JP2020111513A - 化学重合開始剤、接着性組成物、接着性組成物キット、歯科用材料、歯科用材料キットおよび接着性組成物の保管方法 - Google Patents
化学重合開始剤、接着性組成物、接着性組成物キット、歯科用材料、歯科用材料キットおよび接着性組成物の保管方法 Download PDFInfo
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Abstract
Description
本発明の化学重合開始材は、(a)チオ尿素化合物、(b)パーオキシエステル、(c)無機過酸化物、(d)二価の銅化合物及び(e)アリールボレート化合物を含むことを特徴とする。
本発明の化学重合開始剤の他の実施形態は、(b)パーオキシエステルが、10時間半減期温度が80℃以上であるパーオキシエステルであることが好ましい。
本実施形態の化学重合開始剤は、(a)チオ尿素化合物、(b)パーオキシエステル、(c)二価の銅化合物、(d)無機過酸化物及び(e)アリールボレート化合物を含むことを特徴とする。
1.主成分として含まれる成分
(a)チオ尿素化合物
(e)アリールボレート化合物
2.実質的に含まれない成分
・有機過酸化物
<第二の部分開始剤組成物>
1.主成分として含まれる成分
(b)パーオキシエステル
(c)無機過酸化物
(d)二価の銅化合物
2.実質的に含まれない成分
・ハイドロパーオキサイド
<酸成分と混合される部分開始剤組成物>
・第二の部分開始剤組成物。
チオ尿素化合物としては、公知のチオ尿素化合物であればいずれも用いることができる。なお、チオ尿素化合物とは、=N−C(=S)−N=の構造を有する化合物を指す。
中でも、下記一般式(1)で示されるチオ尿素化合物を使用することが好ましい。
(b)パーオキシエステルとは、R−C(=O)−O−O−R’(ただし、R、R’は任意の有機基)またはR−O−C(=O)−O−O−R’(ただし、R、R’は任意の有機基)で示される構造を有する化合物である。本実施形態の化学重合開始剤では、このような構造を有するパーオキシエステルが特に制限なく使用できる。好適に使用できるパーオキシエステルを具体的に例示すれば、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、2,5−ジメチル2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシ−3−メチルベンゾエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等を挙げことができる。これらの中でも、重合活性及び保存安定性の観点から、10時間半減期温度が80℃以上のパーオキシエステルが好適に用いられ、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等が特に好適に用いられる。
(c)無機過酸化物としては、過酸化リチウム、過酸化カリウム、過酸化マグネシウム、過酸化カルシウム、過酸化バリウム、過酸化亜鉛、ペルオキソ二硫酸塩、ペルオキソ二リン酸塩等、公知の無機過酸化物が特に制限なく使用できる。重合活性の観点からは、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウムなどのペルオキソ二硫酸塩を使用するのが好適であり、特にペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウムを使用することが好ましい。
本発明の化学重合開始剤における、前記(c)無機過酸化物の配合量は、高い重合活性と、高い接着強さを発揮することができるという理由から、(b)パーオキシエステル100質量部当たり、7質量部〜20000質量部、特に17質量部〜3300質量部とすることが好ましく、55質量部〜1300質量部とすることが最も好ましい。
本実施形態の化学重合開始剤では、銅化合物として二価の銅化合物を使用する。なお、本実施形態の化学重合開始剤では、二価の銅化合物と共に一価の銅化合物を併用することもできるが、保存安定性の観点からは、本実施形態の化学重合開始剤中に一価の銅化合物は保存安定性に影響が出ない程度に微量含有される程度に留まるか、あるいは、実質的に含有されないことが好ましい。この場合、特に、第二の部分開始剤組成物中に一価の銅化合物が実質的に含有されないことが好ましい。第二の部分開始剤組成物中に一価の銅化合物が含有される場合、一価の銅化合物がパーオキシエステルの還元剤として作用し、保存安定性が劣化する場合がある。
