JP2020127369A - キシラナーゼ - Google Patents
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Abstract
【課題】工業的に効率良くキシランからキシロースを製造するのに適したエキソ型キシラナーゼの提供。【解決手段】下記(A)又は(B)のアミノ酸配列を有し、且つ、下記(C)及び/又は(D)の特徴を有する、エキソ型キシラナーゼ:(A)特定のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列、(B)該特定のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列、(C)該特定のアミノ酸配列のArg18、Glu49、Lys53、Glu374、Arg406及びGlu425が保存されている、(D)該特定のアミノ酸配列のAsn147、Cys148及びThr149が保存されている。【選択図】なし
Description
キシランは広く天然に存在する多糖の1つであり、農産廃棄物や木質等などのバイオマスに含まれるリグノセルロースの主要構成成分である。その構造は、キシロースを単位とするβ−1,4結合により重合した主鎖を有する高分子多糖である。キシランは、天然には、キシロース残基のO−2またはO−3あるいはその両方で、4−O−メチルグルクロン酸側鎖、アラビノフラノシル側鎖やアセチル側鎖などの残基やキシロース,アラビノース,ガラクトース,グルコースなどからなるオリゴ糖側鎖が結合されたヘテロキシランとして存在し、その主要な構造に基づいて、グルクロノキシラン、アラビノグルクロノキシラン、アラビノキシランなどに分類される。広葉樹材はグルクロノキシランを、イネ科草本はアラビノグルクロノキシランを主に含む。アラビノキシランは、ムギ,エンバク,コメ,アワ,トウモロコシ,ソルガムのような穀物やタケノコなどの植物に分布している。
キシラナーゼは、キシランを加水分解する酵素群の総称であり、動植物及び微生物に広く存在する。これまでに細菌、放線菌、酵母、カビ等に由来するキシラナーゼについて主に研究がなされてきた。キシラナーゼは、キシランからのキシロオリゴ糖やキシロースの製造に利用されている。例えば、動物飼料中の糖を遊離させるための酵素処理、セルロース製造時にパルプを溶解させるための酵素処理、木材パルプ漂白における酵素処理などにおいてキシラナーゼの使用が挙げられる。さらに、アルコール燃料用農業廃棄物の酵素分解においては、キシラン原料をより高い効率及び収率でキシロースに変換することができる酵素及び/又は酵素混合物(酵素組成物)が必要とされている。
キシラナーゼ活性は、大きくエンド型活性およびエキソ型活性に分けられる。一般にエンド型キシラナーゼは、キシラン主鎖をランダムに切断し、より短鎖のキシランを生成する。主鎖の切断は、キシラン中の側鎖によって影響され、分岐鎖を含むオリゴ糖が生成される(非特許文献1)。一方、エキソ型キシラナーゼは、2つのタイプがあり、キシランの非還元末端および還元末端からそれぞれキシロースを遊離する活性を有する。これらのエキソ型酵素をエンド型キシラナーゼと併用することにより、キシラン原料は、高い効率及び収率でキシロースに変換される(非特許文献2〜4)。
Kolenova K, Vrsanska M & Biely P (2006) J. Biotechnol. 121: 338-345.
Valenzuela SV, Lopez S, Biely P, Sanz-Aparicio J & Pastor FI (2016) Appl. Environ. Microbiol. 82: 5116-5124.
Tenkanen M, Vrsanska M, Siika-aho M, Wong DW, Puchart V, Penttila M, Saloheimo M & Biely P (2013) FEBS J. 280: 285-301.
Inoue H, Kitao C, Yano S & Sawayama S (2016) World J. Microbiol. Biotechnol. 32: 186.
工業的に効率良くキシランからキシロースを製造するのに適したエキソ型キシラナーゼを提供することが一つの課題である。
本発明者等は、上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、エキソ型キシラナーゼ活性を有する新たなポリペプチド及びそれをコードするDNAの取得に成功した。また、本発明者等は、当該酵素の立体構造を解析し、触媒部位に存在する主要なアミノ酸残基、熱安定性に関わるアミノ酸、エキソ型活性に関与するアミノ酸残基を同定した。斯かる知見に基づき更なる検討と改良を重ね、下記に代表される発明が提供される。
項1.
下記(A)又は(B)のアミノ酸配列を有し、且つ、下記(C)及び/又は(D)の特徴を有する、エキソ型キシラナーゼ。
(A)配列番号1のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(B)配列番号1のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列
(C)配列番号1のアミノ酸配列の18Arg、49Glu、53Lys、374Glu、406Arg及び425Gluが保存されている
(D)配列番号1のアミノ酸配列の147Asn、148Cys及び149Thrが保存されている。
項2.
キシラン又はキシロオリゴ糖の還元末端側からキシロースを遊離する活性を有する、項1に記載のエキソ型キシラナーゼ。
項3.
キシラン又はキシロオリゴ糖の還元末端側に隣接するキシロース残基に側鎖を有するキシロビオースを遊離する活性を有する、項1又は2に記載のエキソ型キシラナーゼ。
項4.
キシラン又はキシロオリゴ糖の還元末端側に隣接するキシロース残基に側鎖を有するキシトリオースを遊離する活性を有する、項1又は2に記載のエキソ型キシラナーゼ。
項5.
配列番号1のアミノ酸配列の182Glu及び/又は274Gluが保存されている、項1〜4のいずれかに記載のエキソ型キシラナーゼ。
項6.
2量体である、項1〜5のいずれかに記載のエキソ型キシラナーゼ。
項7.
項1〜6のいずれかに記載のエキソ型キシラナーゼをコードするポリヌクレオチド。
項8.
項7のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
項9.
項7のポリヌクレオチド又は項8の発現ベクターが組み込まれた宿主細胞。
項10.
項9に記載の宿主細胞を培養することを含む、項1〜6のいずれかに記載のエキソ型キシラナーゼを製造する方法。
項11.
項1〜6のいずれかに記載のエキソ型キシラナーゼを含む組成物。
項12.
セルラーゼ、エンドキシラナーゼ、プロテアーゼ、ガラクタナーゼ、アラビナナーゼ、マンナナーゼ、ラムノガラクツロナーゼ、ポリガラクツロナーゼ、ペクチンメチルエステラーゼ、ペクチンリアーゼ、ポリガラクツロナーゼ、ガラクツロン酸リアーゼ、アミラーゼ、グルコアミラーゼ、α−グルコシダーゼ、β−グルコシダーゼ、α−アラビノフラノシダーゼ、α−グルクロニダーゼ、α−ガラクトシダーゼ、α−キシロシダーゼ、β−キシロシダーゼ、アセチルキシランエステラーゼ、及びフェルラ酸エステラーゼからなる群より選択される一種以上の酵素を更に含む、項11に記載の組成物。
項13.
項1〜6のいずれかに記載のエキソ型キシラナーゼ、項9に記載の宿主細胞、或いは、項11又は12に記載の組成物を、キシランに作用させることを含む、キシロースの製造方法。
項14.
キシランが、4−O−メチルグルクロン酸側鎖、ガラクトシル側鎖、アラビノフラノシル側鎖、及びアセチル側鎖からなる群より選択される一種以上の側鎖を有する、項13に記載の方法。
下記(A)又は(B)のアミノ酸配列を有し、且つ、下記(C)及び/又は(D)の特徴を有する、エキソ型キシラナーゼ。
(A)配列番号1のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(B)配列番号1のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列
(C)配列番号1のアミノ酸配列の18Arg、49Glu、53Lys、374Glu、406Arg及び425Gluが保存されている
(D)配列番号1のアミノ酸配列の147Asn、148Cys及び149Thrが保存されている。
項2.
キシラン又はキシロオリゴ糖の還元末端側からキシロースを遊離する活性を有する、項1に記載のエキソ型キシラナーゼ。
項3.
キシラン又はキシロオリゴ糖の還元末端側に隣接するキシロース残基に側鎖を有するキシロビオースを遊離する活性を有する、項1又は2に記載のエキソ型キシラナーゼ。
項4.
キシラン又はキシロオリゴ糖の還元末端側に隣接するキシロース残基に側鎖を有するキシトリオースを遊離する活性を有する、項1又は2に記載のエキソ型キシラナーゼ。
項5.
配列番号1のアミノ酸配列の182Glu及び/又は274Gluが保存されている、項1〜4のいずれかに記載のエキソ型キシラナーゼ。
項6.
2量体である、項1〜5のいずれかに記載のエキソ型キシラナーゼ。
項7.
