以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
<本実施形態の概要>
本実施形態では、射出樹脂を製造する手段として、従来のペレットを可塑化する方法から、ジュール熱で溶融する方法に改良した。これにより、射出シリンダを大幅に小型・軽量化することができた。
その結果、固定盤を用いずに直接、射出シリンダのノズルを、金型のゲートに押圧接続することが可能になり、金型を、固定盤及び可動盤に固定支持する構造が不要となった。また、本実施形態では、コア型、及びキャビティ型それぞれに装着していた一回り大きい厚板鋼材の取り付け板も不要となった。これにより、コア型及びキャビティ型(以下、コア型及びキャビティ型を合わせて、「型本体」と称する場合がある)を、大幅に小型、軽量化することが可能となった。
型本体を小型化できることにより、型本体に対する型締めは、従来の固定盤及び可動盤を備えた型締め機構による押圧に代わって、ホルダ構造とすることが可能になった。これにより、金型を簡易且つ確実に型締め、及び型開きが出来るようになった。
このように、金型を小型化できるため、成形品を成形する場合に、金型を昇温する熱量や、冷却する熱量を、従来よりも大幅に低下させることが可能になった。具体的には、同じ体積の樹脂成形品を製造する際、各熱量を夫々、従来に比べて、約10分の1以下にでき、大幅な省電力化が可能となった。
従来における樹脂成形は、環境負荷の高い生産方法であったが、本実施形態では、大幅な省電力化が可能であり、従来の課題を解決することが可能である。
以下、本実施形態の射出成形機に用いられる射出シリンダ及び金型について詳しく説明する。
<射出成形機>
図1は、本実施形態における射出成形機の模式図である。図1に示すように、射出成形機1は、射出シリンダ2と、射出シリンダ2を可動可能に支持する可動装置3と、金型4を設置するテーブル9と、型締めホルダ7、8をテーブル9と水平方向に移動可能に支持する移動装置10、11と、を有して構成される。
図1に示すように、テーブル9の表面には、断熱板12が設けられている。そして、断熱板12の表面に、コア型5とキャビティ型6とを重ねた型本体4aを載置することができる。図1に示すように、断熱板12の両端のテーブル表面には、移動装置10、11が設けられている。
移動装置10、11は、固定軸13とシリンダ14とを具備して構成される。固定軸13は、テーブル9に固定されている。シリンダ14の後端面14bは、固定軸13により固定されており、シリンダ14の前端面14aは、断熱板12側(内側)に向いている。
シリンダ14を限定するものではないが、例えば、油圧シリンダであり、ピストンロッド14cが、前後方向(X1−X2方向)に移動できるように構成されている。
図1に示すように、ピストンロッド14cの先端には、型本体4aを型締めするための型締めホルダ7、8が取り付けられている。なお、型締めホルダ7、8の構造については、後で詳細に説明する。シリンダ14の駆動により、型締めホルダ7、8を、テーブル9上で前後方向(X1−X2方向)に水平移動させることができる。
図1に示すように、型締めホルダ7、8を、断熱板12上に設置された型本体4aの方向に移動させ、型本体4aの両側を、型締めホルダ7、8により型締めする。
図1に示すように、射出シリンダ2は、可動装置3に支持されており、射出シリンダ2を可動装置3により駆動させ、金型4に接続させることができる。なお、図12では、図示右側の型締めホルダ8が型本体4aから外れているが、実際には、型本体4aの両側を型締めホルダ7、8で保持した後、射出シリンダ2により射出成形を行う。
可動装置3の構造を限定するものではないが、例えば、ロボットアームやシリンダ装置等である。
図1に示すように、射出シリンダ2を金型4に直接、押圧接続した状態で、射出シリンダ2から溶融樹脂を金型4のキャビティ内に射出する。射出成形後、シリンダ14を駆動させて、型締めホルダ7、8を型本体4aから外す。そして、コア型5とキャビティ型6との間を開き、樹脂成形品を取り出す。
なお、テーブル9は、単体の台であってもよいし、生産ラインのコンベアの一部等であってもよい。
また、図1に示すように、型締めホルダ7、8を、移動装置10、11を用いて型締めする機構でなくてもよい。例えば、予め、型本体4aに型締めホルダ7、8を取り付けた金型4を、テーブル9上にセットしてもよい。或いは、移動装置10、11のうち、一方にのみ移動装置が設けられ、他方は、固定軸13のみで構成されていてもよい。係る構成では、移動装置と固定軸に夫々、型締めホルダ7、8を取り付けておき、移動装置により、型本体4aを固定軸に取り付けられた型締めホルダ側に押し付けて、型本体4aの両側を型締めホルダ7、8で固定することができる。
図2は、従来における射出成形機(一例)100の模式図である。図2に示すように、射出成形機100には、固定盤101及び可動盤102が設けられている。例えば、コア型105は、固定盤101に厚板鋼材の取り付け板107を介してボルト108により取り付けられている。また、キャビティ型106は、可動盤102に厚板鋼材の取り付け板107を介してボルト108により取り付けられている。このため、コア型105及びキャビティ型106は、基本的には、固定盤101及び可動盤102から取り外さない構成となっている。
図2に示すように、キャビティ型106を固定支持する可動盤102には型締め機構109が取り付けられており、型締め機構109の直線駆動により、可動盤102を図示上方に移動させ、コア型105とキャビティ型106とを型締めすることができる。
図2に示すように、固定盤101には、射出シリンダ120のノズル121を差し込むことが可能な差込口122が設けられており、射出シリンダ120のノズル121が差込口122に差し込まれる。図2に示すように、固定盤101から取り付け板107及びコア型105にかけてランナ123が通じており、射出シリンダ120から溶融樹脂を、ランナ123を介してキャビティ106aに射出することができる。
このように、本実施形態の射出成形機1と、従来の射出成形機100とを対比すると、本実施形態では、固定盤101及び可動盤102を備えた型締め装置を用いることなく、金型4をテーブル9上に設置し、金型に形成されたゲートに直接、射出シリンダ2のノズルを、押圧接続している。すなわち、本実施形態の金型4には、従来のようなランナ123は無く、ゲートからキャビティへ直接、溶融樹脂を射出することができる。
