JP2020022371A - せん断応力制御容器、培養装置、及びせん断応力制御容器の製造方法 - Google Patents

せん断応力制御容器、培養装置、及びせん断応力制御容器の製造方法 Download PDF

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広和 小田桐
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グプタ リシャブ
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グプタ リシャブ
慶司 本庄
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慶司 本庄
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Abstract

【課題】液体を収容して揺動させるにあたり、泡の発生を抑制しつつ良好な撹拌性が保持され、且つ液体に適度なせん断応力を付与することができるせん断応力制御容器の提供。【解決手段】液体が収容される空間を備えるせん断応力制御容器であって、前記空間は、前記液体が周回可能で、無端状であり、前記容器は、収容される液体と接触する内表面の少なくとも一部に不織布を備え、前記不織布は、複数の突起部を有し、前記複数の突起部の幅W及び間隔PがP≧2Wを満たし、前記不織布は、空隙率が40%以上である、ことを特徴とする、せん断応力制御容器。【選択図】図1

Description

本発明は、せん断応力制御容器、培養装置、及びせん断応力制御容器の製造方法に関するものである。
従来より、微生物や動植物細胞などの培養のために、使い捨ての培養バッグが使用されている。培養バッグは、一般に、可撓性樹脂からなる袋体であって、その内部には、細胞などの培養対象が一定の濃度(数)で懸濁された培養液が収容される。
このような培養バッグを用いた培養では、通常、培養液の良好な撹拌性が要求される。培養液の撹拌性が高ければ、栄養が循環し、また、酸素や二酸化炭素等の気体成分を培養液に溶存させることができるので、培養対象の増殖が促進されて、培養効率の向上を図ることができるからである。
このような要求に対処すべく、これまで種々の検討がなされてきた。例えば、特許文献1は、細胞培養にも適用可能な技術として、混合容器内に複数のバッフルを設け、この容器を可動軸に沿って揺動させることにより、容器内の液体に渦巻き運動を引き起こして効率的に混合できることを開示している。
しかしながら、上述した混合容器の揺動による撹拌を細胞培養に適用した場合、培養液が容器内のバッフルに衝突し、また、衝突時に発生した波が液面に落ちる際には、気体を内包して泡が発生する。そして、この泡が培養液中で破裂すると、それによって生じた衝撃により、細胞などの培養対象がダメージを受け、培養に悪影響を及ぼす。
そこで、本発明者らは、バッフルへの培養液の衝突を回避すべく、揺動時に培養液が周回可能な無端状の周回空間を備える培養バッグを開発した(特許文献2)。
特表2010−540228号公報 国際公開第2017/090752A1号
しかし、本発明者らが更に検討を進めたところ、特許文献2の培養バッグにおいては、泡の発生が抑制され得るものの、培養液の周回流れにより、培養バッグの壁面付近におけるせん断速度(培養バッグの壁面付近に生じるせん断応力)が高くなり過ぎる傾向があることが分かった。せん断速度が高くなり過ぎると、細胞の種類によってはダメージを受け易くなる。
なお、上記の培養バッグの壁面付近におけるせん断速度を低下させる方法として、揺動を弱めることが挙げられるが、その場合には、培養液の撹拌性が悪化し、培養対象への新鮮な培地の供給が滞るだけでなく、酸素の溶存性が悪化するという問題が生じる。即ち、撹拌性の観点からは、ある程度のせん断速度が求められるともいえる。
以上より、上述した培養バッグには、高い撹拌性と、培養液への適正化されたせん断応力の付与との両立の点で、改良の余地があった。
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、液体を収容して揺動させるにあたり、泡の発生を抑制しつつ良好な撹拌性が保持され、且つ液体に適度なせん断応力を付与することができるせん断応力制御容器を提供することを目的とする。また、本発明は、当該せん断応力制御容器を用いた、高い効率で培養を行うことができる培養装置を提供することを目的とする。更に、本発明は、上記のせん断応力制御容器を効率的に製造することが可能な、せん断応力制御容器の製造方法を提供することを目的とする。
