JP2020033235A - 遷移金属複合水酸化物の製造方法、および、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法 - Google Patents

遷移金属複合水酸化物の製造方法、および、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】遷移金属複合水酸化物を製造する方法において、微粒子を発生させずに生産速度を最大限に高める手段を提供する。【解決手段】晶析反応によって、リチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体である遷移金属複合水酸化物を製造する方法であって、前記反応水溶液の液温25℃基準におけるpH値が12.0以上14.0以下の範囲となるように制御して、核の生成を行う核生成工程と、前記核生成工程で得られた核を含む前記反応水溶液を、液温25℃基準におけるpH値が、前記核生成工程の反応水溶液のpH値よりも低く、かつ、10.5以上12.0以下の範囲となるように制御して、前記核を成長させる粒子成長工程と、を備え、前記粒子成長工程における前記遷移金属原料水溶液の添加速度を、前記粒子成長工程の反応開始から反応終了までの経過時間とともに低減させることを特徴とする。【選択図】図1

Description

本発明は、遷移金属複合水酸化物の製造方法、および、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法に関する。
近年、スマートフォンやタブレットPCなどの携帯情報端末の普及に伴い、高いエネルギ密度を有する小型で軽量な二次電池の開発が強く望まれている。また、ハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、電池式電気自動車などの電気自動車用の電源として高出力の二次電池の開発も強く望まれている。
このような要求を満たす二次電池として、非水電解質二次電池の一種であるリチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池は、負極、正極、電解液などで構成され、その負極および正極の材料には、リチウムを脱離および挿入することが可能な活物質が使用されている。
リチウムイオン二次電池のうち、層状またはスピネル型のリチウム遷移金属含有複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の電圧が得られるため、高エネルギ密度を有する電池として、現在、研究開発が盛んに行われており、一部では実用化も進められている。
リチウムイオン二次電池の正極に用いられる正極活物質(以下、正極活物質)としては、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)粒子、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)粒子、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)粒子、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn)粒子、リチウムニッケルマンガン複合酸化物(LiNi0.5Mn0.5)粒子などのリチウム遷移金属含有複合酸化物が提案されている。
ところで、サイクル特性や出力特性に優れたリチウムイオン二次電池を得るためには、正極活物質が、小粒径で粒度分布が狭い粒子によって構成されていることが必要となる。これは、粒径が小さい粒子は、比表面積が大きく、電解液との反応面積を十分に確保することができるばかりでなく、正極を薄く構成し、かつ、リチウムイオンの正極板内の移動距離を縮めることにより、正極抵抗を低減させることが可能となるためである。また、粒度分布が狭い正極活物質では、充放電の際に各々の正極活物質粒子に印加される電圧がほぼ一定となるため、微粒子の選択的な劣化による電池容量の低下を抑制することが可能となるためである。
ここで、出力特性のさらなる改善を図るためには、正極活物質の内部に、電解液が浸入可能な空間部を形成することが有効である。このような外殻部とその内側にある空間部とからなる中空構造の正極活物質は、粒径が同程度の大きさである中実構造の正極活物質と比べて、電解液との反応面積を大きくすることができるため、正極抵抗を大幅に低減させることが可能となる。なお、正極活物質の粒子形状は、その前駆体となる遷移金属複合水酸化物の粒子性状に大きく影響されることが知られている。したがって、上述した正極活物質を得るためには、その前駆体となる遷移金属複合水酸化物の粒径、粒度分布、および粒子構造などを適切に制御することが必要となる。
たとえば、特許文献1乃至3には、主として核生成が行われる核生成工程と、主として粒子成長が行われる粒子成長工程とに、晶析反応を2つの段階に分離することにより、正極活物質の前駆体となる遷移金属複合水酸化物を製造する方法が開示されている。この方法では、核生成工程および粒子成長工程におけるpH値や反応雰囲気を適切に調整することにより、小粒径で粒度分布が狭く、かつ、微細一次粒子のみからなる低密度の中心部と、板状一次粒子のみからなる高密度の外殻部とからなる二次粒子により構成される遷移金属複合水酸化物を得ている。
このような構造の遷移金属複合水酸化物を前駆体とする正極活物質は、小粒径で粒度分布が狭く、かつ、外殻部とその内側にある空間部とからなる中空構造を備えることができる。したがって、これらの正極活物質を用いた二次電池では、電池容量、出力特性、およびサイクル特性が同時に改善されると考えられる。
特開2012−246199号公報 特開2013−147416号公報 WO2012/131881号公報
このような二次電池を電気自動車などの電源に適用する場合、二次電池にはさらなるサイクル特性の向上が求められる。また、正極活物質をより安価に製造するため、生産性の向上が求められている。しかし、正極活物質の前駆体である遷移金属複合水酸化物の生産速度を上げると、正極活物質中に微粒子が発生しやすくなり二次電池のサイクル特性が低下する問題があった。
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、晶析反応によって、リチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体である遷移金属複合水酸化物を製造する方法において、微粒子を発生させずに生産速度を最大限に高める手段を提供するものである。
発明者らは鋭意検討した結果、遷移金属を含有する原料水溶液を供給する速度を、供給開始からの時間経過にともなって暫時低減させることによって、微粒子を発生させずに生産速度を最大限に高めることができることを見出した。
上述した目的を達成する本発明の一態様は、一種以上の遷移金属を含む遷移金属原料水溶液と、アンモニウムイオン供給体と、を供給して反応水溶液を形成し、晶析反応によって、リチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体である遷移金属複合水酸化物を製造する方法であって、前記反応水溶液の液温25℃基準におけるpH値が12.0以上14.0以下の範囲となるように制御して、核の生成を行う核生成工程と、前記核生成工程で得られた核を含む前記反応水溶液を、液温25℃基準におけるpH値が、前記核生成工程の反応水溶液のpH値よりも低く、かつ、10.5以上12.0以下の範囲となるように制御して、前記核を成長させる粒子成長工程と、を備え、前記粒子成長工程における前記遷移金属原料水溶液の添加速度を、前記粒子成長工程の反応開始から反応終了までの経過時間とともに低減させることを特徴とする。
また、本発明の一態様では、前記粒子成長工程の反応開始時の、前記遷移金属原料水溶液の添加速度をS、前記反応水溶液の全容積をVとし、粒子成長工程開始からt時間経過した時の前記反応水溶液の全容積の増加量をΔV(t)とした場合に、前記粒子成長工程開始からt時間経過した時の前記遷移金属原料水溶液の添加速度S(t)が、式1を満たすことが好ましい。
S(t)=S×V÷(V+ΔV(t))・・・式1
また、本発明の一態様では、前記粒子成長工程の反応開始時の、前記遷移金属原料水溶液の添加速度をS、前記反応水溶液の全容積をVとし、粒子成長工程開始からt時間経過した時の前記反応水溶液の全容積の増加量をΔV(t)とした場合に、前記粒子成長工程開始からt時間経過した時の前記遷移金属原料水溶液の添加速度S(t)が、式2を満たすことが好ましい。
S(t)<S×V÷(V+ΔV(t))・・・式2
また、本発明の一態様では、前記添加速度S(t)を前記粒子成長工程の開始時の所定値から段階的に下げ、前記開始時の前記所定値をSよりも低い値とし、かつ前記添加速度S(t)が式2を満たすことが好ましい。
また、本発明の一態様では、前記遷移金属複合水酸化物が、一般式(A):NixMnyCozt(OH)2+a(x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.95、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上の添加元素)であることが好ましい。
また、本発明の一態様では、前記粒子成長工程後に、前記遷移金属複合水酸化物の表面を、添加元素M(Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上)の化合物によって被覆する、被覆工程を加えることが好ましい。
また、本発明の一態様は、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法であって、これらの製造方法によって得られた遷移金属複合水酸化物と、リチウム化合物とを混合して、リチウム混合物を形成する混合工程と、該リチウム混合物を、酸化性雰囲気中で、650℃〜1000℃の範囲の温度で焼成して、リチウム遷移金属含有複合酸化物を得る焼成工程と、を備えることを特徴とする。
また、本発明の一態様では、前記混合工程において、前記リチウム混合物に含まれるリチウムの物質量の、リチウム以外の金属元素の物質量の合計に対する比率Li/Meが、0.95〜1.5であることが好ましい。
