JP2020008716A - 液晶配向膜とその製造方法、並びに、その液晶配向膜を用いた液晶表示素子 - Google Patents
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Abstract
Description
こうした液晶配向膜の形成には、現在、ポリアミック酸、可溶性のポリイミドもしくはポリアミック酸エステルを有機溶剤に溶解させた溶液(ワニス)が主に用いられている。これらのワニスにより液晶配向膜を形成するには、ワニスを基板に塗布した後、加熱等により塗膜を固化してポリイミド系液晶配向膜を形成し、必要に応じて前述の表示モードに適する配向処理を施す。配向処理方法としては、布などで配向膜の表面を擦ってポリマー分子の方向を整えるラビング法と、配向膜に直線偏光の紫外線を照射することにより、ポリマー分子に光異性化や二量化等の光化学変化を起こさせて膜に異方性を付与する光配向法が知られており、このうち光配向法は、ラビング法に比べて配向の均一性が高く、また、非接触の配向処理法であるため膜に傷が付かないことや、発塵や静電気等の液晶表示素子の表示不良を発生させる原因を低減できる等の利点がある。
これに対しては、従来の光配向法によるポリイミド系液晶配向膜を使用しながら、層構成等を工夫することで、液晶表示素子の電圧保持率の低下を抑える検討が行われている(例えば、特許文献6〜9を参照。)。しかしながら、そのような構成を液晶配向膜に採用したとしても、液晶配向膜が光反応性基を有している以上、その光劣化による電圧保持率の低下は避けられず、近年の要求に十分に応える表示品位を実現するのは難しい。
[2] 前記光反応性基が、アゾベンゼン構造であることを特徴とする、[1]に記載の液晶配向膜。
[3] 前記ポリイミドまたは前記ポリイミド前駆体が、下記式(P1)で表される構成単位を有することを特徴とする、[1]または[2]に記載の液晶配向膜。
[4] 前記式(P1)で表される構成単位が、下記式(P2)で表される構成単位であることを特徴とする、[3]に記載の液晶配向膜。
ベンゼン環の水素原子は置換基で置換されていてもよい。]
*は、式(P2)におけるベンゼン環への結合位置を表す。]
[5] トランス-シス光異性化を起こす光反応性基を有するポリイミドまたはポリイミド前駆体を含む膜を基板上に形成した後、前記基板を加熱しながら、前記膜に偏光紫外線を照射する工程を含む液晶配向膜の製造方法。
[6] 前記基板の加熱温度が、40℃〜200℃であることを特徴とする、[5]に記載の液晶配向膜の製造方法。
[7] 前記基板の加熱温度が、60℃〜150℃であることを特徴とする、[5]に記載の液晶配向膜の製造方法。
[8] 前記偏光紫外線の照射量が、0.25J/cm2〜4.0J/cm2であることを特徴とする、[5]〜[7]のいずれか1項に記載の液晶配向膜の製造方法。
[9] [1]に記載の液晶配向膜を含むことを特徴とする液晶表示素子。
[10] 前記液晶表示素子が、横電界型液晶表示素子であることを特徴とする、[9]に記載の液晶表示素子。
本発明の液晶配向膜は、トランス-シス光異性化を起こす光反応性基を有するポリイミドまたはポリイミド前駆体を加熱しながら偏光紫外線を照射して得た液晶配向膜である。
本発明における「トランスーシス光異性化を起こす光反応性基」とは、シス型とトランス型の両方の立体配置が存在する原子団であって、光の照射により、トランス型からシス型への異性化を起こすもののことを意味する。以下の説明では、「トランスーシス光異性化を起こす光反応性基」を単に「光反応性基」ということがある。トランスーシス光異性化を起こす原子団として、例えばアゾ基(−N=N−)、1,2−エテンジイル基(−HC=CH−)、イミノ基(−HC=N―)のような、2つの原子間の結合軸周りで、分子内回転が困難であるような構造を有する原子団が挙げられる。本発明における光反応性基は、そのような原子団の中でもアゾベンゼン構造、スチルベン構造、アシルヒドラゾン構造であることが好ましく、アゾベンゼン構造であることがより好ましい。
本発明の液晶配向膜は、上記のような光反応性基を有するポリイミドまたはポリイミド前駆体を加熱しながら偏光紫外線を照射して得たものである。光反応性基を有するポリイミドまたはポリイミド前駆体に偏光紫外線を照射すると、その偏光紫外線の偏光軸と概ね平行にあるポリマー主鎖において、その光反応性基でトランス型からシス型への異性化が起こり、この光異性化に起因してポリマー主鎖のうちで特定の方向を向いた成分が支配的になる。すなわち、膜を構成するポリマー主鎖が特定の方向に配向して異方性が付与された状態になる。この偏光紫外線の照射を、ポリイミドまたはポリイミド前駆体を加熱しながら行うと、上記のようなポリマー主鎖の配向が顕著に促進されると考えられ、得られた液晶配向膜は良好な液晶配向性を発現する。
