JP2020121335A - 高張力鋼の炭酸ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ - Google Patents
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Cは、溶接金属の強度を向上させる効果がある。Cが0.03%未満では、十分な溶接金属の強度が得られない。一方、Cが0.10%を超えると、溶接金属中にCが過剰に歩留まり、溶接金属の強度が過剰に高くなって低温靱性が低下する。したがって、鋼製外皮とフラックスの合計でCは0.03〜0.10%とする。なお、Cは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスから鉄粉、金属粉及び合金粉等から添加できる。
Siは、脱酸剤として作用し、溶接金属の低温靭性を向上させる効果がある。また、立向上進溶接においてメタル垂れを防止するとともに、ビード止端部のなじみの良いビードを得る効果がある。Siが0.45%未満では、その効果が得られず、溶接金属の低温靭性が低下する。またSiが0.45%未満では、溶接時に生成するスラグ量が不足するため、メタル垂れが発生し、ビード止端部のなじみが悪くなる。一方、Siが0.75%を超えると、溶接金属中にSiが過剰に歩留まり、かえって溶接金属の低温靱性が低下する。したがって、鋼製外皮とフラックスの合計でSiは0.45〜0.75%とする。なお、Siは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスから金属Si、Fe−Si、Fe−Si−Mn等の合金粉末から添加できる。
Mnは、脱酸剤として作用するとともに、溶接金属中に歩留まって溶接金属の強度と低温靱性を向上させる効果がある。Mnが1.8%未満では、溶接金属中にMnが十分に歩留まらず、溶接金属の低温靭性が低下するとともに、十分な強度が得られない。一方、Mnが3.0%を超えると、Mnが溶接金属中に過剰に歩留まり、溶接金属の強度が高くなって低温靱性が低下する。したがって、鋼製外皮とフラックスの合計でMnは1.8〜3.0%とする。なお、Mnは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスから金属Mn、Fe−Mn、Fe−Si−Mn等の合金粉末から添加できる。
Niは、溶接金属の強度及び靭性の向上を目的として含有する元素である。Niが1.5%未満では、その効果が不十分であり、溶接金属の強度及び靭性が低くなる。一方、Niが3.5%を超えると、溶接金属の強度が過度に上昇し靭性が低下する。したがって、鋼製外皮とフラックスの合計でNiは1.5〜3.5%とする。なお、Niは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスから金属Ni、Fe−Ni等の合金粉末から添加できる。
Moは、シールドガスがCO2ガスであっても酸化消耗せず、溶接金属に安定に歩留まり、さらにMoは析出強化元素であることから溶接金属の強度向上に有効である。Moが0.2%未満では、溶接金属の強度向上効果は得られない。一方、Moが0.9%を超えると、強度が過剰に上昇し靭性が低下する。したがって、鋼製外皮とフラックスの合計でMoは0.2〜0.9%とする。なお、Moは、鋼製外皮の含まれる成分の他、フラックスから金属Mo、Fe−Mo等の合金粉末から添加できる。
Bは、微量の添加で溶接金属の組織を微細化して低温靱性を向上させる効果がある。Bが0.002%未満では、その効果が十分に得られず、溶接金属の低温靭性が低下する。一方、Bが0.015%を超えると、高温割れが発生しやすくなる。したがって、鋼製外皮とフラックスの合計でBは0.002〜0.015%とする。なお、Bは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスからの金属B、Fe−B、Fe−Mn−B等の合金粉末から添加できる。
Tiは、溶接金属の組織を微細化して低温靭性を向上させる効果がある。Tiが0.02%未満では、溶接金属の低温靭性をより向上する効果が十分に得られない。一方、Tiが0.09%を超えると、靭性を阻害する上部ベイナイト組織が生成され、溶接金属の低温靭性が低下する。したがって、鋼製外皮とフラックスの合計でTiは0.02〜0.09%とする。なお、Tiは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスからの金属Ti、Fe−Ti等の合金粉末から添加できる。