また、本発明の一態様では、前記混合工程の前に、前記遷移金属複合水酸化物を、105℃〜750℃の範囲の温度で熱処理する熱処理工程を備えることが好ましい。
また、本発明の一態様では、前記リチウム遷移金属含有複合酸化物が、一般式(B):Li1+uNiMnCo(−0.05≦u≦0.50、x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.95、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上の添加元素)であることが好ましい。
本発明によれば、晶析反応によって、リチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体である遷移金属複合水酸化物を製造する方法において、微粒子を発生させずに生産速度を最大限に高めることができる。
また、本発明によれば、サイクル特性の良好なリチウムイオン二次電池用正極活物質の原料となる遷移金属複合水酸化物を、工業的に安価な方法で製造することが可能となり、その工業的意義はきわめて大きい。
図1は、本発明の一実施形態に係る遷移金属複合水酸化物を製造する工程の概略フローチャートである。 図2は、本発明の一実施形態に係る遷移金属複合水酸化物からリチウム遷移金属含有複合酸化物を製造する工程の概略フローチャートである。 図3は、電池評価に使用した2032型コイン電池の概略断面図である。
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
上述したように、電気自動車などの電源への適用を前提とした場合、正極活物質に対しては、二次電池におけるさらなるサイクル特性の向上が求められている。また、二次電池をより安価に製造するためには生産性を高める必要があり、正極活物質の前駆体として使用する遷移金属複合水酸化物の生産速度を上げることが望まれる。
しかし、遷移金属複合水酸化物の生産速度を上げようとすると、遷移金属複合水酸化物の微粒子が発生しやすくなる。このような遷移金属複合水酸化物を前駆体として生成される正極活物質を二次電池に使用すると、電極内の微粒子が選択的に劣化し充放電容量の低下が発生することによって、二次電池のサイクル特性が低下する。
この微粒子の発生は、後述する粒子成長工程において、原料である遷移金属化合物水溶液(以下、「原料水溶液」とも言う)の添加速度が、新たな核が発生する下限の添加速度を超えることにより生じる。そして、新たな核が発生する下限の添加速度は、後述するように、粒子成長工程の時間を経るごとに低下する。
このため、原料水溶液の添加を、粒子成長工程初期において微粒子が生成しないような速度で開始したとしても、その速度が、新たな核が発生する下限の原料水溶液の添加速度以上となった場合、微粒子が生成する問題があった。
従来は、微粒子が発生しないよう、粒子成長工程を終了する時点でも新たな核が発生しないような速度にまで、あらかじめ原料水溶液の添加速度を低く抑え、粒子成長工程を行っていた。このため、遷移金属複合水酸化物の生産性が低い問題があった。
このような実情に鑑み、発明者らは、リチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体である遷移金属複合水酸化物の製造方法について、微粒子を発生させずに生産速度を最大限に高める方法を鋭意検討した結果、遷移金属を含有する原料水溶液を供給する速度を、供給開始からの時間経過にともなって暫時低減することによって、微粒子を発生させずに生産速度を最大限に高めることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
以下、本発明の一実施形態に係る遷移金属複合水酸化物の製造方法、および、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法について詳細に説明する。
1.遷移金属複合水酸化物の製造方法
以下、リチウムイオン二次電池用正極活物質の原料として用いる遷移金属複合水酸化物とその製造方法について説明する。
(1−1)遷移金属複合水酸化物
(組成)
本発明の遷移金属複合水酸化物は、一例としてその組成が、以下の一般式(A):NiMnCo(OH)2+a(x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.95、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上の添加元素)で表されるように調製される。このような組成を有する遷移金属複合水酸化物を前駆体として、一例として以下の一般式(B):Li1+uNiMnCo(−0.05≦u≦0.50、x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.95、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上の添加元素)で表されるリチウム遷移金属含有複合酸化物を製造すれば、このリチウム遷移金属含有複合酸化物を正極活物質とする電極を二次電池に用いた場合に、測定される正極抵抗の値を低くできるとともに、サイクル特性等の電池性能を良好なものとすることができる。
なお、遷移金属複合水酸化物を原料として正極活物質を得た場合、該遷移金属複合水酸化物の各遷移金属の物質量の比(Ni:Mn:Co:M)は、得られる正極活物質においても維持される。したがって、本発明の遷移金属複合水酸化物の各遷移金属の物質量の比は、得ようとする正極活物質に要求される物質量の比と同様となるように調製される。
(平均粒径)
本発明の遷移金属複合水酸化物の平均粒径は、1μmを超え、15μm以下、好ましくは平均粒径が3μm以上、8μm以下の範囲に調製される。遷移金属複合水酸化物の平均粒径をこのような範囲に制御することにより、該遷移金属複合水酸化物を原料として得られる正極活物質を所定の平均粒径(1μmを超え、15μm以下)に調製することができる。得られる正極活物質の粒径は原料とした遷移金属複合水酸化物の粒径と相関する。このため、この正極活物質を正極材料に用いた二次電池の特性は、原料とした遷移金属複合水酸化物の粒径に影響される。
遷移金属複合水酸化物の平均粒径が1μm以下であると、得られる正極活物質の平均粒径も小さくなる。正極活物質の平均粒径が小さいと、正極活物質の表面積が増加することで充放電反応に関与する面積が大きくなるため、高い出力特性を有する二次電池が得られるが、正極の充填密度が低下して電池容積あたりの充放電容量が低下するとともに、電極ペーストを調製する際に導電助剤と正極活物質の電極ペースト中での分散性が悪化し、電極内で個々の粒子に掛かる電圧が不均一となることで、充放電を繰り返すと粒径の小さな一部の正極活物質粒子が優先的に劣化し、充放電容量が低下する。逆に、該遷移金属複合水酸化物の平均粒径が15μmを超えると、得られる正極活物質の比表面積が低下して、電解液との界面が減少することにより、正極の抵抗が上昇して二次電池の出力特性が低下する。
(粒度分布)
本発明の複合水酸化物は、その粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が、1.0以下、好ましくは0.70以下となるように調製される。
正極活物質の粒度分布は、原料である遷移金属複合水酸化物の粒度分布の影響を強く受ける。たとえば、遷移金属複合水酸化物に微粒子あるいは粗大粒子が混入していると、正極活物質にも、同様に、微粒子あるいは粗大粒子が存在するようになる。すなわち、遷移金属複合水酸化物の〔(d90−d10)/平均粒径〕が1.0を超え、粒度分布が広い状態であると、それから合成した正極活物質にも微粒子あるいは粗大粒子が存在するようになる。
微粒子が多く存在する正極活物質を用いて正極を形成した場合、微粒子の局所的な反応に起因して発熱する可能性があり、電池の安全性が低下するとともに、微粒子が選択的に劣化するため、二次電池のサイクル特性が悪化してしまう。一方、粗大粒子が多く存在する正極活物質を用いて正極を形成した場合、電解液と正極活物質との反応面積が十分に取れず、反応抵抗の増加により電池出力が低下する。
平均粒径や、d90、d10を求める方法は特に限定されないが、たとえば、レーザ光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。平均粒径はd50を用い、d90と同様に累積体積が全粒子体積の50%となる粒径を用いればよい。
(粒子構造)
本発明の遷移金属複合水酸化物は、複数の一次粒子が凝集して形成された略球状の二次粒子により構成される。二次粒子を構成する一次粒子の形状としては、板状、針状、直方体状、楕円状、稜面体状などのさまざまな形態を採りうる。また、その凝集状態も、ランダムな方向に凝集する場合のほか、中心から放射状に粒子の長径方向が凝集する場合も本発明に適用することは可能である。
本発明では、正極活物質の二次粒子の構造として、緻密な外殻部と、内部の中空部からなる中空構造を採る。一方、中空構造の正極活物質の前駆体としては、正極活物質となる際に中空部を形成する、微細で粗な一次粒子の集合体からなる中心部と、それを包み込む外周の緻密な一次粒子の集合体である外周部を備える。中心部は微細な一次粒子が連なった比較的疎な構造となり、外周部は大きく厚みのある板状の一次粒子からなるより密な構造となる。このため、この前駆体を用いて正極活物質を合成する際には、焼成時の焼結が外殻部よりも中心部においてより低温から開始し進行し、中心部の一次粒子が二次粒子の中心から焼結の進行が遅い外殻部側へ収縮する。また、中心部は低密度であるため、その収縮率も大きくなり、中心部は十分な大きさを有する中空部分となる。
(1−2)遷移金属複合水酸化物の製造方法
本発明の一実施形態に係る遷移金属複合水酸化物の製造方法は、晶析反応によって遷移金属複合水酸化物を製造する方法であって、核生成を行う核生成工程と、核生成工程において生成された核を成長させる粒子成長工程とから構成されている。
本発明の遷移金属複合水酸化物の製造方法の詳細を、図1に基づいて説明する。なお、図1では、(A)が核生成工程に相当し、(B)が粒子成長工程に相当する。
(核生成工程)
