以下、本発明のスプール弁装置の実施の形態を、油圧ショベルに搭載された方向制御弁に適用した場合を例に挙げ、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1ないし図6は、第1の実施の形態を示している。図1において、建設機械の代表例である油圧ショベル1は、自走可能なクローラ式の下部走行体2と、下部走行体2上に設けられた旋回装置3と、下部走行体2上に旋回装置3を介して旋回可能に搭載された上部旋回体4と、上部旋回体4の前側に設けられ掘削作業等を行う多関節構造の作業装置5とを含んで構成されている。この場合、下部走行体2と上部旋回体4は、油圧ショベル1の車体を構成している。
下部走行体2は、例えば、履帯2Aと、該履帯2Aを周回駆動させることにより油圧ショベル1を走行させる左,右の走行用油圧モータ(図示せず)とを含んで構成されている。下部走行体2は、後述のメイン油圧ポンプ13(図2参照)からの圧油の供給に基づいて、油圧モータ(油圧アクチュエータ)である走行用油圧モータが回転することにより、上部旋回体4および作業装置5と共に走行する。
作業機またはフロントとも呼ばれる作業装置5は、例えば、ブーム5A、アーム5B、作業具としてのバケット5Cと、これらを駆動する油圧アクチュエータ(液圧アクチュエータ)としてのブームシリンダ5D、アームシリンダ5E、バケットシリンダ(作業具シリンダ)5Fとを含んで構成されている。作業装置5は、メイン油圧ポンプ13(図2参照)からの圧油の供給に基づいて、油圧シリンダであるシリンダ5D,5E,5Fが伸長または縮小することにより、俯仰の動作をする。なお、後述の図2の油圧回路図では、図面が複雑になることを避けるために、主としてブームシリンダ5Dに関する油圧回路を示しており、アームシリンダ5E、バケットシリンダ5F、前述の左,右の走行用油圧モータ、後述の旋回用油圧モータに関する油圧回路を省略している。
上部旋回体4は、旋回軸受、旋回用油圧モータ、減速機構等を含んで構成される旋回装置3を介して、下部走行体2上に搭載されている。上部旋回体4は、メイン油圧ポンプ13(図2参照)からの圧油の供給に基づいて、油圧モータ(油圧アクチュエータ)である旋回用油圧モータが回転することにより、下部走行体2上で作業装置5と共に旋回する。上部旋回体4は、上部旋回体4の支持構造体(ベースフレーム)となる旋回フレーム6と、旋回フレーム6上に搭載されたキャブ7、カウンタウエイト8等とを含んで構成されている。この場合、旋回フレーム6上には、エンジン12に加えて、図2に示す油圧ポンプ13,19、作動油タンク14等が搭載されている。
旋回フレーム6は、旋回装置3を介して下部走行体2に取付けられている。旋回フレーム6の前部左側には、内部が運転室となったキャブ7が設けられている。旋回フレーム6の後端側には、作業装置5との重量バランスをとるためのカウンタウエイト8が設けられている。キャブ7とカウンタウエイト8との間は、エンジン12、油圧ポンプ13,19(図2参照)等が収容される機械室9となっている。さらに、上部旋回体4(旋回フレーム6)のほぼ中央(中心)には、後述の制御弁装置21が設置されている。
ここで、キャブ7内には、オペレータが着席する運転席(図示せず)が設けられている。運転席の周囲には、油圧ショベル1を操作するための操作装置(図2にブーム用レバー操作装置22のみ図示)が設けられている。操作装置は、例えば、運転席の前側に設けられた左,右の走行用レバー・ペダル操作装置と、運転席の左右両側にそれぞれ設けられた左,右の作業用レバー操作装置とを含んで構成されている。
左,右の走行用レバー・ペダル操作装置は、下部走行体2を走行させるときにオペレータにより操作される。左,右の作業用レバー操作装置は、作業装置5を動作させるとき、および、上部旋回体4を旋回させるときにオペレータにより操作される。なお、後述の図2の油圧回路図では、各種の操作装置(走行用操作装置および作業用操作装置)のうち作業装置5のブーム5Aを操作(揺動)するためのブーム用レバー操作装置22のみを示している(左,右の走行用レバー・ペダル操作装置、旋回用レバー操作装置、アーム用レバー操作装置、バケット用レバー操作装置等を省略している)。ブーム用レバー操作装置22は、例えば、右側の作業用レバー操作装置の前後方向の操作に対応するものである。
操作装置は、オペレータの操作(レバー操作、ペダル操作)に応じたパイロット信号(パイロット圧)を、複数の方向制御弁(図2にブーム用方向制御弁31のみ図示)からなる制御弁装置21に出力する。これにより、オペレータは、走行用油圧モータ、作業装置5のシリンダ5D,5E,5F、旋回装置3の旋回用油圧モータを動作(駆動)させることができる。なお、後述の図2の油圧回路図では、制御弁装置21を構成する複数の方向制御弁のうち、ブーム用方向制御弁31のみを示している(例えば、左走行用方向制御弁、右走行用方向制御弁、旋回用方向制御弁、アーム用方向制御弁、バケット用方向制御弁等を省略している)。
次に、油圧ショベル1を駆動するための油圧駆動装置(油圧システム)について、図1に加え、図2も参照しつつ説明する。
図2に示すように、油圧ショベル1は、メイン油圧ポンプ13から供給される圧油に基づいて油圧ショベル1を動作(駆動)させる油圧回路11を備えている。油圧回路11は、油圧アクチュエータ(以下、単にシリンダ5Dともいう)を含むメイン油圧回路11Aと、シリンダ5Dを操作するためのパイロット油圧回路11Bとを含んで構成されている。
