである。このエンジン1は、過給機44が、燃焼室17に導入する吸気を過給することと、過給機44が、燃焼室17に導入する吸気を過給しないこととを切り替えることができるよう構成されている。
過給側通路40aにおける過給機44の直下流には、インタークーラー46が配設されている。インタークーラー46は、過給機44において圧縮された吸気を冷却するよう構成されている。本実施形態において、インタークーラー46は液冷式である。図示は省略しているが、本実施形態では、インタークーラー46には、エンジン冷却液とは別のインタークーラー冷却液が流通する独立した冷却通路が接続されている。該冷却通路には電動ポンプが設けられており、該電動ポンプによりインタークーラー冷却液が当該冷却通路を循環する。
吸気通路40には、バイパス通路47が接続されている。バイパス通路47は、過給機44及びインタークーラー46をバイパスするよう、吸気通路40における過給機44の上流側の部分とインタークーラー46の下流側の部分とを接続する。バイパス通路47には、該バイパス通路47を開閉するエアバイパス弁48が配設されている。
過給機44を非駆動状態にしたとき(つまり、電磁クラッチ45を遮断したとき)には、エアバイパス弁48を開き状態(オン状態)にする。これにより、吸気通路40を流れるガスは、過給機44をバイパスして、エンジン1の燃焼室17に導入される。エンジン1は、非過給、つまり自然吸気の状態で運転する。
過給機44をオン状態(すなわち、電磁クラッチ45を接続状態)にすると、エンジン1は過給状態で運転する。ECU100は、過給機44がオン状態のときに、エアバイパス弁48の開度を調整する、過給機44を通過したガスの一部は、バイパス通路47を通って過給機44の上流に逆流する。ECU100がエアバイパス弁48の開度を調整すると、燃焼室17に導入するガスの過給圧が変わる。尚、過給時とは、サージタンク42内の圧力が大気圧を超える時をいい、非過給時とは、サージタンク42内の圧力が大気圧以下になる時をいう、と定義してもよい。
エンジン本体10の他側面には、排気通路50が接続されている。排気通路50は、各気筒11の排気ポート19に連通している。排気通路50は、燃焼室17から排出された排気が流れる通路である。排気通路50の上流部分は、詳細な図示は省略するが、気筒11毎に分岐する独立通路を構成している。独立通路の上流端が、各気筒11の排気ポート19に接続されている。
排気通路50には、複数の触媒コンバーターを有する排気ガス浄化システムが配設されている。上流の触媒コンバーターは、図示は省略するが、エンジンルーム内に配設されている。上流の触媒コンバーターは、三元触媒511と、GPF(Gasoline Particulate Filter)512とを有している。下流の触媒コンバーターは、エンジンルーム外に配設されている。下流の触媒コンバーターは、三元触媒513を有している。尚、排気ガス浄化システムは、図例の構成に限定されるものではない。例えば、GPFは省略してもよい。また、触媒コンバーターは、三元触媒を有するものに限定されない。さらに、三元触媒及びGPFの並び順は、適宜変更してもよい。
吸気通路40と排気通路50との間には、外部EGRシステムを構成するEGR通路52が接続されている。EGR通路52は、排気の一部を吸気通路40に還流させるための通路である。EGR通路52の上流端は、排気通路50における上流の触媒コンバーターと下流の触媒コンバーターとの間に接続されている。EGR通路52の下流端は、吸気通路40における過給機44の上流に接続されている。EGR通路52を流れる排気(以下、EGRガスという)は、吸気通路40に導入される時には、バイパス通路47のエアバイパス弁48を通らずに、吸気通路40における過給機44の上流に入る。
EGR通路52には、液冷式のEGRクーラー53が配設されている。EGRクーラー53は、EGR通路52を通るEGRガスを冷却する。図示は省略しているが、本実施形態では、EGRクーラー53には、ボア通路63から分岐した通路を通ったエンジン冷却液が流入する。EGR通路52には、EGR弁54が配設されている。EGR弁54は、EGR通路52を流れるEGRガスの流量を調整するよう構成されている。EGR弁54の開度を調整することによって、冷却したEGRガスの還流量を調整することができる。EGR弁54は、オン/オフ式弁で構成されていてもよく、開度を連続的に変化させることが可能な弁で構成されていてもよい。
(エンジンの冷却システム)
次に、エンジン1の冷却システム60について説明する。図3に示すように、エンジン1の冷却システム60は、エンジン冷却液を供給するポンプ61と、ポンプ61からエンジン本体10のボア通路63に流入させる入口通路62と、ボア通路63及びヘッド通路64と、ボア通路63を通って、ヘッド通路64を通った後、エンジン冷却液を冷却させるラジエータ70を経由してポンプ61に流入するラジエータ通路65(第1通路)と、ボア通路63を通って、ヘッド通路64を通った後、ラジエータ70を迂回してポンプ61にエンジン冷却液を流入させるラジエータ迂回通路66(第2通路)とを有する。
