以下に本発明の細胞培養装置および培養液の気体濃度制御方法の実施例を、図面を用いて説明する。
<実施例1>
本発明の細胞培養装置および培養液の気体濃度制御方法の実施例1について図1乃至図6を用いて説明する。
最初に、従来の閉鎖系流路をもつ細胞培養装置の構成とその問題点について図1を用いて簡単に説明する。図1は、従来の閉鎖系流路をもつ細胞培養装置において、培養液中の溶存ガス濃度を制御するシステム構成を表している。
図1において、従来の細胞培養装置は、インキュベータ101内に、培養物103を収容する培養容器102、培養液106を送液する送液ポンプ104、培養液106を溜める培養液槽105、チューブ107から構成される。
この細胞培養装置では、インキュベータ101内大気の溶存ガス濃度、温度、湿度制御はそれぞれ、窒素ガス供給機構108、CO2ガス供給機構109、加温機構110、加湿機構111によって制御される。
図1のように、インキュベータ101内に格納された閉鎖系流路内の培養液中の溶存ガス濃度は、チューブ107等の隔壁材を通したガスの気液平衡状態に依存している。特に、チューブ107を構成する素材のガス透過性能に大きく依存する。このため、より正確な培養液中の溶存ガス濃度を制御する余地があることが明らかとなった。また、間接的な値であるインキュベータ101内のガス濃度を記録するのみであったため、培養液中の溶存ガス濃度を正確に記録することもできず、培養条件の優れたトレーサビリティを確保することについても改善の余地があることが明らかとなった。
以下、本実施例の細胞培養装置の構成について図2および図3を用いて説明する。図2は本実施例1の細胞培養装置の概略構成を示す図、図3は図2に示す細胞培養装置のうち、溶存ガス濃度制御ユニットの概略構成を示す図である。
図2において、本実施例の細胞培養装置100は、培養物103を収容する培養容器102、培養容器102内の培養物103に供給する培養液106を溜める培養液槽105、培養液槽105に保持された培養液106を培養容器102に送液する送液ポンプ104、ガス不透過性チューブ205、溶存ガス濃度制御ユニット200を備えている。
この細胞培養装置100は、培養容器102から排出された培養液106が培養液槽105に戻る循環型の閉鎖系で構成される。
本実施例の細胞培養装置100では、溶存ガス濃度制御ユニット200以外の培養液槽105と培養容器102とを接続する流路や培養容器102から排出された培養液106が培養液槽105に戻るまでの流路は、全て、ターゲットガスを含めて気体を透過させないガス不透過性チューブ205から構成される。
ガス不透過性チューブ205は、好適にはテフロン(登録商標)等のフッ素樹脂から構成される。
図2および図3に示すように、溶存ガス濃度制御ユニット200は、細胞培養装置100の閉鎖系流路上に配置されており、培養液106中のターゲットガスの濃度を検出する溶存ガスセンサ206によって検出された溶存ガス濃度に基づいて培養液106中のターゲットガスの濃度を制御するユニットである。
溶存ガス濃度制御ユニット200は、溶存ガスセンサ206、溶存ガスセンサ処理回路214、ガスチャンバー202、圧力センサ201、圧力センサ処理回路211、ガスチャンバー内圧制御部203、ガス供給機構207、ガス供給機構制御バルブ209、ガス供給機構制御回路212、脱気機構208、脱気機構制御バルブ210、脱気機構制御回路213、コントローラ215、外部通信回路216、記憶装置217を備えている。
溶存ガスセンサ206は、ガス不透過性チューブ205を流れる培養液106中のターゲットガスの濃度を測定するセンサであり、好適には培養液106に接触することなく溶存ガス濃度を測定可能な様々な非接触式のガスセンサが用いられることが望ましい。
溶存ガスセンサ処理回路214は、溶存ガスセンサ206で測定された培養液106中のターゲットガスの濃度の信号を処理し、コントローラ215に出力する。
ガスチャンバー202は、ガス透過性フィルム204を介して培養液106中のターゲットガスを培養液106に供給あるいは培養液106から脱気させるための空間である。
本実施例では、ガス透過性フィルム204を含むガスチャンバー202は、溶存ガスセンサ206の上流側に配置されており、フィードバック制御によりターゲットガスの濃度が制御される。制御の流れは図4を用いて後述する。
ガス透過性フィルム204は培養液106とガスチャンバー202とを隔壁するフィルムであり、好適には孔が気体と同サイズの、気体以外の培養液106を構成する各種成分は透過させないように構成されたフィルムである。このガス透過性フィルム204は、ガスチャンバー202内のターゲットガスを含む気体および培養液106と接触している。
圧力センサ201は、ガスチャンバー202内の圧力を測定するセンサである。圧力センサ処理回路211は、圧力センサ201で測定されたガスチャンバー202内の圧力の信号を処理し、コントローラ215に出力する。
ガスチャンバー内圧制御部203は、ガスチャンバー202の圧力を制御する部分であり、ガス透過性フィルム204を介してターゲットガスを培養液106に供給あるいは培養液106から脱気させる部分である。
ガスチャンバー内圧制御部203には、ガスチャンバー内圧制御部203にガスを供給するガス供給機構207およびガス供給機構制御バルブ209が接続されている。
ガス供給機構207はターゲットガスが充填されたボンベ等である。ガス供給機構制御バルブ209は、より正確にガスチャンバー202内を加圧値とするために、比例電磁弁などを用いてフィードバック制御できるようなカスケード制御方式であることが望ましい。
また、ガスチャンバー内圧制御部203には、ガスチャンバー内圧制御部203内の圧力を減圧する脱気機構208および脱気機構制御バルブ210が接続されている。
脱気機構208は、脱気機構208はガスチャンバー202に接続されたガスチャンバー内圧制御部203からターゲットガスを含む気体を脱気する機器である。例えば、算出された減圧値によって、大気解放ポート等で大気解放することで減圧を行う方法や、真空ポンプポンプなどでガスチャンバー202内を負圧とすることで減圧を行う方法があり、特に手段は問わないが、こちらもカスケード制御方式であることが望ましい。
