JP2020024657A - 設備管理支援装置、設備管理支援方法、プログラム及びコンピュータ読み取り可能な記録媒体 - Google Patents

設備管理支援装置、設備管理支援方法、プログラム及びコンピュータ読み取り可能な記録媒体 Download PDF

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Abstract

【課題】設備を構成するユニットの状態が不安定に変化する場合であっても、ユニットの異常の発生を容易に検知可能な情報を提供する。【解決手段】製造業で用いられる設備を構成する複数のユニットのうち1つのユニットを評価対象として、複数の異なる期間に取得された当該評価対象のユニットの観測値データ群を、少なくとも当該設備における時空間データ及び時空間データに関係して変化する観測値を変数とした多次元のヒストグラムにそれぞれ変換するヒストグラム変換処理部と、複数のヒストグラムの差異を表す評価指標を算出する評価指標算出部と、評価指標に基づいて、評価対象のユニットの状態の変化を表す状態情報を生成する情報生成部と、を備える、設備管理支援装置が提供される。【選択図】図1

Description

本発明は、製造業で用いられる設備を構成する複数のユニットの状態管理を支援する設備管理支援装置、設備管理支援方法、プログラム及びコンピュータ読み取り可能な記録媒体に関する。
製造業で用いられる設備では、安定した操業を行うことができるように定期的にメンテナンスが実施される。定期的なメンテナンス以外にも設備に異常な傾向がみられるときには、追加のメンテナンスが実施される。
例えば、製造業で用いられる設備の一例であるコークス炉では、炉体保全のため、メンテナンス予定に従い、炭化室診断補修装置あるいは窯幅計測等を用いて、炉内点検が実施される。例外的に、コークスの押出し時に異常な押出負荷波形が発生した場合には、炉壁の凹凸や肌荒れ、窯口狭小化等といった窯が異常な状態となっている虞があるため、予定以外の炉内点検やメンテナンスが追加で実施される。予定外の炉内点検やメンテナンスを実施するかどうかの判断は、例えばたかだか3サイクル分程度の範囲での押出負荷波形の最大値(最大押出負荷)に着目して行われる。
ここで、特許文献1には、炭化室の異常を判定する方法が開示されている。特許文献1に記載の方法では、まず、コークス炉の炭化室毎に、生成したコークスを押出機の押出ラムで押し出す際、押出ラムの炭化室内での押出位置に対する押出ラムを駆動するモータの負荷電流を計測した負荷電流トレンドから、コークス炉の操業状態を考慮して理想負荷電流トレンドを予め求めておく。そして、測定対象となる炭化室におけるコークス押出完了後の実績負荷電流トレンドと理想負荷電流トレンドとの押出位置毎の負荷電流の偏差を求め、求めた偏差から当該炭化室の異常を判定する。
特開2017−171791号公報
Elizaveta Levina; Peter Bickel (2001). "The EarthMover's istance is the Mallows Distance: Some Insights from Statistics". Proceedings of ICCV 2001. Vancouver, Canada: 251‐256.
炭化室の補修直後は、カーボンを取り除いた状態で負荷が増大する場合もあれば、炉壁平滑化がされて負荷が減少する場合もあり、押出負荷が落ち着くまではある程度の期間が必要である。しかし、その期間は窯によって様々であり、上記特許文献1に記載の方法のように、理想負荷トレンドを設定するためのデータ選定は容易ではない。また、カーボン付着状態や炉壁狭小化等によって押出性も変化していくため、上記特許文献1に記載の方法のように、理想負荷トレンドを1回設定するだけでは、炭化室の異常を高精度に検知することができない。
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、設備を構成するユニットの状態が不安定に変化する場合であっても、ユニットの異常の発生を容易に検知することの可能な情報を提供できる、新規かつ改良された設備管理支援装置、設備管理支援方法、プログラム及びコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、製造業で用いられる設備を構成する複数のユニットのうち1つのユニットを評価対象として、複数の異なる期間に取得された当該評価対象のユニットの観測値データ群を、少なくとも当該設備における時空間データ及び時空間データに関係して変化する観測値を変数とした多次元のヒストグラムにそれぞれ変換するヒストグラム変換処理部と、複数のヒストグラムの差異を表す評価指標を算出する評価指標算出部と、評価指標に基づいて、評価対象のユニットの状態の変化を表す状態情報を生成する情報生成部と、を備える、設備管理支援装置が提供される。
評価指標算出部は、Earth Mover’s Distanceを用いて評価指標を算出してもよい。
また、評価指標算出部は、χ2距離を用いて評価指標を算出してもよい。
あるいは、評価指標算出部は、ある期間の時空間データに対する観測値の分布を基づき算出される重みを考慮した重みつきχ2距離を用いて評価指標を算出してもよい。
また、評価指標算出部は、ある期間の時空間データに対する観測値の分布を基づき算出されるEarth Mover’s Distanceと、χ2距離または重みを考慮した重みつきχ2距離のうちいずれか一方とを組み合わせて、評価指標を算出してもよい。
設備管理支援装置は、評価指標の変化特徴を表す符号を評価指標に付与した値を、ユニットの異常度合いを表す異常度として算出する異常度算出部をさらに備えてもよい。
また、設備管理支援装置は、複数のユニットそれぞれに対して算出された異常度の高い順に、点検の必要なユニットの優先度を決定する優先度決定部をさらに備え、情報生成部は、状態情報の代わりに、あるいは状態情報とともに、優先度決定部により決定された優先度の高いユニットを作業者に通知するための通知情報を生成してもよい。
情報生成部は、ユニットのトラブル発生を検知するために予め設定された閾値に基づき、評価指標を時系列に並べた情報あるいは異常度を時系列に並べた情報に対して閾値判定を行い、トラブル発生を予測した情報を生成してもよい。
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、製造業で用いられる設備を構成する複数のユニットのうち1つのユニットを評価対象として、複数の異なる期間に取得された当該評価対象のユニットの観測値データ群を、少なくとも当該設備における時空間データ及び時空間データに関係して変化する観測値を変数とした多次元のヒストグラムにそれぞれ変換するヒストグラム変換処理ステップと、複数のヒストグラムの差異を表す評価指標を算出する評価指標算出ステップと、評価指標に基づいて、評価対象のユニットの状態の変化を表す状態情報を生成する情報生成ステップと、を含む、設備管理支援方法が提供される。
