JP2020109791A - 熱伝導構造体、熱拡散装置 - Google Patents

熱伝導構造体、熱拡散装置 Download PDF

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Abstract

【課題】強度を低下させることなく、且つ、グラフェンシートの延在方向における高い熱伝導率を維持することが可能な熱伝導構造体、及び熱伝導構造体を備える熱拡散装置を提供する。【解決手段】熱伝導構造体10は、複数のグラフェンシート15が積層されてなるグラファイト構造体11と、グラファイト構造体11の外周面(上面11A及び下面11Bを含む)を覆うように前記外周面に形成された被覆層20と、を備える。熱伝導構造体10において、グラファイト構造体11の全ての外周面にグラフェンシート15のエッジ部が現れるように、各外周面は、グラフェンシート15のベーサル面に対して所定の傾斜角度θで交差している。【選択図】図1

Description

本発明は、複数のグラフェンシートが積層されてなるグラファイト構造体を備える熱伝導構造体、及び熱伝導構造体を備える熱拡散装置に関する。
放熱対象である発熱体の熱を移動させて放熱する熱伝導体として、高熱伝導性材料であるグラファイト板の表面にチタン層を形成したグラファイト構造体が知られている(特許文献1参照)。前記グラファイト板は、複数のグラフェンシートが積層されたものであり、組成が脆く崩れ安い性質を有している。そのため、上述した従来のグラファイト構造体は、グラファイト板の表面をチタン層で被覆することにより、効率的な熱伝導を実現しつつ、強度を高めている。また、上述した従来のグラファイト構造体は、グラファイト板のベーサル面に垂直な方向に貫通する貫通孔を有し、この貫通孔の内面にもチタン層を形成することによって、グラファイト板の強度を更に補強している。
特開2013−191830号公報
前掲した従来のグラファイト構造体は、ベーサル面に垂直に貫通する複数の貫通孔を有するため、これらの複数の貫通孔によって、グラフェンシートの延在方向(ベーサル面に沿う方向)の熱伝導が阻害される。また、前記グラファイト板のエッジ面(ベーサル面に隣接する側面)には、炭素原子とチタンとが結合したチタン化合物が形成されるため、チタン層と前記エッジ面とが強固に接合されるが、同様の接合力をベーサル面とチタン層との間に生じさせるためには、前記貫通孔を無数に形成する必要があり、却って強度が低下し、また、グラフェンシートの延在方向の熱伝導率が著しく低下する。
本発明の目的は、強度を低下させることなく、且つ、グラフェンシートの延在方向における高い熱伝導率を維持することが可能な熱伝導構造体、及び熱伝導構造体を備える熱拡散装置を提供することにある。
(1) 本発明の熱伝導構造体は、複数のグラフェンシートが積層されてなるグラファイト構造体と、前記グラファイト構造体の外周面のうちの少なくとも一つの表面であり熱伝達対象物が取り付けられる側の平坦な第1表面を覆う被覆部と、を備える。前記熱伝導構造体において、前記グラファイト構造体の前記第1表面は、前記第1表面に前記グラフェンシートのエッジ部が現れるように、前記グラフェンシートのベーサル面に対して所定の傾斜角度で交差していることを特徴とする。
このように本発明が構成されているため、前記グラファイト構造体の前記第1表面には、所定の傾斜角度に応じて複数のグラフェンシートのエッジ部(グラフェンシートのベーサル面に沿う方向の端部)が現れる。グラフェンシートのエッジ部には、不飽和な状態(未結合手を有する状態)の炭素原子が存在しているため、前記第1表面には、不飽和な状態の炭素原子が現れる。そのため、前記第1表面を覆うように被覆部が形成されることにより、被覆部に含まれる原子や分子等が上述した不飽和な状態の炭素原子と結合する。その結果、被覆部が、前記第1表面に密着した状態で強固に前記第1表面に形成される。また、前記第1表面には、複数のエッジ部が現れ、そのエッジ部間の隙間は、前記被覆部が前記第1表面に形成される際にアンカー効果をもたらす。