以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態における電動車両の制御装置を備えた電気自動車の主要構成の一例を示すブロック図である。
本実施形態における電動車両の制御装置は、車両の駆動源の一部または全部として電動モータ4を備え、電動モータ4の駆動力により走行可能な電動車両に適用可能である。電動車両には、電気自動車だけでなく、ハイブリッド自動車や燃料電池自動車も含まれる。
図1に例示する電動車両の制御装置は、アクセルペダルの操作のみで車両の加減速や停止を制御する。この電動車両のドライバは、加速時にはアクセルペダルを踏み込み、減速時や停止時には踏み込んでいるアクセルペダルの踏み込み量を減らすか、又はアクセルペダルの踏み込み量をゼロに操作する。なお、登坂路においては、車両の後退を防ぐためにアクセルペダルを踏み込みつつ停止状態に近づく場合もある。
モータコントローラ2は、車速V、アクセル開度AP、電動モータ4の回転子位相α、電動モータ4の電流iu、iv、iw等の車両状態を示す信号をデジタル信号として入力する。そしてモータコントローラ2は、入力された信号に基づいて、電動モータ4に供給される電力を制御するためのPWM信号を生成し、生成したPWM信号をインバータ3に供給してインバータ3のスイッチング素子を開閉制御する。
インバータ3は、例えば、各相毎に2個のスイッチング素子(例えば、IGBTやMOS−FET等のパワー半導体素子)をオン/オフすることにより、バッテリ1から供給される直流の電流を交流に変換し、電動モータ4に所望の電流を流す。
電動モータ4は、例えば、三相交流モータにより実現される。電動モータ4は、インバータ3から出力される交流電流を用いて駆動力を発生し、減速機5及び駆動軸8を介して、左右の駆動輪9a、9bに駆動力を伝達する。また、電動モータ4は、電動車両の走行時に駆動輪9a、9bに連れ回されて回転する場合に、回生駆動力を発生させることで電動車両の運動エネルギーを電気エネルギーとして回収する。この場合、インバータ3は、電動モータ4の回生運転時に発生する交流電流を直流電流に変換してバッテリ1に供給する。
回転センサ6は、例えば、レゾルバやエンコーダにより実現され、電動モータ4の回転子位相αを検出する。
電流センサ7は、電動モータ4に供給される三相交流電流iu、iv及びiwを検出する。ただし、三相交流電流iu、iv及びiwの和は0(ゼロ)であるため、任意の2相の電流を検出して、残りの1相の電流については演算により求めてもよい。
図2は、モータコントローラ2によって行われるモータ電流制御の処理の流れを示すフローチャートである。
ステップS201では、モータコントローラ2は電動車両の作動状態を示す信号を入力する。ここにいう作動状態とは、バッテリ1とインバータ3との間の直流電圧値Vdc(V)、電動車両の車速V(km/h)、アクセル開度AP(%)、電動モータ4の回転子位相α(rad)、電動モータ4の回転速度Nm(rpm)、並びに電動モータ4に供給される三相交流電流値iu、iv及びiwなどのことである。
車速V(km/h)は、図示しない車速センサから取得され、又は他のコントローラから通信にて取得される。または、モータコントローラ2は、回転子機械角速度ωmにタイヤ動半径Rを乗算し、ファイナルギアのギア比で除して車速v(m/s)を求め、車速v(m/s)に3600/1000を乗算することにより、単位変換して車速V(km/h)を求める。
アクセル開度AP(%)は、図示しないアクセル開度センサから取得されるか、図示しない車両コントローラ等の他のコントローラから通信にて取得される。
電動モータ4の回転子位相α(rad)は、回転センサ6から取得される。電動モータ4の回転速度Nm(rpm)は、電動モータ4の機械的な角速度であるモータ回転速度ωm(rad/s)に60/(2π)を乗じて求められる。モータ回転速度ωm(rad/s)は、回転子角速度ω(電気角)を電動モータ4の極対数pで除して得られる。回転子角速度ωは、回転子位相αを微分することによって求められる。
電動モータ4に流れる電流iu、iv、iw(A)は、電流センサ7から取得される。
直流電圧値Vdc(V)は、バッテリ1とインバータ3との間の直流電源ラインに設けられた電圧センサ(不図示)から取得され、又は、バッテリコントローラ(不図示)により送信される電源電圧値から求められる。
