JP2020066036A - ガスシールドアーク溶接方法 - Google Patents
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Abstract
Description
ところで、自動車等に適用される足回り部品は、腐食環境に曝されるため、高い耐食性が要求される。耐食性が低下すると、被水などによって腐食が進行し、局所的に鋼板の減肉に至る部位が発生するため、路面からの衝撃や駆動力の伝達に対する、部材の疲労特性が低下する。
また、本発明者らは、上記とともに、溶接中に生成するスラグ生成量自体を低減することが重要であることも見出した。本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
{√v/(D/2)2}×10−{(100−CAr)×I/v}×0.1 ・・・(1)
本実施形態に係るガスシールドアーク溶接方法は、Arを92〜99.5体積%含有するシールドガスを用いて、引張強度が780MPa以上の鋼板を溶接するためのガスシールドアーク溶接方法であって、上記シールドガス中のAr含有量(体積%)をCAr、上記シールドガスを供給するノズルの内径(mm)をD、溶接速度(cm/min)をv、溶接電流(A)をI、としたとき、式(1)により算出される値が0.20以上である。
{√v/(D/2)2}×10−{(100−CAr)×I/v}×0.1 ・・・(1)
本実施形態に係るガスシールドアーク溶接方法で用いられるシールドガスは、特に限定されず、Arガスと、炭酸ガス(二酸化炭素;CO2)や酸素ガス(O2)等の酸化性ガスとの混合ガスを用いることができる。これらには不可避的不純物としてN2、H2等が含まれていてもよいが、まったく含まないことが最も好ましい。
シールドガス中のAr含有量は、アーク直下の高温領域で生成されるスラグ生成量に大きく影響する。スラグ生成量を低減するためには、シールドガス中のAr含有量を適切に制御する必要がある。
シールドガス中のAr含有量が92体積%未満であると、スラグ生成量を低減することが困難となる。一方、シールドガス中のAr含有量が99.5体積%を超えると、溶接が不安定となるため、少量の酸化性ガスを含んでおくことが必要である。したがって、上記含有量は92体積%以上とし、好ましくは94体積%以上とする。また、上記含有量は99.5体積%以下とし、好ましくは98体積%以下、より好ましくは96体積%以下、とする。
小さなスラグを溶接金属の表面の酸化被膜に埋没させる方法としては、溶接速度を高く設定して、溶接進行方向とは逆方向への溶融金属の流れを強めることが有効である。また、溶接トーチにおけるノズルの内径(ノズル径)を細径とすることにより、溶融金属の凝固界面(表面)での酸化反応を促進することができる。
一方、上記式(1)により算出される値の上限は特に限定されないが、この値が大きすぎると、溶接速度vが過大となる、もしくは入熱量が著しく小さくなることを意味するため、ビード形状不良となるおそれがある。したがって、上記式(1)により算出される値は、2.20以下であることが好ましく、2.00以下であることがより好ましく、1.80以下であることが更に好ましい。
上記の通り、シールドガスを供給するノズルの内径Dを細くすることにより、溶接時におけるArガスの供給量が少なくなり、溶融金属の凝固界面での酸化反応を促進することができる。ノズルの内径Dが16mm以下であれば、上記効果を十分に得ることができる。したがって、ノズルの内径Dは16mm以下とすることが好ましく、14mm以下とすることがより好ましい。
一方、ノズルの内径Dが10mm未満であると、シールドガスの効果範囲が狭くなるため、シールド不良が生じ、溶接継手の機械的性質が劣化するおそれがある。したがって、ノズルの内径Dは10mm以上とすることが好ましく、11mm以上とすることがより好ましい。
