JP2020137438A - 培養容器の製造方法、及び培養容器 - Google Patents
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Abstract
Description
スフェアを形成させる細胞培養においては、培養部に複数のウェル(凹部)を備えた培養容器を使用して、その凹部でスフェアを形成させることにより、細胞を培養することが行われている。
細胞低接着性処理としては、一般的に、培養面へのコーティング剤の塗工が行われており、そのコーティング剤として細胞低接着性ポリマーが使用されている。
また、ウェルに対してポリマーを均一に塗工する手法として、ウェル内全体をポリマー溶液に浸漬した後に直ぐ溶液を排出するという、ディップコートに類似した方法がある。しかしながら、このような方法によるポリマーの塗工では、培養面に塗布されるポリマー量よりも多くのポリマー溶液が必要となるため、コストが高くなってしまうという問題があった。
しかしながら、この方法は、手間がかかり、多くのポリマー溶液が必要になるためコストが高くなってしまうという問題を解消することはできない。また、この方法では、非常に小さい凹部が微細加工された培養容器に対してコーティング剤を均一に塗工することは、困難であった。
しかしながら、この方法は、複数の凹部を備えた培養面にコーティング剤を塗工する方法に関するものではないため、複数の凹部を備えた培養面にコーティング剤を均一に塗工する場合における上記の問題を解消可能なものではなかった。
本実施形態の培養容器の製造方法は、培養基材の表面に予めコーティング剤として細胞低接着性ポリマーを塗工し、その後、培養基材に加工を行い、コーティング剤が塗工された培養基材の表面を培養面とする培養容器を形成することを特徴とする。
培養基材の表面への細胞低接着性ポリマーの塗工は、例えば、バーコーターやグラビアコーターを用いて好適に行うことができる。
培養基材の材料としては、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂を好適に用いることができる。その他用いることができる材料として、ポリメチルペンテン、環状オレフィンポリマー、環状オレフィンコポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリメタクリル酸メチル、ポリエステル、ポリアミド、アイオノマー、エチレン-αオレフィン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリジメチルシロキサン、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリブタジエン樹脂、塩化ポリエチレンなどが挙げられる。また、オレフィン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、ナイロン系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマーも用いることができる。また、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどの熱硬化性エラストマーや、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、熱硬化性ポリイミドなどの熱硬化性樹脂も用いることができる。
また、培養基材の表面に細胞低接着性ポリマーを均等に塗工し、当該表面に凹凸加工を行うために、培養基材の初期表面は、平滑であることが好ましい。
培養バッグは、下面フィルム(底部側フィルム)と上面フィルム(天板側フィルム)の周辺部をヒートシールなどにより貼り合わせることによって形成することができる。
培養バッグにおいて、細胞低接着性ポリマーが塗工された培養基材の表面は、培養面として形成される。これにより、この培養バッグを用いてスフェアを形成させたり、シングルセル(単一細胞)での培養を行なう場合に、スフェアやシングルセルが培養面に接着することを防止することができる。
ポートの材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリスチレン系エラストマー、FEPなどの熱可塑性樹脂を用いることができる。
培養基材の加工として、凹凸加工により、培養基材の表面(底部側フィルムの上面)に複数の凹部を形成することが好ましい。この場合、凹部が形成された当該表面が、培養容器における培養面として用いられる。
真空圧空成形としては、例えば、複数の凹部に対応するサイズの開口が形成された型に培養バッグを配置して、真空圧空成形を行う治具に挟み込んで加圧し、培養バッグ内に高圧エアーを吹き込み、型の外側から真空引きを行い、型を加熱することで、培養バッグ内に複数の凹部を成形させることができる。
具体的には、ベース材上に緩衝材を配置し、緩衝材の上に培養基材としてのフィルム又はシートを設置する。次に、培養基材上に複数の凹部に対応する凸部が形成された型を配置し、型の上から加熱プレートを用いて培養基材を押圧して、加圧しながら加熱することにより、培養基材に複数の凹部を形成させることができる。
この型としては、シリコン型や、ニッケルなどの金属型などを好適に用いることができる。
この離型剤としては、フッ素系離型剤やシリコン系離型剤を好適に用いることができる。
培養基材の加工をこのようにすれば、多数の微細な凹部を培養面に有する培養バッグを製造することができる。例えば、凹部の開口部の円又は内接円の直径が、1μm以上10mm以下である培養バッグを好適に製造することが可能である。
