本実施形態の説明に先立ち、本願発明者が検討した事項について説明する。
図1は、検討に使用した磁気センサの平面図とその拡大平面図である。
この磁気センサ1は、地磁気等の微弱な磁気を検出するセンサであって、第1の基板2とこれに接着されたSQUID素子3とを有する。
このうち、第1の基板2はMgO基板等の絶縁性の基板である。また、第1の基板2の表面には検出コイル5が形成される。検出コイル5は、YBCO(YBa2Cu3O7?x)等の酸化物超電導体から形成された概略円形のコイルであり、その内側を検出対象の磁束が貫く。このような検出コイル5が一つだけ設けられた磁気センサ1はグラジオメータと呼ばれる。また、二つの検出コイル5が縦方向又は横方向に並べられた磁気センサ1は、磁場偏差型のセンサであり、マグネトメータと呼ばれる。
一方、SQUID素子3は、拡大平面図に示すように、第2の基板4とその上に形成されたループ7とを有する。
第2の基板4は、第1の基板2と同様にMgO等の基板であり、その表面に段差4xが形成される。そして、その段差4xに重なるようにループ7が形成される。
この例では、ループ7の材料として、検出コイル5と同様にYBCO等の酸化物超電導体を使用する。段差4xにおけるループ7には酸化物超電導体の粒界が形成され、その粒界がジョセフソン接合Jとなる。このように段差4xを利用したジョセフソン接合Jはステップエッジ接合とも呼ばれる。
そのループ7を平面視で検出コイル5に重なるように設けることで検出コイル5とループ7とが相互に磁気的に結合し、検出コイル5を貫く磁束に応じた電流がループ7に流れる。
更に、第2の基板4の表面には、ループ7を流れる電流を外部に取り出すための第1の電極8と第2の電極9が形成される。これらの電極8、9は、例えば厚さが20nm〜500nmの金膜をパターニングすることで形成される。
図2は、図1のI−I線とII−II線のそれぞれに沿う断面図である。
図2に示すように、第2の基板4は、検出コイル5とループ7とを絶縁する絶縁体としての役割も担っており、相対する第1の表面4aと第2の表面4bとを有する。このうち、第1の基板2に相対する第1の表面4aは平坦面となっており、接着剤10を介して検出コイル5と接着される。
一方、第2の表面4bには前述の段差4xが形成される。段差4xの高低差は20nm〜1000nm、例えば400nm程度であり、その段差4xにループ7が200nm程度の厚さに形成される。なお、第2の基板4の厚さは、例えば100μm〜1000μm程度である。
このような磁気センサ1によれば、実使用下において各基板2、4を液体窒素に浸漬し、検出コイル5とループ7の各々を−196℃に冷却して超電導状態とする。そして、検出対象の磁束が検出コイル5を貫くことにより、その磁束に応じてループ7に流れる電流が各電極8、9から外部に取り出される。
磁気センサ1における磁束の検出感度を高めるには、検出コイル5とループ7との間隔Dを小さくすることで検出コイル5とループ7との相互インダクタンスを大きくすればよい。
しかしながら、この例では、第2の基板4の第2の表面4bにループ7を形成したため、第2の基板4の厚みによって検出コイル5にループ7を近づけることができない。
しかも、検出コイル5の材料であるYBCOの熱膨張係数が約9.2ppmk-1であるのに対し、第2の基板4の材料であるMgOの熱膨張係数は約11ppmk-1であり、第2の基板4と検出コイル5は異なる熱膨張係数を有する。よって、この例のように検出コイル5に第2の基板4を接着すると、熱膨張係数の相違に起因した基板横方向の応力が検出コイル5に作用し、それにより検出コイル5にクラックが入るという問題が生じてしまう。
特に、液体窒素の温度(−196℃)から室温に至る広い温度範囲の熱履歴が磁気センサ1に繰り返し加わると、検出コイル5に応力が繰り返して作用してクラックが生じ易くなり、磁気センサ1の信頼性が著しく低下する。
これを避けるために、第2の基板4の表裏を逆にして、銀ペースト等によって第2の表面4b側を第1の基板2に接着することも考えられる。これにより、検出コイル5にループ7が近接すると共に、検出コイル5と第2の基板4とが接合しない構造が得られる。
しかしながら、第2の表面4bには段差4xや各電極8、9等によって大きな凹凸が形成されているため、銀ペーストではその凹凸を吸収しきれず、第2の表面4b側を第1の基板2に良好に接合するのは難しい。特に、ステップエッジ接合を形成するための段差4xはその高低差が400nm程度もあるため、第2の表面4b側を第1の基板2に接合するのが一層難しくなる。
以上のように、この磁気センサ1においては、検出コイル5にループ7を近接させるのが難しいため、磁束の検出感度を高め難い。
以下に、各実施形態について説明する。
(第1実施形態)
本実施形態では、以下のようにしてSQUID素子のループを検出コイルに近づける。