さらに、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、コンピュータを、製造業で用いられる設備を構成する複数のユニットのうち1つのユニットを評価対象として、複数の異なる期間に取得された当該評価対象のユニットの観測値データ群を、少なくとも当該設備における時空間データ及び時空間データに関係して変化する観測値を変数とした多次元のヒストグラムにそれぞれ変換するヒストグラム変換処理部と、複数のヒストグラムの差異を表す評価指標を算出する評価指標算出部と、評価指標に基づいて、評価対象のユニットの状態の変化を表す状態情報を生成する情報生成部と、を備える、設備管理支援装置として機能させるプログラムが提供される。
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、コンピュータに、製造業で用いられる設備を構成する複数のユニットのうち1つのユニットを評価対象として、複数の異なる期間に取得された当該評価対象のユニットの観測値データ群を、少なくとも当該設備における時空間データ及び時空間データに関係して変化する観測値を変数とした多次元のヒストグラムにそれぞれ変換するヒストグラム変換処理部と、複数のヒストグラムの差異を表す評価指標を算出する評価指標算出部と、評価指標に基づいて、評価対象のユニットの状態の変化を表す状態情報を生成する情報生成部と、を備える、設備管理支援装置として機能させるプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体が提供される。
以上説明したように本発明によれば、設備を構成するユニットの状態が不安定に変化する場合であっても、ユニットの異常の発生を容易に検知することの可能な情報を提供できる。
本発明の第1の実施形態に係る設備管理支援装置の機能構成を示す機能ブロック図である。 同実施形態に係る設備管理支援方法を示すフローチャートである。 1ヶ月前から2ヶ月前までの押出負荷の傾向を示すデータとそのヒストグラムとを示す説明図である。 直近から1ヶ月前までの押出負荷の傾向を示すデータとそのヒストグラムとを示す説明図である。 Earth Mover’s Distance(EMD)を説明する説明図である。 異常度算出部により算出される異常度を説明する説明図である。 評価指標への符号の与え方において、押出負荷の最大値に着目する場合と押出負荷のピーク位置に着目する場合とを説明するための図である。 χ2距離を説明するための説明図である。 異常度算出部により算出される異常度を説明する説明図である。 ヒストグラムの一例を示す説明図である。 同実施形態に係る設備管理支援装置のハードウェア構成例を示すブロック図である。 実施例として、EMDを時系列に並べた情報を示すグラフである。 実施例として、異常度を時系列に並べた情報を示すグラフである。 実施例として、第1の実施形態に係る設備管理支援方法により算出されるEMDと、上記式(4)に基づき算出されたχ2距離とについての指標値の時間変化を示すグラフである。 実施例として、図14に示したχ2距離と重みつきχ2距離とについての指標値の時間変化を示すグラフである。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
また、以下では、一例として、コークス炉の炉体保全のため、コークス炉を構成する複数の窯の状態を管理するために本発明の設備管理支援装置を適用する場合について説明する。なお、本発明の設備管理支援装置は、例えば、以下の操業、品質、設備状態等を管理する設備に対しても適用可能である。
(操業管理)
・コークス炉
:コークスケーキの表面温度、燃焼室フリュー温度や炭化室炉壁温度チャートを用いた燃焼状態悪化の検出
・連続鋳造設備
:連続鋳造のモールドにおける熱電対温度チャートを用いた凝固不良状態悪化の検出
(品質管理)
・熱間圧延設備、冷間圧延設備
:コイル片の疵発生数データ情報を用いた品質悪化傾向の検出
・棒線設備
:連続鋳造後の鋳片における位置毎の表面疵発生数データ情報を用いた品質悪化傾向の検出
・めっき設備
:連続溶融亜鉛めっきライン(CGL)におけるコイル位置毎の合金化度のデータチャートを用いた品質悪化傾向の検出
(設備状態管理)
・原料:鉄鋼石石炭ヤードにおけるコンベヤのモータ電流を用いた設備異常検知
<1.第1の実施形態>
[1−1.設備管理支援装置]
まず、図1を参照して、本発明の第1の実施形態に係る設備管理支援装置100の機能構成について説明する。図1は、本実施形態に係る設備管理支援装置100の機能構成を示す機能ブロック図である。
本実施形態に係る設備管理支援装置100は、図1に示すように、ヒストグラム変換処理部110と、評価指標算出部120と、異常度算出部130と、優先度決定部140と、情報生成部150と、出力部160とを備える。
ヒストグラム変換処理部110は、設備を構成する複数のユニットのうち1つのユニットを評価対象として、複数の異なる期間に取得された当該評価対象のユニットの観測値データ群を、少なくとも当該設備における時空間データ及び時空間データに関係して変化する観測値を変数とした多次元のヒストグラムにそれぞれ変換する。時空間データは、位置及び時間のうち少なくともいずれか一方を示すデータであり、1次元情報(直線位置情報)、2次元情報(平面位置情報)であってもよい。また、時空間データに関係して変化する観測値は、1つの観測値に限らず、複数の観測値であってもよい。
例えば、ヒストグラム変換処理部110は、コークス炉を構成する各窯について、コークスの押出時に取得された押出位置毎の押出負荷を含む押出負荷データを、少なくとも押出位置と押出負荷とを含む複数軸の座標系で表される多次元のヒストグラムにそれぞれ変換する。押出位置は時空間データであり、押出負荷は時空間データに関係して変化する観測値の1つである。押出負荷データは、操業実績データとして操業実績データ記憶部200に蓄積されている。ヒストグラム変換処理部110は、所定期間に取得された複数の押出負荷データを用いて、押出位置毎の押出負荷の波形データをヒストグラムに変換して特徴量化する。このようなヒストグラムは、複数の異なる期間毎にそれぞれ作成される。ヒストグラム変換処理部110は、作成したヒストグラムを評価指標算出部120へ出力する。
評価指標算出部120は、ヒストグラム変換処理部110により作成された複数のヒストグラムから、2つの異なる期間のヒストグラムの差異を表す評価指標を算出する。この評価指標により、評価対象とする窯における各押出位置での押出負荷の分布の変化を捉えることが可能となる。2つの異なる期間のヒストグラムの差異を評価する評価指標としては、本実施形態では、Earth Mover’s Distance(EMD)を用いる。評価指標算出部120は、算出した2つの異なる期間のヒストグラムの差異を表す評価指標を、異常度算出部130または情報生成部150のうち少なくともいずれか一方に出力する。
異常度算出部130は、設備を構成するユニットの異常度合いを表す異常度を算出する。例えば、情報生成部150は、コークス炉の各窯について、窯の異常度合いを表す異常度を算出する。本実施形態では、異常度を、評価指標算出部120により算出された評価指標に対して、ユニット(例えば、窯)の状態が悪化したのか良化したのかを表す符号を付与することで表す。これは、評価指標の波形特徴変化だけでは窯状態が悪化したのか良化したのか判断できない場合があることによる。そこで、押出負荷の最大値(すなわち、コークスケーキ移動開始の評価)あるいは押出負荷が最大値を取るときの押出位置(すなわち、ピーク位置の評価)の変化を考慮した指標を、評価指標算出部120により算出された評価指標に対して付与する符号として用いて、異常度を算出する。異常度算出部130は、算出した異常度を、優先度決定部140または情報生成部150のうち少なくともいずれか一方に出力する。