また、底部側フィルムの培養面に形成される凹部の形状を、側壁の少なくとも一部が略垂直状に形成されたものとすることも好ましい。具体的には、これらの凹部において、側壁の略垂直部分の垂直方向の長さを、培養対象物の最大径の半分より長くすることが好ましい。また、凹部における側壁が略垂直である領域の形状を、例えば、円柱状、四角柱状等とすることが好ましい。
培養バッグにおける凹部をこのような形状にすることで、ポートから培養バッグ内に培地を送液する場合に、その流速を1ml/分以上にしても、凹部からスフェアなどの培養対象物が飛び出して、他の凹部へ移動することを防止することが可能である。
例えば、培養対象物をスフェアとする場合、凹部の開口部の円又は内接円の直径の下限を、60μm以上,70μm以上,80μm以上,90μm以上,100μm以上,110μm以上,120μm以上,150μm以上等としてもよい。また、凹部の開口部の円又は内接円の直径の上限を、1mm以下,900μm以下,800μm以下,700μm以下,500μm以下等としてもよい。
さらに、培養部における複数の凹部の配置は、例えば千鳥状や格子状等とすることができる。
そこで、培養基材に枠材(マスキング材)を配置した後、培養基材に細胞低接着性ポリマーを塗工して、培養基材において細胞低接着性ポリマーが塗工されていないヒートシール可能な領域を設けることが好ましい。
さらに、バーコーターやグラビアコーターなどを用いて培養容器の培養面のみに部分的に細胞低接着性ポリマーを塗工することも好ましい。
このため、実施例において後述するように、塗工に必要な細胞低接着性ポリマー量を大きく低減することが可能である。
また、特に、非常に小さい凹部が微細加工された培養バッグを製造する場合でも、培養面に細胞低接着性ポリマーが均一に塗工された培養バッグを得ることが可能である。
本実施形態における培養容器をこのような構成にすれば、天板突起部を上端面の一部に接触させて、培養対象物のサイズよりも小さい間隙を上端面と天板部に形成させた状態にすることができる。これにより、培地などの液状物を間隙から通液可能としつつ、スフェアなどの培養対象物の移動を防止することが可能となる。
このため、従来の方法における細胞低接着性ポリマーが余分に必要になるという問題を解消することが可能になっている。
本実施形態の培養容器は、実施例で後述する通り、100μg/cm2、50μg/cm2、15μg/cm2、5μg/cm2、3μg/cm2、2μg/cm2の少ない面密度で細胞低接着性ポリマーを塗工して得ることができるためである。また、培養面に半球状の凹部を形成する凹凸加工を行う場合には、細胞低接着性ポリマーの面密度が1/2になるためである。
まず、培養バッグにおける培養面に複数の凹部を形成した後、培養面に細胞低接着性ポリマーを塗布する従来法において、必要となる細胞低接着性ポリマーの量を確認するための試験を比較例として実施した。
次に、底部側フィルムと天板側フィルムを重ねて周辺部をヒートシールにより貼り合わせ、培養バッグを形成した。このとき、培養バッグの一辺にポートを挟み込んで貼り合わせ、1つのポートを備えた培養バッグとした。
このようにして、培養面全面に複数の凹部を千鳥状に密に備え、培養部の面積が60cm2である培養バッグを3個製造した。
このとき、培養バッグに封入するMPCポリマーの溶液量を、1.5mL、2mL、3mLの3種類として、各培養バッグを作成した。
このとき、培養バッグの凹部にMPCポリマーが適切に塗布されている場合、凹部への細胞の張り付きは無く、培養バッグの凹部にMPCポリマーが適切に塗布されていない場合、凹部への細胞の張り付きは有ると考えられる。
これに対して、培養バッグに封入するMPCポリマーの溶液量が2mLと3mLの場合、凹部への細胞の張り付きは見られなかった。このとき、MPCポリマーの総量は、それぞれ40mgと60mgであった。
すなわち、上記のように複数の凹部を備え、培養部の面積が60cm2である培養バッグに細胞低接着性ポリマーを適切に塗布するためには、従来法では、最低限2mLの溶液量が必要であることが分かった。
次に、本実施形態の培養容器の製造方法に従って、真空圧空成形により凹部を形成した培養バッグを製造する場合についての試験を行った。
具体的には、LLDPE(linear low-density polyethylene,直鎖状低密度ポリエチレン)を用いて、長辺が12cmで短辺が7.5cmである長方形のフィルムを複数枚作成した。そして、その半分を底部側フィルムとし、残りの半分を天板側フィルムとした。
濃度4%、2%、0.5%、0.15%、0.1%、0.067%のMPCポリマーが塗工された底部側フィルムの作成に用いられたMPCポリマーの総量は、それぞれ20mg、10mg、2.5mg、0.83mg、0.5mg、0.33mgである。
また、底部側フィルムのうちの1枚には、MPCポリマーを塗工せず、これを比較例として使用した。
その結果、濃度4%、2%、0.5%、0.15%、0.1%、0.067%のMPCポリマーが塗工された底部側フィルムにおけるMPCポリマーの面密度は、それぞれ100μg/cm2、50μg/cm2、15μg/cm2、5μg/cm2、3μg/cm2、2μg/cm2であった。
開口部の直径が0.5mm、4mm、7mmの複数の凹部を備えた培養バッグは、実施例の0.5%の濃度のMPCポリマーを塗工したものそれぞれ1個ずつである。
そして、iPS細胞(1231A3株)を使用して、これらの培養バッグによりスフェアの形成を行った。