本発明の遷移金属複合水酸化物の製造方法においては、図1に示すように、まず、原料となる遷移金属の金属化合物を所定の割合で水に溶解させ、原料水溶液を作製する。本発明の一実施形態に係る遷移金属複合水酸化物の製造方法では、得られる遷移金属複合水酸化物における上記各金属の物質量比は、混合水溶液における各金属の物質量比と同じものとなる。
よって、混合水溶液中における各金属の物質量比が、本発明の遷移金属複合水酸化物中における各金属の物質量比と同じになるように、水に溶解させる各金属化合物の割合を調整して、混合水溶液を作製する。
一方、反応槽には、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ水溶液、アンモニウムイオン供給体を含むアンモニア水溶液、および水を供給して混合して水溶液を形成する。この水溶液(以下、「反応前水溶液」という)について、そのpH値を、アルカリ水溶液の供給量を調整することにより、液温25℃基準で12.0〜14.0、好ましくは12.3〜13.5の範囲となるように調整する。また、反応前水溶液中のアンモニウムイオンの濃度を、アンモニア水溶液の供給量を調整することにより、好ましくは3〜25g/L、より好ましくは5〜20g/L、さらに好ましくは5〜15g/Lとなるように調節する。なお、反応前水溶液の温度についても、好ましくは20〜60℃、より好ましくは35〜60℃となるように調節する。反応槽内の水溶液のpH値、アンモニウムイオンの濃度については、それぞれ一般的なpH計、イオンメータによって測定可能である。
反応前水溶液の温度、pHおよびアンモニア濃度が調整された後、反応前水溶液を撹拌しながら原料水溶液を反応槽内に供給する。これにより、反応槽内には、反応前水溶液と原料水溶液とが混合し、核生成用水溶液(以下、「反応水溶液」ともいう)中において遷移金属複合水酸化物の微細な結晶の核が生成されることになる。このとき、核生成用水溶液のpH値は上記範囲にある場合、生成した核はほとんど成長することなく、核の生成が優先的に生じる。
なお、原料水溶液の供給による核生成に伴って、核生成用水溶液のpH値およびアンモニウムイオンの濃度が変化するので、核生成用水溶液には、原料水溶液とともに、アルカリ水溶液、アンモニア水溶液を供給して、核生成用水溶液のpH値及びアンモニウムイオンの濃度が前記範囲をそれぞれ維持するように制御する。
上記核生成用水溶液に対する原料水溶液、アルカリ水溶液およびアンモニア水溶液の供給により、核生成用水溶液中には、連続的に核生成が継続される。そして、核生成用水溶液中に、所定の量の核が生成された後、核生成工程を終了する。所定量の核が生成したか否かは、核生成用水溶液に添加した金属塩の量によって判断する。
核生成工程において生成する核の量は、特に限定されるものではないが、粒度分布の良好な遷移金属複合水酸化物を得るためには、全体量、つまり、遷移金属複合水酸化物を得るために供給する全金属塩の0.1重量%以上2重量%以下とすることが好ましく、0.2重量%以上1.5重量%以下とすることがより好ましい。
(粒子成長工程)
核生成工程の終了後、前記核生成用水溶液のpH値を、液温25℃基準で、10.5〜12.0、好ましくは11.0〜12.0、かつ、核生成工程におけるpH値よりも低いpH値となるように調整して、粒子成長工程における反応水溶液である粒子成長用水溶液を得る。具体的には、この調整時のpHの制御は、アルカリ水溶液の供給量を調節することにより行う。
粒子成長用水溶液のpH値を上記範囲とすることにより、水溶液中に新しい核が発生する核の生成反応よりも、供給された原料水溶液からの遷移金属複合水酸化物の析出物が核の表面に析出する核の成長反応の方が優先して生じ、粒子成長工程において、粒子成長用水溶液には、新たな核はほとんど生成することなく、核が成長(粒子成長)して、所定の粒子径を有する遷移金属複合水酸化物が形成される。
核生成反応と同様に、原料水溶液の供給による粒子成長に伴って、粒子成長用水溶液のpH値およびアンモニウムイオンの濃度が変化するので、粒子成長用水溶液にも、原料水溶液とともに、アルカリ水溶液、アンモニア水溶液を供給して、粒子成長用水溶液のpH値が液温25℃基準で10.5〜12.0の範囲、アンモニウムイオンの濃度が3〜25g/Lの範囲を維持するように制御する。
粒子成長工程では、原料水溶液の添加速度が速すぎると、粒子表面で結晶成長可能な速度を超えてしまい、結晶成長以外に新たな核が発生し、微粒子が生成する問題が生じる。結晶成長可能な速度は、単位面積当たりの結晶成長可能速度と、反応場に存在する粒子の表面の総反応場面積で決定される。核生成工程で得られた粒子は粒子表面の凹凸が大きいため表面積が大きいが、粒子成長工程の時間を経るごとに凹凸が減少することによって表面積が低下する。この影響によって粒子成長工程における結晶成長可能速度、つまり、新たな核が発生しない原料水溶液の添加速度は、粒子成長工程の時間を経るごとに低下する。
このため、粒子成長工程初期において微粒子が生成しないような速度で原料水溶液を添加しても、その速度が、新たな核が発生しない原料水溶液の添加速度以上となった場合、微粒子が生成することになる。
また粒子成長工程においては、原料水溶液の添加により生成した遷移金属複合水酸化物が、核生成工程で発生した核の表面に析出することで粒子が成長する。ここで、粒子成長工程開始時は反応水溶液中の核の密度が高いため、生成した遷移金属複合水酸化物は核の表面に析出しやすい状態になっている。しかし、粒子成長工程が進むにつれ、原料水溶液の添加により反応水溶液の容積は時間とともに増加するが、核の数は一定であるため、反応水溶液中の核の密度は時間とともに低下する。この結果、遷移金属複合水酸化物が析出できる核表面が付近に存在しない状態が生じやすくなり、核表面への析出ではなく新たな核が発生しやすくなる。このため、新たな核が発生しないような添加速度で粒子成長工程を開始しても、その速度を維持すると、粒子成長工程の進行とともに新たな核が発生する場合が生じる。
本発明においては、粒子成長工程の進行度に合わせて原料水溶液の添加速度を低減しながら、粒子成長工程を行う。新たな核が発生する下限の原料水溶液の添加速度以下となるように、原料水溶液の添加速度を、粒子成長工程の進行度に合わせて低減することで、新たな核の発生、微粒子の発生を防ぎ、結果として二次電池のサイクル特性の低下を防ぐことができる。また、粒子工程開始時では、粒子成長工程終了時よりも原料水溶液の添加速度を上昇させることができる。このため、粒子成長工程終了時における低い添加速度を維持しながら粒子成長工程を行う場合に比べ、遷移金属複合水酸化物生産速度を最大限に高めることができる。
そして、上記要件を満たす添加速度の低減の例として、本発明者らは反応水溶液の全容積の増加量ΔV(t)に応じて添加速度S(t)が低減するように、式1又は式2に示す条件式を導出した。なおここで、Sは粒子成長工程の反応開始時の遷移金属原料水溶液の添加速度、Vは粒子成長工程の反応開始時の反応水溶液の全容積、S(t)は、粒子成長工程開始からt時間経過した時の遷移金属原料水溶液の添加速度、ΔV(t)は、粒子成長工程開始からt時間経過した時の反応水溶液の全容積の増加量である。
S(t)=S×V÷(V+ΔV(t))・・・式1
S(t)<S×V÷(V+ΔV(t))・・・式2
上述したように、原料水溶液の添加により遷移金属複合水酸化物が表面に析出できる核が付近に存在しない場合、新たな核が発生しやすくなる。析出できる核表面が付近に存在するか否かは反応水溶液中の核の濃度(体積当たりの核の個数)に比例すると考えられる。そして、反応水溶液中の核の濃度は、反応水溶液の全容積に反比例して低下する。
ここで、添加速度の低減の例として、反応水溶液中の核の濃度の減少傾向に合わせて、遷移金属複合水酸化物の生成速度、つまり原料水溶液の添加速度を低減させる方法を仮定した。この添加速度の低減例では、反応水溶液の全容積Vに反比例して添加速度Sが低減する関係となる。
この添加速度の低減の例では、原料水溶液の添加速度を、粒子成長工程の反応開始時の添加速度Sから式1に従って低減させることで、新たな核の発生、微粒子の生成を抑制し、結果としてサイクル特性等の二次電池の特性の低下を防ぐことができる。そして、添加速度を暫時低減させることで、予め低い添加速度で粒子成長工程を行うよりも、遷移金属複合水酸化物の生産速度を高めることができる。なお添加速度は、式2のように式1以下の速度で行うこともできる。また、添加速度Sより低い速度で原料水溶液の添加を開始し、式2を満たす条件下で、反応水溶液の全容積が所定の値となるごとに段階的に添加速度を低減させながら、粒子成長工程を行うことができる。この場合、添加速度の管理が簡便となる。なお式1及び2で示された添加速度の下限に対し、後述する反応雰囲気の制御、粒子成長工程におけるpH切り替え操作が与える影響は小さいと考えられる。
その後、上記遷移金属複合水酸化物が所定の粒径まで成長した時点で、粒子成長工程を終了する。遷移金属複合水酸化物の粒径は、予備試験により核生成工程と粒子成長工程の各工程におけるそれぞれの反応水溶液への金属塩の添加量と得られる粒子の関係を求めておけば、各工程での金属塩の添加量から容易に判断できる。
また、図1に示す実施形態では、核生成工程が終了した核生成用水溶液のpHを調整して粒子成長用水溶液を形成して、核生成工程から引き続いて粒子成長工程を行っているので、粒子成長工程への移行を迅速に行うことができるという利点がある。さらに、核生成工程から粒子成長工程への移行は、反応水溶液のpHを調整するだけで移行でき、pHの調整も一時的にアルカリ水溶液の供給を停止することで容易に行うことができるという利点がある。なお、反応水溶液のpHは、金属化合物を構成する酸と同種の無機酸、たとえば、硫酸塩の場合、硫酸を反応水溶液に添加することでも調整することができる。
なお、緻密な構造の遷移金属複合水酸化物を得る場合には、粒子成長工程において、非酸化性雰囲気を維持しつつ、反応槽内の撹拌回転数を、反応溶液の単位体積当たりの撹拌所用動力が0.5〜4kW/mの範囲となるように適正化して、晶折反応を行う。このように粒子成長時に酸化を抑制し、撹拌を適正化すると、一次粒子の成長が促進され、一次粒子が大きく緻密で適度に大きな二次粒子が形成されることになる。