項1〜6のいずれかに記載のエキソ型キシラナーゼをコードするポリヌクレオチド。
項8.
項7のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
項9.
項7のポリヌクレオチド又は項8の発現ベクターが組み込まれた宿主細胞。
項10.
項9に記載の宿主細胞を培養することを含む、項1〜6のいずれかに記載のエキソ型キシラナーゼを製造する方法。
項11.
項1〜6のいずれかに記載のエキソ型キシラナーゼを含む組成物。
項12.
セルラーゼ、エンドキシラナーゼ、プロテアーゼ、ガラクタナーゼ、アラビナナーゼ、マンナナーゼ、ラムノガラクツロナーゼ、ポリガラクツロナーゼ、ペクチンメチルエステラーゼ、ペクチンリアーゼ、ポリガラクツロナーゼ、ガラクツロン酸リアーゼ、アミラーゼ、グルコアミラーゼ、α−グルコシダーゼ、β−グルコシダーゼ、α−アラビノフラノシダーゼ、α−グルクロニダーゼ、α−ガラクトシダーゼ、α−キシロシダーゼ、β−キシロシダーゼ、アセチルキシランエステラーゼ、及びフェルラ酸エステラーゼからなる群より選択される一種以上の酵素を更に含む、項11に記載の組成物。
項13.
項1〜6のいずれかに記載のエキソ型キシラナーゼ、項9に記載の宿主細胞、或いは、項11又は12に記載の組成物を、キシランに作用させることを含む、キシロースの製造方法。
項14.
キシランが、4−O−メチルグルクロン酸側鎖、ガラクトシル側鎖、アラビノフラノシル側鎖、及びアセチル側鎖からなる群より選択される一種以上の側鎖を有する、項13に記載の方法。
キシランを含有する試料から効率的にキシロースを製造することが出来る。一実施形態において、熱安定性に優れ、温度変化を伴う環境下や比較的高い温度(例えば、50〜60℃)での使用に適したエキソ型キシラナーゼが提供される。
1.キシラナーゼ
キシラナーゼは、下記(A)又は(B)のアミノ酸配列を有し、且つ、下記(C)及び/又は(D)の特徴を有することが好ましい。
(A)配列番号1のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(B)配列番号1のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列
(C)配列番号1のアミノ酸配列の18Arg、49Glu、53Lys、374Glu、406Arg及び425Gluが保存されている。
(D)配列番号1のアミノ酸配列の147Asn、148Cys及び149Thrが保存されている。
キシラナーゼは、下記(A)又は(B)のアミノ酸配列を有し、且つ、下記(C)及び/又は(D)の特徴を有することが好ましい。
(A)配列番号1のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(B)配列番号1のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列
(C)配列番号1のアミノ酸配列の18Arg、49Glu、53Lys、374Glu、406Arg及び425Gluが保存されている。
(D)配列番号1のアミノ酸配列の147Asn、148Cys及び149Thrが保存されている。
配列番号1のアミノ酸配列は、後述する実施例で同定したタラロマイセス・セルロリティカスCF−2612株由来のキシラナーゼ(Xyn30A)のアミノ酸配列(シグナルペプチドを含まない)である。ポリペプチドを構成するアミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列と60%以上、70%以上、80%、85%以上、90%、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の同一性を有することが好ましい。
アミノ酸配列の同一性は、市販の又は電気通信回線(インターネット)を通じて利用可能な解析ツールを用いて算出することができ、例えば、ClustalW ver2.1 Pairwise Alignment(http://clustalw.ddbj.nig.ac.jp/index.php?lang=ja)を使用し、デフォルトのパラメータを用いて算出することができる。また、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の相同性アルゴリズムBLAST(Basic local alignment search tool)http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/においてデフォルト(初期設定)のパラメータを用いることにより、算出することができる。
上記(B)のアミノ酸配列に関し、「数個」とは、例えば、50個以下、45個以下、30個以下、25個以下、20個以下、15個以下、10個以下、5個以下、3個以下、又は2個以下である。
1又は数個のアミノ酸残基が置換されている場合、置換の種類は、特に制限されないが、ポリペプチドの高次構造、表現形又は特性に顕著な負の影響を与えないという観点から保存的アミノ酸置換が好ましい。「保存的アミノ酸置換」とは、あるアミノ酸残基を、同様の性質の側鎖を有するアミノ酸残基に置換することをいう。アミノ酸残基はその側鎖によって塩基性側鎖(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、分岐側鎖(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)のように、同様の性質を有するファミリーに分類することができる。よって、アミノ酸置換は、置換前のアミノ酸残基と同一の上記カテゴリーに属する他のアミノ酸残基間で置換されることが好ましい。
配列番号1のアミノ酸配列を有するポリペプチドの高次構造、表現形又は特性に顕著な負の影響を与えないという観点から、(A)及び(B)のアミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列からなるキシラナーゼに特徴的なアミノ酸残基が保存されていることが好ましい。保存されているとは、あるアミノ酸残基が、(A)又は(B)のアミノ酸配列において、配列番号1における位置と同等の位置に存在することを意味する。
一実施形態において、配列番号1のアミノ酸配列を構成するアミノ酸残基のうち、次のアミノ酸残基は、上記(A)及び(B)のアミノ酸配列において保存されていることが好ましい:2S、9A、11I、19Y、20Q、24G、26G、27C、28S、30A、31F、34A、38F、42G、43L、45P、47N、48Q、51V、58E、62G、65I、67R、68N、70I、71G、72S、73S、78I、80P、83P、86P、92Y、94W、95D、101Q、102F、104L、108A、116Y、118Y、119A、121A、122W、123S、124A、125P、126G、128M、129K、130T、134E、135N、138G、141C、142G、145G、148C、151D、152W、153R、154Q、155A、156Y、157A、158D、159Y、160L、161V、162Q、163Y、164V、166F、167Y、171G、177L、178G、181N、182E、183P、190Y、192S、193M、195S、197G、199Q、200A、203F、207L、210T、222C、223C、224D、227G、239Q、242G、244E、251T、253H、255Y、257S、259P、262P、273T、274E、275W、277D、280G、285T、290G、294E、295G、298W、299A、305A、306F、308N、312S、317W、320A、329I、339S、341R、343W、346A、351F、353R、354P、358R、361A、362T、363S、368V、370V、372A、375N、377N、378G、380V、382I、384V、385I、386N、395T、396I、397D、398L、412T、414N、435V、438R、443F、446E。ここで、「2S」とは、配列番号1のアミノ酸配列における2番目のセリン残基を意味し、他の標記についても同様である。一実施形態において、これらのアミノ酸残基の1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、10以上、15以上、20以上、25以上、30以上、35以上、40以上、45以上、50以上、55以上、60以上、65以上、70以上、70以上、75以上、80以上、85以上、90以上、95以上、100以上、105以上、110以上、115以上、120以上、125以上、130以上、135以上、140以上、145以上又は150以上が保存されていることが好ましい。
