JP2018057321A - 細胞培養容器、細胞培養システム、細胞培養方法、及び細胞培養容器の製造方法 - Google Patents

細胞培養容器、細胞培養システム、細胞培養方法、及び細胞培養容器の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 細胞培養容器において、培養部のみにコーティング用試薬を簡単にコーティングできると共に、高価なコーティング用試薬の使用量を低減でき、培養面積を可変にすることを可能とする。
【解決手段】 管状容器1からなる細胞培養容器であって、細胞を培養するための密閉空間が管状容器1内に形成され、管状容器1の内面の一部にコーティング用試薬がコーティングされた細胞培養容器とする。
【選択図】 図1

Description

本発明は、閉鎖系容器において細胞を効率良く大量に培養するための細胞培養技術に関する。
近年、医薬品の生産や、遺伝子治療、再生医療、免疫療法等の分野において、細胞や組織、微生物などを人工的な環境下で効率良く大量に培養することが求められている。
このような状況において、培養容器(培養バッグ)に細胞と培養液を充填して、閉鎖系で自動的に細胞を大量培養することが行われている。
細胞培養においては、一般に細胞は培養液よりもその比重が大きいことから、培養容器の底面へ沈降するという性質がある。このため、最適な培養環境を得るためには、体積当たりの細胞の培養密度(cells/cm,体積細胞密度)と、底面での細胞の培養密度(cells/cm2,底面積細胞密度)を適切にコントロールすることが必要であり、培養条件として体積細胞密度と底面積細胞密度の2つのパラメータが存在する。
また、細胞培養において、細胞への刺激、あるいは培養容器への細胞の接着又は非接着などを制御するために、タンパク質やポリマー等を培養表面にコーティングして培養する場合がある。しかしながら、底面積細胞密度が低い培養条件では、コーティングした部分のほとんどに細胞が存在しない場合があり、このような場合においては、高価なタンパク質等が無駄に消費され、培養コストが上昇する一因になる。
一方、閉鎖系の細胞培養では、可撓性部材からなるバッグ形状の培養容器などが多用されているところ、このような培養バッグ内において、部分的にタンパク質等をコーティングすることは難しく、一方で全面に亘ってコーティングを行うと余分なコストがかかるという問題があった。また、培養バッグを用いる場合には、細胞を局所的に集めるなどといった底面積細胞密度のコントロールが難しいという問題もあった。
特開2000−212200号公報
そこで、本発明者らは鋭意研究し、可撓性部材を用いて細長の管状容器(チューブ状容器)を形成して、この管状容器内の密閉空間に細胞及び培養液を封入した状態で細胞を培養することによって、上記問題を解消できることを見いだした。
すなわち、このような管状容器であれば、細胞が沈降した際に管の最下点を中心に集まるため、容器を押圧することなどにより管状容器を変形させることで、その底面を変化させることができる。すなわち、播種細胞数に応じて、体積細胞密度を一定にしつつ、底面積細胞密度を変化させて好適な範囲にコントロールすることが可能となる。
また、管状容器内の底面にコーティング用試薬(コーティング液)を流すことによって、培養部のみに簡単にコーティングすることができ、高価なコーティング用試薬の使用量を低減することも可能となる。
培養容器内の底面にコーティング用試薬のコーティングが行われる技術としては、特許文献1に記載のTリンパ球培養用担体などを挙げることができる。しかしながら、当該技術は、培養容器内において部分的にコーティングを行うことを可能にしたものではなかった。
また、細胞培養において、可撓性部材を用いて形成された管状容器を押圧することなどにより、その底面を変化させることで、底面積細胞密度のコントロールを可能とする技術は、見当たらなかった。
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、細胞培養容器において、培養部のみにコーティング用試薬を簡単にコーティングできると共に、高価なコーティング用試薬の使用量を低減でき、培養面積を可変にすることが可能な細胞培養容器、細胞培養システム、細胞培養方法、及び細胞培養容器の製造方法の提供を目的とする。
上記目的を達成するため、本発明の細胞培養容器は、管状容器からなる細胞培養容器であって、細胞を培養するための密閉空間が管状容器内に形成され、管状容器の内面の一部にコーティング用試薬がコーティングされた構成としてある。
