JP2020105033A - 鉄ガリウム合金結晶の結晶粒界の評価方法 - Google Patents

鉄ガリウム合金結晶の結晶粒界の評価方法 Download PDF

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Abstract

【課題】FeGa合金単結晶において、1〜2°の方位差の結晶粒界の有無を、広範囲の面において一度に観察することのできる評価方法を提供することを目的とする。【解決手段】鉄ガリウム合金結晶の結晶粒界の評価方法であって、前記鉄ガリウム合金結晶の表面を、硝酸濃度が2〜5質量%のナイタールでエッチングする第1エッチング工程と、前記第1エッチング工程後、エッチング面を洗浄する洗浄工程と、前記洗浄工程後、洗浄したエッチング面を、硝酸濃度が2〜5質量%のナイタールでエッチングする第2エッチング工程と、を含む、結晶粒界の評価方法。【選択図】図2

Description

本発明は、鉄ガリウム合金結晶の結晶粒界の評価方法に関する。
鉄ガリウム合金(FeGa合金)は、機械加工が可能であり、100〜350ppm程度の大きな磁歪を示すため、磁歪式振動発電やアクチュエータ等に用いられる素材として好適であり、近年、注目されている。
さらに、FeGa合金は、結晶の特定方位に大きな磁気歪みを現出させることができるため、磁歪部材の磁歪を必要とする方向と結晶の磁気歪みが最大となる方位を一致させた単結晶の部材としての用途が最適であると考えられる。
FeGa合金結晶の製造方法においては、粉末冶金法や、急冷凝固法(例えば、特許文献1)、液体急冷凝固法により製造した薄片や粉末状の原料を加圧焼結して製造する方法(例えば、特許文献2)などが提案されている。しかし、これらの種々の製造方法は、いずれも部材内は単結晶にならず多結晶となり、部材内の全ての結晶方位を磁気歪みが最大となる方位に一致させることは不可能で、単結晶の部材より磁歪特性が劣る。
一方で、単結晶の製造には、引き上げ法や一方向凝固法などがある。例えば、特許文献3には、引き上げ法(チョクラルスキー法)による単結晶の育成方法が記載されている。また、特許文献4には、一方向凝固法による単結晶の育成方法、特許文献5にはブリッジマン法、特許文献6にはマイクロ引き下げ法が記載されている。これらの育成方法は、鉄ガリウム合金の単結晶製造に適用することができる。
特許第4053328号公報 特許第4814085号公報 特開2016−28831号公報 特開2016−138028号公報 特開平4−108699号公報 特開2017−200867号公報
しかしながら、特許文献3の引き上げ法の場合、融液界面の浮遊物が多結晶の起点となる場合がある。酸化物系の浮遊物の発生を回避するために還元雰囲気とした場合にも、発熱体等の炉内構成物にカーボンを用いる場合には、このカーボンが浮遊してしまうおそれがあるため、浮遊物発生の回避は困難であり、多結晶部分の発生を完全に避けることは難しい。従って、育成した結晶全体に粒界がないか評価することは重要である。
特許文献4〜特許文献6の一方向凝固法、ブリッジマン法およびマイクロ引き下げ法の場合には、種結晶が融液の下方に置かれるために、種結晶と融液の界面に酸化物等の異物が付着したまま結晶成長することにより、多結晶となる可能性がある。
また、引き上げ法、一方向凝固法、ブリッジマン法およびマイクロ引き下げ法のいずれの場合にも、融液と接する種結晶の成長面に粒界が存在した場合には、育成中の結晶にも粒界が伝搬してしまう。粒界の発生により、FeGa合金結晶の磁歪量が減少するため、この結晶を用いた素材の振動発電量が減少してしまう。
このように、引き上げ法、一方向凝固法、垂直ブリッジマン法およびマイクロ引き下げ法等の単結晶製造方法を用いても、粒界発生の可能性がある。FeGa合金が多結晶化した場合、各粒界間の方位が大きく異なる場合には、図1のように目視観察にて粒界の存在が確認できる。しかし、各粒界間の方位の差が1〜2°の場合には目視では観察できない。なお、EBSD(電子後方散乱回折法)を用いれば1〜2°の差を観察できるが、電子線が照射される局所しか観察できないため、結晶全体に対して粒界がないかの判定には使用できない。また、EBSDによる粒界の評価には時間がかかり、多量のサンプルを評価することは出来ない。