好適な一実施形態において、配列番号1のアミノ酸配列を構成するアミノ酸残基のうち、次のアミノ酸残基は、上記(A)及び(B)のアミノ酸配列において保存されていることが好ましい:10N、12Q、13V、14N、22M、36Q、44T、46E、54I、55L、56F、59N、63L、64S、66V、76S、77T、85T、91N、98D、105T、106K、117V、120N、140I、143V、165K、172I、174I、175S、184D、186N、189T、196D、202D、204L、205E、206I、211V、212K、213K、218L、219D、220V、221S、230Q、231E、234I、235L、238V、246F、247F、249V、263F、276A、279S、282W、286W、296L、301Y、302M、303H、309S、310D、314Y、316H、325D、328L、331I、334N、342L、344A、345F、348Y、350R、356S、359I、371S、373Y、381S、394V、402K、406R、407V、410F、411L、416H、417N、418V、426L、431L、434T、439A、440V。一実施形態において、これらのアミノ酸残基の1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、10以上、15以上、20以上、25以上、30以上、35以上、40以上、45以上、50以上、55以上、60以上、65以上、70以上、75以上、80以上、85以上、又は90以上が保存されていることが好ましい。これらのアミノ酸残基は、そのまま保存されているか類似アミノ酸に置換されていてもよい。
更に好適な一実施形態において、配列番号1のアミノ酸配列を構成するアミノ酸残基のうち、次のアミノ酸残基は、上記(A)及び(B)のアミノ酸配列において保存されていることが好ましい:40T、49E、53K、57D、61G、69D、75G、82C、84A、88G、99S、112N、137G、144R、170E、188V、217N、225A、226T、232R、241A、243G、248D、250A、254N、256Q、264N、265V、270N、283N、289S、293A、304N、307T、311T、313G、322G、326N、335S、347S、352A、355G、364S、367N、376K、379T、388A、393E、413D、415S、422D、423Q、425E、429S、433A。一実施形態において、これらのアミノ酸残基の1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、10以上、15以上、20以上、25以上、30以上、35以上、40以上、45以上、50以上、又は55以上が保存されていることが好ましい。これらのアミノ酸残基は、そのまま保存されているか類似アミノ酸に置換されていてもよい。
配列番号1のアミノ酸配列において、18Argと374Glu、53Lysと49Glu及び406Argと425Gluは、水素結合とイオンペアを形成することにより、エキソ型キシラナーゼに優れた熱安定性を付与すると考えられる。よって、これらのアミノ酸残基はエキソ型キシラナーゼにおいて保存されていることが好ましい。一実施形態において、ArgはLysに、LysはArgに、GluはAspに、AspはGluにそれぞれ置換されていてもよい。
配列番号1のアミノ酸配列において、「147Asn、148Cys及び149Thr」中のアスパラギン残基は、糖鎖修飾を受けることによりエキソ型キシラナーゼに優れた熱安定性を付与すると考えられる。よって、エキソ型キシラナーゼにおいてこれらのアミノ酸配列は保存されていることが好ましい。また、配列番号1のアミノ酸配列において、「103Asn、104Leu及び105Thr」、「283Asn、284Thr及び285Thr」、「377Asn、378Gly及び379Thr」、並びに、「417Asn、418Val及び419Thr」もそれぞれのアスパラギン残基が糖鎖修飾を受けることによりエキソ型キシラナーゼに優れた熱安定性を付与すると考えられる。よって、一実施形態において、これらのアミノ酸残基も保存されていることが好ましい。
配列番号1のアミノ酸配列において、182Glu及び274Gluは触媒活性に必須と考えられる。よって、これらのアミノ酸残基は上記(A)及び(B)のアミノ酸配列において保存されていることが好ましい。256Glnは、キシラナーゼ活性がエキソ型であることに寄与していると考えられる。よって、エキソ型キシラナーゼ活性を保持するという観点で上記(A)及び(B)のアミノ酸配列において256Glnは保存されていることが好ましい。
一実施形態において、キシラナーゼは、キシラン又はキシロオリゴ糖の還元末端側からキシロースを遊離する活性を有することが好ましい。配列番号1のアミノ酸配列において、256Glnは、キシラン又はキシロオリゴ糖の還元末端側からキシロースを遊離する活性にも関与していると考えられる。よって、キシラン又はキシロオリゴ糖の還元末端側からキシロースを遊離する活性を保持するという観点でも、上記(A)及び(B)のアミノ酸配列において256Glnは保存されていることが好ましい。
一実施形態において、キシラナーゼは、キシラン又はキシロオリゴ糖の還元末端側に隣接するキシロース残基に側鎖を有するキシロビオースを遊離する活性を有することが好ましい。一実施形態において、キシラナーゼは、キシラン又はキシロオリゴ糖の還元末端側に隣接するキシロース残基に側鎖を有するキシトリオースを遊離する活性を有することが好ましい。このような活性を有することは、後述する実施例で用いた測定方法で確認することができる。
上記(A)又は(B)のアミノ酸配列は、所望の特性を妨げない限り、N末端及び/又はC末端に更に任意のアミノ酸残基(配列)を有していてもよい。例えば、上記(A)又は(B)のアミノ酸配列は、N末端にシグナルペプチドを有していてもよい。また、(A)及び(B)のアミノ酸配列は、そのC末端にリンカー配列及びセルロース結合モジュール等に相当するアミノ酸配列を有していてもよい。
エキソ型キシラナーゼ活性とは、キシロースで形成されるキシランの主鎖をその末端からキシロース(又はキシロビオース)単位で切断する活性を意味する。エキソ型キシラナーゼ活性は、キシラナーゼをキシランに作用させることにより、主にキシロース(又はキシロビオース)が反応当初から生成され、総生成キシロース(又はキシロビオース)量が経時的に増加することに基づいて確認することができる。また、キシラナーゼ活性の有無は、例えば、ソモギ-ネルソン法等の公知の手法を用いて確認することができる。
一実施形態において、エキソ型キシラナーゼはホモ2量体であることが好ましい。
一実施形態において、キシラナーゼは、至適活性温度が約60℃であることが好ましい。至適活性温度が約60℃であるとは、60℃におけるキシラン(好ましくは、Birchwoodキシラン)を基質とした場合のエキソ型キシラナーゼ活性が55℃及び65℃におけるエキソ型キシラナーゼ活性よりも高いことを意味する。一実施形態において、エキソ型キシラナーゼ活性を有するポリペプチドは、55℃以下の温度で安定であることが好ましい。55℃以下の温度で安定であるとは、55℃以下の温度の緩衝液(pH4.0)中に30分間保持しても、保存前と比較して90%以上(好ましくは95%以上)の活性を維持していることを意味する。
一実施形態において、キシラナーゼは、至適pHが約3.5であることが好ましい。至適pHが約3.5であるとは、pH3.5でのエキソ型キシラナーゼ活性がpH3及び4における同活性よりも高いことを意味する。一実施形態において、キシラナーゼは、pH3.6〜7.0で安定であることが好ましい。pH3.6〜7.0で安定であるとは、pH3.6〜7.0の緩衝液(45℃)中で30分保持した後の残存エキソ型キシラナーゼ活性が90%以上であることを意味する。
上述のキシラナーゼは、後述するポリヌクレオチドを利用して、遺伝子工学的な手法で製造することができる。同キシラナーゼは、配列番号1又は8に示されるアミノ酸配列の情報に基づいて、一般的なタンパク質の化学合成法(例えば、液相法及び固相法)を用いて製造することも可能である。
2.ポリヌクレオチド
上記キシラナーゼをコードするポリヌクレオチドの塩基配列は特に制限されない。一実施形態において、ポリヌクレオチドの塩基配列は、配列番号2又は3の塩基配列と一定以上の同一性を有することが好ましい。配列番号2及び3の塩基配列は、後述する実施例で同定したタラロマイセス・セルロリティカスCF−2612株由来のキシラナーゼ(Xyn30A)のポリペプチドをコードし、配列番号2はイントロンを含み、配列番号3はイントロンを含まない。一定以上の同一性とは、例えば、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上である。ポリヌクレオチドは、DNAであってもRNAであってもよい。一実施形態においてポリヌクレオチドはDNAであることが好ましい。
上記キシラナーゼをコードするポリヌクレオチドの塩基配列は特に制限されない。一実施形態において、ポリヌクレオチドの塩基配列は、配列番号2又は3の塩基配列と一定以上の同一性を有することが好ましい。配列番号2及び3の塩基配列は、後述する実施例で同定したタラロマイセス・セルロリティカスCF−2612株由来のキシラナーゼ(Xyn30A)のポリペプチドをコードし、配列番号2はイントロンを含み、配列番号3はイントロンを含まない。一定以上の同一性とは、例えば、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上である。ポリヌクレオチドは、DNAであってもRNAであってもよい。一実施形態においてポリヌクレオチドはDNAであることが好ましい。
