以下、車両用駆動装置の制御装置の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、車両用駆動装置の制御装置(駆動制御装置10)及び、駆動制御装置10が制御対象とする車両用駆動装置(駆動装置50)の模式的ブロック図である。駆動装置50は、車輪Wの駆動力源として内燃機関70(EG)及び回転電機80(MG)を有している。また、駆動装置50には、内燃機関70に駆動連結される入力部材INと車輪Wに駆動連結される出力部材OUTとを結ぶ動力伝達経路に、入力部材INの側から、駆動力源係合装置75、回転電機80、変速装置90(TM)が記載の順に配置されている。
尚、ここで「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指す。具体的には、「駆動連結」とは、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が1つ又は2つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材が含まれ、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。また、このような伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置、例えば摩擦係合装置や噛み合い式係合装置等が含まれていてもよい。
駆動制御装置10は、上述した駆動装置50の各部を制御する。本実施形態では、駆動制御装置10は、インバータ(INV)60を介した回転電機80の制御の中核となるインバータ制御装置56(INV-CTRL)、内燃機関70の制御の中核となる内燃機関制御装置57(EG-CTRL)、変速装置90の制御の中核となる変速装置制御装置59(TM-CTRL)、これらの制御装置(56,57,59)を統括する走行制御装置55(DRV-CTRL)とを備えている。また、車両には、駆動制御装置10の上位の制御装置であり、車両全体を制御する車両制御装置100(VHL-CTRL)も備えられている。これらの制御装置(特に、55,56,57,59)は、機能部を表しており、必ずしも物理的に独立して構成されていなくてもよい。例えば、走行制御装置55が1つの制御ユニットであり、プログラム等によってこれらの機能部が構築されていてもよい。
図1に示すように、駆動装置50は、車両の駆動力源として、内燃機関70と回転電機80とを備えたいわゆるパラレル方式のハイブリッド駆動装置である。内燃機関70は、燃料の燃焼により駆動される熱機関であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどを用いることができる。内燃機関70と回転電機80とは、駆動力源係合装置75を介して駆動連結されており、駆動力源係合装置75の状態により、内燃機関70と回転電機80との間で駆動力を伝達する状態と駆動力を伝達しない状態とに切り換えることが可能である。
回転電機80は、複数相の交流(例えば3相交流)により動作する回転電機であり、電動機としても発電機としても機能することができる。上述したように、回転電機80は、インバータ60を介したインバータ制御装置56により駆動制御される。インバータ60は、直流電源61に接続されると共に、交流の回転電機80に接続されて直流と複数相の交流(例えば3相交流)との間で電力変換を行う。回転電機80は、インバータ60を介して直流電源61からの電力を動力に変換する(力行)。或いは、回転電機80は、内燃機関70や車輪Wから伝達される回転駆動力を電力に変換し、インバータ60を介して直流電源61を充電する(回生)。
回転電機80を駆動するための電力源としての直流電源61は、例えば、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池(バッテリ)や、電気二重層キャパシタなどにより構成されている。直流電源61は、回転電機80に電力を供給するために、大電圧大容量の直流電源である。直流電源61の定格の電源電圧は、例えば200〜400[V]である。
上述したように、駆動力源係合装置75の状態により、内燃機関70と回転電機80との間で駆動力を伝達する状態と駆動力を伝達しない状態とに切り換えることが可能である。例えば、内燃機関70が回転し、駆動力源係合装置75が係合状態であり、回転電機80が内燃機関70に従動回転する場合、内燃機関70が車輪Wの駆動力源となり、回転電機80は発電機として機能して直流電源61を充電することができる(エンジン走行モード、或いはエンジン走行充電モード)。また、内燃機関70が停止し、駆動力源係合装置75が解放状態であり、回転電機80が回転する場合、回転電機80が車輪Wの駆動力源となる(EV(Electric Vehicle)走行モード)。
