JP2020143262A - ポリアリーレンエーテルケトンの製造方法 - Google Patents

ポリアリーレンエーテルケトンの製造方法 Download PDF

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泰亮 平野
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Abstract

【課題】ポリアリーレンエーテルケトンの製造方法を提供する。【解決手段】ポリアリーレンエーテルケトンの製造方法であって、芳香族ジカルボン酸またはその誘導体(M1)と、芳香族エーテル骨格または芳香族チオエーテル骨格をもつ化合物(M2)との混合物に、pKaが0以下の酸の無水物を添加して反応させる工程を含む、ポリアリーレンエーテルケトンの製造方法。【選択図】なし

Description

本発明はポリアリーレンエーテルケトンの製造方法に関する。
ポリアリーレンエーテルケトンは耐熱性、耐薬品性、難燃性、および、摩擦磨耗特性などの優れた性質を有する代表的なスーパーエンジニアリングプラスチックの1つである。その優れた物性のため、ポリアリーレンエーテルケトンは使用条件が極めて厳しい分野の用途や金属代替の材料としての需要が拡大してきている。
代表的なポリアリーレンエーテルケトンであるポリフェニレンエーテルケトン類の合成法としては、ニトロベンゼン中、過剰量の塩化アルミニウム存在下、テレフタル酸クロリドまたはイソフタル酸クロリドと、ジフェニルエーテルとを求電子反応により重合を行う方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
また、特許文献2では、酸クロリド型モノマーの代わりに、4−(4−フェノキシ)フェノキシ安息香酸を用いて、トリフルオロメタンスルホン酸の存在下、自己重合を行う方法が提案されている。
また、特許文献3では、テレフタル酸とp−ジフェノキシベンゼンを用いて、トリフルオロメタンスルホン酸と五酸化二リンの存在下、重合を行う方法が提案されている。
また、特許文献4では、メタンスルホン酸と五酸化二リンの存在下、脂環式ジカルボン酸と芳香族エーテル類を重合する方法が提案されている。
さらに、特許文献5では、メタンスルホン酸と五酸化二リンの存在下、イソフタル酸とジフェニルエーテルを重合する方法が提案されている。
米国特許第3,065,205号明細書 特開昭58−208320号公報 特開平1−503073号公報 特許第6218059号公報 特開昭59−135224号公報
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、重合時に酸性ガスが発生することから、環境面に課題がある。また、特許文献2および4に記載の方法では、高価なモノマーが必要であり、コスト面に課題がある。特許文献3に記載の方法では、反応時に副生するポリリン酸により、反応液が増粘し、反応性が低下する課題がある。さらに、特許文献5に記載の方法では、モノマーの構造が限定され、得られるポリマーの構造が限定される課題がある。
したがって、本発明は、ポリアリーレンエーテルケトンの効率的な製造方法を提供することを課題とする。
そこで鋭意検討した結果、芳香族ジカルボン酸またはその誘導体と、芳香族エーテル骨格または芳香族チオエーテル骨格をもつ化合物との混合物に、pKaが0以下の酸の無水物を添加して反応させることで、ポリアリーレンエーテルケトンを製造できることが見出された。
上記目的を達成するために、本発明は以下の構成を有するものである。
(1)芳香族ジカルボン酸またはその誘導体(M1)と、芳香族エーテル骨格または芳香族チオエーテル骨格をもつ化合物(M2)との混合物に、pKaが0以下の酸の無水物を添加して反応させる工程を含む、ポリアリーレンエーテルケトンの製造方法。
(2)前記反応させる工程で、脱水剤を添加する、(1)記載のポリアリーレンエーテルケトンの製造方法。
(3)前記反応させる工程で、前記M1を溶解し、かつpKaが0以下の酸を添加する、(1)または(2)記載のポリアリーレンエーテルケトンの製造方法。
(4)芳香族ジカルボン酸またはその誘導体(M1)が、式(VII)および(VIII)で示される少なくとも1種の誘導体である、(1)〜(3)の何れかに記載のポリアリーレンエーテルケトンの製造方法。