本発明は、このような事情に鑑み、FeGa合金結晶において、1〜2°の方位差の結晶粒界の有無を、広範囲の面において一度に観察することのできる評価方法を提供することを目的とする。
結晶粒界を簡易的に評価する方法として、金属表面を腐食する(エッチング)方法がある。この方法は、例えば観察する面をバフ研磨等で鏡面加工し、その後、その面を腐食液に浸漬して金属表面を腐食させてから、腐食させた面を観察して結晶粒界の有無を評価する方法である。エッチングに用いる腐食液は、対象となる金属によって異なるが、例えば鉄系合金であれば、硝酸とアルコールを混合したナイタールを使用するのが一般的である。
従来のエッチング手法では、FeGa合金結晶にある各粒界間の方位の差が1〜2°の結晶粒界を観察することは出来なかったが、本発明者らは、鋭意検討の結果、ナイタールを用いて複数回に分けてエッチングすることによって、このような結晶粒界を観察することのできる評価方法を見出し、本発明を想到するに至った。
上記課題を解決するため、本発明の鉄ガリウム合金結晶の結晶粒界の評価方法は、前記鉄ガリウム合金結晶の表面を、硝酸濃度が2〜5質量%のナイタールでエッチングする第1エッチング工程と、前記第1エッチング工程後、エッチング面を洗浄する洗浄工程と、前記洗浄工程後、洗浄したエッチング面を、硝酸濃度が2〜5質量%のナイタールでエッチングする第2エッチング工程と、を含む。
前記第1エッチング工程および前記第2エッチング工程において、エッチング処理時間は30秒〜3分であってもよい。
前記洗浄工程において、前記エッチング面はエタノールで洗浄してもよい。
本発明の鉄ガリウム合金結晶の結晶粒界の評価方法によれば、1〜2°の方位差の結晶粒界の有無を、XRD分析やEBSDによらず、簡便にかつ一度に広範囲の面を評価することができる。
また、本発明の鉄ガリウム合金結晶の結晶粒界の評価方法を用いて評価した鉄ガリウム合金結晶を、種結晶として使用し、鉄ガリウム合金単結晶の育成を行うことができる。そのため、原料融液と接する種結晶のシーディング面に結晶粒界が存在しない種結晶を用いることが容易であり、育成した結晶に粒界が伝搬することがなく、鉄ガリウム合金単結晶の育成の歩留まりを上げることができる。
多結晶化したFeGa合金において、方位差が大きい場合の表面を示す写真である。 本発明の結晶粒界の評価方法によって、粒界を確認できたFeGa合金の試験対象面を示す写真である。 鉄ガリウム合金の単結晶を育成する単結晶育成装置の概略断面図である。
[FeGa合金結晶の結晶粒界の評価方法]
以下、本発明の一実施形態にかかるFeGa合金結晶の結晶粒界の評価方法について、説明する。本発明の評価方法は、第1エッチング工程と、洗浄工程と、第2エッチング工程と、を含む。
[第1エッチング工程]
本工程は、鉄ガリウム合金結晶の表面を、硝酸濃度が2〜5質量%のナイタールでエッチングする工程である。エッチング液は、評価する金属によって異なるが、評価対象がFeGa合金結晶の場合は、鉄鋼材料の組織観察に使用されるエッチング液が好ましく、本発明では、ナイタールを使用する。
ナイタールは、硝酸とアルコール(メタノール、エタノール等)の混合液であり、硝酸濃度が10質量%以上になると爆発の危険性があり、保存安定性の観点から、硝酸濃度は5質量%以下で扱うのが好ましい。本発明では、エタノールと硝酸を混合したナイタールであって、硝酸濃度が2〜5質量%のナイタールを使用することが好ましい。硝酸濃度が2質量%未満の場合、エッチングが不十分となり、結晶粒界の評価が困難となるおそれがある。
評価面のエッチングは、一般的に硝酸の濃度と浸漬時間で決定される。例えば、鉄鋼材料であれば、硝酸濃度が3質量%のナイタールに数秒浸漬しただけで、結晶粒界を観察することができる。
しかしながら、FeGa合金結晶の場合には、硝酸濃度が3質量%のナイタールに5秒〜6分間浸して1回のみエッチングしても、表面に結晶粒界は観察されず、従来は、ナイタール液等を用いた金属表面を腐食する方法では、FeGa合金の結晶粒界の評価は難しいとの認識であった。
ただし、本発明であれば、第1エッチング工程と、後述する洗浄工程および第2エッチング工程によって、ナイタールで複数回に分けてFeGa合金結晶をエッチングし、エッチング後にエッチング面を洗浄することによって、結晶粒界の評価が可能となっている。
