本発明は、ゴム組成物およびそれをトレッドに使用した空気入りタイヤに関するものである。以下、本発明のゴム組成物および空気入りタイヤについて詳細に説明する。
I.ゴム組成物
本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対し、変性炭化水素樹脂1質量部〜30質量部およびシリカ80質量部〜200質量部を配合してなるゴム組成物であり、上記変性炭化水素樹脂は、炭化水素樹脂を、アミン化合物またはアミド化合物またはイミド化合物のうち少なくとも1つの化合物で変性したものであり、重量平均分子量(Mw)が1000〜8000の範囲内であり、かつ軟化点が80℃〜150℃の範囲内であることを特徴とするものである。
本発明によれば、ゴム組成物が、例えば、炭化水素樹脂がアミン化合物、アミド化合物及びイミド化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物(以下、アミン系化合物と称する場合がある。)で変性され、かつ、所定の重量平均分子量および軟化点等の特性を有する変性炭化水素樹脂を、ジエン系ゴムに対して所定量含むことで、加工性に優れ、かつ、転がり抵抗及びウェットグリップ性能のバランスに優れたゴム組成物を得ることができる。
ここで、上記変性炭化水素樹脂を用いることで、加工性に優れ、かつ、転がり抵抗及びウェットグリップ性能のバランスに優れたゴム組成物を得ることができる理由については明確ではないが、以下のように推察される。すなわち、変性炭化水素樹脂として、炭化水素樹脂をゴム組成物中のフィラーと親和性の高いアミン系化合物で変性したものを用いることでフィラーの分散性を向上させることができる。さらには変性炭化水素樹脂の分子量及び軟化点を所定の値とすることでジエン系ゴムとの相溶性が優れたものとすることができる。このため、上記変性炭化水素樹脂は、ジエン系ゴムとの相溶性に優れたものとなり、かつ、シリカ等のフィラーの分散に優れたものとなることでジエン系ゴムの末端基のフィラー等への固定が促進することにより、例えば、得られたゴム組成物について、その架橋物の60℃での損失係数tanδを低く、また0℃での損失係数tanδを適度に高くすることができる。その結果、このようなゴム組成物を用いてタイヤを製造した場合には、転がり抵抗及びウェットグリップ性能のバランスに優れたタイヤ等を形成可能となるのである。
以上のことから、上記変性炭化水素樹脂をジエン系ゴムに対して所定量含むことで、加工性に優れ、かつ、転がり抵抗及びウェットグリップ性能のバランスに優れたゴム組成物を得ることができるのである。
また、上記ゴム組成物は、さらに、シリカを所定量含むことで、転がり抵抗及びウェットグリップ性能のバランスに優れたゴム組成物を得ることができる。これに対して、上記シリカの配合量が80質量部未満であると、ウェットグリップ性能が悪化し、200質量部超であると転がり抵抗が悪化する。一方でシリカの配合量が80質量部以上となる場合、加工性が悪化する。そこで、上記ゴム組成物は、シリカと共に、上記変性炭化水素樹脂を所定量含むことで、加工性の低下を抑制し、かつ転がり抵抗及びウェットグリップ性能のバランス改善が可能となるのである。
本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴム、変性炭化水素樹脂およびシリカを含むものである。以下、本発明のゴム組成物に含まれる各成分について詳細に説明する。
A.変性炭化水素樹脂
上記変性炭化水素樹脂は、炭化水素樹脂のアミン系化合物による変性物である。
以下、アミン系化合物で変性する前の炭化水素樹脂(以下、変性前樹脂と称する場合がある。)、これを変性するアミン系化合物および変性炭化水素樹脂(以下、変性樹脂と称する場合がある。)について詳細に説明する。
1.炭化水素樹脂
上記炭化水素樹脂は、アミン系化合物により変性される前の原料樹脂である。
このような炭化水素樹脂としては、アミン系化合物で変性されることで、加工性に優れ、かつ、転がり抵抗及びウェットグリップ性能のバランスに優れたゴム組成物を与えることができるものであればよい。
本発明においては、なかでも、上記炭化水素樹脂が、C5系石油樹脂またはC5/C9系石油樹脂であることが好ましい。上記石油樹脂は、加工性に優れ、かつ、転がり抵抗及びウェットグリップ性能のバランスに優れたゴム組成物を安定的に与えることができるからである。
上記C5系石油樹脂は、ナフサを熱分解して得られるC5留分に含まれる単量体の少なくとも1種類を含む単量体組成物を重合して得られる炭化水素樹脂をいうものである。
C5留分に含まれる単量体としては、例えば、1,3−ペンタジエン、イソプレン、シクロペンタジエンなどの炭素数4〜5の共役ジエン単量体を挙げることができ、なかでも本発明においては、上記単量体組成物がC5留分として1,3−ペンタジエンを含むものであること、すなわち、上記炭化水素樹脂が1,3−ペンタジエン単量体単位を含むものであることが好ましい。
なお、C5留分に含まれる単量体および後述するC9留分に含まれる単量体は、ナフサを熱分解した際にC5留分またはC9留分として含まれ得る単量体であればよい。例えば、上記C5留分に含まれる単量体としては、ナフサを熱分解してC5留分として得られた単量体に限定されるものではなく、他の合成方法等により得られた単量体であってもよい。
上記C5/C9系石油樹脂は、ナフサを熱分解して得られるC5留分に含まれる単量体の少なくとも1種類およびナフサを熱分解して得られるC9留分に含まれる単量体の少なくとも1種類を含む単量体を重合して得られる炭化水素樹脂をいうものである。
また、C9留分に含まれる単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、インデン、クマロンなどの炭素数8〜10の芳香族モノオレフィンを挙げることができる。
このようなC5系石油樹脂またはC5/C9系石油樹脂としては、より具体的には、1,3−ペンタジエン単量体単位、炭素数4〜6の脂環式モノオレフィン単量体単位、及び炭素数4〜8の非環式モノオレフィン単量体単位を少なくとも含み、さらに必要に応じて脂環式ジオレフィン単量体単位、及び芳香族モノオレフィン単量体単位を含む炭化水素樹脂とすることができ、なかでも、1,3−ペンタジエン単量体単位20質量%〜70質量%、炭素数4〜6の脂環式モノオレフィン単量体単位5質量%〜35質量%、炭素数4〜8の非環式モノオレフィン単量体単位1質量%〜50質量%、脂環式ジオレフィン単量体単位0質量%〜10質量%、及び芳香族モノオレフィン単量体単位0質量%〜50質量%を含む炭化水素樹脂であることが好ましい。上記C5系石油樹脂またはC5/C9系石油樹脂が上述の炭化水素樹脂であること、すなわち、上記変性前樹脂として、上記所定の単量体単位および割合の炭化水素樹脂を用いることにより、上記変性炭化水素樹脂は、加工性に優れ、かつ、転がり抵抗及びウェットグリップ性能のバランスに優れたゴム組成物を与えることができるからである。
1,3−ペンタジエン単量体単位の変性前樹脂中の含有量としては、20質量%〜70質量%の範囲内とすることができ、25質量%〜67質量%の範囲内であることが好ましく、なかでも30質量%〜65質量%の範囲内であることが好ましく、特に、33質量%〜63質量%の範囲内であることが好ましい。上記含有量が上述の範囲内であることにより、上記変性炭化水素樹脂は、加工性に優れ、かつ、転がり抵抗及びウェットグリップ性能のバランスに優れたゴム組成物を与えることができるからである。
なお、1,3−ペンタジエンにおけるシス/トランス異性体比は任意の比でよく、特に限定されない。
炭素数4〜6の脂環式モノオレフィンは、その分子構造中にエチレン性不飽和結合を1つと非芳香族性の環構造とを有する炭素数が4〜6の炭化水素化合物である。炭素数4〜6の脂環式モノオレフィンの具体例としては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、メチルシクロブテン、メチルシクロペンテンを挙げることができる。
炭素数4〜6の脂環式モノオレフィン単量体単位の変性前樹脂中の含有量としては、5質量%〜35質量%の範囲内とすることができ、8質量%〜33質量%の範囲内であることが好ましく、なかでも10質量%〜32質量%の範囲内であることが好ましく、特に、13質量%〜30質量%の範囲内であることが好ましい。上記含有量が上述の範囲内であることにより、上記変性炭化水素樹脂は、加工性に優れ、かつ、転がり抵抗及びウェットグリップ性能のバランスに優れたゴム組成物を与えることができるからである。
なお、炭素数4〜6の脂環式モノオレフィンにおいて、これに該当する各化合物の割合は任意の割合でよく、特に限定されないが、少なくともシクロペンテンが含まれることが好ましく、炭素数4〜6の脂環式モノオレフィン中にシクロペンテンの占める割合が50質量%以上であることがより好ましい。
