JP2020152949A - ステンレス鋼板およびステンレス鋼板の製造方法 - Google Patents

ステンレス鋼板およびステンレス鋼板の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】製造コストを抑制することができ、表面に薄い導電性被膜を形成した場合に低い表面接触抵抗を示すステンレス鋼板およびその製造方法を提供する。【解決手段】ステンレス鋼板は、該ステンレス鋼板の表面における算術平均粗さRaが1nm以上5nm以下であり、表面接触抵抗が200mΩ・cm2以下である。【選択図】図2

Description

本発明はステンレス鋼板およびステンレス鋼板の製造方法等に関する。詳しくは、固体高分子型燃料電池のセパレータ用基材として好適に用いられるステンレス鋼板およびステンレス鋼板の製造方法等に関する。
従来、固体高分子型燃料電池(PEFC)は、複数の単セルを含んで構成されており、該単セルは、固体高分子膜の両側に酸化極および燃料極をそれぞれ貼り合わせて成る膜−電極接合体を、2つのセパレータ(導電板)によって挟み込んだ構造となっている。一般に、セパレータと、酸化極または燃料極との間にはガス拡散層(例えばカーボンペーパ)が配置される。
上記セパレータは、様々な役割を有しており、高い耐久性が求められるとともに、PEFCの発電効率を高めるために上記ガス拡散層との表面接触抵抗が低いことが求められる。
近年、上記セパレータの素材として金属材料(例えば、ステンレス鋼板またはチタン箔等)を用いることが試みられている。そして、例えば、表面に電気化学的な処理を施した金属材料を用いることによって、セパレータの表面接触抵抗を低減する技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
特許6418364号公報(2018年11月07日発行)
しかしながら、例えば特許文献1に記載の技術では、既存のステンレス鋼板に更なる表面処理を施すことによってセパレータ基材を製造するため、表面処理のための後処理設備および作業工程が必要であり、セパレータ基材の製造コストが嵩み得る。
セパレータ基材として好適に利用し得るステンレス鋼板を、一般的な大量生産設備における製造ラインを用いて生産することができれば、セパレータ基材の低コスト化を実現することができる。
本発明の一態様は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、製造コストを抑制することができ、表面に導電性薄膜を形成した場合に低い表面接触抵抗を示すステンレス鋼板の製造方法を提供することにある。
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るステンレス鋼板は、ステンレス鋼板の表面における算術平均粗さRaが1nm以上5nm以下であり、表面接触抵抗が200mΩ・cm以下であることを特徴としている。
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るステンレス鋼板の製造方法は、ステンレス鋼の成分組成を有する処理対象材に仕上圧延を施して成る圧延材に対して、H分圧0.6atm以上かつ露点−30℃以下の還元雰囲気下にて900℃以上1150℃以下の温度で光輝焼鈍を施すことによりステンレス鋼板を得る光輝焼鈍工程を含み、前記光輝焼鈍工程では、下記(1)式を満足するように前記還元雰囲気を制御することを特徴としている。
DP≦(−7.43)×ln(%Mn)−55+12.5×P(H)・・・(1)
ここで、
DP:前記露点(℃)
%Mn:前記ステンレス鋼の成分組成におけるマンガン濃度(質量%)
P(H):前記H分圧(atm)、である。
本発明の一態様によれば、製造コストを抑制することができ、清浄な表面を有することにより該表面に導電性薄膜を形成した場合に低い表面接触抵抗を示すステンレス鋼板およびその製造方法を提供することができる。
(a)はステンレス鋼板の製造工程の概要を示すフローチャートであり、(b)は上記ステンレス鋼板を基材としてセパレータを製造する工程の概要を示すフローチャートである。 (a)は光輝焼鈍後の本実施形態におけるステンレス鋼板の表面の電子顕微鏡写真であり、(b)は本実施形態における光輝焼鈍およびコーティング処理による処理対象材の表面状態の変化の様子を模式的に示す断面図である。 グロー放電発光分光法(GDS)を用いて試料の表面分析を行った結果を示すグラフであって、(a)は本実施形態におけるステンレス鋼板、(b)は比較例におけるステンレス鋼板、をそれぞれ試料として表面分析することにより得られた結果である。 