自車両が目標走行ラインに沿って走行するように操舵支援制御を実施する場合、例えば、目標走行ラインの形状から設定されるフィードフォワード制御項と、自車両を目標走行ラインに沿って走行させるための目標値に対する実際に制御された状態値の偏差に応じて設定されるフィードバック制御項と、フィードバック制御項の値を積分して設定される積分制御項とを含んだ演算式によって目標舵角を演算するとよい。この場合、フィードバック制御項は、フィードフォワード制御項では自車両を目標走行ラインに沿わせることができなかったずれ量をゼロにするように働き、積分制御項は、フィードバック制御項では吸収できなかった定常偏差(各種のセンサの検出誤差等によって発生する定常偏差)を吸収するように働く。
積分制御項は、横風のような突発的な外乱によって車体の位置が変化した場合、その外乱がなくなったときに車両挙動が不安定にならないようにするために、時間をかけて徐々に定常偏差を吸収するように用いられる。このため、積分制御項の制御ゲインは小さめの値に設定されている。
しかし、走行路面が水平路面からカント路面(横方向(左右方向)に傾斜のある路面)に切り替わった場合には、その直後において自車両が傾斜方向に流されて大きな定常偏差(横偏差)が発生し、これにより、長時間の定常偏差が発生する可能性がある。特許文献1に提案されている装置では、横速度に基づいて設定されるゲインを横偏差に乗じるため、横風のような突発的な外乱に対しては、ある程度の効果が得られるが、カント路面を走行する場合には、長時間の定常偏差の発生を防止できない。このため、自車両を目標走行ラインに沿って適切に走行させることができなくなるおそれがある。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、カント路面走行時において早期に定常偏差を減少させて、自車両を目標走行ラインに沿って走行させることができるようにすることを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、
自車両が目標走行ラインに沿って走行するための目標舵角(θ*)を演算するとともに、自車両の舵角が前記目標舵角に追従するようにステアリング機構に操舵トルクを付与する制御である操舵支援制御を実施する車両用操舵支援装置において、
前記目標走行ラインの形状に応じて設定されるフィードフォワード制御項(θFF)と、前記目標走行ラインに対する自車両の道路幅方向のずれ量である横偏差に応じて設定される横偏差フィードバック制御成分を含み自車両を前記目標走行ラインに沿って走行させるための目標値に対する実際に制御された状態値の偏差に応じて設定されるフィードバック制御項(θFB)と、前記横偏差を積分して設定される積分制御項(θI)と、を含んだ演算式により前記目標舵角を演算する目標舵角演算手段(21,22,23,24)と、
自車両の走行路面の横方向の傾斜度合を表すカント指標値(gc(t))を演算するカント指標値演算手段(S11)と、
前記カント指標値の単位時間当たりの変化量であるカント変化量(Δgc)が、予め設定されたカント切り替わり判定閾値(Δgcref)を超えたときに、自車両の走行路面が非カント路面からカント路面に切り替わったと判定する判定手段(S12)と
前記カント路面に切り替わったと判定された直後のカント切り替わり期間中において、前記積分制御項の制御ゲイン(K4)を、通常値(Knormal)よりも高い値(Khigh)に設定する制御ゲイン可変手段(S14)とを備えたことにある。
本発明の車両用操舵支援装置においては、自車両が目標走行ラインに沿って走行するための目標舵角を演算するとともに、自車両の舵角が目標舵角に追従するようにステアリング機構に操舵トルクを付与する制御である操舵支援制御を実施する。
目標舵角演算手段は、目標走行ラインの形状(例えば、曲率)に応じて設定されるフィードフォワード制御項と、目標走行ラインに対する自車両の道路幅方向のずれ量である横偏差に応じて設定される横偏差フィードバック制御成分を含み自車両を目標走行ラインに沿って走行させるための目標値に対する実際に制御された状態値の偏差に応じて設定されるフィードバック制御項と、横偏差を積分して設定される積分制御項と、を含んだ演算式により目標舵角を演算する。