(処理時間)
エッチング液への浸漬時間(処理時間)は、30秒〜3分とすることが好ましい。1回の浸漬時間を長くしても、FeGa合金結晶の内部へエッチングが進行せず、結晶粒界を観察することはできない。そこで、短時間の浸漬処理を複数回実施し、エッチング後にはエッチング面を洗浄することで、FeGa合金結晶の表面を少量ずつエッチングすることによって、結晶粒界を観察することが可能となる。エッチングの処理時間が30秒未満の場合には、エッチングが十分に進行しないおそれがある。また、処理時間を3分より多くしても、腐食部分がエッチングを阻害するおそれがあり、FeGa合金結晶の内部へとエッチングが進行しない場合がある。
[洗浄工程]
本工程は、第1エッチング工程後、エッチング面を洗浄する工程である。FeGa合金結晶の場合は、腐食部分がある程度多くなることでエッチングの進行が阻害されてしまう。そこで、本工程により、エッチング処理による腐食部分を除去することによって、後述する第2エッチング工程では、FeGa合金結晶の新たな表面をエッチングすることができるため、エッチングが更に進行して結晶粒界を確認することができる。
(洗浄液)
エッチング面を洗浄する洗浄液としては、腐食部分を除去することのできる純水またはエタノールを使用することが好ましい。例えば、洗浄液にエタノールを使用することで、洗浄によるFeGa合金結晶の表面の酸化を防ぎ、エッチング工程によるエッチング処理を効率的に行うことができる。
エッチング面の洗浄方法は、腐食部分を除去することができれば、特に限定されない。例えば、エッチング面をエタノールに浸漬することや、エッチング面にエタノールを掛け流すことにより、腐食部分を除去することができる。また、腐食部分の除去後、表面をウエス等で拭き取り、自然乾燥させた後、後工程にてエッチング処理をしてもよい。
[第2エッチング工程]
本工程は、洗浄工程後、洗浄したエッチング面を、硝酸濃度が2〜5質量%のナイタールでエッチングする工程である。洗浄して腐食部分を除去した後の表面を、更にエッチングすることにより、FeGa合金結晶の内部へエッチングが進行するため、結晶粒界の評価が容易となる。
本工程では、エタノールと硝酸を混合したナイタールであって、硝酸濃度が2〜5質量%のナイタールを使用することが好ましい。硝酸濃度が2質量%未満の場合、エッチングが不十分となり、結晶粒界の評価が困難となるおそれがある。また、硝酸濃度が5質量%を超えると、爆発のおそれや、保存安定性が低下するおそれがある。
(処理時間)
エッチング液への浸漬時間(処理時間)は、第1エッチング工程と同様に30秒〜3分とすることが好ましい。処理時間が30秒未満の場合には、エッチングが十分に進行しないおそれがある。また、処理時間を3分より多くしても、腐食部分がエッチングを阻害するおそれがあり、FeGa合金結晶の内部へとエッチングが進行しない場合がある。
[他の工程]
本発明のFeGa合金の粒界評価方法は、上記の第1、第2エッチング工程および洗浄工程以外の工程を含むことができる。例えば、第1エッチング工程前に評価面を研磨や研削して平滑となるように調整する表面調整工程、第2エッチング工程後のエッチング面から腐食部分を除去する、上記と同様の洗浄工程、評価面の結晶粒界の有無を目視やルーペ、顕微鏡等で確認する確認工程等が挙げられる。また、第2エッチング工程後に洗浄工程を行い、さらにエッチング工程やその後の洗浄工程を繰り返し行ってもよい。例えば、評価面の結晶粒界の有無を確認できるまで、エッチング工程と洗浄工程を繰り返してもよい。
(表面調整工程)
以下、FeGa合金の種結晶のシーディング面について結晶粒界の評価を行うことを前提とし、評価対象表面の調整工程について、具体的に説明する。
まずは、種結晶において、粒界を評価する結晶面を特定する。FeGa合金結晶は、結晶の特定方位に大きな磁気歪みを現出させることができる。例えば、FeGa合金結晶の育成方向である<100>と垂直な(100)面をシーディング面とするべく、FeGa合金の種結晶を切断する。
FeGa合金の種結晶の切断方法としては、外周刃および放電加工ワイヤーカット等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