また、脱気機構制御バルブ210は、外乱の影響がある系や、圧力測定から圧力制御のプロセスに時間が掛かるような系において、より正確にガスチャンバー202内を減圧値とするために、比例電磁弁などを用いてフィードバック制御できるようなカスケード制御方式が望ましい。
コントローラ215は、溶存ガスセンサ処理回路214で信号処理された溶存ガスセンサ206によって測定された溶存ガス濃度や、圧力センサ処理回路211で信号処理された圧力センサ201にて測定された圧力値に基づいて、培養液106のターゲットガス濃度を所定の値や所定範囲内に収めるために必要なガス供給機構207からのターゲットガスの供給量あるいは脱気量を求め、ガス供給機構制御回路212あるいは脱気機構制御回路213に対して制御信号を出力する。
ガス供給機構制御回路212は、コントローラ215からの信号を受け、ガス供給機構207からのターゲットガスの供給の有無とガス供給機構制御バルブ209の開度を制御する。ターゲットガスの供給量は、ガス供給機構207からの供給量、あるいはガス供給機構制御バルブ209の開度のうち少なくともいずれかによって調整する。
脱気機構制御回路213は、コントローラ215からの信号を受け、脱気機構制御バルブ210の開度と脱気機構208による気体の脱気の有無を制御する。気体の脱気量は、脱気機構208による脱気量、あるいは脱気機構制御バルブ210の開度によって調整する。
コントローラ215は、外部機器との信号の送受信を行うための外部通信回路216を備えており、記憶装置217等と接続されている。外部通信回路216における通信手段は、有線、無線を問わない。
記憶装置217は、溶存ガスセンサ206によって測定された培養液106中の溶存ガス濃度を記憶する装置であり、HDDやSSD等の各種記録媒体から構成される。この記憶装置217は、圧力センサ201で測定された圧力値についても記憶してもよい。ユーザは、記憶装置217に記憶された培養物103の培養中の溶存ガス濃度のデータを必要に応じて読み出し、利用することができる。なお、記憶装置217は記録媒体である必要はなく、紙などに溶存ガス濃度を記す印刷機であってもよい。
次に、好適には本実施例の細胞培養装置100のうち、溶存ガス濃度制御ユニット200を用いた、培養液106中の溶存ガス濃度制御方法について図4を用いて説明する。図4は気体濃度制御のフロー図の一例である。
まず、細胞培養装置100の運転中に、溶存ガスセンサ206にて培養液106中の溶存ガス濃度を測定する(ステップS301)。
続いて、コントローラ215は、ステップS301において測定した、測定濃度から設定濃度を減算して求める偏差(測定濃度−設定濃度)の絶対値と、設定された閾値との大小関係を判定する(ステップS302)。
ステップS302にて偏差の絶対値≦閾値と判定された場合は、測定濃度が設定濃度に十分近いと判断し、溶存ガス濃度制御は行わずに処理をステップS308に進める。
これに対し、ステップS302にて偏差の絶対値>閾値と判定された場合は、測定濃度が設定濃度に十分離れているため、処理をステップS303に進め、溶存ガス濃度制御動作を開始する。
次に、コントローラ215は、ステップS302にて算出した偏差(測定濃度−設定濃度)自体の正負符号を判定する(ステップS303)。
ステップS303にて、偏差が正である、すなわち測定濃度が設定濃度よりも大きいと判定された場合は、測定時よりも溶存ガス濃度を低下させて、設定濃度に近づける必要がある。
ここで、液体中の溶存ガス分圧はヘンリーの法則に従う。このため、溶存ガス分圧pは、以下に示す式(1)
p=KH・X …(1)
で表すことができる。ここでpはガス分圧、KHは比例定数、Xはモル分率を表す。
この式(1)に示すように、溶存ガス分圧はモル分率、つまり、溶存ガス濃度に比例する。従って、式(1)より、溶存ガス濃度を低下させて設定濃度に近づけるためには、ガス分圧を測定時よりもいくらか低下させることで実現可能であることが分かる。
そこで、コントローラ215は、測定濃度と設定濃度の偏差を計算し、その偏差に応じたガスチャンバー202内の減圧値を算出する(ステップS304)。
減圧値の算出過程においては、より正確に溶存濃度を制御するために、外乱の影響を受けにくいPI制御や、PID制御といったフィードバック制御方法が望ましい。このために、ガス透過性フィルム204を含むガスチャンバー202は、上述のように溶存ガスセンサ206の上流側に配置することが望ましい。
続いて、コントローラ215は、ステップS304にて算出した減圧値を実現するための脱気機構制御バルブ210の開度を演算し、脱気機構制御回路213に演算した制御信号を出力する。脱気機構制御回路213は、入力された制御信号に基づいて脱気機構制御バルブ210を開き、ガスチャンバー202内が減圧値となるよう脱気機構208による脱気を実行させる(ステップS305)。
ステップS303に戻り、偏差が負である、すなわち測定濃度が設定濃度よりも小さいと判定された場合は、測定時よりも溶存ガス濃度を増加させて、設定濃度に近づける必要がある。
ここで、上述したヘンリーの法則および式(1)より、溶存ガス濃度を増加させて設定濃度に近づけるには、ガス分圧を測定時よりもいくらか増加させる必要がある。
そこで、コントローラ215は、測定濃度と設定濃度の偏差を計算し、その偏差に応じたガスチャンバー202内の加圧値を算出する(ステップS306)。
加圧値の算出過程においては、減圧値の算出と同様に、外乱の影響がある系や、圧力測定から圧力制御のプロセスに時間が掛かるような系において、より正確に、溶存濃度を制御するために、外乱の影響を受けにくいPI制御や、PID制御といったフィードバック制御方法が望ましい。
続いて、コントローラ215は、ステップS306にて算出した加圧値を実現するためのガス供給機構制御バルブ209の開度を演算し、ガス供給機構制御回路212に演算した制御信号を出力する。ガス供給機構制御回路212は、入力された制御信号に基づいてガス供給機構制御バルブ209を開き、ガスチャンバー202内が加圧値となるようガス供給機構207による加圧を実行させる(ステップS307)。