図3は、本実施形態で使用する第1の基板20の平面図とその拡大平面図である。
第1の基板20は、一辺の長さが5mm〜150mm程度の矩形状のMgO基板であり、その上に概略円形の検出コイル21が形成される。検出コイル21の材料は特に限定されないが、この例ではその材料としてYBCO等の酸化物超電導体を使用する。また、検出コイル21の直径は例えば1mm〜150mm程度であり、検出コイル21の線幅は例えば100μm〜10000μm程度である。検出コイル21の平面形状は円形に限定されず、所望の特性や設計に応じて、矩形等であってもよい。また、二つの検出コイル21を並べて磁場偏差型のセンサとしても良い。
このような検出コイル21は、第1の基板20の上側全面にPLD(Pulse Laser Deposition)法でYBCO層を20nm〜2000nm程度の厚さに形成し、それをフォトリソグラフィでパターニングすることにより形成され得る。
また、拡大平面図に示すように、検出コイル21には、基板横方向に延長された延長部21aが設けられる。延長部21aは、後述のSQUIDのループと磁気的に結合する部分であり、互いに平行な直線部21b、21cと、これらを接続する接続部21dとを備える。
そして、その延長部21aを内側に含むように素子領域Rが設定される。素子領域Rは、SQUID素子が搭載される領域であり、第1の基板20内に収まる大きさに設定される。
更に、素子領域Rとその周囲の第1の基板20には、金層等の金属層をパターニングしてなる第1の配線25と第2の配線26とがそれぞれ一対ずつ形成される。
このうち、第1の配線25は、一端が素子領域Rの内側に位置しており、当該一端に第1の電極25aが形成される。また、第1の配線25の他端は素子領域Rの外側に位置しており、当該他端に第1の導電パッド25bが形成される。
同様に、素子領域Rの内側に位置する第2の配線26の一端に第2の電極26aが形成され、素子領域Rの外側に位置する第2の配線26の他端に第2の導電パッド26bが形成される。
これらの配線25、26は、第1の基板20の上側全面に蒸着法で金層を20nm〜500nm程度の厚さに形成し、それをリフトオフ法でパターニングすることにより形成され得る。なお、リフトオフ法に代えて、アルゴンガスを用いたミリング法で金層をパターニングすることにより配線25、26を形成してもよい。
図4は、図3のIII−III線とIV−IV線のそれぞれに沿う断面図である。
図4に示すように、第1の基板20は平坦な第1の表面20aを備えており、その上に検出コイル21と第1の配線25が形成される。
一方、図5は、第1の基板20と共に使用されるSQUID素子の平面図である。
図5に示すように、SQUID素子30は、第2の基板31とその上に形成されたループ32とを有する。
第2の基板31は、前述の素子領域R(図3参照)と同じ大きさと形状のMgO基板である。一例として、第2の基板31の平面形状は、平面視で一辺の長さが1mm〜50mm程度の矩形状である。
第2の基板31の表面には段差31xが形成されており、その段差31xに重なるようにしてループ32が形成される。ループ32は、前述の検出コイル21と磁気的に結合するループであり、短辺の長さが0.5μm〜50μmで長辺の長さが1μm〜100μmの矩形状の平面形状を有する。また、ループ32の線幅は、例えば0.5μm〜50μm程度である。
ループ32の材料は特に限定されず、検出コイル21と同一の超電導材料でもよいし、検出コイル21とは異なる超電導材料でもよい。ここでは、検出コイル21と同じYBCOをループ32の材料として採用する。
また、上記のように段差31xに重なるようにループ32を形成することで、段差31xにおけるループ32に粒界が生じ、その粒界がジョセフソン接合Jとなる。
このようなジョセフソン接合Jはステップエッジ接合であるが、ステップエッジ接合以外のバイクリスタル接合を採用してもよいし、ランプエッジ構造でジョセフソン接合Jを形成してもよい。
そして、ループ32には線状の複数の配線部32aが設けられており、その配線部32aの端部に第3の電極35と第4の電極36とが設けられる。
このうち、第3の電極35は第1の電極25a(図3参照)に対応する位置に形成され、第4の電極36は第2の電極26a(図3参照)に対応する位置に形成される。そして、第1の電極25aと第2の電極26aと同様に、第3の電極35と第4の電極36もそれぞれ二つずつ設けられる。
図6は、図5のV−V線とVI−VI線のそれぞれに沿う断面図である。
図6に示すように、第2の基板31は、前述の配線部32aや第3の電極35が形成された第2の表面31aを有する。
V−V断面においてはその第2の表面31aに段差31xが形成されており、段差31xの上にループ32が形成される。
この例では、段差31xの下端31eの断面形状をなだらかに湾曲させつつ、段差31xの上端31dに明瞭な角が形成されるようにする。これにより、下端31eにおいてループ32に粒界が発生するのを抑制しつつ、上端31dにおいてのみループ32にジョセフソン接合Jを形成することができる。