切断したFeGa合金の種結晶は、シーディング面となる面を平研研削または鏡面研磨等により、平滑面に加工する。平研研削の場合には、例えば#1000以上の砥石で仕上げることができる。鏡面研磨の場合には、コロイダルシリカを用いることができるが、バフ研磨仕上げでも問題ない。これらの処理によって表面調整を行った後、第1エッチング工程へと処理を進めることができる。
(確認工程)
確認工程では、評価面の結晶粒界の有無を目視や顕微鏡等で確認する。結晶粒界の有無の観察は、表面調整工程によりFeGa合金結晶の表面を鏡面研磨仕上げした場合、目視観察にて粒界の有無を確認できる。また、表面調整工程により平研研削仕上げした場合には、研削跡と粒界を区別するために顕微鏡を用いて粒界の有無を確認することができる。
以上のように、本発明の結晶粒界の評価方法を用いれば、XRD分析やEBSDによらず目視等にて簡易に結晶粒界の有無の評価が可能であり、また、一度に広範囲の表面を評価することができる。なお、本発明の評価方法は、種結晶の結晶粒界の評価に限定されず、種々の目的によって結晶粒界の評価が必要となるFeGa合金の対象面を評価する方法として、用いることが出来る。
[鉄ガリウム合金単結晶の育成方法]
次に、FeGa合金単結晶の育成方法について説明する。上記した本発明の結晶粒界の評価方法によって評価された鉄ガリウム合金結晶を種結晶とする。そして、本発明の結晶粒界の評価方法によって結晶粒界の存在が認められない面をシーディング面として、鉄ガリウム合金単結晶を育成する。例えば、結晶粒界が観察されない(100)面をシーディング面としたFeGa合金種結晶を用いることができる。
FeGa単結晶の育成方法は、引き上げ法、垂直ブリッジマン法、垂直温度勾配凝固法、一方向凝固法およびマイクロ引き下げ法等、種結晶を用いる結晶育成方法に適用できる。種結晶の大きさ等は、各結晶育成方法に応じて決定することができる。種結晶の結晶方位は、例えば(100)面をシーディング面とすることができる。この面は、FeGa結晶の特定方位に大きな磁気歪みを現出させることができる面である。
上記した評価方法を用いてシーディング面に結晶粒界の無い種結晶のみを使用して、単結晶の育成を行うことができる。本発明の評価方法によって、種結晶のシーディング面に結晶粒界が無いことを確認できるため、原料融液と接する種結晶のシーデング面に粒界が存在した時に生じる、育成した結晶への粒界の伝搬が無くなるため、安定してFeGa単結晶を育成することが可能となり、育成歩留まりを向上させることができる。
FeGa合金単結晶の単結晶育成装置および単結晶育成方法としては、従来技術を用いることができる。
以下、一例として垂直ブリッジマン法(VB法)による鉄ガリウム合金の単結晶育成方法について、図3に示す単結晶育成装置を参照して、より具体的に説明する。
〈単結晶育成装置〉
図3は、鉄ガリウム合金の単結晶を育成する単結晶育成装置の概略断面図である。この図3では、単結晶育成装置100における単結晶育成用坩堝10とFeGa合金種結晶16、原料となる鉄とガリウムの混合物17との位置関係を模式的に示している。
単結晶育成装置100は、断熱材11、上段ヒーター12a、中段ヒーター12b、下段ヒーター12c、可動用ロッド13、坩堝受け14、熱電対15、真空ポンプ18および、チャンバー19を備えている。単結晶育成装置100は、チャンバー19内の上部が高温、下部が低温となる温度分布を実現可能な構成となっており、VB法やVGF法(垂直温度勾配凝固法)等の一方向凝固結晶成長法により、鉄とガリウムの混合物の融解物17を坩堝10中で固化させることで、FeGa合金単結晶を育成することができる。
図3に示すように単結晶育成装置100では、断熱材11の内側にカーボン製の抵抗加熱ヒーター12が配置される。FeGa合金単結晶の育成時に、抵抗加熱ヒーター12によりホットゾーンが形成される。抵抗加熱ヒーター12は、上段ヒーター12a、中段ヒーター12bおよび下段ヒーター12cとで構成され、これらのヒーター12a〜12cへの投入電力を調整することにより、ホットゾーン内の温度勾配を制御することが可能となっている。