ステップS302の判定処理後、ステップS305の減圧処理、もしくはステップS307の加圧処理終了後、コントローラ215は、現在の装置状態が培養中かどうかの判定を行う(ステップS308)。ステップS308にて装置状態が“培養中”と判定された場合は、あらかじめ設定された周期にてステップS301に処理を戻して、制御を繰り返し実施する。これに対して“培養終了”と判定された場合、処理を終了する。
上述のように、本実施例の溶存ガス濃度制御ユニット200による溶存ガス濃度の制御では、培養液106の流路方向に対して、ガスチャンバー202よりも下流側に溶存ガスセンサ206を備えることで、ガスチャンバー202にて制御した溶存ガス濃度をリアルタイム測定している。
ここで、溶存ガス濃度のフィードバック制御において正確な制御を行う場合、制御のリアルタイム性を考慮すると、理想的には、(1)培養液流速は極力速く、(2)ガスチャンバー202から溶存ガスセンサ206までの距離は極力近く、(3)フィードバック制御のサンプリング周期は極力短く、また、(4)培養液流速のバラツキは極力小さい、ことが求められる。
ここで、「(1)培養液流速は極力速く」に関しては、培養液の流速を速めることにより細胞・組織が破壊されてしまうこと、また培養液の流れが細胞に対してせん断応力等の力学刺激の影響を及ぼしてしまうリスクがある。このため、むやみに流速を速くすることは困難である。
また、「(2)ガスチャンバー202から溶存ガスセンサ206までの距離は極力近く」に関しては、ガスチャンバー202と溶存ガスセンサ206とをお互い極力近く配置することで実現可能である。
次に、「(3)フィードバック制御のサンプリング周期は極力短く」に関しては、制御に用いるコントローラ215の処理能力を高めることで実現可能である。
そして、「(4)培養液流速のバラツキは極力小さいこと」に関しては、実際に培養液の流速を測定して測定流速と設定流速の偏差を計算し、その偏差に応じて送液ポンプ104の流速をフィードバック制御し続けることが望ましい。
以下、図5および図6を用いて培養液流路中に流速計をもつ本実施例の細胞培養装置のバリエーションについて説明する。図5は本実施例1の細胞培養装置のうち、溶存ガス濃度制御ユニットの概略構成を示す図である。図6に、流速センサ401を備えた細胞培養装置における培養液流速制御のフローを示す。
細胞培養装置のバリエーションのうち、溶存ガス濃度制御ユニット400以外の構成は図2に示した細胞培養装置の構成、動作と同じであるため、詳細は省略する。
図5に示す溶存ガス濃度制御ユニット400は、図3に示した溶存ガス濃度制御ユニット200に加えて、培養液106の流速を測定する流速センサ401と、流速センサ401によって測定された培養液106の流速の信号を処理し、コントローラ415に出力する流速センサ処理回路402を更に備えている。
コントローラ415は、図3に示したコントローラ215と同等の機能に加えて、流速センサ401によって測定された培養液106の流速に基づいて送液ポンプ104による培養液106の送液速度を制御する機能を有している。
流速センサ401は、培養液106に接触せずにその流速を測定することが望ましく、例えば超音波式や熱伝導式等の方式のセンサを用いることが望ましい。
次に培養液流速制御の流れについて図6を用いて説明する。
なお、図6に示した培養液流速制御のフローは、コントローラ415にて図4に示した溶存ガス濃度制御のフロー内で実施しても良いし、別に独立制御させても良い。正確な制御を行うためには、フィードバック制御の繰返し周期は極力短いことが望ましい。以下、コントローラ415にて独立して実行する場合を例に説明する。
始めに、流速センサ401にて、培養液106の流速を測定する(ステップS501)。
次に、コントローラ415は、ステップS501にて測定した培養液106の流速から設定流速を減算して求める偏差(測定流速−設定流速)の絶対値と、設定された閾値との大小関係を判定する(ステップS502)。
ステップS502にて、偏差の絶対値≦閾値と判定された場合は、測定流速が設定流速に十分近いとし、培養液の流速制御は行わずに処理をステップS505に進める。
これに対し、ステップS502にて偏差の絶対値>閾値と判定された場合は、測定流速が設定流速に十分離れているとし、処理をステップS503bに進め、培養液106の流速の制御動作を開始する。
次に、コントローラ415は、ステップS502にて算出した偏差から送液ポンプ104の制御量を算出する(ステップS503)。送液ポンプ104の制御量の算出過程においては、より正確に培養液の流速を制御するために、外乱の影響を受けにくいPI制御や、PID制御といったフィードバック制御方法が望ましい。
次に、コントローラ415は、外部通信回路216を介して送液ポンプ104の制御コントローラへステップS503にて算出した送液ポンプ104の制御量を送信し、送液ポンプ104は入力された制御量に基づいて運転する(ステップS504)。コントローラ415が送液ポンプ104の制御コントローラを兼ねる場合は、送液ポンプ104の制御量を外部通信回路216を介して送信する必要はない。
ステップS502の判定処理後、もしくはステップ504の速度制御を実施後、コントローラ415は、現在の装置状態が培養中かどうかの判定を行う(ステップS505)。ステップS505にて装置状態が“培養中”と判定された場合は、あらかじめ設定された周期にてステップS501に処理を戻して、制御を繰り返し実施する。これに対して“培養終了”と判定された場合、処理を終了する。
次に、本実施例の効果について説明する。
上述した本発明の実施例1の細胞培養装置100は、細胞を培養する培養容器102と、培養容器102内の細胞に供給する培養液106を保持する培養液槽105と、培養液槽105に保持された培養液106を培養容器102に送液する送液ポンプ104と、培養液106中のターゲットガスの濃度を検出する溶存ガスセンサ206によって検出された溶存ガス濃度に基づいて培養液106中のターゲットガスの濃度を制御する溶存ガス濃度制御ユニット200と、を備えている。
本発明によれば、培養液106中のターゲットガス濃度が所定値、あるいは所定範囲内に収まるよう溶存ガス濃度制御ユニット200内が制御されることから、従来に比べて正確に培養液の溶存ガス濃度を制御することができる。
