以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」とも称呼する。)について図面を参照しながら説明する。尚、説明に用いる各図は、概念図であり、各部の形状は必ずしも厳密なものではない場合がある。
図1に示すように、本実施形態の車両10は、駆動源としてのエンジン11、クラッチ・ダンパ12、トランスミッション13、車輪14、及び、駆動源としての電動モータ15を備えている。エンジン11は、複数のシリンダ及びピストンを有する多筒内燃機関であり、ガソリンや軽油等を燃料として動力(エンジントルク)を発生させる。エンジン11は、エンジントルクを出力する出力軸としてのクランクシャフト16を備えている。クランクシャフト16は、クランクシャフト16と一体に回転するフライホイール16aを介して、クラッチ・ダンパ12に接続されている。
クラッチ・ダンパ12は、円環状のクラッチ部12aと、クラッチ部12aの内周に連結された円環状のトーションダンパ部12bと、を有している。クラッチ部12aは、フライホイール16aと、フライホイール16aに固定されたクラッチカバーのプレッシャープレート(図示省略)と、に挟持されるようになっている。クラッチ部12aは、フライホイール16aと摩擦係合することによってエンジントルクをトランスミッション13のインプットシャフト17に伝達し、フライホイール16aとの摩擦係合が解除されることによってエンジントルクのインプットシャフト17(トランスミッション13)への伝達を遮断する。即ち、クラッチ部12aは、エンジン11のクランクシャフト16及びトランスミッション13のインプットシャフト17を断接する。
トーションダンパ部12bは、内周にてトランスミッション13のインプットシャフト17に連結されている。トーションダンパ部12bは、クラッチ部12a(即ち、フライホイール16aでありクランクシャフト16)と一体に回転するアウタープレート(図示省略)と、インプットシャフト17と一体に回転するインナープレート(図示省略)と、インナープレートに固定されてアウタープレートに対して摺動するスラスト部材(図示省略)と、アウタープレート及びインナープレートを連結するように円周方向にて等間隔に配置された複数の圧縮コイルバネ(図示省略)と、を備えた周知のトーションダンパである。
トーションダンパ部12bは、クラッチ部12aが摩擦係合している(即ち、接続状態でエンジントルクを伝達している)ときにアウタープレートに対してインナープレートが相対回転するようになっている。これにより、トーションダンパ部12bは、クランクシャフト16に対してインプットシャフト17の相対回転を許容する。
トーションダンパ部12bは、クランクシャフト16とインプットシャフト17とが相対回転するとき、スラスト部材が円周方向にてアウタープレートに対して摺動し、且つ、圧縮コイルバネが円周方向にて弾性変形する。これにより、トーションダンパ部12bは、スラスト部材が発生する摩擦力及び圧縮コイルバネが伸縮して発生する弾性力によってエンジン11側から入力されるトルク変動(捩じり振動)を減衰する。そして、トーションダンパ部12bは、インプットシャフト17に対してトルク変動を減衰したエンジントルク(以下、このエンジントルクを「ダンパトルク」とも称呼する。)を伝達する。
ここで、相対回転によってクランクシャフト16とインプットシャフト17との間に相対角度差が生じた場合において、トーションダンパ部12bは、円周方向にて捩れ変形を生じる。この場合、トーションダンパ部12bは、スラスト部材が発生する摩擦力及び圧縮コイルバネが発生する弾性力により、捩れ変形に伴うトルクTdamp(以下、このトルクを「捩れトルクTdamp」と称呼する。)が発生する。従って、インプットシャフト17に伝達されるダンパトルクには、捩れトルクTdampが含まれる。尚、後述するように、捩れトルクTdampは、トーションダンパ部12bの捩れ方向について予め設定されたダンパ剛性Kと、クランクシャフト16とインプットシャフト17との相対角度差と、を乗算することにより、算出される。
トランスミッション13は、インプットシャフト17及びドライブシャフト18を有している。トランスミッション13は、前進用の複数(例えば、六つ)の変速段、後進用の一つの変速段、及び、ニュートラル段を有する周知の有段変速機(オートマチック・トランスミッションやマニュアル・トランスミッション等)である。トランスミッション13の変速段は、図示を省略するシフトレバー等の操作に応じて切り替えられる。具体的に、トランスミッション13の変速段は、減速比(ドライブシャフト18の回転数に対するインプットシャフト17の回転数の割合)が変更されることにより形成される。
電動モータ15は、後述する制御装置30によって駆動制御される。本実施形態において、電動モータ15は、インプットシャフト17、トランスミッション13及びドライブシャフト18のうちのトランスミッション13に対してモータシャフト19を介して直結されている。電動モータ15は、駆動回路20を介して制御装置30に接続されている。
車両10においては、トランスミッション13が、インプットシャフト17を介して入力されたダンパトルク及びモータシャフト19を介して入力された電動モータ15の動力(モータトルク)をドライブシャフト18から出力する。ドライブシャフト18は、図示省略のディファレンシャル等を介して、ダンパトルク及びモータトルクを車輪14に伝達する。尚、以下の説明において、エンジン11の動力(エンジントルク)を車輪14に伝達するクランクシャフト16、クラッチ・ダンパ12、インプットシャフト17、トランスミッション13、ドライブシャフト18及びモータシャフト19をまとめて「パワートレーン」と称呼する。