また、本発明の細胞培養システムは、上記の細胞培養容器と、細胞培養中に前記管状容器を押圧して変形させ、前記管状容器内の底面積を変化させる押圧装置とを備えた構成としてある。
また、本発明の細胞培養方法は、上記の細胞培養容器を用いた細胞培養方法であって、細胞培養中に前記管状容器を押圧変形させて、前記管状容器内における細胞培養面積を変化させる方法としてある。
また、本発明の細胞培養容器の製造方法は、上記の細胞培養容器の製造方法であって、前記管状容器内に前記コーティング用試薬を注入し、前記管状容器内の長手方向に前記コーティング用試薬を移動させて、前記管状容器内の下方領域に前記コーティング用試薬を塗布し、コーティング層を形成する方法としてある。
本発明によれば、細胞培養容器において、培養部のみにコーティング用試薬を簡単にコーティングできると共に、高価なコーティング用試薬の使用量を低減でき、培養面積を可変にすることが可能となる。
本発明の実施形態に係る細胞培養容器の概略構成を示す模式図である。 本発明の実施形態に係る環状の管状容器からなる細胞培養容器を示す模式図である。 本発明の実施形態に係る細胞培養容器における管状容器を押圧変形させて使用する態様を示す模式図である。 本発明の実施形態に係る二種類のコーティング用試薬を塗布して形成された細胞培養容器を示す模式図である。 本発明の実施形態に係る二種類のコーティング用試薬を塗布して形成された細胞培養容器における管状容器を押圧変形させて第一のコーティング用試薬上で細胞培養を行った後、培養面を変更して第二のコーティング用試薬上で細胞培養を行う態様を示す模式図である。 本発明の実施形態に係る四種類のコーティング用試薬を塗布して形成された細胞培養容器を示す模式図である。 本発明の実施形態に係る細胞培養システムの概略構成を示す模式図である。 本発明の実施形態に係る細胞培養容器の製造方法において、管状容器の内面にコーティング用試薬をコーティングする様子を示す模式図である。
以下、本発明の細胞培養容器、細胞培養システム、細胞培養方法、及び細胞培養容器の製造方法の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態の具体的な内容に限定されるものではない。
本実施形態の細胞培養容器は、管状容器からなる細胞培養容器であって、細胞を培養するための密閉空間が管状容器内に形成され、管状容器の内面の一部にコーティング用試薬がコーティングされたことを特徴とする。
具体的には、本実施形態の細胞培養容器は、図1の左側に示すように、例えば、可撓性部材を用いて円筒状に形成された閉鎖系の管状容器1からなるものとすることができる。管状容器1の長手方向の両端には、外部と物質の出し入れをするためのポート11が備えられている。この物質には、培養液などの液体の他、空気などの気体や、細胞などの固形物等が含まれる。
管状容器1におけるポート11の配置は、図1に限定されず、長手方向の一方の端部や円筒の側面(曲面上)に設けても良く、その個数も特に限定されない。
図1の右側には、管状容器1の中心軸に対して垂直な断面図が示されている。すなわち、管状容器1の中心軸は、管状容器1の長手方向に平行で、管状容器1の長手方向に垂直な断面の中心を通る線である。
また、管状容器1内の下方領域(第一のコーティング領域12)には、コーティング用試薬が塗布され、コーティング層が形成されている。
管状容器1内の下方領域とは、管状容器1の中心軸が水平になるように管状容器1が配置された状態において、管状容器1の内面における下半分以内の領域であり、例えば、管状容器1の下端を中心として含む円周の1/6の円弧として示される管状容器1内の領域とすることができる。また、管状容器1内の下方領域は、管状容器1の下端を中心として含む円周の1/2、1/4、1/8、又は1/12等の円弧として示される管状容器1内の領域とすることもでき、管状容器1の内面の下半分以内の領域であれば良く、特に限定されない。
コーティング用試薬は、細胞培養において容器にコーティングして使用されるものであれば良く、特に限定されないが、例えば、抗CD3抗体などの増殖刺激因子のタンパク質ラミニンやコラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチンなどの細胞接着因子、MPC(2-Methacryloylethyl Phosphoryl Choline)ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリエチレングリコール及びハイドロゲル等の細胞低接着処理剤を好適に用いることができる。
