JP2020121335A - 高張力鋼の炭酸ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ - Google Patents

高張力鋼の炭酸ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ Download PDF

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Abstract

【課題】シールドガスとして炭酸ガスを使用し全姿勢溶接での溶接が可能な高張力鋼の炭酸ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤを提供する。【解決手段】鋼製外皮にフラックスを充填してなる高張力鋼の炭酸ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤにおいて、鋼製外皮とフラックスの合計で、C:0.03〜0.10%、Si:0.45〜0.75%、 Mn:1.8〜3.0%、Ni:1.5〜3.5%、Mo:0.2〜0.9%、B:0.002〜0.015%、Ti:0.02〜0.09%を含有し、Al:0.05%以下であり、フラックス中に、TiO2換算値の合計:3〜10%、SiO2換算値の合計:0.1〜0.5%、ZrO2換算値の合計:0.1〜0.5%、Al2O3換算値の合計:0.1〜0.5%、Mg:0.1〜0.9%、F換算値の合計:0.01〜0.3%、Na2O換算値及びK2O換算値の合計:0.03〜0.15%からなる。【選択図】 なし

Description

本発明は、強度が780MPa以上の高張力鋼を適用した鋼構造物を溶接する際に用いられるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤに関し、シールドガスとして炭酸ガスを使用し全姿勢溶接での溶接が可能な高張力鋼の炭酸ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤに関する。
高張力鋼を用いた鋼構造物の溶接には、機械性能に優れたサブマージアーク溶接法、被覆アーク溶接法やソリッドワイヤを用いるガスシールドアーク溶接法が適用されている。その中でも現場溶接においては、立向、上向や横向といった姿勢溶接性が求められるため、被覆アーク溶接法やソリッドワイヤを用いるガスシールドアーク溶接法が多用されている。
しかしながら、被覆アーク溶接法では溶接棒の棒長により1パスで溶接できる溶接長が決まるので溶接効率が低い。また、ソリッドワイヤを用いるガスシールドアーク溶接法ではワイヤの供給は連続で行うことが可能であるが、立向や上向などの姿勢溶接時のメタル垂れを防止するために低電流で溶接する必要性があるので溶接能率が低くなる。
一方、ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤは、高能率で溶接作業性に優れることから、造船、橋梁、海洋構造物、鉄骨等の各種溶接構造物の建造に広く用いられている。特にルチール系フラックス入りワイヤは、全姿勢溶接での溶接作業性が非常に優れており、造船、鉄骨及び海洋構造物等の分野を中心に広く使用されている。
一般的に、全姿勢溶接用のルチール系フラックス入りワイヤはTiO2を主体とした金属酸化物を多く含有するため、溶接金属中の酸素量が増加し、特に低温環境で使用した場合、溶接金属の低温靭性が劣るという問題があった。
強度が780MPa以上の高張力鋼を適用した鋼構造物用のガスシールドアーク溶接ワイヤについてはこれまで様々な開発が行われている。例えば、特許文献1には、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo及びTiの含有量を規定することで、−60℃での低温領域でも安定した高靭性が得られる溶接金属を形成できるガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤが開示されている。しかし、適用するシールドガスの対象がArとCO2の混合ガスであるため、溶接部の清浄度は高くなるものの溶接コストも高くなるといった問題があった。
また、特許文献2には溶接金属中に介在物を形成するTi、Mg、Ca、Alといった元素の含有量をコントロールすることで、溶接金属の強度が780MPa以上の高強度を達成することができ、かつ耐低温割れ性を向上させることができる炭酸ガス溶接用ソリッドワイヤが開示されている。しかし、特許文献1及び特許文献2ともに、ソリッドワイヤであるため溶接金属のメタル垂れを防ぐために低電流での溶接施工となる。
