−第1実施形態−
最初に、第1実施形態の電動車両の制御方法が適用される車両のシステム構成について説明する。
図1は、第1実施形態の電動車両の制御方法が適用される電動車両の主要なシステム構成(システム構成1)を示すブロック図である。なお、本発明が適用される電動車両とは、車両の駆動源の一部または全部として少なくとも二つの電動モータ(駆動モータ)を備え、当該モータの駆動力により走行可能な自動車のことであり、電気自動車や、ハイブリッド自動車が含まれる。
バッテリ1は、フロント駆動モータ4fおよびリア駆動モータ4rへ駆動電力を放電し、フロント駆動モータ4fおよびリア駆動モータ4rからの回生電力により充電される。
電動モータコントローラ2は、例えば、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、および、入出力インタフェース(I/Oインタフェース)から構成されるマイクロコンピュータである。
電動モータコントローラ2には、アクセル開度θ、フロント駆動モータ4fの磁極位置θ、リア駆動モータ4rの磁極位置θ、フロント駆動モータ4fの電流(三相交流の場合は、iu、iv、iwの内の少なくとも二つ)、リア駆動モータ4rの電流(三相交流の場合は、iu、iv、iwの内の少なくとも二つ)等の車両状態を示す各種車両変数の信号がデジタル信号として入力される。電動モータコントローラ2は、入力された信号に基づいてフロント駆動モータ4fおよびリア駆動モータ4rを制御するためのPWM信号をそれぞれ生成する。また、生成したそれぞれのPWM信号に応じてフロントインバータ3fおよびリアインバータ3rの駆動信号を生成する。電動モータコントローラ2(以下単にコントローラ2とも称する)のブロック構成の詳細については図2を参照して後述する。
フロントインバータ3f、および、リアインバータ3r(以下、単にインバータ3f、3rとも称する)は、相ごとに備えられた2個のスイッチング素子(例えば、IGBTやMOS−FET等のパワー半導体素子)をオン/オフすることにより、バッテリ1から供給される直流電流を交流電流に変換あるいは逆変換し、フロント駆動モータ4fおよびリア駆動モータ4rに所望の電流を流す。
フロント駆動モータ4f(三相交流モータ)、および、リア駆動モータ4r(三相交流モータ)は、インバータ3f、3rから供給される交流電流により駆動力を発生し、当該駆動力をフロント減速機5fr、リア減速機5r、および、フロントドライブシャフト8f、リアドライブシャフト8rを介して、フロント駆動輪9fおよびリア駆動輪9rに伝達する(以下、単にモータ4f、4r、ドライブシャフト(駆動軸)8f、8r、および、駆動輪9f、9rとも称する)。また、モータ4f、4rは、車両の走行時に駆動輪9f、9rに連れ回されて回転するときに、回生駆動力を発生させることで、車両の運動エネルギーを電気エネルギーとして回収する。この場合、インバータ3f、3rは、回生運転時に発生する交流電流を直流電流に変換して、バッテリ1に供給する。
なお、本明細書において記載するフロントは、車両前方を示し、リアは、車両後方を示すものとする。
フロント磁極位置センサ6f、および、リア磁極位置センサ6rは、モータ4f、4rの磁極位置θをそれぞれ検出し、コントローラ2に出力する。
フロント電流センサ7f、及びリア電流センサ7rは、各モータ4f、4rに流れる3相交流電流iu、iv、iwをそれぞれ検出する。ただし、3相交流電流iu、iv、iwの和は0であるため、任意の2相の電流を検出して、残りの1相の電流は演算により求めてもよい。
図2は、第1実施形態の電動車両の制御方法が適用される車両のシステム構成(システム構成1)であって、特にコントローラ2の詳細を示すブロック図である。図1と同様の構成には同じ指示番号を付して説明は省略する。
本実施形態のコントローラ2は、その機能部として、駆動力マップ格納器20と、停止制御器21と、トルク比較器22と、フロント/リア(前後)駆動力配分器23と、制振制御器24f、24rと、電流電圧マップ格納器25f、25rと、電流制御器26f、26rと、座標変換器27f、27r、29f、29rと、PWM変換器28f、28rと、回転数演算器30f、30rとを含んで構成される。
駆動力マップ格納器20は、基本トルク目標値算出処理を実行する(後述のステップS201参照)。駆動力マップ格納器20は、図4で示すアクセル開度−トルクテーブルを格納(記憶)しており、アクセル開度θおよびフロントモータ回転角速度ωmfに基づいて第1のトルク目標値Tm1 *を算出し、トルク比較器22に出力する。
以下に説明する停止制御器21、トルク比較器22、及び前後駆動力配分器23は、停止制御処理を実行する(後述のステップS203参照)。
停止制御器21は、フロント最終トルク指令値Tmff *と、リア最終トルク指令値Tmrf *と、フロントモータ回転角速度ωmfとに基づいて、停車間際においてモータ4f、4rにつながるドライブシャフト(駆動軸)8f、8rの回転速度に相関のある速度パラメータの低下とともに外乱トルク推定値Tdに収束する第2のトルク目標値Tm2 *を算出し、トルク比較器22に出力する。
トルク比較器22は、第1のトルク目標値と第2のトルク目標値とを比較して、大きい方の値を第3のトルク目標値として前後駆動力配分器23に出力する。
前後駆動力配分器23は、第3のトルク目標値を前後のモータ4f、4rに配分する。具体的には、第3のトルク目標値に0〜1の間で設定されるゲインKfを乗算することによりフロント目標トルク指令値Tmf1 *を算出し、フロント制振制御器24fに出力する。また、第3のトルク目標値にゲイン(1−Kf)を乗算することでリア目標トルク指令値Tmr1 *を算出し、リア制振制御器24rに出力する。
フロント/リア制振制御器24f、24rは、制振制御処理を実行する(後述のステップS204参照)。フロント制振制御器24fは、フロント目標トルク指令値Tmf1 *に対して駆動軸のねじり振動等の駆動力伝達系振動を抑制する制振制御処理を施し、フロント最終トルク指令値Tmff *を算出する。リア制振制御部24rは、リア目標トルク指令値Tmr1 *に対して駆動軸のねじり振動等の駆動力伝達系振動を抑制する制振制御処理を施し、リア最終トルク指令値Tmrf *を算出する。フロント/リア最終トルク指令値Tmff *、Tmrf *は、電流電圧マップ格納器25f、25rにそれぞれ出力される。
ここで、フロント最終トルク指令値Tmff *の出力からモータ4fを駆動するまでの系をフロント駆動システムとし、リア最終トルク指令値Tmrf *の出力からモータ4rを駆動するまでの系をフロント駆動システムとする。以下の説明では、フロント駆動システムとリア駆動システムの制御は原則同様であるため、電流電圧マップ格納器25f、25rと、電流制御器26f、26rと、座標変換器27f、27r、29f、29rと、PWM変換器28f、28rと、回転数演算器30f、30rについては、代表してフロント駆動システムに係る構成についてのみ説明する。
電流電圧マップ格納器25fは、トルク指令値(フロント最終トルク指令値)と、モータの回転数検出値ω(フロントモータ回転角速度ωmf)と、インバータ(フロントインバータ3f)に入力される電圧検出値(バッテリ1の電圧検出値Vdc)とを指標としたマップを予め格納している。そして、電流電圧マップ格納器25fは、入力されるフロント最終トルク指令値Tmff *と、フロントモータ回転角速度ωmfと、バッテリ1の電圧検出値Vdcとから、上記マップを参照することにより、dq軸電流指令値id *、iq *およびdq軸非干渉電圧指令値Vd_dcpl *、Vq_dcpl *を算出して、電流制御器26fに出力する。なお、電圧検出値Vdcは、バッテリ1からの直流電源ラインに設けられた電圧センサ(不図示)又は、バッテリコントローラ(不図示)から送信される信号により取得される。
電流制御器26fには、dq軸電流指令値id *、iq *、dq軸非干渉電圧指令値Vd_dcpl *、Vq_dcpl *、および座標変換器29fから出力されるdq軸電流検出値id、iqが入力される。そして、電流制御器26fは、dq軸電流検出値id、iqをdq軸電流指令値id *、iq *に定常偏差なく所望の応答性で追従させるためのdq軸電圧指令値Vd *、Vq *を算出して、座標変換器27fに出力する。なお、本実施形態の電流制御器26fは、簡単なPIフィードバック補償器、又は、いわゆるロバストモデルマッチング補償器のような公知の補償器により実現することができる。
座標変換器27fは、dq軸電圧指令値Vd *、Vq *とモータ4fが備える回転子の磁極位置検出値θを入力し、以下式(3)を用いて座標変換処理を行うことによってuvw各相の電圧指令値v* u、v* v、v* wを算出する。算出した値は、PWM変換器28fに出力される。
PWM変換器28fは、電圧指令値v* u、v* v、v* wに応じてインバータ3fのスイッチング素子を駆動するための強電素子駆動信号Duu *、Dul *、Dvu *、Dvl *、Dwu *、Dwl *を生成し、インバータ3fに出力する。そして、インバータ3fは、強電素子駆動信号Duu *、Dul *、Dvu *、Dvl *、Dwu *、Dwl *に従いスイッチング素子を駆動させることでバッテリ1の直流電圧を交流電圧vu*、vv*、vw*に変換してモータ4fに供給する。
座標変換器29fには、電流センサ7fが検出した少なくとも2相の電流(例えばU相、V相のiu、iv)が入力される。この場合、座標変換器29fは、電流センサ7fにより検出されなかった残り1相(例えばW相のiw)の電流値を次式(2)で求める。そして、座標変換器29fは、三相の電流値iu、iv、iwに対して次式(3)を用いて座標変換処理を行うことによって、dq軸電流指令値id、iqを算出する。算出した値は、電流制御器26fに出力される。
回転数演算器30fは、フロント磁極位置センサ6fから出力されるモータ4fの磁極位置θから、モータ4fのフロントモータ回転角速度ωmfを算出して、電流電圧マップ格納器25fと停止制御器21とに出力する。なお、フロントモータ回転角速度ωmfはモータ4fの回転子位相αを検出して、当該回転子位相αを微分することによっても求められる。
続いて、コントローラ2の動作について説明する。
図3は、電動モータコントローラ2によって行われる処理の流れを示すフローチャートである。ステップS201からステップS206に係る処理は、車両システムが起動している間、一定の間隔で常時実行されるようにプログラムされている。
ステップS201では、コントローラ2が入力処理を行う。後述する制御演算に必要な車両状態を示す信号がコントローラ2に入力される。ここでは、アクセル開度θ(%)、モータ4f、4rの磁極位置検出値θ(rad)、モータ4f、4rに流れる三相交流電流iu、iv、iw、および、バッテリ1の直流電圧値Vdc(V)が入力される(図2参照)。また、コントローラ2は、モータ4f、4rの磁極位置θに基づいてフロント/リアモータ回転角速度ωmf、ωmrを算出するとともに、フロントモータ回転角速度ωmfに基づいて車速(車体速度)V(km/h)を算出する。車体速度Vの算出方法については図7を用いて後述する。
ただし、車体速度Vは、図示しない車速センサや、他のコントローラより通信にて取得されてもよい。または、回転子機械角速度ωmにタイヤ動半径Rを乗算し、ファイナルギアのギア比で除算することにより車速v(m/s)を求め、3600/1000を乗算することにより単位変換して、車体速度V(km/h)を求めてもよい。
なお、アクセル開度θ(%)は、図示しないアクセル開度センサ、又は、図示しない車両コントローラ等の他のコントローラから取得される。
ステップS202では、コントローラ2は、車両情報に基づいて、ドライバが要求する基本目標トルクとしての第1のトルク目標値Tm1 *を設定する。具体的には、コントローラ2は、ステップS201で入力されたアクセル開度θ及び算出したフロントモータ回転角速度ωmfに基づいて、図4に示すアクセル開度−トルクテーブルを参照することにより、第1のトルク目標値Tm1 *を設定する。
ステップS203では、コントローラ2が停止制御処理を行う。具体的には、コントローラ2は、車両が停車間際か否かを判定し、停車間際でない場合は、ステップS202で算出した第1のトルク目標値Tm1 *を第3のトルク目標値Tm3 *に設定し、停車間際の場合は、第2のトルク目標値Tm2 *を第3のトルク目標値Tm3 *に設定する。この第2のトルク目標値Tm2 *は、ドライブシャフト(駆動軸)8f、8rの回転速度に相関のある速度パラメータ(例えば、モータ回転角速度、モータ回転速度、車輪角速度、又は車速等)の低下とともに外乱トルク推定値Tdに収束するものであって、停車時には登坂路では正トルク、降坂路では負トルク、平坦路では概ねゼロとなる。第2のトルク目標値Tm2 *がこのような値であることにより、走行路面の勾配によらず、車両を滑らかに停車し、停車状態を維持することができる。
更に、コントローラ2は、前後駆動力配分器23により第3のトルク目標値Tm3 *に0〜1の間で設定されるゲインKfを乗算してフロント駆動システムのフロント目標トルク指令値Tmf1 *を設定し、フロント制振制御器24fに出力する。一方、第3のトルク目標値Tm3 *にゲイン(1−Kf)を乗算することによりリア駆動システムのリア目標トルク指令値Tmr1 *を設定し、リア制振制御器24rに出力する。停止制御処理の詳細については後述する。
ステップS204では、コントローラ2が制振制御処理を行う。具体的には、コントローラ2は、ステップS203で算出したフロント目標トルク指令値Tmf1 *から、駆動軸トルクの応答を犠牲にすることなく、駆動力伝達系振動(駆動軸8fのねじり振動など)を抑制する最終トルク指令値としてのフロント最終トルク指令値Tmff *を算出する。また、コントローラ2は、ステップS203で算出したリア目標トルク指令値Tmr1 *から、駆動軸トルクの応答を犠牲にすることなく、駆動力伝達系振動(駆動軸8rのねじり振動など)を抑制する最終トルク指令値としてのリア最終トルク指令値Tmrf *を算出する。制振制御処理の詳細については後述する。
ステップS205では、コントローラ2が電流指令値算出処理を行う。具体的には、コントローラ2は、ステップS204で算出したフロント/リア最終トルク指令値Tmff *、Tmrf *に加え、フロント/リアモータ回転角速度ωmf、ωmr、および直流電圧値Vdcに基づいて、d軸電流目標値id *、q軸電流目標値iq *を求める。具体的には、コントローラ2は、トルク指令値、モータ回転角速度、及び、直流電圧値と、d軸電流目標値及びq軸電流目標値との関係を定めたマップを予め用意しておいて(電流電圧マップ格納器25f、25r参照)、このマップを参照することにより、d軸電流目標値id *及びq軸電流目標値iq *を算出する。
ステップS206では、コントローラ2は電流制御演算処理を行う。具体的には、コントローラ2は、まず、d軸電流id及びq軸電流iqを、ステップS205で求めたd軸電流目標値id *及びq軸電流目標値iq *と一致させるための電流制御を行う。このため、まず初めに、ステップS201で入力された三相交流電流値iu、iv、iwと、モータ4の磁極位置検出値θとに基づいて、d軸電流id及びq軸電流iqを求める。続いて、d軸、q軸電流指令値id *、iq *と、d軸、q軸電流id、iqとの偏差から、d軸、q軸電圧指令値vd *、vq *を算出する(電流制御器26f、26r参照)。
次に、d軸、q軸電圧指令値vd *、vq *と、モータ4rの磁極位置検出値θから、三相交流電圧指令値vu、vv、vwを求める。そして、求めた三相交流電圧指令値vu、vv、vwと、直流電圧値Vdcから、PWM信号tu(%)、tv(%)、tw(%)を求める。このようにして求めたPWM信号tu、tv、twにより、インバータ3のスイッチング素子を開閉することによって、電動モータ4を第1のトルク指令値Tm1 *で指示された所望のトルクで駆動することができる(PWM変換器28f、28r等参照)。