一方、粗な構造の遷移金属複合水酸化物を得る場合には、粒子成長工程において、酸化性雰囲気を維持しつつ、反応槽内の撹拌回転数を、反応溶液の単位体積当たりの撹拌所用動力が0.5〜4kW/mの範囲となるように適正化して、晶折反応を行う。このように粒子成長時に酸化性雰囲気とすることにより、一次粒子を成長させるよりは、微細一次粒子の凝集を促進し、空隙の多い低密度の微細一次粒子の集合体が形成される。
本発明においては、核生成工程および粒子成長工程において、酸素濃度が1容量%以下の非酸化性雰囲気、もしくは酸素濃度が10容量%以上の酸化性雰囲気、もしくは酸素濃度が8〜12%の中間的な雰囲気とを少なくとも1回以上切り替える。
次に、各工程における、pHの制御、反応雰囲気の制御、各工程において使用する物質や溶液、反応条件について、詳細に説明する。
(pH制御)
核生成工程においては、反応水溶液のpH値が、液温25℃基準で12.0〜14.0、好ましくは12.3〜13.5の範囲となるように制御する必要がある。pH値が14.0を超える場合、生成する核が微細になり過ぎ、反応水溶液がゲル化する問題がある。また、pH値が12.0未満では、核形成とともに核の成長反応が生じるので、形成される核の粒度分布の範囲が広くなり得られる遷移金属複合水酸化物の粒径が不均一なものとなってしまう。すなわち、核生成工程において、上述の範囲に反応水溶液のpH値を制御することで、核の成長を抑制してほぼ核生成のみを起こすことができ、形成される核も均質かつ粒度分布の範囲が狭いものとすることができる。
一方、粒子成長工程においては、反応水溶液のpH値が、液温25℃基準で10.5〜12.0、好ましくは11.0〜12.0の範囲となるように制御する必要がある。pH値が12.0を超える場合、新たに生成される核が多くなり、微細二次粒子が副次的に生成するため、粒径分布が良好な遷移金属複合水酸化物が得られない。また、pH値が10.5未満では、アンモニウムイオンによる溶解度が高く、析出せずに液中に残る金属イオンが増えるため、生産効率が悪化する。すなわち、粒子成長工程において、上述の範囲に反応水溶液のpHを制御することで、核生成工程で生成した核の成長のみを優先的に起こさせ、新たな核形成を抑制することができ、得られる遷移金属複合水酸化物を均質かつ粒径のそろったものとすることができる。
核生成工程および粒子成長工程のいずれにおいても、pHの変動幅は、設定値の上下0.2以内とすることが好ましい。pHの変動幅が大きい場合、核生成と粒子成長が一定とならず、粒度分布の範囲の狭い均一な遷移金属複合水酸化物が得られない場合がある。
なお、pH値が12の場合は、核生成と粒子成長の境界条件であるため、反応水溶液中に存在する核の有無により、核生成工程もしくは粒子成長工程のいずれかの条件とすることができる。
すなわち、核生成工程のpH値を12より高くして多量に核生成させた後、粒子成長工程でpH値を12とすると、反応水溶液中に多量の核が存在するため、核の成長が優先して起こり、粒径分布が狭く比較的大きな粒径の遷移金属複合水酸化物が得られる。
一方、反応水溶液中に核が存在しない状態、すなわち、核生成工程においてpH値を12とした場合、成長する核が存在しないため、核生成が優先して起こり、粒子成長工程のpH値を12より小さくすることで、生成した核が成長して良好な遷移金属複合水酸化物が得られる。
いずれの場合においても、粒子成長工程のpH値を核生成工程のpH値より低い値で制御すればよく、核生成と粒子成長を明確に分離するためには、粒子成長工程のpH値を核生成工程のpH値より0.5以上低くすることが好ましく、1.0以上低くすることがより好ましい。
(反応雰囲気)
本発明の遷移金属複合水酸化物の粒子構造は、核生成工程および粒子成長工程における反応雰囲気によって制御される。
上記両工程中の反応槽内の雰囲気を非酸化性雰囲気に制御した場合、遷移金属複合水酸化物を形成する一次粒子の成長が促進され、一次粒子が大きく緻密で、粒径が適度に大きな二次粒子が形成される。特に、上記工程のいずれにおいても、酸素濃度が1容量%以下、好ましくは0.5容量%以下、より好ましくは0.3容量%以下の非酸化性雰囲気とすることで、核生成工程では、比較的大きな一次粒子からなる核が生成されるため好ましい。
また、粒子成長工程でも、核生成工程で生成した核の周囲に大きな一次粒子が生成されて粒子が成長するとともに、成長中の粒子の凝集により粒子成長が促進され、緻密で適度に大きな二次粒子を得ることができる。
このような雰囲気に反応槽内空間を保つための手段としては、窒素などの不活性ガスを反応槽内空間部へ流通させること、さらには反応水溶液中に不活性ガスをバブリングさせることがあげられる。
一方、核生成工程および粒子成長工程の初期における反応雰囲気を酸化性雰囲気に制御することにより、上記の微細一次粒子からなる中心部を低密度のものとすることができる。具体的には、前記核生成工程および粒子成長工程の初期の一部の酸化性雰囲気は、反応槽内空間の酸素濃度を1容量%以上、好ましくは2容量%以上、より好ましくは10容量%以上とする。特に、制御が容易な大気雰囲気(酸素濃度:21容量%)とすることが好ましい。酸素濃度が1容量%を超える雰囲気とすることで、一次粒子の平均粒径を0.01〜0.3μmと微細なものにすることができる。一方、酸素濃度が1容量%以下では、中心部の一次粒子の平均粒径が0.3μmを超えることがある。酸素濃度の上限は、特に限定されるものではないが、30容量%を超えると、上記一次粒子の平均粒径が0.01μm未満となる場合があり、好ましくない。
上記粒子成長工程における雰囲気の切り替えは、最終的に得られる正極活物質において、微粒子が発生してサイクル特性が悪化しない程度の中空部が得られるように、遷移金属複合水酸化物の中心部の大きさを考慮して、そのタイミングが決定される。たとえば、粒子成長工程時間の全体に対して、粒子成長工程の開始時から0〜40%の範囲で行うことが好ましく、0〜30%の範囲で行うことがより好ましく、0〜25%の範囲で行うことがさらに好ましい。粒子成長工程時間の全体に対して40%を超える時点で切り替えを行うと、形成される中心部が大きくなり、上記二次粒子の粒径に対する外周部の厚さが薄くなり過ぎる。一方、粒子成長工程の開始前、すなわち、核生成工程中に切り替えを行うと、中心部が小さくなりすぎるか、上記構造を有する二次粒子が形成されない。
なお、本発明においては、核生成工程および粒子成長工程において、酸素濃度が1容量%以下の非酸化性雰囲気、もしくは酸素濃度が10容量%以上の酸化性雰囲気、もしくは酸素濃度が8〜12%の中間的な雰囲気とを少なくとも1回以上切り替える。
以下、金属化合物、反応水溶液中アンモニア濃度、反応温度などの条件を説明するが、核生成工程と粒子成長工程との反応水溶液に関する相違点は、反応水溶液のpHを制御する範囲のみであり、金属化合物、反応液中アンモニア濃度、反応温度などの条件は、両工程において実質的に同様である。
(金属化合物)
金属化合物としては、目的とする金属を含有する化合物を用いる。使用する化合物は、水溶性の化合物を用いることが好ましく、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩などがあげられる。たとえば、硫酸ニッケル、硫酸マンガン、硫酸コバルトが好ましく用いられる。
(添加元素)
添加元素(Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上の元素)は、水溶性の化合物を用いることが好ましく、たとえば、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸チタン、ペルオキソチタン酸アンモニウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸バナジウム、バナジン酸アンモニウム、硫酸クロム、クロム酸カリウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、シュウ酸ニオブ、モリブデン酸アンモニウム、硫酸ハフニウム、タンタル酸ナトリウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸アンモニウムなどを好適に用いることができる。
かかる添加元素を遷移金属複合水酸化物の内部に均一に分散させる場合には、核生成工程および粒子成長工程において、原料水溶液に、前記1種以上の添加元素を含む塩を溶解させた水溶液を添加して、または、前記1種以上の添加元素を含む塩を溶解させた水溶液と原料水溶液とを同時に反応槽中に給液して、遷移金属複合水酸化物の内部に添加元素を均一に分散させた状態で共沈させることができる。
また、遷移金属複合水酸化物の表面を添加元素で被覆する場合には、たとえば、添加元素を含んだ水溶液で遷移金属複合水酸化物をスラリー化し、所定のpH値となるように制御しつつ、前記1種以上の添加元素を含む水溶液を添加して、晶析反応により添加元素を遷移金属複合水酸化物表面に析出させれば、その表面を添加元素で均一に被覆することができる。この場合、添加元素を含んだ水溶液に替えて、添加元素のアルコキシド溶液を用いてもよい。さらに、遷移金属複合水酸化物に対して、添加元素を含んだ水溶液あるいはスラリーを吹き付けて乾燥させることによっても、遷移金属複合水酸化物の表面を添加元素で被覆することができる。また、遷移金属複合水酸化物と前記1種以上の添加元素を含む塩が懸濁したスラリーを噴霧乾燥させる、あるいは遷移金属複合水酸化物と前記1種以上の添加元素を含む塩を固相法で混合するなどの方法により被覆することができる。
なお、表面を添加元素で被覆する場合、原料水溶液中に存在する添加元素イオンの原子数比を被覆する量だけ少なくしておくことで、得られる遷移金属複合水酸化物の金属イオンの原子数比と一致させることができる。また、粒子の表面を添加元素で被覆する工程は、遷移金属複合水酸化物を熱処理した後の粒子に対して行ってもよい。
(原料水溶液の濃度)
原料水溶液の濃度は、金属化合物の合計で好ましくは1〜2.6mol/L、より好ましくは1.5〜2.4mol/L、さらに好ましくは1.8〜2.2mol/Lとする。原料水溶液の濃度が1mol/L未満では、反応槽当たりの晶析物量が少なくなるために生産性が低下して好ましくない。一方、原料水溶液の濃度が2.6mol/Lを超えると、−5℃以下で凍結して設備の配管を詰まらせるなどの危険があるため、配管の保温もしくは加温する必要があり、コストがかかる。