即ち、油圧回路11は、シリンダ5Dと、エンジン12(図1参照)と、メイン油圧ポンプ13と、タンクとしての作動油タンク14と、パイロット油圧ポンプ19と、制御弁装置21(ブーム用方向制御弁31)と、操作装置(以下、単にレバー操作装置22ともいう)とを含んで構成されている。そして、油圧回路11のメイン油圧回路11Aは、シリンダ5Dに加え、エンジン12と、メイン油圧ポンプ13と、作動油タンク14と、制御弁装置21(ブーム用方向制御弁31)と、ポンプ管路としてのメイン吐出管路15と、タンク管路としての戻り管路16と、一側アクチュエータ管路としてのボトム側管路17と、他側アクチュエータ管路としてのロッド側管路18とを備えている。一方、油圧回路11のパイロット油圧回路11Bは、エンジン12と、パイロット油圧ポンプ19と、作動油タンク14と、レバー操作装置22と、パイロット吐出管路20と、一側パイロット管路としての伸長側パイロット管路23と、他側パイロット管路としての縮小側パイロット管路24とを備えている。
エンジン12(図1参照)は、旋回フレーム6に搭載されている。エンジン12は、例えばディーゼルエンジン等の内燃機関によって構成されている。エンジン12の出力側には、メイン油圧ポンプ13、および、パイロット油圧ポンプ19が取付けられている。これら油圧ポンプ13,19は、エンジン12によって回転駆動される。なお、油圧ポンプ13,19を駆動するための駆動源(動力源)は、内燃機関となるエンジン12単体で構成できる他、例えば、エンジンと電動モータ、または、電動モータ単体により構成してもよい。
メイン油圧ポンプ13は、エンジン12に機械的に(即ち、動力伝達可能に)接続されている。メイン油圧ポンプ13は、シリンダ5Dを含むメイン油圧回路11Aに圧油を供給する。メイン油圧ポンプ13は、例えば、可変容量型の油圧ポンプ、より具体的には、可変容量型の斜板式、斜軸式またはラジアルピストン式油圧ポンプによって構成されている。なお、図2では、メイン油圧ポンプ13を1台の油圧ポンプで示しているが、例えば、2台以上の複数の油圧ポンプにより構成することができる。
メイン油圧ポンプ13は、制御弁装置21(ブーム用方向制御弁31)を介してシリンダ5Dに接続されている。メイン油圧ポンプ13は、シリンダ5Dに圧油を供給する。なお、図示は省略するが、メイン油圧ポンプ13は、例えば、ブームシリンダ5Dの他、走行用油圧モータ、旋回用油圧モータ、アームシリンダ5E、バケットシリンダ5Fにも圧油を供給する。
メイン油圧ポンプ13は、作動油タンク14に貯溜された作動油を圧油としてメイン吐出管路15に吐出する。メイン吐出管路15に吐出された圧油は、制御弁装置21(ブーム用方向制御弁31)を介してブームシリンダ5D(のボトム側油室またはロッド側油室)に供給され、ブームシリンダ5D(のロッド側油室またはボトム側油室)の圧油は、制御弁装置21(ブーム用方向制御弁31)および戻り管路16を介して作動油タンク14に戻る。このように、メイン油圧ポンプ13は、作動油を貯留する作動油タンク14と共に、メインの油圧源を構成している。
パイロット油圧ポンプ19は、メイン油圧ポンプ13と同様に、エンジン12に機械的に接続されている。パイロット油圧ポンプ19は、シリンダ5Dを操作するためのパイロット油圧回路11Bに圧油を供給する。パイロット油圧ポンプ19は、例えば、固定容量型の歯車ポンプまたは斜板式油圧ポンプによって構成されている。パイロット油圧ポンプ19は、作動油タンク14に貯溜された作動油を圧油としてパイロット吐出管路20に吐出する。即ち、パイロット油圧ポンプ19は、作動油タンク14と共にパイロット油圧源を構成している。
パイロット油圧ポンプ19は、レバー操作装置22と接続されている。パイロット油圧ポンプ19は、レバー操作装置22に圧油(1次圧)を供給する。この場合、パイロット油圧ポンプ19の圧油は、レバー操作装置22を介して、制御弁装置21(ブーム用方向制御弁31の油圧パイロット部31A,31B)に供給される。
制御弁装置21は、ブーム用方向制御弁31を含む複数の方向制御弁からなる制御弁群である。制御弁装置21は、メイン油圧ポンプ13から吐出された圧油を、ブーム用レバー操作装置22を含む各種の操作装置の操作に応じて、ブームシリンダ5D、アームシリンダ5E、バケットシリンダ5F、走行用油圧モータ、および、旋回用油圧モータに分配する。なお、以下の説明は、ブーム用方向制御弁31(以下、単に方向制御弁31ともいう)を制御弁装置21の代表例として説明する。
方向制御弁31は、キャブ7内に配置されたレバー操作装置22の操作による切換信号(パイロット圧)に応じて、メイン油圧ポンプ13からシリンダ5Dに供給される圧油の方向を制御する。これにより、シリンダ5Dは、メイン油圧ポンプ13から供給(吐出)される圧油(作動油)によって駆動(伸長、縮小)される。方向制御弁31は、パイロット操作式の方向制御弁、例えば、5ポート3位置(または、6ポート3位置、4ポート3位置)の油圧パイロット式方向制御弁により構成されている。
方向制御弁31は、メイン油圧ポンプ13とシリンダ5Dとの間でシリンダ5Dに対する圧油の供給と排出を切換えることにより、シリンダ5Dを伸長または縮小させる。方向制御弁31の油圧パイロット部31A,31Bには、レバー操作装置22の操作に基づく切換信号(パイロット圧)が供給される。これにより、方向制御弁31は、中立位置(A)から切換位置(B),(C)に切換操作される。
レバー操作装置22は、上部旋回体4のキャブ7内に配置されている。レバー操作装置22は、例えば、レバー式の減圧弁型パイロット弁により構成されている。レバー操作装置22には、パイロット油圧ポンプ19からの圧油(1次圧)がパイロット吐出管路20を通じて供給される。レバー操作装置22は、オペレータのレバー操作に応じたパイロット圧(2次圧)を、伸長側パイロット管路23または縮小側パイロット管路24を介して方向制御弁31に出力する。
即ち、レバー操作装置22は、オペレータによって操作されることにより、その操作量に比例したパイロット圧を方向制御弁31の油圧パイロット部31A,31Bに供給(出力)する。例えば、レバー操作装置22がシリンダ5Dを伸長させる方向に操作されると(即ち、ブーム5Aを上げるための上げ操作がされると)、この操作により発生したパイロット圧は、伸長側パイロット管路23を介して方向制御弁31の油圧パイロット部31Aに供給される。これにより、方向制御弁31は、中立位置(A)から切換位置(B)に切換わり、メイン油圧ポンプ13からの圧油がボトム側管路17を介してシリンダ5Dのボトム側油室に供給され、シリンダ5Dのロッド側油室の圧油がロッド側管路18、戻り管路16を介して作動油タンク14に戻る。