前記課題を解決するための手段としては以下の通りである。即ち、
<1> 液体が収容される空間を備えるせん断応力制御容器であって、
前記空間は、前記液体が周回可能で、無端状であり、
前記容器は、収容される液体と接触する内表面の少なくとも一部に不織布を備え、
前記不織布は、複数の突起部を有し、前記複数の突起部の幅W及び間隔PがP≧2Wを満たし、
前記不織布は、空隙率が40%以上である、ことを特徴とする、せん断応力制御容器である。
<2> 前記不織布の空隙率が50%以上70%以下である、前記<1>に記載のせん断応力制御容器である。
<3> 前記不織布が、熱可塑性樹脂の繊維からなる、前記<1>又は<2>に記載のせん断応力制御容器である。
<4> 前記<1>〜<3>のいずれかに記載のせん断応力制御容器を、培養液が収容される培養バッグとして備える、ことを特徴とする、培養装置である。
<5> 凹凸形状が刻印されたエンボスロールを用い、不織布に複数の突起部を形成する工程を含む、ことを特徴とする、前記<1>〜<3>のいずれかに記載のせん断応力制御容器の製造方法である。
本発明によれば、液体を収容して揺動させるにあたり、泡の発生を抑制しつつ良好な撹拌性が保持され、且つ液体に適度なせん断応力を付与することができるせん断応力制御容器を提供することができる。また、本発明によれば、当該せん断応力制御容器を用いた、高い効率で培養を行うことができる培養装置を提供することができる。更に、本発明によれば、上記のせん断応力制御容器を効率的に製造することが可能な、せん断応力制御容器の製造方法を提供することができる。
本発明の一実施形態に係るせん断応力制御容器の形状の一例を示す模式図である。 本発明の一実施形態に係るせん断応力制御容器の模式平面図である。 本発明の一実施形態に係るせん断応力制御容器の模式断面図(A−A断面図)の一例である。 本発明の一実施形態に係るせん断応力制御容器に配置された不織布の模式断面図(B−B断面図)の一例である。 突起部付近の液体の流れを示す模式図である。 突起部付近の液体の流れを示す模式図である。 本発明の一実施形態に係るせん断応力制御容器の不織布における、複数の突起部の配置態様の一例を示す模式図である。 本発明の一実施形態に係るせん断応力制御容器の不織布における、複数の突起部の配置態様の一例を示す模式図である。 不織布に複数の突起部を形成する工程の一例を示す概要図である。 容器の断面の一例を示す模式図である。
以下、本発明を、実施形態に基づき詳細に説明する。
(せん断応力制御容器)
本発明の一実施形態に係るせん断応力制御容器(以下、「本実施形態の容器」と称することがある。)は、液体が収容される空間を備え、上記空間は、収容される液体が周回可能で、無端状である。また、本実施形態の容器は、収容される液体と接触する内表面の少なくとも一部に不織布を備える。そして、上記不織布は、複数の突起部を有し、上記複数の突起部の幅W及び間隔PがP≧2Wを満たす。更に、上記不織布は、空隙率が40%以上である。
なお、本実施形態の容器は、例えば、酸素や二酸化炭素などの濃度が管理された混合ガスを内部に供給するためのポート、内部ガスを排気するためのポート、培養液等の液体を供給する又は回収するためのポート、サンプルを取得するためのポートなどを備えてもよい。
以下、本実施形態の容器を説明するにあたっては、液体として、細胞が懸濁された培養液を容器に収容し、培養することを想定する。但し、本実施形態の容器は、これに制限されず、細胞以外の培養対象が懸濁された培養液を収容し、培養するために用いることができ、また、培養液以外の液体を収容するために用いることもできる。
本実施形態の容器は、培養液等の液体を無端状の空間内で周回させることができるので、空間の内表面と液体との衝突が抑制されているとともに、液体に対して発生する波も小さい。そのため、本実施形態の容器は、バッフルなどを設けて液体を撹拌した場合に比べて、泡の発生を有意に抑制することができる。
中でも、本実施形態の容器が備える空間は、図1に示されるような環状の空間であることがより好ましい。当該空間が環状であることにより、周回する液体と内表面との衝突、ひいては、液体の波の発生及び泡の発生を一層抑制することができる。
