本発明は、鉄骨造あるいは鉄骨鉄筋コンクリート造などで使用される露出型柱脚の定着構造において、アンカーボルト挿通用の過大孔を設けたベースプレートの下面と基礎コンクリートの上面との間に形成される空間及びベースプレートの過大孔内部へのグラウト材の充填技術と、ベースプレートの過大孔に装着してアンカーボルトの締め付けに用いる座金に関するものである。
露出型柱脚において、アンカーボルトが上端部を残して基礎コンクリートの所定位置に埋設され、鉄骨柱の下端に固着されたベースプレートは、複数本のアンカーボルトによって基礎コンクリートに定着される。具体的には、ベースプレートにアンカーボルトの挿通孔が所定位置に複数形成され、これら挿通孔にアンカーボルトを挿通し、座金を介して螺合するナットの締付けによりベースプレートを固定している。この場合、ベースプレートは基礎コンクリートの上面に設けたレベルモルタルの上に載置され、基礎コンクリートの上面とベースプレート下面との間に形成された空間及びベースプレートの過大孔内部に無収縮モルタル等のグラウト材を注入充填することにより両者の密着が図られている。
アンカーボルトは、柱脚の応力伝達の媒体として引張力、せん断力を負担すると同時に、鉄骨建て方時の位置決めに必要であることから、その設置に際しては高い精度が求められる。すなわち、水平方向の位置と垂直度がアンカーボルトにとって重要である。ところで、露出型柱脚でベースプレートに設けるアンカーボルトの挿通孔は、アンカーボルト径+5mm以内としなければならないことが建築基準法で規定されている。ただし、この規定は、構造計算等 (実験を含む)で安全が確認された場合には適用されない。そこで、アンカーボルトの施工誤差(位置ずれ)への対策として、アンカーボルト挿通孔の大きさを規定よりも拡大した過大孔に形成し、この過大孔に対して、当該過大孔の内径に合わせた外径の脚部を備える専用の座金を装着する技術が提案されている(特許文献1〜4参照)。
特開平10−213123号公報(図2,6,7参照)
特開2007−57004号公報(図8参照)
特開平7−292772号公報(図2参照)
特開平6−74227号公報(図1参照)
上記座金は、大小二枚1組の円板状の上座金(小座金)と下座金(大座金)を上下に重ね合わせた入れ子状の形態をなしたものである。上下の座金は、それぞれ座部の下面側に円形状の脚部が形成されている共通する形態をなし、いずれも座部の中心から偏心した位置において、下座金には上座金を嵌合するための孔が、また上座金にはアンカーボルトを挿通するための孔が、それぞれ座部と脚部を貫通するように設けられている。この場合、上座金の脚部が下座金の偏心孔に対して所定のクリアランスをもって嵌合され、円周方向に相対回転が可能になっている。鉄骨建て方作業において、基礎コンクリート上面に突出するアンカーボルトの位置が設計値よりずれていたときには、これら上下の座金を左右方向に回転して互いの位置関係を調整することにより、アンカーボルトを貫通させた状態で座金をベースプレートのアンカーボルト挿通孔に装着できる。さらに、この種の座金は、過大孔として形成されたベースプレートのアンカーボルト挿通孔を上下の座金の脚部でほぼ隙間なく充填する構造であるから、地震や風などによってせん断力がベースプレートに負荷されたとき、そのせん断力を座金下面の脚部を介して適正にアンカーボルトに伝えることができるという利点がある。
これら大小二枚1組で構成される入れ子状の座金(以下、入れ子座金と称することもある。)は、上座金と下座金が、いずれも略三日月状の断面をした円筒部(脚部)の上部に座部となる鍔状部分を備え、大径の下座金の内側に小径の上座金が納まっている。そして、ベースプレートの過大なアンカーボルト挿通孔に入れ子座金を装着した状態において、各部材の間に存在するクリアランスの合計が最大5mmとなるように設計されている。具体的には、上座金の偏心孔(アンカーボルト受入れ孔)とアンカーボルトとの間の間隙、上座金の脚部が納まる下座金の偏心孔(脚部受入れ孔)と上座金の脚部との間の間隙、ベースプレートのアンカーボルト挿通孔(過大孔)と下座金の脚部との間の間隙の合計が5mm以内になることである。
ところで、特許文献1に記載の座金は、ベースプレートのアンカーボルト挿通孔に嵌合する円筒状の部分(下座金の脚部)がベースプレートの板厚とほぼ同じ長さであり、下座金の偏心孔(脚部受入れ孔)に入り込む上座金の脚部も同様に形成されている。この種の入れ子座金では、上述したように各部材間での適正なクリアランスの確保が特に重要であるから、高い精度で機械加工する部分が多くなり、製造コストの上昇が避けられない。このことは、この座金を使用する露出型柱脚の施工コストにも反映され、コストアップの一因となっていた。
これに対して、特許文献2〜4に記載の座金は、下座金と上座金の脚部長がいずれもベースプレートの板厚の半分以下に形成されている。このため、前者に比べて加工する部分が減少することにより、座金自体の製造コストが低下し、このタイプの座金は、露出型柱脚のコストを削減するのに有効である。ところが、露出型柱脚の定着後において、ベースプレートのアンカーボルト挿通孔内では、座金の脚部長が短くなったことにより、その分だけ座金の下方側に空隙部分が残る。すなわち、アンカーボルト挿通孔内でアンカーボルトの周囲に空隙部分が形成されることから、ベースプレートに作用するせん断力がアンカーボルトに対して適正に伝達されず、柱脚構造の力学性能の低下につながるという問題点があった。
本発明は、上記従来技術の課題を解決するために創出されたもので、アンカーボルト挿通孔が過大孔として形成されているベースプレートにより作用する地震や風などにより作用するせん断力を適正にアンカーボルトに伝達することができ、コスト面でも改善された露出型柱脚の定着構造と、これに使用する座金の提供を目的とする。
上記課題を解決するための技術手段として、本願の請求項1に係る発明は、鉄骨柱の下端部に固着したベースプレートのアンカーボルト挿通用の過大孔に対して、座金の下面に設けた脚部が上面側から嵌入し、基礎コンクリート表面に突出するアンカーボルトを座金に挿通した状態で、アンカーボルトに螺合するナットで上方から締め付け、ベースプレートの下面側へのグラウト材の充填により鉄骨柱を基礎コンクリート上に固定する露出型柱脚の定着構造において、座金の脚部の長さをベースプレートの板厚より小さくすると共に、脚部より下方の過大孔の内部をベースプレートの下面側より入り込んだグラウト材で充填する、という構成を採用した点に特徴がある。
