JP2020033234A - 遷移金属複合水酸化物の製造方法、遷移金属複合水酸化物、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン二次電池用正極活物質 - Google Patents

遷移金属複合水酸化物の製造方法、遷移金属複合水酸化物、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン二次電池用正極活物質 Download PDF

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Abstract

【課題】リチウムイオン二次電池の正極活物質の前駆体として用いた場合に、該リチウムイオン二次電池の初期放電容量を高め、内部抵抗を抑制することができる遷移金属複合水酸化物を連続的に製造できる、遷移金属複合水酸化物の製造方法の提供。【解決手段】リチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体となる遷移金属複合水酸化物を、晶析反応により製造する遷移金属複合水酸化物の製造方法であって、反応槽内に、液温25℃基準におけるpH値が9.0以上12.0以下となるように制御しつつ、少なくとも遷移金属を含有する原料水溶液と、アルカリ水溶液とを連続的に供給して反応水溶液を形成し、遷移金属複合水酸化物の晶析反応を行う晶析工程を有し、前記晶析工程の間、前記反応水溶液の温度を70℃以上80℃以下、前記反応水溶液中のアンモニウムイオン濃度を1g/L以下に制御する遷移金属複合水酸化物の製造方法を提供する。【選択図】図2

Description

本発明は、遷移金属複合水酸化物の製造方法、遷移金属複合水酸化物、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン二次電池用正極活物質に関する。
近年、スマートフォンやタブレットPCなどの携帯情報端末の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な二次電池の開発が強く望まれている。また、ハイブリット自動車を始めとする電気自動車用の電源として高出力の二次電池の開発が強く望まれている。
このような要求を満たす二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。このリチウムイオン二次電池は、負極、正極、電解質などで構成され、その負極および正極の材料として用いられる活物質には、リチウムを脱離および挿入することが可能な材料が使用される。
中でも、層状またはスピネル型のリチウム遷移金属複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の電圧が得られるため、高エネルギー密度を有する二次電池として、現在、研究開発が盛んに行われており、一部では実用化も進んでいる。
このようなリチウムイオン二次電池の正極材料として、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO2)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/32)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn24)、リチウムニッケルマンガン複合酸化物(LiNi0.5Mn0.52)などのリチウム遷移金属複合酸化物が提案されている。
そして、リチウムイオン二次電池の正極材料であるリチウム遷移金属複合酸化物はその前駆体となる遷移金属複合水酸化物の性状を引き継ぐことが知られており、前駆体である遷移金属複合水酸化物の製造方法について各種検討がなされてきた。
例えば特許文献1には反応槽内に、少なくとも遷移金属を含有する原料水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液を供給することで反応水溶液を形成し、晶析反応によって、非水電解質二次電池用正極活物質の前駆体となる遷移金属複合水酸化物粒子を製造する方法であって、雰囲気や、反応水溶液のpH値を制御しながら核生成工程と、粒子成長工程とを実施する遷移金属複合水酸化物粒子の製造方法が開示されている。
特開2017−016753号公報
しかしながら、特許文献1に記載された製造方法は遷移金属複合水酸化物を連続的に生産できず生産効率の低いバッチ晶析によるものであった。
また、近年ではリチウムイオン二次電池の更なる高性能化が求められており、例えば出力特性の向上、初期放電容量の向上や、電池の内部抵抗の抑制が求められるようになっている。
そこで上記従来技術が有する問題に鑑み、本発明の一側面では、リチウムイオン二次電池の正極活物質の前駆体として用いた場合に、該リチウムイオン二次電池の初期放電容量を高め、内部抵抗を抑制することができる遷移金属複合水酸化物を連続的に製造できる、遷移金属複合水酸化物の製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
リチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体となる遷移金属複合水酸化物を、晶析反応により製造する遷移金属複合水酸化物の製造方法であって、
反応槽内に、液温25℃基準におけるpH値が9.0以上12.0以下となるように制御しつつ、少なくとも遷移金属を含有する原料水溶液と、アルカリ水溶液とを連続的に供給して反応水溶液を形成し、遷移金属複合水酸化物の晶析反応を行う晶析工程を有し、
前記晶析工程の間、前記反応水溶液の温度を70℃以上80℃以下、前記反応水溶液中のアンモニウムイオン濃度を1g/L以下に制御する遷移金属複合水酸化物の製造方法を提供する。
本発明の一態様によれば、リチウムイオン二次電池の正極活物質の前駆体として用いた場合に、該リチウムイオン二次電池の初期放電容量を高め、内部抵抗を抑制することができる遷移金属複合水酸化物を連続的に製造できる、遷移金属複合水酸化物の製造方法を提供することができる。
実施例1において作製した被覆前遷移金属複合水酸化物の粒子の断面SEM画像。 実施例1において作製した被覆前遷移金属複合水酸化物の粒子のSEM画像。 実施例、比較例において作製したコイン型電池の断面構成の説明図。 実施例、比較例において作製したラミネート型電池の断面構成の説明図。
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[遷移金属複合水酸化物の製造方法]
以下に、本実施形態の遷移金属複合水酸化物の製造方法の一構成例について説明する。
本実施形態の遷移金属複合水酸化物の製造方法は、リチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体となる遷移金属複合水酸化物を、晶析反応により製造する遷移金属複合水酸化物の製造方法に関し、以下の晶析工程を有することができる。
反応槽内に、少なくとも遷移金属を含有する原料水溶液と、アルカリ水溶液とを連続的に供給して反応水溶液を形成し、遷移金属複合水酸化物の晶析反応を行わせる晶析工程。
晶析工程の間、反応水溶液は、液温25℃基準におけるpH値が9.0以上12.0以下となるように反応槽への原料水溶液と、アルカリ水溶液との供給量を制御することが好ましい。
また、晶析工程の間、反応水溶液の温度を70℃以上80℃以下、反応水溶液中のアンモニウムイオン濃度を1g/L以下に制御することが好ましい。
本発明の発明者らの検討によれば、リチウムイオン二次電池の初期放電容量を高め、内部抵抗を抑制できるリチウムイオン二次電池用正極活物質とするためには、該リチウムイオン二次電池用正極活物質(以下、単に「正極活物質」とも記載する)の内部に電解液等の電解質が侵入可能な空隙部を形成することが好ましい。これは、係る空隙部を有する正極活物質とすることで、粒径が同程度の中実構造の正極活物質と比較して電解質との反応面積を大きくすることができ、内部抵抗を大幅に低減することができるからである。
正極活物質は、その前駆体となる遷移金属複合水酸化物の粒子構造に大きな影響を受けることが知られている。このため、該正極活物質の前駆体である遷移金属複合水酸化物についても、該正極活物質の製造に適した粒子構造とすることが求められる。
そして、晶析工程における反応水溶液の温度、アンモニウムイオン濃度、およびpH値を所定の範囲内に制御することで、所望の遷移金属複合水酸化物を連続的に得られることを見出し、本発明を完成させた。具体的には、晶析工程における上記条件を制御することで、リチウムイオン二次電池の正極活物質の前駆体として用いた場合に、該リチウムイオン二次電池の初期放電容量を高め、内部抵抗を抑制することができる遷移金属複合水酸化物を連続的に製造できることを見出した。
本実施形態の遷移金属複合水酸化物の製造方法は、反応槽内に、少なくとも遷移金属を含有する原料水溶液と、アルカリ水溶液とを連続的に供給することで反応水溶液を形成し、晶析反応を行う晶析工程を有することができる。そして、本実施形態の遷移金属複合水酸化物の製造方法は、係る晶析工程を実施することで、正極活物質の前駆体となる遷移金属複合水酸化物を製造する方法である。
晶析工程について以下に説明する。
本実施形態の遷移金属複合水酸化物の製造方法では、反応槽内に、少なくとも遷移金属を含有する原料水溶液と、アルカリ水溶液とを連続的に供給して反応水溶液を形成して晶析反応を行い、遷移金属複合水酸化物を晶析させる晶析工程を有することができる。晶析工程の間、形成された反応水溶液は攪拌しておくことができ、晶析反応により晶析した遷移金属複合水酸化物をオーバーフローにより反応槽外へ排出、回収することで、遷移金属複合水酸化物を連続的に効率よく得ることが可能になる。なお、回収した遷移金属複合水酸化物は必要に応じて固液分離、水洗、乾燥を行うことができる。
ここでまず、少なくとも遷移金属を含有する原料水溶液と、アルカリ水溶液とについて説明する。
(少なくとも遷移金属を含有する原料水溶液)
本実施形態の遷移金属複合水酸化物の製造方法によれば、少なくとも遷移金属を含有する原料水溶液(以下、単に「原料水溶液」とも記載する)中の金属元素の物質量の比率が、概ね、得られる遷移金属複合水酸化物中の対応する金属元素の物質量の比(以下、「組成比」とも記載する)となる。このため、原料水溶液は、目的とする遷移金属複合水酸化物の組成比に応じて、各金属元素の含有量を調整することが好ましい。
本実施形態の遷移金属複合水酸化物の製造方法により製造する、遷移金属複合水酸化物の組成比は特に限定されるものではない。本実施形態の遷移金属複合水酸化物の製造方法により、晶析工程後に、例えば一般式(A):NiCoAl(OH)2+aで表される遷移金属複合水酸化物を製造できる。このため、原料水溶液は、例えばNi(ニッケル)、Co(コバルト)、及び必要に応じてAl(アルミニウム)や、添加元素Mを含むことができる。また、上述した一般式(A)で表される遷移金属複合水酸化物を得ようとする場合には、原料水溶液中の各金属元素の物質量の比率を、例えばNi:Co:Al:M=x:y:z:tとなるように調整することが好ましい。
なお、上記一般式(A)中、x、y、z、t、aは、x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.95、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5を満たすことが好ましい。