本実施形態において、金型4の型締め機構として、従来用いられてきた固定盤101及び可動盤102等を不要にできたのは、本実施形態では、射出樹脂を製造する手段として、従来のペレットを可塑化する方法から、ジュール熱で溶融する方法に改良し、これにより、射出シリンダ2を大幅に小型・軽量化することができたためである。そして、本実施形態では、従来に比べて低い射出圧での射出成形を可能とする。以上により、従来のように固定盤101を介すこと無く、射出シリンダ2のノズルを、金型に形成したゲートに直接、押圧接続することが可能になり、金型4を、固定盤101及び可動盤102に固定支持する構造が不要となったのである。
以下、本実施形態の射出シリンダ2及び金型4の具体的構造について詳細に説明する。
<射出シリンダ2>
図1に示す射出シリンダ2は、溶融に必要なジュール熱に相応する電力量で樹脂を溶融できる構成である。本実施形態の射出シリンダ2は、小型、軽量化に優れており、例えば、アームロボットによる可動装置3により、射出シリンダ2を可動可能に支持することができる。本実施形態の射出シリンダ2では、ペレットをほぼ完全溶融でき、樹脂の流動性に優れる。したがって、金型4のキャビティの最端部にまで溶融樹脂を充填でき、従来の可塑化方式に比べて、同じ体積の樹脂成形品を成形するに際し、約5分の1の射出圧での成形が可能になっている。なお、本実施形態において、「射出圧」を従来と比べる際、特に断りが無い場合は、同じ体積の樹脂成形品を成形する際にしての射出圧を意味する。
図3は、本実施形態における射出シリンダ2の断面模式図である。本実施形態の射出シリンダ2は、シリンダ本体22と、溶融器23と、ノズル21と、溶融器23を加熱するための発熱体26と、溶融樹脂を加圧してノズル21から外部に射出するための加圧手段と、を有して構成される。
図3に示すように、シリンダ本体22と溶融器23は接続されて固定されている。また、溶融器23とノズル21は接続されて固定されている。また、シリンダ本体22内には、加圧手段としてのプランジャ25が設けられている。図3では、プランジャ25は、溶融器よりもシリンダ本体22の後端側(図3の上方側)に配置されている。プランジャ25は、駆動手段により上下移動(往復移動)が可能に支持されている。
シリンダ本体22は、先端から後端に向けて略一定の内径及び外径を有する細長い円筒状で形成されているが、特に形状を限定するものではない。すなわち、溶融器23と接続でき、シリンダ内部で加圧手段としてのプランジャ25を上下移動させることが可能な形態であれば特に形状を限定しない。例えば、シリンダ本体22を内部が空洞の角形とすることもできる。
またシリンダ本体22の材質を特に限定するものでないが、強度を保つ観点等により、鉄又は鉄の含有量の多いステンレスなどを用いることが好適である。
図3に示すように、シリンダ本体22には、ペレット供給口22aが設けられている。そして、ペレット供給口22aには、管状の供給管24が接続されている。
供給管24の上端は、多数の樹脂ペレット(射出材料)Pを保管する保管部20と連通しており、樹脂ペレットPは、保管部20から供給管24を通じてペレット供給口22aへ供給される。保管部20は、例えば、ホッパである。また保管部20には、スクリュー搬送や空気圧装置が具備されており、樹脂ペレットPを強制的に供給管24へ投入することもできる。なお保管部20を設けず、スクリュー搬送や空気圧送により遠方からパイプで供給することもできる。
プランジャ25は、押圧部25aと、押圧部25aの周囲に設けられ、シリンダ本体の後端方向に向けて形成された筒状の外周側面部25bとを有して構成される。押圧部25aの前面(図示下面側)には、硬質耐熱性の合成樹脂が必要に応じて固着されている。これによって、溶融器23とプランジャ25との間を断熱して溶融器23の熱がプランジャ25に奪われないように、また、プランジャ25が加熱して駆動部に熱が伝導しないようにすることができる。
プランジャ25は、駆動部28と接続されており、駆動部28の駆動力により、プランジャ25はシリンダ本体22内を上下移動(往復移動)できるように支持されている。なお、図3に示すように、駆動部28とプランジャ25との間には駆動伝達軸(竿)29が配置されており、駆動部28と駆動伝達軸29とを含めて「駆動手段」を構成している。例えば、駆動部28はモータ駆動部、駆動伝達軸29はラック軸であり、モータ駆動部とラック軸との間にピニオンギア(図示しない)が配置されており、駆動手段が、モータ駆動部、ラック軸及びピニオンギアを有して構成されている。なお駆動伝達軸(竿)29の断面形状は、例えば円形であるが形状を限定するものでない。
図3に示すように、溶融器23の先端側(図1の下方側)に接続されたノズル21は、熱伝導の良い材質で形成されることが好適であり、具体的には、ノズル21は、ベリリウム銅、銅、或いは黄銅により形成されることが望ましい。
多数の固体状の樹脂ペレット(射出材料)Pが、保管部20から供給管24を通じてシリンダ本体22内に供給される。
樹脂ペレットPの材質を特に限定するものでないが、熱可塑性樹脂を好ましく使用でき、例えば、ポリプロピレン(PP)、ABS、ポリカーボネート(PC)/ABS、ポリアセタール(POM)、塩化ビニール、ポリオレフィン、ナイロン等の各種樹脂に好ましく適用される。また、樹脂ペレットPには、エンジニアリングプラスチックやスーパーエンジニアリングプラスチックを用いることが可能である。なお、樹脂ペレットPは、例えば、1〜1.5mm程度の径、あるいは長辺を有する大きさである。
樹脂ペレットPが、溶融器23上に到達すると、樹脂ペレットPは、溶融器23の各貫通孔(溶融孔)27内に流入口(図示上面)から入り込む。各貫通孔27内に入り込んだ樹脂ペレットPは、後から流入する樹脂ペレットPによって、各貫通孔27の流出口側(図示下面側)に押圧される。このとき、溶融器23は、発熱体26により、樹脂ペレットPを溶融する温度に維持されている。
各貫通孔27に流入した樹脂ペレットPは、溶融器23からの熱により一部軟化される。そして、図3に示すように、駆動手段を駆動させて加圧手段としてのプランジャ25をノズル21の方向(図示下方向)に駆動させる。これにより、溶融器23の流入口側面(図示上面)とプランジャ25の押圧部25aの下面との間に位置する多数の樹脂ペレットP全体が相互に押圧される。なお、プランジャ25の下方向への移動によりペレット供給口22aはプランジャにより塞がれた状態になる。