そのため、前記第1表面を覆うように被覆部が形成されることにより、前記エッジ部間の隙間に被覆部の材料が入り込み、前記第1表面と前記被覆部との接合力及び密着性がアップする。その結果、前記被覆部が、前記第1表面に密着した状態で強固に前記第1表面に形成される。以上より、本発明の熱伝導構造体においては、前記第1表面に被覆部が強固に密着した状態で形成されるため、前記グラファイト構造体が熱膨張しても、前記被覆部の剥がれや割れが防止される。また、前記グラファイト構造体はベーサル面方向の熱伝導率が極めて高いことから、熱伝導構造体において前記第1表面側に発熱体などの熱伝達対象物が取り付けられた場合に、前記熱伝達対象物の熱が被覆部を伝って前記第1表面の前記エッジ部に伝達すると、そのエッジ部からベーサル面方向へ素早く伝達して拡散する。また、前記熱膨張による被覆部の剥がれや割れを防止ための多数の貫通孔を前記グラファイト構造体に形成する必要がないため、熱伝導構造体の強度を低下させることなく、且つ、グラフェンシートの延在方向における高い熱伝導率を維持することが可能となる。
(2) 前記グラファイト構造体は、前記第1表面に平行な第2表面を含む形状に形成されている。この場合、前記被覆部は、前記第1表面及び前記第2表面を含む前記外周面に現れる前記グラフェンシートの前記エッジ部と密着した状態で前記外周面に形成されている。
この構成によれば、前記グラファイト構造体の第1表面及び第2表面の両面にグラフェンシートのエッジ部が現れる。そのため、前記被覆部が前記グラファイト構造体の外周面全域に形成されることにより、前記被覆部は、前記第1表面及び前記第2表面の両面に密着した状態で強固に各面に形成される。また、前記グラファイト構造体が前記第1表面及び前記第2表面それぞれに垂直な側面を有する直方体形状であってもよい。この場合、前記側面にもグラフェンシートのエッジ部が現れることになり、つまり、前記グラファイト構造体の外周面全域に前記エッジ部が現れることになる。これにより、前記被覆部は、前記第1表面及び前記第2表面の両面のみならず、前記側面にも密着した状態で強固に形成される。その結果、熱伝導構造体の強度を低下させることなく、且つ、グラフェンシートの延在方向における高い熱伝導率を維持することが可能となる。
(3) また、前記グラファイト構造体は、前記第1表面から前記グラファイト構造体の内部へ穿孔された孔部を有している。この場合、前記被覆部が前記第1表面から前記孔部の内面に至って形成されている。
(4) ここで、前記孔部は、前記グラファイト構造体を前記第1表面から前記第1表面の反対側の第2表面に貫通している。
(5) また、本発明は、上述の熱伝導構造体を備え、前記熱伝導構造体の前記被覆部に取り付けられる熱伝達対象物から伝達される熱を拡散する熱拡散装置として捉えることができる。
また、本発明は、熱伝達対象物が取り付けられる熱伝導構造体の製造方法として捉えることができる。本発明の熱伝導構造体の製造方法は、複数のグラフェンシートが積層されてなるブロック状のグラファイトブロックを、当該グラファイトブロックのベーサル面に対して所定の傾斜角度で切削することによりその切削面に上述の第1表面を形成するようにして前記グラファイト構造体を製作し、前記第1表面を覆うように前記第1表面に被覆部を形成することを特徴とする。
本発明によれば、強度を低下させることなく、且つ、グラフェンシートの延在方向における高い熱伝導率を維持することが可能である。
図1は、本発明の第1実施形態に係る熱伝導構造体を模式的に示す斜視図である。 図2は、本発明の第1実施形態に係る熱伝導構造体が備えるグラファイト構造体を模式的に示す斜視図である。 図3は、本発明の第1実施形態に係る熱伝導構造体が備えるグラファイト構造体の形成方法を説明するための模式図である。 図4は、本発明の第1実施形態に係る熱伝導構造体の断面構造の一例を示す拡大断面図である。 図5は、本発明の第1実施形態に係る熱伝導構造体が適用された熱拡散装置を模式的に示す斜視図である。 図6は、本発明の第2実施形態に係る熱伝導構造体が備えるグラファイト構造体を模式的に示す斜視図である。 図7は、本発明の第2実施形態に係る熱伝導構造体の熱伝達方向を示す平面図である。 図8は、本発明の第3実施形態に係る熱伝導構造体の熱伝達方向を示す平面図である。