また、特許文献3にはフラックス入りワイヤ中のC、Si、Mn、Ni、Al、Mo、TiO2、SiO2、ZrO2、Al23等の含有量を規定することで、シールドガスとして炭酸ガスを用いた全姿勢溶接が可能で溶接金属の機械的性能として690MPa以上の耐力が得られるフラックス入りワイヤが開示されている。しかし、脱酸剤として添加しているAl含有量が多いので、溶接入熱によっては溶接金属中に非金属介在物として残るので、安定した衝撃性能が得られないという問題があった。。また、Si含有量が少ないので、ビードの止端部が不揃いになりやすいという問題があった。
特開2013−188771号 特開2010−228001号 特開2011−255385号
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、強度が780MPa以上の高張力鋼を適用した鋼構造物を溶接する際に、シールドガスとして炭酸ガスを使用して全姿勢溶接での溶接作業性が良好で、強度及び低温靭性に優れた溶接金属が得られる高張力鋼の炭酸ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤを提供することを目的とする。
本発明者らは、強度が780MPa以上の高張力鋼を適用した鋼構造物を溶接する際に、シールドガスとして炭酸ガスを使用し全姿勢溶接での溶接作業性が良好で、溶接金属の強度及び低温靭性が優れたフラックス入りワイヤを得るべく種々検討を行った。
その結果、フラックス入りワイヤ中のC、Si、Mn、Ni、Mo及びTiを適量とすることによって溶接金属の強度及び靭性を確保できるとともに、Alを極力少なくとすることで、低入熱であっても溶接金属の低温靭性が向上できることを見出した。さらにSiを適量とすることで、立向上進溶接においてメタル垂れ性が軽減され溶接ビードの止端部のなじみの良いビードが得られることを見出した。
また、フラックス入りワイヤ中にTi酸化物、Si酸化物、Zr酸化物、Al酸化物、Mg、弗素化合物を適量添加することで、ビード形状、スラグ被包性、スラグ剥離性、耐メタル垂れ性を改善して全姿勢溶接での溶接作業性を良好にできることを見出した。
すなわち、本発明の要旨は、鋼製外皮にフラックスを充填してなる高張力鋼の炭酸ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤにおいて、ワイヤ全質量に対する質量%で、鋼製外皮とフラックスの合計で、C:0.03〜0.10%、Si:0.45〜0.75%、Mn:1.8〜3.0%、Ni:1.5〜3.5%、Mo:0.2〜0.9%、B:0.002〜0.015%、Ti:0.02〜0.09%を含有し、Al:0.05%以下であり、さらに、ワイヤ全質量に対する質量%で、フラックス中に、Ti酸化物のTiO2換算値の合計:3〜10%、Si酸化物のSiO2換算値の合計:0.1〜0.5%、Zr酸化物のZrO2換算値の合計:0.1〜0.5%、Al酸化物のAl23換算値の合計:0.1〜0.5%、Mg:0.1〜0.9%、弗素化合物のF換算値の合計:0.01〜0.3%、Na化合物及びK化合物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計:0.03〜0.15%を含有し、残部が鋼製外皮のFe、鉄粉のFe分、鉄合金粉のFe分及び不可避不純物からなることを特徴とする。
また、ワイヤ全質量に対する質量%で、鋼製外皮とフラックスの合計で、Cr:0.1〜0.8%、Nb:0.005〜0.05%、V:0.005〜0.05%の1種または2種以上をさらに含有することを特徴とする。
さらに、ワイヤ全質量に対する質量%で、フラックス中に、Bi:0.002〜0.02%をさらに含有することも特徴とする高張力鋼の炭酸ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤにある。
本発明の高張力鋼の炭酸ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤによれば、シールドガスとして炭酸ガスを使用した全姿勢溶接において、溶接作業性が良好で、強度及び低温靭性に優れた溶接金属が得られるなど、高能率に高品質の溶接部を得ることができる。
以下、本発明の高張力鋼のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤの成分組成及びその含有量と、各成分組成の限定理由について説明する。なお、成分組成の含有量は質量%で表すこととし、その質量%を表すときには単に%と記載して表すこととする。