アリールボレート化合物は、分子中に少なくとも1個のホウ素−アリール結合を有する化合物であれば特に限定されないが、下記一般式(2)で示される化合物を用いることが好適である。
本実施形態の化学重合開始剤では、上述した(a)〜(e)に示す5成分以外にも、必要に応じてその他任意の成分を更に組み合わせて用いてもよい。このような任意な成分としては、前記(a)及び(e)成分以外の他の重合促進剤として、芳香族スルフィン酸化合物及びバルビツール酸化合物が挙げられる。なお、これらの重合促進剤は1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
芳香族スルフィン酸化合物として好適に使用できるものを例示すれば、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,6−ジメチルベンゼンスルフィン酸、2,6−ジイソプロピルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸のナトリウム塩、トリエタノールアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩等を挙げることができる。これら芳香族スルフィン酸塩の中でも、反応性の高さ、重合性単量体への溶解性の高さから、ベンゼンスルフィン酸塩、および、パラトルエンスルフィン酸塩が好ましい。
バルビツール酸化合物として好適に使用できるものを例示すれば、5−ブチルバルビツール酸、1,3,5−トリメチルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−5−エチルバルビツール酸、及びこれらバルビツール酸類のナトリウム塩、カルシウム塩を挙げることができる。
本実施形態の化学重合開始剤は、通常、各種の目的で利用される、酸成分を含む反応性組成物に配合して利用される。この場合、反応性組成物中の化学重合開始剤以外の成分(非化学重合開始剤成分)については、反応性組成物の用途に応じて適宜選択される。なお、酸成分は、酸無水物などの形態で存在していてもよい。
1.主成分として含まれる成分
(a)チオ尿素化合物
(e)アリールボレート化合物
2.実質的に含まれない成分
・有機過酸化物
<第二の部分組成物>
1.主成分として含まれる成分
(b)パーオキシエステル
(c)無機過酸化物
(d)二価の銅化合物
(f)酸性基含有重合性単量体
2.実質的に含まれない成分
・ハイドロパーオキサイド。
<(f)酸性基含有重合性単量体(酸性モノマー)>
酸性モノマーとしては、少なくとも1つの酸性基と少なくとも1つのラジカル重合性不飽和基とを有する公知の重合性単量体が使用できる。ここで酸性基とは、この基を有するラジカル重合性単量体の水溶液または水懸濁液が酸性を呈するものであり、代表的には、カルボキシル基(−COOH)、スルホ基(−SO3H)、ホスフィニコ基{=P(=O)OH}、ホスホノ基{−P(=O)(OH)2}等のヒドロキシル基を有するものが例示される。また、このようなヒドロキシル基含有酸性基以外にも、2つのヒドロキシル含有酸性基が脱水縮合した構造の酸無水物基、ヒドロキシル基含有酸性基のヒドロキシル基がハロゲンに置換された酸ハロゲン化物基等を挙げることができる。また、ラジカル重合性不飽和基も特に限定されず、公知のものであってよい。たとえば、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、(メタ)アクリロイルチオ基等の(メタ)アクリロイル系基、ビニル基、アリル基、スチリル基等が例示される。
非酸性モノマーとしては、分子内に少なくとも1つのラジカル重合性不飽和基を有し、酸性基を有しないものであれば、特に限定されない。重合性の観点及び生体への安全性の観点からは、(メタ)アクリル酸エステル系の酸性基非含有重合性単量体が好適に使用される。非酸性モノマーは、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。好適に使用できる非酸性モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス〔4−(3−メタクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス(メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート等を挙げことができる。
<(h)充填材>
本実施形態の接着性組成物に用いることができる充填材としては、従来の歯科材料等で使用されている無機充填材、有機充填材、有機無機複合充填材などが特に制限なく利用できる。なお、硬化体の機械的強度の観点では、無機充填材や有機無機複合充填材を使用することが好ましい。充填材は1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組合せて用いてもよい。
