JP2020011924A - 難燃性化合物、その難燃性化合物で化学修飾したリグノセルロース及び木粉、並びにそれらを含有する樹脂組成物 - Google Patents

難燃性化合物、その難燃性化合物で化学修飾したリグノセルロース及び木粉、並びにそれらを含有する樹脂組成物 Download PDF

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Abstract

【課題】難燃剤の化学的な構造を改良することによって、より高い難燃性を発揮する難燃化剤等を提供する。【解決手段】次式の構造を備える難燃性化合物。[式中、R1〜R3は、H、又は難燃性元素を含有する官能基で置換されたアリール基でエステル化されたリン酸である。]【選択図】なし

Description

本発明は、難燃性化合物と、その難燃性化合物で化学修飾したリグノセルロース及び木粉と、それらを含有する樹脂組成物に関する。
物品の延焼を防ぐ目的で難燃化剤が使用される。例えば、特許文献1には熱可塑性樹脂と難燃剤とを含む難燃性樹脂組成物が記載されている。難燃化剤は、クラフトリグニンをヒドロキシメチル化し、ヒドロキシメチル化したクラフトリグニンにメラミンを導入して反応生成物を得て、その反応生成物をリン酸エステル化して得られるとされている。
特許文献2には、リグニンと、メラミンと、ホルムアルデヒドとを反応させて、メラミンで修飾されたリグニンを難燃化剤とすることが記載されている。
特許文献3には、ハロリン酸ジエステルと、メラミンの脱ハロゲン化水素反応にて生成する含窒素有機リン化合物が記載されている。
特開2014−169401号公報 特開2012−229401号公報 特開平8−12692号公報
特許文献1、特許文献2、又は特許文献3の難燃化剤は、難燃性を有するとされている。本発明者らが検討したところによれば、より高い難燃性を発揮させる余地がある。
本発明は、難燃剤の化学的な構造を改良することによって、より高い難燃性を発揮する難燃化剤を提供すると共に、その難燃化剤で化学的に修飾したリグノセルロース及び木粉、並びに当該リグノセルロース及び当該木粉を含有する合成樹脂組成物を提供することを目的とする。
以下の[化1]の構造を備える難燃性化合物によって上記の課題を解決する。
[ただし、RないしRは、同一又は異なっており、水素原子、又は以下に示す[化2]に示す官能基であり、RないしRの全てが水素原子である場合を除き、RないしRの全てが以下に示す[化2]に示す官能基である場合を除く。]
[ただし、R及びRは、同一又は異なっており、水素原子、又は難燃性元素を含有する置換基で置換されたアリール基であり、R及びRの両方が水素原子である場合を除く。]
また、上記の難燃性化合物で化学的に修飾したリグノセルロース、及び上記の難燃性化合物で化学的に修飾した木粉、並びに当該リグノセルロース及び当該木粉を含有する合成樹脂組成物によって、上記の課題を解決する。上記の難燃性化合物、リグのセルロース、木粉、または合成樹脂組成物において、アリール基は、水素原子が難燃性元素を含有する官能基で置換された構造であり、その置換数は、1〜5であることが好ましい。
本発明によれば、難燃剤の化学的な構造を改良することによって、より高い難燃性を発揮する難燃化剤を提供すると共に、その難燃化剤で化学的に修飾したリグノセルロース及び木粉、並びに当該リグノセルロース及び当該木粉を含有する合成樹脂組成物を提供することが可能である。
ポリプロピレンのみで構成した試験片と、難燃化剤で化学的に修飾したリグノセルロースを配合したポリプロピレンの試験片について、引張強度、引張弾性率、引張伸び率を比較したグラフである。 ポリプロピレンのみで構成した試験片と、難燃化剤で化学的に修飾したリグノセルロースを配合したポリプロピレンの試験片について、曲げ弾性率、曲げ強度、衝撃強度を比較したグラフである。 難燃化剤で化学的に修飾したリグノセルロースを配合したポリプロピレンをフィルム状にした状態を示す写真である。左側の写真は、自然光で観察した状態を撮影したものであり、右側の写真は、偏向(クロスニコル)で観察した状態を撮影したものである。 引張試験で作製した試験片の形状を示す平面図である。 アイゾット衝撃試験で作製した試験片の形状を示す側面図である。
以下、難燃性化合物の好適な実施形態について説明する。
難燃性化合物は、以下の[化1]の構造を備える。
上記の[化1]において、RないしRは、同一又は異なっており、水素原子、又は以下に示す[化2]に示す官能基であり、RないしRの全てが水素原子である場合を除き、RないしRの全てが以下に示す[化2]に示す官能基である場合を除く。すなわち、RないしRのうち少なくとも一つは水素原子であり、RないしRのうち少なくとも一つは以下の[化2]に示す官能基である。RないしRのうち少なくとも一つが水素原子であるということは、化1のトリアジンに少なくとも一つはアミノ基が結合しているということである。このアミノ基は、後述のように、リグノセルロースと結合する際に機能する。上記の[化1]において、RないしRは、いずれか一つが水素原子であり、残りの二つが[化2]に示す官能基であることが好ましい。
上記の[化2]において、R及びRは、同一又は異なっており、水素原子、又は難燃性元素を含有する置換基で置換されたアリール基であり、R及びRの両方が水素原子である場合を除く。すなわち、R及びRのうち少なくとも一つが難燃性元素を含有する官能基で置換されたアリール基である。R及びRのうち両方が難燃性元素を含有する官能基で置換されたアリール基であることが好ましい。
上記の難燃性元素を含有する置換基は、難燃性を示す元素を含有する置換基であればよい。そのような置換基としては、例えば、臭素若しくは塩素などのハロゲン元素、リン、窒素、ホウ素、又はケイ素など難燃性元素を含有する置換基が挙げられ、例えば、ブロモ基、クロロ基などのハロゲン基、リン酸基、ニトロ基、ニトロソ基、アジド基、ボロン酸基、トリメチルシリル基などのシリル基、又は難燃性元素を有する炭化水素基などが挙げられる。難燃性元素を有する炭化水素基は、炭素数が1〜6であるアルキル基の水素が難燃性元素で置換されたものが挙げられる。
上記の難燃性化合物において、アリール基としては、上記の難燃性を示す元素で置換可能な構造であればよく、例えば、フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、キシリル基、ナフチル基などが挙げられる。また、アリール基を有するベンジル基もこの例に含まれる。
