JP2020164766A - プロセス油 - Google Patents

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Abstract

【課題】スチレン系熱可塑性エラストマーに配合してエラストマー組成物の耐寒性を向上させながらも、耐熱性を十分に確保できるプロセス油の提供。【解決手段】スチレン系熱可塑性エラストマー(X)に対して質量比で等量配合した際に、要件(A)を満たすプロセス油。要件(A):配合前後のスチレンセグメントのガラス転移温度yBS(単位:℃)及びyAS(単位:℃)の差(yBS−yAS)が、プロセス油の40℃における動粘度x(単位:mm2/s)に対して式(1)の関係を満たす。(yBS−yAS)≦−8.29×ln(x)+α・・・(1)[lnは自然対数であり、α=62.5である。]前記スチレン系熱可塑性エラストマー(X):スチレン由来の構成単位の含有量が25〜35質量%、質量平均分子量(Mw)が5万〜15万のスチレン−共役ジエン−スチレン型トリブロック共重合体の水添物。【選択図】図1

Description

本発明は、プロセス油に関する。更に詳述すると、本発明は、スチレン系熱可塑性エラストマーに配合して用いられるプロセス油に関する。
エラストマーは、最終製品の用途及び要求される特性等に応じて、押出成形、射出成形、ブロー成形、及びカレンダー加工等の加工を経て成形品となる。この際、エラストマーの加工性を向上させる目的で、エラストマーにプロセス油を配合することがある。当該プロセス油は、いわゆる可塑剤としての役割を発揮する。
当該プロセス油は、各種知られている。例えば特許文献1には、パラフィン系プロセス油、ナフテン系プロセス油、アロマ系プロセス油、エステル系可塑剤、及びエーテル系可塑剤から選択される1種以上を配合した熱可塑性エラストマーが、成形加工性に優れることが記載されている。
特開平07−126452号公報
ところで、近年、柔軟性及び弾力性に優れ、ゴム的性状に優れる熱可塑性エラストマーとして、スチレン系熱可塑性エラストマーが注目されている。スチレン系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントであるスチレンセグメントと、ソフトセグメントであるエラストマーセグメントとにより構成されるブロック共重合体である。スチレン系熱可塑性エラストマーは、屋外で使用しても、変形、変色、及び劣化等の変質を起こしにくく、耐候性に優れる。また、高温環境下においても塑性変形を起こしにくく、耐熱性にも優れる。
ここで、エラストマーを用いた最終製品には、耐寒性が要求されることもある。耐寒性とは、寒冷地においても柔軟性を発揮し得る機能を指す。エラストマーを用いた最終製品の耐寒性は、エラストマーにプロセス油を配合することで調整することができ、当該プロセス油の動粘度が低いほど、プロセス油を配合したエラストマーの柔軟性をより向上させて、耐寒性を向上させ得る。なお、以降の説明では、プロセス油を配合したエラストマーを「エラストマー組成物」ともいう。
しかしながら、エラストマー組成物の柔軟性を向上させれば、エラストマー組成物は高温環境下で塑性変形を起こしやすくなる。そのため、動粘度の低いプロセス油をエラストマーに配合すると、エラストマーの耐熱性が大きく低下することがある。つまり、エラストマー組成物において、耐寒性の確保と耐熱性の確保とは、トレードオフの関係にあり、両立が困難である。エラストマーとしてスチレン系熱可塑性エラストマーを用いたエラストマー組成物においても、同様に、耐寒性の確保と耐熱性の確保との両立が困難である。
本発明は、スチレン系熱可塑性エラストマーに配合して用いられるプロセス油であって、当該スチレン系熱可塑性エラストマーを用いたエラストマー組成物の耐寒性を向上させながらも、耐熱性を十分に確保することのできるプロセス油を提供することを目的とする。
本発明者らは、特定のスチレン系熱可塑性エラストマーにプロセス油に配合する前後での、当該スチレン系熱可塑性エラストマー中のスチレンセグメントのガラス転移温度の変化と、当該プロセス油の40℃における動粘度との関係を、特定の範囲に調整したプロセス油が、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記[1]〜[7]に関する。
[1] スチレン系熱可塑性エラストマーに配合して用いられるプロセス油であって、
下記スチレン系熱可塑性エラストマー(X)に対して質量比で等量配合した際に、下記要件(A)を満たす、プロセス油。
・スチレン系熱可塑性エラストマー(X):スチレン由来の構成単位からなるスチレンセグメントと、ブタジエン及びイソプレンを含む共役ジエン由来の構成単位からなるエラストマーセグメントとにより構成され、スチレン由来の構成単位の含有量が全構成単位基準で25〜35質量%であり、質量平均分子量(Mw)が5万〜15万である、スチレン−共役ジエン−スチレン型トリブロック共重合体の水添物。
・要件(A):前記プロセス油を配合する前の前記スチレン系熱可塑性エラストマー(X)中のスチレンセグメントのガラス転移温度yBS(単位:℃)と、前記スチレン系熱可塑性エラストマー(X)に対して前記プロセス油を質量比で等量配合した際の前記スチレン系熱可塑性エラストマー(X)中のスチレンセグメントのガラス転移温度をyAS(単位:℃)との差(yBS−yAS)が、前記プロセス油の40℃における動粘度x(単位:mm/s)に対して、下記式(1)の関係を満たす。
(yBS−yAS)≦−8.29×ln(x)+α・・・(1)
[上記式(1)中、lnは自然対数であり、α=62.5である。]
[2] 更に、下記要件(B)を満たす、上記[1]に記載のプロセス油。
・要件(B):前記プロセス油を配合する前の前記スチレン系熱可塑性エラストマー(X)中のエラストマーセグメントのガラス転移温度yBE(単位:℃)と、前記スチレン系熱可塑性エラストマー(X)に対して前記プロセス油を質量比で等量配合した際の前記スチレン系熱可塑性エラストマー(X)中のエラストマーセグメントのガラス転移温度yAE(単位:℃)との差(yBE−yAE)が、前記プロセス油の40℃における動粘度x(単位:mm/s)に対して、下記式(2)の関係を満たす。
(yBE−yAE)≧−6.01×ln(x)+β・・・(2)