フィードバック制御項は、フィードフォワード制御項では自車両を目標走行ラインに沿わせることができなかったずれ量をゼロにするように働き、積分制御項は、フィードバック制御項では吸収できなかった定常偏差を吸収するように働く。
積分制御項は、横風のような突発的な外乱によって車体の位置が変化した場合、その外乱がなくなったときに車両挙動が不安定にならないようにするために、時間をかけて定常偏差を吸収するように用いられる。このため、積分制御項における制御ゲインは、小さめに設定されることが望まれる。しかし、そのように制御ゲインを設定すると、自車両がカント路面を走行する場合には、長時間の定常偏差が発生する可能性がある。その場合には、自車両を目標走行ラインに沿って適切に走行させることができなくなるおそれがある。
そこで、本発明の車両用操舵支援装置は、カント指標値演算手段と、判定手段と、制御ゲイン可変手段とを備えている。カント指標値演算手段は、自車両の走行路面の横方向の傾斜度合を表すカント指標値を演算する。カント指標値は、例えば、ヨーレートセンサによって検出される自車両のヨーレート(γ)と車速センサによって検出される自車両の車速(v)との積と、横加速度センサによって検出される横加速度(gy)との差分値から演算することができる。
判定手段は、カント指標値の単位時間当たりの変化量であるカント変化量が、予め設定されたカント切り替わり判定閾値を超えたときに、自車両の走行路面が非カント路面(横方向に傾斜のない路面)からカント路面に切り替わったと判定する。カント変化量は、例えば、カント指標値の時間微分値である。従って、自車両がカント路面に進入すると、カント切り替わり判定手段によって、自車両の走行路面が非カント路面からカント路面に切り替わったと判定される。
制御ゲイン可変手段は、走行路面がカント路面に切り替わったと判定された直後のカント切り替わり期間中において、積分制御項の制御ゲインを、通常値よりも高い値に設定する。例えば、カント切り替わり期間は、カント変化量がカント切り替わり判定閾値を超えている期間である。あるいは、カント切り替わり期間は、カント変化量がカント切り替わり判定閾値を超えたタイミングから、設定時間(カント変化量が所定値以下にまで低下すると推定される予め設定された時間)経過するまでの期間でもよい。
従って、自車両がカント路面に進入した直後のカント切り替わり期間中(カント指標値が大きく変化している状況)においては、積分制御項の制御ゲインが、それまでの通常値(カント切り替わり期間に入る前の値)よりも高い値に設定される。これにより、自車両がカント路面に進入した直後において発生する大きな横偏差を減少させることができる。また、カント路面が一定の傾斜度合となった後は、通常の小さい制御ゲイン(積分制御項の制御ゲイン)に切り替わっても自車両の横偏差を減少させることができる。
この結果、本発明によれば、カント路面走行時において早期に横偏差を減少させて、自車両を目標走行ラインに沿って走行させることができる。
また、例えば、ヨーレートセンサ、および、横加速度センサを用いてカント指標値を演算する構成の場合には、それらセンサのゼロ点のずれがカント指標値の演算に影響を与えるが、カント路面への切り替わり判定を実施する場合には、カント指標値の単位時間当たりの変化量であるカント変化量が使用されるため、そうしたゼロ点のずれはほとんど影響しない。
上記説明においては、発明の理解を助けるために、実施形態に対応する発明の構成要件に対して、実施形態で用いた符号を括弧書きで添えているが、発明の各構成要件は、前記符号によって規定される実施形態に限定されるものではない。
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、実施形態の車両用操舵支援装置の概略システム構成図である。
操舵支援装置1は、運転支援ECU10と、中立点学習ECU50と、電動パワーステアリングECU70とを備えている。以下、電動パワーステアリングECU70をEPS・ECU70(Electric Power Steering ECU)と呼ぶ。ECUは、Electric Control Unitの略である。各ECU10,50,70は、マイクロコンピュータを主要部として備えている。以下の説明において、「車両」とは、操舵支援装置1が搭載された車両(自車両)を表す。