ステップS202では、モータコントローラ2は第1のトルク目標値Tm1*を設定する。具体的には、モータコントローラ2は、ステップS201で入力されたアクセル開度AP及びモータ回転速度ωmに基づいて、例えばアクセル開度−トルクテーブルを参照することにより、第1のトルク目標値Tm1*を設定する。
例えば、図3に示すアクセル開度−トルクテーブルでは、アクセル開度が0(全閉)の時のモータ回生量が大きくなるようにモータトルクが設定されている。すなわち、モータ回転数が正の値を示す時であって、少なくともアクセル開度が0(全閉)の時には、電動車両に回生制動力が働くように負のモータトルクが設定される。ただし、アクセル開度−トルクテーブルは、図3に示すものに限定されない。
ステップS203では、モータコントローラ2は停止制御処理を行う。具体的には、モータコントローラ2は、電動車両の停車間際を判断し、停車間際以前は、ステップS202で算出した第1のトルク目標値Tm1*をモータトルク指令値Tm*に設定する。停車間際以降は、モータ回転速度の低下とともに外乱トルク指令値Tdに収束する第2のトルク目標値Tm2*をモータトルク指令値Tm*に設定する。この第2のトルク目標値Tm2*は、登坂路では正トルク、降坂路では負トルク、平坦路では概ねゼロである。これにより、後述するように、路面の勾配に関わらず、停車状態を維持することができる。停止制御処理の詳細については、後述する。
ステップS204では、モータコントローラ2は、駆動軸トルクを無駄にすることなく、駆動軸8のねじり振動などの駆動力伝達系振動を抑制する制振制御処理を行う。具体的には、モータコントローラ2は、ステップS202で設定されたモータトルク指令値Tm*とモータ回転速度ωmとに基づいて、制振制御処理が施されたモータトルク指令値Tm*を算出する。制振制御処理の詳細については後述する。
ステップS205では、モータコントローラ2は、モータトルク指令値Tm*、モータ回転速度ωm及び直流電圧値Vdcに基づいて、d軸電流目標値id*、及びq軸電流目標値iq*を求める。例えば、実験結果やシミュレーション結果などを通じて、モータトルク指令値、モータ回転速度及び直流電圧値と、d軸電流目標値及びq軸電流目標値との関係を求めたテーブルをあらかじめ用意しておく。そしてモータコントローラ2は、モータトルク指令値Tm*、モータ回転速度ωm及び直流電圧値Vdcを取得すると、用意したテーブルを参照してd軸電流目標値id*及びq軸電流目標値iq*を求める。
ステップS206では、モータコントローラ2は、d軸電流id及びq軸電流iqがそれぞれd軸電流目標値id*及びq軸電流目標値iq*に一致するよう電流制御を行う。
具体的には、モータコントローラ2は、ステップS201で入力された三相交流電流値iu、iv及びiwと、電動モータ4の回転子位相αとに基づいて、d軸電流id及びq軸電流iqを求める。続いてモータコントローラ2は、d軸及びq軸電流目標値id*及びiq*と、d軸及びq軸電流id及びiqとの偏差から、d軸及びq軸電圧指令値vd及びvqを算出する。
なお、モータコントローラ2算出したd軸及びq軸電圧指令値vd及びvqに対して、d−q直交座標軸間の干渉電圧を相殺するために必要となる非干渉電圧を加算するようにしてもよい。
続いてモータコントローラ2は、d軸及びq軸電圧指令値vd及びvqと、電動モータ4の回転子位相αと、三相交流電圧指令値vu、vv及びvwと、直流電圧値Vdcとから、PWM信号tu(%)、tv(%)及びtw(%)を求める。このようにして求めたPWM信号tu、tv及びtwに従ってインバータ3のスイッチング素子がON/OFFするので、モータトルク指令値Tm*に示された所望のトルクで電動モータ4を駆動することができる。
次に、ステップS203で行われる停止制御処理について説明するにあたり、まず、本実施形態における電動車両のモータトルクTmからモータ回転速度ωmまでの伝達特性Gp(s)について説明する。
図4及び図5は、車両の駆動力伝達系をモデル化した図であり、同図における各パラメータは、以下に示すとおりである。
Jm:電動モータのイナーシャ
Jw:駆動輪のイナーシャ
M :車両の質量
Kd:駆動系の捻り剛性
Kt:タイヤと路面の摩擦に関する係数
N :オーバーオールギヤ比
r :タイヤの過重半径
ωm:モータ回転速度
Tm *:モータトルク指令値
Td:駆動輪のトルク
F :車両に加えられる駆動力
V :車体の速度
ωw:駆動輪の角速度