また、金属化合物は、必ずしも原料水溶液として反応槽に供給しなくてもよく、たとえば、混合すると反応して化合物が生成される金属化合物を用いる場合、全金属化合物水溶液の合計の濃度が上記範囲となるように、個別に金属化合物水溶液を調製して、個々の金属化合物の水溶液として所定の割合で同時に反応槽内に供給してもよい。
さらに、原料水溶液などや個々の金属化合物の水溶液を反応槽に供給する量は、晶析反応を終えた時点での晶析物濃度が、概ね30〜250g/L、好ましくは80〜150g/Lになるようにすることが好ましい。晶析物濃度が30g/L未満の場合には、一次粒子の凝集が不十分になることがあり、250g/Lを超える場合には、添加する原料水溶液の反応槽内での拡散が十分でなく、粒子成長に偏りが生じることがあるからである。
(錯化剤)
遷移金属複合水酸化物の製造方法においては、非還元性錯化剤を用いることが好ましい。還元性のある錯化剤を用いると、反応水溶液中でのマンガンの溶解度が大きくなり過ぎ、高いタップ密度の遷移金属複合水酸化物が得られない。非還元性錯化剤は、特に限定されるものではなく、水溶液中でニッケルイオン、コバルトイオンおよびマンガンイオンと結合して錯体を形成可能なものであればよい。たとえば、アンモニウムイオン供給体、エチレンジアミン四酢酸、ニトリト三酢酸、ウラシル二酢酸およびグリシンが挙げられる。
アンモニウムイオン供給体については、特に限定されないが、たとえば、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、フッ化アンモニウムなどを使用することができる。
(アンモニア濃度)
反応水溶液中のアンモニア濃度は、好ましくは3〜25g/L、より好ましくは5〜20g/L、さらに好ましくは5〜15g/Lの範囲内で一定値に保持する。
アンモニアはアンモニウムイオンとなって錯化剤として作用するため、アンモニア濃度が3g/L未満であると、金属イオンの溶解度を一定に保持することができず、形状および粒径が整った板状の遷移金属複合水酸化物一次粒子が形成されず、ゲル状の核が生成しやすいため粒度分布も広がりやすい。
一方、上記アンモニア濃度が25g/Lを超える濃度では、金属イオンの溶解度が大きく、遷移金属複合水酸化物が緻密に形成されるため、最終的に得られるリチウムイオン二次電池用正極活物質も緻密な構造になり、粒径が小さく、比表面積も低くなることがある。また、金属イオンの溶解度が大きくなり過ぎると、反応水溶液中に残存する金属イオン量が増えて、組成のずれなどが起きる。
また、アンモニア濃度が変動すると、金属イオンの溶解度が変動し、均一な遷移金属複合水酸化物が形成されないため、アンモニア濃度を一定値に保持することが好ましい。たとえば、アンモニア濃度は、上限と下限の幅を5g/L程度として所望の濃度に保持することが好ましい。
(反応液温度)
反応槽内において、反応液の温度は、好ましくは20〜60℃、より好ましくは35〜60℃に設定する。反応液の温度が20℃未満の場合、金属イオンの溶解度が低いため核発生が起こりやすく制御が難しくなる。一方、60℃を超えると、アンモニアの揮発が促進されるため、所定のアンモニア濃度を保つために、過剰のアンモニウムイオン供給体を添加しなければならならず、コスト高となる。
(アルカリ水溶液)
反応水溶液中のpHを調整するアルカリ水溶液については、特に限定されるものではなく、たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物水溶液を用いることができる。かかるアルカリ金属水酸化物の場合、直接、反応水溶液中に供給してもよいが、反応槽内における反応水溶液のpH制御の容易さから、水溶液として反応槽内の反応水溶液に添加することが好ましい。
また、アルカリ水溶液を反応槽に添加する方法についても、特に限定されるものではなく、反応水溶液を十分に撹拌しながら、定量ポンプなど、流量制御が可能なポンプで、反応水溶液のpH値が所定の範囲に保持されるように、添加すればよい。
(製造設備)
本発明の遷移金属複合水酸化物の製造方法では、反応が完了するまで生成物を回収しない方式の装置を用いる。たとえば、撹拌機が設置された通常に用いられるバッチ反応槽などである。かかる装置を採用すると、一般的なオーバーフローによって生成物を回収する連続晶析装置のように、成長中の粒子がオーバーフロー液と同時に回収されるという問題が生じないため、粒度分布が狭く粒径の揃った粒子を得ることができる。
また、反応雰囲気を制御する必要があるため、密閉式の装置などの雰囲気制御可能な装置を用いる。このような装置を用いることで、得られる遷移金属複合水酸化物を上記構造のものとすることができるとともに、核生成反応や粒子成長反応をほぼ均一に進めることができるので、粒径分布の優れた粒子、すなわち粒度分布の範囲の狭い粒子を得ることができる。
2.リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法
本発明の正極活物質の製造方法は、上述した製造方法で得られた遷移金属複合水酸化物を前駆体として用い、所定の構造、平均粒径、および粒度分布を備える正極活物質を合成することができる限り、特に制限されることはない。しかしながら、工業規模の生産を実施する場合には、上記の遷移金属複合水酸化物をリチウム化合物と混合し、リチウム混合物を得る混合工程と、得られたリチウム混合物を、酸化性雰囲気中、650℃〜1000℃の範囲の温度で焼成する焼成工程とを備える製造方法によって正極活物質を合成することが好ましい。なお、必要に応じて、上述した工程に、熱処理工程や仮焼工程などの工程を追加してもよい。このような製造方法により、上記の正極活物質、特に、上述した一般式(B)で表される正極活物質を容易に得ることができる。
以下、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法について図面を使用しながら説明する。図2は、本発明の一実施形態に係る遷移金属複合水酸化物からリチウム遷移金属含有複合酸化物を製造する工程の概略フローチャートである。図2に示す通り、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法は、熱処理工程S30、混合工程S40、仮焼工程S50、焼成工程S60、及び解砕工程S70とから構成される。
(2−1)熱処理工程
本発明の正極活物質の製造方法において、任意的に、混合工程の前に熱処理工程S30を設けて、遷移金属複合水酸化物を熱処理した熱処理粒子としてからリチウム化合物と混合してもよい。ここで、熱処理粒子には、熱処理工程S30において余剰水分を除去された遷移金属複合水酸化物のみならず、熱処理工程S30により、酸化物に転換された遷移金属含有複合酸化物、または、これらの混合物も含まれる。
熱処理工程S30は、遷移金属複合水酸化物を105℃〜750℃の範囲の温度まで加熱して熱処理することにより、遷移金属複合水酸化物に含有される余剰水分を除去する工程である。これにより、焼成工程後まで残留する水分を一定量まで減少させることができ、得られる正極活物質の組成のばらつきを抑制することができる。加熱温度が105℃未満のときは、遷移金属複合水酸化物中の余剰水分が除去できず、ばらつきを十分に抑制することができない場合がある。一方、加熱温度が700℃より高いときは、それ以上の効果は期待できないばかりか、生産コストが増加してしまう。
また、熱処理工程S30では、正極活物質中のそれぞれの金属成分の原子数や、Liの原子数の割合にばらつきが生じない程度に水分が除去できればよいので、必ずしもすべての遷移金属複合水酸化物を遷移金属含有複合酸化物まで転換する必要はない。しかしながら、それぞれの金属成分の原子数やLiの原子数の割合のばらつきをより少ないものとするためには、400℃以上に加熱して、すべての遷移金属複合水酸化物を、遷移金属含有複合酸化物まで転換することが好ましい。なお、熱処理条件による遷移金属複合水酸化物に含有される金属成分比を化学分析によって予め求めておき、リチウム化合物との混合比を決めておくことで、上述したばらつきをより抑制することができる。
熱処理を行う雰囲気は特に制限されるものではなく、非還元性雰囲気であればよいが、簡易的に行える空気気流中で行うことが好ましい。
また、熱処理時間は、特に制限されないが、遷移金属複合水酸化物中の余剰水分を十分に除去する観点から、少なくとも1時間とすることが好ましく、5時間〜15時間とすることがより好ましい。
(2−2)混合工程
混合工程S40は、遷移金属複合水酸化物または熱処理粒子に、リチウム化合物を混合して、リチウム混合物を得る工程である。
混合工程S40では、リチウム混合物中のリチウム以外の金属原子、具体的には、ニッケル、コバルト、マンガン、および添加元素Mの原子数の和(Me)と、リチウムの原子数(Li)との比(Li/Me)が、0.95〜1.5、好ましくは1.0〜1.5、より好ましくは1.0〜1.35、さらに好ましくは1.0〜1.2となるように、遷移金属複合水酸化物または熱処理粒子と、リチウム化合物を混合することが必要となる。すなわち、焼成工程の前後ではLi/Meの値は変化しないので、混合工程S40におけるLi/Meの値が、目的とする正極活物質のLi/Meの値となるように、遷移金属複合水酸化物または熱処理粒子と、リチウム化合物とを混合することが必要となる。
混合工程S40で使用するリチウム化合物は、特に制限されることはないが、入手の容易性から、水酸化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム、またはこれらの混合物を用いることが好ましい。特に、取り扱いの容易さや品質の安定性を考慮すると、水酸化リチウムまたは炭酸リチウムを用いることが好ましい。
遷移金属複合水酸化物または熱処理粒子とリチウム化合物とは、微粉が生じない程度に十分に混合することが好ましい。混合が不十分であると、個々の粒子間でLi/Meの値にばらつきが生じ、十分な電池特性を得ることができない場合がある。なお、混合には、一般的な混合機を使用することができる。たとえば、シェーカーミキサ、レーディゲミキサ、ジュリアミキサ、Vブレンダなどを用いることができる。
(2−3)仮焼工程