溶接速度vを所定の速度以上に設定することにより、酸化被膜を効果的に形成することができる。溶接速度vが30cm/min以上であれば、上記効果を十分に得ることができる。したがって、溶接速度vは30cm/min以上とすることが好ましく、60cm/min以上とすることがより好ましく、80cm/min以上とすることが更に好ましい。
一方、溶接速度vが200cm/min超であると、溶落ちやビード形状不良などの溶接欠陥を生じるおそれがある。したがって、溶接速度vは200cm/min以下とすることが好ましく、170cm/min以下とすることがより好ましく、150cm/min以下とすることが更に好ましい。
本実施形態に係るガスシールドアーク溶接方法に用いることができる溶接装置としては、ガスシールドアーク溶接を行うための溶接装置であれば特に限定されず、従来のガスシールドアーク溶接に用いられている溶接装置を用いることができる。
溶接トーチ11は、図2に示すように、溶接ワイヤが筒内に自動的に送給され、溶接ワイヤを用いてアーク溶接を行うものである。溶接トーチ11には、トーチクランプ12が装着されている。トーチクランプ12は、溶接トーチ11をロボットに固定するものである。
溶接線上の適正な溶け込みと良好なビード形状とを得るために、前進角の範囲を−15〜40°、すなわち、前進角の上限を40°、後退角の上限を15°とした範囲内で溶接を行うことがより好ましい。
ノズル71は、溶接対象の母材に対して、図示しないガス供給装置から供給されたアルゴン(Ar)や炭酸ガス(CO2)等のシールドガスを噴出する機構を備えている。ノズル71は、一体的に組み立てられた状態のチップボディ31、オリフィス41およびコンタクトチップ61を内部に納めることが可能な内部空間を有する筒状に形成されている。また、ノズル71は、後端の内面にトーチ銃身21の先端に形成された雄ねじ部23が螺合する雌ねじ部(図示せず)が形成されている。この構成により、ノズル71は、オリフィス41により整流されたシールドガスを用いて溶接部を大気から遮断することができる。
本実施形態に係るガスシールドアーク溶接方法に用いることができる溶接ワイヤとしては、高張力鋼板のガスシールドアーク溶接時に一般的に使用されるソリッドワイヤを用いることができる。溶接ワイヤ中に含有される成分及びその含有量は特に制限されないが、溶接ワイヤ中に含まれていてもよい成分と、これらの好ましい範囲(成分量)について、以下に説明する。なお、成分量については、特段規定していない限り、溶接ワイヤの全質量に対する割合で規定する。
溶接ワイヤ中や溶接金属中のCは、溶接金属の強度を高める上で有効である。スパッタに関しては含有量が少量であっても問題ないため下限は設定しないが、0.30質量%を超えて多量に含まれると、溶接途中に微量の酸素と結合し、COガスとなって溶滴表面にバブルを発生させ、スパッタの発生やアーク不安定が起こる。
アーク不安定が生じた場合、シールドガスが乱れることで、大気が巻き込まれ、ブローホールといった溶接欠陥やスラグの大量発生が起こるおそれがある。このため、Cの含有量は0.30質量%以下とすることが好ましい。一方、強度の確保のため、Cの含有量は0.01質量%以上とすることが好ましい。
溶接ワイヤ中のSiは脱酸元素であり、溶接金属の強度や靱性を確保するために好ましい元素である。添加量が少量であると脱酸不足により、ブローホールが発生する場合があることから、0.20質量%以上含有させることが好ましい。ただし、2.50質量%を超えて多量に含まれると溶接中に剥離しにくいスラグが大量に生成して、スラグ巻き混み等の溶接欠陥が発生する。このため、Siの含有量は0.20〜2.50質量%の範囲とすることが好ましい。
溶接ワイヤ中のMnは、Siと同じく、脱酸剤あるいは硫黄捕捉剤としての効果を発揮し、溶接金属の強度や靱性を確保するために好ましい。脱酸不足による溶接欠陥の発生防止のため0.50質量%以上を含有させることが好ましい。一方、3.50質量%を超えて多量に含まれると、溶接中に剥離し難いスラグが大量に生成し、スラグ巻き混み等の溶接欠陥が発生するおそれがある。また、強度が増加しすぎて溶接金属の靭性を著しく低下させるおそれもある。このため、Mnの含有量は0.50〜3.50質量%の範囲とすることが好ましい。