一実施例におけるステンレス鋼板の表面接触抵抗を測定する方法について説明するための図である。 光輝焼鈍時の還元雰囲気における露点および水素分圧と、光輝焼鈍後のステンレス鋼板の表面における生成物の有無と、の関係を示すグラフであって、(a)〜(d)はそれぞれ、ステンレス鋼板の成分組成におけるMn濃度が、0.5質量%、1.1質量%、1.5質量%、および1.8質量%の場合について示している。 (a)は本発明例のステンレス鋼板について、AFMによる表面観察例および表面の算術平均粗さRaを測定した結果の一例について示す図であり、(b)は本発明外の条件で光輝焼鈍を施して得られた比較例のステンレス鋼板について、AFMによる表面観察例および表面の算術平均粗さRaを測定した結果の一例について示す図である。 (a)は光輝焼鈍後の一般的なステンレス鋼板の表面の電子顕微鏡写真であり、(b)は一般的な光輝焼鈍およびコーティング処理による処理対象材の表面状態の変化の様子を模式的に示す断面図である。
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の記載は発明の趣旨をよりよく理解させるためのものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものでは無い。また、本出願において、「A〜B」とは、A以上B以下であることを示している。化学組成に関する「%」の記載は、特に断らない限り「質量%」を意味する。
なお、本明細書において、「ステンレス鋼板」との用語は、「ステンレス鋼帯」および「ステンレス箔」を含む意味で用いる。
<発明の知見の概略的な説明>
近年、燃料電池(例えばPEFC)は、環境問題対策の観点から精力的に開発が行われている。一方で、現状、PEFCは比較的高価であり、更なる普及のためには製造コストの低減(構成部品の低コスト化)が要望される。そこで、セパレータ基材にステンレス鋼板を用いることが提案されている。
ステンレス鋼板は、その表面が不動態皮膜によって覆われているため表面接触抵抗が比較的高い。例えば、電解処理等を施すことにより表面を粗面化したステンレス鋼板を用いてPEFCの単セルを形成すると、セパレータの表面接触抵抗を低減し得る(特許文献1を参照)。しかし、この種の技術では、生産設備に対する要求が生じるとともに、追加の工程によって所要時間が長大化し得るため、セパレータの製造コストを低減することには限界がある。
セパレータの表面接触抵抗を低減するために、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)等の導電性の薄膜(コーティング膜)を表面に形成したステンレス鋼板(以下、「膜形成鋼板」と称することがある)を用いてセパレータを製造する方法も知られている。しかし、このようなセパレータは、想定よりも高い表面接触抵抗を示す場合があることが報告されている。
表面にコーティング膜を形成した場合に低い表面接触抵抗を示すステンレス鋼板を、一般的な大量生産設備を用いて製造することができれば、セパレータ基材として好適に利用し得るステンレス鋼板の製造コストを抑制することができる。本発明者らは、そのような製造方法について、鋭意検討を行った。
ここで、一般的なステンレス鋼板およびセパレータの製造方法(一連の製造工程)の概要について、図1を参照して説明する。図1の(a)は、ステンレス鋼板の製造工程の概要を示すフローチャートである。図1の(b)は、上記ステンレス鋼板を基材としてセパレータを製造する工程の概要を示すフローチャートである。なお、本発明の一実施形態に係るステンレス鋼板の製造方法(以下、単に「本製造方法」と称することがある)においても、一連の製造工程の概要は、一般的なステンレス鋼板の製造工程(図1の(a))と同様である。
図1の(a)に示すように、一般に、ステンレス鋼板の製造方法は、製鋼工程S1、熱間圧延工程S2、冷間圧延工程S3、焼鈍・酸洗工程S4、仕上圧延工程S5、光輝焼鈍(BA)工程S6を含む。
製鋼工程S1は、ステンレス原料を溶解し、精錬することで目的の化学成分に調整し、次いで溶鋼を鋳型に流し込むことで、目的の成分組成を有するスラブを製造(製鋼)する工程である。熱間圧延工程S2は、上記スラブを高温で圧延する(熱間圧延する)ことにより、所定の厚みの鋼板(通常は鋼帯であるが、以下では鋼帯を含む意味で単に鋼板と記載する)を製造する工程である。また、冷間圧延工程S3は、熱間圧延工程S2で製造された鋼板を、さらに薄く圧延する工程である。焼鈍・酸洗工程S4は、冷間圧延工程S3において薄く圧延された鋼板を加熱することによって、材料組織のひずみを除去して軟質化を図るとともに、鋼板表面のスケールを硝酸とフッ化水素酸との混合液等を用いて酸洗する工程である。