ポンプ61は、エンジン本体10のクランクシャフト15に連動して駆動される機械式のポンプである。第1ポンプ61の吐出口は、入口通路62に接続されている。ポンプ61には、入口通路62に吐出するエンジン冷却液の液温を検出する第1液温センサSW4が設けられている。ポンプ61からのエンジン冷却液の吐出量は、エンジン回転数とポンプ61へのエンジン冷却液の還流量とにより変動する。尚、第1液温センサSW4は、入口通路62を流通するエンジン冷却液の液温を検出するように配置されていてもよい。
入口通路62は、ポンプ61の吐出口とボア通路63の入口とを連通する。ポンプ61から吐出されたエンジン冷却液が、ボア通路63全体を流通するように、入口通路62は、ボア通路63のうち、気筒列方向における一端側でかつ気筒11の筒軸方向におけるシリンダヘッド13とは反対側の端部と接続されている。
ボア通路63は、前述したように、各気筒11の周囲を囲むように設けられている。ボア通路63の出口は、ボア通路63のうち、気筒列方向における他端側でかつ前記筒軸方向におけるシリンダヘッド13側の端部に設けられている。
ヘッド通路64は、前述したように、燃焼室17の直上及び排気ポート19の周囲に形成されている。ヘッド通路64の入口は、ボア通路63の出口と同様に、気筒列方向における他端側に設けられる一方、ヘッド通路64の出口は気筒列方向における一端側に設けられている。ヘッド通路64の出口近傍には、該ヘッド通路64を流通するエンジン冷却液の液温を検出する第2液温センサSW5が侵入している。第2液温センサSW5は、エンジン本体10と熱交換した直後のエンジン冷却液の液温を取得するセンサであり、第2液温センサSW5の検出結果は、基本的には、エンジン冷却液の液温が最も高くなる位置における、該エンジン冷却液の液温を示す。
ラジエータ通路65は、ヘッド通路64の下流端から分岐している。ラジエータ通路65におけるラジエータ70とポンプ61との間には、サーモスタット弁80が配置されている。サーモスタット弁80は、電気式のサーモスタット弁で構成されている。具体的には、サーモスタット弁80は、一般的なサーモスタット弁に電熱線を内蔵させた弁である。サーモスタット弁80は、無通電時には、エンジン冷却液の液温が、所定液温以上であるときに、その温度に応じて開くように構成されているが、電熱線に電流を流すことで、エンジン冷却液の液温が所定液温未満のときでも開くことができるようになっている。つまり、無通電時には、所定液温でサーモスタット弁80が開くことにより、ラジエータ通路65内のエンジン冷却液の液温を所定液温付近にすることができる一方、通電時には、所定液温未満の所望の液温でサーモスタット弁80が開くことにより、ラジエータ通路65内のエンジン冷却液の液温を所望の液温にすることができる。尚、本実施形態において、所定液温は後述する第1所定壁温よりも高い95℃程度に設定されている。
ラジエータ迂回通路66も、ラジエータ通路65と同様に、ヘッド通路64の下流端から分岐している。ラジエータ迂回通路66の途中には、流量調整弁90が配置されている。流量調整弁90は、オン状態のときに一定開度の開き状態となり、オフ状態のときに全閉の閉じ状態となる。流量調整弁90は、開き状態の時間及び閉じ状態の時間を調整することで、より詳しくは、単位時間当たりの開き状態及び閉じ状態の割合(以下、デューティ比という)を調整することで、ラジエータ迂回通路66を通るエンジン冷却液の流量を調整する。尚、流量調整弁90は、オン状態のときに閉じ状態となり、オフ状態のときに開き状態となる弁でもよい。流量調整弁90は、ラジエータ迂回通路66を開閉することで、該ラジエータ迂回通路66を流通するエンジン冷却液の流量を調整する流量調整装置に相当する。
詳しくは後述するが、流量調整弁90のデューティ比は、第2液温センサSW5の検出結果及びエンジン1の燃焼形式に基づいて制御される。
(エンジンの制御系)
エンジン1の制御装置は、エンジン1を運転するためのECU(Engine Control Unit)100を備えている。ECU100は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラーであって、図4に示すように、プログラムを実行する中央演算処理装置(Central Processing Unit:CPU)101と、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)により構成されてプログラム及びデータを格納するメモリ102と、電気信号の入出力をする入出力バス103と、を備えている。ECU100は、制御部の一例である。
ECU100には、図1、図3、及び図4に示すように、各種のセンサSW1〜SW7が接続されている。センサSW1〜SW7は、検知信号をECU100に出力する。センサには、以下のセンサが含まれる。