また、内燃機関70が回転し、駆動力源係合装置75が係合状態であり、回転電機80も回転する場合は、内燃機関70及び回転電機80が車輪Wの駆動力源となる(ハイブリッド走行モード)。具体的には、駆動制御装置10によりハイブリッド走行制御が実行されて、内燃機関70がトルクを出力している状態において、回転電機80の出力トルクと、駆動力源係合装置75を介して伝達される内燃機関70の出力トルクとの和が、車輪Wに伝達される。
尚、内燃機関70は、駆動力源係合装置75が係合している場合、回転電機80の回転によって始動することができる。つまり、内燃機関70は、回転電機80に従動して始動することができる。例えばEV走行モードからハイブリッド走行モードへ移行することができる。一方、内燃機関70は、回転電機80から独立して、始動することもできる。駆動力源係合装置75が解放状態の場合、内燃機関70はスタータ71(AS:Alternator Starter)によって始動される。
変速装置90は、変速比の異なる複数の変速段を有する有段の自動変速装置である。例えば、変速装置90は、複数の変速段を形成するため、遊星歯車機構等の歯車機構及び複数の係合装置(クラッチやブレーキ等)を備えている。変速装置90が備える複数の係合装置のそれぞれが、変速用係合装置9(図2等参照)である。変速装置90の入力軸は回転電機80の出力軸(例えばロータ軸)に駆動連結されている。ここで、変速装置90の入力軸及び回転電機80の出力軸が駆動連結されている部材を中間部材Mと称する。変速装置90の入力軸には、内燃機関70及び回転電機80の回転速度及びトルクが伝達される。
変速装置90は、変速装置90に伝達された回転速度を、各変速段の変速比で変速すると共に、変速装置90に伝達されたトルクを変換して変速装置90の出力軸に伝達する。変速装置90の出力軸は、例えばディファレンシャルギヤ(出力用差動歯車装置)等を介して2つの車軸に分配され、各車軸に駆動連結された車輪Wに伝達される。ここで、変速比は、変速装置90において各変速段が形成された場合の、出力軸の回転速度に対する入力軸の回転速度の比である(=入力軸の回転速度/出力軸の回転速度)。また、入力軸から変速装置90に伝達されるトルクに、変速比を乗算したトルクが、出力軸に伝達されるトルクに相当する。
尚、ここでは、変速装置90として有段の変速機構を備える形態を例示したが、変速装置90は無段変速機構を備えたものであってもよい。例えば、変速装置90は、2つのプーリー(滑車)にベルトやチェーンを通し、プーリーの径を変化させることで連続的な変速を可能にするCVT(Continuously Variable Transmission)を備えたものであってもよい。この場合、係合圧流路21に供給される係合制御用の油には、プーリーの可動シーブを駆動する油圧を生成するための油が含まれると好適である。
ところで、図1において、符号73は、内燃機関70又は入力部材INの回転速度を検出する回転センサ(入力部材用回転センサ)、符号93は、車輪W又は出力部材OUTの回転速度を検出する回転センサ(出力部材用回転センサ)である。また、符号83は回転電機80のロータの回転(速度・方向・角速度など)を検出するレゾルバなどの回転センサ(回転電機用回転センサ)である。また、駆動力源係合装置75には、駆動力源係合装置75の温度を検出する温度センサ77が備えられていてもよい。尚、図1では、後述する各種オイルポンプや油圧回路等は、省略している。
駆動装置50には、駆動力源係合装置75や、変速装置90が備える変速用係合装置(図2等に示す符号9)に係合制御用の油を供給すると共に、これらの係合装置や回転電機80の潤滑用や冷却用の油を供給するための油圧回路を備えている。図2から図5のブロック図は、油圧回路20の一部を示している。
ここでは、油圧回路20が、駆動力源係合装置75及び変速装置90が備える変速用係合装置9に係合制御用の油を供給する係合圧流路21と、潤滑用の油を駆動力源係合装置75に供給する潤滑用流路22と、係合圧流路21から潤滑用流路22へ油を通流可能なバイパス流路25とを有する形態を例示している。また、油圧回路20は、内燃機関70及び回転電機80の少なくとも一方により駆動され、係合圧流路21に吐出口が接続された第1ポンプ1(機械式オイルポンプ)と、内燃機関70及び回転電機80とは異なる動力源によって駆動される第2ポンプ2とを備える。第2ポンプ2は、例えば電動モータにより駆動される電動オイルポンプである。