リチウム化合物として、水酸化リチウムや炭酸リチウムを使用する場合には、混合工程S40後、焼成工程の前に、リチウム混合物を、後述する焼成温度よりも低い温度で、かつ、350℃〜800℃、好ましくは450℃〜780℃で、仮焼する仮焼工程S50を行ってもよい。これにより、遷移金属複合水酸化物または熱処理粒子中に、リチウムを十分に拡散させることができ、より均一な正極活物質を得ることができる。
なお、上記温度での保持時間は、1時間〜10時間とすることが好ましく、3時間〜6時間とすることが好ましい。また、仮焼工程S50における雰囲気は、後述する焼成工程と同様に、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が18容量%〜100容量%の雰囲気とすることがより好ましい。
(2−4)焼成工程
焼成工程S60は、混合工程S40で得られたリチウム混合物を所定条件の下で焼成し、遷移金属複合水酸化物または熱処理粒子中にリチウムを拡散させて、正極活物質を得る工程である。
この焼成工程S60において、遷移金属複合水酸化物または熱処理粒子における中心部は、微細一次粒子が連なった隙間の多い構造であるため、低温域から焼結が進行して、粒子の中心から焼結の進行が遅い高密度層側に収縮して、二次粒子の中心に所定の大きさの内部空間を形成する。
遷移金属複合水酸化物および熱処理粒子の高密度層および外殻層(あるいは、第1の高密度層、第2の高密度層、および外殻層)は、焼結収縮し、実質的に一体化して、正極活物質においては1つの外殻部の中で一次粒子凝集体を形成する。
一方、低密度層は、微細一次粒子を含んで構成されているため、中心部と同様に、高密度層や外殻層よりも低温域において焼結が開始する。このとき、低密度層は、高密度層や外殻層と比べて体積収縮量が大きいため、低密度層を構成する微細一次粒子は、焼結の進行が遅い高密度層や外殻層の方向に体積収縮するため、高密度層と外殻層の間、あるいは、第1の高密度層と第2の高密度層の間および第2の高密度層と外殻層との間に、適度な大きさの空隙が形成される。これらの空隙は、その形状を保持するだけの径方向厚さを備えていないため、高密度層や外殻層の焼結に伴って高密度層や外殻層に吸収され、吸収された体積分が不足するため、焼成時に高密度層と外殻層が一体化しながら収縮することにより、形成された正極活物質の外殻部において、二次粒子の内部空間と外部とを連通させる貫通孔を形成する。なお、高密度層と外殻部の間(あるいは、第1の高密度層と第2の高密度層との間、および、第2の高密度層と外殻部との間)は、焼結収縮による一体化により、外殻部全体として電気的に導通する。
このように、本発明の正極活物質では、外殻部全体が電気的に導通しており、かつ、その導通経路の断面積は十分に確保されているといえる。この結果、一体の外殻部として、正極活物質の内外表面を電解液との反応場として利用することが可能となり、正極活物質の内部抵抗が大幅に減少し、二次電池を構成した場合に、電池容量やサイクル特性を損ねることなく、出力特性を向上させることが可能となる。
このような正極活物質の粒子構造は、基本的に、前駆体である遷移金属複合水酸化物の粒子構造に応じて定まるものであるが、その組成や焼成条件などの影響を受けることがあるため、予備試験を行った上で、所望の構造となるように、それぞれの条件を適宜調整することが好ましい。
なお、焼成工程S60に用いられる炉は、特に限定されることはなく、大気または酸素気流中でリチウム混合物を焼成できるものであればよい。ただし、炉内の雰囲気を均一に保つ観点から、ガス発生がない電気炉が好ましく、バッチ式あるいは連続式の電気炉のいずれも好適に用いることができる。この点については、熱処理工程S30および仮焼工程S50に用いる炉についても同様である。
a)焼成温度
リチウム混合物の焼成温度は、650℃〜1000℃とすることが必要となる。焼成温度が650℃未満のときは、遷移金属複合水酸化物または熱処理粒子中にリチウムが十分に拡散せず、余剰のリチウムや未反応の遷移金属複合水酸化物または熱処理粒子が残存したり、得られた正極活物質の結晶性が不十分になったりする場合がある。一方、焼成温度が1000℃より高いときは、正極活物質の粒子間が激しく焼結し、異常粒成長が引き起こされ、不定形な粗大粒子の割合が増加することとなる。
また、焼成工程S60における昇温速度は、2℃/分〜10℃/分とすることが好ましく、5℃/分〜10℃/分とすることがより好ましい。さらに、焼成工程S60中、リチウム化合物の融点付近の温度で、好ましくは1時間〜5時間、より好ましくは2時間〜5時間保持することが好ましい。これにより、遷移金属複合水酸化物または熱処理粒子とリチウム化合物とを、より均一に反応させることができる。
b)焼成時間
焼成時間のうち、上述した焼成温度での保持時間は、少なくとも2時間とすることが好ましく、4時間〜24時間とすることがより好ましい。焼成温度における保持時間が2時間未満では、遷移金属複合水酸化物または熱処理粒子中にリチウムが十分に拡散せず、余剰のリチウムや未反応の遷移金属複合水酸化物または熱処理粒子が残存したり、得られる正極活物質の結晶性が不十分なものとなったりするおそれがある。
なお、保持時間終了後、焼成温度から少なくとも200℃までの冷却速度は、2℃/分〜10℃/分とすることが好ましく、3℃/分〜7℃/分とすることがより好ましい。冷却速度をこのような範囲に制御することにより、生産性を確保しつつ、匣鉢などの設備が、急冷により破損することを防止することができる。
c)焼成雰囲気
焼成時の雰囲気は、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が18容量%〜100容量%の雰囲気とすることがより好ましく、上記酸素濃度の酸素と不活性ガスの混合雰囲気とすることが特に好ましい。すなわち、焼成は、大気ないしは酸素気流中で行うことが好ましい。酸素濃度が18容量%未満では、正極活物質の結晶性が不十分なものとなるおそれがある。
(2−5)解砕工程
焼成工程S60によって得られた正極活物質は、凝集または軽度の焼結が生じている場合がある。このような場合には、解砕工程S70で、正極活物質の凝集体または焼結体を物理的に解砕することが好ましい。これによって、得られる正極活物質の平均粒径や粒度分布を好適な範囲に調整することができる。なお、解砕とは、焼成時に二次粒子間の焼結ネッキングなどにより生じた複数の二次粒子からなる凝集体に、機械的エネルギを加えて、二次粒子自体をほとんど破壊することなく分離させて、凝集体をほぐす操作を意味する。
解砕の方法としては、公知の手段を用いることができ、たとえば、ピンミルやハンマーミルなどを使用することができる。なお、この際、二次粒子を破壊しないように解砕力を適切な範囲に調整することが好ましい。
3.リチウムイオン二次電池
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、負極、セパレータ、非水系電解質などの、一般のリチウムイオン二次電池と同様の構成部材を備える。なお、以下に説明する実施形態は例示にすぎず、本発明のリチウムイオン二次電池は、本明細書に記載されている実施形態を基づいて、種々の変更、改良を施した形態に適用することも可能である。
(3−1)構成部材
a)正極
本発明の正極活物質を用いて、たとえば、以下のようにしてリチウムイオン二次電池の正極を作製する。
まず、本発明の正極活物質に、導電材および結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭や、粘度調整剤などの溶剤を添加し、これらを混練して正極合材ペーストを作製する。その際、正極合材ペースト中のそれぞれの混合比も、リチウムイオン二次電池の性能を決定する重要な要素となる。たとえば、溶剤を除いた正極合材の固形分を100質量部とした場合には、一般のリチウムイオン二次電池の正極と同様に、正極活物質の含有量を60質量部〜95質量部、導電材の含有量を1質量部〜20質量部および結着剤の含有量を1質量部〜20質量部とすることができる。
得られた正極合材ペーストを、たとえば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させる。必要に応じて、電極密度を高めるべく、ロールプレスなどにより加圧することもある。このようにして、シート状の正極を作製することができる。シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断などをして、電池の作製に供することができる。なお、正極の作製方法は、前記例示のものに限られることはなく、他の方法によってもよい。
導電材としては、たとえば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など)や、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料を用いることができる。
結着剤は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、たとえば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂またはポリアクリル酸を用いることができる。
このほか、必要に応じて、正極活物質、導電材および活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加することができる。溶剤としては、具体的に、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することもできる。
b)負極
負極には、金属リチウムやリチウム合金などを使用することができる。また、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅などの金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用することができる。
負極活物質としては、たとえば、金属リチウムやリチウム合金などのリチウムを含有する物質、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる天然黒鉛、人造黒鉛およびフェノール樹脂などの有機化合物焼成体ならびにコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