上記構成によれば、座金を介してアンカーボルトが挿通されるベースプレートの過大孔において、アンカーボルトが貫通している座金の脚部より下方の部分がグラウト材で充填され、アンカーボルトの周囲に実質的に空隙が生じないので、地震や風などによりベースプレートに作用するせん断力が、それら座金の脚部と下方に充填されたグラウト材とで確実(適正)にアンカーボルトに伝達されることになる。これにより、本発明の定着構造では、アンカーボルト挿通用の過大孔のクリアランスを法令に定める規定の値(5mm以内)とした場合と同等の力学性能を得ることができる。
さらに、上記請求項1の構成について、ベースプレートの板厚t、過大孔の直径D及び座金の脚部の長さFbの関係について、(t−Fb)/D>0.1とすることが好適である(請求項2)。座金は、過大孔の内部で硬化したグラウト材の強度でせん断性能が決まるため、過大孔の内部に充填され硬化しているグラウト材の状態が重要である。過大孔の内部に入り込んだグラウト材の高さは、ベースプレートの底面から座金の脚部底面までの距離であるから、ベースプレートの板厚tから座金の脚部の長さFbを引いた値となる。そして、この硬化したグラウト材の高さ(t−Fb)の過大孔の直径Dに対する比をグラウト縦横比としたとき、このグラウト縦横比が0.1以上となるような条件に設定することが好ましい。このような条件では、グラウト材の圧縮強度が十分に発揮され、座金の脚部と一体となって地震や風などによるせん断力をアンカーボルトに対して確実に伝達することができる。グラウト縦横比は、その値が大きいほどせん断性能が向上する。せん断性能を発揮する好適な条件は、グラウト縦横比が0.1以上であり、さらにグラウト縦横比が0.3以上あれば一般的な建築物の設計において十分なせん断性能を有する。
次に、請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載の露出型柱脚の定着構造で使用する座金に関するものであり、グラウト材の注入時において、ベースプレートの下方及び過大孔内部に滞留する空気を外部に逃がす空気抜き部を備えたことに特徴がある。この構成によれば、ベースプレートと基礎コンクリートとの間の空間に注入されたグラウト材は、ベースプレート下面及び過大孔内部に滞留する空気を座金の空気抜き部で外部に押し出しながらベースプレートの過大孔の内部に下面側から入り込み、アンカーボルト周囲の隙間を確実に埋めることができる。
さらに、上記請求項3の構成について、座金が、それぞれ座部と同心に脚部を形成した大小二個の上座金と下座金を備え、上座金にはアンカーボルトの外径に合わせた内径で座部と脚部を貫通するアンカーボルト受入れ孔を偏心して形成し、下座金には上座金の脚部の外径に合わせた内径で座部と脚部を貫通する脚部受入れ孔を偏心して形成すると共にその脚部の外径をベースプレートの過大孔に合わせ、下座金の脚部受入れ孔に上座金の脚部を挿入して上下に重ね合わせた入れ子座金であり、空気抜き部が、上座金の座部の上面でアンカーボルト受入れ孔から外周面に至る溝部とした構成にすることができる(請求項4)。
上記構成によれば、基礎コンクリートに下端側が埋め込まれ上端側がその上面に突出するアンカーボルトにベースプレートの過大孔を合わせて鉄骨柱脚を基礎コンクリート上に載置し、座金を介してアンカーボルトに螺合するナットで締め付ける作業において、そこで使用する座金が、上座金のアンカーボルト受入れ孔と下座金の脚部受入れ孔を座金の中心より偏心させると共に、座部の下面に脚部を設けた大小二個の座金を上下に入れ子状に重ね合わせた構造であるから、アンカーボルトの設置位置がずれていたとき、これら上下の座金を左右に回転させることで確実に過大孔に装着でき、鉄骨建て方作業が容易になる。さらに、上座金には空気抜き部となる溝部が設けられているので、ベースプレートの過大孔内に残る空気は、ベースプレート下面に注入されたグラウト材が下面側から内部に入り込むことによって外部に排出され、ベースプレートの過大孔の内部がグラウト材で確実に充填される。
また、上記請求項4の構成について、空気抜き部となる溝部を座部の最小幅の位置に設けることが好都合である(請求項5)。この場合には、座部の上面がナットや他の平座金で覆われた場合に、過大孔の内部空間から座部の外周面に至るまでの距離が最短距離となるので、確実に空気排出機能を発揮することができる。
さらに、上記請求項4の構成について、複数個の溝部を放射状に設けること(請求項6)、あるいは溝部のアンカーボルト受入れ孔側をアンカーボルト受入れ孔の上端部に形成された環状傾斜面に開口させること(請求項7)も可能であり、いずれの場合においてもグラウト材の注入時に溝部が空気排出機能を確実に発揮し、グラウト材の密実充填に大きく寄与する。
また、上記請求項3の構成について、座金が、それぞれ座部と同心に脚部を形成した大小二個の上座金と下座金を備え、上座金にはアンカーボルトの外径に合わせた内径で座部と脚部を貫通するアンカーボルト受入れ孔を偏心して形成し、下座金には上座金の脚部の外径に合わせた内径で座部と脚部を貫通する脚部受入れ孔を偏心して形成すると共にその脚部の外径をベースプレートの過大孔に合わせ、下座金の脚部受入れ孔に上座金の脚部を挿入して上下に重ね合わせた入れ子座金であり、空気抜き部が、下座金の脚部の外周面に形成した軸心方向の縦溝と、座部の下面で縦溝に連続すると共に座部の外周面に開口する径方向の横溝とした構成にすることができる(請求項8)。
さらに、上記請求項3の構成において、座金が、それぞれ座部と同心に脚部を形成した大小二個の上座金と下座金を備え、上座金にはアンカーボルトの外径に合わせた内径で座部と脚部を貫通するアンカーボルト受入れ孔を偏心して形成し、下座金には上座金の脚部の外径に合わせた内径で座部と脚部を貫通する脚部受入れ孔を偏心して形成すると共にその脚部の外径をベースプレートの過大孔に合わせ、下座金の脚部受入れ孔に上座金の脚部を挿入して上下に重ね合わせた入れ子座金と、この入れ子座金の上面側に重ねた平座金の組合せであり、空気抜き部が、平座金を周方向の1か所で分断する切欠き部とした構成にすることができる(請求項9)。これら請求項8,9に係る座金は、請求項4に係る座金と同様な空気排出機能が得られ、ベースプレートの過大孔に対するグラウト材の密実充填が可能である。
本発明は、上記構成を採用したことにより、以下のような効果を得ることができる。
(1)ベースプレートの過大孔に嵌合する座金の脚部長をベースプレートの板厚よりも短くしたことにより、精密な機械加工を行う部分がその分だけ減少するので、座金の製造コストが低減する。したがって、この座金を使用する露出型柱脚のコストも低減されることになる。