又、車両10は、クランク角センサ21、モータ回転角センサ22、アクセルポジションセンサ23、ストロークセンサ24、及び、シフトポジションセンサ25を備えている。クランク角センサ21は、エンジン11に設けられている。クランク角センサ21は、クランクシャフト16の回転角を表すクランク角θ1を検出して制御装置30に出力する。モータ回転角センサ22は、電動モータ15(より具体的には、モータシャフト19)に設けられている。モータ回転角センサ22は、電動モータ15の回転角を表すモータ回転角θ2を検出して制御装置30に出力する。
アクセルポジションセンサ23は、アクセルに設けられている。アクセルポジションセンサ23は、アクセルの開度を表すアクセル開度Paを検出して制御装置30に出力する。ストロークセンサ24は、クラッチ・ダンパ12に設けられている。ストロークセンサ24は、フライホイール16aに対するクラッチ部12aの接続方向に向けた位置(クランクシャフト16の軸方向における位置)を表すクラッチストローク量Scを検出して制御装置30に出力する。シフトポジションセンサ25は、トランスミッション13に設けられている。シフトポジションセンサ25は、トランスミッション13の変速段を表すシフトポジションMを検出して制御装置30に出力する。
車両10に適用される制御装置30は、CPU、ROM、RAM、入出力インターフェース、タイマ等を有するマイクロコンピュータを主要構成部品とするものである。制御装置30は、上記各センサ21〜25のそれぞれによって検出された検出値に基づいて、駆動回路20を介して電動モータ15を駆動制御する。
ところで、パワートレーンには、クラッチ・ダンパ12から捩れトルクTdampを含むダンパトルクが入力される。又、トランスミッション13には、モータシャフト19を介して、電動モータ15が直結されている。従って、パワートレーンには、電動モータ15から回転に伴って発生する慣性トルク成分であるモータ慣性トルクTgiを含むモータトルクが入力される。捩れトルクTdamp及びモータ慣性トルクTgiは、パワートレーンに伝達されると、パワートレーンに振動を発生させる。
そこで、制御装置30は、パワートレーンに発生する(伝達される)振動を制振するように、電動モータ15を駆動制御する。制御装置30は、図2に示すように、制振要否判定部31と、周波数算出部32と、ゲイン算出部33と、トルク算出部34と、フィルタ処理部35と、指令トルク決定部36と、駆動制御部37と、を有している。
制振要否判定部31は、エンジン11側からクラッチ・ダンパ12を介してインプットシャフト17以降のパワートレーンに入力された(伝達された)ダンパトルクに起因する振動を制振するか否かを判定する。具体的に、制振要否判定部31は、アクセルポジションセンサ23からアクセル開度Paを入力するとともに、ストロークセンサ24からクラッチストローク量Scを入力する。
そして、アクセル開度Paが、アクセルの操作がなされていない状態を表す「0」である場合、又は、クラッチストローク量Scが、クラッチ部12aがフライホイール16aから離間している状態を表す所定値Sc0以下である場合、ダンパトルクがインプットシャフト17以降のパワートレーンに入力されていない。このため、制振要否判定部31は、制振制御の要否を表すフラグFRGの値を、制振制御が不要であることを表す「0」に設定する。
一方、制振要否判定部31は、アクセル開度Paが「0」ではなく、且つ、クラッチストローク量Scが所定値Sc0よりも大きい場合、ダンパトルクがパワートレーンに入力される。このため、制振要否判定部31は、フラグFRGの値を、制振制御が必要であることを表す「1」に設定する。制振要否判定部31は、値を「0」又は「1」に設定したフラグFRGを指令トルク決定部36に出力する。
周波数算出部32は、エンジントルクのトルク変動に関連して発生し、エンジン11の回転数Neに比例してエンジン11に発生するトルク脈動のエンジン脈動周波数feを算出する。又、周波数算出部32は、トルク脈動に伴うクランクシャフト16とインプットシャフト17との間の周期的な相対回転と、トーションダンパ部12bにおける円周方向の捩れと、が共振するダンパ共振周波数fsを算出する。
上述したように、エンジン11は、四サイクル(ストローク)ガソリンエンジンであるので、クランクシャフト16が二回転する間に一度、特定の気筒で燃焼が発生する。例えば、エンジン11が四気筒ガソリンエンジンである場合には、クランクシャフト16が180°回転する間に何れか一つのシリンダで燃焼が発生する。シリンダ内で燃焼が発生するとピストンを押し下げる力が発生し、その力がクランクシャフト16を回転させるトルクに変換される。従って、エンジン脈動周波数feは、エンジン11の回転数Ne(以下、「エンジン回転数Ne」と称呼する。)及びエンジン11の気筒数nに比例するとともに、エンジン11のサイクル数cに反比例する関係を有する。
このため、周波数算出部32は、クランク角センサ21から連続してクランク角θ1を入力し、クランク角θ1の変化に基づいてエンジン回転数Neを算出する。そして、周波数算出部32は、下記式1に従ってエンジン脈動周波数feを算出する。
尚、前記式1中の「Ne」はクランク角θ1から算出されるエンジン回転数であり、「n」はエンジン11の気筒数(例えば、n=4)であり、「c」はエンジン11のサイクル数(例えば、c=2)である。周波数算出部32は、算出したエンジン脈動周波数feをゲイン算出部33に出力する。
クラッチ・ダンパ12のトーションダンパ部12bは、インプットシャフト17を介してトランスミッション13に接続されている。この場合、トーションダンパ部12bのダンパ共振周波数fsは、図3に示すように、エンジン回転数Neの変化に対して、トーションダンパ部12bからインプットシャフト17を介してトランスミッション13に伝達される振動の振動伝達率(振動の伝え易さ)の極値(極大値)に対応する。