そして、図4及び図5に示した駆動力伝達系のモデルを用いることにより、以下の運動方程式を導くことができる。ただし、次式(1)乃至(3)中の符号の右上に付されているアスタリスク(*)は、時間微分を表している。
上述の式(1)乃至(5)により表される運動方程式に基づいて、電動モータ4のモータトルク指令値Tm*からモータ回転速度ωmまでの伝達関数である伝達特性Gp(s)を求めると、次式(6)により表される。
ただし、式(6)中に各パラメータは、次式(7)により表わされる。
上式(6)により表される伝達特性Gp(s)の極と零点を調べると、伝達特性Gp(s)を次式(8)のような伝達特性に近似することができ、1つの極と1つの零点は極めて近い値を示す。これは、式(8)の伝達特性Gp(s)中のαとβが極めて近い値を示すことを意味する。
したがって、上式(8)における極零相殺(α=βと近似する)を行うことで導出される車両モデルGp(s)は、次式(9)に示すように(2次)/(3次)の伝達特性を有する。
車両モデルGp(s)及び制振制御のアルゴリズムにより、式(9)の車両モデルGp(s)は、次式(10)に示す伝達特性Gr(s)と見なすことができる。
続いて、モータトルクTmから車体速度Vまでの伝達特性Gpv(s)について説明する。
上述の式(1)乃至(5)に基づいて伝達特性Gpv(s)を求めると、伝達特性Gpv(s)は、次式(11)により表される。
上述の式(8)及び(11)に基づいてモータ回転速度ωmから車体速度Vまでの伝達特性Gωv(s)を求めると、伝達特性Gωv(s)は、次式(12)により表される。
続いて、モータトルクTmから電動車両の駆動力Fまでの伝達特性GpF(s)について説明する。
上述の式(1)乃至(5)に基づいて伝達特性GpF(s)を求めると、伝達特性GpF(s)は、次式(13)により表わされる。
次に、図2のステップS203で行われる停止制御処理の詳細について説明する。
図6は、停止制御処理を実現する機能構成の一例を示すブロック図である。図6には、停止制御処理を実現する機能構成として、車体速度F/Bトルク設定器601と、外乱トルク推定器602と、加算器603と、トルク比較器604とが示されている。
車体速度F/Bトルク設定器601は、検出されたモータ回転速度ωmに基づいて、電動モータ4の回生制動力を用いて電動車両を停止させるための車体速度フィードバックトルクTω(以下、車体速度F/BトルクTωと呼ぶ)を算出する。
図7は、モータ回転速度ωmに基づいて車体速度F/BトルクTωを算出する方法を説明するための図である。
車体速度F/Bトルク設定器601は、制御ブロック701と乗算器702とを備える。
制御ブロック701は、上式(12)の伝達特性Gωv(s)を模擬又は近似したフィルタ、すなわち伝達特性Gωv(s)を有するフィルタとしての機能を担っている。このため、制御ブロック701は、モータ回転速度ωmを入力し、伝達特性Gωv(s)を考慮したフィルタリング処理を行うことにより、車体速度Vの推定値を示す推定車体速度V^を算出する。
なお、式(12)の伝達特性Gωv(s)は、次式(14)のように近似することができる。
このため、制御ブロック701は、式(12)の伝達特性Gωv(s)に代えて、式(14)の伝達特性Gωv(s)を用いてフィルタリング処理を行うものであっても良い。これにより、式(12)の伝達特性Gωv(s)を用いる場合に比べて演算処理を低減することができる。
なお、上式(14)中の時定数τωvに代えて、式(13)により特定される極ωpを用いても良い。このように、モータ回転速度ωmから車体速度Vまでの伝達特性の分母の極を一つ用いることにより推定車体速度V^を算出することが可能になる。
また、制御ブロック701は、上式(12)のモータ回転速度ωmから車体速度Vまでの伝達特性Gωv(s)に加えて、上式(13)のモータトルクTmから電動車両の駆動力Fまでの伝達特性GpF(s)を考慮したフィルタリング処理を行うものであっても良い。例えば、制御ブロック701は、次式(15)の伝達特性Gωv(s)を有するフィルタリング処理を行う。
上式(15)において、ギア比、及びタイヤ同半径などを考慮したゲインkを乗算することにより、伝達特性Gωv(s)のうち入力をモータ回転速度ωmとし、出力を推定車体速度V^とすることができる。
上式(15)の伝達特性Gωv(s)を制御ブロック701に適用することにより、モータトルクTmから電動車両の駆動力Fまでの伝達特性を考慮したモータトルク指令値である第3のトルク目標値Tm3*を算出することが可能になる。