Alは、フラックス入りワイヤを用いた炭酸ガスシールドアーク溶接での比較的低い入熱条件の場合、形成された酸化物のスラグ浮上が不十分となり易く、溶接金属中に非金属介在物として残留して低温靭性が低下する。したがって、鋼製外皮とフラックスの合計でAlは0.05%以下とする。なお、Alは、必須の元素ではなく、含有率が0%とされてもよい。
Ti酸化物は、溶接時にアークの安定化に寄与するとともに、溶接ビードの形状を良好にし、溶接作業性の向上に寄与する効果がある。また、Ti酸化物は、立向上進溶接において、溶融スラグにTi酸化物として含まれることによって溶融スラグの粘性や融点を調整し、溶融メタルが垂れるのを防ぐ効果がある。Ti酸化物のTiO2換算値の合計が3%未満では、これらの効果が十分に得られず、アークが不安定でスパッタ発生量が多く、スラグによる全面被包ができなくなりビード形状が劣化する。またTi酸化物のTiO2換算値の合計が3%未満では、立向上進溶接において溶融メタルが垂れやすくなる。一方、Ti酸化物のTiO2換算値の合計が10%を超えると、アークが安定してスパッタ発生量も少ないが、溶接金属にTi酸化物が過剰に残存することにより、低温靱性が低下する。したがって、フラックス中のTi酸化物のTiO2換算値の合計は3〜10%とする。なお、Ti酸化物は、フラックスからのルチール、酸化チタン、チタンスラグ、イルメナイト等から添加される。
Si酸化物は、溶融スラグの粘性や融点を調整してスラグ被包性を向上させる効果がある。Si酸化物のSiO2換算値の合計が0.1%未満では、この効果が十分に得られずビード形状が不良となる。一方、Si酸化物のSiO2換算値の合計が0.5%を超えると、溶融スラグの塩基度が低下することにより、溶接金属の酸素量が増加して低温靭性が低下する。したがって、フラックス中のSi酸化物のSiO2換算値の合計は0.1〜0.5%とする。なお、Si酸化物は、フラックスから珪砂、カリ長石、ジルコンサンド、珪酸ソーダ等から添加できる。
Zr酸化物は、溶接時に溶融スラグの粘性や融点を調整し、特に立向上進溶接での耐メタル垂れ性及びビード形状を改善する効果がある。Zr酸化物のZrO2換算値が0.1%未満では、この効果が十分に得られず、立向上進溶接でメタル垂れが発生しやすくなり、ビード形状が不良になる。一方、Zr酸化物のZrO2換算値が0.5%を超えると、各姿勢溶接でスラグ剥離性が不良になり、またスパッタ発生量も増加する。したがって、フラックス中のZr酸化物のZrO2換算値の合計は0.1〜0.5%とする。なお、Zr酸化物は、フラックスからジルコンサンド、酸化ジルコニウム等から添加できるとともに、Ti酸化物に微量含有される。
Al酸化物は、溶接時に溶融スラグの粘性や融点を調整し、特に立向上進溶接における溶融メタルが垂れるのを防止する効果がある。Al酸化物のAl2O3換算値の合計が0.1%未満では、この効果が十分に得られず、スラグ被包にムラが生じて立向上進溶接で溶融メタルが垂れやすくなる。一方、Al酸化物のAl2O3換算値の合計が0.5%を超えると、溶接金属中にAl酸化物が過剰に残存することにより、低温靱性が低下する。したがって、フラックス中のAl酸化物のAl2O3換算値の合計は0.1〜0.5%とする。なお、Al酸化物は、フラックスからのアルミナ、長石等から添加できる。
Mgは、強脱酸剤として作用して溶接金属中の酸素を低減し、溶接金属の低温靱性を向上させる効果がある。Mgが0.1%未満では、この効果が十分に得られず、脱酸不足となって溶接金属の低温靱性が低下する。一方、Mgが0.9%を超えると、溶接時にアーク中で激しく酸素と反応してアークが不安定になりスパッタ発生量が多くなる。したがって、フラックス中のMgは0.1〜0.9%とする。なお、Mgは、フラックスから金属Mg、Al−Mg等の合金粉末から添加できる。
弗素化合物は、アークを強くするとともに、特に立向上進溶接でビード形状を改善する効果がある。弗素化合物のF換算値の合計が0.01%未満では、この効果が十分に得られず、アークが弱くなり立向上進溶接でビード形状が不良になる。一方、弗素化合物のF換算値の合計が0.3%を超えると、アークが強くなりすぎて立向上進溶接でメタル垂れが発生しやすくなりビード形状が不良になる。したがって、フラックス中の弗素化合物のF換算値の合計は0.01〜0.3%とする。なお、弗素化合物は、CaF2、NaF、LiF、MgF2、K2SiF6、Na3AlF6、AlF3等から添加でき、F換算値はこれらに含有されるF量の合計である。
