以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。
<実施例1>
図1は、実施例1による車両用の駆動装置10を含む駆動システム1の構成を概略的に示す図である。
駆動システム1は、車両の車輪(駆動輪)4を駆動するシステムであり、エンジン2と、駆動装置10(車両用駆動装置の一例)とを含む。エンジン2からの動力は、駆動装置10及びドライブシャフトを介して車両の車輪4へ伝達される。以下の説明において、要素間の関係は、エンジン2からの動力の伝達経路(以下、「動力伝達経路」と称する)に沿った関係である。例えば、ある要素と他の要素との間とは、動力伝達経路における当該要素間を指す。すなわち、図1に示す各要素の配置順は、動力伝達経路上の配置順に対応する。
駆動装置10は、入力部材20と、中間部材30と、出力装置40と、バネSP1(第1バネの一例)と、バネSP2(第2バネの一例)と、第1クラッチCL1と、第2クラッチCL2(係合装置の一例)とを含む。なお、図1において、バネSP3は、ドライブシャフトをモデル化したバネである。すなわち、バネSP3は、ドライブシャフトの捩じり方向の弾性を表す。なお、ドライブシャフト及び車輪4は、車体側の要素である。
入力部材20は、エンジン2からの動力が伝達される。入力部材20は、エンジン2からの動力を受けると、回転トルクを中間部材30に伝達する。
中間部材30は、入力部材20にバネSP1を介して接続され、入力部材20からバネSP1を介して回転トルクが伝達可能である。すなわち、中間部材30は、入力部材20及びバネSP1を介してエンジン2からの動力を受ける。中間部材30は、入力部材20及びバネSP1を介してエンジン2からの動力を受けると、回転トルクを出力装置40に伝達する。
出力装置40は、中間部材30にバネSP2を介して接続され、中間部材30からバネSP2を介して回転トルクが伝達可能である。すなわち、出力装置40は、入力部材20、バネSP1、中間部材30、及びバネSP2を介してエンジン2からの動力を受ける。
本実施例では、出力装置40は、出力部材41(第1要素の一例)と、モータジェネレータ42(第1要素の一例)と、変速機43(第2要素の一例)とを含む。出力部材41は、上述した入力部材20、中間部材30、バネSP1、及びバネSP2とともに減衰装置(ダンパ)を形成する。なお、減衰装置には、過大なトルクの入力時に機能するストッパ(図示せず)が設けられてもよい。変速機43は、任意の種類であってよく、例えば自動変速機(AT)や、無段変速機(CVT)、デュアルクラッチトランスミッション、減速機等であってよい。
バネSP1は、減衰装置の一要素であり、上述のように入力部材20と中間部材30との間に設けられ、入力部材20と中間部材30との間でのトルク伝達を可能とする。バネSP1は、トルク伝達方向(軸まわりの周方向)に弾性変形可能に設けられる。バネSP1は、例えばストレートコイルスプリングやアークコイルスプリング等であってよい。バネSP1は、入力部材20と中間部材30との間に複数配置されうるバネを包括的に表す要素である。
バネSP2は、減衰装置の一要素であり、上述のように中間部材30と出力装置40の間に設けられ、中間部材30と出力装置40の間でのトルク伝達を可能とする。バネSP2は、トルク伝達方向に弾性変形可能に設けられる。バネSP2は、例えばストレートコイルスプリングやアークコイルスプリング等であってよい。バネSP2は、中間部材30と出力装置40との間に複数配置されうるバネを包括的に表す要素である。
第1クラッチCL1は、出力装置40内で要素間を切り離し可能に設けられる。本実施例では、第1クラッチCL1は、出力部材41とモータジェネレータ42との間に設けられる。第1クラッチCL1は、制御装置(図示せず)により電子制御され、各種の条件に従って係合状態と非係合状態との間で切り替えられる。例えば、第1クラッチCL1は、エンジン2の動力とモータジェネレータ42の動力の組み合わせによる走行モードにおいて、係合状態とされる。また、第1クラッチCL1は、モータジェネレータ42の動力のみによる走行モードにおいて、非係合状態とされることで、出力部材41とモータジェネレータ42との間を切り離す。
