以下、本発明のゴム組成物の各成分について説明する。
<炭化水素樹脂水素化物>
本発明で用いる炭化水素樹脂水素化物は、脂肪族単量体単位と芳香族単量体単位とを含む炭化水素樹脂を水添してなるものであり、水添率が0.1〜80%の範囲内であり、重量平均分子量(Mw)が700〜6,000の範囲内であり、軟化点が80〜150℃の範囲内のものである。
本発明で用いる炭化水素樹脂水素化物は、脂肪族単量体単位と芳香族単量体単位とを含む炭化水素樹脂を、水添することにより得られるものである。
以下においては、まず、水添前の炭化水素樹脂(以下、単に、炭化水素樹脂と称する場合がある。)について詳細に説明し、次いで、この炭化水素樹脂を水添した炭化水素樹脂水素化物について、説明する。
<炭化水素樹脂>
炭化水素樹脂は、水添前の原料樹脂であり、脂肪族単量体単位と芳香族単量体単位とを含むものである。
(脂肪族単量体単位)
脂肪族単量体単位を形成するための脂肪族単量体としては、芳香環を含まず、不飽和炭化水素を少なくとも含むものであればよく、このような脂肪族単量体としては、例えば、1,3−ペンタジエン、炭素数4〜6の脂環式モノオレフィン単量体、炭素数4〜8の非環式モノオレフィン単量体、脂環式ジオレフィン単量体等を挙げることができる。
炭化水素樹脂は、脂肪族単量体単位として、1,3−ペンタジエン単位、炭素数4〜6の脂環式モノオレフィン単量体単位および炭素数4〜8の非環式モノオレフィン単量体単位を含むことが好ましく、これらに加えて、脂環式ジオレフィン単量体単位をさらに含んでもよい。
1,3−ペンタジエン単量体単位の炭化水素樹脂中の含有量としては、好ましくは10〜60質量%であり、より好ましくは15〜55質量%、さらに好ましくは20〜50質量%、特に好ましくは25〜48質量%である。1,3−ペンタジエン由来の単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、得られるゴム組成物の加工性、ならびに、得られるゴム架橋物の引張強さ、伸び、ウエットグリップ性、転がり抵抗、および耐摩耗性のバランスをより高めることができる。なお、1,3−ペンタジエンにおけるシス/トランス異性体比は任意の比でよく、特に限定されない。
炭素数4〜6の脂環式モノオレフィンは、その分子構造中に、1つのエチレン性不飽和結合と非芳香族性の環構造とを有する炭素数4〜6の炭化水素化合物である。炭素数4〜6の脂環式モノオレフィンの具体例としては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、メチルシクロブテン、メチルシクロペンテンなどを挙げることができる。
炭素数4〜6の脂環式モノオレフィン単量体単位の炭化水素樹脂中の含有量としては、好ましくは1〜30質量%であり、より好ましくは3〜28質量%、さらに好ましくは5〜26質量%、特に好ましくは7〜25質量%である。炭素数4〜6の脂環式モノオレフィン単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、得られるゴム組成物の加工性、ならびに、得られるゴム架橋物の引張強さ、伸び、ウエットグリップ性、転がり抵抗、および耐摩耗性のバランスをより高めることができる。
なお、炭素数4〜6の脂環式モノオレフィンとしては、これに該当する各化合物の割合は任意の割合でよく、特に限定されないが、少なくともシクロペンテンが含まれていることが好ましく、炭素数4〜6の脂環式モノオレフィン中にシクロペンテンの占める割合が50質量%以上であることがより好ましい。
炭素数4〜8の非環式モノオレフィンは、その分子構造中にエチレン性不飽和結合1つを有し、環構造を有さない炭素数が4〜8の鎖状炭化水素化合物である。炭素数4〜8の非環式モノオレフィンの具体例としては、1−ブテン、2−ブテン、イソブチレン(2−メチルプロペン)などのブテン類;1−ペンテン、2−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテンなどのペンテン類;1−ヘキセン、2−ヘキセン、2−メチル−1−ペンテンなどのヘキセン類;1−ヘプテン、2−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセンなどのヘプテン類;1−オクテン、2−オクテン、2−メチル−1−ヘプテン、ジイソブチレン(2,4,4−トリメチル−1−ペンテンおよび2,4,4−トリメチル−1−ペンテン)などのオクテン類;などを挙げることができる。
炭素数4〜8の非環式モノオレフィン単量体単位の炭化水素樹脂中の含有量としては、好ましくは1〜50質量%であり、より好ましくは5〜45質量%、さらに好ましくは10〜42質量%、特に好ましくは15〜40質量%である。炭素数4〜8の非環式モノオレフィン単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、得られるゴム組成物の加工性、ならびに、得られるゴム架橋物の引張強さ、伸び、ウエットグリップ性、転がり抵抗、および耐摩耗性のバランスをより高めることができる。
なお、炭素数4〜8の非環式モノオレフィンとしては、これに該当する各化合物(異性体を含む)の割合は任意の割合でよく、特に限定されないが、少なくとも2−メチル−2−ブテン、イソブチレン、およびジイソブチレンからなる群から選択される少なくとも1種が含まれることが好ましく、炭素数4〜8の非環式モノオレフィン中に2−メチル−2−ブテン、イソブチレン、およびジイソブチレンの合計量が占める割合が50質量%以上であることがより好ましい。
また、本発明で用いる炭化水素樹脂は、脂環式ジオレフィンをその原料に含んでいてもよい。脂環式ジオレフィンは、その分子構造中に、2つ以上のエチレン性不飽和結合と非芳香族性の環構造とを有する炭化水素化合物である。脂環式ジオレフィンの具体例としては、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンなどのシクロペンタジエンの多量体、メチルシクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエンの多量体などを挙げることができる。
脂環式ジオレフィン単量体単位の炭化水素樹脂中の含有量としては、好ましくは0〜10質量%であり、より好ましくは0〜7質量%、さらに好ましくは0〜5質量%、特に好ましくは0〜3質量%である。上記含有量が上記範囲内であることにより、得られるゴム組成物の加工性、ならびに、得られるゴム架橋物の引張強さ、伸び、ウエットグリップ性、転がり抵抗、および耐摩耗性のバランスをより高めることができる。
また、本発明で用いる炭化水素樹脂は、脂肪族単量体単位として、上述した1,3−ペンタジエン由来の単量体単位、炭素数4〜6の脂環式モノオレフィン単量体単位、炭素数4〜8の非環式モノオレフィン単量体単位、および脂環式ジオレフィン単量体単位以外に、本発明の効果が得られる範囲で、その他の脂肪族単量体単位を含んでいてもよい。
このようなその他の脂肪族単量体単位を形成するために用いられるその他の脂肪族単量体は、前述した脂肪族単量体以外の化合物であって、1,3−ペンタジエンなどと付加共重合され得る付加重合性を有する化合物であれば、特に限定されない。上記その他の脂肪族単量体としては、たとえば、1,3−ブタジエン、1,2−ブタジエン、イソプレン、1,3−ヘキサジエン、1,4−ペンタジエンなどの1,3−ペンタジエン以外の炭素数4〜6の不飽和炭化水素;シクロヘプテンなどの炭素数7以上の脂環式モノオレフィン;エチレン、プロピレン、ノネンなどの炭素数3以下または炭素数9以上の非環式モノオレフィン;などが挙げられる。
上記その他の単量体単位の炭化水素樹脂中の含有量としては、本発明の効果が得られる範囲であればよく、特に限定されないが、好ましくは0〜30質量%であり、より好ましくは0〜25質量%、さらに好ましくは0〜20質量%である。
脂肪族単量体単位の炭化水素樹脂中の含有量としては、好ましくは50〜99.9質量%であり、より好ましくは55〜95質量%、さらに好ましくは57〜92質量%、特に好ましくは60〜90質量%である。脂肪族単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、得られるゴム組成物の加工性、ならびに、得られるゴム架橋物の引張強さ、伸び、ウエットグリップ性、転がり抵抗、および耐摩耗性のバランスをより高めることができる。
(芳香族単量体単位)