式(VII)または(VIII)において、Rは、それぞれ水酸基、ハロゲン原子、炭素数1〜8の直鎖状アルコキシ基、炭素数3〜8の分岐状アルコキシ基、又は、式(XI)から選ばれるいずれかであり、互いに等しいかまたは異なるRのそれぞれは、炭素数1〜6の直鎖状有機基、分岐状有機基、および環状有機基のいずれかであり、酸素原子、窒素原子、硫黄原子のいずれかを1つまたは複数含んでいてもよく、aは0〜4の整数である。又、式(XI)において、Mは、第一級から第四級のアンモニウムカチオンである。
(5)芳香族エーテル骨格または芳香族チオエーテル骨格をもつ化合物(M2)が、式(X))で示される、(1)〜(4)の何れかに記載のポリアリーレンエーテルケトンの製造方法。
式(X)において、Xは、酸素原子または硫黄原子であり、互いに等しいかまたは異なるRのそれぞれは、炭素数1〜6の直鎖状有機基、分岐状有機基、および環状有機基のいずれかで酸素原子、窒素原子、硫黄原子のいずれかを1つまたは複数含んでいてもよく、aは0〜4である。
(6)pKaが0以下の酸の無水物が、有機スルホン酸無水物である、(1)〜(5)の何れかに記載のポリアリーレンエーテルケトンの製造方法。
(7)脱水剤が、五酸化二リン、アルミナ、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、シリカゲル、および濃硫酸から選ばれる少なくとも1種である、(2)〜(6)の何れかに記載のポリアリーレンエーテルケトンの製造方法。
(8)前記M1を溶解し、かつpKaが0以下の酸が、有機スルホン酸、硫酸、およびカルボラン酸から選ばれる少なくとも1種である、(3)〜(7)の何れかに記載のポリアリーレンエーテルケトンの製造方法。
(9)得られるポリアリーレンエーテルケトンの繰り返し単位が下記一般式(IV)で表される(1)〜(8)の何れかに記載のポリアリーレンエーテルケトンの製造方法。
式(III)において、Xは酸素原子、または硫黄原子であり、繰り返し数n、mは、0以上の整数で、互いに同一であっても異なっていてもよく、nとmの和は、17〜10000である。
本発明は、取り扱い容易で安価なモノマーを使用して製造できるので、効率的なポリアリーレンエーテルケトンの製造方法を提供できる。
実施例1で得られたポリアリーレンエーテルケトンの赤外分光チャートを示す図である。 比較例1で得られた固体の赤外分光チャートを示す図である。
本発明における、ポリアリーレンエーテルケトンとは、フェニレンエーテル、およびフェニレンケトンを繰り返し構造単位に持ち、下記一般式(I)または(II)で表される。
式(I)または(II)において、Xは、酸素原子または硫黄原子で、互いに等しいかまたは異なるRのそれぞれは、炭素数1〜6の直鎖状、分岐状、環状の有機の基で酸素原子、窒素原子、硫黄原子を1つまたは複数含んでいてもよく、aはそれぞれ独立して0〜4である。Arは、フェニレン、ナフタレン、ビフェニレン、ジフェニルエーテル骨格で、骨格中の水素原子は、炭素数1〜6の直鎖状、分岐状、環状の有機の基で置換されていてもよく、酸素原子、窒素原子、硫黄原子を1つまたは複数含んでいてもよい。
Xが酸素原子の場合、nとmの比率により、ポリマーのTm(融点)が変化する。成形性や加工性の観点から、n>mが好ましく、n:m=6:4〜10:0がより好ましい。加工性の観点から、Tmは300〜400℃が好ましく、その場合、n:m=6:4〜9:1が好ましい。
Xが硫黄原子の場合、nとmの比率により、ポリマーのTm(融点)が変化する。成形性や加工性の観点から、n>mが好ましく、n:m=6:4〜10:0がより好ましい。加工性の観点から、Tmは300〜400℃が好ましく、その場合、n:m=6:4〜9:1が好ましい。
Xが酸素原子の場合と硫黄原子の場合が混在する場合、酸素原子の割合と硫黄原子の割合については特に制限されないが、硫黄原子の割合が酸素原子の割合よりも多いと、Xが酸素原子のみで構成されるときと比べて、Tmが低下する可能性がある。加工性の観点から、Tmは300〜400℃が好ましく、その場合、酸素原子:硫黄原子=5:5〜9:1が好ましい。
繰り返し数n、mは、0以上の整数で、互いに同数であってもなくてもよく、nとmの和は、17〜10000が好ましく、17〜5000の範囲がより好ましく、成形性や加工性の観点から、33〜1000の範囲がより好ましく例示できる。式(I)または(II)において、aが0であると、製造性の観点から、より好ましい。
より好ましい繰り返し単位は、製造性の観点から、下記一般式(III)または(IV)で表される。