[鋼製外皮とフラックスの合計でC:0.03〜0.10%]
Cは、溶接金属の強度を向上させる効果がある。Cが0.03%未満では、十分な溶接金属の強度が得られない。一方、Cが0.10%を超えると、溶接金属中にCが過剰に歩留まり、溶接金属の強度が過剰に高くなって低温靱性が低下する。したがって、鋼製外皮とフラックスの合計でCは0.03〜0.10%とする。なお、Cは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスから鉄粉、金属粉及び合金粉等から添加できる。
[鋼製外皮とフラックスの合計でSi:0.45〜0.75%]
Siは、脱酸剤として作用し、溶接金属の低温靭性を向上させる効果がある。また、立向上進溶接においてメタル垂れを防止するとともに、ビード止端部のなじみの良いビードを得る効果がある。Siが0.45%未満では、その効果が得られず、溶接金属の低温靭性が低下する。またSiが0.45%未満では、溶接時に生成するスラグ量が不足するため、メタル垂れが発生し、ビード止端部のなじみが悪くなる。一方、Siが0.75%を超えると、溶接金属中にSiが過剰に歩留まり、かえって溶接金属の低温靱性が低下する。したがって、鋼製外皮とフラックスの合計でSiは0.45〜0.75%とする。なお、Siは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスから金属Si、Fe−Si、Fe−Si−Mn等の合金粉末から添加できる。
[鋼製外皮とフラックスの合計でMn:1.8〜3.0%]
Mnは、脱酸剤として作用するとともに、溶接金属中に歩留まって溶接金属の強度と低温靱性を向上させる効果がある。Mnが1.8%未満では、溶接金属中にMnが十分に歩留まらず、溶接金属の低温靭性が低下するとともに、十分な強度が得られない。一方、Mnが3.0%を超えると、Mnが溶接金属中に過剰に歩留まり、溶接金属の強度が高くなって低温靱性が低下する。したがって、鋼製外皮とフラックスの合計でMnは1.8〜3.0%とする。なお、Mnは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスから金属Mn、Fe−Mn、Fe−Si−Mn等の合金粉末から添加できる。
[鋼製外皮とフラックスの合計でNi:1.5〜3.5%]
Niは、溶接金属の強度及び靭性の向上を目的として含有する元素である。Niが1.5%未満では、その効果が不十分であり、溶接金属の強度及び靭性が低くなる。一方、Niが3.5%を超えると、溶接金属の強度が過度に上昇し靭性が低下する。したがって、鋼製外皮とフラックスの合計でNiは1.5〜3.5%とする。なお、Niは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスから金属Ni、Fe−Ni等の合金粉末から添加できる。
[鋼製外皮とフラックスの合計でMo:0.2〜0.9%]
Moは、シールドガスがCO2ガスであっても酸化消耗せず、溶接金属に安定に歩留まり、さらにMoは析出強化元素であることから溶接金属の強度向上に有効である。Moが0.2%未満では、溶接金属の強度向上効果は得られない。一方、Moが0.9%を超えると、強度が過剰に上昇し靭性が低下する。したがって、鋼製外皮とフラックスの合計でMoは0.2〜0.9%とする。なお、Moは、鋼製外皮の含まれる成分の他、フラックスから金属Mo、Fe−Mo等の合金粉末から添加できる。
[鋼製外皮とフラックスの合計でB:0.002〜0.015%]
Bは、微量の添加で溶接金属の組織を微細化して低温靱性を向上させる効果がある。Bが0.002%未満では、その効果が十分に得られず、溶接金属の低温靭性が低下する。一方、Bが0.015%を超えると、高温割れが発生しやすくなる。したがって、鋼製外皮とフラックスの合計でBは0.002〜0.015%とする。なお、Bは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスからの金属B、Fe−B、Fe−Mn−B等の合金粉末から添加できる。
[鋼製外皮とフラックスの合計でTi:0.02〜0.09%]
Tiは、溶接金属の組織を微細化して低温靭性を向上させる効果がある。Tiが0.02%未満では、溶接金属の低温靭性をより向上する効果が十分に得られない。一方、Tiが0.09%を超えると、靭性を阻害する上部ベイナイト組織が生成され、溶接金属の低温靭性が低下する。したがって、鋼製外皮とフラックスの合計でTiは0.02〜0.09%とする。なお、Tiは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスからの金属Ti、Fe−Ti等の合金粉末から添加できる。