[上記式(2)中、lnは自然対数であり、β=44.0である。]
[3] 更に、下記要件(C)を満たす、上記[2]に記載のプロセス油。
・要件(C):前記ガラス転移温度yAS(単位:℃)と、前記ガラス転移温度yAE(単位:℃)との差(yAS−yAE)が、下記式(3)の関係を満たす。
(yAS−yAE)≧150・・・(3)
[4] 環分析(n−d−M法)による%Cが75以上である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載のプロセス油。
[5] 引火点が180℃以上である、上記[1]〜[4]のいずれかに記載のプロセス油。
[6] 流動点が−20℃以下である、上記[1]〜[5]のいずれかに記載のプロセス油。
[7] 上記[1]〜[6]のいずれかに記載のプロセス油と、スチレン系熱可塑性エラストマーとを含有する、エラストマー組成物。
本発明によれば、スチレン系熱可塑性エラストマーに配合して用いられるプロセス油であって、当該スチレン系熱可塑性エラストマーを用いたエラストマー組成物の耐寒性を向上させながらも、耐熱性を十分に確保することのできるプロセス油を提供することができる。
実施例及び比較例における評価結果をプロットし、本発明における要件(A)を満たすか否かを検討した結果を示すグラフである。 実施例及び比較例における評価結果をプロットし、本発明における要件(B)を満たすか否かを検討した結果を示すグラフである。
[本発明のプロセス油の態様]
本発明のプロセス油は、スチレン系熱可塑性エラストマーに配合して用いられる。
本発明のプロセス油は、下記スチレン系熱可塑性エラストマー(X)に対して質量比で等量配合した際に、下記要件(A)を満たす。
・スチレン系熱可塑性エラストマー(X):スチレン由来の構成単位からなるスチレンセグメントと、ブタジエン及びイソプレンを含む共役ジエン由来の構成単位からなるエラストマーセグメントとにより構成され、スチレン由来の構成単位の含有量が全構成単位基準で25〜35質量%であり、質量平均分子量(Mw)が5万〜15万である、スチレン−共役ジエン−スチレン型トリブロック共重合体の水添物。
・要件(A):前記プロセス油を配合する前の前記スチレン系熱可塑性エラストマー(X)中のスチレンセグメントのガラス転移温度yBS(単位:℃)と、前記スチレン系熱可塑性エラストマー(X)に対して前記プロセス油を質量比で等量配合した際の前記スチレン系熱可塑性エラストマー(X)中のスチレンセグメントのガラス転移温度をyAS(単位:℃)との差(yBS−yAS)が、前記プロセス油の40℃における動粘度x(単位:mm/s)に対して、下記式(1)の関係を満たす。
(yBS−yAS)≦−8.29×ln(x)+α・・・(1)
[上記式(1)中、lnは自然対数であり、α=62.5である。]
<スチレン系熱可塑性エラストマー(X)>
スチレン系熱可塑性エラストマー(X)は、プロセス油が、本発明で規定する要件を満たすか否かを判断する際に、当該プロセス油を配合する対象として用いられる。
なお、「本発明で規定する要件」とは、上記要件(A)、更には後述する要件(B)及び要件(C)を意味する。
スチレン系熱可塑性エラストマー(X)は、スチレン由来の構成単位からなるスチレンセグメントと、ブタジエン及びイソプレンを含む共役ジエン由来の構成単位からなるエラストマーセグメントとにより構成され、スチレン由来の構成単位の含有量が全構成単位基準で25〜35質量%であり、質量平均分子量(Mw)が5万〜15万である、スチレン−共役ジエン−スチレン型トリブロック共重合体の水添物である。
スチレン系熱可塑性エラストマー(X)が有するスチレンセグメントは、スチレン由来の構成単位からなり、スチレン系熱可塑性エラストマー(X)においてハードセグメントとして機能する。
ここで、本発明の一態様では、スチレン由来の構成単位の含有量が、好ましくは27〜33質量%、より好ましくは28〜32質量%、更に好ましくは29〜31質量%である、スチレン系熱可塑性エラストマー(X)を用いて、プロセス油が、本発明で規定する要件を満たすか否かを判断してもよい。
スチレン系熱可塑性エラストマー(X)が有するエラストマーセグメントは、ブタジエン及びイソプレンを含む共役ジエン由来の構成単位からなり、スチレン系熱可塑性エラストマー(X)においてソフトセグメントとして機能する。
なお、ブタジエン及びイソプレンを含む共役ジエン由来の構成単位からなるエラストマーセグメントは、水素添加を受けることで、エチレン単位とプロピレン単位とが混在した構成単位を有する重合体ブロックとなる。したがって、前記スチレン−共役ジエン−スチレン型トリブロック共重合体の水添物中における共役ジエンブロックは、エチレン単位とプロピレン単位とが混在した構成単位から構成される。
スチレン系熱可塑性エラストマー(X)は、質量平均分子量(Mw)が5万〜15万である。
ここで、本発明の一態様では、スチレン系熱可塑性エラストマー(X)の質量平均分子量(Mw)が、好ましくは6万〜12万、より好ましくは7万〜11万、更に好ましくは8万〜10万である、スチレン系熱可塑性エラストマー(X)を用いて、本発明で規定する要件を満たすか否かを判断してもよい。
なお、スチレン系熱可塑性エラストマー(X)の質量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した値であり、詳細には、実施例に記載の方法で測定される値である。
スチレン系熱可塑性エラストマー(X)を例示すると、スチレン−イソプレン・ブタジエン−スチレン型トリブロック共重合体の水添物(SEEPS)が挙げられる。「SEEPS」は、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体とも呼ばれる。
ここで、SEEPSとしては、上記要件を満たす市販品を用いることもできる。このような市販品としては、例えば、クラレ株式会社製の「セプトン(登録商標)4033」が挙げられる。
<要件(A)>
本発明では、要件(A)を以下のように規定している。
・要件(A):前記プロセス油を配合する前の前記スチレン系熱可塑性エラストマー(X)中のスチレンセグメントのガラス転移温度yBS(単位:℃)と、前記スチレン系熱可塑性エラストマー(X)に対して前記プロセス油を質量比で等量配合した際の前記スチレン系熱可塑性エラストマー(X)中のスチレンセグメントのガラス転移温度をyAS(単位:℃)との差(yBS−yAS)が、前記プロセス油の40℃における動粘度x(単位:mm/s)に対して、下記式(1)の関係を満たす。