原料水溶液は、例えば原料となる遷移金属の化合物を水に溶解して調製することができる。原料水溶液を調製するための遷移金属の化合物は特に制限されることはないが、取扱いの容易性から、水溶性の硫酸塩、硝酸塩、及び塩化物等から選択された1種類以上を用いることが好ましく、コストやハロゲンの混入を防止する観点から、硫酸塩を用いることが特に好ましい。このため、原料水溶液は、例えば遷移金属硫酸塩を含有する水溶液とすることができる。
また、遷移金属複合水酸化物中にAlや、添加元素Mを含有させる場合には、Alや、添加元素Mを供給するための化合物としては、同様に水溶性の化合物を好ましく用いることができる。なお、Alを供給するための化合物としては、アルミン酸ナトリウムや硫酸アルミニウム等から選択された1種類以上を好適に用いることができる。また、添加元素Mとしては、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種類以上の元素とすることができる。このため、添加元素Mを供給するための化合物としては、例えば硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸チタン、ペルオキソチタン酸アンモニウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸バナジウム、バナジン酸アンモニウム、硫酸クロム、クロム酸カリウム、硫酸ジルコニウム、シュウ酸ニオブ、モリブデン酸アンモニウム、硫酸ハフニウム、タンタル酸ナトリウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸アンモニウム等から選択された1種類以上を好適に用いることができる。
Alや添加元素Mは、例えば遷移金属複合水酸化物の二次粒子の内部及び表面のいずれか一方、もしくは両方に均一に配置することが好ましい。
そして、原料水溶液に上述したAlや添加元素Mの化合物を添加することで、遷移金属複合水酸化物の粒子の内部にAlや添加元素Mを均一に分散させることができる。
遷移金属複合水酸化物の二次粒子の表面を、Alや添加元素Mで均一に被覆するためには、晶析工程の終了後、Alや添加元素Mで被覆する被覆工程を行なうことができる。被覆工程については後述する。
原料水溶液中の上述の遷移金属や、添加元素等を添加するための金属化合物の濃度は特に限定されないが、原料水溶液が含有する金属化合物の合計でその濃度が1mol/L以上2.6mol/L以下が好ましく、1.5mol/L以上2.2mol/L以下がより好ましい。これは原料水溶液中の金属化合物の濃度を1mol/L以上とすることで、反応槽当たりの晶析物量を十分に確保し、生産性を高めることができるからである。また、原料水溶液中の金属化合物の濃度を2.6mol/L以下とすることで、各金属化合物の結晶が再析出して、配管などを詰まらせることをより確実に防ぐことができるからである。
上述した金属化合物は、必ずしも全ての金属成分を添加した原料水溶液として反応槽に供給しなくてもよい。例えば、混合すると反応して目的とする化合物以外の化合物が生成されてしまう金属化合物を用いて晶析反応を行う場合には、金属成分毎に原料水溶液(金属化合物水溶液)を調製して用いることができる。また、一部の金属成分を混合、添加した原料水溶液と、その他の金属成分を添加した原料水溶液とを調製して用いることもできる。そして、全ての原料水溶液(金属化合物水溶液)の合計の濃度が上記範囲となるように、所定の割合で反応槽内に供給してもよい。
(アルカリ水溶液)
反応水溶液に添加し、反応水溶液のpH値を調整するアルカリ水溶液は、特に制限されることはなく、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの一般的なアルカリ金属水酸化物水溶液を用いることができる。なお、アルカリ金属水酸化物を、直接、反応水溶液に添加することもできるが、pH制御の容易さから、水溶液として添加することが好ましい。
アルカリ水溶液としてアルカリ金属水酸化物水溶液を用いる場合、アルカリ金属水酸化物水溶液の濃度は20質量%以上50質量%以下であることが好ましく、20質量%以上30質量%以下であることがより好ましい。アルカリ金属水酸化物水溶液の濃度を20質量%以上50質量%以下とすることにより、反応系に供給する溶媒量(水量)を抑制しつつ、添加位置で局所的にpH値が高くなることを防止することができるため、粒度分布の狭い遷移金属複合水酸化物を効率的に得ることが可能となるからである。
なお、アルカリ水溶液の供給方法は、特に制限されないが、反応水溶液のpH値が局所的に高くならず、かつ所定の範囲に維持されるように供給することが好ましい。例えば、反応水溶液を十分に攪拌しながら、アルカリ水溶液を定量ポンプなどの流量制御が可能なポンプにより供給することができる。
(晶析工程での操作について)
晶析工程を開始する前に、晶析を行う反応槽内に、アルカリ水溶液を供給、および混合して、液温25℃基準で測定するpH値が9.0以上12.0以下である反応前水溶液を調製しておくことができる。なお、反応槽内には予め水を入れておくことができる。反応前水溶液のpH値はpH計により測定することができる。反応槽内の液温度は、70℃以上80℃以下に制御しておくことが好ましい。
反応槽内の雰囲気は特に限定されるものではないが、非還元性雰囲気であれば良く、例えば窒素雰囲気等の不活性雰囲気や、大気雰囲気とすることができる。
次に、この反応前水溶液を攪拌しながら、反応前水溶液に原料水溶液を供給することができる。これにより、反応槽内には反応水溶液が形成される。連続晶析反応中のpH値は、液温25℃基準において9.0以上12.0以下に制御することができる。
晶析工程における反応水溶液のpH値を9.0以上12.0以下とすることで、反応水溶液中に結晶の微細な核を生成させる核生成反応と、核生成反応で生成した核の周辺に結晶が析出して粒子が大きくなっていく粒子成長反応とを、並行して同時に進行させることができる。そして、オーバーフローによる反応系外への連続的な遷移金属複合水酸化物の排出を伴いつつも、遷移金属複合水酸化物の連続的な生成反応を進めることが可能となる。
晶析工程における反応水溶液のpH値を9.0未満とした場合、核生成が極端に起こりにくくなり、ほとんどの原料水溶液中の金属成分が粒子成長に用いられてしまうため、反応系内の粒子数は時間経過とともに減少し、粗大な粒子を生じ易くなる。そして、一定時間を経過すると、粒子数が過度に少なくなり、粒子表面に結晶が析出できなくなるため、粒子表面に析出できなくなった結晶が一気に核生成を起こし、排出される遷移金属複合水酸化物は粗大な粒子と、微細な粒子との混合物となる。その後、排出される遷移金属複合水酸化物が、上記粗大な粒子を主とする時と、粗大な粒子と微細な粒子との混合物となる時とが交互に生じ、遷移金属複合水酸化物の粒子の粒径のバラツキが大きくなる。
一方、pH値を12.0を超える値とした場合、核生成が極度に優勢となり、粒子成長が起こらなくなるため、微細な粒子ばかりが得られてしまう。
晶析工程における反応水溶液のpH値は、特に均一でかつ所望の粒径の遷移金属複合水酸化物を得るために、9.5以上11.5以下に制御することがより好ましい。
晶析工程の間、反応水溶液のアンモニウムイオン濃度は1g/L以下であることが好ましく、0.5g/L以下であることがより好ましい。
アンモニウムイオン濃度を1g/L以下とすることで、得られる遷移金属複合水酸化物の粒子内に十分な空隙を形成することができ、該遷移金属複合水酸化物を用いて製造した正極活物質においても、空隙の割合を十分に確保することができるからである。
反応水溶液はアンモニウムイオンを含んでいないことが好ましいことから、反応水溶液のアンモニウムイオン濃度は0以上とすることができる。
また、晶析工程の間、反応水溶液の温度(反応温度)は70℃以上80℃以下に制御することが好ましい。
これは、反応温度を70℃以上とすることで、核生成が過度に起こることを抑制できる程度に反応水溶液の遷移金属複合水酸化物の溶解度を高くすることができるため、得られる遷移金属複合水酸化物の平均粒径や粒度分布を容易に所望の範囲に制御できるからである。なお、反応温度の上限は特に限定されないが、80℃以下とすることで保温に要するエネルギーを抑制し、取扱い性を高めることができるため、コストを低減する観点から好ましい。
なお、本発明の発明者の検討によれば、反応水溶液のアンモニウムイオン濃度と、反応温度との両方について、上述の好適な範囲とすることで、得られる遷移金属複合水酸化物の粒子内に特に十分な空隙を形成することができるため好ましい。係る原因については明らかではないが、アンモニウムイオン濃度と、反応温度とが共に上記範囲を充足することで、例えばアンモニウムイオン濃度が上記範囲よりも高い場合と比較して、反応水溶液内における原料となる金属の水酸化物の溶解度を抑制できる。このため、適度な速度で核生成と粒子成長とを行い、空隙を含む遷移金属複合水酸化物の粒子を生成できると推認される。反応温度については、反応温度が上記範囲よりも低い場合と比較して、反応水溶液内における遷移金属複合水酸化物の核発生の速度を増加させることができる。このため、適度な速度で核生成と粒子成長とを行い、空隙を含む遷移金属複合水酸化物の粒子を生成できると推認される。
以上に本実施形態の遷移金属複合水酸化物の製造方法の晶析工程について説明したが、晶析工程後に得られる遷移金属複合水酸化物の平均粒径は、晶析工程における滞留時間や、反応水溶液のpH値により制御することができる。上記晶析工程における滞留時間とは、反応槽の全反応容積を、反応槽に供給する溶液、すなわち原料水溶液や、アルカリ水溶液等の総供給速度で除した値となる。
例えば、晶析工程において反応水溶液を高pH値にすることで、得られる遷移金属複合水酸化物の平均粒径を小さくすることができる。一方、晶析工程において反応水溶液を低pH値にすることで、得られる遷移金属複合水酸化物の平均粒径を大きくすることができる。
ただし、既述の様に、晶析工程における反応水溶液のpH値は、9.0以上12.0以下とすることが好ましいため、遷移金属複合水酸化物の平均粒径が所望の値となるように、上記pH値の範囲内で、反応水溶液のpH値を調整することが好ましい。
また、所望の平均粒径の遷移金属複合水酸化物が得られるように、晶析工程の滞留時間を選択することが好ましい。
例えば、予め晶析工程における反応水溶液のpH値や、滞留時間と、得られる遷移金属複合水酸化物の平均粒径との関係を試験しておき、所望の平均粒径の遷移金属複合水酸化物が得られるように、これらの条件を選択することが好ましい。
なお、粒度の揃った、すなわち粒度分布の広がりを抑制した遷移金属複合水酸化物の粒子とする観点から晶析工程の間のpH値の変動幅を抑制することが好ましい。晶析工程の間のpH値の変動幅は、中央値±0.5以内であることが好ましく、中央値±0.05以内であることがより好ましい。
本実施形態の遷移金属複合水酸化物の製造方法により得られる遷移金属複合水酸化物は、一次粒子が凝集した二次粒子を有しており、Alおよび添加元素Mから選択された1種類以上は、係る二次粒子の内部及び表面のいずれか一方、もしくは両方に均一に配置されていることが好ましい。
係る二次粒子の表面にAlや、添加元素Mを配置する場合、本実施形態の遷移金属複合水酸化物の製造方法は、晶析工程で得られた(被覆前)遷移金属複合水酸化物の粒子の表面を、Alおよび添加元素Mから選択された1種類以上で被覆する被覆工程をさらに有することもできる。
被覆工程は、例えば、以下のいずれかの工程とすることができる。
遷移金属複合水酸化物が懸濁したスラリーに、Alおよび添加元素Mから選択された1種類以上を添加して、晶析反応により、遷移金属複合水酸化物の粒子の表面にAlおよび添加元素Mから選択された1種類以上を析出させる工程。