ここで、本明細書において、空間に関する「環状」は、当該空間を液体の周回方向に対して垂直に切断したときの断面が、真円形であるものに制限されず、例えば、楕円形や、任意の弧と線分とからなる形状のものなども含むものとする。また、本明細書において、空間に関する「環状」は、液体の中心的周回路が形成する形状が、真円形であるものに制限されず、例えば、楕円形や、任意の弧と線分とからなる形状のものなども含むものとする。
<不織布>
また、本実施形態の容器は、収容される液体と接触する内表面の少なくとも一部に、所定の表面形状を有する不織布を備える。ここで、図2Aに、本実施形態の容器を底部側と頂部側とに分けるように切断したときの、当該容器の底部側の平面図の一例を示す。また、図2Bに、図2Aに係る容器のA−A断面の断面図の一例を示す。図2A及び図2Bにおいて、容器1の内表面の一部には、平面視環状(ドーナツ状)にスリットされた不織布2が配置されている。そして、容器1には、培養液等の液体が、当該不織布2を十分に埋没させることができる程度の量で充填される。
なお、本実施形態の容器の内表面のうちの不織布が配置される箇所は、収容される液体と接触する箇所である限り、特に制限されないが、図2A及び図2Bに示されるように、少なくとも底部を含むことが好ましい。
また、本実施形態の容器における、収容される培養液と接触しない内表面の構造については、特に制限されない。
ここで、内表面に不織布が配置された容器に対し、細胞が懸濁された培養液を収容して揺動させることを考えると、培養液中の細胞は、一旦、不織布の上面の繊維上に接着するか、或いは、繊維間の空隙を通って上面から内部の繊維に移行して接着する。このとき、液体の流れが直接的に不織布に作用して、不織布の上面と液体との境界には、高いせん断応力が生じている。
また、不織布の上面から内部の繊維に移行する液体の流れを考えると、内部の繊維に移行するにつれ、不織布を構成する各繊維が流れに対して障害物となるため、液体の流速が減少し、せん断応力は低下する。ここで、細胞が不織布の上面の繊維上に存在している場合、当該細胞は、高いせん断応力によって上面の繊維上から脱落してしまう。一方、細胞が不織布の内部の繊維に存在している場合には、せん断応力が適度に低下しているため、内部繊維への当該細胞の接着が維持される。即ち、容器の内表面に不織布が配置されることにより、収容される液体に対して適度なせん断応力が付与される領域をもたらすことができる。
但し、不織布の上面が平坦な場合には、不織布の上面付近の液体の流れが当該面に平行となる傾向が強いため、上面付近の液体は高いせん断応力を受け易い一方で、不織布の内部の繊維に進入する液体流れが極端に減少する。そのため、不織布の内部ではせん断応力も極端に小さくなり、細胞の培養に有用なせん断応力を確保することができないだけでなく、新鮮な培地及び酸素の循環が滞ってしまう。
そこで、本実施形態の容器に用いる不織布には、所定の複数の突起部を形成することとした。図2Cに、図2Aに係る容器に配置された不織布2のB−B断面(図2A参照)の断面図の一部分の一例を示す。図2Cに示されるように、容器1の内表面に配置される不織布2が複数の突起部2aを有することで、不織布2の上面付近の液体の流れを内部に誘引することができる。
なお、図2Aの不織布2では、説明の便宜上、突起部2aをハッチングで示し、非突起部2bを白色で示す。
そして、不織布2における複数の突起部2aは、幅W及び間隔Pが、P≧2Wの関係を満たすことを要する。なお、本明細書において、不織布における突起部の幅Wとは、突起部の、液体の周回方向に近似される方向の幅を指すものとする。また、本明細書において、不織布における複数の突起部の間隔Pとは、隣接する突起部同士の、液体の周回方向に近似される方向の間隔を指すものとする。
以下、図3A及び図3Bを用い、突起部2a付近の液体の流れについて説明する。
揺動により容器1内に液体の流れが生じると、不織布2上の突起部周辺にも液体の流れが誘起される。かかる誘起された液体の流れは、複数の突起部2aの間隔Pによって大きく変化する。例えば、複数の突起部2aの間隔Pが小さい(P<2Wである)と、突起部と突起部との間に渦が発生する(図3A)。この場合には、突起部2a間から外方への流出が生じ、不織布2の内部の繊維に進入する液体流れが極端に減少してしまう。そして、不織布2の内部の繊維への液体流れが減少すると、不織布2の内部の繊維に接着している細胞への培地の循環が滞り、その生育が阻害される。