(2)アンカーボルトが挿通されているベースプレートの下面側では、グラウト材が過大孔の下端側からその内部空間に入り込むとき、座金の脚部より下側でアンカーボルト周囲の空間に滞留している空気が、座金の空気抜き部を介して容易に外部に放出されるので、グラウト材の過大孔への流入が阻害されることがなく、アンカーボルト周囲の間隙がグラウト材で確実に充填される。すなわち、ベースプレートの過大孔内におけるアンカーボルトは、アンカーボルトが貫通した状態で過大孔に嵌合する座金の円筒状の脚部と、その直下にまで入り込んで過大孔内で硬化したグラウト材とにより、実質的に隙間なく包囲されるので、地震や風などによりベースプレートに作用するせん断力が、座金の脚部とアンカーボルト周囲にあるグラウト材とでアンカーボルトに伝達され、さらに基礎コンクリートへとスムーズに伝達されるので、露出型柱脚としての所要の固定性能を得ることができる。
本発明に係る露出型柱脚の定着構造を示す斜視図である。
(a)及び(b)は、図1の定着構造で使用する入れ子座金の一方の構成部材である上座金の平面図と断面図である。
(a)〜(c)は、図1の定着構造で使用する入れ子座金の他方の構成部材である下座金の平面図、斜視図及びA−A断面図である。
過大孔の中心に位置するアンカーボルトと、図2の上座金及び図3の下座金からなる入れ子座金の嵌合状態を示す断面図である。
過大孔の中心から外れたアンカーボルトと、図2の上座金及び図3の下座金からなる入れ子座金の嵌合状態を示す断面図である。
本発明に係る露出型柱脚の定着構造の施工において、基礎コンクリート上でのレベルモルタルの設置状態を示す断面図である。
図6の次工程として、鉄骨建て方作業でのアンカーボルトの締付け状態を示す断面図である。
図7の次工程として、ベースプレートの周囲に型枠を設置した状態を示す平面図である。
図8の次工程として、グラウト材の注入方法を示す断面図である。
本発明に係る露出型柱脚の定着構造について、施工が完了した状態を示す断面図である。
図10のB−B断面図である。
アンカーボルトの締結部を拡大した断面図である。
(a)〜(c)は、空気抜き部の形態が異なる上座金の平面図、正面図及び断面図である。
(a)〜(c)は、空気抜き部を設けた下座金の平面図、正面図及びC−C断面図である。
(a)及び(b)は、空気抜き部を設けた平座金の平面図と斜視図である。
図15の平座金を使用した露出型柱脚の定着構造を示す斜視図である。
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係る露出型柱脚の定着構造について、一部のアンカーボルトの締結部を分解して外観全体を示した斜視図である。なお、本発明の特徴部分であるアンカーボルトの締結部に関しては、全体構造の説明をした後、図12を中心にして詳しく説明する。図示の露出型柱脚の定着構造は、鉄骨柱1の下端部に固着されたベースプレート2が、基礎コンクリート(図示せず)上面に突出するアンカーボルト3で固定されたものである。ベースプレート2には、適用するアンカーボルト3の呼び径(M12〜M80)に応じて、その径よりも22〜50mm程度拡大した過大孔4が四隅の位置に形成されている。そして、それぞれのアンカーボルト3は、次に詳述する入れ子座金5と平座金6の組合せからなる座金7を挿通した状態で2個のナット8,8で締結されている。
図2,3は、入れ子座金5を2個1組で構成する上座金20と下座金30をそれぞれ示したものである。図2に示した上座金20は、円板状の座部21の上面に空気抜き部となる3個の溝部22が放射状に形成され、その下面に脚部23を同心状に形成した形態をなしている。さらに、アンカーボルト3の軸径に合わせた内径のアンカーボルト受入れ孔24が、円板状の座部21に対して偏心した位置で座部21と脚部23を貫通している。図3に示す下座金30は、上座金20の座部21の外径よりも大きい円板状の座部31の下面側にベースプレート2の過大孔4の内径に合わせた外径の脚部32が座部31と同心状に形成されると共に、上座金20の脚部23の外径に合わせた内径の脚部受入れ孔33が、座部31に対して偏心した位置で座部31と脚部32を貫通している。これらの上座金20と下座金30は、下座金30の脚部受入れ孔33に上座金20の脚部23を挿入し、互いの座部21,31を上下に重ね合わせた状態で入れ子座金5として使用される。
図4,5は、アンカーボルト3とベースプレートの過大孔4と入れ子座金5との関係を示し、互いの嵌合状態を明示するためにそれぞれの脚部23,32の位置で横断した断面図である。図4において、アンカーボルト3はベースプレート2の過大孔4のほぼ中心に位置している。すなわち、設計通りにアンカーボルト3が設置されている状況であり、この場合には、上座金20と下座金30の互いの嵌合位置は限定されるが、ベースプレート2の過大孔4に対しては、この嵌合状態(相対位置)を維持する限りにおいては、周方向のどの位置であっても下座金30の脚部32を嵌入させて装着することができる。
ところが、図5のようにアンカーボルト3が過大孔4の中心から外れている場合には、ベースプレート2の過大孔4と上座金20と下座金30の位置関係が重要になり、特定の位置でないと装着することができない。具体的な装着方法としては、まず下座金30を回転することによってベースプレート2の過大孔4内にその脚部32を嵌入する。次に、アンカーボルト3の上端を上座金20のアンカーボルト受入れ孔24に挿通した状態で上座金20を回転(必要により下座金30を回転)する。これにより、上座金20が下座金30の脚部受入れ孔33内に嵌入すると同時に、アンカーボルト3の上端が上座金20のアンカーボルト受入れ孔24に対して適正に挿通された状態になる。そして、このような状態で図1に示すように、アンカーボルト3にダブルナット(シングルナットでもよい。)8,8を螺合して締め付けると、アンカーボルト3は入れ子座金5(上座金20と下座金30)によって過大孔4内で大きな隙間が生じることなく、その位置ずれも併せて吸収され、ベースプレート2を強固に固定する。
次に、本発明に係る露出型柱脚の定着構造について、図6〜11を参照しながらその施工方法を説明する。図6に示すように、アンカーフレームなどの公知の手段により、複数本のアンカーボルト3を基礎コンクリート9の所定位置に突出状態で設置し、基礎コンクリート9が硬化した後、テンプレート10を取り外し、レベルモルタル11を適宜の場所に敷設する。
これに続く鉄骨建て方作業として、図7に示すように、鉄骨柱1の下端部に固着されているベースプレート2のアンカーボルト挿通用の過大孔4にアンカーボルト3を挿入しながら、レベルモルタル11上にベースプレート2を載置し、水平方向の位置調整を行う。さらに、上記入れ子座金5を構成する上座金20と下座金30をアンカーボルト3に嵌め入れ、アンカーボルト3の位置ずれ状況に応じて適宜方向に回転し、ベースプレート2の過大孔4に対して下座金30の脚部32を嵌合する。さらに、上座金20の上面に平座金6を重ねた後、2個のナット8,8で締め付ける。