例えば、大気中のO2濃度よりも低い低O2濃度(例:2%)での培養の場合、図1に示すような従来のガスインキュベータ内のガス濃度を制御する方式の場合は、ガスインキュベータ内を多量のバッファーガス(窒素ガスなど)で常時ガスパージし続けながら、インキュベータ内のO2濃度を低下させる必要がある。この場合、膨大な量のバッファーガスを消費するため、環境負荷が高く、またランニングコストが非常に高くなる、との問題があった。
これに対して、本実施例であれば、低O2濃度の設定値となるまで溶存ガス濃度制御ユニット200を負圧制御するのみでよいため、従来の様に必要以上にバッファーガスを消費することなく、また環境負荷が非常に少なく、更にランニングコストの低い、優れた培養液中の溶存ガス濃度制御方法を実現することができる。
また、細胞培養装置100は、培養容器102から排出された培養液106が培養液槽105に戻る循環型の閉鎖系で構成されることにより、外部気体に培養液が触れる箇所が少なく、より溶存ガス濃度の制御しやすい細胞培養装置とすることができる。
更に、溶存ガス濃度制御ユニット200は、ターゲットガスを含む気体および培養液106と接触するガス透過性フィルム204と、ガス透過性フィルム204を介して気体を培養液106に供給あるいは培養液106から脱気させるガスチャンバー内圧制御部203と、を有することで、培養液106中のターゲットガス濃度を、培養液106に直接接触することなく、より容易かつ確実に所定範囲内に制御することができる。
また、溶存ガス濃度制御ユニット200のうち、ガス透過性フィルム204は、溶存ガスセンサ206の上流側に配置され、フィードバック制御によりターゲットガスの濃度が制御されるため、培養液106中の溶存ガス濃度をより速やかに且つ安定して狙い通りの範囲に収めることでき、溶存ガス濃度の制御をより安定させることができる。
更に、溶存ガス濃度制御ユニット200は、溶存ガスセンサ206によって検出された溶存ガス濃度を記憶する記憶装置217を更に有することで、培養液中の溶存ガス濃度を記録できる。このため、従来のガスインキュベータ内のガス濃度を制御する方式に比べてトレーサビリティの優れた方法で培養を行うことが可能となる。特に、細胞培養装置100にて培養した細胞からなる再生組織を最終的に治療用途に使用する場合、最適な条件で培養が行われたか否かをより容易に判定することに大きく寄与することになる。
また、培養液106中の溶存ガス濃度をより正確かつ簡易に制御するためには、溶存ガス濃度制御ユニット200以外の箇所では、培養液106中の溶存ガスが大気等の外部のガスとガス交換を行ってしまうことを極力防ぐ必要がある。そこで、溶存ガス濃度制御ユニット200のうち、培養液槽105と培養容器102とを接続する流路を構成する配管は、ターゲットガスを含めて気体を透過させないガス不透過性チューブ205で構成されることにより、不要なガス交換が行われることを抑制することができ、より正確で、濃度の変動量の小さい溶存ガス濃度制御が可能となる。
更に、培養容器102から排出された培養液106が培養液槽105に戻るまでの流路を構成する配管も、ターゲットガスを含めて気体を透過させないガス不透過性チューブ205で構成されることで、不要なガス交換が行われることを更に抑制することができ、更に正確な溶存ガス濃度制御が可能となる。
また、培養液106の流速を測定する流速センサ401と、流速センサ401によって測定された培養液106の流速に基づいて送液ポンプ104による培養液106の送液速度を制御する流速センサ処理回路402と、を更に備えたことにより、溶存ガス濃度の制御の正確性をより高めることができる。とくに、フィードバック制御を行う場合の精度を高めることができる。
なお、図2に示す細胞培養装置100は、図1に示すようなインキュベータ101内に配置しても構わない。この場合、ガス不透過性チューブ205の替わりに図1に示すようなチューブ107を用いることができる。また、ガス不透過性チューブ205の替わりに図1に示すようなチューブ107を用いるは、図1に示すような窒素ガス供給機構108、CO2ガス供給機構109、加温機構110、加湿機構111のうち少なくとも1つ以上を用いてインキュベータ101内の雰囲気制御を行うことが望ましい。以下に示す実施例2,3,4も同様である。
<実施例2>
本発明の実施例2の細胞培養装置および培養液の気体濃度制御方法について図7を用いて説明する。実施例1と同じ構成には同一の符号を示し、説明は省略する。以下の実施例においても同様とする。図7は本実施例2の細胞培養装置のうち、溶存ガス濃度制御ユニットの概略構成を示す図である。
実施例1の細胞培養装置100では溶存ガス濃度制御ユニット200,400内の隔壁としてガス透過性フィルム204を使用したが、本実施例の細胞培養装置ではガス透過性フィルム204の代わりにガス選択性透過フィルム604を用いる。
図7に示すように、本実施例の細胞培養装置における溶存ガス濃度制御ユニット600は、溶存ガスセンサ206、溶存ガスセンサ処理回路214、ガスチャンバー602、圧力センサ201、圧力センサ処理回路211、ガスチャンバー内圧制御部603、加圧機構607、加圧機構制御バルブ609、加圧機構制御回路612、脱気機構208、脱気機構制御バルブ210、脱気機構制御回路213、コントローラ615、外部通信回路216、記憶装置217を備えている。
これらの各構成のうち、ガスチャンバー602、ガスチャンバー内圧制御部603、加圧機構607、加圧機構制御バルブ609、加圧機構制御回路612およびコントローラ615以外は図3で示したものと同じ構成であり、その詳細は省略する。
ガスチャンバー602は、ガス選択性透過フィルム604を介して培養液106中のターゲットガスを培養液106に加圧あるいは培養液106から脱気させるための空間である。
本実施例でも、ガス選択性透過フィルム604を含むガスチャンバー602は、溶存ガスセンサ206の上流側に配置されており、フィードバック制御によりターゲットガスの濃度が制御される。