(yBS−yAS)≦−8.29×ln(x)+α・・・(1)
[上記式(1)中、lnは自然対数であり、α=62.5である。]
つまり、本発明のプロセス油は、スチレン系熱可塑性エラストマー(X)という特定のスチレン系熱可塑性エラストマーに対して特定の割合で配合されたときのパラメータである上記要件(A)によって規定されている。
ここで、一般に、スチレン系熱可塑性エラストマー中のスチレンセグメントのガラス転移温度は、スチレン系熱可塑性エラストマーの耐熱性を支配する要因であり、スチレンセグメントのガラス転移温度を超える高温環境下に晒されると、スチレン系熱可塑性エラストマーは塑性変形を起こしやすくなる。上記要件(A)を満たすプロセス油は、スチレン系熱可塑性エラストマーに配合した際に、スチレン系熱可塑性エラストマー中のスチレンセグメントのガラス転移温度が低下する度合いを小さくする機能を有し、当該プロセス油を配合して得られるエラストマー組成物の耐熱性を十分に確保し得る。
また、一般に、スチレン系熱可塑性エラストマー中のエラストマーセグメントのガラス転移温度は、スチレン系熱可塑性エラストマーの柔軟性を支配する要因であり、エラストマーセグメントのガラス転移温度が低いほど、耐寒性が向上する。したがって、上記要件(A)を満たすプロセス油は、スチレン系熱可塑性エラストマーに配合した際に、スチレン系熱可塑性エラストマー中のエラストマーセグメントのガラス転移温度を大きく低下させる機能も有することから、当該プロセス油を配合して得られるエラストマー組成物の耐寒性も向上させ得る。
したがって、上記要件(A)を満たすプロセス油は、スチレン系熱可塑性エラストマーに配合した際に、エラストマー組成物の耐寒性を向上させながらも、耐熱性を十分に確保し得る。
ここで、本発明の一態様において、エラストマー組成物の耐熱性をより確保しやすいプロセス油とする観点から、上記式(1)におけるαの値は、好ましくは61.0、より好ましくは60.0、更に好ましくは59.0、より更に好ましくは58.5である。また、本発明の効果をより得やすくする観点から、本発明の一態様のプロセス油は、下記式(4)を満たすことが好ましい。
(yBS−yAS)≧−8.29×ln(x)+52.0・・・(4)
[上記式(4)中、lnは自然対数である。]
<要件(B)>
本発明の一態様のプロセス油は、上記要件(A)と共に、下記要件(B)を満たすことが好ましい。
・要件(B):前記プロセス油を配合する前の前記スチレン系熱可塑性エラストマー(X)中のエラストマーセグメントのガラス転移温度yBE(単位:℃)と、前記スチレン系熱可塑性エラストマー(X)に対して前記プロセス油を質量比で等量配合した際の前記スチレン系熱可塑性エラストマー(X)中のエラストマーセグメントのガラス転移温度yAE(単位:℃)との差(yBE−yAE)が、前記プロセス油の40℃における動粘度x(単位:mm/s)に対して、下記式(2)の関係を満たす。
(yBE−yAE)≧−6.01×ln(x)+β・・・(2)
[上記式(2)中、lnは自然対数であり、β=44.0である。]
上記要件(B)を満たすプロセス油は、スチレン系熱可塑性エラストマーに配合した際に、当該スチレン系熱可塑性エラストマー中のエラストマーセグメントのガラス転移温度を大きく低下させやすい。そのため、上記要件(A)と共に、上記要件(B)を満たすプロセス油は、スチレン系熱可塑性エラストマーに配合した際に、エラストマー組成物の耐寒性を大きく向上させながらも、耐熱性を十分に確保し得る。
ここで、本発明の一態様のプロセス油において、エラストマー組成物の耐寒性をより確保しやすくする観点から、上記式(2)におけるβの値は、好ましくは45.0、より好ましくは46.0、更に好ましくは47.0、より更に好ましくは48.0、更になお好ましくは49.0、一層好ましくは50.0である。また、本発明の効果をより得やすくする観点から、本発明の一態様のプロセス油は、下記式(5)を満たすことが好ましい。
(yBE−yAE)≦−6.01×ln(x)+54.0・・・(5)
[上記式(5)中、lnは自然対数である。]
なお、本発明の一態様のプロセス油は、上記要件(A)を満たすか否かが判断されることなく、上記要件(B)を満たすか否かのみが判断されたものであってもよい。上記要件(B)を満たすプロセス油は、上記要件(A)も満たし得ると共に、スチレン系熱可塑性エラストマーを用いたエラストマー組成物の耐寒性を向上させながらも、耐熱性を十分に確保し得る。
<要件(C)>
本発明の一態様のプロセス油は、上記要件(A)及び上記要件(B)と共に、下記要件(C)を満たすことが好ましい。
要件(C):ガラス転移温度yAS(単位:℃)と、ガラス転移温度yAE(単位:℃)との差(yAS−yAE)が、下記式(3)の関係を満たす。
(yAS−yAE)≧150・・・(3)
上記要件(C)を満たすプロセス油は、スチレン系熱可塑性エラストマー全般に配合した際に、エラストマー組成物の耐寒性と耐熱性との両立性に極めて優れる。詳細には、当該プロセス油をスチレン系熱可塑性エラストマーに配合した際に、当該スチレン系熱可塑性エラストマー中のスチレンセグメントのガラス転移温度が低下する度合いを小さくしながらも、当該スチレン系熱可塑性エラストマー中のエラストマーセグメントのガラス転移温度を大きく低下させることができる。その結果、当該スチレン系熱可塑性エラストマー中のスチレンセグメントのガラス転移温度と、エラストマーセグメントのガラス転移温度との差が広がり、エラストマー組成物の耐寒性と耐熱性との両立性に極めて優れる。
本発明の一態様のプロセス油において、エラストマー組成物の耐寒性と耐熱性との両立性をより向上させる観点から、上記式(3)の右辺の値は、153であることが好ましく、156であることがより好ましく、160であることが更に好ましい。
なお、本発明の一態様のプロセス油は、上記要件(A)及び上記要件(B)を満たすか否かが判断されることなく、上記要件(C)を満たすか否かのみが判断されたものであってもよい。上記要件(C)を満たすプロセス油は、上記要件(A)及び上記要件(B)も満たし得ると共に、スチレン系熱可塑性エラストマーを用いたエラストマー組成物の耐寒性を向上させながらも、耐熱性を十分に確保し得る。