塩基配列の同一性は、市販の又は電気通信回線(インターネット)を通じて利用可能な解析ツールを用いて算出することができ、例えば、FASTA、BLAST、PSI−BLAST、SSEARCH等のソフトウェアを用いて計算される。具体的には、BLAST検索に一般的に用いられる主な初期条件は、以下の通りである。即ち、Advanced BLAST 2.1において、プログラムにblastnを用い、各種パラメータはデフォルト値に設定して検索を行うことにより、ヌクレオチド配列の相同性の値(%)を算出することができる。
一実施形態において、ポリヌクレオチドは、単離された状態で存在するDNAであることが好ましい。ここで「単離されたDNA」とは、天然状態において共存するその他の核酸やタンパク質等の成分から分離された状態であることをいう。但し、天然状態において隣接する核酸配列(例えばプロモーター領域の配列やターミネーター配列など)など一部の他の核酸成分を含んでいてもよい。cDNA分子など遺伝子工学的手法によって調製されるDNAの場合の「単離された」状態は、好ましくは、細胞成分や培養液などを実質的に含まない。同様に、化学合成によって調製されるDNAの場合の「単離されたDNA」は、好ましくは、dNTPなどの前駆体(原材料)や合成過程で使用される化学物質等を実質的に含まないこと。一実施形態において、ポリヌクレオチドはcDNAであることが好ましい。
ポリヌクレオチドは、配列番号2の塩基配列に基づいて、化学的なDNAの合成法(例えば、フォスフォアミダイト法)や遺伝子工学的手法を用いて容易に取得することができる。
3.ベクター
ベクターは、上記ポリヌクレオチドを発現可能な様式で含むことが好ましい。ベクターの種類は、宿主細胞の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、プラスミドベクター、コスミドベクター、ファージベクター、ウイルスベクター(アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター等)等を挙げることができる。
ベクターは、上記ポリヌクレオチドを発現可能な様式で含むことが好ましい。ベクターの種類は、宿主細胞の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、プラスミドベクター、コスミドベクター、ファージベクター、ウイルスベクター(アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター等)等を挙げることができる。
大腸菌で発現可能なベクターとしては、例えば、pUC19、pUC18、pBR322、pHSG299、pHSG298、pHSG399、pHSG398、RSF1010、pMW119、pMW118、pMW219、pMW218、pQE、及びpET等を挙げることができる。酵母で発現可能なベクターとしては、例えば、pBR322、pJDB207、pSH15、pSH19、pYepSec1、pMFa、pYES2、pHIL、pPIC、pAO815、及びpPink等を挙げることが出来る。昆虫で発現可能なベクターとしては、例えば、pAc、pVL、及びpFastbac等を挙げることが出来る。
宿主細胞として真核細胞を使用する場合は、発現ベクターとして、発現しようとするポリヌクレオチドの上流にプロモーター、RNAのスプライス部位、ポリアデニル化部位及び転写終了配列等を保有するものを使用することができ、更に必要により複製起点、エンハンサー、及び/又は選択マーカーを有していてもよい。
4.形質転換体
形質転換体は、上記ベクターで形質転換されているものが好ましい。形質転換体中において、ベクターは、宿主細胞中において自律的に存在してもゲノム中に相同組換え的または非相同組換え的に組み込まれて存在してもよい。形質転換に使用する宿主細胞は、上記キシラナーゼを産生できる限り特に制限されず、原核細胞及び真核細胞のいずれでもよい。具体的には、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌(例えば、HB101、MC1061、JM109、CJ236、MV1184等)、コリネバクテリウム・グルタミカム等のコリネ型細菌、ストレプトミセス属細菌等の放線菌、バチルス・サブチリス等のバチルス属細菌、ストレプトコッカス属細菌、スタフィロコッカス属細菌等の原核細胞;サッカロミセス属、ピシア属及びクルイベロマイセス属等の酵母、アスペルギルス属、ペニシリウム属、タラロマイセス属、トリコデルマ属、ハイポクレア属及びアクレモニウム属等の真菌細胞;ドロソフィラS2、スポドプテラSf9、カイコ培養細胞等の昆虫細胞;並びに植物細胞等を挙げることができる。枯草菌、酵母、真菌、放線菌等のタンパク質分泌能を利用して、ポリペプチドを培地中に生産させることもできる。一実施形態において好ましい宿主細胞は、タラロマイセス属菌であり、より好ましくはタラロマイセス・セルロリティカス(例えば、ウラシル要求性株)である。
形質転換体は、上記ベクターで形質転換されているものが好ましい。形質転換体中において、ベクターは、宿主細胞中において自律的に存在してもゲノム中に相同組換え的または非相同組換え的に組み込まれて存在してもよい。形質転換に使用する宿主細胞は、上記キシラナーゼを産生できる限り特に制限されず、原核細胞及び真核細胞のいずれでもよい。具体的には、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌(例えば、HB101、MC1061、JM109、CJ236、MV1184等)、コリネバクテリウム・グルタミカム等のコリネ型細菌、ストレプトミセス属細菌等の放線菌、バチルス・サブチリス等のバチルス属細菌、ストレプトコッカス属細菌、スタフィロコッカス属細菌等の原核細胞;サッカロミセス属、ピシア属及びクルイベロマイセス属等の酵母、アスペルギルス属、ペニシリウム属、タラロマイセス属、トリコデルマ属、ハイポクレア属及びアクレモニウム属等の真菌細胞;ドロソフィラS2、スポドプテラSf9、カイコ培養細胞等の昆虫細胞;並びに植物細胞等を挙げることができる。枯草菌、酵母、真菌、放線菌等のタンパク質分泌能を利用して、ポリペプチドを培地中に生産させることもできる。一実施形態において好ましい宿主細胞は、タラロマイセス属菌であり、より好ましくはタラロマイセス・セルロリティカス(例えば、ウラシル要求性株)である。
組換え発現ベクターの宿主細胞内への導入方法は、従来の慣用的に用いられている方法により行うことができる。例えば、コンピテントセル法、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、リポソーム融合法等の種々の方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
形質転換体は、キシラナーゼを産生可能であるため、キシラナーゼを製造するために用いることが可能であり、また形質転換体の状態で、キシランを含む試料からキシロース(及びキシロオリゴ糖)を製造するために使用することもできる。
5.形質転換体を用いたポリペプチドの製造方法
上記形質転換体を培養し、培養物からキシラナーゼ活性及び/又は上述の他の特性を有するポリペプチドを回収することにより、上述のキシラナーゼを製造することができる。培養は、宿主に適した培地を用いて継代培養又はバッチ培養を行うことができる。また、培養は、形質転換体の内外に生産されたキシラナーゼの活性を指標にして、適当量得られるまで実施することができる。
上記形質転換体を培養し、培養物からキシラナーゼ活性及び/又は上述の他の特性を有するポリペプチドを回収することにより、上述のキシラナーゼを製造することができる。培養は、宿主に適した培地を用いて継代培養又はバッチ培養を行うことができる。また、培養は、形質転換体の内外に生産されたキシラナーゼの活性を指標にして、適当量得られるまで実施することができる。
培地としては、宿主細胞の種類に応じて慣用される各種のものを適宜選択利用でき、培養も宿主細胞の生育に適した条件下で実施できる。例えば、大腸菌の培養にはLB培地などの栄養培地や、M9培地などの最少培地に炭素源、窒素源、ビタミン源等を添加した培地を用いることができる。
培養条件は宿主の種類に応じて適宜設定することができる。通常、16〜42℃、好ましくは25〜37℃で5〜168時間、好ましくは8〜120時間培養される。宿主に依存して、振盪培養と静置培養のいずれも可能であるが、必要に応じて攪拌及び/又は通気を行ってもよい。遺伝子発現のために誘導型プロモーターを用いる場合は、培地にプロモーター誘導剤を添加して培養を行うこともできる。
培養上清からのキシラナーゼの精製又は単離は、公知の手法を適宜組み合わせて行うことができる。例えば、硫酸アンモニウム沈殿、エタノール等の溶媒沈殿、透析、限外濾過、酸抽出、及び各種クロマトグラフィー(例えば、ゲル濾過クロマトグラフィー、アニオン又はカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー及びレクチンクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等)等を用いた手法が挙げられる。アフィニティークロマトグラフィーに用いる担体としては、例えば、ポリペプチドに対する抗体を結合させた担体や、ポリペプチドにペプチドタグを付加した場合は、このペプチドタグに親和性のある物質を結合した担体を利用することもできる。