本実施形態の細胞培養容器における管状容器1に増殖刺激因子をコーティングすることで、リンパ球などの細胞を活性化させることができる。また、MPCポリマーやハイドロゲルをコーティングすることで、管状容器1の内面に細胞低接着処理を施すことができ、凝集塊を形成させて培養できる接着細胞などを好適に培養することが可能となる。
また、コーティング用試薬としてフィブロネクチン、ラミニンなどの細胞接着促進剤をコーティングすることで、繊維芽細胞、肝細胞、神経細胞や多能性幹細胞、間葉系幹細胞などの接着細胞による培養容器への接着を促進させることもできる。
管状容器1内の密閉空間には細胞2と培養液3が充填され、細胞培養が行われる。
細胞2としては、特に限定されず、接着細胞又は浮遊細胞を好適に用いることができる。具体的には、例えばiPS細胞、間葉系幹細胞、神経幹細胞、胚性幹細胞、肝細胞、膵島細胞、心筋細胞、角膜内皮細胞等の接着細胞や、リンパ球、赤血球、巨核球などの浮遊細胞を挙げることができる。
本実施形態の細胞培養容器を用いることにより、凝集塊(スフェロイド)を形成させて培養できる接着細胞や浮遊細胞を培養することができ、また接着細胞を管状容器1内に接着させて培養することもできる。
細胞2として、リンパ球を培養する場合は、コーティング用試薬として抗CD3抗体及び/又は抗CD28抗体を管状容器1にコーティングして、本実施形態の細胞培養容器を形成することが好ましい。
このような細胞培養容器を用いてリンパ球を培養すれば、リンパ球が沈降した際に、管状容器1における最下点を中心に集まるため、抗CD3抗体等が部分的にコーティングされた領域に自然に集められる。このため、管状容器1における第一のコーティング領域12に、少ない抗体量で部分的にコーティングをすることで、リンパ球に適切に刺激を与えることができ、抗体量を削減してコストダウンを図ることが可能となる。
また、細胞2として、iPS細胞を培養する場合は、コーティング用試薬として例えばMPCポリマーを管状容器1にコーティングして、本実施形態の細胞培養容器を形成することが好ましい。
このような細胞培養容器を用いてiPS細胞を培養すれば、iPS細胞は管状容器1の内面に接着することなく、底面上に溜まり、その後凝集塊を形成する。これにより、iPS細胞の凝集塊を形成させて培養することが可能となる。
また、このように細胞の凝集塊を形成させて培養する場合には、本実施形態の細胞培養容器を、図2に示すような環状の管状容器1からなるものとして、培養液3を細胞2と共に満注となるように充填し、管状容器1内で一方向に送流させながら、細胞培養を行うことが好ましい。これにより、細胞の凝集塊が互いにぶつかり合うことを抑止でき、より均一なサイズの凝集塊を得ることが可能となる。このような環状の管状容器1は、管状容器1の端部を一又は二以上の接続部材16で接続することにより形成することができる。
本実施形態の細胞培養容器を環状の管状容器1からなるものとする場合、管状容器1内における細胞2と培養液3の送流は、ポンプを駆動させることで行うことができる。ポンプとしては、管状容器1をしごくことによって管状容器1内の細胞2と培養液3を送流できるペリスタルティック方式のポンプを好適に用いることができる。
接続部材16は、管状容器1の端部を接続することで、管状容器1内に環状の密閉空間を形成させる。図2では、接続部材16としてT型のチューブコネクタを用い、対向する開口部に管状容器1の端部を挿入して接続している。また、管状容器1に垂直な開口部はポート11として用いられ、他のチューブを介して外部のバッグなどに接続可能にされている。なお、接続部材16としては、このようなT型のチューブコネクタに限定されず、Y型、I型、X型等のチューブコネクタや、その他のチューブ接続器具を用いても良い。
このような細胞培養容器は、細長の管状容器1を接続部材16で接続することによって簡単に製造でき、また流路を長く形成することが容易である。このため、バッグ形状の培養容器に比較して容量の大きい培養容器を容易に製造することができ、より細胞の大量培養に適したものとすることが可能である。
管状容器1は、熱可塑性樹脂シートをヒートシールなどの手段でシールすることで形成することができ、またブロー成形等の種々の成形方法によって形成することもできる。また、管状容器1は、上記のように、接続部材16で接続して形成することもできる。さらに、管状容器1は、接続部材16を用いて、材質や剛性などが異なる管状容器1を複数組み合わせて接続して形成することもできる。