なお、式(13)の伝達特性GpF(s)に代えて、次式(16)の伝達特性GpF(s)を用いても良い。
上式(16)の伝達特性GpF(s)は、式(13)の伝達特性GpF(s)において複素平面上で原点から遠い極αを近似した特性である。
以上のように、制御ブロック701は、モータ回転速度ωmから車体速度Vまでの伝達特性Gωv(s)により特定される分母の極を一つ以上用いて推定車体速度V^を算出する。
乗算器702は、推定車体速度V^に所定のゲインKvrefを乗じて、車体速度F/BトルクTωを算出する。ただし、ゲインKvrefは、電動車両の停止間際に電動車両を停止させるために負(マイナス)の値をとり、例えば、実験データ等により適宜設定される。これにより、車体速度F/BトルクTωは、推定車体速度V^が大きくなるほど、大きな回生制動力が得られるようなトルク値に設定される。
なお、車体速度F/Bトルク設定器601は、推定車体速度V^にゲインKvrefを乗じて車体速度F/BトルクTωを算出するものとして説明したが、推定車体速度V^と回生トルクとの関係を予め記憶した回生トルクテーブル、又は推定車体速度V^の減衰率を予め記憶した減衰率テーブルを用いて車体速度F/BトルクTωを算出するものであってもよい。
図6に戻って説明を続ける。外乱トルク推定器602は、モータ回転速度ωmと第3のトルク目標値Tm3*に基づいて、外乱トルク推定値Tdを算出する。
図8は、モータ回転速度ωm及び第3のトルク目標値Tm3*に基づいて外乱トルク推定値Tdを算出する方法を説明するための図である。
外乱トルク推定器602は、制御ブロック801と、制御ブロック802と、減算器803と、を備える。
制御ブロック801は、H1(s)/Gr(s)なる伝達特性を有するフィルタとしての機能を担っており、モータ回転速度ωmを入力してフィルタリング処理を行うことにより、第1のモータトルク推定値を算出する。
制御ブロック801の伝達特性のうち、分母を構成するGr(s)は、上述の式(10)に示した伝達特性であり、式(9)の車両モデルGp(s)及び制振制御のアルゴリズムから導かれる車両モデルである。また、伝達特性の分子を構成するH1(s)は、分母次数と分子次数との差分が車両モデルGp(s)の分母次数と分子次数との差分以上となる伝達特性を有するローパスフィルタである。
制御ブロック802は、伝達特性H1(s)を有するフィルタとしての機能を担っており、第3のトルク目標値Tm3*を入力して、伝達特性H1(s)を考慮したフィルタリング処理を行うことにより、第2のモータトルク推定値を算出する。
減算器803は、第1のモータトルク推定値と第2のモータトルク推定値との偏差を外乱トルク推定値Tdとして出力する。本実施形態の減算器803は、第1のモータトルク推定値を第2のモータトルク推定値から減じて外乱トルク推定値Tdを算出する。
図6に戻って説明を続ける。加算器603は、車体速度F/Bトルク設定器601からの車体速度F/BトルクTωと、外乱トルク推定器602からの外乱トルク推定値Tdとを加算することにより、第2のトルク目標値Tm2*を算出する。
トルク比較器604は、第1のトルク目標値Tm1*と第2のトルク目標値Tm2*の大きさを比較し、値が大きい方のトルク目標値をモータトルク指令値Tm*として第3のトルク目標値Tm3*に設定する。車両の走行中、第2のトルク目標値Tm2*は、第1のトルク目標値Tm1*よりも小さく、車両が減速して停車間際(車速が所定車速以下)になると、第1のトルク目標値Tm1*よりも大きくなる。したがって、トルク比較器604は、第1のトルク目標値Tm1*が第2のトルク目標値Tm2*より大きければ、停車間際以前と判断して、第3のトルク目標値Tm3*を第1のトルク目標値Tm1*に設定する。
また、トルク比較器604は、第2のトルク目標値Tm2*が第1のトルク目標値Tm1*よりも大きくなると、車両が停車間際と判断して、第3のトルク目標値Tm3*を第1のトルク目標値Tm1*から第2のトルク目標値Tm2*に切り替える。この第2のトルク目標値Tm2*は、停車状態を維持するため、登坂路では正トルク、降坂路では負トルク、平坦路では概ねゼロに収束する。
次に、図2のステップS204で行われる制振制御処理の詳細について説明する。