式(III)または(IV)において、Xは、酸素原子または硫黄原子で、繰り返し数n、mは、0以上の整数で、互いに同数であってもなくてもよく、nとmの和は、17〜10000が好ましく、17〜5000の範囲がより好ましく、成形性や加工性の観点から、33〜1000の範囲(分子量に換算すると、1〜30万)がより好ましく例示できる。
特により好ましい繰り返し単位は、製造の効率や入手の容易性の観点から、下記一般式(V)で表される。
式(V)において、Xは、酸素原子または硫黄原子で、繰り返し数n、mは、0以上の整数で、互いに同数であってもなくてもよく、nとmの和は、17〜10000が好ましく、17〜5000の範囲がより好ましく、成形性や加工性の観点から、33〜1000の範囲がより好ましく例示できる。
Xが酸素原子の場合、nとmの比率により、ポリマーのTm(融点)が変化する。成形性や加工性の観点から、n>mが好ましく、n:m=6:4〜10:0がより好ましい。加工性の観点から、Tmは300〜400℃が好ましく、その場合、n:m=6:4〜9:1が好ましい。
Xが硫黄原子の場合、nとmの比率により、ポリマーのTm(融点)が変化する。成形性や加工性の観点から、n>mが好ましく、n:m=6:4〜10:0がより好ましい。加工性の観点から、Tmは300〜400℃が好ましく、その場合、n:m=6:4〜9:1が好ましい。
Xが酸素原子の場合と硫黄原子の場合が混在する場合、酸素原子の割合と硫黄原子の割合については特に制限されないが、硫黄原子の割合が酸素原子の割合よりも多いと、Xが酸素原子のみで構成されるときと比べて、Tmが低下する可能性がある。加工性の観点から、Tmは300〜400℃が好ましく、その場合、酸素原子:硫黄原子=5:5〜9:1が好ましい。
本発明の製造方法では、後述する芳香族ジカルボン酸またはその誘導体(M1)と、芳香族エーテル骨格または芳香族チオエーテル骨格を持つ化合物(M2)との混合物に、pKaが0以下の酸の無水物を添加して反応させる。ここで、pKaが0以下の酸の無水物とは、水溶液中のpKaが0以下のオキソ酸2分子が脱水縮合したもので、有機酸無水物、無機酸無水物である。pKaは、酸および塩基の強度を定量的に評価する尺度で、pKaが小さいものほど酸性度が強い。
本発明の製造方法は、芳香族ジカルボン酸またはその誘導体(M1)が、上記酸無水物と反応して混合酸無水物を形成し、この混合酸無水物がアシル化剤としてはたらき、芳香族エーテル骨格または芳香族チオエーテル骨格をもつ化合物(M2)にアシル化することで、重合反応が進行し、目的とするポリアリーレンエーテルケトンを得ることができると推測している。酸無水物を形成している酸のpKaが小さいほど、混合酸無水物のアシル化剤としての活性度が高いことから、pKaは0以下のものが好ましく、反応性の観点から、−2以下のものがより好ましく、−10以下のものがさらに好ましい。pKaの値の下限は特に限定されないが、現実的なpKaの下限は、−30である。
具体的には、トリフルオロ酢酸無水物、メタンスルホン酸無水物、トリフルオロメタンスルホン酸無水物、p−トルエンスルホン酸無水物、塩化スルホン酸無水物、フルオロスルホン酸無水物、ベンゼンスルホン酸無水物、ペンタフルオロオクタンスルホン酸無水物、ノナフルオロブタンスルホン酸無水物が挙げられ、取り扱い性の観点から、トリフルオロ酢酸無水物、メタンスルホン酸無水物、トリフルオロメタンスルホン酸無水物、p−トルエンスルホン酸無水物が好ましく、反応性の観点から、トリフルオロメタンスルホン酸無水物がより好ましい。
本発明の製造方法における、pKaが0以下の酸の無水物の量は、M1の量に依存する。過剰に用いても問題なく製造できることから、特に制限されないが、M1に対する酸無水物のモル比は、0.00001〜100であり、経済的な観点から、0.00001〜10が好ましい。M1に対する酸無水物のモル比が1以下の場合は、酸無水物は触媒として機能することが期待できる。
本発明の製造方法では、反応させる工程において、脱水剤を添加することができる。ここで、脱水剤とは、吸湿性の強い物質や水と反応しやすい物質であり、具体的には、五酸化二リン、アルミナ、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、シリカゲル、濃硫酸が挙げられ、反応性の観点から、五酸化二リンが好ましい。本発明の製造方法における、脱水剤の量は、pKaが0以下の酸の無水物の量に依存する。pKaが0以下の酸の無水物に対する脱水剤のモル比は、少なくとも1以上であり、過剰に用いても問題なく製造できることから、上限は特に制限されないが、現実的な上限は100である。脱水剤の量が多すぎると、攪拌性が損なわれるので、pKaが0以下の酸の無水物に対する脱水剤のモル比は、1〜10が好ましい。