第2クラッチCL2は、出力装置40内で要素間を切り離し可能に設けられる。本実施例では、第2クラッチCL2は、モータジェネレータ42と変速機43との間に設けられる。なお、変形例では、第2クラッチCL2は、変速機43内に組み込まれてもよい。
第2クラッチCL2は、制御装置(図示せず)により電子制御され、各種の条件に従って、係合状態、非係合状態、及びスリップ状態との間で切り替えられる。すなわち、第2クラッチCL2は、付与される油圧が制御されることによりその係合圧が制御され、伝達トルク容量が制御される。なお、“係合状態”とは、直結係合状態を表し、具体的には、摩擦係合要素の係合部材間に回転数差(滑り)が略0であるが、回転数差が僅かに生じている状態を除外するものではない。また、“非係合状態”とは、制御上の解放状態を表し、摩擦部材同士の引き摺りに起因して伝達トルク容量が僅かに生じている状態を除外するものではない。
例えば、第2クラッチCL2は、モータジェネレータ42の動力を利用したエンジン2の始動時に非係合状態とされることで、モータジェネレータ42と変速機43との間を切り離す。また、第2クラッチCL2は、モータジェネレータ42による発電制御時に非係合状態とされることで、モータジェネレータ42と変速機43との間を切り離す。また、第2クラッチCL2は、例えば、エンジン回転数が、あらかじめ定められた閾値以下である場合にスリップ状態とされてもよい。閾値は、例えば係合状態であっても振動が問題とならないエンジン回転数範囲の下限(後出の図4BのNth1参照)に対応してよい。
次に、図1に示す駆動装置10に係るねじり振動系の特性について、比較例を参照しつつ説明する。
図2は、駆動装置10に係るねじり振動系のモデル図である。
図2に示すモデルは、駆動装置10に係るねじり振動系をモデル化したものであり、m1は、出力装置40の慣性モーメントに対応し、m1の詳細は後述する。また、m2は、中間部材30の慣性モーメントを表し、m3は、エンジン2及び入力部材20の慣性モーメントを表す。また、k1は、バネSP3のバネ定数を表し、k2は、バネSP2のバネ定数を表し、k3は、バネSP1のバネ定数を表す。m1〜m3及びk1〜k3は、設計パラメータであり、以下で説明する態様でチューニングされる。また、x1は、出力装置40のねじり方向の変位を表し、x2は、中間部材30のねじり方向の変位を表し、x3は、入力部材20のねじり方向の変位を表す。
図2に示すモデルは、運動方程式から、次の関係式を満たす。
ここで、T(t)は、外力を表し、具体的には、エンジン2の動力である。
共振点は、モデルのねじり方向の変位の振幅が時間とともに増加していく点であり、0=det[K−λM]となる。ここで、K及びMは、以下のとおりである。
0=det[K−λM]を解くと、以下の関係式が得られる。
数5の式からλが求まると、当該λを数6の式に代入することで、共振点に係る振動数、すなわち共振周波数を算出できる。なお、振動数fは、エンジン回転数に換算可能なパラメータである。以下では、共振周波数に対応するエンジン回転数とは、このようにして求まる共振点に係る振動数fの換算値であるとする。
ここで、第2クラッチCL2の状態に応じた共振周波数の現れ方について説明する。
第2クラッチCL2の係合状態では、第2クラッチCL2によりモータジェネレータ42と変速機43が直結状態となる。従って、第2クラッチCL2の係合状態では、図2に示すモデルにおいて、m1は、出力装置40全体の慣性モーメントである。ただし、m1は、出力装置40の慣性モーメントに影響する第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2の慣性モーメントを更に含んでよい。
他方、第2クラッチCL2の非係合状態では、第2クラッチCL2によりモータジェネレータ42と変速機43が切り離されるので、図2に示すモデルにおいて、m1は、出力装置40のうちの、出力部材41及びモータジェネレータ42の慣性モーメントである。なお、この際、同様に、m1は、第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2の一部(モータジェネレータ42側の要素)の慣性モーメントを更に含んでよい。
このようにして、m1は、係合状態と非係合状態とで異なる。また、非係合状態では、第2クラッチCL2によりモータジェネレータ42と変速機43が切り離されるので、図2に示すモデルにおいて、k1は、0(剛体)となる。