中立点学習ECU50は、車両の旋回方向の安定性を確保するための車両安定制御(VSC)を実施するVSC・ECUであって、そのVSCの実行時に推定される車両の直進走行状態の判定結果を用いて舵角中立点を学習する機能を備えている。
舵角中立点とは、車両が直進するときのステアリング機構の舵角を意味する。中立点学習ECU50は、ヨーレートセンサ60、車速センサ61、横加速度センサ62、および、ステアリングセンサ66と接続されている。ヨーレートセンサ60は、車両の旋回時に発生する重心軸周りのヨーレートγを表すヨーレート検出信号を出力する。ヨーレートγは、その符号によって、ヨー運動の方向が特定される。車速センサ61は、車両の走行速度(車速vと呼ぶ)を表す車速検出信号を出力する。車速vは車輪速に基づいて検出されるため、車速センサ61に代えて車輪速センサを用いることもできる。横加速度センサ62は、車両の横方向(車幅方向)の加速度である横加速度gyを表す横加速度検出信号を出力する。横加速度gyは、その符号によって、左右方向が特定される。ステアリングセンサ66は、操舵ハンドルの舵角であるハンドル舵角θshを表すハンドル舵角検出信号を出力する。
回転角センサ63は、ステアリング機構に組み込まれ、回転角検出信号を出力する。ステアリング機構は、図示しないが、操舵輪を操舵するための機構(例えば、操舵ハンドル、ステアリングシャフト、ラックピニオン機構、ラックバー、タイロッド、ナックルアーム等)を表す。本実施形態の回転角センサ63は、例えば、ラックバーに噛合されたピニオンギヤが固着されたシャフト(ステアリングシャフトにおける最も車輪側のピニオンシャフト)の回転角θspを検出する。回転角の検出は、必ずしも、ピニオンシャフトの回転角である必要は無いが、車輪に近い位置の回転角を検出した方がステアリング機構のダイナミクス(摩擦など)の影響が少なく、目標舵角に対する追従性が良好になるため、本実施形態においては、ピニオンシャフトの回転角を検出している。
回転角センサ63は、イグニッションスイッチがオンしたときの回転位置を0degとした相対的な舵角を表す回転角検出信号を出力する。
中立点学習ECU50は、車速vが予め設定された車速である学習許可車速vref以上であり、かつ、ヨーレートγの絶対値|γ|が予め設定された直進走行判定閾値γref以下であり、かつ、横加速度gyの絶対値|gy|が予め設定された直進走行判定閾値gyref以下であるという状況が所定時間以上継続するという直進走行判定条件が成立した場合に、車両が直進走行していると推定する。中立点学習ECU50は、直進走行判定条件が成立した場合に、その都度、そのときのステアリングセンサ66によって検出されているハンドル舵角θshを舵角中立点として不揮発性メモリに記憶更新する(学習する)。また、中立点学習ECUは、舵角中立点θ0を学習する都度、その学習した舵角中立点θ0を表す情報をEPS・ECU70に供給する。
EPS・ECU70は、電動パワーステアリング装置の制御装置であって、ハンドル舵角演算部71とモータ制御部72とを備えている。ハンドル舵角演算部71は、ステアリングセンサ66によって検出されるハンドル舵角θshと、中立点学習ECU50から供給された舵角中立点θ0と、回転角センサ63によって検出されるピニオンシャフトの回転角θsp(ピニオン角θspと呼ぶ)とを用いて、補正舵角を算出する。補正舵角は、次式によって算出される。
補正舵角=θsp−(θsh−θ0)
ハンドル舵角演算部71は、ピニオン角spを操舵ハンドルの回転角に変換したハンドル変換舵角θhを演算する。ハンドル変換舵角θhは、ピニオン角θspから補正舵角を減算して算出される(θh=θsp−補正舵角)。このハンドル変換舵角θhは、学習された舵角中立点θ0を基準(舵角ゼロ)として検出されるハンドル舵角(絶対角)を表す。ハンドル変換舵角θhは、その符号(正負)によって操舵方向が特定される。
モータ制御部72は、ステアリングシャフトに設けられたトルクセンサ64に接続される。トルクセンサ64は、操舵ハンドルに入力された操舵トルクTrを表す検出信号を出力する。操舵トルクTrは、その符号によって左右方向が特定される。また、モータ制御部72は、図示しないモータ駆動回路を備え、モータ駆動回路を介してアシストモータ73に接続されている。アシストモータ73は、ステアリング機構に組み付けられ、操舵トルクを発生させることによって操舵輪の舵角を変化させる。