芳香族単量体単位を形成するための芳香族単量体としては、芳香環を有し、脂肪族単量体と共重合することができるものであればよく、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン化合物;インデン、メチルインデン、エチルインデン、プロピルインデン、ブチルインデン、t−ブチルインデン、sec−ブチルインデン、n−ペンチルインデン、2−メチル−ブチルインデン、3−メチル−ブチルインデン、n−ヘキシルインデン、2−メチル−ペンチルインデン、3−メチル−ペンチルインデン、4−メチル−ペンチルインデン等のインデン化合物;1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、アリルナフタレン、ブテニルナフタレン等のナフタレン化合物;2,7−ジビニルフルオレン、2−ビニルフルオレン、アリルフルオレン、ブテニルフルオレン等のフルオレン化合物;4−ビニルビフェニル、4−ビニル−p−ターフェニル等のビフェニル化合物;9−ビニルアントラセン、2−ビニルアントラセン、9,10−ジビニルアントラセン、アリルアントラセン、ブテニルアントラセン等のアントラセン化合物;9−ビニルフェナントレン、3−ビニルフェナントレン等のフェナントレン化合物;5−ビニルベンゾチオフェン、2−ビニルベンゾチオフェン等のベンゾチオフェン化合物;等が挙げられ、これらのなかでも、スチレン化合物、インデン化合物が好ましく、スチレン、インデンがより好ましい。これらの芳香族単量体は、1種類を単独で使用しても2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの芳香族単量体が含まれる混合物を、炭化水素樹脂を製造する際の重合反応系に添加してもよい。この際、混合物に含まれる芳香族単量体は、炭化水素樹脂を構成する単量体単位の成分として用いられる。なお、混合物に含まれる芳香族単量体以外の付加重合性成分も炭化水素樹脂の単量体単位の構成成分として用い、非付加重合性成分は重合時の溶媒として用いるようにすることもできる。このような芳香族単量体が含まれる混合物としては、たとえば、芳香族単量体としてスチレン化合物、インデン化合物などを含むC9留分を好適に用いることができる。
また、炭化水素樹脂が、芳香族単量体単位として、2以上の環状構造が結合した構造を有する単量体単位を含むものであると、得られるゴム組成物の加工性、ならびに、得られるゴム架橋物の引張強さ、ウエットグリップ性、転がり抵抗、および耐摩耗性をより高めることができる。
2以上の環状構造が結合した構造を有する単量体単位を構成する単量体としては、通常、その分子構造中に脂肪族炭素−炭素不飽和結合を1つ以上と、2以上の環状構造が結合した構造と、を有するものが好適に用いられる。ここで、2以上の環状構造が結合した構造としては、2以上の環状構造のうち芳香族環を1つ以上含むものであればよく、芳香族環のみを含むものであっても、芳香族環および非芳香族性の環構造を含むものであってもよい。炭化水素樹脂中における、2以上の環状構造が結合した構造を有する単量体単位含有量は、好ましくは0.1〜50質量%であり、より好ましくは5〜45質量%、さらに好ましくは8〜43質量%、特に好ましくは10〜40質量%である。2以上の環状構造が結合した構造を有する単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、得られるゴム架橋物の転がり抵抗および耐摩耗性をより高めることができる。
上記脂肪族炭素−炭素不飽和結合としては、ラジカル重合性を有するものであればよく、ビニル基を好ましく用いることができる。なお、2以上の環状構造が結合した構造を有する単量体がインデンである場合、脂肪族炭素−炭素不飽和結合は、インデンの五員環の一部として含まれる。
上記2以上の環状構造が結合した構造を有する単量体としては、ナフタレン化合物、フルオレン化合物、ビフェニル化合物、アントラセン化合物、フェナントレン化合物、インデン化合物およびベンゾチオフェン化合物が好ましく、インデン化合物がより好ましく、インデンがさらに好ましい。
炭化水素樹脂中における、芳香族単量体単位含有量は、好ましくは0.1〜50質量%であり、より好ましくは5〜45質量%、さらに好ましくは8〜43質量%、特に好ましくは10〜40質量%である。芳香族単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、得られるゴム組成物の加工性、ならびに、得られるゴム架橋物の引張強さ、伸び、ウエットグリップ性、転がり抵抗、および耐摩耗性のバランスをより高めることができる。
本発明における炭化水素樹脂は、1,3−ペンタジエン単量体単位10〜60質量%、炭素数4〜6の脂環式モノオレフィン単量体単位1〜30質量%、炭素数4〜8の非環式モノオレフィン単量体単位1〜50質量%、脂環式ジオレフィン単量体単位0〜10質量%、および前記芳香族単量体単位0.1〜50質量%を含むものであることが好ましい。このような炭化水素樹脂を含むことにより、得られるゴム組成物の加工性、ならびに、得られるゴム架橋物の引張強さ、伸び、ウエットグリップ性、転がり抵抗、および耐摩耗性のバランスをより高めることができる。
なお、上記単量体単位の含有割合は、炭化水素樹脂水素化物においても同様であり、当該含有割合の好適範囲も炭化水素樹脂と同様である。
(水素化前の炭化水素樹脂の製造方法)
炭化水素樹脂を製造する方法としては、上記した脂肪族単量体および芳香族単量体を有する重合性成分(単量体混合物A)を、好適には付加重合する限りにおいて、特に限定されない。たとえば、フリーデルクラフツ型のカチオン重合触媒を用いた付加重合によって、炭化水素樹脂を得ることができる。
炭化水素樹脂を製造するために好適に用いられる方法としては、たとえば、次に述べる、ハロゲン化アルミニウム(A)と、3級炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素(B1)および炭素−炭素不飽和結合に隣接する炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素(B2)からなる群より選ばれるハロゲン化炭化水素(B)とを組み合わせて、重合触媒とし、1,3−ペンタジエン10〜60質量%、炭素数4〜6の脂環式モノオレフィン10〜30質量%、炭素数4〜8の非環式モノオレフィン1〜50質量%、脂環式ジオレフィン0〜10質量%、および芳香族単量体0.1〜50質量%を含む単量体混合物Aを重合する重合工程を有する方法を挙げることができる。
ハロゲン化アルミニウム(A)の具体例としては、塩化アルミニウム(AlCl3)、臭化アルミニウム(AlBr3)などを挙げることができる。なかでも汎用性などの観点から、塩化アルミニウムが好適に用いられる。
ハロゲン化アルミニウム(A)の使用量は、特に限定されないが、重合性成分(単量体混合物A)100質量部に対し、好ましくは0.05〜10質量部、より好ましくは0.1〜5質量部である。
また、重合に際しては、ハロゲン化炭化水素(B)を、ハロゲン化アルミニウム(A)と併用することにより、重合触媒の活性が極めて良好なものとなる。
ハロゲン化炭化水素(B)としての、3級炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素(B1)の具体例としては、t−ブチルクロライド、t−ブチルブロマイド、2−クロロ−2−メチルブタン、トリフェニルメチルクロライドなどを挙げることができる。これらのなかでも、活性と取り扱いやすさとのバランスに優れる点で、t−ブチルクロライドが特に好適に用いられる。
ハロゲン化炭化水素(B)としての、炭素−炭素不飽和結合に隣接する炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素(B2)における不飽和結合としては、炭素−炭素二重結合および炭素−炭素三重結合が挙げられ、芳香族環などにおける炭素−炭素共役二重結合も含むものである。このような化合物の具体例としては、ベンジルクロライド、ベンジルブロマイド、(1−クロロエチル)ベンゼン、アリルクロライド、3−クロロ−1−プロピン、3−クロロ−1−ブテン、3−クロロ−1−ブチン、ケイ皮クロライドなどが挙げられる。これらのなかでも、活性と取り扱いやすさとのバランスに優れる点で、ベンジルクロライドが好適に用いられる。