次に、このようなSQUID素子30の製造方法について説明する。
図7〜図8は、本実施形態に係るSQUID素子30の製造途中の断面図である。
なお、図7〜図8における第1断面は図5のV−V線に沿う断面に相当し、第2断面は図5のVI−VI線に沿う断面に相当する。
まず、図7(a)に示すように、第2の基板31として厚さが100μm〜1000μm程度のMgO基板を用意する。そして、その第2の基板31の第2の表面31aにフォトレジストを塗布し、それを露光、現像することによりレジスト層41を形成する。
次に、図7(b)に示すように、Arイオンミリング装置内に第2の基板31を入れ、Arイオンの入射方向に対する第2の表面31aの傾斜角度θを10°〜70°とする。そして、この状態で第2の基板31にArイオンを照射することにより、レジスト層41で覆われてない部分の第2の基板31をエッチングして段差31xを形成する。段差31xの高低差はエッチング時間により制御することができ、この例では20nm〜1000nm程度、例えば400nm程度とする。
このような方法によれば、第2の基板31とレジスト層41との境界に位置する上端31dにおいて角が明瞭に形成されるのに対し、下端31eはArイオンに曝されてその断面形状がゆるやかに湾曲するようになる。
その後に、レジスト層41を除去する。
次に、図8(a)に示すように、第2の表面31aにPLD法でYBCO層を20nm〜2000nmの厚さに形成し、そのYBCO層をArのイオンミリングでエッチングすることによりループ32と配線部32aとを形成する。
このとき、明瞭な角が現れている上端31dにおいてはYBCO層に粒界が形成され、その粒界がジョセフソン接合Jとなる。一方、上端31dよりもゆるやかに湾曲している下端31eにおいてはYBCO層に粒界は形成されない。
その後に、図8(b)に示すように、第2の基板31の上側全面に蒸着法で金層を20nm〜500nm程度の厚さに形成し、それをリフトオフ法でパターニングすることにより配線部32aの両端に第3の電極35として残す。なお、第4の電極36も第3の電極35と同じ工程で形成される。
以上により、本実施形態に係るSQUID素子30の基本構造が完成する。
本実施形態では、そのSQUID素子30を第1の基板20(図3参照)に接続することで磁気センサを製造するが、その接続にはカーボンナノチューブを利用する。
そこで、カーボンナノチューブの成長方法について次に説明する。
図9(a)、(b)は、本実施形態に係るカーボンナノチューブの成長方法について説明するための断面図である。
まず、図9(a)に示すように、支持基板50としてシリコン基板を用意し、その表面を熱酸化することにより厚さが1nm〜1000nm程度の酸化シリコン層51を形成する。
そして、その酸化シリコン層51の上にスパッタ法で鉄層を0.1nm〜10nm、例えば2.5nm程度の厚さに形成し、その鉄層を触媒金属層52とする。なお、スパッタ法に代えて、電子ビーム蒸着法や分子線エピタキシ法で触媒金属層52を形成してもよい。
更に、触媒金属層52も鉄層に限定されない。触媒金属層52の材料としては、例えばコバルト、ニッケル、鉄、金、銀、及び白金のいずれかを採用し得る。
また、酸化シリコン層51と触媒金属層52との間に下地層を形成してもよい。その下地層の材料としては、モリブデン、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、バナジウム、窒化タンタル、チタンシリサイド、アルミニウム、アルミナ、酸化チタン、タンタル、タングステン、銅、金、及び白金がある。これらを単体で下地層として形成してもよいし、これらの合金で下地層を形成してもよい。
次に、図9(b)に示すように、ホットフィラメントCVD(Chemical Vapor Deposition)法により触媒金属層52の上に複数のカーボンナノチューブ53を10μm〜1000μmの長さに成長させる。このとき、各々のカーボンナノチューブ53は、触媒金属層52の触媒作用によって支持基板50の表面の法線方向に沿って直線状に延びる。
カーボンナノチューブ53の成長条件は特に限定されない。この例では、炭素の原料ガスとしてアセチレンガスを用い、そのアセチレンガスとアルゴンガスとの混合ガスを不図示の成長室に供給する。その混合ガスの成長室内での圧力は1kPaである。また、基板温度は300℃〜1100℃、例えば500℃〜800℃とする。
カーボンナノチューブ53の長さは成長時間によって調節できる。例えば、基板温度を620℃、成長時間を60分とすると、カーボンナノチューブ53の長さは150μm程度となる。また、これと同じ条件を用いつつ触媒金属層52の厚さを1nmとすると、カーボンナノチューブ53の長さは250nm程度となる。