以下において、本発明の液晶配向膜で用いる光反応性基を有するポリイミドまたはポリイミド前駆体について説明する。
本発明における「ポリイミド」とは、イミド結合を含む構成単位を有するポリマーのことをいう。本発明における「ポリイミド前駆体」とは、その化学反応によりポリイミドを生成することができるポリマーを意味し、具体的にはポリアミック酸またはその誘導体を挙げることができる。ここで、「ポリアミック酸誘導体」とは、ポリアミック酸の一部分を他の原子または原子団に置き換えたもののことを意味する。ポリアミック酸誘導体の具体例として、ポリアミック酸エステル、ポリアミック酸−ポリアミドコポリマーなどを挙げることができる。
Yは水素原子または1価の有機基を表し、2つのYの少なくとも一方は有機基である。2つのYの両方が有機基であるとき、それらの有機基同士は互いに同一であっても異なっていてもよい。Yにおける有機基の好ましい範囲と具体例については、式(P1)のR2およびR3における有機基の好ましい範囲と具体例を参照することができる。
また、ポリイミド前駆体は、その全ての繰り返し単位が式(PAE)で表される構造を有するポリアミック酸エステルであってもよいし、ポリアミック酸の繰り返し単位の一部のみがエステル化した部分エステル化物、すなわち式(PAE)で表される構成単位と式(PAA)で表される構成単位を有するものであってもよい。
ここで、本発明で用いるポリイミドまたはポリイミド前駆体の繰り返し単位は、光反応性基を有する構成単位のみからなるものであってもよいし、光反応性基を有する構成単位とそれ以外の構成単位からなるものであってもよい。光反応性基を有する構成単位の数は、全ての繰り返し単位の合計に対して15%以上であることが好ましい。各構成単位に含まれる光反応性基は、1つであっても2つ以上であってもよい。
式(P1)において、R2およびR3は、それぞれ独立して、水素原子または1価の有機基を表す。R2とR3は、互いに同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。式(P1)で表される構成単位のうち、R2およびR3の両方が水素原子であるものは、式(PAA)で表される構成単位の好ましい例に相当し、R2およびR3の少なくとも一方が有機基であるものは、式(PAE)で表される構成単位の好ましい例に相当する。
R2およびR3における有機基の例として、置換もしくは無置換のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シリル基等を挙げることができる。
アルキル基は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。アルキル基の好ましい炭素数は1〜10であり、よりこのましくは1〜6であり、さらに好ましくは1〜4であり、さらにより好ましくは1〜3である。アルキル基の具体例として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルブチル基、1−エチルプロピル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、1−メチルペンチル基、1−エチルブチル基等を例示することができる。アルキル基は、置換基で置換されていてもよい。置換基として、水酸基、アミノ基、ハロゲノ基等を挙げることができる。
式(P1)で表される構成単位では、アゾ基と該アゾ基の両側に結合した2つのベンゼン環からなるアゾベンゼン構造が光反応性基を構成する。
式(P1)における2つのベンゼン環の水素原子は、それぞれ置換基で置換されていてもよい。置換基の好ましい例として、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲノ基、カルボキシアルキル基が挙げられる。アルキル基は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。アルキル基の好ましい炭素数は1〜4であり、より好ましくは1〜2である。アルキル基の具体例として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等を例示することができる。アルコキシ基の好ましい炭素数は1〜4であり、より好ましくは1〜2である。