なお、ハロゲン化炭化水素(B)は、1種類で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
ハロゲン化炭化水素(B)の使用量は、ハロゲン化アルミニウム(A)に対するモル比で、好ましくは0.05〜50、より好ましくは0.1〜10である。
重合反応を行うに当たり、単量体混合物や重合触媒のそれぞれの成分を重合反応器に添加する順序は特に限定されず、任意の順で添加すればよいが、重合反応を良好に制御して、得られるゴム組成物の加工性、ならびに、得られるゴム架橋物の引張強さ、伸び、ウエットグリップ性、転がり抵抗、および耐摩耗性のバランスをより高めるという観点から、単量体混合物と重合触媒の成分の一部とを重合反応器に添加して、重合反応を開始した後に、重合触媒の残部を重合反応器に添加する方法が好ましい。
具体的には、炭化水素樹脂の製造に当たっては、まず、ハロゲン化アルミニウム(A)と、脂環式モノオレフィンとを予め混合することが好ましい。ハロゲン化アルミニウム(A)と脂環式モノオレフィンとを予め混合する接触処理をすることにより、ゲルの生成を防止でき、得られるゴム組成物の加工性、ならびに、得られるゴム架橋物の引張強さ、伸び、ウエットグリップ性、転がり抵抗、および耐摩耗性のバランスをより高めることができる。
ハロゲン化アルミニウム(A)と混合する脂環式モノオレフィンの量は、ハロゲン化アルミニウム(A)の量の少なくとも5倍(質量比)とすることが好ましい。脂環式モノオレフィンの量が少なすぎると、ゲル生成防止の効果が小さくなってしまうおそれがある。脂環式モノオレフィンとハロゲン化アルミニウム(A)との質量比は、「脂環式モノオレフィン:ハロゲン化アルミニウム(A)」の質量比で、好ましくは5:1〜120:1、より好ましくは10:1〜100:1、さらに好ましくは15:1〜80:1である。この割合より脂環式モノオレフィンを多く使用すると、触媒活性が低下し、重合が十分に進行しなくなるおそれがある。
ハロゲン化アルミニウム(A)と脂環式モノオレフィンとを予め混合するに際し、これらの投入順序は特に制限されず、脂環式モノオレフィン中にハロゲン化アルミニウム(A)を投入してもよいし、逆に、ハロゲン化アルミニウム(A)中に脂環式モノオレフィンを投入してもよい。混合は通常、発熱をともなうので、適当な希釈剤を用いることもできる。希釈剤としては後述する溶媒を用いることができる。
上記のようにして、ハロゲン化アルミニウム(A)と脂環式モノオレフィンとの混合物Mを調製した後、少なくとも1,3−ペンタジエンおよび非環式モノオレフィンを含む混合物aと、混合物Mとを混合することが好ましい。上記混合物aには脂環式ジオレフィンおよび/または芳香族単量体が含まれていてもよい。
混合物aの調製方法は特に限定されず、それぞれ純粋な化合物を混合して目的の混合物aを得てもよいし、たとえば、ナフサ分解物の留分などに由来する、目的の単量体を含む混合物を用いて、目的の混合物aを得てもよい。たとえば、混合物aに1,3−ペンタジエンなどを配合するためには、イソプレンおよびシクロペンタジエン(その多量体を含む)を抽出した後のC5留分を好適に用いることができる。
混合物aと混合物Mと共に、ハロゲン化炭化水素(B)をさらに混合することが好ましい。これら3者の投入順序は特に制限されない。
重合反応をより良好に制御する観点からは、重合反応系に溶媒を添加して、重合反応を行うことが好ましい。溶媒の種類は、重合反応を阻害しないものであれば特に制限はないが、飽和脂肪族炭化水素または芳香族炭化水素が好適である。溶媒として用いられる飽和脂肪族炭化水素としては、たとえば、n−ペンタン、n−ヘキサン、2−メチルペンタン、3−メチルペンタン、n−ヘプタン、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、3−エチルペンタン、2,2−ジメチルペンタン、2,3−ジメチルペンタン、2,4−ジメチルペンタン、3,3−ジメチルペンタン、2,2,3−トリメチルブタン、2,2,4−トリメチルペンタンなどの炭素数5〜10の鎖状飽和脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの炭素数5〜10の環状飽和脂肪族炭化水素などが挙げられる。溶媒として用いられる芳香族炭化水素としては、たとえば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭素数6〜10の芳香族炭化水素が挙げられる。溶媒は1種を単独で使用してもよいし、2種以上の混合溶媒として使用してもよい。
溶媒の使用量は、特に限定されないが、重合性成分(単量体混合物A)100質量部に対して、好ましくは10〜1,000質量部、より好ましくは50〜500質量部である。なお、たとえば、C5留分に由来するシクロペンタンとシクロペンテンとの混合物のような、付加重合性成分と非付加重合性成分との混合物を重合反応系に添加して、付加重合性成分は単量体混合物の成分として用い、非付加重合性成分は溶媒として用いるようにすることもできる。
重合反応を行う際の重合温度は、特に限定されないが、好ましくは−20℃〜100℃、より好ましくは10℃〜70℃である。重合温度が低すぎると重合活性が低下して生産性が劣る可能性があり、重合温度が高すぎると得られるゴム組成物の加工性、ならびに、得られるゴム架橋物の引張強さ、伸び、ウエットグリップ性、転がり抵抗、および耐摩耗性のバランスに劣るおそれがある。重合反応を行う際の圧力は、大気圧下でも加圧下でもよい。重合反応時間は、適宜選択できるが、通常10分間〜12時間、好ましくは30分間〜6時間である。
重合反応は、所望の重合転化率が得られた時点で、メタノール、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水溶液などの重合停止剤を重合反応系に添加することにより停止することができる。
上記炭化水素樹脂の製造方法においては、上記重合工程を少なくとも備えるものとすればよいが、必要に応じて、その他の工程を備えるものであってもよい。
その他の工程としては、たとえば、重合工程後に、重合工程において重合停止剤を添加して、重合触媒を不活性化した際に生成する、溶媒に不溶な触媒残渣を濾過などにより除去する触媒残渣除去工程や、重合工程による重合反応停止後、未反応の単量体と溶媒とを除去し、さらに水蒸気蒸留などにより低分子量のオリゴマー成分を除去し、冷却することにより、固体状の炭化水素樹脂を得る回収工程などを挙げることができる。
また、その他の工程として、触媒残渣除去工程後、かつ、回収工程前に、溶媒に不溶な触媒残渣を除去した後の触媒残渣除去混合物を吸着剤と接触させて、吸着剤処理混合物を得る接触処理工程を備えていてもよい。接触処理工程を備えていることにより、得られるゴム組成物の加工性、ならびに、得られるゴム架橋物の引張強さ、伸び、ウエットグリップ性、転がり抵抗、および耐摩耗性のバランスをより高めることができる。
なお、上記その他の工程は、後述する炭化水素樹脂水素化物の製造方法における水添工程後に行ってもよい。
また、上記接触処理工程において用いる吸着剤は特に限定されず、化学吸着剤であってもよいし、物理吸着剤であってもよい。
上記化学吸着剤としては、たとえば、塩基性炭酸亜鉛、酸化亜鉛、硫酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ミリスチン酸亜鉛などの亜鉛系吸着剤;酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、リン酸ジルコニウムなどのジルコニウム系吸着剤;二酸化マンガンなどのマンガン系吸着剤;塩化コバルトなどのコバルト系吸着剤;塩化銅、酸化銅などの銅系吸着剤;ポリアミン化合物などのアミン系吸着剤などが挙げられる。
上記物理吸着剤としては、たとえば、ケイ酸アルミニウムナトリウムなどの含水アルミノケイ酸塩鉱物群で総称されるゼオライト系吸着剤、二酸化ケイ素、酸化マグネシウム、シリカゲル、シリカ・アルミナ、アルミニウムシリケート、活性アルミナ、酸性白土、活性白土、ドーソナイト類化合物、ハイドロタルサイト類化合物などが挙げられる。
吸着剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、2種以上の吸着剤を併用する場合は、2種以上の化学吸着剤を併用してもよいし、2種以上の物理吸着剤を併用してもよいし、1種以上の化学吸着剤と1種以上の物理吸着剤とを併用してもよく、たとえば、物理吸着剤に化学吸着剤を担持させてもよい。特に、転がり抵抗および耐摩耗性により優れたゴム架橋物を得る観点からは、これらの吸着剤のなかでも、化学吸着剤を用いることが好ましく、亜鉛系吸着剤を用いることがより好ましく、塩基性炭酸亜鉛を用いることが特に好ましい。