プランジャ25の移動により溶融器23の各貫通孔27内に流入した樹脂ペレットPも加圧される。このように、樹脂ペレットPは、各貫通孔27内で加圧されて気密状態となり、さらに溶融器23からの熱により溶融し、溶融樹脂が、溶融器23の流出口(下面側)からノズル21内に流れ込む。そして溶融樹脂は、高い気密状態を保ちつつ加圧されて、ノズル21の先端から外部に射出される。
(溶融器23)
溶融器23について説明する。図3に示すように、溶融器23には、上面から下面に向けて貫通する複数の貫通孔27が形成されている。溶融器23は、金属製であり、熱伝導率が高い金属で形成されることが好ましい。具体的には、銅、ベリリウム銅、真鍮、金、銀、クロム鋼、タングステン鋼、アルミ等を好ましく使用することができる。この中でも、特に、熱伝導率が高く且つ製造費を抑制できる、銅や銅合金で形成されることが好ましい。溶融器23は、銅で形成されることが特に好ましい。
本実施形態では、図3に示すように、溶融器23の側面に発熱体26を直接、取り付けることができる。本実施形態では、発熱体26として、電気ヒータやIHヒータを用いることができる。本実施形態の溶融器23によれば、発熱体26からの熱を直接、溶融器23に伝えることができる。また、溶融器23の熱容量を大きくでき、放熱量や蓄熱性能を大きくすることができる。
したがって、本実施形態の溶融器23によれば、溶融効率を効果的に高めることができる。よって、本実施形態の溶融器23を用いた射出シリンダ2によれば、従来に比べて、射出効率を向上させることが可能になる。
図4は、図3とは一部で形状が異なる射出シリンダの断面模式図である。図4に示す射出シリンダ2は、図3と異なって、溶融器23がシリンダ本体22の内側に設けられている。そして、溶融器23と対向するシリンダ本体22の外周面に、発熱体26が設けられている。
これに対し、従来のように可塑化して樹脂を溶融させる場合、樹脂ペレットPは、射出シリンダ内で回転するスクリューと射出シリンダの内壁の間隙に入り、粉砕・溶融される。樹脂ペレットPは、熱伝導度が低いため、直接、射出シリンダの内壁に押圧されなければ溶融しない。このため、多数の粉砕された樹脂ペレットが溶融されずに、隙間を通過しそれらが摩擦熱と熱伝導で溶融された樹脂と混錬される。よって、ノズルから射出される樹脂には、溶融されない平均粒子径10ミクロンから数10ミクロン以上の固形物が多数残り、金型内で、平均粒子径10ミクロンから数10ミクロン以上の固形物を含めて成形されることになる。なお、本実施形態の射出成形機1と、従来の射出成形機100とを用いて、実際に、樹脂成形品を成形したので、各樹脂断面の違いについて、後で写真を交えて説明する。
図3及び図4に示す射出シリンダ2によれば、溶融器23を備え、樹脂ペレットPを、ジュール熱で溶融できる。具体的には、図3、図4に示す溶融式の射出シリンダ2では、先に投入された樹脂ペレットPから順次溶融される。このため、射出シリンダPの容積は射出に必要な樹脂ペレットPの体積まで小さくすることが出来、従来の可塑化方式に比べて大幅に小型、軽量化が可能となる。
そして、射出シリンダ2を小型、軽量化できたことで、本実施形態の射出シリンダ2は、強固な筐体に固定支持する必要が無くなり、アームロボット等の可動装置3に取り付けて駆動させることができる。加えて、溶融樹脂を射出するためのプランジャ25を駆動する電力は、従来の可塑化方式の射出シリンダよりも、同量の樹脂を射出するに際して小さくでき、具体的には約5分の1以下にすることができる。
<金型4>
本実施形態の金型4について説明する。図5は、本実施形態における金型4の斜視図である。図6は、図5に示す金型の断面図である。なお、図5、図6では、図示右側の型締めホルダ8を取り付けていない状態(コア型5とキャビティ型6からなる型本体4aから離した状態)を図示している。
図5、図6に示すように、本実施形態の金型4は、コア型(上型)5と、キャビティ型(下型)6と、型締めホルダ7、8と、を有して構成される。
図5に示すコア型5及びキャビティ型6は、前端面5a、6a、後端面5b(キャビティ型6の後端面は図示せず)、前端面5a、6aと後端面5bとを繋ぐ両側端面5c、6c、上面5d、6d、及び下面5e、6eを有する。ここで、前端面及び後端面の幅方向を左右方向(Y1−Y2方向)、両側端面の長さ方向を前後方向(X1−X2方向)とし、左右方向と前後方向は直交した関係にある。高さ方向(Z1−Z2方向)は、左右方向(Y1−Y2方向)及び、前後方向(X1−X2方向)の双方に直交した方向である。図5に示すように、両側端面5c、6cの長さはL1である。
なお、コア型5の下面5e、及びキャビティ型6の上面6dは、合わせ面(PL面)であり、以下、PL面5e、6dと称する場合がある。
図5、図6に示すように、コア型5の両側端面5cからは、夫々、側方に向けて突出する第1フランジ31が形成されている。また、キャビティ型6の両側端面6cからは、夫々、側方に向けて突出する第2フランジ32が形成されている。そして、図5、図6に示すように、コア型5とキャビティ型6とを高さ方向(Z1−Z2方向)に重ねた状態では、第1フランジ31と第2フランジ32とは高さ方向(Z1−Z2方向)で対向しており、第1フランジ31と第2フランジ32とを合わせてフランジ部30を構成している。
図5に示すように、第1フランジ31及び第2フランジ32は、共にL1の長さで形成されている。
図5、図6に示すように、コア型5とキャビティ型6とを高さ方向(Z1−Z2方向)に重ねた状態では、第1フランジ31と第2フランジ32とは高さ方向に所定の間隙S1を有して対向している。
また、第1フランジ31の上面31a及び第2フランジ32の下面32aは、いずれも、型締めホルダ7、8との嵌合面(以下、嵌合面31a、32aと称する場合がある)であり、これら嵌合面31a、32aは、左右方向(Y1−Y2方向)と前後方向(X1−X2)からなる平面に対し、傾斜したテーパ面で形成されている。これら嵌合面31a、32aは、側端面5c、6cから離れるほど徐々に内側に傾くように、すなわち、第1フランジ31の上面31aは、側端面5cから離れるほど徐々に下方向に傾斜し、第2フランジ32の下面32aは、側端面6cから離れるほど徐々に上方に向けて傾いている。