すなわち、吸気通路40におけるエアクリーナー41の下流に配置されかつ吸気通路40を流れる新気の流量を検知するエアフローセンサSW1、サージタンク42に取り付けられかつ燃焼室17に供給される吸気の温度を検知する吸気温度センサSW2、排気通路50に配置されかつ燃焼室17から排出した排気ガスの温度を検知する排気温度センサSW3、ポンプ61に取り付けられかつボア通路63に流入するエンジン冷却液の液温を検出する第1液温センサSW4、エンジン本体10のシリンダヘッド13に取り付けられかつヘッド通路64を流通するエンジン冷却液の液温を検出する第2液温センサSW5、エンジン本体10に取り付けられかつクランクシャフト15の回転角を検知するクランク角センサSW6、アクセルペダル機構に取り付けられかつアクセルペダルの操作量に対応したアクセル開度を検知するアクセル開度センサSW7である。
ECU100は、これらの検出信号に基づいて、エンジン本体10の運転状態を判断するとともに、各デバイスの制御量を計算する。ECU100は、計算をした制御量に係る制御信号を、インジェクタ6、点火プラグ25、吸気電動S−VT23、排気電動S−VT24、スロットル弁43、過給機44の電磁クラッチ45、エアバイパス弁48、EGR弁54、サーモスタット弁80、及び流量調整弁90に出力する。
例えば、ECU100は、クランク角センサSW6の検出信号に基づいてエンジン本体10のエンジン回転数を算出する。ECU100は、アクセル開度センサSW7の検出信号に基づいてエンジン本体10のエンジン負荷を算出する。
また、ECU100は、算出されたエンジン回転数とエンジン負荷とに基づいてエンジン1の運転領域を読み込んだ後、燃焼室17の壁部の目標温度を設定する。
また、ECU100は、設定された目標温度に基づいて、入口通路61に吐出すべきエンジン冷却液の液温である入口目標液温を設定する。
また、ECU100は、エンジン本体10の運転状態(主に、エンジン負荷及びエンジン回転数)と予め設定したマップとに基づいて目標EGR率(つまり、燃焼室17の中の全ガスに対するEGRガスの比率)を設定する。そして、ECU100は、目標EGR率とアクセル開度センサSW7の検知信号に基づく吸入空気量とに基づき目標EGRガス量を決定するとともに、EGR弁54の開度を調整することにより、燃焼室17の中に導入する外部EGRガス量が目標EGRガス量となるようにフィードバック制御を行う。
(エンジンの運転領域)
図5は、エンジン1の制御に係るマップを例示している。マップは、ECU100のメモリ102に予め記憶されている。マップは、三種類のマップ501、マップ502、及びマップ503を含んでいる。ECU100は、燃焼室17の壁温に応じて、三種類のマップ501,502,503の中から選択したマップを、エンジン1の制御に用いる。三種類のマップ501,502,503の選択については後述する。
第1マップ501は、エンジン1の温間時のマップである。第2マップ502は、エンジン1の、いわば半暖機時のマップである。第3マップ503は、エンジン1の冷間時のマップである。エンジン1の暖機状態は、第2液温センサSW2の検出結果に基づいて判断される。
各マップ501、502、503は、エンジン1のエンジン負荷及びエンジン回転数によって規定されている。第1マップ501は、エンジン負荷の高低及びエンジン回転数の高低に対し、大別して三つの領域に分かれる。具体的には、三つの領域は、アイドル運転を含みかつ、低回転及び中回転の領域に広がる低負荷領域A1、低負荷領域A1よりもエンジン負荷が高い中高負荷領域A2、A3、A4、及び低負荷領域A1、中高負荷領域A2、A3、A4よりもエンジン回転数の高い高回転領域A5である。中高負荷領域A2、A3、A4は、中負荷領域A2と、中負荷領域A2よりもエンジン負荷が高い高負荷中回転領域A3と、高負荷中回転領域A3よりもエンジン回転数の低い高負荷低回転領域A4とに分かれる。
第2マップ502は、大別して二つの領域に分かれる。具体的に、二つの領域は、低中回転領域B1、B2、B3、及び低中回転領域B1、B2、B3よりも回転数の高い高回転領域B4である。低中回転領域B1、B2、B3は、前記低負荷領域A1及び中負荷領域A2に相当する低中負荷領域B1と、高負荷中回転領域B2と、高負荷低回転領域B3とに分かれる。
第3マップ503は、複数の領域に分かれておらず、一つの領域C1のみを有している。
ここで、低回転領域、中回転領域、及び高回転領域はそれぞれ、エンジン1の全運転領域を回転数方向に、低回転領域、中回転領域、及び高回転領域の略三等分にしたときの、低回転領域、中回転領域、及び高回転領域としてもよい。図5の例では、第1回転数N1未満を低回転、第2回転数N2以上を高回転、第1回転数N1以上かつ第2回転数N2未満を中回転としている。第1回転数N1は、例えば1200rpm程度、第2回転数N2は、例えば4000rpm程度としてもよい。
また、低負荷領域は、軽負荷の運転状態を含む領域、高負荷領域は、全開負荷の運転状態を含む領域、中負荷は、低負荷領域と高負荷領域との間の領域としてもよい。また、低負荷領域、中負荷領域、及び高負荷領域はそれぞれ、エンジン1の全運転領域を負荷方向に、低負荷領域、中負荷領域、及び高負荷領域の略三等分にしたときの、低負荷領域、中負荷領域、及び高負荷領域としてもよい。
図5のマップ501,502,503は、それぞれ、各領域における混合気の状態及び燃焼形態を示している。エンジン1は、低負荷領域A1、中負荷領域A2、高負荷中回転領域A3、及び高負荷低回転領域A4、並びに、低中負荷領域B1、高負荷中回転領域B2、及び高負荷低回転領域B3において、SPCCI燃焼を行う。エンジン1は、それ以外の領域、具体的には、高回転領域A5、高回転領域B4、及び領域C1においては、SI燃焼を行う。