優先度決定部140は、複数のユニットそれぞれに対して算出された異常度に基づいて、点検の必要なユニットの優先度を決定する。例えば、優先度決定部140は、コークス炉の複数の窯それぞれに対して算出された異常度に基づいて、点検の必要な窯の優先度を決定する。優先度は、例えば1つの炉団を構成する複数の窯内で設定してもよい。優先度決定部140は、異常度が高いほどトラブル発生の可能性が高いとして、異常度の高い順に窯の点検の優先度を決定する。優先度決定部140は、決定した優先度を情報生成部150に出力する。
情報生成部150は、評価対象のユニットの状態の変化を表す状態情報を生成する。状態情報は、例えば、設備の状態、設備における操業の状態、または、設備を用いて製造される製品の品質の状態のうち少なくともいずれか1つの変化を表す。
例えば、情報生成部150は、状態情報として、評価指標に基づいて窯の状態を表す窯状態情報を生成する。窯状態情報としては、例えば、評価指標を時系列に並べた情報、異常度を時系列に並べた情報等がある。これらの情報は、時間の経過とともに窯の状態がどのように変化しているかを表している。また、情報生成部150は、破孔あるいは押詰りといったトラブルが発生する可能性が高くなったことを検知するために予め設定された閾値に基づき、評価指標を時系列に並べた情報あるいは異常度を時系列に並べた情報に対して閾値判定を行い、トラブル発生を予測した情報を生成してもよい。
さらに情報生成部150は、優先度決定部140により決定されたユニット(例えば窯)の点検の優先度に基づいて、優先度の高いユニットを作業者に通知するための通知情報を生成してもよい。情報生成部150は、例えば、優先度が高い順から所定数の窯(例えば上位5つの窯)を通知する通知情報を生成してもよい。通知情報は、少なくとも窯を特定可能な情報(例えば窯番号)を含み、さらに通知する窯の窯状態情報も含んでもよい。情報生成部150により生成された情報は、出力部160に出力される。
出力部160は、情報生成部150により生成された情報を作業者に通知するための機能部である。出力部160は、例えば情報を視覚的に提示するディスプレイであり、音声を出力するスピーカを備えていてもよい。作業者は、出力部160を介して提示された情報に基づいて、ユニットの状態を把握したり、点検あるいはメンテナンスの必要なユニットを認識したりすることができる。
[1−2.設備管理支援方法]
図2〜図7に基づいて、本実施形態に係る設備管理支援装置100による設備管理支援方法を説明する。図2は、本実施形態に係る設備管理支援方法を示すフローチャートである。図3及び図4は、異なる時期における押出負荷の傾向を示すデータとそのヒストグラムとを示す説明図である。図5は、Earth Mover’s Distance(EMD)を説明する説明図である。図6は、異常度算出部130により算出される異常度を説明する説明図である。図7は、評価指標への符号の与え方において、押出負荷の最大値に着目する場合と押出負荷のピーク位置に着目する場合とを説明するための図である。
(データ取得:S100、ヒストグラム変換処理:S110)
設備管理支援装置100は、操業実績データ記憶部200から観測値データ群として所定期間の操業実績データが入力されると(S100)、ヒストグラム変換処理部110により、操業実績データに含まれる押出負荷データがヒストグラムに変換される(S110)。
ヒストグラムに変換される押出負荷データは、設備を構成するユニットである窯毎に、時系列順に配列された状態で、所定の期間毎に区分される。押出負荷データを区分する期間の長さは同一とし、データ数もほぼ同一であるのが望ましい。なお、各押出負荷データ群の期間は重複しないように設定されるが、多少の重複はあってもよい。例えば、直近2か月分の操業実績データの押出負荷データを取り扱う場合、直近から1か月前までの期間の押出負荷データと、1か月前から2か月前までの期間の押出負荷データとの2つの押出負荷データ群を作成する。ヒストグラム変換処理部110は、各期間の押出負荷データ群から、押出位置と押出負荷とを変数とした2次元のヒストグラムを生成する。
押出負荷データ群と、その押出負荷データ群から変換して生成されたヒストグラムとを、図3及び図4に例示する。図3は1か月前から2か月前までの期間の押出負荷データに関する情報であり、図4は直近から1か月前までの期間の押出負荷データに関する情報である。図3及び図4の上側には、横軸に窯長手方向位置、縦軸に時間をとり、各窯長手方向位置での押出負荷の値を色合いで表現した図を示している。色が淡い部分ほど押出負荷が高いことを表している。また、図3及び図4の下側には、押出負荷データ群を変換して生成されたヒストグラムを示している。ヒストグラムは、押出位置と押出負荷とに応じた発生頻度(データ分布)を表している。
図3及び図4より、所定の期間の押出負荷データ群をヒストグラムにより表すことで、各期間における押出位置と押出負荷とがとる値の傾向を捉えやすくなる。例えば、図3下側に示すように、1か月前から2か月前までの期間では、各押出位置における押出負荷の値におおきなばらつきは見られない。しかし、図4下側に示すように、直近から1か月前までの期間では、押出開始後、押出負荷が高まる傾向がみられる。
(評価指標算出処理:S120)
ヒストグラム変換処理部110により各期間のヒストグラムが生成されると、評価指標算出部120は、2つのヒストグラムの差異を評価する(S120)。窯異常が発生し始めている場合には、押出負荷波形の特定位置において押出負荷にばらつきが現れ出すことがある。2つの異なる期間のヒストグラムの差異を見ることで、このような押出負荷のばらつき現象を捉えることができる。
本実施形態では、2つの異なる期間のヒストグラムの差異を評価する評価指標としてEarth Mover’s Distance(EMD)を用いる(非特許文献1参照)。Earth Mover’s Distanceは、「特徴量」と「重み」の集合で与えられる複数の分布間の距離を表し、この距離が遠いほど分布間の差異が大きいことを意味する。本実施形態では、ステップS110で生成されたヒストグラムを評価対象の分布とし、各ヒストグラムの変数である押出位置及び押出負荷を「特徴量」として用い、それぞれの発生頻度(度数)を示すビンを「重み」として用いる。Earth Mover’s Distanceは、高次元情報の比較に適した指標であり、外れ値に強く適切にヒストグラムの差異を評価することができる。
より少し詳細に説明すると、Earth Mover’s Distanceは、最適化問題の1つである「輸送問題」の考え方に基づいている。例えば、図5に示すヒストグラムPとヒストグラムQとの差異を評価する場合には、ヒストグラムPの場所iには、重み(すなわちビンの度数)の量だけ荷物が積まれているものとし、ヒストグラムQとなるように、荷物を積み替えていくことを考える。つまり、図5で、ヒストグラムQの各場所jにおいて、決められた重み(すなわち、比較するときのヒストグラムQのビンの度数;点線のヒストグラム)の量の荷物をヒストグラムPから倉庫へ格納していくと考える。このとき、ヒストグラムPにある全ての荷物をヒストグラムQに輸送するのに、どの荷物をどこへ輸送すれば最も効率良いのかを求め、その最適解(後述の仕事量を最小にする解)がヒストグラムPとヒストグラムQの差異を評価するための指標となる。