一方、複数の突起部2aの間隔Pが十分に大きい(P≧2Wである)と、不織布2上の液体流れに直進成分が多く存在し、渦の発生が抑制される(図3B)。また、上記の直進成分の液体流れは、突起部2aの側面に向かうため、不織布2の内部の繊維に進入する流れとなる。そして、液体が不織布2の内部の繊維に進入することで、不織布2の内部の繊維に接着している細胞への培地の循環がスムーズとなり、細胞の培養に有用なせん断応力を付与しつつ、良好な培養環境を保つことができる。
複数の突起部2aの幅Wは、特に制限されないが、不織布全体の厚み及び不織布への突起部の形成のし易さの観点から、3mm以上であることが好ましく、また、20mm以下であることが好ましい。
また、複数の突起部2aの幅W及び高さHは、H/W≦1の関係を満たすことが好ましい。この場合、突起部と突起部との間における渦の発生をより効果的に抑制することができる。同様の観点から、複数の突起部2aの幅W及び高さHは、H/W≦0.5の関係を満たすことがより好ましく、H/W≦0.25の関係を満たすことが更に好ましい。
なお、図2Cでは、不織布2における複数の突起部2aが、台形の断面形状を有し、また、図2Aでは、液体の周回方向に畝状に連続して等間隔に配置されている。しかしながら、本実施形態の容器においては、これに制限されず、不織布2における複数の突起部2aが、例えば、台形以外(つり鐘形、三角形、矩形など)の断面形状を有してもよい。また、不織布2における複数の突起部2aは、図4Aに示すように、一定の傾斜角をもって液体の周回方向に畝状に連続して配置されていてもよく、また、図4Bに示すように、不連続に配置されていてもよい。
更に、本実施形態の容器に用いる不織布は、空隙率が40%以上であることを要する。不織布の空隙率が40%以上であることにより、培養液中の細胞を、不織布を構成する繊維間の空隙に接着配置するとともに、当該細胞に対し、適度なせん断応力を付与することができる。なお、空隙率が小さい(例えば、40%未満である)不織布は、繊維が密に充填されているため、繊維間の空隙におけるせん断応力は低減され得るものの、細胞が接着する領域が狭くなるだけでなく、細胞が不織布の内部に進入し難くなる。また、空隙率が小さい(例えば、40%未満である)不織布は、繊維間の空隙に接着配置される細胞に付与されるせん断応力が過度に小さくなる虞がある。また、不織布の空隙率は、特に制限されず、80%以下とすることができる。
ここで、不織布の空隙率は、不織布内の単位体積に占める繊維の体積の比率であり、不織布の目付及び厚み、並びに、不織布を構成する繊維の材料(例えば、樹脂)の密度から、以下の式より算出することができる。
空隙率(%)=100−{(不織布の目付(g/m2)/不織布の厚み(m)/繊維材料の密度(g/m3))}×100
また、不織布の空隙率は、50%以上70%以下であることが好ましい。不織布の空隙率が50%以上であると、空隙に接着配置される細胞に付与されるせん断応力の過度の低下を抑制することができる。また、不織布の空隙率が70%以下であると、空隙に接着配置される細胞に付与されるせん断応力の低減効果をより確実に得ることができる。
なお、一般的に、培養液等の液体の流れに付与されるせん断速度は、生体の血管内における血液流れを模す観点から、100〜300(1/s)程度が好ましいとされている。
不織布としては、エンボス加工可能な不織布材料として一般に使用される樹脂の繊維からなる不織布を用いることが好ましい。また、上記樹脂としては、熱可塑性樹脂、特に、熱で変形又は伸長する熱可塑性樹脂が好ましく、その例としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド類、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリアミド、セルロース及びその誘導体などが挙げられる。
不織布の厚み(突起部を含む)としては、特に制限されないが、培養液等の液体に十分に埋没させる観点から、例えば、5mm以上50mm以下とすることができる。
不織布を構成する繊維の太さとしては、特に制限されないが、培養対象を接着させる観点から、培養しようとする細胞等の培養対象の径よりも大きいことが好ましい。