以下、添付図を参照しながら、本発明の各実施形態について説明する。なお、以下の各実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。また、以下の各実施形態の全図においては、同一又は対応する部分には同一の符号を付す。
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る熱伝導構造体10及び熱伝導構造体10に熱伝達対象物である半導体素子56が取り付けられた構造を示す斜視図である。図1では、熱伝導構造体10を半導体素子56の中央で切断した断面図が示されている。また、図2は、熱伝導構造体10が備えるグラファイト構造体11を示す斜視図である。なお、半導体素子56は、例えば、パワー半導体やパワーモジュールなどのように、駆動することにより熱を発する発熱体である。また、以下の実施形態では、発熱体である半導体素子56から熱を吸熱して冷却する用途として熱伝導構造体10を用いる例を説明するが、熱伝導構造体10から熱伝達対象物に熱を伝達して当該熱伝達対象物を加熱する用途に熱伝導構造体10が用いられてもよい。
熱伝導構造体10は、所謂熱拡散板或いは放熱板と称される部材であり、その上面10Aの取付領域10Bに取り付けられた前記発熱体としての半導体素子56から熱を吸熱し、上面10Aに沿う方向へ熱を伝達して拡散する用途として用いられる。半導体素子56から熱が吸熱されることにより、半導体素子56を放熱して冷却することができる。取付領域10Bは、上面10Aにおいて一方側(図1の右側)の端部に定められている。熱伝導構造体10は、この取付領域10Bに取り付けられた半導体素子56から熱を吸熱し、その熱を半導体素子56の取り付け位置とは反対側(図1の左側)の方向Y1、及びZ軸方向(方向Z1及び方向Z2)へ伝達する。また、上述した各方向へ熱が伝達して拡散するため、半導体素子56における熱分布を概ね均等にすることができる。なお、取付領域10Bは、上面10Aにおいて図1に示す位置に限られず、上面10Aの中央に定められていてもよい。
図1に示すように、熱伝導構造体10は、矩形板状に形成されたグラファイト構造体11と、グラファイト構造体11の全周面を覆うように設けられた被覆層20(本発明の被覆部の一例)と、により構成されている。
図2に示すように、グラファイト構造体11は、平板状に形成されており、複数のグラフェンシート15が一方向に沿って複数積層された結晶構造を有している。本実施形態では、各グラフェンシート15のベーサル面が平行となるように複数のグラフェンシート15が積層されている。
グラフェンシート15は、シート状のグラフェンであって、六員環が平面方向(ベーサル面方向)に共有結合して形成されたものであり、その厚みは炭素原子一つ分(約0.335nm)である。グラファイト構造体11の各グラフェンシート15の層間は、ファンデルワールス力で結合されているため、グラフェンシート15は、層状に剥がれ易い性質を有している。
グラファイト構造体11は、図2において上下方向(Y軸方向)を厚み方向とするものであり、本実施形態では、その厚みD1がベーサル面方向(X軸方向、Z軸方向)のサイズに比べて薄いプレート状に形成されている。
具体的には、熱伝導構造体10が取付領域10B(図1参照)に取り付けられた発熱体としての半導体素子56から吸熱して放熱する用途に用いられる場合、グラファイト構造体11は、その厚みD1が1.5mm〜2.0mmに形成されている。また、この場合、グラファイト構造体11は、平面視で矩形状又は円形状に形成されており、例えば、放熱対象の半導体素子56のサイズに応じて、一辺が30mm〜300mmの正方形状に形成されたもの、或いは、直径が30mm〜300mmの円形状に形成されたものを用いることができる。なお、グラフェンシート15の実際の厚みは炭素原子1個分であるが、説明の便宜上、各図では、実際の厚み以上に表されたグラフェンシート15が示されている。