ガス選択性透過フィルム604は培養液106とガスチャンバー602とを隔壁するフィルムであり、好適には孔がターゲットガスと同サイズであり、培養液106を構成する各種成分を含めてターゲットガス以外の気体を透過させることがないように構成されたフィルムである。
ガスチャンバー内圧制御部603は、ガスチャンバー602の圧力を制御する部分であり、ガス選択性透過フィルム604を介してターゲットガスを培養液106に加圧あるいは培養液106から脱気させる部分である。
ガスチャンバー内圧制御部603には、ガスチャンバー内圧制御部603にターゲットガスを供給する加圧機構607および加圧機構制御バルブ609が接続されている。加圧機構607はターゲットガスを含む気体が充填されたボンベ等である。
コントローラ615は、測定された溶存ガス濃度やガスチャンバー602内の圧力値に基づいて、培養液106のターゲットガス濃度を所定の値や所定範囲内に収めるために必要な加圧機構607による加圧量、あるいは脱気量を求め、加圧機構制御回路612や脱気機構制御回路213に対して制御信号を出力する。
加圧機構制御回路612は、コントローラ615からの信号を受け、加圧機構607からの気体の供給の有無や加圧機構制御バルブ609の開度を制御する。気体の加圧量は、加圧機構607からの気体の供給量、あるいは加圧機構制御バルブ609の開度のうち少なくともいずれかによって調整する。
次に、好適には本実施例の細胞培養装置のうち、溶存ガス濃度制御ユニット600を用いた、培養液106中の溶存ガス濃度の制御方法について説明する。
本実施例の培養液106中の溶存ガス濃度制御方法は、図4に示した実施例1における溶存ガス濃度制御方法と実質的に同じ制御フローである。
本実施例2と前述した実施例1との相違点は、ステップS301にて測定した測定濃度が設定濃度よりも小さい場合である。
実施例1では溶質となるターゲットガスを供給することで培養液106に対して溶存ガス濃度を増加させる。これに対し、本実施例2の場合はガス選択性透過フィルム604を用いているため、実施例1のようにターゲットガスを供給する必要はなく、ターゲットガスを含む混合気体、例えばターゲットガスがO2である場合は大気のような混合気体を用いることができる。また、CO2等の大気中の組成率が低い気体の場合も、高純度ガスボンベ等は不要であり、ある程度の組成率でターゲットガスを含んでいる混合気体を用いることができる。
なお、用いる混合気体は、好適には、ターゲットガスと同サイズで、かつ培養液106に対する溶解量が高いガスを含んでいないことがより望ましい。
その他の構成・動作は前述した実施例1の細胞培養装置および培養液の気体濃度制御方法と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
本発明の実施例2の細胞培養装置および培養液の気体濃度制御方法においても、前述した実施例1の細胞培養装置および培養液の気体濃度制御方法とほぼ同様な効果が得られる。
また、本実施例2は、溶存ガス濃度制御ユニット600は、ターゲットガスおよび培養液106と接触するガス選択性透過フィルム604と、ガス選択性透過フィルム604を介してターゲットガスを培養液106に加圧あるいは培養液106から脱気させるガスチャンバー内圧制御部603と、を有しており、ガス選択性透過フィルム604により、ある1種類のガス分圧のみを選択的に増加させることができる。
前述のヘンリーの式より、ガス選択性透過フィルム604を用いた場合は、混合気体を加減圧するのみである1種類のガス分圧のみを選択的に増減することができる。つまり、混合気体のみで溶存ガス濃度の制御が行える、との利点を有している。
例えば、培養液中に低O2濃度(例:2%)に制御するケースにおいて、ステップS301にて測定した測定濃度が設定濃度よりも小さい場合、実施例1におけるステップS307での加圧処理では、O2ボンベから純度の高いO2ガスを用いてガスチャンバー202内に適切な圧力で供給する必要がある。
これに対し、実施例2における加圧処理では、大気等の混合気体を用いてガスチャンバー602内に適切な圧力を加えるだけで制御することができ、事前に高純度ガスボンベ等を準備する必要がない。
また、図1に示した、従来の閉鎖系流路をもつ細胞培養装置においては、インキュベータ101内を低O2濃度(例:2%)に保つために、インキュベータ101内に大気を取り入れてから、続いてインキュベータ101内に膨大な窒素ガスをパージする事で低O2濃度を制御し、維持する。
このように、本実施例2は、実施例1に比べてもターゲットガスの消費ガス量を大幅に低減することができ、培養時の更なるコスト低減、また地球環境への負荷が更に少ない溶存ガス濃度制御法とすることができる。
更に、本実施例2における加圧処理において加圧ガスとして大気を使用する場合、実施例1の制御対象ガスを加圧する制御に比べて、同ガスの大気組成率(ガス分圧)が大きい場合は、加圧処理によって容易にガス分圧を増大させることができるため、より好適な制御方式となる。例えば、本実施例2は、大気中の比較的組成率の高いガスであるO2がターゲットガスである場合、特に低O2濃度制御(例:濃度2%)に非常に適している方法である。
<実施例3>
本発明の実施例3の細胞培養装置および培養液の気体濃度制御方法について図8および図9を用いて説明する。図8は本実施例3の細胞培養装置のうち、溶存ガス濃度制御ユニットの配置の一例を示す図である。図9は実施例3の細胞培養装置による溶存ガス濃度制御のフローチャートである。
実施例1や実施例2では溶存ガス濃度制御ユニット単体で培養液106中の溶存ガス濃度を制御する場合について説明した。これに対し、本実施例では溶存ガス濃度制御ユニットを2台以上使用して、培養液106中の複数の溶存ガスの濃度を制御する。
本実施例3では、ターゲットガスをCO2およびO2とし、培養液106中の溶存O2濃度2%をO2濃度制御ユニットにて制御し、溶存CO2濃度5%をCO2濃度制御ユニットにて制御する。
図8に示すように、溶存O2濃度を制御するO2濃度制御ユニット702と、溶存CO2濃度を制御するCO2濃度制御ユニット703とが、ガス不透過性チューブ205にて構成される培養液流路上に直列に接続されている。