・無機充填材
本実施形態の接着性組成物において、特に好適に使用される無機充填材を例示すれば、各種シリカ;シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア等のケイ素を構成元素として含む複合酸化物;タルク、モンモリロナイト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム等のケイ素を構成元素として含む粘土鉱物或いはケイ酸塩類(以下、これらをシリカ系フィラーと呼ぶ);フッ化イッテルビウム、フッ化イットリウム、ケイ酸塩ガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス等;を挙げることができる。これら無機充填材は、重合性単量体とのなじみを良くし、得られる硬化体の機械的強度や耐水性を向上させるために、シランカップリング剤等の表面処理剤で表面処理して使用されることもある。前記シリカ系フィラーは、化学的安定性に優れており、シランカップリング剤等での表面処理が容易である。
好適に使用できる有機充填材としては、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル−メタクリル酸エチル共重合体、架橋型ポリメタクリル酸メチル、架橋型ポリメタクリル酸エチル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体等を挙げることができる。
有機無機複合充填材としては、(e)酸性モノマーまたは(f)非酸性モノマーとして使用し得る重合性単量体と無機充填材とを複合化させた、有機無機複合充填材が好適に使用できる。複合化方法は、特に限定されず、また、中実なものであっても、細孔を有するものであってもよい。硬化体の機械的強度の観点からは、国際公開第2013/039169号パンプレットに記載されているような、無機凝集粒子の表面が有機重合体で被覆され、且つ細孔を有する有機無機複合充填材を使用することが好ましい。
本実施形態の接着性組成物キット(あるいは歯科用材料キット)は、本実施形態の接着性組成物(あるいは歯科用材料)の取扱いをより容易にすべく、本実施形態の接着性組成物(あるいは歯科用材料)を、第一の部分組成物と、第一の部分組成物と物理的に接触不可能な状態の第二の部分組成物との組み合わせに限定した点に主な特徴がある。そして、その他の点については、本実施形態の接着性組成物キット(あるいは歯科用材料キット)は、本実施形態の接着性組成物(あるいは歯科用材料)と同様とすることができる。以下に本実施形態の接着性組成物キットおよび歯科用材料キットと、本実施形態の接着性組成物の保管方法とについてより詳細に説明する。
<第一の部分組成物>
(a)チオ尿素化合物
(e)アリールボレート化合物
(g)酸性基非含有重合性単量体
(h)充填材
<第二の部分組成物>
(b)パーオキシエステル
(c)無機過酸化物
(d)二価の銅化合物
(f)酸性基重合性単量体
(g)酸性基非含有重合性単量体
(h)充填材。
<第一の部分組成物>
(a)チオ尿素化合物としてアセチルチオ尿素
(e)アリールボレート化合物としてテトラフェニルホウ素のナトリウム塩
(g)酸性基非含有重合性単量体
(h)充填材
<第二の部分組成物>
(b)パーオキシエステルとしてt−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート
(c)無機過酸化物としてペルオキソ二硫酸ナトリウム
(d)二価の銅化合物として酢酸銅(II)一水和物
(f)酸性基重合性単量体
(g)酸性基非含有重合性単量体
(h)充填材。
<第一の部分組成物>
(a)チオ尿素化合物としてベンゾイルチオ尿素
(e)アリールボレート化合物としてテトラフェニルホウ素のナトリウム塩
(g)酸性基非含有重合性単量体
(h)充填材
<第二の部分組成物>
(b)パーオキシエステルとしてt−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート
(c)無機過酸化物としてペルオキソ二硫酸ナトリウム
(d)二価の銅化合物として酢酸銅(II)一水和物
(f)酸性基重合性単量体
(g)酸性基非含有重合性単量体
(h)充填材。
まず、以下に、各実施例および各比較例の化学重合開始剤およびこれを含む組成物において使用した物質の略称について説明する。
AcTU;アセチルチオ尿素
BzTU;ベンゾイルチオ尿素