c)セパレータ
セパレータは、正極と負極との間に挟み込んで配置されるものであり、正極と負極とを分離し、電解質を保持する機能を有する。このようなセパレータとしては、たとえば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微細な孔を多数有する膜を用いることができるが、上記機能を有するものであれば、特に限定されることはない。
d)非水系電解質
非水系電解質としては、非水電解液を用いることができる。非水系電解質は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、およびトリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、およびジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、およびジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホンやブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で用いてもよく、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiN(CFSO、およびそれらの複合塩などを用いることができる。
なお、非水系電解質は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。
また、非水系電解質としては、固体電解質を用いてもよい。固体電解質は、高電圧に耐えうる性質を有する。固体電解質としては、 無機固体電解質、有機固体電解質が挙げられる。
無機個体電解質として、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質等が用いられる。
酸化物系固体電解質としては、特に限定されず、酸素(O)を含有し、かつ、リチウムイオン電導性と電子絶縁性とを有するものであれば用いることができる。酸化物系個体電解質としては、例えば、リン酸リチウム(LiPO)、LiPO、LiBO、LiNbO、LiTaO、LiSiO、LiSiO−LiPO、LiSiO−LiVO、LiO−B−P、LiO−SiO、LiO−B−ZnO、Li1+XAlTi2−X(PO(0≦X≦1)、Li1+XAlGe2−X(PO(0≦X≦1)、LiTi(PO、Li3XLa2/3−XTiO(0≦X≦2/3)、LiLaTa12、LiLaZr12、LiBaLaTa12、Li3.6Si0.60.4等が挙げられる。
硫化物系固体電解質としては、特に限定されず、硫黄(S)を含有し、かつ、リチウムイオン電導性と電子絶縁性とを有するものであれば用いることができる。硫化物系固体電解質としては、例えば、LiS−P、LiS−SiS、LiI−LiS−SiS、LiI−LiS−P、LiI−LiS−B、LiPO−LiS−SiS、LiPO−LiS−SiS、LiPO−LiS−SiS、LiI−LiS−P、LiI−LiPO−P等が挙げられる。
なお、無機固体系電解質としては、上記以外のものを用いてよく、例えば、LiN、LiI、LiN−LiI−LiOH等を用いてもよい。
有機固体電解質としては、イオン電導性を示す高分子化合物であれば、特に限定されず、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、これらの共重合体などを用いることができる。また、有機固体電解質は、支持塩(リチウム塩)を含んでいてもよい。
(3−2)構造
以上の正極、負極、セパレータ、および非水系電解質で構成される本発明のリチウムイオン二次電池は、円筒形や積層形など、種々の形状にすることができる。
いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水系電解質を含浸させ、正極集電体と外部に通じる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続し、電池ケースに密閉して、リチウムイオン二次電池を完成させる。
(3−3)特性
本発明のリチウムイオン二次電池は、上述したように、本発明の正極活物質を正極材料として用いているため、電池容量およびサイクル特性に優れるとともに、出力特性が従来構造よりも飛躍的に改善されている。しかも、従来のリチウムニッケル系複合酸化物からなる正極活物質を用いた二次電池との比較においても、熱安定性や安全性において遜色はない。
たとえば、本発明の正極活物質を用いて、図3に示すような2032型コイン電池100を構成した場合に、150mAh/g以上、好ましくは158mAh/g以上の初期放電容量と、75%以上、好ましくは80%以上の500サイクル容量維持率を同時に達成することができる。
(3−4)用途
本発明のリチウムイオン二次電池は、上述のように、電池容量、出力特性、およびサイクル特性に優れており、これらの特性が高いレベルで要求される小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話など)の電源に好適に利用することができる。また、本発明のリチウムイオン二次電池は、これらの特性のうち、出力特性が大幅に改善されており、かつ、安全性にも優れていることから、小型化および高出力化が可能であるばかりでなく、高価な保護回路を簡略することができるため、搭載スペースに制約を受ける輸送用機器用の電源としても好適に利用することができる。
以下、実施例および比較例を用いて、本発明を詳細に説明する。また、これらは本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。以下の実施例および比較例では、特に断りがない限り、遷移金属複合水酸化物および正極活物質の作製には、和光純薬工業株式会社製試薬特級の試料をそれぞれ使用した。また、核生成工程および粒子成長工程の実施中、反応水溶液のpH値は、pHコントローラ(株式会社日伸理化製、NPH−690D)により測定し、この測定値に基づき、水酸化ナトリウム水溶液の供給量を調整することで、それぞれの工程における反応水溶液のpH値を、工程の設定値に対して変動量を0.2以内の範囲で制御した。
(実施例1)
a)遷移金属複合水酸化物の製造
[核生成工程]
はじめに、6L反応槽内に、水を1.4L入れて撹拌しながら、槽内温度を70℃に設定した。この際、反応槽内に窒素ガスを30分間流通させ、反応槽内空間の酸素濃度を1容量%以下とした。続いて、反応槽内に、25質量%水酸化ナトリウム水溶液を適量供給し、pH値が、液温25℃基準で13.1となるように調整することで反応前水溶液を形成した。
同時に、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガン、硫酸ジルコニウムを、各金属元素のモル比がNi:Mn:Co:Zr=33.1:33.1:33.1:0.2となるように水に溶解し、2mol/Lの原料水溶液を調製した。
次に、この原料水応液を、反応前水溶液に10mL/分の流量で供給して、反応水溶液を形成し、晶析反応によって、3分間の核生成を行った。この処理の間、25質量%水酸化ナトリウム水溶液を適時供給し、反応水溶液のpH値を前記範囲に維持した。反応終了時の反応水溶液の全容積は1.5Lであった。
[粒子成長工程]
核生成工程終了後、反応槽内へのすべての水溶液の供給を一旦停止するとともに、反応槽内に37質量%硫酸を加えて、反応水溶液のpH値が、液温25℃基準で11.8となるように調整した。pH値が所定の値になったことを確認した後、原料水溶液とタングステン酸ナトリウム水溶液を供給し、核生成工程で生成した核を成長させた。
粒子成長工程の開始時から7分(粒子成長工程時間の全体に対して3%)経過後、原料水溶液の供給を継続したまま、反応槽内に37質量%硫酸を加えて反応水溶液のpH値を液温25℃基準で11.0となるように調整した(切替操作1)。
切替操作1の開始から150分(粒子成長工程時間の全体に対して62.5%)経過後、原料水溶液の供給を継続したまま、反応槽内に25質量%水酸化ナトリウム水溶液を添加して反応水溶液のpH値が、液温25℃基準で11.8となるように調整した(切替操作2)。
切替操作2の開始から20分(粒子成長工程時間の全体に対して8.3%)経過後、再び、切替操作1を再度実施した。
切替操作1の開始から63分(粒子成長工程時間の全体に対して26.2%)経過後、反応槽への、すべての水溶液の供給を停止して、粒子成長工程を終了した。なお、粒子成長工程において、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液を適時供給し、反応水溶液のpH値を前記範囲に維持した。
粒子成長工程における原料水溶液の添加速度は、反応開始時は10mL/分とした。また、反応開始時の反応水溶液の全容積は1.5L、単位時間当たりの反応水溶液の増加速度は約20mL/分であるので、前記式1における、S=10mL/分、V=1500mL、ΔV(t)=20mL/分×経過時間(分)となり、S(t)=10×1500÷(1500+20×経過時間)となる。原料水溶液の添加速度は時間経過とともに前記S(t)に従って低減させた。粒子成長工程の全反応時間は240分であり、反応終了時の原料水溶液の添加速度は2.4mL/分となった。
粒子成長工程の終了時において、反応水溶液中の生成物の濃度は、86g/Lであった。その後、得られた生成物を、水洗、ろ別、および乾燥させることにより、粉末状の遷移金属複合水酸化物を得た。
b)正極活物質の作製
得られた遷移金属複合水酸化物に対して、熱処理工程を行い、大気(酸素濃度:21容量%)気流中、120℃において、12時間熱処理して、熱処理粒子を得た。その後、混合工程として、熱処理粒子と炭酸リチウムとを、Li/Meの値が1.14となるように、混合し、シェーカーミキサ装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製、TURBULA TypeT2C)を用いて十分に混合し、リチウム混合物を得た。