第1フランジ31の上面(嵌合面)31aの傾き角度、及び第2フランジ32の下面(嵌合面)32aの傾き角度は、共にθ1である。このように、第1フランジ31及び第2フランジ32の傾き角度θ1は同じであることが好ましい。
図5に示すように、コア型5の上面5dには、樹脂注入口であるゲート33が設けられている。そして、本実施形態では、このゲート33に射出シリンダ2のノズル21を直接、押圧接続することができる。なお、図5では、ゲート33の位置が、コア型5の上面5dの中央部に形成されているが、樹脂成形品の形状等により、ゲート33を、任意の位置に設けることが可能である。
射出シリンダ2をゲート33に押圧する応力は、シリンダ面積に対する、ノズル穴面積の比率に比例する。通常、ノズル21の穴径は、直径数ミリメートル以下である。したがって、本実施形態によれば、ゲート33を押圧する応力を、射出シリンダ2の射出圧の約100分の1以下にでき、小さな押圧で射出シリンダ2のノズル21をゲート33に押し付けることができる。よって、ゲート33から溶融樹脂が外部に漏れる等の不具合を防止でき、金型4のキャビティ4bで精度良く射出成形を行うことができる。
このように、本実施形態では、射出圧を小さくすることができ、コア型5とキャビティ型6との間のPL面5e、6dを、フランジ部30と型締めホルダ7、8との嵌合により、適切に、密着させることができる。
型締めホルダ7、8について説明する。図5、図6に示すように、本実施形態では、フランジ部30を、側方から嵌め込むことが可能な型締めホルダ7、8を備える。型締めホルダ7、8は、フランジ部30の前後方向(X1−X2方向)に延出する、所定幅を備えた上部7a、8a及び下部7b、8bと、上部7a、8a及び下部7b、8bの外端を繋ぐ側部7c、8cと、を有し、内側に開口した開口部34を備えている。開口部34の内側上面34a及び内側下面34bは、夫々、型締めホルダ7、8をフランジ部30に嵌め込んだときに、第1フランジ31の上面31a及び第2フランジ32の下面32aが当接する嵌合面(以下、嵌合面34a、34bと称する場合がある)であり、斜めに傾斜するテーパ面で形成される。嵌合面34a、34bは、開口部34の開口側から奥行き方向に向けて、徐々に内側に傾くように、すなわち、内側上面34aは、開口側から奥行き方向に向けて徐々に下方向に向けて傾斜し、内側下面34bは、開口側から奥行き方向に向けて徐々に上方に向けて傾いている。内側上面34a及び内側下面34bの傾き角度は、共にθ2であることが好ましい。また、傾き角度θ1と傾き角度θ2は、同じであることが好ましい。
図5に示すように、型締めホルダ7、8の前後方向(X1−X2方向)への長さは、L2である。フランジ部30の長さL1と、型締めホルダ7、8の長さL2とは、同じであっても異なっていてもよい。すなわち、どちらか一方が他方より長くても短くてもよい。ただし、フランジ部30及び型締めホルダ7、8の各長さL1、L2は、型開き応力に対して十分耐えられる長さであることが必要である。そこで、各長さL1、L2は、金型長(側端面5c、6cの長さL1)の50%以上であることが好ましい。
また、図5に示すように、コア型5とキャビティ型6との位置合わせは、一方の型面に設けた2か所以上の位置決めピン35を、もう一方の型面に設けたそれぞれの位置決めピンに対応した位置決め穴36に合わせることで行うことができる。このように、コア型5とキャビティ型6の各PL面5e、6dは、位置決めピン35及び位置決め穴36で位置決めされるが、コア型5とキャビティ型6はそれぞれの型以外には固定していない。すなわち、コア型5とキャビティ型6からなる型本体4aは、他の構造物に固定されていない。これにより、他の構造物からの機械振動や変形ひずみが型本体4aに伝わるのを防ぎ、成形精度を上げることができる。既に説明した図1に示すように、本実施形態では、テーブル9上に、金型4を設置することができ、或いは、金型4を自立で垂直に立てることもできる。このように、本実施形態では、金型4の外部から、コア型5及びキャビティ型6のPL面5e、6dに機械的応力が加えられることが無い。このため、射出成形工程において、金型4自体の精度を十分に保つことができ、精度の高い樹脂成形品を製造することが可能である。
また、上記したように、フランジ部30及び型締めホルダ7、8の各嵌合面31a、32a、34a、34bは、傾斜角度θ1、θ2を有するテーパ面であるが、これら傾斜角度θ1、θ2は、キャビティ型6とコア型5とを引き離す応力(すなわち、高さ方向(Z1−Z2方向)にかかる応力)に対して十分強く、型締めホルダ7、8を外すには十分小さな保持力となる角度であることが好ましい。具体的には、傾斜角度θ1、θ2は、3°〜20°程度であることが好ましく、3°〜15°程度であることがより好ましく、4°〜10度程度であることが更に好ましい。なお、傾斜角度θ1、θ2は、6°程度であることが最も好ましく、このとき、引き離す力を10とすると、型締めホルダ7、8を外す力を1以下にすることができる。このように、傾斜角度θ1、θ2を調整することで、小さな型締め力で大きな型開き応力に十分耐える確実な型締めが可能になる。
本実施形態では、上記したように、コア型5とキャビティ型6とのPL面(合わせ面)5e、6dを重ね合わせたときに、第1フランジ31と第2フランジ32との高さ方向(Z1−Z2方向)の間に間隙S1を設けている。これにより、型締めホルダ7、8を、フランジ部30に嵌め込んだ時、コア型5とキャビティ型6とのPL面5e、6dを、より密接させることが可能になる。限定するものではないが、間隙S1は、1〜5mm程度であることが好ましい。
また、図5、図6に示すように、フランジ部30に型締めホルダ7、8を嵌め込んだ際、型締めホルダ7、8の開口部34の開口端部34cと、コア型5及びキャビティ型6の両側端面5c、6cとの間には、間隙S2が設けられる。これにより、型締めホルダ7、8を、フランジ部30に嵌め込んだ際に、コア型5とキャビティ型6とのPL面5e、6dを、より効果的に密接させることが可能である。限定するものではないが、間隙S2は、1〜5mm程度が好ましい。