抵抗加熱ヒーター12の内側には、単結晶育成用坩堝10が配置され、上下方向に移動可能な可動用ロッド13が設けられた坩堝受け14(支持台)に載置されている。単結晶育成用坩堝10内の下部に、FeGa合金種結晶16が充填され、このFeGa合金種結晶16の上に、粒子状やフレーク状等の原料として鉄とガリウムの混合物17が充填される。
育成炉には、チャンバー19と真空ポンプ18が設置されており、チャンバー内を真空雰囲気に調整して単結晶を育成することができる。さらに、アルゴンや窒素等の不活性ガスをチャンバー19へ導入することができ、チャンバー内を不活性雰囲気にも調整できる。
単結晶育成用坩堝10の材質は、鉄ガリウム合金の単結晶と化学的反応性が低く、高融点材料であるアルミナが好ましい。また、マグネシアや熱分解窒化ホウ素(Pyrolitic Boron Nitride)でもよい。
上方側が開放された単結晶育成用坩堝10には、ゴミ落下防止用の蓋材(図示せず)を被せてもよい。単結晶育成用坩堝10は、上述したように単結晶育成装置100内で可動用ロッド13が設けられた坩堝受け14上に載置され、可動用ロッド13を上下させることにより、単結晶育成用坩堝10を育成炉内で上下させることができる。また、単結晶育成用坩堝10には、坩堝の温度をモニタリングできる熱電対15が取り付けられている。
〈単結晶育成装置100を用いたFeGa合金単結晶の育成方法の一例〉
次に、単結晶育成装置100を用いた鉄ガリウム合金のVB法による単結晶育成方法について、図3を参照しつつ説明する。まず、単結晶育成用坩堝10の下部に、主面方位が<100>方位に上記評価方法を用いて結晶粒界の無い(すなわち、シーディング面に結晶粒界が無い)ことを確認したFeGa合金種結晶16を配置する。そして、FeGa合金種結晶16の上には、原料である鉄とガリウムの混合物17を必要量配置する。
次に、チャンバー19内にアルゴンや窒素等の不活性ガスを流し、チャンバー19内を不活性雰囲気に調整する。窒化ガリウム等が生成するおそれがある場合には、不活性ガスとしてアルゴンガスを導入することが好ましい。チャンバー19内が不活性雰囲気となった後、単結晶育成用坩堝10を囲むように配置された上段ヒーター12a、中段ヒーター12bおよび下段ヒーター12cを作動して、昇温し、鉄とガリウムの混合物17の融解を開始する(融解工程)。
鉄とガリウムの混合物17がほぼ融解して融解物となったら、真空ポンプ18を作動して、チャンバー19内を減圧し、融解物中の気泡を取り除く(気泡除去工程)。
気泡除去工程後、チャンバー19内にアルゴンや窒素等の不活性ガスを流し、再びチャンバー19内を不活性雰囲気に調整した後、単結晶育成用坩堝10の内部でFeGa合金の単結晶を育成する(育成工程)。具体的には、抵抗加熱ヒーター12を用いて、FeGa合金種結晶16および融解物(鉄とガリウムの混合物17)が収納された単結晶育成用坩堝10を、高さ方向の上方の温度が高く、下方の温度が低い温度分布となるように加熱する。この状態で、チャンバー19内の温度を、FeGa合金種結晶16が高さ方向の上半分位まで融解するまで昇温し、シーディングを行う。その後、そのままのチャンバー19内の温度勾配を維持しながら、抵抗加熱ヒーター12の出力を徐々に低下させ、すべての融解物を固化させた後、所定速度で冷却を行ってFeGa合金の単結晶を得る。
次に、チャンバー19内の温度が室温程度になったことを確認した後、育成された単結晶が入った単結晶育成用坩堝10を坩堝受け14から取り外し、さらに単結晶育成用坩堝10から育成された単結晶を取り出す。
また、FeGa合金の単結晶を育成するためのシーディングは、FeGa合金種結晶16の上部と鉄とガリウムの混合物17とを融解させて、安定した固液界面を形成させることにより行われる。ここで、上記固液界面の温度およびその温度での保持時間が、シーディングにおいて重要な要素となる。その理由としては、FeGa合金種結晶16はその表面近傍に、FeGa合金種結晶16の加工時に形成された破砕層を有しており、単結晶を育成するためにはこの破砕層を融解させておく必要があるためである。また、FeGa合金種結晶16が全て融解してしまう前に、固液界面を形成させておく必要がある点でも、固液界面の温度およびその温度での保持時間は重要である。