本実施形態に係るエンジン1は、図5に示すように、SPCCI燃焼を行う運転領域において、空燃比が理論空燃比よりも大きい(空気過剰率λ>1)混合気を燃焼させるリーン燃焼と、空燃比が該理論空燃比近傍(空気過剰率λ≦1)の混合気を燃焼させるストイキ燃焼とを実行するように構成されている。具体的には、エンジン1は、低負荷領域A1において、リーン燃焼を実行する一方、中負荷領域A2、高負荷中回転領域A3、及び高負荷低回転領域A4、並びに、低中負荷領域B1、高負荷中回転領域B2、及び高負荷低回転領域B3において、ストイキ燃焼を行う。以下、リーン燃焼とストイキ燃焼について詳細に説明する。
(リーン燃焼)
ECU100は、エンジン1の運転領域が低負荷領域A1であるときには、リーン燃焼を実行させるよう、各種デバイスに制御信号を出力する。
ECU100は、エンジン1の燃費性能を向上させるために、燃焼室17の中にEGRガスを導入させる。具体的には、ECU100は、吸気電動S−VT23及び排気電動S−VT24を制御して、排気上死点付近において、吸気弁21及び排気弁22の両方を開弁するポジティブオーバーラップ期間を設ける。燃焼室17から吸気ポート18及び排気ポート19に排出した排気ガスの一部は、燃焼室17の中に再導入される。燃焼室17の中に熱い排気ガスを導入するため、燃焼室17の中の温度が高くなる。SPCCI燃焼の安定化に有利になる。尚、吸気電動S−VT23及び排気電動S−VT24を、吸気弁21及び排気弁22の両方を閉弁するネガティブオーバーラップ期間を設けるように制御してもよい。
ECU100は、吸気行程中に、燃料を複数回、燃焼室17内に噴射するようにインジェクタ6を制御する。複数回の燃料噴射と、燃焼室17内のスワール流とによって、混合気は成層化する。
燃焼室17の中央部における混合気の燃料濃度は、外周部の燃料濃度よりも濃い。具体的に、中央部の混合気のA/Fは、20以上30以下であり、外周部の混合気のA/Fは、35以上である。尚、空燃比の値は、点火時における空燃比の値であり、以下の説明においても同じである。点火プラグ25に近い混合気のA/Fを20以上30以下にすることにより、SI燃焼時のRawNOxの発生を抑制することができる。また、外周部の混合気のA/Fを35以上にすることで、CI燃焼が安定化する。
燃焼室17内に形成される混合気の空燃比(A/F)は、燃焼室17の全体において理論空燃比(A/F=14.7)よりもリーンである。具体的には、燃焼室17の全体において、混合気のA/Fは25〜31である。これにより、RawNOxの発生を抑制することができ、排出ガス性能を向上させることができる。
ECU100は、燃料噴射の終了後、圧縮上死点前の所定のタイミングで、燃焼室17の中央部の混合気に点火をするように、点火プラグ25を制御する。点火タイミングは、圧縮行程の終期としてもよい。圧縮行程の終期は、圧縮行程を、初期、中期、及び終期に三等分したときの終期としてもよい。
前述したように、中央部の混合気は燃料濃度が相対的に高いため、着火性が向上するとともに、火炎伝播によるSI燃焼が安定化する。SI燃焼が安定化することによって、適切なタイミングで、CI燃焼が開始する。SPCCI燃焼において、CI燃焼のコントロール性が向上する。また、混合気のA/Fを理論空燃比よりもリーンにしてSPCCI燃焼を行うことによって、エンジン1の燃費性能を向上させることができる。尚、低負荷領域A1は、後述のレイヤ3に対応する。レイヤ3は、低負荷運転領域まで広がっているとともに、最低負荷運転状態を含んでいる。
(ストイキ燃焼)
ECU100は、エンジン1の運転領域が、温間時の中高負荷領域A2〜A4、並びに、半暖機時の低中回転領域B1〜B3であるときには、ストイキ燃焼を実行させるよう、各種デバイスに制御信号を出力する。
ECU100は、燃焼室17の中にEGRガスを導入させる。具体的には、ECU100は、吸気電動S−VT23及び排気電動S−VT24を制御して、排気上死点付近において、吸気弁21及び排気弁22の両方を開弁するポジティブオーバーラップ期間を設ける。内部EGRガスが、燃焼室17の中に導入される。また、ECU100は、EGR通路52を通じて、EGRクーラー53によって冷却した排気ガスを、燃焼室17の中に導入するように、EGR弁54の開度を調整する。つまり、内部EGRガスに比べて温度が低い外部EGRガスを、燃焼室17の中に導入する。ECU100は、エンジン1の負荷が高まるに従いEGRガスの量を減らすように、EGR弁54の開度を調整する。ECU100は、全開負荷において、内部EGRガス及び外部EGRガスを含むEGRガスを、ゼロにしてもよい。
ストイキ燃焼時には、混合気の空燃比(A/F)は、燃焼室17の全体において理論空燃比(A/F≒14.7)である。このときは、三元触媒511、513が、燃焼室17から排出された排出ガスを浄化することによって、エンジン1の排出ガス性能は良好になる。混合気のA/Fは、三元触媒の浄化ウインドウの中に収まるようにすればよい。混合気の空気過剰率λは、1.0±0.2としてもよい。尚、エンジン1が、全開負荷(つまり、最高負荷)を含む高負荷中回転領域A3において運転しているときには、混合気のA/Fは、燃焼室17の全体において理論空燃比又は理論空燃比よりもリッチにしてもよい(つまり、混合気の空気過剰率λは、λ≦1)。