また、第1フランジ31と第2フランジ32の厚みT1は、樹脂射出時の注入圧力に十分耐える剛性を有する大きさで形成される。ここで、厚みT1は、各フランジ31、32の中で、一番薄い部分を指す。厚みT1は、型本体4aの大きさに比例する。鉄系の型本体4aを使用し、型本体4aの面積が100平方センチメートルの場合、第1フランジ31と第2フランジ32の各厚みT1は、10mm程度である。
また、型締めホルダ7、8の開口端部34cの厚みT2は、第1フランジ31及び第2フランジ32の各厚みT1と同等であることが好ましい。これにより、樹脂射出時の注入圧力に十分耐える剛性を有することができる。
型締めホルダ7、8の材料は、型本体4aと同様の材料であることが好ましく、例えば、鉄系鋼材を好ましく使用することができるが、ステンレス、アルミニウム、銅その他金属、もしくは、セラミック、プラスチック等から選択することも可能である。なお、型締めホルダ7、8の材料としては、型本体4aと同程度の熱膨張係数を有することが好ましいが、この限りではない。
本実施形態では、図5に示すコア型5の上面5dに設けられたゲート(樹脂注入口)33に直接、射出シリンダ2のノズル21を押圧接続して、溶融樹脂を射出する。図2で説明した従来の射出成形機100のように固定盤を経由することなく、溶融樹脂を直接、金型4のキャビティ4bに注入することができるため、溶融樹脂の流路やランナ123(図2参照)が不要である。したがって、本実施形態では、溶融樹脂の金型4に対する流動抵抗を小さくでき、小さい射出圧で成形することができる。このとき、本実施形態の射出シリンダ2を用いることで、溶融樹脂の流動性を高めることができ、このような流動性の効果と合わせて、更に小さな射出圧で成形することが可能である。
本実施形態では、従来の型締め機構のように、射出成形時に、キャビティに樹脂を射出注入する際の瞬時の高圧力で金型が瞬時に開く現象が生じない。したがって、精度の高い成形品を製造することが可能である。
また、本実施形態では、ホルダ方式による型締め機構のため、従来の型締め機構109のように、電力を用いて、押圧力を与える機構ではない。このように、本実施形態では、従来の型締め機構109と異なって、型締め時間の期間中、型締めのために電力は消費されず、省エネの型締め機構を実現できる。
更に、本実施形態では、金型4に、従来のような流路やランナが不要であるため、流路及び、ランナ内に溜まったまま成形される不要な樹脂を削減することができる。流路やランナで消費される樹脂の量は、樹脂成形品の数倍以上になる場合が往々にしてあるため、本実施形態のように、流路及び、ランナが無い金型4を用いることで、省資源成形に非常に効果的である。
図5、図6に示す本実施形態では、フランジ部30を型本体4aの両側に夫々設け、2つの型締めホルダ7、8で型締めしているが、フランジ部30及び型締めホルダ7、8の個数を限定するものではない。図7に示すように、フランジ部30を各側端面の4か所に設け、4つの型締めホルダ37にて型締めする構成とすることができる。なお、図7では、全てのフランジ部30は図示されていない。或いは、金型4(型本体4a)の形状は、矩形状以外の多角形や円形であってもよい。例えば、図8に示すように、型本体4aを三角形の形状とし、フランジ部30を各側端面の3か所に設け、3つの型締めホルダ38にて型締めする構成とすることができる。或いは、図9のように、型本体4aを円形状とし、フランジ部39を型本体4aの外周にわたって設け、2つの型締めホルダ40にて型締めする構成とすることができる。金型4が多角形である場合、側端面全てにフランジ部を設けて型締めすることが、PL面の密着性を向上させる点で好ましいが、射出圧や金型形状によっては、側端面の数に対し、フランジ部の数を間引くこともできる。例えば、図5に示すように、型本体4aは、左右方向(Y1−Y2方向)よりも前後方向(X1−X2方向)のほうが長い矩形状である。係る構成では、前後方向に延出する型本体4aの両側端面にのみフランジ部30を設け、型締めホルダ7、8で型締めする構成でも、十分に型締めすることができる。すなわち、型本体4aの前端面や後端面を型締めしなくても適切に、型本体4aのPL面を密着させることができる。
また、本実施形態では、型本体の形状に係らず型締めホルダを共通に使用することができる。例えば、図5に示す型締めホルダ7、8を、図7や図8に示す各型本体にも適用することが可能である。
また、図5等では、一つの型本体4aを、型締めホルダ7、8で保持する構成であったが、図13に示すように、複数組みの型本体4aをまとめて、共通の型締めホルダ7、8により保持することができる。或いは、図14に示すように、一つの型本体4aに、複数のキャビティ42a〜42d及びゲート33を設けてもよい。
<成形方法(成形サイクル)>
次に、成形品の成形方法について説明する。本実施形態では、金型4を小型、軽量化することができ、金型4を射出成形機1に一体的に保持する必要がない。このため、本実施形態では、金型4を射出成形機1から分離することが可能である。
ところで、樹脂成形品の成形工程には、金型4の型締め、金型4の昇温、溶融樹脂の射出成形、金型4の冷却、金型4の片開き、及び樹脂成形品の取り出しがあるが、このサイクルの中で、金型4の昇温・冷却の時間は、射出成形時間に比べて長い。特に、金型4を高温に加熱するスーパーエンジニアリングプラスチックの成形の場合、さらに、昇温・冷却時間は長くなる。
本実施形態では、金型4を射出成形機1から分離することができるため、加熱工程及び冷却工程を、射出成形工程とは独立して行うことができる。
図10は、本実施形態における成形品の成形工程を説明するための概念図である。図10の(a)工程は、型合わせ工程であり、コア型5とキャビティ型6のPL面同士を合わせる。例えば、キャビティ型6には複数の位置決めピン35が設けられ、コア型5には複数の位置決め穴36が設けられている。位置決めピン35を位置決め穴36に挿通することで、キャビティ型6とコア型5を精度良く位置合わせすることができる。
次に、図10の(b)では、コア型5とキャビティ型6を位置合わせした型本体4aを加熱工程に移動させる。この加熱工程での金型温度は、溶融樹脂の種類によって適宜調節することができる。例えば、スーパーエンジニアリングプラスチックを用いる場合は、金型温度を、例えば、100℃以上に昇温する。