更に、カーボンナノチューブ53の成長方法は上記のホットフィラメントCVD法に限定されず、熱CVD法やリモートプラズマCVD法であってもよい。また、アセチレンに代えてメタンやエチレン等の炭化水素類、又はエタノールやメタノール等のアルコール類を炭素の原料ガスとしてもよい。
次に、このカーボンナノチューブ53を利用した磁気センサの製造方法について説明する。
図10〜図16は、本実施形態に係る磁気センサの製造途中の断面図である。
なお、図10〜図16における第1の基板20の第1断面は図3のIII−III線に沿う断面に相当し、第1の基板20の第2断面は図3のIV−IV線に沿う断面に相当する。また、図10〜図16における第2の基板31の第1断面は図5のV−V線に沿う断面に相当し、第2の基板31の第2断面は図5のVI−VI線に沿う断面に相当する。
まず、図10(a)に示すように、第1の基板20の上側全面に第1の絶縁層55としてアルミナ(Al2O3)層を1nm〜50nm程度の厚さに形成し、その第1の絶縁層55で検出コイル21と第1の配線25とを覆う。第1の絶縁層55の成膜方法として、ここではTMA(トリメチルアルミニウム)を前駆体(プリカーサー)に使用するALD(Atomic Layer Deposition)法を採用する。
第1の絶縁層55の材料であるアルミナは防湿性能に優れているため、これにより検出コイル21が大気中の水分を吸湿して劣化するのを抑制することができる。特に、検出コイル21の材料であるYBCO等の酸化物超電導体は吸湿し易い性質があるため、このように検出コイル21を第1の絶縁層55で保護するのが好ましい。
なお、第1の電極25aと第1の導電パッド25b(図3参照)の表面はレジスト層で覆っておき、これらの表面に第1の絶縁層55が形成されないようにする。同様の方法で第2の電極26a(図3参照)と第2の導電パッド26bの表面にも第1の絶縁層55が形成されないようにする。
また、アルミナ層に代えてイットリア(Y2O3)層を第1の絶縁層55として形成してもよい。
続いて、図10(b)に示すように、第2の基板31の上側全面に第2の絶縁層56を形成し、その第2の絶縁層56でループ32と配線部32aとを覆う。第2の絶縁層56は、ALD法で形成された厚さが1nm〜50nm程度のアルミナ層である。これにより、ループ32と配線部32aが吸湿して劣化するのを第2の絶縁層56で抑制することができる。
なお、第3の電極35と第4の電極36(図5参照)の表面には予めレジスト層を形成しておき、第2の絶縁層56の形成後にそのレジスト層を除去することにより、各電極35、36の上に第2の絶縁層56が形成されないようにする。
また、アルミナ層に代えてイットリア層を第2の絶縁層56として形成してもよい。
次に、図11に示す工程について説明する。
まず、第1の基板20の上方に、第1の電極25aと第2の電極26a(図3参照)が露出する開口を備えたメタルマスク(不図示)を配する。そして、メタルマスクの開口を通じて各電極25a、26aの表面に導電性の第1の接続媒体57として金属ナノペーストを塗布する。金属ナノペーストの種類は特に限定されない。この例では、粒径が1nm〜500nm程度の銀又は銅のナノ粒子が溶剤に分散した金属ナノペーストを使用する。そのような金属ナノペーストとしては、例えばSIGMA-ALDRICH社製の銀ナノ粒子がある。
なお、この段階では第1の接続媒体57の溶剤は蒸発しておらず、第1の接続媒体57には溶剤に起因した粘着力がある。
次に、図12に示すように、表面に複数のカーボンナノチューブ53が成長した前述の支持基板50を用意する。そして、カーボンナノチューブ53の一端53aを第1の接続媒体57に当接させつつ、第1の基板20に向けて支持基板50を押圧する。
その後、図13に示すように、第1の基板20から支持基板50を引き剥がす。これにより、第1の接続媒体57の粘着力によって第1の電極25aの上にカーボンナノチューブ53が転写され、これらのカーボンナノチューブ53を含むカーボンナノチューブ束58が第1の基板20側に残る。そのカーボンナノチューブ束58の長さは、各カーボンナノチューブ53と同じ10μm〜1000μm程度である。
このようにカーボンナノチューブ53を転写する方法では、転写されずに支持基板50に残存するカーボンナノチューブ53を次回以降の転写に使うことができ、支持基板50のカーボンナノチューブ53を無駄にしないで済む。
図17は、本工程を終了した後における第1の基板20の素子領域Rの平面図である。
図17に示すように、本工程では第2の電極26aの上にも複数のカーボンナノチューブ53が転写され、第2の電極26aの上にもカーボンナノチューブ束58が形成される。
次に、図14に示す工程について説明する。
まず、カーボンナノチューブ束58の端面58aが露出する開口を備えたメタルマスク(不図示)を第1の基板20の上方に配する。そして、メタルマスクの開口から露出する端面58aに導電性の第2の接続媒体59として金属ナノペーストを塗布する。