本発明の製造方法における、脱水剤は、M1と上記酸無水物が反応して混合酸無水物を形成する際に生じる、酸と反応し、酸を酸無水物に変換する目的で加えるものである。したがって、反応中であれば脱水剤はいつ添加してもよいが、操作性の観点から、反応開始時に加えておくことが好ましい。
本発明の製造方法では、反応させる工程において、芳香族ジカルボン酸またはその誘導体(M1)を溶解し、かつkKaが0以下の酸を添加することができる。ここで、M1を溶解し、かつpKaが0以下の酸とは、水溶液中のpKaが0以下の有機酸、無機酸であり、芳香族ジカルボン酸またはその誘導体(M1)を溶解できるものであれば、特に制限されないが、具体的には、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、塩化スルホン酸、フルオロスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ペンタフルオロオクタンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸、硫酸、硝酸、カルボラン酸が挙げられ、入手の容易性の観点から、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、硫酸、硝酸が好ましく、反応性の観点から、トリフルオロメタンスルホン酸がより好ましい。
M1を溶解する、とは、M1に上記酸を加えた際に、溶液が均一状態になることを表す。
本発明の製造方法は、M1と酸無水物が反応することで、混合酸無水物が生成し、それにより、重合反応が進行すると推測している。したがって、上記酸を添加する場合、M1と反応しないことが好ましい。(ここでの反応とは、M1と酸が直接反応し、混合酸無水物を生成することを表す)
本発明の製造方法における、M1を溶解する、pKaが0以下の酸の量は、過剰に用いても問題なく製造できることから、特に制限されないが、現実的には、酸に対するM1の重量%が1〜99%当重量であり、反応性の観点から、1〜50%当重量が好ましい。
本発明の製造方法における、芳香族ジカルボン酸またはその誘導体(M1)について説明する。本発明における、M1とは、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸エステル、芳香族ジカルボン酸クロリド、芳香族ジカルボン酸塩であり、下記一般式(VI)で表わされる化合物である。
式(VI)中、Rは、水酸基、ハロゲン原子、炭素数1〜8の直鎖状、分岐状のアルコキシ基、又は、式(XI)である。Arは、フェニレン、ナフタレン、ビフェニレン、ジフェニルエーテル骨格で、骨格中の水素原子は、炭素数1〜6の直鎖状、分岐状、環状の有機の基で置換されていてもよく、酸素原子、窒素原子、硫黄原子を1つまたは複数含んでいてもよい。式(XI)において、Mは、第一級から第四級のアンモニウムカチオンである。
好ましくは、下記一般式(VII)および/または(VIII)で表わされる化合物が使用できる。
式(VII)および(VIII)において、Rは、水酸基、ハロゲン原子、炭素数1〜8の直鎖状、分岐状のアルコキシ基、又は、式(XI)であり、互いに等しいかまたは異なるRのそれぞれは、炭素数1〜6の直鎖状、分岐状、環状の有機の基で酸素原子、窒素原子、硫黄原子を1つまたは複数含んでいてもよく、aは0〜4である。式(XI)において、Mは、第一級から第四級のアンモニウムカチオンである。
芳香族ジカルボン酸またはその誘導体(M1)は、具体的には、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸クロリド、イソフタル酸クロリド、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ジメチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−tert−ブチルイソフタル酸、4,6−ジメチルイソフタル酸、5−メトキシイソフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、テレフタル酸ジフェニル、テレフタル酸−2−ヒドロキシエチルメチル、テレフタル酸ビス(2−ヒドロキシエチル)、テレフタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、イソフタル酸ジエチル、イソフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ビス(2−エチルヘキシル)、テレフタル酸ジアンモニウム塩、テレフタル酸ジ(モノアルキルアンモニウム)塩、テレフタル酸ジ(ジアルキルアンモニウム)塩、テレフタル酸ジ(トリアルキルアンモニウム)塩等のテレフタル酸塩、イソフタル酸ジアンモニウム塩、イソフタル酸ジ(モノアルキルアンモニウム)塩、イソフタル酸ジ(ジアルキルアンモニウム)塩、イソフタル酸ジ(トリアルキルアンモニウム)塩等のイソフタル酸塩が挙げられ、より好ましくは、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸クロリド、イソフタル酸クロリド、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジアンモニウム塩、テレフタル酸ジ(トリエチルアンモニウム)塩、テレフタル酸ジ(ジイソプロピルエチルアンモニウム)塩、イソフタル酸ジアンモニウム塩、イソフタル酸ジ(トリエチルアンモニウム)塩、イソフタル酸ジ(ジイソプロピルエチルアンモニウム)塩であり、入手の容易性・環境への影響の観点から、特にテレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジ(トリエチルアンモニウム)塩、テレフタル酸ジ(ジイソプロピルエチルアンモニウム)塩が好ましい。テレフタル酸ジ(トリエチルアンモニウム)塩、テレフタル酸ジ(ジイソプロピルエチルアンモニウム)塩に代表されるテレフタル酸ジ(トリアルキル)アンモニウム塩は、既知の手法(例えば、日本化学会誌、1977年、10号、1505−1511ページ)を参考に、容易に調製することができる。テレフタル酸ジ(トリアルキル)アンモニウム塩は、テレフタル酸より反応溶媒に対する溶解性が向上するので、反応溶媒の選択肢を増やすことができる。これら芳香族ジカルボン酸またはその誘導体(M1)は、単独で用いても良いし、2種類以上の混合物として用いても良い。
本発明の製造方法における、芳香族エーテル骨格または芳香族チオエーテル骨格をもつ化合物(M2)とは、下記一般式(IX)で表わされる化合物である。
式(IX)中、Xは、酸素原子または硫黄原子であり、ArおよびArは、それぞれ独立して、フェニレン、ナフタレン、ビフェニレン骨格で、骨格中の水素原子は、炭素数1〜6の直鎖状、分岐状、環状の有機の基で置換されていてもよく、酸素原子、窒素原子、硫黄原子を1つまたは複数含んでいてもよい。
好ましくは、下記一般式(X)で表わされる化合物が使用できる。
式(X)において、Xは、酸素原子、硫黄原子で、互いに等しいかまたは異なるRのそれぞれは、炭素数1〜6の直鎖状、分岐状、環状の有機の基で酸素原子、窒素原子、硫黄原子を1つまたは複数含んでいてもよく、aはそれぞれ独立して0〜4である。
芳香族エーテル骨格または芳香族チオエーテル骨格をもつ化合物(M2)は、具体的には、ジフェニルエーテル、1,4−ジフェノキシベンゼン、1,3−ジフェノキシベンゼン、2,2’−ジナフチルエーテル、3−フェノキシトルエン、o−トリル3,5−キシリルエーテル、ジフェニルスルフィドなどが挙げられ、これらの中でも、ジフェニルエーテル、1,4−ジフェノキシベンゼン、ジフェニルスルフィドが好ましく、入手の容易性の観点から、ジフェニルエーテル、ジフェニルスルフィドがより好ましい具体例として挙げることができる。これら芳香族エーテル骨格または芳香族チオエーテル骨格をもつ化合物(M2)は、単独で用いても良いし、2種類以上の混合物として用いても良い。
芳香族ジカルボン酸またはその誘導体(M1)の使用量は、芳香族エーテル骨格または芳香族チオエーテル骨格をもつ化合物(M2)1.0モルに対し、0.8〜1.2モルの範囲であることが好ましく、得られるポリマー物性の観点から、0.9〜1.1モルの範囲がより好ましく、1.0がより好ましい。