炭素数4〜8の非環式モノオレフィンは、その分子構造中にエチレン性不飽和結合1つを有し、環構造を有さない炭素数が4〜8の鎖状炭化水素化合物である。炭素数4〜8の非環式モノオレフィンの具体例としては、1−ブテン、2−ブテン、イソブチレン(2−メチルプロペン)などのブテン類;1−ペンテン、2−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテンなどのペンテン類;1−ヘキセン、2−ヘキセン、2−メチル−1−ペンテンなどのヘキセン類;1−ヘプテン、2−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセンなどのヘプテン類;1−オクテン、2−オクテン、2−メチル−1−ヘプテン、ジイソブチレン(2,4,4−トリメチル−1−ペンテン及び2,4,4−トリメチル−1−ペンテン)などのオクテン類を挙げることができる。
炭素数4〜8の非環式モノオレフィン単量体単位の変性前樹脂中の含有量としては、1質量%〜50質量%の範囲内とすることができ、5質量%〜45質量%の範囲内であることが好ましく、なかでも10質量%〜42質量%の範囲内であることが好ましく、特に、15質量%〜40質量%の範囲内であることが好ましい。上記含有量が上述の範囲内であることにより、上記変性炭化水素樹脂は、加工性に優れ、かつ、転がり抵抗及びウェットグリップ性能のバランスに優れたゴム組成物を与えることができるからである。
なお、炭素数4〜8の非環式モノオレフィンにおいて、これに該当する各化合物(異性体を含む)の割合は任意の割合でよく、特に限定されないが、少なくとも2−メチル−2−ブテン、イソブチレン及びジイソブチレンからなる群から選択される少なくとも一種が含まれることが好ましく、炭素数4〜8の非環式モノオレフィン中に2−メチル−2−ブテン、イソブチレン及びジイソブチレンの合計量が占める割合が50質量%以上であることがより好ましい。
変性前樹脂は、脂環式ジオレフィンをその原料に含んでいてもよい。脂環式ジオレフィンは、その分子構造中にエチレン性不飽和結合を2つ以上と非芳香族性の環構造とを有する炭化水素化合物である。脂環式ジオレフィンの具体例としては、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンなどのシクロペンタジエンの多量体、メチルシクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエンの多量体を挙げることができる。
脂環式ジオレフィン単量体単位の変性前樹脂中の含有量としては、0質量%〜10質量%の範囲内とすることができ、0質量%〜7質量%の範囲内であることが好ましく、なかでも0質量%〜5質量%の範囲内であることが好ましく、特に、0質量%〜3質量%の範囲内であることが好ましい。上記含有量が上述の範囲内であることにより、上記変性炭化水素樹脂は、加工性に優れ、かつ、転がり抵抗及びウェットグリップ性能のバランスに優れたゴム組成物を与えることができるからである。
変性前樹脂は、芳香族モノオレフィンをその原料に含んでいてもよい。芳香族モノオレフィンは、その分子構造中にエチレン性不飽和結合1つを有する芳香族化合物である。芳香族モノオレフィンの具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、インデン、クマロンなどのC9留分に含まれる炭素数8〜10の芳香族モノオレフィンが挙げられる。
芳香族モノオレフィン単量体単位の変性前樹脂中の含有量としては、0質量%〜50質量%の範囲内とすることができ、0質量%〜45質量%の範囲内であることが好ましく、なかでも0質量%〜43質量%の範囲内であることが好ましく、特に、0質量%〜40質量%の範囲内であることが好ましい。
また、上記芳香族モノオレフィン単量体単位において、これに該当する各化合物(異性体を含む)の割合は任意の割合でよく、特に限定されないが、炭素数8〜10の芳香族モノオレフィンを少なくとも含むものとすることができ、炭素数8〜10の芳香族モノオレフィンの合計量が占める割合が、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることが好ましく、なかでも50質量%以上であることが好ましく、特に、60質量%であることが好ましい。上記含有量が上述の範囲内であることにより、上記変性炭化水素樹脂は、加工性に優れ、かつ、転がり抵抗及びウェットグリップ性能のバランスに優れたゴム組成物を与えることができるからである。
変性前樹脂は、1,3−ペンタジエン単量体単位、炭素数4〜6の脂環式モノオレフィン単量体単位、炭素数4〜8の非環式モノオレフィン単量体単位、脂環式ジオレフィン単量体単位、及び芳香族モノオレフィン単量体単位以外に、加工性に優れ、かつ、転がり抵抗及びウェットグリップ性能のバランスに優れたゴム組成物を与える変性炭化水素樹脂を得ることができる範囲内で、その他の単量体単位を含んでいてもよい。
このようなその他の単量体単位を構成するために用いられるその他の単量体は、前述した単量体以外で1,3−ペンタジエンなどと付加共重合され得る付加重合性を有する化合物であれば、特に限定されない。上記その他の単量体には、例えば、1,3−ブタジエン、1,2−ブタジエン、イソプレン、1,3−ヘキサジエン、1,4−ペンタジエンなどの1,3−ペンタジエン以外の炭素数4〜6の不飽和炭化水素;シクロヘプテンなどの炭素数7以上の脂環式モノオレフィン;エチレン、プロピレン、ノネンなどの炭素数4〜8以外の非環式モノオレフィン等が包含される。
但し、変性前樹脂中の上記その他の単量体単位の変性前樹脂中の含有量としては、上記所定の特性を有する変性炭化水素樹脂を得ることができるものであればよく、具体的には、通常、0質量%〜30質量%の範囲内であり、0質量%〜25質量%の範囲内であることが好ましく、0質量%〜20質量%の範囲内であることがより好ましい。上記変性炭化水素樹脂は、加工性に優れ、かつ、転がり抵抗及びウェットグリップ性能のバランスに優れたゴム組成物を与えることができるからである。
変性前樹脂を製造する方法は、上記した単量体単位を構成可能な単量体を有する重合性成分(単量体混合物A)を、好適には付加重合する限りにおいて、特に限定されない。例えば、フリーデルクラフツ型のカチオン重合触媒を用いた付加重合によって、変性前樹脂を得ることができる。
変性前樹脂を製造するために好適に用いられる方法としては、次に述べる、ハロゲン化アルミニウム(A)と、3級炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素(B1)及び炭素−炭素不飽和結合に隣接する炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素(B2)からなる群より選ばれるハロゲン化炭化水素(B)とを組み合わせて、重合触媒とし、上述の単量体混合物Aを重合する重合工程を有する方法を挙げることができる。
また、上記単量体混合物Aに含まれる各単量体の添加量は、炭化水素樹脂における各単量体単位の含有量と同様とすることができる。したがって、変性前樹脂として、1,3−ペンタジエン単量体単位20質量%〜70質量%、炭素数4〜6の脂環式モノオレフィン単量体単位5質量%〜35質量%、炭素数4〜8の非環式モノオレフィン単量体単位1質量%〜50質量%、脂環式ジオレフィン単量体単位0質量%〜10質量%、及び芳香族モノオレフィン単量体単位0質量%〜50質量%を含む炭化水素樹脂を製造する場合、上記製造方法は、より具体的には、1,3−ペンタジエン20質量%〜70質量%、炭素数4〜6の脂環式モノオレフィン5質量%〜35質量%、炭素数4〜8の非環式モノオレフィン1質量%〜50質量%、脂環式ジオレフィン0質量%〜10質量%、及び芳香族モノオレフィン0質量%〜50質量%を含む単量体混合物Aを重合する重合工程を有する方法を挙げることができる。
ハロゲン化アルミニウム(A)の具体例としては、塩化アルミニウム(AlCl3)、臭化アルミニウム(AlBr3)などを挙げることができる。なかでも汎用性などの観点から、塩化アルミニウムが好適に用いられる。
ハロゲン化アルミニウム(A)の使用量は、特に限定されないが、重合性成分(単量体混合物A)100質量部に対し、好ましくは0.05質量部〜10質量部の範囲内、より好ましくは0.1質量部〜5質量部の範囲内である。
ハロゲン化炭化水素(B)を、ハロゲン化アルミニウム(A)と併用することにより、重合触媒の活性が極めて良好なものとなる。
3級炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素(B1)の具体例としては、t−ブチルクロライド、t−ブチルブロマイド、2−クロロ−2−メチルブタン、トリフェニルメチルクロライドを挙げることができる。これらのなかでも、活性と取り扱いやすさとのバランスに優れる点で、t−ブチルクロライドが特に好適に用いられる。
炭素−炭素不飽和結合に隣接する炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素(B2)における不飽和結合としては、炭素−炭素二重結合および炭素−炭素三重結合が挙げられ、芳香族環などにおける炭素−炭素共役二重結合も含むものである。このような化合物の具体例としては、ベンジルクロライド、ベンジルブロマイド、(1−クロロエチル)ベンゼン、アリルクロライド、3−クロロ−1−プロピン、3−クロロ−1−ブテン、3−クロロ−1−ブチン、ケイ皮クロライドが挙げられる。これらのなかでも、活性と取り扱いやすさとのバランスに優れる点で、ベンジルクロライドが好適に用いられる。なお、ハロゲン化炭化水素(B)は、1種類で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
ハロゲン化炭化水素(B)の使用量は、ハロゲン化アルミニウム(A)に対するモル比で、好ましくは0.05〜50の範囲内、より好ましくは0.1〜10の範囲内である。
重合反応を行うに当たり、単量体混合物や重合触媒のそれぞれの成分を重合反応器に添加する順序は特に限定されず、任意の順で添加すればよいが、重合反応を良好に制御して、より重量平均分子量等を精度よく制御する観点からは、単量体混合物と重合触媒の成分の一部とを重合反応器に添加して、重合反応を開始した後に、重合触媒の残部を重合反応器に添加することが好ましい。
変性前樹脂の製造に当たっては、まず、ハロゲン化アルミニウム(A)と脂環式モノオレフィンとを混合することが好ましい。ハロゲン化アルミニウム(A)と脂環式モノオレフィンとを接触処理することによって、ゲルの生成を防止でき、重量平均分子量等を精度よく制御された変性前樹脂が得られるためである。
ハロゲン化アルミニウム(A)と混合する脂環式モノオレフィンの量は、ハロゲン化アルミニウム(A)の量の少なくとも5倍(質量比)が好ましい。脂環式モノオレフィンの量が過少であるとゲル生成防止の効果が不十分となるおそれがある。脂環式モノオレフィンとハロゲン化アルミニウム(A)との質量比は好ましくは5:1〜120:1、より好ましくは10:1〜100:1、さらに好ましくは15:1〜80:1である。この割合より脂環式モノオレフィンを過度に多く使用すると触媒活性が低下し、重合が十分に進行しなくなるおそれがある。
ハロゲン化アルミニウム(A)と脂環式モノオレフィンとを混合するに際し、投入順序は特に制限されず、脂環式モノオレフィン中にハロゲン化アルミニウム(A)を投入してもよいし、逆に、ハロゲン化アルミニウム(A)中に脂環式モノオレフィンを投入してもよい。混合は通常、発熱をともなうので、適当な希釈剤を用いることもできる。希釈剤としては後述する溶媒を用いることができる。
上記のようにして、ハロゲン化アルミニウム(A)と脂環式モノオレフィンとの混合物Mを調製した後、少なくとも1,3−ペンタジエンおよび非環式モノオレフィンを含む混合物aと、混合物Mとを混合することが好ましい。前記混合物aには脂環式ジオレフィンが含まれていてもよい。
混合物aの調製方法は特に限定されず、それぞれ純粋な化合物を混合して目的の混合物aを得てもよいし、例えばナフサ分解物の留分などに由来する、目的の単量体を含む混合物を用いて、目的の混合物aを得てもよい。例えば、混合物aに1,3−ペンタジエンなどを配合するためには、イソプレンおよびシクロペンタジエン(その多量体を含む)を抽出した後のC5留分を好適に用いることができる。
混合物aと混合物Mと共に、ハロゲン化炭化水素(B)をさらに混合することが好ましい。これら3者の投入順序は特に制限されない。
重合反応をより良好に制御する観点からは、重合反応系に溶媒を添加して、重合反応を行うことが好ましい。溶媒の種類は、重合反応を阻害しないものであれば特に制限はないが、飽和脂肪族炭化水素または芳香族炭化水素が好適である。溶媒として用いられる飽和脂肪族炭化水素としては、例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、2−メチルペンタン、3−メチルペンタン、n−ヘプタン、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、3−エチルペンタン、2,2−ジメチルペンタン、2,3−ジメチルペンタン、2,4−ジメチルペンタン、3,3−ジメチルペンタン、2,2,3−トリメチルブタン、2,2,4−トリメチルペンタンなどの炭素数5〜10の鎖状飽和脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの炭素数5〜10の範囲内の環状飽和脂肪族炭化水素が挙げられる。溶媒として用いられる芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭素数6〜10の範囲内の芳香族炭化水素が挙げられる。溶媒は1種を単独で使用してもよいし、2種以上の混合溶媒として用いてもよい。溶媒の使用量は、特に限定されないが、重合性成分(単量体混合物A)100質量部に対して、10質量部〜1,000質量部の範囲内であることが好ましく、50質量部〜500質量部の範囲内であることがより好ましい。なお、例えば、C5留分に由来するシクロペンタンとシクロペンテンとの混合物のような、付加重合性成分と非付加重合性成分との混合物を重合反応系に添加して、付加重合性成分は単量体混合物の成分として用い、非付加重合性成分は溶媒として用いるようにすることもできる。
重合反応を行う際の重合温度は、特に限定されないが、−20℃〜100℃の範囲内であることが好ましく、0℃〜75℃の範囲内であることが好ましい。重合温度が低すぎると重合活性が低下して生産性が劣る可能性があり、重合温度が高すぎると得られる変性前樹脂の重量平均分子量等の制御性に劣るおそれがある。重合反応を行う際の圧力は、大気圧下でも加圧下でもよい。重合反応時間は、適宜選択できるが、通常10分間〜12時間、好ましくは30分間〜6時間の範囲で選択される。
重合反応は、所望の重合転化率が得られた時点で、メタノール、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水溶液などの重合停止剤を重合反応系に添加することにより停止することができる。
上記変性前樹脂の製造方法は、上記重合工程を少なくとも有するものであるが、必要に応じて、その他の工程を有するものであってもよい。上記その他の工程としては、例えば、重合工程後に、重合工程において重合停止剤を添加して、重合触媒を不活性化した際に生成する、溶媒に不溶な触媒残渣を濾過などにより除去する触媒残渣除去工程、重合工程による重合反応停止後、未反応の単量体と溶媒を除去し、さらに水蒸気蒸留などにより低分子量のオリゴマー成分を除去し、冷却することにより、固体状の変性前樹脂を得る回収工程等を有することができる。
2.アミン系化合物
上記アミン系化合物は、アミン化合物、アミド化合物及びイミド化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物である。
(1)アミン化合物
上記アミン化合物は、窒素に0〜2個の水素原子と1以上の炭化水素基とが共有結合したアミン構造を有する化合物である。
上記アミン化合物は、アミン構造を有し、上記変性炭化水素樹脂が、加工性に優れ、かつ、転がり抵抗及びウェットグリップ性能のバランスに優れたゴム組成物を与えることができるものであればよく、例えば、窒素原子に結合する炭化水素基の数が1〜3の範囲内のもの、すなわち、1級アミン、2級アミンおよび3級アミンを用いることができる。
また、炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基および芳香族炭化水素基を用いることができる。なお、芳香族炭化水素基は、窒素原子と直接結合する部位が芳香環である基をいうものであり、ベンジル基のように芳香環を有するものであっても、窒素原子と直接結合する部位が芳香環でないものは、脂肪族炭化水素基に含まれるものである。
また、脂肪族炭化水素基としては、鎖状脂肪族基および環状脂肪族基のいずれの構造を含むものであってもよく、不飽和基を含むものであってもよい。さらに、環状脂肪族基および芳香族炭化水素基は環状構造を構成する原子として炭素のみを含む炭素環基であってもよいが、炭素以外の原子を含む複素環基であってもよい。
さらに、脂肪族炭化水素基および芳香族炭化水素基は、脂肪族炭化水素基および芳香族炭化水素基に含まれる水素原子が置換基により置換された置換体も用いることができる。置換基としては、アミン構造や−OCH3等の窒素原子、酸素原子、硫黄原子等の炭素以外の原子を介して、水素原子、脂肪族炭化水素基および芳香族炭化水素基の少なくとも1つが結合したもの等を挙げることができる。したがって、上記アミン化合物としては、上記変性炭化水素樹脂が、加工性に優れ、かつ、転がり抵抗及びウェットグリップ性能のバランスに優れたゴム組成物を与えることができるものであれば、分子内にアミン構造を1つのみ有するモノアミンに限定されず、上記炭化水素基を介して共有結合した2以上のアミン構造を有する、例えば、ジアミン、トリアミン等も用いることができる。なお、アミン化合物が2以上のアミン構造を有する場合、2以上のアミン構造は同一構造であっても、異なる構造であってもよい。例えば、アミン化合物は、1級アミン構造と2級アミン構造との2つのアミン構造を含むもの、2つの2級アミン構造を含み、一方の2級アミン構造が、他方の2級アミン構造とは窒素に結合している炭化水素基の構造が異なるもの等とすることができる。