以上が本実施形態の電動車両の制御方法が適用される電動車両のシステム構成1、および、コントローラ2が実行する各種処理の概要である。以下では、上述の停止制御処理、および制振制御処理の詳細を説明する。
<停止制御処理>
まず、フロント/リア駆動輪9f、9rにそれぞれモータ4f、4rを有する車両(システム構成1、図1、2参照)のフロントモータトルクTmfからフロントモータ回転角速度ωmfまでの伝達特性Gpff(s)について説明する。この伝達特性Gpff(s)は、外乱トルクの推定も含めた停止制御処理において、車両の駆動力伝達系をモデル化(模擬)した車両モデルとして用いられる。初めに、フロントモータトルクTmfからフロントモータ回転角速度ωmfまでの運動方程式について、図5を参照して説明する。
図5は、システム構成1にかかる車両(以下、4WD車両とも称する)の駆動力伝達系をモデル化した図であり、同図における各パラメータは以下のとおりである。なお、補助記号のfはフロントを、rはリアを示している。
Jmf、Jmr:モータイナーシャ
Jwf、Jwr:駆動輪イナーシャ(1軸分)
Kdf、Kdr:駆動系のねじり剛性
Ktf、Ktr:タイヤと路面の摩擦に関する係数
Nf、Nr:オーバーオールギヤ比
rf、rr:タイヤ荷重半径
ωmf、ωmr:モータ回転角速度
ω^mf、ω^mr:モータ回転角速度推定値
θmf、θmr:モータ角度
ωwf、ωwr:駆動輪角速度
θwf、θwr:駆動輪角度
Tmf、Tmr:モータトルク
Tdf、Tdr:駆動軸トルク
Ff、Fr:駆動力(2軸分)
θdf、θdr:駆動軸ねじり角度
V:車体速度
M:車体重量
図5より、4WD車両の運動方程式は、次式(4)〜(14)で表される。
上記式(4)〜(14)をラプラス変換して、フロントモータトルクTmfからフロントモータ回転角速度ωmfまでの伝達特性を求めると、次式(15)で表せる。
ただし、式(15)中の各パラメータは、それぞれ以下式(16)〜(20)で表される。
式(15)に示す伝達関数の極と零点を調べると、次式(21)となる。
式(21)のαとα´、βとβ´、ζprとζpr´、ωprとωpr´が極めて近い値を示すため、極零相殺(α=α´、β=β´、ζpr=ζpr´、ωpr=ωpr´と近似する)を行うことにより、次式(22)に示すような(2次)/(3次)の伝達特性Gpff(s)を構成することができる。
結果として、4WD車両の運動方程式に基づいて、フロントのモータトルクからフロントのモータ回転角速度までの伝達特性を調べると、Gpff(s)は2次/3次式に近似することができる。
ここで、フロントドライブシャフト8fに起因するねじり振動を抑止する規範応答を次式(23)とする場合、フロント駆動システムのねじり振動を抑止するフィードフォワード補償器(F/F補償器1301、図9参照)は、以下式(24)で表せる。すなわち、図9で示す制振制御処理を実行するF/F補償器1301は、伝達特性Gpff(s)を考慮して構成される。
同様に、リアモータトルクTmrからリアモータ回転角速度ωmrまでの伝達特性を求めると、次式(25)となる。
ここで、リアドライブシャフト8rに起因するねじり振動を抑止する規範応答を次式(26)とする場合、リア駆動システムのねじり振動を抑止するフィードフォワード補償器(F/F補償器1301、図9参照)は、以下式(27)で表せる。すなわち、制振制御処理を実行するF/F補償器1301は、伝達関数Gprr(s)を考慮して構成される。
続いて、4WD車両のリアトルクからフロントモータ回転角速度ωmfまでの運動方程式について、図5を用いて具体的に説明する。
上記式(4)〜(14)をラプラス変換して、リアモータトルクTmrからフロントのモータ回転角速度ωmfまでの伝達特性を求めると、次式(28)で表せる。
式(28)に示す伝達関数の極を調べると、次式(29)となる。
ただし、式(29)の極のαとβは、原点と支配的な極から遠い位置にあるため、Gprf(s)で表される伝達特性への影響は少ない。したがって、式(29)は、次式(30)で表す伝達関数に近似することができる。
さらに、車両モデルGprf(s)にリアの制振制御アルゴリズムを考慮すると、次式(31)で示す伝達関数となる。
次に、フロント駆動システムのモータ回転角速度推定値の規範応答からフロント駆動システムのねじり振動を抑止するための伝達関数は次式(32)となる。
以上説明した車両モデル(伝達関数)を用いて実行される停止制御処理を、図6〜8を用いて説明する。
図6は、停止制御処理を実現するためのブロック図である。停止制御処理は、コントローラ2が備える車体速度フィードバック(F/B)トルク設定器501と、外乱トルク推定器502と、加算器503と、トルク比較器504と、乗算器505、506とを用いて行われる。以下、それぞれの構成について詳細を説明する。なお、図6で示すブロック構成は、図2で示す停止制御器21、トルク比較器22、および前後駆動力配分器23に相当する。
車体速度F/Bトルク設定器501は、フロントモータ回転角速度ωmfに基づいて、車体速度フィードバック(F/B)トルクTωを算出する。詳細は図7を用いて説明する。
図7は、フロントモータ回転角速度ωmfに基づいて車体速度F/BトルクTωを算出する方法を説明するための図である。車体速度F/Bトルク設定器501は、乗算器601、602を備える。
乗算器601は、フロントモータ回転角速度ωmfに基づいて推定車体速度V^を求める。具体的には、乗算器601は、フロントモータ回転角速度ωmfに、フィルタGωv(s)を乗算することにより推定車体速度V^を算出する。フィルタGωv(s)は、フロントモータ回転角速度ωmfからドライブシャフトまでのギア比と、タイヤ動半径とを考慮した伝達特性であり、次式(33)で表される。
なお、フィルタGωv(s)は必ずしも上記式(33)で表される伝達特性を有する必要はなく、フロントモータ回転角速度ωmから推定車体速度V^までの伝達特性を近似した次式(34)で表される伝達特性を有していてもよい。
乗算器602では、推定車体速度V^にゲインKvrefを乗算することにより、車体速度F/BトルクTωを算出する。ただし、Kvrefは、電動車両の停止間際に電動車両を停止させるのに必要な負(マイナス)の値であり(Kvref<0)、実験データ等により適宜設定される。車体速度F/BトルクTωは、フロントモータ回転角速度ωmfが大きいほど、大きい制動力が得られるトルクとして設定される。
なお、車体速度F/Bトルク設定器501は、推定車体速度V^にゲインKvrefを乗算することにより車体速度F/BトルクTωを算出するものとして説明したが、車体速度Vに対する回生トルクを定めた所定の回生トルクテーブルや、車体速度Vの減衰率を予め記憶した減衰率テーブル等を用いて、車体速度F/BトルクTωを算出してもよい。
図6に示す外乱トルク推定器502は、車体速度F/Bトルク設定器501から出力される推定車体速度V^と、フロント/リア制振制御器24f、24rから出力されるフロント最終トルク指令値Tmff *およびリア最終トルク指令値Tmrf *とに基づいて、外乱トルク推定値Tdを算出する。なお、フロント最終トルク指令値Tmff *はモータ4fの制駆動力を指令し、リア最終トルク指令値Tmrf *はモータ4rの制駆動力を指令する。すなわち、本実施形態の外乱トルク推定値Tdは、モータ4f(一のモータ)とモータ4r(他のモータ)とが出力する全ての制駆動力(総制駆動力)に基づいて算出される。外乱トルク推定器502の詳細は図8を用いて説明する。
図8は、推定車体速度V^と、フロント最終トルク指令値Tmff *と、リア最終トルク指令値Tmrf *とに基づいて、外乱トルク推定値Tdを算出する方法を説明するためのブロック図である。外乱トルク推定器502は、制御ブロック701と、制御ブロック702と、減算器703と、加算器704とを備える。
制御ブロック701は、H1(s)/Gr(s)なる伝達特性を有するフィルタとしての機能を担っており、推定車体速度V^に対してフィルタリング処理を施すことにより第1のモータトルク推定値を算出して減算器703に出力する。
車両応答Gr(s)は、車体質量M、フロント/リアモータイナーシャJmf、Jmr、および、フロント/リア駆動輪イナーシャJwf、Jwrから求まる等価質量を用いて次式(35)のとおりに設定される。
ローパスフィルタH1(s)は、分母次数と分子次数との差分が車両応答Gr(s)の分母次数と分子次数との差分以上となる伝達特性を有するローパスフィルタであり、次式(36)で表される。
加算器704は、フロント最終トルク指令値Tmff *とリア最終トルク指令値Tmrf *とを加算して得た値をモータトルク指令値Tm *として制御ブロック702に出力する。
制御ブロック702は、モータトルク指令値Tm *にローパスフィルタH1(s)によるフィルタリング処理を施すことにより第2のモータトルク推定値を算出して減算器703に出力する。
そして、減算器703によって、第1のモータトルク推定値と第2のモータトルク推定値との偏差が演算されることにより、車両に作用する外乱を表す外乱トルク推定値Tdが算出される。
ここで、車両に作用する外乱としては、空気抵抗、乗員数や積載量に起因する車両質量の変動によるモデル化誤差、タイヤの転がり抵抗、路面の勾配抵抗等が考えられるが、停車間際やイニシャルスタート時に支配的となる外乱要因は勾配抵抗である。外乱要因は運転条件により異なるが、外乱トルク推定器502は、フロント/リア最終トルク指令値Tmff *、Tmrf *と、推定車体速度V^と、等価質量(制振制御を適用した場合の伝達特性Gr(s))とに基づいて、外乱トルク推定値Tdを算出するので、上述した外乱要因を一括して推定することができる。これにより、いかなる運転条件においても、減速からの滑らかな停車を実現することができる。
図6に示す加算器503は、車体速度F/Bトルク設定器501によって算出された車体速度F/BトルクTωと、外乱トルク推定器502によって算出された外乱トルク推定値Tdとを加算することによって、第2のトルク目標値Tm2 *を算出する。モータ回転角速度ωmが低下して0に近づくと、車体速度F/BトルクTωも0に近づくため、第2のトルク目標値Tm2 *は、モータ回転角速度ωmの低下に応じて外乱トルク推定値Tdに収束していく。
トルク比較器504は、第1のトルク目標値Tm1 *と第2のトルク目標値Tm2 *の大きさを比較し、値が大きい方のトルク目標値を第3のトルク目標値Tm3 *に設定する。車両の走行中、第2のトルク目標値Tm2 *は第1のトルク目標値Tm1 *よりも小さく、車両が減速して停車間際(車速が所定車速以下)になると、第1のトルク目標値Tm1 *よりも大きくなる。従って、トルク比較器504は、第1のトルク目標値Tm1 *が第2のトルク目標値Tm2 *より大きければ、停車間際以前と判断して、第1のトルク目標値Tm1 *を第3のトルク目標値Tm3 *として設定する。また、トルク比較器504は、第2のトルク目標値Tm2 *が第1のトルク目標値Tm1 *より大きくなると、車両が停車間際と判断して、第1のトルク目標値Tm1 *ではなく第2のトルク目標値Tm2 *を第3のトルク目標値Tm3 *として設定する。なお、停車状態を維持するため、第2のトルク目標値Tm2 *は、登坂路では正トルク、降坂路では負トルク、平坦路では概ねゼロに収束する。
乗算器505では、第3のトルク目標値Tm3 *に前後駆動力配分により0〜1の間で設定するゲインKfを乗算することによりフロント目標トルク指令値Tmf1 *を設定する。フロント目標トルク指令値Tmf1 *は、後述のフィードフォワード補償器1301に出力される。
乗算器506では、第3のトルク目標値Tm3 *に前後駆動力配分によりゲイン(1−Kf)を乗算することによりリア目標トルク指令値Tmr1 *を設定する。リア目標トルク指令値Tmr1 *は、後述のフィードフォワード補償器1301に出力される。
以上が本実施形態の停止制御処理の詳細である。このような処理を行うことにより、車両が走行している路面の勾配に関わらず、モータトルクのみで滑らかに停車し、停車状態を保持することができる。
続いて、上述のステップS204で実行される制振制御処理の詳細を説明する。
<制振制御処理>
図9は、本実施形態の制振制御演算処理を実現するブロック構成図の一例である。図9で示す制御ブロックは、フィードフォワード補償器(F/F補償器)1301と、制御ブロック1302と、制御ブロック1303と、加算器1304、1305と、減算器1306、1307とから構成される。
F/F補償器1301は、フロント目標トルク指令値Tmf1 *と、リア目標トルク指令値Tmr1 *とを入力とし、二つの独立した駆動モータを有する4WD車両モデルを使用したF/F補償処理を行う。これにより、F/F補償器1301は、第1のトルク指令値と第3のトルク指令値とを算出するとともに、フロントモータ回転角速度推定値ω^mfと、リアモータ回転角速度推定値ω^mrとを算出する。
図10は、F/F補償器1301において実行されるF/F補償処理を実現する制御ブロック構成の一例である。
F/F補償器1301は、フロント駆動軸ねじり角速度F/B演算器1501と、リア駆動軸ねじり角速度F/B演算器1502と、4WD車両モデル1500とから構成される。
フロント駆動軸ねじり角速度F/B演算器1501は、まず、入力されるフロント駆動軸ねじり角速度推定値にゲインk1を乗じる。そして、フロント目標トルク指令値Tmf1 *からフロント駆動軸ねじり角速度推定値にゲインk1を乗じた値を減じて、第1のトルク指令値を算出する。算出された第1のトルク指令値は4WD車両モデル1500に出力される。
ここで、フロントモータトルクTmfからフロント駆動軸トルクTdfまでの伝達特性の分母の減衰係数が1未満となるように設計すると、上記のゲインk1は次式(37)となる。
ただし、ζpfはフロントの駆動軸トルク伝達系の減衰係数、ωpfはフロントの駆動軸トルク伝達系の固有振動周波数、gtfはフロントモータトルクTmfからフロント駆動軸トルクTdfまでの定常ゲインある。
リア駆動軸ねじり角速度F/B演算器1502は、まず、入力されるリア駆動軸ねじり角速度推定値にゲインk2を乗じる。そして、リア目標トルク指令値Tmr1からリア駆動軸ねじり角速度推定値にゲインk2を乗じた値を減じて、第2のトルク指令値を算出する。算出された第2のトルク指令値は4WD車両モデル1500に出力される。
リアのゲインk2も、フロントのゲインk1と同様に設計され、次式(38)で表される。
ただし、ζprはリアの駆動軸トルク伝達系の減衰係数、ωprはリアの駆動軸トルク伝達系の固有振動周波数、gtrはリアモータトルクTmrからリア駆動軸トルクTdrまでの定常ゲインある。
4WD車両モデル1500は、車両モデル1001(図11参照)に、フロント駆動システムに係る不感帯モデル1503と、リア駆動システムに係る不感帯モデル1504とを加えて構成される。
図11は、車両モデル1001を示すブロック図である。車両モデル1001は、上述した4WD車両の運動方程式(4)〜(14)と等価に構成された車両モデルである。車両モデル1001は、図11で示すとおり、フロント駆動輪とリア駆動輪とを有する四輪駆動車(4WD車両)の駆動力伝達系、すなわち、フロント駆動輪およびリア駆動輪へのトルク入力からモータ4f、4rのモータ回転角速度までの伝達特性を模擬した車両モデルである。
ここで、図示する車両モデル1001において、フロント目標トルク指令値Tmf1 *に基づいてモータ回転角速度推定値ω^mfを算出する系に、リア目標トルク指令値Tmr1 *に基づいて算出されたリアの駆動力Frが加算されている。これにより、車両モデル1101において、フロント目標トルク指令値Tmf1 *に基づいて算出されるモータ4fのモータ回転角速度推定値を、リアの駆動モータ(モータ4r)の制駆動トルクを表す第3トルク指令値に基づいて補正することができる。