ここで、ダンパ共振周波数fs(振動伝達率の極大値)は、エンジン回転数Neに対応して変化するため、トランスミッション13の変速段、即ち、シフトポジションMに依存して変化する。具体的には、ダンパ共振周波数fs(振動伝達率の極大値)はシフトポジションMが高速側(高段)になるほどエンジン回転数Neの高回転数側に移動し、ダンパ共振周波数fs(振動伝達率の極大値)はシフトポジションMが低速側(低段)になるほどエンジン回転数Neの低回転数側に移動する関係を有する。このため、周波数算出部32は、シフトポジションセンサ25からシフトポジションMを入力し、入力したシフトポジションMを用いて図3に示すシフトポジション−振動伝達率マップを参照してクラッチ・ダンパ12のダンパ共振周波数fs(=F(M))を算出する。周波数算出部32は、算出したダンパ共振周波数fsをゲイン算出部33に出力する。
ゲイン算出部33は、トルク算出部34が後述する下記式8に従って第一トルク指令Tmを算出するための第一ゲインG1及び第二ゲインG2を算出する。第一ゲインG1は、トーションダンパ部12bが発生する捩れトルクTdampを低減する捩れトルク低減成分Te_dに乗算されるゲインである。第二ゲインG2は、電動モータ15のモータ慣性トルクTgiを低減する慣性トルク低減成分Te_mに乗算されるゲインである。
上述したように、捩れトルクTdampは、クランクシャフト16とインプットシャフト17との間に生じる相対回転により、トーションダンパ部12bに生じる捩れ変形に起因して発生するトルクである。クランクシャフト16とインプットシャフト17とはトーションダンパ部12bを介して連結されている。このため、クランクシャフト16とインプットシャフト17との間の相対回転は、エンジン脈動周波数feがダンパ共振周波数fsと一致するように変化するときに大きくなり、特に、エンジン脈動周波数feがダンパ共振周波数fsから低周波数側に離間する程小さくなる。従って、捩れトルクTdampは、エンジン脈動周波数feがダンパ共振周波数fsと一致するように変化するときに大きくなり、エンジン脈動周波数feがダンパ共振周波数fsから低周波数側に離間する程小さくなる。
一方、モータ慣性トルクTgiは、後述するように、電動モータ15の回転数、より詳しくは、電動モータ15の回転角加速度に比例する。このため、電動モータ15を駆動させた場合、モータ慣性トルクTgiは、電動モータ15の回転数が変化する状況で、換言すれば、電動モータ15の回転角加速度が変化する状況で発生する。ところで、電動モータ15は、モータシャフト19を介してトランスミッション13に接続されており、トランスミッション13はインプットシャフト17及びクラッチ・ダンパ12を介して、クランクシャフト16即ちエンジン11に接続されている。従って、エンジン11がエンジン脈動周波数feにより発生するトルク脈動を有するダンパトルクは電動モータ15に伝達される。
エンジン脈動周波数feがダンパ共振周波数fsよりも小さいダンパトルクが電動モータ15に伝達される状況において電動モータ15を駆動させると、比較的低周波数のトルク脈動の影響を受けて電動モータ15の回転角加速度が変化する。即ち、エンジン脈動周波数feがダンパ共振周波数fsよりも小さい場合には、電動モータ15の回転角加速度の変化が大きくなり、電動モータ15におけるモータ慣性トルクTgiが大きくなる。
逆に、エンジン脈動周波数feがダンパ共振周波数fsよりも大きいダンパトルクが電動モータ15に伝達される状況において電動モータ15を駆動させると、比較的高周波数のトルク脈動の影響を受けて電動モータ15の回転角加速度が変化する。即ち、エンジン脈動周波数feがダンパ共振周波数fsよりも大きい場合には、電動モータ15の回転角加速度の変化が小さくなり、電動モータ15におけるモータ慣性トルクTgiが小さくなる。
このようにエンジン脈動周波数feに依存して大きさが変化する捩れトルクTdamp及びモータ慣性トルクTgiは、インプットシャフト17以降のパワートレーンに無用な振動を生じさせる。従って、ゲイン算出部33は、トルク算出部34が捩れトルクTdamp及びモータ慣性トルクTgiを相殺するように電動モータ15を駆動させる第一トルク指令Tmを算出するための第一ゲインG1及び第二ゲインG2を算出する。
具体的に、ゲイン算出部33は、周波数算出部32からエンジン脈動周波数fe及びダンパ共振周波数fsを入力する。ゲイン算出部33は、これら入力したエンジン脈動周波数fe及びダンパ共振周波数fsを用いて、図4に示すエンジン脈動周波数−ゲインマップを参照することにより、エンジン脈動周波数feに対応する第一ゲインG1及び第二ゲインG2を算出する。
ここで、第一ゲインG1は、図4に示すように、上述した捩れトルクTdampのエンジン脈動周波数feに対する変化特性に合わせて、エンジン脈動周波数feがダンパ共振周波数fsと一致するように変化するにつれて増大し、エンジン脈動周波数feがダンパ共振周波数fsから離間するほど小さくなる変化特性を有する。又、第二ゲインG2は、図4に示すように、上述したモータ慣性トルクTgiのエンジン脈動周波数feに対する変化特性に合わせて、エンジン脈動周波数feが増大するにつれて減少する変化特性を有する。
特に、エンジン脈動周波数feがダンパ共振周波数fsよりも小さい場合にパワートレーンに発生する振動は、捩れトルクTdampよりもモータ慣性トルクTgiの方に起因して発生する。このため、エンジン脈動周波数feがダンパ共振周波数fsよりも小さい場合には第二ゲインG2が第一ゲインG1よりも大きくなるように、ゲイン算出部33は第一ゲインG1及び第二ゲインG2を算出する。又、エンジン脈動周波数feがダンパ共振周波数fsよりも大きい場合にパワートレーンに発生する振動は、モータ慣性トルクTgiよりも捩れトルクTdampの方に起因して発生する。このため、エンジン脈動周波数feがダンパ共振周波数fsよりも大きい場合には第一ゲインG1が第二ゲインG2よりも大きくなるように、ゲイン算出部33は第一ゲインG1及び第二ゲインG2を算出する。ゲイン算出部33は、算出した第一ゲインG1及び第二ゲインG2をトルク算出部34に出力する。