本発明の製造方法は、操作性の観点から、溶媒下で実施されることが好ましい。溶媒を用いる場合、本発明の目的に適するものでは、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジフェニルスルホン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)、ホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒、ピリジン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等の塩基性溶媒、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、1,4−ジオキサン等の非極性溶媒、ニトロベンゼン、ニトロメタン等の極性溶媒、イオン液体、深共晶溶媒等のイオン性溶媒が挙げられ、これらは、単独で用いても良いし、2種類以上の混合物として用いても良い。M1およびM2が溶解するものが好ましく、具体的には、DMSO、DMF、NMP、DMAc、ジフェニルスルホン、DMI等の非プロトン性極性溶媒、イオン液体が好ましい。
本発明の製造方法は、窒素雰囲気下で、加熱下で行われる。反応温度は、広範囲にわたって変えることができるが、少なくとも20℃以上、好ましくは少なくとも60℃以上の温度で実施され、最大でも400℃、製造性の観点から、好ましくは最大でも350℃の温度で実施されるのがよい。酸や有機溶媒を添加する場合は、添加する酸や有機溶媒の沸点以下にすることが好ましい。それらを用いる場合、20〜200℃で実施することが好ましい。さらに、反応性を向上させる目的で、攪拌させながら実施されるのがより好ましい。
本発明の製造方法における反応時間は、反応温度、使用される試薬の性質および溶媒の存在にある程度依存して広く変わり得るが、0.1〜100時間、好ましくは、製造性の観点から、0.5〜50時間であり、0.5〜25時間が、より好ましい。
本発明の製造方法における反応容器は、上記反応温度に耐えられる容器であれば、特に制限されないが、ガラス製容器やステンレス製容器を用いることができる。
本発明の製造方法において、反応にかけられる圧力は、反応剤を反応媒体中で液相に維持できればよく、1気圧〜10気圧の範囲の圧力を用いることができ、好ましくは、製造性の観点から、1気圧〜2気圧の圧力である。
本発明の製造方法により得られた反応混合物には、少なくともポリアリーレンエーテルケトンが含まれ、その他成分として、未反応原料、副生塩、未反応の酸無水物、脱水剤、酸などが含まれる場合がある。この様な反応混合物からポリアリーレンエーテルケトンを回収する方法に特に制限はなく、例えば必要に応じて、未反応原料、副生塩、未反応の酸無水物、脱水剤、酸に対して溶解性を有する溶剤と必要に応じて加熱下で接触させて回収する方法が例示できる。このような特性を有する溶剤は一般に比較的極性の高い溶剤であり、用いた酸無水物や脱水剤の種類により好ましい溶剤は異なるので限定はできないが、例えば、水や、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサノールに代表されるアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンに代表されるケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどに代表される酢酸エステル類が例示でき、取り扱いのしやすさ、入手の容易性の観点から水、メタノール、アセトンが好ましく、水、メタノールがより好ましい。水を用いる場合は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基で中和後、回収する方法が例示できる。
本発明の方法で製造されるポリアリーレンエーテルケトンは、赤外分光法や核磁気共鳴分光法により、構造を確認することができる。
本発明の方法で製造されるポリアリーレンエーテルケトンは、耐熱性に優れることから、エンジニアリングプラスチックとして好適に使用できる。例えば、自動車・航空機分野、電気・電子機器分野、機械分野、その他の分野(医療・介護機器、耐熱シート、耐熱繊維等)においてエンジニアリングプラスチックとして好適に使用できる。詳細には、自動車・航空機分野における用途としては、例えば、エンジンカバー、吸気マニホールド、ドアミラーステー、アクセルペダル、アームレスト、シートベルト部品、ドアハンドル、冷却ファン等が挙げられる。電気・電子機器分野における用途としては、例えば、ギア、ハブ、コネクタ、モータブラケット、各種プラグ、圧着端子が挙げられる。機械分野における用途としては、例えば、軸受、ベアリングリテーナ、ギア、ファン、キャスター等が挙げられる。医療分野における用途としては、インプラント材、人工骨等が挙げられる。その他における用途としては、3Dプリンタ用材料等が挙げられる。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。