上記接触処理工程において、触媒残渣除去混合物に吸着剤に接触させる方法としては、特に限定されない。たとえば、適宜選択される容器に触媒残渣除去混合物と吸着剤とを共存させて、必要に応じて撹拌して、接触させるバッチ処理法や、予め充填塔中に吸着剤を充填しておき、これに触媒残渣除去混合物を流通して接触させる連続処理法などが挙げられる。
触媒残渣除去混合物と吸着剤とをバッチ処理法で接触させる場合における、吸着剤の使用量は、特に限定されないが、触媒残渣除去混合物に含まれる炭化水素樹脂100質量部に対して、通常0.01〜5.0質量部、好ましくは0.03〜3.0質量部、より好ましくは0.05〜2.0質量部である。
触媒残渣除去混合物と吸着剤とを接触させる際の温度は、特に限定されないが、通常10〜70℃である。また、処理時間も、特に限定されないが、通常0.1〜2時間である。
触媒残渣除去混合物と吸着剤とをバッチ処理法で接触させた場合、必要に応じて、ろ過などにより触媒残渣除去混合物から吸着剤を除去することができる。また、吸着剤が残存していても炭化水素樹脂および炭化水素樹脂水素化物の使用に問題がない場合には、触媒残渣除去混合物から吸着剤を除去せずに次の工程に供してもよい。
<炭化水素樹脂水素化物>
本発明で用いる炭化水素樹脂水素化物は、上述した炭化水素樹脂を水添することで得ることができる。
なお、本発明で用いる炭化水素樹脂水素化物は、水添率が、0.1〜80%の範囲内であればよく、好ましくは10〜60%の範囲内、より好ましくは20〜50%の範囲内である。水添率が0.1%未満である炭化水素樹脂水素化物を用いると、得られるゴム架橋物は、転がり抵抗および耐摩耗性に劣るおそれがある。また、水添率が80%を超える炭化水素樹脂水素化物を用いると、得られるゴム架橋物は、転がり抵抗および耐摩耗性に劣るおそれがある。なお、水添率とは、水素化前の炭化水素樹脂の全非芳香族性炭素−炭素二重結合のうち、水素化されたものの割合を意味する。
また、上記炭化水素樹脂中の炭素−炭素二重結合としては、非芳香族性炭素−炭素二重結合(主に主鎖の炭素−炭素二重結合)の他、芳香族性炭素−炭素二重結合(芳香環内の炭素−炭素二重結合)が存在するが、芳香族性炭素−炭素二重結合は出来るだけ水素化されていないのが好ましく、全芳香族性炭素−炭素二重結合のうち、水素化された割合としては、好ましくは10%以下、より好ましくは7%以下、さらに好ましくは0%である。
水添率は、水素化前の炭化水素樹脂および水素化後の炭化水素樹脂水素化物が有する非芳香族性炭素−炭素二重結合の差から求めることができる。ここで、各樹脂が有する非芳香族性炭素−炭素二重結合については、1H−NMRスペクトル測定により求めることができる。1H−NMRスペクトル測定は、溶媒に重クロロホルムを用い、NMR測定装置としては、JMN−AL seriesAL400、JEOL社製を用いて行うことができる。
また、水素化後の炭化水素樹脂水素化物の重量平均分子量(Mw)は、700〜6,000の範囲内であればよく、好ましくは900〜4,500の範囲内、より好ましくは1,000〜4,000の範囲内である。重量平均分子量(Mw)を上記範囲とすることにより、得られるゴム組成物の加工性、ならびに、得られるゴム架橋物の引張強さ、伸び、ウエットグリップ性、転がり抵抗、および耐摩耗性のバランスをより高めることができる。
水素化後の炭化水素樹脂水素化物の数平均分子量(Mn)は、好ましくは400〜3,000の範囲内、より好ましくは450〜2,500の範囲内、さらに好ましくは500〜2,000の範囲内である。数平均分子量(Mn)を上記範囲とすることにより、得られるゴム組成物の加工性、ならびに、得られるゴム架橋物の引張強さ、伸び、ウエットグリップ性、転がり抵抗、および耐摩耗性のバランスをより高めることができる。
水素化後の炭化水素樹脂水素化物のZ平均分子量(Mz)は、好ましくは1,500〜20,000の範囲内、より好ましくは1,800〜10,000の範囲内、さらに好ましくは2,000〜8,000の範囲内である。Z平均分子量(Mz)を上記範囲とすることにより、得られるゴム組成物の加工性、ならびに、得られるゴム架橋物の引張強さ、伸び、ウエットグリップ性、転がり抵抗、および耐摩耗性のバランスをより高めることができる。
なお、本発明において、炭化水素樹脂水素化物の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、およびZ平均分子量(Mz)は、高速液体クロマトグラフィの測定による、ポリスチレン換算の値として求めるものとする。
また、炭化水素樹脂水素化物の数平均分子量に対する重量平均分子量の比(Mw/Mn)は、好ましくは1.0〜4.0の範囲内であり、より好ましくは1.2〜3.5の範囲内、さらに好ましくは1.4〜3.0の範囲内である。上記比が上述の範囲内であることにより、得られるゴム組成物の加工性、ならびに、得られるゴム架橋物の引張強さ、伸び、ウエットグリップ性、転がり抵抗、および耐摩耗性のバランスをより高めることができる。
炭化水素樹脂水素化物の重量平均分子量に対するZ平均分子量の比(Mz/Mw)は、好ましくは1.0〜4.0の範囲内であり、より好ましくは1.2〜3.5の範囲内、さらに好ましくは1.4〜3.0の範囲内である。上記比が上述の範囲内であることにより、得られるゴム組成物の加工性、ならびに、得られるゴム架橋物の引張強さ、伸び、ウエットグリップ性、転がり抵抗、および耐摩耗性のバランスをより高めることができる。
炭化水素樹脂水素化物の軟化点は、80〜150℃の範囲内であればよく、好ましくは85〜145℃の範囲内であり、より好ましくは90〜140℃の範囲内である。軟化点を上記範囲内とすることにより、得られるゴム組成物の加工性、ならびに、得られるゴム架橋物の引張強さ、伸び、ウエットグリップ性、転がり抵抗、および耐摩耗性のバランスをより高めることができる。
なお、本発明における軟化点は、炭化水素樹脂水素化物についてJIS K 2207に従い測定することができる。
炭化水素樹脂水素化物の製造方法としては、たとえば、炭化水素樹脂を水添する水添工程を有する方法を用いることができる。
水添工程において、炭化水素樹脂の水添は、水素化触媒の存在下に、炭化水素樹脂を水素と接触させることにより行うことができる。
用いる水素化触媒としては、特公昭58−43412号公報、特開昭60−26024号公報、特開昭64−24826号公報、特開平1−138257号公報、特開平7−41550号公報等に記載されているものを使用することができ、均一系触媒でも不均一系触媒でもよい。
均一系触媒としては、たとえば、酢酸コバルト/トリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナート/トリイソブチルアルミニウム、チタノセンジクロリド/n−ブチルリチウム、ジルコノセンジクロリド/sec−ブチルリチウム、テトラブトキシチタネート/ジメチルマグネシウムなどの組み合わせ等の遷移金属化合物とアルカリ金属化合物の組み合わせからなる触媒系;ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウムなどの貴金属錯体触媒;などが挙げられる。
不均一系触媒としては、Ni、Pdなどの水素添加触媒金属を担体に担持させたものなどが挙げられる。担体としては、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、ケイソウ土などが挙げられる。中でも、シリカに担持したNi触媒が好ましい。
水素化反応は、炭化水素樹脂に対し直接行っても、あるいは、炭化水素樹脂を有機溶媒に溶解し、有機溶媒中で行ってもよい。操作容易性の観点から、炭化水素樹脂に対し直接行うのが好ましい。炭化水素樹脂の溶解に用いる有機溶媒としては、触媒に不活性なものであれば格別な限定はないが、生成する水素添加物の溶解性に優れていることから、通常は炭化水素系溶媒が用いられる。