PTU;ピリジルチオ尿素。
BPT;t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート
BPB;t−ブチルパーオキシベンゾエート
BPE;t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート
BPL;t−ブチルパーオキシラウレート。
NPS;ペルオキソ二硫酸ナトリウム
KPS;ペルオキソ二硫酸カリウム
APS;ペルオキソ二硫酸アンモニウム。
CuA;酢酸銅(II)一水和物
CuAA;アセチルアセトン銅(II)
CuCl2;塩化銅(II)。
CuCl;塩化銅(I)
CuSO4;硫酸銅(I)。
PhBNa;テトラフェニルホウ素のナトリウム塩
PhBTEOA;テトラフェニルホウ素のトリエタノールアンモニウム塩。
MDP;10−メタクリルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
SPM;2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェートおよびビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンフォスフェートをモル比1:1の割合で混合した混合物。
BisGMA;2,2−ビス〔4−(3−メタクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン
D−2.6G;2,2−ビス(メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン
3G;トリエチレングリコールジメタクリレート
HEMA;2−ヒドロキシエチルメタクリレート
UDMA;2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート。
F1;平均粒径3μmのシリカジルコニア充填材
F2;平均粒径0.2μmのシリカジルコニア充填材。
・ハイドロパーオキサイド
CHP;クメンハイドロパーオキサイド
TMBHP;1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド
・ジアシルパーオキサイド
BPO;過酸化ベンゾイル。
・バナジウム化合物
VOAA;酸化バナジウムアセチルアセトナート(V)
・アミン化合物
DEPT;p−トリルジエタノールアミン。
実施例1〜47および比較例1〜16の接着性組成物を調製し、評価を行った。なお、これら接着性組成物は充填材を含むものであり、実施例1〜47の接着性組成物については歯科用セメントとしても好適に利用できるものである。
<接着性組成物(第一剤および第二剤)の調製>
第一剤および第二剤の組合せからなる接着性組成物を以下の手順にて調製した。すなわち、まず、以下に示す組成の重合性単量体を配合し、第一剤用重合性単量体成分および第二剤用重合性単量体成分を調製した(両重合性単量体成分の合計が100質量部となるように配合している。)。
・(g)BisGMA:30質量部
・(g)3G:20質量部
(2)第二剤用重合性単量体成分
・(f)MDP:12.5質量部
・(g)HEMA:5質量部
・(g)D−2.6E:20質量部
・(g)3G:12.5質量部。
・無機過酸化物 第二剤:3.3質量部
・F1(計93質量部) 第一剤:46.5質量部、第二剤:46.5質量部
・F2(計140質量部) 第一剤:70質量部、第二剤:70質量部。
上記の様にして調製した第一剤および第二剤を質量比1:1で混合して得られた混合組成物およびその硬化体の接着強度と表面強度とを評価した。また、第一剤および第二剤の保存安定性を調べる為に、下記(a)および(b)に示す2種類の接着性組成物を用いて曲げ強さと(水分を含む)象牙質に対する接着強さとを評価した。また、一部の接着性組成物に関しては、さらに(水分を含まない)コバルトクロム合金に対する接着強さの評価も行った。曲げ強さの測定及び象牙質に対する接着強さの測定、コバルトクロム合金に対する接着強さの測定の詳細を以下に示す。
(a)「調製直後」の接着性組成物
調製後3時間以内の第一剤及び第二剤の組合せからなる接着性組成物。
(b)「保管後」の接着性組成物
上記(a)に示す調製直後の接着性組成物を構成する第一剤及び第二剤を夫々別容器に填入した状態にて、50℃で2週間保管した後の接着性組成物。