難燃性化合物としては、例えば、N,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラ(2,4,6-トリブロモフェニル);N,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)トリ(2,4,6-トリブロモフェニル);N,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)ジ(2,4,6-トリブロモフェニル);N,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)モノ(2,4,6-トリブロモフェニル);N,N'-(2-アミノ-1,3,5-トリアジン-4,6-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラ(2,4,6-トリブロモフェニル);N,N'-(2-アミノ-1,3,5-トリアジン-4,6-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)トリ(2,4,6-トリブロモフェニル);N,N'-(2-アミノ-1,3,5-トリアジン-4,6-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)ジ(2,4,6-トリブロモフェニル);N,N'-(2-アミノ-1,3,5-トリアジン-4,6-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)モノ(2,4,6-トリブロモフェニル);N,N'-(4-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,6-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラ(2,4,6-トリブロモフェニル);N,N'-(4-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,6-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)トリ(2,4,6-トリブロモフェニル);N,N'-(4-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,6-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)ジ(2,4,6-トリブロモフェニル);N,N'-(4-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,6-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)モノ(2,4,6-トリブロモフェニル);N -(4,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-2-イル)ホスホルアミド酸ジ(2,4,6-トリブロモフェニル);N -(4,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-2-イル)ホスホルアミド酸モノ(2,4,6-トリブロモフェニル);N -(2,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-4-イル)ホスホルアミド酸ジ(2,4,6-トリブロモフェニル);N -(2,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-4-イル)ホスホルアミド酸モノ(2,4,6-トリブロモフェニル);N -(2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-6-イル)ホスホルアミド酸ジ(2,4,6-トリブロモフェニル);又はN -(2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-6-イル)ホスホルアミド酸モノ(2,4,6-トリブロモフェニル)などが挙げられる。
上記の例では、フェニル基が2,4,6-トリブロモフェニルである例を挙げた。フェニル基を、例えば、2,4-ジブロモフェニル基、2,6-ジブロモフェニル基など任意の位置の水素が臭素で置換されたものとしてもよい。また、フェニル基を、例えば、4-ブロモフェニル基、又は2-ブロモフェニル基など任意の位置の水素が臭素で置換されたものとしてもよい。また、2,4-ジクロロフェニル基、2,6-ジクロロフェニル基など任意の位置の水素が塩素などのハロゲンで置換されたものとしてもよい。また、フェニル基を、例えば、4-クロロフェニル基、又は2-クロロフェニル基など任意の位置の水素が塩素などのハロゲンで置換されたものとしてもよい。すなわち、それぞれのアリール基の水素原子が難燃性を有する官能基で置換された構造であり、その置換数は1〜5であることが好ましく、その置換数は2〜5であることがより好ましく、その置換数は2〜3であることが好ましい。
上記の難燃化剤は、例えば、プラスチックに配合することによって、プラスチックに難燃性を付与することが可能であるし、リグノセルロースを化学的に修飾してリグノセルロースに難燃性を付与することが可能であるし、木粉を化学的に修飾して木粉に難燃性を付与することも可能である。
上記の難燃化剤で化学的に修飾したリグノセルロースは、例えば、プラスチックに配合することによって、プラスチックの難燃性を向上させると共に、難燃性化合物を配合したことによるプラスチックの強度の低下を防止することができる。リグノセルロースは、ガラス繊維などに比べて、比重が小さいので、軽量な繊維強化プラスチックを得ることができる。
上記の難燃化剤で化学的に修飾した木粉は、例えば、プラスチックに配合することによって、プラスチックの補強材又は充填剤として使用し、プラスチックの難燃性を向上させると共に、難燃性化合物を配合したことによるプラスチックの強度の低下を防止することができる。木粉をプラスチックに配合することによって、プラスチックに木の風合を持たせる充填剤としても利用することが可能である。
上記の難燃化剤で化学的に修飾したリグノセルロースは、凝集性を示し、スラリーを乾燥させることで固化するため、成型物を作成する際のバインダーとして利用することも可能である。バインダーとして難燃化剤で化学的に修飾したリグノセルロースを使用することによって、難燃性を付与すると共にバインダーを配合した組成物を所望の形状に成形することが可能になる。リグノセルロースの繊維幅と繊維長は特に限定されないが、例えば、繊維幅が8〜500nm、繊維長が100μm以下であることが好ましい。繊維長の下限値は特に限定されないが、例えば、1μm以上であることが好ましい。
リグノセルロースと難燃化剤とを結合させるには、例えば、ホルムアルデヒドなどのアルデヒドとリグノセルロースと難燃化剤とを混合して反応させることができる。上記の[化1]における、トリアジンに結合しているアミノ基と、リグニンの芳香環とがメチレン基を経由して結合する。この反応は、Mannich反応として知られている。
以下、実施例を挙げて、より具体的に説明する。
[実施例1]
以下の方法により、以下の[式1]に示したN,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラ(2,4,6-トリブロモフェニル)でリグノセルロースを化学的に修飾した。
〔式1〕