キシラナーゼが宿主の細胞内に蓄積される場合は、形質転換細胞を破砕し、破砕物の遠心上清から上記と同様にしてポリペプチドを精製又は単離することができる。例えば、培養終了後、遠心により集菌した菌体を菌体破砕用バッファー(20〜100mM Tris−HCl(pH8.0)、5mM EDTA)に懸濁し、超音波破砕し、破砕処理液を10000〜15000rpmで10〜15分間遠心して上清を得ることができる。遠心後の沈殿は、必要に応じて塩酸グアニジウム又は尿素などで可溶化したのち更に精製することもできる。
6.キシロースの製造方法
上述のエキソ型キシラナーゼ又はそれを生産する宿主細胞を、キシランを含む試料(例えば、バイオマス資源)に接触させることにより、キシランを分解し、キシロースを含む糖液を製造することができる。上述のエキソ型キシラナーゼと他のセルラーゼ等の酵素を併用することで、より効率的にキシランを分解し、キシロース(及びキシロオリゴ糖)を含む糖液を製造することが好ましい。
上述のエキソ型キシラナーゼ又はそれを生産する宿主細胞を、キシランを含む試料(例えば、バイオマス資源)に接触させることにより、キシランを分解し、キシロースを含む糖液を製造することができる。上述のエキソ型キシラナーゼと他のセルラーゼ等の酵素を併用することで、より効率的にキシランを分解し、キシロース(及びキシロオリゴ糖)を含む糖液を製造することが好ましい。
キシランを含む試料の種類は、エキソ型キシラナーゼ(及び他の酵素との組み合わせ)によって分解可能である限り特に制限されないが、例えば、バガス、木材、ふすま、麦わら、稲わら、イネ科もしくはマメ科等の牧草、コーンコブ、ササ、パルプ、もみがら、小麦フスマ、大豆粕、大豆オカラ、コーヒー粕、コメ糠等を挙げることができる。一実施形態において、試料に含まれるキシランは、4−O−メチルグルクロン酸側鎖、ガラクトシル側鎖、アラビノフラノシル側鎖、及びアセチル側鎖からなる群より選択される一種以上の側鎖を有するキシランであることが好ましい。
キシランを含む試料からキシロースを含む糖液を製造する方法は、公知の手法に従って行うことができる。利用するバイオマス資源は、乾燥物でも、湿潤物でもよいが、処理効率を高めるために予め100〜10000μmサイズに粉砕されていることが好ましい。粉砕はボールミル、振動ミル、カッターミル、ハンマーミル等の装置を用いて行うことができる。そして、粉砕したバイオマス資源は、水、蒸気もしくはアルカリ溶液などに浸漬して60〜200℃の間で高温処理もしくは高温高圧処理を施して、酵素処理効率をさらに高めることもできる。例えば、アルカリ処理は、苛性ソーダやアンモニア等を用いて行うことができる。このような前処理がされたバイオマス試料を水性媒体中に懸濁し、キシラナーゼと他のセルラーゼを加え、攪拌しながら加温して、バイオマス資源を分解または糖化し、キシロース(及びキシロオリゴ糖)を含む糖液を得ることができる。
キシラナーゼを水溶液中でキシランを含む試料に接触させる場合は、反応液のpHおよび温度等の条件は、キシラナーゼが失活しない範囲であればよい。例えば、上述の至適温度及び至適pH付近の条件を採用することが効率的に試料を分解し、糖液を得るという観点から好ましい。
キシロース(及びキシロオリゴ糖)を含有する糖液は、そのまま利用しても良く、水分を除去して乾燥物として使用しても良く、目的に応じて、更に化学反応又は酵素反応によって異性化又は分解することも可能である。糖液又はその分画物は、例えば、発酵法によりメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ブタンジオール等のアルコールの原料として使用することができる。
7.キシラナーゼを含む組成物
組成物は、上記キシラナーゼを含むことが好ましい。そのような組成物は、キシランから効率的にキシロースを生産するために使用することができる。また、組成物は、ポリペプチドに加えて、任意の他の物質を含み得る。他の物質は、例えば、他の酵素であってもよい。他の酵素としては、例えば、他のキシラナーゼ(例えば、エンド型キシラナーゼ)、セルラーゼ、プロテアーゼ、ガラクタナーゼ、アラビナナーゼ、マンナナーゼ、ラムノガラクツロナーゼ、ポリガラクツロナーゼ、ペクチンメチルエステラーゼ、ペクチンリアーゼ、ポリガラクツロナーゼ、ガラクツロン酸リアーゼ、アミラーゼ、グルコアミラーゼ、α−グルコシダーゼ、β−グルコシダーゼ、α−アラビノフラノシダーゼ、α−グルクロニダーゼ、α−ガラクトシダーゼ、α−キシロシダーゼ、β-キシロシダーゼ、アセチルキシランエステラーゼ、及びフェルラ酸エステラーゼからなる群より選択される一種以上であり得る。これらの他の酵素の一種以上との組み合わせでポリペプチドを含むことにより、効率的にバイオマスからキシロース(及びキシロオリゴ糖)を得ることができる。
組成物は、上記キシラナーゼを含むことが好ましい。そのような組成物は、キシランから効率的にキシロースを生産するために使用することができる。また、組成物は、ポリペプチドに加えて、任意の他の物質を含み得る。他の物質は、例えば、他の酵素であってもよい。他の酵素としては、例えば、他のキシラナーゼ(例えば、エンド型キシラナーゼ)、セルラーゼ、プロテアーゼ、ガラクタナーゼ、アラビナナーゼ、マンナナーゼ、ラムノガラクツロナーゼ、ポリガラクツロナーゼ、ペクチンメチルエステラーゼ、ペクチンリアーゼ、ポリガラクツロナーゼ、ガラクツロン酸リアーゼ、アミラーゼ、グルコアミラーゼ、α−グルコシダーゼ、β−グルコシダーゼ、α−アラビノフラノシダーゼ、α−グルクロニダーゼ、α−ガラクトシダーゼ、α−キシロシダーゼ、β-キシロシダーゼ、アセチルキシランエステラーゼ、及びフェルラ酸エステラーゼからなる群より選択される一種以上であり得る。これらの他の酵素の一種以上との組み合わせでポリペプチドを含むことにより、効率的にバイオマスからキシロース(及びキシロオリゴ糖)を得ることができる。
組成物に含まれる他の物質は上述のキシランを含む試料(例えば、リグノセルロース)であってもよい。上述のキシラナーゼ及びキシランを含む試料を含む組成物は、家畜などの飼料として有用である。
以下、実施例により本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
1.Xyn30A遺伝子の同定
タラロマイセス・セルロリティカスCF−2612株を特開2008−271927に記載の方法に基づき、セルロースパウダーの代わりに広葉樹Birchwoodキシランを炭素源として培養した。培養液を遠心し、上澄み液を得た。上澄み液中には種々のセルラーゼやキシラナーゼを含む糖化酵素が含まれる。酵素液中の個々の酵素を二次元ゲル電気泳動法を用いて分離、染色後、分子量約55kDa、pI値約4.8付近に展開された染色スポットを切り出してタンパク質を抽出した。抽出されたタンパク質をトリプシン分解して得られた2種類のペプチド断片のアミノ酸配列を決定した。アミノ酸配列はATVPPRAVQVF(配列番号4)及びDFLEIL(配列番号5)であった。これらについてタラロマイセス・セルロリティカスのゲノムデータを対象に検索を行い、これらは、GHファミリー30の機能未知のタンパク質(Xyn30A)に由来することが分かった。ゲノム配列上の遺伝子(イントロン及びストップコドンを含む)は、1580bpであり(配列番号2)、イントロンおよびストップコドンに相当する部分を除いたポリペプチドをコードする遺伝子配列1386bpを決定した(配列番号3)。配列番号3に基づいて推定される462アミノ酸残基からなるXyn30Aのポリペプチド配列(配列番号8)を決定した。
タラロマイセス・セルロリティカスCF−2612株を特開2008−271927に記載の方法に基づき、セルロースパウダーの代わりに広葉樹Birchwoodキシランを炭素源として培養した。培養液を遠心し、上澄み液を得た。上澄み液中には種々のセルラーゼやキシラナーゼを含む糖化酵素が含まれる。酵素液中の個々の酵素を二次元ゲル電気泳動法を用いて分離、染色後、分子量約55kDa、pI値約4.8付近に展開された染色スポットを切り出してタンパク質を抽出した。抽出されたタンパク質をトリプシン分解して得られた2種類のペプチド断片のアミノ酸配列を決定した。アミノ酸配列はATVPPRAVQVF(配列番号4)及びDFLEIL(配列番号5)であった。これらについてタラロマイセス・セルロリティカスのゲノムデータを対象に検索を行い、これらは、GHファミリー30の機能未知のタンパク質(Xyn30A)に由来することが分かった。ゲノム配列上の遺伝子(イントロン及びストップコドンを含む)は、1580bpであり(配列番号2)、イントロンおよびストップコドンに相当する部分を除いたポリペプチドをコードする遺伝子配列1386bpを決定した(配列番号3)。配列番号3に基づいて推定される462アミノ酸残基からなるXyn30Aのポリペプチド配列(配列番号8)を決定した。