仕上圧延工程S5は、焼鈍・酸洗工程S4後の鋼板に対して、平滑なロールを用いて更に薄く冷間圧延する工程である。これにより、鋼板の板厚を最終調整する。仕上圧延工程S5後の鋼板の板厚は0.1mm程度である。
光輝焼鈍(BA)工程S6は、仕上圧延工程S5によって得られた鋼板(圧延材)の表面性状を維持しつつ焼鈍を行う処理である。例えば、水素および窒素を混合した還元雰囲気(無酸素雰囲気)下で1000℃程度の温度にて鋼板の焼鈍を行う。
そして、図2の(b)に示すように、光輝焼鈍(BA)工程S6により得られたBA後のステンレス鋼板を基材としてセパレータを製造する工程は、加工工程S11およびコーティング工程S12を含む。
加工工程S11は、BA後のステンレス鋼板(セパレータ基材)をセパレータとしての所望の形状に加工する工程である。例えば、セパレータの形状としては、気体(酸素や空気)の流路となる凹溝を有し、該流路が延びる方向に垂直な断面が矩形波状となっている形状が挙げられる。
コーティング工程S12は、加工工程S11後の半製品の表面に、導電性の薄膜(コーティング膜)を形成する工程である。このコーティング膜としては、公知の材料を適用することができるが、例えば、DLCの薄膜が挙げられる。これにより、セパレータが製造される。
本明細書における以下の説明において、仕上圧延工程S5後かつ光輝焼鈍(BA)工程S6前の時点をBA前(時点T1)、光輝焼鈍(BA)工程S6後かつコーティング工程S12前の時点をBA後(時点T2)、コーティング工程S12後の時点をコーティング後(時点T3)、と称することがある。
従来、上述の製造工程により、BA後のステンレス鋼板に例えばDLCをコーティングする処理を施してなる膜形成鋼板は、表面接触抵抗が想定よりも高くなることがある。本発明者らは、この要因について詳細に調査し、以下の知見を得た。図7の(a)は、BA後の一般的なステンレス鋼板110の表面の電子顕微鏡写真である。
図7の(a)に示すように、BA後の一般的なステンレス鋼板110は、その表面について高分解能の電子顕微鏡を用いて観察すると、直径100nm以下程度の微細な粒子状の生成物が存在し、この生成物はマンガン(Mn)酸化物を含むことがわかった。このことから、従来のセパレータの製造方法では、以下のように処理対象材の表面状態が変化していると考えられる。図7の(b)は、一般的なBAおよびコーティング処理による処理対象材の表面状態の変化の様子を模式的に示す断面図である。
図7の(b)に示すように、BA前の時点T1(図1参照)の圧延材100とは異なり、BA後の時点T2のステンレス鋼板110は、その表面上に粒状の生成物111が生成している。上記生成物111は、BA中に(i)圧延材100の母材101中に含まれるMnと(ii)BAにおける炉内の還元雰囲気中に極めて微量に存在する酸素とが結合することにより生成したと考えられる。
コーティング後の時点T3の膜形成鋼板120は、生成物111を覆うように導電性のコーティング膜121が形成される。膜形成鋼板120は、電気抵抗の高い生成物111の存在によって表面接触抵抗が高くなる。また、膜形成鋼板120は、コーティング膜121の耐久性が低くなり得る。これは、コーティング膜121と生成物111との界面の接合力が低くなり得るため、および、PEFCの単セルに加工する際にコーティング膜121の凸部に高い負荷が生じ得るためである。
上記の知見に基づいて、本発明者らは、BA条件について種々検討を行い、上述のような生成物111が存在しない(または生成物111の密度が非常に小さい)ステンレス鋼板を製造することができる条件を見出し、本製造方法を想到した。この本発明者らが見出した条件について、以下に説明する。
<ステンレス鋼板の製造方法>
本発明の一態様におけるステンレス鋼板は、一般的なステンレス鋼板の製造工程(図1を用いて上述した説明を参照)のうち、光輝焼鈍工程S6において、条件を以下のように制御することによって製造される。その他の工程S1〜S5については、従来と同様の処理を行ってよく、詳細な説明を省略する。
本製造方法では、ステンレス鋼の成分組成を有する処理対象材(焼鈍・酸洗工程S4後の鋼板)に仕上圧延を施して形成した圧延材(時点T1の鋼板)に対して、光輝焼鈍工程S6において、以下の処理を行う。
すなわち、本製造方法における光輝焼鈍工程S6では、上記圧延材に対して、水素(H)分圧0.6atm以上かつ露点−30℃以下であるとともに下記(1)式を満足する還元雰囲気下にて、900℃以上1150℃以下の温度で光輝焼鈍を施すことによりステンレス鋼板を得る。
DP≦(−7.43)×ln(%Mn)−55+12.5×P(H)・・・(1)