長さ25mm、幅2mm、厚さ2mmの長方形の孔を有するポリアセタール製の型に、前記方法で調製した接着性組成物を充填し、37℃湿潤条件下恒温槽中で60分間放置し硬化させた。得られた硬化体を37℃の水中にて24時間浸漬後に耐水研磨紙を用いてバリを除去することで測定サンプルを得た。次に、万能試験機(AG−I型、島津製作所社製)を用いて、クロスヘッドスピード1mm/mmの条件で荷重を開始し、測定サンプルが破折するまで試験サンプルに荷重を加え、最大荷重から下記式(1)を用いて曲げ強さを求めた。結果を表8に示す。
・式(1) 曲げ強さ(MPa)=3×最大荷重(N)×支点中心間の距離/(2×試験片の幅(mm)×試験片の厚さ(mm)×試験片の厚さ(mm))。
なお、この試験は水が殆ど存在しない環境下で硬化させるため、水が殆ど存在しない場合の開始剤活性の評価となる。
抜去した牛下顎前歯を注水下、#600の耐水研磨紙で研磨し、唇面と平行になるように象牙質平面を削り出した。この象牙質平面に圧縮空気を吹き付けて乾燥させた後、直径3mmの円孔の開いた両面テープをそれぞれ固定し、接着面積を規定した。続いて直径8mmの円柱状の金属アタッチメントに、前記方法で調製した接着性組成物を塗布し、両面テープの円孔と金属アタッチメントの面が同心円状になるように、接着性組成物の塗布面を象牙質面に圧接した。この試験サンプルを37℃の水中にて24時間浸漬した後、万能試験機(AG−I型、島津製作所社製)を用いて、クロスヘッドスピード1mm/mmの条件で荷重を開始し、測定サンプルが破断するまで試験サンプルに荷重を加え、最大荷重から下記式(2)を用いて接着強さを求めた。
・式(2) 接着強さ(MPa)=最大荷重(N)/被着面積(mm2)。
従って、この試験は、水が多く存在する系及び殆ど存在しない系の双方において重合活性が十分であるかの評価となる。
接着強さに対する水分の影響をより直接的に確認するために、コバルトクロム合金に対する接着強を水が存在しない系及び水が存在する系について、次のようにして試験サンプルを作製した。
・水が存在しない系: コバルトクロム合金の板を、注水下、#800および#1500の耐水研磨紙で研磨した後、強圧サンドブラスト処理(0.5〜1cmの距離から4〜5kgf/cm2)を行い、さらにその後、イオン交換水で2回、アセトンで1回超音波洗浄を行った。次に、洗浄後の板の表面に、圧縮空気を吹き付けて乾燥させた後、直径3mmの円孔の開いた両面テープを固定した。ここで、直径3mmの円孔内の面積が、接着面積となる。続いて直径8mmの円柱状の金属アタッチメントの端面に、調製直後あるいは保管後の接着性組成物を構成する第一剤および第二剤を混合した混合組成物を塗布した。そして、両面テープの円孔と、金属アタッチメントの混合組成物が塗布された端面とを、両者の中心軸が一致するように圧接することで試験サンプルを得た。
・水が存在する系: 上記と同様にして直径3mmの円孔の開いた両面テープを固定した後に、綿球を用いてこの円孔内に水を塗布する以外は上記系と同様にして試験サンプルを作製した。
次に、これらの試験サンプルを37℃の水中にて24時間浸漬した後、万能試験機(AG−I型、島津製作所社製)を用いて、クロスヘッドスピード1mm/mmの条件にて、引張荷重を加えた。この際、試験サンプルの接着面が破断するまで試験サンプルに加える引張荷重を徐々に増加させ、破断が生じた際の最大荷重から前述の式(1)を用いて接着強さを求めた。
この試験において、円孔内に水を塗布する場合、水が多く存在する系及び殆ど存在しない系の双方において重合活性が十分であるかの評価となり、円孔内に水を塗布しない場合、水が殆ど存在しない系における重合活性が十分であるかの評価となる。
上記した評価方法に基づいて評価を行った結果を、以下に示す。
・曲げ強さ(MPa); 調製直後:130、保管後:130
・象牙質に対する接着強さ(MPa); 調製直後:51、保管後:49
・コバルトクロム合金に対する接着強さ(MPa); 水塗布なし:23、水塗布有り:22
上に示されるように、実施例1の接着性組成物は、調製直後及び保管後のいずれにおいても表面硬度および象牙質に対する接着強度の双方共に良好結果を示した。さらに、コバルトクロム合金に対する接着強さについても、水の塗布の有無にかかわらず高い接着強さを示した。この結果から、実施例1の接着性組成物は、優れた硬化性及び保存安定性を有し、更に水の存在にかかわらず高い接着強度を示すことが判った。
<接着性組成物の調製及び評価方法>
実施例1において、化学重合開始剤の配合割合を表1または表2に示す割合に変更し、重合性単量体成分として使用する酸性モノマー及び非酸性モノマー並びにこれらの配合量等を表3(実施例2〜10)、表4(実施例11〜20)、表5(実施例21〜30)、表6(実施例31〜40)及び表7(実施例41〜47)に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、調製直後及び保管後の接着性組成物を調製し、曲げ強さおよび象牙質に対する接着強さを測定した。なお、実施例2、5、7及び8、については、実施例1と同様にしてコバルトクロム合金に対する接着強さの測定も行った。