その金属ナノペーストは特に限定されないが、この例では第1の接続媒体57と同様に粒径が1nm〜500nm程度の銀又は銅のナノ粒子が溶剤に分散した金属ナノペーストを使用する。
また、この段階では第2の接続媒体59の溶剤は蒸発しておらず、第2の接続媒体59には溶剤に起因した粘着力がある。
次に、図15に示すように、第1の基板20の上方に第2の基板31を配し、これらの各表面20a、31aを対向させる。そして、この状態で第2の接続媒体59を第3の電極35に密着させて、カーボンナノチューブ束58により第1の基板20と第2の基板31の各々を接続する。
これにより、検出コイル21とループ32とが第2の基板31を介さずに対向するようになり、検出コイル21とループ32との間隔T1を10μm〜1000μm程度にまで短くすることができる。
また、カーボンナノチューブ53の一端53aと他端53bの各々が導電性の各接続媒体57、59に埋設され、カーボンナノチューブ53により各電極25a、35同士を電気的に接続することができる。
なお、第2の電極26a(図17参照)の上のカーボンナノチューブ束58については、その端面の第2の接続媒体59を第4の電極36に密着させる。これにより、第2の電極26aと第4の電極36がカーボンナノチューブ束58を介して電気的に接続される。
図18は、本工程における検出コイル21とループ32との位置関係を示す平面図である。
図18に示すように、ループ32は、平面視でその一部が検出コイル21の延長部21aに一致しており、これにより延長部21aにおいて検出コイル21と磁気的に強く結合する。
なお、検出コイル21とループ32の相互の位置関係はこれに限定されず、ループ32の少なくとも一部を検出コイル21に重ね、これらの各々を磁気的に結合させればよい。
次に、図16に示す工程について説明する。
まず、フリップチップボンダ(不図示)の冶具に各基板20、31をセットする。そして、その冶具で各接続媒体57、59を100℃〜300℃程度に加熱しながら、第1の基板20に向けて第2の基板31を加圧して各基板20、31の間隔を狭める。これにより、カーボンナノチューブ束58が基板厚さ方向に圧縮されてその長さが5μm〜500μm程度にまで短くなり、検出コイル21とループ32との間隔T2が圧縮前の間隔T1よりも短い5μm〜500μm程度となる。
また、このように接続媒体57、59を加熱することにより、各接続媒体57、59に含まれる溶剤が乾燥して各接続媒体57、59が固化し、カーボンナノチューブ束58が各電極25a、35に強く固着する。
なお、本実施形態では前述のように各接続媒体57、59として金属ナノペーストを使用するが、その金属ナノペーストには樹脂が含まれていない。そのため、毛細管現象によって樹脂がカーボンナノチューブ束58に吸収されるおそれがない。更に、固化後の各接続媒体57、59が金属の焼結体になるため、カーボンナノチューブ束58と各電極25a、35との接続強度が高められる。
以上により、本実施形態に係る磁気センサ60の基本構造が完成する。
図19は、この磁気センサ60の平面図である。
図19に示すように、平面視において第2の基板31は第1の基板20よりも小さい。そして、第1の基板20の第1の表面20aのうち、平面視で第2の基板31の外側に位置する部分に、前述の各導電パッド25b、26bが露出する。
図20は、この磁気センサ60の使用方法について示す平面図である。
図20に示すように、実使用下においては、ワイヤボンディングにより各導電パッド25b、26bの各々に金線等の金属細線61を接合する。このとき、上記のように第2の基板31の外側に各導電パッド25b、26bを露出させたことにより、これらの導電パッド25b、26bに金属細線61を接合するのが容易となる。
そして、液体窒素の中に磁気センサ60を浸漬することにより検出コイル21とループ32の各々を−196℃程度に冷却し、検出コイル21とループ32の各々を超電導状態にする。この状態で磁束が検出コイル21を貫くと、その磁束に応じた大きさの電流がループ32(図5参照)を流れる。そして、その電流を各金属細線61を介して外部に取り出し、不図示の電流計でその電流の大きさを計測することにより磁束の大きさを求めることが可能となる。
以上説明した本実施形態によれば、図16に示したように、第1の基板20と第2の基板31を対向させてそれらをカーボンナノチューブ束58で相互に接続する。
カーボンナノチューブ束58は弾力性を有するため、各基板20、31間に生じる応力でカーボンナノチューブ束58自身が変形し、その応力が検出コイル21等に直接作用するのを抑えることができる。その結果、温度変化に伴う応力が磁気センサ60内に生じても、その応力が原因で検出コイル21等にクラックが生じるのを抑制でき、磁気センサ60の信頼性を高めることが可能となる。