フロントの不感帯モデル1503は、車両パラメータ(図5参照)とモータ4fからフロントの駆動輪9fまでのギヤバックラッシュ特性を模擬した不感帯モデルであって、次式(39)で表される。
ただし、θdfはフロントの捩じり角度であり、θdeadfはフロントの不感領域の角度(バックラッシュ特性)である。
リアの不感帯モデル1504は、フロントと同様に、車両パラメータ(図5参照)とリアのモータ4rからリアの駆動輪9rまでのギヤバックラッシュ特性を模擬した不感帯モデルであって、次式(40)で表される。
ただし、θdrはリアの捩じり角度であり、θdeadrはリアの不感領域の角度(バックラッシュ特性)である。
図9に戻って説明を続ける。減算器1306は、フロントモータ回転角速度推定値ω^mfから、フロントモータ回転角速度ωmfを減算することで、フロントモータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を算出して、算出値を制御ブロック1302に出力する。
制御ブロック1302は、フロントモータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を入力とし、入力値に対して、後述するバンドパスフィルタHf(s)と上記式(21)で示す車両モデルGpff(s)の逆モデルとから構成されるフィルタHf(s)/Gpff(s)を乗算することにより、第2のトルク指令値を算出する。
そして、加算器1304において第1のトルク指令値と第2のトルク指令値とが足し合わされることにより、モータ4frに対するフロント最終トルク指令値Tmff *が算出される。
同様に、減算器1307は、リアモータ回転角速度推定値ω^mrからリアモータ回転角速度ωmrを減算することで、リアモータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を算出して、算出値を制御ブロック1303に出力する。
制御ブロック1303は、リアモータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を入力とし、入力値に対して、後述するバンドパスフィルタHr(s)と上記式(25)で示す車両モデルGprr(s)の逆モデルとから構成されるフィルタHr(s)/Gprr(s)を乗算することにより、第4のトルク指令値を算出する。
そして、加算器1305において第3のトルク指令値と第4のトルク指令値とが足し合わされることにより、モータ4rに対するリア最終トルク指令値Tmrf *が算出される。
バンドパスフィルタHf(s)、Hr(s)について説明する。バンドパスフィルタHf(s)、Hr(s)は、ローパス側、および、ハイパス側の減衰特性が略一致し、かつ、駆動系のねじり共振周波数fpが、対数軸(logスケール)上で、通過帯域の中央部近傍となるように設定される。
例えば、バンドパスフィルタHf(s)、Hr(s)を一次のハイパスフィルタと一次のローパスフィルタとで構成する場合は、バンドパスフィルタHf(s)は、次式(41)のように構成され、バンドパスフィルタHrは、次式(42)のように構成される。
ただし、τLf=1/(2πfHCf)、fHCf=kf・fpf、τHf=1/(2πfLCf)、fLCf=fpf/kfである。また、周波数fpfは右の駆動モータ(電動モータ4ra)のねじり共振周波数とし、kfはバンドパスを構成する任意の値とする。
ただし、τLr=1/(2πfHCr)、fHCr=kr・fpr、τHr=1/(2πfLCr)、fLCr=fpr/krである。また、周波数fprは左の駆動モータ(電動モータ4rb)の駆動系のねじり共振周波数とし、krはバンドパスを構成する任意の値とする。
以上が制振制御処理の詳細である。このような処理を行うことにより、駆動軸トルクの応答を犠牲にすることなく、駆動力伝達系振動(駆動軸8f、8rのねじり振動など)を抑制することができる。なお、ステップS204で実行される制振制御処理は、上述のシステム構成1に係る電動車両に限らず、図24〜26に示すシステム構成2〜4にも適用することができる。詳細は第7、第8実施形態として後述する。
ここで、第1実施形態の電動車両の制御方法による制御結果について、図12及び図13を参照して説明する。
図12は、二つのモータを有する電動車両において、一定勾配の登坂路にて停止制御を実行した場合の制御結果を示すタイムチャートであって、従来技術による制御結果と本発明による制御結果とを比較する比較図である。図12(a)は従来技術を適用した場合のタイムチャートを示し、図12(b)は本発明にかかる停止制御処理を実行した場合のタイムチャートを示している。両図とも、上から順に、フロントモータトルク指令値、リアモータトルク指令値、車体速度、車両前後加速度、外乱トルク推定値をそれぞれ表している。
従来技術(図12(a))では、一つのモータ(フロントモータ又はリアモータ)の出力トルクのみを考慮した停止制御処理が実行される。
時刻t1において、車両が停車間際であると判断され、停止制御処理が開始される。この時、従来技術であっても、時刻t3にかけて、停止制御により車体速度が漸近的に0に近づいていくのがわかる。
しかしながら、従来技術では、想定されていない二つ目のモータが出力するトルクが考慮されていないので、当該トルクに起因して、主に勾配抵抗に相当する外乱トルクが小さく見積もられてしまう。そのため、特に時刻t1後の停止制御の開始以降、一定勾配の登坂路であるにもかかわらず、外乱トルク推定値が実際より緩登坂相当に減少してしまっている。その結果、時刻t3からt5にかけて車体速度が負となっており、車体がずり下がっていることが分かる。
一方、本発明では、二つのモータ(フロントモータおよびリアモータ)の出力トルクを考慮した停止制御処理が実行される。
本発明に係る制御においても、時刻t1において、車両が停車間際であると判断され、停止制御処理が開始される。この時、時刻t3にかけて、停止制御により車体速度が漸近的に0に近づいていく(ただし、時刻t1からt2の間においてギアのバックラッシュを跨いでおり、その瞬間においては僅かな変化が見られる)。
この時、本発明によれば、二つのモータの総駆動力を用いて外乱トルクを推定するため(外乱トルク推定器502参照)、外乱トルク推定値が一定の登坂路を正しく推定出来ていることが分かる。その結果、登坂路において車体を滑らかに停車させ、停車を維持できていることが分かる。
図13は、二つのモータを有する電動車両において、一定勾配の降坂路にて停止制御を実行した場合の制御結果を示すタイムチャートである。図13(a)は従来技術を適用した場合のタイムチャートを示し、図13(b)は本発明にかかる停止制御処理を実行した場合のタイムチャートを示している。両図とも、上から順に、フロントモータトルク指令値、リアモータトルク指令値、車体速度、車両前後加速度、および外乱トルク推定値をそれぞれ表している。
従来技術(図13(a))では、一つのモータ(フロントモータ又はリアモータ)の出力トルクのみを考慮した停止制御処理が実行される。
時刻t1において、車両が停車間際であると判断され、停止制御処理が開始される。この時、従来技術であっても、時刻t3にかけて、停止制御により車体速度が漸近的に0に近づいていくのがわかる。
しかしながら、従来技術では、想定されていない二つ目のモータが出力するトルクが考慮されていないので、当該トルクに起因して、主に勾配抵抗に相当する外乱トルクが小さく見積もられてしまう。そのため、時刻t1後の停止制御の開始以降、一定勾配の降坂路であるにもかかわらず、外乱トルク推定値が平坦路相当から緩降坂相当に減少してしまっている。その結果、時刻t3からt5にかけて車体速度が正の状態が維持されてしまっており、車体は止まることなく前進してしまっていることが分かる。
一方、本発明では、二つのモータ(フロントモータおよびリアモータ)の出力トルクを考慮した停止制御処理が実行される。
本発明に係る制御においても、時刻t1において、車両が停車間際であると判断され、停止制御処理が開始される。この時、時刻t3にかけて、停止制御により車体速度が漸近的に0に近づいていく。
この時、本発明によれば、二つのモータの総駆動力を用いて外乱トルクを推定するため(外乱トルク推定器502参照)、外乱トルク推定値が一定の降坂路を正しく推定出来ていることが分かる。その結果、降坂路において車体を滑らかに停車させ、停車を維持できていることが分かる。
なお、上述した停止制御処理は、システム構成1に限らず、図24〜26に示すシステム構成2〜4を備える電動車両にも適用することができる(システム構成2〜4の詳細については第7、第8実施形態を説明する際に後述する)。
停止制御処理がシステム構成2に適用される場合は、電動モータ4fa、4fb、4ra、4rbの四つのモータの総制駆動力に基づいて外乱トルク推定値Tdが推定される。より詳細には、システム構成2における外乱トルク推定器Tdは、図6で示す外乱トルク推定器(図8で示す加算器704)に一のモータとしての電動モータ4fa、および他のモータとしての電動モータ4fb、4ra、4rbの制駆動力を指令する各トルク指令値が入力されて算出される。これにより、システム構成2においても上述の実施形態による停止制御と同様の効果を得ることができる。
停止制御処理がシステム構成3に適用される場合は、電動モータ4f、4ra、4rbの三つのモータの総制駆動力に基づいて外乱トルク推定値Tdが推定される。より詳細には、システム構成3における外乱トルク推定器Tdは、図6で示す外乱トルク推定器(図8で示す加算器704)に一のモータとしての電動モータ4f、および他のモータとしての電動モータ4ra、4rbの制駆動力を指令する各トルク指令値が入力されて算出される。これにより、システム構成3においても上述の実施形態による停止制御と同様の効果を得ることができる。
停止制御処理がシステム構成4に適用される場合は、電動モータ4ra、4rbのリアの二つのモータの総制駆動力に基づいて外乱トルク推定値Tdが推定される。より詳細には、システム構成4における外乱トルク推定器Tdは、図6で示す外乱トルク推定器(図8で示す加算器704)に一のモータとしての電動モータ4ra、および他のモータとしての電動モータ4rbの制駆動力を指令する各トルク指令値が入力されて算出される。これにより、システム構成4においても上述の実施形態による停止制御と同様の効果を得ることができる。
このように、本発明の電動車両の制御方法を適用することにより、二つ以上のモータを有する電動車両において、走行路面の勾配によらず滑らかな停車を実現することができる。
以上、第1実施形態の電動車両の制御方法によれば、二つ以上のモータ(4f、4r)を走行駆動源とし、アクセル操作量が減少またはゼロになると、モータの回生制動力により減速する電動車両の制御方法であって、アクセル操作量を検出し、モータの制駆動力を指令するモータトルク指令値(フロント最終トルク指令値Tmff *、リア最終トルク指令値Tmrf *)を算出し、モータ4f、4rにつながる駆動軸の回転角速度に相関のある速度パラメータを検出し、二つ以上のモータの総制駆動力に基づいて、二つ以上のモータのうちの一のモータ4fに作用する外乱トルクを推定する。そして、アクセル操作量が減少またはゼロになり、かつ、電動車両が停車間際になると、速度パラメータの低下とともに、モータトルク指令値(第3のトルク目標値Tm3 *)を外乱トルクに収束させる。これにより、二つ以上のモータの総制駆動力に基づいて外乱トルクを推定するので、二つ以上のモータを搭載する車両においても、各モータの駆動力配分に依らず、勾配抵抗に相当する外乱トルクを適切に推定することができる。その結果、勾配を有する走行路面において車体を滑らかに停車させ、かつ、停車を維持することができる。
また、第1実施形態の電動車両の制御方法によれば、外乱トルクを総制駆動力と一のモータ(4f)から検出する速度パラメータとに基づいて推定する。また、当該速度パラメータは一のモータ(4f)の回転角速度(ωmf)である。これにより、車輪速センサ等の他のセンサ類を使用することなく、モータ4fの回転センサ(フロント磁極位置センサ6f)のみを用いて外乱トルクを推定することができる。
−第2実施形態−
以下に説明する第2実施形態の電動車両の制御方法は、ステップS204で実行される制振制御処理の態様が第1実施形態と相違する。以下、第1実施形態との相違点について説明する。
第2本実施形態の制振制御では、上述した第1実施形態に加えて、以下の伝達関数を用いて制振制御を実行する。
まず、上記式(4)〜(14)をラプラス変換して、フロントモータトルクTmfからリアモータ回転角速度ωmrまでの伝達特性を求めると、次式(43)となる。
ただし、式(43)の極のαとβは、原点と支配的な極から遠い位置にあるため、Gpfr(s)で表される車両モデルへの影響は少ない。したがって、式(43)は、次式(44)で表す伝達関数に近似することができる。
さらに、車両モデルGpfr(s)にフロントの制振制御のアルゴリズムを考慮すると、次式(45)で示す伝達関数となる。
次に、リア駆動システムのモータ回転角速度推定値の規範応答からリア駆動システムのねじり振動を抑止するために、式(45)の伝達関数を次式(46)の伝達関数とする。
以上説明した車両モデル(伝達関数)を用いて実行される制振制御処理を図14を参照して説明する。
図14は、第2実施形態の制振制御処理を実現するブロック構成図の一例である。図14で示す制御ブロックでは、フロント目標トルク指令値Tmf1 *と、フロントモータ回転角速度ωmfと、リア目標トルク指令値Tmr1 *とから、フロント最終トルク指令値Tmff *が算出される。また、リア目標トルク指令値Tmr1 *と、リアモータ回転角速度ωmrと、フロント目標トルク指令値Tm1 *とから、リア最終トルク指令値Tmrf *が算出される。以下、図14で図示する各制御ブロックの詳細を説明する。
フロントF/F補償器801は、上記式(24)で表されるフィルタGrff(s)/Gpff(s)から構成される。フロントF/F補償器801は、フロント目標トルク指令値Tmf1 *を入力とし、上記式(24)によるF/F補償処理を行うことにより、第1のトルク指令値を算出する。
加算器809は第1のトルク指令値と、後述する第2のトルク指令値とを加算することによりフロント最終トルク指令値Tmff*を算出する。
制御ブロック802は、上記式(15)で表される車両モデルGpff(s)により構成される。制御ブロック802は、フロント最終トルク指令値Tmff *を入力とし、車両モデルGpff(s)を用いて、フロントモータ回転角速度推定値を算出する。
制御ブロック803は、上記式(28)で表される車両モデルGprf(s)により構成される。制御ブロック803は、リア駆動輪の制駆動トルクとしてのリア目標トルク指令値Tmr1 *を入力とし、車両モデルGprf(s)を用いて、モータ回転角速度補正量としての補正フロントモータ回転角速度推定値を算出する。なお、車両モデルGprf(s)は、コントローラ2のソフト演算負荷低減のため、上記式(28)の近似式である式(29)〜(31)のいずれの式を用いても良い。
加算器810は、制御ブロック802の出力であるフロントモータ回転角速度推定値に、制御ブロック803の出力である補正フロントモータ回転角速度推定値を加算することにより、リア駆動輪の制駆動力を考慮して補正された、補正後のフロントモータ回転角速度推定値を算出する。これにより、フロントモータ回転角速度の推定値と検出値とを一致させることができる。
減算器811は、補正後のフロントモータ回転角速度推定値からモータ回転角速度ωmf(検出値)を減算して、モータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を算出し、算出した値を制御ブロック804に出力する。