トルク算出部34は、クランク角センサ21からクランク角θ1を入力するとともにモータ回転角センサ22からモータ回転角θ2を入力する。そして、トルク算出部34は、クランク角θ1及びモータ回転角θ2と、ゲイン算出部33から入力した第一ゲインG1及び第二ゲインG2と、を用いて、インプットシャフト17以降のパワートレーンに発生する振動を制振するように電動モータ15を駆動させる第一トルク指令Tmを算出する。図5に概念的にトルク伝達系統を示すように、今、エンジン11からクラッチ・ダンパ12を介してトルクT1がトランスミッション13に入力されるとともに、電動モータ15からトランスミッション13にトルクTgが入力され、トランスミッション13からドライブシャフト18を介して車輪14にトルクT2が出力される状態における運動方程式を考える。
この場合、トランスミッション13においては下記式2が成立し、電動モータ15においては下記式3が成立する。尚、下記式2及び下記式3においては、トランスミッション13及び電動モータ15に入力されるトルクに正の符号を付し、トランスミッション13及び電動モータ15から出力されるトルクに負の符号を付す。
但し、前記式2中の「Itm」は、例えば、トランスミッション13の慣性モーメントを表し、前記式2中の「θ3」は、例えば、トランスミッション13の回転角を表す。又、前記式3中の「Ig」は、電動モータ15の慣性モーメントを表し、前記式2及び前記式3中の「K1」は、例えば、モータシャフト19の捩じり剛性を表す。
ここで、電動モータ15からトランスミッション13に入力されるトルクK1×(θ3−θ2)は、クラッチ・ダンパ12からトランスミッション13に入力されるトルクT1を打ち消すように逆相とするため、下記式4が成立する。
従って、前記式4を前記式3に代入して整理すると、下記式5が成立する。
クラッチ・ダンパ12のトーションダンパ部12bの捩れ剛性であるダンパ剛性をKとすると、クランクシャフト16とインプットシャフト17との間に相対回転が生じる場合、クラッチ・ダンパ12からトランスミッション13に入力されるトルクT1即ち捩れトルクTdampは、下記式6により表すことができる。
前記式6を前記式5に代入して整理すると、電動モータ15が出力するモータトルクTgは下記式7によって表される。
前記式7により表されるモータトルクTgによれば、クラッチ・ダンパ12を介してパワートレーンに入力される捩れトルクTdampに対して前記式7の右辺第一項のトルク成分が逆相の捩れトルク低減成分Te_dとして作用し、電動モータ15の回転に伴ってトランスミッション13に入力されるモータ慣性トルクTgiに対して前記式7の右辺第二項のトルク成分が逆相の慣性トルク低減成分Te_mとして作用する。
ところで、捩れトルクTdampは、クランクシャフト16とインプットシャフト17との相対回転差が大きいほど大きくなる。この場合、相対回転差は、エンジン脈動周波数feがクラッチ・ダンパ12のトーションダンパ部12bのダンパ共振周波数fsと一致する場合に最も大きくなり、エンジン脈動周波数feがダンパ共振周波数fsから離間するほど小さくなる。一方、モータ慣性トルクTgiは、電動モータ15の回転数が大きくなるほど小さくなる。ここで、電動モータ15は、モータシャフト19に直結されており、モータシャフト19の回転はインプットシャフト17の回転、即ち、クランクシャフト16であってエンジン回転数Neの影響を受ける。このため、電動モータ15の回転数はエンジン回転数Ne、換言すれば、エンジン脈動周波数feが大きくなるほど小さくなる。
従って、トルク算出部34は、パワートレーンに発生する振動を制振するために、ゲイン算出部33によって算出された第一ゲインG1を前記式7の右辺第一項によって表される捩れトルク低減成分Te_dに乗算した値と、第二ゲインG2を前記式7の右辺第二項によって表される慣性トルク低減成分Te_mに乗算した値と、を合算する下記式8に従って第一トルク指令Tmを算出する。
トルク算出部34は、算出した第一トルク指令Tmをフィルタ処理部35に出力する。
フィルタ処理部35は、トルク算出部34によって算出された第一トルク指令Tmをバンドパスフィルタ処理する。具体的に、フィルタ処理部35は、周波数算出部32からエンジン脈動周波数feを入力し、エンジン脈動周波数feを通過させる通過帯域(周波数帯域)を有するバンドパスフィルタF(s)を設定する。フィルタ処理部35は、トルク算出部34によって算出された第一トルク指令Tmを入力し、入力した第一トルク指令TmにバンドパスフィルタF(s)を乗算してバンドパスフィルタ処理する。そして、フィルタ処理部35は、第一トルク指令Tmをバンドパスフィルタ処理した第二トルク指令Tm_bpf(=Tm×F(s))を指令トルク決定部36に出力する。
ここで、第一トルク指令Tmは、エンジン脈動周波数fe成分に加えて、エンジン11が車両10を加減速するための周波数成分(例えば、ダンパ共振周波数fsよりも低い周波数成分)を含んでいる。第一トルク指令Tmは、パワートレーンに発生する振動を制振するように電動モータ15にトルクを発生させる指令である。従って、フィルタ処理部35によって第一トルク指令Tmのエンジン脈動周波数fe成分を通過させて第二トルク指令Tm_bpfを生成することにより、エンジン11が車両10を加減速するための周波数成分を減衰させることなく、電動モータ15が発生するトルクによってパワートレーンに発生する振動が制振される。
指令トルク決定部36は、制振要否判定部31による判定結果に応じて、電動モータ15に発生させる制振制御トルク指令Tm_reqを決定する。即ち、指令トルク決定部36は、制振要否判定部31から入力したフラグFRGの値が「0」であればパワートレーンに振動が発生しておらず制振制御が不要であるため、制振制御トルク指令Tm_reqを「0」と決定する。そして、指令トルク決定部36は、「0」に決定した制振制御トルク指令Tm_reqを駆動制御部37に出力する。