上記アミン化合物の分子量としては、変性前樹脂に対して安定的に結合可能なものであればよく、例えば、50〜500の範囲内とすることができ、なかでも、100〜300の範囲内であることが好ましい。
上記1級アミンとしては、例えば、1−ヘキシルアミン、1−ヘプチルアミン、1−オクチルアミン等の炭化水素基として化合物中の合計で炭素数6〜20の脂肪族炭化水素基が結合したアミン、炭化水素基として芳香族炭化水素基に含まれる複素芳香族が結合したアミン等を挙げることができ、なかでも、化合物中の合計で炭素数8〜12の脂肪族炭化水素基が結合したアミン等を好ましく用いることができる。
上記2級アミンとしては、例えば、1,6−ビス(エチルアミノ)ヘキサン、1,2−ビス(tert−ブチルアミノ)エタン、N‘−ベンジル-N,N−ジメチルエチレンジアミン、N−ベンジル-N,N‘−ジメチルエチレンジアミン等の炭化水素基として化合物中の合計で炭素数6〜20の脂肪族炭化水素基が結合したアミン、炭化水素基として芳香族炭化水素基に含まれる複素芳香族が結合したアミン等を挙げることができ、なかでも、化合物中の合計で炭素数8〜12の脂肪族炭化水素基が結合したアミン等を好ましく用いることができる。
上記3級アミンとしては、例えば、N‘−ベンジル-N,N−ジメチルエチレンジアミン、N−ベンジル-N,N‘−ジメチルエチレンジアミン等の炭化水素基として化合物中の合計で炭素数6〜20の脂肪族炭化水素基が結合したアミン、炭化水素基として芳香族炭化水素基に含まれる複素芳香族が結合したアミン等を挙げることができ、なかでも、化合物中の合計で炭素数8〜12の脂肪族炭化水素基が結合したアミン等を好ましく用いることができる。
なお、N‘−ベンジル-N,N−ジメチルエチレンジアミンのように、2級アミン構造および3級アミン構造を有する場合には、そのアミン化合物は、2級アミンおよび3級アミンの両者に該当するものである。
また、N‘−ベンジル-N,N−ジメチルエチレンジアミンは、2級アミン構造を構成する炭化水素基として、(1)ベンジル基(炭素数7)および(2)エチレン基(−C2H5)のうち1つの水素原子が、アミン構造に置換された脂肪族炭化水素基(−C2H4−N−(CH3)2:炭素数4)を有するものであり、少なくとも炭素数7の脂肪族炭化水素基を有するものである。さらに、N‘−ベンジル-N,N−ジメチルエチレンジアミンは、3級アミン構造を構成する炭化水素基として、(1)2つのメチル基(炭素数1)および(2)エチレン基(−C2H5)のうち1つの水素原子が、アミン構造に置換された脂肪族炭化水素基(−(C2H4)−NH−CH2−C6H5:炭素数9)を有するものであり、少なくとも、炭素数9の脂肪族炭化水素基を有するものである。
上記ジアミンとしては、1,6−ビス(エチルアミノ)ヘキサン、1,2-ビス(tert−ブチルアミノ)エタン、1,4−ジ(アミノメチル)シクロヘキサン、4−アミノ−1−ジエチルアミノペンタン、N−ベンジル−N,N‘−ジメチルエチレンジアミン等の炭化水素基として化合物中の合計で炭素数6〜20の脂肪族炭化水素基が結合したアミン、炭化水素基として芳香族炭化水素基に含まれる複素芳香族が結合したアミン等を挙げることができ、なかでも、化合物中の合計で炭素数8〜12の脂肪族炭化水素基が結合したアミン等を好ましく用いることができる。
上記トリアミンとしては、ビス(4−アミノブチル)アミン、ビス(6−アミノヘキシル)アミン等の炭化水素基として化合物中の合計で炭素数6〜20の脂肪族炭化水素基が結合したアミン、炭化水素基として芳香族炭化水素基に含まれる複素芳香族が結合したアミン等を挙げることができ、なかでも、化合物中の合計で炭素数8〜12の脂肪族炭化水素基が結合したアミン等を好ましく用いることができる。
上記アミン化合物は、1種類のみを含むものであってもよく、2種類以上を含むものであってもよい。
(2)アミド化合物
上記アミド化合物としては、分子内に1以上のアミド結合を有する化合物であればよく、例えば、下記式(1)で表わされるものを用いることができる。
(式(1)中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立に、水素原子または炭化水素基である。)
上記R1〜R3における炭化水素基としては、上記「(1)アミン化合物」の項に記載の内容と同様とすることができる。また、R1〜R3は、互いに同一の官能基であってもよく、異なる官能基であってもよい。
また、上記R1〜R3における炭化水素基は、上記変性炭化水素樹脂が、加工性に優れ、かつ、転がり抵抗及びウェットグリップ性能のバランスに優れたゴム組成物を与えることができるものであればよく、炭化水素基として含まれる脂肪族炭化水素基および芳香族炭化水素基の水素原子の一部が、アミド構造またはアミン構造に置換されたものであってもよい。すなわち、上記アミド化合物としては、分子内にアミド構造を1つのみ有するモノアミドに限定されず、上記炭化水素基としてのR1〜R3を介して共有結合した2以上のアミド構造を有するもの、例えば、ジアミド、トリアミド等も用いることができる。また、上記アミド化合物としては、アミド構造と共に、上記炭化水素基としてのR1〜R3を介して結合したアミン構造を有するものであってもよい。
上記アミド化合物の分子量としては、変性前樹脂に対して安定的に結合可能なものであればよく、例えば、50〜500の範囲内とすることができ、なかでも、100〜300の範囲内であることが好ましい。
上記アミド化合物としては、具体的には、特開2000−53706号公報に記載のアミド化合物を用いることができ、より具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、アミノアセトアミド、N,N−ジメチル−N’,N’−ジメチルアミノアセトアミド、N,N−ジメチルアミノアセトアミド、N,N−エチルアミノアセトアミド、N,N−ジメチル−N’−エチルアミノアセトアミド、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、ニコチンアミド、イソニコチンアミド、ピコリン酸アミド、N,N−ジメチルイソニコチンアミド、コハク酸アミド、フタル酸アミド、N,N,N’,N’−テトラメチルフタル酸アミド、オキサミド及びN,N,N’,N’−テトラメチルオキサミド、2−フランカルボン酸アミド、N,N−ジメチル−2−フランカルボン酸アミド、キノリン−2−カルボン酸アミド、N−エチル−N−メチル−キノリンカルボン酸アミド、N−アセチルエチレンジアミン等を挙げることができ、なかでも、N−アセチルエチレンジアミン等を好ましく用いることができる。
上記アミド化合物は、1種類のみを含むものであってもよく、2種類以上を含むものであってもよい。
(3)イミド化合物
上記イミド化合物としては、分子内に1以上のイミド結合を有する化合物であればよく、例えば、下記式(2)または(3)で表わされる環状イミド化合物を用いることができる。
(式(2)および(3)中のR4、R5およびR6ならびにR7、R8およびR9は、それぞれ独立に、水素原子または炭化水素基である。)
上記R4〜R9における炭化水素基としては、上記「(1)アミン化合物」の項に記載の内容と同様とすることができる。また、R4〜R9は、互いに同一の官能基であってもよく、異なる官能基であってもよい。
また、上記R4〜R9における炭化水素基は、上記変性炭化水素樹脂が、加工性に優れ、かつ、転がり抵抗及びウェットグリップ性能のバランスに優れたゴム組成物を与えることができるものであればよく、炭化水素基として含まれる脂肪族炭化水素基および芳香族炭化水素基の水素原子の一部が、イミド構造、アミド構造またはアミン構造に置換されたものであってもよい。すなわち、上記イミド化合物としては、分子内にイミド構造を1つのみ有するモノイミドに限定されず、上記炭化水素基としてのR7〜R9を介して結合した2以上のイミド構造を有する、例えば、ジイミド、トリイミド等も用いることができる。また、上記イミド化合物としては、イミド構造と共に、上記炭化水素基としてのR7〜R9を介して結合したアミド構造およびアミン構造の少なくとも1つを有するものであってもよい。
上記イミド化合物の分子量としては、変性前樹脂に対して安定的に結合可能なものであればよく、例えば、50〜500の範囲内とすることができ、なかでも、100〜300の範囲内であることが好ましい。
上記イミド化合物としては、具体的には、特開2000−53706号公報に記載のイミド化合物を用いることができ、より具体的には、コハク酸イミド、N−メチルコハク酸イミド、マレイミド、N−メチルマレイミド、フタルイミド、N−メチルフタルイミド、ビスマレイミド等を挙げることができ、なかでもN−メチルマレイミド等のN−アルキルマレイミド化合物を好ましく用いることができる。
上記イミド化合物は、1種類のみを含むものであってもよく、2種類以上を含むものであってもよい。
(4)アミン系化合物