制御ブロック804は、上記式(41)で表すバンドパスフィルタHf(s)と、上記式(22)で表す車両モデルGpff(s)の逆特性とから構成される。制御ブロック804は、モータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を入力とし、Hf(s)/Gpff(s)を乗算することにより、第2のトルク指令値を算出する。
そして、加算器809において、第1のトルク指令値と第2のトルク指令値とが足し合わされて、フロント最終トルク指令値Tmff *が算出される。
次にリア最終トルク指令値Tmrf *の算出について説明する。リアF/F補償器805は、上記式(27)で表されるフィルタから構成される。リアF/F補償器805は、リア目標トルク指令値Tmr1 *を入力とし、上記式(27)によるF/F補償処理を行うことにより、第3のトルク指令値を算出する。
加算器812は第3のトルク指令値と、後述する第4のトルク指令値とを加算することによりリア最終トルク指令値Tmrf *を算出する。
制御ブロック806は、上記式(25)で表される車両モデルGprr(s)により構成される。制御ブロック806は、リア最終トルク指令値Tmrf*を入力とし、車両モデルGprr(s)を用いて、リアモータ回転角速度推定値を算出する。
制御ブロック807は、上記式(43)で表される車両モデルGpfr(s)により構成される。制御ブロック807は、フロント目標トルク指令値Tmf1 *を入力とし、車両モデルGpfr(s)を用いて、補正リアモータ回転角速度推定値を算出する。なお、車両モデルGpfr(s)は、コントローラ2のソフト演算負荷低減のため、上記式(43)の近似式である式(44)〜(46)のいずれの式を用いても良い。
加算器813は、制御ブロック806の出力であるリアモータ回転角速度推定値に、制御ブロック807の出力である補正リアモータ回転角速度推定値を加算することにより、フロント駆動輪の制駆動力を考慮して補正された、補正後のリアモータ回転角速度推定値を算出する。これにより、リアモータ回転角速度の推定値と検出値とを一致させることができる。
減算器814は、補正後のリアモータ回転角速度推定値からリアモータ回転角速度ωmr(検出値)を減算して、リアモータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を算出し、算出した値を制御ブロック808に出力する。
制御ブロック808は、上記式(42)で表すバンドパスフィルタHr(s)と、上記式(25)で表す車両モデルGprr(s)の逆特性とから構成される。制御ブロック808は、モータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を入力とし、Hr(s)/Gpr(s)を乗算することにより、第4のトルク指令値を算出する。
そして、加算器812において、第1のトルク指令値と第2のトルク指令値とが足し合わされて、リア最終トルク指令値Tmrf *が算出される。
以上説明した第2実施形態にかかる制振制御処理によっても、第1実施形態の制振制御処理と同様に、車両の駆動力伝達系において主にドライブシャフトのねじりに起因した振動を抑制することができる。
−第3実施形態−
以下に説明する第3実施形態の電動車両の制御方法は、ステップS204で実行される制振制御処理の態様が第1、第2実施形態と相違する。以下、上記実施形態との相違点について図15を用いて説明する。
図15は、第3実施形態の制振制御演算処理を実現するブロック構成図の一例である。図15に示す制御ブロックは、フロントF/F補償器801と、リアF/F補償器805と、車両モデル1001と、制御ブロック804と、制御ブロック808と、加算器1508、1509と、減算器1506、1507とから構成される。
フロントF/F補償器801は、フロントの駆動軸ねじり振動を抑止するフィルタであって、上記式(24)で表されるフィルタGrff(s)/Gpff(s)から構成される。フロントF/F補償器801は、フロント目標トルク指令値Tmf1 *を入力とし、上記式(24)によるF/F補償処理を行うことにより、第1のトルク指令値を算出する。
リアF/F補償器805は、リアの駆動軸ねじり振動を抑止するフィルタであって、上記式(27)で表されるフィルタGrrr(s)/Gprr(s)から構成される。リアF/F補償器805は、リア目標トルク指令値Tmr1 *を入力とし、上記式(27)によるF/F補償処理を行うことにより、第3のトルク指令値を算出する。
車両モデル1001は、図11を用いて上述した車両モデルである。車両モデル1001は、第1のトルク指令値と第3のトルク指令値とを入力とし、フロントモータ回転角速度推定値ω^mfと、リアモータ回転角速度推定値ω^mrとを算出する。
図15で示す減算器1506は、フロントモータ回転角速度推定値ω^mfからモータ回転角速度ωmf(検出値)を減算して、モータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を算出し、算出した値を制御ブロック804に出力する。
制御ブロック804は、上記式(41)で表すバンドパスフィルタHf(s)と、上記式(22)で表す車両モデルGpff(s)の逆特性とから構成される。制御ブロック804は、モータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を入力とし、Hf(s)/Gpff(s)を乗算することにより、第2のトルク指令値を算出する。
加算器1508は、第1のトルク指令値と第2のトルク指令値とを足し合わせて、フロント最終トルク指令値Tmff *を算出する。
一方、減算器1507は、リアモータ回転角速度推定値ω^mrからモータ回転角速度ωmr(検出値)を減算して、モータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を算出し、算出した値を制御ブロック808に出力する。
制御ブロック808は、上記式(42)で表すバンドパスフィルタHr(s)と、上記式(25)で表す車両モデルGprr(s)の逆特性とから構成される。制御ブロック805は、モータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を入力とし、Hr(s)/Gprr(s)を乗算することにより、第4のトルク指令値を算出する。
加算器1509は、第1のトルク指令値と第2のトルク指令値とを足し合わせて、リア最終トルク指令値Tmrf *を算出する。
ここで、フロント駆動システムの駆動軸ねじり共振周波数fpfと、リア駆動システムの駆動軸ねじり共振周波数fprとが異なる場合(fpf≠fpr)は、フロント駆動輪とリア駆動輪の駆動力応答を揃えるために、フロントF/F補償器801が行うF/F補償処理と、リアF/F補償器805が行うF/F補償処理の規範応答を一致させても良い。すなわち、図16で示すように、フロントF/F補償器801の構成に、制御ブロック1101を考慮することにより、フロントF/F補償器801が行うF/F補償処理と、リアF/F補償器802が行うF/F補償処理の規範応答を一致させることができる。
これにより、ドライバがアクセルをON/OFF操作した際のフロント/リアのトルクの立上りと立下りをそれぞれ統一させることができるので、フロント/リア駆動輪の駆動力の応答スピードの違いにより2段加速感が生じることを抑止することができる。また、制振制御のアウターループの制御系を設計する際、複数駆動輪の規範応答を揃えることにより、制御系の設計を容易にすることができる。
図16に示す制御ブロック1101は、次式(47)で表されるフィルタGrrr(s)/Grff(s)から構成される。
また、fpf≠fprの場合には、フロント駆動輪とリア駆動輪の駆動力応答を揃えるために、フロントF/F補償器801とリアF/F補償器805とを、図17で示すような構成としてもよい。すなわち、フロントF/F補償器801がフロントの駆動軸ねじり振動を抑止するフィルタGrrr(s)/Gprr(s)を、リアF/F補償器802が、リアの駆動軸ねじり振動を抑止するフィルタGrff(s)/Gpff(s)をそれぞれ加えて構成されても良い。このような構成によっても、フロントF/F補償器801が行うF/F補償処理と、リアF/F補償器802が行うF/F補償処理の規範応答を一致させることができる。
このような構成によれば、複数駆動輪のねじり振動周波数が全て減衰されるので、フロント/リアのF/F補償器801、802のみで、全ての駆動軸ねじり振動を抑制することができる。
なお、フロント駆動システムの駆動軸ねじり共振周波数fpfが、リア駆動システムの駆動軸ねじり共振周波数fprより小さい場合(fpf<fpr)は、フロント/リアの駆動輪の規範応答を低周波側の特性に合わせるために、高周波側のリアF/F補償器805のF/F補償処理を、フロントF/F補償器801のF/F補償処理側に考慮しても良い。すなわち、図18で示すように、リアF/F補償器802の構成に、制御ブロック1201を考慮することにより、フロント/リア駆動輪の駆動力応答を、より低周波側の特性に合わせることができる。制御ブロック1201は、上記式(26)で表す車両モデルGrrr(s)の逆特性と、上記式(23)で表す車両モデルGrff(s)とで表されるフィルタGrff(s)/Grrr(s)により構成される。
ここで、複数駆動輪の規範応答を高周波側に合わせると、低周波側の駆動軸ねじり振動周波数特性を持つ駆動輪に対して進み補償が必要となるので、当該駆動輪に対して、ドライバの要求するトルク以上のトルクを指示するトルク指令値を設定することになる。しかしながら、全開加速時等はトルクの上下限制限等があるため、進み補償を行うと規範応答通りのトルクを出力できない場合がある。したがって、本実施形態では、複数駆動輪の規範応答を低周波側に合わせている。
以上説明した第3実施形態にかかる制振制御処理によっても、第1、第2実施形態の制振制御処理と同様に、車両の駆動力伝達系において主にドライブシャフトのねじりに起因した振動を抑制することができる。
−第4実施形態−
以下に説明する第4実施形態の電動車両の制御方法は、停止制御処理における外乱トルク推定値Tdの算出方法が第1実施形態〜第3実施形態と相違する。以下、第1実施形態との相違点について説明する。
図19は第4実施形態において停止制御処理を実現するためのブロック図である。外乱トルク推定器2000の内部構成が第1実施形態の外乱トルク推定器502と相違する。なお、第1実施形態と同様の構成には同じ指示番号を付して、説明を省略する。
外乱トルク推定器2000は、フロントモータ回転角速度ωmfと、フロント目標トルク指令値Tmf1 *と、リア目標トルク指令値Tmr1 *とに基づいて、外乱トルク推定値Tdを算出する。これにより、車輪速センサ等の他のセンサ類を使用することなく、モータ4fの回転センサ(フロント磁極位置センサ6f)のみを用いて外乱トルクを推定することができる。外乱トルク推定器2000の詳細は、図20を用いて説明する。
図20は、外乱トルク推定器2000の詳細を説明する図である。外乱トルク推定器2000は、制御ブロック901、902、903と、加算器904と、減算器905とを備える。
制御ブロック901は、上記式(32)で示す伝達関数であって、リア目標トルク指令値Tmr1 *からフロントモータ回転角速度ωmfまでの伝達関数Grrf(s)を適用し、リア目標トルク指令値Tmr1 *から、フロントモータ回転角速度ωmfの補正量(回転角速度補正値)を算出する。
加算器904は、フロントモータ回転角速度ωmfに制御ブロック901から出力される補正量を加算し、得た値を制御ブロック902に出力する。
制御ブロック902は、加算器904から出力される補正後のフロントモータ回転角速度ωmfに対して、ローパスフィルタH1(s)と伝達関数Grff(s)の逆特性とからなるフィルタH1(s)/Grff(s)によるフィルタリング処理を施すことにより第1のモータトルク推定値を算出する。算出した第1のモータトルク推定値は減算器905に出力される。なお、ローパスフィルタH1(s)は、分母次数と分子次数との差分が車両応答Grff(s)の分母次数と分子次数との差分以上となる伝達特性を有するフィルタであって、上記式(36)で示される。
制御ブロック903では、フロント目標トルク指令値Tmf1 *にローパスフィルタH1(s)によるフィルタリング処理を施すことにより第2のモータトルク推定値を算出する。
そして、減算器905によって、第1のモータトルク推定値と第2のモータトルク推定値との偏差が演算されることにより、車両に作用する外乱を表す外乱トルク推定値Tdが算出される。
このように、本実施形態の外乱トルク推定値Tdは、リアのモータトルク指令値(Tmr1 *)からフロントのモータ回転角速度(ωmf)までの伝達特性を考慮して外乱トルク推定値Tdが算出されるので、ドライブシャフトのねじり特性や、タイヤのスリップ特性などが考慮されたより正確な外乱トルク推定値を算出することができる。
なお、第4実施形態にかかる停止制御処理も、システム構成1に限らず、図24〜26に示すシステム構成2〜4を備える電動車両にも適用することができる。
停止制御処理がシステム構成2に適用される場合は、電動モータ4fa、4fb、4ra、4rbの四つのモータの総制駆動力に基づいて外乱トルク推定値Tdが推定される。より詳細には、システム構成2における外乱トルク推定器Tdは、図19で示す外乱トルク推定器2000に一のモータとしての電動モータ4fa、および他のモータとしての電動モータ4fb、4ra、4rbの制駆動力を指令する各トルク指令値が入力されて算出される。外乱トルク推定器2000では、各モータへのトルク指令値から一のモータの回転角速度までの伝達関数(式32参照)を用いて、他のモータとしての電動モータ4fb、4ra、4rbの制駆動力を指令する各トルク指令値から一のモータのモータ回転角速度の補正量(回転角速度補正値)を算出する。そして、当該回転角速度補正値を加算することにより電動モータ4faのモータ回転角速度を補正する。これにより、システム構成2においても上述の実施形態による停止制御と同様の効果を得ることができる。
停止制御処理がシステム構成3に適用される場合は、電動モータ4f、4ra、4rbの三つのモータの総制駆動力に基づいて外乱トルク推定値Tdが推定される。より詳細には、システム構成3における外乱トルク推定器Tdは、図19で示す外乱トルク推定器2000に一のモータとしての電動モータ4f、および他のモータとしての電動モータ4ra、4rbの制駆動力を指令する各トルク指令値が入力されて算出される。外乱トルク推定器2000では、各モータへのトルク指令値から一のモータの回転角速度までの伝達関数(式32参照)を用いて、他のモータとしての電動モータ4ra、4rbの制駆動力を指令する各トルク指令値から一のモータのモータ回転角速度の補正量(回転角速度補正値)を算出する。そして、当該回転角速度補正値を加算することにより電動モータ4fのモータ回転角速度を補正する。これにより、システム構成3においても上述の実施形態による停止制御と同様の効果を得ることができる。
停止制御処理がシステム構成4に適用される場合は、電動モータ4ra、4rbのリアの二つのモータの総制駆動力に基づいて外乱トルク推定値Tdが推定される。より詳細には、システム構成4における外乱トルク推定器Tdは、図19で示す外乱トルク推定器2000に一のモータとしての電動モータ4ra、および他のモータとしての電動モータ4rbの制駆動力を指令する各トルク指令値が入力されて算出される。外乱トルク推定器2000では、各モータへのトルク指令値から一のモータの回転角速度までの伝達関数(式32参照)を用いて、他のモータとしての電動モータ4rbの制駆動力を指令するトルク指令値から一のモータのモータ回転角速度の補正量(回転角速度補正値)を算出する。そして、当該回転角速度補正値を加算することにより電動モータ4raのモータ回転角速度を補正する。これにより、システム構成4においても上述の実施形態による停止制御と同様の効果を得ることができる。