そこで、まず、その輸送にかかる仕事量Work(P,Q)を下記式(1)のように定義し、この仕事量Work(P,Q)を最小化するときの荷物の輸送量(場所iから場所jへ輸送されるそれぞれの荷物の量)を求める。なお、ヒストグラムPの場所iの荷物(ビン)について、ヒストグラムQの場所jに移動させるときの輸送コストをdijで表し、その輸送量(ビンの度数)をfijで表す。
なお、輸送コストdijについては、多くの場合ではユークリッド距離が使用されており、本実施形態でもユークリッド距離を使用する。ここで、輸送コストdijは事前に与えられているものとする。そして、下記式(2)を目的関数とする線形計画問題を解き、仕事量Work(P,Q)が最小のときの輸送量f*ijを求める。
そして、求めたf*ijを用いて、下記式(3)よりEarth Mover’s Distanceの値EMD(P,Q)を求めることができる。
ここで求められるEMD(P,Q)は、上述したように、ヒストグラムPの荷物(ビン)をヒストグラムQに輸送するときの輸送問題の最適値と考えられる。このEMD(P,Q)を2つのヒストグラムP、Qの類似度とみなし、EMD(P,Q)の値から2つのヒストグラムP、Qの差異を評価することができる。EMD(P,Q)の値が小さいほど、ヒストグラムPとヒストグラムQとは類似した分布を有しており、分布の変化が少ないといえる。
評価指標算出部120は、上記式(3)より、2つのヒストグラムの差異を表す評価指標(すなわちEMD(P,Q))を算出し、異常度算出部130または情報生成部150のうち少なくともいずれか一方に出力する。
(異常度算出処理:S130)
次いで、異常度算出部130は、ユニット(例えば、窯)の異常度合いを表す異常度を算出する(S130)。本実施形態では、異常度を、評価指標算出部120により算出された評価指標に対して、ユニットの状態が悪化したのか良化したのかを表す符号を付与することで表す。これは、評価指標の波形特徴変化だけではユニットの状態が悪化したのか良化したのか判断できない場合があることによる。そこで、異常度算出部130は、観測値の1つである押出負荷について、最大値(すなわち、コークスケーキ移動開始の評価)あるいは押出負荷が最大値を取るときの押出位置(すなわち、ピーク位置の評価)の変化を考慮した指標を、ステップS120にて算出された評価指標に対して付与する符号として用いて、異常度を算出する。つまり、異常度は、図6に示すように、ステップS120にて算出されたEMD(P,Q)に、ユニットの状態の変化の傾向を表す符号を付与したものといえる。以下では、符号が正(+)の場合にはユニットの状態が悪化していることを表すものとし、符号が負(−)の場合にはユニットの状態が良化していることを表すものとする。
評価指標への符号の与え方としては、例えば押出負荷の最大値に注目する場合には、図7に示すように、1回の押出し毎に取得された押出負荷の最大値(図7のピーク値A)についての中央値を2つの異なる期間で比較し、その結果に基づき評価指標の符号を決定してもよい。例えば、1か月前から2か月前までの期間(図7の期間T2)の押出負荷データと、直近から1か月前までの期間(図7の期間T1)の押出負荷データとを考える。この場合、まず、異常度算出部130は、直近から1か月前までの期間における押出負荷データ毎に最大値を抽出して、それらの値の中央値を算出するとともに、1か月前から2か月前までの期間における押出負荷データ毎に最大値を抽出して、それらの値の中央値を算出する。そして、異常度算出部130は、これらの中央値の大小を判定する。
1か月前から2か月前までの期間での中央値に対して直近から1か月前までの期間での中央値が大きい場合には、評価指標に正の符号が付与される。一方、1か月前から2か月前までの期間での中央値に対して直近から1か月前までの期間での中央値が小さい場合には、評価指標に負の符号が付与される。なお、本実施形態では、日ごとに押出負荷に関するデータを取得しており、その日ごとに押出負荷の最大値を求めて蓄積しているものとし、各期間の押出負荷の最大値の中央値はこのように蓄積されたデータを用いて算出できる。
また、評価指標への符号の与え方として、押出負荷のピーク位置に注目する場合には、図7に示すように、1回の押出し毎に取得された各ヒストグラムでの押出負荷のピーク位置(図7のピーク位値B)についての中央値を2つの異なる期間で比較し、その結果に基づき評価指標の符号を決定してもよい。例えば、1か月前から2か月前までの期間(図7の期間T2)の押出負荷データと、直近から1か月前までの期間(図7の期間T1)の押出負荷データとを考える。この場合、まず、異常度算出部130は、直近から1か月前までの期間における押出負荷データ毎にピーク位置を抽出して、それらの値の中央値を算出するとともに、1か月前から2か月前における押出負荷データ毎にピーク位置を抽出して、それらの値の中央値を算出する。そして、異常度算出部130は、これらの中央値の変化を判定する。
直近から1か月前までの期間でのピーク位置の中央値が窯の排出口側へ移動している場合(すなわち、1か月前から2か月前までの期間でのピーク位置の中央値よりも大きい場合)には、評価指標に正の符号が付与される。一方、直近から1か月前までの期間でのピーク位置の中央値が押出機側へ移動している場合(すなわち、1か月前から2か月前までの期間でのピーク位置の中央値よりも小さい場合)には、評価指標に負の符号が付与される。なお、本実施形態では、日ごとに押出負荷に関するデータを取得しており、その日ごとに押出負荷のピーク位置を特定して蓄積しているものとし、各期間の押出負荷のピーク位置の中央値はこのように蓄積されたデータを用いて算出できる。
このように、評価指標に対してユニットの状態の変化の傾向を示す符号を付与することで、ユニットの異常の発生をより適切に検知できるようになる。
(確認処理:S140)
ステップS130の処理を終えると、設備管理支援装置100は、評価対象となるすべてのユニットについて、ステップS110〜ステップS130の処理が行われたか否か判定する(S140)。例えば、コークス炉の例では、評価対象とする窯は、例えば1つの炉団を構成している窯すべてとしてもよい。ステップS140にて未処理のユニットがあると判定された場合には、評価対象となるすべてのユニットについて処理を終えるまでステップS110〜ステップS130の処理が繰り返し実行される(ステップS140;No)。一方、ステップS140にてすべてのユニットについて処理が行われたと判定された場合には(ステップS140;Yes)、ステップS150以降の処理が実行される。
(優先度決定処理:S150)
評価対象とするすべてのユニットについてステップS110〜S130の処理を終えると、優先度決定部140は、ステップS130にて複数のユニットそれぞれに対して算出された異常度に基づいて、点検の必要なユニットの優先度を決定する(S150)。例えば、コークス炉の例では、優先度は、例えば1つの炉団を構成する複数の窯に対して設定してもよい。優先度決定部140は、異常度が高いほどトラブル発生の可能性が高いとして、異常度の高い順にユニットの点検の優先度を決定する。
(出力処理:S160)