このように係合状態と非係合状態とでは、モデルが実質的に異なることになるので、共振周波数の現れ方も異なってくる。より具体的には、係合状態と非係合状態とでは、各共振点での振動モードが異なってくる。すなわち、第2クラッチCL2を配置せず、入力部材の前側(動力伝達経路でエンジン側)にクラッチを配置するような比較構成(図示せず)では、当該クラッチの状態の如何に関わらず、各共振点での振動モードは同じであるが、本実施例の場合は、係合状態と非係合状態とで、各共振点での振動モードが異なってくる。
図3は、各共振点での振動モードの説明図(表図)であり、各要素の捩じり方向の変位態様を模式的に示す図である。
図3には、係合状態と非係合状態とで分けて、各振動モードであるモード1〜5までが模式図とともに示される。模式図の各縦棒は、図1に四角で示した各要素(左からエンジン2、入力部材20、中間部材30、出力部材41、モータジェネレータ42、変速機43、及び車輪4)に対応付けられる。ただし、モデル上、車輪4は固定であるので、車輪4に対応する縦棒は図示されていない。また、模式図の各縦棒は、各要素の中立位置からの捩じり方向の変位を模式的に表し、縦棒の長さが長いほど捩じり方向の変位が大きいことを示す。また、縦棒の向き(上側か下側)は、捩じり方向の相違を表し、一方側は捩じり方向が時計方向であり、他方側は捩じり方向が反時計方向である。なお、各要素は、捩じり方向を反転させながら振動し、図3は、ある瞬間的な(例えば振幅が最大となったときの)状態を示す。また、図3では、バネSP1〜バネSP3のうちの、ねじり方向が逆になる要素間のバネだけが図示されている。
図3に示すように、係合状態は、3つのモード1〜3を備える。モード1は、すべての要素が車体側に対して同じ方向に捩じれる(相対回転する)モードである。モード2は、中間部材30及び出力装置40がバネSP1及びバネSP3を介して入力部材20及び車体側に対して逆方向に捩じれるモードである。モード3は、中間部材30がバネSP1及びバネSP2を介して入力部材20及び出力装置40(及び車体側)に対して逆方向に捩じれるモードである。すなわち、中間部材30がその中立位置から一の方向(例えば時計方向)に捩じれるのに対して、入力部材20及び出力装置40は、それぞれの中立位置から逆方向(例えば反時計方向)に捩じれる。このようにして、係合状態では、3つのバネ要素(バネSP1、バネSP2、及びバネSP3)に起因した3つのモード1〜3が選択的に形成される。以下では、モード3のような、中間部材30がバネSP1及びバネSP2を介して入力部材20及び出力装置40(及び車体側)に対して逆方向に捩じれるモードを、「中間部材振動モード」とも称する。
図3に示すように、非係合状態では、2つのモード4〜5が選択的に形成される。なお、非係合状態では、上述のように、変速機43はモータジェネレータ42から切り離されるので、変速機43の捩じり方向の変位は0とされる(従って、非係合状態では図示されず)。モード4は、中間部材30及び出力装置40(出力部材41及びモータジェネレータ42)がバネSP1を介して入力部材20に対して捩じれるモードである。モード5は、中間部材30がバネSP1及びバネSP2を介して入力部材20及び出力装置40に対して逆方向に捩じれるモード(中間部材振動モード)である。すなわち、中間部材30が一の方向(例えば時計方向)に捩じれるのに対して、入力部材20及び出力装置40は、逆方向(例えば反時計方向)に捩じれる。このようにして、非係合状態では、2つのバネ要素(バネSP1及びバネSP2)に起因した2つのモード4〜5が選択的に形成される。
図4A及び図4Bは、本実施例による駆動装置10に係るねじり振動系の特性を示す図であり、図4Aは、第2クラッチCL2の係合状態と非係合状態のそれぞれにおけるねじり振動系の共振周波数を、エンジン回転数を横軸として示す図であり、図4Bは、第2クラッチCL2の係合状態、非係合状態、及びスリップ状態のそれぞれに係る振動特性波形W1〜W3を示す図である。図4Bでは、横軸にエンジン回転数[rpm]を取り、縦軸にドライブシャフトのトルク変動[dB]を取り、各振動特性波形W1〜W3が示される。図4Bに示す各振動特性波形W1〜W3は、解析ソフトウェアを用いて得られるシミュレーション結果に基づく。振動特性波形W1は、係合状態での振動特性波形であり、振動特性波形W2は、非係合状態での振動特性波形であり、振動特性波形W3は、スリップ状態での振動特性波形である。なお、ドライブシャフトのトルク変動は、車体に伝わる振動の指標値である。ドライブシャフトのトルク変動が大きいほど、車体に伝わる振動レベルが高くなる。