上記要件を満足させるため、FeGa合金種結晶16と融解物との境界面の温度が、FeGa合金の単結晶の融点から融点よりも20℃高い温度までの範囲内になるような位置に、単結晶育成用坩堝10をセットする。FeGa合金の単結晶をより安定して育成させる観点から、境界面の温度は、FeGa合金単結晶の融点から融点よりも10℃高い温度までの範囲内であることが更に好ましい。これらの温度で所定時間(例えば1時間以上、好ましくは4時間〜6時間)保持し、FeGa合金種結晶16の上部と鉄とガリウムの混合物17とを融解させてシーディングを行う。FeGa合金種結晶16は、単結晶育成の核となるものであり、FeGa合金種結晶16は、FeGa混合原料17と一体化させるために一部を融解させるが、FeGa合金種結晶16の全部を融解させないようにしなければならない。
シーディングが終了した後、単結晶育成用坩堝10を徐々に降下させてホットゾーン内の温度勾配がある領域を通過させる。このようにして、FeGa合金種結晶16の結晶方位に従い、融解物を冷却固化させることでFeGa合金の単結晶が育成される。
上述したようにFeGa単結晶の融点に対して、FeGa種結晶16と鉄とガリウムの混合物17との界面温度を上記融点から融点よりも20℃高い温度までの範囲内にして溶融を行っているため、FeGa合金種結晶16の上部数ミリ程の部分と鉄とガリウムの混合物17とが融解し、FeGa合金種結晶16と鉄とガリウムの混合物17とを一体にすることができる。尚、FeGa合金種結晶16と鉄とガリウムの混合物17との界面温度が上記融点よりも20℃を超えて高くなると、FeGa合金種結晶16の底面部まで融解してしまう場合があり、単結晶の育成に不具合が生じるおそれがある。
また、FeGa合金種結晶16の上部と鉄とガリウムの混合物17を融解させる保持時間は、上述したように1時間以上とすることが好ましい。1時間以上保持することにより、FeGa合金種結晶16と鉄とガリウムの混合物17との固液界面を安定化させることができるため、単結晶内部に欠陥等の生じない品質の高い単結晶を育成することができる。また、かかる保持時間を4〜6時間とすることは更に好ましい。すなわち、4時間以上保持すれば、概ねシーディングに関する反応は進行しており、6時間以下で概ね反応は終了している。従って、保持時間を4〜6時間とすることにより、鉄ガリウム合金単結晶の生産性を低下させずにシーディングを安定して行うことが可能となる。
以下、本発明について、実施例および比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
[結晶粒界の有無の評価]
〈評価用試験体の作成〉
本実施例では、結晶粒界の観察が確認できるように、予めXRD(X線回折)分析により結晶粒界が確認できた表面を有するFeGa合金結晶であって、目視ではその表面の結晶粒界を確認することのできない結晶を評価用試験体とした。
具体的には、直径2インチのFeGa合金結晶のインゴットを、種結晶とした場合の成長方向と垂直な(100)面で、5mm間隔で板状に切断し、切断した表面を鏡面研磨した。そして、鏡面研磨面について、XRD(X線回折)分析により、鏡面研磨面の円周付近を90°毎に4箇所について(200)回折角を測定した結果、結晶粒界として2°の方位差のずれが認められ、かつ目視では結晶粒界の確認ができなかったものを、選出した。さらに、選出した試験体のXRD測定面を再度鏡面研磨することで、結晶粒界の確認された部位が分からない状態にして試験対象面としたものを、評価用試験体とし、以下の実施例および比較例を実施した。
[実施例1]
エタノール(純度99.9% JIS特級)100ミリリットルに対し、60%硝酸を5ミリリットル混合し、硝酸濃度が2.9質量%のナイタールを作製し、速やかに常温で試験対象面をナイタールに浸漬して2分間エッチングした(第1エッチング工程)。その後、エッチングした面をエタノール(純度99.9% JIS特級)へ5秒漬けて取り出し、さらにエッチングした面へエタノールを掛け流して腐食部分を除去し、エタノールをウエスで拭き取って自然乾燥させた(洗浄工程)。次に、第1エッチング工程で使用した硝酸濃度が2.9質量%のナイタールに、速やかに常温で試験対象面を浸漬して2分間エッチングした(第2エッチング工程)。第2エッチング工程後、上記と同様に洗浄工程を実施して腐食部分を除去し、自然乾燥させた。