なお、本明細書において、ガラス転移温度yBS、ガラス転移温度yBE、ガラス転移温度yAS、及びガラス転移温度yAEは、後述する実施例に記載の方法により測定される値である。
<プロセス油が有する各種物性値>
本発明の一態様のプロセス油は、上記要件(A)、さらには上記要件(B)及び上記要件(C)を満たす観点から、以下に説明する物性値を、以下に示す範囲で有することが好ましい。
(動粘度、粘度指数)
本発明の一態様のプロセス油は、40℃における動粘度(以下、「40℃動粘度」ともいう)が、好ましくは5.0〜100mm/s、より好ましくは6.0〜90mm/s、更に好ましくは7.0〜80mm/s、より更に好ましくは8.0〜70mm/s、更になお好ましくは10〜50mm/sである。
本発明の一態様のプロセス油は、100℃における動粘度(以下、「100℃動粘度」ともいう)が、好ましくは1.0〜10mm/s、より好ましくは2.0〜9.0mm/s、更に好ましくは3.0〜8.0mm/sである。
本発明の一態様のプロセス油は、粘度指数が、好ましくは80以上、より好ましくは100以上、更に好ましくは120以上である。
本明細書において、40℃動粘度、100℃動粘度、及び粘度指数は、JIS K2283:2000に準拠して測定及び算出される値である。
なお、本発明の一態様において、上記式(1)、(2)、(4)、及び(5)は、上記40℃動粘度の範囲内で適用することが好ましく、8.0〜90mm/sの範囲内で適用することがより好ましい。
(25℃における密度)
本発明の一態様のプロセス油は、25℃における密度が、好ましくは0.0850以下、より好ましくは0.0840以下、更に好ましくは0.0830以下である。また、好ましくは0.0790以上、0.0800以上、更に好ましくは0.0810以上である。
本明細書において、25℃における密度は、JIS K 2249−1:2011(原油及び石油製品−密度の求め方− 第1部:振動法)に準拠して測定される値である。
(20℃における屈折率)
本発明の一態様のプロセス油は、20℃における屈折率が、好ましくは1.465以下であり、より好ましくは1.463以下であり、更に好ましくは1.461以下である。また、好ましくは1.440以上、より好ましくは1.445以上、更に好ましくは1.450以上である。
本明細書において、20℃における屈折率は、JIS K 0062−1992に準拠して測定される値である。
(引火点)
本発明の一態様のプロセス油は、引火点が、好ましくは180℃以上、より好ましくは190℃以上、更に好ましくは200℃以上、より更に好ましくは210℃以上である。また、通常280℃以下である。
エラストマー組成物の耐寒性は、プロセス油の粘性によって調整可能であることが知られている。すなわち、プロセス油の粘性を低下させるほど、エラストマー組成物の柔軟性を高めて、耐寒性を向上させることができる。しかし、プロセス油の粘性を低下させると、引火点が低くなり、安全性の観点から使用できない問題があった。この点、本発明の一態様のプロセス油は、粘性が低い場合であっても引火点が高いため、安全性に優れる。
本明細書において、引火点は、JIS K 2265−4:2007に準拠し、クリーブランド開放式(COC)法により測定される値である。
(流動点)
本発明の一態様のプロセス油は、流動点が、好ましくは−20℃以下、より好ましくは−25℃以下、更に好ましくは−30℃以下、より更に好ましくは−35℃以下である。また、通常−50℃以上である。
本明細書において、流動点は、JIS K 2269:1987(原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法)に準拠して測定される値である。
(環分析により得られる各種物性)
本発明の一態様のプロセス油は、環分析により得られる%Cが、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.8以下、更に好ましくは0.5以下、より更に好ましくは0.1以下であり、検出下限値以下であってもよい。
本発明の一態様のプロセス油は、環分析により得られる%Cが、好ましくは10以下、より好ましくは8.0以下、更に好ましくは7.0以下、より更に好ましくは6.0以下である。また、通常3.0以上である。
本発明の一態様のプロセス油は、環分析により得られる%Cが、好ましくは85以上、より好ましくは90以上、更に好ましくは92以上である。また、通常97質量%以下である。
本明細書において、%C、%C、及び%Cは、ASTM D3238−95に準拠し、環分析(n−d−M法)にて求めた値である。
[プロセス油の製造方法]
本発明のプロセス油の製造方法は、上記要件(A)、さらには上記要件(B)及び上記要件(C)を満たすプロセス油を製造可能な方法であれば、特に限定されないが、以下に説明する方法により製造することが好ましい。
<原料の準備>
本発明の一態様のプロセス油は、例えば以下の原料(a1)及び原料(a2)から選択される1種以上を用いて製造される。
・原料(a1):メタンを含むガスを利用してフィッシャートロプシュ合成法により液化炭化水素を合成し、当該液化炭化水素を水素化分解した際に得られる残渣ワックス。
・原料(a2):減圧軽油及び高品質ワックス(例えばスラックワックス等)を高度水素化分解(高圧水素化分解ともいう)することにより、脱硫、脱窒素、分解(低分子化)、開環、及び異性化して得られる、粘度指数120以上の液状炭化水素。
原料(a1)及び原料(a2)から選択される1種以上を用いることで、製造されるプロセス油が、上述した物性値を満たしやすくなり、上記要件(A)、さらには上記要件(B)及び上記要件(C)を満たしやすいプロセス油となる。
<水素化異性化脱ろう工程(b)>
上記原料(a1)及び原料(a2)は、水素化異性化脱ろう工程(b)に供される。水素化異性化脱ろう工程(b)は、上記原料(a1)及び原料(a2)に含まれる、低温流動性の低いn−パラフィン分を分解することなく異性化し、低温流動性の高いイソパラフィンにする精製処理である。上記原料(a1)及び(a2)の主成分をイソパラフィンとすることによって、粘度指数を良好なものとしつつ、流動点を低下させることができる。