[鋼製外皮とフラックスの合計でAl:0.05%以下]
Alは、フラックス入りワイヤを用いた炭酸ガスシールドアーク溶接での比較的低い入熱条件の場合、形成された酸化物のスラグ浮上が不十分となり易く、溶接金属中に非金属介在物として残留して低温靭性が低下する。したがって、鋼製外皮とフラックスの合計でAlは0.05%以下とする。なお、Alは、必須の元素ではなく、含有率が0%とされてもよい。
[フラックス中のTi酸化物のTiO2換算値の合計:3〜10%]
Ti酸化物は、溶接時にアークの安定化に寄与するとともに、溶接ビードの形状を良好にし、溶接作業性の向上に寄与する効果がある。また、Ti酸化物は、立向上進溶接において、溶融スラグにTi酸化物として含まれることによって溶融スラグの粘性や融点を調整し、溶融メタルが垂れるのを防ぐ効果がある。Ti酸化物のTiO2換算値の合計が3%未満では、これらの効果が十分に得られず、アークが不安定でスパッタ発生量が多く、スラグによる全面被包ができなくなりビード形状が劣化する。またTi酸化物のTiO2換算値の合計が3%未満では、立向上進溶接において溶融メタルが垂れやすくなる。一方、Ti酸化物のTiO2換算値の合計が10%を超えると、アークが安定してスパッタ発生量も少ないが、溶接金属にTi酸化物が過剰に残存することにより、低温靱性が低下する。したがって、フラックス中のTi酸化物のTiO2換算値の合計は3〜10%とする。なお、Ti酸化物は、フラックスからのルチール、酸化チタン、チタンスラグ、イルメナイト等から添加される。
[フラックス中のSi酸化物のSiO2換算値の合計:0.1〜0.5%]
Si酸化物は、溶融スラグの粘性や融点を調整してスラグ被包性を向上させる効果がある。Si酸化物のSiO2換算値の合計が0.1%未満では、この効果が十分に得られずビード形状が不良となる。一方、Si酸化物のSiO2換算値の合計が0.5%を超えると、溶融スラグの塩基度が低下することにより、溶接金属の酸素量が増加して低温靭性が低下する。したがって、フラックス中のSi酸化物のSiO2換算値の合計は0.1〜0.5%とする。なお、Si酸化物は、フラックスから珪砂、カリ長石、ジルコンサンド、珪酸ソーダ等から添加できる。
[フラックス中のZr酸化物のZrO2換算値の合計:0.1〜0.5%]
Zr酸化物は、溶接時に溶融スラグの粘性や融点を調整し、特に立向上進溶接での耐メタル垂れ性及びビード形状を改善する効果がある。Zr酸化物のZrO2換算値が0.1%未満では、この効果が十分に得られず、立向上進溶接でメタル垂れが発生しやすくなり、ビード形状が不良になる。一方、Zr酸化物のZrO2換算値が0.5%を超えると、各姿勢溶接でスラグ剥離性が不良になり、またスパッタ発生量も増加する。したがって、フラックス中のZr酸化物のZrO2換算値の合計は0.1〜0.5%とする。なお、Zr酸化物は、フラックスからジルコンサンド、酸化ジルコニウム等から添加できるとともに、Ti酸化物に微量含有される。
[フラックス中のAl酸化物のAl23換算値の合計:0.1〜0.5%]
Al酸化物は、溶接時に溶融スラグの粘性や融点を調整し、特に立向上進溶接における溶融メタルが垂れるのを防止する効果がある。Al酸化物のAl23換算値の合計が0.1%未満では、この効果が十分に得られず、スラグ被包にムラが生じて立向上進溶接で溶融メタルが垂れやすくなる。一方、Al酸化物のAl23換算値の合計が0.5%を超えると、溶接金属中にAl酸化物が過剰に残存することにより、低温靱性が低下する。したがって、フラックス中のAl酸化物のAl23換算値の合計は0.1〜0.5%とする。なお、Al酸化物は、フラックスからのアルミナ、長石等から添加できる。
[フラックス中のMg:0.1〜0.9%]
Mgは、強脱酸剤として作用して溶接金属中の酸素を低減し、溶接金属の低温靱性を向上させる効果がある。Mgが0.1%未満では、この効果が十分に得られず、脱酸不足となって溶接金属の低温靱性が低下する。一方、Mgが0.9%を超えると、溶接時にアーク中で激しく酸素と反応してアークが不安定になりスパッタ発生量が多くなる。したがって、フラックス中のMgは0.1〜0.9%とする。なお、Mgは、フラックスから金属Mg、Al−Mg等の合金粉末から添加できる。
[フラックス中の弗素化合物のF換算値の合計:0.01〜0.3%]