Na化合物及びK化合物は、アーク安定剤として作用し、アークの安定性を改善する効果がある。Na化合物及びK化合物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計が0.03%未満であると、アークが不安定となってスパッタ発生量が多くなる。一方、Na化合物及びK化合物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計が0.15%を超えると、アーク長が長くなってアークが不安定になりスパッタ発生量が多くなる。また、Na化合物及びK化合物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計が0.15%を超えると、立向上進溶接及び立向下進溶接でメタル垂れが発生しやすくなり、ビード形状が不良になる。したがって、フラックス中のNa化合物及びK化合物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計は0.03〜0.15%とする。なお、Na化合物及びとK化合物は、珪酸ソーダ及び珪酸カリからなる水ガラスの固質成分、弗化ソーダ、チタン酸ナトリウム、珪弗化カリ、珪弗化ソーダ等から添加できる。
Cr、Nb及びVは、いずれも溶接金属の強度向上を目的として含有する元素である。これらは1種または2種以上を選択してワイヤ中に含有される元素である。Cr、Nb及びVが1種または2種以上含まれる場合に、Crが0.8%超、Nbが0.05%超、Vが0.05%超であると、溶接金属の強度が過多となり靭性が低下する。一方、Cr、Nb及びVが1種または2種以上含まれる場合に、Crが0.1%未満、Nbが0.01%未満、Vが0.01%未満であると、溶接金属の強度を向上させる効果は得られない。なお、Crは金属Cr、Fe−Cr等の合金粉、Nbは金属Nb、Fe−Nb等の合金粉、Vは金属V、Fe−V等の合金粉等から添加できる。
Biは、溶接金属からのスラグの剥離を促進させ、スラグ剥離性をさらに改善する効果がある。Biが0.002%未満では、この効果が十分に得られず、全姿勢溶接で十分なスラグ剥離性が得られない場合がある。一方、Biが0.02%を超えると、溶接金属の低温靭性が低下し、また高温割れが発生しやすくなる。したがって、鋼製外皮とフラックスの合計でBiは0.002〜0.02%とする。なお、Biは、フラックスからの金属Bi等の合金粉末から添加できる。
Claims (3)
- 鋼製外皮にフラックスを充填してなる高張力鋼の炭酸ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤにおいて、
ワイヤ全質量に対する質量%で、鋼製外皮とフラックスの合計で、
C:0.03〜0.10%、
Si:0.45〜0.75%、
Mn:1.8〜3.0%、
Ni:1.5〜3.5%、
Mo:0.2〜0.9%、
B:0.002〜0.015%、
Ti:0.02〜0.09%を含有し、
Al:0.05%以下であり、
さらに、ワイヤ全質量に対する質量%で、フラックス中に、
Ti酸化物のTiO2換算値の合計:3〜10%、
Si酸化物のSiO2換算値の合計:0.1〜0.5%、
Zr酸化物のZrO2換算値の合計:0.1〜0.5%、
Al酸化物のAl2O3換算値の合計:0.1〜0.5%、
Mg:0.1〜0.9%、
弗素化合物のF換算値の合計:0.01〜0.3%、
Na化合物及びK化合物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計:0.03〜0.15%を含有し、
残部が鋼製外皮のFe、鉄粉のFe分、鉄合金粉のFe分及び不可避不純物からなることを特徴とする高張力鋼の炭酸ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。 - ワイヤ全質量に対する質量%で、鋼製外皮とフラックスの合計で、Cr:0.1〜0.8%、Nb:0.005〜0.05%、V:0.005〜0.05%の1種または2種以上をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載の高張力鋼の炭酸ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
- ワイヤ全質量に対する質量%で、フラックス中に、Bi:0.002〜0.02%をさらに含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高張力鋼の炭酸ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
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