水素化異性化脱ろう工程(b)は、定法により実施される。具体的には、例えば、SAPO(シリカアルミノフォスフェート)やゼオライト等の担体にPtやPd等の貴金属を担持した水素化異性化触媒の存在下、水素化処理を行うことにより実施される。
水素化異性化脱ろう工程(b)における水素化処理の水素分圧については、通常10MPa以上、好ましくは13〜22MPa、より好ましくは15〜21MPaである。反応温度については、通常250〜500℃、好ましくは280〜480℃、より好ましくは300〜450℃である。液時空間速度(LHSV)については、通常0.1〜10hr−1、好ましくは0.3〜8hr−1、より好ましくは0.5〜2hr−1である。供給水素ガスの割合については、原料1キロリットルに対して、通常100〜1,000Nm、好ましくは200〜800Nm、より好ましくは250〜650Nmである。
<蒸留工程(c1)>
水素化異性化脱ろう工程(b)により得られた精製油は、蒸留工程(c1)に供され、軽質留分、さらには必要に応じて重質留分を留去する処理が行われる。これにより、例えば、引火点、粘度、及び分子量分布から選択される1種以上を所定の範囲に調整したプロセス油が得られる。これにより、プロセス油の引火点を高めて安全性を確保しつつ、上記要件(A)、さらには上記要件(B)及び上記要件(C)を満たしやすいプロセス油を得ることができる。蒸留工程は、常圧(大気圧)下で行ってもよいが、減圧下で行うことが好ましい。また、常圧蒸留後に減圧蒸留を行うようにしてもよい。
例えば、蒸留工程(c1)において、引火点を所定範囲にしたプロセス油を得る場合には、プロセス油の引火点が好ましくは180℃以上、より好ましくは190℃以上、更に好ましくは200℃以上、より更に好ましくは210℃以上であり、また、好ましくは280℃以下となるように減圧蒸留又は常圧蒸留を行い、軽質分さらには必要に応じて重質分を除去することが好ましい。
<その他の工程>
蒸留工程(c1)により得られたプロセス油は、更に水素化仕上げ工程(d1)に供されることが好ましい。水素化仕上げ工程(d1)は、定法により実施される。具体的には、例えば、シリカ/アルミナ、アルミナ等の非晶質やゼオライト等の結晶質担体にNi/Mo、Co/Mo、Ni/W等の金属酸化物やPt,Pd等の貴金属を担持した水素化触媒の存在下、水素化処理を行うことにより実施される。
水素化仕上げ工程(d1)における水素化処理の水素分圧については、通常10MPa以上、好ましくは13〜22MPa、より好ましくは15〜21MPaである。反応温度については、通常200〜350℃、好ましくは250〜330℃、より好ましくは280〜320℃である。液時空間速度(LHSV)については、通常0.1〜10hr−1、好ましくは0.2〜5hr−1、より好ましくは0.4〜2hr−1である。供給水素ガスの割合については、供給油1kLに対して、通常100〜1,000Nm、好ましくは200〜800Nm、より好ましくは250〜650Nmである。
また、水素化仕上げ工程(d1)により得られたプロセス油は、更に蒸留工程(c2)を行い、引火点、粘度、及び分子量分布から選択される1種以上を所定の範囲に調整したプロセス油とすることが好ましい。この場合の蒸留工程(c2)も、上記蒸留工程(c1)と同様、常圧(大気圧)下で行ってもよいし、減圧下で行ってもよい。また、常圧蒸留後に減圧蒸留を行うようにしてもよい。
例えば、蒸留工程(c2)において、粘度を所定範囲にしたプロセス油を得る場合には、プロセス油の100℃動粘度が、好ましくは1.0〜10mm/s、より好ましくは2.0〜9.0mm/s、更に好ましくは3.0〜8.0mm/sとなるように減圧蒸留又は常圧蒸留を行い、軽質分さらには必要に応じて重質分を除去することが好ましい。
あるいは、蒸留工程(c2)において、粘度を所定範囲にしたプロセス油を得る場合には、プロセス油の40℃動粘度が、好ましくは5.0〜100mm/s、より好ましくは6.0〜90mm/s、更に好ましくは7.0〜80mm/s、より更に好ましくは8.0〜70mm/s、更になお好ましくは10〜50mm/sとなるように減圧蒸留又は常圧蒸留を行い、軽質分さらには必要に応じて重質分を除去することが好ましい。
なお、水素化仕上げ工程(d1)に代えて、スチーム処理工程(d2)を行うようにしてもよい。
以上の工程によって、本発明の一態様のプロセス油を製造し得る。
なお、本発明の一態様のプロセス油は、上記物性値を満たすことから、従来のプロセス油と比較して特にパラフィン分の占める割合が大きい基油(鉱油系基油)である。したがって、本発明の一態様のプロセス油は、従来のプロセス油と比較して、スチレン系熱可塑性エラストマーが有するスチレンセグメントに分散しにくい一方で、スチレン系熱可塑性エラストマーが有するエラストマーセグメントにより分散しやすい。その結果、本発明の一態様のプロセス油は、スチレン系熱可塑性エラストマーに配合したときに、エラストマー組成物の耐熱性を十分に確保しながら、耐寒性を大きく向上させることができ、耐熱性と耐寒性とを高いレベルで両立し得るものと推察される。そして、この効果は、上述した蒸留工程(c1)さらには(c2)によって、特定の留分を採取して特定の分子量範囲のパラフィン分を主体とすることによって、より向上するものと推察される。
[プロセス油の用途]
本発明のプロセス油は、スチレン系熱可塑性エラストマー(X)は勿論のこと、スチレン系熱可塑性エラストマー全般を用いたエラストマー組成物の耐寒性を大きく向上できると共に、耐熱性も十分に確保することができる。以下、スチレン系熱可塑性エラストマー全般のことを、スチレン系熱可塑性エラストマー(SE)ともいう。
したがって、本発明のプロセス油は、例えば、寒冷地及び高温環境下の双方において使用され得る、スチレン系熱可塑性エラストマー(SE)を含むエラストマー製品、例えばタイヤ等の成形加工用途で用いられるプロセス油として用いられることが好ましい。
<スチレン系熱可塑性エラストマー(SE)>
スチレン系熱可塑性エラストマー(SE)は、スチレンセグメントとエラストマーセグメントとを有するスチレン系熱可塑性エラストマーであれば特に限定されないが、耐寒性及び耐熱性に優れるエラストマー組成物とする観点から、スチレン系化合物由来の構成単位の含有量が、全構成単位基準で10〜35質量%であり、質量平均分子量が5万〜50万であることが好ましい。