炭化水素系溶媒としては、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素類;n−ペンタン、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、デカリンなどの脂環族炭化水素類;などを挙げることができ、これらの中でも、環状の芳香族炭化水素類や脂環族炭化水素類が好ましい。これらの有機溶媒は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、有機溶媒としては、炭化水素樹脂の重合に用いた溶媒を用いてもよい。
水素化触媒の存在下に、炭化水素樹脂を水素と接触させる方法は、特に限定されない。たとえば、適宜選択される容器に炭化水素樹脂と水素化触媒とを共存させて、必要に応じて攪拌して、水素と接触させるバッチ処理法や、予め充填塔中に水素化触媒を充填しておき、これに炭化水素樹脂を流通しながら、水素と接触させる連続処理法が挙げられる。
水素化反応は、常法に従って行うことができる。水素化触媒の種類や反応温度などの反応条件を適宜調整することにより、炭化水素樹脂の水素化の割合を調整することができる。
水素化触媒として均一系触媒を用いると炭化水素樹脂の水素化の割合を高めることができる。均一系触媒としては、ルテニウム均一系触媒が好適である。反応温度は、100〜200℃が好ましく、130〜195℃がより好ましい。また、水素化触媒として不均一系触媒を用いると、炭化水素樹脂の水素化の割合を抑えることができる。不均一系触媒としては、ニッケル不均一系触媒が好適である。反応温度は150〜300℃が好ましく、180〜260℃がより好ましい。
水素化反応における水素圧は、絶対圧力で、通常0.01〜10MPa、好ましくは0.05〜6MPa、より好ましくは0.1〜5MPaである。
また、用いる水素量の下限としては、目的の水添率の樹脂を得るために理論上必要な水素量の1倍以上が好ましく、1.2倍以上がより好ましく、1.8倍以上がさらに好ましく、用いる水素量の上限としては、目的の水添率の樹脂を得るために理論上必要な水素量の20倍以下が好ましく、10倍以下がより好ましく、5倍以下がさらに好ましく、2.4倍以下が特に好ましい。用いる水素量を上記範囲とすることにより、得られるゴム架橋物の転がり抵抗および耐摩耗性をより高めることができる。
水素化反応終了後においては、必要に応じて反応液から、遠心分離やろ過などにより水素化触媒を除去する。遠心方法やろ過方法は、用いた触媒を除去できる条件であれば、特に限定されない。ろ過による除去は、簡便かつ効率的であるので好ましい。ろ過する場合、加圧ろ過しても、吸引ろ過してもよく、また、効率の点から、ケイソウ土、パーライトなどのろ過助剤を用いることが好ましい。また、必要に応じて、水やアルコールなどの触媒不活性化剤を利用したり、活性白土やアルミナなどの吸着剤を添加することができる。
<ジエン系ゴム>
本発明のゴム組成物は、上述した炭化水素樹脂水素化物に加えて、ジエン系ゴムを含有する。ジエン系ゴムは、天然ゴムおよびスチレン−ブタジエン共重合体ゴムからなるものである。
上記スチレン−ブタジエン共重合体ゴムとしては、乳化重合スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、溶液重合スチレン−ブタジエン共重合体ゴムなどを用いることができる。
また、上記天然ゴムおよびスチレン−ブタジエン共重合体ゴムは、その分子量やミクロ構造は特に限定されず、アミン、アミド、シリル、アルコキシシリル、カルボキシル、ヒドロキシル基などで末端変性されていても、エポキシ化されていてもよい。また、上記天然ゴムおよびスチレン−ブタジエン共重合体ゴムは、水素化されたものであってもよいが、水素化されていないものであることが好ましい。
ジエン系ゴム中における、上記天然ゴムの配合量は、30〜90質量%であればよく、好ましくは35〜85質量%、より好ましくは40〜80質量%である。天然ゴムの配合量を上記範囲とすることにより、得られるゴム組成物の加工性、ならびに、得られるゴム架橋物の引張強さ、伸び、ウエットグリップ性、転がり抵抗、および耐摩耗性のバランスをより高めることができる。
ジエン系ゴム中における、上記スチレン−ブタジエン共重合体ゴムの配合量は、10〜70質量%であればよく、好ましくは15〜65質量%、より好ましくは20〜60質量%である。スチレン−ブタジエン共重合体ゴムの配合量を上記範囲とすることにより、得られるゴム組成物の加工性、ならびに、得られるゴム架橋物の引張強さ、伸び、ウエットグリップ性、転がり抵抗、および耐摩耗性のバランスをより高めることができる。
また、本発明におけるジエン系ゴムは、天然ゴムおよびスチレン−ブタジエン共重合体ゴムのみを含むものであってもよいが、ジエン系ゴムとして、天然ゴムおよびスチレン−ブタジエン共重合体ゴム以外のその他のジエン系ゴムを含むものであってもよい。上記その他のジエン系ゴムとしては、たとえば、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)などを挙げることができる。
上記その他のジエン系ゴムの配合量としては、引張強さ、伸び、ウエットグリップ性、転がり抵抗、および耐摩耗性のバランスに優れたゴム架橋物を与えることができるものであればよく、たとえば、天然ゴムおよびスチレン−ブタジエン共重合体ゴムの合計量100質量部に対して10質量部以下とすることができ、5質量部以下であることが好ましい。
本発明のゴム組成物における、ジエン系ゴムと上記炭化水素樹脂水素化物との配合割合は、ジエン系ゴム100質量部に対して、炭化水素樹脂水素化物が1.0〜30質量部配合されていればよく、5〜20質量部配合されることが好ましい。炭化水素樹脂水素化物の含有量が、ジエン系ゴム100質量部に対して1.0質量部未満であるゴム組成物であると、加工性に劣るおそれがあり、かつ、得られるゴム架橋物の伸び、ウエットグリップ性、転がり抵抗、および耐摩耗性に劣るおそれがある。また、炭化水素樹脂水素化物の含有量が、ジエン系ゴム100質量部に対して30質量部を超えるゴム組成物であると、得られるゴム架橋物の転がり抵抗および耐摩耗性に劣るおそれがある。
<カーボンブラック>
本発明のゴム組成物は、上述した炭化水素樹脂水素化物、およびジエン系ゴムに加えて、カーボンブラックを含有する。
本発明におけるカーボンブラックは、窒素吸着比表面積(N2SA)が、70〜150m2/gであればよく、好ましくは80〜130m2/gである。窒素吸着比表面積(N2SA)が、70m2/g未満のカーボンブラックを用いると、得られるゴム架橋物の転がり抵抗および耐摩耗性に劣るおそれがある。また、窒素吸着比表面積(N2SA)が、150m2/gを超えるカーボンブラックを用いると、得られるゴム組成物の加工性、ならびに得られるゴム架橋物の引張強さ、伸び、転がり抵抗、および耐摩耗性に劣るおそれがある。
なお、窒素吸着比表面積(N2SA)は、JIS K6217−2に準拠して求めることができる。
上記カーボンブラックとしては、窒素吸着比表面積が上述した範囲であればよく、たとえば、特開2016−30795号公報などに記載されるゴム組成物に一般的に使用されるものを使用できる。より具体的には、たとえば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、およびグラファイトなどを用いることができる。
本発明のゴム組成物における、カーボンブラックの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、20〜80質量部であればよく、好ましくは30〜70質量部、より好ましくは35〜65質量部である。カーボンブラックの配合量が80質量部を超えるゴム組成物であると、加工性に劣るおそれがあり、かつ、得られるゴム架橋物の引張強さ、伸び、転がり抵抗、および耐摩耗性に劣るおそれがある。
本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴム、炭化水素樹脂水素化物、およびカーボンブラックのみからなるものであってよいが、さらに、他の成分を含有するものであってもよい。本発明のゴム組成物に含有され得る他の成分としては、例えば、カーボンブラック以外のフィラー、シランカップリング剤、架橋剤、架橋促進剤、架橋活性化剤、老化防止剤、酸化防止剤、活性剤、プロセスオイル、可塑剤、滑剤、粘着付与剤などを挙げることができ、これらその他の配合剤をそれぞれ必要量配合できる。