モータ制御部72は、トルクセンサ64によって、ドライバーが操舵ハンドル(図示略)に入力した操舵トルクを検出し、この操舵トルクに基づいてアシストモータ73を駆動制御することにより、ステアリング機構に操舵アシストトルクを付与して、ドライバーのハンドル操作が軽くなるように操舵操作をアシストする。
また、モータ制御部72は、運転支援ECU10から操舵指令を受信した場合には、操舵指令(目標舵角θ*)で特定される制御量でアシストモータ73を駆動して操舵アシストトルクを発生させる。この操舵アシストトルクは、上述のドライバーのハンドル操作を軽くするために付与される操舵アシストトルクとは異なり、ドライバーのハンドル操作力を必要とせずに、運転支援ECU10からの操舵指令によってステアリング機構に付与されるトルクを表す。
モータ制御部72は、ハンドル舵角演算部71によって算出されたハンドル変換舵角θhと、運転支援ECU10から送信された目標舵角θ*とを入力し、ハンドル変換舵角θhが目標舵角θ*に追従するように、アシストモータ73への通電を制御して、アシストモータ73にトルクを発生させる。これにより、ドライバーのハンドル操作無しに、車両の走行方向を所望の方向に制御することができる。
運転支援ECU10は、車速センサ61、カメラセンサ65、および、トルクセンサ64に接続されている。カメラセンサ65は、自車両の前方の風景を撮影し、撮影して得られた画像データを解析して、自車両の前方の道路に形成された白線を認識(検出)する。カメラセンサ65は、図2に示すように、左白線LLと右白線LRとを認識し、この左右の白線LL,LRの中央位置となる車線中央ラインを目標走行ラインLdに設定する。また、カメラセンサ65は、目標走行ラインLdのカーブ半径Rを演算する。尚、目標走行ラインLdは、必ずしも、左右の白線の中央位置に設定される必要はなく、中央位置から所定距離だけ左右方向にずらした位置に設定されてもよい。また、目標走行ラインLdは、左白線LLと右白線LRとの何れか一方の認識状態が良好でなくても、他方の白線位置が良好に認識できる場合には、一方の白線位置を推定することにより設定される。
カメラセンサ65は、左白線LLと右白線LRとで区画される走行車線における自車両の位置および向きを演算する。例えば、カメラセンサ65は、図3に示すように、自車両Cの基準点Pと目標走行ラインLdとのあいだの道路幅方向の距離Dy、つまり、自車両Cが目標走行ラインLdに対して道路幅方向にずれている距離Dyを演算する。この距離Dyを横偏差Dyと呼ぶ。尚、基準点Pは、自車両Cの車幅方向中心の位置であって、特定できる位置であれば、任意に設定することができる。例えば、基準点Pは、車両の重心点としてもよい。
また、カメラセンサ65は、図3に示すように、目標走行ラインLdの方向と自車両Cの向いている方向とのなす角度、つまり、目標走行ラインLdの方向に対して自車両Cの向いている方向が水平方向にずれている角度θyを演算する。この角度θyをヨー角θyと呼ぶ。
カメラセンサ65は、演算したカーブ半径R、横偏差Dy、および、ヨー角θyを表す情報(R、Dy、θy)を運転支援ECU10に供給する。カーブ半径R、横偏差Dy、および、ヨー角θyは、その符号によって左右方向が特定される。また、カメラセンサ65は、左右の白線LL,LRのそれぞれの認識レベル(認識できている距離)を表す情報についても運転支援ECU10に供給する。こうしたカメラセンサ65から運転支援ECU10に供給される情報を車線情報と呼ぶ。
尚、本実施形態においては、カメラセンサ65が車線情報を演算により求めるが、それに代えて、運転支援ECU10が車線情報を演算により求めてもよい。この場合、カメラセンサ65が画像データを運転支援ECU10に供給し、運転支援ECU10が、画像データに基づいて車線情報を演算により求める。
運転支援ECU10は、車線維持支援制御を実施する電子制御装置である。車線維持支援制御は、LTA(Lane Trace Assist)制御と呼ばれ、自車両の走行位置が目標走行ライン付近(例えば、走行車線の中央位置)に維持されるように、操舵アシストトルクをステアリング機構に付与してドライバーの操舵操作を支援する制御である。以下、車線維持支援制御をLTA制御と呼ぶ。