図8は、図7の鉄骨建て方作業の次工程として、ベースプレートの周囲に型枠を設置した状態を示す平面図である。ベースプレート2に対して、例えば50mmの間隔をあけて型枠12を矩形状に立設する。なお、ベースプレート2あるいは型枠12にグラウト材の注入口を設けるようにした場合には、型枠12をベースプレート2の側面に密接するように設置する。
次いで、図9に示すように、ベースプレート2の外側からグラウト注入具13で無収縮モルタル等のグラウト材Gを型枠12の上端位置までゆっくりと流し入れる。グラウト材Gは、ベースプレート2の下面と基礎コンクリート9との隙間を満たし、さらにベースプレート2の過大孔4内に入り込み、入れ子座金5の下方にある空隙を上昇する。本発明では、入れ子座金5の上座金20が、その座部21の上面に放射状に配置された3個の溝部22を有することにより、ベースプレート2の下面及び過大孔4内に滞留する空気は、上座金20のアンカーボルト受入れ孔24とアンカーボルト3の隙間から上座金20の溝部22を通過して確実に外部に排出される。このような空気抜き手段の存在により、グラウト材Gは円滑に過大孔4内に入り込んで内部空間を確実に埋めることができる
図10,11は、本発明に係る露出型柱脚の定着構造について、注入したグラウト材Gが硬化し、型枠12を外した施工完了状態を示す断面図とB−B断面図である。図に示すようにグラウト材Gは、ベースプレート2の過大孔4内で入れ子座金5の脚部下面にまで到達している。これにより、ベースプレート2の過大孔4において、アンカーボルト3の周囲の隙間がグラウト材Gで確実に充填されることになる。
図12は、アンカーボルト3の締結部を拡大した断面図である。この場合、入れ子座金5は、ベースプレート2の過大孔4の内部で硬化したグラウト材Gによってそのせん断性能が影響を受けるため、過大孔4の内部に充填されているグラウト材Gの状態、具体的には縦横の寸法比が重要である。せん断性能を発揮するには、ベースプレート4の板厚t、過大孔4の直径D、入れ子座金5の下座金30における脚部32の長さFbの関係が、(t−Fb)/D>0.1となるように設定することが好ましく、さらに一般的な建築物の設計においては0.3以上あれば十分である。なお、入れ子座金5に関しては、ベースプレート2の過大孔4に挿入される部分の長さ、すなわち下座金30における脚部32の長さFbが短くなるほど、加工面積が減少するのでコスト低減の面からは有利である。しかしながら、脚部32の長さFbをあまり短くすると、ベースプレート2の過大孔4における掛合状態が不安定になり、施工時の位置決め機能が大幅に低下する。コストと強度のバランスを考慮すると、脚部32の長さFbは、ベースプレート4の板厚tの1/4程度が好適である。
図13(a)〜(c)は、上記実施形態と同様な入れ子座金において、空気抜き部を図3とは異なる形態にした上座金の平面図、正面図及び断面図である。この場合の下座金は、図3に記載のものを使用する。図示の上座金40は、座部41の下面に同心状に脚部42が設けられる点では図2のものと共通するが、溝部43が座部41の最も幅の狭い位置に1個形成され、その溝部43がアンカーボルト受入れ孔44の上端部に形成された環状傾斜面45に開口し、これら溝部43と環状傾斜面45とにより空気抜き部が構成されたものである。
図14(a)〜(c)は、同じく上記実施形態と同様な入れ子状の座金において、空気抜き部を設けた下座金の平面図、正面図及び断面図である。図示の下座金50は、座部51の下面に同心状に脚部52が設けられる点では図3のものと共通する。この場合、空気抜き部は、下座金50の脚部52の外周面に形成した軸心方向の縦溝53と、座部51の下面で一端側が縦溝53に連続すると共に、他端側が座部51の外周面に開口する径方向の横溝54とで構成されている。空気抜き部は、脚部受入れ孔55を中心として放射状に3個設けられている。なお、これまでに説明した上座金20,40,下座金50において、溝部の大きさは幅2mm、深さ1mm以上が好ましい。また、本発明に係る露出型柱脚の定着構造において、空気抜き部が形成された入れ子座金を使用する場合には、上座金とナットとの間に平座金を設けることは必須要件ではない。
図15(a)及び(b)は、入れ子座金と併用する平座金の平面図と斜視図であり、図16はその平座金を使用した露出型柱脚の定着構造を示す斜視図である。平座金60は、円環状の座金本体61が周方向の1か所で分断された略C字状をなす形態であり、この切欠き部62が空気抜き部として機能するものである。図16に示すように平座金60は、上座金14及び下座金15のいずれにも溝部等の空気抜き手段が形成されていない通常の入れ子座金16の上面側に重ねて使用されるものである。この場合、ベースプレート2の過大孔4の内部空間に滞留している空気は、グラウト材に押されて上座金14のアンカーボルト受入れ孔14aの内周面とアンカーボルト3の外周面との間隙を通過し、平座金60の切欠き部62から外部に排出される。このような実施形態においても、入れ子座金16の直下の空間がグラウト材で充填されるので、所要の力学性能が得られる。
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、入れ子座金に空気抜き部を設ける場合には、少なくとも上下の座金のどちらか一方に形成すればよいが、両方に設けることももちろん可能である。さらに、空気抜き部の形状や数、設置場所の変更など、本発明の技術思想内でさまざまな変更実施が可能である。
本発明に係る露出型柱脚の定着構造と、これに使用する座金は、鉄骨造などの建造物に使用された場合にその優位性が発揮され、構造躯体の耐震性能、施工性、経済性を向上させる手段としてさらなる展開が期待される。
1…鉄骨柱、2…ベースプレート、3…アンカーボルト、4…過大孔、5,16…入れ子座金、6,60…平座金、7…座金、8…ナット、9…基礎コンクリート、10…テンプレート、11…レベルモルタル、12…型枠、13…グラウト注入具、14,20,40…上座金、15,30,50…下座金、21,31,41,51…座部、23,32,42,52…脚部、14a,24…アンカーボルト受入れ孔、22,43,53,54…溝部、33,55…脚部受入れ孔、G…グラウト材
本発明は、鉄骨造あるいは鉄骨鉄筋コンクリート造などで使用される露出型柱脚の定着構造において、アンカーボルト挿通用の過大孔を設けたベースプレートの下面と基礎コンクリートの上面との間に形成される空間及びベースプレートの過大孔内部へのグラウト材の充填技術と、ベースプレートの過大孔に装着してアンカーボルトの締め付けに用いる座金に関するものである。