遷移金属複合水酸化物の粒子に対して、Alおよび添加元素Mから選択された1種類以上を含む水溶液、またはスラリーを吹き付けて乾燥させる工程。
遷移金属複合水酸化物とAlおよび添加元素Mから選択された1種類以上を含む化合物とが懸濁したスラリーを噴霧して乾燥させる工程。
遷移金属複合水酸化物とAlおよび添加元素Mから選択された1種類以上を含む化合物とを固相法で混合する工程。
被覆工程が、例えば、遷移金属複合水酸化物が懸濁したスラリーに、Alおよび添加元素Mから選択された1種類以上を添加して、晶析反応により、遷移金属複合水酸化物の粒子の表面にAlおよび添加元素Mから選択された1種類以上を析出させる工程であるとする。この場合、遷移金属複合水酸化物のスラリー化と、Alおよび添加元素Mから選択された1種類以上の元素の添加とを同時に実施することもできる。具体的には例えば、遷移金属複合水酸化物を、Alおよび添加元素Mから選択された1種類以上を含む水溶液を用いてスラリー化することができる。そして、Alおよび添加元素Mから選択された1種類以上を添加した後、例えば酸等を添加することで晶析反応を実施することができる。
なお、被覆工程で用いる、Alおよび添加元素Mから選択された1種類以上を含む水溶液については、既述の晶析工程の場合と同様の金属塩を添加した水溶液を用いることができる。また、被覆工程では、Alおよび添加元素Mから選択された1種類以上を含む水溶液に替えて、Alおよび添加元素Mから選択された1種類以上を含むアルコキシド溶液を用いてもよい。
晶析工程で原料水溶液にAlおよび添加元素Mから選択された1種類以上を添加し、かつ被覆工程を実施して遷移金属複合水酸化物の粒子の表面をAlおよび添加元素Mから選択された1種類以上で被覆することもできる。この場合、晶析工程において原料水溶液中に添加するAlおよび添加元素Mから選択された1種類以上の量は、被覆する量だけ少なくしておくことが好ましい。これは、原料水溶液へのAlおよび添加元素Mから選択された1種類以上の添加量を被覆する量だけ少なくしておくことで、得られる遷移金属複合水酸化物に含まれるAlおよび添加元素Mと、他の金属成分との物質量の比を所望の値とすることができるからである。
遷移金属複合水酸化物の粒子の表面を、上述のように、Alおよび添加元素Mから選択された1種類以上で被覆する被覆工程は、晶析工程の終了後、加熱した後の遷移金属複合水酸化物に対して行ってもよい。
以上の本実施形態の遷移金属複合水酸化物の製造方法により、得られる遷移金属複合水酸化物の組成等は特に限定されない。例えば、係る遷移金属複合水酸化物は、一般式(A):NiCoAl(OH)2+aで表される遷移金属複合水酸化物とすることができる。上述した一般式(A)中、x、y、z、t、aは、x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.95、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5を満たすことが好ましい。
また、添加元素Mは、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種類以上の元素とすることができる。
[遷移金属複合水酸化物]
以下に、本実施形態の遷移金属複合水酸化物の一構成例について説明する。
本実施形態の遷移金属複合水酸化物は、例えば既述の遷移金属複合水酸化物の製造方法により製造することができる。このため、既に説明した事項の一部は説明を省略する。
本実施形態の遷移金属複合水酸化物は、リチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体となる遷移金属複合水酸化物である。
本実施形態の遷移金属複合水酸化物は、厚みが30nm以下の板状一次粒子、及び微細一次粒子が凝集して形成された二次粒子を含むことができる。また、本実施形態の遷移金属複合水酸化物が有する二次粒子は、少なくともその表面において、隣接する一方の板状一次粒子の主表面と、他方の板状一次粒子の端面とが接するようにして凝集した構造を有することが好ましい。
さらに、本実施形態の遷移金属複合水酸化物は平均粒径が1μm以上20μm以下であり、かつ粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕を1.4以上とすることができる
(1)二次粒子の粒子構造
本実施形態の遷移金属複合水酸化物が有する二次粒子は、板状一次粒子および微細一次粒子が凝集して形成されている。この際、二次粒子の少なくとも表面において、隣接する一方の板状一次粒子の主表面と、他方の板状一次粒子の厚み方向を含む面である端面とが接するようにして凝集した構造を有することが好ましい。二次粒子の表面に配置された複数の板状一次粒子は、端面が二次粒子の表面側に配置され、主表面が二次粒子の直径方向に沿って配置されていることが好ましい。
係る構造を有することで板状一次粒子間に十分な空隙を形成することができる。
板状一次粒子は該二次粒子の全体に分布しており、板状一次粒子の間に、微細一次粒子が分布した構造を有することができる。
板状一次粒子の厚みは、上述のように30nm以下であることが好ましい。板状一次粒子の厚みの下限値は特に限定されないが、例えば5nmよりも厚いことが好ましい。
なお、微細一次粒子の粒径は、例えばSEM観察を行い粒子に外接する最小の外接円を描いた時の直径とすることができ、その粒径は例えば板状一次粒子の厚みよりも小さいことが好ましく、1nm以上5nm以下であることがより好ましい。
このように所定のサイズの板状一次粒子と、微細一次粒子とが凝集することで、該二次粒子内に空隙部が均一に分布し、二次粒子の中心部から表面部までを連結させることができる。
このような遷移金属複合水酸化物の粒子を焼成した場合には、均一に分布した空隙部を維持したまま焼結収縮することになる。このため、本実施形態の遷移金属複合水酸化物を用いて得られる正極活物質においては、二次粒子の表面部(外殻部)と電気的に導通する一次粒子の凝集部と、一次粒子が存在しない空隙部とを有することができる。このような粒子構造を有する正極活物質では、一次粒子間の粒界または空隙部を介して、二次粒子の内部に電解質が浸入するため、二次粒子の表面ばかりでなく、二次粒子の内部においても、リチウムの脱離および挿入が可能となる。しかも、この正極活物質は、二次粒子表面部と内部とが電気的に導通し、かつ、その経路の断面積が十分に大きいため、粒子内部の抵抗(内部抵抗)を大幅に低減することができる。したがって、この正極活物質を用いて二次電池を構成した場合に、電池容量やサイクル特性を損なうことなく、出力特性をさらに改善、具体的には初期放電容量を向上し、内部抵抗を抑制することが可能となる。
なお、本実施形態の遷移金属複合水酸化物が有する上記粒子構造の二次粒子は、例えば既述の遷移金属複合水酸化物の製造方法で示した晶析条件により、遷移金属複合水酸化物を調製することで得ることができる。
(2)平均粒径
本実施形態の遷移金属複合水酸化物、具体的には遷移金属複合水酸化物の粒子は、平均粒径が1μm以上20μm以下であることが好ましく、3μm以上18μm以下であることがより好ましく、3μm以上17μm以下であることがさらに好ましい。本実施形態の遷移金属複合水酸化物の平均粒径は、該遷移金属複合水酸化物を前駆体とする正極活物質の平均粒径と相関する。そして、本発明の発明者らの検討によれば、本実施形態の遷移金属複合水酸化物の平均粒径を1μm以上20μm以下とすることで、該遷移金属複合水酸化物を前駆体とする正極活物質の平均粒径を容易に所定の範囲に制御することが可能となり好ましい。
なお、本明細書において、平均粒径とは、体積基準平均粒径(MV)を意味し、例えば、レーザ光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。
(3)粒度分布の広がり
正極活物質の粒度分布は、その前駆体である遷移金属複合水酸化物の粒度分布の影響を強く受ける。
そこで、本実施形態の遷移金属複合水酸化物、具体的には遷移金属複合水酸化物の粒子は、粒度分布の広がりを示す[(d90−d10)/平均粒径]を1.4以上とすることが好ましい。
これは、遷移金属複合水酸化物の粒度分布の広がりを示す[(d90−d10)/平均粒径]を1.4以上とすることで、比較的大きな粒径の粒子の間に比較的小さな粒径の粒子が配置することになり、遷移金属複合水酸化物から合成されるリチウム遷移金属複合酸化物の充填密度を大きくすることができるからである。
遷移金属複合水酸化物の粒度分布の広がりを示す[(d90−d10)/平均粒径]の上限は特に限定されないが、例えば3.0以下とすることが好ましい。
これは、[(d90−d10)/平均粒径]を3.0以下とすることで、過度に粗大な粒子や、微小な粒子が混入することを抑制でき、リチウムイオン二次電池の正極活物質の原料に用いた場合に、特に出力特性を高めることができるからである。
上述のd10は累積10%粒子径であり、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における体積積算値10%での粒径を意味する。
また、d90は累積90%粒子径であり、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における体積積算値90%での粒径を意味する。本明細書の他の部分においてもd10、d90は同様の意味を有する。
(4)組成
本実施形態の遷移金属複合水酸化物の組成は制限されることはないが、一般式(A):NiCoAl(OH)2+aで表される遷移金属複合水酸化物であることが好ましい。なお、上記一般式(A)中のx、y、z、t、aは、x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.95、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5の関係を満たすことが好ましい。また、添加元素Mは、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種類以上の添加元素とすることが好ましい。
上記組成を有する遷移金属複合水酸化物を前駆体とすることで、後述する一般式(B)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質を容易に得ることができ、より高い電池性能を実現することができ、好ましい。
なお、一般式(A)で表される遷移金属複合水酸化物において、これを構成するニッケル、コバルト、アルミニウムおよび添加元素Mの好適な組成範囲や、該組成範囲とする意義は、後述する一般式(B)で表される正極活物質の場合と同様となる。このため、これらの事項について、ここでの説明は省略する。
[リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法]
次に本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法(以下、単に「正極活物質の製造方法」とも記載する)の一構成例について説明する。
本実施形態の正極活物質の製造方法は、特に限定されるものではなく、既述の遷移金属複合水酸化物を前駆体として用いて実施することができる。
本実施形態の正極活物質の製造方法は例えば以下の工程を有することができる。
既述の遷移金属複合水酸化物の製造方法により得られた遷移金属複合水酸化物と、リチウム化合物とを混合して、リチウム混合物を形成する混合工程。
混合工程で形成されたリチウム混合物を、酸化性雰囲気中、650℃以上800℃以下で焼成する焼成工程。
以下、各工程について説明する
(1)混合工程