次に、図10(c)では、加熱工程で加熱された型本体4aを、射出成形機1のテーブル9上に載置する(図1参照)。なお、自動制御により、型本体4aをテーブル9上の所定箇所に設置することができる。なお、図1に示すように、テーブル9の表面には断熱板12が設けられ、金型4の熱がテーブル9に伝搬しないようになっている。
そして、移動装置10、11のシリンダ14を駆動させて、ピストンロッド14cに保持された型締めホルダ7、8を、型本体4aの両側に突出するフランジ部30に嵌め込む。これにより、型本体4aの両側を型締めホルダ7、8で保持した金型4を構成することができる。本実施形態では、シリンダ14に必要とされる型締め力は、ほぼ型締めホルダ7、8を水平移動させるのに必要な応力のみで足りる。このように、従来の型締め機構109のように大きな型締め力が不要であり、大幅な電力消費が可能である。
次に、射出シリンダ2を支持するアームロボット等の可動装置3(図1参照)を駆動させ、射出シリンダ2のノズル21を金型4のゲート33に直接、押圧接続する。そして、射出シリンダ2の射出圧を制御して、溶融樹脂を金型4のキャビティ4bに射出する。
続いて、移動装置10のシリンダ14を、金型4から離れる方向に後退させ、型締めホルダ7、8をフランジ部30から取り外す。
射出成形後、型本体4aを、射出成形機1のテーブル9上から取り外し、(d)の冷却工程に移動させる。冷却工程では、型本体4aを十分に冷却させる。型本体4aが100℃以下まで降温させることが望ましい。
そして、(e)に示すように、コア型5とキャビティ型6とを分離し、キャビティ4bから樹脂成形品50を取り出す。
なお、図10の(c)に示す工程では、両方の型締めホルダ7、8をシリンダ14に固定し、両方の型締めホルダ7、8を型本体4aに向けて移動させているが、例えば、一方の型締めホルダを固定軸13に固定し、片方のシリンダ14のみを動かして、型締めホルダ7、8を型本体4aに篏合押圧することも可能である。
また、移動装置10を使用せずに、型締めホルダ7、8を型本体4aの両側に取り付けてもよい。例えば、(a)の時点で、型本体4aを型締めホルダ7、8で保持し、(c)では、型本体4aが型締めホルダ7、8で保持された金型4を、テーブル9上に載置することができる。この場合、例えば、図11Aに示すように、テーブル9上に載置された金型4の型締めホルダ7、8と前後方向(X1−X2方向)で対向する位置にくさび部材51を配置する。図11Bに示すように、例えば、くさび部材51は、平面が直角三角形状であり、最も鋭角な端部51aが、ちょうど、型締めホルダ7、8とフランジ部30との間であって、キャビティ型6側に設けられた間隙S2(図5参照)と対向する位置に設けられている。そして、図11Bに示すように、射出成形工程が終了した金型4を、くさび部材51の方向に移動させ、間隙S2に、くさび部材51の端部51aを差し込む。更に、金型4を移動させることで、くさび部材51の徐々に広がる傾斜面に沿って、型本体4aから型締めホルダ7、8を容易に取り外すことができる。
ただし、射出成形後、冷却工程前に、型締めホルダ7、8を型本体4aから取り外さず、型本体4aに型締めホルダ7、8を装着したままの金型4を、次の冷却行程に移動させてもよい。
図10では、1組の金型4による成形サイクルの工程図であったが、図12に示すように、複数組の金型を同時に成形サイクルに適用することができる。図12では、射出成形工程に要する時間よりも、長い時間が必要とされる金型の加熱及び冷却(図12に示す(b)の加熱工程、及び(d)の冷却工程)を、複数組の金型に対して同時に行うことができる。これにより、生産性を向上させることができる。また、成形サイクルの中で最も時間を要する加熱工程と冷却工程は、射出シリンダ2の能力に合わせてサイクル時間を短縮することも出来る。なお、生産能力やコスト等を考慮して、生産ラインに同時に流す金型数を適宜調節することが可能である。
複数の金型を同時に成形サイクルに適用する場合、例えば、図13に示すように、複数の型本体4aを共通の型締めホルダ7、8で保持した金型や、図14に示すように、一つの型本体4aに複数のキャビティ42a〜42d及びゲート33を備えた金型を用いることができる。図13及び図14では、金型ごとに成形される樹脂成形品は、同じ形状でも異なる形状であってもよい。例えば、図14では、各キャビティ42a〜42dの形状が異なっており、異なる形状の樹脂成形品を製造することができる。また、図13、図14の金型構造では、各ゲート33からキャビティに通じる間にランナ(図2の符号123)が無いため、ランナで消費される樹脂の損失を抑制することができる。高価なエンジニアリングプラスチックやスーパーエンジニアリングプラスチックでは、このように、樹脂損失を抑制することができることで、省資源成形に非常に効果的であり、生産コストの低減を図ることができる。
なお、本実施形態では、図10や図12に示す成形サイクルを、直線の生産ラインで行っても良いし、ターンテーブル方式としてもよい。
(加熱・冷却手段)
本実施形態では、従来に比べて、金型を大幅に小型・軽量化することができるため、使用可能な加熱・冷却の手段を広げることができ、効率的な加熱冷却が可能になる。
限定されるものではないが、加熱手段は、電気ヒータによるホットプレート、IH誘導加熱、高温蒸気加熱、ペルチェ素子を用いた加熱、その他、ガス燃焼、及び赤外線等から適宜選択することができる。例えば、金型が鉄系やステンレス系の材料である場合、加熱手段としてはIH誘導加熱を用いることが効率的よく迅速に加熱できる。
また、限定されるものではないが、冷却手段は、水冷、冷却剤等による冷却プレート、空冷、及びペルチェ素子を用いた冷却等から適宜選択することができる。
特に、エンジニアリングプラスチックやスーパーエンジニアリングプラスチックのように、金型を高温に加熱する際に必要な熱量及び成形後に冷却する際に必要な冷却熱量は、金型の体積に比例するため、本実施形態のように、金型を小型化できることで、大幅な省エネを実現できる。
例えば、同じ体積の樹脂成形品を成形する場合、従来の金型に比べて本実施形態の金型の重量を約10分の1以下にすることができる。そして、本実施形態では、金型を加熱・冷却するエネルギーも10分の1以下とすることができる。これにより、上記したように、より多くの加熱手段及び冷却手段を適用することが可能になる。