係合圧流路21には、第1弁3(例えばリニアソレノイドバルブ)を介して駆動力源係合装置75が接続されている。駆動力源係合装置75の係合圧は、走行制御装置55(駆動制御装置10)によりこの第1弁3を介して制御される。また、係合圧流路21は、シフトバイワイヤー回路8(SBW)や、変速装置90が備える変速用係合装置9(CL)に接続されている。シフトバイワイヤー回路8では、車両のパーキングブレーキの制御や、シフトレバー等を介して乗員から指示された変速段の設定が行われる。
バイパス流路25は、第2弁4(例えばプライマリーレギュレータバルブ)及び後述する流路制御弁5を介して、係合圧流路21と潤滑用流路22とを接続している。流路制御弁5は、第2ポンプ2から吐出される油の流出先が係合圧流路21となる第1状態と、第2ポンプ2から吐出される油の流出先が潤滑用流路22となる第2状態とで選択的に流路を切り替える。流路制御弁5は、例えば走行制御装置55からの制御信号に基づいてオン/オフ・ソレノイド51によって制御されるソレノイドバルブによって構成されている。本実施形態では、オン/オフ・ソレノイド51がオフ状態の場合に流路制御弁5が第1状態となり、オン/オフ・ソレノイド51がオン状態の場合に流路制御弁5が第2状態となる。
尚、上記においては、第2ポンプ2から吐出される油の流出先によって第1状態と第2状態とを定義したが、第2ポンプ2が停止している場合には、第2ポンプ2から油が吐出されないので、以下のように第1状態と第2状態とを定義してもよい。即ち、第1状態は、バイパス流路25を介して係合圧流路21と潤滑用流路22とが接続される状態(バイパス流路25と潤滑用流路22とが接続される状態)、第2状態は、係合圧流路21と潤滑用流路22とが遮断される状態(バイパス流路25と潤滑用流路22とが遮断される状態)ということもできる。
第1ポンプ1、第2ポンプ2、第1弁3、第2弁4、流路制御弁5の働きにより、油圧回路20は、例えば以下のようなモードで動作することができる。図2及び図3は、駆動力源係合装置75の潤滑や冷却がそれほど必要ではなく、相対的に少量の油が潤滑用流路22を通流する場合の動作例(小潤滑モード)を示しており、図4は、駆動力源係合装置75の潤滑や冷却が必要であり、相対的に大量の油が潤滑用流路22を通流する場合の動作例を示している(大潤滑モード)。小潤滑モードでは、係合圧流路21から分流する少量の油が、潤滑用流路22に供給される。大潤滑モードでは、潤滑用流路22に独立して大量の油が供給される。
駆動力源係合装置75の入力部材INの側の第1係合要素74と回転電機80の側の第2係合要素76とが係合された状態では、第1係合要素74と第2係合要素76との回転速度差が小さく、摩擦力も小さくなるので潤滑や冷却の必要性が低くなる。また、第1係合要素74と第2係合要素76とが解放された状態でも、摩擦力は小さくなるので潤滑や冷却の必要性が低くなる。このような場合には、駆動制御装置10は、小潤滑モードにより潤滑用流路22に油を流通させる。
一方、駆動力源係合装置75が、入力部材INの側の第1係合要素74と回転電機80の側の第2係合要素76との間に回転速度差を有しつつ係合しているスリップ係合状態の場合には、摩擦力が大きくなるので潤滑や冷却の必要性が高くなる。このような場合には、駆動制御装置10は、大潤滑モードにより潤滑用流路22に大量の油を流通させる。
図2は、第1ポンプ1のみが動作して油圧回路20に油を供給する形態(小潤滑モード)を例示し、図3は、第2ポンプ2のみが動作して油圧回路20に油を供給する形態(小潤滑モード)を例示している。また、図4は、第1ポンプ1及び第2ポンプ2が共に動作して油圧回路20に油を供給する形態(大潤滑モード)を例示している。
上述したように、第1ポンプ1は、内燃機関70及び回転電機80の少なくとも一方により駆動される。従って、油圧回路20が正常に機能しており、内燃機関70及び回転電機80の少なくとも一方の回転速度が設定された設定回転速度以上の場合には、第2ポンプ2を停止させることができる。図2は、このような場合における油圧回路20を例示している。一方、車両の発進時など、内燃機関70及び回転電機80の回転速度がほぼゼロであるような場合には、第1ポンプ1から油を供給することができない。従って、このような場合には、第2ポンプ2のみを用いて油圧回路20に油が供給される。図3は、このような場合における油圧回路20を例示している。