これに対して、例えば、レバー操作装置22がシリンダ5Dを縮小させる方向に操作されると(即ち、ブーム5Aを下げるための下げ操作がされると)、この操作により発生したパイロット圧は、縮小側パイロット管路24を介して方向制御弁31の油圧パイロット部31Bに供給される。これにより、方向制御弁31は、中立位置(A)から切換位置(C)に切換わり、メイン油圧ポンプ13からの圧油がロッド側管路18を介してシリンダ5Dのロッド側油室に供給され、シリンダ5Dのボトム側油室の圧油がボトム側管路17、戻り管路16を介して作動油タンク14に戻る。
次に、スプール弁装置としての方向制御弁31について、図1および図2に加え、図3ないし図6も参照しつつ説明する。
スプール弁とも呼ばれる方向制御弁31は、油圧源(メイン油圧ポンプ13および作動油タンク14)と油圧アクチュエータ(シリンダ5D)との間に設けられている。方向制御弁31は、スプール39を図2の(A)に示す中立位置から例えば(B)または(C)に示す切換位置に摺動変位させることにより、シリンダ5Dに供給、排出する圧油の方向および流量を制御する。図3に示すように、方向制御弁31は、ハウジング32と、スプール39とを含んで構成されている。
ハウジング32は、方向制御弁31の弁本体(弁ハウジング)を構成するものである。ハウジング32は、筒状に形成されており、ハウジング32の内周側は、スプール摺動穴33となっている。即ち、ハウジング32は、軸方向(図3の左,右方向)に延びる弁収容穴としてのスプール摺動穴33を有している。ハウジング32の一側(例えば、図3の右側)には、スプール摺動穴33の一側開口に対面するように一側キャップ(図示せず)が取付けられており、ハウジング32の他側(例えば、図3の左側)には、スプール摺動穴33の他側開口に対面するように他側キャップ(図示せず)が取付けられている。両方のキャップ内または片方のキャップ内には、スプールを中立位置(A)に保持するためのセンタリングスプリング31C,31D(図2参照)が設けられている。
図3に示すように、スプール摺動穴33には、複数の凹溝34,35が設けられている。この場合、スプール摺動穴33には、例えば5個の凹溝34,35、具体的には、軸方向中央部に位置する中央凹溝34、中央凹溝34よりも軸方向一側(図3の右側)に位置する一側凹溝35、一側凹溝35よりも軸方向一側(スプール摺動穴33の一端側)に位置する一端側凹溝(図示せず)、中央凹溝34よりも軸方向他側(図3の左側)に位置する他側凹溝(図示せず)、他側凹溝よりも軸方向他側(スプール摺動穴33の他端側)に位置する他端側凹溝(図示せず)が設けられている。なお、図3では、5個の凹溝34,35のうち、中央凹溝34とこの中央凹溝34よりも軸方向一側に設けられた一側凹溝35との2つの凹溝34,35を示している。
複数の凹溝34,35は、いずれもスプール摺動穴33の全周にわたって環状に形成されている。また、各凹溝34,35は、スプール摺動穴33の軸方向にわたってそれぞれ離間して設けられている。この場合、各凹溝34,35の間は、それぞれスプール摺動穴33の内径側に向けて全周にわたって突出する切換部36,36となっている。さらに、ハウジング32には、スプール摺動穴33の軸方向にそれぞれ離間して複数のポート37,38が設けられている。ポート37,38は、圧油の流通する通路(油路)となるものである。この場合、ハウジング32には、例えば5個のポート37,38、具体的には、ポンプポート37、一対のアクチュエータポート38、および、一対のタンクポート(図示せず)が設けられている。なお、図3では、5個のポート37,38のうち、ポンプポート37と一方のアクチュエータポート38との2つのポート37,38を示している。
ポンプポート37は、スプール摺動穴33の中央凹溝34に対応して設けられている。ポンプポート37は、ハウジング32の外面に開口する一側がメイン吐出管路15に接続され、スプール摺動穴33に開口する他側が中央凹溝34に連通している。一対のアクチュエータポート38のうち一方のアクチュエータポート38は、スプール摺動穴33の一側凹溝35に対応して設けられている。一方のアクチュエータポート38は、例えば、ハウジング32の外面に開口する一側がロッド側管路18に接続され、スプール摺動穴33に開口する他側が一側凹溝35に連通している。これに対して、他方のアクチュエータポートは、スプール摺動穴33の他側凹溝に対応して設けられている。他方のアクチュエータポートは、例えば、ハウジング32の外面に開口する一側がボトム側管路17に接続され、スプール摺動穴33に開口する他側が他側凹溝に連通している。
一対のタンクポートのうち一方のタンクポートは、スプール摺動穴33の一端側凹溝に対応して設けられている。一方のタンクポートは、ハウジング32の外面に開口する一側が戻り管路16に接続され、スプール摺動穴33に開口する他側が一端側凹溝に連通している。これに対して、他方のタンクポートは、スプール摺動穴33の他端側凹溝に対応して設けられている。他方のタンクポートは、ハウジング32の外面に開口する一側が戻り管路16に接続され、スプール摺動穴33に開口する他側が他端側凹溝に連通している。これにより、ハウジング32には、切換部36,36を挟んでスプール摺動穴33の軸方向に複数のポート37,38が設けられている。