図9は、電動車両の駆動力伝達系の振動を抑制する制振制御処理を実現する機能構成の一例を示すブロック図である。制振制御処理は、F/F補償器とF/B補償器との組み合わせにより構成される。
図9には、F/F補償器として制御ブロック901が示され、F/B補償器として、加算器902と、制御ブロック903と、減算器904と、制御ブロック905と、乗算器906とが示されている。
制御ブロック901は、Gr(s)/Gp(s)なる伝達特性を有するフィルタとしての機能を担っており、第3のトルク目標値Tm3*を入力して、電動車両のねじり振動を低減するフィルタリング処理を行うことにより、第4のトルク目標値Tm4*を算出する。
制御ブロック901の伝達特性のうち、分母を構成するGp(s)は、式(9)の車両モデルGp(s)であり、分子を構成するGr(s)は、車両モデルGp(s)及び制振制御のアルゴリズムから導かれる式(10)の車両モデルである。
加算器902は、フィードフォワード制御により得られた第4のトルク目標値Tm4*にF/B補償器の出力を加算することにより、第6のトルク目標値Tm6*を出力する。
制御ブロック903は、車両モデルGp(s)を有するフィルタとしての機能を担っている。このため、制御ブロック701は、第6のトルク目標値Tm6*を入力し、車両モデルGp(s)を考慮したフィルタリング処理を行うことにより、モータ回転速度ωmの推定値を示すモータ回転速度推定値ωm^を算出する。
減算器904は、モータ回転速度推定値ωm^とモータ回転速度ωmとの偏差を出力する。本実施形態の減算器904は、モータ回転速度推定値ωm^からモータ回転速度ωmを減じて偏差を算出する。
制御ブロック905は、H2(s)/Gp(s)なる伝達特性を有するフィルタとしての機能を担っており、減算器904の偏差を入力してフィルタリング処理を行うことにより、外乱dの推定値を示す推定外乱d^を算出する。
制御ブロック905の伝達特性のうち、式(9)の車両モデルGp(s)及び制振制御のアルゴリズムから導かれる車両モデルであり、分子を構成するH2(s)は、振動のみを低減するフィードバック要素となる伝達特性を有するバンドパスフィルタである。
乗算器906は、制御ブロック905からの推定外乱d^にフィードバックゲインKFBを乗じて、モータ回転速度ωmの制御誤差を考慮した第5のトルク目標値Tm5*を算出する。そして加算器902により第5のトルク目標値Tm5*が第4のトルク目標値Tm4*に加算されることで、電動車両のねじり振動の発生を抑制するように第6のトルク目標値Tm6*にモータ回転速度ωmがフィードバックされる。
次に、制御ブロック905が有する伝達特性H2(s)について説明する。
図10は、伝達特性H2(s)を実現するためのバンドパスフィルタの一例を示す図である。
伝達特性H2(s)は、ローパス側での減衰特性とハイパス側での減衰特性とが略一致し、かつ、駆動系のねじり共振周波数が対数軸(logスケール)上で通過帯域の中央部近傍となるように設定される。このようにフィルタの特性を設定することにより、最も大きな効果を得ることができる。
例えば、1次のハイパスフィルタ及び1次のローパスフィルタを用いて伝達特性H2(s)を構成する場合、伝達特性H2(s)は次式(17)で表され、周波数fpが駆動系のねじり共振周波数に設定され、kが任意の値に設定される。
ただし、τL=1/(2πfHC)、fHC=k・fp、τH=1/(2πfLC)、fLC=fp/kである。
なお、本実施形態では、電動車両の駆動力伝達系にねじり振動が発生するため停止制御と制振制御を併用したが、駆動力伝達系にねじり振動が発生しない電動車両についてはステップS204の制振制御処理を実行しなくても良い。
以下、本実施形態における電動車両の制御装置を電気自動車に適用した際の効果について、図11及び図12を参照して、平坦路で停止制御を実行した場合の電動車両の状態について説明する。
図11は、推定車体速度V^を用いて第2のトルク目標値Tm2*を演算する電動車両の制御装置による制御結果の一例を示すタイムチャートである。図12は、比較例として、推定車体速度V^を求めることなくモータ回転速度ωmから第2のトルク目標値Tm2*を演算する場合の制御結果を示すタイムチャートである。
図11及び図12の各々については、(a)にはモータトルク指令値に相当する第3のトルク目標値Tm*3が示され、(b)にはモータ回転速度が示され、(c)には車両前後加速度が示されている。また(a)乃至(c)の横軸は共通の時間軸である。