一方、油圧回路20が正常に機能しており、内燃機関70及び回転電機80の少なくとも一方の回転速度が設定された設定回転速度以上であっても、さらに油の流通量を増やしたい場合がある。例えば、駆動力源係合装置75が、入力部材INの側の第1係合要素74と回転電機80の側の第2係合要素76との間に回転速度差を有しつつ係合しているスリップ係合状態の場合には、駆動力源係合装置75の潤滑及び冷却のために、油の流通量を増加させることが好ましい。このような場合、第1ポンプ1及び第2ポンプ2の双方を用いて、油圧回路20に油が供給される。図4は、このような場合における油圧回路20を例示している。詳細は後述するが、駆動制御装置10は、図2に示す形態(第1ポンプ1のみが駆動し、流路制御弁5が第1状態の形態(小潤滑モード))から、図4に示す形態(大潤滑モード)となるように、流路制御弁5を第2状態に制御すると共に、第2ポンプ2を駆動させる。
上述したように、第1ポンプ1の吐出口は、第1逆止弁11を介して係合圧流路21に接続されている。第1逆止弁11は、第1ポンプ1から係合圧流路21に向かう方向への油の流れを許容し、逆方向の油の流れを遮断するように接続されている。図2から図4に示す形態では、第2ポンプ2の吐出口も、第2逆止弁12を介して係合圧流路21に接続されている。第1逆止弁11と同様に、第2逆止弁12も、第2ポンプ2から係合圧流路21に向かう方向への油の流れを許容し、逆方向の油の流れを遮断するように接続されている。
図2に例示する形態では、第1ポンプ1のみが動作し、第2ポンプ2が停止しているため、第1逆止弁11が開放状態となり、第2逆止弁12は遮断状態となる。また、流路制御弁5は、第1状態(バイパス流路25を介して係合圧流路21と潤滑用流路22とが接続される状態)に制御される。これらにより、第1ポンプ1から係合圧流路21を介して、シフトバイワイヤー回路8や、変速装置90が備える変速用係合装置9に油が供給される。図2では、駆動力源係合装置75が解放状態に制御される形態を例示しており、上述したように、この状態では駆動力源係合装置75の潤滑や冷却に大量の油は必要ない。潤滑用流路22には、係合圧流路21からバイパス流路25を介して、油が供給される。具体的には、第2弁4を介して係合圧流路21から流路制御弁5に油が供給され、流路制御弁5から潤滑用流路22に油が供給される。
図3に例示する形態では、第2ポンプ2のみが動作し、第1ポンプ1が停止しているため、第2逆止弁12が開放状態となり、第1逆止弁11は遮断状態となる。流路制御弁5は、図2に示す形態と同様に、第1状態(バイパス流路25を介して係合圧流路21と潤滑用流路22とが接続される状態、且つ、第2ポンプ2から吐出される油の流出先が係合圧流路21となる状態)に制御される。これらにより、第2ポンプ2から係合圧流路21を介して、シフトバイワイヤー回路8や、変速装置90が備える変速用係合装置9に油が供給される。図3においても、図2と同様に、駆動力源係合装置75が解放状態に制御される形態を例示しており、この状態では駆動力源係合装置75の潤滑や冷却に大量の油は必要ない。潤滑用流路22には、係合圧流路21からバイパス流路25を介して、油が供給される。具体的には、第2弁4を介して係合圧流路21から流路制御弁5に油が供給され、流路制御弁5から潤滑用流路22に油が供給される。
図4に例示する形態では、第1ポンプ1及び第2ポンプ2が共に動作する。後述するように、係合圧流路21には第1ポンプ1から油が供給され、潤滑用流路22には第2ポンプ2から油が供給される。図4に例示する形態では、潤滑用流路22に第2ポンプ2から油が供給されるため、バイパス流路25を介して係合圧流路21から潤滑用流路22に油を供給する必要はない。このため、流路制御弁5は、図2及び図3に示す形態とは異なり、第2状態(係合圧流路21と潤滑用流路22とが遮断される状態、且つ、第2ポンプ2から吐出される油の流出先が潤滑用流路22となる状態)に制御される。