図4A及び図4Bには、エンジン回転数の常用域の下限値Nthが示されている。本実施例では、エンジン回転数の常用域の下限値Nthは、一例として1000[rpm]である。なお、下限値Nthは、エンジン回転数の常用域には含まれない下側の限界値を意味する。
図4Aは、図4Bに示す各振動特性波形W1〜W3における共振点をプロットした図に相当する。振動特性波形W1は、モード1〜3のそれぞれに係る共振点401〜403を備える。また、振動特性波形W2は、モード4〜5のそれぞれに係る共振点404〜405を備える。
スリップ状態は、係合状態と非係合状態との間の状態であり、従って、スリップ状態に係る振動特性波形W3は、係合状態に係る振動特性波形W1に係る共振点に対応する各共振点と、非係合状態に係る振動特性波形W2に係る共振点に対応する各共振点を含む。すなわち、振動特性波形W3は、モード1〜5のそれぞれに係る共振点を備えることになる。
ここで、スリップ状態は比較的高い減衰機能を有するので、スリップ状態に係る振動特性波形W3は、ドライブシャフトのトルク変動が、振動特性波形W1及び振動特性波形W2よりも有意に低減される。例えば、スリップ状態に係る振動特性波形W3は、非係合状態に係る振動特性波形W2に対して、図5Bにて矢印R2、R3で示すように、共振周波数が略同じであり、ドライブシャフトのトルク変動が低減された波形となる。なお、ドライブシャフトのトルク変動が低減されるほど、減衰効果が大きいことを意味する。
次に、比較例を参照して、本実施例による駆動装置10の効果を説明する。
図5A及び図5Bは、比較例による駆動装置に係るねじり振動系の特性を示す図であり、図4A及び図4Bに対するそれぞれ対比として示される図である。図の見方は、図4A及び図4Bと同じである。図5Bには、各振動特性波形W10〜W30が示される。図5Bに示す各振動特性波形W10〜W30は、解析ソフトウェアを用いて得られるシミュレーション結果に基づく。振動特性波形W10は、係合状態での振動特性波形であり、振動特性波形W20は、非係合状態での振動特性波形であり、振動特性波形W30は、スリップ状態での振動特性波形である。図5A及び図5Bには、エンジン回転数の常用域の下限値Nthが示されている。振動特性波形W10は、モード1〜3のそれぞれに係る共振点501〜503を備える。また、振動特性波形W20は、モード4〜5のそれぞれに係る共振点504〜505を備える。このため、振動特性波形W30は、モード1〜5のそれぞれに係る共振点を備えることになる。
比較例は、本実施例に対して、各種設計パラメータであるm1〜m3及びk1〜k3が異なるだけである。
ところで、第2クラッチCL2の状態の如何に関わらず、エンジン回転数の常用域内でドライブシャフトのトルク変動が基準値D0(図4B及び図5B参照)を超えると、車両の使用中に、車体に望ましくない振動が伝わってしまう。かかる振動は、車両のユーザに不快感を与える可能性があり、車両の商品性を高める観点から無くされる又は低減されることが望ましい。なお、共振点では、振動レベルが高くなるが故に、ドライブシャフトのトルク変動が基準値D0を超え易くなる。
この点、比較例では、図5Aに示すように、係合状態では、共振点501〜503は、エンジン回転数の常用域の下限値Nthよりも低いものの、非係合状態では、共振点504〜505のうちの、共振点505(非係合状態での中間部材振動モードに係る共振点)が、下限値Nthよりも高い。すなわち、非係合状態では、共振点505がエンジン回転数の常用域内に位置する。このように、係合状態では、中間部材振動モードに係る共振点は、下限値Nthよりも低いものの、非係合状態では、中間部材振動モードに係る共振点が図5Aで矢印R10にて示すように高くなる方向に移動して、下限値Nthを超える。また、非係合状態では、中間部材振動モードに係る共振点は、図5Bに示すように、ドライブシャフトのトルク変動が基準値D0を超える。このため、スリップ状態においても、当該中間部材振動モードに係る共振点で、ドライブシャフトのトルク変動が基準値D0を超える可能性がある。換言すると、スリップ状態では、より高い減衰効果(係合状態で得られる減衰効果よりも高い減衰効果)が期待できるものの、中間部材振動モードに係る共振点がエンジン回転数の常用域内に位置すると、当該中間部材振動モードに係る共振点(図5BのP部参照)に起因して、車両のユーザに不快感を与える可能性がある。