弁体であるスプール39は、ハウジング32のスプール摺動穴33に移動可能(摺動可能)に挿嵌されている。スプール39は、油圧パイロット部31A,31Bに供給されるパイロット圧に応じて、スプール摺動穴33内を軸方向に摺動変位する。これにより、スプール39は、複数のポート37,38を互いに連通または遮断する。このために、スプール39には、各ポート37,38間を連通または遮断させるためのランドとなる大径部40,41とくびれとなる小径部42とが軸方向に隣り合って設けられている。即ち、スプール39の軸方向中間部には、径方向寸法が大きい外周面を有する中央大径部40が設けられている。また、スプール39の軸方向両端側には、それぞれ中央大径部40と同じ外径寸法の外周面を有する一側大径部41と他側大径部(図示せず)とが設けられている。
これら各大径部40,41は、スプール摺動穴33に対して軸方向に摺動する。この場合、各大径部40,41の間は、小径部42となっている。小径部42と大径部40,41との間は、環状の段差面43によって接続されている。そして、各大径部40,41の間は、小径部42の外周面42Aと段差面43,43とにより構成される油溝44となっている。即ち、各大径部40,41の間は、スプール39の内径側に向けて全周にわたって凹入する油溝44となっている。換言すれば、スプール39には、各ポート間37,38を連通または遮断させるため、軸方向に離間してくびれ部となる油溝44と摺動部となる大径部40,41とが設けられている。油溝44は、スプール39の軸方向位置に応じて、ポンプポート37(凹溝34)とアクチュエータポート38(凹溝35)とを連通する油路を形成する。
即ち、スプール39が、図2に示す中立位置から左方向に変位すると、中央凹溝34と一側凹溝35との間が、中央大径部40と一側大径部41との間の油溝44を介して連通される。これと共に、他側凹溝と他端側凹溝との間が、中央大径部40と他側大径部との間の油溝を介して連通される。この場合、メイン油圧ポンプ13から吐出された圧油は、メイン吐出管路15、ポンプポート37、中央凹溝34、切換部36と油溝44との間、および、一側凹溝35を介して一方のアクチュエータポート38へと導かれ、ロッド側管路18を介してシリンダ5Dのロッド側油室に供給される。一方、シリンダ5Dのボトム側油室の圧油は、ボトム側管路17、他方のアクチュエータポート、他側凹溝、切換部とスプールの油溝との間、および、他端側凹溝を介して他方のタンクポートへと導かれ、戻り管路16を介して作動油タンク14に戻される。これにより、シリンダ5Dを縮小させることができる。
ここで、中央大径部40の外周面と段差面43との境界は、環状のエッジ45となっている。そして、図3ないし図6に示すように、スプール39の中央大径部40には、この中央大径部40と段差面43(油溝44)との境界部(エッジ45)に位置してノッチ46が設けられている。ノッチ46は、スプール39が移動するときに各ポート37,38間を小流量で連通させる。即ち、中央大径部40の一端側(右端側)には、軸方向に延びるノッチ46が形成されている。実施の形態では、ノッチ46は、例えば、幅寸法および深さ寸法がスプール39の軸方向に関して一定となった四角形状の切り欠き(ノッチ)となっている。
ノッチ46は、隣り合う凹溝34,35の間、即ち、ポンプポート37とアクチュエータポート38との間を流れる圧油を小流量で連通させる。即ち、ノッチ46は、スプール39が移動するときに各ポート37,38間を連通させる位置(クラッキング位置)で各ポート37,38間を小流量で連通させる。これにより、スプール39とハウジング32(スプール摺動穴33の切換部36)との間には、スプール39の軸方向位置に応じて、図5に示す絞り部47、または、図6に示す環状の絞り部48が形成される。図5に示す絞り部47は、スプール39のノッチ46とハウジング32(の切換部36)とにより形成される流路面積の小さな開口部である。図6に示す絞り部48は、スプール39のエッジ45とハウジング32(の切換部36)とにより形成される環状の開口部である。図6の開口部(絞り部48)の流路面積は、図5の環状の開口部(絞り部47)の流路面積よりも大きい。
ここで、ハウジング32(の切換部36)とスプール39の中央大径部40との開口部を圧油が通過するとき、この開口部の開口量が小さいと、即ち、開口部の流路面積が小さいと、この開口部が絞り部47,48となり、液体中(作動油中)に気泡が発生して膨張するキャビテーションが発生する可能性がある。そして、絞り部47,48で発生した気泡は、高速流体噴流であるキャビテーション噴流49に乗って絞り部47,48の下流側へと流される。
このとき、絞り部47,48よりも下流部の圧力が高くなるため、気泡の周囲の圧力は徐々に回復し、やがて気泡はこの回復してきた圧力によって押し潰される。そして、この気泡が押し潰されて崩壊した瞬間、局所的に高い衝撃圧が発生し、機器部材表面、例えば、スプール39の段差面43、大径部41の外周面、ハウジング32(の一側凹溝35)の内面等にエロージョンが発生する可能性がある。
これに対して、図13は、比較例を示している。この図13中の細線の矢印は、圧油の流通方向を示している。図5、図6等のその他の図でも、細線の矢印は、圧油の流通方向を示している。図13の比較例では、スプール101の段差面102に環状溝103が設けられている。この構成の場合、油の流れは、図13中の細線の矢印で示すように、環状の絞り部106から環状溝103に流入し、この環状溝103内で激しい乱流場を形成した後、環状溝103から下流側へ流出する。即ち、油の流れは、複雑な流線を形成し、流れ損失が増大する可能性がある。一方、ノッチ107のみを通じて油が下流側に流れているときは、ハウジング105とノッチ107とにより形成される絞り部で生じるキャビテーション噴流が衝突する部位は、段差面102のうちノッチ107と対面する部位のみに限定される。このため、段差面102に環状溝103が設けられていると、キャビテーション噴流に対して環状溝103が大き過ぎて、環状溝103に気泡を十分に溜めることができず、エロージョンを抑制できない可能性がある。