アルコキシ基の具体例として、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等を例示することができる。ハロゲン化アルキル基の具体例として、トリフルオロメチル基等を例示することができる。ハロゲノ基の具体例として、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等を例示することができる。カルボキシアルキル基の具体例として、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基等を例示することができる。また、これらの置換基のうち、置換基で置換可能な水素原子があるものは、さらにその水素原子が置換基で置換されていてもよい。このため、式(P1)における2つのベンゼン環の水素原子は、例えば後述の式(P1−1)や式(P1−2)で表される置換基で置換されていてもよい。ベンゼン環における置換基の位置や種類は、2つのベンゼン環同士で、互いに同一であっても異なっていてもよい。
R4およびR5は、それぞれ独立して、水素原子、下記式(P1−1)または下記式(P1−2)で表される基を表し、R4およびR5の少なくとも1つは、下記式(P1−1)または下記式(P1−2)で表される基である。R4およびR5のうちで式(P1−1)または式(P1−2)で表される基であるものは、R4およびR5のうちの一方であっても両方であってもよい。R4およびR5の両方が式(P1−1)または式(P1−2)で表される基であるとき、それらの基は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
式(P2)で表される構成単位では、アゾ基と、R4を有するベンゼン環と、R5を有するベンゼン環からなるアゾベンゼン構造が光反応性基を構成する。R4を有するベンゼン環とR5を有するベンゼン環の水素原子は置換基で置換されていてもよい。置換基の好ましい範囲と具体例については、式(P1)のベンゼン環に置換してもよい置換基の好ましい範囲と具体例を参照することができる。
式(P1−1)において、R6におけるアルキル基は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。アルキル基の好ましい炭素数は1〜10であり、よりこのましくは1〜6であり、さらに好ましくは1〜4であり、さらにより好ましくは1〜3である。アルキル基の具体例として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルブチル基、1−エチルプロピル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、1−メチルペンチル基、1−エチルブチル基等を例示することができる。
R6におけるアルカノイル基は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。アルカノイル基の好ましい炭素数は1〜10であり、より好ましくは1〜6であり、さらに好ましくは1〜2であり、さらにより好ましくは1である。アルカノイル基の具体例として、メタノイル基、エタノイル基、プロパノイル基、イソプロパノイル基、ブタノイル基、イソブタノイル基、sec−ブタノイル基、tert−ブタノイル基、ペンタノイル基、イソペンタノイル基、ネオペンタノイル基、tert−ペンタノイル基、1−メチルブタノイル基、1−エチルプロパノイル基、ヘキサノイル基、イソヘキサノイル基、1−メチルペンタノイル基、1−エチルブタノイル基等を例示することができる。
R6におけるアリールカルボニル基のアリール基は、単環であっても縮合環であってもよい。アリール基の好ましい炭素数は6〜22であり、より好ましくは6〜14であり、さらに好ましくは6〜10である。アリール基の具体例として、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等を例示することができる。アリールカルボニル基の具体例として、フェニルカルボニル基、1−ナフチルカルボニル基等を例示することができる。
R6におけるアルキル基、アルカノイル基およびアリールカルボニル基は、それぞれ置換基で置換されていてもよい。置換基として、水酸基、アミノ基、ハロゲノ基等を挙げることができる。
これらのうちで、最終的に製造される液晶配向膜の性能を良好にできる点から、R6はメチル基、エチル基、プロピル基、水素原子、メタノイル基、フェニル基であることが好ましい。