これに対して、本実施例によれば、図4A及び図4Bに示すように、第2クラッチCL2の状態の如何に関わらず、すなわち係合状態及び非係合状態のいずれにもおいても、各モードの共振周波数は、エンジン回転数の常用域の下限値Nthに対応する周波数以下である。すなわち、本実施例でも、非係合状態では、中間部材振動モードに係る共振点が図4Aで矢印R1にて示すように高くなる方向に移動するものの、下限値Nthを超えない。従って、本実施例によれば、中間部材振動モードに係る共振点に起因して、車両のユーザに不快感を与える可能性を低減できる。このようにして、本実施例によれば、入力部材20と出力装置40との間にバネSP1及びバネSP2を介して中間部材30が接続される構造において、ねじり振動系の共振周波数の適正化を図ることができる。
ここで、モード1〜5に係る各共振点は、各種設計パラメータであるm1〜m3及びk1〜k3に応じて多様に変化しうる。従って、モード1〜5に係る各共振点に対応するエンジン回転数がすべて下限値Nthを超えないように、各種設計パラメータであるm1〜m3及びk1〜k3をチューニングすることで、ねじり振動系の共振周波数の適正化を図ることができる。
なお、エンジン回転数の常用域とは、アイドル回転数よりも高い回転数域であり、具体的には、エンジン2からの動力が出力装置40に伝達される状態かつ第2クラッチCL2の非係合状態以外の状態(すなわち係合状態又はスリップ状態)において取りうるエンジン回転数の範囲である。エンジン2からの動力が出力装置40に伝達される状態とは、本実施例では、第1クラッチCL1の係合状態(又はスリップ状態)に対応する。なお、本実施例では、エンジン回転数の常用域の下限値Nthは、1000[rpm]であるが、エンジンの特性等に依存して、下限値Nthは、1000[rpm]以外となる場合もある。
モード1〜5に係る各共振点に対応するエンジン回転数がすべて下限値Nthを超えないように、各種設計パラメータであるm1〜m3及びk1〜k3をチューニングする方法としては、図2に示したモデルを用いることも可能であるし、解析ソフトウェアによるシミュレーションを用いることも可能である。なお、いずれの場合も、m1〜m3のそれぞれは、駆動装置10を構成するすべての構成要素の慣性モーメントが考慮される態様で設定されてもよいし、主要な構成要素の慣性モーメントだけが考慮される態様で設定されてもよい。例えば、m1は、バネSP2からバネSP3までの間にあるすべての構成要素の慣性モーメントが考慮される態様で設定されてもよいし、バネSP2からバネSP3までの間にある主要な構成要素の慣性モーメントだけが考慮される態様で設定されてもよい。
<実施例2>
図6は、実施例2による車両用の駆動装置10Aを含む駆動システム1Aの構成を概略的に示す図である。以下では、上述した実施例1と同様であってよい構成要素については、同一の参照符号を付して説明を省略する場合がある。
駆動システム1Aは、上述した実施例1による駆動システム1に対して、駆動装置10が駆動装置10Aで置換された点が異なる。
実施例2による駆動装置10Aは、入力部材20と、中間部材30と、出力装置40Aと、バネSP1(第1バネの一例)と、バネSP2(第2バネの一例)とを含む。
出力装置40Aは、トルクコンバータ44と、変速機43とを含む。トルクコンバータ44は、図6に概略的に示すように、バネを備えておらず、ドライブ部材440と、ドリブン部材442と、流体継手444と、ロックアップクラッチ446(係合装置の一例)とを含む。流体継手444は、ポンプインペラ4440と、タービンライナ4441と、ステータ4442と、ワンウェイクラッチ4443とを含む。
実施例2の場合も、上述した実施例1の場合と同様、図2に示したモデルが当てはまる。従って、ロックアップクラッチ446の状態に応じて、共振点が変化する。具体的には、ロックアップクラッチ446の係合状態と非係合状態とでは、モデルが実質的に異なることになるので、共振周波数の現れ方も異なってくる。より具体的には、ロックアップクラッチ446の係合状態とロックアップクラッチ446の非係合状態とでは、各共振点での振動モードが異なってくる。