上記アミン系化合物は、アミン化合物、アミド化合物及びイミド化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物である。したがって、アミン系化合物は、アミン化合物のみを含むもの、アミド化合物のみを含むもの、イミド化合物のみを含むものであってもよく、アミン化合物およびアミド化合物の2種類の化合物を含むもの、アミン化合物、アミド化合物およびイミド化合物の3種類の化合物を含むものであってもよい。本発明においては、なかでも、上記アミン系化合物が、アミド化合物を含むことが好ましい。
上記変性炭化水素樹脂は、上記炭化水素樹脂を、アミン系化合物で変性して得られたものである。
ここで、変性して得られたとは、炭化水素樹脂に対してアミン系化合物が共有結合により結合したものであることをいうものである。
また、炭化水素樹脂100質量部をアミン系化合物0.01質量部〜20質量部で変性して得られたものとは、炭化水素樹脂100質量部に対して結合しているアミン系化合物に由来する部位の質量が0.01質量部〜20質量部の範囲内であることをいうものである。
上記アミン系化合物の含有量、すなわち、変性前樹脂である炭化水素樹脂100質量部に対して結合したアミン系化合物に由来する部位の含有量としては、0.01質量部〜20質量部の範囲内とすることができ、0.1質量部〜10質量部の範囲内であることが好ましく、なかでも0.1質量部〜8質量部の範囲内であることが好ましく、特に、0.1質量部〜5質量部の範囲内であることが好ましい。上記含有量が上述の範囲内であることにより、上記変性炭化水素樹脂は、加工性に優れ、かつ、転がり抵抗及びウェットグリップ性能のバランスに優れたゴム組成物を与えることができるからである。
上記アミン系化合物を用いた変性前樹脂のアミン変性方法としては、変性前樹脂にアミン系化合物が共有結合により結合することができる方法であればよい。
このようなアミン変性方法としては、適宜公知の方法を用いることができる。具体的には、上記アミン変性方法としては、変性前樹脂と、アミン系化合物および過酸化物開始剤と、混合することで、過酸化物開始剤により変性前樹脂にフリーラジカルを生成し、これを、アミン系化合物と反応させる方法、活性末端を有する変性前樹脂に対して、アミン系化合物を混合する方法等を用いることができる。
上記アミン変性方法において、変性前樹脂に対して添加されるアミン系化合物の添加量は、所望量のアミン系化合物を結合可能なものであればよく、例えば、変性炭化水素樹脂中のアミン系化合物の含有量と同量かそれ以上の量とすることができる。
上記のフリーラジカルを用いたアミン変性方法での反応条件としては、変性前樹脂に所望量のアミン系化合物を結合させることができるものであればよく、変性前樹脂の種類、アミン系化合物の種類等に応じて適宜設定することができ、例えば、反応温度0℃〜200℃で反応時間5分〜20時間とすることができる。
また、上記アミン変性方法は、例えば、有機溶剤中で行うこともできる。このような有機溶剤としては、上記「1.炭化水素樹脂」の項に記載の変性前樹脂の重合反応に使用可能な溶媒と同様とすることができる。上記アミン変性方法は、例えば、変性前樹脂の重合で用いた溶媒中でアミン変性を行う方法であってもよい。
上記過酸化物開始剤としては、変性前樹脂に所望量のアミン系化合物を結合させることができるものであればよく、例えば、過硫酸ナトリウム等の無機過酸化物、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物等の公知の過酸化物開始剤を用いることができる。なお、このような無機過酸化物、有機過酸化物等については、例えば、特開2004−285230号公報等に記載のものを使用できる。
上記過酸化物開始剤の使用量は、変性前樹脂に所望量のアミン系化合物を結合させることができるものであればよく、アミン系化合物の添加量等に応じて適宜設定されるものである。
上記アミン変性方法は、必要に応じて、公知のシランカップリング剤を介して、アミン系化合物を変性前樹脂に結合する方法であってもよい。なお、シランカップリング剤を変性前樹脂に結合する方法については、上述のアミン変性方法と同様とすることができる。
上記シランカップリング剤については、例えば、ビニル基と、アミン系化合物に含まれる窒素原子と結合可能な反応用官能基と、を有する2官能シランカップリング剤等を用いることができる。上記反応用官能基については、水酸基、カルボキシ基、ケトン基、エポキシ基、ハロゲン基、スルホン酸基等を挙げることができ、なかでも、水酸基、カルボキシル基等であることが好ましい。なお、このようなビニル基および反応用官能基を有する2官能シランカップリング剤については、公知のシランカップリング剤から適宜選択することができる。
また、このようなアミン系化合物および変性前樹脂の間のスペーサとして用いるシランカップリング剤の配合量は、アミン系化合物と結合していないものも含めて、通常、変性前樹脂の一部として含まれるものである。
シランカップリング剤が結合した変性前樹脂とアミン系化合物とを結合する方法としては、例えば、シランカップリング剤が結合した変性前樹脂とアミン系化合物とを混合し、加熱処理する方法を挙げることができる。
上記加熱処理条件としては、例えば、温度50℃〜300℃の範囲内で5分〜20時間行うものとすることができる。
上記加熱処理では、必要に応じて希釈剤、ゲル化防止剤および反応促進剤などを存在せしめてもよい。このような希釈剤としては、上記「1.炭化水素樹脂」の項に記載の変性前樹脂の重合反応に使用可能な溶媒と同様とすることができる。上記加熱処理は、例えば、変性前樹脂の重合で用いた溶媒中で行う方法であってもよい。
また、上記アミン変性方法としては、変性前樹脂に含まれるカルボキシル基、酸無水物基等の酸性基にアミン系化合物の窒素原子を反応させることで、アミン系化合物を変性前樹脂に結合する方法であってもよい。
上記酸性基については、酸性基を有する単量体を含む重合性成分(単量体混合物A)を用いることで変性前樹脂に導入された酸性基を用いてもよく、変性前樹脂を酸変性することで導入された酸性基を用いてもよい。
ここで、変性前樹脂を酸変性する方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、酸性基としてカルボキシル基を導入する場合には、変性前樹脂および不飽和カルボン酸を混合し、加熱処理する方法を挙げることができる。また、上記酸変性方法は、酸性基として、酸無水物基を導入する場合には、変性前樹脂および不飽和ジカルボン酸無水物を混合し、加熱処理する方法を挙げることができる。
カルボキシル基導入に用いられる不飽和カルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸などの炭素数8以下のエチレン性不飽和カルボン酸、及び3,6−エンドメチレン−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸のような共役ジエンと炭素数8以下のα,β−不飽和ジカルボン酸とのディールス・アルダー付加物が挙げられる。
酸無水物基の導入に用いられる不飽和ジカルボン酸無水物の例としては無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などの炭素数8以下のα,β−不飽和ジカルボン酸無水物、及び3,6−エンドメチレン−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸のような共役ジエンと炭素数8以下のα,β−不飽和ジカルボン酸無水物とのディールス・アルダー付加物などが挙げられる。
また、このような変性前樹脂を酸変性するために導入された不飽和カルボン酸等の酸変性剤の配合量は、アミン系化合物と結合していないものも含めて、通常、変性前樹脂の一部として含まれるものである。
上記酸変性反応の反応条件としては、例えば、温度50℃〜300℃の範囲内で5分〜20時間行うものとすることができる。
上記酸変性反応は、必要に応じて希釈剤、ゲル化防止剤および反応促進剤などを存在せしめてもよい。
また、酸性基とアミン系化合物とを結合する反応としては、変性前樹脂または酸変性後の変性前樹脂とアミン系化合物とを混合し、加熱処理する方法を挙げることができる。加熱処理する方法については、例えば、上述のシランカップリング剤が結合した変性前樹脂とアミン系化合物とを結合する加熱処理方法と同様とすることができる。
下記式(4)〜(6)は、上記アミン変性方法が、不飽和ジカルボン酸無水物として無水マレイン酸を使用して酸性基としての無水カルボン酸基が導入された変性前樹脂Aに、アミン系化合物を反応させて変性炭化水素樹脂Bを得る方法である例を示すものである。また、下記式(4)は、アミン化合物として、2つのアミン構造を含むジアミン化合物を使用する例を示すものである。さらに、下記式(5)および(6)は、アミン系化合物としてアミン構造およびアミド構造を含むアミド化合物を使用する例を示すものであり、式(5)は、アミン系化合物に含まれるアミド構造の窒素原子が酸性基に反応し、式(6)は、アミン系化合物に含まれるアミン構造の窒素原子が酸性基に反応する例を示すものである。