以上、第4実施形態の電動車両の制御方法によれば、二つ以上のモータのうちの他のモータ(4r)のトルク入力から一のモータ(4a)の回転角速度までの伝達関数のフィルタ(伝達関数Grrf(s))を用いて、他のモータ(4a)へのモータトルク指令値(リア目標トルク指令値Tmr1 *)をフィルタ(伝達関数Grrf(s))に入力することにより回転角速度補正値を算出し、回転角速度補正値に基づいて一のモータ(4f)の回転角速度(フロントモータ回転角速度ωmf)を補正し、一のモータ(4f)へのモータトルク指令値と、補正後の一のモータ(4f)の回転角速度(ωmf)とに基づいて外乱トルクを推定する。これにより、リアのモータトルク指令値(Tmr1 *)からフロントのモータ回転角速度(ωmf)までの伝達特性を考慮して外乱トルク推定値Tdが算出されるので、ドライブシャフトのねじり特性や、タイヤのスリップ特性などが考慮されたより正確な外乱トルク推定値を算出することができる。
−第5実施形態−
以下に説明する第5実施形態の電動車両の制御方法は、停止制御処理における外乱トルク推定値Tdの算出方法が第1実施形態〜第4実施形態と相違する。以下、上記実施形態との相違点について説明する。
図21は第5実施形態において停止制御処理を実現するためのブロック図である。本実施形態の外乱トルク推定器3000は、その配置は第1、第2実施形態の外乱トルク推定器502、2000(図6、19参照)と同様であるが、内部構成が第1、第2実施形態の外乱トルク推定器502、2000と相違する。
外乱トルク推定器3000は、車両モデル1001と、制御ブロック1002と、減算器1003とを備える。
車両モデル1001は、上述した4WD車両の運動方程式(4)〜(14)と等価に構成された車両モデルである(図11参照)。車両モデル1001は、フロント目標トルク指令値Tmf1 *とリア目標トルク指令値Tmr1 *とを入力とし、フロントモータ回転角速度推定値ω^mfを算出する。算出したフロントモータ回転角速度推定値ω^mfは減算器1003に出力される。
減算器1003は、フロントモータ回転角速度推定値ω^mfからフロントモータ回転角速度ωmfを減算することによりフロントモータ回転角速度偏差を算出して、制御ブロック1002に出力する。
そして、制御ブロック1002において、フロントモータ回転角速度偏差に対して、第4実施形態で上述したのと同様のフィルタH1(s)/Grrf(s)によるフィルタリング処理が施されることにより外乱トルク推定値Tdが算出される。
このように、本実施形態の外乱トルク推定値Tdは、複数の駆動モータを有する車両モデル(1001)を用いて推定されるので、複数のモータを有する車両特性が緻密に考慮されたより正確な外乱トルク推定値を算出することができる。
なお、第5実施形態にかかる停止制御処理も、システム構成1に限らず、図24〜26に示すシステム構成2〜4を備える電動車両にも適用することができる。
停止制御処理がシステム構成2に適用される場合は、電動モータ4fa、4fb、4ra、4rbの四つのモータの総制駆動力に基づいて外乱トルク推定値Tdが推定される。より詳細には、システム構成2における外乱トルク推定器3000は、車両モデル1001に代えて図37で示す車両モデル3101を備える。そして、車両モデル3101に一のモータとしての電動モータ4fa、および他のモータとしての電動モータ4fb、4ra、4rbの制駆動力を指令する各トルク指令値が入力されることで電動モータ4faのモータ回転角速度推定値が算出され、算出されたモータ回転角速度推定値に基づいて外乱トルク推定値Tdが算出される。これにより、システム構成2においても上述の実施形態による停止制御と同様の効果を得ることができる。
停止制御処理がシステム構成3に適用される場合は、電動モータ4f、4ra、4rbの三つのモータの総制駆動力に基づいて外乱トルク推定値Tdが推定される。より詳細には、システム構成2における外乱トルク推定器3000は、車両モデル1001に代えて、図37で示す車両モデル3101からモータ回転角速度推定値を算出する一つの系を削除することによって三つのモータに対応可能に構成された車両モデルを備える。そして、当該車両モデルに一のモータとしての電動モータ4f、および他のモータとしての電動モータ4ra、4rbの制駆動力を指令する各トルク指令値が入力されることにより電動モータ4fのモータ回転角速度推定値が算出され、算出されたモータ回転角速度推定値に基づいて外乱トルク推定値Tdが算出される。これにより、システム構成3においても上述の実施形態による停止制御と同様の効果を得ることができる。
停止制御処理がシステム構成4に適用される場合は、電動モータ4ra、4rbのリアの二つのモータの総制駆動力に基づいて外乱トルク推定値Tdが推定される。より詳細には、システム構成2における外乱トルク推定器3000は、車両モデル1001に代えて図32で示す車両モデル2603を備える。そして、車両モデル2603に一のモータとしての電動モータ4ra、および他のモータとしての電動モータ4rbの制駆動力を指令する各トルク指令値が入力されることにより電動モータ4raのモータ回転角速度推定値が算出され、算出されたモータ回転角速度推定値に基づいて外乱トルク推定値Tdが算出される。これにより、システム構成4においても上述の実施形態による停止制御と同様の効果を得ることができる。
以上、第5実施形態の電動車両の制御方法によれば、二つ以上のモータの全てのトルク入力から少なくとも一のモータ(4f)の回転角速度(ωmf)までの伝達特性を模擬した車両モデル1001を用いて、二つ以上のモータへの全てのモータトルク指令値を車両モデル1001に入力することにより一のモータ(4f)のモータ回転角速度推定値(ω^mf)を算出し、一のモータ回転角速度(ωmf)と一のモータ(4f)のモータ回転角速度推定値(ω^mf)とに基づいて外乱トルクを推定する。これにより、外乱トルクが複数の駆動モータを有する車両モデル(1001)を用いて推定されるので、複数のモータを有する車両特性が緻密に考慮されたより正確な外乱トルク推定値Tdを算出することができる。
−第6実施形態−
以下に説明する第6実施形態の電動車両の制御方法は、停止制御処理における外乱トルク推定値Tdの算出方法が第1実施形態〜第5実施形態と相違する。以下、上記実施形態との相違点について説明する。
図22は第6実施形態において停止制御処理を実現するためのブロック図である。外乱トルク推定器4000の構成が第1〜第3実施形態の外乱トルク推定器(502、2000、3000)と相違する。なお、第1実施形態と同様の構成には同じ指示番号を付して、説明を省略する。
外乱トルク推定器4000は、フロントモータ回転角速度ωmfと、上述のF/F補償器1301から出力されるフロントモータ回転角速度推定値ω^mfとに基づいて外乱トルク推定値Tdを算出する。ここで、フロントモータ回転角速度推定値ω^mfは、F/F補償器1301について上述したとおり、フロント目標トルク指令値Tmf1*とリア目標トルク指令値Tmr1*とに基づいて算出される(特に図11の車両モデル1001参照)。換言すると、フロントモータ回転角速度推定値ω^mfは、二つのモータ(4f、4r)のトルク入力から一のモータ(4f)の回転角速度(ωmf)までの伝達特性を模擬した車両モデル1001を用いて算出される。すなわち、本実施形態における外乱トルク推定値Tdも、モータ4f(一のモータ)とモータ4r(他のモータ)とが出力する全ての制駆動力(総制駆動力)に基づいて算出される。外乱トルク推定器4000の詳細は、図23を用いて説明する。
図23は、外乱トルク推定器4000の詳細を説明する図である。外乱トルク推定器4000は、制御ブロック1201と減算器1202とを備える。
減算器1202は、フロントモータ回転角速度推定値ω^mfからフロントモータ回転角速度ωmfを減算することによりフロントモータ回転角速度偏差を算出して制御ブロック1201に出力する。
そして、制御ブロック1201において、フロントモータ回転角速度偏差に対して、第4、第5実施形態で上述したのと同様のフィルタH1(s)/Grff(s)によるフィルタリング処理が施されることにより外乱トルク推定値Tdが算出される。
このように、本実施形態の外乱トルク推定値Tdは、制振制御処理で用いられるF/F補償器1301から出力される駆動力伝達系振動が抑制された規範応答としてのフロントモータ回転角速度推定値ω^mfを用いて推定されるので、複数駆動モータを有する車両に適用される制振制御が考慮されたより正確な外乱トルクを推定することができる。
なお、第6実施形態にかかる停止制御処理も、システム構成1に限らず、図24〜26に示すシステム構成2〜4を備える電動車両にも適用することができる。
停止制御処理がシステム構成2に適用される場合は、電動モータ4fa、4fb、4ra、4rbの四つのモータの総制駆動力に基づいて外乱トルク推定値Tdが推定される。より詳細には、システム構成2において外乱トルク推定器4000に入力される一のモータのモータ回転角速度推定値は、車両モデル1001に代えて図37で示す車両モデル3101を用いて算出される。そして、車両モデル3101に一のモータとしての電動モータ4fa、および他のモータとしての電動モータ4fb、4ra、4rbの制駆動力を指令する各トルク指令値が入力されることで電動モータ4faのモータ回転角速度推定値が算出され、算出されたモータ回転角速度推定値に基づいて外乱トルク推定値Tdが算出される。これにより、システム構成2においても上述の実施形態による停止制御と同様の効果を得ることができる。
停止制御処理がシステム構成3に適用される場合は、電動モータ4f、4ra、4rbの三つのモータの総制駆動力に基づいて外乱トルク推定値Tdが推定される。より詳細には、システム構成2において外乱トルク推定器4000に入力される一のモータのモータ回転角速度推定値は、車両モデル1001に代えて、図37で示す車両モデル3101からモータ回転角速度推定値を算出する一つの系を削除することによって三つのモータに対応可能に構成された車両モデルを用いて算出される。そして、当該車両モデルに一のモータとしての電動モータ4f、および他のモータとしての電動モータ4ra、4rbの制駆動力を指令する各トルク指令値が入力されることにより電動モータ4fのモータ回転角速度推定値が算出され、算出されたモータ回転角速度推定値に基づいて外乱トルク推定値Tdが算出される。これにより、システム構成3においても上述の実施形態による停止制御と同様の効果を得ることができる。
停止制御処理がシステム構成4に適用される場合は、電動モータ4ra、4rbのリアの二つのモータの総制駆動力に基づいて外乱トルク推定値Tdが推定される。より詳細には、システム構成2において外乱トルク推定器4000に入力される一のモータのモータ回転角速度推定値は、車両モデル1001に代えて図32で示す車両モデル2603を用いて算出される。そして、車両モデル2603に一のモータとしての電動モータ4ra、および他のモータとしての電動モータ4rbの制駆動力を指令する各トルク指令値が入力されることにより電動モータ4raのモータ回転角速度推定値が算出され、算出されたモータ回転角速度推定値に基づいて外乱トルク推定値Tdが算出される。これにより、システム構成4においても上述の実施形態による停止制御と同様の効果を得ることができる。
以上、第6実施形態の電動車両の制御方法によれば、前記モータトルク指令値は、制振制御処理(第1実施形態において説明した制振制御処理を参照)が施された後のトルク指令値であって、制振制御処理は、制振制御処理が施される前のモータトルク指令値(Tmf1 *)に基づくフィードフォワード演算により第1のトルク指令値を算出し、一のモータ(4f)の回転角速度(ωmf)を検出し、第1のトルク指令値に基づいて、2以上の全てのモータ(4f、4r)のトルク入力から一のモータ(4f)の回転角速度(ωmf)までの伝達特性を模擬した車両モデル1001(Gpff(s))を用いて一のモータ(4fr)の回転角速度を推定し、一のモータ(4f)のトルク入力から一のモータ(4f)の回転角速度(ωmf)までの伝達特性を模擬した伝達特性(Gpff(s))の逆特性と、車両のねじり振動周波数近傍の周波数を中心周波数とするバンドパスフィルタ(Hf(s))とで構成される制振制御フィルタ(Hf(s)/Gpff(s))を用いて、一のモータ(4f)の回転角速度の検出値(ωmf)と推定値(ω^mf)との偏差から第2のトルク指令値を算出し、第1のトルク指令値と前記第2のトルク指令値とを加算してモータトルク指令値(Tmff)を算出し、外乱トルクは、制振制御処理において算出される一のモータ(4f)の回転角速度の推定値(ω^mf)と、一のモータ(4f)の回転角速度(ωmf)とから推定される。これにより、複数駆動モータを有する車両に適用される制振制御が考慮されたより正確な外乱トルクを推定することができる。
ここで、これまで説明した本発明の電動車両の制御方法は、システム構成1に限らず図24〜26で示すシステム構成2〜4を備える電動車両にも同様に適用することができる。以下では、システム構成2〜4に適用される場合の制振制御処理を第7実施形態として説明する。
−第7実施形態−
まず、各システム構成2〜4のブロック構成について説明する。
〈システム構成2〉
図24は、本発明の制御方法が適用される電動車両のシステム構成2を示すブロック図である。システム構成2に係る電動車両は、合計4つの駆動モータを備えた4WD車両である。より詳細には、当該車両は、左右のフロント駆動輪9fa、9fb、および、左右のリア駆動輪9ra、9rbが駆動源としての電動モータ4fa、fb、ra、rbをそれぞれ独立して有している。
バッテリ1は、各電動モータ4fa、4fb、4ra、4rbの駆動電力の放電、および、電動モータ4fa、4fb、4ra、4rbの回生電力の充電を行う。なお、システム構成2にかかる以下の説明では各電動モータ4fa、4fb、4ra、4rbをまとめて、単に「各電動モータ4」とも称する。
電動モータコントローラ2は、例えば、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、および、入出力インタフェース(I/Oインタフェース)から構成される。電動モータコントローラ2には、車速V、アクセル開度θ、各電動モータ4のそれぞれの回転子位相α(αfa、αfb、αra、αrb)、各電動モータ4のそれぞれの実電流(三相交流の場合は、iu、iv、iw)、制駆動力指令値等の車両状態を示す各種車両変数の信号がデジタル信号として入力される。電動モータコントローラ2は、入力された信号に基づいて各電動モータ4を制御するためのPWM信号を生成する。また、生成したPWM信号に応じて各インバータ3(3fa、3fb、3ra、3rb)の駆動信号を生成する。なお、前述の制駆動力指令値は、ブレーキやエンジン出力など、システム構成2の電動モータ4以外に車両に作用する制駆動力(制駆動トルク)を指示する制駆動力指令値、または、例えばブレーキ圧センサなどのセンサにより検出される計測値等が使用されても良い。
インバータ3(3fa、3fb、3ra、3rb)は、相ごとに備えられた2個のスイッチング素子(例えば、IGBTやMOS−FET等のパワー半導体素子)をオン/オフすることにより、バッテリ1から供給される直流の電流を交流に変換あるいは逆変換し、各インバータ3にそれぞれつながる電動モータ4に所望の電流を流す。
各電動モータ4(三相交流モータ)は、各インバータ3から供給される交流電流により駆動力を発生し、各減速機5(5fa、5fb、5ra、5rb)および各駆動軸8(8fa、8fb、8ra、8rb)を介して、左右の駆動輪9(9fa、9fb、9ra、9rb)それぞれに駆動力を伝達する。また、電動モータ4は、車両の走行時に左右の各駆動輪9fa、9fb、9ra、9rbに連れ回されて回転するときに、回生駆動力を発生させることで、車両の運動エネルギーを電気エネルギーとして回収する。この場合、各インバータ3は、電動モータ4の回生運転時に発生する交流電流を直流電流に変換して、バッテリ1に供給する。