Pは不純物元素であり、極力含有量を少量にすることが好ましく、このため下限は設定しない。0.0300質量%を超えて多量に存在すると、溶接金属の割れといった溶接欠陥が発生するおそれがある。このため、Pの含有量は0.0300質量%以下(0質量%を含む)の範囲とすることが好ましい。
Sは不純物元素であり、極力含有量を少量にすることが好ましく、このため下限は設定しない。0.0150質量%を超えて多量に存在すると、溶接金属の割れといった溶接欠陥が発生するおそれがある。このため、Sの含有量は0.0150質量%以下(0質量%を含む)の範囲とすることが好ましい。
<平均溶接電流>
平均溶接電流を低位にするとプラズマ気流が低速化し、該プラズマ気流によりアーク直下への大気混入を更に抑制することができる。そのため平均溶接電流は400A以下であることが好ましく、350A以下がより好ましい。
平均溶接電流の下限はアーク安定性の点から70A以上が好ましい。
溶接は、パルス電流制御されたパルス溶接を行うことが、安定なスプレー移行となり、アーク不安定による大気の巻き込みを抑制できる点から好ましい。
パルスのピーク電流は、380A以上530A以下であることが好ましく、400A以上がより好ましく、また500A以下がより好ましい。
パルスピーク電流が530Aを超えると、ピーク電流が高くなりすぎて、アーク中への大気巻き込みがやや多くなる場合がある。また、380Aより小さくなると、ピーク電流が低すぎて、スパッタ発生量が増加する場合がある。
パルスピーク時間が2.0ミリ秒を超えると、ピーク時間が長すぎて、アーク中への大気巻き込みがやや多くなる場合がある。また、0.5ミリ秒より小さくなると、ピーク電流が低すぎて、スパッタ発生量が増加する場合がある。
シールドガスの流量は、ノズルの内径Dやノズル−母材間距離の値によるが、25L/分以下がより好ましく、18L/分以下が更に好ましい。これにより、シールドガス流速の過度な高速化を防ぎ、高速なガス流による大気のシールド雰囲気への引き込みを抑制することができる。また、シールドガスの流量は8L/分以上であることが耐気孔性の点から好ましく、10L/分以上であることがより好ましい。
本実施形態に係るガスシールドアーク溶接方法により溶接される鋼板としては、引張強度が780MPa以上のものであれば特に限定されず、例えば、980MPa級以上、1180MPa級以上の高張力鋼板であってもよい。なお、鋼板の引張強度はJIS Z2241に規定された方法により求められる。
また、鋼板の板厚は、特に限定されるものではないが、溶接施工裕度の観点からは、1.0〜3.2mmであることが好ましい。
10 ロボット
11 溶接トーチ
12 トーチクランプ
20 ロボット制御部
21 トーチ銃身
22 インナチューブ
23 雄ねじ部
30 溶接電源部
31 チップボディ
41 オリフィス
61 コンタクトチップ
71 ノズル
W 被溶接材(ワーク)
Claims (3)
- Arを92〜99.5体積%含有するシールドガスを用いて、引張強度が780MPa以上の鋼板を溶接するためのガスシールドアーク溶接方法であって、
前記シールドガス中のAr含有量(体積%)をCAr、前記シールドガスを供給するノズルの内径(mm)をD、溶接速度(cm/min)をv、溶接電流(A)をI、としたとき、
式(1)により算出される値が0.20以上であることを特徴とする、ガスシールドアーク溶接方法。
{√v/(D/2)2}×10−{(100−CAr)×I/v}×0.1 ・・・(1) - 前記Dは、10〜16mmであることを特徴とする請求項1に記載のガスシールドアーク溶接方法。
- 前記vは、30〜200cm/minであることを特徴とする請求項1又は2に記載のガスシールドアーク溶接方法。
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