具体的には、播種に用いた細胞数は、およそ3.0×106cellsであった。また、培地としては、StemFit AK02N(品番RCAK02N,味の素株式会社)を使用した。10 mM Y-27632(和光純薬工業株式会社)を含む上記培地を培養バッグに注入し、上記iPS細胞を含む細胞懸濁液を注入して、一晩静置させた。その結果を図2に示す。
一方、培養面にMPCポリマーを塗工していない培養バッグでは、スフェアは形成されなかった。
また、試験1の比較例では、総ポリマー量として最低限40mg必要であった。これに対して、本実施形態の培養容器の製造方法によれば、試験1の比較例と同じ濃度2%のMPCポリマー溶液の場合、使用した総ポリマー量は10mgであり、比較例の総ポリマー量に比較して25%の量で塗工することができた。
このように、本実施形態の培養容器の製造方法、及び培養容器によれば、使用するポリマー量を大きく低減できることが明らかとなった。
次に、本実施形態の培養容器の製造方法に従って、加熱転写により凹部を形成した培養バッグを製造する場合についての試験を行った。
具体的には、LLDPE(linear low-density polyethylene,直鎖状低密度ポリエチレン)を用いて、長辺が12cmで短辺が7.5cmである長方形のフィルムを複数枚作成した。そして、その半分を底部側フィルムとし、残りの半分を天板側フィルムとした。
また、実施例において使用した底部側フィルムの培養面に塗工されたMPCポリマーの面密度を、フーリエ変換赤外分光光度計(VARIAN社、品番:FTS7000)を用いて測定した。その結果、底部側フィルムにおけるMPCポリマーの面密度は、15μg/cm2であった。
具体的には、ベース材上に緩衝材を配置し、緩衝材の上に上記の底部側フィルムを設置した。
次いで、底部側フィルム上にシリコン型を配置し、この型の上から加熱プレートを用いて培養基材を押圧して、加圧しながら加熱することにより、底部側フィルムの培養面に凹凸加工を行った。
またこのとき、シリコン型に離型剤を塗布した後に、凹凸加工を行った。離型剤としては、フッ素系離型剤(フロロテクノロジー社製,フロロサーフFG-5084)を使用した。
また、この型を用いて作成した底部側フィルムの培養面は、図3の右の写真に示すように、四角錐の微細な凹部を培養面全面に格子状に密に備えていた。
そして、iPS細胞(1231A3株)を使用して、この培養バッグによりスフェアの形成を行った。
また、試験3では、濃度0.5%のMPCポリマー溶液を使用し、その総ポリマー量は2.5mgである。
すなわち、試験1の比較例における最低量の総ポリマー量である40mgに対して、6.25%のポリマー量で十分に塗工することができており、本試験によっても、使用するポリマー量を大きく低減できることが明らかとなった。
例えば、製造する培養バッグの大きさは、実施例のサイズに限定されず、例えば50万個〜100万個のスフェアを形成可能な大きさのものにするなど適宜変更することが可能である。
Claims (12)
- 培養基材の表面に予めコーティング剤として細胞低接着性ポリマーを塗工し、その後、前記培養基材に加工を行い、前記コーティング剤が塗工された前記培養基材の表面を培養面とする培養容器を形成することを特徴とする培養容器の製造方法。
- 前記培養基材がフィルム又はシートであり、前記培養容器が袋状であることを特徴とする請求項1記載の培養容器の製造方法。
- 前記加工において、凹凸加工により前記培養基材の表面に複数の凹部を形成し、当該表面を前記培養容器の培養面とすることを特徴とする請求項1又は2記載の培養容器の製造方法。
- 前記加工において、前記培養基材を袋状に形成した後、前記凹凸加工をブロー成形、真空成形、及び圧空成形の少なくともいずれかにより行うことを特徴とする請求項3記載の培養容器の製造方法。
- 前記加工において、前記凹凸加工を加熱転写により行い、次いで、前記培養基材を袋状に形成することを特徴とする請求項3記載の培養容器の製造方法。
- 前記加熱転写において用いる型に離型剤を塗布した後、前記凹凸加工を行うことを特徴とする請求項5記載の培養容器の製造方法。
- 前記凹部の開口部の円又は内接円の直径が、1μm以上10mm以下であることを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載の培養容器の製造方法。
- 前記培養容器の培養面のみに前記コーティング剤を塗工することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の培養容器の製造方法。
- 前記培養基材に枠材を配置した後、前記コーティング剤を塗工し、前記培養基材において前記コーティング剤が塗工されていないヒートシール可能な領域を設けることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の培養容器の製造方法。
- 前記培養基材の表面に予め親水化処理を行い、その後、当該表面に前記コーティング剤を塗工することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の培養容器の製造方法。
- 少なくとも一つのポートを備えた培養容器であって、
フィルム又はシートからなる培養基材の表面への細胞低接着性ポリマーの塗工後に、複数の凹部が形成された前記表面を培養面として袋状に形成され、前記ポート内及び当該培養容器内における前記培養面の対面に細胞低接着性ポリマーが付着していない
ことを特徴とする培養容器。 - 前記表面に塗工された細胞低接着性ポリマーの面密度が、100μg/cm2〜1μg/cm2であることを特徴とする請求項11記載の培養容器。
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