式(P1−2)において、R7およびR8におけるアルキル基、アルカノイル基、アリールカルボニル基およびこれらの基に置換しうる置換基の説明と好ましい範囲、具体例については、上記の式(P1−1)のR6におけるアルキル基、アルカノイル基、アリールカルボニル基およびこれらの基に置換しうる置換基についての説明と好ましい範囲、具体例を参照することができる。
本発明の液晶配向膜は特に大きな配向の異方性を持つことを特徴とする。このような異方性の大きさは特開2005−275364等に記載の偏光赤外線を用いた方法で評価することができる。またエリプソメトリーを用いた方法によっても評価することができる。詳しくは、分光エリプソメータによって液晶配向膜のリタデーション値を測定することができる。膜のリタデーション値はポリマー主鎖の配向度に比例して大きくなる。すなわち、大きなリタデーション値を持つポリマーの膜は、大きな配向度を持ち、液晶配向膜として使用した場合、より大きな異方性を持つ液晶配向膜が液晶組成物に対し大きな配向規制力を持つと考えられる。
プレチルトPt角は、一般的な液晶評価装置を用いて、クリスタルローテーション法により測定することができる。
本発明の液晶配向膜の膜厚は、特に限定されないが、10〜300nmであることが好ましく、30〜150nmであることがより好ましい。液晶配向膜の膜厚は、段差計やエリプソメータ等の公知の膜厚測定装置によって測定することができる。
次に、本発明の液晶配向膜の製造方法について説明する。
本発明の液晶配向膜の製造方法は、トランス-シス光異性化を起こす光反応性基を有するポリイミドまたはポリイミド前駆体を含む膜を基板上に形成した後、基板を加熱しながら、膜に偏光紫外線を照射する工程を含むことを特徴とする。
本発明の液晶配向膜の製造方法は、本発明の液晶配向膜を製造する方法として好適に用いることができる。本発明で用いる「トランス-シス光異性化を起こす光反応性基を有するポリイミドまたはポリイミド前駆体」の説明と好ましい範囲、具体例については、本発明の液晶配向膜における[光反応性基を有するポリイミドまたはポリイミド前駆体]の欄の記載を参照することができる。
本発明の液晶配向膜の製造方法は、基板上に、トランス-シス光異性化を起こす光反応性基を有するポリイミドまたはポリイミド前駆体を含む膜を形成する膜形成工程と、基板上に形成した膜に、基板を加熱しながら偏光紫外線を照射する光配向処理工程により行うことができる。以下、各工程について説明する。
膜形成工程では、基板上に、トランス-シス光異性化を起こす光反応性基を有するポリイミドまたはポリイミド前駆体を含む膜を形成する。
本工程で形成する膜は、ポリイミドおよびポリイミド前駆体のうち、ポリイミドのみを含むものであっても、ポリイミド前駆体のみを含むものであってもよく、ポリイミドとポリイミド前駆体の両方を含むものであってもよい。膜が含むポリイミドおよびポリイミド前駆体は、それぞれ、1種類であっても2種類以上であってもよい。ポリイミドまたはポリイミド前駆体の種類や組み合わせ、配合比は、目的の液晶配向膜の組成に対応するように適宜調整する。
光反応性基を有するポリイミドまたはポリイミド前駆体を含む膜を形成するには、例えば、まず、形成する膜の組成に対応する配合比でポリイミドまたはポリイミド前駆体を溶剤に溶解し、液晶配向剤としてのポリマー溶液を調製する。液晶配向剤の組成については、後述の「膜を形成するための液晶配向剤の好ましい態様」の欄の記載も参照することができる。この液晶配向剤を基板上に塗布して塗膜を形成した後、塗膜から溶剤を揮発除去して固体の膜を形成する。
また、塗布性を改善できる溶剤として、ジイソブチルケトン、乳酸アルキル、ジアセトンアルコール、3−メチル−3−メトキシブタノール、4−メチル−2−ペンタノール、ジイソブチルカルビノール、テトラリン、イソホロン、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のジエチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル等のジエチレングリコールジアルキルエーテル、エチレングリコールモノアルキルまたはフェニルアセテート、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、1−ブトキシ−2−プロパノール等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル、マロン酸ジエチル等のマロン酸ジアルキル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のジプロピレングリコールモノアルキルエーテル、これらアセテート類等のエステル化合物が挙げられる。