ここで、上記還元雰囲気とは、光輝焼鈍を施す炉内の雰囲気である。DPは、上記還元雰囲気における露点(℃)であり、「%Mn」は、ステンレス鋼の成分組成を有する上記処理対象材におけるマンガン濃度(質量%)である。また、P(H)は、上記還元雰囲気における水素分圧(atm)である。
本製造方法により得られるステンレス鋼板について、図2の(a)および(b)を用いて以下に説明する。図2の(a)は、本発明の一実施形態におけるBA後のステンレス鋼板10の表面の電子顕微鏡写真である。
図2の(a)に示すように、上述した条件を満たしてBAを施した本実施形態のステンレス鋼板10は、その表面にMn酸化物を含む粒子状の生成物が見られず、清浄な表面状態を有している。
本製造方法では、以下のように処理対象材の表面状態が変化する。図2の(b)は、本実施形態におけるBAおよびコーティング処理による処理対象材の表面状態の変化の様子を模式的に示す断面図である。
図2の(b)に示すように、BA前の時点T1(図1参照)において、圧延材1が製造される。なお、圧延材1は、上述の従来例における圧延材100と同等品である。本製造方法における処理対象材(製鋼工程S1により製造されて各圧延工程に供される鋼材)は、ステンレス鋼の成分組成を有しており、具体的には以下のとおりである。
処理対象材におけるステンレス鋼の成分組成は、11質量%以上26質量%以下のCr、0.1質量%以上22質量%以下のNi、0.1質量%以上2.0質量%以下のMn、0.005質量%以上0.1質量%以下のC、0.1質量%以上4.0質量%以下のSi、0.01質量%以上5.0質量%以下のMo、0.01質量%以上3.5質量%以下のCu、0.001質量%以上0.8質量%以下のNb、0.005質量%以上0.25質量%以下のN、0.001質量%以上0.8質量%以下のTi、および0.001質量%以上1.5質量%以下のAlを含み、残部が鉄および不可避的不純物からなる。
つまり、処理対象材は、オーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、およびオーステナイト・フェライト系(二相系)ステンレス鋼のうちいずれの成分組成を有していてもよい。
処理対象材は、残部は鉄(Fe)および不可避的不純物であってもよく、残部は他の各種の添加元素を含んでいてもよい。
なお、処理対象材の成分組成は、各種工程(圧延、焼鈍、加工、コーティング等)の影響をほとんど受けず、ステンレス鋼板10の成分組成は、処理対象材の上記成分組成と同様である。
圧延材1は、板厚が0.005mm以上0.2mm以下である。板厚が0.005mm未満では、例えば、圧延材1をセパレータ用として加工するには強度が不足し、製造コストがかかるため、セパレータ用途としては不適となる。また、板厚が0.2mmを超えると、重量が重すぎるため、燃料電池の軽量化を図ることができない。それ故、セパレータ用途としては不適となる。
圧延材1にBAを施した後(BA後の時点T2)のステンレス鋼板10は、母材11の表面には粒子状の生成物111(マンガン酸化物を含む粒子状生成物)が存在しない(または生成物111の密度が非常に小さい)。具体的には、ステンレス鋼板10は、表面における算術平均粗さRa(JIS B 0601)が1nm以上5nm以下であり、1nm以上3nm以下であることが好ましい。ここで、算術平均粗さRaが1nm未満では、母材11とコーティング膜21(後述)との密着性が不十分である。また、算術平均粗さRaが大きすぎると、表面にDLCコーティング膜が形成された場合の表面接触抵抗が十分に低くならない。さらに、該コーティングの耐久性が損なわれる。以上の理由で、算術平均粗さRaの上限値を5nmとした。
ステンレス鋼板10の母材11は、BAによって圧延材1の母材2が焼きなましされて形成される。
ステンレス鋼板10は、表面に生成物111が存在しないことから、従来のステンレス鋼板110よりも表面接触抵抗が低い。具体的には、ステンレス鋼板10は、表面接触抵抗が200mΩ・cm以下であり、好ましくは、表面接触抵抗が180mΩ・cm以下である。なお、本明細書において、表面接触抵抗の値は、後述する実施例に記載した方法にて測定した値である。
そして、ステンレス鋼板10にコーティング処理を施した後(時点T3)の膜形成鋼板20は、母材11の表面を覆うようにコーティング膜(コーティング層)21が形成されている。このコーティング膜21は、例えばDLCからなる。