そこで、本実施の形態では、図3ないし図6に示すように、各ポート37,38がノッチ46を通じて連通したときに高圧側のポンプポート37から流れ込む作動油が衝突するスプール39の段差面43には、この段差面に開口する有底穴50が設けられている。有底穴50は、作動流体が含有する気体を気泡として溜めるものである。即ち、スプール39のくびれ部(油溝44)のうちノッチ46が設けられた段差面43とは反対の段差面43で、かつ、ノッチ46で生じる噴流が衝突する部位には、段差面43に対して垂直な小穴となる有底穴50が設けられている。有底穴50を設ける部位、即ち、噴流衝突部位は、例えば、作動流体の流れの可視化実験や流体解析等を用いて同定(特定)することができる。
例えば、第1の実施の形態では、有底穴50は、段差面43に設けられている。即ち、有底穴50は、段差面43に開口している。また、有底穴50は、スプール39の中心軸線に対して平行に延びている。また、有底穴50は、スプール39の径方向に関してノッチ46の最深部46Aよりも内径側に設けられている。さらに、有底穴50は、段差面43のうちスプール39の周方向に関してノッチ46と対応する位置に設けられている。換言すれば、ノッチ46と有底穴50は、スプール39の周方向の位相を一致させている。即ち、ノッチ46と有底穴50は、スプール39の軸方向に対面している。
また、有底穴50は、円形穴としている。そして、図4に示すように、有底穴50の内径をDbとし、有底穴50の深さをHbとし、ノッチ46から噴出して段差面43に向かうキャビテーション噴流49の直径をDjとする。この場合に、有底穴50の内径Dbは、キャビテーション噴流49の直径Djの1倍以上3倍以下としている。即ち、有底穴50の内径Dbとキャビテーション噴流49の直径Djとの関係は、下記の数1式の関係となるように設定している。なお、キャビテーション噴流49の直径Djは、例えば、段差面43での直径Dj(即ち、ノッチ46の出口部から長さL離れた位置での直径Dj)とすることができる。
また、有底穴50の深さHbは、有底穴50の内径Dbの1/2(有底穴50の半径)よりも大きくなっている。即ち、有底穴50の深さHbと内径Dbとの関係は、下記の数2式の関係となるように設定している。なお、第1の実施の形態では、有底穴50の深さHbは、スプール39の軸方向に関する段差面43からの長さ(深さ)となっている。
ここで、キャビテーション噴流49の直径Djは、キャビテーション噴流49の発生部であるノッチ46の出口部からの距離(長さL)に従って変化する。即ち、キャビテーション噴流49の直径Djは、下記の数3式にて定義される。
ここで、Dnは、ノッチ46の出口部での開口面積を円の断面積と仮定した場合の仮想円の径(直径)である。また、C(L)は、ノッチ46の出口部から噴流衝突部(段差面43)までの長さLに依存するキャビテーション噴流49の直径Djの変化率である。この変化率C(L)の値は、実験計測や流体解析を用いて把握することができる。これにより、数3式に基づいて、有底穴50の内径Dbは、ノッチ46の出口部から段差面43までの長さLとノッチ46の径との関係から設定することができる。
なお、図示は省略するが、例えば、スプールに複数のノッチを設ける場合は、ノッチに対して対となるように、段差面に複数の有底穴を設けることができる。また、有底穴の底面は必ずしも平面である必要はなく、ドリル等の工具形状やRを有した球面形状等であってもよい。
第1の実施の形態による油圧ショベル1および方向制御弁31は、上述の如き構成を有するもので、次に、その動作について説明する。
キャブ7に搭乗したオペレータがエンジン12を始動させると、エンジン12によって油圧ポンプ13,19が駆動される。これにより、メイン油圧ポンプ13から吐出した圧油は、キャブ7内に設けられた走行用操作装置および作業用操作装置(レバー操作装置22)のレバー操作、ペダル操作に応じて、走行油圧モータ、旋回油圧モータ、作業装置5のブームシリンダ5D、アームシリンダ5E、バケットシリンダ5Fに向けて吐出する。これにより、油圧ショベル1は、下部走行体2による走行動作、上部旋回体4の旋回動作、作業装置5による掘削作業等を行うことができる。
ここで、レバー操作装置22が操作されると、この操作に応じて、パイロット油圧ポンプ19からレバー操作装置22を介して方向制御弁31の一方の油圧パイロット部31Aまたは他方の油圧パイロット部31Bにパイロット圧が供給される。これにより、方向制御弁31は、中立位置(A)から切換位置(B)または切換位置(C)に切換わる。このとき、メイン吐出管路15は、方向制御弁31を介して、ボトム側管路17とロッド側管路18とのうちの一方の管路17(18)に接続され、メイン油圧ポンプ13からの圧油がシリンダ5Dのボトム側油室とロッド側油室とのうちの一方の油室に供給される。これと共に、ボトム側管路17とロッド側管路18とのうちの他方の管路18(17)は、方向制御弁31を介して戻り管路16に接続され、シリンダ5Dのボトム側油室とロッド側油室とのうちの他方の油室の圧油が作動油タンク14へと導かれる。
このとき、図3に示すように、方向制御弁31の内部では、スプール39の軸方向の変位に伴って、ポンプポート37とアクチュエータポート38とがスプール39のノッチ46を介して連通する。ここで形成される油路、即ち、ノッチ46により形成される開口部(絞り部47)は、他の油路断面積よりも小さいため、ノッチ46で流速の増加および圧力の低下が発生し、これによりキャビテーションが発生する可能性がある。
図4に示すように、ノッチ46で発生したキャビテーションは、気泡を含むキャビテーション噴流49となって、ハウジング32の切換部36と油溝44とで形成される油路へ噴射され、スプール39(の段差面43)の表面に設けられた有底穴50に流入する。この場合、図5に矢印で示すように、作動流体の流れ(キャビテーション噴流49)は、有底穴50の内部で折り返すように方向を変え、有底穴50の開口部から再び油路へと流出する。このとき、有底穴50に気泡溜りが形成される。