上述したように、係合圧流路21とバイパス流路25との間には、第2弁4が備えられている。つまり、第1状態において流路制御弁5を流れる油の流量は、実質的に第2弁4によって制御されている。一方、第2状態において流路制御弁5を流れる油の流量は、第2ポンプ2の吐出量に依存する。第2ポンプ2の吐出口は、流路制御弁5及び第2逆止弁12に接続されているが、第2状態では流路制御弁5が、第2ポンプ2の吐出口と潤滑用流路22とを低抵抗で接続している。従って、第2逆止弁12における第2ポンプ2の側の油圧は、第1ポンプ1の吐出口に接続された係合圧流路21の油圧に対して低くなり、第2逆止弁12は油の流れを遮断するように作用する。このため、第2ポンプ2から吐出された油のほぼ全量が、流路制御弁5を介して潤滑用流路22に供給され、駆動力源係合装置75を大量の油によって潤滑及び冷却することができる。
一方、係合圧流路21には、図2を参照して上述したように、第1ポンプ1から油が供給され、シフトバイワイヤー回路8や、変速装置90が備える変速用係合装置9に油が供給される。図4に示す形態では、駆動力源係合装置75が係合状態或いはスリップ係合状態に制御される形態を例示している。特に、スリップ係合状態では、駆動力源係合装置75の潤滑や冷却に大量の油を供給することが好ましい。上述したように、潤滑用流路22には第2ポンプ2からの油が供給されるので、係合圧流路21に係合制御用の油を充分に供給しながら、潤滑用流路22にも潤滑用の油を充分に供給することができる。
このように、流路制御弁5を設けることによって、第1ポンプ1及び第2ポンプ2を用いて、制御対象の駆動装置50の被制御状態に応じて、係合圧流路21及び潤滑用流路22に適切に油を供給することができる。
しかし、流路制御弁5に故障等が生じると、上述したような適切な油の供給が妨げられる場合がある。例えば、オン/オフ・ソレノイド51が故障し、オフ状態に固着した場合を考える。上述したように、オン/オフ・ソレノイド51がオフ状態の場合には、流路制御弁5が第1状態となる。第1状態は、第2ポンプ2から吐出される油の流出先が係合圧流路21となる状態である。このため、例えば、図4に示すように、第1ポンプ1により係合圧流路21に油を供給すると共に、第2ポンプ2により潤滑用流路22に油を供給して、大潤滑モードにより油圧回路20を制御しようとしても、第2ポンプ2から潤滑用流路22に大量の油を供給することができない。つまり、大潤滑モードで油圧回路20を制御することができない。
このような大潤滑モードが必要となるのは、例えば、駆動力源係合装置75が上述したスリップ係合状態の場合である。そして、駆動力源係合装置75がスリップ係合状態となるのは、駆動装置50が、ハイブリッド走行モードで制御されている場合である。つまり、駆動制御装置10が、内燃機関70がトルクを出力している状態において、回転電機80の出力トルクと、駆動力源係合装置75を介して伝達される内燃機関70の出力トルクとの和が、車輪Wに伝達することが要求されている車両要求トルクとなるように制御するハイブリッド走行制御を実行する場合である。この場合において、流路制御弁5が第1状態に固定される故障が生じた場合には、駆動制御装置10は、駆動力源係合装置75の伝達トルクを、設定された上限トルク以下に制限するフェールセーフ制御を実行する。
図6のフローチャートは、フェールセーフ制御の一例を示している。はじめに、駆動制御装置10は、流路制御弁5(オン/オフ・ソレノイド51を含む)に故障が生じているか否かを判定する(#1)。この故障は、例えばオン/オフ・ソレノイド51の制御回路や、流路制御弁5に設置された油圧スイッチ(不図示)などの検出結果から判定することができる。流路制御弁5に故障が生じていない場合には、フェールセーフ制御を実行せずに、処理を終了する。駆動制御装置10は、流路制御弁5に故障が生じていると判定すると、トルク制限制御を実行する(#2)。トルク制限制御は、駆動力源係合装置75の伝達トルクを、上限トルク以下に制限するフェールセーフ制御である。
上述したように、流路制御弁5が第1状態に固定される故障が生じると、大潤滑モードが実行できなくなり、駆動力源係合装置75の潤滑及び冷却を充分に行うことが困難となる。つまり、駆動力源係合装置75の摩擦による発熱量が増加した場合に、それに応じて充分な潤滑及び冷却を行うことが困難となる。一方、このような故障が生じているが、駆動力源係合装置75の発熱量にかかわらず伝達トルクが必要以上に制限されると、駆動装置50の効率を不必要に低下させることになる。従って、上限トルクは、固定値ではなく、例えば発熱量に応じて可変設定されると好適である。図7は、発熱量に応じて設定される上限トルクの一例を示している。図7に示すように、発熱量が大きくなるに従って、上限トルクの値が小さくなる。このような制限トルクマップをメモリ等に格納しておき、発熱量に応じて上限トルクを取得して設定すると好適である。尚、図7では、発熱量が設定最大温度TPmaxに達した場合には、上限トルクを最小値であるゼロに設定する形態を例示している。