100mLの丸底フラスコに、リグノセルロースの水分散液(水分量88.25質量%)モリマシナリー株式会社製、CellFiM L-45)8.59g(乾燥重量:1g)と、N,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラ(2,4,6-トリブロモフェニル)・二水和物(分子量1573.2469)130mg(0.083mmоl)と、セチルトリメチルアンモニウムブロミド54mgと、HO70mLとを加えた。この混合物を震盪しながら数分間にわたって超音波処理、次いでホルマリン1mLを加えた。混合物全体を50℃で17時間、60℃で7時間撹拌した。さらにホルマリンを0.5mL追加して、80℃で3時間にわたって攪拌した。室温になるまで放冷した後、混合物を濾過して、水、アセトン、水の順で濾物を洗浄し、反応生成物4.57gを得た。反応生成物は、77.52質量%が水分であり、残部が固形分であり、乾燥重量が1.03gの水分散スラリーである。
上記で使用したリグノセルロースは、ヒノキのチップを水に混ぜて粉砕したものであり、BET比表面積は89m/gであり、リグニンを34質量%含有し、ヘミセルロースを15質量%含有し、セルロースを47質量%含有する。
上記で使用したN,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラ(2,4,6-トリブロモフェニル)・二水和物は、以下の方法により合成した。すなわち、500mLの三口丸底フラスコに窒素雰囲気下で、ピリジン60mLと、МgCl530mg(5.6mmоl)と、POCl10.6mL(113.6mmоl)とを加えた。混合物を氷水浴(0〜4℃)で冷却し、これに2,4,6-トリブロモフェノール76.6g(231.6mmоl)をテトラヒドロフラン65mLに溶かした溶液を80分間かけて滴下した。混合物をゆっくりと室温まで温め、一晩撹拌した。次いで50℃で26時間加熱した。得られた混合物をピリジン70mLで希釈し、これを氷水浴で冷却し、続いてメラミン13.66g(108.3mmоl)を加えた。得られた混合物を室温まで温めて、一晩撹拌し、次いで57〜60℃で24時間にわたって加熱した。
上記の全ての反応混合物はトルエン100mLを用いて一首丸底フラスコに移して、大部分の溶媒をロータリーエバポレーターで気化させた。残った固形物はトルエン100mLを加えて残留するピリジンを共気化させる工程を2回行った。残留した固形物は熱水700mLを加えて、得られた懸濁液を油浴(約100℃)で加熱し、熱いうちに濾過し、さらに熱水で洗浄した。得られた固体を高真空下90℃で乾燥して、粗生成物89.54gを得た。
上記の粗生成物をメタノール300mLと酢酸エチル10mLの混合溶液に懸濁して、3時間加熱還流した。室温に冷却した後、固体を濾過してメタノールで洗浄し、真空下90℃で乾燥させて、N,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラ(2,4,6-トリブロモフェニル)・二水和物を83.42g(53.02mmоl)得た。収率は、2,4,6-トリブロモフェノール基準で、22.9%である。その純度は、H NMR分析により約97%であった。
実施例1の反応に用いたN,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラ(2,4,6-トリブロモフェニル)・二水和物について、有機微量元素分析装置(PerkinElmer 2400II)による元素分析を行い以下の結果を得た(単位は、いずれも質量%)。C27H12Br12N6O6P2・2H2Oとして、
計算値:C:20.61、H:1.03、N:5.34、
実測値:C:20.72、H:0.92、N:5.59であった。
[実施例2]
N,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラ(2,4,6-トリブロモフェニル)・二水和物の使用量を250mgに変更した以外は、実施例1と同様にして反応生成物を得た。
[実施例3]
N,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラ(2,4,6-トリブロモフェニル)・二水和物の使用量を505mgに変更した以外は、実施例1と同様にして反応生成物を得た。
[実施例4]
N,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラ(2,4,6-トリブロモフェニル)・二水和物の使用量を753mgに変更した以外は、実施例1と同様にして反応生成物を得た。
実施例4の反応生成物について、有機微量元素分析装置(PerkinElmer 2400II)による元素分析を行ったところ、C:38.7質量%、H:4.14質量%、N:2.46質量%であった。
[実施例5]
N,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラ(2,4,6-トリブロモフェニル)・二水和物の使用量を998mgに変更した以外は、実施例1と同様にして反応生成物を得た。
[実施例6]
N,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラ(2,4,6-トリブロモフェニル)・二水和物の使用量を1.24gに変更した以外は、実施例1と同様にして反応生成物を得た。
[比較例1]
比較のために、リグノセルロースの水分散液(モリマシナリー株式会社製、CellFiM L-45)そのものを加熱により乾燥し、乾燥させたものを型枠に詰めてさらに加熱により乾燥させて、長さが80〜150mm、幅が10±0.5mm、厚さが4±0.25mmのI型の試験片を作製して、これを比較例1とした。
[難燃性の評価]
上記の実施例1ないし実施例6及び比較例1の試験片について、JIS K 7201に規定される酸素指数による燃焼性の試験を行った。試験片は、上記の実施例1ないし実施例6の方法で化学的に修飾したリグノセルロースをそれぞれ用いて複数の試験片を作製した。試験片の作成は、実施例1ないし実施例6の方法で化学的に修飾したスラリー状のリグノセルロースを加熱により乾燥し、乾燥させたものを型枠に詰めてさらに乾燥させて、長さが80〜150mm、幅が10±0.5mm、厚さが4±0.25mmのI型の試験片を作製した。点火方法はA法を採用した。酸素指数は以下の式によって求めた。
酸素指数(OI)=Cf+Kd
なお、Cfは酸素濃度の最終値(%)(体積分率)を示し、d=0.5、kはJIS K 7201の表4から得られる係数を示す。
上記の方法により求めた酸素指数を以下の表1に示す。表1には、リグノセルロースとN,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラ(2,4,6-トリブロモフェニル)・二水和物との反応における、リグノセルロース1g(乾燥重量)当たりのN,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラ(2,4,6-トリブロモフェニル)・二水和物の分子数(mmоl/g)と、各試験片の臭素の含有量(質量%)を示す。臭素の含有量は、JIS K 7229(フラスコ燃焼法)により求めた。臭素の含有量は、資料をフラスコに入れて酸素雰囲気下で燃焼後発生した臭化水素を水に溶解させて、中和滴定によって臭素量を求めた(以下のフラスコ燃焼法の試験においても同様である。)。なお、難燃性化合物の分子数(mmоl/g)は、小数点第2位を四捨五入して示した。