また、カーボンナノチューブ束58は導電性を有しており、第1の電極25aと第3の電極35とを電気的に接続する端子としての機能も有するため、各電極25a、35を接続する端子を別途形成する必要もない。
更に、本実施形態では、第1の基板20と第2の基板31の対向する表面20a、31aの各々に検出コイル21とループ32とを形成する。これにより、検出コイル21とループ32との間に第2の基板31が介在しなくなるため、検出コイル21にループ32を近接させて磁気センサ60の感度を高めることが可能となる。
しかも、検出コイル21とループ32の各々の表面に第1の絶縁層55と第2の絶縁層56を形成したため、検出コイル21とループ32とが接触して電気的に短絡するのを防止することもできる。また、各絶縁層55、56の形成方法であるALD法は、数原子層程度の薄い層を形成することが可能である。よって、各絶縁層55、56の厚みによってこれらの絶縁層55、56同士が接触するのを抑制でき、検出コイル21とループ32との間隔を狭めるのが各絶縁層55、56によって阻害されるのを抑えることができる。
なお、この例では第1の絶縁層55と第2の絶縁層56の両方を形成したが、これらのうちの一方のみを形成して検出コイル21とループ32とが電気的に短絡するのを抑制してもよい。更に、検出コイル21とループ32とが接触するおそれがない場合には各絶縁層55、56の両方を省き、検出コイル21とループ32との間に空気のみが介在するようにしてもよい。
また、この例では図16の工程でカーボンナノチューブ束58を基板厚さ方向に圧縮したため、検出コイル21にループ32を一層近づけることができ、磁気センサ60の感度を更に高めることができる。
なお、圧縮に伴ってカーボンナノチューブ束58の弾力性が損なわれたのでは、各基板20、31間の応力をカーボンナノチューブ束58で吸収するのが難しくなる。
そこで、本願発明者は、圧縮後のカーボンナノチューブ束58の弾力性について調査した。
その調査結果を図21に示す。
その調査では、図16の工程のようにカーボンナノチューブ束58を圧縮した後、そのカーボンナノチューブ束58に更に圧縮応力を加えて潰し、カーボンナノチューブ束58が元の長さに戻るかどうかを調査した。
図21の縦軸はその圧縮応力を示す。また、図21の横軸は、圧縮応力を加える前と比較したときのカーボンナノチューブ束58の変位量を示す。
更に、図21における複数のグラフは、圧縮応力を複数回加えたときの各回のデータを示す。
図21に示すように、カーボンナノチューブ束58に圧縮応力を複数回加えても、圧縮応力を開放させると変位量が0に戻る。
このことから、図16の工程でカーボンナノチューブ束58を圧縮しても、カーボンナノチューブ束58の弾力性は損なわれないことが明らかとなった。
(第2実施形態)
第1実施形態では、図17に示したように、第1の基板20の第1の電極25aと第2の電極26aの各々の上にカーボンナノチューブ束58を形成し、そのカーボンナノチューブ束58で各基板20、31を接続した。
カーボンナノチューブ束58を形成する部位はこれに限定されない。本実施形態では、カーボンナノチューブ束58を形成する部位の別の例について説明する。
図22は、本実施形態に係る第1の基板20の素子形成領域Rの平面図である。また、図23は、図22のIII−III線断面に相当する第1の断面と、図22のIV−IV線断面に相当する第2断面を示す図である。
なお、図22及び図23において、第1実施形態で説明したのと同じ要素には第1実施形態におけるのと同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。
図22及び図23に示すように、本実施形態では、第1の基板20において電極25a、26aや検出コイル21等の導電性部材が形成されていない空きスペースSにもカーボンナノチューブ束58を設ける。
この例では、空きスペースSにおける各絶縁層55、56の上に各接続媒体57、59を設け、これらの接続媒体57、59によりカーボンナノチューブ束58を各基板20、31に固着する。なお、各絶縁層55、56を形成しない場合には、各接続媒体57、59によりカーボンナノチューブ束58を各表面20a、31aに直接固着してもよい。
これにより、空きスペースSを有効活用しながら検出コイル21とループ32とを近接させ、かつ各基板20、31間に作用する応力をカーボンナノチューブ束58で吸収することができる。
(第3実施形態)
第1実施形態では、図12に示したように、予め支持基板50にカーボンナノチューブ53を成長させておき、それを第1の基板20側に転写することによりカーボンナノチューブ束58(図13参照)を形成した。
本実施形態では、これとは別の方法で第1の基板20側にカーボンナノチューブ束58を形成する。