グラファイト構造体11としては、一般的なグラファイトよりも高い熱伝導性を有する高配向性熱分解グラファイト(HOPG:Highly Oriented Pyrolytic Graphite)が採用されている。具体的には、米国MINTEQ International Inc.製の商品名「PYROID」が用いられている。
グラファイト構造体11は、熱伝導率に関して異方性を有している。つまり、グラファイト構造体11は、グラフェンシート15の積層方向Ya(Y軸に対して所定角度θ傾斜した方向、図2参照)の熱伝導率よりも、グラファイト構造体11におけるグラフェンシート15のベーサル面(X−Z平面に対してY軸方向へ所定角度θ傾斜した面)に沿う方向(X軸方向に対して所定角度θ傾斜した傾斜方向Xa、及びZ軸方向)の熱伝導率が極めて高い。このように、素材の方向によって熱伝導率が異なる性質を異方性といい、この異方性を有するグラファイト構造体11は、一般に、異方性熱伝導体、或いは異方性熱伝導素子と称されている。グラファイト構造体11は、詳細には、前記ベーサル面方向の熱伝導率は1500[W/mK]〜1700[W/mK]程度であり、前記積層方向の熱伝導率は5[W/mK]〜10[W/mK]程度である。
また、上述したように、グラファイト構造体11は高配向性熱分解グラファイトであるため、一般的なグラファイトの前記積層方向の線膨張率(線膨張係数)が4.5[ppm/K]〜5.5[ppm/K]であるのに対して、グラファイト構造体11の前記積層方向の線膨張率は極めて高く、具体的には約25[ppm/K]である。なお、グラファイト構造体11において、前記ベーサル面方向の線膨張率は極めて低く、実質的に0[ppm/K]である。
図2に示すように、グラファイト構造体11は、その上面11A及び上面11Aに平行な下面11Bそれぞれにグラフェンシート15のエッジ部が現れるように、グラフェンシート15のベーサル面に対して所定角度θ(本発明の所定の傾斜角度の一例)で交差している。具体的には、グラファイト構造体11は、X−Z平面(水平面)に対してグラフェンシート15のベーサル面が前記所定角度θで傾斜するように、複数のグラフェンシート15が上下方向(Y軸方向)に対して前記所定角度θ傾斜した前記積層方向Yaに積層された構造を有している。なお、グラファイト構造体11の上面11Aは平坦面であり、本発明の第1表面に相当する。また、下面11Bは平坦面であり、本発明の第2表面に相当する。
前記所定角度θは、取付領域10Bに取り付けられる熱伝達対象物の種類やサイズや、グラファイト構造体11のサイズや厚みな、後述する被覆層20の被覆材の種類などに応じて定めることができる。また、前記所定角度θは、熱伝導構造体10の用途や、吸熱した熱を拡散させたい方向に応じた適切な角度に定めることができる。
これにより、グラファイト構造体11の上面11A及び下面11Bには、Z軸方向に筋状に延びる複数条のエッジ部が現れる。このように、グラフェンシート15のベーサル面方向のエッジ部が現れる面は、一般にエッジ面と称されている。
また、グラファイト構造体11のX軸方向の両方の側端面16には、複数のグラフェンシート15のベーサル面方向(傾斜方向Xa)のエッジ部が上下方向(Y軸方向)に幾層にも重ね合わされた状態となる。つまり、側端面16は、グラフェンシート15のベーサル面方向のエッジ部が現れるエッジ面である。
また、グラファイト構造体11のZ軸方向の両方の側端面17には、複数のグラフェンシート15のベーサル面方向(Z軸方向)のエッジ部が前記積層方向Yaに幾層にも重ね合わされた状態となる。換言すると、側端面17には、傾斜方向Xaに筋状に延びる複数条のエッジ部が現れる。つまり、側端面17にもグラフェンシート15のベーサル面方向のエッジが現れる。
すなわち、本実施形態のグラファイト構造体11は、全ての外周面、つまり、上面11A、下面11B、側端面16、側端面17にグラフェンシート15のエッジ部が現れる。