一方、指令トルク決定部36は、制振要否判定部31から入力したフラグFRGの値が「1」であればパワートレーンに振動が発生して制振制御が必要である。このため、指令トルク決定部36は、フィルタ処理部35から入力した第二トルク指令Tm_bpfを、電動モータ15の性能及び予め設定されている制振性能目標によって決定された上下限値の範囲となるように上下限処理して、制振制御トルク指令Tm_reqを決定する。そして、指令トルク決定部36は、制振制御トルク指令Tm_reqを駆動制御部37に出力する。
駆動制御部37は、指令トルク決定部36から入力した制振制御トルク指令Tm_reqを用いて図6に示す制振制御トルク指令−目標電流値マップを参照し、電動モータ15に供給する目標電流値Idを決定する。目標電流値Idは、制振制御トルク指令Tm_reqが「0」の場合に「0」と決定され、制振制御トルク指令Tm_reqが大きくなるにつれて大きくなるように決定される。
駆動制御部37は、決定した目標電流値Idに基づき駆動回路20を制御する。この場合、駆動制御部37は、駆動回路20に設けられた電流検出器20aから電動モータ15に流れる電流値をフィードバック入力し、目標電流値Idの電流が電動モータ15に流れるように駆動回路20を制御する。これにより、電動モータ15は、制振制御トルク指令Tm_reqに応じた制振制御用トルクTvを、モータシャフト19を介してトランスミッション13即ちパワートレーンに出力する。尚、駆動制御部37は、例えば、アクセル開度Paに応じた走行用トルクが決定されて車両10を走行させるために電動モータ15を駆動させる場合、制振制御トルク指令Tm_reqに応じた制振制御用トルクTvに加えて走行用トルクを発生させるように電動モータ15を駆動させることも可能である。
次に、上述した制御装置30の作動を、図7に示す「制振制御プログラム」のフローチャートに従って説明する。「制振制御プログラム」は、制御装置30(マイクロコンピュータ)を構成するCPUによって実行される。尚、「制振制御プログラム」は、制御装置30(マイクロコンピュータ)を構成するROMに予め記憶されている。制御装置30は、「制振制御プログラム」の実行を、所定の短い時間が経過する毎にステップS10にて繰り返し開始する。
制御装置30(より詳しくは、CPU)は、ステップS10にて「制振制御プログラム」の実行を開始すると、ステップS11にて、クランク角センサ21、モータ回転角センサ22、アクセルポジションセンサ23、ストロークセンサ24及びシフトポジションセンサ25のそれぞれから検出値を入力する。制御装置30は、各センサ21〜25から、クランク角θ1、モータ回転角θ2、アクセル開度Pa、クラッチストローク量Sc、シフトポジションMを入力すると、ステップS12に進む。
ステップS12においては、制御装置30(制振要否判定部31)は、前記ステップS11にて入力したアクセル開度Pa及びクラッチストローク量Scに基づき、パワートレーンに対する制振制御の要否を判定する。具体的に、制御装置30は、アクセル開度Paが「0」ではなく、且つ、クラッチストローク量Scが所定値Sc0よりも大きければダンパトルクが入力されており、制振制御が必要であるため、「Yes」と判定してステップS13に進む。一方、制御装置30は、アクセル開度Paが「0」又はクラッチストローク量Scが所定値Sc0以下であればダンパトルクが入力されておらず、制振制御が不要であるため、「No」と判定してステップS20に進む。尚、ステップS20においては、制御装置30は、制振制御トルク指令Tm_reqをゼロ(「0」)とする。
ステップS13においては、制御装置30(周波数算出部32)は、エンジン脈動周波数feを算出する。即ち、制御装置30は、前記ステップS11にて入力したクランク角θ1に基づいてエンジン回転数Neを算出する。そして、制御装置30は、エンジン回転数Neを用いた前記式1に従ってエンジン脈動周波数feを算出し、ステップS14に進む。
ステップS14においては、制御装置30(周波数算出部32)は、ダンパ共振周波数fsを算出する。即ち、制御装置30は、前記ステップS11にて入力したシフトポジションMに対応するダンパ共振周波数fsを算出する。この場合、制御装置30は、入力したシフトポジションMを用いて、図3に示すシフトポジション−振動伝達率マップを参照してダンパ共振周波数fsを算出する。そして、制御装置30は、ダンパ共振周波数fsを算出すると、ステップS15に進む。
ステップS15においては、制御装置30(ゲイン算出部33)は、第一ゲインG1及び第二ゲインG2を算出する。即ち、制御装置30は、前記ステップS12にて算出したエンジン脈動周波数fe及び前記ステップS13にて算出したダンパ共振周波数fsを用いて、図4に示すエンジン脈動周波数−ゲインマップを参照することにより、エンジン脈動周波数feに対応する第一ゲインG1及び第二ゲインG2を算出する。そして、制御装置30は、第一ゲインG1及び第二ゲインG2を算出すると、ステップS16に進む。
ステップS16においては、制御装置30(トルク算出部34)は、前記ステップS11にて入力したクランク角θ1及びモータ回転角θ2と、前記ステップS15にて算出した第一ゲインG1及び第二ゲインG2と、を用いた前記式8に従って第一トルク指令Tmを算出する。そして、制御装置30は、第一トルク指令Tmを算出すると、ステップS17に進む。
ステップS17においては、制御装置30(フィルタ処理部35)は、前記ステップS13にて算出したエンジン脈動周波数feを用いて、エンジン脈動周波数feを通過させるバンドパスフィルタF(s)を算出する。そして、制御装置30は、バンドパスフィルタF(s)を算出すると、ステップS18に進む。