[実施例7]
以下の方法により、以下の[式2]に示したN -(4,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-2-イル)ホスホルアミド酸ジ(4-ブロモフェニル)でリグノセルロースを化学的に修飾した。
〔式2〕
100mLの丸底フラスコに、リグノセルロースの水分散液(水分量91.15質量%)(モリマシナリー株式会社製、CellFiM L-45)11.48g(乾燥重量:1g)と、N -(4,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-2-イル)ホスホルアミド酸ジ(4-ブロモフェニル)・二水和物(分子量552.11)145mg(0.26mmоl)と、セチルトリメチルアンモニウムブロミド35mgと、HO70mLとを加えた。この混合物を震盪しながら数分間にわたって超音波処理、次いでホルマリン1mLを加えた。混合物全体を50℃で12時間、70℃で一晩撹拌した。さらに80℃で3時間にわたって攪拌した。室温になるまで放冷した後、混合物を濾過して、水、アセトン、水の順で濾物を洗浄して、反応生成物4.12gを得た。反応生成物は、77.01質量%が水分であり、残部が固形分であり、乾燥重量が0.95gの水分散スラリーである。
上記で使用したN -(4,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-2-イル)ホスホルアミド酸ジ(4-ブロモフェニル)は、以下の方法により合成した。すなわち、4-ブロモフェノール39.15g(226mmоl)のテトラヒドロフラン溶液50mLを、POCl11mL(118mmоl)とピリジン28mLとテトラヒドロフラン50mLの混合物に対して、0〜4℃に冷却しながら60分かけて滴下した。混合物をゆっくりと室温まで温め、一晩撹拌した。次いで38℃で3時間加熱した。得られた混合物は、ピリジン12mL、テトラヒドロフラン80mL、メラミン21.5g(170mmоl)を含有する懸濁液に対して滴下した。滴下に際して、懸濁液は0〜4℃に冷却した。反応容器に残る白色沈殿物は、テトラヒドロフラン50mLを用いて移した。得られた白色懸濁液は室温で一晩、40℃で3時間撹拌した。全ての反応混合物は、トルエン100mLを用いて一首丸底フラスコに移して、大部分の溶媒をロータリーエバポレーターで気化させた。残った固形物にトルエン50mLを加えて残留するピリジンを共気化させる工程を2回行った。残留した固形物は、熱水で洗浄し、濾過してN -(4,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-2-イル)ホスホルアミド酸ジ(4-ブロモフェニル)・二水和物54.82gを得た。4-ブロモフェノールに基づく収率は41%であり、純度は94%である。本品は、少量(約6%)のトリ(4-ブロモフェニル)リン酸エステルを含む。この粗生成物は、加熱したメタノール500mLで洗浄し、濾過することにより、純粋なN -(4,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-2-イル)ホスホルアミド酸ジ(4-ブロモフェニル)・二水和物が36.46g、4-ブロモフェノールに基づく収率29%で得られた。H NMR分析による純度は、96%であった。
実施例7の反応に用いたN -(4,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-2-イル)ホスホルアミド酸ジ(4-ブロモフェニル)・二水和物について、有機微量元素分析装置(PerkinElmer 2400II)による元素分析を行い以下の結果を得た(単位は、いずれも質量%。C15H13Br2N6O3P・2H2Oとして、
計算値 C:32.63、H:3.10、N:15.22、
実測値 C:32.86、H:2.73、N:15.50であった。
[実施例8]
N -(4,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-2-イル)ホスホルアミド酸ジ(4-ブロモフェニル)・二水和物の使用量を274mgに変更した以外は、実施例7と同様にして反応生成物を得た。
[実施例9]
N -(4,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-2-イル)ホスホルアミド酸ジ(4-ブロモフェニル)・二水和物の使用量を460mgに変更した以外は、実施例7と同様にして反応生成物を得た。
[実施例10]
N -(4,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-2-イル)ホスホルアミド酸ジ(4-ブロモフェニル)・二水和物の使用量を634mgに変更した以外は、実施例7と同様にして反応生成物を得た。
実施例10の反応生成物について、有機微量元素分析装置(PerkinElmer 2400II)による元素分析を行ったところ、C:46.44、H:5.73、N:4.17であった(単位は、いずれも質量%)。
[実施例11]
N -(4,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-2-イル)ホスホルアミド酸ジ(4-ブロモフェニル)・二水和物の使用量を829mgに変更した以外は、実施例7と同様にして反応生成物を得た。
[難燃性の評価]
上記の実施例7ないし実施例11の方法で化学的に修飾したリグノセルロースをそれぞれ用いて複数の試験片を作製した。この試験片を使用して、上記と同様の方法によって、難燃性の評価を行った。試験片の寸法も上記と同様にした。各試験片について求めた酸素指数、各試験片の臭素の含有率、リグノセルロースとN -(4,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-2-イル)ホスホルアミド酸ジ(4-ブロモフェニル)・二水和物との反応において、リグノセルロース1g(乾燥重量)当たりのビス(4-ブロモフェニル)(4,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-2-イル)ホスホロアミダートの分子数(mmоl/g)を以下の表2に示す。なお、難燃性化合物の分子数(mmоl/g)は、小数点第3位を四捨五入して示した。
[実施例12]
以下の方法により、以下の[式3]に示したN -(4,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-2-イル)ホスホルアミド酸ジ(2,4-ジブロモフェニル)でリグノセルロースを化学的に修飾した。
[式3]