混合工程は、既述の遷移金属複合水酸化物の製造方法により製造した遷移金属複合水酸化物と、リチウム化合物とを混合して、リチウム混合物を形成することができる。
なお、後述のように遷移金属複合水酸化物は予め酸化焙焼して酸化焙焼物とすることもできる。酸化焙焼した場合、混合工程では、酸化焙焼後に得られた酸化焙焼物と、リチウム化合物とを混合してリチウム混合物を形成することができる。
混合工程では、リチウム混合物に含まれるリチウム以外の金属の原子数の和を1とした場合に、リチウム混合物に含まれるリチウムの原子数の比が0.95以上1.5以下となるように、リチウム混合物を形成することが好ましい。
すなわち、リチウム混合物中のリチウム以外の金属の原子数の和であるMeと、リチウムの原子数Liとの比であるLi/Meが0.95以上1.5以下であることが好ましい。
特にリチウム混合物に含まれるリチウム以外の金属の原子数の和を1とした場合に、リチウム混合物に含まれるリチウムの原子数の比は0.99以上1.15以下であることがより好ましく、1.0以上1.10以下であることがさらに好ましく、1.0以上1.07以下であることが特に好ましい。
これは、焼成工程の前後においてLi/Meはほとんど変化しないので、混合工程におけるリチウム混合物中のLi/Meが、目的とする正極活物質のLi/Meとなるように、遷移金属複合水酸化物または酸化焙焼物とリチウム化合物とを混合することが好ましいからである。
混合工程で使用するリチウム化合物は、特に制限されることはないが、入手の容易性から、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウムから選択された1種類以上を好ましく用いることができる。特に、取り扱いの容易さや品質の安定性を考慮すると、水酸化リチウムまたは炭酸リチウムを用いることが好ましい。
遷移金属複合水酸化物または酸化焙焼物と、リチウム化合物とは、混合する際に、粉砕され微粉が生じない程度に、十分に混合することが好ましい。これは、遷移金属複合水酸化物または酸化焙焼物と、リチウム化合物とを十分に混合することで、得られる正極活物質の粒子間でのLi/Meのばらつきを抑制し、特に均一な組成とし、電池特性を特に高めることができるからである。
なお、混合には、一般的な混合機を使用することができる。たとえば、シェーカーミキサ、レーディゲミキサ、ジュリアミキサ、Vブレンダなどを用いることができる。
混合工程において用いるリチウム化合物は、酸化焙焼物との混合性を考慮すると、粒度が細かいほど好ましい。例えば、リチウム化合物の平均粒径は110μm以下であることが好ましく、106μm以下であることがより好ましく、53μm以下であることがさらに好ましい。
リチウム化合物の平均粒径を110μm以下とすることで、遷移金属複合水酸化物や、酸化焙焼物との混合性を特に高めることができるからである。混合性を高めることで、得られる正極活物質の組成の均一性を高めることができる。また、例えば焼成工程の際に粒子間での焼結の進行の程度のばらつきを抑制することができる。このため、目的とする空隙部率を有する正極活物質をより確実に得ることが可能になる。
なお、リチウム化合物の平均粒径の下限値は特に限定されるものではなく、例えば0.5μm以上とすることができる。
(2)焼成工程
焼成工程は、混合工程で得られたリチウム混合物を酸化性雰囲気中、650℃以下800℃以下で焼成し、遷移金属複合水酸化物または酸化焙焼物の粒子中にリチウムを拡散させて、リチウム遷移金属複合酸化物を得る工程である。
この焼成工程において、遷移金属複合水酸化物や、酸化焙焼物の粒子は、空隙部を保ちながら焼結収縮する。この際、粒子の表面部と中心部との連結を維持したまま、焼結収縮するため、得られる正極活物質においては、表面部(外殻部)と凝集部とが電気的に導通し、かつ、その経路の断面積を十分に確保することができる。この結果、正極活物質の内部抵抗が大幅に減少し、二次電池を構成した場合に、電池容量やサイクル特性を損ねることなく、出力特性を改善することが可能となる。
このような正極活物質の粒子構造は、基本的に、前駆体である遷移金属複合水酸化物の粒子構造に応じて定まるものである。ただし、その組成や焼成条件などの影響を受けることがあるため、予備試験を行った上で、所望の構造となるように、各条件を適宜調整することが好ましい。
なお、焼成工程に用いられる炉は、特に制限されることはなく、酸化性雰囲気中でリチウム混合物を加熱できるものであればよい。ただし、炉内の雰囲気を均一に保つ観点から、ガス発生がない電気炉が好ましく、バッチ式あるいは連続式の電気炉のいずれも好適に用いることができる。この点については、酸化焙焼工程等で用いる炉についても同様である。
(焼成温度)
リチウム混合物の焼成温度は、650℃以上800℃以下とすることが好ましい。焼成温度を650℃以上とすることで、遷移金属複合水酸化物または酸化焙焼物の粒子中にリチウムを十分に拡散することができる。このため、余剰のリチウムや未反応の遷移金属複合水酸化物または酸化焙焼物が残存することを抑制できる。また、得られるリチウム遷移金属複合酸化物の結晶性を十分に高めることができる。
そして、焼成温度を800℃以下とすることで、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子間の焼結が過度に進行することを抑制し、正極活物質に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物粒子内に空隙部をより確実に保持することが可能になる。また、焼成工程の間に異常粒成長が引き起こされることを防止できるため、例えば不定形な粗大粒子の混入を抑制できる。
リチウム混合物の焼成温度は特に、650℃以上730℃以下であることがより好ましい。
また、焼成工程における昇温速度は特に限定されないが、例えば2℃/分以上10℃/分以下とすることが好ましく、2℃/分以上5℃/分以下とすることがより好ましい。さらに、焼成工程中、リチウム化合物の融点付近の温度で、好ましくは1時間以上5時間以下、より好ましくは2時間以上5時間以下保持することもできる。これにより、遷移金属複合水酸化物または酸化焙焼物とリチウム化合物とを、より均一に反応させることができる。
(焼成時間)
焼成時間のうち、上述した焼成温度での保持時間を2時間以上とすることが好ましく、4時間以上24時間以下とすることがより好ましい。焼成温度における保持時間を2時間以上とすることで、遷移金属複合水酸化物または酸化焙焼物の粒子中にリチウムを特に十分に拡散させることができる。このため、余剰のリチウムや未反応の遷移金属複合水酸化物または酸化焙焼物が残存することを抑制できる。また、得られるリチウム遷移金属複合酸化物の結晶性を十分に高めることができる。
なお、保持時間終了後、焼成温度から少なくとも200℃までの冷却速度は、2℃/分以上10℃/分以下とすることが好ましく、3℃/分以上7℃/分以下とすることがより好ましい。冷却速度を2℃/分以上10℃/分以下とすることにより、生産性を確保しつつ、匣鉢などの設備が、急冷により破損することを防止することができる。
(焼成雰囲気)
焼成時の雰囲気は、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が95容量%以上100容量%以下の雰囲気とすることがより好ましい。
なお、焼成時の雰囲気は、例えば酸素と不活性ガスとの混合雰囲気とすることができ、酸素濃度が95容量%以上100容量%以下となるように酸素と不活性ガスとを混合した雰囲気とすることが好ましい。
酸素濃度を95容量%以上とすることで、リチウム遷移金属複合酸化物の分解を抑制しつつ、結晶性を十分に高めることができる。
なお、焼成は酸素濃度が95容量%以上100容量%以下の気体の気流中で実施することもできる。
本実施形態の正極活物質の製造方法において、焼成工程後に得られる正極活物質の組成は特に限定されないが、係る正極活物質は、例えば一般式(B):Li1+uNiCoAlで表され、六方晶系のリチウム遷移金属複合酸化物(リチウムニッケルコバルト複合酸化物)を含むことが好ましい。なお、係る正極活物質は、上記一般式(B)で表され、六方晶系のリチウム遷移金属複合酸化物から構成することもできる。
上記一般式(B)中のu、x、y、z、tは−0.05≦u≦0.50、x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.95、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1を満たすことが好ましい。また、添加元素Mは、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種類以上の添加元素であることが好ましい。
そして、係るリチウム遷移金属複合酸化物の粒子は多孔質構造を有することが好ましい。
なお、一般式(B)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物において、これを構成するリチウム、ニッケル、コバルト、アルミニウムおよび添加元素Mの好適な組成範囲や、該組成範囲とする意義は、リチウムイオン二次電池用正極活物質についての説明で後述するため、これらの事項について、ここでの説明は省略する。
本実施形態の正極活物質の製造方法は、上述の混合工程、及び焼成工程以外に任意の工程を有することもできる。
例えば酸化焙焼工程や解砕工程を有することができる。これらの工程について以下に説明する。
(3)酸化焙焼工程
上述のように本実施形態の正極活物質の製造方法はさらに酸化焙焼工程を有することもできる。酸化焙焼工程は、既述の混合工程の前に実施することができる。酸化焙焼工程では、遷移金属複合水酸化物を105℃以上750℃以下の温度で酸化焙焼することができる。酸化焙焼工程により、遷移金属複合水酸化物を酸化焙焼物とすることができる。
なお、酸化焙焼工程を実施した場合、混合工程では、酸化焙焼工程で得られた酸化焙焼物と、リチウム化合物とを混合してリチウム混合物を形成することになる。
酸化焙焼工程で得られる酸化焙焼物は、遷移金属複合酸化物、および遷移金属複合オキシ水酸化物(水和酸化物)から選択された1種類以上を含むことができる。
上述のように酸化焙焼工程は、遷移金属複合水酸化物を105℃以上750℃以下の温度で加熱して酸化焙焼することにより、遷移金属複合水酸化物に含有される水分を低減、除去する工程である。これにより、遷移金属複合水酸化物が含有していた水分を低減、除去した酸化焙焼物とし、該酸化焙焼物を混合工程に供することで得られる正極活物質の組成のばらつきを特に抑制することができる。
酸化焙焼工程における加熱温度を105℃以上とすることで遷移金属複合水酸化物中の水分を十分に除去することができ、正極活物質の組成のばらつきを十分に抑制することができる。特に各金属成分の原子数やLiの原子数の割合のばらつきをより少ないものとするためには、400℃以上に加熱して、全ての遷移金属複合水酸化物を、遷移金属複合酸化物に転換することが好ましい。なお、酸化焙焼条件による遷移金属複合水酸化物の酸化焙焼物に含有される金属成分を分析によって予め求めておき、リチウム化合物との混合比を決めておくことで、上述したばらつきをより抑制することができる。
また、酸化焙焼工程における加熱温度を750℃より高くしても、それ以上の効果は期待できないばかりか、生産コストが増加してしまう。このため、加熱温度は750℃以下とすることが好ましい。
酸化焙焼を行う雰囲気は特に制限されるものではなく、非還元性雰囲気であればよいが、簡易的に行える空気気流中で行うことが好ましい。
また、上述の加熱温度で保持する酸化焙焼時間は、特に制限されないが、遷移金属複合水酸化物粒子中の余剰水分を十分に除去する観点から、1時間以上とすることが好ましく、2時間以上15時間以下とすることがより好ましい。