従って、実施例2においても、モード1〜5に係る各共振点に対応するエンジン回転数がすべて下限値Nthを超えないように、各種設計パラメータであるm1〜m3及びk1〜k3をチューニングすることで、ねじり振動系の共振周波数の適正化を図ることができる。
<実施例3>
図7は、実施例3による車両用の駆動装置10Bを含む駆動システム1Bの構成を概略的に示す図である。以下では、上述した実施例1と同様であってよい構成要素については、同一の参照符号を付して説明を省略する場合がある。
駆動システム1Bは、上述した実施例1による駆動システム1に対して、駆動装置10が駆動装置10Bで置換された点が異なる。
実施例3による駆動装置10Bは、第1ダンパ(減衰装置)D1と、クラッチCL3と、モータジェネレータ42と、第2ダンパ(減衰装置)D2と、変速機43とを含む。
第1ダンパD1は、エンジン2とモータジェネレータ42との間に設けられる。第1ダンパD1は、入力要素60と、出力要素61と、ダンパスプリング63とを含む。ダンパスプリング63は、入力要素60と出力要素61との間に設けられ、入力要素60と出力要素61との間でのトルク伝達を可能とする。ダンパスプリング63は、上述した実施例1におけるバネSP1に対応する要素(第1バネの一例)である。
クラッチCL3は、第1ダンパD1とモータジェネレータ42との間に設けられる。クラッチCL3は、上述した実施例1におけるクラッチCL1と実質的に同様である。
第2ダンパD2は、モータジェネレータ42と変速機43との間に設けられる。第2ダンパD2は、モータジェネレータ42と変速機43との間でのトルクの伝達に対して作用する。第2ダンパD2は、入力要素71と、中間要素72と、出力要素73と、ダンパスプリング74と、クラッチ(ロックアップクラッチ)CL4とを含む。ダンパスプリング74は、入力要素71と中間要素72との間に設けられ、入力要素71と中間要素72との間でのトルク伝達を可能とする。ダンパスプリング74は、上述した実施例1におけるバネSP2に対応する要素(第2バネの一例)である。
クラッチCL4は、中間要素72と出力要素73との間に設けられ、中間要素72と出力要素73との間を切り離し可能に設けられる。クラッチCL4は、上述した実施例1における第2クラッチCL2に対応する要素(係合装置の一例)である。クラッチCL4は、上述した実施例1における第2クラッチCL2と同様、例えば、エンジン回転数が、あらかじめ定められた閾値以下である場合にスリップ状態とされてもよい。
実施例3では、第1ダンパD1の入力要素60が、入力部材20Bを形成し、第1ダンパD1の出力要素61と、モータジェネレータ42と、第2ダンパD2の入力要素71とが、中間部材30Bを形成する。また、第2ダンパD2の中間要素72及び出力要素73と、変速機43とが、出力装置40Bを形成する。このようにして、実施例3においても、駆動装置10Bは、入力部材20Bと、中間部材30Bと、出力装置40Bと、ダンパスプリング63であるバネ要素(第1バネの一例)と、ダンパスプリング74であるバネ要素(第2バネの一例)とを含む。
従って、実施例3の場合も、上述した実施例1の場合と同様、図2に示したモデルが当てはまる。具体的には、m1は、出力装置40Bの慣性モーメントに対応し、中間要素72、出力要素73、及び変速機43の慣性モーメントである。すなわち、図2に示すモデルにおいて、m1は、出力装置40B全体の慣性モーメントである。ただし、m1は、出力装置40Bの慣性モーメントに影響するクラッチCL4の慣性モーメントを更に含んでよい。同様に、m2は、中間部材30Bの慣性モーメントに対応し、出力要素61、モータジェネレータ42、及び入力要素71の慣性モーメントである。すなわち、図2に示すモデルにおいて、m2は、中間部材30B全体の慣性モーメントである。ただし、m2は、中間部材30Bの慣性モーメントに影響するクラッチCL3の慣性モーメントを更に含んでよい。同様に、m3は、エンジン2及び入力部材20Bの慣性モーメントに対応する。また、k1は、バネSP3(ドライブシャフト)のバネ定数を表し、k2は、第2ダンパD2(ダンパスプリング74)のバネ定数を表し、k3は、第1ダンパD1(ダンパスプリング63)のバネ定数を表す。