O2濃度制御ユニット702やCO2濃度制御ユニット703は、実施例1や実施例2で説明した構造の溶存ガス濃度制御ユニット200,400,600のうち、コントローラ以外の構成を備えており、またその機能なども特に違いはない。
ただし、本実施例では、O2濃度制御ユニット702はO2にターゲットを絞り、CO2濃度制御ユニット703はCO2にターゲットを絞った構成をしている。例えば、溶存O2濃度制御ユニット702内にはO2選択性透過フィルムが設けられており、溶存CO2濃度制御ユニット703内にはCO2選択性透過フィルムが設けられている。
本実施例の細胞培養装置のコントローラ715は、O2濃度制御ユニット702とCO2濃度制御ユニット703との2つの溶存ガス濃度制御ユニットの動作を制御するものであり、2つのユニットの動作を制御する点以外は実施例1などで説明したコントローラ215等と構成や動作に基本的な違いはない。
次に、図9を用いて、本実施例3における溶存ガス濃度制御の流れの一例について説明する。図9は本実施例3の溶存ガス濃度制御のフローチャートである。
まず、溶存O2濃度制御ユニット702内の溶存O2センサにて、培養液中の溶存O2濃度を測定する(ステップS801)。
次に、溶存CO2濃度制御ユニット703内の溶存CO2センサにて、培養液中の溶存CO2濃度を測定する(ステップS802)。
次に、コントローラ715は、ステップS801にて測定した測定O2濃度とこの設定O2濃度とから算出される偏差(測定濃度−設定濃度)の絶対値と、設定された閾値との大小関係を判定する(ステップS803)。
ステップS803にて偏差>閾値と判定された場合は、測定O2濃度が設定濃度から十分離れているため、次ステップ以降で溶存O2濃度の制御を行う必要があるが、まずは処理をステップS804に進める。
続けて、コントローラ715は、ステップS802にて測定した測定CO2濃度と設定CO2濃度とから算出される偏差(測定濃度−設定濃度)の絶対値と、設定された閾値との大小関係を判定する(ステップS804)。
ステップS804にて偏差>閾値と判定された場合は、測定CO2濃度および測定O2濃度が設定濃度から十分離れていることから、いずれの溶存ガスの濃度制御も必要であるとして、コントローラ715は溶存O2濃度と溶存CO2濃度の制御を行うべく、ステップS806に処理を進める。
これに対し、ステップS804にて偏差≦閾値と判定された場合は、測定CO2濃度が設定CO2濃度に十分近いため溶存CO2濃度制御は不要であるが、測定O2濃度は設定濃度から十分離れていることから溶存O2濃度制御が必要であるとして、コントローラ715はステップS807に処理を進める。
ステップS803にて偏差≦閾値と判定された場合は、測定O2濃度が設定O2濃度に十分近いため、溶存O2濃度制御は行わないこととし、処理をステップS805に進める。
続けて、コントローラ715は、ステップS802にて測定した測定CO2濃度と、設定CO2濃度から算出される偏差(測定濃度−設定濃度)の絶対値と、設定された閾値との大小関係を判定する(ステップS805)。
ステップS805にて偏差>閾値と判定された場合は、測定CO2濃度が設定濃度から十分離れているため溶存CO2濃度制御は必要であるが、測定O2濃度は設定O2濃度に十分近いため溶存O2濃度制御は不要であるとして、コントローラ715は次ステップ以降で溶存CO2濃度の制御を行うためにステップS808に処理を進める。
これに対し、ステップS805にて偏差≦閾値と判定された場合は、測定CO2濃度と測定O2濃度とのいずれもが設定濃度から十分近いことからいずれの溶存ガスの濃度制御も不要であるとして、コントローラ715は溶存ガス濃度制御を実行せず(ステップS809)に、処理をステップS810に進める。
ステップS806,S807における溶存O2濃度の制御はO2濃度制御ユニット702にて、ステップS806,S808における溶存CO2濃度の制御はCO2濃度制御ユニット703にて実行する(ステップS806,S807,S808)。各溶存ガス濃度制御ユニットにおける各溶存ガス濃度を制御する方法に関しては実施例1等の場合と同様の制御方式を用いることができる。
具体的には、各ガスにおいて、測定濃度の方が設定濃度よりも大きい場合は、測定時よりも溶存ガス濃度を減少させて設定濃度に近づける必要があるため、ステップS304,S305と同等の処理を実行する。これに対し、測定濃度の方が設定濃度よりも小さい場合は、測定時よりも溶存ガス濃度を増加させて設定濃度に近づける必要があるため、ステップS306,S307と同等の処理を実行する。
溶存濃度ガス制御の実行後、コントローラ715は、現在の装置状態が培養中かどうかの判定を行う(ステップS810)。ステップS810にて、装置状態が“培養中”と判定された場合、あらかじめ設定された周期にて、ステップS801から繰り返し実施する。また、ステップS810にて、装置状態が“培養終了”と判定された場合、処理を終了する。
本実施例3においても、実施例1と同様に、溶存ガス濃度のフィードバック制御において正確な制御を行うために、実際に培養液の流速を測定して測定流速と設定流速の偏差を計算し、その偏差に応じて送液ポンプ104の流速をフィードバック制御し続けることが望ましい。実際の培養液の流速の制御フローは、実施例1(図6)と同様である。
ここで、本実施例3において、溶存ガス濃度制御ユニット内の培養液106とガスチャンバー202の隔壁材として実施例1のようにガス透過性フィルム204を用いる場合は、ステップS806,S807,S808の溶存ガス濃度制御では溶質となるO2ガス、およびCO2ガスを用いる。
各ガスに対して加圧処理(ステップS306,S307)を行う場合は、ステップS306にて算出された加圧値となるよう、ガスチャンバー202内にO2ガスおよび/あるいはCO2ガスを供給して加圧することによって、それぞれの溶存ガス濃度を独立して、かつ同時に制御可能である。
また、各ガスに対して減圧処理(ステップS304,S305)を行う場合は、算出された減圧値が正圧の範囲内であればガスチャンバー202内を正圧の範囲内で減圧することで、それぞれの溶存ガス濃度を独立して、かつ同時に制御することが可能である。