ステンレス鋼板10の表面にDLCをコーティングする処理は、例えば以下のように実施される。すなわち、前処理として、ステンレス鋼板10の表面にArイオンによるスパッタクリーニングを施す。これにより、ステンレス鋼板10の母材11の表面に存在する不働体皮膜(厚さ数nm程度)や微細な付着物を除去し、DLCコーティングの密着性を確保する。スパッタクリーニング後のステンレス鋼板10に対して、例えば、PVD(Physical Vapor Deposition)法を用いてDLCをコーティングする。ステンレス鋼板10にコーティングされたDLCの膜厚は、例えば、20nm以上100nm以下であり、好ましくは、40nm以上60nm以下である。
ここで、マンガン酸化物を含む粒子状の生成物111が表面に存在するステンレス鋼板110(図7参照)では、生成物111のサイズが不働体皮膜よりも大きいことから、上記スパッタクリーニングによって生成物111を充分に除去することが困難である。そのため、前述のように、膜形成鋼板120では、生成物111を覆うようにDLCのコーティング膜が形成されることになり、表面接触抵抗が高くなる。
本製造方法によれば、膜形成鋼板20は、母材11上にコーティング膜21を平坦に形成することができる。そのため、母材11とコーティング膜21との接着性を良好なものとすることができる。その結果、コーティング膜21の耐久性を高くすることができる。また、膜形成鋼板20の表面接触抵抗を低くすることができる。具体的には、膜形成鋼板20は、表面接触抵抗が5mΩ・cm以下であり、好ましくは、表面接触抵抗が3mΩ・cm以下である。
図3の(a)は、ステンレス鋼板10の表面状態について、グロー放電発光分光法(GDS)を用いて分析した結果を示すグラフである。図3の(a)に示すように、本実施形態におけるステンレス鋼板10は、その表面のMn濃度(Mn元素の存在量を示すシグナル)が非常に低いことがわかる。
これに対して、図3の(b)は、上述の条件を満たさない光輝焼鈍を施した比較例におけるステンレス鋼板110の表面状態について、同じくGDSを用いて分析した結果を示すグラフである。ステンレス鋼板110では、その表面におけるMn濃度が大幅に高くなっている(表面にMnが濃化されている)。
ここで、本発明者らが鋭意検討の結果見出した、本製造方法の光輝焼鈍工程S6における上述の(1)式の関係について、より詳しく説明すれば以下のとおりである。
DP≦(−7.43)×ln(%Mn)−55+12.5×P(H)・・・(1)。
以下、光輝焼鈍工程S6にて用いられる加熱炉をBA炉と称し、BA炉内の還元雰囲気をBA雰囲気と称する。
BA雰囲気における露点が低くなる程、BA雰囲気の酸素濃度が低下する。また、BA雰囲気における水素濃度を高くするほど、BA雰囲気の還元性が強くなるとともに、水素が酸素と反応して酸素濃度が低下する。そのため、露点を最大限低くし、かつ水素濃度を100%とすれば、BA後の生成物111の発生は抑制される。しかし、必要以上に露点を低くすること、および水素濃度を高くすることは、ステンレス鋼板の製造コストを増大させる。
一方、一般的な条件にてBAを施すと、生成物111が容易に生成する。また、処理対象物のMn濃度が高くなるほど、生成物111が発生し易くなる。そのため、処理対象物のMn濃度を低くすれば、BA後の生成物111の発生は抑制される。それ故、処理対象物のMn濃度が0%であることが理想である。しかし、Mn濃度を0%とすることは、以下の2点の理由により難しい。(i)一般的に、ステンレス鋼板の主要原料は、ステンレス鋼スクラップであり、該スクラップにはMnが含まれる。そのため、Mnが不可避的にステンレス鋼板へ混入する。前記スクラップを使用せず、純粋な合金のみを原料とすると、コストが高くなる。(ii)ステンレス鋼板の加工性の確保や、製造性の確保のため、通常は1%程度のMnを含有することが求められる。
そこで、本発明者らは、一般的なBA条件における製造コストよりも追加で必要となる追加コストをなるべく抑制しつつ、生成物111が発生し難いBA雰囲気となる条件を特定すべく種々検討し、上述の(1)式を見出した。
なお、BA雰囲気の露点が高くなり過ぎると、ステンレス鋼板の表面が酸化して着色する。この場合、セパレータ用のステンレス鋼板の製造方法としては不適である。そのため、BA雰囲気は、露点が−30℃以下であることが好ましい。また、水素分圧が低すぎると、ステンレス鋼板の表面が窒化することがある。BA雰囲気は、酸素濃度を低減する、および還元性を高める観点から、水素分圧が0.6atm以上であることが好ましい。
BA炉は、温度が900℃以上1150℃以下の範囲内であり、例えば、950℃以上1000℃以下の範囲内である。また、BA炉内における在炉時間は特に限定されず、BA炉の温度が上述の温度である場合、例えば、5秒から30秒であってよい。ステンレス鋼板の製造ラインにおける処理速度に応じて適宜決定されてよい。