スチレン系熱可塑性エラストマー(SE)において、スチレン系化合物由来の構成単位を構成するスチレン系化合物は、スチレン系熱可塑性エラストマー(SE)におけるハードセグメントとして機能する化合物であれば特に限定されないが、例えば下記一般式(I)から選択される1種以上であることが好ましい。

[上記一般式(I)中、Rは炭素数1〜5のアルキル基であり、mは0〜5の整数である。mが2以上である場合、複数のRは同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。Rは、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基である。]
スチレン系熱可塑性エラストマー(SE)が有するスチレン系化合物は、Rが炭素数1〜2のアルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。mは0〜1の整数であることが好ましく、m=0であることがより好ましい。Rは水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基であることが好ましく、水素原子又はメチル基であることがより好ましく、水素原子であることが更に好ましい。
スチレン系熱可塑性エラストマー(SE)が有するスチレン系化合物のより更に好ましい態様としては、m=0であり、且つRが水素原子であるスチレン系化合物が挙げられる。
スチレン系熱可塑性エラストマー(SE)は、スチレン系化合物由来の構成単位の含有量が、スチレン系熱可塑性エラストマーの全構成単位基準で、好ましくは15〜35質量%、より好ましくは20〜35質量%、更に好ましくは25〜35質量%である。
スチレン系熱可塑性エラストマー(SE)は、質量平均分子量(Mw)が、好ましくは5万〜30万、より好ましくは5万〜20万、更に好ましくは5万〜15万、より更に好ましくは6万から13万、更になお好ましくは6.5万〜12万、一層好ましくは7万〜11万である。
本明細書において、スチレン系熱可塑性エラストマー(SE)の質量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した値であり、詳細には、実施例に記載の方法で測定される値である。
スチレン系熱可塑性エラストマー(SE)が有するスチレン系化合物由来の構成単位以外の構成単位、すなわち、スチレン系熱可塑性エラストマー(SE)中のソフトセグメントであるエラストマーセグメントの構成単位としては、例えば、ブタジエン由来の構成単位及びイソプレン由来の構成単位から選択される1種以上が挙げられる。なお、ブタジエン由来の構成単位及びイソプレン由来の構成単位は、水素未添加であってもよく、水素添加されていてもよい。
スチレン系熱可塑性エラストマー(SE)を具体的に例示すると、上記のSEEPSは勿論のこと、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン−プロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレン−エチレン−プロピレンブロック共重合体(SEP)等から選択される1種以上を用いることができる。
[エラストマー組成物及び成形品の製造方法]
本発明は、上記要件を満たすプロセス油とスチレン系熱可塑性エラストマーとを含むエラストマー組成物も提供し得、さらに、当該エラストマー組成物を成形した成形品も含み得る。
また、本発明の一態様では、以下の工程(Y1)を含む、エラストマー組成物の製造方法が提供される。
・工程(Y1):本発明のプロセス油と、スチレン系熱可塑性エラストマーとを混練する工程
さらに、本発明の一態様では、以下の工程(Z1)〜(Z2)を含む、成形品の製造方法が提供される。
・工程(Z1):本発明のプロセス油と、スチレン系熱可塑性エラストマーとを混練する工程。
・工程(Z2):工程(Z1)において得られた混合物を成形する工程。
上記エラストマー組成物の製造方法及び成形品の製造方法において、スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系熱可塑性エラストマー(X)は勿論のこと、スチレン系熱可塑性エラストマー(SE)を用いることもできる。
なお、本発明の一態様において、エラストマー組成物は、更に添加剤を含有してもよい。
エラストマー組成物に配合される添加剤としては、エラストマー組成物に配合される汎用的な添加剤、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、難燃剤、帯電防止剤、充填材、及び発泡剤等から選択される1種以上が挙げられる。
本発明の一態様の製造方法における工程(Y1)及び工程(Z1)での混練条件は、特に限定されず、エラストマーにプロセス油を配合して混練する際の通常の条件を用いることができる。
また、本発明の一態様の製造方法における工程(Y1)及び工程(Z1)でのスチレン系熱可塑性エラストマーに対する本発明のプロセス油の配合量は、スチレン系熱可塑性エラストマー100質量部に対して、好ましくは40〜1000質量部、より好ましくは50〜900質量部、更に好ましくは60〜800質量部である。
本発明のプロセス油を、これらの配合量の範囲でスチレン系熱可塑性エラストマーに配合することで、エラストマー組成物の耐熱性を十分に確保しつつ、耐寒性を大きく向上させやすい。
なお、成形品を得るための成形方法は、特に限定されず、例えば、押出成形、射出成形、ブロー成形、及びカレンダー加工等が挙げられる。
本発明について、以下の実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[各種物性値]
各種物性値の測定法は、以下のとおりとした。
(1)40℃動粘度、100℃動粘度、粘度指数
JIS K2283:2000に準拠して測定及び算出した。
(2)25℃における密度
JIS K 2249−1:2011(原油及び石油製品−密度の求め方− 第1部:振動法)に準拠して測定した。
(3)20℃における屈折率
JIS K 0062−1992に準拠して測定した。
(4)引火点
JIS K 2265−4:2007に準拠し、クリーブランド開放式(COC)法により測定した。