上述したように、グラフェンシート15は、六員環が共有結合して形成されているため、グラフェンシート15における前記ベーサル面方向は六員環による強い共有結合で炭素間が繋がっている。しかしながら、グラファイト構造体11の全ての外周面が上述したエッジ面であるため、前記外周面においては、六員環による前記ベーサル面方向の共有結合が切断された状態となっている。そのため、グラファイト構造体11の全ての外周面に露出されるエッジ部の炭素原子の結合は不飽和な状態となっている。そのため、グラファイト構造体11の外周面は、前記エッジ部の炭素原子が他の物質と反応し易い活性状態となっている。
このようなグラファイト構造体11は、以下のように製作することができる。具体的には、図3に示すように、複数のグラフェンシート15が上下方向(Y軸方向)に積層されてなるブロック状のグラファイトブロック18を用意し、このグラファイトブロック18を切削加工或いはレーザー加工することにより、グラファイト構造体11を得ることができる。詳細には、グラファイトブロック18が、グラファイトブロック18のベーサル面に対して前記所定角度θ(図2参照)で切削されることにより、その切削面に上述の上面11A、下面11B、側端面16、側端面17を形成する。これにより、板状のグラファイト構造体11を製作することができる。なお、グラファイトブロック18に対してブラスト処理、ウェットエッチング、或いはドライエッチングすることにより、グラファイト構造体11を製作することも可能である。
図2に示すように、グラファイト構造体11の上面11Aには、複数の孔部30が形成されている。上面11Aは、グラファイト構造体11において発熱体としての半導体素子56(熱伝達対象物)が取り付けられる側の面である。孔部30は、上面11Aからグラファイト構造体11の内部へ穿孔されており、上面11Aから鉛直下方へ延びている。孔部30は、上面11Aからグラファイト構造体11の内部側へ切削加工或いはレーザー加工することにより形成される。上面11Aには、複数の孔部30がX軸方向及びZ軸方向へ等間隔で並ぶように配置されている。
孔部30は、平面視で円形状に形成されており、上面11Aから下面11Bに貫通する円筒形状に形成されている。
各孔部30のX軸方向及びZ軸方向の間隔は、取付領域10Bに取り付けられる熱伝達対象物の種類やサイズや、グラファイト構造体11のサイズや厚みなどに対応して定めることができ、例えば、0.5mm〜50mmの範囲内で定めることができる。孔部30の単位面積あたりの数も、取付領域10Bに取り付けられる熱伝達対象物の種類やサイズや、グラファイト構造体11のサイズや厚みなどに対応して定めることができる。なお、複数の孔部30の配列方向は、X軸方向及びZ軸方向に限られない。上面11Aにおいて、複数の孔部30は、全ての方向に等間隔となるように正三角形状に配置(トライアングル配置)されていてもよい。
また、孔部30の内径や孔部30の内部形状は、被覆層20の厚み、後述する被覆層20の被覆材の種類、グラファイト構造体11の厚みD1などに基づいて、熱伝導構造体10の用途の応じた適切な値に定められる。
上述したように、熱伝導構造体10は、グラファイト構造体11の全周面を覆うように設けられた被覆層20を有している。被覆層20は、グラファイト構造体11の全周面に密着するように形成されている。
具体的には、被覆層20は、例えば、グラファイト構造体11の各外周面に現れる不飽和な状態(未結合手を有する状態)の炭素原子と結合して化合物を生成することが可能な金属元素を含む被覆材を有し、前記被覆材によって各外周面に形成される皮膜である。前記金属元素としては、例えば、所謂活性金属であるニッケルやチタンを適用することができる。ニッケル及びチタンは、グラファイト構造体11の各外周面(エッジ面)に対する濡れ性、つまり、不飽和状態の炭素原子との結合反応性が極めて高い。なお、前記金属元素は、線膨張率がグラファイト構造体11の前記積層方向の線膨張率(約25[ppm/K])よりも小さいものが好ましく、上述したニッケル及びチタン以外に、鉄、アルミニウム、金、銀、銅、亜鉛、クロム、錫、鉛、タングステン、タンタル、SUS304、SUS430、或いはこれらの金属を含む合金が好適である。