また、従来における射出成形機100では、金型が成形機に密接固定されており、金型を加熱する際に熱が金型の質量よりはるかに大きい固定盤101、可動盤102及び成形機筐体に伝導し効率が低下することで、エネルギーロスが大きかった。これに対し、本実施形態では、射出成形機1から金型4(型本体4a)を分離でき、従来のような固定盤101や可動盤102は必要がない。したがって、従来に比べて、エネルギーロスを小さくすることができる。また、従来では、金型の熱変化による射出成形機100の温度ひずみや、射出成形機100が設置されている周囲環境の温度変化により、射出成形機100のひずみが、金型にひずみを与え、精度の高い成形が困難であった。これに対し、本実施形態では、射出成形機1から金型4(型本体4a)を分離できることで、金型4(型本体4a)に対する、熱による射出成形機1の膨張・収縮の影響を抑制でき、より精度の高い樹脂成形が可能になる。
また、本実施形態では、金型4の質量が小さいため、金型4から放射される熱が周囲環境や周辺装置等に与える影響を非常に小さくでき、射出成形機1を設置した空間の空調装置も消費電力を大幅に低減することができる。
このように、本実施形態では、金型4から放射される熱量を小さくでき、より少ない電力で精度良く温度制御が可能となり、より精密な成形を実現することができる。
本実施形態では、加熱手段及び冷却手段を、射出成形機1に組み込まず、金型の加熱工程及び冷却工程を、射出成形工程と独立して行う。
これにより、金型4の加熱及び冷却に最も効率的な加熱構造及び冷却構造を独立して採用することができ、エネルギー効率の高い成形システムが可能になる。
また、本実施形態の射出成形工程では、図13に示すように、複数の型本体4aを一つにまとめた金型構造や、図14に示すように、一つの金型に複数のゲート33及びキャビティ42a〜42dを備えた構造を適用することができるが、これらの金型に対し、複数の射出シリンダを用いて射出成形してもよい。
図15に示す射出シリンダ60、61は、それぞれ図1に示す射出シリンダ2と同じ構成である。これら射出シリンダ60、61は、ロボットアームやシリンダ機構等の可働装置3に固定支持されている。各射出シリンダ60、61を、可動装置3により、X1−X2方向、Y1−Y2方向、及びZ1−Z2方向に自在に移動させることができる。すなわち、射出シリンダ60、61を、可動装置3により、X1−X2方向、及びY1−Y2方向に水平移動させて、射出シリンダ60、61の各ノズル60a、61aを夫々、金型4に設けられた複数のゲート33に対向させ、射出シリンダ60、61を、可動装置3により、Z1−Z2方向に垂直移動させて、ノズル60a、61aを指定の各ゲート33に直接、押圧接続する。そして、複数のキャビティ内に、溶融樹脂を射出成形することができる。
図15に示すように、複数の射出シリンダ60、61を用いることで、射出シリンダ60、61ごとに、異なる樹脂材料や異なる色の樹脂を用いることが可能である。図15に示す構成では、射出シリンダ60、61毎にそれぞれ材料に適した溶融温度と射出圧を設定することが可能である。
なお、図15に示す二つの射出シリンダ60、61で同時に射出成形をしても良いし、時間差を設けて射出成形してもよい。
また、本実施形態では、金型のゲート33を上方に向け、金型の上方から射出シリンダを押圧接続していたが、金型のゲート33を下方に向け、金型の下方から射出シリンダを押圧接続してもよい。また、ゲート33は上下方向に限らず、左右方向に向けてもよい。このように、本実施形態の金型では、上下左右の全方向からの射出成形が可能である。
図15では、射出シリンダ60、61を2つ使用しているが、射出シリンダを3つ以上使用することも可能である。
<別の実施形態>
図16から図20を用いて、上記に示した金型とは形状の異なる金型について説明する。図16Aは、本実施形態における一例としてのキャビティ部の平面図であり、図16Bは、断面図であり、図16Cは、部分側面図であり、図16Dは、正面図である。図17Aは、本実施形態における一例としてのコア部の平面図であり、図17Bは、部分断面図であり、図17Cは、部分側面図であり、図17Dは、正面図である。図18Aは、本実施径形態における一例としての型締めホルダの側面図であり、図18Bは、正面図である。図19は、図16に示すキャビティ部と、図17に示すコア部とを、図18に示す型締めホルダで保持した状態を示す金型の正面図である。図20Aは、図17のコア部に取り付けられるアダプタ部の平面図であり、図20Bは、断面図である。
図16A等に示すように、キャビティ型71には、キャビティ72が形成されている。キャビティ72の周囲に位置する上面71aは、コア型81とのPL面(以下、PL面71aと称する)である。キャビティ型71の両側端面71bには側方に突出する第2フランジ73が設けられている。図16Cに示すように、第2フランジ73の下面73aには、前後方向(Y1−Y2方向)に間隔を空けて斜めに傾斜する複数のテーパ面74が形成されており、各テーパ面74の間はフラット面75で形成されている。テーパ面74が型締めホルダとの嵌合面とされている。テーパ面74は、両側端面71bから側方に離れるにしたがって、内側方向に、すなわち上方に向けて傾斜している。傾斜角度は、図5で説明した傾斜角度θ1である。例えば、各テーパ面74のトータル長さは、第2フランジ73の長さの3分の1程度である。
また、図17A、図17Bに示すように、コア型81には、ゲート82が形成されている。この実施形態では、ゲート82は、コア型81の前方側(X1寄り)に位置している。コア型81とキャビティ型71とを重ね合わせたとき、ゲート82からキャビティ72に直接通じており、ゲート82とキャビティ72との間に、従来のような流路やランナ等の細長い経路は設けられていない。
キャビティ型71のPL面71aと対向するコア型81の下面81aがPL面(以下、PL面81aと称する)である。コア型81の両側端面には、側方に突出する第1フランジ83が設けられている。また、図17Cに示すように、第1フランジ83の上面には、前後方向(Y1−Y2方向)に間隔を空けて斜めに傾斜する複数のテーパ面84が形成されており、各テーパ面84の間はフラット面85で形成されている。各テーパ面84が型締めホルダ90との嵌合面とされている。例えば、各テーパ面84のトータル長さは、第1フランジ83の長さの3分の1程度である。第2フランジ73に形成された各テーパ面74と、第1フランジ83に形成された各テーパ面84は、コア型81をキャビティ型71に重ね合わせたとき、互いに対向する位置に形成されている(図19も参照)。