また、培養対象を接着させる観点から、不織布を構成する繊維の表面に対しては、親水性処理を施してもよい。具体的には、不織布を構成する繊維に対し、公知の親水性ポリマー;コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、プロテオグリカン、ゼラチン、レクチン、ポリリジン等の天然ポリマー;などを用いて表面処理を施してもよい。表面処理の方法としては、ディッピング又はスプレーなどにより上記ポリマーを塗布する方法、グラフト重合法など、一般的な手法を用いることができる。
不織布(突起部を形成する前の不織布)は、特に制限されず、一般的な手法により作製することができる。例えば、繊維同士を常法に従って絡ませることで、シート状繊維塊として、不織布を得ることができる。なお、繊維としては、例えば、短繊維を用いることができる。
<せん断応力制御容器の製造>
本実施形態の容器の製造方法としては、特に制限されないが、例えば、凹凸形状が刻印されたエンボスロールを用い、不織布に複数の突起部を形成して、突起部付き不織布を得る工程(不織布加工工程)と、2つのシート状バッグ基材を準備し、これらのシート状バッグ基材を、最終的に所望の三次元形状の空間が得られるように金型を用いて成形し、2つの成形バッグ基材を得る工程(成形工程)と、成形工程で得られた2つの成形バッグ基材の少なくとも一方の内表面に、不織布加工工程で得られた突起部付き不織布を配置する工程(不織布配置工程)と、上記2つの成形バッグ基材を向かい合わせて一体化し、空間を備える容器を得る工程(一体化工程)と、を実施することにより、本実施形態の容器を製造することができる。
−不織布加工工程−
不織布加工工程では、凹凸形状が刻印されたエンボスロールを用い、不織布に複数の突起部を形成して、突起部付き不織布を得る。より具体的に、不織布加工工程では、例えば、不織布に形成すべき突起形状の反転形状(凹凸形状)が刻印されたエンボスロールに熱及び圧力をかけ、不織布に対して圧着模様を転写することにより、不織布に複数の突起部を形成することができる。上記工程の概要を、図5に示す。この工程では、所定の凹凸形状が刻印されたエンボスロール10と、圧着ロール11とが対になっている。不織布は、エンボスロール10及び圧着ロール11の間に引き込まれるように、矢印の方向に供給される。エンボスロール10及び圧着ロール11は、不織布を構成する繊維の材料(例えば、樹脂)の融点付近まで加熱されており、その熱とロール圧力とにより、引き込まれた不織布に突起形状が転写される。そして、転写後の不織布を任意に冷却して、突起部付き不織布が得られる。なお、突起部付き不織布は、容器の内表面の少なくとも一部への配置に先立ち、所定の形状(例えば環状)にスリットすることができる。
−成形工程−
成形工程では、2つのシート状バッグ基材を準備し、これらのシート状バッグ基材を、最終的に所望の三次元形状の空間が得られるように金型を用いて成形し、成形バッグ基材を得る。
バッグ基材の材料は、生体適合材料(細胞などの培養対象に対する毒性がない材料)であることが好ましく、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、エチレンビニルアルコール共重合樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂等のビニル系樹脂;シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)等のシクロオレフィン系樹脂;ポリスチレン;ポリエチレンテレフタレート;ポリウレタン;ポリアミド;ポリメタクリル酸メチル;ポリカーボネート;などの熱可塑性樹脂、或いは、アクリル系樹脂等の紫外線硬化型樹脂、任意の電子線硬化型樹脂、などが挙げられる。
また、シート状バッグ基材は、上述した樹脂からなるシートに、ナイロン等のシートを積層したものであってもよく、また、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)からなるシートを中間に備える3層以上の積層体であってもよい。
シート状バッグ基材の成形方法としては、特に制限されないが、例えば、射出成形法、ブロー成形法、圧空成形法等が挙げられる。中でも、シート状バッグ基材に対してより均一な力を付与して成形することができる観点、複数の金型(雄型及び雌型)の準備を回避できる観点から、圧空成形法によりバッグ基材を成形することが好ましい。なお、成形に用いる金型は、あらかじめ、最終的に所望の三次元形状の空間が得られるような形状に加工しておくことが好ましい。