ステップS150にてユニットの点検の優先度が決定されると、情報生成部150は、優先度の高いユニットを作業者に通知するための通知情報を生成する。出力部160は、情報生成部150により生成された通知情報を作業者に通知する。通知情報により、例えば、コークス炉の例では、窯の点検の優先度の高い窯の窯番号が作業者に通知される。作業者は、通知情報に基づき、優先的に炉内点検あるいはメンテナンスすべき窯を把握することができ、早期に必要なアクションをとることが可能となる。
以上、本実施形態に係る設備管理支援方法について説明した。本実施形態に係る設備管理支援方法を用いることで、複数の異なる期間の観測値データを評価範囲として、それらの期間を逐次的に変更しながら解析を行うことが可能となる。すなわち、予め設定されたトレンドに対して評価を行うのではなく、評価対象とする所定期間の観測値データを変更して評価することで、設備を構成するユニットが不安定に変化する場合であっても、ユニットの異常を捉えることが可能となる。これにより、コークス炉の例では、例えば押詰りあるいは破孔といった窯異常を高精度に予見することができるようになる。その結果、窯異常に対して適切な対策を早期に実施することが可能となり、非稼働となる窯の発生を防止して操業安定化を図ることが可能となる。
<2.第2の実施形態>
次に、図8〜図10に基づいて、本発明の第2の実施形態に係る設備管理支援装置について説明する。本実施形態に係る設備管理支援装置は、第1の実施形態に係る設備管理支援装置100と比較して、2つの異なる期間のヒストグラムの差異を評価する評価指標として、Earth Mover’s Distance(EMD)の代わりにχ2距離を用いる点で相違する。
なお、本実施形態に係る設備管理支援装置の構成は、図1に示した設備管理支援装置100の機能構成と同一である。このため、本実施形態に係る設備管理支援装置についても、図1に示した第1の実施形態の設備管理支援装置100と同一の符号を用いて説明し、各機能部の詳細な説明については省略する。また、設備管理支援方法の流れは、図2に示したフローチャートと同一である。以下、図2に沿って本実施形態に係る設備管理支援方法について説明する。
[2−1.設備管理支援方法]
(データ取得:S100、ヒストグラム変換処理:S110)
本実施形態に係る設備管理支援方法では、まず、設備管理支援装置100に操業実績データ記憶部200から観測値データ群として所定期間の操業実績データが入力されると(S100)、ヒストグラム変換処理部110により、操業実績データに含まれる押出負荷データがヒストグラムに変換される(S110)。ステップS100及びS110は、第1の実施形態と同様に行えばよいため、ここでは詳細な説明を省略する。ステップS110の処理により、図3及び図4に示したようなヒストグラムが取得される。
(評価指標算出処理:S120)
ヒストグラム変換処理部110により各期間のヒストグラムが生成されると、評価指標算出部120は、2つのヒストグラムの差異を評価する(S120)。窯異常が発生し始めている場合には、押出負荷波形の特定位置において押出負荷にばらつきが現れ出すことがある。2つの異なる期間のヒストグラムの差異を見ることで、このような押出負荷のばらつき現象を捉えることができる。
本実施形態では、2つの異なる期間のヒストグラムの差異を評価する評価指標として、χ2距離を用いる。χ2距離は独立性の検定等で用いられるχ2統計量に類似する指標であり、Earth Mover’s Distanceと同様にヒストグラムの類似比較を行う際に利用される。χ2距離は、下記式(4)により表される。また、図8に、χ2距離を説明するための説明図を示す。なお、iは、ヒストグラムP及びヒストグラムQでの場所を表している。
χ2距離では比較する2つのヒストグラムP、Qについて、互いのビンの度数が0となる場合にそのビンの差分の計算は行わず、図8に示すように、ヒストグラムPのビンまたはヒストグラムQのビンのうち少なくともいずれか一方の度数が0ではない場合に、上記式(4)に示すようにビンの差分の平方値を計算し、その平方値をP、Qのビン数の平均値で割った値の総和をχ2距離とする。評価指標算出部120は、上記式(4)より、2つのヒストグラムの差異を表す評価指標(すなわちχ2距離)を算出し、異常度算出部130または情報生成部150のうち少なくともいずれか一方に出力する。
(異常度算出処理:S130)
次いで、異常度算出部130は、ユニット(例えば、窯)の異常度合いを表す異常度を算出する(S130)。本実施形態でも第1の実施形態と同様、異常度を、評価指標算出部120により算出された評価指標に対して、ユニットの状態が悪化したのか良化したのかを表す符号を付与することで表す。これは、評価指標の波形特徴変化だけではユニットの状態が悪化したのか良化したのか判断できない場合があることによる。そこで、異常度算出部130は、観測値の1つである押出負荷について、最大値(すなわち、コークスケーキ移動開始の評価)あるいは押出負荷が最大値を取るときの押出位置(すなわち、ピーク位置の評価)の変化を考慮した指標を、ステップS120にて算出された評価指標に対して付与する符号として用いて、異常度を算出する。つまり、異常度は、図9に示すように、ステップS120にて算出された評価指標(χ2距離)に、ユニットの状態の変化の傾向を表す符号を付与したものといえる。以下では、符号が正(+)の場合にはユニットの状態が悪化していることを表すものとし、符号が負(−)の場合にはユニットの状態が良化していることを表すものとする。
評価指標への符号の与え方としては、例えば押出負荷の最大値に注目する場合には、2つの異なる期間のヒストグラムにおいて、各ヒストグラムでの押出負荷の中央値を比較した結果に基づき、評価指標の符号を決定してもよい。あるいは、評価指標への符号の与え方として、押出負荷のピーク位置に注目する場合には、2つの異なる期間のヒストグラムにおいて、各ヒストグラムでの押出負荷のピーク位置の中央値を比較した結果に基づき、評価指標の符号を決定してもよい。かかる評価指標の与え方は、第1の実施形態と同様に行えばよい。このように、評価指標に対してユニットの状態の変化の傾向を示す符号を付与することで、ユニットの異常の発生をより適切に検知できるようになる。
(確認処理:S140)
ステップS130の処理を終えると、設備管理支援装置100は、評価対象となるすべてのユニットについて、ステップS110〜ステップS130の処理が行われたか否か判定する(S140)。ステップS140の処理は、第1の実施形態と同様に行えばよい。例えば、コークス炉の例では、評価対象とする窯は、例えば1つの炉団を構成している窯すべてとしてもよい。ステップS140にて未処理のユニットがあると判定された場合には、評価対象となるすべてのユニットについて処理を終えるまでステップS110〜ステップS130の処理が繰り返し実行される(ステップS140;No)。一方、ステップS140にてすべてのユニットについて処理が行われたと判定された場合には(ステップS140;Yes)、ステップS150以降の処理が実行される。
(優先度決定処理:S150)
評価対象とするすべてのユニットについてステップS110〜S130の処理を終えると、優先度決定部140は、ステップS130にて複数のユニットそれぞれに対して算出された異常度に基づいて、点検の必要なユニットの優先度を決定する(S150)。ステップS150の処理は、第1の実施形態と同様に行えばよい。例えば、コークス炉の例では、優先度は、例えば1つの炉団を構成する複数の窯内で設定してもよい。優先度決定部140は、異常度が高いほどトラブル発生の可能性が高いとして、異常度の高い順にユニットの点検の優先度を決定する。