Xyn30A(配列番号8)の分泌シグナル配列(第1位〜第16位)は、Signal−P Server 4.1(D-cutoff values: Sensitive)を用いて決定した。シグナル配列は、タンパク質の分泌生産に必要であり、菌体外へ分泌後に切断される。分泌シグナル配列を除いたタンパク質の理論上の分子量およびpI値は、それぞれ49356および4.61と見積もられた。Xyn30Aのポリペプチド配列(配列番号8)は、エキソ型キシラナーゼとして機能が明らかとなっているトリコデルマ・リーセイ由来のキシラナーゼIV(特許4643881)のポリペプチド配列(配列番号9)と77%の同一性を示した。キシラナーゼIVとの比較から、Xyn30Aは、触媒作用に必須な2つのグルタミン酸残基(配列番号8、第198位、第290位)が保存されていることが判明した。
2.組換えXyn30Aタンパク質の発現と精製
Xyn30A遺伝子のN末端配列およびC末端配列がコードされる遺伝子配列から、以下の2種類のオリゴヌクレオチドプライマー(プライマー1、プライマー2)を作成した。
プライマー1:ATTGTTAACAATATGCGGCACCCAATCCCTATTC(配列番号6)
プライマー2:AATCCTGCAGGCTACTCCAACCAAAACACCTGCACC(配列番号7)
タラロマイセス・セルロリティカスCF−2612株のゲノムDNAを鋳型としてプライマー1および2を用いて配列番号2を含む約1.6KbのXyn30A遺伝子断片を増幅した。本遺伝子をHpaIおよびSbfIで切断し、pANC202(J.Ind.Microbiol.Biotechnol.2013,40(8):823−830)のEcoRV−SbfI間に導入し、グルコアミラーゼプロモーターの支配下にてXyn30A遺伝子を発現させる発現プラスミドpANC214を得た。本プラスミドを、プロトプラスト−PEG法を用いて、アクレモニウム(現タラロマイセス)・セルロリティカスのウラシル要求性YP−4株(J.Ind.Microbiol.Biotechnol.2013,40(8):823−830)の染色体に、非相同的に組み込ませた。
Xyn30A遺伝子のN末端配列およびC末端配列がコードされる遺伝子配列から、以下の2種類のオリゴヌクレオチドプライマー(プライマー1、プライマー2)を作成した。
プライマー1:ATTGTTAACAATATGCGGCACCCAATCCCTATTC(配列番号6)
プライマー2:AATCCTGCAGGCTACTCCAACCAAAACACCTGCACC(配列番号7)
タラロマイセス・セルロリティカスCF−2612株のゲノムDNAを鋳型としてプライマー1および2を用いて配列番号2を含む約1.6KbのXyn30A遺伝子断片を増幅した。本遺伝子をHpaIおよびSbfIで切断し、pANC202(J.Ind.Microbiol.Biotechnol.2013,40(8):823−830)のEcoRV−SbfI間に導入し、グルコアミラーゼプロモーターの支配下にてXyn30A遺伝子を発現させる発現プラスミドpANC214を得た。本プラスミドを、プロトプラスト−PEG法を用いて、アクレモニウム(現タラロマイセス)・セルロリティカスのウラシル要求性YP−4株(J.Ind.Microbiol.Biotechnol.2013,40(8):823−830)の染色体に、非相同的に組み込ませた。
Xyn30A遺伝子を組み込まれた形質転換株は、文献(J.Ind.Microbiol. Biotechnol.2013,40(8):823−830)に記載されるデンプンを炭素源とする液体培地で30℃、120時間振盪培養することによって組換えXyn30Aを菌体外に分泌生産した。培養液を遠心した上澄み液を用いて、Xyn30Aの精製を行った。上澄み液は、先ず20mM 2−(N−morpholino)ethanesulfonic acid(MES)緩衝液(pH6.5)で平衡化したHiprep26/1脱塩カラム(GEヘルスケア製)で脱塩された。脱塩溶液は、同緩衝液で平衡化したSource15Q陰イオン交換カラム(GEヘルスケア製)に供され、0.5M塩化ナトリウムを含む同緩衝液にてグラジエント溶出された。得られた画分は、最終濃度0.8Mになるように硫酸アンモニウムを加えられ、0.8M硫酸アンモニウムを含む20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)で平衡化したSource15Phe疎水性相互作用カラム(GEヘルスケア製)に供された。Xyn30Aは、硫酸アンモニウムを含まない20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)にてグラジエント溶出された。得られた画分中の緩衝液は、20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)に置換された後、同緩衝液で平衡化したSource15S陽イオン交換カラム(GEヘルスケア製)に供され、0.5M塩化ナトリウムを含む同緩衝液にてグラジエント溶出された。得られた精製Xyn30A画分は、20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)で置換後に冷蔵保存された。精製Xyn30Aは、SDS−ポリアクリルアミド電気泳動分析によって電気泳動的に単一であることが確認された(図1)。本酵素の分子量は、MALDI−TOFMS(JMS−S3000,日本電子製)を用いた解析によって、56352Daと見積もられた。理論上の分子量(49356Da)との違いより、本酵素は糖鎖によって修飾されていることが示唆された。また、Superdex 200 Increase 10/300 GL(GEヘルスケア製)を用いたゲルろ過カラムクロマトグラフィーによって、分子量が約117000と見積もられため、本酵素は2量体を形成していることが推測された。
3.Xyn30Aの酵素学的諸性質
(1)キシランに対する分解特性
Birchwoodキシランに対するXyn30Aの酵素活性を調べた。50mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)に上記で得たXyn30A及び10mg/mlのBirchwoodキシランを加え、40℃で10分間保温した後、遊離した還元糖濃度をDNS法によって定量した。酵素活性1Uは、1分間に1μmolの還元糖を遊離する酵素量と定義し、酵素1mgあたりの酵素活性(U/mg)を算出した。なお、酵素のタンパク質濃度の測定は、Pierce BCA Protein Assay Kit (Thermo Fisher製)を用いて行った。タンパク質濃度定量用の標準物質としては、濃度既知のウシ血清アルブミン(Thermo Fisher製)を使用した。その結果、Xyn30Aは、0.24U/mgの比活性を示すキシラナーゼ活性を有していた。
(1)キシランに対する分解特性
Birchwoodキシランに対するXyn30Aの酵素活性を調べた。50mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)に上記で得たXyn30A及び10mg/mlのBirchwoodキシランを加え、40℃で10分間保温した後、遊離した還元糖濃度をDNS法によって定量した。酵素活性1Uは、1分間に1μmolの還元糖を遊離する酵素量と定義し、酵素1mgあたりの酵素活性(U/mg)を算出した。なお、酵素のタンパク質濃度の測定は、Pierce BCA Protein Assay Kit (Thermo Fisher製)を用いて行った。タンパク質濃度定量用の標準物質としては、濃度既知のウシ血清アルブミン(Thermo Fisher製)を使用した。その結果、Xyn30Aは、0.24U/mgの比活性を示すキシラナーゼ活性を有していた。
10mg/mlのBirchwoodキシランまたは小麦アラビノキシランに対し、基質1gあたり1mgのXyn30Aを混合し、50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)中にて40℃で処理し、反応液中に生じる分解産物をパルスアンペロメトリ検出器と陰イオン交換法を組合せたHPAEC−PAD法によって分析した。その結果、図2、図3に示されるように、反応液中の主生成物としてキシロースの生産が観察され、本酵素がキシランの末端からキシロースを遊離するエキソ型キシラナーゼであることが示された。
(2)キシロオリゴ糖に対する分解特性
キシロオリゴ糖に対するXyn30Aの酵素活性を調べた。50mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)にXyn30A及び2mMのキシロビオース、キシロトリオース、キシロテトラオース、キシロペンタオース、又はキシロヘキサオース(Megazyme製)を混合し、45℃で10分間処理した後、99℃で5分間インキュベートすることにより反応を停止した。反応液中に生成するキシロースをHPAEC−PAD法によって分析した。酵素活性1Uは、1分間に1μmolのキシロースを生成する酵素量と定義し、酵素1mgあたりの酵素活性(U/mg)を算出した。下記表1に示す通り、Xyn30Aは、キシロトリオース又はそれよりも長鎖のキシロオリゴ糖からキシロースを生成する活性を有することが示された。