しかしながら、算出された減圧値が負圧となった場合は、ガスチャンバー202内を負圧とすると、培養液中の溶存O2分圧と溶存CO2分圧とが同時に減少する。従って、溶存O2濃度と溶存CO2濃度とが同時に減少するため、それぞれの溶存ガス濃度を独立して、かつ同時に制御することが困難となる。
この場合は、それぞれの溶存ガス濃度を同時に制御せず、逐次制御を行うバッチ処理とすることで制御可能となる。しかし、本来、正確な制御を行う場合はバッチ処理を含めたすべての一連の処理におけるフィードバック制御の周期を速める必要がある。ただし、この様なバッチ処理では、制御対象ガス種に比例してフィードバック制御の周期が増大してしまう点がトレードオフの関係となっており、正確な溶存ガス濃度制御において不利な条件である。
ここで、各壁材として、実施例2のようにガス選択性透過フィルム604を用いる場合、各ガスに対して加圧処理(ステップS307)を行う場合は、実施例2に記載した通りの制御で実行可能である。
また、各ガスに対して減圧処理(ステップS307)を行う場合も、算出された減圧値が正圧、負圧の範囲に関係なく、ガス選択性透過フィルム604のもつガス選択性からそれぞれの溶存ガス濃度を独立して、かつ同時に制御することが可能である。この場合は、それぞれの溶存ガス濃度の制御を前述のバッチ処理で実行する必要がない。このため、ガス透過性フィルム204を用いる場合に比べて早い周期でフィードバック制御を実行することができ、制御の正確性も良く、望ましい条件となる。
総合的に、本実施例3のように、複数の溶存ガス濃度制御ユニットを用いる場合は、溶存ガス濃度制御ユニット内の、培養液106とガスチャンバー202の隔壁材は、ガス選択性透過フィルム604を用いることが望ましい。
本発明の実施例3の細胞培養装置および培養液の気体濃度制御方法においても、前述した実施例1の細胞培養装置および培養液の気体濃度制御方法とほぼ同様な効果が得られる。
なお、複数の溶存ガス濃度制御ユニットに対して、個々に独立したコントローラやマイコン等がある場合は、個々の溶存ガス濃度制御ユニットにおいて、図4に示したフロー図に従った独立制御を行うことで、同様に複数のガス濃度を独立して、かつ同時に制御することができる。
<実施例4>
本発明の実施例4の細胞培養装置および培養液の気体濃度制御方法について図10乃至図12を用いて説明する。図10は本実施例4の細胞培養装置の概略構成を示す図である。図11は実施例4の細胞培養装置のシステム構成を示す図である。図12は実施例4の細胞培養装置の他のシステム構成の一例を示す図である。
上述の実施例3では、溶存ガス濃度制御ユニットを複数台使用して複数の培養液中の溶存ガス濃度を制御する場合について説明した。これに対し、本実施例では、更に、1以上の溶存ガス濃度制御ユニットに加えて、培養液の流路上に培養を効率良く行うために必要な機能を有する個々のユニットを複数台設置したモジュール構成とした細胞培養装置について説明する。
図10に示すように、本実施例4における細胞培養装置900は、閉鎖系流路を構成するガス不透過性チューブ901に、培養容器904、デブリ除去モジュール905、培養液槽906、pH監視モジュール908、送液モジュール909、O2濃度制御モジュール910、溶存CO2濃度制御モジュール911、温度制御モジュール902、制御用パソコン1001を備えている。
培養容器904は培養物903を格納する。培養液槽906は培養液907を貯蔵する。デブリ除去モジュール905は培養液907中の培養物903が排出する老廃物などのデブリを分離・除去する。pH監視モジュール908は培養液907中のpHを常時監視する。送液モジュール909は培養液907を送液する。温度制御モジュール902は、培養液907の温度を制御する。
O2濃度制御モジュール910は培養液907中の溶存O2濃度を実施例1もしくは実施例2の方式で制御し、溶存CO2濃度制御モジュール911は培養液907中の溶存CO2濃度を実施例1もしくは実施例2の方式で制御する。
制御用パソコン1001は、細胞培養装置900内の各モジュールの動作を制御する。その詳細は後述する。
なお、本実施例4における細胞培養装置900は、上記にて説明した各モジュールを備えている必要はなく、ユーザが求める培養条件から細胞培養装置に必要とする機能を有する個々のモジュールを適宜選択することができる。
図10に示す細胞培養装置900における各モジュールの制御は、各モジュールを1台の制御用パソコンにて集中制御することが最も容易である。以下、図10におけるモジュール構成において、各モジュールを1台の制御用パソコンをコントローラとして使用することで集中制御する形態について図11を用いて説明する。
図11で示すように、制御用パソコン1001にて各モジュールを集中制御するために、制御用パソコン1001から各モジュールに専用の通信手段としてネットワークバス1002を備えている。
ネットワークバス1002は、通信の高速性、耐ノイズ性を考慮すると有線式の通信線が望ましいが、通信手段は、特に、有線、無線を問わない。
この場合は、動作フロー中の適切な時間に応じて、ネットワークバス1002を通して各モジュールに処理信号を送信することで集中制御する。各モジュールはスレーブデバイスとして扱われ、マスターデバイスである制御用パソコン1001からの処理信号を受信して初めてモジュールの制御を開始する。
この場合は、各モジュールからなるシステム構成の全ての組み合わせを考慮した制御処理を制御用パソコン1001にて実行する必要がある。そのような制御処理を実現させるためには、例えば、培養開始前、もしくは直後に、制御用パソコン1001によって、ネットワークバス1002に接続されている各モジュール、もしくは通信可能な状態である各モジュールを調査し、調査結果によるモジュール構成に対応した制御処理を実行する方法がある。
本実施例では、各モジュールを一括制御するコントローラとして制御用パソコン1001を採用した場合を説明したが、特にパソコンである必要はない。例えば各モジュールを制御できるコントローラ端末(マイコン、PLC等)であれば良く、特に限定されない。
以後、図10,11に示す制御を集中制御方式と呼ぶ。この集中制御方式の場合、制御用パソコン1001に機能が集中し、システム全体の処理速度など処理能力を向上させるためには、より高い処理能力をもつ制御用パソコン1001が必要になり、必然的にシステム全体が大型化する傾向にある。