(4)解砕工程
本実施形態の正極活物質の製造方法は、焼成工程の後、得られた正極活物質を解砕する解砕工程を有することもできる。
焼成工程によって得られたリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質の粒子は、凝集または軽度の焼結が生じている場合がある。このような場合には、正極活物質の凝集体または焼結体を解砕することが好ましい。これによって、リチウム遷移金属複合酸化物の平均粒径や粒度分布を好適な範囲に調整することができる。なお、解砕とは、焼成時に二次粒子間の焼結ネッキングなどにより生じた複数の二次粒子からなる凝集体に、機械的エネルギを投入して、二次粒子自体をほとんど破壊することなく分離させて、凝集体をほぐす操作を意味する。
解砕の方法としては、公知の手段を用いることができ、たとえば、ピンミルやハンマーミルなどを使用することができる。なお、この際、二次粒子を破壊しないように解砕力を適切な範囲に調整することが好ましい。
[リチウムイオン二次電池用正極活物質]
本実施形態の正極活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物を含むことができる。
そして、リチウム遷移金属複合酸化物は、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子を含み、該二次粒子は、表面部と電気的に導通する一次粒子の凝集部と、空隙部とを有することができる。
また、係るリチウム遷移金属複合酸化物は、平均粒径が1μm以上15μm以下であり、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.7以上であり、比表面積は0.7m/g以上とすることができる。さらに、係るリチウム遷移金属複合酸化物は、比表面積×タップ密度で算出される単位体積当たりの表面積を1.7m/cc以上であり、空隙部率を1.5%以上とすることができる。
(1)粒子構造
本実施形態の正極活物質は、上述のようにリチウム遷移金属複合酸化物を含むことができる。また、本実施形態の正極活物質はリチウム遷移金属複合酸化物から構成することもできる。なお、本実施形態の正極活物質がリチウム遷移金属複合酸化物から構成される場合であっても、製造工程に起因する不可避成分等を含有することを排除するものではない。
そして、係るリチウム遷移金属複合酸化物は、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子を含むことができる。なお、係るリチウム遷移金属複合酸化物は、係る二次粒子から構成することもできる。この二次粒子は、表面部(外殻部)と電気的に導通する一次粒子の凝集部および一次粒子が存在しない空隙部とを有することができる。ここで、「電気的に導通する」とは、一次粒子の凝集部同士が、構造的に接続され、電気的に導通可能な状態であることを意味する。また、「一次粒子の凝集部」とは、前駆体である遷移金属複合水酸化物粒子が焼結収縮した部分を意味する。
このような粒子構造を有する二次粒子を含有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質では、一次粒子間の粒界または空隙部を介して、二次粒子の内部に電解質が浸入するため、二次粒子の表面ばかりでなく、二次粒子の内部においても、リチウムの脱離および挿入が可能となる。しかも、この正極活物質は、二次粒子表面部と内部とが電気的に導通し、かつ、その経路の断面積が十分に大きいため、粒子内部の抵抗(内部抵抗)を大幅に低減することができる。したがって、この正極活物質を用いて二次電池を構成した場合に、電池容量やサイクル特性を損なうことなく、出力特性をさらに改善、具体的には初期放電容量を向上し、内部抵抗を抑制することが可能となる。
(2)平均粒径
本実施形態の正極活物質が含むリチウム遷移金属複合酸化物、具体的にはリチウム遷移金属複合酸化物の粒子は、平均粒径が1μm以上15μm以下であることが好ましく、3μm以上14μm以下であることがより好ましく、3μm以上13μm以下であることがさらに好ましい。
本実施形態の正極活物質が含有するリチウム遷移金属複合酸化物の平均粒径を1μm以上とすることで、正極活物質の充填性を高め、単位体積当たりの電池容量を高めることができる。
また、リチウム遷移金属複合酸化物の平均粒径を15μm以下とすることで、正極活物質の反応面積を高め、電解質との界面を十分に確保できるため、出力特性を高めることができる。さらには安全性を高めることもできる。
なお、リチウム遷移金属複合酸化物の平均粒径とは、既述の遷移金属複合水酸化物と同様に、体積基準平均粒径(MV)を意味し、たとえば、レーザ光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。
(3)組成
本実施形態の正極活物質が含有するリチウム遷移金属複合酸化物の組成は特に制限されることはないが、一般式(B):Li1+uNiCoAl2で表される組成を有することが好ましい。なお、上記一般式(B)内のu、x、y、z、tは−0.05≦u≦0.50、x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.95、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1の関係を満たすことが好ましい。また、添加元素Mは、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種類以上の添加元素とすることができる。
上記一般式(B)において、リチウム(Li)の過剰量を示すuの値は、上述のように−0.05以上0.50以下が好ましく、−0.01以上0.15以下がより好ましく、0以上0.10以下がさらに好ましく、0以上0.07以下が特に好ましい。uの値を−0.05以上0.50以下とすることにより、この正極活物質を正極材料として用いた二次電池の出力特性および電池容量を特に向上させることができるため好ましい。
なお、uの値を−0.05以上とすることで、二次電池の内部抵抗を特に抑制し、出力特性を向上させることができる。一方、uの値を0.50以下とすることで、初期放電容量を特に高め、内部抵抗を特に抑制できる。
ニッケル(Ni)は、二次電池の高電位化および高容量化に寄与する元素であり、その含有量を示すxの値は、0.3以上0.95以下であることが好ましく、0.3以上0.9以下であることがより好ましい。
xの値を0.3以上とすることで、この正極活物質を用いた二次電池の電池容量を特に高めることができる。また、xの値を0.95以下とすることで、他の元素の含有割合を一定程度確保することができ、その効果を特に発揮することができる。
コバルト(Co)は、充放電サイクル特性の向上に寄与する元素であり、その含有量を示すyの値は、0.05以上0.55以下であることが好ましく、0.10以上0.35以下であることがより好ましい。yの値を0.05以上0.55以下とすることで、この正極活物質を用いた二次電池の初期放電容量を特に高めることができる。
本実施形態の正極活物質では、二次電池の耐久性や出力特性をさらに改善するため、上述した金属元素に加えて、Alおよび添加元素Mを含有してもよい。このような添加元素Mとしては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)から選択される1種類以上を用いることができる。
Alの含有量を表すzの値は、0以上0.4以下であることが好ましく、0.01以上0.2以下がより好ましい。zの値を0.4以下とすることで、この正極活物質を用いた二次電池の初期放電容量を特に高めることができる。
添加元素Mの含有量を示すtの値は、0以上0.1以下が好ましく、0.001以上0.05以下がより好ましい。tの値を0.1以下とすることで、Redox反応に寄与する金属元素を十分に確保し、電池容量を高めることができる。
このような添加元素MやAlは、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子内部に均一に分散させてもよく、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子表面を被覆させてもよい。さらには、粒子内部に均一に分散させた上で、その表面を被覆させてもよい。いずれにしても、Alおよび添加元素Mの含有量が上記範囲となるように制御することが好ましい。
(4)比表面積
本実施形態の正極活物質が含むリチウム遷移金属複合酸化物、具体的にはリチウム遷移金属複合酸化物の粒子は、比表面積が可能な限り大きいことが好ましい。比表面積が大きくなるほど電解質との接触面積が大きく、これを用いた二次電池の出力特性を大幅に改善することができるためである。
例えばリチウム遷移金属複合酸化物の比表面積は0.7m/g以上であることが好ましく、0.8m/g以上であることがより好ましい。これは0.7m/g以上とすることで、二次電池に適用した場合に電解質との反応面積を十分に確保することができ、出力特性を高めることができるからである。すなわち、内部抵抗を抑制し、初期放電容量を高めることができる。
リチウム遷移金属複合酸化物の比表面積の上限値は特に限定されないが、例えば10.0m/g以下とすることが好ましく、5.0m/g以下とすることがより好ましい。
なお、リチウム遷移金属複合酸化物の比表面積は、たとえば、窒素ガス吸着によるBET法により測定することができる。
(5)空隙部率
本実施形態の正極活物質が含有するリチウム遷移金属複合酸化物、具体的にはリチウム遷移金属複合酸化物の粒子では、空隙部が粒子内部に分散していることが好ましい。リチウム遷移金属複合酸化物の粒子の断面積に対する空隙部面積の占有率(以下、「空隙部率」と記載する)は、これが大きくなるほど、比表面積は増大する傾向となる。すなわち、二次電池を構成した場合に、電解質との反応面積を確保することにつながる。このため、内部抵抗を抑制し、初期放電容量を高めることができる。
リチウム遷移金属複合酸化物の空隙部率は1.5%以上であることが好ましく、2.0%以上であることがより好ましく、3.0%以上であることがさらに好ましく、6.0%以上であることが特に好ましい。
リチウム遷移金属複合酸化物の空隙部率の上限は特に限定されないが、例えば20.0%以下であることが好ましく、15.0%以下であることがより好ましい。
なお、空隙部率は、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子について、任意の10個以上の粒子の断面をそれぞれSEM観察して、二値化処理し、1つの粒子断面積のうち、その粒子内に分散した空隙部の総面積が占有する率を求め、これらの平均値を算出することにより求めることができる。
評価する粒子の数の上限は特に限定されないが、生産性を高める観点から50個以下とすることが好ましい。
(6)単位体積当たりの表面積
本実施形態の正極活物質が含むリチウム遷移金属複合酸化物、具体的にはリチウム遷移金属複合酸化物の粒子は、比表面積と、タップ密度との積で算出される単位体積当たりの表面積が1.7m/cc以上であることが好ましく、1.9m/cc以上であることがより好ましく、2.3m/cc以上であることがさらに好ましい。これは、リチウム遷移金属複合酸化物の単位体積当たりの表面積を1.7m/cc以上とすることで、単位体積当たりのリチウム遷移金属複合酸化物の電解質との接触面積を十分に確保し、出力特性を高めることができるからである。すなわち、内部抵抗を抑制し、初期放電容量を高めることができる。