上記アミン変性反応は、変性前樹脂にアミン系化合物が結合する一次変性反応の後に、変性炭化水素樹脂に結合したアミン系化合物が、さらに変性炭化水素樹脂等と反応する二次変性反応を生じるものであってもよい。
上記二次変性反応としては、例えば、下記式(7)および(8)に示すように、変性炭化水素樹脂に結合したアミン系化合物に含まれるアミン構造またはアミド構造等が、さらに変性炭化水素樹脂等に含まれる酸性基等と反応するものを挙げることができる。
また、二次変性反応は、一次変性反応により結合した変性炭化水素樹脂と同一の変性炭化水素樹脂に対して生じるものであってもよく、異なる変性炭化水素樹脂または変性前樹脂に対して生じ、架橋された変性炭化水素樹脂を生じるものであってもよい。
なお、式(7)は、上記二次変性反応が、変性炭化水素樹脂に結合したアミン系化合物に含まれるアミン構造の窒素原子が、同一の変性炭化水素樹脂中に含まれる酸性基と反応してアミド構造を新たに生成する例を示すものである。また、式(8)は、上記二次変性反応が、変性炭化水素樹脂に結合したアミン系化合物に含まれるアミド構造の窒素原子が、アミン系化合物が反応したものと同一の酸性基に対して再度反応して環状イミド構造を新たに生成する例を示すものである。
3.変性炭化水素樹脂
上記変性炭化水素樹脂の重量平均分子量(Mw)は、1,000〜8,000の範囲内であれば特に限定されるものではないが、なかでも、1,200〜6,000の範囲内であることが好ましく、特に、1,400〜4,500の範囲内であることがより好ましい。重量平均分子量(Mw)が上述の範囲内であることにより、変性炭化水素樹脂はジエン系ゴムとの相溶性に優れたものとすることができるからである。また、その結果、変性炭化水素樹脂は、ゴム組成物の架橋物について、60℃での損失係数tanδを低くすることが容易であり、転がり抵抗に優れたものとすることができるからである。また、重量平均分子量(Mw)が上述の範囲内であることにより、変性炭化水素樹脂は、0℃での損失係数tanδを高くすることが容易であり、転がり抵抗に優れたものとすることができるからである。
上記変性炭化水素樹脂の数平均分子量(Mn)は、500〜4000の範囲内とすることができ、なかでも、550〜3000の範囲内であることが好ましく、特に600〜2500の範囲内であることがより好ましい。数平均分子量(Mn)が上述の範囲内であることにより、変性炭化水素樹脂はジエン系ゴムとの相溶性に優れたものとすることができるからである。また、その結果、変性炭化水素樹脂は、ゴム組成物の架橋物について、60℃での損失係数tanδを低くすることが容易であり、転がり抵抗に優れたものとすることができるからである。
上記変性炭化水素樹脂のZ平均分子量(Mz)は、2,000〜25,000の範囲内とすることができ、なかでも、3,000〜20,000の範囲内であることが好ましく、特に、4,000〜15,000の範囲内であることが好ましい。Z平均分子量(Mz)が上述の範囲内であることにより、変性炭化水素樹脂はジエン系ゴムとの相溶性に優れたものとすることができるからである。また、その結果、変性炭化水素樹脂は、ゴム組成物の架橋物について、60℃での損失係数tanδを低くすることが容易であり、転がり抵抗に優れたものとすることができるからである。
なお、本発明において、変性炭化水素樹脂の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)およびZ平均分子量(Mz)は、高速液体クロマトグラフィの測定による、ポリスチレン換算の値として求めるものとする。数平均分子量、重量平均分子量およびZ平均分子量の測定は、より具体的には、測定装置として、東ソー社製「HLC−8320GPC」を使用し、カラムは東ソー社製「TSKgel SuperMultiporeHZ」を3本連結したものを用い、テトラヒドロフランを溶媒として、40℃、1.0mL/minの流量で測定できる。
上記変性炭化水素樹脂の数平均分子量に対する重量平均分子量の比(Mw/Mn)は、1.0〜4.0の範囲内とすることができ、なかでも、1.2〜3.5の範囲内であることが好ましく、特に1.4〜3.0の範囲内であることがより好ましい。上記比が上述の範囲内であることにより、変性炭化水素樹脂はジエン系ゴムとの相溶性に優れたものとすることができるからである。また、その結果、変性炭化水素樹脂は、ゴム組成物の架橋物について、60℃での損失係数tanδを低くすることが容易であり、ウェットグリップ性能に優れたものとすることができるからである。
上記変性炭化水素樹脂の重量平均分子量に対するZ平均分子量の比(Mz/Mw)は、1.0〜4.5の範囲内とすることができ、なかでも、1.0〜4.0の範囲内であることが好ましく、特に、1.0〜3.5の範囲内であることがより好ましい。上記比が上述の範囲内であることにより、変性炭化水素樹脂はジエン系ゴムとの相溶性に優れたものとすることができるからである。また、その結果、変性炭化水素樹脂は、ゴム組成物の架橋物について、60℃での損失係数tanδを低くすることが容易であり、ウェットグリップ性能に優れたものとすることができるからである。
上記変性炭化水素樹脂の軟化点は、80℃〜150℃の範囲内であれば特に限定されるものではないが、なかでも、85℃〜145℃の範囲内であることが好ましく、特に90℃〜140℃の範囲内であることがより好ましい。上記軟化点が上述の範囲内であることにより、変性炭化水素樹脂はジエン系ゴムとの相溶性に優れたものとすることができるからである。また、その結果、変性炭化水素樹脂は、ゴム組成物の架橋物について、60℃での損失係数tanδを低くすることが容易であり、転がり抵抗に優れたものとすることができるからである。また、軟化点が上述の範囲内であることにより、変性炭化水素樹脂は、0℃での損失係数tanδを高くすることが容易であり、ウェットグリップ性能に優れたものとすることができるからである。
なお、本発明における軟化点は、例えば、変性炭化水素樹脂についてJIS K 6863に従い測定する値である。
上記変性炭化水素樹脂の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、1質量部〜30質量部であれば特に限定されるものではないが、なかでも、ジエン系ゴム100質量部に対し、5質量部〜20質量部の範囲内であることが好ましい。上記配合量が上述の範囲内であることにより、ゴム組成物は、加工性に優れ、かつ、転がり抵抗及びウェットグリップ性能のバランスに優れたものとなるからである。なお、上記変性炭化水素樹脂の配合量は、変性炭化水素樹脂がC5系石油樹脂を変性したものとC5/C9系石油樹脂を変性したものとを含む等、2種類以上の変性炭化水素樹脂を含む場合には、全ての変性炭化水素樹脂の合計量とすることができる。
また、上記変性炭化水素樹脂の配合量は、シリカの配合量の1質量%〜30質量%の範囲内であることが好ましく、なかでも、3質量%〜25質量%の範囲内であることが好ましい。
上記変性炭化水素樹脂の製造方法としては、変性前樹脂である炭化水素樹脂100質量部を、上記アミン系化合物0.01質量部〜20質量部で変性するアミン変性工程を有する方法を用いることができる。なお、上記アミン系化合物で変性する方法、すなわち、アミン変性方法等については、上記「2.アミン系化合物」の項に記載した内容と同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
B.ジエン系ゴム
上記ジエン系ゴムとしては、ゴム組成物に上記変性炭化水素樹脂およびシリカと共に配合することができる任意のジエン系ゴムを用いることができる。このようなジエン系ゴムとしては、例えば、特開2015−189873号公報に記載のジエン系ゴムを用いることができる。上記ジエン系ゴムは、より具体的には、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)等を挙げることができ、なかでも、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、天然ゴム等であることが好ましい。上記ジエン系ゴムであることにより、加工性に優れ、かつ、転がり抵抗及びウェットグリップ性能のバランスに優れたゴム組成物を得ることができるからである。上記ジエン系ゴムは、少なくとも1種を含むものであればよく、1種類のみを含むものであってもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
また、上記ジエン系ゴムは、その分子量やミクロ構造はとくに制限されず、アミン、アミド、シリル、アルコキシシリル、カルボキシル、ヒドロキシル基等で末端変性されていても、エポキシ化されていてもよい。上記ジエン系ゴムは、水素添加されたものであってもよいが、水素添加していないものであることが好ましい。
C.シリカ
上記シリカは、ジエン系ゴムおよび上記変性炭化水素樹脂と共にゴム組成物中に配合されるものである。