曲げ強さおよび象牙質に対する接着強さを評価した結果を、実施例1の結果と合わせて表8に示す。実施例2〜47の接着性組成物も、実施例1と同様に調製直後及び保管後のいずれにおいても曲げ強さおよび象牙質に対する接着強さの双方共に良好結果を示した。この結果から、実施例2〜47の接着性組成物も、優れた硬化性、接着強度及び保存安定性を有していることが判った。
なお、表9には各実施例に対応する比較例5〜9(これら比較例は、後述するように、無機過酸化物を配合していない)の結果も併記している。
これら比較例は、化学重合開始剤として(a)〜(e)成分の何れかを欠く例であり、実施例1において、使用する化学重合開始剤の成分及び配合割合を表10に示す割合に変更し、重合性単量体成分として使用する酸性モノマー及び非酸性モノマー並びにこれらの配合量を表11に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、調製直後及び保管後の接着性組成物の調製し、曲げ強さ及び象牙質に対する接着強さを測定した。また、比較例5〜9については、水が多く存在する環境下及び水が殆ど存在しない環境下での接着性をより明確にするために、調製直後の接着性組成物を調製し、コバルトクロム合金に対する接着強さの測定をさらに行った。評価結果については、他の比較例の評価結果と合わせて後で示す。
なお、比較例5〜9は、夫々実施例1、2、5、7及び8に対する比較例であり、実施例では無機過酸化物であるペルオキソ二硫酸ナトリウムを配合しているのに対し、比較例5〜9では無機過酸化物を配合していない(その点のみで実施例と異なっている)。評価結果は、表9に示した。表9に示されるように、これら比較例5〜9は、無機過酸化物を含有しないため、水の塗布が無い場合には高い接着強さを示すが、水の塗布がある場合には接着強さは大きく低下した。
これら比較例は、二価の銅化合物に代えて一価の銅化合物を使用した例であり、実施例1において、使用する化学重合開始剤の成分及び配合割合を表10に示す割合に変更し、重合性単量体成分として使用する酸性モノマー及び非酸性モノマー並びにこれらの配合量を表11及び表12に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、第一剤及び第二剤の調製並びに接着性組成物の調製を行い、調製直後及び保管後の接着性組成物の調製し、曲げ強さ及び象牙質に対する接着強さを測定した。
これら比較例は、(b)成分に代えてハイドロパーオキサイドを使用した例であり、実施例1において、使用する化学重合開始剤の成分及び配合割合を表10に示す割合に変更し、重合性単量体成分として使用する酸性モノマー及び非酸性モノマー並びにこれらの配合量を表12に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、調製直後及び保管後の接着性組成物の調製し、曲げ強さ及び象牙質に対する接着強さを測定した。
なお、比較例14及び15は、単に(b)パーオキシエステルに代えてハイドロパーオキサイドを使用した例であり、比較例16は、(b)パーオキシエステルの代わりに用いたハイドロパーオキサイドを第二剤ではなく第一剤に配合した例であり、比較例17は、比較例16から(a)チオ尿素化合物を除いた例である。
実施例1において、使用する化学重合開始剤の成分及び配合割合を表10に示す割合に変更し、重合性単量体成分として使用する酸性モノマー及び非酸性モノマー並びにこれらの配合量を表12に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、調製直後及び保管後の接着性組成物の調製し、曲げ強さ及び象牙質に対する接着強さを測定した。
なお、比較例18は、(b)パーオキシエステルの代わりにジアシルパーオキサイドを用いた例であり、比較例19は、(c)二価の銅化合物の代わりにバナジウム化合物を配合した例であり、比較例20は、化学重合開始剤として、過酸化ベンゾイル/アミン化合物からなるものを用いた例である。
曲げ強さ及び象牙質に対する接着強さを評価した結果を表13に示す。表13に示されるように、比較例1〜9では、十分に硬化していないか、硬化した場合であってもその接着強さは低く不十分なものであった。比較例10〜13では、ゲル化が起こるか、硬化した場合であっても、その曲げ強さ及び接着強さは保管後では大きく低下しており、保存安定性が低いものであった。比較例14〜16では、保管後の場合において第二剤がゲル化してしまい、保存安定性が低いものであった。