燃焼室17内にEGRガスを導入しているため、燃焼室17の中の全ガスと燃料との重量比であるG/Fは理論空燃比よりもリーンになる。混合気のG/Fは18以上にしてもよい。こうすることで、いわゆるノッキングの発生を回避するようにしている。G/Fは18以上30以下において設定してもよい。
ECU100は、エンジン1の負荷が中負荷であるときには、吸気行程中に、複数回の燃料噴射を行うように、インジェクタ6を制御する。インジェクタ6による燃料噴射は、第一噴射を吸気行程の前半に行い、第二噴射を吸気行程の後半に行うようにしてもよい。
ECU100は、エンジン1の負荷が高負荷であるときには、吸気行程において燃料を噴射するように、インジェクタ6を制御する。
ECU100は、燃料の噴射後、圧縮上死点付近の所定のタイミングで混合気に点火をするように、点火プラグ25を制御する。点火プラグ25による点火は、エンジン1の負荷が中負荷であるときには、圧縮上死点前に点火を行ってもよい。点火プラグ25による点火は、エンジン1の負荷が高負荷であるときには、圧縮上死点後に点火を行ってもよい。
混合気のA/Fを理論空燃比にしてSPCCI燃焼を行うことによって、三元触媒511、513を利用して、燃焼室17から排出された排出ガスを浄化することができる。また、EGRガスを燃焼室17に導入して混合気を希釈化することによって、エンジン1の燃費性能が向上する。尚、エンジン1の温間時の中高負荷領域A2、A3、A4、並びに、エンジン1の半暖機時の低中回転領域B1、B2、B3は、後述するレイヤ2に対応する。レイヤ2は、高負荷領域まで広がっているとともに、最高負荷運転状態を含んでいる。
(マップのレイヤの選択)
図5に示すエンジン1のマップ501、502、503は、図6に示すように、レイヤ1、レイヤ2及びレイヤ3の三つのレイヤの組み合わせによって構成されている。
レイヤ1は、ベースとなるレイヤである。レイヤ1は、エンジン1の運転領域の全体に広がる。レイヤ1は、第三マップ503の全体に相当する。
レイヤ2は、レイヤ1の上に重なるレイヤである。レイヤ2は、エンジン1の運転領域の一部に相当する。具体的にレイヤ2は、第二マップ502の低中回転領域B1、B2、B3に相当する。
レイヤ3は、レイヤ2の上に重なるレイヤである。レイヤ3は、第一マップ501の低負荷領域A1に相当する。
レイヤ1、レイヤ2及びレイヤ3は、主に、燃焼室17の壁温(特にヘッド壁部13aの壁温)に応じて選択される。
具体的には、燃焼室17の壁温が第1所定壁温(例えば80℃)以上でありかつ吸気温が第1所定吸気温(例えば50℃)以上であるときには、レイヤ1とレイヤ2とレイヤ3とが選択され、これらレイヤ1、レイヤ2及びレイヤ3を重ねることにより第一マップ501が構成される。第一マップ501における低負荷領域A1は、そこにおいて最上位のレイヤ3が有効になり、中高負荷領域A2、A3、A4は、そこにおいて最上位のレイヤ2が有効になり、高回転領域A5は、レイヤ1が有効になる。このように、本実施形態では、リーン燃焼領域(低負荷領域A1)におけるエンジン負荷の範囲及びエンジン回転数の範囲と、ストイキ燃焼領域(低中負荷領域B1)におけるエンジン負荷の範囲及びエンジン回転数の範囲とは重複している。
燃焼室17の壁温が第1所定壁温未満でかつ第2所定壁温(例えば30℃)以上であるとともに、吸気温が第1所定吸気温未満でかつ第2所定吸気温(例えば25℃)以上であるときには、ときには、レイヤ1とレイヤ2とが選択される。これらレイヤ1及びレイヤ2を重ねることにより第二マップ502が構成される。第二マップ502における低中回転領域B1、B2、B3は、そこにおいて最上位のレイヤ2が有効になり、高回転領域B4は、レイヤ1が有効になる。
燃焼室17の壁温が第2所定壁温未満でありかつ吸気温が第2所定吸気温未満であるときには、レイヤ1のみが選択されて、第三マップ503が構成される。
尚、燃焼室17の壁温は、例えば、第2液温センサSW5によって計測されるエンジン冷却液の液温によって代用してもよい。また、エンジン冷却液の液温や、その他の計測信号に基づいて、燃焼室17の壁温を推定してもよい。また、吸気温は、例えば、サージタンク42内の温度を計測する吸気温度センサSW2によって計測することができる。また、各種の計測信号に基づいて、燃焼室17の中に導入される吸気温を推定してもよい。
SPCCI燃焼におけるCI燃焼は、燃焼室17の外周部から中央部において行われるため、燃焼室17の中央部の温度の影響を受ける。燃焼室17の中央部の温度が低いと、CI燃焼が不安定になってしまう。燃焼室17の中央部の温度は、燃焼室17に導入される吸気の温度に依存する。つまり、吸気温度が高いときに、燃焼室17の中央部の温度は高くなり、吸気温度が低いときに、燃焼室17の中央部の温度は低くなる。