また、被覆層20は、グラファイト構造体11の各外周面に現れるグラフェンシート15のエッジ部と密着する合成樹脂を含む被覆材を有し、前記被覆材によって全ての外周面に密着して形成される皮膜であってもよい。前記合成樹脂としては、耐熱性が150℃以上のエンジニアリングプラスチックが好ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)などのフッ素系樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリベンゾイミダゾール、パリレン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマー、エポキシ樹脂、シリコーン系樹脂などを適用することができる。
また、被覆層20は、グラファイト構造体11の各外周面に現れるグラフェンシート15のエッジ部と密着する無機系化合物を含む被覆材を有し、前記被覆材によってグラファイト構造体11の各外周面に密着して形成される皮膜であってもよい。前記無機系化合物としては、高分子や低分子シランを原料としたガラス、窒化ケイ素などの窒化物やアルミナなどの酸化物といったセラミック、炭素系のダイヤモンドライクカーボンなどを適用可能である。
また、被覆層20は、例えば、シランカップリング剤やメタル系カップリング剤などのコーティング剤によってグラファイト構造体11の各外周面に密着して形成されるものであってもよい。
被覆層20の形成方法としては、例えば、スパッタや溶射、蒸着などのようなドライコーティング法、メッキや液コーティング法(例えばディッピング)などのウェットコーティング法などによって、グラファイト構造体11の各外周面に皮膜を形成する方法を用いることができる。
なお、本実施形態では、被覆部20の一例として、グラファイト構造体11の表面に形成されたコーティング層を例示するが、被覆部20はコーティング層に限られない。例えば、被覆部20は、グラファイト構造体11の上面11A又は全周面に接合された上述の金属元素を含む板部材(例えば、銅板、アルミ板)、上述の合成樹脂を含む板部材、上述の無機系化合物を含む板部材(例えば、セラミック板)などであってもよい。また、被覆部20は、グラファイト構造体11の表面に、放熱グリスや熱伝導シート、ギャップフィラーなどのサーマル・インターフェース・マテリアル(TIM材)を形成したものであってもよい。また、被覆部20は、例えば、上述の金属元素を含む金属ブロックの中央にグラファイト構造体11が配置されるように、鋳造によって形成することも可能である。
以上のことから、熱伝導構造体10は、まず、グラファイトブロック18(図3参照)からグラファイト構造体11を製作し、グラファイト構造体11に孔部30を形成した後に、上述した形成方法によってグラファイト構造体11の全周面に被覆層20を形成することにより、製造することができる。
図4は、熱伝導構造体10の断面構造の一例を示す拡大断面図である。図4には、孔部30の中心で切断された断面図が示されている。被覆層20がグラファイト構造体11の全周面に形成されることにより、当該被覆層20は、各外周面のみならず、孔部30の内周面にも密着した状態で形成される。本実施形態では、被覆層20によって孔部30が埋められている。
このように熱伝導構造体10が構成されているため、グラフェンシート15のエッジ部が現れた各外周面(上面11A、下面11B、側端面16、側端面17)に対して、被覆層20が密着した状態で強固に各外周面に形成される。また、各該周面には、複数のエッジ部が現れるため、各該周面において所謂アンカー効果を得ることができる。このため、被覆層20の形成時にエッジ部間の隙間に被覆材が入り込むことによる前記アンカー効果によって、各外周面と被覆層20との密着性がアップする。これにより、グラファイト構造体11が熱膨張しても、被覆層20が剥がれることや割れることが防止される。また、上面10Aに発熱体などの熱伝達対象物が取り付けられた場合に、前記熱伝達対象物の熱が被覆層20を伝って上面11Aに現れた前記エッジ部に伝達すると、そのエッジ部からベーサル面方向へ素早く伝達して拡散する。また、前記熱膨張による被覆層20の剥がれや割れを防止ための多数の貫通孔をグラファイト構造体11に形成する必要がないため、複数の貫通孔を形成することによってグラファイト構造体11が脆くなることを防止できる。つまり、熱伝導構造体10の強度を低下させることなく、且つ、グラフェンシート15のベーサル面方向における高い熱伝導率を維持することが可能である。