ステップS150にてユニットの点検の優先度が決定されると、情報生成部150は、優先度の高いユニットを作業者に通知するための通知情報を生成する。出力部160は、情報生成部150により生成された通知情報を作業者に通知する。通知情報により、例えば、コークス炉の例では、窯の点検の優先度の高い窯の窯番号が作業者に通知される。作業者は、通知情報に基づき、優先的に炉内点検あるいはメンテナンスすべき窯を把握することができ、早期に必要なアクションをとることが可能となる。
[2−2.変形例]
例えば、コークス炉の例において、押出負荷波形には、図10に示すように、押出負荷の値が取りうる分布に特徴がある。その傾向としては、押出位置が押出機側(PS;Pusher Side)では負荷分布が大きい値の範囲でばらつき、コークス排出側(CS;Coke Side)では負荷分布が小さい値の範囲でばらつくように分布が変化しており、押出位置によって押出負荷のとりうる範囲が異なる。
そこで、χ2距離の計算において、押出負荷の値として取りうる頻度が低いビンにおける変化の影響度を大きく評価し、取りうる頻度が高いビンの位置における変化の影響度を小さく評価することで、分布変化をより敏感に捉えられるようにする。これにより、例えば図10において、コークスケーキの押出しの開始時の挙動の良し悪しを見る上で重要な、押出負荷がピークとなる付近(領域C)の押出負荷のばらつき傾向を感度よく把握することができる。また、図10において、コークスケーキの押出し中盤での挙動の良し悪しを見る上で重要な、押出負荷がピークとなるピーク位置がコークス排出側へ移動したときの押出負荷の変化傾向を感度よく把握することもできる。具体的には、図10の領域Dの押出負荷が大きくなる方へばらつくほど、押出し性が悪化していることがわかる。
具体的には、χ2距離を算出する上記式(4)にてビン毎の重みwが考慮された、重みつきχ2距離を求める。重みつきχ2距離は、下記式(5)により表される。
ここで、重みwは、下記式(6)に示すように、例えば、ある期間(例えば、補修後等の押出負荷が安定している時期、等)における押出負荷の2次元ヒストグラムを蓄積しておき、各ビンの位置についてビン数Xの逆数を取ることにより設定してもよい。なお、ビン数Xが0の場合には1が与えられる。
あるいは、下記式(7)のように、ビン数Xを全体のヒストグラムの最大ビン数XMaxで割った値を1から引き、重みwとしてもよい。
このように、重みつきχ2距離を用いることで、観測値として取りうる頻度が低いビンにおける変化の影響度を大きく評価し、取りうる頻度が高いビンの位置における変化の影響度を小さく評価することで、観測値の分布変化をより敏感に捉えることができる。
以上、本実施形態に係る設備管理支援方法について説明した。本実施形態に係る設備管理支援方法を用いることで、複数の異なる期間の観測値データを評価範囲として、それらの期間を逐次的に変更しながら解析を行うことが可能となる。すなわち、予め設定されたトレンドに対して評価を行うのではなく、評価対象とする所定期間の観測値データを変更して評価することで、設備を構成するユニットが不安定に変化する場合であっても、ユニットの異常を捉えることが可能となる。これにより、コークス炉の例では、例えば押詰りあるいは破孔といった窯異常を高精度に予見することができるようになる。その結果、窯異常に対して適切な対策を早期に実施することが可能となり、非稼働となる窯の発生を防止して操業安定化を図ることが可能となる。
また、本実施形態では、2つの異なる期間のヒストグラムの差異を評価する評価指標として、χ2距離を用いることで、感度よく観測値の変化をとらえることが可能となる。
なお、2つの異なる期間のヒストグラムの差異を評価する評価指標として、Earth Mover’s Distanceと、χ2距離または重みを考慮した重みつきχ2距離のうちいずれか一方との、2つの値を組み合わせて得られる値を用いてもよい。例えば、本実施形態で用いたχ2距離または重みつきχ2距離と、Earth Mover’s Distance(EMD)との2つの平均値を用いてもよい。あるいは、評価指標として、χ2距離または重みつきχ2距離とEMDとを切り替えながら使用することも考えられる。この場合、例えば、χ2距離を評価指標として用いることをベースとして、ヒストグラムの差異の評価に基づき、引き続き評価指標としてχ2距離を用いるか、あるいは、EMDを評価指標として用いるかを決定してもよい。具体的には、χ2距離が急峻に増加した場合には、評価指標をEMDの値に切り替えて、EMDの値に同様の増加傾向があるかを確認して、その分布差の変動の妥当性を評価することにより、ユニットの異常を検知する。
このように、分布差の変動を高感度にとらえるχ2距離または重みつきχ2距離と、ロバスト性の高いEarth Mover’s Distance(EMD)とを組み合わせて使用することにより、ユニットの状況の変化をより的確にとらえることが可能となる。
<3.ハードウェア構成例>
以下、図11を参照しながら、本実施形態に係る設備管理支援装置100のハードウェア構成について、詳細に説明する。図11は、本発明の実施形態に係る設備管理支援装置100のハードウェア構成例を示すブロック図である。
設備管理支援装置100は、主に、CPU901と、ROM903と、RAM905と、を備える。また、設備管理支援装置100は、更に、バス907と、入力装置909と、出力装置911と、ストレージ装置913と、ドライブ915と、接続ポート917と、通信装置919とを備える。
CPU901は、演算処理装置および制御装置として機能し、ROM903、RAM905、ストレージ装置913、またはリムーバブル記録媒体921に記録された各種プログラムに従って、設備管理支援装置100内の動作全般またはその一部を制御する。ROM903は、CPU901が使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶する。RAM905は、CPU901が使用するプログラムや、プログラムの実行において適宜変化するパラメータ等を一次記憶する。これらはCPUバス等の内部バスにより構成されるバス907により相互に接続されている。
バス907は、ブリッジを介して、PCI(Peripheral Component Interconnect/Interface)バスなどの外部バスに接続されている。
入力装置909は、例えば、マウス、キーボード、タッチパネル、ボタン、スイッチおよびレバーなどユーザが操作する操作手段である。また、入力装置909は、例えば、赤外線やその他の電波を利用したリモートコントロール手段(いわゆる、リモコン)であってもよいし、設備管理支援装置100の操作に対応したPDA等の外部接続機器923であってもよい。さらに、入力装置909は、例えば、上記の操作手段を用いてユーザにより入力された情報に基づいて入力信号を生成し、CPU901に出力する入力制御回路などから構成されている。設備管理支援装置100のユーザは、この入力装置909を操作することにより、設備管理支援装置100に対して各種のデータを入力したり処理動作を指示したりすることができる。