100mLの丸底フラスコに、リグノセルロースの水分散液(水分量91.15質量%)(モリマシナリー株式会社製、CellFiM L-45)11.39g(乾燥重量:1g)と、N -(4,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-2-イル)ホスホルアミド酸ジ(2,4-ジブロモフェニル)・二水和物(分子量709.9066)430mg(0.6mmоl)と、セチルトリメチルアンモニウムブロミド45mgと、HO70mLとを加えた。この混合物を震盪しながら数分間にわたって超音波処理、次いでホルマリン1mLを加えた。混合物全体を50℃で3時間、70℃で一晩、さらに80℃で2時間にわたって攪拌した。室温になるまで放冷した後、混合物を濾過して、水、アセトン、水の順で濾物を洗浄して、反応生成物5.02gを得た。反応生成物は、8.53質量%が水分であり、残部が固形分であり、乾燥重量が1.07gの水分散スラリーである。
実施例12の反応生成物について、有機微量元素分析装置(PerkinElmer 2400II)による元素分析を行ったところ、C:38.7、H:4.14、N:2.46であった(単位は、いずれも質量%)。
上記で使用したN -(4,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-2-イル)ホスホルアミド酸ジ(2,4-ジブロモフェニル)は、以下の方法により合成した。すなわち、2,4-ジブロモフェノール25.3g(100.4mmоl)のテトラヒドロフラン溶液25mLを、POCl5.0mL(53.5mmоl)とピリジン15mLとテトラヒドロフラン50mLの混合物に対して、0〜4℃に冷却しながら40分をかけて加えた。混合物を室温で一晩撹拌した。次いで37℃で5時間加熱した。得られた白色懸濁液を、ピリジン5mL(62mmоl)とテトラヒドロフラン50mLとメラミン9.45g(74.9mmоl)との0〜4℃で冷却した混合物に移した。反応容器に残る白色沈殿物は、テトラヒドロフラン50mLを用いて加えた。得られた混合物を室温まで温めて一晩攪拌し、次いで40℃で一晩加熱した。全ての反応混合物をトルエン50mLを用いて一首丸底フラスコに移して、大部分の溶媒をロータリーエバポレーターで気化させた。残った固形物にトルエン20mLを加えて残留するピリジンを共気化させる工程を2回行った。残留した固形物は、熱水で濾過して固形物と分けて、少量のトリス(2,4-ジブロモフェニル)リン酸エステル(約5%)が混じる生成物N -(4,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-2-イル)ホスホルアミド酸ジ(2,4-ジブロモフェニル)・二水和物29.3gを得た。2,4-ジブロモフェノールに基づく収率は39%であった。
実施例12の反応に用いたN -(4,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-2-イル)ホスホルアミド酸ジ(2,4-ジブロモフェニル)について、有機微量元素分析装置(PerkinElmer 2400II)による元素分析を行い以下の結果を得た(単位は、いずれも質量%)。C15H11Br4N6O3P・2H2Oとして、
計算値:C:25.38、H:2.23、N:11.84、
実測値:C:25.38、H:2.21、N:12.01であった。
[実施例13]
N -(4,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-2-イル)ホスホルアミド酸ジ(2,4-ジブロモフェニル)・二水和物の使用量を645mgに変更した以外は、実施例12と同様にして反応生成物を得た。
[実施例14]
N -(4,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-2-イル)ホスホルアミド酸ジ(2,4-ジブロモフェニル)・二水和物の使用量を856mgに変更した以外は、実施例12と同様にして反応生成物を得た。
[難燃性の評価]
上記の実施例12ないし実施例14の方法で化学的に修飾したリグノセルロースをそれぞれ用いて複数の試験片を作製した。この試験片を使用して、上記と同様の方法によって、難燃性の評価を行った。試験片の寸法も上記と同様にした。各試験片について求めた酸素指数、N -(4,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-2-イル)ホスホルアミド酸ジ(2,4-ジブロモフェニル)・二水和物との反応における、リグノセルロース1g(乾燥重量)当たりのN -(4,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-2-イル)ホスホルアミド酸ジ(2,4-ジブロモフェニル)・二水和物の分子数(mmоl/g)を以下の表3に示す。なお、難燃性化合物の分子数(mmоl/g)は、小数点第3位を四捨五入して示した。
[比較例2]
以下の方法により、以下の[式4]に示したN,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラフェニルでリグノセルロースを化学的に修飾した。
〔式4〕
2Lの丸底フラスコに、リグノセルロースの水分散液(水分量94.75質量%)(モリマシナリー株式会社製、CellFiM L-45)248g(乾燥重量:13g)と、N,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラフェニル・二水和物(分子量626.49)7.62g(12.16mmоl)と、セチルトリメチルアンモニウムブロミド257mgと、HO1.2Lとを加えた。この混合物を震盪しながら数分間にわたって超音波処理し、次いでホルマリン16mLを加えた。混合物全体を74℃で29時間撹拌した。さらにホルマリンを2mL追加して、80℃で3時間にわたって攪拌した。室温になるまで放冷した後、混合物を濾過して、水、アセトン、水の順で濾物を洗浄した。反応生成物91.83gは、78.44質量%が水分であり、残部が固形分であり、乾燥重量が19.8gの水分散スラリーである。
比較例2の反応生成物について、有機微量元素分析装置(PerkinElmer 2400II)による元素分析を行ったところ、C:49.47、H:6.02、N:2.63であった(数値は、いずれも質量%)。
上記で使用したN,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラフェニルは、以下の方法により合成した。すなわち、ピリジン800mLにメラミン63g(500mmоl)を懸濁し、この懸濁液に0〜4℃浴で冷却しながらクロロリン酸ジフェニル297g(1.1mоl)を60分かけて滴下した。反応混合物は、室温で3時間撹拌し、60℃で1日撹拌した。混合物の全てをトルエン300mLを用いて一口丸底フラスコに移して、大部分の溶媒をロータリーエバポレーターで除去した。残留固形物に熱水500mLを加えて、得られた懸濁液を90℃の油浴で加熱し、熱いうちに濾過し、固体を熱水で洗浄した。ブフナー漏斗上の固体を高真空下100℃で乾燥して、N,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラフェニル・二水和物の粗生成物238gを得た。収率は76%であった。
[比較例3]