本発明のゴム組成物に配合され得るカーボンブラック以外のフィラーとしては、ゴム組成物に一般的に使用されるものを用いることができ、例えば、クレー、珪藻土、シリカ、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、金属酸化物、マイカ、水酸化アルミニウム、各種の金属粉、木粉、ガラス粉、セラミックス粉、ガラスバルーン、シリカバルーン等の無機中空フィラー;ポリスチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン共重合体等の有機中空フィラー等を挙げることができる。
シリカとしては、例えば、乾式法ホワイトカーボン、湿式法ホワイトカーボン、コロイダルシリカ、沈降シリカなどが挙げられる。これらの中でも、含水ケイ酸を主成分とする湿式法ホワイトカーボンが好ましい。また、カーボンブラック表面にシリカを担持させたカーボン−シリカデュアル・フェイズ・フィラーを用いてもよい。これらのシリカは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。用いるシリカの窒素吸着比表面積(ASTM D3037−81に準じBET法で測定される)は、好ましくは100〜400m2/g、より好ましくは150〜350m2/gである。また、シリカのpHは、pH5〜10であることが好ましい。
本発明のゴム組成物におけるシリカの配合量は、ゴム組成物中のゴム成分100質量部に対して、好ましくは10〜200質量部であり、より好ましくは20〜150質量部、さらに好ましくは30〜75質量部である。シリカの配合量を上記範囲とすることにより、得られるゴム組成物の加工性、ならびに、得られるゴム架橋物の引張強さ、伸び、ウエットグリップ性、転がり抵抗、および耐摩耗性のバランスをより高めることができる。
フィラーとして、シリカを用いる場合には、シランカップリング剤を併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−オクタチオ−1−プロピル−トリエトキシシラン、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド、γ−トリメトキシシリルプロピルジメチルチオカルバミルテトラスルフィド、およびγ−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアジルテトラスルフィドなどを挙げることができる。これらのシランカップリング剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。シランカップリング剤の配合量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは0.1〜30質量部、より好ましくは1〜15質量部である。
また、フィラーは、1種単独で用いてもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
シリカおよびカーボンブラック以外のフィラーの含有量としては、本発明の効果が得られる範囲であればよく、たとえば、ゴム成分100質量部に対して120質量部以下とすることができる。
架橋剤としては、特に限定されないが、例えば、硫黄、ハロゲン化硫黄、有機過酸化物、キノンジオキシム類、有機多価アミン化合物、メチロール基を有するアルキルフェノール樹脂などが挙げられる。これらの中でも、硫黄が好ましく使用される。架橋剤の配合量は、ゴム組成物中のゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1〜15質量部、より好ましくは0.5〜5質量部、特に好ましくは1〜4質量部である。
架橋剤として、硫黄または含硫黄化合物を用いる場合には、架橋促進剤および架橋活性化剤を併用することが好ましい。架橋促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系架橋促進剤;グアニジン系架橋促進剤;チオウレア系架橋促進剤;チアゾール系架橋促進剤;チウラム系架橋促進剤;ジチオカルバミン酸系架橋促進剤;キサントゲン酸系架橋促進剤;などが挙げられる。これらのなかでも、スルフェンアミド系架橋促進剤を含むものが好ましい。これらの架橋促進剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。架橋促進剤の配合量は、ゴム組成物中のゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1〜15質量部、より好ましくは0.5〜5質量部、特に好ましくは1〜4質量部である。
架橋活性化剤としては、例えば、ステアリン酸などの高級脂肪酸;酸化亜鉛;などを挙げることができる。これらの架橋活性化剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。架橋活性化剤の配合量は、ゴム組成物中のゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.05〜20質量部、特に好ましくは0.5〜15質量部である。
また、本発明のゴム組成物には、所望により、フェノール系安定剤、リン系安定剤、イオウ系安定剤などの老化防止剤を添加してもよい。老化防止剤の添加量は、その種類などに応じて適宜決定すればよい。
また、本発明のゴム組成物には、必要に応じて、酸化防止剤を添加してもよい。酸化防止剤としては、特に限定されないが、たとえば、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールなどのヒンダードフェノール系化合物;ジラウリルチオプロピオネートなどのチオジカルボキシレートエステル類;トリス(ノニルフェニル)ホスファイトなどの亜燐酸塩類;などが挙げられる。酸化防止剤は、1種単独で用いてもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。酸化防止剤の含有量は、特に限定されないが、ゴム組成物中のゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以下であり、より好ましくは0.05〜5質量部である。
また、本発明のゴム組成物には、上述したジエン系ゴムおよび炭化水素樹脂水素化合物以外に樹脂を配合してもよい。樹脂を配合することにより、ゴム組成物に粘着性を付与させたり、ゴム組成物中の充填剤の分散性を高めることができる。その結果、得られるゴム架橋物の転がり抵抗や耐摩耗性の向上が期待できる。また、可塑剤と同様な効果として、ゴム組成物の加工性を向上させることもできる。樹脂としては、例えば、C5系石油樹脂、C5/C9系石油樹脂、C9系石油樹脂、ジシクロペンタジエン系樹脂、テルペン系樹脂、テルペンフェノール樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、アルキルフェノール−アセチレン樹脂、ロジン系樹脂、ロジンエステル樹脂、インデン系樹脂、インデンを含有するC9系樹脂、α−メチルスチレン・インデン共重合体樹脂、クマロン−インデン樹脂、ファルネセン系樹脂、ポリリモネン樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は、変性されていたり、水素添加されていたりするものであってもよい。これらの樹脂は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。樹脂の配合量は、ゴム組成物中のゴム成分100質量部に対して、好ましくは25質量部以下である。
本発明のゴム組成物の製造方法は、常法に従って各成分を混練すればよく、例えば、架橋剤や架橋促進剤等の熱に不安定な成分を除く成分と、ジエン系ゴムと、炭化水素樹脂水素化物と、カーボンブラックとを混練後、その混練物に架橋剤や架橋促進剤等の熱に不安定な成分を混練して目的のゴム組成物を得ることができる。熱に不安定な成分を除く成分と、ジエン系ゴムと、炭化水素樹脂水素化物と、カーボンブラックとを混練する際の混練温度は、好ましくは80〜200℃、より好ましくは120〜180℃であり、その混練時間は、好ましくは30秒〜30分である。また、その混練物と熱に不安定な成分との混練は、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下まで冷却した後に行われる。