<ステンレス鋼板>
本発明の一態様におけるステンレス鋼板は、上述の製造方法により製造される。上記ステンレス鋼板は、表面における算術平均粗さRaが1nm以上5nm以下であり、表面接触抵抗が200mΩ・cm以下である。
ステンレス鋼板の成分組成は、例えば、下記表1に示される成分である。
C(炭素)は、オーステナイト組織の形成および強度確保のために必要な元素である。また、Cを過度に低下させると精錬コストが増加するため経済的に好ましくない。そのため、C含有量は0.005%以上とする。一方、C濃度が高すぎると、必要以上に材料が硬化する。さらに、Cr炭化物が生成し、耐食性が低下するため、C含有量は0.1%以下とし、0.07%以下であるのが好ましい。
Si(ケイ素)は精錬工程における脱酸元素として添加される元素である。また、材料の耐熱性や高温強度を確保する効果がある。よって、Si含有量は0.1%以上とする。一方、Si濃度が高すぎると材料が脆化するため、Si含湯量は4.0%以下とし、2.0%以下であるのがより好ましい。
Mn(マンガン)はオーステナイト組織形成の目的で添加することがある。また、一般的にステンレス鋼の原料としてステンレス鋼のスクラップが使用されるため、スクラップ中に含まれるMnが不可避的に混入する。ステンレス母材中のMnは、BA工程において、ステンレス表面のMnOを含む粒子状の生成物の起源となるため、生成物抑制のためには、Mn濃度が低いほうが有利である。しかし、Mn濃度を過度に低下させるためには、原料として安価なスクラップの使用を制限せざるを得ず、原料費が増加する。そのため、Mn含有量は0.1%以上とする。一方、Mn含有量が過度に高い場合は、製品表面に粒子状の生成物を生じやすくなるため、Mn含有量は2.0%以下とし、1.2%以下であるのがより好ましい。
Ni(ニッケル)はオーステナイト組織の形成および耐食性確保に必要な元素である。そのため、Ni含有量は0.1%とする。一方、Niの過度な添加は製造コスト増大に繋がるため、Ni含有量は22%以下とし、10%以下であるのがより好ましい。
Cr(クロム)は耐食性を向上させる元素である。そのため、Cr含有量は11%以上とする。一方、Cr濃度が高すぎると、材料が硬質となり、加工性を劣化させる。よって、Cr含有量は26%以下とし、20%以下であるのがより好ましい。
Mo(モリブデン)は耐食性を向上させる元素である。そのため、Mo含有量は0.01%以上とする。一方、Moを過度に添加すると、製造コストが増大する。そのため、Mo含有量は5.0%以下とし、2.0%以下であるのがより好ましい。
Cu(銅)はオーステナイト組織の安定化および材料の軟質化による加工性向上に有効な元素であるそのため、Cu含有量は0.01%以上とする。一方、Cuを過度に添加すると、製造コストが増大するだけでなく、製造性の劣化にも繋がる。そのため、Cu含有量は3.5%以下とし、1.0%以下であるのがより好ましい。
Nb(ニオブ)はC、Nと結合して耐食性を向上させる効果がある。また、微量のNbは原料のステンレス鋼スクラップから不可避的に混入する。よって、Nb含有量は0.001%以上とする。一方、Nbを過度に添加すると、製造コストが増大するだけでなく、製造性の劣化にも繋がる。そのため、Nb含有量は0.8%以下とし、0.4%以下であるのがより好ましい。
N(窒素)はオーステナイト組織形成と材料の強度向上に寄与する元素である。また、Nを過度に低下させると精錬コストが増加するため経済的に好ましくない。このため、N含有量は0.005%以上とする。一方、N含有量が高すぎると、材料が硬質化し、加工性が劣る。そのため、N含有量は0.25%以下とし、0.08%以下であるのがより好ましい。
Ti(チタン)はC、Nと結合して耐食性を向上させる効果がある。また、微量のTiは原料のステンレス鋼スクラップから不可避的に混入する。よって、Ti含有量は 0.001%以上とする。一方、Tiを過度に添加すると、製造コストが増大するだけでなく、製造性の劣化にも繋がる。そのため、Ti含有量は0.8%以下とし、0.4%以下であるのがより好ましい。
Al(アルミニウム)は精錬工程において脱酸元素と添加される他、耐高温酸化性向上に寄与する元素である。また、微量のAlは製造工程で使用される還元材等から不可避的に混入する。よって、Al含有量は0.001%以上とする。一方、Alの過度な添加は製造コストが増大するだけでなく、製造性の劣化にも繋がる。そのため、Al含有量は1.5%以下とし、0.5%以下であるのがより好ましい。
本発明の一態様におけるステンレス鋼板の表面における算術平均粗さRaおよび表面接触抵抗は、後述する実施例に記載した方法にて測定した値である。