<分子量測定>
分子量はサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の一種であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出した。
<(M1)、(M2)の転化率測定>
(M1)、(M2)の転化率は、ガスクロマトグラフ(GC)分析により定量分析を行なった。
<構造確認>
構造確認は、赤外分光法(IR)を用いて行った。IRの測定条件を以下に示す。
装置:SHIMADZU IRPrestige−21/AIM8800
測定条件:KBr法。
実施例および比較例に用いた原料を次に示す。
芳香族ジカルボン酸またはその誘導体(M1)
(M1−1)テレフタル酸(東京化成工業株式会社)
(M1−2)テレフタル酸ジ(ジイソプロピルエチルアンモニウム)塩
芳香族エーテル骨格または芳香族チオエーテル骨格をもつ化合物(M2)
(M2−1)ジフェニルエーテル(東京化成工業株式会社)
pKaが0以下の酸の無水物
(AN−1)トリフルオロメタンスルホン酸無水物(東京化成工業株式会社)(トリフルオロメタンスルホン酸のpKaは、−14)
脱水剤
(D−1)五酸化二リン(和光純薬工業株式会社)
M1を溶解する、pKaが0以下の酸
(A−1)トリフルオロメタンスルホン酸(東京化成工業株式会社)(トリフルオロメタンスルホン酸のpKaは、−14)
溶媒
(S−1)DMSO(和光純薬工業株式会社)。
[参考例]テレフタル酸ジ(ジイソプロピルエチルアンモニウム)塩の合成
攪拌子を備えた100mLナスフラスコに、テレフタル酸 1.2g(7.2mmol)、ジイソプロピルエチルアミン 1.9g(7.2mmol)を仕込み、メタノール 5mLを加え、20℃で0.5時間攪拌後、メタノールを減圧留去することで、白色固体(3g)を得た。得られたテレフタル酸ジ(ジイソプロピルエチルアンモニウム)塩は、精製せずに、そのまま反応に用いた。
[実施例1]ポリアリーレンエーテルケトンの合成
攪拌子を備えた20mL試験管に、テレフタル酸 0.52g(3.2mmol)、ジフェニルエーテル 0.54g(3.2mmol)を仕込み、窒素雰囲気下で、トリフルオロメタンスルホン酸無水物 5.2g(18.3mmol)を加え、60℃で0.5時間攪拌後、トリフルオロメタンスルホン酸 1.0g(6.8mmol)を加え、9時間反応させた。反応終了後、得られた生成物に水を加えて、10%水酸化ナトリウム水溶液で中和後ろ過を行い、得られた固形物をメタノールで洗浄することにより、白色固体のポリマー(0.93g)を得た。得られたポリマーを用いて、テレフタル酸およびジフェニルエーテルの転化率と分子量とIR測定を行った。IR測定の結果、3060cm−1、3040cm−1、1650cm−1、1590cm−1、1500cm−1、1240cm−1、1160cm−1、860cm−1、840cm−1、750cm−1、700cm−1に、ポリアリーレンエーテルケトン骨格を示すピークが観察された。
[実施例2]ポリアリーレンエーテルケトンの合成
攪拌子を備えた20mL試験管に、テレフタル酸 0.52g(3.2mmol)、ジフェニルエーテル 0.54g(3.2mmol)、五酸化二リン 0.89g(6.3mmol)を仕込み、窒素雰囲気下で、トリフルオロメタンスルホン酸無水物 1.8g(6.3mmol)とDMSO 5mLを加え、60℃で15時間反応させた。反応終了後、得られた生成物に水を加えて、10%水酸化ナトリウム水溶液で中和後ろ過を行い、得られた固形物をメタノールで洗浄することにより、白色固体のポリマー(0.9g)を得た。得られたポリマーを用いて、テレフタル酸およびジフェニルエーテルの転化率を測定した。
[実施例3]ポリアリーレンエーテルケトンの合成
攪拌子を備えた20mL試験管に、テレフタル酸ジ(ジイソプロピルエチルアンモニウム)塩 1.3g(3.1mmol)、ジフェニルエーテル 0.52g(3.1mmol)を仕込み、窒素雰囲気下で、トリフルオロメタンスルホン酸無水物 1.8g(6.3mmol)とトリフルオロメタンスルホン酸 1mLを加え、60℃で5時間反応させた。反応終了後、得られた生成物に水を加えて、10%水酸化ナトリウム水溶液で中和後ろ過を行い、得られた固形物をメタノールで洗浄することにより、白色固体のポリマー(0.9g)を得た。得られたポリマーを用いて、テレフタル酸およびジフェニルエーテルの転化率を測定した。