本実施形態の正極活物質が含むリチウム遷移金属複合酸化物の単位体積当たりの表面積の上限値は特に限定されないが、例えば20m/cc以下、好ましくは10m/cc以下とすることができる。
(7)粒度分布の広がり
本実施形態の正極活物質が含むリチウム遷移金属複合酸化物、具体的にはリチウム遷移金属複合酸化物の粒子は、粒度分布の広がりを示す[(d90−d10)/平均粒径]が0.7以上であることが好ましい。
これは、リチウム遷移金属複合酸化物の粒度分布の広がりを示す[(d90−d10)/平均粒径]を0.7以上とすることで、比較的大きな粒径の粒子の間に比較的小さな粒径の粒子が配置することになり、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子の充填密度を大きくすることができるからである。
リチウム遷移金属複合酸化物の粒度分布の広がりを示す[(d90−d10)/平均粒径]の上限は特に限定されないが、例えば2.5以下とすることが好ましい。
これは、[(d90−d10)/平均粒径]を2.5以下とすることで、過度に粗大な粒子や、微小な粒子が混入することを抑制でき、リチウムイオン二次電池に用いた場合に、特に出力特性を高めることができるからである。
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態のリチウムイオン二次電池(以下、「二次電池」ともいう。)は、既述の正極活物質を含む正極を有することができる。
以下、本実施形態の二次電池の一構成例について、構成要素ごとにそれぞれ説明する。
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、正極材料に既述の正極活物質を用いたこと以外は、一般的なリチウムイオン二次電池と実質的に同様の構造を備えることができる。
具体的には、本実施形態の二次電池は、例えば正極、負極及び非水系電解質を含み、一般のリチウムイオン二次電池と同様の構成要素から構成される。なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、下記実施形態をはじめとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
(1)正極
本実施形態の二次電池が有する正極は、既述の正極活物質を含むことができる。
以下に正極の製造方法の一例を説明する。まず、既述の正極活物質(粉末状)、導電材および結着剤(バインダー)を混合して正極合剤とし、さらに必要に応じて活性炭や、粘度調整などの目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合剤ペーストを作製することができる。
正極合剤中のそれぞれの材料の混合比は、リチウムイオン二次電池の性能を決定する要素となるため、用途に応じて、調整することができる。材料の混合比は、公知のリチウムイオン二次電池の正極と同様とすることができ、例えば、溶剤を除いた正極合剤の固形分の全質量を100質量%とした場合、正極活物質を60質量%以上95質量%以下、導電材を1質量%以上20質量%以下、結着剤を1質量%以上20質量%以下の割合で含有することができる。
得られた正極合剤ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して溶剤を飛散させ、シート状の正極が作製される。必要に応じ、電極密度を高めるべくロールプレス等により加圧することもできる。このようにして得られたシート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断等し、電池の作製に供することができる。
導電材としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛および膨張黒鉛など)や、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)などのカーボンブラック系材料などを用いることができる。
結着剤(バインダー)としては、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂およびポリアクリル酸等から選択された1種類以上を用いることができる。
必要に応じ、正極活物質、導電材等を分散させて、結着剤を溶解する溶剤を正極合剤に添加することもできる。溶剤としては、具体的には、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、正極合剤には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することもできる。
正極の作製方法は、上述した例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。例えば正極合剤をプレス成形した後、真空雰囲気下で乾燥することで製造することもできる。
(2)負極
負極には、金属リチウム、リチウム合金等を用いることができる。また、負極は、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる負極活物質に結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合剤を、銅等の金属箔集電体の表面に塗布、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを用いてもよい。
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛およびフェノール樹脂などの有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
(3)セパレータ
正極と負極との間には、必要に応じてセパレータを挟み込んで配置することができる。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、公知のものを用いることができ、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微少な孔を多数有する膜を用いることができる。
(非水系電解質)
非水系電解質としては、例えば非水系電解液を用いることができる。
非水系電解液としては、例えば支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものを用いることができる。また、非水系電解液として、イオン液体にリチウム塩が溶解したものを用いてもよい。なお、イオン液体とは、リチウムイオン以外のカチオンおよびアニオンから構成され、常温でも液体状の塩をいう。
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートおよびトリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネートや、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらにテトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランおよびジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチルなどのリン化合物等から選ばれる1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いることもできる。
支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiN(CFSO、およびそれらの複合塩などを用いることができる。さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。
また、非水系電解質としては、固体電解質を用いてもよい。固体電解質は、高電圧に耐えうる性質を有する。固体電解質としては、無機固体電解質、有機固体電解質が挙げられる。
無機固体電解質としては、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質等が挙げられる。
酸化物系固体電解質としては、特に限定されず、例えば酸素(O)を含有し、かつリチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものを好適に用いることができる。酸化物系固体電解質としては、例えば、リン酸リチウム(LiPO)、LiPO、LiBO、LiNbO、LiTaO、LiSiO、LiSiO−LiPO、LiSiO−LiVO、LiO−B−P、LiO−SiO、LiO−B−ZnO、Li1+XAlTi2−X(PO(0≦X≦1)、Li1+XAlGe2−X(PO(0≦X≦1)、LiTi(PO、Li3XLa2/3−XTiO(0≦X≦2/3)、LiLaTa12、LiLaZr12、LiBaLaTa12、Li3.6Si0.60.4等から選択された1種類以上が挙げられる。
硫化物系固体電解質としては、特に限定されず、例えば硫黄(S)を含有し、かつリチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものを好適に用いることができる。硫化物系固体電解質としては、例えば、LiS−P、LiS−SiS、LiI−LiS−SiS、LiI−LiS−P、LiI−LiS−B、LiPO−LiS−SiS、LiPO−LiS−SiS、LiPO−LiS−SiS、LiI−LiS−P、LiI−LiPO−P等から選択された1種類以上が挙げられる。
なお、無機固体電解質としては、上記以外のものを用いてよく、例えば、LiN、LiI、LiN−LiI−LiOH等を用いてもよい。
有機固体電解質としては、イオン伝導性を示す高分子化合物であれば、特に限定されず、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、これらの共重合体などを用いることができる。また、有機固体電解質は、支持塩(リチウム塩)を含んでいてもよい。
(二次電池の形状、構成)
以上のように説明してきた本実施形態のリチウムイオン二次電池は、円筒形や積層形など、種々の形状にすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、本実施形態の二次電池がリチウムイオンとして非水系電解液を用いる場合であれば、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水系電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続し、電池ケースに密閉した構造とすることができる。
なお、既述の様に本実施形態の二次電池は非水系電解質として非水系電解液を用いた形態に限定されるものではなく、例えば固体の非水系電解質を用いた二次電池、すなわち全固体電池とすることもできる。全固体電池とする場合、正極活物質以外の構成は必要に応じて変更することができる。
本実施形態の二次電池では、既述の正極活物質を正極材料として用いているため、初期放電容量が高く、内部抵抗を抑制することができる。
例えば本実施形態の正極活物質を用いて2032型コイン型電池を構成した場合に、高い初期放電容量と低い内部抵抗とを同時に達成することができる。
具体的には、本実施形態の正極活物質を正極に用いて、2032型コイン型電池を構成し、電流密度を0.1mA/cmとして、カットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電した場合の放電容量である。初期放電容量が150mAh/g以上であることが好ましく、160mAh/g以上であることがより好ましい。