このように、駆動制御装置10は、駆動力源係合装置75における発熱量の情報を取得し、当該発熱量が大きくなるに従って上限トルクを低く設定することができる。発熱量の情報は、図1に示すように温度センサ77の情報に基づいて取得してもよいし、駆動力源係合装置75の伝達トルクと駆動力源係合装置75の第1係合要素74と第2係合要素76との回転速度差とから演算により取得してもよい。第1係合要素74及び第2係合要素76の回転速度は、図1に示すように、入力部材用回転センサ73及び回転電機用回転センサ83により検出される。例えば、駆動制御装置10は、入力部材用回転センサ73及び回転電機用回転センサ83の検出結果に基づいて、第1係合要素74と第2係合要素76との回転速度差を求め、当該回転速度差と駆動力源係合装置75の伝達トルクとを乗算した値の時間積分に基づいて発熱量を演算することができる。
第1係合要素74と第2係合要素76とがスリップ係合状態であり、両者の回転速度差が大きいほど、摩擦による発熱量も大きくなる。反対に、第1係合要素74と第2係合要素76と回転速度差が小さいと、摩擦による発熱量も小さくなる。例えば、駆動制御装置10は、第1係合要素74と第2係合要素76と回転速度差が相対的に大きい場合には、駆動力源係合装置75が解放状態となるように上限トルクを駆動力源係合装置75の伝達トルクの最小値に設定すると好適である。そして、第1係合要素74と第2係合要素76と回転速度差が相対的に小さくなった場合に、第1係合要素74と第2係合要素76とを速やかに係合することでスリップ係合状態の期間を短縮し、摩擦による発熱を抑制することができる。
図8は、第1係合要素74と第2係合要素76との回転速度差と係合圧との関係の一例を示している。例えば、駆動制御装置10は、フェールセーフ制御において、駆動力源係合装置75の第1係合要素74と第2係合要素76との間に回転速度差がある状態では、上限トルクを駆動力源係合装置75の伝達トルクの最小値に設定する。これにより、駆動力源係合装置75の係合圧も最小値(ほぼゼロ)に設定され、駆動力源係合装置75は、ほぼ解放状態となる。この状態で、内燃機関70及び回転電機80を制御して、第1係合要素74の回転速度と第2係合要素76の回転速度とを近づけていく。そして、第1係合要素74と第2係合要素76との回転速度差が、設定された設定差回転速度Δmin以下となった場合に、駆動制御装置10は、第1弁3を制御して駆動力源係合装置75への係合圧を上昇させ、駆動力源係合装置75を係合状態に移行させる。
ところで、油圧回路20の構成は、図2から図5に例示した形態に限られるものではなく、例えば図7から図9に例示する第2油圧回路20Bのような形態であってもよい。図7は、図2に対応し、第1ポンプ1のみが動作して第2油圧回路20Bに油を供給する形態を例示し、図8は、図3に対応し、第2ポンプ2のみが動作して第2油圧回路20Bに油を供給する形態を例示している。また、図9は、図4に対応し、第1ポンプ1及び第2ポンプ2が共に動作して第2油圧回路20Bに油を供給する形態を例示している。
図2から図4に示す形態においては、第2ポンプ2の吐出口が、第2逆止弁12及び流路制御弁5に接続されているのに対し、図7から図9に示す形態では、第2ポンプ2の吐出口が、第2逆止弁12は接続されずに流路制御弁5(第2流路制御弁5B)にのみ接続されている点で相違する。また、図2から図4に示す形態においては、流路制御弁5が、2つの入力ポートを選択的に1つの出力ポートに接続するのに対し、図7から図9に示す形態では、第2流路制御弁5Bが2つの入力ポートのそれぞれの接続先を選択する点で相違する。
つまり、図2から図4に示す形態においては、流路制御弁5は、バイパス流路25に接続される第1の入力ポートが出力ポートに接続される状態(第1状態)と、第2ポンプ2に接続される第2の入力ポートが出力ポートに接続される状態(第2状態)とを、選択的に制御する。一方、図7から図9に示す形態の第2流路制御弁5Bでは、バイパス流路25に接続される第1の入力ポートは、潤滑用流路22に接続される第1の出力ポートに接続される状態(第1状態)と、流路を遮断する状態(第2状態)とに選択的に制御され、第2ポンプ2に接続される第2の入力ポートは、係合圧流路21(第2逆止弁12)に接続される第2の出力ポートに接続される状態(第1状態)と、潤滑用流路22に接続される第1の出力ポートに接続される状態(第2状態)とに選択的に制御される。図7から図9に示す形態においても、オン/オフ・ソレノイド51がオフ状態の場合に第2流路制御弁5Bが第1状態となり、オン/オフ・ソレノイド51がオン状態の場合に第2流路制御弁5Bが第2状態となる。