〔附記事項〕
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、上記説明において開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
本製造方法における上記(1)式を満たす条件および満たさない条件にて、一連の処理(図1の(a)参照)を行い、下記表2に示す組成および板厚のステンレス鋼板(BA後の時点T2のステンレス鋼板)を得た。得られた供試材についてそれぞれ、表面接触抵抗測定、付着物評価および表面粗さ(算術平均粗さRa)の測定を行った。
また、上記供試材の表面にDLCをコーティングする処理を行った後、下記と同様の方法にて表面接触抵抗を測定した。DLCコーティング処理は、上記供試材の表面にArイオンによるスパッタクリーニング処理を施した後、一般的なPVD法を用いて、膜厚50〜100nmのDLCの皮膜を形成することにより行った。
(表面接触抵抗測定)
図4は、一実施例におけるステンレス鋼板の表面接触抵抗を測定する方法について説明するための図である。図4に示すように、測定対象試料のステンレス鋼板50を2枚のカーボンペーパ52、53で挟んだ状態にて、2つの押え治具51により両側から挟持して固定した。2つの押え治具51は、ステンレス鋼板50に対して荷重Fを付与可能となっている。
また、2つの押え治具51はそれぞれ、直流電源60と接続されており、カーボンペーパ52からステンレス鋼板50を介してカーボンペーパ53へと電流Cを流すことができるようになっている。そして、ステンレス鋼板50およびカーボンペーパ53には電圧計70が接続されている。
2つの押え治具51を用いて、ステンレス鋼板50とカーボンペーパ53との面圧が1.0MPaとなるように荷重Fを調整し、ステンレス鋼板50とカーボンペーパ53との間の電気抵抗を測定した。この測定値に、電極の接触面の面積を乗じた値を接触抵抗値とした。
(付着物評価)
走査電子顕微鏡による観察により、ステンレス鋼板の表面上の、直径10nm以上の粒子の有無を判定した。以下に、走査電子顕微鏡の種類および測定条件を記載する。
・装置名:株式会社 日立ハイテクノロジーズ社製 電界放出形走査電子顕微鏡 SU5000
・測定倍率:50,000倍
・加速電圧:15kV
・測定視野:ステンレス鋼板の表面の10視野を、ランダムに選択して観察した。1視野中に直径10nm以上の粒子が1つ以上観察された場合、その視野において付着物「有」と評価した。そして、10視野中に1視野でも付着物「有」の場合、当該試料の付着物評価は「有」と判定した。
(算術平均粗さの測定)
算術平均粗さRaの測定は、原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Micro scope)を用いて行った。以下に、測定方法の条件を記載する。
・装置名:Digital Instruments社製 NanoScopeIIIa
・測定条件:タッピングAFM
・スキャン速度:0.6〜0.8Hz
・測定点:512点
・測定範囲:2×2μm
結果を表2に示す。
表2には、各試料におけるMn濃度およびBA炉内雰囲気の水素分圧を下記(2)式に代入して得られるD値を示している。そして、各試料について露点≦Dの場合を判定「○」とし、露点>Dの場合を判定「×」として示している。
D=(−7.43)×ln(%Mn)−55+12.5×P(H)・・・(2)。
判定が「○」である本発明例の試料ではいずれも、ステンレス鋼板の表面に付着物は観察されず、また、表面接触抵抗が200mΩ・cm以下と低かった。一方、判定が「×」である比較例の試料では、ステンレス鋼板の表面に付着物が観察された。そのため、比較例の試料は、表面接触抵抗が200mΩ・cmを超えていた。さらに、DLCコーティングを施した後の、各ステンレス鋼板の表面接触抵抗を測定した。その結果、判定が「○」である本発明例の試料ではいずれも、表面接触抵抗が3.8以下であった。
表2に示す結果をグラフにして、図5を用いて説明すれば以下のとおりである。
図5は、BA時の還元雰囲気における露点および水素分圧と、BA後のステンレス鋼板の表面における生成物の有無と、の関係を示すグラフであって、(a)〜(d)はそれぞれ、ステンレス鋼板の成分組成におけるMn濃度が、0.5質量%、1.1質量%、1.5質量%、および1.8質量%の場合について示している。
つまり、図5の(a)は、表2に示すNo.6〜10の試料に対応しており、図中F1で示す点線は、下記(3)式を表している。
D[Mn:0.5]=(−7.43)×ln(0.5)−55+12.5×P(H)・・・(3)。