(5)流動点
JIS K 2269:1987(原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法)に準拠して測定した。
(6)環分析により得られる各種物性
ASTM D3238−95に準拠し、環分析(n−d−M法)にて、%C、%C、及び%Cを求めた。
(7)質量平均分子量(Mw)
質量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した。GPCは、カラムとして東ソー株式会社製TSKgel SuperMultiporeHZ−Mを2本連結して用い、テトラヒドロフランを溶離液として、検出器に屈折率検出器を用いて測定を行い、ポリスチレンを標準試料として質量平均分子量(Mw)を求めた。
[製造例1〜3]
<製造例1>
以下の手順により、プロセス油A−1を製造した。
原料として、残渣ワックスを準備した。当該残渣ワックスは、メタンを含むガスを利用してフィッシャートロプシュ合成法により合成した液化炭化水素を水素化分解した際に得られたものである。
当該原料を、水素化異性化脱ろう工程(b)、蒸留工程(c1)、水素化仕上げ工程(d)、及び蒸留工程(c2)に供した。
水素化異性化脱ろう工程(b)では、原料に対し、白金−ゼオライト系触媒(担体であるゼオライトに白金が担持した触媒)を用いて、反応温度330℃、水素分圧4MPa、水素と原料との供給量比〔水素/原料〕が422Nm/kL、LHSV1.1hr−1の条件下で、水素化異性化脱ろう処理を実施した。
蒸留工程(c1)では、水素化異性化脱ろう工程(b)で得られた水素化異性化脱ろう油を減圧蒸留し、留出油の引火点が190〜200℃となるように軽質留分を留去した。
水素化仕上げ工程(d)では、蒸留工程(c1)で得られた留出油に対し、ニッケル・タングステン−アルミナ系触媒(担体であるアルミナにニッケル及びタングステンが担持した触媒)を用い、水素分圧20MPa、水素と蒸留工程(c1)で得られた留出油との供給量比〔水素/留出油〕が1000Nm/kL、LHSV0.5hr−1の条件下で、水素化仕上げ処理を実施した。
蒸留工程(c2)では、水素化仕上げ工程(d)で得られた水素化仕上げ油を減圧蒸留し、留出油の40℃動粘度が5.0〜15mm/sとなるように調整した。当該留出油を、プロセス油A−1として用いた。
<製造例2>
蒸留工程(c1)により、留出油の引火点が210〜230℃となるように減圧蒸留して軽質留分を除去したこと、蒸留工程(c2)により、留出油の40℃動粘度が15〜25mm/sとなるよう減圧蒸留したこと以外は、製造例1と同様の方法で、プロセス油A−2を得た。
<製造例3>
蒸留工程(c1)により、留出油の引火点が250〜280℃となるように減圧蒸留して軽質留分を除去したこと、蒸留工程(c2)により、40℃動粘度が35〜60mm/sとなるように減圧蒸留したこと以外は、製造例1と同様の方法で、プロセス油A−3を得た。
[実施例1]
スチレン系熱可塑性エラストマー(X)として、スチレン−イソプレン・ブタジエン−スチレン型トリブロック共重合体の水添物(SEEPS、株式会社クラレ製、製品名「セプトン(登録商標)4033」、質量平均分子量:10万、スチレン系化合物由来の構成単位の含有量:スチレン系熱可塑性エラストマーの全構成単位基準で30質量%)を用いた。
そして、当該スチレン系熱可塑性エラストマー(X)100質量部に対し、プロセス油A−1を100質量部配合した後にラボプラストミル(株式会社東洋精機製)を用いて、200℃、150rpmの条件で混錬し、エラストマー組成物A1を調製した。
[実施例2]
プロセス油A−1をプロセス油A−2に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、エラストマー組成物A2を調製した。
[実施例3]
プロセス油A−1をプロセス油A−3に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、エラストマー組成物A3を調製した。
[比較例1]
プロセス油A−1をダイアナプロセスオイルPW−8(出光興産株式会社製、以下「プロセス油B−1」ともいう)に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、エラストマー組成物B1を調製した。
[比較例2]
プロセス油A−1を、ダイアナプロセスオイルPW−8(出光興産株式会社製)とダイアナプロセスオイルPW−32(出光興産株式会社製)とを混合して表2に示す40℃動粘度に調整したプロセス油(以下「プロセス油B−2」ともいう)に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、エラストマー組成物B2を調製した。
[比較例3]
プロセス油A−1をダイアナプロセスオイルPW−32(出光興産株式会社製、以下「プロセス油B−3」ともいう)に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、エラストマー組成物B3を調製した。
[比較例4]
プロセス油A−1を、ダイアナプロセスオイルPW−32(出光興産株式会社製)とダイアナプロセスオイルPW−90(出光興産株式会社製)とを混合して表2に示す40℃動粘度に調整したプロセス油(以下「プロセス油B−4」ともいう)に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、エラストマー組成物B4を調製した。
[比較例5]
プロセス油A−1をダイアナプロセスオイルPW−90(出光興産株式会社製、以下「プロセス油B−5」ともいう)に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、エラストマー組成物B5を調製した。
[評価方法]
(ガラス転移温度の測定)
実施例1〜3及び比較例1〜5で用いたスチレン系熱可塑性エラストマー(X)について、スチレンセグメントのガラス転移温度yBSとエラストマーセグメントのガラス転移温度yBEを測定した。
また、実施例1〜3及び比較例1〜5で調整したエラストマー組成物A1〜A3及びB1〜B5のそれぞれについて、スチレンセグメントのガラス転移温度とエラストマーセグメントのガラス転移温度を測定し、この測定結果を、プロセス油配合後におけるスチレン系熱可塑性エラストマー(X)のスチレンセグメントのガラス転移温度yAS及びエラストマーセグメントのガラス転移温度yAEとした。