図7から図9に示す第2油圧回路20Bの作動については、図2から図4を参照して上述した形態と同様であるので詳細な説明は省略する。また、図7から図9に示す第2油圧回路20Bにおいて第2流路制御弁5Bに故障が生じて第1状態に固定される場合については、図4及び図5を参照して上述した形態から明らかであるので、図示及び詳細な説明は省略する。図7から図9に示すような第2油圧回路20Bにおいても、第2流路制御弁5Bは、第2ポンプ2から吐き出される油の流出先が係合圧流路21となる第1状態と、第2ポンプ2から吐出される油の流出先が潤滑用流路22となる第2状態とで選択的に流路を切り替える。そして、第2流路制御弁5Bが第1状態に固定される故障が生じた場合には、駆動制御装置10は、駆動力源係合装置75の伝達トルクを、設定された上限トルク以下に制限するフェールセーフ制御を実行することができる。
〔実施形態の概要〕
以下、上記において説明した車両用駆動装置の制御装置(10)の概要について簡単に説明する。
1つの態様として、上記に鑑みた車両用駆動装置の制御装置(10)は、車輪(W)の駆動力源として内燃機関(70)及び回転電機(80)を有し、前記内燃機関(70)に駆動連結される入力部材(IN)と前記車輪(W)に駆動連結される出力部材(OUT)とを結ぶ動力伝達経路に、前記入力部材(IN)の側から、駆動力源係合装置(75)、前記回転電機(80)、変速装置(90)が配置された車両用駆動装置(50)を制御対象とする車両用駆動装置の制御装置(10)であって、前記車両用駆動装置(50)が、前記駆動力源係合装置(75)及び前記変速装置(90)が備える変速用係合装置(9)に係合制御用の油を供給する係合圧流路(21)と、潤滑用の油を前記駆動力源係合装置(75)に供給する潤滑用流路(22)と、前記内燃機関(70)及び前記回転電機(80)の少なくとも一方により駆動され、前記係合圧流路(21)に吐出口が接続された第1ポンプ(1)と、前記内燃機関(70)及び前記回転電機(80)とは異なる動力源によって駆動される第2ポンプ(2)と、前記第2ポンプ(2)から吐出される油の流出先が前記係合圧流路(21)となる第1状態と、前記第2ポンプ(2)から吐出される油の流出先が前記潤滑用流路(22)となる第2状態とで選択的に流路を切り替える流路制御弁(5)と、を備え、前記内燃機関(70)がトルクを出力している状態であって、前記回転電機(80)の出力トルクと、前記駆動力源係合装置(75)を介して伝達される前記内燃機関(70)の出力トルクとの和が、前記車輪(W)に伝達することが要求されている車両要求トルクとなるように制御するハイブリッド走行制御を実行する場合において、前記流路制御弁(5)が前記第1状態に固定される故障が生じた場合には、前記駆動力源係合装置(75)の伝達トルクを、設定された上限トルク以下に制限するフェールセーフ制御(#2)を実行する。
上記ハイブリッド走行制御が実行される場合には、駆動力源係合装置(75)の伝達トルクが大きくなるので、駆動力源係合装置(75)の摩擦や発熱が増加し、駆動力源係合装置(75)に、より多くの油を供給することが好ましい。しかし、流路制御弁(5)が第1状態に固定される故障が生じると、第2ポンプ(2)から吐出される油の流出先が係合圧流路(21)に固定される。このため、駆動力源係合装置(75)に、より多くの油を供給して、潤滑及び冷却性能を充分に行いたい場合であっても、潤滑用流路(22)に充分な油を供給することができなくなる。本構成によれば、流路制御弁(5)が第1状態に固定される故障が生じた場合には、駆動力源係合装置(75)の伝達トルクが上限トルク以下に制限される。従って、駆動力源係合装置(75)の摩擦による発熱の増加が抑制され、潤滑や冷却に必要となる油の量も少なく抑えられる。即ち、本構成によれば、車輪(W)の駆動力源とは異なる動力源によって駆動されるポンプ(2)から吐出される油の行先を、潤滑及び冷却用の油路(22)と係合制御用の油路(21)とに切り替え可能な流路制御弁(5)を備えており、当該流路制御弁(5)が、係合制御用の油路(21)とポンプ(2)とを接続する側に固定される故障が生じた場合であっても、係合対象の係合装置(75)の潤滑及び冷却が不充分とならないようにすることができる。