N,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラフェニル・二水和物の使用量を11.52gに変更した以外は、比較例2と同様にして反応生成物を得た。
[比較例4]
N,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラフェニル・二水和物の使用量を17.5gに変更した以外は、比較例2と同様にして反応生成物を得た。
[比較例5]
N,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラフェニル・二水和物の使用量を23.22gに変更した以外は、比較例2と同様にして反応生成物を得た。
[難燃性の評価]
上記の比較例2ないし比較例4の方法で化学的に修飾したリグノセルロースをそれぞれ用いて複数の試験片を作製した。この試験片を使用して、上記と同様の方法によって、難燃性の評価を行った。試験片の寸法も上記と同様にした。各試験片について求めた酸素指数、各試験片のリンの含有率(ICP-OES測定装置「VARIAN720-ES」)、N,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラフェニル・二水和物との反応における、リグノセルロース1g(乾燥重量)当たりのN,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラフェニル・二水和物の分子数(mmоl/g)を以下の表4に示す。なお、難燃性化合物の分子数(mmоl/g)は、小数点第3位を四捨五入して示した。
[比較例6]
以下の方法により、以下の[式5]に示したN -(4,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-2-イル)ホスホルアミド酸ジフェニルでリグノセルロースを化学的に修飾した。
〔式5〕
1Lの丸底フラスコに、リグノセルロースの水分散液(水分量94.75質量%)(モリマシナリー株式会社製、CellFiM L-45)126g(乾燥重量:6.5g)と、N -(4,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-2-イル)ホスホルアミド酸ジフェニル・二水和物(分子量392.32)2.23g(5.68mmоl)と、セチルトリメチルアンモニウムブロミド170mgと、HO700mLとを加えた。この混合物を震盪しながら数分間にわたって超音波処理、次いでホルマリン12mLを加えた。混合物全体を75℃で22時間にわたって攪拌した。さらにホルマリンを1mL追加して、80℃で3時間攪拌した。室温になるまで放冷した後、混合物を濾過して、水、アセトン、水の順で濾物を洗浄し反応生成物34.1gを得た。反応生成物は、78.01質量%が水分であり、残部が固形分であり、乾燥重量が7.5gの水分散スラリーである。
比較例6の反応生成物について、有機微量元素分析装置(PerkinElmer 2400II)による元素分析を行ったところ、C:48.46、H:6.53、N:3.37であった(単位は、いずれも質量%)。
上記で使用したN -(4,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-2-イル)ホスホルアミド酸ジフェニルは、以下の方法により合成した。すなわち、テトラヒドロフラン100mLに対してクロロリン酸ジフェニル59.7g(222.2mоl)を加えた溶液を、メラミン25.1g(200mmоl)とピリジン20mLとテトラヒドロフラン600mLの混合物に対して、0〜4℃に冷やしながら、30分かけて加えた。室温で24時間撹拌し、55〜60℃で3日間撹拌し、冷水1Lを加えた。沈殿した固体を濾過し、熱水500mLで洗浄し、真空下70〜100℃で乾燥させてN -(4,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-2-イル)ホスホルアミド酸ジフェニル・二水和物を23g得た。収率は29%であった。
[比較例7]
N -(4,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-2-イル)ホスホルアミド酸ジフェニル・二水和物の使用量を3.23gに変更した以外は、比較例6と同様にして反応生成物を得た。
[比較例8]
N -(4,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-2-イル)ホスホルアミド酸ジフェニル・二水和物の使用量を4.31gに変更した以外は、比較例6と同様にして反応生成物を得た。
[難燃性の評価]
上記の比較例6ないし比較例8の方法で化学的に修飾したリグノセルロースをそれぞれ用いて複数の試験片を作製した。この試験片を使用して、上記と同様の方法によって、難燃性の評価を行った。試験片の寸法も上記と同様にした。各試験片について求めた酸素指数、各試験片のリンの含有率、リグノセルロースとN -(4,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-2-イル)ホスホルアミド酸ジフェニル・二水和物との反応において、リグノセルロース1g(乾燥重量)当たりのN -(4,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-2-イル)ホスホルアミド酸ジフェニル・二水和物の分子数(mmоl/g)を以下の表5に示す。なお、難燃性化合物の分子数(mmоl/g)は、小数点第3位を四捨五入して示した。
[比較例9]
以下の方法により、以下の[式6]に示したN,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラシクロヘキシルでリグノセルロースを化学的に修飾した。
〔式6〕
100mLの丸底フラスコに、リグノセルロースの水分散液(水分量88.25質量%)(モリマシナリー株式会社製、CellFiM L-45)8.64g(乾燥重量:1g)と、N,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラシクロヘキシル・二水和物(分子量650.6847)580mg(0.89mmоl)と、セチルトリメチルアンモニウムブロミド41mgと、HO70mLとを加えた。この混合物を震盪しながら数分間にわたって超音波処理、次いでホルマリン1mLを加えた。混合物全体を40℃で24時間、70℃で6時間にわたって攪拌した。室温になるまで放冷した後、混合物を濾過して、水、アセトン、水の順で濾物を洗浄した。得られた固体を真空乾燥下90℃で乾燥させて、反応生成物6.78gを得た。反応生成物は、81.48質量%が水分であり、残部が固形分であり、乾燥重量が1.32gの水分散スラリーである。
実施例6の反応生成物について、有機微量元素分析装置(PerkinElmer 2400II)による元素分析を行ったところ、C:49.40、H:6.63、N:0.96であった(単位はいずれも質量%)。