キシロオリゴ糖に対するXyn30Aの酵素活性を調べた。50mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)にXyn30A及び2mMのキシロビオース、キシロトリオース、キシロテトラオース、キシロペンタオース、又はキシロヘキサオース(Megazyme製)を混合し、45℃で10分間処理した後、99℃で5分間インキュベートすることにより反応を停止した。反応液中に生成するキシロースをHPAEC−PAD法によって分析した。酵素活性1Uは、1分間に1μmolのキシロースを生成する酵素量と定義し、酵素1mgあたりの酵素活性(U/mg)を算出した。下記表1に示す通り、Xyn30Aは、キシロトリオース又はそれよりも長鎖のキシロオリゴ糖からキシロースを生成する活性を有することが示された。
1mMのキシロヘキサオースに対し、2μg/mlのXyn30Aを混合し、50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)中にて45℃で処理し、反応液中に生じる分解産物をHPAEC−PAD法によって分析した(図4)。図4中に示されるように、キシロヘキサオースが逐次的に分解され、最終的に、キシロヘキサオースからキシロースとキシロビオースが約4:1の比で生成された。本結果も、本酵素がエキソ型キシラナーゼであることを示す。
Xyn30Aが、キシランの還元末端または非還元末端のどちら側から作用するかを確かめるために、キシロビオースの還元末端側に4-ニトロフェニル基が結合した4-ニトロフェニル-β-キシロビオシド(Megazyme製)を基質に用いてXyn30Aを作用させた。その結果、反応液からは、4-ニトロフェノールの遊離とキシロビオースが観察された。一方、キシロースの遊離は観察されなかった。従って、Xyn30Aは、キシランの還元末端側に対して作用するエキソ型キシラナーゼであることが分かった。
(3)至適pH
Xyn30Aの至適pHを調べた。McIlvaine緩衝液にてpHを調整し、酵素を2mMのキシロトリオースと共に45℃で10分処理後に生成したキシロース濃度を定量し、相対酵素活性を算出した。相対酵素活性とpHとの関係を図5に示す。図5に示されるとおり、Xyn30Aは、pH3.5付近で最大の活性を示し、約pH2.5〜4.5において最大活性の80%以上の相対活性を有する。
Xyn30Aの至適pHを調べた。McIlvaine緩衝液にてpHを調整し、酵素を2mMのキシロトリオースと共に45℃で10分処理後に生成したキシロース濃度を定量し、相対酵素活性を算出した。相対酵素活性とpHとの関係を図5に示す。図5に示されるとおり、Xyn30Aは、pH3.5付近で最大の活性を示し、約pH2.5〜4.5において最大活性の80%以上の相対活性を有する。
(4)安定pH範囲
Xyn30AのpH安定性を調べた。McIlvaine緩衝液にてpHを調整し、1mg/mlの酵素を45℃で30分処理後、これらを希釈し、50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)中にて2mMキシロトリオースと共に45℃で10分処理後に生成したキシロース濃度を定量し、残存酵素活性を算出した。残存酵素活性とpHとの関係を図6に示す。図6に示されるとおり、本酵素はpH3.6〜7.0の範囲で90%以上の残存活性を有していた。同様の手法を用いて、酵素を25℃で24時間処理した結果、pH3.2〜8.0の範囲で90%以上の残存活性を有していた。
Xyn30AのpH安定性を調べた。McIlvaine緩衝液にてpHを調整し、1mg/mlの酵素を45℃で30分処理後、これらを希釈し、50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)中にて2mMキシロトリオースと共に45℃で10分処理後に生成したキシロース濃度を定量し、残存酵素活性を算出した。残存酵素活性とpHとの関係を図6に示す。図6に示されるとおり、本酵素はpH3.6〜7.0の範囲で90%以上の残存活性を有していた。同様の手法を用いて、酵素を25℃で24時間処理した結果、pH3.2〜8.0の範囲で90%以上の残存活性を有していた。
(5)至適温度
Xyn30Aの至適温度(作用最適温度)を調べた。50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)中にて10mg/mlのBirchwoodキシランを酵素と共に40〜70℃で10分処理後に生成した還元糖濃度を定量し、相対酵素活性を算出した。相対酵素活性と温度との関係を図7に示す。図7から明らかなように、本酵素の至適温度は60℃付近であり、約55〜60℃の範囲において高い活性を有している。
Xyn30Aの至適温度(作用最適温度)を調べた。50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)中にて10mg/mlのBirchwoodキシランを酵素と共に40〜70℃で10分処理後に生成した還元糖濃度を定量し、相対酵素活性を算出した。相対酵素活性と温度との関係を図7に示す。図7から明らかなように、本酵素の至適温度は60℃付近であり、約55〜60℃の範囲において高い活性を有している。
同様の反応を2mMのキシロトリオースを用いて行い、45℃で10分処理後に生成したキシロース濃度を定量し、相対酵素活性を算出した(図8)。図8から明らかなように、本酵素の至適温度は55℃付近であり、約50〜60℃の範囲において高い活性を有している。
(6)温度安定性
Xyn30Aの熱安定性を調べた。50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)中にて1mg/mlの酵素を30〜65℃にて30分処理した後、これらを希釈し、50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)中にて2mMのキシロトリオースと共に45℃で10分処理後に生成したキシロース濃度を定量し、残存酵素活性を算出した。残存酵素活性と温度との関係を図9に示す。図9から明らかなように、本酵素は、55℃以下の範囲で安定である。熱処理の時間を24時間まで延長した場合、本酵素は50℃以下の範囲で安定であり、55℃処理においても60%以上の残存活性を有していた(図9)。
Xyn30Aの熱安定性を調べた。50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)中にて1mg/mlの酵素を30〜65℃にて30分処理した後、これらを希釈し、50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)中にて2mMのキシロトリオースと共に45℃で10分処理後に生成したキシロース濃度を定量し、残存酵素活性を算出した。残存酵素活性と温度との関係を図9に示す。図9から明らかなように、本酵素は、55℃以下の範囲で安定である。熱処理の時間を24時間まで延長した場合、本酵素は50℃以下の範囲で安定であり、55℃処理においても60%以上の残存活性を有していた(図9)。
4.キシランからのキシロース生産におけるXyn30Aの添加効果
10mg/mlのBeechwoodキシランまたは小麦アラビノキシランに対し、基質1gあたり5mgのタラロマイセス・セルロリティカス由来GHファミリー10エンドキシラナーゼ(Xyl10A)、または5mgのタラロマイセス・セルロリティカス由来GHファミリー11エンドキシラナーゼ(Xyl11C)、または10mgの市販セルラーゼ(Cellic(商標) CTec2, Novozyme製)を添加し、50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)中にて45℃で24時間処理を行った後に生じたキシロース、キシロビオース量をHPAEC−PAD法によって分析した。Cellic(商標)には、セロビオヒドロラーゼ、エンドグルカナーゼ、β-グルコシダーゼ、及びキシラナーゼ等が含まれる(BioResources (2017)vol.12,7834-7840)。また、Xyn30Aのキシロース生成に対する効果を確認するために、同様の反応条件において、Xyl10AおよびXyl11Cの20%タンパク質量をXyn30Aに置き換えた場合、ならびにCellic Ctec2の10%タンパク質量をXyn30Aに置き換えた場合に生じたキシロース、キシロビオース量を分析した。これらの結果、表2に示される通り、エンドキシラナーゼまたは市販酵素にXyn30Aを混合して使用することによって、キシランからのキシロース生産が増加することが示された。
10mg/mlのBeechwoodキシランまたは小麦アラビノキシランに対し、基質1gあたり5mgのタラロマイセス・セルロリティカス由来GHファミリー10エンドキシラナーゼ(Xyl10A)、または5mgのタラロマイセス・セルロリティカス由来GHファミリー11エンドキシラナーゼ(Xyl11C)、または10mgの市販セルラーゼ(Cellic(商標) CTec2, Novozyme製)を添加し、50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)中にて45℃で24時間処理を行った後に生じたキシロース、キシロビオース量をHPAEC−PAD法によって分析した。Cellic(商標)には、セロビオヒドロラーゼ、エンドグルカナーゼ、β-グルコシダーゼ、及びキシラナーゼ等が含まれる(BioResources (2017)vol.12,7834-7840)。また、Xyn30Aのキシロース生成に対する効果を確認するために、同様の反応条件において、Xyl10AおよびXyl11Cの20%タンパク質量をXyn30Aに置き換えた場合、ならびにCellic Ctec2の10%タンパク質量をXyn30Aに置き換えた場合に生じたキシロース、キシロビオース量を分析した。これらの結果、表2に示される通り、エンドキシラナーゼまたは市販酵素にXyn30Aを混合して使用することによって、キシランからのキシロース生産が増加することが示された。