これらの中で、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン、γ−ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、ジイソブチルケトン、4−メチル−2−ペンタノール、ジイソブチルカルビノール、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、1−ブトキシ−2−プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、およびジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ブチルセロソルブアセテートを用いることが好ましい。
液晶配向剤の粘度は、回転粘度測定法により測定され、例えば回転粘度計(東機産業製TVE−20L型)を用いて測定(測定温度:25℃)される。
光配向処理工程では、基板上に形成した膜に、基板を加熱しながら偏光紫外線を照射して異方性を付与する。
光反応性基を有するポリイミドまたはポリイミド前駆体を含む膜に偏光紫外線を照射すると、その偏光紫外線の偏光軸と概ね平行にあるポリマー主鎖において、その光反応性基でトランス型からシス型への異性化が起こり、膜を構成するポリマー主鎖が特定の方向に配向して異方性が付与された状態になる。この偏光紫外線の照射を、基板を加熱しながら行うと、基板の熱によって膜を構成するポリマー主鎖が加熱され、その配向が効果的に促進されると考えられ、膜に高度な異方性が付与されることになる。
偏光紫外線の膜表面に対する照射角度は特に限定されないが、液晶に対する強い配向規制力を発現させたい場合、膜表面に対して略垂直であることが好ましい。具体的には、膜表面の法線方向に対して±15°以内の角度で偏光紫外線を照射することが好ましい。また、液晶にプレチルト角を発現させたい場合、膜に照射する偏光紫外線を膜表面の法線方向に対して一定の角度で偏光紫外線を照射することができ、その角度は所望のプレチルト角に応じて選択することができる。
偏光紫外線の照射に使用する光源には、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、Deep UVランプ、メタルハライドランプ、ハイパワーメタルハライドランプ、キセノンランプ、水銀キセノンランプ、エキシマランプ、KrFエキシマレーザー、蛍光ランプ、LEDランプ、マイクロウェーブ励起無電極ランプ等、偏光紫外線の照射に通常使用される光源を制限なく用いることができる。
上記の光配向処理工程で得た膜のうち、ポリイミド前駆体や部分ポリイミドを含む膜は、加熱焼成を行って、式(PAA)または式(PAE)で表される構成単位を式(PI)で表される構成単位に変換することが好ましい。繰り返し単位の全てが式(PI)で表されるポリイミドの膜は、加熱焼成を行ってもよいが、そのまま液晶配向膜として用いることもできる。以下において、加熱焼成工程、および、必要に応じて行うその他の工程について説明する。
加熱焼成工程では、光配向処理を行った膜を加熱して焼成させる。
これにより、ポリイミド前駆体や部分ポリイミドの式(PAA)、式(PAE)、式(P1)、または式(P2)で表される構成単位が、閉環反応により式(PI)等で表される構成単位に変換され、ポリイミドの液晶配向膜が形成される。特に、式(P2)で表される構成単位を有するものでは、この加熱焼成工程で、アゾベンゼン構造のアゾ基と、式(P1−1)または式(P1−2)で表される基が環化反応を起こして、アゾ基が消失すると同時に光に対して安定なインダゾール環が形成される。その結果、光安定性が高い液晶配向膜を得ることができる。
加熱焼成温度は、40〜300℃であることが好ましく、100〜300℃であることがより好ましく、120〜280℃であることがさらに好ましく、150〜250℃であることがさらにより好ましい。加熱時間は1分間〜3時間であることが好ましく、5分間〜1時間であることがより好ましく、15分間〜45分間であることがさらに好ましい。加熱時間は加熱温度によって調整することが望ましく、例えば加熱温度が40〜180℃の時は加熱時間が10分間〜3時間であることが好ましく、加熱温度が180〜300℃の時は加熱時間が1分間〜1時間であることが好ましい。なかでも反応効率を高めることができる点から、加熱温度が150〜280℃で加熱時間が10分間〜1時間であることがより好ましく、加熱温度が180〜250℃で加熱時間が15分間〜45分間であることがさらに好ましい。