このようなシリカとしては、ジエン系ゴムおよび上記炭化水素樹脂と共にゴム組成物中に配合されることで、加工性に優れ、かつ、転がり抵抗及びウェットグリップ性能のバランスに優れたゴム組成物を与えることができるものであればよく、例えば、特開2016−3274号公報に記載のシリカと同様のものを用いることができる。上記シリカは、より具体的には、乾式シリカ、湿式シリカ、コロイダルシリカおよび沈降シリカ等を用いることができる。また、上記シリカの種類は単独でまたは2種以上組み合わせてもよい。
上記シリカのBET比表面積(ISO5794/1に準拠して測定)は、100m2/g〜400m2/gの範囲内とすることができ、なかでも、150m2/g〜350m2/gの範囲内であることが好ましい。
上記シリカの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、80質量部〜200質量部であれば特に限定されるものではないが、なかでも、ジエン系ゴム100質量部に対し、90質量部〜150質量部の範囲内であることが好ましい。上記配合量が上述の範囲内であることにより、ゴム組成物は、加工性に優れ、かつ、転がり抵抗及びウェットグリップ性能のバランスに優れたものとなるからである。
D.その他の成分
本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴム、変性炭化水素樹脂およびシリカを含むものであるが、必要に応じて、その他の成分を含むものであってもよい。
上記その他の成分としては、例えば、シランカップリング剤、架橋剤、架橋促進剤、架橋活性化剤、老化防止剤、活性剤、プロセス油、可塑剤、滑剤、粘着付与剤などの配合剤をそれぞれ必要量配合できる。なお、このようなその他の成分およびその含有量としては、例えば、特開2016−30795号公報に記載の内容と同様とすることができる。
上記その他の成分は、シリカ以外のフィラーを含むことができる。上記シリカ以外のフィラーとしては、ゴム組成物に一般的に使用されるものを用いることができ、例えば、カーボンブラック、クレー、珪藻土、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、金属酸化物、マイカ、水酸化アルミニウム、各種の金属粉、木粉、ガラス粉、セラミックス粉などの他、ガラスバルーン、シリカバルーンなどの無機中空フィラー;ポリスチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン共重合体などからなる有機中空フィラー等を挙げることができる。これらのフィラーのうち、例えば、カーボンブラック等については、特開2016−30795号公報に記載のものを用いることができる。
本発明においては、なかでも、上記フィラーが、カーボンブラック等であることが好ましい。上記フィラーであることにより、ゴム組成物は、ウェットグリップ性に優れたものとなるからである。
また、フィラーは、少なくとも1種を含むものであればよく、1種類のみを含むものであってもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
上記シリカ以外のフィラーの含有量としては、加工性に優れ、かつ、転がり抵抗及びウェットグリップ性能のバランスに優れたゴム組成物を得ることができるものであればよい。
上記含有量は、例えば、ジエン系ゴム100質量部に対する割合で、120質量部以下とすることができる。
E.ゴム組成物
本発明のゴム組成物の製造方法は、常法に従って各成分を混練すればよく、例えば、架橋剤や架橋促進剤などの熱に不安定な成分を除く成分とジエン系ゴムとを混練後、その混練物に架橋剤や架橋促進剤などの熱に不安定な成分を混合して目的の組成物を得ることができる。熱に不安定な成分を除く成分とジエン系ゴムとの混練温度は、好ましくは80℃〜200℃の範囲内、より好ましくは120℃〜180℃の範囲内であり、その混練時間は、好ましくは30秒〜30分である。また、その混練物と熱に不安定な成分との混合は、通常100℃以下、好ましくは80℃以下まで冷却した後に行われる。
本発明のゴム組成物をゴム架橋物とする架橋方法としては、公知の架橋方法を用いることができ、例えば、所望の形状に対応した成形機、たとえば、押出機、射出成形機、圧縮機、ロールなどにより成形を行い、加熱することにより架橋反応を行い、架橋物として形状を固定化する方法を挙げることができる。この場合においては、予め成形した後に架橋しても、成形と同時に架橋を行うこともできる。成形温度は、通常、10℃〜200℃の範囲内、好ましくは25℃〜120℃の範囲内である。架橋温度は、通常、100℃〜200℃の範囲内、好ましくは130℃〜190℃の範囲内であり、架橋時間は、通常、1分〜24時間の範囲内、好ましくは2分〜12時間の範囲内、特に好ましくは3分〜6時間の範囲内である。
また、ゴム架橋物の形状、大きさなどによっては、表面が架橋していても内部まで十分に架橋していない場合があるので、上記架橋方法は、さらに加熱して二次架橋を行ってもよい。
加熱方法としては、プレス加熱、スチーム加熱、オーブン加熱、熱風加熱などのゴム組成物の架橋に用いられる一般的な方法を適宜選択すればよい。
本発明のゴム組成物は、転がり抵抗及びウェットグリップ性能のバランスに優れるものである。そして、本発明のゴム組成物は、このような特性を活かし、例えば、タイヤの、トレッド(キャップトレッド、ベーストレッド)、カーカス、サイドウォール、ビード部などのタイヤ各部位の材料に用いることが好ましく、なかでも、オールシーズンタイヤ、高性能タイヤ、およびスタッドレスタイヤなどの各種タイヤにおいて、トレッド、カーカス、サイドウォール、およびビード部などのタイヤ各部位に好適に用いることができ、特に低発熱性に優れるので、低燃費タイヤのトレッド用として、特に好適に用いることができ、なかでも特に、キャップトレッドに用いることが好ましい。
II.空気入りタイヤ
次に、本発明の空気入りタイヤについて説明する。本発明の空気入りタイヤは、上述のゴム組成物をトレッドに使用したことを特徴とするものである。
上記トレッドは、上述のゴム組成物を使用したもの、すなわち、上記ゴム組成物を用いて形成されたものであり、通常、上記ゴム組成物の架橋物を含むものである。
このようなトレッドの形成に用いられるゴム組成物及びその架橋物については、上記「I.ゴム組成物」の項に記載の内容と同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
上記空気入りタイヤは、そのトレッドが上記ゴム組成物を用いて形成されたものであればよく、他の部位も上記ゴム組成物を用いて形成されたものであってもよい。
上記ゴム組成物を用いて形成されるトレッドは、トレッドの一部であってもよくトレッドの全体であってもよいが、少なくともキャップトレッドを含むことが好ましい。
また、本発明の空気入りタイヤの製造方法としては、上記組成物を用いて形成されたトレッドを有する空気入りタイヤを製造できる方法であればよく、公知の空気入りタイヤの製造方法を用いることができる。
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。なお、各例中の部および%は、特に断りのない限り、質量基準である。
各種の測定については、以下の方法に従って行った。
〔数平均分子量、重量平均分子量、Z平均分子量および分子量分布〕
試料となる変性炭化水素樹脂等の樹脂について、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー分析し、標準ポリスチレン換算値の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)およびZ平均分子量(Mz)を求め、分子量分布はMw/MnおよびMz/Mwの比で示した。なお、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー分析は、測定装置として、東ソー社製「HLC−8320GPC」を使用し、カラムは東ソー社製「TSKgel SuperMultiporeHZ」を3本連結したものを用い、テトラヒドロフランを溶媒として、40℃、1.0mL/minの流量で測定した。
〔軟化点(℃)〕
試料となる変性炭化水素樹脂等の樹脂について、JIS K 6863に従い測定した。
〔ムーニー粘度(ML1+4)〕
試料となるゴム組成物について、JIS K 6300−1:2001に従い、以下の条件で測定した。この特性については、基準サンプル(後述の比較例1)を100とする指数で示した。
・試験温度:100℃
・ロータの種類:L形
・使用試験機:(株)島津製作所製島津ムーニービスコメーターSMV−300J
〔引張強さ(MPa)、伸び(%)および200%伸び引張応力(MPa)〕
試料となるゴム架橋物の試験片について、JIS K 6251:2010に従い、以下の条件で引張強さ(tensile stress(MPa))、伸び(elongation(%))および200%伸び引張応力(tensile stress(MPa))を測定した。これらの特性については、基準サンプル(後述の比較例1)を100とする指数で示した。なお、200%引張強さ((MPa)は、試験片に200%の伸びを与えたときの引張力を試験片の初期断面積で除した値である。