次いで、このリチウム混合物に対して、焼成工程を行い、大気(酸素濃度:21容量%)気流中、昇温速度を2.5℃/分で950℃まで昇温し、この温度で4時間保持して焼成し、冷却速度を約4℃/分で室温まで冷却した。このようにして得た正極活物質には、凝集または軽度の焼結が生じていため、解砕工程を実施し、この正極活物質を解砕し、平均粒径および粒度分布を調整した。
c)正極活物質の評価
[組成]
この正極活物質を試料として、ICP発光分光分析装置を用いて元素分率を計測したところ、この正極活物質は、一般式:Li1.14Ni0.331Mn0.331Co0.331Zr0.0020.005で表されるものであることを確認した。
d)二次電池の作製
上記で得た正極活物質:52.5mgと、アセチレンブラック:15mgと、PTEE:7.5mgを混合し、100MPaの圧力で、直径11mm、厚さ100μmにプレス成形した後、真空乾燥機中、120℃で12時間乾燥することにより、正極(1)を作製した。
次に、この正極(1)を用いて、図3に示す構造の2032型コイン電池100を、露点が−80℃に管理されたアルゴン(Ar)雰囲気のグローブボックス内で作製した。この2032型コイン電池100の負極(2)には、直径17mm、厚さ1mmのリチウム金属を用い、電解液には、1MのLiClOを支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。また、セパレータ(3)には、膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。なお、2032型コイン電池100は、ガスケット(4)を有し、正極缶(5)と負極缶(6)とでコイン状の電池に組み立てられたものである。
e)電池評価
[初期放電容量]
2032型コイン電池100を作製してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cmとして、カットオフ電圧が4.3Vとなるまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧が3.0Vになるまで放電したときの放電容量を測定する充放電試験を行ない、初期放電容量を求めた。この結果、初期放電容量は、158.3mAh/gであった。なお、初期放電容量の測定には、マルチチャンネル電圧/電流発生器(株式会社アドバンテスト製、R6741A)を用いた。
[サイクル特性]
上記充放電試験を繰り返し、初期放電容量に対する、500回目の放電容量を測定することで、500サイクル容量維持率を算出した。この結果、500サイクル容量維持率は、81.5%であることが確認された。
(比較例1)
粒子成長工程における混合原料水溶液の添加速度を、粒子成長工程の初期から終了まで10mL/分で変化させなかったこと以外は、実施例1と同様とし、遷移金属複合水酸化物、正極活物質および二次電池を作製し、それらの評価を行った。
(比較例2)
粒子成長工程における混合原料水溶液の添加速度を、実施例1における粒子成長工程終了時の添加速度である2.4mL/分で、粒子成長工程の初期から終了まで変化させなかったこと以外は、実施例1と同様とし、遷移金属複合水酸化物、正極活物質および二次電池を作製し、それらの評価を行った。
実施例及び比較例1、2における、粒子成長工程における原料水溶液の添加速度、遷移金属複合水酸化物の収量、遷移金属複合水酸化物を前駆体とする正極活物質を用いて製造された二次電池の初期放電容量、及び500サイクル充放電後における放電容量維持率を表1に示す。
Figure 2020033235
二次電池の初期放電容量は実施例1と比較例1、2でほぼ同じであった。しかし、500サイクル充放電後の二次電池の放電容量維持率は、実施例1に対し比較例1では低い値となった。これは、比較例1の条件では、遷移金属複合水酸化物中に微粒子が生成したことにより、これを前駆体とする正極活物質において微粒子が生成し、この正極活物質を用いた二次電池の電極内に微粒子が存在したためと考えられる。そして、二次電池の電極内の微粒子が選択的に劣化し、充放電容量の低下が発生することによって、二次電池のサイクル特性が低下したためと考えられる。比較例2では放電容量および500サイクル充放電後の放電容量維持率は実施例1と同等であったが、同時間反応させて得られる遷移金属複合水酸化物の収量は実施例1の半分以下であり、生産性に劣ることがわかる。
なお、上記のように本発明の各実施形態及び各実施例について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。従って、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、遷移金属複合水酸化物の製造方法、および、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法の構成、動作も本発明の各実施形態及び各実施例で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
1 正極(評価用電極)、2 負極、3 セパレータ、4 ガスケット、5 正極缶、6 負極缶、100 2032型コイン電池 S30 熱処理工程、S40 混合工程、S50 仮焼工程、S60 焼成工程、S70 解砕工程

Claims (10)

  1. 一種以上の遷移金属を含む遷移金属原料水溶液と、アンモニウムイオン供給体と、を供給して反応水溶液を形成し、晶析反応によって、リチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体である遷移金属複合水酸化物を製造する方法であって、
    前記反応水溶液の液温25℃基準におけるpH値が12.0以上14.0以下の範囲となるように制御して、核の生成を行う核生成工程と、
    前記核生成工程で得られた核を含む前記反応水溶液を、液温25℃基準におけるpH値が、前記核生成工程の反応水溶液のpH値よりも低く、かつ、10.5以上12.0以下の範囲となるように制御して、前記核を成長させる粒子成長工程と、を備え、
    前記粒子成長工程における前記遷移金属原料水溶液の添加速度を、前記粒子成長工程の反応開始から反応終了までの経過時間とともに低減させることを特徴とする遷移金属複合水酸化物の製造方法。
  2. 前記粒子成長工程の反応開始時の、前記遷移金属原料水溶液の添加速度をS、前記反応水溶液の全容積をVとし、粒子成長工程開始からt時間経過した時の前記反応水溶液の全容積の増加量をΔV(t)とした場合に、
    前記粒子成長工程開始からt時間経過した時の前記遷移金属原料水溶液の添加速度をS(t)が、式1を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の遷移金属複合水酸化物の製造方法。
    S(t)=S×V÷(V+ΔV(t))・・・式1
  3. 前記粒子成長工程の反応開始時の、前記遷移金属原料水溶液の添加速度をS、前記反応水溶液の全容積をVとし、粒子成長工程開始からt時間経過した時の前記反応水溶液の全容積の増加量をΔV(t)とした場合に、
    前記粒子成長工程開始からt時間経過した時の前記遷移金属原料水溶液の添加速度をS(t)が、式2を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の遷移金属複合水酸化物の製造方法。
    S(t)<S×V÷(V+ΔV(t))・・・式2
  4. 前記添加速度S(t)を前記粒子成長工程の開始時の所定値から段階的に下げ、
    前記開始時の前記所定値をSよりも低い値とし、かつ前記添加速度S(t)が式2を満たすことを特徴とする請求項3に記載の遷移金属複合水酸化物の製造方法。
  5. 前記遷移金属複合水酸化物が、一般式(A):NixMnyCozt(OH)2+a(x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.95、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上の添加元素)で表される、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の遷移金属複合水酸化物の製造方法。
  6. 前記粒子成長工程後に、前記遷移金属複合水酸化物の表面を、添加元素M(Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上)の化合物によって被覆する、被覆工程を加えた請求項1乃至4のいずれか1項に記載の遷移金属複合水酸化物の製造方法。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法によって得られた遷移金属複合水酸化物と、リチウム化合物とを混合して、リチウム混合物を形成する混合工程と、
    該リチウム混合物を、酸化性雰囲気中で、650℃〜1000℃の範囲の温度で焼成して、リチウム遷移金属含有複合酸化物を得る焼成工程と、
    を備える、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
  8. 前記混合工程において、前記リチウム混合物に含まれるリチウムの物質量の、リチウム以外の金属元素の物質量の合計に対する比率Li/Meが、0.95〜1.5である、請求項7に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
  9. 前記混合工程の前に、前記遷移金属複合水酸化物を、105℃〜750℃の範囲の温度で熱処理する熱処理工程を備える、請求項7または8に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
  10. 前記リチウム遷移金属含有複合酸化物が、一般式(B):Li1+uNiMnCo(−0.05≦u≦0.50、x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.95、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上の添加元素)で表される、請求項7〜9のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
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