また、制御用パソコン1001にて各モジュールを集中制御するため、制御用パソコン1001内の制御ソフトウエアのコード量が多くなる。また、それに従ってソフトウエアの開発工数が多くなり、ソフトウエアのメンテナンスが複雑化することがある。
更に、万が一、制御用パソコン1001が突然のエラー等で停止した場合、全てのモジュールに対して処理信号を送信することができなくなるため、システム全体が突然停止するリスクがある。
このように、各モジュールを1台の制御用パソコン1001を用いて制御する方式は、装置の動作安定性の観点において改善の余地がある。
すなわち、1台の制御用パソコン1001にて各モジュールを集中制御する構成の細胞培養装置900を用いて、患者への移植治療を想定した自家細胞、または組織の培養を行う場合を考える。この場合、培養最中に細胞培養装置が何かしらのエラーで停止した場合は、その培養中の細胞は治療に使用することは細胞の品質の面で困難となり、追加で患者から再度細胞を採取して再び培養する必要が発生してしまう。このため、緊急治療時の培養や貴重な細胞を培養する場合は、細胞培養装置の動作安定性は最重要の要件となる。
そこで、集中制御方式に替わって、各モジュールが独立して自らのモジュールを自律的に制御する分散制御システム(以下、DCSと表記する)を用いることが考えられる。以下、DCSを採用した細胞培養装置の構成に関して図12を用いて説明する。
図12に示す細胞培養装置1100は、集中制御方式で説明した温度制御モジュール902、pH監視モジュール908、送液モジュール909、O2濃度制御モジュール910、CO2濃度制御モジュール911に加え、状態監視モジュール1101、操作・入力部1102、表示部1103、培養プロトコル演算部1104が、ネットワークバス1105にて接続される。
ネットワークバス1105についても、通信の高速性、耐ノイズ性を考慮すると有線式の通信線が望ましいが、通信手段は、特に、有線、無線を問わない。
前述の1台の制御用パソコン1001でモジュールシステム全てを制御する方式と比べて、図12に示すDCS方式の各モジュールでは、マスターデバイス、スレーブアドレスをもたず、各モジュールがそれぞれを独立に制御できるコントローラを備えており、個々のモジュールが独立して制御される。
また、DCS方式の場合、各モジュールのコントローラ部がネットワークバス1105を介して別のモジュールと通信できることを特徴とする。
このようなDCS方式を用いる場合、集中制御方式のように制御用パソコン1001ですべてのモジュールを制御する必要がない。このため、制御用パソコン1001に機能が集中する必要がない。
また、集中制御方式の場合、制御用パソコン1001が突然のエラー等で停止した場合、全てのモジュールに対して処理信号を送信することができなくなるため、システム全体が突然停止するリスクがある。これに対して、DCS方式の場合、前述の通り各モジュールがそれぞれの制御部を独立に制御できるコントローラを備えているため、制御用パソコン1001に依存しない制御が可能となる。このため、あるモジュールが突然のエラー等で停止した場合は、例えば、独立して動作する状態監視モジュール1101が停止したモジュールを検知し、表示部1103にて表示することで、ユーザに異常事態を知らせることが可能となる。このように、DCS方式を用いたモジュール構成の細胞培養装置1100は、装置の安定性および信頼性向上を図ることができ、集中制御方式に比べて望ましい制御方法である。
その他の構成・動作は前述した実施例1の細胞培養装置および培養液の気体濃度制御方法と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
本発明の実施例4の細胞培養装置および培養液の気体濃度制御方法においても、前述した実施例1の細胞培養装置および培養液の気体濃度制御方法とほぼ同様に、従来のような図1のような一般的なガスインキュベータを使用する必要がなく、常温環境下でコンタミネーションリスクの少ない閉鎖系流路による培養を行うことが出来るとの効果が得られる。
また、細胞培養装置900,1100をモジュール構成とすることで、無駄な機能を省くことが出来るため、細胞培養装置のコストや、システムが占める接地面積の大幅な低減を実現することができる。
<実施例5>
本発明の実施例5の細胞培養装置および培養液の気体濃度制御方法について図13を用いて説明する。図13は本実施例5の細胞培養装置の概略構成を示す図である。
図13に示すように、本実施例の一方通行型の細胞培養装置100Aは、インキュベータ101内に、培養液106を供給するのみの培養パック105A、培養液106を送液する送液ポンプ104、溶存ガス濃度制御ユニット200、培養物103を収容する培養容器102、培養容器102から排出された培養液106を貯留する廃棄パック105Bから構成される。
この細胞培養装置100Aでは、インキュベータ101内大気の温度、湿度、溶存ガス濃度制御はそれぞれ、窒素ガス供給機構108、CO2ガス供給機構109、加温機構110、加湿機構111によって制御される。
その他の構成・動作は前述した実施例1の細胞培養装置および培養液の気体濃度制御方法と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
本発明の実施例5のように、培養パック105Aが培養液106を供給するのみであり、培養容器102から排出された培養液106を貯留する廃棄パック105Bを更に有する一方通行型の閉鎖系で構成される細胞培養装置100Aおよび培養液の気体濃度制御方法においても、前述した実施例1の細胞培養装置100および培養液の気体濃度制御方法とほぼ同様な効果が得られる。
なお、本実施例のような一方通行系においても、チューブ107の替わりにガス不透過性チューブ205を用いることができる。この場合、インキュベータ101や窒素ガス供給機構108、CO2ガス供給機構109、加温機構110、加湿機構111は必要に応じて設けることができる。
<その他>
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。