内部抵抗は、電流休止法により評価することができる。電流休止法は、例えば以下の手順により実施することができる。例えば負極が黒鉛粉末とポリフッ化ビニリデンとを混合した負極合剤ペーストが銅箔に塗布されて形成されたシートであるラミネート型電池を構成する。そして、該ラミネート型電池について、25℃に保持された恒温槽内で電流密度を0.33mA/cmとして、カットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電するサイクルを5サイクル繰り返すコンディショニングを行う。次に、−20℃に保持された恒温槽内で電流密度を0.25mA/cmとして、3.7Vまで定電流で放電した後、600秒間休止させた際に生じる電圧緩和ΔVを評価することができる。
電圧緩和ΔVが小さい場合、例えば上記評価条件で0.086V以下の場合、内部抵抗が十分に抑制できていることを意味する。
本実施形態の二次電池は、上述のように、初期放電容量が高く、内部抵抗が抑制されている。このため、これらの特性が高いレベルで要求される小型情報端末(スマートフォンやタブレットPCなど)の電源に好適に利用することができる。また、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、安全性にも優れており、小型化および高出力化が可能であるばかりでなく、高価な保護回路を簡略することができるため、搭載スペースに制約を受ける輸送用機器の電源としても好適に利用することができる。
以下、実施例を参照しながら本発明を詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例および比較例では、特に断りがない限り、遷移金属複合水酸化物および正極活物質の作製には、和光純薬工業株式会社製試薬特級の各試料を使用した。また、晶析工程において、反応水溶液のpH値は、pHコントローラ(日伸理化製、NPH−690D)により測定した。
[実施例1]
(1)遷移金属複合水酸化物の製造
(晶析工程)
邪魔板を4枚取り付けた槽容積60Lのオーバーフロー式晶析反応槽に、純水55Lと、アルカリ水溶液である25質量%苛性ソーダ溶液と、を供給、混合して反応前水溶液を調製し、25℃基準での槽内の反応前水溶液のpHを10.0に調整した。
次いで、70℃に保持した反応槽内の反応前水溶液を直径12cmの6枚羽根フラットタービン翼を用いて450rpmで攪拌しつつ、定量ポンプを用いて、硫酸ニッケル、および硫酸コバルトを含む原料水溶液、およびアルカリ水溶液である25%苛性ソーダ溶液を連続的に供給し、反応水溶液を形成した。晶析工程の間、反応水溶液の攪拌は継続して行い、また反応水溶液の温度は70℃に保持した。
原料水溶液としては、上述のように硫酸ニッケル、および硫酸コバルトを含有する水溶液を用い、係る原料水溶液はニッケルモル濃度が1.7mol/L、コバルトモル濃度が0.3mol/Lとなるように調製した。このため、原料水溶液中の金属化合物の濃度は2.0mol/Lとなる。
原料水溶液は80ml/minの供給速度で、25質量%苛性ソーダ溶液は反応水溶液のpH値が、25℃基準で10.0に維持されるように供給した。なお、晶析工程の間の反応水溶液のpH値の変化を確認したところ、10.0を中央値として±0.05以内に保持できていることを確認できた。
生成した被覆前遷移金属複合水酸化物をオーバーフローにて連続的に取り出した。そして、反応開始から48〜72時間にかけて取り出された被覆前遷移金属複合水酸化物を水洗し、被覆前遷移金属複合水酸化物を得た。
(被覆工程)
水洗後の被覆前遷移金属複合水酸化物を、スラリー濃度300g/Lの濃度で再スラリー化させ、該スラリー溶液にアルミン酸ナトリウムをアルミニウム濃度で3.7at%になるよう混合し、その後pHを9.5まで硫酸で下げ30分攪拌した後、固液分離、水洗、乾燥を行った。これにより、被覆前遷移金属複合水酸化物の粒子の表面にアルミニウムを被覆し、粉末状の遷移金属複合水酸化物を得た。
(遷移金属複合水酸化物の評価)
得られた遷移金属複合水酸化物について以下の評価を行った。
[組成]
ICP発光分光分析装置(株式会社島津製作所製、ICPE−9000)を用いた分析により、この遷移金属複合水酸化物は、一般式:Ni0.820Co0.150Al0.030(OH)で表されるものであることが確認された。
[粒子構造]
上記被覆工程を実施する前の被覆前遷移金属複合水酸化物が有する二次粒子の一部を樹脂に埋め込み、クロスセクションポリシャ加工によって断面観察可能な状態とした上で、SEM(日本電子株式会社製、型式:JSM−6360LA)により観察した。結果を図1に示す。図1に示すように、この被覆前遷移金属複合水酸化物は、板状一次粒子、及び微細一次粒子が粒子全体に分布、凝集して形成されており、中心部と粒子表面部は連結していることが確認された。なお、微細一次粒子は拡大してさらに観察したところ、粒径が1nm以上5nm以下であることが確認できた。
また、被覆工程を実施する前の被覆前遷移金属複合水酸化物が有する二次粒子の外観について、SEM観察した結果を図2に示す。
図2に示すように厚みが30nm以下の板状一次粒子が確認できる。また、二次粒子の少なくとも表面において、隣接する一方の板状一次粒子21の主表面21Aと、他方の板状一次粒子22の厚み方向を含む面である端面22Aとが接するようにして凝集した構造を有することが確認できた。この際、二次粒子の表面に配置された複数の板状一次粒子は、端面が二次粒子の表面側に配置され、主表面が二次粒子の直径方向に沿って配置されていることも確認できた。
なお、ここでは被覆工程を実施する前の被覆前遷移金属複合水酸化物の粒子構造を示したが、被覆工程の前後で遷移金属複合水酸化物の粒子構造の変化は生じないことから、被覆工程の後においても同様の構造を有することができる。
[平均粒径および粒度分布]
レーザ光回折散乱式粒度分析計(日機装株式会社製、型式:マイクロトラックHRA)を用いて、遷移金属複合水酸化物の粒子の平均粒径を測定した。この結果、平均粒径は、17.0μmであり、〔(d90−d10)/平均粒径〕は1.4であることが確認された。
(2)正極活物質の作製
以下の手順により、被覆工程後に得られた遷移金属複合酸化物を用いて正極活物質の製造を行った。
(酸化焙焼工程)
得られた遷移金属複合水酸化物を、空気(酸素濃度:21容量%)気流中、600℃で12時間酸化焙焼した。これにより酸化焙焼物を得た。
(混合工程)
得られた酸化焙焼物と、リチウム化合物である平均粒径が25μmである水酸化リチウムとをLi/Meが1.01となるように秤量し、シェーカーミキサ装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製 型式:TURBULA TypeT2C)を用いて十分に混合した。これにより、リチウム混合物を得た。
(焼成工程)
混合工程で得られたリチウム混合物を、酸素気流中、昇温速度を2.3℃/分として最高到達温度725℃まで昇温し、この温度で5時間保持することにより焼成した。焼成後、冷却速度を約4℃/分として室温まで冷却した。
(解砕工程)
焼成工程後に得られた正極活物質は、凝集または軽度の焼結が生じていた。このため、この正極活物質を解砕し、平均粒径および粒度分布を調整した。
(正極活物質の評価)
得られた正極活物質について以下の評価を行った。
[組成]
ICP発光分光分析装置を用いた分析により、この正極活物質は、一般式:Li1.01Ni0.820Co0.150Al0.030で表されるリチウム遷移金属複合酸化物(リチウムニッケルコバルト複合酸化物)からなることが確認された。
また、正極活物質の粉末X線回折の結果から、正極活物質がリチウムニッケルコバルト複合酸化物(粒子)から構成され、該リチウムニッケルコバルト複合酸化物は六方晶であることが確認できた。
[粒子構造、空隙部率]
正極活物質であるリチウム遷移金属複合酸化物の粒子の一部を樹脂に埋め込み、クロスセクションポリシャ加工によって断面観察可能な状態とした上で、SEMにより観察した。この結果、このリチウム遷移金属複合酸化物の粒子は、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子から構成され、この二次粒子は、粒子表面部と電気的に導通する一次粒子の凝集部および空隙部とを備えた多孔質構造を有することが確認された。
また、任意の20個のリチウム遷移金属複合酸化物の粒子の断面をそれぞれSEM観察して、ImageJにより二値化処理し、1つの粒子断面積のうち、その粒子内に分散した空隙部の総面積が占有する率を求め、これらの平均値を算出することにより空隙部率を求めたところ13.2%であった。
[平均粒径および粒度分布]
レーザ光回折散乱式粒度分析計(日機装株式会社製、マイクロトラックHRA)を用いて、正極活物質であるリチウム遷移金属複合酸化物の粒子の平均粒径を測定するとともに、d10およびd90を測定し、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕を算出した。この結果、平均粒径は、12.3μmであり、〔(d90−d10)/平均粒径〕は0.94であることが確認された。
[比表面積およびタップ密度]
流動方式ガス吸着法比表面積測定装置(ユアサアイオニクス株式会社製、マルチソーブ)により比表面積を、タッピングマシン(株式会社蔵持科学器械製作所、KRS−406)によりタップ密度を、それぞれ測定した。この結果、得られた正極活物質の比表面積は2.7m/gであり、タップ密度は2.0g/ccであることが確認された。
(3)二次電池の作製
以下の手順により、初期放電容量測定用にコイン型電池を、電圧緩和測定用にラミネート型電池をそれぞれ作製し、初期放電容量と、電圧緩和との測定を行った。
(コイン型電池の作製、初期放電容量の評価)
得られた正極活物質を用いて図3に示した2032型コイン型電池30を作製した。
2032型コイン型電池30は、ケース31と、このケース31内に収容された電極構造体32とから構成されている。
ケース31は、中空かつ一端が開口された正極缶311と、この正極缶311の開口部に配置される負極缶312とを有しており、負極缶312を正極缶311の開口部に配置すると、負極缶312と正極缶311との間に電極構造体32を収容する空間が形成されるように構成されている。
電極構造体32は、正極膜321、セパレータ322および負極膜323からなり、この順で並ぶように積層されており、正極膜321が正極缶311の内面に接触し、負極膜323が負極缶312の内面に接触するようにケース31に収容されている。なお、正極膜321が正極、負極膜323が負極となる。
ケース31は、ガスケット313を備えており、このガスケット313によって、正極缶311と負極缶312との間が電気的に絶縁状態を維持するように固定されている。また、ガスケット313は、正極缶311と負極缶312との隙間を密封して、ケース31内と外部との間を気密、液密に遮断する機能も有している。
まず得られた正極活物質52.5mgと、アセチレンブラック15mgと、PTEE7.5mgを混合し、100MPaの圧力で、直径11mm、厚さ100μmにプレス成形した後、真空乾燥機中120℃で12時間乾燥することで、正極膜321を作製した。
また、負極膜323には、直径17mm、厚さ1mmのリチウム金属を用いた。電解液には、1MのLiClOを支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。セパレータ322には、膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。