図24〜図28は、本実施形態に係る磁気センサの製造途中の断面図である。なお、図24〜図28において、第1実施形態や第2実施形態で説明したのと同じ要素にはこれらの実施形態におけるのと同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。
まず、図24(a)に示すように、第1実施形態の図4の工程と同様に、検出コイル21と第1の配線25が形成された第1の基板20を用意する。
そして、第1の配線25の第1の電極25aが露出する開口を備えた不図示のレジスト層を第1の基板20の上側全面に形成する。そして、その開口から露出する第1の電極25aの上にバリアメタル層65としてタンタル層をスパッタ法で5〜100nm、例えば30nmの厚さに形成する。更に、そのバリアメタル層65の上にアルミニウム層と鉄層とをこの順にスパッタ法で形成し、これらの積層膜を触媒金属層66とする。なお、触媒金属層66におけるアルミニウム層の厚さは0.5nm〜50nm、例えば15nmとする。また、触媒金属層66における鉄層の厚さは0.5nm〜10nm、例えば2.5nmとする。
その後に、レジスト層を除去し、第1の電極25aの上にバリアメタル層65と触媒金属層66を残す。
なお、本工程では、第2の配線26の第2の電極26a(図3参照)の上にもバリアメタル層65と触媒金属層66とがこの順に形成される。
続いて、図24(b)に示すように、触媒金属層66の上に不図示のレジスト層を形成し、そのレジスト層で覆われていない検出コイル21と第1の配線25の各々の上にALD法で第1の絶縁層55を形成する。その第1の絶縁層55として、例えばアルミナ層を1nm〜50nm程度の厚さに形成する。その後に、レジスト層を除去し、触媒金属層66の表面を露出させる。
なお、アルミナ層に代えて、イットリア(Y2O3)、チタニア(TiO2)、クロミア(Cr2O3)、及びジルコニア(ZrO2)のいずれかの単体の層、又はこれらの材料のいずれかを含む合金層を第1の絶縁層55として形成してもよい。
次に、図25に示す工程について説明する。
まず、CVD法の成長炉に第1の基板20を入れて基板温度を620℃とし、更に成長炉内にアセチレンガスとアルゴンガスとの混合ガスを供給する。その混合ガスにおけるアセチレンガスの濃度は、例えば流量比で10%とする。この状態を20分程度維持することにより、触媒金属層66の触媒作用によって第1の電極25aの上に複数のカーボンナノチューブ53が約20μmの長さに成長する。これにより、各カーボンナノチューブ53の一端53aが第1の電極25aに接続されたカーボンナノチューブ束58が得られる。
なお、本実施形態では触媒金属層66の下にバリアメタル層65を形成したため、第1の電極25に含まれる金等の原子が触媒金属層66に拡散するのをバリアメタル層65で抑制することができる。
このようなカーボンナノチューブ束58は、第2の電極26a(図3参照)の上にも形成される。
次に、図26に示す工程について説明する。
まず、カーボンナノチューブ束58の端面58aが露出する開口を備えたメタルマスク(不図示)を第1の基板20の上方に配する。そして、メタルマスクの開口から露出する端面58aに導電性の接続媒体67として金属ナノペーストを塗布する。その金属ナノペーストは、例えば粒径が1nm〜500nm程度の銀又は銅のナノ粒子が溶剤に分散した金属ナノペーストである。
また、この段階では接続媒体67の溶剤は蒸発しておらず、接続媒体67には溶剤に起因した粘着力がある。
その後に、第1の基板20の上方に第2の基板31を配し、これらの各表面20a、31aを対向させる。
続いて、図27に示すように、接続媒体67を第3の電極35に密着させることにより、カーボンナノチューブ束58を介して第1の電極25aと第3の電極35とを電気的に接続する。なお、この状態においては、カーボンナノチューブ53の他端53bが接続媒体67に埋設されているのに対し、カーボンナノチューブ53の一端53aは触媒金属層66に接している。
また、第2の電極26a(図3参照)の上のカーボンナノチューブ束58については、その端面の接続媒体67を第4の電極36に密着させ、第2の電極26aと第4の電極36とをカーボンナノチューブ束58で電気的に接続する。
なお、この段階における検出コイル21とループ32との間隔T1は、第1実施形態と同様に10μm〜1000μm程度である。
次に、図28に示すように、フリップチップボンダ(不図示)の冶具に各基板20、31をセットし、その冶具で接続媒体67を100℃〜300℃程度に加熱しながら、第1の基板20に向けて第2の基板31を加圧する。
これにより、カーボンナノチューブ束58が圧縮されて検出コイル21とループ32との間隔T2が5μm〜500μm程度にまで短くなる。これと共に、接続媒体67に含まれる溶剤が乾燥し、固化した接続媒体67によってカーボンナノチューブ束58が第3の電極35に強く固着する。