LTA制御は、図示しない設定操作器の操作によってLTA制御が要求されている場合であって、かつ、車速vがLTA許可車速範囲内であり、白線認識レベルが基準レベルを満足している場合等において、その開始条件が成立する。また、LTA制御中においては、トルクセンサ64によって検出される操舵トルクTrがモニタされ、操舵トルクTrに基づいてドライバーの意図的なハンドル操作が検出された場合には、その時点でLTA制御が終了するようになっている。
運転支援ECU10は、LTA制御の目標制御量である目標舵角θ*を演算するマイクロコンピュータを主要部として備え、そのマイクロコンピュータの機能に着目すると、図1に示すように、フィードフォワード制御部21と、フィードバック制御部22と、積分制御部23と、加算部24とから構成される。図中において、フィードフォワードをFFと表し、フィードバックをFBと表している。
目標舵角θ*は、次式(1)に示すように、目標走行ラインLdの曲率に応じて設定されるフィードフォワード制御項θFFと、目標走行ラインLdに対する自車両の道路幅方向のずれ量である横偏差Dyに応じて設定される横偏差フィードバック制御項θFBdと、目標走行ラインLdに対する自車両の向きのずれ角であるヨー角θyに応じて設定されるヨー角フィードバック制御項θFByと、横偏差Dyを時間で積分した積分制御項θIとを合算することに算出される。
θ*=θFF+θFBd+θFBy+θI ・・・(1)
横偏差フィードバック制御項θFBd、および、ヨー角フィードバック制御項θFByは、フィードバック制御項を構成する要素である。以下、両者をまとめてフィードバック制御項θFBと呼ぶこともある(θFB=θFBd+θFBy)。
尚、フィードバック制御項θFBは、横偏差フィードバック制御項θFBd、および、ヨー角フィードバック制御項θFByだけでなく、例えば、車両のヨーレートの偏差、車両の横速度の偏差、車両の横加速度の偏差、操舵角の偏差等を用いたフィードバック制御項を任意に加えることもできる。その場合には、ヨーレートセンサ60、横加速度センサ62など、偏差の検出に必要となるセンサの検出信号が運転支援ECU10に供給され、目標値とセンサ検出値との偏差に応じたフィードバック制御量が演算される。
例えば、フィードバック制御部22は、(θFF+θFBd+θFBy+θI)の値に応じて、目標ヨーレート、目標横加速度、目標横速度などの任意の目標値(1つでもよいし複数でもよい)をマップ等から算出し、その目標値とセンサ検出値との偏差に、フィードバック制御ゲインを乗算した値をフィードバック制御項θFBに加えるようにしてもよい。また、1演算周期前の目標舵角θ*とハンドル変換舵角θhとの偏差にフィードバック制御ゲインを乗算した値をフィードバック制御項θFBに加えるようにしてもよい。
フィードフォワード制御部21は、フィードフォワード制御項θFFを次式(2)に示す演算式によって演算する。
θFF=(V2/R)×K1 ・・・(2)
ここで、Vは車速、Rは目標走行ラインの曲率半径、K1はフィードフォワード制御ゲインを表す。
フィードバック制御部22は、フィードバック制御項θFBを次式(3)に示す演算式によって演算する。
θFB=θFBd+θFBy ・・・(3)
θFBd=Dy×K2・・・(3−1)
θFBy=θy×K3・・・(3−2)
ここで、K2は横偏差フィードバック制御ゲインを表し、K3はヨー角フィードバック制御ゲインを表す。横偏差フィードバック制御における目標横偏差はゼロであり、ヨー角フィードバック制御における目標ヨー角はゼロである。従って、式(3−1)および式(3−2)においては、カメラセンサ65から供給される(Dy、θy)が、目標値に対する偏差として用いられる。
積分制御部23は、積分制御項θIを次式(4)に示す演算式によって演算する。
θI=θI(n-1)+Dy×t×K4 ・・・(4)
ここで、θI(n-1)は1演算周期前の積分制御項θIを表し、tは演算周期を表し、K4は横偏差積分制御ゲインを表す。横偏差積分制御ゲインK4は、単位時間あたり(1演算周期あたり)に積分制御項θIを変化させることができる度合を設定する定数として機能する。積分制御項θIは、横偏差Dyを横偏差積分制御ゲインK4に比例させて積分した値である。従って、横偏差積分制御ゲインK4が大きいほど、横偏差Dyが蓄積される速度が速くなる。