Mn濃度が0.5質量%の場合、図5の(a)に示すグラフにおいて、F1で示す点線よりも下側の領域に含まれるように、BA雰囲気の露点および水素分圧を調整すればよい。
そして、図5の(b)〜(d)に示すように、ステンレス鋼板の成分組成におけるMn濃度が高くなるほど、図中F2〜F4で示す点線の位置(すなわち、露点および水素分圧として適正な範囲)が変化する。
図6の(a)は、本発明例のステンレス鋼板について、AFMによる表面観察例および表面の算術平均粗さRaを測定した結果の一例について示す図である。図6の(b)は、本発明外の条件で光輝焼鈍を施して得られた比較例のステンレス鋼板について、AFMによる表面観察例および表面の算術平均粗さRaを測定した結果の一例について示す図である。
図6の(a)に示すように、本発明例のステンレス鋼板は、その表面における付着物の生成が大幅に抑制されることにより、非常に清浄な表面を有することがわかる。また、本発明例のステンレス鋼板は、機械的な研磨処理を施すことなくこのような表面状態となっていることから、表面に研磨疵(研磨目)を有しない。また、例えば電解研磨処理をすると、算術平均粗さRaの値が本発明例のステンレス鋼板よりも大きくなり得る。一方で、図6の(b)に示すように、比較例のステンレス鋼板は、表面に付着物が多量にしており、表面の算術平均粗さRaが5nmを大きく超えることがわかる。
以上のように、ステンレス鋼板の成分組成におけるMn濃度に対応して決定される(1)式の関係を満たすように、BA炉内の還元雰囲気を制御することにより、清浄な表面を有することにより該表面に導電性薄膜を形成した場合に低い表面接触抵抗を示すステンレス鋼板を製造することができる。
DP≦(−7.43)×ln(%Mn)−55+12.5×P(H)・・・(1)。
また、本製造方法によれば、(1)式の範囲内にてBA雰囲気の露点および水素分圧を決定すればよく、過剰に露点を低くしたり水素分圧を高くしたりすることが抑制される。その結果、製造コストを抑制して、PEFC(固体高分子型燃料電池)のセパレータ基材として好適に利用し得るステンレス鋼板を製造することができる。
1 圧延材
10 ステンレス鋼板
20 膜形成鋼板
21 コーティング膜

Claims (6)

  1. ステンレス鋼板の表面における算術平均粗さRaが1nm以上5nm以下であり、
    表面接触抵抗が200mΩ・cm以下であることを特徴とするステンレス鋼板。
  2. ステンレス鋼の成分組成を有する処理対象材に仕上圧延を施して成る圧延材に対して、H分圧0.6atm以上かつ露点−30℃以下の還元雰囲気下にて900℃以上1150℃以下の温度で光輝焼鈍を施すことによりステンレス鋼板を得る光輝焼鈍工程を含み、
    前記光輝焼鈍工程では、下記(1)式を満足するように前記還元雰囲気を制御することを特徴とするステンレス鋼板の製造方法。
    DP≦(−7.43)×ln(%Mn)−55+12.5×P(H)・・・(1)
    (ここで、
    DP:前記露点(℃)
    %Mn:前記ステンレス鋼の成分組成におけるマンガン濃度(質量%)
    P(H):前記H分圧(atm))
  3. 前記ステンレス鋼の成分組成は、11質量%以上26質量%以下のCr、0.1質量%以上22質量%以下のNi、0.1質量%以上2.0質量%以下のMn、0.005質量%以上0.1質量%以下のC、0.1質量%以上4.0質量%以下のSi、0.01質量%以上5.0質量%以下のMo、0.01質量%以上3.5質量%以下のCu、0.001質量%以上0.8質量%以下のNb、0.005質量%以上0.25質量%以下のN、0.001質量%以上0.8質量%以下のTi、および0.001質量%以上1.5質量%以下のAlを含み、残部が鉄および不可避的不純物からなることを特徴とする請求項2に記載のステンレス鋼板の製造方法。
  4. 前記ステンレス鋼板の表面において、マンガン酸化物を含む粒子状生成物が形成されていない、または算術平均粗さRaが1nm以上5nm以下であり、
    前記ステンレス鋼板の表面接触抵抗が200mΩ・cm以下であることを特徴とする請求項2または3に記載のステンレス鋼板の製造方法。
  5. 前記圧延材は、板厚が0.2mm以下であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載のステンレス鋼板の製造方法。
  6. 前記ステンレス鋼板は、固体高分子型燃料電池のセパレータ基材であることを特徴とする請求項2〜5のいずれか一項に記載のステンレス鋼板の製造方法。
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