出力装置911は、取得した情報をユーザに対して視覚的または聴覚的に通知することが可能な装置で構成される。このような装置として、CRTディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置、プラズマディスプレイ装置、ELディスプレイ装置およびランプなどの表示装置や、スピーカおよびヘッドホンなどの音声出力装置や、プリンタ装置、携帯電話、ファクシミリなどがある。出力装置911は、例えば、設備管理支援装置100が行った各種処理により得られた結果を出力する。具体的には、表示装置は、設備管理支援装置100が行った各種処理により得られた結果を、テキストまたはイメージで表示する。他方、音声出力装置は、再生された音声データや音響データ等からなるオーディオ信号をアナログ信号に変換して出力する。
ストレージ装置913は、設備管理支援装置100の記憶部の一例として構成されたデータ格納用の装置である。ストレージ装置913は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶部デバイス、半導体記憶デバイス、光記憶デバイス、または光磁気記憶デバイス等により構成される。このストレージ装置913は、CPU901が実行するプログラムや各種データ、および外部から取得した各種のデータなどを格納する。
ドライブ915は、記録媒体用リーダライタであり、設備管理支援装置100に内蔵、あるいは外付けされる。ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、または半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録されている情報を読み出して、RAM905に出力する。また、ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、または半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録を書き込むことも可能である。リムーバブル記録媒体921は、例えば、CDメディア、DVDメディア、Blu−ray(登録商標)メディア等である。また、リムーバブル記録媒体921は、コンパクトフラッシュ(登録商標)(CompactFlash:CF)、フラッシュメモリ、または、SDメモリカード(Secure Digital memory card)等であってもよい。また、リムーバブル記録媒体921は、例えば、非接触型ICチップを搭載したICカード(Integrated Circuit card)または電子機器等であってもよい。
接続ポート917は、機器を設備管理支援装置100に直接接続するためのポートである。接続ポート917の一例として、USB(Universal Serial Bus)ポート、IEEE1394ポート、SCSI(Small Computer System Interface)ポート、RS−232Cポート等がある。この接続ポート917に外部接続機器923を接続することで、設備管理支援装置100は、外部接続機器923から直接各種のデータを取得したり、外部接続機器923に各種のデータを提供したりする。
通信装置919は、例えば、通信網925に接続するための通信デバイス等で構成された通信インタフェースである。通信装置919は、例えば、有線または無線LAN(Local Area Network)、Bluetooth(登録商標)、またはWUSB(Wireless USB)用の通信カード等である。また、通信装置919は、光通信用のルータ、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)用のルータ、または、各種通信用のモデム等であってもよい。この通信装置919は、例えば、インターネットや他の通信機器との間で、例えばTCP/IP等の所定のプロトコルに則して信号等を送受信することができる。また、通信装置919に接続される通信網925は、有線または無線によって接続されたネットワーク等により構成され、例えば、インターネット、家庭内LAN、赤外線通信、ラジオ波通信または衛星通信等であってもよい。
以上、本発明の実施形態に係る設備管理支援装置100の機能を実現可能なハードウェア構成の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用するハードウェア構成を変更することが可能である。
本発明の第1の実施形態に係る設備管理支援方法により算出されるEarth Mover’s Distance及び異常値について、コークス炉の窯状態との関係の有無について確認した。図12は、Earth Mover’s Distanceを時系列に並べた情報であり、図13は、異常度を時系列に並べた情報である。1日1回、直近2か月の操業実績データ(押出負荷データ)を取得し、取得する毎にその日から1か月前までの押出負荷データから作成されたヒストグラムと、1か月前から2か月前までの押出負荷データから作成されたヒストグラムとを比較した。そして、上記式(2)からEarth Mover’s Distanceを算出し、さらにEarth Mover’s Distanceに対して符号を付与し、異常値を算出した。符号は、押出負荷の最大値に基づき付与した。
図12の例では、Earth Mover’s Distanceが増加した後、破孔が発生した。すなわち、Earth Mover’s Distanceの増加傾向をみることで、破孔予測が可能であるといえる。また、図13の例では、異常値が増加した後、コークスの押詰りが発生した。異常値の場合も同様に、異常値の増加傾向をみることで、押詰り予測が可能であるといえる。これより、Earth Mover’s Distanceあるいは異常値の変化を監視し、閾値判定を行うことで、破孔あるいは押詰りといったトラブル発生による窯の非稼働化を防ぐことが可能となる。
また、本発明の第2の実施形態に係る設備管理支援方法により算出されるχ2距離または重みつきχ2距離及び異常値について、コークス炉の窯状態との関係の有無について確認した。図14に、第1の実施形態に係る設備管理支援方法により算出されるEMDと、上記式(4)に基づき算出されたχ2距離とについての指標値の時間変化を示す。図15に、図14に示したχ2距離と、上記式(5)に基づき算出された重みつきχ2距離とについての指標値の時間変化を示す。図14及び図15の指標値は、各評価指標(すなわち、EMD、χ2距離、重みつきχ2距離)の値をそれぞれが取り得る最大値で除した値である。かかる指標値は、日ごとに0.1ほど変化すれば、その変化は急峻であるといえる状況になっていることを表している。なお、重みについては、炉体補修直後の正常な状態と推測される期間データを用いて算出した。
図14をみると、EMDの指標値はなだらかに増加しているのに対して、χ2距離の指標値はEMDよりも早く指標値に上昇傾向があることがわかる。このように、評価指標としてχ2距離を用いることで、評価指標としてEMDを用いた場合と同様、押詰り前に指標値が上昇し、より早い段階で閾値判定によってトラブル発生を検知することができる。
また、図15をみると、重みつきχ2距離を用いた場合、χ2距離を用いる場合よりもさらに早い段階で指標値が増加していることがわかる。また、重みつきχ2距離の指標値がピークとなった後、少し低下した後に押詰りが発生した。重みつきχ2距離はχ2距離よりも観測値の変化を感度よくとらえることができるため、このような指標値の傾向が現れたものと考えられる。この傾向に基づきトラブルが発生する可能性が高くなったことを検知することができる。