尚、積分制御部23は、基本的には、上記の演算方法によって積分制御項θIを演算するが、後述するように、カント路面の走行時に車両が車線から逸脱してしまうことを抑制するために、上記の横偏差積分制御ゲインK4を可変設定する機能、および、積分制御項θIの値の変化率および上限値を制限する機能を備えている。積分制御部23は、その機能に大別すると、ゲイン設定部23aと積分演算部23bと制限部23cとから構成される。
ゲイン設定部23aは、後述するゲイン設定ルーチンを実施することによって、上記の式(4)における横偏差積分制御ゲインK4の値を設定し、その設定した横偏差積分制御ゲインK4を、積分演算部23bおよび制限部23cに供給する。この横偏差積分制御ゲインK4は、通常時に適用されるK4normalと、K4normalよりも大きな値に設定されたK4highとの2種類用意されており、ゲイン設定部23aによって、その一方が択一的に選択される。
積分演算部23bは、ゲイン設定部23aから供給された横偏差積分制御ゲインK4(K4normalまたはK4high)を上記の式(4)に適用して積分制御項θIを演算し、その演算結果を制限部23cに供給する。制限部23cは、積分演算部23bから供給された積分制御項θIに対して、変化率制限および上限値制限を施した値を、積分制御部23の最終的な演算結果として、その演算結果である積分制御項θIを加算部24に出力する。
加算部24は、上記の式(1)に示すように、フィードフォワード制御項θFFと、フィードバック制御項θFB(=θFBd+θFBy)と、積分制御項θIとを合算して目標舵角θ*を演算する。
積分制御項θIは、フィードバック制御項では吸収できなかった定常偏差を吸収するために設けられた制御量を表す。この定常偏差は、各種のセンサにおいて検出誤差(センサ誤差)が発生している場合に生じる。積分制御項θIは、横風のような突発的な外乱によって車体の位置が変化した場合、その外乱がなくなったときに車両挙動が不安定にならないようにするために、時間をかけて定常偏差を吸収するように用いられる。このため、積分制御項θIにおける制御ゲインは、小さめの値に設定されることが望まれる。
EPS・ECU70によって、ハンドル変換舵角θhが目標舵角θ*に追従するようにステアリング機構の舵角が制御されれば(アシストモータ73を制御すれば)、基本的には、自車両を目標走行ラインLdに沿って走行させることができるはずである。しかし、車両がカント路面を走行した場合には、カント路面に進入した直後において自車両が傾斜方向に流されて大きな定常偏差(横偏差)が発生し、これにより、長時間の定常偏差が発生する可能性がある。このため、定常偏差を良好に吸収できず、車両が車線から逸脱してしまうおそれがある。
そこで、積分制御部23は、車両がカント路面に進入したときに、積分制御項θIの値を早く増加させることによって、積分制御項を有効に使って、車両が車線から逸脱してしまうことを抑制する。以下、積分制御部23の実施する処理について説明する。
図6は、積分制御部23の実施するゲイン設定ルーチンを表す。積分制御部23は、LTA制御を実施している期間中において、ゲイン設定ルーチンを所定の演算周期で繰り返し実施する。
ゲイン設定ルーチンが起動すると、積分制御部23は、ステップS11において、カント推定値gc(t)を演算する。このカント推定値gc(t)は、自車両の走行路面の横方向の傾斜度合を示す指標値であって、次式(4)によって演算される。このカント推定値gc(t)は、本発明のカント指標値に相当する。
gc(t)=(v×γ)−gy ・・・(4)
ここで、vは車速センサ61によって検出される車速、γはヨーレートセンサ60によって検出されるヨーレート、gyは横加速度センサ62によって検出される横加速度である。カント推定値gc(t)は、時刻tでのカント推定値を表す。
このカント推定値gc(t)は、図5に示すように、車速vとヨーレートγとによって推定される車両の横加速度から、横加速度センサ62によって検出される横加速度gyを減算することによって算出できる。
続いて、積分制御部23は、ステップS12において、カント切り替わり判定条件を満たすか否かを判定する。このカント切り替わり条件は、本実施形態においては、カント推定値gc(t)の単位時間当たりの変化量、つまり、カント推定値gc(t)を時間微分した値が判定閾値を超えていることに設定されている。従って、ステップS12においては、カント推定値gc(t)を時間微分した値(以下、カント変化量Δgcと呼ぶ)が予め設定された判定閾値Δgcrefよりも大きいか否かについて判定される。