燃焼室17の壁温が第2所定壁温未満でかつ吸気温度が第2所定吸気温未満のときには、SPCCI燃焼を安定して行うことができない。そこで、SI燃焼を実行するレイヤ1のみが選択され、ECU100は、第三マップ503に基づいて、エンジン1を運転する。全ての運転領域において、エンジン1がSI燃焼を行うことにより、燃焼安定性を確保することができる。
燃焼室17の壁温が第2所定壁温以上でかつ、吸気温度が第2所定吸気温以上のときには、略理論空燃比(つまり、λ≒1)の混合気を、安定してSPCCI燃焼させることができる。そこで、レイヤ1に加えて、レイヤ2が選択され、ECU100は、第二マップ502に基づいて、エンジン1を運転する。エンジン1が、一部の運転領域においてSPCCI燃焼を行うことにより、エンジン1の燃費性能が向上する。
燃焼室17の壁温が第1所定壁温以上でかつ、吸気温度が第1所定吸気温以上のときには、理論空燃比よりもリーンな混合気を、安定してSPCCI燃焼させることができる。そこで、レイヤ1及びレイヤ2に加えて、レイヤ3が選択され、ECU10は、第一マップ501に基づいて、エンジン1を運転する。エンジン1が、一部の運転領域においてリーン混合気をSPCCI燃焼させることにより、エンジン1の燃費性能が、さらに向上する。
図7は、ECU100によりレイヤが選択される処理動作に関するフローチャートを示す。
まず、ステップS11において、ECU100は、各センサSW1〜SW7からの検出信号を読み込む。
次のステップS12では、ECU100は、燃焼室17の壁温が第2所定温度以上でかつ吸気温が第2所定吸気温以上であるか否かを判定する。ECU100は、燃焼室17の壁温が第2所定温度以上でかつ吸気温が第2所定吸気温以上であるYESのときには、ステップS13に進む一方で、燃焼室17の壁温が第2所定温度未満であるか、又は吸気温が第2所定吸気温未満であるであるNOのときには、ステップS14に進む。
次のステップS13では、ECU100は、燃焼室17の壁温が第1所定温度以上でかつ吸気温が第1所定吸気温以上であるか否かを判定する。ECU100は、燃焼室17の壁温が第1所定温度以上でかつ吸気温が第1所定吸気温以上であるYESのときには、ステップS16に進む一方で、燃焼室17の壁温が第1所定温度未満であるか、又は吸気温が第1所定吸気温未満であるであるNOのときには、ステップS15に進む。
前記ステップS14では、ECU100はレイヤ1のみを選択する。ECU100は、第三マップ503に基づいてエンジン1を運転する。ステップS14の後は、リターンする。
前記ステップS15では、ECU100は、レイヤ1とレイヤ2とを選択する。ECU100は、第二マップ502に基づいてエンジン1を運転する。ステップS15の後は、リターンする。
前記ステップS16では、ECU100は、レイヤ1とレイヤ2とレイヤ3とを選択する。ECU100は、第一マップ501に基づいて、エンジン1を運転する。ステップS16の後は、リターンする。
(冷却システムの制御)
ここで、エンジン1の燃費向上の観点からは、エンジン1の運転領域を出来る限り低負荷領域A1にして、リーン燃焼を実行することが望ましい。
前述したように、リーン燃焼は、少なくとも燃焼室17内の温度、すなわち燃焼室17の壁温を第1所定壁温以上にする必要がある。このため、リーン燃焼を維持するためには、燃焼室17の壁温を第1所定壁温以上に維持する必要がある。
しかしながら、リーン燃焼は燃焼温度が低いため、燃焼室17の壁温が低下しやすい。燃焼室17の壁温が低下すると、燃焼室17の壁温をリーン燃焼が可能な温度に再度上昇させるために、ストイキ燃焼への切り換えが必要になる。尚、本実施形態では、図6に示すように、レイヤがレイヤ3からレイヤ2に切り替わって、自動的にリーン燃焼がストイキ燃焼に切り替わるようになっている。
リーン燃焼からストイキ燃焼へ切り替えられた後、リーン燃焼を早期に復帰させるには、ストイキ燃焼時に出来る限り効率的に燃焼室17の壁温を上昇させる必要がある。
そこで、本実施形態では、ECU100は、燃焼室17の壁温の目標温度を、リーン燃焼とストイキ燃焼とで同じ温度、具体的には、第1所定壁温よりも高い温度である特定温度に設定するようにした。また、ECU100は、目標温度(特定温度)と第2液温センサSW2が検出する第2検出液温との温度差が大きいときの方が、該温度差が小さいときと比較して、ラジエータ迂回通路66を通ってポンプ61に還流するエンジン冷却液の流量が少なくなるように、流量調整弁90に制御信号を出力するようにした。また、ECU100は、サーモスタット弁80を無通電状態にするようにした。尚、特定温度は、例えば、105℃である。特定温度は、エンジン1の仕様により適宜変更される。仮に特定温度を90℃程度に設定するのであれば、ECU100は、サーモスタット弁80を通電状態にする。
これによると、リーン燃焼とストイキ燃焼とで目標温度が同じ特定温度に設定されるため、燃焼室17の壁温が低下して、リーン燃焼からストイキ燃焼に切り替わったとしても、燃焼室17の壁温をリーン燃焼が可能な温度まで早急に上昇させることができる。また、サーモスタット弁80が無通電状態であるとともに、目標温度と第2検出液温との温度差が大きいときの方がポンプ61に還流する冷却液の流量が少なくなるため、該温度差が大きいうちは、エンジン冷却液はボア通路63やヘッド通路64に留まりやすくになる。これにより、ボア通路63やヘッド通路64のエンジン冷却液が過熱されて、燃焼室17の壁部が高温の状態になる。この結果、燃焼室17の壁温を早急に上昇させることができる。