また、比較例17では、ゲル化は生じなかったものの、調製直後において十分な曲げ強さ及び接着強さを示さず、しかも調製直後と比べて調製後では表面硬度は著しく低下した。比較例18は、保存安定性が不十分であり、比較例19は、調製直後から第二剤がゲル化し、比較例20は、アミン化合物が酸性成分によって中和されたため、調製直後においても十分に硬化しなかった。
Claims (13)
- (a)チオ尿素化合物、(b)パーオキシエステル、(c)無機過酸化物、(d)二価の銅化合物及び(e)アリールボレート化合物を含み、ハイドロパーオキサイドを実質的に含有しない化学重合開始剤。
- 前記(b)パーオキシエステルが、10時間半減期温度が80℃以上であるパーオキシエステルであることを特徴とする請求項1または2に記載の化学重合開始剤。
- 前記(c)無機過酸化物がペルオキソ二硫酸塩であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の化学重合開始剤。
- 前記(d)二価の銅化合物が、二価の銅原子と、二価の銅原子に配位する配位子とを含み、
前記配位子が、ハロゲン原子、酸素原子を含む原子団、および、窒素原子を含む原子団からなる群より選択され、
前記配位子が前記酸素原子を含む原子団である場合は、前記酸素原子を含む原子団が、前記酸素原子を介して前記二価の銅原子に配位し、
前記配位子が前記窒素原子を含む原子団である場合は、前記窒素原子を含む原子団が、前記窒素原子を介して前記二価の銅原子に配位していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の化学重合開始剤。 - (a)チオ尿素化合物と、(b)パーオキシエステルと、(c)無機過酸化物と、(d)二価の銅化合物と、(d)アリールボレート化合物と、(f)酸性基含有重合性単量体とを含むことを特徴とする接着性組成物。
- (g)酸性基非含有重合性単量体をさらに含むことを特徴とする請求項6に記載の接着性組成物。
- 第一の部分組成物と、前記第一の部分組成物と物理的に接触不可能な状態の第二の部分組成物との組み合わせから構成され、
前記第一の部分組成物と前記第二の部分組成物との組み合わせの全体が、(a)チオ尿素化合物と、(b)パーオキシエステルと、(c)無機過酸化物と、(d)二価の銅化合物と、(e)アリールボレート化合物と、(f)酸性基含有重合性単量体とからなる5つの成分を少なくとも含み、
前記第一の部分組成物が、前記6つの成分のうち、前記(a)チオ尿素化合物と、前記(e)アリールボレート化合物とを主成分として含むと共に、有機過酸化物を実質的に含まず、
前記第二の部分組成物が、前記5つの成分のうち、前記(b)パーオキシエステルと、前記(c)無機過酸化物と、前記(d)二価の銅化合物と、前記(f)酸性基含有重合性単量体とを主成分として含むと共に、ハイドロパーオキサイドを実質的に含まない、
ことを特徴とする接着性組成物キット。 - 前記第一の部分組成物および前記第二の部分組成物から選択される少なくとも一方の組成物が、(g)酸性基非含有重合性単量体をさらに含むことを特徴とする請求項7に記載の接着性組成物キット。
- 前記第一の部分組成物および前記第二の部分組成物から選択される少なくとも一方の組成物が、(h)充填材をさらに含むことを特徴とする請求項8または9に記載の接着性組成物キット。
- 請求項6または7に記載の接着性組成物を含むことを特徴とする歯科用材料。
- 請求項8又は9に記載の接着性組成物キットを含むことを特徴とする歯科用材料キット。
- 請求項6または7に記載の接着性組成物が、第一の部分組成物と、第二の部分組成物とに分包された状態で保管され、
前記第一の部分組成物が、前記(a)チオ尿素化合物と、前記(b)パーオキシエステルと、前記(c)無機過酸化物と、前記(d)二価の銅化合物と、前記(e)アリールボレート化合物と、前記(f)酸性基含有重合性単量体とからなる6つの成分のうち、前記(a)チオ尿素化合物と、前記(e)アリールボレート化合物とを主成分として含むと共に、有機過酸化物を実質的に含まず、
前記第二の部分組成物が、前記5つの成分のうち、前記(b)パーオキシエステルと、前記(c)無機過酸化物と、前記(d)二価の銅化合物と、(f)酸性基含有重合性単量体とを主成分として含むと共に、ハイドロパーオキサイドを実質的に含まない、
ことを特徴とする接着性組成物の保管方法。
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