管状容器1は、一部又は全部が弾性変形性を有する部材からなるものであることが好ましい。管状容器1の少なくとも一部が弾性変形性を有することで、ペリスタルティック方式のポンプ(チューブポンプ、ローラーポンプ、しごきポンプとも称する)を用いて、管状容器1内の培養液と細胞を効率的に送流することができる。また、管状容器1を自由に曲げることができるため、細胞培養容器を優れたスペース効率で配置することが可能となる。
また、管状容器1は、ガス透過性を有する部材からなるものであることが好ましい。具体的には、酸素透過係数が400ml・mm/m・day・atm(37℃−80%RH)以上、二酸化炭素透過係数が1200ml・mm/m・day・atm(37℃−80%RH)以上のものであることが好ましく、酸素透過係数が1000ml・mm/m・day・atm(37℃−80%RH)以上、二酸化炭素透過係数が3000ml・mm/m・day・atm(37℃−80%RH)以上のものであることがより好ましい。管状容器1がこのようなガス透過性を有すれば、優れた細胞増殖効率を得ることができる。
さらに、管状容器1は、内容物を確認できるように、一部又は全部が透明性を有することが好ましい。
管状容器1の材料としては、例えばシリコーンゴム、軟質塩化ビニル樹脂、ポリブタジエン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、シリコーン系熱可塑性エラストマー、スチレン系エラストマー、例えば、SBS(スチレン・ブタジエン・スチレン)、SIS(スチレン・イソプレン・スチレン)、SEBS(スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン)、SEPS(スチレン・エチレン・プロピレン・スチレン)、ポリオレフィン樹脂、フッ素系樹脂等を用いることができる。
すなわち、管状容器1の材料としてこれらを用いると共に、上記のような弾性変形性、ガス透過性、及び透明性を有するものとすることが好ましい。
なお、管状容器1として、ポリスチレンやポリエチレンテレフタレートなどのリジッドなものを用いても良い。
本実施形態の細胞培養方法は、上記の細胞培養容器を用いた細胞培養方法であって、細胞培養中に管状容器1を押圧変形させて、管状容器1内における細胞培養面積を変化させることを特徴とする。
具体的には、管状容器1を固定して、上方向及び/又は下方向から押圧することにより、管状容器1は、上下方向に押しつぶされて扁平な形状となる(図3参照)。このとき、管状容器1の中心軸に対して垂直な断面は、楕円形、略楕円形、陸上競技のトラック形状、トラック形状を長手方向に引き延ばした形状等となる。
このような細胞培養方法及び細胞培養容器によれば、例えば、培養の初期段階では、管状容器1内の最下領域で細胞培養を行い、細胞数が一定以上に増殖した後、管状容器1を押圧変形させて培養面積を増加させ、底面積の増加した管状容器1内の底面で細胞培養を行うことができる。
すなわち、本実施形態の細胞培養容器に細胞2と培養液3を充填すると、細胞2は管状容器1内の最下領域に集まるため、底面積細胞密度を高めることができる。このため、培養の初期段階における細胞の培養効率を容易に向上させることができる。
また、細胞数が一定以上に増殖した後に、管状容器1を押圧変形させて、管状容器1内の底面における培養面積を拡張して、細胞の培養効率を簡単に向上させることができる。
また、このような細胞培養方法及び細胞培養容器を用いてリンパ球を培養することも好ましい。このとき、管状容器1における第一のコーティング領域12を比較的広く(例えば管状容器1の内面の下半分に)設けて、第一のコーティング薬剤として、抗CD3抗体を用いることが好ましい。
そして、例えば管状容器1における底面積細胞密度が大きく、培養条件が不適切である場合に、管状容器1を押圧変形させて、管状容器1内における細胞培養面積を増加させることができる。このため、底面積細胞密度を適切な範囲に制御でき、培養環境を向上させることが可能となる。
すなわち、管状容器1における細胞数に応じて管状容器1を変形させることにより、最適な底面積細胞密度の環境下で、リンパ球に抗CD3抗体による活性化刺激を与えることが可能となる。
また、本実施形態の細胞培養方法を、上記の細胞培養容器を用いた細胞培養方法であって、細胞培養中に管状容器1をその中心軸を中心として回転させて、細胞培養面を変更させる方法とすることも好ましい。