ここで、ストイキ燃焼時には、燃焼室17の壁温をリーン燃焼が可能な温度まで早急に上昇させることが好ましいが、ストイキ燃焼時は壁温が上がりやすいため、燃焼室17の壁温が目標温度を超えてしまう可能性がある。燃焼室17の壁温が高過ぎると、ノッキング等の異常燃焼が発生することがある。一方で、リーン燃焼時は、燃焼室17の壁温を出来る限り高い状態に維持することが望ましい。そこで、本実施形態では、ECU100は、目標温度と第2検出液温との温度差が同じであっても、ストイキ燃焼時のエンジン冷却液の流量をリーン燃焼時よりも多くするようにした。これにより、ストイキ燃焼時には、特に、目標温度と第2検出液温との温度差が小さいときに、燃焼室17の壁温の上昇を抑制することができ、リーン燃焼時には、燃焼室17の壁温を出来る限り高い状態に保つことができる。尚、燃焼室17の壁温が第1所定壁温以上であるにも関わらず、ストイキ燃焼である状態とは、吸気温度が第1所定吸気温未満である場合などをいう。
図8には、リーン燃焼時における流量調整弁90の制御モード(以下、第1モードという)と、ストイキ燃焼時における流量調整弁90の制御モード(以下、第2モードという)とを示す。横軸は、目標温度(特定温度)と第2検出液温との温度差であり、縦軸は、ラジエータ迂回通路66のエンジン冷却液の流量である。
図8に示すように、本実施形態では、目標温度と第2検出液温との温度差が大きいほど、ラジエータ迂回通路66の流量が小さくなる。また、目標温度と第2検出液温との温度差が同じであっても、第2モードの方が第1モードと比較して、ラジエータ迂回通路66のエンジン冷却液の流量が大きい。これにより、ストイキ燃焼からリーン燃焼への切り換えを早急に行うことができる。また、ストイキ燃焼時には、燃焼室17の壁温が上がり過ぎることを抑制することができ、リーン燃焼時には、燃焼室17の壁温を出来る限り高い状態に保つことができる。
尚、本実施形態では、目標温度と第2検出液温との温度差が大きいほど、ラジエータ迂回通路66を通るエンジン冷却液の流量を連続的に小さくしているが、例えば、ラジエータ迂回通路66の流量を3段階に分けて、目標温度と第2検出液温との温度差が大きい方が、該温度差が小さいときと比較して、ラジエータ迂回通路66の流量が小さくなるようにしてもよい。また、リーン燃焼領域及びストイキ燃焼領域において、エンジン負荷が大きいほど、又は、エンジン回転数が大きいほど、ラジエータ迂回通路66を通ってポンプ61に還流するエンジン冷却液の流量が大きくなるようにしてもよい。
実際のECU100の制御おいて、ECU100は、目標温度と第2検出液温との温度差が大きいほど、流量調整弁90のデューティ比を小さく、すなわち、単位時間当たりにおけるラジエータ迂回通路66のエンジン冷却液の流量を小さくすることで、目標温度と第2検出液温との温度差が大きいほど、ラジエータ迂回通路66のエンジン冷却液の流量を小さくする。このように、単位時間当たりにおけるラジエータ迂回通路66のエンジン冷却液の流量を調整するようにすることで、該流量を精度良く調整することができるようになる。
図9のフローチャートは、流量制御時におけるECU100の処理動作を示す。尚、図9に示すフローチャートにおいて、エンジン負荷及びエンジン回転数は、リーン燃焼が可能な範囲に属している。
まず、ステップS21において、ECU100は、各センサSW1〜SW7からの検出信号を読み込む。
次のステップS22では、ECU100は目標温度を設定する。このステップS22において、ECU100は特定温度を目標温度に設定する。
次のステップS23では、ECU100は、サーモスタット弁80を無通電状態にする。
次のステップS24では、ECU100は、リーン燃焼領域であるか否かを判定する。より具体的には、ECU100は、燃焼室17の壁温(第2検出液温)が第1所定壁温以上でかつ吸気温が第1所定吸気温以上であるか否かを判定する。ECU100は、リーン燃焼領域に属しているYESのときにはステップS25に進む一方で、リーン燃焼領域に属していない、より具体的には、レイヤ2のストイキ燃焼領域であるNOときにはステップS26に進む。
前記ステップS25では、ECU100は流量制御弁90を第1モードで作動させる。ステップS25の後はステップS27に進む。
前記ステップS26では、ECU100は流量制御弁90を第2モードで作動させる。ステップS25の後はステップS27に進む。
前記ステップS27では、ECU100は、目標温度と第2液温センサSW5により検出された第2検出液温との温度差(温度差ΔTa)を算出する。
次のステップS28では、ECU100は、前記ステップS27で算出した温度差ΔTaに基づいて、ラジエータ迂回通路のエンジン冷却液の流量を算出する。
続くステップS29では、ECU100は、ラジエータ迂回通路のエンジン冷却液の流量が、前記ステップS28で算出した流量になるように、流量調整弁90のデューティ比を設定して、流量調整弁90に制御信号を出力する。ステップS29の後はリターンする。