電流センサ7f、7rは、各電動モータ4に流れる3相交流電流iu、iv、iwを検出する。ただし、3相交流電流iu、iv、iwの和は0であるため、任意の2相の電流を検出して、残りの1相の電流は演算により求めてもよい。
回転センサ6(6fa、6fb、6ra、6rb)は、例えば、レゾルバやエンコーダであり、各電動モータ4それぞれの回転子位相αを検出する。
〈システム構成3〉
図25は、本発明の制御方法が適用される電動車両のシステム構成3を示すブロック図である。
システム構成3がシステム構成2と異なる主な点は、車両のフロントの構成が、左右の駆動輪9fa、9fbを一つのモータ(電動モータ4f)によって駆動するように構成されていることである。すなわち、システム構成2に係る電動車両は、合計3つの駆動モータを備えた4WD車両である。システム構成3に係る電動車両は、左右のリア駆動輪9ra、9rbが駆動源としての電動モータ4ra、rbをそれぞれ独立して有し、左右のフロント駆動輪9fa、9fbが共通の駆動源としての電動モータ4fを有している。
〈システム構成4〉
図26は、本発明の制御方法が適用される電動車両のシステム構成4を示すブロック図である。
システム構成4がシステム構成2、および3と異なる主な点は、車両のフロントには駆動モータを備えていないことである。すなわち、システム構成4に係る電動車両は、左右のリア駆動輪9ra、9rbが駆動源としての電動モータ4ra、rbをそれぞれ独立して有する電動車両であって、合計2つの駆動モータを備えた2WD車両である。
以上が、システム構成2、3、および4の概要である。以下では、システム構成2〜4において行われる処理の流れを図4で示すフローチャートを参照して、主にシステム構成1と異なる点を中心に説明する。
システム構成2〜4に係る電動モータコントローラ2においても、ステップS201からステップS206に係る処理が、車両システムが起動している間、一定の間隔で常時実行されるようにプログラムされている。なお、以下の説明において説明する構成および検出値等は、一つの値のみが示されている場合であっても、各システム構成2、3、および4が備える構成数に準じるものとする。例えば、以下における電動モータ4の「回転子位相α(rad)」の記載は、システム構成2に適用する場合は「回転子位相α(αfa、αfb、αra、αrb)」を示し、システム構成3に適用する場合は「回転子位相α(αf、αra、αrb)」を示し、システム構成4に適用する場合は「回転子位相α(αra、αrb)」を示すものとする。
ステップS201では、車両状態を示す信号が電動モータコントローラ2に入力される。ここでは、車速V(km/h)、アクセル開度θ(%)、電動モータ4の回転子位相α(rad)、電動モータ4の回転速度Nm(rpm)、電動モータ4に流れる三相交流電流iu、iv、iw、バッテリ1の直流電圧値Vdc(V)が入力される。
車速V(km/h)は、図示しない車速センサや、他のコントローラより通信にて取得される。または、電動モータコントローラ2は、回転子機械角速度ωmにタイヤ動半径rを乗算し、ファイナルギアのギア比で除算することにより車速v(m/s)を求め、3600/1000を乗算することで単位変換して、車速V(km/h)を求める。なお、車速V(車体速度)は、システム構成1の説明において図7を参照して説明したように、任意の一つのモータのモータ回転角速度に応じて推定されてもよい。
電動モータ4の回転子位相α(rad)は、回転センサ6から取得される。電動モータ4の回転速度Nm(rpm)は、回転子角速度ω(電気角)を電動モータの極対数pで除算して、電動モータ4の機械的な角速度であるモータ回転角速度ωm(rad/s)を求め、求めたモータ回転角速度ωmに60/(2π)を乗算することによって求められる。回転子角速度ωは、回転子位相αを微分することによって求められる。
ステップS202では、電動モータコントローラ2が、車両情報に基づいて、ドライバが要求する基本目標トルクとしての第1のトルク指令値Tm1 *を設定する。具体的には、電動モータコントローラ2は、ステップS201で入力されたアクセル開度θ及び車速Vに基づいて、図27に示すアクセル開度−トルクテーブルを参照することにより、第1のトルク指令値Tm1 *を設定する。
ステップS203に係る停止制御処理は、システム構成1において説明したのと同様に適用される。すなわち、ステップS203では、システム構成2〜4においても、電動モータコントローラ2が車両が停車間際か否かを判定し、停車間際でない場合は、ステップS202で算出した第1のトルク目標値Tm1 *を第3のトルク目標値Tm3 *に設定し、停車間際の場合は、第2のトルク目標値Tm2 *を第3のトルク目標値Tm3 *に設定する。
次に、電動モータコントローラ2は、各電動モータ4への駆動力の配分を設定する。
図28は、システム構成2における前後駆動力配分処理を説明するための図である。図中のKfは、第3のトルク目標値Tm3 *を、フロント駆動モータ4fa、fbと、リア駆動モータ4ra、rbとに分配するための値であって、0〜1の間の値に設定される(図19の乗算器505参照)。電動モータコントローラ2は、第3のトルク目標値Tm3 *に、0〜1の間の値に設定されるKfを乗じることにより、フロント駆動システムへのフロント目標トルク指令値Tmf1 *を算出する。同時に、電動モータコントローラ2は、第3のトルク目標値Tm3 *に、1−Kfを乗じることで、リア駆動システムのリア目標トルク指令値Tmr1 *を算出する(図19の乗算器506参照)。
次に、フロントの左右のモータの駆動力を分配するために、0〜1の間の値に設定されるKfrをフロント目標トルク指令値Tmf1 *に乗じることで第3の目標トルク指令値Tm1a *を算出するとともに、フロント目標トルク指令値Tmf1 *に1−Kfrを乗じることで第4の目標トルク指令値Tm1b *を算出する。
さらに、リアの左右のモータの駆動力を分配するために、0〜1の間の値に設定されるKrrをリア目標トルク指令値Tmr1 *に乗じることで第1の目標トルク指令値Tmr1a *を算出するとともに、リア目標トルク指令値Tmr1 *に1−Krrを乗じることで第2の目標トルク指令値Tmr1b *を算出する。
なお、システム構成3における前後駆動力配分処理では、図28で示すフロント目標トルク指令値Tmf1 *がフロントの電動モータ4fに対する第3の目標トルク指令値Tmla *として算出される。
図29は、システム構成4においてリアの左右駆動力配分処理を説明するための図である。システム構成4は、リアの2WD車両であって、駆動力を前後に分配しないので、第3のトルク目標値Tm3 *がそのままリア目標トルク指令値Tmr1 *となる。図中のKrrは、リア目標トルク指令値Tmr1 *に応じて出力する駆動力を、リア駆動モータ4raと、リア駆動モータ4rbとに分配するための値であり、0〜1の間の値に設定される。電動モータコントローラ2は、リア目標トルク指令値Tmr1 *に、0〜1の間の値に設定されるKrrを乗じることで第1の目標トルク指令値Tmr1a *を算出するとともに、リア目標トルク指令値Tmr1 *に1−Krrを乗じることで第2の目標トルク指令値Tmr1b *を算出する。
そして、ステップS204において電動モータコントローラ2が制振制御処理を実行する。以下、システム構成2〜4に適用される制振制御処理の詳細について説明する。なお、ステップS205〜S206の処理は、システム構成1において説明したのと同様に実行される。
以下では、まず、第1実施形態の電動車両の制御方法に係る制振制御処理がシステム構成4に適用される場合の詳細を説明する。
まず初めに、左右の駆動輪(左右輪)にそれぞれ対応する電動モータ4ra、4rbを有している2WD車両(システム構成4、図26参照)のフロントトルク指令値からフロントモータ回転角速度の運動方程式について、図30を参照して説明する。
図30は、車両の駆動力伝達系をモデル化した図である。同図における各パラメータはシステム構成1の説明において図5を参照して上述したものと同様である。
図30より、左右輪にそれぞれ駆動源としての電動モータを有している車両の運動方程式は、次式(48)〜(58)で表される。
上記式(48)〜(58)をラプラス変換して、電動モータ4raのモータトルクTmfから電動モータ4raのモータ回転角速度ωmfまでの伝達特性を求めると、次式(59)で表せる。
ただし、式(59)中の各パラメータは、それぞれ以下式(60)〜(65)で表される。
式(59)に示す伝達関数の極と零点を調べると、次式(65)となる。
式(65)のαとα´、βとβ´、ζprとζpr´、ωprとωpr´が極めて近い値を示すため、極零相殺(α=α´、β=β´、ζpr=ζpr´、ωpr=ωpr´と近似する)することにより、次式(66)に示すような(2次)/(3次)の伝達特性Gp(s)を構成することができる。
結果として、左右駆動輪にそれぞれ駆動モータを有している車両の運動方程式は、右の駆動モータ(電動モータ4ra)のモータトルクTmfから右の駆動モータ(電動モータ4ra)のモータ回転角速度ωmfまでの伝達特性を2次/3次式で表した車両モデルGp(s)に近似することができる。
ここで、ドライブシャフト8raに起因するねじり振動を抑止する規範応答を次式(67)とする場合、右の駆動モータ(電動モータ4ra)のねじり振動を抑止するフィードフォワード補償器(F/F補償器2601、図31参照)は、以下式(68)で表せる。
同様に、左の駆動モータ(電動モータ4rb)のモータトルクTmrから左の駆動モータ(電動モータ4rb)のモータ回転角速度2ωmrまでの伝達特性を求めると、次式(69)となる。
ここで、ドライブシャフト8rbに起因するねじり振動を抑止する規範応答を次式(70)とする場合、左の駆動モータ(電動モータ4rb)のねじり振動を抑止するF/F補償器(F/F補償器2602、図31参照)は、以下式(71)で表せる。
続いて、左の駆動モータ(電動モータ4rb)のモータトルクTmrから右の駆動モータ(電動モータ4ra)のモータ回転角速度ωmfまでの運動方程式について説明する。
上記式(48)〜(58)をラプラス変換して、左の駆動モータ(電動モータ4rb)のモータトルクTmrから右の駆動モータ(電動モータ4ra)のモータ回転角速度ωmfまでの伝達特性を求めると、次式(72)で表せる。なお、式(72)中の各パラメータは、それぞれ上記式(60)〜(64)で表される。
式(72)に示す伝達関数の極を調べると、次式(73)となる。
ただし、式(73)の極のαとβは、原点と支配的な極から遠い位置にあるため、Gprf(s)で表される車両モデルへの影響は少ない。したがって、式(73)は、次式(74)で表す伝達関数に近似することができる。
さらに、車両モデルGprf(s)に左の駆動モータ(電動モータ4rb)の制振制御アルゴリズムを考慮すると、次式(75)で示す伝達関数となる。
次に、右の駆動モータ(電動モータ4ra)のモータ回転角速度推定値の規範応答から右の駆動モータ(電動モータ4ra)のねじり振動を抑止するために、式(75)の伝達関数を次式(76)の伝達関数とする。
同様に、右の駆動モータ(電動モータ4ra)の最終トルク指令値Tmfから左の駆動モータ(電動モータ4rb)のモータ回転角速度ωmrまでの伝達特性は、式(77)となる。
ただし、式(77)の極のαとβは、原点と支配的な極から遠い位置にあるため、Gpfr(s)で表される車両モデルへの影響は少ない。したがって、式(77)は、次式(78)で表す伝達関数に近似することができる。
さらに、車両モデルGpfr(s)に右の駆動モータ(電動モータ4ra)の制振制御のアルゴリズムを考慮すると、次式(79)で示す伝達関数となる。
次に、左の駆動モータ(電動モータ4rb)のモータ回転角速度推定値の規範応答から左の駆動モータ(電動モータ4rb)のねじり振動を抑止するために、式(79)式の伝達関数を次式(80)の伝達関数とする。
以上説明した車両モデル(伝達関数)を用いて実行される制振制御演算処理を、図31を参照して説明する。
図31は、第7実施形態のシステム構成4に適用される制振制御演算処理を実現するブロック構成図の一例である。図31に示す制御ブロックは、F/F補償器2601と、F/F補償器2602と、車両モデル2603と、制御ブロック2604と、制御ブロック2605と、加算器2608、2609と、減算器2606、2607とから構成される。
F/F補償器2601は、右の駆動モータ(電動モータ4ra)の駆動軸ねじり振動を抑止するフィルタであって、上記式(68)で表されるフィルタGr(s)/Gp(s)から構成される。F/F補償器2601は、電動モータ4raに対応する目標トルク指令値Tmr1a *を入力とし、上記式(68)によるF/F補償処理を行うことにより、第1のトルク指令値を算出する。
F/F補償器2602は、左の駆動モータ(電動モータ4rb)の駆動軸ねじり振動を抑止するフィルタであって、上記式(71)で表されるフィルタGrr(s)/Gpr(s)から構成される。F/F補償器2602は、電動モータ4rbに対応する目標トルク指令値Tmr1b *を入力とし、上記式(71)によるF/F補償処理を行うことにより、第3のトルク指令値を算出する。
車両モデル2603は、第1のトルク指令値と第3のトルク指令値とを入力とし、図32で表される車両モデルを用いて、モータ回転角速度推定値ω^mraと、モータ回転角速度推定値ω^mrbとを算出する。ここで用いられる車両モデルは、図32で示すとおり、左右駆動輪に駆動源としてのモータをそれぞれ有する2輪駆動車(2WD車両)の駆動力伝達系、すなわち、右駆動輪および左駆動輪へのトルク入力から右の駆動モータ(電動モータ4ra)および左の駆動モータ(電動モータ4rb)のモータ回転角速度までの伝達特性を模擬した車両モデルである。図32で示す2WD車両モデル2603は、左右輪にそれぞれ駆動源としての電動モータを独立して有している車両の運動方程式(43)〜(53)と等価に構成されたブロック構成図である。
ここで、図示する車両モデル2603において、第1のトルク指令値に基づいてモータ回転角速度推定値ω^mraを算出する系に、第3のトルク指令値に基づいて算出された左駆動輪の駆動力Fr1が加算されている。これにより、車両モデル2603において、第1のトルク指令値に基づいて算出される右の駆動モータ(電動モータ4ra)のモータ回転角速度推定値を、左の駆動モータ(電動モータ4rb)の制駆動トルクを表す第3トルク指令値に基づいて補正することができる。
なお、車両モデル2603は、第1のトルク指令値から電動モータ4raのモータ回転角速度推定値ω^mraまでの伝達特性Gp(s)、第1のトルク指令値から電動モータ4rbのモータ回転角速度推定値ω^mrbまでの伝達特性Gpfr(s)、第3のトルク指令値から電動モータ4raのモータ回転角速度推定値ω^mraまでの伝達特性Gprf(s)、および、第3のトルク指令値から電動モータ4rbのモータ回転角速度推定値ω^mrbまでの伝達特性Gpr(s)に係る2入力2出力の伝達特性と等価である。したがって、車両モデル2603は、図32に示した構成に限らず、それぞれ4つの伝達特性に分割したフィルタ構成としてもよい。
また、制御対象の伝達特性Gprf(s)および伝達特性Gpfr(s)は、左右の駆動モータ(電動モータ4raおよび電動モータ4rb)それぞれのねじり振動周波数を考慮した2次フィルタ、例えば左右駆動輪それぞれのねじり振動周波数がカットオフ周波数となるように構成されたフィルタ等で近似してもよい。このようなフィルタで近似することにより、演算負荷を低減することができる。なお、左右駆動輪の少なくとも一方の駆動輪のねじり振動周波数のみを考慮したフィルタで近似しても良い。