カント切り替わり判定条件を満たしていない場合、つまり、カント変化量Δgcが判定閾値Δgcref以下である場合(Δgc≦Δgcref)、積分制御部は、ステップS13において、横偏差積分制御ゲインK4の値をK4normalに設定する。
一方、カント切り替わり判定条件を満たしている場合、つまり、カント変化量Δgcが判定閾値Δgcrefを超えている場合(Δgc>Δgcref)、積分制御部23は、ステップS14において、横偏差積分制御ゲインK4の値をK4highに設定する。
K4highは、走行路面が非カント路面からカント路面に切り替わったときに発生する大きな横偏差を早期に減少させるために設定された横偏差積分制御ゲインであり、K4normalよりも大きな値に設定されている。K4normalは、突発的な外乱によって積分制御項θIの値が必要以上に大きくならないように小さめの値(通常値)に設定されている。
カント変化量Δgcは、自車両がカント路面の進入した直後の短い期間において大きな値となり、カント路面の傾斜角が大きく変化しないカント走行状態になれば、小さな値に戻る。従って、横偏差積分制御ゲインK4がK4highに設定される期間は、走行路面がカント路面に切り替わったと判定された直後の短い期間である。この期間が、本発明のカント切り替わり期間に相当する。
このステップS11からステップS15までの処理は、ゲイン設定部23aよって実施される処理である。
積分制御部23は、ステップS13あるいはステップS14において横偏差積分制御ゲインK4の値を設定すると、続く、ステップS15において、上記の式(3)を用いて積分制御項θIを演算する。このステップS15の処理は、積分演算部23bによって実施される処理である。以下、横偏差積分制御ゲインK4としてK4highが設定されている演算モードを積分highモードと呼び、横偏差積分制御ゲインK4としてK4normalが設定されている演算モードを積分normalモードと呼ぶ。
続いて、積分制御部23は、ステップS16において、積分制御項θIに対して変化率制限をかける。この変化率制限は、積分制御項θIの変化率の上限を設定して、その上限以内で積分制御項θIを変化させるものである。本実施形態においては、1演算周期前に算出された積分制御項θI(n-1)と今回算出された積分制御項θI(n)との差の大きさ(|θI(n)−θI(n-1)|)、つまり、単位時間当たりの積分制御項θIの変化量を使って、この変化量の上限値が設定されている。従って、ステップS15において演算された積分制御項θIの変化率が上限値を超えている場合には、その上限値を使って変化させた積分制御項θIが変化率制限後の積分制御項θIとして設定され、積分制御項θIの変化率が上限値を超えていない場合には、ステップS15において演算された積分制御項θIがそのまま変化率制限後の積分制御項θIとして設定される。
変化率制限は、演算モードによって異なる。変化率制限は、積分highモードでは、積分normalモードに比べて緩和されている。つまり、積分highモードにおける変化率の上限値は、積分normalモードにおける変化率の上限値よりも高い値に設定されている。従って、積分highモードにおいては、変化率制限によって積分制御項θIの増加が妨げられないようになり、積分normalモードよりも早く積分制御項θIを増加させることができる。
続いて、積分制御部23は、ステップS17において、積分制御項θIに対して上限値制限をかける。尚、積分制御項θIは、方向に応じた符号(正負)が設定されるため、正しくは、積分制御項θIの絶対値に対しての上限値制限、換言すれば、積分制御項θIの上下限値制限である。本明細書において制御量の大小を論じる場合には、その絶対値を用いている。積分制御部23は、ステップS15にて算出された積分制御項θI(変化率制限後のθI)が上限値を超えている場合には、上限値を上限制限後の積分制御項θIとして設定し、積分制御項θI(変化率制限後のθI)が上限値を超えていない場合には、ステップS15において演算された積分制御項θIをそのまま上限制限後の積分制御項θIとして設定する。