また、本実施形態の熱伝導構造体10は、グラファイト構造体11の全体においてグラフェンシート15が上面11A及び下面11Bに対して傾斜方向Xa(図2参照)へ傾斜している。そのため、熱伝導構造体10の上面10Aに定められた取付領域10Bに前記発熱体としての半導体素子56が取り付けられた場合、熱伝導構造体10は、半導体素子56から熱を吸熱し、図4に示すように、その熱をベーサル面方向、つまり、傾斜方向Xaへ伝達し拡散する。更に、熱伝導構造体10は、図1に示すように、吸熱した熱をZ軸方向(方向Z1及び方向Z2)にも伝達し拡散する。
また、ベーサル面間の熱伝達効率は悪いため、上面10Aから吸熱された熱は、傾斜方向Xaとは逆の方向、つまり、グラファイト構造体11の内部をベーサル面に沿って上面11Aへ向かう方向Xb(図4参照)へは伝達され難い。孔部30が形成されている場合は、孔部30内の被覆層20を伝って方向Xbへも多少は熱が伝達されるが、傾斜方向Xaに比べると熱は方向Xbへは伝達し難い。したがって、熱伝導構造体10は、取付領域10Bに取り付けられた前記発熱体を主として傾斜方向Xaへ伝達して拡散する用途として好ましく用いられる。
また、熱伝導構造体10は、孔部30の内周面にも被覆層20が形成されている。そのため、図4に示すように、ベーサル面方向に伝達した熱は、孔部30内の被覆層20を伝って隣接する他のグラフェンシート15に伝達し易くなる。つまり、熱伝導構造体10は、上面10Aから吸熱した熱を傾斜方向Xaへ迅速に伝達することができ、また、孔部30内の被覆層20を介してグラファイト構造体11の積層方向Yaへ熱を迅速に伝達することができる。
なお、本実施形態では、孔部30が設けられた熱伝導構造体10を例示するが、孔部30は任意の要素であり、本発明に必須の要素ではない。
上述したように、熱伝導構造体10は、主として、パワー半導体やパワーモジュールなどのように、熱を発生する発熱体としての半導体素子56を放熱或いは均熱化する用途として用いられる。以下、図5を参照して、上述した熱伝導構造体10を有する冷却拡散装置50(本発明の熱拡散装置の一例)、及び冷却拡散装置50と半導体素子56とからなる半導体モジュール60(本発明の熱拡散装置の一例)について説明する。
図5に示すように、冷却拡散装置50は、熱伝導構造体10と、ヒートシンクなどの放熱体57と、を備える。
熱伝導構造体10の上面10Aには、一方側(図5の右側)の端部にパワー半導体やパワーモジュールなどの発熱体としての半導体素子56が取り付けられている。上面10Aに半導体素子56が取り付けられることにより、冷却拡散装置50と半導体素子56とからなる半導体モジュール60が構成されている。
また、熱伝導構造体10の下面10Cには、ヒートシンクなどの放熱体57が取り付けられている。これにより、冷却拡散装置50は、熱伝導構造体10の上面10Aに取り付けられた半導体素子56から熱伝導構造体10及び放熱体57を通じて熱を効率よく放熱することが可能である。また、半導体素子56における熱分布に偏りがある場合でも、熱伝導構造体10が半導体素子56の熱を上面10Aから吸熱して、その後に傾斜方向Xa、Z軸方向(方向Z1、方向Z2)、更には上面10Aに沿う方向Y1へも迅速に伝達するため、半導体素子56における熱分布を均等にすることができる。
なお、上述した第1実施形態では、グラファイト構造体11の全周面に被覆層20が形成された例について説明したが、本発明はこの構成に限られない。例えば、被覆層20がグラファイト構造体11の上面11Aのみに形成された構成、或いは、上面11A及び下面11Bのみに形成された構成にも、本発明は適用可能である。
[第2実施形態]