次に、スプール39が図5の状態から図6に示すようにさらに軸方向に変位(ストローク)すると、ポンプポート37とアクチュエータポート38とがスプール39のエッジ45を介して連通する。ここで形成される油路、即ち、エッジ45により形成される環状の開口部(環状の絞り部48)も、他の油路断面積よりも小さいため、エッジ45でキャビテーションが発生する可能性がある。この場合、図6に矢印で示すように、作動流体の流れ(キャビテーション噴流49)は、ノッチ46で開口部(絞り部47)が形成される場合と異なり、放射状の流れとなる。即ち、放射状にキャビテーション噴流49が形成され、その大部分は、スプール39の油溝44の表面を沿うように流れ、そのままアクチュエータポート38へと流れ出る。
このように、第1の実施の形態によれば、高圧側のポート(ポンプポート37)からノッチ46を通じて流れ込む作動油が衝突するスプール39の段差面43に、作動流体が含有する気体を気泡として溜める有底穴50が設けられている。このため、スプール39のノッチ46とハウジング32のスプール摺動穴33(切換部36)とにより形成される開口部(絞り部47)で発生したキャビテーション噴流49は、この噴流49が衝突する位置に設けられた有底穴50に流入し、この有底穴50内に気泡溜りが形成される。この気泡溜りは、キャビテーション噴流49の気泡の崩壊時に生じる衝撃圧を吸収する。即ち、気泡溜りが衝撃圧を吸収するクッションとなる。これにより、エロージョンに寄与する力を減衰することができ、エロージョンを抑制できる。
一方、スプール39のエッジ45とハウジング32のスプール摺動穴33(切換部36)とにより環状の開口部(環状の絞り部48)が形成される場合は、ノッチ46により開口部(絞り部47)が形成される場合と比較して、キャビテーション噴流49もこの噴流49の衝突部も分散しているため、エロージョンのリスクが低くなる。しかも、発生したキャビテーション噴流49の大部分は、有底穴50以外の段差面43を沿うように流れるため、流線が複雑化することを抑制できる。即ち、キャビテーション噴流49の大部分をスプール39の油溝44の形状に沿ってスムーズに流すことができるため、流れ損失の増大を抑制できる。
この結果、エロージョンの抑制と流れ損失の抑制とを両立できる。即ち、実施の形態では、エロージョンへの寄与度が高いノッチ46によってキャビテーションが生じる条件では、有底穴50によって噴流49の衝突部でのエロージョンを効果的に抑制できる。一方、噴流49が分散して比較的エロージョンへの寄与度が低い環状のエッジ45によってキャビテーションが生じる条件では、不必要な流れ損失を招くことを抑制できる。これにより、流れ損失を抑制しつつ、エロージョンに対するスプール弁装置(方向制御弁31)の寿命を長くすることができる。
第1の実施の形態によれば、有底穴50は、スプール39の径方向に関してノッチ46の最深部46Aよりも内径側に設けられている。これにより、スプール39のノッチ46から噴出してスプール39の内径側に向けて流れるキャビテーション噴流49を有底穴50に安定して(効果的に)流入させることができる。
第1の実施の形態によれば、有底穴50は、段差面43のうちスプール39の周方向に関してノッチ46と対応する位置に設けられている。これにより、スプール39のノッチ46から噴出してスプール39の軸方向に流れるキャビテーション噴流49を有底穴50に安定して(効果的に)流入させることができる。
実施の形態によれば、有底穴50は円形穴であり、有底穴50の内径Dbはキャビテーション噴流49の直径Djの1倍以上3倍以下であり、有底穴50の深さHbは有底穴50の内径Dbの1/2(半分)よりも大きくなっている。このため、有底穴50の加工が容易であり、かつ、有底穴50内に確実に気泡溜りを形成することができる。これにより、エロージョンへの寄与度が高いノッチ46によってキャビテーションが生じる条件において、噴流衝突部(段差面43)でのエロージョンをより効果的に抑制し、しかも、製造コストを抑えつつエロージョンに対するスプール弁装置(方向制御弁31)の寿命を長くすることができる。
次に、図7は、第2の実施の形態を示している。第2の実施の形態の特徴は、有底穴を段差面および小径部の外周面にわたって設けると共に、有底穴をキャビテーション噴流の流線に対して一致ないし平行に設ける構成としたことにある。なお、第2の実施の形態では、上述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
第2の実施の形態も、第1の実施の形態と同様に、高圧側のポンプポート37から流れ込む作動油が衝突するスプール39の段差面43には、作動流体が含有する気体を気泡として溜める有底穴51が設けられている。ここで、第1の実施の形態では、有底穴50は、段差面43に設けられていた。これに対して、第2の実施の形態では、有底穴51は、段差面43および小径部42の外周面42Aにわたって設けられている。即ち、有底穴51は、段差面43および小径部42の外周面42Aに開口している。
また、有底穴51は、ノッチ46から噴出して段差面43に向かうキャビテーション噴流49の流線に対して平行になっている。即ち、有底穴51は、キャビテーション噴流49が進む方向と同方向に延びている。このために、有底穴51の中心軸は、ノッチ46から噴出するキャビテーション噴流49の流線と平行になるように、有底穴51の奥部(底部)に進む程、スプール39の中心軸線に近付く方向に傾斜している。なお、ここでの「平行」とは、完全な平行だけでなく、キャビテーション噴流49を有底穴51の奥部に安定して流入さることができる範囲で、多少のずれも含むものである。また、有底穴を、キャビテーション噴流の流線に対して一致(ないしほぼ一致)させてもよい。即ち、有底穴の中心軸線とキャビテーション噴流の流線とが同一直線上となるように一致(ないしほぼ一致)させてもよい。