従って、実施例3においても、第2ダンパD2のクラッチCL4の状態に応じて、共振点が変化する。具体的には、第2ダンパD2のクラッチCL4の係合状態と非係合状態とでは、モデルが実質的に異なることになるので、共振周波数の現れ方も異なってくる。より具体的には、第2ダンパD2のクラッチCL4の係合状態と非係合状態とでは、各共振点での振動モードが異なってくる。
従って、実施例3においても、上述した実施例1の場合と同様、アンロック状態において、より高い減衰効果を得るべくスリップ状態を形成すると、中間部材振動モードに係る共振点に起因した新たな不都合が生じる。
この点、実施例3においても、アンロック状態においてスリップ状態が形成されずに、ロック状態においてスリップ状態が形成される。これにより、スリップ状態における中間部材振動モードに係る共振点に起因した上記の不都合を解消できる。
<実施例4>
図8は、実施例4による車両用の駆動装置10Cを含む駆動システム1Cの構成を概略的に示す図である。以下では、上述した実施例3と同様であってよい構成要素については、同一の参照符号を付して説明を省略する場合がある。
駆動システム1Cは、上述した実施例3による駆動システム1Bに対して、駆動装置10Bが駆動装置10Cで置換された点が異なる。
実施例4による駆動装置10Cは、上述した実施例3による駆動装置10Bに対して、第2ダンパD2が第2ダンパ(減衰装置)D3で置換された点が異なる。
第2ダンパD3は、上述した実施例3による第2ダンパD2に対して、流体継手76が追加された点が異なる。
流体継手76は、入力要素71と出力要素73との間に設けられる。流体継手76は、ポンプインペラ760と、タービンライナ761と、ステータ762と、ワンウェイクラッチ763とを含む。
実施例4においても、上述した実施例3と同様、第1ダンパD1の入力要素60が、入力部材20Bを形成し、第1ダンパD1の出力要素61と、モータジェネレータ42と、第2ダンパD2の入力要素71とが、中間部材30Bを形成する。また、第2ダンパD2の中間要素72及び出力要素73と、変速機43とが、出力装置40Cを形成する。このようにして、実施例4においても、駆動装置10Cは、入力部材20Bと、中間部材30Bと、出力装置40Cと、ダンパスプリング63であるバネ要素(第1バネの一例)と、ダンパスプリング74であるバネ要素(第2バネの一例)とを含む。
従って、実施例4の場合も、上述した実施例1の場合と同様、図2に示したモデルが当てはまる。具体的には、m1は、出力装置40Cの慣性モーメントに対応し、中間要素72、出力要素73、及び変速機43の慣性モーメントである。ただし、m1は、出力装置40Cの慣性モーメントに影響するクラッチCL4やタービンライナ761の慣性モーメントを更に含んでよい。同様に、m2は、中間部材30Bの慣性モーメントに対応し、出力要素61、モータジェネレータ42、及び入力要素71の慣性モーメントである。ただし、m2は、中間部材30Bの慣性モーメントに影響するクラッチCL3やポンプインペラ760の慣性モーメントを更に含んでよい。同様に、m3は、エンジン2及び入力部材20Bの慣性モーメントに対応する。また、k1は、バネSP3(ドライブシャフト)のバネ定数を表し、k2は、第2ダンパD2(ダンパスプリング74)のバネ定数を表し、k3は、第1ダンパD1(ダンパスプリング63)のバネ定数を表す。
従って、第2ダンパD2のクラッチCL4の状態に応じて、共振点が変化する。具体的には、第2ダンパD2のクラッチCL4の係合状態と非係合状態とでは、モデルが実質的に異なることになるので、共振周波数の現れ方も異なってくる。より具体的には、第2ダンパD2のクラッチCL4の係合状態と非係合状態とでは、各共振点での振動モードが異なってくる。
従って、実施例4においても、上述した実施例1の場合と同様、アンロック状態において、より高い減衰効果を得るべくスリップ状態を形成すると、中間部材振動モードに係る共振点に起因した新たな不都合が生じる。
この点、実施例4においても、アンロック状態においてスリップ状態が形成されずに、ロック状態においてスリップ状態が形成される。これにより、スリップ状態における中間部材振動モードに係る共振点に起因した上記の不都合を解消できる。
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。