ここで、車両用駆動装置の制御装置(10)は、前記駆動力源係合装置(75)における発熱量の情報を取得し、当該発熱量が大きくなるに従って前記上限トルクを低く設定すると好適である。
流路制御弁(5)が第1状態に固定される故障が生じると、第2ポンプ(2)を利用して駆動力源係合装置(75)の潤滑及び冷却を行うことが困難となる。つまり、駆動力源係合装置(75)の摩擦による発熱量が増加した場合に、それに応じて充分な潤滑及び冷却を行うことが困難となる。一方、このような故障が生じているが、駆動力源係合装置(75)の発熱量にかかわらず伝達トルクが必要以上に制限されると、車両用駆動装置(50)の効率を不必要に低下させることになる。従って、上限トルクは、固定値ではなく、本構成のように、発熱量に応じて可変設定されると好適である。発熱量が小さい場合には、伝達トルクの制限が抑制されるので車両用駆動装置(50)の効率の低下が抑制され、発熱量が大きい場合には温度の上昇が抑制されるので車両用駆動装置(50)の信頼性の低下が抑制される。
また、車両用駆動装置の制御装置(10)は、前記フェールセーフ制御において、前記駆動力源係合装置(75)の前記入力部材(IN)の側の係合要素(74)と前記回転電機(80)の側の係合要素(76)との間に回転速度差がある状態では、前記上限トルクを前記駆動力源係合装置(75)の伝達トルクの最小値に設定し、前記入力部材(IN)側の係合要素(74)と前記回転電機(80)側の係合要素(76)との回転速度差が、設定された設定差回転速度(Δmin)以下となった場合に、前記駆動力源係合装置(75)を係合状態に移行させると好適である。
動力源係合装置(75)の入力部材(IN)の側の係合要素(74)と回転電機(80)の側の係合要素(76)との回転速度差が大きいほど、摩擦による発熱量も大きくなる。反対に、両係合要素(74,76)の回転速度差が小さいと、摩擦による発熱量も小さくなる。例えば、駆動制御装置(10)が、駆動力源係合装置(75)の伝達トルクを最小値に制限すると、両係合要素(74,76)とがほぼ解放状態となり、両係合要素(74,76)に摩擦力をほぼ生じさせない状態で、両係合要素(74,76)の回転速度を制御することができる。そして、両係合要素(74,76)の回転速度差が設定差回転速度以下まで小さくなった場合に、両係合要素(74,76)を係合することで両係合要素(74,76)の摩擦による発熱が大きくなる期間を短縮し、発熱を抑制することができる。
また、車両用駆動装置の制御装置(10)は、前記車両用駆動装置(50)が前記係合圧流路から前記潤滑用流路へ油を通流可能なバイパス流路を有し、前記流路制御弁(5)に故障が生じておらず、前記内燃機関(70)及び前記回転電機(80)の少なくとも一方の回転速度が、設定された設定回転速度以上の場合には、前記バイパス流路を通流状態に制御すると共に前記第2ポンプ(2)を停止させると好適である。
流路制御弁(5)に故障が生じていない場合、係合圧流路(21)には第1ポンプ(1)及び第2ポンプ(2)の何れかを用いて油を供給することができる。第1ポンプ(1)の吐出力が充分であれば、第2ポンプ(2)を駆動することなく第1ポンプ(1)のみで係合圧流路(21)に油を供給することができる。第1ポンプ(1)を駆動する動力源は、内燃機関(70)及び回転電機(80)であるから、これらの少なくとも一方の回転速度が設定回転速度以上の場合には、第2ポンプ(2)を停止させることで省エネルギー化を図ることができる。
車両用駆動装置の制御装置(10)は、前記車両用駆動装置(50)が前記バイパス流路を有し、前記流路制御弁(5)に故障が生じておらず、前記内燃機関(70)及び前記回転電機(80)の少なくとも一方の回転速度が、前記設定回転速度以上であり、前記バイパス流路を通流状態に制御すると共に前記第2ポンプ(2)を停止させている状態において、前記駆動力源係合装置(75)が、前記入力部材(IN)の側の係合要素(74)と前記回転電機(80)の側の係合要素(76)との間に回転速度差を有しつつ係合しているスリップ係合状態の場合、前記バイパス流路(25)を閉塞状態に制御すると共に前記流路制御弁(5)を前記第2状態に制御し、前記第2ポンプ(2)を駆動させると好適である。
スリップ係合状態では、駆動力源係合装置(75)における摩擦力が大きくなり、発熱も大きくなる。本構成のように、流路制御弁(5)を第2状態に制御すると共に、第2ポンプ(2)を駆動させると、潤滑用流路(22)により多くの油を供給することができ、駆動力係合装置(75)の潤滑及び冷却性能を向上させることができる。