5.キシロース製造におけるキシラン側鎖の影響
キシラン中の側鎖がXyn30Aの逐次分解反応に対してどのような影響を及ぼすかを確認するため、タラロマイセス・セルロリティカス由来グルクロノキシラナーゼ(Xyn30B)を用いて10mg/mlのBeechwoodキシランを酵素処理し、還元末端側の2残基目のキシロース残基に4−O−メチルグルクロン酸側鎖を一つ有する様々な長さの分枝オリゴ糖(キシロース残基数をnとしてn=2〜12)を調製した。得られた分枝オリゴ糖に、Xyn30Aを0.2mg/mlの割合で加え、45℃で1〜24時間反応させた後、HPAEC−PAD法によって分析した結果、n=5以上の分枝オリゴ糖が一律に減少し、n=3ついでn=2のグルク分枝オリゴ糖が増加した(図10)。本結果より、Xyn30Aは、キシロースを生成する逐次分解反応の過程において、側鎖を有するキシロース残基は、n=1として遊離されずに、還元末端の2残基目に側鎖を含むn=3およびn=2のオリゴ糖として遊離されることが示唆された。
キシラン中の側鎖がXyn30Aの逐次分解反応に対してどのような影響を及ぼすかを確認するため、タラロマイセス・セルロリティカス由来グルクロノキシラナーゼ(Xyn30B)を用いて10mg/mlのBeechwoodキシランを酵素処理し、還元末端側の2残基目のキシロース残基に4−O−メチルグルクロン酸側鎖を一つ有する様々な長さの分枝オリゴ糖(キシロース残基数をnとしてn=2〜12)を調製した。得られた分枝オリゴ糖に、Xyn30Aを0.2mg/mlの割合で加え、45℃で1〜24時間反応させた後、HPAEC−PAD法によって分析した結果、n=5以上の分枝オリゴ糖が一律に減少し、n=3ついでn=2のグルク分枝オリゴ糖が増加した(図10)。本結果より、Xyn30Aは、キシロースを生成する逐次分解反応の過程において、側鎖を有するキシロース残基は、n=1として遊離されずに、還元末端の2残基目に側鎖を含むn=3およびn=2のオリゴ糖として遊離されることが示唆された。
6.Xyn30Aのモデリング解析
Xyn30Aは、これまでに報告された還元末端に作用するエキソ型キシラナーゼであるトリコデルマ・リーセイ由来XynIVに比べて、最適温度および熱安定性に優れている(特許第4643881)。その理由を構造的な側面から確かめることを目的として、Xyn30AのホモロジーモデリングSwiss modelサーバー(https://swissmodel.expasy.org)を利用して、タラロマイセス・セルロリティカス由来Xyn30B(配列番号10)の立体構造モデル(Protein Data Bank ID:6IUJ)を鋳型にしてXyn30A及びXynIVのホモロジーモデリング行った。なお、Xyn30BとXyn30A及びXyn30BとXynIVのアミノ酸配列同一性は38%及び37%であった(図11)。
Xyn30Aは、これまでに報告された還元末端に作用するエキソ型キシラナーゼであるトリコデルマ・リーセイ由来XynIVに比べて、最適温度および熱安定性に優れている(特許第4643881)。その理由を構造的な側面から確かめることを目的として、Xyn30AのホモロジーモデリングSwiss modelサーバー(https://swissmodel.expasy.org)を利用して、タラロマイセス・セルロリティカス由来Xyn30B(配列番号10)の立体構造モデル(Protein Data Bank ID:6IUJ)を鋳型にしてXyn30A及びXynIVのホモロジーモデリング行った。なお、Xyn30BとXyn30A及びXyn30BとXynIVのアミノ酸配列同一性は38%及び37%であった(図11)。
ホモロジーモデリングで得られたXyn30A(配列番号1)とXynIV(配列番号9)の立体構造モデルを比較して、Xyn30Aの熱安定性に寄与する構造要因を調べた。Xyn30Aでは、Arg18とGlu374、Glu49とLys53、並びにArg406とGlu425が水素結合とイオンペアを形成することで相互作用することが示唆された(図12)。一方、XynIVにおける該当部分では、そのような相互作用は観察されなかった。分子内イオンペアの形成は耐熱性の向上に関与することがよく知られている(生化学会誌 81巻1064−1071,2009)。従って、上記のアミノ酸残基は、Xyn30Aの熱安定性の向上に寄与すると考えられる。
熱安定性の寄与に関与するもう一つの要因として、糖鎖修飾の有無が想定される(Eur.J.Pharm.Biopharm.2017,114:288―295)。NetNGlyc Server(http://www.cbs.dtu.dk/services/NetNGlyc/)を利用して、Xyn30A(配列番号1)とXynIVそれぞれのアミノ酸配列から糖鎖修飾部位を予測した。その結果、XynIVは4箇所の糖鎖修飾が予測されたのに対して、Xyn30Aは5箇所の糖鎖修飾を受けることが予測された。4箇所の糖鎖修飾部位(Asn103、Asn283、Asn377、Asn417)はXyn30AとXynIVに共通していたが、残る1箇所(Asn147)はXyn30Aのみに確認された。N結合型糖鎖はアスパラギン残基に結合するが、修飾を受けるアスパラギンは、「Asn−(任意のアミノ酸)−SerまたはThr」というトリペプチド配列のアスパラギンに限られるため、この1箇所のトリペプチド配列(Asn147―Cys148―Thr149)が、Xyn30Aに特有の熱安定性に寄与することが示唆される。以上の結果から、Xyn30Aは、XynIVには見られない熱安定性にすぐれた構造的な特徴を有していると考えられる。
Xyn30A(配列番号1)の基質結合部位であるクレフトにおいて、グリコシド結合の加水分解反応を引き起こす触媒アミノ酸残基(Glu182とGlu274)から、キシロース単糖分ほど離れた位置にGln256が配置していた(図13)。本グルタミン残基がキシランの還元末端に対して輪止めのような役割を果たすことにより、Xyn30Aにおいて、キシランの還元末端からキシロースを遊離するエキソ型の分解活性が発現することが示唆された。Xyn30AのGln256は、エンド型のGHファミリー30キシラナーゼであるXyn30C(特願2018−091617)ではAla267、エンド型のGHファミリー30グルクロノキシラナーゼであるXyn30BではSer280に相当した。一方、XynIVにおいて本グルタミン残基に相当する残基はグルタミンであったことから(図11)、このグルタミン残基はGHファミリー30エキソ型キシラナーゼに保存されていることが示唆された。
Claims (9)
- 下記(A)又は(B)のアミノ酸配列を有し、且つ、下記(C)及び/又は(D)の特徴を有する、エキソ型キシラナーゼ:
(A)配列番号1のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(B)配列番号1のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列
(C)配列番号1のアミノ酸配列のArg18、Glu49、Lys53、Glu374、Arg406及びGlu425が保存されている
(D)配列番号1のアミノ酸配列のAsn147、Cys148及びThr149が保存されている。 - 請求項1に記載のエキソ型キシラナーゼをコードするポリヌクレオチド。
- 請求項2のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
- 請求項2のポリヌクレオチド又は請求項3の発現ベクターが組み込まれた宿主細胞。
- 請求項4に記載の宿主細胞を培養することを含む、請求項1に記載のエキソ型キシラナーゼを製造する方法。
- 請求項1に記載のエキソ型キシラナーゼを含む組成物。
- セルラーゼ、エンドキシラナーゼ、プロテアーゼ、ガラクタナーゼ、アラビナナーゼ、マンナナーゼ、ラムノガラクツロナーゼ、ポリガラクツロナーゼ、ペクチンメチルエステラーゼ、ペクチンリアーゼ、ポリガラクツロナーゼ、ガラクツロン酸リアーゼ、アミラーゼ、グルコアミラーゼ、α−グルコシダーゼ、β−グルコシダーゼ、α−アラビノフラノシダーゼ、α−グルクロニダーゼ、α−ガラクトシダーゼ、α−キシロシダーゼ、β−キシロシダーゼ、アセチルキシランエステラーゼ、及びフェルラ酸エステラーゼからなる群より選択される一種以上の酵素を更に含む、請求項6に記載の組成物。
- 請求項1に記載のエキソ型キシラナーゼ、請求項4に記載の宿主細胞、或いは、請求項6又は7に記載の組成物を、キシランに作用させることを含む、キシロースの製造方法。
- キシランが、4−O−メチルグルクロン酸側鎖、ガラクトシル側鎖、アラビノフラノシル側鎖、及びアセチル側鎖からなる群より選択される一種以上の側鎖を有する、請求項8に記載の方法。
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