比較例では図12(a)に示すように、時刻t11においてモータコントローラ2は、電動車両が停車間際であると判断し、停止制御処理を開始する。そして図12(a)及び(b)に示すように、時刻t11から時刻t16にかけて、モータコントローラ2は、停止制御処理を実行することにより、モータ回転速度ωmが漸近的にゼロに収束するようにモータトルク指令値を演算する。
図12では、推定車体速度V^を求めることなくモータ回転速度ωmから直接F/Bトルクを演算する構成であるため、フィードバック制御系の安定性を確保するためには、角速度フィードバックゲインを小さな値に設定しなければならない。
その結果、図12(c)に示すように車両前後加速度の急峻な変動は抑えられるものの、停止制御処理の開始からモータ回転速度ωmがゼロに収束するまでの間に、時刻t11から時刻t16までの時間を要するため、電動車両の停止距離が長くなってしまう。すなわち、比較例では、フィードバック制御系の安定性を確保しつつ、ドライバの意図する停止距離を実現することは困難である。
一方、本実施形態では、図11(a)に示すように、時刻t2においてモータコントローラ2は、電動車両が停車間際であると判断し、停止制御処理を開始する。そして図11(a)及び(b)に示すように、時刻t2から時刻t4にかけて、モータコントローラ2は、停止制御処理を実行することにより、モータ回転速度ωmが漸近的にゼロに収束するようにモータトルク指令値を演算する。
本実施形態ではモータ回転速度から車体速度までの伝達特性を考慮して推定車体速度V^を演算する構成であるため、図12の比較例に比べて停止制御中の制御誤差が小さくなるので、フィードバック制御系の安定性を確保しやすくなる。このため、比較例で設定された角速度フィードバックゲインに対して、図7に示した乗算器702のゲインKvrefを大きな値に設定することが可能になる。
その結果、図11(c)に示すように、車両前後加速度の急峻な変動を抑制しつつ、図11(b)に示すように、停止制御処理の開始からモータ回転速度ωmがゼロに収束するまでの期間を時刻t2から時刻t4までに短縮することができる。
すなわち、本実施形態のモータコントローラ2は、フィードバック制御系の安定性を確保しつつ、ドライバの意図する停止距離を実現することができる。したがって、本実施形態によれば、電動車両の停止距離を短くし、かつ、滑らかな停車を実現することができる。
次に、本実施形態における制振制御を考慮した停止制御の閉ループ伝達特性について図13及び図14を参照して説明する。図13及び図14には、本実施形態の伝達特性が実線により示され、図12に示した比較例の伝達特性が破線により示されている。
図13は、本実施形態における停止制御の閉ループ伝達特性を示すボード線図である。
図13では、停止制御の角速度フィードバックゲインに相当する乗算器702のゲインKvrefがドライバの意図する停止距離を実現するのに必要となる値に設定されている。比較例においても同一の値が設定されている。
図13に示すように、ゲイン特性については、高周波域において本実施形態の特性が比較例の特性に比べて低いことが分かる。位相特性については、本実施形態と比較例との間で概ね特性が一致している。
比較例では、入力信号に対する出力信号の位相が180°遅れる周波数Fs2においてゲインが0[dB]になっており、ゲイン余裕がないことが分かる。ゲイン余裕が確保されていない状態で停止制御処理が実行されると、モータ回転速度及びモータトルクの両者で持続振動が発生するとともに、車両前後加速度についても振動するため、ドライバに不安感を与えてしまう。
これに対して本実施形態では、位相が180°遅れる周波数Fs2においてゲインが負の値となっており、ゲイン余裕が十分にあることが分かる。すなわち、本実施形態のゲイン特性については、周波数Fs2でのゲインが0よりも所定の幅だけ小さく、かつ、低周波数領域における周波数Fs1での極小値よりも小さくなるように設定される。
このため、周波数Fs2でゲイン余裕が十分に確保されるので、モータ回転速度及びモータトルクに持続振動を発生させることなく、電動車両を滑らかに停止させることができる。
図14は、比較例の角速度フィードバックゲインを小さく設定した場合の閉ループ伝達特性を示すボード線図である。