上記で使用したN,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラシクロヘキシルは、以下の方法により合成した。すなわち、シクロヘキサノール10.6g、(105.8mmol)とテトラヒドロフラン30mLとの混合溶液を、窒素雰囲気下で、ピリジン15mL,(186mmоl)とPOCl4.9mL,(52.6mmоl)の混合物に対して、0〜4℃浴で冷やしながら45分間かけて滴下した。混合物を室温まで温めて、2時間撹拌した。この混合物を、メラミン3.31g(26.2mmоl)とピリジン6mLとテトラヒドロフラン50mLとの懸濁液に、0〜4℃に冷却しながら加えた。得られた混合物を室温に温めで、一晩撹拌した。混合物を濃縮して、トルエンと共蒸発させて残留ピリジンを除いて、残渣を熱水に懸濁させた。沈殿したペースト状の固体をデカンテーションにより分離し、残ったペースト状の固体を水200mLで2回洗浄し、80℃かつ真空下で乾燥させてペースト状の固体11.4gを得た。収率は、シクロヘキサノールを基準として18.5%であった。
[比較例10]
N,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラシクロヘキシル・二水和物の使用量を893mgに変更した以外は、比較例9と同様にして反応生成物を得た。
[難燃性の評価]
上記の比較例9及び比較例10の方法で化学的に修飾したリグノセルロースをそれぞれ用いて複数の試験片を作製した。この試験片を使用して、上記と同様の方法によって、難燃性の評価を行った。試験片の寸法も上記と同様にした。各試験片について求めた酸素指数、N,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラシクロヘキシル・二水和物との反応にける、リグノセルロース1g(乾燥重量)当たりのN,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラシクロヘキシル・二水和物の分子数(mmоl/g)を以下の表6に示す。なお、難燃性化合物の分子数(mmоl/g)は、小数点第3位を四捨五入して示した。
[比較例11]
以下の方法により、以下の[式7]に示したメラミン(2,4,6-トリアミノ-1,3,5-トリアジン)でリグノセルロースを化学的に修飾した。
〔式7〕
100mLの丸底フラスコに、リグノセルロースの水分散液(水分量88.25質量%)(モリマシナリー株式会社製、CellFiM L-45)8.53g(乾燥重量1g)と、メラミン(2,4,6-トリアミノ-1,3,5-トリアジン)(分子量126.12)151mg(1.2mmоl)と、セチルトリメチルアンモニウムブロミド36mgと、HO70mLとを加えた。この混合物を震盪しながら数分間にわたって超音波処理、次いでホルマリン1mLを加えた。混合物全体を55℃で22時間撹拌した。室温になるまで放冷した後、混合物を濾過して、水、アセトン、水の順で濾物を洗浄し、反応生成物6.649gを得た。反応生成物は、83.71質量%が水分であり、残部が固形分であり、乾燥重量が1.08gの水分散スラリーである。
比較例11の生成物について、有機微量元素分析装置(PerkinElmer 2400II)による、元素分析を行ったところ、C:48.49、H:6.34、N:3.24であった(単位はいずれも質量%)。
上記で使用したメラミン(2,4,6-トリアミノ-1,3,5-トリアジン)は、東京化成工業からの市販品をそのまま用いた。
[難燃性の評価]
上記の比較例11の方法で化学的に修飾したリグノセルロースを用いて試験片を作製した。この試験片を使用して、上記と同様の方法によって、難燃性の評価を行った。試験片の寸法も上記と同様にした。比較例11の試験片について求めた酸素指数は21.0であり、リグノセルロースとメラミン(2,4,6-トリアミノ-1,3,5-トリアジン)との反応における、リグノセルロース1g(乾燥重量)当たりのメラミン(2,4,6-トリアミノ-1,3,5-トリアジン)の分子数(mmоl/g)は、1.2mmоl/gであった。
[物性評価]
次に、難燃化剤で化学的に修飾したリグノセルロースをプラスチックに配合した場合における、プラスチックの物性の変化について検討した。
2Lのセパラブルフラスコに、リグノセルロース(モリマシナリー製CellFiM L-45、乾燥重量で21.28g)、N,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラ(2,4,6-トリブロモフェニル)・二水和物(分子量1573.2469)(21.22g、13.5mmol)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(200mg)を取り、これにHO(1300mL)を注入した。この混合物をゆすりながら数分間超音波処理し、次いでホルマリン(21mL)を加えた。混合物全体を50℃から70℃までゆっくり昇温しながら30時間撹拌した。反応後に室温まで放冷した後、混合物を吸引ろ過し、水、アセトン、水の順で洗浄した。得られた反応物をt−ブチルアルコールで複数回置換した後、凍結乾燥を行って粉末状の難燃化リグノセルロースを調製した。
凍結乾燥した難燃化リグノセルロースと粉末状のポリプロピレン(日本ポリプロ製ノバテックMA3)とを10:90となるように混ぜ合わせ、エクストリームミル(WARING製MX-1100XTS)を用いてブレンドした。この混合物をニーダー(東洋精機製ラボプラストミル用ローラミキサR60)によって固相せん断処理を行った。次いで、回収した混合物の全量に対してマレイン酸変性ポリプロピレン(化薬アクゾ製カヤブリッド002PP)を10%添加し、十分に撹拌を行ってから二軸押出混練機(東洋精機製2D15W)を用いて溶融混練を行った。得られたストランドをペレタイザーでペレット化し、射出成形機(Rambaldi製Babyplast 6/10P)を用いて強度試験用の試験片を作製した。試験片は室温下で1週間静置し、十分に結晶化させてから以下の物性の評価試験に使用した。比較のために、ポリプロピレン(日本ポリプロ製ノバテックMA3)のみで試験片を作製して、物性の評価試験に使用した。
物性の評価試験は、引張強度、引張弾性率、引張伸び率、曲げ弾性率、曲げ強度、アイゾッド衝撃強度について行った。アイゾット衝撃試験以外の各物性の測定は株式会社島津製作所製の試験機(AGS-5kNG)を使用した。またアイゾッド衝撃強度の測定は安田精機製作所製の試験機(No.258-D)を使用した。図1に引張強度、引張弾性率及び引張伸び率についての結果を示し、図2に曲げ弾性率、曲げ強度及び衝撃強度についての結果を示す。図1において、「PPのみ」と記載したものはポリプロピレンのみで試験片を構成した試験片における各物性を示し、「PP+5%難燃性リグノセルロース」と記載したものは上記の難燃化剤で化学的に修飾したリグノセルロースを配合したポリプロピレンの試験片における各物性を示す(図2においても同様とする。)。
引張強度、引張弾性率、及び引張伸び率については、図4に示す試験片を使用して、以下の条件で引張試験を行った。