[比較例1]
攪拌子を備えた20mLナスフラスコに、テレフタル酸 0.52g(3.2mmol)、ジフェニルエーテル 0.54g(3.2mmol)を仕込み、窒素雰囲気下で、トリフルオロメタンスルホン酸 5.4g(36.2mmol)を加え、60℃で15時間反応させた。反応終了後、得られた生成物に水を加えて、10%水酸化ナトリウム水溶液で中和後ろ過を行い、得られた固形物をメタノールで洗浄することにより、白色固体(0.58g)を得た。得られた固体を用いて、テレフタル酸およびジフェニルエーテルの転化率と分子量とIR測定を行った。
実施例1〜3の結果から、酸無水物を添加することにより、重合反応が進行し、目的とする高分子量のポリアリーレンエーテルケトンが得られたが、比較例1の結果から、酸無水物を加えない場合では重合反応がほとんど進行せず、目的とする高分子量のポリアリーレンエーテルケトンは得られなかった。また、比較例1で得られた固体のIR測定の結果、1680cm−1に、カルボキシル基末端を表す大きなピークが観察されたことからも、重合反応がほとんど進行していないことが明らかとなった。以上のことから、pKaが0以下の酸の無水物を用いることで、目的とするポリアリーレンエーテルケトンが製造できることが示された。

Claims (9)

  1. 芳香族ジカルボン酸またはその誘導体(M1)と、芳香族エーテル骨格または芳香族チオエーテル骨格をもつ化合物(M2)との混合物に、pKaが0以下の酸の無水物を添加して反応させる工程を含む、ポリアリーレンエーテルケトンの製造方法。
  2. 前記反応させる工程で、脱水剤を添加する、請求項1に記載のポリアリーレンエーテルケトンの製造方法。
  3. 前記反応させる工程で、前記M1を溶解し、かつpKaが0以下の酸を添加する、請求項1または2に記載のポリアリーレンエーテルケトンの製造方法。
  4. 芳香族ジカルボン酸またはその誘導体(M1)が、式(VII)および(VIII)で示される少なくとも1種の誘導体である、請求項1〜3の何れかに記載のポリアリーレンエーテルケトンの製造方法。
    式(VII)および(VIII)において、Rはそれぞれ、水酸基、ハロゲン原子、炭素数1〜8の直鎖状アルコシキ基、炭素数3〜8の分岐状アルコキシ基、又は、式(XI)から選ばれるいずれかであり、互いに等しいかまたは異なるRのそれぞれは、炭素数1〜6の直鎖状有機基、分岐状有機基、および環状有機基のいずれかであり、酸素原子、窒素原子、硫黄原子のいずれかを1つまたは複数含んでいてもよく、aは0〜4の整数である。又、式(XI)において、Mは、第一級から第四級のアンモニウムカチオンである。
  5. 芳香族エーテル骨格または芳香族チオエーテル骨格をもつ化合物(M2)が、式(X)で示される、請求項1〜4の何れかに記載のポリアリーレンエーテルケトンの製造方法。
    式(X)において、Xは、酸素原子または硫黄原子であり、互いに等しいかまたは異なるRのそれぞれは、炭素数1〜6の直鎖状有機基、分岐状有機基、および環状有機基のいずれかであり、酸素原子、窒素原子、硫黄原子のいずれかを1つまたは複数含んでいてもよく、aは0〜4の整数である。
  6. pKaが0以下の酸の無水物が、有機スルホン酸無水物である、請求項1〜5の何れかに記載のポリアリーレンエーテルケトンの製造方法。
  7. 脱水剤が、五酸化二リン、アルミナ、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、シリカゲル、および濃硫酸から選ばれる少なくとも1種である、請求項2〜6の何れかに記載のポリアリーレンエーテルケトンの製造方法。
  8. 前記M1を溶解し、かつpKaが0以下の酸が、有機スルホン酸、硫酸、およびカルボラン酸から選ばれる少なくとも1種である、請求項3〜7の何れかに記載のポリアリーレンエーテルケトンの製造方法。
  9. 得られるポリアリーレンエーテルケトンの繰り返し単位が下記一般式(III)で表される請求項1〜8の何れかに記載のポリアリーレンエーテルケトンの製造方法。
    式(III)において、Xは酸素原子、または硫黄原子であり、繰り返し数n、mは、0以上の整数で、互いに同一であっても異なっていてもよく、nとmの和は、17〜10000である。
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