ステップS18においては、制御装置30(フィルタ処理部35)は、前記ステップS17にて算出したバンドパスフィルタF(s)を前記ステップS16にて算出した第一トルク指令Tmに乗算してバンドパスフィルタ処理し、第二トルク指令Tm_bpfを算出する。ここで、第一トルク指令Tmは、エンジン11が車両10を加減速する周波数成分を含んでいる。従って、エンジン脈動周波数feを通過させるバンドパスフィルタF(s)を用いて算出された第二トルク指令Tm_bpfは、車両10の加減速に影響を与えることなくパワートレーンに発生する振動を制振するように、電動モータ15にトルクを発生させる。制御装置30は、第二トルク指令Tm_bpfを算出すると、ステップS19に進む。
ステップS19においては、制御装置30(指令トルク決定部36)は、前記ステップS18にて算出した第二トルク指令Tm_bpfを上下限処理して、制振制御トルク指令Tm_reqを決定する。そして、制御装置30は、制振制御トルク指令Tm_reqを決定すると、ステップS21に進む。
前記ステップS12にて制御装置30(制振要否判定部31)が「No」と判定すると、制御装置30(指令トルク決定部36)はステップS20のステップ処理を実行する。ステップS20においては、制御装置30は、制振制御トルク指令Tm_reqをゼロ(「0」)と決定する。そして、制御装置30は、制振制御トルク指令Tm_reqを「0」と決定すると、ステップS21に進む。
ステップS21においては、制御装置30(駆動制御部37)は、前記ステップS19又は前記ステップS20にて決定した制振制御トルク指令Tm_reqに従って、電動モータ15を駆動制御する。即ち、制御装置30は、決定した制振制御トルク指令Tm_reqを用いて、図6に示す制振制御トルク指令−目標電流値マップを参照し、電動モータ15に供給する目標電流値Idを決定する。尚、制御装置30は、前記ステップS20にて制振制御トルク指令Tm_reqを「0」と決定した場合には、目標電流値Idを「0」と決定する。
そして、制御装置30は、駆動回路20の電流検出器20aから電動モータ15に流れる電流値をフィードバック入力し、目標電流値Idの電流が電動モータ15に流れるように駆動回路20を制御する。これにより、電動モータ15は、制振制御トルク指令Tm_reqに応じた制振制御用トルクTvをパワートレーンに対して出力する。
制御装置30は、前記ステップS21にて電動モータ15を駆動制御すると、ステップS22に進む。そして、制御装置30は、ステップS22にて「制振制御プログラム」の実行を一旦終了し、所定の短い時間が経過すると、再び、前記ステップS10にて「制振制御プログラム」の実行を開始する。
ところで、制御装置30が制振制御トルク指令Tm_reqを決定して電動モータ15を駆動制御することにより、パワートレーンに発生した振動は制振される。特に、制振制御トルク指令Tm_reqは、電動モータ15のモータ慣性トルクTgi成分を含んで決定されており、エンジン脈動周波数feがダンパ共振周波数fsよりも小さい場合に第二ゲインG2を大きくすることにより制振効果が顕著になる。このことを図8及び図9を用いて説明する。
上述したように、エンジン脈動周波数feがダンパ共振周波数fsよりも低周波数である場合、クランクシャフト16とインプットシャフト17との間の相対回転が小さくなるので、クラッチ・ダンパ12の捩れトルクTdampは小さくなる。一方、エンジン脈動周波数feがダンパ共振周波数fsよりも低周波数である場合、モータシャフト19を介してトランスミッション13(即ち、インプットシャフト17)に直結された電動モータ15は、回転に伴って発生するモータ慣性トルクTgiが大きくなる。従って、エンジン脈動周波数feがダンパ共振周波数fsよりも低周波数である場合には、主に、電動モータ15のモータ慣性トルクTgiに起因する振動がパワートレーンに発生する。
制御装置30によって駆動制御される電動モータ15は、図8にて破線により示されるダンパトルクに対して、図8にて実線により示すように、制振制御トルク指令Tm_reqに従って逆相となる捩れトルク低減成分Te_d及び慣性トルク低減成分Te_mを有する制振制御用トルクTvをパワートレーンに発生させる。尚、参考として、図8にて一点鎖線により示すトルクは、単に、ダンパトルクと逆相となる逆相トルクを電動モータ15に発生させた場合を示す。
エンジン脈動周波数feがダンパ共振周波数fsよりも低周波数である場合、制振制御トルク指令Tm_reqを決定する第一ゲインG1は図4に示すように第二ゲインG2よりも小さな値に設定される。即ち、この場合には、制振制御トルク指令Tm_reqにおいて、捩れトルクTdampを低減する捩れトルク低減成分Te_dに比べてモータ慣性トルクTgiを低減する慣性トルク低減成分Te_mが大きくなる。
慣性トルク低減成分Te_mを大きくした場合、図9にて実線により示すように、制振制御トルク指令Tm_reqに従って逆相となる制振制御用トルクTvをパワートレーンに発生させた場合のダンパトルクの振幅の大きさは、図9にて一点鎖線により示すように、単に逆相トルクをパワートレーンに発生させた場合と比較して、小さくなっている。これは、捩れトルク低減成分Te_dに比べて慣性トルク低減成分Te_mが大きい制振制御用トルクTvがパワートレーンに入力されることにより、主としてモータ慣性トルクTgiに起因してパワートレーンに発生した振動を良好に低減していることを示している。
又、上述したように、エンジン脈動周波数feがダンパ共振周波数fsに近づく程、パワートレーンに発生する振動は、クラッチ・ダンパ12のトーションダンパ部12bの捩れトルクTdampに起因して発生するようになる。この場合、制振制御トルク指令Tm_reqにおいて、第一ゲインG1が第二ゲインG2よりも大きくなることにより、慣性トルク低減成分Te_mに比べて捩れトルク低減成分Te_dが大きくなる。従って、慣性トルク低減成分Te_mに比べて捩れトルク低減成分Te_dが大きい制振制御用トルクTvがパワートレーンに入力されることにより、主として捩れトルクTdampに起因してパワートレーンに発生した振動を良好に低減する。