露出型柱脚において、アンカーボルトが上端部を残して基礎コンクリートの所定位置に埋設され、鉄骨柱の下端に固着されたベースプレートは、複数本のアンカーボルトによって基礎コンクリートに定着される。具体的には、ベースプレートにアンカーボルトの挿通孔が所定位置に複数形成され、これら挿通孔にアンカーボルトを挿通し、座金を介して螺合するナットの締付けによりベースプレートを固定している。この場合、ベースプレートは基礎コンクリートの上面に設けたレベルモルタルの上に載置され、基礎コンクリートの上面とベースプレート下面との間に形成された空間及びベースプレートの過大孔内部に無収縮モルタル等のグラウト材を注入充填することにより両者の密着が図られている。
アンカーボルトは、柱脚の応力伝達の媒体として引張力、せん断力を負担すると同時に、鉄骨建て方時の位置決めに必要であることから、その設置に際しては高い精度が求められる。すなわち、水平方向の位置と垂直度がアンカーボルトにとって重要である。ところで、露出型柱脚でベースプレートに設けるアンカーボルトの挿通孔は、アンカーボルト径+5mm以内としなければならないことが建築基準法で規定されている。ただし、この規定は、構造計算等 (実験を含む)で安全が確認された場合には適用されない。そこで、アンカーボルトの施工誤差(位置ずれ)への対策として、アンカーボルト挿通孔の大きさを規定よりも拡大した過大孔に形成し、この過大孔に対して、当該過大孔の内径に合わせた外径の脚部を備える専用の座金を装着する技術が提案されている(特許文献1〜4参照)。
特開平10−213123号公報(図2,6,7参照)
特開2007−57004号公報(図8参照)
特開平7−292772号公報(図2参照)
特開平6−74227号公報(図1参照)
上記座金は、大小二枚1組の円板状の上座金(小座金)と下座金(大座金)を上下に重ね合わせた入れ子状の形態をなしたものである。上下の座金は、それぞれ座部の下面側に円形状の脚部が形成されている共通する形態をなし、いずれも座部の中心から偏心した位置において、下座金には上座金を嵌合するための孔が、また上座金にはアンカーボルトを挿通するための孔が、それぞれ座部と脚部を貫通するように設けられている。この場合、上座金の脚部が下座金の偏心孔に対して所定のクリアランスをもって嵌合され、円周方向に相対回転が可能になっている。鉄骨建て方作業において、基礎コンクリート上面に突出するアンカーボルトの位置が設計値よりずれていたときには、これら上下の座金を左右方向に回転して互いの位置関係を調整することにより、アンカーボルトを貫通させた状態で座金をベースプレートのアンカーボルト挿通孔に装着できる。さらに、この種の座金は、過大孔として形成されたベースプレートのアンカーボルト挿通孔を上下の座金の脚部でほぼ隙間なく充填する構造であるから、地震や風などによってせん断力がベースプレートに負荷されたとき、そのせん断力を座金下面の脚部を介して適正にアンカーボルトに伝えることができるという利点がある。
これら大小二枚1組で構成される入れ子状の座金(以下、入れ子座金と称することもある。)は、上座金と下座金が、いずれも略三日月状の断面をした円筒部(脚部)の上部に座部となる鍔状部分を備え、大径の下座金の内側に小径の上座金が納まっている。そして、ベースプレートの過大なアンカーボルト挿通孔に入れ子座金を装着した状態において、各部材の間に存在するクリアランスの合計が最大5mmとなるように設計されている。具体的には、上座金の偏心孔(アンカーボルト受入れ孔)とアンカーボルトとの間の間隙、上座金の脚部が納まる下座金の偏心孔(脚部受入れ孔)と上座金の脚部との間の間隙、ベースプレートのアンカーボルト挿通孔(過大孔)と下座金の脚部との間の間隙の合計が5mm以内になることである。
ところで、特許文献1に記載の座金は、ベースプレートのアンカーボルト挿通孔に嵌合する円筒状の部分(下座金の脚部)がベースプレートの板厚とほぼ同じ長さであり、下座金の偏心孔(脚部受入れ孔)に入り込む上座金の脚部も同様に形成されている。この種の入れ子座金では、上述したように各部材間での適正なクリアランスの確保が特に重要であるから、高い精度で機械加工する部分が多くなり、製造コストの上昇が避けられない。このことは、この座金を使用する露出型柱脚の施工コストにも反映され、コストアップの一因となっていた。
これに対して、特許文献2〜4に記載の座金は、下座金と上座金の脚部長がいずれもベースプレートの板厚の半分以下に形成されている。このため、前者に比べて加工する部分が減少することにより、座金自体の製造コストが低下し、このタイプの座金は、露出型柱脚のコストを削減するのに有効である。ところが、露出型柱脚の定着後において、ベースプレートのアンカーボルト挿通孔内では、座金の脚部長が短くなったことにより、その分だけ座金の下方側に空隙部分が残る。すなわち、アンカーボルト挿通孔内でアンカーボルトの周囲に空隙部分が形成されることから、ベースプレートに作用するせん断力がアンカーボルトに対して適正に伝達されず、柱脚構造の力学性能の低下につながるという問題点があった。
本発明は、上記従来技術の課題を解決するために創出されたもので、アンカーボルト挿通孔が過大孔として形成されているベースプレートにより作用する地震や風などにより作用するせん断力を適正にアンカーボルトに伝達することができ、コスト面でも改善された露出型柱脚の定着構造と、これに使用する座金の提供を目的とする。
上記課題を解決するための技術手段として、本願の請求項1に係る発明は、鉄骨柱の下端部に固着したベースプレートのアンカーボルト挿通用の過大孔に対して、座金の下面に設けた脚部が上面側から嵌入し、基礎コンクリート表面に突出するアンカーボルトを座金に挿通した状態で、アンカーボルトに螺合するナットで上方から締め付け、ベースプレートの下面側へのグラウト材の充填により鉄骨柱を基礎コンクリート上に固定する露出型柱脚の定着構造であって、前記座金が、それぞれ座部と同心に脚部を形成した大小二個の上座金と下座金で構成され、上座金にはアンカーボルトの外径に合わせた内径で座部と脚部を貫通するアンカーボルト受入れ孔を偏心して形成し、下座金には上座金の脚部の外径に合わせた内径で座部と脚部を貫通する脚部受入れ孔を偏心して形成すると共にその脚部の外径をベースプレートの過大孔に合わせ、該下座金の脚部受入れ孔に前記上座金の脚部を挿入して上下に重ね合わせた構造からなる入れ子座金と、グラウト材の注入時において、過大孔の下方から入り込んだグラウト材により押された過大孔内部の空気を外部に逃がす空気抜き部を備え、前記入れ子座金の脚部の長さが、前記ベースプレートの板厚より小さく、該脚部より下方の過大孔の内部が、該ベースプレートの下面側に侵入した前記グラウト材で充填されている、という構成を採用した点に特徴がある。