上記の処理を行った試験対象面について、結晶粒界の有無を目視観察した。評価基準観察は、×:試験対象面をその方向から観察しても結晶粒界が見えない、○:一見すると何も見えないが、試験対象面を傾けて光の当たり方を変えると、ある方向から結晶粒界が薄ら確認できる、◎:試験対象面をあらゆる方向から観察しても結晶粒界が確認できる、の3段階で判断した。図2に示す写真は、本発明の結晶粒界の評価方法によって、粒界を確認できたFeGa合金の試験対象面を示す写真であり、図2(a)にて確認できる粒界に沿って線を付したものが図2(b)である。上記した結晶粒界の評価基準にあてはめると、図2の試験対象面は〇の評価に相当する。実施例1の結晶粒界は、図2と同様の粒界が観察され、〇の評価となった。その結果を表1に示す。
[実施例2〜実施例7][比較例1〜12]
ナイタールの硝酸濃度、エッチングの処理回数およびエッチング処理時間を表1に示す設定で行い、エッチング後にはエッチング面を上記と同様に洗浄した。その他の条件については、実施例1と同様に行い、結晶粒界の有無を目視観察した。その結果を表1に示す。
[実施例8〜10]
ナイタールの硝酸濃度、エッチングの処理回数およびエッチング処理時間を表1に示す設定で行い、エッチング後にはエッチング面を上記と同様に洗浄した。また、エッチング後の洗浄について、洗浄液をエタノールに替えて純水で実施した。その他の条件については、実施例1と同様に行い、結晶粒界の有無を目視観察した。その結果を表1に示す。
以上の実施例1〜10の結果より、硝酸濃度が2.3質量%以上のナイタールを用いてエッチング処理時間1分以上のエッチングおよび洗浄を2回以上繰り返すことで、(100)面に存在する結晶粒界の有無を目視にて評価できた。特に、実施例2、4、7、10に示すように、エッチングおよび洗浄を3回以上繰り返すことにより、より確実に結晶粒界の有無を目視にて確認することができた。
一方、比較例1〜4、7、8、11、12に示すように、1回のエッチング処理のみでは、処理時間を長くしたり、ナイタールの硝酸濃度を濃くしたりしても、内部へのエッチングが十分に進行せず、結晶粒界の有無を確認することができなかった。また、硝酸濃度が1.7質量%以下のナイタールを用いた場合には、エッチングおよび洗浄の回数を増やしても、内部へのエッチングが十分に進行せず、結晶粒界の有無を確認することができなかった。
[まとめ]
以上のように、本発明の結晶粒界の評価方法であれば、FeGa合金結晶の結晶粒界の有無を、試験対象面全体に対して目視にて評価することができる。そして、この評価方法により、シーディング面に結晶粒界の認められないFeGa合金結晶を選定し、これを種結晶として用いれば、原料融液と接する種結晶のシーデング面に粒界が存在した時に生じる、育成した結晶への粒界の伝搬が無くなる。そのため、安定してFeGa合金単結晶を育成することが可能となり、育成歩留まりを向上させることができる。
10 単結晶育成用坩堝
11 断熱材
12 抵抗加熱ヒーター
12a 上段ヒーター
12b 中段ヒーター
12c 下段ヒーター
13 可動用ロッド
14 坩堝受け
15 熱電対
16 FeGa合金種結晶
17 鉄とガリウムの混合物
18 真空ポンプ
19 チャンバー
100 単結晶育成装置

Claims (3)

  1. 鉄ガリウム合金結晶の結晶粒界の評価方法であって、
    前記鉄ガリウム合金結晶の表面を、硝酸濃度が2〜5質量%のナイタールでエッチングする第1エッチング工程と、
    前記第1エッチング工程後、エッチング面を洗浄する洗浄工程と、
    前記洗浄工程後、洗浄したエッチング面を、硝酸濃度が2〜5質量%のナイタールでエッチングする第2エッチング工程と、を含む、結晶粒界の評価方法。
  2. 前記第1エッチング工程および前記第2エッチング工程において、エッチング処理時間は30秒〜3分である、請求項1に記載の結晶粒界の評価方法。
  3. 前記洗浄工程において、前記エッチング面はエタノールで洗浄する、請求項1または2に記載の結晶粒界の評価方法。
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