更に、エンジン脈動周波数feがダンパ共振周波数fsよりも高周波数では、パワートレーンに発生する振動がクラッチ・ダンパ12のトーションダンパ部12bの捩れトルクTdampに起因して発生するようになる。この場合も、制振制御トルク指令Tm_reqにおいて、第一ゲインG1が第二ゲインG2よりも大きくなることにより、慣性トルク低減成分Te_mに比べて捩れトルク低減成分が大きくなる。従って、慣性トルク低減成分に比べて捩れトルク低減成分Te_dが大きい制振制御用トルクTvがパワートレーンに入力されることにより、主として捩れトルクTdampに起因してパワートレーンに発生した振動を良好に低減する。
以上の説明からも理解できるように、上記実施形態の車両の制御装置30は、エンジン11と、トランスミッション13と、エンジン11のクランクシャフト16及びトランスミッション13のインプットシャフト17を断接するクラッチ・ダンパ12のクラッチ部12aと、クラッチ部12aの接続状態においてクランクシャフト16及びインプットシャフト17の相対回転を捩れ変形によって許容するクラッチ・ダンパ12のトーションダンパ部12bと、トランスミッション13のドライブシャフト18に接続された車輪14と、エンジン11の動力(エンジントルク)を車輪14に伝達するパワートレーンを構成するインプットシャフト17、トランスミッション13及びドライブシャフト18の何れかであるトランスミッション13に接続された電動モータ15と、を有する車両10に適用される。
制御装置30は、電動モータ15の駆動を制御するものであり、エンジン11のエンジン回転数Neに比例してエンジン11に発生するトルク脈動の周波数を表すエンジン脈動周波数feを算出するとともに、トーションダンパ部12bがエンジン脈動周波数feと捩れ方向にて共振するダンパ共振周波数fsを算出する周波数算出部32と、エンジン脈動周波数fe及びダンパ共振周波数fsを用いて、エンジン脈動周波数feがダンパ共振周波数fsと一致するように変化するにつれて増大する第一ゲインG1、及び、エンジン脈動周波数feが増大するにつれて減少する第二ゲインG2を算出するゲイン算出部33と、トーションダンパ部12bが発生する捩れトルクTdampに対して逆相になる捩れトルク低減成分Te_dと第一ゲインG1とを乗算して算出される値、及び、電動モータ15の回転に伴って発生するモータ慣性トルクに対して逆相となる慣性トルク低減成分Te_mと第二ゲインG2とを乗算して算出される値を合算して、電動モータ15を駆動させる第一トルク指令Tmを算出するトルク算出部34と、電動モータ15にパワートレーンに発生した振動を制振するための制振制御用トルクTvを発生させる制振制御トルク指令Tm_reqを第一トルク指令Tmに基づいて決定する指令トルク決定部36と、制振制御トルク指令Tm_reqに基づいて電動モータ15を駆動制御し、電動モータ15にパワートレーンに対して制振制御用トルクTvを発生させる駆動制御部37と、を備える。
この場合、指令トルク決定部36は、第一トルク指令Tmを上下限処理して制振制御トルク指令Tm_reqを決定することができる。
これらによれば、制御装置30は、エンジン脈動周波数feに応じて、第一ゲインG1及び第二ゲインG2を算出して捩れトルク低減成分Te_d及び慣性トルク低減成分Te_mの大きさ(割合)を変更し、電動モータ15にパワートレーンに発生した振動を制振(減衰)する制振制御用トルクTvを発生させることができる。これにより、特に、エンジン脈動周波数feがダンパ共振周波数fsよりも小さい場合においては、第二ゲインG2が大きく算出されることにより、慣性トルク成分であるモータ慣性トルクTgiに起因してパワートレーンに発生する振動を制振(減衰)させることができる。従って、車両10の走行時において、パワートレーンに発生する振動を良好に制振(減衰)させることができ、運転者が不快な振動や車室内に進入する音(こもり音等)を知覚して不快感を覚えることを抑制することができる。
これらの場合、制御装置30はエンジン脈動周波数feを通過帯域とするバンドパスフィルタを設定し、第一トルク指令Tmをバンドパスフィルタ処理して第二トルク指令Tm_bpfを算出するフィルタ処理部35を有しており、指令トルク決定部36は、第二トルク指令Tm_bpfに基づいて制振制御トルク指令Tm_reqを算出する。
この場合、指令トルク決定部36は、第二トルク指令Tm_bpfを上下限処理して制振制御トルク指令Tm_reqを決定することができる。
これらによれば、電動モータ15からパワートレーンに入力される制振制御用トルクTvは、エンジン11が車両10を加減速するための周波数帯域を含まない。これにより、制振制御用トルクTvは、車両10の加減速に影響を与えることなく、パワートレーンに発生した振動を良好に制振(抑制)することができる。
又、これらの場合、制御装置30はクラッチ・ダンパ12のクラッチ部12aの接続方向に向けたクラッチストローク量Scに応じて、電動モータ15に制振制御用トルクTvを発生させるか否かを判定する制振要否判定部31を有しており、指令トルク決定部36は、制振要否判定部31によって制振制御用トルクTvの発生が不要であると判定された場合、制振制御トルク指令Tm_reqをゼロ(「0」)と決定する。
これによれば、パワートレーンに振動が発生した場合にのみ、電動モータ15に制振制御用トルクTvを発生させることができる。これにより、制御装置30の構成を簡略化することができる。