・試験片作製方法:プレス加硫によりシート作製後、打抜き加工
・試験片形状:ダンベル状3号形
・試験片採取方向:列理に対し平行方向
・試験片数:3
・測定温度:23℃
・試験速度:500mm/min
・使用試験機:ALPHA TECHNOLOGIES社製TENSOMETER10k
・試験機容量:ロードセル式 1kN
〔損失正接tanδ〕
試料となるゴム架橋物の試験片について、JIS K 7244−4に従い、以下の測定条件で、動的歪み0.5%、10Hzの条件で、0℃および60℃での損失正接tanδを測定した。この特性については、基準サンプル(後述の比較例1)を100とする指数で示した。なお、0℃での損失正接tanδが高いほど、ウェットグリップ性能に優れ、60℃での損失正接tanδが低いほど、転がり抵抗に優れる。
測定項目:動的貯蔵弾性率E’
:動的損失弾性率E’’
:損失正接tanδ
・試料調製方法:シートより打抜き加工
・試験片形状:長さ50mm×幅2mm×厚さ2mm
・試験片数:1
・クランプ間距離:20mm
〔製造例1〕
重合反応器にシクロペンタン47.3部及びシクロペンテン28.3部の混合物を重合反応器に仕込み、70℃に昇温した後、塩化アルミニウム0.75部を添加した(混合物M1)。引き続き、1,3−ペンタジエン63.6部、イソブチレン6.2部、ジシクロペンタジエン0.1部、C4−C6不飽和炭化水素0.3部、及びC4−C6飽和炭化水素5.7部からなる混合物a1を、60分間に亘り温度(70℃)を維持して、前記混合物M1を含む重合反応器に連続的に添加しながら重合を行った。その後、水酸化ナトリウム水溶液を重合反応器に添加して、重合反応を停止した。なお、重合反応時の重合反応器中の成分の種類及び量を表1にまとめて示した。重合停止により生成した沈殿物をろ過により除去した後、得られた重合体溶液を蒸留釜に仕込み、窒素雰囲気下で加熱し、重合溶媒と未反応単量体を除去した。次いで、240℃以上で、飽和水蒸気を吹き込みながら、低分子量のオリゴマー成分を留去した。
溶融状態の樹脂100部に対して、酸化防止剤としてペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](BASF社製、商品名:イルガノックス1010)0.2部を添加し、次いで無水マレイン酸2.0部を添加し230℃で1時間付加反応させたのち、アミン系化合物として、N−ベンジル-N,N‘−ジメチルエチレンジアミン1.5部を添加し、200℃で1時間付加反応させた。その後、蒸留釜から溶融樹脂を取り出し、室温まで放冷して、製造例1の変性炭化水素樹脂を得た。得られた製造例1の変性炭化水素樹脂については、数平均分子量、重量平均分子量、Z平均分子量、分子量分布、及び軟化点を測定した。これらの測定結果は、下記表1にまとめて示した。
なお、表1中のアミン系化合物(部)/変性前樹脂(100部)の値は、酸変性に用いた無水マレイン酸を変性前樹脂の原料の一部として計算したものであり、表1に記載の変性前樹脂を構成する単量体混合物と無水マレイン酸との合計100部当たりのアミン系化合物添加量(部)を示すものである。
〔製造例2〜8〕
重合反応器に添加する成分の種類及び量、並びに重合温度を下記表1に示すとおりにそれぞれ変更したこと以外は製造例1と同様にして変性炭化水素樹脂を得た。得られた製造例2〜8の樹脂については、製造例1の変性炭化水素樹脂と同様に、数平均分子量、重量平均分子量、Z平均分子量、分子量分布、及び軟化点を測定した。
なお、製造例1に記載のないジイソブチレン、芳香族モノオレフィン及びトルエンは、1,3−ペンタジエン等と共に混合し、重合に供した。なお、芳香族モノオレフィンとしては、スチレンを用いた。
また、製造例6および製造例7では、無水マレイン酸による酸変性およびアミン系化合物によるアミン変性を行わずに未変性炭化水素樹脂を得た。
〔実施例1〕
バンバリー型ミキサー中で、油展された乳化重合スチレンブタジエンゴム(E−SBR)(商品名「Nipol1739」、日本ゼオン社製、結合スチレン量:40%、ブタジエン単位部分のビニル結合含有量:13.5モル%、重量平均分子量:690,000、分子量分布(Mw/Mn):3.98、ガラス転移温度(Tg):−35℃、ゴム成分100部に対して37.5部の伸展油を含有)96.3部(ゴム成分の含有量:70部、伸展油の含有量:26.3部)と、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S−SBR)(商品名「Nipol NS 616」、日本ゼオン社製、ムーニー粘度(ML1+4,100℃):62)15.0部と、天然ゴム(NR)(SIR20)15.0部と、を30秒素練りし、次いでシリカ(ローディア社製、商品名「Zeosil1165MP」)60.0部、カーボンブラック(キャボットジャパン(株)社製、商品名「N234」)20.0部、シランカップリング剤:ビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]テトラスルフィド(デグッサ社製、商品名「Si69」)9.0部および製造例1で得た変性炭化水素樹脂10.0部を添加して、90秒混練後、シリカ(ローディア社製、商品名「Zeosil1165MP」)40.0部、酸化亜鉛3.0部、ステアリン酸2.0部および老化防止剤:N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン(大内新興社製、商品名「ノクラック6C」)2.0部を添加し、更に90秒間混練し、次いで、プロセスオイル(新日本石油社製、商品名「アロマックス T−DAE」)15.0部を投入した。その後、90℃を開始温度として混練し、145℃〜155℃で60秒間以上混練(一次練り)した後、ミキサーから混練物を排出させた。
得られた混練物を、室温まで冷却した後、再度バンバリー型ミキサー中で、90℃を開始温度として2分間混練(二次練り)した後、ミキサーから混練物を排出させた。混錬終了時の混練物の温度は145℃であった。
次いで、50℃の2本のロールで、得られた混練物に、硫黄1.7部、加硫促進剤:N−シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS 商品名「ノクセラーCZ−G」、大内新興化学工業社製)1.8部、およびジフェニルグアニジン(DPG 商品名「ノクセラーD」、大内新興化学工業社製)1.7部を加えてこれらを混練(加硫剤混練り)した後、シート状のゴム組成物を取り出した。
なお、一次練り、二次練りおよび加硫剤混練りの混練条件は、以下に示す条件とした。
(一次練りおよび二次練りの混練条件)
・試験機:(株)東洋精機製作所製ラボプラストミル バンバリー型ミキサーB−600
・充填率:70〜75vol%
・ローター回転数:50rpm
・試験開始設定温度:90℃
(加硫剤混練りの混練条件)
・試験機:池田機械工業(株)製電気加熱式高温ロール機
・ロールサイズ:6φ×16
・前ロール回転数:24rpm
・前後ロール回転比:1:1.22
・ロール温度:50℃±5℃
・切り返し回数:左右2回ずつ
・丸め通し幅:ロール間隔約0.8mm
・丸め通し回数:5回
〔実施例2〜5および比較例1〜3〕
下記表2に示すように、製造例1で得た変性炭化水素樹脂の代わりに製造例2〜8で得た変性炭化水素樹脂等の樹脂(製造例6〜7は未変性炭化水素樹脂)を用いた以外は、実施例1と同様にしてゴム組成物を得た。
〔評価〕
実施例および比較例で得られたゴム組成物を、プレス圧力約8MPa、プレス温度160℃で40分間プレス架橋し、その後さらに23℃の恒温室で一晩熟成した後、150mm×150mm×厚さ2mmのゴム架橋物の試験片を作製した。
実施例および比較例で得られたゴム組成物およびゴム架橋物について、ゴム組成物のムーニー粘度、ゴム架橋物の引張強さ(MPa)、伸び(%)および損失正接tanδを測定した。結果を下記表2に示す。
表1および表2から、実施例では、0℃での損失正接tanδが高く、60℃での損失正接tanδが低いものとなることが確認できた。この結果から、転がり抵抗およびウェットグリップ性能の両者に優れたものとなることが確認できた。
また、ジエン系ゴムおよび変性炭化水素樹脂を含む場合に、転がり抵抗およびウェットグリップ性能の両者に優れたものとなることで、ゴム組成物は、両者が相溶性良く混合し加工性に優れたものとなることが確認できた。また、上記ゴム組成物は、シリカを含む場合でも、シリカの分散性が良好であり、加工性に優れたものとなることが確認できた。
すなわち、表1および表2から、所定量のアミン系化合物で変性され、かつ、所定の重量平均分子量および軟化点等の特性を有するもの、特に例えば、重量平均分子量(Mw)及び重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が適度に低く、軟化点が適度に高い変性炭化水素樹脂を、シリカと共にジエン系ゴムに対して所定量含むことで、ゴム組成物は、加工性に優れ、かつ、転がり抵抗およびウェットグリップ性能の両者に優れるものとなることが確認できた。