以上により、本実施形態に係る磁気センサ70の基本構造が完成する。
上記した本実施形態においては、図25の工程において触媒金属層66の上に複数のカーボンナノチューブ53を直接成長させる。そのため、第1実施形態のように第1の基板20側に複数のカーボンナノチューブ53を転写する工程が不要となり、磁気センサ70の製造工程を簡略化することができる。
なお、本実施形態では図28のように第1の電極25aの上にカーボンナノチューブ53を成長させたが、カーボンナノチューブ53を成長させる部位はこれに限定されない。
図29は、本実施形態の別の例に係る磁気センサ70の断面図である。
図29の例では、第2実施形態の図23と同様に、第1の基板20において電極25a、26aや検出コイル21等の導電性部材が形成されていない空きスペースSにもカーボンナノチューブ53を成長させる。この場合、その空きスペースSにおける第1の表面20aに触媒金属層66を形成し、その触媒金属層66からカーボンナノチューブ53を成長させればよい。また、カーボンナノチューブ53の他端53bは、接続媒体67によって第2の基板31に固着され得る。
これにより、空きスペースSを有効活用しながら基板20、31間の応力をカーボンナノチューブ束58で吸収し、かつ検出コイル21とループ32とを近接させることができる。
以上説明した各実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1) 第1の基板と、
前記第1の基板の第1の表面に形成された第1の超電導材料を含むコイルと、
前記第1の基板の上方に配置され、前記第1の表面に対向する第2の表面を備えた第2の基板と、
前記第1の表面側から前記第2の表面側に延び、前記第1の基板と前記第2の基板の各々に接続された複数のカーボンナノチューブと、
平面視で少なくとも一部が前記コイルに重なるように前記第2の表面に形成され、かつジョセフソン接合を備えた第2の超電導材料を含むループと、
を有する磁気センサ。
(付記2) 前記第1の表面に形成された第1の電極と、
前記第2の表面に形成され、前記ループと電気的に接続された第2の電極とを有し、
複数の前記カーボンナノチューブが前記第1の電極と前記第2の電極のそれぞれに接続されて、複数の前記カーボンナノチューブを介して前記第1の電極と前記第2の電極とが電気的に接続されたことを特徴とする付記1に記載の磁気センサ。
(付記3) 平面視において前記第1の表面の一部が前記第2の基板の外側に位置しており、前記第1の電極と電気的に接続された導電パッドが前記一部に形成されたことを特徴とする付記2に記載の磁気センサ。
(付記4) 前記コイルと前記ループの少なくとも一方の表面に絶縁層が形成されたことを特徴とする付記1に記載の磁気センサ。
(付記5) 前記第1の超電導材料と前記第2の超電導材料は酸化物超電導体であり、前記絶縁層はアルミナ層であることを特徴とする付記4に記載の磁気センサ。
(付記6) 第1の超電導材料を含むコイルが第1の表面に形成された第1の基板と、ジョセフソン接合を備えた第2の超電導材料を含むループが第2の表面に形成された第2の基板とを、平面視で前記ループの少なくとも一部を前記コイルに重ねつつ、前記第1の表面と前記第2の表面とが対向するように配置する工程と、
前記第1の表面側から前記第2の表面側に延びる複数のカーボンナノチューブにより前記第1の基板と前記第2の基板の各々を接続する工程と、
を有することを特徴とする磁気センサの製造方法。
(付記7) 前記第1の基板と前記第2の基板との間隔を狭めることにより複数の前記カーボンナノチューブを圧縮する工程を更に有することを特徴とする付記6に記載の磁気センサの製造方法。
(付記8) 支持基板に成長した複数の前記カーボンナノチューブを前記第1の基板側に転写する工程を更に有し、
前記第1の基板と前記第2の基板とを接続する工程は、転写後の複数の前記カーボンナノチューブを用いて行われることを特徴とする付記6に記載の磁気センサの製造方法。
(付記9) 前記第1の基板と前記第2の基板の各々を接続する工程において、
前記第1の表面に形成された第1の電極と、前記第2の表面に形成された第2の電極とを複数の前記カーボンナノチューブで電気的に接続することを特徴とする付記6に記載の磁気センサの製造方法。
(付記10) 前記第1の電極の上に複数の前記カーボンナノチューブを成長させる工程を更に有し、
前記第1の基板と前記第2の基板の各々を接続する工程は、前記第1の電極の上に成長した複数の前記カーボンナノチューブを用いて行われることを特徴とする付記9に記載の磁気センサの製造方法。
(付記11) 前記コイルと前記ループの少なくとも一方の表面に絶縁層を形成する工程を更に有することを特徴とする付記6に記載の磁気センサの製造方法。
(付記12) 前記絶縁層を形成する工程において、ALD法により前記絶縁層を形成することを特徴とする付記11に記載の磁気センサの製造方法。