このとき、本実施形態の細胞培養容器を、例えば図4に示すように、管状容器1内の下方領域(第一のコーティング領域12)及び上方領域(第二のコーティング領域13)にコーティング用試薬を塗布して、コーティング層を形成したものとすることができる。上方領域は、管状容器1の中心軸が水平になるように管状容器1が配置された状態において、管状容器1の内面における上半分以内の領域であり、下方領域と同様の方法により定義することができ、例えば、管状容器1の上端を中心として含む円周の1/6の円弧として示される管状容器1内の領域とすることができる。なお、後述する側方領域についても、同様の方法により定義することができる。すなわち、側方領域は、管状容器1の中心軸が水平になるように管状容器1が配置された状態において、管状容器1の内面における左右半分以内の領域であり、例えば、管状容器1の左端又は右端を中心として含む円周の1/6の円弧として示される管状容器1内の領域とすることができる。
第一のコーティング領域12と第二のコーティング領域13のコーティング用試薬は同一のものであっても異なるものであっても良い。便宜上、第一のコーティング領域12にコーティングする試薬を第一のコーティング用試薬と称し、第二のコーティング領域13にコーティングする試薬を第二のコーティング用試薬と称する。
このような細胞培養方法及び細胞培養容器を用いれば、第一のコーティング領域12で細胞を培養した後、管状容器1を180°回転移動(上下反転)させて、第二のコーティング領域13で細胞を引き続き培養することができる。
具体的には、例えば、第一のコーティング用試薬としてラミニン511を用いると共に、第二のコーティング用試薬としてMPCポリマーを用いて、第一のコーティング領域12でiPS細胞を培養した後、第二のコーティング領域13で細胞を引き続き培養することができる。これにより、第一のコーティング領域12においてiPS細胞を管状容器1内に接着させて培養させ、細胞数が一定以上に増加した後に、所定の薬剤などを用いて底面から細胞を剥がし、管状容器1を回転させて、第二のコーティング領域13においてiPS細胞の凝集塊を形成させて、培養を効率的に行うことが可能となる。
さらに、本実施形態の細胞培養方法を、細胞培養中に管状容器1を押圧変形させて管状容器1内における細胞培養面積を変化させる方法と、細胞培養中に管状容器1をその中心軸を中心として回転させて細胞培養面を変更させる方法を組み合わせたものとすることも好ましい。
具体的には、例えば図5に示すように、第一のコーティング領域12にラミニン511をコーティングし、第二のコーティング領域13にMPCポリマーをコーティングして、細胞培養容器を形成する。この細胞培養容器は、環状の管状容器1からなるものとする。
そして、ラミニン511をコーティングした第一のコーティング領域12を下にして、管状容器1を押圧変形させて底面積を拡大させる。このようにして管状容器1内の底面にiPS細胞を播種すると、iPS細胞は底面に接着して培養される。このとき、iPS細胞は静置培養(静置させた状態での培養)により培養される。
iPS細胞が一定以上に増殖した後、管状容器1の押圧を解除して、管状容器1を円筒形状に戻し、所定の薬剤などを用いて底面から細胞を剥がす。次いで、管状容器1をその中心軸を中心として回転させて、MPCポリマーをコーティングした第二のコーティング領域13を下にして細胞培養面とする。そして、iPS細胞を培養液3と共に培養し凝集塊を形成後、管状容器1内で一方向に環流させて、細胞培養を行う。これにより、iPS細胞は管状容器1内の底面に接着することなく凝集塊を維持したまま、管状容器1内で送流されることで、均一なサイズの凝集塊を得ることが可能となる。
また、このような環状の管状容器1からなる細胞培養容器は、リンパ球の培養にも好適に用いることができる。
具体的には、例えば、抗CD3抗体をコーティングした第一のコーティング領域12を下にして、管状容器1を押圧変形させて底面積を拡大させ、静置培養でリンパ球を抗CD3抗体により活性化させる。
リンパ球が活性化した後、管状容器1の押圧を解除して、管状容器1を円筒形状に戻し、リンパ球と培養液3をポンプで循環させ、管状容器1内で一方向に環流させて、細胞培養を行う。これにより、リンパ球は、浮遊した状態で増殖していく。このため、リンパ球が抗CD3抗体に必要以上の長時間に亘って接触して過度に活性化することを防止し、リンパ球の増殖効率を向上させることが可能となる。
また、リンパ球を培養する場合には、リンパ球を活性化させた後、管状容器1をその中心軸を中心として回転させて、その後に押圧して変形させて管状容器1内の底面における培養面積を拡張し、リンパ球が第一のコーティング領域12に接しないようにして、リンパ球が過度に活性化することを防止し、リンパ球の増殖効率を向上させることもできる。