上記構成によれば、入れ子座金を介してアンカーボルトが挿通されるベースプレートの過大孔において、アンカーボルトが貫通している入れ子座金の脚部より下方の部分がグラウト材で充填され、アンカーボルトの周囲に実質的に空隙が生じないので、地震や風などによりベースプレートに作用するせん断力が、それら座金の脚部と下方に充填されたグラウト材とで確実(適正)にアンカーボルトに伝達されることになる。これにより、本発明の定着構造では、アンカーボルト挿通用の過大孔のクリアランスを法令に定める規定の値(5mm以内)とした場合と同等の力学性能を得ることができる。
さらに、上記請求項1の構成について、ベースプレートの板厚t、過大孔の直径D及び入れ子座金の脚部の長さFbの関係について、(t−Fb)/D>0.1とすることが好適である(請求項2)。入れ子座金は、過大孔の内部で硬化したグラウト材の強度でせん断性能が決まるため、過大孔の内部に充填され硬化しているグラウト材の状態が重要である。過大孔の内部に入り込んだグラウト材の高さは、ベースプレートの底面から入れ子座金の脚部底面までの距離であるから、ベースプレートの板厚tから入れ子座金の脚部の長さFbを引いた値となる。そして、この硬化したグラウト材の高さ(t−Fb)の過大孔の直径Dに対する比をグラウト縦横比としたとき、このグラウト縦横比が0.1以上となるような条件に設定することが好ましい。このような条件では、グラウト材の圧縮強度が十分に発揮され、入れ子座金の脚部と一体となって地震や風などによるせん断力をアンカーボルトに対して確実に伝達することができる。グラウト縦横比は、その値が大きいほどせん断性能が向上する。せん断性能を発揮する好適な条件は、グラウト縦横比が0.1以上であり、さらにグラウト縦横比が0.3以上あれば一般的な建築物の設計において十分なせん断性能を有する。
次に、請求項1または請求項2に記載の露出型柱脚の定着構造で使用する請求項3ないし請求項8に係る座金は、グラウト材の注入時において、いずれも過大孔内部に滞留する空気を外部に逃がす空気抜き部を備えたことに特徴がある。この構成によれば、ベースプレートと基礎コンクリートとの間の空間に注入されたグラウト材は、過大孔内部に滞留する空気を座金の空気抜き部から外部に押し出しながらベースプレートの過大孔の内部に下面側から入り込み、アンカーボルト周囲の隙間を確実に埋めることができる。
さらに、請求項3ないし請求項8に係る座金は、それぞれ座部と同心に脚部を形成した大小二個の上座金と下座金で構成され、上座金にはアンカーボルトの外径に合わせた内径で座部と脚部を貫通するアンカーボルト受入れ孔を偏心して形成し、下座金には上座金の脚部の外径に合わせた内径で座部と脚部を貫通する脚部受入れ孔を偏心して形成すると共にその脚部の外径をベースプレートの過大孔に合わせ、下座金の脚部受入れ孔に上座金の脚部を挿入して上下に重ね合わせた構造からなる入れ子座金と、グラウト材の注入時において、過大孔の下方から入り込んだグラウト材により押された過大孔内部の空気を外部に逃がす空気抜き部を備え、例えば請求項3に係る座金では、空気抜き部が、入れ子座金における上座金の座部の上面でアンカーボルト受入れ孔から外周面に至る溝部とした点に特徴がある。
上記構成によれば、基礎コンクリートに下端側が埋め込まれ上端側がその上面に突出するアンカーボルトにベースプレートの過大孔を合わせて鉄骨柱脚を基礎コンクリート上に載置し、座金を介してアンカーボルトに螺合するナットで締め付ける作業において、そこで使用する座金が、上座金のアンカーボルト受入れ孔と下座金の脚部受入れ孔を座金の中心より偏心させると共に、座部の下面に脚部を設けた大小二個の座金を上下に入れ子状に重ね合わせた構造(入れ子座金)であるから、アンカーボルトの設置位置がずれていたとき、これら上下の座金を左右に回転させることで確実に過大孔に装着でき、鉄骨建て方作業が容易になる。さらに、上座金には空気抜き部となる溝部が設けられているので、ベースプレートの過大孔内に残る空気は、ベースプレート下面に注入されたグラウト材が過大孔の下方(ベースプレート下面側)から内部に入り込むことによって上方に押され、上座金に形成された溝部(空気抜き部)を介して外部に排出される。これにより過大孔内部へのグラウト材の侵入が阻害されることはなく、ベースプレートの過大孔の内部がグラウト材で確実に充填される。
また、上記請求項3の構成について、空気抜き部となる上座金上面の溝部を座部の最小幅の位置に設けることが好都合である(請求項4)。この場合には、座部の上面がナットや入れ子座金と併用する他の平座金で覆われた場合に、過大孔の内部空間から座部の外周面に至るまでの距離が最短距離となるので、確実に空気排出機能を発揮することができる。
さらに、上記請求項3の構成について、複数個の溝部を放射状に設けること(請求項5)、あるいは溝部のアンカーボルト受入れ孔側をアンカーボルト受入れ孔の上端部に形成された環状傾斜面に開口させること(請求項6)も可能であり、いずれの場合においてもグラウト材の注入時に上座金上面の溝部が空気排出機能を確実に発揮し、グラウト材の密実充填に大きく寄与する。
また、請求項7に係る座金は、空気抜き部が、入れ子座金における下座金の脚部の外周面に形成した軸心方向の縦溝と、座部の下面で縦溝に連続すると共に座部の外周面に開口する径方向の横溝とした点に特徴がある。
さらに、請求項8に係る座金は、それぞれ座部と同心に脚部を形成した大小二個の上座金と下座金で構成され、上座金にはアンカーボルトの外径に合わせた内径で座部と脚部を貫通するアンカーボルト受入れ孔を偏心して形成し、下座金には上座金の脚部の外径に合わせた内径で座部と脚部を貫通する脚部受入れ孔を偏心して形成すると共にその脚部の外径をベースプレートの過大孔に合わせ、下座金の脚部受入れ孔に上座金の脚部を挿入して上下に重ね合わせた入れ子座金と、この入れ子座金の上面側に重ねた平座金の組合せからなり、空気抜き部が、平座金を周方向の1か所で分断する切欠き部とした点に特徴がある。これら請求項7,8に係る座金は、請求項3に係る座金と同様な空気排出機能が得られ、ベースプレートの過大孔に対するグラウト材の密実充填が可能である。
本発明は、上記構成を採用したことにより、以下のような効果を得ることができる。
(1)ベースプレートの過大孔に嵌合する入れ子座金の脚部長をベースプレートの板厚よりも短くしたことにより、精密な機械加工を行う部分がその分だけ減少するので、入れ子座金の製造コストが低減する。したがって、この入れ子座金を使用する露出型柱脚のコストも低減されることになる。