図14に示すように、本実施形態及び比較例の双方の閉ループ伝達特性において、位相が180°遅れる周波数Fs2でゲイン余裕が十分に確保されているため、フィードバック制御系が発散することなく滑らかに停車させることができる。しかしながら、比較例においては、角速度フィードバックゲインが小さな値に設定されているため、図12(c)に示したように本実施形態と比べて停止距離(時刻t11から時刻t16)は長くなる。
このため、比較例では、フィードバック制御系の安定性を確保しつつ停止距離を短くすることは困難であるのに対し、本実施形態ではフィードバック制御系の安定性の確保と停止距離の短縮とを両立することができる。
以上、第1の実施形態によれば、電動モータ4を走行駆動源とし、電動モータ4の回生制動力により減速する電動車両の制御装置は、モータコントローラ2により構成される。モータコントローラ2は、アクセル操作量を取得する操作量取得手段を構成するステップS201の処理と、電動車両の車体に作用する外乱トルクを推定する外乱推定手段を構成する外乱トルク推定器602と、電動車両を駆動する駆動軸8の回転速度に相関のある回転体の角速度を取得する角速度取得手段とを備える。本実施形態における駆動軸8は、減速機5及びドライブシャフトを含み、駆動軸8の回転速度に相関のある回転体の角速度は、回転体を構成する電動モータ4のモータ回転速度ωmである。
そして、モータコントローラ2は、図7に示したように、モータ回転速度ωmから車体の速度Vまでの伝達特性Gωv(s)を模擬して車体速度を推定する車体速度推定手段を構成する制御ブロック701を備える。さらにモータコントローラ2は、図2に示したように、電動モータ4のモータトルク指令値Tm*を算出するトルク指令値算出手段を構成するステップS203の処理と、モータトルク指令値Tm*に基づいて電動モータ4に生じるトルクを制御する制御手段を構成するステップS206の処理とを備える。
ステップS203においてモータコントローラ2は、アクセル操作量が所定の値以下であり、かつ、電動車両が停車間際である場合には、推定車体速度V^の低下とともに、外乱トルク推定値Tdにモータトルク指令値Tm*を収束させる。
本実施形態では、図6に示したように、アクセル操作量が所定の値以下であり、かつ、電動車両が停車間際である場合にトルク比較器604がモータトルク指令値Tm*として第2のトルク目標値Tm2*を出力する。この場合において第2のトルク目標値Tm2は、推定車体速度V^に対してゲインKvrefを乗じた車体速度F/BトルクTωに基づき算出される。
このように、推定車体速度V^を求めて第2のトルク目標値Tm2*を算出することにより、電動モータ4から駆動輪9a及び9bまでの減速機5を含む駆動軸8のねじれ及びギアバックラッシュなどに起因する制御誤差を小さくすることができる。これにより、推定車体速度V^に乗算されるゲインKvrefを大きくすることが可能になるので、図11(c)に示したように、フィードバック制御系の安定性を確保しつつ、電動車両の停車距離を短くすることができる。
したがって、本実施形態によれば、電動車両の停止距離を短くし、かつ、滑らかな停車を実現することができる。なお、アクセル操作量が所定値以下とは、回生制動とは別に、制動装置が介入することなく、電動車両が十分に低下した速度、例えば15km/h以下で走行しているときのアクセル操作量を意味する。
また、本実施形態によれば、制御ブロック701は、式(12)の伝達特性Gωv(s)を近似したフィルタにより実現される。これにより、電動車両の停止距離を短くしつつ、モータコントローラ2の演算処理を低減することができる。
また、本実施形態によれば、伝達特性Gωv(s)を近似したフィルタは、式(16)のように、電動モータ4のモータ回転速度ωmから車体速度Vまでの伝達特性Gωv(s)の分母の極を1つ以上用いて伝達特性Gωv(s)を近似したフィルタにより実現される。
このように、伝達特性Gωv(s)の分母の極を1つ以上用いることにより、本来の伝達特性を近似することができるとともに、制御ブロック701の演算負荷を低減することができる。すなわち、モータコントローラ2の演算負荷を低減しつつ、電動車両の停止距離を短くすることができる。
また、伝達特性Gωv(s)を近似したフィルタのゲイン特性に関しては、図13に示したように、入力信号に対する出力信号の位相が180度遅延する周波数Fs2におけるゲインが、0よりも所定の幅だけ小さく、かつ、低周波数領域における周波数Fs1の極小値よりも小さくなるように設定される。