ガラス転移温度yBS、ガラス転移温度yBE、ガラス転移温度yAS、及びガラス転移温度yAEは、固体弾性測定装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製(旧エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製)、製品名「DMS6100」)を用い、張力/圧縮力50mNの条件にて測定した。
結果を表1及び表2に示す。
表1及び表2中、「S」は各要件を充足することを意味し、「N」は各要件を充足しないことを意味する。
また、実施例1−3及び比較例1−5における評価結果をプロットし、本発明における要件(A)を満たすか否かを検討した結果を示すグラフを図1に示す。
さらに、実施例1−3及び比較例1−5における評価結果をプロットし、本発明における要件(B)を満たすか否かを検討した結果を示すグラフを図2に示す。
図1においては、式(1)の曲線を含むプロット及び当該曲線よりも下方に位置するプロットは、要件(A)を満たす。当該曲線よりも上方に位置するプロットは、要件(A)を満たさない。
また、図2においては、式(2)の曲線を含むプロット及び当該曲線よりも上方に位置するプロットは、要件(B)を満たす。当該曲線よりも下方に位置するプロットは、要件(B)を満たさない。
なお、図1及び図2ともに、式(1)の曲線及び式(2)の曲線は、40℃動粘度が8.345〜88.68mm/sの範囲で示した。
表1及び表2並びに図1及び図2から以下のことがわかる。
要件(A)を満たす、実施例1〜3で用いたプロセス油は、スチレン系熱可塑性エラストマー中のスチレンセグメントのガラス転移温度の低下する度合いを小さくする性能が、要件(A)を満たさない、比較例1〜5で用いたプロセス油と比較して高く、エラストマー組成物の耐熱性を十分に確保できることがわかる。
また、要件(A)を満たす、実施例1〜3で用いたプロセス油は、スチレン系熱可塑性エラストマー中のエラストマーセグメントのガラス転移温度の大きく低下させる性能が、要件(A)を満たさない、比較例1〜5で用いたプロセス油と比較して高く、エラストマー組成物の耐寒性を大きく向上させやすいことがわかる。このことは、実施例1〜3で用いたプロセス油が要件(B)を満たす一方で、比較例1〜5で用いたプロセス油が要件(B)を満たさないことからも、明らかである。
さらに、実施例1〜3で用いたプロセス油は、プロセス油配合後におけるスチレン系熱可塑性エラストマーのスチレンセグメントのガラス転移温度yAS及びエラストマーセグメントのガラス転移温度yAEの差(yAS−yAE)が150以上であり、スチレン系熱可塑性エラストマーに配合したときに、エラストマー組成物の耐寒性及び耐熱性の両立性に極めて優れることがわかる。

Claims (7)

  1. スチレン系熱可塑性エラストマーに配合して用いられるプロセス油であって、
    下記スチレン系熱可塑性エラストマー(X)に対して質量比で等量配合した際に、下記要件(A)を満たす、プロセス油。
    ・スチレン系熱可塑性エラストマー(X):スチレン由来の構成単位からなるスチレンセグメントと、ブタジエン及びイソプレンを含む共役ジエン由来の構成単位からなるエラストマーセグメントとにより構成され、スチレン由来の構成単位の含有量が全構成単位基準で25〜35質量%であり、質量平均分子量(Mw)が5万〜15万である、スチレン−共役ジエン−スチレン型トリブロック共重合体の水添物。
    ・要件(A):前記プロセス油を配合する前の前記スチレン系熱可塑性エラストマー(X)中のスチレンセグメントのガラス転移温度yBS(単位:℃)と、前記スチレン系熱可塑性エラストマー(X)に対して前記プロセス油を質量比で等量配合した際の前記スチレン系熱可塑性エラストマー(X)中のスチレンセグメントのガラス転移温度をyAS(単位:℃)との差(yBS−yAS)が、前記プロセス油の40℃における動粘度x(単位:mm/s)に対して、下記式(1)の関係を満たす。
    (yBS−yAS)≦−8.29×ln(x)+α・・・(1)
    [上記式(1)中、lnは自然対数であり、α=62.5である。]
  2. 更に、下記要件(B)を満たす、請求項1に記載のプロセス油。
    ・要件(B):前記プロセス油を配合する前の前記スチレン系熱可塑性エラストマー(X)中のエラストマーセグメントのガラス転移温度yBE(単位:℃)と、前記スチレン系熱可塑性エラストマー(X)に対して前記プロセス油を質量比で等量配合した際の前記スチレン系熱可塑性エラストマー(X)中のエラストマーセグメントのガラス転移温度yAE(単位:℃)との差(yBE−yAE)が、前記プロセス油の40℃における動粘度x(単位:mm/s)に対して、下記式(2)の関係を満たす。
    (yBE−yAE)≧−6.01×ln(x)+β・・・(2)
    [上記式(2)中、lnは自然対数であり、β=44.0である。]
  3. 更に、下記要件(C)を満たす、請求項2に記載のプロセス油。
    ・要件(C):前記ガラス転移温度yAS(単位:℃)と、前記ガラス転移温度yAE(単位:℃)との差(yAS−yAE)が、下記式(3)の関係を満たす。
    (yAS−yAE)≧150・・・(3)
  4. 環分析(n−d−M法)による%Cが75以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のプロセス油。
  5. 引火点が180℃以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のプロセス油。
  6. 流動点が−20℃以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のプロセス油。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載のプロセス油と、スチレン系熱可塑性エラストマーとを含有する、エラストマー組成物。
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