加熱焼成は、一定の温度で行ってもよいし、異なる温度で段階的に行ってもよいし、温度を連続的に変化させながら行ってもよい。加熱焼成で温度を変化させる場合、低温から高温へ変化させることが好ましい。また、例えば異なる温度で2段階の加熱焼成を行う場合には、1回目は90〜180℃、2回目は185℃以上の温度で行うことが好ましい。また、温度を連続的に変化させながら焼成を行う場合、初期温度は90〜180℃であることが好ましく、最終温度は185〜300℃であることが好ましく、190〜230℃であることがより好ましい。
加熱焼成は、オーブンまたは赤外炉の中で膜を加熱処理する方法、ホットプレート上で膜を加熱処理する方法等の加熱焼成に通常用いられている方法で行うことができる。
洗浄工程は、光配向処理を行った膜や加熱焼成によって得た液晶配向膜を洗浄する工程であり、必要に応じて行うことが好ましい。
本発明で用いるポリイミド前駆体は、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物との重合反応により合成することができ、ポリイミドはポリイミド前駆体の閉環反応により生成することができる。ポリイミドおよびポリイミド前駆体に光反応性基を導入するため、合成原料の少なくとも1種には光反応性基を有するモノマーを使用する。合成原料のうち、光反応性基を有するモノマーであるものは、ジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物の少なくとも1種であることが好ましく、ジアミンであることがより好ましい。
以下において、ポリイミドまたはポリイミド前駆体の生成に用いられるジアミン、テトラカルボン酸二無水物およびその他のモノマーについて説明する。なお、以下の説明では、モノマーが光反応性基を有することを「光反応性」と表現することがあり、例えば「光反応性基を有するモノマー」を「光反応性モノマー」ということがある。
光反応性モノマーには、加熱焼成工程で用いるのと同程度の加熱温度で光反応性基に化学反応が起こり、光反応性基が光に対してより安定な構造に変換する光反応性モノマーを用いることが好ましい。以下の説明では、加熱焼成工程で用いるのと同程度の加熱温度で光反応性基に化学反応が起こり、光反応性基が光に対してより安定な構造に変換する性質を「熱反応性」といい、そのような性質を有する光反応性モノマーを「熱反応性を有する光反応性モノマー」といい、そのような性質を有する光反応性ジアミンを「熱反応性を有する光反応性ジアミン」という。
熱反応性を有する光反応性モノマーとして、式(2)で表されるジアミンを挙げることができる。式(2)で表されるジアミンは、式(P2)で表される構成単位と共通のアゾベンゼン構造、すなわちベンゼン環のアゾ基に対するオルト位が特定の置換基で置換されたアゾベンゼン構造を有しており、そのアゾベンゼン構造が熱反応性を有する光反応性基として機能する。式(2)で表されるジアミンを合成原料に用いることにより、ポリイミドまたはポリイミド前駆体に、この熱反応性を有する光反応性基を導入することができる。
R6およびR8は、それぞれ独立して、炭素数1〜20の直鎖アルキレン基、−COO−、−OCO−、−NHCO−、−CONH−、−N(CH3)CO−、−CON(CH3)−、または単結合を表す。R6およびR8において、直鎖アルキレン基の−CH2−の1つまたは隣接しない2つは−O−で置き換えられていてもよい。R6とR8は互いに同一であっても異なっていてもよい。
R7およびR9は、それぞれ独立して、単環式炭化水素、縮合多環式炭化水素、複素環、または単結合を表す。R7とR9は互いに同一であっても異なっていてもよい。
R7およびR9における単環式炭化水素は脂環であっても芳香環であってもよい。単環式炭化水素の炭素数は6〜12であることが好ましく、6〜10であることがより好ましく、6〜8であることがさらに好ましい。単環式炭化水素の具体例として、ベンゼン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環を挙げることができる。
R7およびR9における縮合多環式炭化水素の炭素数は10〜26であることが好ましく、10〜18であることがより好ましく、10〜14であることがさらに好ましい。縮合多環式炭化水素の具体例として、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環を挙げることができる。