試験片の長さL1:59mm、試験片の長さL2:30mm、引張試験機のつかみ部の幅W2:8mm、試験片の幅W1:3.9mm、試験片の厚み:2mm、試験速度:5mm/分
曲げ弾性率、及び曲げ強度については、図5に示す試験片を、ノッチがなくなる形状に変更して使用した。試験片は、射出成型により成形した。試験条件は、条件を以下のようにして、JIS K7171の方法に準拠して行った。
試験片の長さL:80mm、試験片の幅h9.62mm、試験片の厚さb:3.91mm、下部の支点間の距離:50mm、試験速度5mm/分
アイゾット衝撃強度については、図5に示す試験片を使用して、以下の条件で試験を行った。
試験片の長さL:80mm、幅b:4mm、厚さh:10mm、残り幅h:8mm
図1より、引張試験の結果、ポリプロピレン樹脂と難燃化リグノセルロースナノファイバーを混合したポリプロピレン樹脂とを比較したところ、前者に比べて後者では、弾性率は1.1倍に向上した。また、前者に比べて後者は、伸び率は約1/2に低下し、400%程度であった。このことから、難燃化リグノセルロースナノファイバーを配合すると、引っ張りに対して、プラスチックが伸びにくくなることが分かった。また、引張強度に関しては、前者と後者との間で強度にほとんど変化が見られなかった。プラスチックに難燃化剤を配合すると、強度が低下することが一般的であるところ、難燃化リグノセルロースナノファイバーをプラスチックに配合すれば、少なくとも引張強度が維持されることがわかった。
図2より、曲げ試験及び衝撃試験の結果、ポリプロピレン樹脂と難燃化リグノセルロースナノファイバーを混合したポリプロピレン樹脂とを比較したところ、以下のことが分かった。すなわち、後者では前者に比べて、曲げ弾性率が1.2倍に向上し、曲げ強度が1.1倍に向上し、衝撃強度が1.4倍に向上することが分かった。
以上のように、難燃剤添加による樹脂の力学特性の低下は認められず、むしろセルロースナノファイバーによる樹脂補強効果による力学物性の向上が確認された。このことから、上記の難燃化合物で化学的に修飾したリグノセルロースは、樹脂組成物等の補強材としても使用することが可能である。
[分散性の評価]
次に、上記の難燃化リグノセルロースナノファイバーのプラスチックに対する分散性を評価した。
上記で作製したペレットをプレス機でフィルム化し、自然光および偏光(クロスニコル)下で観察を行った。その結果、図3に示したように、リグノセルロースナノファイバーに由来する凝集物や界面接着性(相溶性)の不良による気泡などは目視では確認されなかった。このことから、難燃化リグノセルロースナノファイバーは、合成樹脂に対して良好な分散性を有することが分かった。
[難燃化木粉の製造]
以下の方法により、N,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラ(2,4,6-トリブロモフェニル)・二水和物(分子量1573.2469)と木粉とを反応させて、難燃化木粉を作製した。すなわち、200mLの丸底フラスコに、木粉(岡山県真庭市産ヒノキ、粒径:300μmアンダー、2.01g)、上述の方法で合成したN,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラ(2,4,6-トリブロモフェニル)・二水和物(1.02g、0.65mmol)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(48.2mg)を取り、これにHO(80mL)を注入した。この混合物をゆすりながら数分間超音波処理し、次いでホルマリン(1mL)を加えた。混合物全体を50℃で16時間、70℃で一晩撹拌した。室温まで放冷後、混合物を吸引ろ過し、水、アセトン、再び水で洗浄した。得られた固体を乾燥させて、反応物を得た(収量2.73g)。
難燃化木粉の臭素含有量をJIS K 7229のフラスコ燃焼法により測定したところ、上記で作製した難燃化木粉の臭素含有量は8%であった。上記の実施例2の臭素含有量が6質量%であったことから、上記で作製した木粉は、実施例2と同等以上の難燃性を備えるものであることがわかる。
上記で作製した木粉は、例えば合成樹脂材料と混合して、所望の形状を有する成型物とすることによって、難燃性に優れた木の風合いを有する合成樹脂成型物を製造することができる。
[木粉の難燃化]
ビーカーに木粉1g(岡山県真庭市産ヒノキ、粒径:300μmアンダー)、実施例6の難燃化リグノセルロース(乾燥重量で約2g)、蒸留水20〜30mLを加え、十分に撹拌を行った。この混合物をPP製の容器に15g程度流し込んで40℃で乾燥を行って試験片を作製した。乾燥後の試験片のサイズは縦:約100mm、横:約15mm、厚さ:約5mmであった。この試験片を用いて酸素指数を測定したところ、39.0であった。試験例2〜4についても、木粉と難燃化リグノセルロースとの混合比を変更した点以外は、同様にして試験片を作製して酸素指数を測定した。試験例2〜4の酸素指数は、表7に記載した通り、それぞれ33.5、28.5、26.5であり、いずれも自己消火性を備えていることがわかった。
なお、比較のために、木粉:リグノセルロース(モリマシナリー株式会社製、CellFiM L-45)=3:1で混合して得た試験片の酸素指数は19.5であった。試験片の製造に際しては、実施例6のスラリー状の難燃化リグノセルロースがバインダーとして機能する。すなわち、スラリー状の難燃化リグノセルロースは凝集性を示し、水分が蒸発すると乾燥し固化する。
表7に示したように、難燃化リグノセルロースは、木粉と混合することによっても、木粉の難燃性を向上させることができる。このため、例えば、合成樹脂と、木粉と、実施例1ないし実施例14の難燃化リグノセルロースナノファイバーとを混合し、所望の形状に成型することにより、難燃性を備え、木の風合いを備える合成樹脂の成型物を得ることが可能である。

Claims (7)

  1. 以下の[化1]の構造を備える難燃性化合物。
    [ただし、RないしRは、同一又は異なっており、水素原子、又は以下に示す[化2]に示す官能基であり、
    ないしRの全てが水素原子である場合を除き、RないしRの全てが以下に示す[化2]に示す官能基である場合を除く。]
    [ただし、R及びRは、同一又は異なっており、水素原子、又は難燃性元素を含有する官能基で置換されたアリール基であり、
    及びRの両方が水素原子である場合を除く。]
  2. アリール基は、水素原子が難燃性元素を含有する官能基で置換された構造であり、その置換数は、1〜5である請求項1に記載の難燃性化合物。
  3. 請求項1又は2に記載の難燃性化合物で化学的に修飾されたリグノセルロース。
  4. 請求項1又は2に記載の難燃性化合物で化学的に修飾された木粉。
  5. 請求項3又は4に記載のリグノセルロース又は木粉を含有する樹脂組成物。
  6. 請求項3に記載した難燃化合物で化学的に修飾したリグノセルロースを主成分とするバインダー。
  7. 請求項3に記載した難燃化合物で化学的に修飾したリグノセルロースを主成分とする樹脂組成物用補強材。
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