例えば、上述した実施例において、エンジン回転数の常用域の下限値を直接的な目標とせずに、モード1〜5に係る各共振点に対応するエンジン回転数がすべて1000[rpm]を超えないように各種設計パラメータであるm1〜m3及びk1〜k3をチューニングしてもよい。これは、一般的なエンジン回転数の常用域の下限値は、1000[rpm]以上であることが多いためである。この場合、エンジン回転数の常用域の下限値が1000[rpm]以上であれば、ねじり振動系の共振周波数の適正化が実現されることになる。
<付記>
以上の実施例に関し、更に以下を開示する。なお、以下で記載する効果のうちの、一の形態に対する追加的な各形態に係る効果は、当該追加的な各形態に起因した付加的な効果である。
一の形態は、エンジン(2)からの動力が伝達される入力部材(20)と、
第1バネ(SP1)と、
前記入力部材(20)に前記第1バネ(SP1)を介して接続され、前記入力部材(20)から前記第1バネ(SP1)を介して回転トルクが伝達可能な中間部材(30)と、
第2バネ(SP2)と、
係合装置(CL2、446)と、
前記中間部材(30)に前記第2バネ(SP2)を介して接続され、前記中間部材(30)から前記第2バネ(SP2)を介して回転トルクが伝達可能な出力装置(40、40A)であって、前記係合装置(CL2、446)を介して回転トルクが伝達可能な第1要素(41、42、440)と第2要素(43、442)とを含む出力装置(40、40A)とを含み、
前記入力部材(20)、前記中間部材(30)、及び前記出力装置(40、40A)を含むねじり振動系の共振周波数であって、前記中間部材(30)が前記入力部材(20)及び前記出力装置(40、40A)に対して捩じられる振動モードの共振周波数は、前記係合装置(CL2、446)の係合状態及び非係合状態のいずれにおいても、エンジン回転数の常用域の下限値に対応する周波数以下である、車両用駆動装置(10)である。
本形態によれば、入力部材(20)と出力装置(40、40A)との間に第1バネ(SP1)及び第2バネ(SP2)を介して中間部材(30)が接続される構造において、係合状態及び非係合状態のいずれにおいてもエンジン回転数の常用域の下限値に対応する周波数以下である。これにより、中間部材(30)が入力部材(20)及び出力装置(40、40A)に対して捩じられる振動モードの共振が、係合装置(CL2、446)の状態の如何に関わらず、エンジン回転数の常用域で生じず、ねじり振動系の共振周波数の適正化を図ることができる。
また、本形態においては、前記常用域は、前記エンジン(2)からの動力が前記出力装置(40、40A)に伝達される状態かつ前記係合装置(CL2、446)の非係合状態以外の状態において取りうるエンジン回転数の範囲であってもよい。
この場合、エンジン(2)からの動力に起因した振動が車体に伝わる可能性がある常用域において、ねじり振動系の共振周波数の適正化を図ることができる。
また、本形態においては、前記共振周波数は、以下の関係式から求められる値が用いられてよく、m1は、前記出力装置(40、40A)の慣性モーメントに対応し、m2は、前記中間部材(30)の慣性モーメントを表し、m3は、前記エンジン(2)及び前記入力部材(20)の慣性モーメントを表し、k1は、前記出力装置(40、40A)と駆動輪との間のねじり方向のバネ定数を表し、k2は、前記第2バネ(SP2)のバネ定数を表し、k3は、前記第1バネ(SP1)のバネ定数を表し、T(t)は外力に対応し、x1は、前記出力装置(40、40A)のねじり方向の変位を表し、x2は、前記中間部材(30)のねじり方向の変位を表し、x3は、前記入力部材(20)のねじり方向の変位を表す。
この場合、簡易なバネモデルを用いて、各種設計パラメータであるm
1〜m
3及びk
1〜k
3をチューニングできる。
また、本形態においては、前記第1要素(41、42)は、モータジェネレータ(42)と出力部材(41)とを含み、前記第2要素(43、442)は、変速機(43)を含み、
前記入力部材(20)、前記第1バネ(SP1)、前記中間部材(30)、前記第2バネ(SP2)、及び前記出力部材(41)は、減衰装置を形成するものであってもよい。
この場合、モータジェネレータ(42)と変速機(43)とを含む駆動装置(10)において、ねじり振動系の共振周波数の適正化を図ることができる。