図18A及び図18Bに示すように、型締めホルダ90は、フランジ部と対向する開口部91を備え、開口部91の内側上面91a及び内側下面91bは、開口端部から奥行き方向に向けて、全体的に、斜めに傾くテーパ面で形成されている。内側上面91aは、開口端部から奥行き方向に向けて徐々に下方向に傾き、内側下面91bは、開口端部から奥行き方向に向けて徐々に上方に傾いている。
図18に示す型締めホルダの前後方向(Y1−Y2方向)への長さ寸法は、図16及び図17に示すコア型81及びキャビティ型71の前後方向(Y1−Y2方向)への長さ寸法に比べて短いが、第2フランジ73及び第1フランジ83に形成された両端に位置する各テーパ面74、84間の長さより長く形成される。よって、型締めホルダ90を、コア型81とキャビティ型71とを合わせた型本体の両側端面に接続したとき、全てのテーパ面74、84が、型締めホルダ90の開口部91内に配置され、良好に型締めすることが可能である。
図18に示すように、型締めホルダ90には、例えば、外側の側面から開口部91の内側側面にかけて通じる貫通孔92が形成されている。この貫通孔92は、ボルト(図示せず)を通し、型締めホルダ90を移動装置側に固定するために利用される。なお、ボルト止めでなく、他の方法で型締めホルダ90を移動装置に固定してもよい。
図20A及び図20Bに示すアダプタ95を、図17に示すゲート82が設けられた上面に設置することができる。アダプタ95には、ゲート82に通じるノズル挿入口96と、その両側にネジ穴97が設けられている。図17に示すように、ゲート82の両側にはネジ穴97に対向する位置に固定穴86が形成されている。アダプタ95のノズル挿入口96とゲート82とを位置合わせた状態で、ネジ(図示しない)をネジ穴97から固定穴86にまで通すことで、アダプタ95をコア型81に固定することができる。
アダプタ95を設けることで、射出シリンダ2のノズル21を、アダプタ95のノズル挿入口96に適切にセットでき、より効果的に、射出シリンダ2のノズル21から溶融樹脂が外部に漏れることなく、キャビティ72内へ導くことができる。
また、図16、図17では、第2フランジ73及び第1フランジ83に形成される嵌合面としてのテーパ面74、84を前後方向(Y1−Y2方向)に向けて、間欠的に形成したが、これにより、前後方向に長く形成された型締めホルダ90をフランジ部に差し込みやすくできる。また、嵌合面としてのテーパ面74、84を部分的に形成することで、押圧力が増し、仮に、フランジ部に歪や反りがあっても確実に締めることができる。また、摩擦抵抗を小さくできるため、型締めホルダ90を外しやすくできる。
<樹脂成形品>
図21は、図1に示す射出成型機を用いて、代表的な汎用プラスチック樹脂ポリプロピレン(PP)により成形したダンベル試験片成形品(JIS K 7139Type A)の切断面拡大写真である。樹脂断面の観察手法については、レーザ顕微鏡(光学顕微鏡;LSM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型プローブ顕微鏡(SPM)等を例示できる。このうちレーザ顕微鏡を用いることが好ましい。図21は、レーザ顕微鏡写真である。
図21では、溶融方式の射出シリンダ2と、型締めホルダ7、8によりコア型5とキャビティ型6とのPL面を密着させた金型4とを用い、加熱工程及び冷却工程を、射出成形工程と独立させた成形方法を用いて成形した。加熱工程による金型の加熱温度を、30℃とした。溶融器の温度が210℃となるまで昇温させ、また射出圧が25MPaとなるように調整した。
図21に示すように、50μm四方の面積に、溶融されていない平均粒子径10ミクロン以上のペレットの粉砕片は観察されなかった。なお、50μm四方の面積は、任意に定めることができる。なお、平均粒子径は、画面上の測長機能により測定される(拡大投影されている任意の距離を測定することができる)。
図22は、図2に示す従来の成型機ソディックGL 60を用いて、同一風袋のポリプレン樹脂により成形したダンベル試験片(JIS K 7139Type A)の切断拡大図である。なお、金型温度を30℃とした。また、溶融機の温度が210℃となるまで昇温させ、更に射出圧が100MPaとなるように調整した。
図22に示すように、50ミクロン四方の面積に、溶融されていない直径10ミクロン以上のペレットの粉砕片が、10個以上観察された。
図23は、図1に示す射出成型機を用いて、代表的なスーパーエンジニアリングプラスチックであるポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂により成形したダンベル試験片(JIS K7139 Type A)の切断拡大図である。金型温度を135℃、溶融器の温度を335℃となるまで昇温させ、また射出圧が30MPaとなるように調整した。
図23に示すように、50μm四方の面積に、溶融されていない平均粒子径10ミクロン以上のペレットの粉砕片は観察できなかった。
図24は、図2に示す従来の成型機ソディックGL 60を用いて、同一風袋のポリフェニレンサルファイド樹脂により成形したダンベル試験片(JIS K7139Type A)の切断拡大図である。金型温度を135℃、溶融機の温度を335℃となるまで昇温させ、また射出圧が190MPaとなるように調整した。
図24に示すように、50ミクロン四方の面積に、溶融されていない粒子径20ミクロン以上のペレット粉砕片が2個以上観察された。
本実施例では、溶融方式であり、ペレットは先に投入されたものからペレット毎に順次溶融される。このため、残留未溶融物の無い完全溶融に近い溶融樹脂とすることができる。このように、ペレットをほぼ完全に溶融することができ、溶融樹脂の流動性が良くなり、金型のキャビティの最端部まで溶融樹脂を充填できる。
また、溶融方式では、可塑化方式に比べて、約5分の1の射出圧で成形が可能になった。これにより、金型を構成するコア型及びキャビティ型の板材を薄くすることが可能となり、同じ体積の成形品を成形する場合、本実施例では、従来に比べて、金型の重量を10分の1以下にでき、小型軽量化が可能となった。
また、本実施例では、溶融樹脂にペレットの粉砕粒が無いため、高精細、高精密の成形品や厚さ10ミクロン以下のフィルム状の成形も可能になった。