弗素化合物は、アークを強くするとともに、特に立向上進溶接でビード形状を改善する効果がある。弗素化合物のF換算値の合計が0.01%未満では、この効果が十分に得られず、アークが弱くなり立向上進溶接でビード形状が不良になる。一方、弗素化合物のF換算値の合計が0.3%を超えると、アークが強くなりすぎて立向上進溶接でメタル垂れが発生しやすくなりビード形状が不良になる。したがって、フラックス中の弗素化合物のF換算値の合計は0.01〜0.3%とする。なお、弗素化合物は、CaF2、NaF、LiF、MgF2、K2SiF6、Na3AlF6、AlF3等から添加でき、F換算値はこれらに含有されるF量の合計である。
[フラックス中のNa化合物及びK化合物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計:0.03〜0.15%]
Na化合物及びK化合物は、アーク安定剤として作用し、アークの安定性を改善する効果がある。Na化合物及びK化合物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計が0.03%未満であると、アークが不安定となってスパッタ発生量が多くなる。一方、Na化合物及びK化合物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計が0.15%を超えると、アーク長が長くなってアークが不安定になりスパッタ発生量が多くなる。また、Na化合物及びK化合物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計が0.15%を超えると、立向上進溶接及び立向下進溶接でメタル垂れが発生しやすくなり、ビード形状が不良になる。したがって、フラックス中のNa化合物及びK化合物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計は0.03〜0.15%とする。なお、Na化合物及びとK化合物は、珪酸ソーダ及び珪酸カリからなる水ガラスの固質成分、弗化ソーダ、チタン酸ナトリウム、珪弗化カリ、珪弗化ソーダ等から添加できる。
[鋼製外皮とフラックスの合計でCr:0.1〜0.8%、Nb:0.005〜0.05%、V:0.005〜0.05%の1種または2種以上]
Cr、Nb及びVは、いずれも溶接金属の強度向上を目的として含有する元素である。これらは1種または2種以上を選択してワイヤ中に含有される元素である。Cr、Nb及びVが1種または2種以上含まれる場合に、Crが0.8%超、Nbが0.05%超、Vが0.05%超であると、溶接金属の強度が過多となり靭性が低下する。一方、Cr、Nb及びVが1種または2種以上含まれる場合に、Crが0.1%未満、Nbが0.01%未満、Vが0.01%未満であると、溶接金属の強度を向上させる効果は得られない。なお、Crは金属Cr、Fe−Cr等の合金粉、Nbは金属Nb、Fe−Nb等の合金粉、Vは金属V、Fe−V等の合金粉等から添加できる。
[フラックス中のBi:0.002〜0.02%]
Biは、溶接金属からのスラグの剥離を促進させ、スラグ剥離性をさらに改善する効果がある。Biが0.002%未満では、この効果が十分に得られず、全姿勢溶接で十分なスラグ剥離性が得られない場合がある。一方、Biが0.02%を超えると、溶接金属の低温靭性が低下し、また高温割れが発生しやすくなる。したがって、鋼製外皮とフラックスの合計でBiは0.002〜0.02%とする。なお、Biは、フラックスからの金属Bi等の合金粉末から添加できる。
本発明の高張力鋼の炭酸ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤの残部は、鋼製外皮のFe、添加する鉄粉のFe分、Fe−Mn、Fe−Si合金等の鉄合金粉のFe分及び不可避不純物である。なお、成分調整のためにFeO、MnO等を添加してもよい。不可避不純物については特に限定しないが、耐高温割れ性の観点から、Pは0.020%以下、Sは0.010%以下が好ましい。
なお、本発明の高張力鋼の炭酸ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤは、鋼製外皮をパイプ状に形成し、内部にフラックスを充填する構造であり、鋼製外皮の合わせ目を溶接して継目の無いタイプと、鋼製外皮の合わせ目を溶接しないでかしめる継目を有するタイプに大別できる。継目の無いタイプはフラックス入りワイヤ中の水素量を低減することを目的とした熱処理が可能であり、かつ、製造後のフラックス入りワイヤの吸湿が少ないので、溶接金属の拡散性水素を低減でき、耐割れ性の向上を図ることができるので、より好ましい。
また、フラックス充填率は特に制限はしないが、生産性の観点から、ワイヤ全質量に対して8〜20%とするのが好ましい。