(2)アンカーボルトが挿通されているベースプレートの下面側では、グラウト材が過大孔の下方(ベースプレートの下面側)からその内部空間に入り込むとき、入れ子座金の脚部より下側でアンカーボルト周囲の空間に滞留している空気が、グラウト材の侵入によって上方に押され、座金の空気抜き部を介して容易に外部に放出されるので、グラウト材の過大孔への流入が阻害されることがなく、アンカーボルト周囲の間隙がグラウト材で確実に充填される。すなわち、ベースプレートの過大孔内におけるアンカーボルトは、アンカーボルトが貫通した状態で過大孔に嵌合する入れ子座金の円筒状の脚部と、その直下にまで入り込んで過大孔内で硬化したグラウト材とにより、実質的に隙間なく包囲されるので、地震や風などによりベースプレートに作用するせん断力が、入れ子座金の脚部とアンカーボルト周囲にあるグラウト材とでアンカーボルトに伝達され、さらに基礎コンクリートへとスムーズに伝達されるので、露出型柱脚としての所要の固定性能を得ることができる。
本発明に係る露出型柱脚の定着構造を示す斜視図である。
(a)及び(b)は、図1の定着構造で使用する入れ子座金の一方の構成部材である上座金の平面図と断面図である。
(a)〜(c)は、図1の定着構造で使用する入れ子座金の他方の構成部材である下座金の平面図、斜視図及びA−A断面図である。
過大孔の中心に位置するアンカーボルトと、図2の上座金及び図3の下座金からなる入れ子座金の嵌合状態を示す断面図である。
過大孔の中心から外れたアンカーボルトと、図2の上座金及び図3の下座金からなる入れ子座金の嵌合状態を示す断面図である。
本発明に係る露出型柱脚の定着構造の施工において、基礎コンクリート上でのレベルモルタルの設置状態を示す断面図である。
図6の次工程として、鉄骨建て方作業でのアンカーボルトの締付け状態を示す断面図である。
図7の次工程として、ベースプレートの周囲に型枠を設置した状態を示す平面図である。
図8の次工程として、グラウト材の注入方法を示す断面図である。
本発明に係る露出型柱脚の定着構造について、施工が完了した状態を示す断面図である。
図10のB−B断面図である。
アンカーボルトの締結部を拡大した断面図である。
(a)〜(c)は、入れ子座金で空気抜き部の形態が異なる上座金の平面図、正面図及び断面図である。
(a)〜(c)は、入れ子座金で空気抜き部を設けた下座金の平面図、正面図及びC−C断面図である。
(a)及び(b)は、入れ子座金と併用する空気抜き部を設けた平座金の平面図と斜視図である。
図15の平座金を使用した露出型柱脚の定着構造を示す斜視図である。
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係る露出型柱脚の定着構造について、一部のアンカーボルトの締結部を分解して外観全体を示した斜視図である。なお、本発明の特徴部分であるアンカーボルトの締結部に関しては、全体構造の説明をした後、図12を中心にして詳しく説明する。図示の露出型柱脚の定着構造は、鉄骨柱1の下端部に固着されたベースプレート2が、基礎コンクリート(図示せず)上面に突出するアンカーボルト3で固定されたものである。ベースプレート2には、適用するアンカーボルト3の呼び径(M12〜M80)に応じて、その径よりも22〜50mm程度拡大した過大孔4が四隅の位置に形成されている。そして、それぞれのアンカーボルト3は、次に詳述する入れ子座金5と平座金6の組合せからなる座金7を挿通した状態で2個のナット8,8で締結されている。
図2,3は、入れ子座金5を2個1組で構成する上座金20と下座金30をそれぞれ示したものである。図2に示した上座金20は、円板状の座部21の上面に空気抜き部となる3個の溝部22が放射状に形成され、その下面に脚部23を同心状に形成した形態をなしている。さらに、アンカーボルト3の軸径に合わせた内径のアンカーボルト受入れ孔24が、円板状の座部21に対して偏心した位置で座部21と脚部23を貫通している。図3に示す下座金30は、上座金20の座部21の外径よりも大きい円板状の座部31の下面側にベースプレート2の過大孔4の内径に合わせた外径の脚部32が座部31と同心状に形成されると共に、上座金20の脚部23の外径に合わせた内径の脚部受入れ孔33が、座部31に対して偏心した位置で座部31と脚部32を貫通している。これらの上座金20と下座金30は、下座金30の脚部受入れ孔33に上座金20の脚部23を挿入し、互いの座部21,31を上下に重ね合わせた状態で入れ子座金5として使用される。
図4,5は、アンカーボルト3とベースプレートの過大孔4と入れ子座金5との関係を示し、互いの嵌合状態を明示するためにそれぞれの脚部23,32の位置で横断した断面図である。図4において、アンカーボルト3はベースプレート2の過大孔4のほぼ中心に位置している。すなわち、設計通りにアンカーボルト3が設置されている状況であり、この場合には、上座金20と下座金30の互いの嵌合位置は限定されるが、ベースプレート2の過大孔4に対しては、この嵌合状態(相対位置)を維持する限りにおいては、周方向のどの位置であっても下座金30の脚部32を嵌入させて装着することができる。
ところが、図5のようにアンカーボルト3が過大孔4の中心から外れている場合には、ベースプレート2の過大孔4と上座金20と下座金30の位置関係が重要になり、特定の位置でないと装着することができない。具体的な装着方法としては、まず下座金30を回転することによってベースプレート2の過大孔4内にその脚部32を嵌入する。次に、アンカーボルト3の上端を上座金20のアンカーボルト受入れ孔24に挿通した状態で上座金20を回転(必要により下座金30を回転)する。これにより、上座金20が下座金30の脚部受入れ孔33内に嵌入すると同時に、アンカーボルト3の上端が上座金20のアンカーボルト受入れ孔24に対して適正に挿通された状態になる。そして、このような状態で図1に示すように、アンカーボルト3にダブルナット(シングルナットでもよい。)8,8を螺合して締め付けると、アンカーボルト3は入れ子座金5(上座金20と下座金30)によって過大孔4内で大きな隙間が生じることなく、その位置ずれも併せて吸収され、ベースプレート2を強固に固定する。
次に、本発明に係る露出型柱脚の定着構造について、図6〜11を参照しながらその施工方法を説明する。図6に示すように、アンカーフレームなどの公知の手段により、複数本のアンカーボルト3を基礎コンクリート9の所定位置に突出状態で設置し、基礎コンクリート9が硬化した後、テンプレート10を取り外し、レベルモルタル11を適宜の場所に敷設する。