したがって、本実施形態によると、エンジン冷却液を供給するポンプ61と、エンジン1の気筒11を冷却するためにエンジン冷却液が流通するボア通路63と、エンジン1のシリンダヘッド13に設けられ、該シリンダヘッド13のヘッド壁部13aを冷却するためにエンジン冷却液が流通するヘッド通路64と、ボア通路63を通って、ヘッド通路64を通った後、エンジン冷却液を冷却させるラジエータ70を経由して、ポンプ61にエンジン冷却液を流入させるラジエータ通路65と、ボア通路63を通って、ヘッド通路64を通った後、ラジエータ70を迂回してポンプ61にエンジン冷却液を流入させるラジエータ迂回通路66と、エンジン冷却液の液温を取得する液温取得部(第2液温センサSW5)と、ポンプ61に還流するエンジン冷却液の流量を調整する流量調整弁90と、流量調整弁90を作動制御するECU100とを備え、エンジン1は、検出又は推定される燃焼室17の壁温に基づいて、リーン燃焼とストイキ燃焼とが切り替えられるエンジンであり、ECU100は、リーン燃焼とストイキ燃焼とで同じ目標温度を設定するとともに、該目標温度と前記液温取得部の検出結果との差分が大きいときには、該差分が小さいときと比較して、ポンプ61に還流するエンジン冷却液の流量が少なくなるように流量調整弁90に制御信号を出力する。これによると、ECU100は、リーン燃焼とストイキ燃焼とで同じ目標温度を設定するため、燃焼室17の壁温が低下して、リーン燃焼からストイキ燃焼に切り替わったとしても、燃焼室17の壁温をリーン燃焼が可能な温度まで早急に上昇させることができる。また、目標温度とエンジン冷却液との温度の差が大きいときの方がポンプに還流する冷却液の流量が少なくなるため、エンジン冷却液はボア通路63やヘッド通路64に留まりやすくなる。これにより、ボア通路63やヘッド通路64のエンジン冷却液が過熱されて、燃焼室17の壁部を早急に高温の状態にすることができる。
特に、本実施形態では、ECU100は、目標温度と液温取得部(第2液温センサSW5)の検出結果との差分が大きくなるほど、ポンプ61に還流するエンジン冷却液の流量が少なくなるように流量調整弁90に制御信号を出力する。これにより、ストイキ燃焼時には燃焼室17の壁温をより早急に上昇させつつ、該壁温が目標温度を超えることをより効果的に抑制することができる。
また、本実施形態では、ECU100は、目標温度と液温取得部(第2液温センサSW5)の検出結果との差分が同じ量である場合に、ストイキ燃焼時の方が、リーン燃焼時に比べてエンジン冷却液の流量が多くなるように流量調整弁90に制御信号を出力する。これにより、ストイキ燃焼時には、特に、目標温度とエンジン冷却液との温度の差が小さいときに、燃焼室17の壁温が上がり過ぎることを抑制することができ、ノッキング等の異常燃焼を抑制することができる。一方で、リーン燃焼時には、燃焼室17の壁温を出来る限り高い状態に保つことができる。
特に、本実施形態では、冷却システム60による冷却効果に加えて、ストイキ燃焼時にEGRガスを導入することで、燃焼を緩慢にすることができる。これにより、ノッキング等の異常燃焼を抑制することができる。
また、本実施形態では、冷却システム60による冷却効果に加えて、リーン燃焼時に内部EGRガスを燃焼室17に導入することで、燃焼室17の壁温を出来る限り高い状態に保つことができる。これにより、リーン燃焼可能なエンジン負荷及びエンジン回転数の時には、出来る限りリーン燃焼を実行することができ、燃費を向上させることができる。
ここに開示された技術は、前記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
例えば、前述の実施形態では、ラジエータ通路65に配置する温調装置は電気式のサーモスタット弁80であったが、これに限らず、電磁式の弁で構成してもよい。
また、前述の実施形態では、流量調整弁80はオン/オフ式弁であったが、連続的に開度を調整可能な弁で構成してもよい。
また、前述の実施形態では、燃焼室17の壁温を第2液温センサSW5の検出結果から推定していた。これに限らず、燃焼室17の壁温を直接検出するセンサを設けてもよい。
また、前述の実施形態では、第2液温センサSW5はヘッド通路64のエンジン冷却液の液温を検出していたが、これに限らず、ボア通路63のエンジン冷却液の液温を検出するように構成されていてもよい。気筒11も燃焼室17の壁部を構成しているため、ボア通路63のエンジン冷却液の液温も燃焼室17の壁部の温度を反映していると言える。このため、ボア通路63のエンジン冷却液の液温に基づいて、流量調整弁90を作動制御しても、燃焼室の壁温を早期に上昇させて、早期にストイキ燃焼からリーン燃焼への切り換えを可能にすることができる。
前述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本開示の範囲を限定的に解釈してはならない。本開示の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本開示の範囲内のものである。