第2の実施の形態は、上述のような有底穴51により作動流体が含有する気体を気泡として溜めるもので、その基本的作用については、上述した第1の実施の形態によるものと格別差異はない。特に、第2の実施の形態によれば、有底穴51は、段差面43および小径部42の外周面42Aにわたって設けられている。これにより、スプール39のノッチ46から噴出してスプール39の内径側に向けて流れるキャビテーション噴流49を、他の部分に衝突させずに有底穴51内に安定して(効果的に)流入させることができる。これに加えて、第2の実施の形態によれば、有底穴51は、ノッチ46から噴出して段差面43に向かうキャビテーション噴流49の流線に対して平行になっている。これにより、キャビテーション噴流49を有底穴51の奥部(底部)にまで安定して(効果的に)流入させると共に、有底穴51から安定して(効果的に)流出されることができる。
次に、図8ないし図11は、第3の実施の形態を示している。第3の実施の形態の特徴は、キー溝の如き有底穴を設けた構成としたことにある。なお、第3の実施の形態では、上述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
第3の実施の形態も、第1の実施の形態と同様に、高圧側のポンプポート37から流れ込む作動油が衝突するスプール39の段差面43には、作動流体が含有する気体を気泡として溜める有底穴61が設けられている。第3の実施の形態では、キー溝の如き形状の有底穴61を、スプール39の中心軸線に対して垂直に開口するようにスプール39の段差面43に設けている。図9に示すように、有底穴61の開口は、略四角形状となっている。
図10に示すように、有底穴61の底面は、湾曲した凹窪面61Aとなっている。即ち、有底穴61は、R形状の底面(凹窪面61A)を有している。ここで、有底穴61の凹窪面61Aの半径をRrとし、ノッチ46から噴出して段差面43に向かうキャビテーション噴流49の直径をDjとし、スプール39の周方向に関する有底穴61の幅寸法をWrとし、有底穴61の深さをHrとする。この場合、凹窪面61Aの半径Rrは、キャビテーション噴流49の直径Djよりも大きくなっている。即ち、下記の数4式に示すように、凹窪面61Aの半径Rrは、少なくともノッチ46で発生するキャビテーション噴流49の直径(噴流径Dj)よりも大きくなっている。換言すれば、スプール39の径方向に関する有底穴61の寸法は、段差面43でのキャビテーション噴流49の直径Dj(即ち、ノッチ46の出口部から長さL離れた位置での直径Dj)の2倍よりも大きくなっている。
また、有底穴61の幅寸法Wrは、キャビテーション噴流49の直径Djの1倍以上2倍以下となっている。即ち、有底穴61の幅寸法Wr(スプール39の周方向に関する幅寸法Wr)とキャビテーション噴流49の直径Djとの関係は、下記の数5式の関係となるように設定している。
さらに、有底穴61の深さHr(スプール39の軸方向に関する段差面43からの深さHr)は、有底穴61に流入するキャビテーション噴流49の流線と有底穴61から流出するキャビテーション噴流49の流線との成す角度が0°〜90°(0°≦なす角度≦90°)となる深さHrとなっている。これにより、有底穴61内に流入したキャビテーション噴流49を、有底穴61の凹窪面61Aの湾曲面(底面)に沿って折り返すように流すことができ、かつ、有底穴61の開口から0°ないし90°の角度を持って流出させることができる。このとき、図11に示すように、キャビテーション噴流49は、有底穴61の底面(凹窪面61A)をスムーズに流れることができ、有底穴61内に旋回流を形成することができる。旋回流は、旋回中心に比重の軽い気泡を溜めるため、有底穴61に安定した気泡溜りを形成することができる。これにより、キャビテーションの気泡が崩壊する時に生じる衝撃圧を効果的に吸収することができる。
第3の実施の形態は、上述のような有底穴61により作動流体が含有する気体を気泡として溜めるもので、その基本的作用については、上述した第1の実施の形態によるものと格別差異はない。特に、第3の実施の形態によれば、有底穴61の底面を湾曲した凹窪面61Aとしている。また、凹窪面61Aの半径Rrをキャビテーション噴流49の直径Djよりも大きくしている。また、有底穴61の幅寸法Wrをキャビテーション噴流49の直径Djの1倍以上2倍以下としている。さらに、有底穴61の深さHrを、有底穴61に流入するキャビテーション噴流49の流線と有底穴61から流出するキャビテーション噴流49の流線との成す角度が0°〜90°となるように設定している。
このため、有底穴61に流入する流れ方向と流出する流れ方向とを同一直線上からずらすことができる。これにより、有底穴61内で強い旋回流を確実に発生させることができる。そして、旋回流が生じると、この旋回流れの中心の低圧部に気泡溜りを安定して形成できる。このため、エロージョンへの寄与度が高いノッチ46によってキャビテーションが生じる条件において、噴流衝突部(段差面43)でのエロージョンをより効果的に抑制し、エロージョンに対するスプール弁装置(方向制御弁31)の寿命を長くすることができる。
次に、図12は、第4の実施の形態を示している。第4の実施の形態の特徴は、有底穴を段差面および小径部の外周面にわたって設けると共に、有底穴をキャビテーション噴流の流線に対して平行に設ける構成としたことにある。なお、第4の実施の形態では、上述した第3の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
第4の実施の形態も、第3の実施の形態と同様に、有底穴71の底面を湾曲した凹窪面71Aとしている。ここで、第3の実施の形態では、有底穴61は、段差面43に設けられていた。これに対して、第4の実施の形態では、有底穴71は、段差面43および小径部42の外周面42Aにわたって設けられている。即ち、有底穴71は、段差面43および小径部42の外周面42Aに開口している。この場合、有底穴71の深さ寸法(スプール39の軸方向に関する深さ寸法、および、スプール39の径方向に関する深さ寸法)は、有底穴71内に流入したキャビテーション噴流49が有底穴71の凹窪面71Aの湾曲面(底面)に沿って折り返すように流すことができ、かつ、有底穴71の開口から0°ないし90°の角度を持って流出させることができるように設定する。