これに続く鉄骨建て方作業として、図7に示すように、鉄骨柱1の下端部に固着されているベースプレート2のアンカーボルト挿通用の過大孔4にアンカーボルト3を挿入しながら、レベルモルタル11上にベースプレート2を載置し、水平方向の位置調整を行う。さらに、上記入れ子座金5を構成する上座金20と下座金30をアンカーボルト3に嵌め入れ、アンカーボルト3の位置ずれ状況に応じて適宜方向に回転し、ベースプレート2の過大孔4に対して下座金30の脚部32を嵌合する。さらに、上座金20の上面に平座金6を重ねた後、2個のナット8,8で締め付ける。
図8は、図7の鉄骨建て方作業の次工程として、ベースプレートの周囲に型枠を設置した状態を示す平面図である。ベースプレート2に対して、例えば50mmの間隔をあけて型枠12を矩形状に立設する。なお、ベースプレート2あるいは型枠12にグラウト材の注入口を設けるようにした場合には、型枠12をベースプレート2の側面に密接するように設置する。
次いで、図9に示すように、ベースプレート2の外側(周囲)からグラウト注入具13で無収縮モルタル等のグラウト材Gを型枠12の上端位置までゆっくりと流し入れる。グラウト材Gは、ベースプレート2の下面と基礎コンクリート9との隙間を満たし、さらにベースプレート2の過大孔4内に下方(ベースプレート2の下面側)から入り込み、入れ子座金5の下方に形成された空間を上昇する。本発明では、入れ子座金5の上座金20が、その座部21の上面に放射状に配置された3個の溝部22を有することにより、ベースプレート2の下面及び過大孔4内に滞留する空気は、上座金20のアンカーボルト受入れ孔24とアンカーボルト3の隙間から上座金20の溝部22を通過して確実に外部に排出される。このような空気抜き手段の存在により、グラウト材Gは円滑に過大孔4内に入り込んで内部空間を確実に埋めることができる
図10,11は、本発明に係る露出型柱脚の定着構造について、注入したグラウト材Gが硬化し、型枠12を外した施工完了状態を示す断面図とB−B断面図である。図に示すようにグラウト材Gは、ベースプレート2の過大孔4内で入れ子座金5の脚部下面にまで到達している。これにより、ベースプレート2の過大孔4において、アンカーボルト3の周囲の隙間がグラウト材Gで確実に充填されることになる。
図12は、アンカーボルト3の締結部を拡大した断面図である。この場合、入れ子座金5は、ベースプレート2の過大孔4の内部で硬化したグラウト材Gによってそのせん断性能が影響を受けるため、過大孔4の内部に充填されているグラウト材Gの状態、具体的には縦横の寸法比が重要である。せん断性能を発揮するには、ベースプレート4の板厚t、過大孔4の直径D、入れ子座金5の下座金30における脚部32の長さFbの関係が、(t−Fb)/D>0.1となるように設定することが好ましく、さらに一般的な建築物の設計においては0.3以上あれば十分である。なお、入れ子座金5に関しては、ベースプレート2の過大孔4に挿入される部分の長さ、すなわち下座金30における脚部32の長さFbが短くなるほど、加工面積が減少するのでコスト低減の面からは有利である。しかしながら、脚部32の長さFbをあまり短くすると、ベースプレート2の過大孔4における掛合状態が不安定になり、施工時の位置決め機能が大幅に低下する。コストと強度のバランスを考慮すると、脚部32の長さFbは、ベースプレート4の板厚tの1/4程度が好適である。
図13(a)〜(c)は、上記実施形態と同様な入れ子座金において、空気抜き部を図3とは異なる形態にした上座金の平面図、正面図及び断面図である。この場合の下座金は、図3に記載のものを使用する。図示の上座金40は、座部41の下面に同心状に脚部42が設けられる点では図2のものと共通するが、溝部43が座部41の最も幅の狭い位置に1個形成され、その溝部43がアンカーボルト受入れ孔44の上端部に形成された環状傾斜面45に開口し、これら溝部43と環状傾斜面45とにより空気抜き部が構成されたものである。
図14(a)〜(c)は、同じく上記実施形態と同様な入れ子状の座金において、空気抜き部を設けた下座金の平面図、正面図及び断面図である。図示の下座金50は、座部51の下面に同心状に脚部52が設けられる点では図3のものと共通する。この場合、空気抜き部は、下座金50の脚部52の外周面に形成した軸心方向の縦溝53と、座部51の下面で一端側が縦溝53に連続すると共に、他端側が座部51の外周面に開口する径方向の横溝54とで構成されている。空気抜き部は、脚部受入れ孔55を中心として放射状に3個設けられている。なお、これまでに説明した上座金20,40,下座金50において、溝部の大きさは幅2mm、深さ1mm以上が好ましい。また、本発明に係る露出型柱脚の定着構造において、空気抜き部が形成された入れ子座金を使用する場合には、上座金とナットとの間に平座金を設けることは必須要件ではない。
図15(a)及び(b)は、入れ子座金と併用する平座金の平面図と斜視図であり、図16はその平座金を使用した露出型柱脚の定着構造を示す斜視図である。平座金60は、円環状の座金本体61が周方向の1か所で分断された略C字状をなす形態であり、この切欠き部62が空気抜き部として機能するものである。図16に示すように平座金60は、上座金14及び下座金15のいずれにも溝部等の空気抜き手段が形成されていない通常の入れ子座金16の上面側に重ねて使用されるものである。この場合、ベースプレート2の過大孔4の内部空間に滞留している空気は、グラウト材に押されて上昇し、上座金14のアンカーボルト受入れ孔14aの内周面とアンカーボルト3の外周面との間隙を通過し、平座金60の切欠き部62から外部に排出される。このような実施形態においても、入れ子座金16の直下の空間がグラウト材で充填されるので、所要の力学性能が得られる。
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、入れ子座金に空気抜き部を設ける場合には、少なくとも上下の座金のどちらか一方に形成すればよいが、両方に設けることももちろん可能である。さらに、空気抜き部の形状や数、設置場所の変更など、本発明の技術思想内でさまざまな変更実施が可能である。
本発明に係る露出型柱脚の定着構造と、これに使用する座金は、鉄骨造などの建造物に使用された場合にその優位性が発揮され、構造躯体の耐震性能、施工性、経済性を向上させる手段としてさらなる展開が期待される。
1…鉄骨柱、2…ベースプレート、3…アンカーボルト、4…過大孔、5,16…入れ子座金、6,60…平座金、7…座金、8…ナット、9…基礎コンクリート、10…テンプレート、11…レベルモルタル、12…型枠、13…グラウト注入具、14,20,40…上座金、15,30,50…下座金、21,31,41,51…座部、23,32,42,52…脚部、14a,24…アンカーボルト受入れ孔、22,43,53,54…溝部、33,55…脚部受入れ孔、G…グラウト材