さらに、本実施形態の細胞培養容器を、例えば図6に示すように、管状容器1内の下方領域(第一のコーティング領域12)、上方領域(第二のコーティング領域13)、側方領域(第三のコーティング領域14、第四のコーティング領域15)にコーティング用試薬をコーティングして乾燥させ、コーティング層を形成したものとすることも好ましい。このとき、第一のコーティング領域12、第二のコーティング領域13、第三のコーティング領域14、及び第四のコーティング領域15のコーティング用試薬は同一のものであっても異なるものであっても良い。また、本実施形態の細胞培養容器において、コーティング領域として五種類以上の領域を形成させても良い。
本実施形態の細胞培養システムは、上記の細胞培養容器と、細胞培養中に前記管状容器を押圧して変形させ、管状容器内の底面積を変化させる押圧装置とを備えたことを特徴とする。このような細胞培養システムによれば、細胞培養容器を押圧することで、細胞密度に応じて培養面積を増加させることが可能となる。
また、本実施形態の細胞培養システムは、細胞培養中に前記管状容器をその中心軸を中心として回転させ、前記管状容器内の底面を移動させる回転駆動装置を備えたことを特徴とする。このような細胞培養システムによれば、細胞培養容器を回転させることで、培養面を選択することができ、例えばコーティング面から未コーティング面へ変更することが可能となる。
具体的には、例えば図7に示すように、本実施形態の細胞培養システムは、管状容器1と、押圧装置4と、回転駆動装置5とを備えたものとすることが好ましい。
同図において、管状容器1は積載台上に載置され、上方から押圧装置4により押圧可能な構成となっている。このように管状容器1は、押圧装置4により押圧されることで、扁平な形状に変形し、管状容器1内の底面積を増加させることが可能となっている。
管状容器1の両端に備えられたポート11は、それぞれ回転駆動装置5に取り付けられ、回転駆動装置5によって、管状容器1の中心軸を中心として回転駆動され、これによって管状容器1を回転させる構成となっている。管状容器1を回転させるに際しては、管状容器1は支持台などにより、積載台から浮かせた状態とすることが好ましい。回転駆動装置5による管状容器1の回転は、例えば右回り及び左回りに180°まで可能なものとすることができる。
また、回転駆動装置5は、ポート11に取り付けられるものに限定されず、例えば環状の管状容器1における接続部材16に取り付けて、接続部材16と共に管状容器1を回転させるものや、管状容器1に直接取り付けて、管状容器1を回転させるものなどとすることもできる。
また、本実施形態の細胞培養システムは、管状容器の端部が一又は二以上の接続部材で接続されて環状の密閉空間が形成された細胞培養容器と、ポンプとを備え、管状容器にポンプが取り付けられ、ポンプを駆動させることにより、管状容器内の培養液と細胞が、管状容器内において一方向に送流されながら培養される構成とすることも好ましい。このような細胞培養システムによれば、細胞を培養液と共に管状容器内で一方向に環流させることができ、均一なサイズの細胞凝集塊を得ることが可能となる。
本実施形態の細胞培養容器の製造方法は、上記の細胞培養容器の製造方法であって、管状容器内に前記コーティング用試薬を注入し、管状容器内の長手方向にコーティング用試薬を移動させて、管状容器内の下方領域に前記コーティング用試薬を塗布し、コーティング用試薬を乾燥させて、コーティング層を形成することを特徴とする。
具体的には、図7に示すように、管状容器1内にコーティング用試薬6を注入し、管状容器1内の長手方向にコーティング用試薬6を移動させて、また必要に応じて、管状容器1内の円周方向にコーティング用試薬6を移動させることにより、管状容器1内の下方領域(第一のコーティング領域12)にコーティング用試薬6を塗布し、コーティング層を形成する。
これにより、管状容器1内の最下領域を含む下方領域において、コーティング用試薬6が固相化されて、コーティング層が形成される。
また、管状容器1内の下方領域にコーティング用試薬6を塗布した後に、管状容器1を押し潰して管状容器1内の上面を管状容器1内の下面に接触させることにより、管状容器1内の下方領域に塗布されたコーティング用試薬6を管状容器1内の上方領域にも塗布し、同一のコーティング用試薬6を管状容器1内の上方領域及び下方領域の両方に固相化して、コーティング層を形成させることも好ましい。
さらに、管状容器1内の最下領域を含む下方領域にコーティング層を形成した後、管状容器1を円周方向に回転させて、管状容器1内の新たな最下領域を含む下方領域にコーティング層を形成することも好ましい。
以上説明したように、本実施形態の細胞培養容器、細胞培養システム、細胞培養方法、及び細胞培養容器の製造方法によれば、細胞培養容器において、培養部のみにコーティング用試薬を簡単にコーティングできると共に、高価なコーティング用試薬の使用量を低減でき、培養面積を可変にすることが可能となる。