これにより、図12で述べた比較例に比べて、図7に示した乗算器702のゲインKvrefを大きくすることが可能になるので、電動車両の停止距離を短くすることができる。
また、本実施形態によれば、ステップS203においてモータコントローラ2は、式(17)に示したように、上述の伝達特性Gωv(s)だけでなく、電動モータ4のトルクTmから電動車両の駆動力Fまでの伝達特性GpF(s)を模擬して、モータトルク指令値Tm*を算出する。
これにより、モータトルクTmを用いて電動車両の駆動力Fを直接コントロールできない電動車両であっても、電動車両の停止距離を短くしつつ、滑らかな停車を実現することができる。
また、本実施形態によれば、モータコントローラ2は、図6に示したように、アクセル操作量に基づいて、例えば図3に示したマップから第1のトルク目標値Tm1*を算出する第1算出手段と、外乱トルクに収束させる第2のトルク目標値Tm2*を算出する第2算出手段と、を備える。そしてモータコントローラ2は、第1のトルク目標値Tm1*が第2のトルク目標値Tm2*を上回る場合には、電動車両が停車間際であると判断する。
このように、モータコントローラ2は、図11(a)に示したように、時刻t2まで第1のトルク目標値Tm1*に基づき電動車両を減速した後、第2のトルク目標値Tm2*に切り替えて電動車両を停車させる。これにより、平坦路、登坂路及び降坂路に依らず、加速度振動が抑えられた滑らかな減速を停車間際に実現することができる。これに加えて停車した後に停止状態を保持することができる。
なお、本実施形態では駆動軸8の回転速度に相関のある回転体の角速度としてモータ回転速度ωmを用いる例について説明したが、駆動輪9a及び9bの回転速度を用いてもよい。
(第2実施形態)
次に、駆動輪9a及び9bの角速度を用いて第2のトルク目標値Tm2*を演算する第2の実施形態について説明する。
図15は、本発明の第2実施形態における停止制御処理を実現する機能構成の一例を示すブロック図である。
図15には、車体速度F/Bトルク設定器601に代えて車体速度F/Bトルク設定器611が示されている。他の構成については、図6に示した構成と同じであるため、ここでの説明を省略する。
車体速度F/Bトルク設定器611は、車輪センサ10により検出される駆動輪9aの角速度を示す車輪速度ωwに基づいて、車体速度F/BトルクTωを算出する。
図16は、車輪速度ωwに基づいて車体速度F/BトルクTωを算出する方法を説明するための図である。
車体速度F/Bトルク設定器611は、制御ブロック711と乗算器702とを備える。なお、乗算器702は図7に示したものと同様の構成であるため、ここでは制御ブロック711についてのみ詳細に説明する。
まず、車輪速度ωwから車体速度Vまでの伝達特性Gωv1(s)は、次式(18)により表される。
制御ブロック711は、上式(18)の伝達特性Gωv1(s)を有するフィルタとしての機能を担っている。このため、制御ブロック711は、車輪速度ωwを入力し、伝達特性Gωv1(s)を考慮したフィルタリング処理を行うことにより、推定車体速度V^を算出する。
なお、式(18)の伝達特性Gωv1(s)に代えて、式(14)と同じように、伝達特性Gωv1(s)を近似した近似式を制御ブロック711に適用しても良い。
なお、本実施形態では駆動軸8の回転速度に相関のある回転体の角速度として駆動輪9aの角速度を用いたが、従属輪の角速度、又は駆動軸8を構成するドライブシャフト軸に回転速度センサを取り付けてその回転速度センサの検出値などを用いても良い。
本発明の第2実施形態によれば、モータコントローラ2は、駆動軸8の回転速度に相関のある回転体の角速度として、回転体を構成する駆動輪9aの角速度を示す車輪速度ωwを用いる。具体的には、モータコントローラ2は、車輪速度ωwから車体速度Vまでの伝達特性Gωv1(s)を模擬して推定車体速度V^を演算する。そして、ステップS203においてモータコントローラ2は、アクセル操作量が所定の値以下であり、かつ、電動車両が停車間際である場合には、推定車体速度V^の低下とともに、外乱トルク推定値Tdにモータトルク指令値Tm*を収束させる。
このように、車輪速度ωwを用いてモータトルク指令値Tm*を求めることにより、第1実施形態と同様、図11に示したように、フィードバック制御系の安定性を確保しつつ、停止距離を短縮させることができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。