以下、図6及び図7を参照して、本発明の第2実施形態に係る熱伝導構造体101について説明する。ここで、図6は、熱伝導構造体101が備えるグラファイト構造体111を模式的に示す斜視図である。図7は、熱伝導構造体101の平面図である。本実施形態では、図6に示すように、熱伝導構造体101(図7参照)は、2つのグラファイト構造体11の各側端面16が接合されたグラファイト構造体111を有する。具体的には、グラファイト構造体111は、2つのグラファイト構造体11における方向Xb側の側端面16A同士が互いに接合されている。熱伝導構造体101は、このグラファイト構造体111の全周面に被覆層20が形成されることにより構成される。その他の構成については、第1実施形態の構成と同様である。
このように熱伝導構造体101が構成されているため、図7に示すように、熱伝導構造体101の上面10Aの中央の取付領域10Bに前記発熱体としての半導体素子56が取り付けられた場合、熱伝導構造体101は、半導体素子56から吸熱した熱を平面視で四方へ伝達することができ、更に詳細には、傾斜方向Xa、方向Z1、方向Z2へ伝達することができる。これにより、半導体素子56の熱を効率良く伝達し、拡散することができる。
[第3実施形態]
以下、図8を参照して、本発明の第3実施形態に係る熱伝導構造体102について説明する。ここで、図8は、熱伝導構造体102を示す平面図である。本実施形態では、図8に示すように、熱伝導構造体102は、4つのグラファイト構造体11の各側端面が接合された平面視で正方形状のグラファイト構造体112を有する。グラファイト構造体112における各グラファイト構造体11それぞれは、傾斜方向Xaが正方形の角部へ向かうように、グラフェンシート15が積層されたものである。その他の構成については、第1実施形態及び第2実施形態の構成と同様である。
このように熱伝導構造体101が構成されているため、熱伝導構造体102の上面10Aの中央に前記発熱体としての半導体素子56が取り付けられた場合、熱伝導構造体102は、半導体素子56から吸熱した熱を平面視で四方へ伝達することができ、更に詳細には、各グラファイト構造体11それぞれの傾斜方向Xaへ伝達することができる。これにより、半導体素子56の熱を効率良く伝達し、拡散することができる。
10 :熱伝導構造体
10A :上面
10B :取付領域
10C :下面
11 :グラファイト構造体
11A :上面
11B :下面
15 :グラフェンシート
16 :側端面
16A :側端面
17 :側端面
18 :グラファイトブロック
20 :被覆層
30 :孔部
50 :冷却拡散装置
56 :半導体素子
57 :放熱体
60 :半導体モジュール
101 :熱伝導構造体
102 :熱伝導構造体
111 :グラファイト構造体
112 :グラファイト構造体

Claims (5)

  1. 複数のグラフェンシートが積層されてなるグラファイト構造体と、
    前記グラファイト構造体の外周面のうちの少なくとも一つの表面であり熱伝達対象物が取り付けられる側の平坦な第1表面を覆う被覆部と、を備え、
    前記グラファイト構造体の前記第1表面は、前記第1表面に前記グラフェンシートのエッジ部が現れるように、前記グラフェンシートのベーサル面に対して所定の傾斜角度で交差していることを特徴とする熱伝導構造体。
  2. 前記グラファイト構造体は、前記第1表面に平行な第2表面を含む形状に形成されており、
    前記被覆部は、前記第1表面及び前記第2表面を含む前記外周面に現れる前記グラフェンシートの前記エッジ部と密着した状態で前記外周面に形成されている、請求項1に記載の熱伝導構造体。
  3. 前記グラファイト構造体は、
    前記第1表面から前記グラファイト構造体の内部へ穿孔された孔部を有し、
    前記被覆部が前記第1表面から前記孔部の内面に至って形成されている、請求項1又は2に記載の熱伝導構造体。
  4. 前記孔部は、前記グラファイト構造体を前記第1表面から前記第1表面の反対側の第2表面に貫通している、請求項3に記載の熱伝導構造体。
  5. 請求項1から4のいずれかに記載の熱伝導構造体を備え、
    前記熱伝導構造体の前記被覆部に取り付けられる熱伝達対象物から伝達される熱を拡散する熱拡散装置。
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