又、これらの場合、ゲイン算出部33は、エンジン脈動周波数feがダンパ共振周波数fsよりも低周波数のとき、第二ゲインG2を第一ゲインG1よりも大きく設定する。更には、ゲイン算出部33は、エンジン脈動周波数feがダンパ共振周波数fsよりも高周波数のとき、第一ゲインG1を第二ゲインG2よりも大きく設定する。
これらによれば、エンジン脈動周波数feがダンパ共振周波数よりも低周波数である場合、即ち、パワートレーンにモータ慣性トルクTgiを主とする振動が発生する場合には、慣性トルク低減成分Te_mに乗算される第二ゲインG2を第一ゲインG1よりも大きく設定することができる。又、エンジン脈動周波数feがダンパ共振周波数よりも高周波数である場合、即ち、パワートレーンに捩れトルクTdampを主とする振動が発生する場合には、捩れトルク低減成分Te_dに乗算される第一ゲインG1を第二ゲインG2よりも大きく設定することができる。これにより、捩れトルク低減成分Te_d及び慣性トルク低減成分Te_mをエンジン脈動周波数feに応じて適切に増減させることができ、パワートレーンに発生する振動をより良好に制振(抑制)することができる。
又、これらの場合、トルク算出部34は、トーションダンパ部12bの捩れトルクTdampを、捩れ方向におけるトーションダンパ部12bに予め設定されたダンパ剛性Kとクランクシャフト16のクランク角θ1と電動モータ15のモータ回転角θ2とを用いて算出し、電動モータ15のモータ慣性トルクTgiを、電動モータ15に予め設定された慣性モーメントIgと電動モータ15のモータ回転角θ2から算出された回転角加速度θ2’’とを用いて算出することができる。
又、これらの場合、周波数算出部32は、エンジン脈動周波数feをクランクシャフト16のクランク角θ1から算出したエンジン11のエンジン回転数Neを用いて算出し、ダンパ共振周波数fsをトランスミッション13の変速段であるシフトポジションMに応じて算出することができる。
これらによれば、特殊なセンサ類を設けることなく、捩れトルクTdamp、モータ慣性トルクTgi、エンジン脈動周波数fe及びダンパ共振周波数fsを算出することができる。従って、制御装置30の構成を簡略化することができる。
本発明の実施に当たっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて、種々の変形が可能である。
例えば、上記実施形態においては、車両10に搭載されるトランスミッション13が有段変速機(オートマチック・トランスミッション(AT)、マニュアル・トランスミッション(MT)又はオートメイティッド・マニュアル・トランスミッション(AMT)等)であるとした。この場合、トランスミッション13が無段変速機(CVT等)であっても良い。
トランスミッション13が無段変速機の場合、シフトポジションMを検出するシフトポジションセンサ25が省略される。このため、制御装置30(周波数算出部32)は、例えば、変速比とダンパ共振周波数fsとの関係を予め記憶しておくことにより、トランスミッション13の変速比を取得(検出)してダンパ共振周波数fsを算出することができる。
又、上記実施形態においては、制御装置30(周波数算出部32)がクランク角センサ21からクランク角θ1を入力することによりエンジン回転数Neを算出し、このエンジン回転数Neを用いてエンジン11のエンジン脈動周波数feを算出するようにした。このように、クランク角θ1を用いることに代えて、例えば、エンジン11のエンジン回転数Neを直接検出したり、電動モータ15の回転数や、トランスミッション13のインプットシャフト17又はアウトプットシャフトの回転数、ドライブシャフト18又はプロペラシャフトの回転数、車輪14の車輪速等からエンジン回転数Neを算出したりすることも可能である。この場合においても、エンジン回転数Neを用いて、前記式1に従ってエンジン脈動周波数feを算出することができる。
又、上記実施形態においては、指令トルク決定部36は、第二トルク指令Tm_bpfを上下限処理して制振制御トルク指令Tm_reqを決定するようにした。しかしながら、指令トルク決定部36は、例えば、算出された第二トルク指令Tm_bpfが電動モータ15の性能及び予め設定されている制振性能目標の範囲内である場合には、上下限処理を省略して制振制御トルク指令Tm_reqを決定することも可能である。
又、上記実施形態においては、制御装置30がフィルタ処理部35を有するようにした。しかしながら、例えば、トルク算出部34によって算出された第一トルク指令Tmにエンジン11が車両10を加減速する周波数成分を含まれない場合、フィルタ処理部35を省略することも可能である。この場合、指令トルク決定部36は、第一トルク指令Tmを必要に応じて上下限処理して制振制御トルク指令Tm_reqを決定することができる。
又、上記実施形態においては、制御装置30が制振要否判定部31を有するようにした。しかしながら、制振要否判定部31を省略することも可能である。この場合には、制御装置30は、常に、電動モータ15に制振制御用トルクTvを発生させて、パワートレーンに発生した振動を制振する。
又、上記実施形態においては、制御装置30が、図3、図4及び図6に示すように予め設定された各種マップを参照することにより、所望の値を算出する(取得する)ようにした。これに代えて、制御装置30が、図3、図4及び図6のマップに示された関係を表す予め設定された関数を用いて、直接的に所望の値を算出することも可能である。
更に、上記実施形態においては、電動モータ15がモータシャフト19を介してパワートレーンを構成するトランスミッション13に接続されるようにした。これに代えて、パワートレーンを構成するインプットシャフト17又はドライブシャフト18に対して、モータシャフト19を介して、或いは、直接的に、電動モータ15を接続するようにすることも可能である。この場合であっても、電動モータ15は、制振制御用トルクTvをインプットシャフト17又はドライブシャフト18に入力することにより、上記実施形態と同様の効果が得られる。