また、容量の大きい細胞培養容器を容易に製造することも可能となる。
さらに、環状の管状容器からなるものとすれば、管状容器内の培養液と細胞を一方向に環流することができ、これによって細胞の凝集塊が互いにぶつかり合うことを抑止して均一な凝集塊を得ることも可能である。
本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、複数の環状の管状容器が接続部材により接続されたものとしたり、管状容器に一又は二以上の培養液バッグや細胞回収バッグを接続したものとするなど適宜変更することが可能である。
本発明は、コーティング用試薬を培養容器に塗布して培養が行われる細胞を、大量に培養する場合に好適に利用することが可能である。
1 管状容器
11 ポート
12 第一のコーティング領域
13 第二のコーティング領域
14 第三のコーティング領域
15 第四のコーティング領域
16 接続部材
2 細胞
3 培養液
4 押圧装置
5 回転駆動装置
6 コーティング用試薬

Claims (13)

  1. 管状容器からなる細胞培養容器であって、細胞を培養するための密閉空間が前記管状容器内に形成され、前記管状容器の内面の一部にコーティング用試薬がコーティングされたことを特徴とする細胞培養容器。
  2. 前記管状容器の中心軸が水平になるように前記管状容器が配置された状態において、前記管状容器の内面における下半分以内の領域にコーティング用試薬がコーティングされたことを特徴とする請求項1記載の細胞培養容器。
  3. 前記管状容器の中心軸が水平になるように前記管状容器が配置された状態において、前記管状容器の内面における下半分以内の領域、及び、上半分以内の領域にコーティング用試薬がコーティングされたことを特徴とする請求項1又は2記載の細胞培養容器。
  4. 前記管状容器内に二以上の種類のコーティング用試薬がコーティングされたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の細胞培養容器。
  5. 前記コーティング用試薬が、タンパク質、MPCポリマー、ハイドロゲル、フィブロネクチン、ゼラチン、又はラミニンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の細胞培養容器。
  6. 前記管状容器が、当該細胞培養容器の外部と物質の出し入れをするためのポートを備えたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の細胞培養容器。
  7. 前記管状容器が、ガス透過性を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の細胞培養容器。
  8. 前記管状容器の端部が一又は二以上の接続部材で接続されて環状の密閉空間が形成されたことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の細胞培養容器。
  9. 請求項1〜8のいずれかに記載の細胞培養容器と、
    細胞培養中に前記管状容器を押圧して変形させ、前記管状容器内の底面積を変化させる押圧装置と、を備えた
    ことを特徴とする細胞培養システム。
  10. 細胞培養中に前記管状容器をその中心軸を中心として回転させ、前記管状容器内の底面を移動させる回転駆動装置を備えた
    ことを特徴とする請求項9記載の細胞培養システム。
  11. 請求項1〜8のいずれかに記載の細胞培養容器を用いた細胞培養方法であって、
    細胞培養中に前記管状容器を押圧変形させて、前記管状容器内における細胞培養面積を変化させることを特徴とする細胞培養方法。
  12. 細胞培養中に前記管状容器をその中心軸を中心として回転させて、細胞培養面を変更させることを特徴とする請求項11記載の細胞培養方法。
  13. 請求項1〜8のいずれかに記載の細胞培養容器の製造方法であって、
    前記管状容器内に前記コーティング用試薬を注入し、
    前記管状容器内の長手方向に前記コーティング用試薬を移動させて、前記管状容器の中心軸が水平になるように前記管状容器が配置された状態において、前記管状容器の内面における下半分以内の領域に前記コーティング用試薬を塗布し、
    コーティング層を形成する
    ことを特徴とする細胞培養容器の製造方法。
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