また、成形時には、成形性を高めるために、バッグ基材及び/又は金型を加熱することができる。バッグ基材の加熱は、例えば、近赤外線又は遠赤外線のハロゲンヒーター等により行うことができる。一方、金型の加熱は、例えば、金型の内部に埋め込んだカートリッジヒーター等により行うことができる。
−不織布配置工程−
不織布配置工程では、成形工程で得られた2つの成形バッグ基材の少なくとも一方の内表面に、不織布加工工程で得られた突起部付き不織布を配置する。突起部付き不織布を配置する方法としては、特に制限されず、容器の内表面に突起部付き不織布を半永続的に固定する方法であってもよく、容器の内表面において着脱可能に突起部付き不織布を配置する方法であってもよい。但し、所望の効果を確実に得る観点から、突起部付き不織布を配置する方法は、少なくとも、突起部付き不織布が揺動時に容器に対して静止することができる方法であることが好ましい。
−一体化工程−
一体化工程では、上記2つの成形バッグ基材を向かい合わせて一体化し、空間を備える容器を得る。より具体的に、一体化工程では、2つの成形バッグ基材を、所望の三次元形状の空間を形成するように向かい合わせ、一体化することができる。この一体化工程を経て、本実施形態の容器を製造することができる。
なお、一体化は、2つの成形バッグ基材の非成形部分を接触面とし、この面を加熱融着する(ヒートシールする)、又は任意の接着剤で接着する、などにより、行うことができる。或いは、一体化は、容器の内表面に配置された突起部付き不織布を着脱するため、2つの成形バッグ基材が適時に分離できるような態様で行ってもよい。
なお、2つのバッグ基材を準備して容器を製造する代わりに、1つのバッグ基材を適切に成形し、突起部付き不織布を適切に配置した後、これを折畳するなどして一体化して容器を製造することもできる。
(培養装置)
本発明の一実施形態に係る培養装置(以下、「本実施形態の培養装置」と称することがある。)は、上述したせん断応力制御容器を、培養液が収容される培養バッグとして備えることを特徴とする。本実施形態の培養装置は、上述したせん断応力制御容器を備えるので、培養液を収容して揺動させるにあたり、泡の発生を抑制しつつ、良好な撹拌性が保持され、且つ培養液に適度なせん断応力を付与することができる。そのため、本実施形態の培養装置は、高い効率で培養を行うことができる。
なお、本実施形態の培養装置により培養を行う際には、例えば、培養対象(例えば、細胞)の種類と、容器の内表面における突起部付き不織布の構造及び配置態様と、揺動条件とを、適切に組み合わせることができる。
また、本実施形態の培養装置は、上述したせん断応力制御容器を備えさえすればよく、更に、例えば、培養液供給機構、培養液回収機構、揺動機構、酸素や二酸化炭素などのガス給排気機構、タイマー機構などの任意の機構を備えることができる。
(せん断応力制御容器の製造方法)
本発明の一実施形態に係るせん断応力制御容器の製造方法(以下、「本実施形態の容器の製造方法」と称することがある。)は、上述したせん断応力制御容器を製造するための方法であって、凹凸形状が刻印されたエンボスロールを用い、不織布に複数の突起部を形成する工程を含む、ことを特徴とする。本実施形態の容器の製造方法によれば、不織布に対して、容易に、効率的に、且つ精密に複数の突起部を形成できるので、上記のせん断応力制御容器を効率的に製造することができる。
なお、上述した工程の具体例は、不織布加工工程に関して既述した通りである。
また、本実施形態の容器の製造方法は、上述した工程を含むこと以外、特に制限されず、適宜、上述した成形工程、不織布配置工程、一体化工程等の他の工程を含むことができる。
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に制限されるものではない。
本発明の効果を確かめるため、容器に培養液を収容して揺動させるシミュレーションを行った。なお、条件は、以下の通りである。
<容器>
使用する容器は、厚み0.3mmの直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)製としたた。また、使用する容器は、環状の空間を備え、断面が図6に示す通りであり、外径D1が180mm、内径D2が60mmであった。更に、使用する容器における液体の流路の断面は、半径d1が30mmの円形状であった。
<不織布>
使用する不織布は、材質を低密度ポリエチレン(LDPE)とし、突起部を含む厚みを10mmとした。また、使用する不織布は、外径153mm、内径87mmの平面視環状(ドーナツ状)にスリットしたものとした。また、不織布の空隙率は、各例において30〜80%から選択した。