本発明のゴム組成物は、加工性、ならびに、得られるゴム架橋物の引張強さ、伸び、ウエットグリップ性、転がり抵抗、および耐摩耗性のバランスに優れるものである。本発明のゴム組成物は、このような特性を活かし、例えば、タイヤの、トレッド(キャップトレッド、ベーストレッド)、カーカス、サイドウォール、ビード部などのタイヤ各部位の材料に用いることが好ましく、なかでも、オールシーズンタイヤ、高性能タイヤ、およびスタッドレスタイヤなどの各種タイヤにおいて、トレッド、カーカス、サイドウォール、およびビード部などのタイヤ各部位に好適に用いることができ、たとえば、タイヤのトレッド用として、特に好適に用いることができ、なかでも特に、ベーストレッド(アンダートレッド)に用いることが好ましい。
<ゴム架橋物>
本発明のゴム架橋物は、上述した本発明のゴム組成物を架橋してなるものである。
本発明のゴム架橋物は、本発明のゴム組成物を用い、たとえば、所望の形状に対応した成形機、たとえば、押出機、射出成形機、圧縮機、ロールなどにより成形を行い、加熱することにより架橋反応を行い、ゴム架橋物として形状を固定化することにより製造することができる。この場合においては、予め成形した後に架橋しても、成形と同時に架橋を行ってもよい。成形温度は、通常、10〜200℃、好ましくは25〜120℃である。架橋温度は、通常、100〜200℃、好ましくは130〜190℃であり、架橋時間は、通常、1分〜24時間、好ましくは2分〜12時間、特に好ましくは3分〜6時間である。
また、ゴム架橋物の形状、大きさ等によっては、表面が架橋していても内部まで十分に架橋していない場合があるので、さらに加熱して二次架橋を行ってもよい。
加熱方法としては、プレス加熱、スチーム加熱、オーブン加熱、熱風加熱等のゴム組成物の架橋に用いられる一般的な方法を適宜選択すればよい。
このようにして得られる本発明のゴム架橋物は、上述した本発明のゴム組成物を用いて得られるものであるため、引張強さ、伸び、ウエットグリップ性、転がり抵抗、および耐摩耗性のバランスに優れるものである。
本発明のゴム架橋物は、その優れた引張強さ、伸び、ウエットグリップ性、転がり抵抗、および耐摩耗性のバランスを活かし、例えば、タイヤにおいて、トレッド(キャップトレッド、ベーストレッド)、カーカス、サイドウォール、ビード部等のタイヤ各部位の材料に用いることが好ましく、なかでも、オールシーズンタイヤ、高性能タイヤ、およびスタッドレスタイヤ等の各種タイヤにおいて、トレッド、カーカス、サイドウォール、およびビード部等のタイヤ各部位に好適に用いることができ、たとえば、タイヤのトレッド用として、特に好適に用いることができ、なかでも特に、ベーストレッド(アンダートレッド)に用いることが好ましい。
次に、本発明の空気入りタイヤについて説明する。本発明の空気入りタイヤは、上述のゴム組成物をトレッドに使用したことを特徴とするものである。
上記トレッドは、上述のゴム組成物を使用したもの、すなわち、上記ゴム組成物を用いて形成されたものであり、通常、上述した本発明のゴム組成物を架橋してなる本発明のゴム架橋物を含むものである。
上記空気入りタイヤは、そのトレッドが上記ゴム組成物を用いて形成されたものであればよく、他の部位も上記ゴム組成物を用いて形成されたものであってもよい。
上記ゴム組成物を用いて形成されるトレッドは、トレッドの一部であってもよくトレッドの全体であってもよいが、少なくともベーストレッドを含むことが好ましい。
また、本発明の空気入りタイヤの製造方法としては、上記組成物を用いて形成されたトレッドを有する空気入りタイヤを製造できる方法であればよく、公知の空気入りタイヤの製造方法を用いることができる。
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。なお、以下について、「部」および「%」は、特に断りのない限り質量基準である。
本実施例および比較例において行った試験方法は以下のとおりである。
〔水添率(%)〕
水素化前の炭化水素樹脂と、水素化後の炭化水素樹脂水素化物について、1H−NMRスペクトル測定を行うことで、非芳香族性炭素−炭素二重結合の量を求め、水素化前後の非芳香族性炭素−炭素二重結合の量の差に基づいて、水添率(%)を測定した。なお、1H−NMRスペクトル測定は、溶媒に重クロロホルムを用い、NMR測定装置としてJMN−AL seriesAL400(JEOL社製)を用いて行った。
〔数平均分子量、重量平均分子量、Z平均分子量、および分子量分布〕
試料となる炭化水素樹脂水素化物について、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー分析し、標準ポリスチレン換算値の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、およびZ平均分子量(Mz)を求め、分子量分布はMw/Mnの比およびMz/Mwの比で示した。なお、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー分析は、測定装置として、東ソー社製「HLC−8320GPC」を使用し、カラムは東ソー社製「TSKgel SuperMultiporeHZ」を3本連結したものを用い、テトラヒドロフランを溶媒として、40℃、1.0mL/minの流量で測定した。
〔軟化点(℃)〕
試料となる炭化水素樹脂水素化物について、JIS K 2207に従い、軟化点を測定した。
〔ムーニー粘度(ML1+4)〕
試料となるゴム組成物について、JIS K 6300−1:2001に従い、以下の条件で測定した。この特性については、基準サンプル(後述の比較例1)を100とする指数で示した。
・試験温度:100℃
・ロータの種類:L形
・使用試験機:島津製作所社製島津ムーニービスコメーターSMV−300J
〔引張強さ(MPa)および伸び(%)〕
試料となるゴム架橋物の試験片について、JIS K 6251:2010に従い、以下の条件で引張強さ(tensile stress(MPa))および伸び(elongation(%))を測定した。これらの特性については、基準サンプル(後述の比較例1)を100とする指数で示した。
・試験片作製方法:プレス架橋によりシート作製後、打抜き加工
・試験片形状:ダンベル状3号形
・試験片採取方向:列理に対し平行方向
・試験片数:3
・測定温度:23℃
・試験速度:500mm/min
・使用試験機:ALPHA TECHNOLOGIES社製TENSOMETER 10k
・試験機容量:ロードセル式 1kN
〔損失正接tanδ〕
試料となるゴム架橋物の試験片について、JIS K 7244−4に従い、以下の測定条件で、動的歪み0.5%、10Hzの条件で、0℃および60℃での損失正接tanδを測定した。この特性については、基準サンプル(後述の比較例1)を100とする指数で示した。なお、0℃での損失正接tanδが高いほど、ウエットグリップ性能に優れ、60℃での損失正接tanδが低いほど、転がり抵抗に優れる。
測定項目:動的貯蔵弾性率E’
:動的損失弾性率E”
:損失正接tanδ
・試料作製方法:シートより打抜き加工
・試験片形状:長さ50mm×幅2mm×厚さ2mm
・試験片数:1
・クランプ間距離:20mm
〔摩耗抵抗〕
試料となるシート状のゴム架橋物の試験片について、上島製作所社製FPS摩耗試験機を用い、荷重1kgf、スリップ率15%で測定した。この特性については、比較例1のサンプルの測定値を100とする指数で算出した。この指数が大きいものほど、耐摩耗性に優れると評価できる。
〔製造例1〕
重合反応器にシクロペンタン56.1部およびシクロペンテン15.5部の混合物を仕込み、70℃に昇温した後、塩化アルミニウム0.75部を添加した(混合物M1)。引き続き、1,3−ペンタジエン46.7部、イソブチレン18.4部、ジイソブチレン0.1部、ジシクロペンタジエン0.1部、C4−C6不飽和炭化水素0.2部、C4−C6飽和炭化水素7.2部、およびスチレン19.0部からなる混合物a1を、60分に亘り温度を70℃に維持して、上記にて得られた混合物M1を含む重合反応器に連続的に添加しながら重合を行った。その後、水酸化ナトリウム水溶液を重合反応器に添加することで、重合反応を停止した。なお、重合反応時の重合反応器中の成分の種類および量を表1にまとめて示した。重合停止により生成した沈殿物をろ過により除去することで、水素化前の炭化水素樹脂および未反応単量体等を含む重合体溶液を得た。次いで、重合体溶液を蒸留釜に仕込み、窒素雰囲気下で加熱し、重合溶媒と未反応単量体を除去し、水素化前の炭化水素樹脂とした。