また、制御対象の伝達特性Gprf(s)、および伝達特性Gpfr(s)は、定常状態における要素の特性(静特性)、すなわち伝達特性のゲイン特性のみを考慮したフィルタで近似してもよい。これにより、車両モデルを用いずに、ゲイン調整によりモータ回転角度推定値を算出できるので、電動モータコントローラ2のソフト演算負荷を低減することができる。
さらに、制御対象の伝達特性Gprf(s)、および伝達特性Gpfr(s)は、ねじり振動周波数に起因する減衰係数が1未満となる特性を有する場合は、減衰係数を1に近似した前述の式(76)で示す伝達特性Grrf(s)で代用してもよい。
図31で示す減算器2606は、右の駆動モータ(電動モータ4ra)のモータ回転角速度推定値ω^mraから電動モータ4raのモータ回転角速度ωmf(検出値)を減算して、モータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を算出し、算出した値を制御ブロック2604に出力する。
制御ブロック2604は、上記式(41)で表すバンドパスフィルタHf(s)と、上記式(66)で表す車両モデルGp(s)の逆特性とから構成される。制御ブロック2604は、モータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を入力とし、Hf(s)/Gp(s)を乗算することにより、第2のトルク指令値を算出する。
加算器2608は、第1のトルク指令値と第2のトルク指令値とを足し合わせて、右の駆動モータ(電動モータ4ra)への第1の最終トルク指令値Tmf *を算出する。
一方、減算器2607は、左の駆動モータ(電動モータ4rb)のモータ回転角速度推定値ω^mrbから電動モータ4raのモータ回転角速度ωmr(検出値)を減算して、モータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を算出し、算出した値を制御ブロック2605に出力する。
制御ブロック2605は、上記式(42)で表すバンドパスフィルタHr(s)と、上記式(69)で表す車両モデルGpr(s)の逆特性とから構成される。制御ブロック2605は、モータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を入力とし、Hr(s)/Gpr(s)を乗算することにより、第4のトルク指令値を算出する。
加算器2609は、第2のトルク指令値と第4のトルク指令値とを足し合わせて、左の駆動モータ(電動モータ4rb)への第2の最終トルク指令値Tmrf *を算出する。
ここで、右の駆動モータの駆動軸ねじり共振周波数fpfと、左の駆動モータの駆動軸ねじり共振周波数fprとが異なる場合(fpf≠fpr)は、左右の駆動モータの駆動力応答を揃えるために、F/F補償器2601が行うF/F補償処理と、F/F補償器2602が行うF/F補償処理の規範応答を一致させても良い。すなわち、図33で示すように、F/F補償器2601の構成に、制御ブロック2801を考慮することにより、F/F補償器2601が行うF/F補償処理と、F/F補償器2602が行うF/F補償処理の規範応答を一致させることができる。
制御ブロック2801は、次式(81)で表されるフィルタGrr(s)/Gr(s)から構成される。
また、右の駆動モータ(電動モータ4ra)の駆動軸ねじり共振周波数fpfが、左の駆動モータ(電動モータ4rb)の駆動軸ねじり共振周波数fprより小さい場合(fpf<fpr)は、左右の駆動モータの規範応答を低周波側の特性に合わせるために、高周波側のF/F補償器2602のF/F補償処理を、F/F補償器2601のF/F補償処理側に考慮しても良い。すなわち、図34で示すように、F/F補償器2602の構成に、制御ブロック2901を考慮することにより、左右の駆動モータの駆動力応答を、より低周波側の特性に合わせることができる。制御ブロック2901は、上記式(70)で表す車両モデルGrr(s)の逆特性と、上記式(67)で表す車両モデルGr(s)とで表されるフィルタGr(s)/Grr(s)により構成される。
また、fpf≠fprの場合には、左右の駆動モータの駆動力応答を揃えるために、F/F補償器2601とF/F補償器2602とを、図35で示すような構成としてもよい。すなわち、F/F補償器2601とF/F補償器2602とが、それぞれ、右の駆動モータの駆動軸ねじり振動を抑止するフィルタGr(s)/Gp(s)と、左の駆動モータの駆動軸ねじり振動を抑止するフィルタGrr(s)/Gpr(s)の両方のフィルタにより構成されても良い。このような構成によっても、F/F補償器2601が行うF/F補償処理と、F/F補償器2602が行うF/F補償処理の規範応答を一致させることができる。
このような構成によれば、複数駆動輪のねじり振動周波数が全て減衰されるので、F/F補償器2601、2602のみで、全ての駆動軸ねじり振動を抑制することができる。
ここで、複数駆動輪の規範応答を高周波側に合わせると、低周波側の駆動軸ねじり振動周波数特性を持つ駆動輪に対して進み補償が必要となるので、当該駆動輪に対して、ドライバの要求するトルク以上のトルクを指示するトルク指令値を設定することになる。しかしながら、全開加速時等はトルクの上下限制限等があるため、進み補償を行うと規範応答通りのトルクを出力できない場合がある。したがって、本実施形態では、複数駆動輪の規範応答を低周波側に合わせている。
以上、左右駆動輪にそれぞれ駆動モータ(電動モータ4ra、4tb)を有する2WD車両(システム構成4)について説明したが、上述した制振制御は、図24、図25に示すような前後左右において独立した駆動モータを少なくとも3つ以上有する4WD車両へも適用することができる。以下では、本実施形態の制振制御が適用された図24に示す4WD電動車両(システム構成2)について説明する。
図36は、システム構成4を前提に上述した制振制御演算処理をシステム構成2において実現するブロック構成図の一例である。システム構成2では、システム構成4を参照して説明したリアの左右駆動モータ(電動モータ4ra、4rb)に対する制振制御処理を、フロントの左右駆動モータ(電動モータ4fa、4fb)に対しても実行する。
図36に示す制御ブロックは、主に、図31で示したシステム構成4が備えるF/F補償器2601、2602、制御ブロック2604、2605、加算器2608、2609、および、減算器2606,2607に加えて、フロントにおける左右の駆動モータ(電動モータ4fa、4fb)に対する最終トルク指令値を算出するためのF/F補償器3103、3104、制御ブロック3106、3107、加算器3110、3111、および減算器3108,3109をさらに備える。そして、システム構成2では、システム構成4において用いた車両モデル2603に代えて、車両モデル3101を使用する。以下、システム構成2における制振制御を実現する構成において、特にシステム構成4におけるブロック構成から追加された構成について説明する。
F/F補償器3103は、フロント右の駆動モータ(電動モータ4fa)の駆動軸ねじり振動を抑止するフィルタGra(s)/Gpa(s)から構成される。F/F補償器3103は、電動モータ4faに対応する第3の目標トルク指令値Tm1a *を入力とし、F/F補償処理を行うことにより、第5のトルク指令値を算出する。
F/F補償器3104は、フロント左の駆動モータ(電動モータ4fb)の駆動軸ねじり振動を抑止するフィルタGrra(s)/Gpra(s)から構成される。F/F補償器3104は、電動モータ4fbに対応する第4の目標トルク指令値Tm1b *を入力とし、F/F補償処理を行うことにより、第7のトルク指令値を算出する。
車両モデル3101は、第1のトルク指令値と第3のトルク指令値と第5のトルク指令値と第7のトルク指令値とを入力とし、図37で表される車両モデルを用いて、モータ回転角速度推定値ω^mra、ω^mrb、ω^mfa、およびω^mfaを算出する。ここで用いられる車両モデルは、図37で示すとおり、フロントおよびリアそれぞれの左右駆動輪に駆動源としてのモータをそれぞれ独立して有する4輪駆動車(4WD車両)の駆動力伝達系を模擬した車両モデルである。図37で示す車両モデル3101は、フロントとリアにおいて、左右輪にそれぞれ駆動源としての電動モータを独立して有している車両の運動方程式(48)〜(58)と等価に構成されたブロック構成図である。
ここで、図示する車両モデル3101において、第5のトルク指令値に基づいてフロント右のモータ回転角速度推定値ω^mfaを算出する系において算出される駆動力Fr2に、第7のトルク指令値に基づいて算出されたフロント左の駆動モータの駆動力Fr3が加算されている。また、第3のトルク指令値に基づいてリア左のモータ回転角速度推定値ω^mraを算出する系において算出される駆動力Fr1に、フロント左の駆動モータの駆動力Fr3と、第5のトルク指令値に基づいて算出されたフロント右の駆動モータの駆動力Fr2との加算値(Fr3+Fr2)が加算されている。そして、第1のトルク指令値に基づいてフロント右のモータ回転角速度推定値ω^mfaを算出する系には、上述の3つの駆動モータの駆動力の合計値(Fr3+Fr2+Fr1)が加算されている。これにより、車両モデル3101において、各駆動モータのモータ回転角速度推定値を、それぞれ他の駆動モータの制駆動トルクに基づいて補正することができる。
図36で示す減算器3108は、フロント右の駆動モータ(電動モータ4fa)のモータ回転角速度推定値ω^mfaから電動モータ4faのモータ回転角速度ωfa(検出値)を減算して、モータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を算出し、算出した値を制御ブロック3106に出力する。
制御ブロック3106は、バンドパスフィルタHfa(s)と、Gpa(s)の逆特性とから構成される。制御ブロック1106は、モータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を入力とし、Hfa(s)/Gpa(s)を乗算することにより、第6のトルク指令値を算出する。なお、バンドパスフィルタHfa(s)は上述のHf(s)と、伝達特性Gpa(s)は上述のGp(s)と、それぞれ等価である。
加算器3110は、第5のトルク指令値と第6のトルク指令値とを足し合わせて、フロント右の駆動モータ(電動モータ4fa)への第3の最終トルク指令値Tmfa *を算出する。
一方、減算器3109は、フロント左の駆動モータ(電動モータ4fb)のモータ回転角速度推定値ω^mfbから電動モータ4faのモータ回転角速度ωmra(検出値)を減算して、モータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を算出し、算出した値を制御ブロック3107に出力する。
制御ブロック3107は、バンドパスフィルタHfra(s)と、Gpra(s)の逆特性とから構成される。制御ブロック3107は、モータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を入力とし、Hfra(s)/Gpra(s)を乗算することにより、第8のトルク指令値を算出する。なお、バンドパスフィルタHfra(s)は上述のHr(s)と、伝達特性Gpra(s)は上述のGpr(s)と、それぞれ等価である。
そして、加算器3111は、第7のトルク指令値と第8のトルク指令値とを足し合わせて、フロント左の駆動モータ(電動モータ4fb)への第4の最終トルク指令値Tmra *を算出する。
このようにして、システム構成2についても、システム構成4と同様に、各駆動輪がそれぞれ独立した駆動源として有する各駆動モータに対して制振制御処理を適用することができる。
なお、システム構成3に対しても上述した制振制御処理を同様に適用することができる。その場合は、まず、図28で示す駆動力分配処理では、フロントの目標トルク指令値Tm1 *をフロントの駆動モータ(電動モータ4f)に対する第3の目標トルク指令値Tm1a *とする。そして、図36で示す制振制御ブロックでは、第4の目標トルク指令値Tm1b *に基づいて第4の最終トルク指令値Tmra *を算出する系(F/F補償器3104、制御ブロック3107、加算器3111、減算器3109)を削除するとともに、図37で示す制振制御ブロックでは、第7のトルク指令値からモータ回転角速度推定値ω^mfbを算出する系を削除すればよい。
−第8実施形態−
以下、第8実施形態の電動車両の制御方法について、図面等を参照して説明する。第8実施形態は、システム構成2〜4に適用される制振制御処理が第7実施形態と異なる態様で実現される場合の実施形態である。
最初に、本実施形態における制振制御演算処理で用いられる車両モデルについて説明する。
図38は、電動車両が備える一つの駆動モータの駆動力伝達系をモデル化した図であり、同図における各パラメータは以下に示すとおりである。
Jm:モータイナーシャ
Jw:駆動輪イナーシャ(1軸分)
Kd:駆動系のねじり剛性
Kt:タイヤと路面の摩擦に関する係数
N:オーバーオールギヤ比
r:タイヤ荷重半径
ωm:モータ回転角速度
θm:モータ回転角度
ωw:駆動輪回転角速度
θw:駆動輪回転角度
Tm:モータトルク
Td:駆動軸トルク
F:駆動力(1軸分)
V:車体速度
θd:駆動軸ねじり角度
図38より、電動車両の運動方程式は、次式(82)〜(87)で表される。
上記式(82)〜(87)をラプラス変換して、モータトルクTmからモータ回転速度ωmまでの伝達特性を求めると、次式(88)、(89)で表せる。
ただし、式(84)中のa3、a2、a1、a0、b3、b2、b1、b0、は、それぞれ次式(90)で表される。
また、モータトルクTmから駆動軸トルクTdまでの伝達特性は、次式(91)で表される。
ただし、式(91)中のc1、c2は、次式(92)で表される。
式(83)、(84)、(85)、(86)より、モータ回転速度ωmから駆動輪回転角速度ωwまでの伝達特性を求めると、次式(93)で表される。
式(88)、(89)、(93)より、モータトルクTmから駆動輪回転角速度ωwまでの伝達特性は、次式(94)で表される。
式(91)、(94)より、駆動軸トルクTdから駆動軸回転角速度ωwまでの伝達特性は、次式(95)で表される。
ここで、式(95)を変形すると、次式(96)で表される。
従って、式(95)、(96)より、駆動軸ねじり角速度ωdは、次式(97)で表される。
ただし、式(97)中のH
w(s)は、次式(98)で表される。
式(98)中のv1、v0、w1.w0は、次式(99)のとおりである。
また、式(99)は、次式(100)のとおりに変形することができる。
ここで、式(100)中のζpは駆動軸トルク伝達系の減衰係数、ωpは駆動軸トルク伝達系の固有振動周波数である。
さらに、式(100)の極と零点を調べると、α≒c0/c1となるため、極零相殺すると、次式(101)となる。
ただし、式(101)中のgtは、次式(102)で表される。
ここで、最終トルク指令値Tmf *は、次式(103)で表すことができる。
そうすると、最終トルク指令値Tmf *は、次式(104)のとおりに置き換えることができる。
そして、モータトルクTm=最終トルク指令値Tmf *(Tm=Tmf *)として、式(104)を式(100)に代入すると、次式(105)のように整理することができる。
モータトルクから駆動軸トルクまでの規範応答は、次式(106)で表される。
規範応答を式(106)とすると、最終トルク指令値Tmf *から駆動軸トルクTdまでの伝達特性(式(105))と、規範応答とが一致する条件は、次式(107)となる。
次に、上記式(82)から(87)を適用して、モータから駆動軸までのギアのバックラッシュ特性を模擬した不感帯をモデル化(不感帯モデル)する。そうすると、不感帯モデルを考慮した駆動軸トルクTdを、次式(108)で表すことができる。