図14及び図15の結果からも、例えば、χ2距離を評価指標として用いることをベースとして、χ2距離が急峻に増加した場合には、評価指標をロバスト性の高いEMDの値に切り替えて、EMDの値に同様の増加傾向があるかを確認することで、状況の変化をより的確にとらえられることがわかる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば、上記実施形態では、2つの異なる期間のヒストグラムの差異を評価する評価指標として、Earth Mover’s Distance(EMD)あるいはχ2距離を用いたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、KL情報量、JS情報量等を評価指標として用いてもよい。
また、上記実施形態では、出力処理(S160)においてユニットの異常度に基づき決定された点検の優先度の高いユニットを通知する例を取り上げたが、本発明はかかる例に限定されず、例えば、上記の通知情報に代えて、あるいは通知情報とともに、評価対象のユニットの状態の変化を表す状態情報を作業者に通知してもよい。コークス炉の例では、状態情報として、例えば、評価指標を時系列に並べた情報、異常度を時系列に並べた情報等の窯状態情報が通知される。これらの情報は、時間の経過とともに窯の状態がどのように変化しているかを表しているため、設備管理支援において有益な情報といえる。
さらに、上記実施形態では、本実施形態に係る情報生成部150は、破孔あるいは押詰りといったトラブルが発生する可能性が高くなったことを検知するために予め設定された閾値に基づき、評価指標を時系列に並べた情報あるいは異常度を時系列に並べた情報に対して閾値判定を行い、トラブル発生を予測した情報を生成することも可能である。したがって、出力処理では、閾値判定の結果からトラブル発生が予測されるユニットを通知するようにしてもよい。閾値判定を行うことで、コークス炉の例であれば破孔あるいは押詰りといったトラブル発生によるユニットの非稼働化を防ぐことが可能となる。
また、上記実施形態では、2つのヒストグラムの差異を、評価対象のユニットの状態の変化を表す評価指標としたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、3つ以上のヒストグラムを比較することにより算出されたこれらのヒストグラムの差異を評価指標としてもよい。
100 設備管理支援装置
110 ヒストグラム変換処理部
120 評価指標算出部
130 異常度算出部
140 優先度決定部
150 情報生成部
160 出力部
200 操業実績データ記憶部

Claims (11)

  1. 製造業で用いられる設備を構成する複数のユニットのうち1つのユニットを評価対象として、複数の異なる期間に取得された当該評価対象のユニットの観測値データ群を、少なくとも当該設備における時空間データ及び前記時空間データに関係して変化する観測値を変数とした多次元のヒストグラムにそれぞれ変換するヒストグラム変換処理部と、
    複数の前記ヒストグラムの差異を表す評価指標を算出する評価指標算出部と、
    前記評価指標に基づいて、前記評価対象のユニットの状態の変化を表す状態情報を生成する情報生成部と、
    を備える、設備管理支援装置。
  2. 前記評価指標算出部は、Earth Mover’s Distanceを用いて前記評価指標を算出する、請求項1に記載の設備管理支援装置。
  3. 前記評価指標算出部は、χ2距離を用いて前記評価指標を算出する、請求項1に記載の設備管理支援装置。
  4. 前記評価指標算出部は、ある期間の前記時空間データに対する前記観測値の分布を基づき算出される重みを考慮した重みつきχ2距離を用いて前記評価指標を算出する、請求項1に記載の設備管理支援装置。
  5. 前記評価指標算出部は、ある期間の前記時空間データに対する前記観測値の分布を基づき算出されるEarth Mover’s Distanceと、χ2距離または重みを考慮した重みつきχ2距離のうちいずれか一方とを組み合わせて、前記評価指標を算出する、請求項1に記載の設備管理支援装置。
  6. 前記評価指標の変化特徴を表す符号を前記評価指標に付与した値を、ユニットの異常度合いを表す異常度として算出する異常度算出部をさらに備える、請求項1〜5のいずれか1項に記載の設備管理支援装置。
  7. 複数の前記ユニットそれぞれに対して算出された前記異常度の高い順に、点検の必要な前記ユニットの優先度を決定する優先度決定部をさらに備え、
    前記情報生成部は、前記状態情報の代わりに、あるいは前記状態情報とともに、前記優先度決定部により決定された優先度の高いユニットを作業者に通知するための通知情報を生成する、請求項6に記載の設備管理支援装置。
  8. 前記情報生成部は、前記ユニットのトラブル発生を検知するために予め設定された閾値に基づき、前記評価指標を時系列に並べた情報あるいは前記異常度を時系列に並べた情報に対して閾値判定を行い、トラブル発生を予測した情報を生成する、請求項6に記載の設備管理支援装置。
  9. 製造業で用いられる設備を構成する複数のユニットのうち1つのユニットを評価対象として、複数の異なる期間に取得された当該評価対象のユニットの観測値データ群を、少なくとも当該設備における時空間データ及び前記時空間データに関係して変化する観測値を変数とした多次元のヒストグラムにそれぞれ変換するヒストグラム変換処理ステップと、
    複数の前記ヒストグラムの差異を表す評価指標を算出する評価指標算出ステップと、
    前記評価指標に基づいて、前記評価対象のユニットの状態の変化を表す状態情報を生成する情報生成ステップと、
    を含む、設備管理支援方法。
  10. コンピュータを、
    製造業で用いられる設備を構成する複数のユニットのうち1つのユニットを評価対象として、複数の異なる期間に取得された当該評価対象のユニットの観測値データ群を、少なくとも当該設備における時空間データ及び前記時空間データに関係して変化する観測値を変数とした多次元のヒストグラムにそれぞれ変換するヒストグラム変換処理部と、
    複数の前記ヒストグラムの差異を表す評価指標を算出する評価指標算出部と、
    前記評価指標に基づいて、前記評価対象のユニットの状態の変化を表す状態情報を生成する情報生成部と、
    を備える、設備管理支援装置として機能させるプログラム。
  11. コンピュータに、
    製造業で用いられる設備を構成する複数のユニットのうち1つのユニットを評価対象として、複数の異なる期間に取得された当該評価対象のユニットの観測値データ群を、少なくとも当該設備における時空間データ及び前記時空間データに関係して変化する観測値を変数とした多次元のヒストグラムにそれぞれ変換するヒストグラム変換処理部と、
    複数の前記ヒストグラムの差異を表す評価指標を算出する評価指標算出部と、
    前記評価指標に基づいて、前記評価対象のユニットの状態の変化を表す状態情報を生成する情報生成部と、
    を備える、設備管理支援装置として機能させるプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
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