以下、本発明の効果を実施例により具体的に説明する。
鋼製外皮に表1に示す各種成分組成のJIS G3141 SPCCを使用し、該鋼製外皮をU字型に成形、フラックスを充填率10〜16%で充填してC字型に成形した後、鋼製外皮の合わせ目を溶接して造管、伸線し、表2及び表3に示す各種成分のフラックス入りワイヤを試作した。なお、試作したワイヤ径は1.2mmとした。
Figure 2020121335
Figure 2020121335
Figure 2020121335
これら試作ワイヤを用い、水平すみ肉溶接及び立向上進溶接による溶接作業性の調査と溶着金属試験を行い機械性能を調査した。
溶接作業性は、板厚16mmのJIS G 3128 SHY685に規定される鋼板をT字に組んだ試験体に、表4に示す溶接条件で、水平すみ肉溶接及び立向上進溶接を行い、その際のアーク状態、スパッタ発生状態、スラグ被包性、スラグ剥離性、ビード形状の良否、メタル垂れの有無を目視確認で調査した。
Figure 2020121335
溶着金属試験は、板厚20mmのJIS G 3128 SHY685に規定される鋼板を用い、JIS Z 3111に準じて溶接を行い、溶着金属の板厚方向中心から引張試験片(A0号)及び衝撃試験片(2mmVノッチ試験片)を採取して機械試験を実施した。引張試験の評価は、引張強さが790〜870MPaを良好とした。衝撃試験の評価は、−40℃におけるシャルピー衝撃試験を行い、繰返し3本の吸収エネルギーの平均が47J以上を良好とした。その際、初層溶接時に高温割れの有無を目視確認で調査した。これら結果を表5及び表6にまとめて示す。
Figure 2020121335
Figure 2020121335
表2及び表5のワイヤ記号W1〜W16は本発明例、表3及び表6のワイヤ記号W17〜W36は比較例である。本発明例であるワイヤ記号W1〜W16は、フラックス入りワイヤ中の鋼製外皮とフラックスの合計でC、Si、Mn、Ni、Mo、B、Ti、Al、フラックス中のTi酸化物のTiO2換算値の合計、Si酸化物SiO2換算値の合計、Zr酸化物ZrO2換算値の合計、Al酸化物のAl23換算値の合計、Mg、弗素化合物のF換算値の合計、Na化合物及びK化合物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計が適正であるので、アークが安定してスパッタ発生量が少なく、立向上進溶接でメタル垂れがなく、各姿勢溶接でスラグ被包性、スラグ剥離性及びビード形状が良好で、高温割れも発生しなかった。また、溶着金属の引張強さ及び吸収エネルギーも良好であった。
なお、ワイヤ記号W3、W8、W10、W12及びW14はCr、Nb、Vの1種または2種以上が適量添加されているので、溶着金属の引張強さが840MPa以上得られた。さらに、ワイヤ記号W2、W5、W8及びW10はBiが適量添加されているのでスラグ剥離性が極めて良好であった。
比較例中ワイヤ記号W17は、Cが少ないので、溶着金属の引張強さが低かった。また、Bが多いので、高温割れが発生した。
ワイヤ記号W18は、Cが多いので、溶着金属の引張強さが高く吸収エネルギーが低くかった。
ワイヤ記号W19は、Siが少ないので、ビード形状が不良で、立向上進溶接でメタル垂れが発生した。また、溶着金属の吸収エネルギーが低かった。
ワイヤ記号W20は、Siが多いので、溶着金属の吸収エネルギーが低かった。
ワイヤ記号W21は、Mnが少ないので、溶着金属の引張強さ及び吸収エネルギーが低かった。また、弗素化合物のF換算値の合計が多いので、アークが不安定で、立向上進溶接においてメタル垂れが発生してビード形状が不良であった。
ワイヤ記号W22は、Mnが多いので、溶着金属の引張強さが高く、吸収エネルギーが低かった。
ワイヤ記号W23は、Niが少ないので、溶着金属の引張強さ及び吸収エネルギーが低かった。また、Nbが少ないので、強度向上の効果は得られなかった。
ワイヤ記号W24は、Niが多いので、溶着金属の引張強さが高く、吸収エネルギーが低かった。また、Si酸化物のSiO2換算値の合計が少ないので、ビード形状が不良であった。
ワイヤ記号W25は、Moが少ないので、溶着金属の引張強さが低かった。また、Biが多いので高温割れが発生し、溶着金属の吸収エネルギーが低かった。
ワイヤ記号W26は、Moが多いので、溶着金属の引張強さが高く、吸収エネルギーが低かった。
ワイヤ記号W27は、Bが少ないので、溶着金属の吸収エネルギーが低かった。また、Ti酸化物のTiO2換算値の合計が少ないので、アークが不安定でスパッタ発生量も多く、スラグ被包性及びビード形状が不良で、立向上進溶接でメタル垂れが発生した。