積分制御項θIの上限値は、演算モードによって異なる。積分highモードにおける積分制御項θIの上限値は、積分normalモードにおける変化率の上限値よりも小さい値に設定されている。これは、積分highモード時において、突発的な外乱による積分制御項θIの誤学習(突発的な誤差を定常誤差としてみなして積分制御項θIを過剰な値にすること)を防止するためである。
続いて、積分制御部23は、ステップS18において、ステップS17で演算された積分制御項θIの値を加算部24に出力する。このステップS16〜S18の処理が、制限部23cによって実施される処理である。
積分制御部23は、積分制御項θIの値を加算部24に出力すると、ゲイン設定ルーチンを一旦終了する。そして、積分制御部23は、LTA制御の実施中において、ゲイン設定ルーチンを所定の演算周期で繰り返し実施する。
以上説明した本実施形態の操舵支援装置1によれば、カント変化量Δgcが判定閾値Δgcrefを超えている期間、つまり、走行路面が非カント路面からカント路面に切り替わったと判定された直後のカント切り替わり期間中において、横偏差積分制御ゲインK4が通常のKnormalよりも高い値であるK4highに設定される。これにより、自車両がカント路面に進入した直後において発生する大きな横偏差を早期に減少させることができる。また、カント路面が一定の傾斜度合となった後は、横偏差積分制御ゲインK4が通常のKnormalに戻されるが、そのように戻されても、自車両の横偏差が小さくなっているため、それ以降の横偏差についても適切に減少させることができる。また、突然の外乱によって積分制御項θIにより車両の挙動が不安定になることを抑制することができる。この結果、自車両を目標走行ラインに沿って走行させることができる。
また、本実施形態においては、カント推定値gc(t)を演算するにあたってヨーレートセンサ60の検出値γ、および、横加速度センサ62の検出値gyを用いている。このため、センサのゼロ点のずれが、カント推定値gc(t)の演算に影響をおよぼす。しかし、本実施形態においては、カント切り替わり判定を実施する場合には、カント推定値gc(t)の単位時間当たりの変化量であるカント変化量Δgcを用いているため、センサのゼロ点のずれはほとんど影響しない。従って、高精度にカント切り替わり判定を実施することができる。
以上、本実施形態に係る車両の操舵支援装置について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、本実施形態においては、カント切り替わり判定条件が成立する期間は、カント変化量Δgcが判定閾値Δgcrefを超えている期間に設定されているが、それに代えて、カント変化量Δgcが判定閾値Δgcrefを超えてから設定時間が経過するまでの期間に設定されていてもよい。この設定時間は、自車両がカント路面に進入してカント角が変化した後、そのカント角が変化しなくなるまでの平均的時間とすればよい。
また、本実施形態においては、カメラセンサ65によって白線を検出し、その白線に基づいて目標走行ラインLdを設定するが、例えば、自車両の前方に先行車両が存在する場合には、先行車両の走行軌跡を目標走行ラインLdに設定することもできる。この場合には、例えば、ミリ波レーダー、ライダー(LIDAR)などを用いて先行車両を検出することにより先行車両の走行軌跡を取得することができる。
また、本実施形態においては、LTA制御時に実施する場合にゲイン設定ルーチンを実施するが、LTA制御時に限るものではなく、例えば、レーチェンジアシスト制御を実施する場合にゲイン設定ルーチンを実施してもよい。レーンチェンジアシスト制御(LCA制御と呼ぶ)は、自車両が隣接レーンに車線変更するように自動操舵を行ってドライバーの操舵操作を支援する制御である。LCA制御の実施時には、自車両を隣接車線に移動させるための目標走行ラインが設定される。従って、LCA制御では、上述したLTA制御と同様に、目標走行ラインに沿って走行するように操舵角が制御されるため、この操舵角の制御時に、カント変動量に基づいて横偏差積分制御ゲインK4を切り替えるようにすればよい。
また、本実施形態においては、積分制御部23は、横偏差Dyの積分を演算するが、横偏差Dyの積分に、ヨー角θyなど他の偏差の積分を加えた値を演算するようにしてもよい。