また、有底穴71は、ノッチ46から噴出して段差面43に向かうキャビテーション噴流49の流線に対して平行になっている。即ち、有底穴71は、キャビテーション噴流49が進む方向と同方向に延びている。このために、有底穴71の中心軸は、ノッチ46から噴出するキャビテーション噴流49の流線と平行になるように、有底穴71の奥部(底部)に進む程、スプール39の中心軸線に近付く方向に傾斜している。なお、ここでの「平行」とは、完全な平行だけでなく、キャビテーション噴流49を有底穴71の奥部に安定して流入さることができる範囲で、多少のずれも含むものである。
第4の実施の形態は、上述のような有底穴71により作動流体が含有する気体を気泡として溜めるもので、その基本的作用については、上述した第3の実施の形態によるものと格別差異はない。特に、第4の実施の形態によれば、有底穴71は、段差面43および小径部42の外周面42Aにわたって設けられている。これにより、スプール39のノッチ46から噴出してスプール39の内径側に向けて流れるキャビテーション噴流49を、他の部分に衝突させずに有底穴71内に安定して(効果的に)流入させることができる。これに加えて、第4の実施の形態によれば、有底穴71は、ノッチ46から噴出して段差面43に向かうキャビテーション噴流49の流線に対して平行になっている。これにより、キャビテーション噴流49を有底穴71の奥部(底部)にまで安定して(効果的に)流入させることができる。この場合に、有底穴71に安定して旋回流を形成することができ、キャビテーション噴流49の気泡の崩壊時に生じる衝撃圧を効果的に吸収することができる。
なお、上述の第1の実施の形態では、スプール39のエッジ45に1個のノッチ46を設ける構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、スプールのエッジ(大径部と段差面との境界部)に複数個のノッチを周方向に等間隔に離間して形成してもよい。この場合、ノッチの数に合せて、段差面に有底穴を設けることができる。例えば、段差面には、複数のノッチとそれぞれ対となるように、これら各ノッチと軸方向に対面して複数の有底穴を設けることができる。このことは、第2の実施の形態、第3の実施の形態、第4の実施の形態についても同様である。
上述の第1の実施の形態では、ノッチ46の幅寸法および深さ寸法をスプール39の軸方向に関して一定の四角形状の切り欠き(ノッチ)とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、Vノッチとしてもよい。より具体的には、ノッチの幅寸法を、段差面から離れる程小さくしてもよい。また、ノッチの幅寸法を、段差面から離れる程浅くしてもよい。即ち、ノッチは、各種形状のノッチを採用することができる。そして、有底穴の位置、断面形状、内径寸法、幅寸法、深さ寸法等は、ノッチの形状に応じて形成されるキャビテーション噴流の形状(断面形状)、噴出方向に合せて設定することができる。例えば、キャビテーション噴流は、ノッチの軸方向の長さ寸法が短い程、スプールの径方向の内側に向けて噴出する傾向となる。また、ノッチの形状(例えば、Vノッチの内面の軸線方向に対する傾斜角度、周方向の幅寸法等)に応じて、キャビテーション噴流の広がりも変化する。これらを考慮して、有底穴の位置、断面形状、内径寸法、幅寸法、深さ寸法等は、ノッチから噴出するキャビテーション噴流の気泡を有底穴に溜めることができるように、例えば、計算、実験、シミュレーション等により適切に設定する。このことは、第2の実施の形態、第3の実施の形態、第4の実施の形態についても同様である。
上述の第1の実施の形態では、高圧側のポートをポンプポート37とし、このポンプポート37からアクチュエータポート38に向けて作動油が流れるときに、この作動油が衝突するスプール39の段差面43にノッチ46と対応して有底穴50を設ける構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、高圧側のポートをアクチュエータポートとし、このアクチュエータポートからタンクポートに向けて作動油が流れるときに、この作動油が衝突するスプールの段差面にノッチと対応して有底穴を設ける構成としてもよい。このことは、第2の実施の形態、第3の実施の形態、第4の実施の形態についても同様である。
各実施の形態では、スプール弁装置として、ブームシリンダ5Dに対する圧油の供給と排出を切換える方向制御弁31を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、アームシリンダ5E、バケットシリンダ5F、走行用油圧モータ、旋回用油圧モータ等に用いる方向制御弁に適用してもよい。また、これ以外にも、圧力制御弁、流量制御弁等の各種のスプール弁装置(スプール弁)に適用することもできる。
各実施の形態では、建設機械として、エンジン12により駆動されるエンジン式の油圧ショベル1を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、エンジンと電動モータとにより駆動されるハイブリッド式の油圧ショベル、電動モータにより駆動される電動式の油圧ショベルに適用することができる。また、油圧ショベルに限らず、ホイールローダ、油圧クレーン、ブルドーザ等、各種の建設機械に適用することができる。また、建設機械に限定されず、産業機械や一般機械に組み込まれるスプール弁装置として広く適用できるものである。さらに、各実施の形態は例示であり、異なる実施の形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。