以上の材料を用いて2032型コイン型電池30を、露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
2032型コイン型電池30を作製してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、以下の充放電を行い、初期放電容量の測定を行った。
具体的には、正極に対する電流密度を0.1mA/cmとして、カットオフ電圧が4.3Vとなるまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧が3.0Vになるまで放電したときの放電容量を測定する充放電試験を行ない、初期放電容量を求めた。この結果、初期放電容量は、164.8mAh/gであることが確認された。なお、初期放電容量の測定には、電池充放電システム(北斗電工株式会社製、HJ1001SD8)を用いた。
(ラミネート型電池の作製、電圧緩和の測定)
得られた正極活物質を用いて、図4に示したラミネート型電池40を作製した。
ラミネート型電池40は、正極膜41と、セパレータ42と、負極膜43との積層物に電解液を含浸させたものを、ラミネート44により封止した構造を有している。なお、正極膜41には正極タブ45が、負極膜43には負極タブ46がそれぞれ接続されており、正極タブ45、負極タブ46はラミネート44の外に露出している。
得られた正極活物質20.0gと、アセチレンブラック2.35gと、ポリフッ化ビニリデン1.18gとをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に分散させたスラリーをAl箔上に1cmあたり正極活物質が7.3mg存在するように塗布した。次いで、係るAl箔上に正極活物質含有するスラリーを塗布したものを、120℃で30分間、大気中で乾燥し、NMPを除去した。正極活物質が塗布されたAl箔を幅66mmの短冊状に切り取り、荷重1.2tでロールプレスして正極膜を作製した。そして、正極膜を50mm×30mmの長方形に切り抜き、真空乾燥機中120℃で12時間乾燥したものをラミネート型電池40の正極膜41として用いた。
また、平均粒径20μm程度の黒鉛粉末とポリフッ化ビニリデンとの混合物である負極合剤ペーストを銅箔に塗布された負極膜43を用意した。セパレータ42には、膜厚45μmのポリエチレン多孔膜を、電解液には、1MのLiPFを支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)の3:7混合液(宇部興産株式会社製)を用いた。
露点−80℃に管理されたドライルームで、上記正極膜41と、セパレータ42と、負極膜43との積層物に電解液を含浸させ、ラミネート44により封止して、ラミネート型電池40を作製した。
ラミネート型電池を作製し、25℃に保持された恒温槽内で電流密度を0.33mA/cmとして、カットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電するサイクルを5サイクル繰り返すコンディショニングを行った。次に、−20℃に保持された恒温槽内で電流密度を0.25mA/cmとして、3.7Vまで定電流で放電した後、600秒間休止させた際に生じる電圧緩和ΔVを評価した。この結果、電圧緩和ΔVは、0.074Vであることが確認された。
なお、電圧緩和の測定には、電池充放電システム(北斗電工株式会社製、HJ1001SD8)を用いた。
正極活物質を調製する際のLi/Me比、および焼成工程での焼成条件を表1に、評価結果を表2にそれぞれ示す。
[実施例2]
混合工程において、Li/Me比を1.03とした点以外は、実施例1と同様にして、遷移金属複合水酸化物、正極活物質および二次電池を得て、その評価を行った。正極活物質を調製する際のLi/Me比、および焼成工程での焼成条件を表1に、評価結果を表2にそれぞれ示す。
[実施例3]
混合工程において、Li/Me比を1.05とした点以外は、実施例1と同様にして、遷移金属複合水酸化物、正極活物質および二次電池を得て、その評価を行った。正極活物質を調製する際のLi/Me比、および焼成工程での焼成条件を表1に、評価結果を表2にそれぞれ示す。
[実施例4]
混合工程において、Li/Me比を1.07とした点以外は、実施例1と同様にして、遷移金属複合水酸化物、正極活物質および二次電池を得て、その評価を行った。正極活物質を調製する際のLi/Me比、および焼成工程での焼成条件を表1に、評価結果を表2にそれぞれ示す。
[実施例5]
焼成工程において、最高到達温度を760℃とした点以外は、実施例1と同様にして、遷移金属複合水酸化物、正極活物質および二次電池を得て、その評価を行った。正極活物質を調製する際のLi/Me比、および焼成工程での焼成条件を表1に、評価結果を表2にそれぞれ示す。
[実施例6]
混合工程において、Li/Me比を1.05とし、焼成工程において、最高到達温度を760℃とした点以外は、実施例1と同様にして、遷移金属複合水酸化物、正極活物質および二次電池を得て、その評価を行った。正極活物質を調製する際のLi/Me比、および焼成工程での焼成条件を表1に、評価結果を表2にそれぞれ示す。
表1、表2に示した結果によると、実施例1〜実施例6のいずれにおいても作製した正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、初期放電容量が高く、内部抵抗を抑制できていることを確認できた。従って、用いた遷移金属複合水酸化物は、リチウムイオン二次電池の正極活物質の前駆体として用いた場合に、該リチウムイオン二次電池の初期放電容量を高め、内部抵抗を抑制できることを確認できた。さらに、所定の条件で晶析することで、係る遷移金属複合水酸化物を連続的に製造できることを確認できた。
21、22 板状一次粒子
21A 主表面
22A 端面

Claims (10)

  1. リチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体となる遷移金属複合水酸化物を、晶析反応により製造する遷移金属複合水酸化物の製造方法であって、
    反応槽内に、液温25℃基準におけるpH値が9.0以上12.0以下となるように制御しつつ、少なくとも遷移金属を含有する原料水溶液と、アルカリ水溶液とを連続的に供給して反応水溶液を形成し、遷移金属複合水酸化物の晶析反応を行う晶析工程を有し、
    前記晶析工程の間、前記反応水溶液の温度を70℃以上80℃以下、前記反応水溶液中のアンモニウムイオン濃度を1g/L以下に制御する遷移金属複合水酸化物の製造方法。
  2. 前記遷移金属複合水酸化物は、一般式(A):NiCoAl(OH)2+a(ただし、x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.95、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5、Mは、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種類以上の添加元素)で表される、請求項1に記載の遷移金属複合水酸化物の製造方法。
  3. 前記遷移金属複合水酸化物は、一次粒子が凝集した二次粒子を有しており、
    前記Alおよび添加元素Mから選択された1種類以上は、前記二次粒子の内部及び表面のいずれか一方、もしくは両方に均一に配置されている請求項2に記載の遷移金属複合水酸化物の製造方法。
  4. リチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体となる遷移金属複合水酸化物であって、
    平均粒径が1μm以上20μm以下であり、かつ粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が1.4以上であり、
    厚みが30nm以下の板状一次粒子、及び微細一次粒子が凝集して形成された二次粒子を含み、
    前記二次粒子は、少なくともその表面において、隣接する一方の前記板状一次粒子の主表面と、他方の前記板状一次粒子の端面とが接するようにして凝集した構造を有する遷移金属複合水酸化物。
  5. 請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の遷移金属複合水酸化物の製造方法により得られた遷移金属複合水酸化物と、リチウム化合物とを混合して、リチウム混合物を形成する混合工程と、
    前記混合工程で形成された前記リチウム混合物を、酸化性雰囲気中、650℃以上800℃以下で焼成する焼成工程とを有する、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
  6. 前記混合工程において、前記リチウム混合物に含まれるリチウム以外の金属の原子数の和を1とした場合に、前記リチウム混合物に含まれるリチウムの原子数の比が0.95以上1.5以下となるように、前記リチウム混合物を形成する請求項5に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
  7. 前記混合工程において、前記リチウム化合物の平均粒径が110μm以下である、請求項5または請求項6に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
  8. 前記混合工程の前に、前記遷移金属複合水酸化物を105℃以上750℃以下の温度で酸化焙焼する、酸化焙焼工程をさらに備え、
    前記混合工程では、前記酸化焙焼工程で得られた酸化焙焼物と、前記リチウム化合物とを混合してリチウム混合物を形成する請求項5〜請求項7のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
  9. 前記焼成工程後に得られるリチウムイオン二次電池用正極活物質は、一般式(B):Li1+uNiCoAl(ただし、−0.05≦u≦0.50、x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.95、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、Mは、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種類以上の添加元素)で表され、六方晶系のリチウム遷移金属複合酸化物を含み、
    前記リチウム遷移金属複合酸化物の粒子は多孔質構造を有する請求項5〜請求項8のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
  10. リチウム遷移金属複合酸化物を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
    平均粒径が1μm以上15μm以下であり、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.7以上であり、比表面積が0.7m/g以上であり、比表面積×タップ密度で算出される単位体積当たりの表面積が1.7m/cc以上であり、空隙部率が1.5%以上であり、
    前記リチウム遷移金属複合酸化物は、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子を含み、
    前記二次粒子は、表面部と電気的に導通する一次粒子の凝集部と、空隙部とを有しているリチウムイオン二次電池用正極活物質。
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