ここで、θdeadは、モータから駆動軸までのオーバーオールのギヤバックラッシュ量である。
図39は、第8実施形態の制振制御演算処理を実現するブロック構成図の一例である。図39で示す制御ブロックは、F/F補償器3401と、制御ブロック3402と、制御ブロック3403と、加算器3404、3405と、減算器3406、3407とから構成される。
F/F補償器3401は、第1の目標トルク指令値Tmr1a *と、第2の目標トルク指令値Tmr1b *とを入力とし、左右の駆動輪において独立した駆動モータをそれぞれ有する2WD車両モデルを使用したF/F補償処理を行う。これにより、F/F補償器3401は、第1のトルク指令値と第2のトルク指令値とを算出するとともに、右の駆動モータ(電動モータ4ra)のモータ回転角速度推定値ω^mraと、左の駆動モータ(電動モータ4rb)のモータ回転角速度推定値ω^mbとを算出する。
なお、F/F補償器3401は、国際公開番号WO2013/157315に記載の、左右駆動輪を一つのモータで駆動する2WDモデルを用いたF/F補償器を基に、左右駆動輪にてそれぞれに駆動モータを有している車両として設計する。F/F補償器3401の詳細を図40を用いて説明する。
図40は、F/F補償器3501において実行されるF/F補償処理を実現する制御ブロック構成の一例である。
図示するとおり、F/F補償器3401は、2WD車両モデル3500と、右の駆動軸ねじり角速度F/B演算器3511と、左の駆動軸ねじり角速度F/B演算器3512と、から構成される。
2WD車両モデル3500は、2WD車両の運動方程式(48)〜(58)と等価に構成された図31で示す車両モデル2603に、右の駆動力伝達系に係る不感帯モデル3513と、左の駆動力伝達系に係る不感帯モデル3514とを加えて構成される。
右の不感帯モデル3513は、車両パラメータ(図30参照)と右の駆動モータ4raから右の駆動輪9raまでのギヤバックラッシュ特性を模擬した不感帯モデルであって、前述の式(108)で表される。
左の不感帯モデル3514は、右と同様に、車両パラメータ(図30参照)と左の駆動モータ4rbから右の駆動輪9raまでのギヤバックラッシュ特性を模擬した不感帯モデルであって、上記式(82)から(98)を適用して、次式(109)で表される。
このように構成された2WD車両モデル3500は、第1のトルク指令値と第3のトルク指令値とを入力とし、右の駆動軸ねじり角速度推定値と、左の駆動軸ねじり角速度推定値と、左の駆動モータのモータ回転角速度推定値ω^mraと、左の駆動モータのモータ回転角速度推定値ω^mrbとを算出する。
ここで、図示する2WD車両モデル3500において、第1のトルク指令値に基づいてフロントモータ回転角速度推定値ω^mraを算出する系に、第3のトルク指令値に基づいて算出された左の駆動モータの駆動力Fr1が加算されている。これにより、2WD車両モデルにおいて、第1のトルク指令値に基づいて算出される右の駆動モータのモータ回転角速度推定値を、左の駆動モータの制駆動トルクを表す第2の目標トルク指令値に基づいて補正することができる。
右の駆動軸ねじり角速度F/B演算器3511は、まず、入力される右の駆動軸ねじり角速度推定値に、右の駆動モータへの最終トルク指令値から右の駆動軸トルクまでの伝達特性と規範応答とを一致させるためのゲインk1を乗じる。そして、第1の目標トルク指令値Tmr1a *から右の駆動軸ねじり角速度推定値にゲインk1を乗じた値を減じて、第1のトルク指令値を算出する。ゲインk1は、上記式(107)が適用される。
左の駆動軸ねじり角速度F/B演算器3512は、まず、入力される左の駆動軸ねじり角速度推定値に、左の駆動モータに対する最終トルク指令値から左の駆動軸トルクまでの伝達特性と規範応答とを一致させるためのゲインk2を乗じる。そして、左の目標トルク指令値Tmr1b *から左の駆動軸ねじり角速度推定値にゲインk2を乗じた値を減じて、第3のトルク指令値を算出する。ゲインk2は、次式(110)で表される。
図39に戻って説明を続ける。減算器3406は、右のモータ回転角速度推定値ω^mraから、右のモータ回転角速度ωmfを減算することで、右の駆動モータのモータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を算出して、算出値を制御ブロック1802に出力する。
制御ブロック1802は、上記式(46)で表すバンドパスフィルタHf(s)と、上記式(66)で表す車両モデルGp(s)の逆特性とから構成される。制御ブロック3402は、右の駆動モータのモータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を入力とし、Hf(s)/Gp(s)を乗算することにより、第2のトルク指令値を算出する。
そして、加算器3404において第1のトルク指令値と第2のトルク指令値とが足し合わされることにより、右の駆動モータ(電動モータ4ra)に対する第1の最終トルク指令値Tmf *が算出される。
同様に、減算器3407は、左の駆動モータのモータ回転角速度推定値ω^mrbから左の駆動モータのモータ回転角速度ωmrを減算することで、モータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を算出して、算出値を制御ブロック3403に出力する。
制御ブロック3402は、上記式(42)で表すバンドパスフィルタHr(s)と、上記式(66)で表す車両モデルGp(s)の逆特性とから構成される。制御ブロック3403は、左の駆動モータのモータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を入力とし、Hr(s)/Gp(s)を乗算することにより、第4のトルク指令値を算出する。
そして、加算器3405において第3のトルク指令値と第4のトルク指令値とが足し合わされることにより、左の駆動モータ(電動モータ4ra)に対する第2の最終トルク指令値Tmrf *が算出される。
ここで、複数駆動輪を有する車両において、左右の駆動モータに関連する駆動軸ねじり振動共振周波数がそれぞれ異なる場合、一方の駆動モータは、他方の駆動モータのトルク外乱の影響により駆動軸ねじり振動が誘起されてしまう。しかしながら、上述したように、複数駆動輪を対象とする車両モデル3500と、複数駆動輪それぞれに配置された駆動ねじり角速度F/B演算器3501、3502を用いることにより、上記の駆動軸ねじり振動を抑制することができる。なお、制御系の遅れや外乱が無い場合には、F/F補償器3401のみで左右の駆動モータの駆動軸ねじり振動を抑制することも可能である。
このように算出された第2の最終トルク指令値Tmraf *と第1の最終トルク指令値Tmf *によっても、上述の第7実施形態と同様に制振制御のF/B補償器からの余分な振動抑制補償が出力されることを抑止することができるので、左右の駆動モータを併用する加速時でも、ドライバの意図する加速度を得ることができる。
なお、左右駆動輪にそれぞれ駆動モータ(電動モータ4ra、4tb)を有する2WD車両(システム構成4)について説明したが、上述した制振制御は、図24、図25に示すような前後左右において独立した駆動モータを少なくとも3つ以上有する4WD車両へも適用することができる。以下では、本実施形態の制振制御が適用された図24に示す4WD電動車両(システム構成2)について説明する。
図41は、第8実施形態の制振制御演算処理をシステム構成2において実現するブロック構成図の一例である。システム構成2では、システム構成4を参照して説明したリアの左右駆動モータ(電動モータ4ra、4rb)に対する制振制御処理を、フロントの左右駆動モータ(電動モータ4fa、4fb)に対しても実行する。
図41に示す制御ブロックは、主に、図39で示したシステム構成4が備える制御ブロック3402、3403、加算器3404、3405、および、減算器3406、3407に加えて、フロントにおける左右の駆動モータ(電動モータ4fa、4fb)に対する最終トルク指令値を算出するための制御ブロック3602、3603、加算器3604、3605、および減算器3602、3603をさらに備える。そして、システム構成2では、システム構成4において用いたF/F補償器3401に替えて、F/F補償器3601を使用する。以下、システム構成2における制振制御を実現する構成において、特にシステム構成4におけるブロック構成から追加された構成について説明する。
制御ブロック3602は、バンドパスフィルタHfa(s)と、車両モデルGpa(s)の逆特性とから構成される。制御ブロック3602は、右の駆動モータのモータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を入力とし、Hfa(s)/Gpa(s)を乗算することにより、第6のトルク指令値を算出する。
そして、加算器3604において第5のトルク指令値と第6のトルク指令値とが足し合わされることにより、右の駆動モータ(電動モータ4ra)に対する第3の最終トルク指令値Tmfa *が算出される。
制御ブロック3603は、バンドパスフィルタHfra(s)と、車両モデルGpra(s)の逆特性とから構成される。制御ブロック3603は、右の駆動モータのモータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を入力とし、Hfra(s)/Gpra(s)を乗算することにより、第8のトルク指令値を算出する。
そして、加算器3605において第7のトルク指令値と第8のトルク指令値とが足し合わされることにより、右の駆動モータ(電動モータ4ra)に対する第4の最終トルク指令値Tmra *が算出される。
F/F補償器3601は、第1の目標トルク指令値Tmr1a *、第2の目標トルク指令値Tmr1b *、第3の目標トルク指令値Tm1a *、および第4の目標トルク指令値Tmr1b *を入力とし、フロントおよびリアの左右の駆動輪において独立した駆動モータをそれぞれ有する4WD車両モデルを使用したF/F補償処理を行う。これにより、F/F補償器3601は、第1のトルク指令値と第2のトルク指令値と第3のトルク指令値と第5のトルク指令値とを算出するとともに、フロント右の駆動モータ(電動モータ4fa)のモータ回転角速度推定値ω^mfaと、フロント左の駆動モータ(4fb)のモータ回転角速度推定値ω^mfbと、リア右の駆動モータ(電動モータ4ra)のモータ回転角速度推定値ω^mraと、リア左の駆動モータ(4rb)のモータ回転角速度推定値ω^mbとを算出する。
なお、F/F補償器3401は、国際公開番号WO2013/157315に記載の、左右駆動輪を一つのモータで駆動する2WDモデルを用いたF/F補償器を基に、フロント及びリアの左右駆動輪にてそれぞれに駆動モータを有している車両として設計する。F/F補償器3601の詳細を図42を用いて説明する。
図42は、F/F補償器3601において実行されるF/F補償処理を実現する制御ブロック構成の一例である。システム構成4を対象とした図40で示す制御ブロック構成に対してフロントの左右駆動モータを制御するための構成が加えられている。
図示するとおり、F/F補償器3601は、4WD車両モデル3700と、フロント右の駆動軸ねじり角速度F/B演算器3701と、フロント左の駆動軸ねじり角速度F/B演算器3702と、リア右の駆動軸ねじり角速度F/B演算器3511と、リア左の駆動軸ねじり角速度F/B演算器3512と、から構成される。
4WD車両モデル3700において、第3の目標トルク指令値に基づいてフロント右の駆動モータの制駆動力Fr2等を算出する系(不感帯3703を含む)、および、第4の目標トルク指令値に基づいてフロント左の駆動モータの制駆動力Fr2等を算出する系(不感帯3704を含む)は、第1の目標トルク指令値に基づいてリア右の駆動モータの制駆動力Fr等を算出する系、および、第2の目標トルク指令値に基づいてリア左の駆動モータの制駆動力Fr2等を算出する系とそれぞれ等価である。図42で示す車両モデル3700は、フロントとリアにおいて、左右輪にそれぞれ駆動源としての電動モータを独立して有している車両の運動方程式(48)〜(58)と等価に構成されたブロック構成図である。
また、フロントの左右駆動輪を制御するために追加された構成、すなわち、フロント右の駆動軸ねじり角速度F/B演算器3701と、フロント左の駆動軸ねじり角速度F/B演算器3702は、リア右の駆動軸ねじり角速度F/B演算器3511と、リア左の駆動軸ねじり角速度F/B演算器3512とそれぞれ等価である。
ここで、図示する車両モデル3700において、第3の目標トルク指令値に基づいてフロント右のモータ回転角速度推定値ω^mfaを算出する系において算出される駆動力Fr2に、第4の目標トルク指令値に基づいて算出されたフロント左の駆動モータの駆動力Fr3が加算されている。また、第2の目標トルク指令値に基づいてリア左のモータ回転角速度推定値ω^mrbを算出する系において算出される駆動力Fr1に、フロント左の駆動モータの駆動力Fr3と、第3の目標トルク指令値に基づいて算出されたフロント右の駆動モータの駆動力Fr2との加算値(Fr3+Fr2)が加算されている。そして、第1の目標トルク指令値に基づいてフロント右のモータ回転角速度推定値ω^mfaを算出する系には、上述の3つの駆動モータの駆動力の合計値(Fr3+Fr2+Fr1)が加算されている。これにより、車両モデル3700において、各駆動モータのモータ回転角速度推定値を、それぞれ他の駆動モータの制駆動トルクに基づいて補正することができる。
このようにして、システム構成2についても、システム構成4と同様に、各駆動輪がそれぞれ独立した駆動源として有する各駆動モータに対して制振制御処理を適用することができる。
なお、システム構成3に対しても上述した制振制御処理を同様に適用することができる。その場合は、まず、図28で示す駆動力分配処理では、フロントの目標トルク指令値Tm1 *をフロントの駆動モータ(電動モータ4f)に対する第3の目標トルク指令値Tm1a *とする。そして、図41で示す制振制御ブロックでは、第4の目標トルク指令値Tm1b *に基づいて第4の最終トルク指令値Tmra *を算出する系(制御ブロック3603、加算器3605、減算器3607)を削除するとともに、図42で示す制振制御ブロックでは、第4の目標トルク指令値からモータ回転角速度推定値ω^mfbを算出する系を削除すればよい。
以上のように算出された第1の最終トルク指令値Tmf *と第2の最終トルク指令値Tmr *と第3の最終トルク指令値Tmfa *と第4の最終トルク指令値Tmra *によっても、上述の第7実施形態と同様に制振制御のF/B補償器からの余分な振動抑制補償が出力されることを抑止することができる。その結果、各駆動輪がそれぞれ独立して有する駆動モータを併用する加速時でも、ドライバの意図する加速度を得ることができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。また、上記実施形態は、矛盾が生じない範囲で適宜組み合わせ可能である。
例えば、第4〜第5実施形態については、上述した第1〜第3実施形態にかかる制振制御処理を必ずしも併用する必要はなく、第7、第8実施形態に係る制振制御処理、又は、駆動力伝達系振動の抑制効果を得られる制振制御であれば公知の他の制振制御処理を併用しても良い。
また、上述した実施形態の説明においては、車両の前方をフロントとし、車両の後方リアとして説明したが、車両の前後方向と一致させる必要は必ずしもない。すなわち、上記実施形態の説明において、フロントとリア(一のモータと他のモータ)を入れ替えても同様の効果を得ることができる。
また、上述した実施形態の説明において、各制御処理に用いるパラメータとしてモータの回転角速度を多用しているがこれに限られない。回転角速度に相関のあるパラメータであれば良く、例えば、モータの回転速度を用いて各制御を実行してもよい。