ワイヤ記号W28は、Tiが少ないので、溶着金属の吸収エネルギーが低かった。また、弗素化合物のF換算値の合計が少ないので、アークが不安定で、ビード形状が不良であった。
ワイヤ記号W29は、Tiが多いので、溶着金属の吸収エネルギーが低かった。また、Na化合物及びK化合物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計が少ないので、アークが不安定でスパッタ発生量も多かった。
ワイヤ記号W30は、Alが多いので、溶着金属の吸収エネルギーが低かった。また、Zr酸化物のZrO2換算値の合計が少ないので、立向上進溶接においてメタル垂れが発生してビード形状が不良であった。
ワイヤ記号W31は、Ti酸化物のTiO2換算値の合計が多いので、溶着金属の吸収エネルギーが低かった。
ワイヤ記号W32は、Si酸化物のSiO2換算値の合計が多いので、溶着金属の吸収エネルギーが低かった。また、Al酸化物のAl23換算値の合計が少ないので、立向上進溶接においてスラグ被包性が悪く、メタル垂れが発生し、ビード形状も不良であった。
ワイヤ記号W33は、Al酸化物のAl23換算値の合計が多いので、溶着金属の吸収エネルギーが低かった。また、Mgが多いので、アークが不安定でスパッタ発生量が多かった。
ワイヤ記号W34は、Zr酸化物のZrO2換算値の合計が多いので、スパッタ発生量が多く、スラグ剥離性も悪かった。なお、Biが少ないので、スラグ剥離性を改善する効果は得られなかった。
ワイヤ記号W35は、Na化合物及びK化合物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計が多いので、アークが不安定でスパッタ発生量も多かった。また、立向上進溶接時にメタル垂れが発生しビード形状も不良であった。さらに、Cr、Vが多いので、溶着金属の引張強さが高く、吸収エネルギーが低かった。
ワイヤ記号W36は、Mgが少ないので、溶着金属の吸収エネルギーが低かった。

Claims (3)

  1. 鋼製外皮にフラックスを充填してなる高張力鋼の炭酸ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤにおいて、
    ワイヤ全質量に対する質量%で、鋼製外皮とフラックスの合計で、
    C:0.03〜0.10%、
    Si:0.45〜0.75%、
    Mn:1.8〜3.0%、
    Ni:1.5〜3.5%、
    Mo:0.2〜0.9%、
    B:0.002〜0.015%、
    Ti:0.02〜0.09%を含有し、
    Al:0.05%以下であり、
    さらに、ワイヤ全質量に対する質量%で、フラックス中に、
    Ti酸化物のTiO2換算値の合計:3〜10%、
    Si酸化物のSiO2換算値の合計:0.1〜0.5%、
    Zr酸化物のZrO2換算値の合計:0.1〜0.5%、
    Al酸化物のAl23換算値の合計:0.1〜0.5%、
    Mg:0.1〜0.9%、
    弗素化合物のF換算値の合計:0.01〜0.3%、
    Na化合物及びK化合物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計:0.03〜0.15%を含有し、
    残部が鋼製外皮のFe、鉄粉のFe分、鉄合金粉のFe分及び不可避不純物からなることを特徴とする高張力鋼の炭酸ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
  2. ワイヤ全質量に対する質量%で、鋼製外皮とフラックスの合計で、Cr:0.1〜0.8%、Nb:0.005〜0.05%、V:0.005〜0.05%の1種または2種以上をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載の高張力鋼の炭酸ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
  3. ワイヤ全質量に対する質量%で、フラックス中に、Bi:0.002〜0.02%をさらに含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高張力鋼の炭酸ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
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