そして、上記にて得られた水素化前の炭化水素樹脂を、多管式熱交換型水素添加反応装置に供給し、炭化水素樹脂を水素化した。水素化反応は、水素化触媒としてニッケルシリカ触媒(日揮触媒化成社製、N108F)を使用し、水素圧1.2MPa、反応温度220℃、反応管内の滞留時間30分間、目的の水添率の炭化水素樹脂水素化物を得るために必要な水素量の1.7倍の条件で行った。
得られた炭化水素樹脂水素化物を含む重合体溶液を、蒸留釜に仕込み、窒素雰囲気下で加熱し、重合溶媒と未反応単量体を除去した。次いで、200℃以上で、飽和水蒸気を吹き込みながら、低分子のオリゴマー成分を留去し、製造例1の炭化水素樹脂水素化物を得た。得られた製造例1の炭化水素樹脂水素化物については、水添率、数平均分子量、重量平均分子量、Z平均分子量、分子量分布、および軟化点を測定した。これらの測定結果は、下記表1にまとめて示した。
〔製造例2〜5〕
重合反応器に添加する成分の種類および量、ならびに水素化の条件を下記表1に示すとおりにそれぞれ変更したこと以外は製造例1と同様にして炭化水素樹脂水素化物を得た。得られた製造例2〜5の炭化水素樹脂水素化物についても、製造例1の炭化水素樹脂水素化物と同様に、水添率、数平均分子量、重量平均分子量、Z平均分子量、分子量分布、および軟化点を測定した。これらの測定結果は、下記表1にまとめて示した。
〔実施例1〕
バンバリー型ミキサー中で、スチレン−ブタジエン共重合体ゴムとして非油展乳化重合スチレンブタジエンゴム(SBR)(商品名「Nipol 1502」、日本ゼオン社製、ムーニー粘度(ML1+4,100℃):52)40部と、天然ゴム(NR)(SIR20)60部と、を30秒素練りし、次いで、窒素吸着比表面積(N2SA)が115m2/gのカーボンブラック(新日化カーボン社製ニテロン300IH)50部、および製造例1で得た炭化水素樹脂水素化物10部を添加して、90秒混練後、酸化亜鉛3部、ステアリン酸1部、および老化防止剤:N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン(大内新興化学工業社製、商品名「ノクラック6C」)2部を添加し、更に90秒間混練した。その後、90℃を開始温度として、145〜155℃で60秒間以上混練(一次練り)した後、ミキサーから混練物を排出させた。
得られた混練物を、室温まで冷却した後、再度バンバリー型ミキサー中で、90℃を開始温度として2分間混練(二次練り)した後、ミキサーから混練物を排出させた。混練終了時の混練物の温度は145℃であった。
次いで、50℃の2本のロールで、得られた混練物に、硫黄1.7部、および架橋促進剤:N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS 商品名「ノクセラーCZ−G」、大内新興化学工業社製)1.8部を加えてこれらを混練(架橋剤混練り)した後、シート状のゴム組成物を取り出した。
なお、一次練り、二次練り、および架橋剤混練りの混練条件は、以下に示す条件とした。
(一次練りおよび二次練りの混練条件)
・試験機:東洋精機製作所社製ラボプラストミル バンバリー型ミキサーB−600
・充填率:70〜75vol%
・ロータ回転数:50rpm
・試験開始設定温度:90℃
(架橋剤混練りの混練条件)
・試験機:池田機械工業社製電気加熱式高温ロール機
・ロールサイズ:6φ×16
・前ロール回転数:24rpm
・前後ロール回転比:1:1.22
・ロール温度:50±5℃
・切り返し回数:左右2回ずつ
・丸め通し幅:ロール間隔約0.8mm
・丸め通し回数:5回
〔実施例2〜3および比較例1〜8〕
下記表2に示すように、炭化水素樹脂水素化物の種類および配合量、ならびにカーボンブラックの種類および配合量を調整した以外は、実施例1と同様にしてゴム組成物を得た。
なお、比較例6では、窒素吸着比表面積(N2SA)が65m2/gのカーボンブラック(キャボットジャパン社製シヨウブラックN330T)を用いた。また、比較例7では、窒素吸着比表面積(N2SA)が165m2/gのカーボンブラック(三菱化学社製#3400B)を用いた。
〔評価〕
実施例1〜3および比較例1〜8で得たゴム組成物を、プレス圧力約8MPa、プレス温度160℃で40分間プレス架橋し、その後さらに23℃の恒温室で一晩熟成した後、150mm×150mm×厚さ2mmのゴム架橋物の試験片を作製した。
実施例1〜3および比較例1〜8で得られたゴム組成物およびゴム架橋物について、ゴム組成物のムーニー粘度、ゴム架橋物の引張強さ(MPa)、伸び(%)、損失正接tanδ、および摩耗抵抗を測定した。結果を下記表2に示す。
表1および2に示すように、脂肪族単量体単位と芳香族単量体単位とを含む炭化水素樹脂を水添してなる炭化水素樹脂水素化物であって、水添率が0.1〜80%であり、重量平均分子量(Mw)が700〜6,000であり、軟化点が80〜150℃である炭化水素樹脂水素化物、天然ゴムならびにスチレン−ブタジエン共重合体ゴムからなるジエン系ゴム、および窒素吸着比表面積(N2SA)が70〜150m2/gであるカーボンブラックを含有するゴム組成物は、加工性、ならびに、得られたゴム架橋物の引張強さ、伸び、ウエットグリップ性、転がり抵抗、および耐摩耗性のバランスに優れたものであった(実施例1〜3)。
一方、水素化されていない炭化水素樹脂を含有するゴム組成物からなるゴム架橋物(比較例1,2)は、炭化水素樹脂の代わりに同量の炭化水素樹脂水素化物を含有するゴム組成物からなるゴム架橋物(実施例1,2)に比べて、転がり抵抗および耐摩耗性に劣るものであった。
水添率が80%を超える炭化水素樹脂水素化物を含有するゴム組成物からなるゴム架橋物(比較例3)は、水添率が80%を超える炭化水素樹脂水素化物の代わりに同量の水添率が0.1〜80%である炭化水素樹脂水素化物を含有するゴム組成物からなるゴム架橋物(実施例1,2)に比べて、転がり抵抗および耐摩耗性に劣るものであった。
炭化水素樹脂水素化物の含有量が、ジエン系ゴム100質量部に対して1.0質量部未満であるゴム組成物は、加工性に劣るものであり、上記ゴム組成物からなるゴム架橋物は、ウエットグリップ性および伸びに劣るものであった(比較例4)。転がり抵抗および耐摩耗性についても、炭化水素樹脂水素化物の含有量が、ジエン系ゴム100質量部に対して1.0質量部未満であるゴム組成物からなるゴム架橋物(比較例4)は、炭化水素樹脂水素化物の含有量が、ジエン系ゴム100質量部に対して10質量部であるゴム組成物からなるゴム架橋物(実施例1)に比べて、劣るものであった。
炭化水素樹脂水素化物の含有量が、ジエン系ゴム100質量部に対して30質量部を超えるものであるゴム組成物からなるゴム架橋物(比較例5)は、炭化水素樹脂水素化物の含有量が、ジエン系ゴム100質量部に対して20質量部であるゴム組成物からなるゴム架橋物(実施例3)に比べて、耐摩耗性に劣るものであった。
窒素吸着比表面積(N2SA)が70m2/g未満であるカーボンブラックを含有するゴム組成物からなるゴム架橋物(比較例6)は、同じ単量体組成を有する炭化水素樹脂を水添してなる炭化水素樹脂水素化物を同量含有し、窒素吸着比表面積(N2SA)が70〜150m2/gであるカーボンブラックを含有するゴム組成物からなるゴム架橋物(実施例1)に比べて、転がり抵抗および耐摩耗性に劣るものであった。
窒素吸着比表面積(N2SA)が150m2/gを超えるカーボンブラックを含有するゴム組成物は、加工性に劣るものであり、上記ゴム組成物からなるゴム架橋物は、引張強さおよび伸びに劣るものであった(比較例7)。転がり抵抗および耐摩耗性についても、窒素吸着比表面積(N2SA)が150m2/gを超えるカーボンブラックを含有するゴム組成物からなるゴム架橋物(比較例7)は、同じ単量体組成を有する炭化水素樹脂を水添してなる炭化水素樹脂水素化物を同量含有し、窒素吸着比表面積(N2SA)が70〜150m2/gであるカーボンブラックを含有するゴム組成物からなるゴム架橋物(実施例1)に比べて、劣るものであった。
カーボンブラックの含有量が、ジエン系ゴム100質量部に対して80質量部を超えるものであるゴム組成物は、加工性に劣るものであり、上記ゴム組成物からなるゴム架橋物は、引張強さ、伸び、および耐摩耗性に劣るものであった(比較例8)。転がり抵抗についても、カーボンブラックの含有量が、ジエン系ゴム100質量部に対して80質量部を超えるものであるゴム組成物からなるゴム架橋物(比較例8)は、同じ単量体組成を有する炭化水素樹脂を水添してなる炭化水素樹脂水素化物を同量含有し、カーボンブラックをジエン系ゴム100質量部に対して20〜80質量部含有するゴム組成物からなるゴム架橋物(実施例1)に比べて、劣るものであった。