<不織布における突起部>
不織布における複数の突起部は、図2Cに示すように、台形の断面形状を有することとした。また、図2Cを参照して、複数の突起部のパターンは、各例において表1に示すパターンから選択した。
Figure 2020022371
<培養液>
・密度:1007.5kg/m3
・粘度:1.7757e-62/s
・表面張力:0.0602N/m
<揺動条件>
旋回半径を50mm、旋回数(回転数)を20rpmとして、容器を水平旋回(揺動)させることとした。
(せん断応力の評価)
底部に不織布が配置された容器に1Lの培養液を収容し、上記の条件にて揺動させたときの不織布の上部から内部におけるせん断速度を、シミュレーションにより計算した。そして、不織布の上面から0.5mmほど内部側に入った箇所におけるせん断速度の計算結果を用い、以下の基準に従って、不織布内部のせん断応力を評価した。結果を表2に示す。
○:せん断速度が100(1/s)以上300(1/s)以下
△:せん断速度が50(1/s)以上100(1/s)未満、又は、300(1/s)超で1000(1/s)以下
×:せん断速度が50(1/s)未満、又は、1000(1/s)超
Figure 2020022371
表2より、P≧2Wの関係を満たす突起部パターン3の不織布を用いた場合には、不織布の空隙率が高くなるほど、不織布内部のせん断速度も上昇する傾向が見られた。特に、空隙率が50〜70%であると、せん断速度が100〜300(1/s)の範囲内となった。このせん断速度の範囲は、生体の血管内における血液流れを模した値に相当し、細胞等の培養に適しているといえる。
一方、突起部パターン2の不織布を用いた場合には、不織布の空隙率を高めたとしても、不織布内部のせん断速度は大きく上昇せず、いずれの空隙率であっても、不織布内部のせん断速度は100(1/s)未満であった。これは、不織布における複数の突起部の間隔Pが0であるため、突起部と突起部との間に渦が発生して、不織布の内部の繊維に進入する液体流れが少ないことが影響しているものと考えられる。
また、突起部パターン1(突起部なし)の不織布を用いた場合には、不織布の空隙率を高めたとしても、不織布内部のせん断速度はほとんど変化せず、いずれの空隙率であっても、不織布内部のせん断速度が非常に低かった。これは、不織布の上面が平坦であるため、不織布の上面に平行な流れが多く、不織布の内部の繊維に進入する液体流れが生じ難いことが影響しているものと考えられる。
本発明によれば、液体を収容して揺動させるにあたり、泡の発生を抑制しつつ良好な撹拌性が保持され、且つ液体に適度なせん断応力を付与することができるせん断応力制御容器を提供することができる。また、本発明によれば、当該せん断応力制御容器を用いた、高い効率で培養を行うことができる培養装置を提供することができる。更に、本発明によれば、上記のせん断応力制御容器を効率的に製造することが可能な、せん断応力制御容器の製造方法を提供することができる。
1 容器
2 不織布
2a 突起部
2b 非突起部
10 エンボスロール
11 圧着ロール

Claims (5)

  1. 液体が収容される空間を備えるせん断応力制御容器であって、
    前記空間は、前記液体が周回可能で、無端状であり、
    前記容器は、収容される液体と接触する内表面の少なくとも一部に不織布を備え、
    前記不織布は、複数の突起部を有し、前記複数の突起部の幅W及び間隔PがP≧2Wを満たし、
    前記不織布は、空隙率が40%以上である、ことを特徴とする、せん断応力制御容器。
  2. 前記不織布の空隙率が50%以上70%以下である、請求項1に記載のせん断応力制御容器。
  3. 前記不織布が、熱可塑性樹脂の繊維からなる、請求項1又は2に記載のせん断応力制御容器。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載のせん断応力制御容器を、培養液が収容される培養バッグとして備える、ことを特徴とする、培養装置。
  5. 凹凸形状が刻印されたエンボスロールを用い、不織布に複数の突起部を形成する工程を含む、ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のせん断応力制御容器の製造方法。
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