R7およびR9における複素環は脂環であっても芳香環であってもよい。複素環の炭素数は1〜26であることが好ましく、3〜14であることがより好ましく、3〜8であることがさらに好ましい。複素環が環員として含む複素原子として、窒素原子、酸素原子、硫黄原子を挙げることができる。複素環の具体例として、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、インドール環、オキサゾール環を挙げることができる。
式(2)において、−R6−R7−NH2は、式(2)における一方のベンゼン環に結合しており、その結合位置は、ベンゼン環における水素原子と置換可能な位置のいずれかである。−R8−R9−NH2は、式(2)における他方のベンゼン環に結合しており、その結合位置は、ベンゼン環における水素原子と置換可能な位置のいずれかである。ベンゼン環の残りの置換可能な位置は、無置換であっても置換基で置換されていてもよい。置換基の好ましい範囲と具体例については、上記の式(P1)のベンゼン環に置換してもよい置換基の好ましい範囲と具体例を参照することができる。
上記の式(3)〜(6)のいずれかで表されるジアミンは、下記のようにして合成することができる。
式(3)で表されるジアミンを合成するには、市販の5−ニトロアントラニル酸を還元して2−アミノ−5−ニトロフェニルメタノールを得た後、芳香族アミンの酸化反応によってベンゼン環におけるアゾ基のオルト位にヒドロキシメチル基、およびパラ位にニトロ基を有するアゾベンゼンを得る。続いて、水酸基をトリフルオロメタンスルホン酸エステルとし、求核置換反応でアルコキシ基とする。最後にニトロ基を還元することで目的のジアミンが得られる。
式(2)で表されるジアミン以外の光反応性モノマーとして、下記式(I)〜(VII)のいずれかで表される化合物を挙げることができる。
ここで、R2およびR3が−NH2を有する1価の有機基であるとき、式(I)〜(VII)のいずれかで表される化合物は光反応性ジアミンであり、R2およびR3が−CO−O−CO−を有する1価の有機基であるとき、式(I)〜(VII)のいずれかで表される化合物は光反応性テトラカルボン酸二無水物である。
式(VI−1)、(VII−1)および(VII−3)で表される化合物はその感光性の点から特に好適に用いることができる。式(VI−1)および(VII−1)においては、アミノ基の結合位置がパラ位の化合物を、さらに式(VII−1)においては、b=0の化合物を、その配向性の点からより好適に用いることができる。
式(VI−1)または(VII−1)で表される化合物の好ましい具体例として、下記式(V−2−1)または(VI−2−1)で表される化合物を挙げることができる。
以下に、非光反応性モノマーであるテトラカルボン酸二無水物およびジアミンの例を挙げる。また、ポリイミドおよびポリイミド前駆体の合成には、テトラカルボン酸二無水物およびジアミン以外の、他のモノマーも併用することができる。以下では、他のモノマーとして、ジヒドラジドおよびモノイソシアネートの例も挙げる。
ポリイミドおよびポリイミド前駆体の合成原料には、公知の非光反応性のテトラカルボン酸二無水物も用いることができる。このようなテトラカルボン酸二無水物は、芳香環に直接ジカルボン酸無水物が結合した芳香族系(複素芳香環系を含む)、および芳香環に直接ジカルボン酸無水物が結合していない脂肪族系(複素環系を含む)の何れの群に属するものであってもよい。
式(AN−II)〜(AN−IV)において、Yは独立して下記の3価の基の群から選ばれる1つを表す。3価の基の各結合手は、各式におけるカルボニル基を構成している炭素原子または環A10の水素原子と置換可能な位置のいずれかに連結している。この3価の基の少なくとも1つの水素原子は、メチル基、エチル基またはフェニル基で置換されてもよい。
式(AN−1)で表されるテトラカルボン酸二無水物の例としては、下記の式で表される化合物を挙げることができる。
式(AN−2)で表されるテトラカルボン酸二無水物の例としては、下記の式で表される化合物を挙げることができる。
式(AN−3)で表されるテトラカルボン酸二無水物の例としては、下記の式で表される化合物を挙げることができる。
式(AN−4)で表されるテトラカルボン酸二無水物の例としては、下記の式で表される化合物を挙げることができる。
式(AN−5)で表されるテトラカルボン酸二無水物の例としては、下記の式で表される化合物を挙げることができる。
式(AN−6)で表されるテトラカルボン酸二無水物の例としては、下記の式で表される化合物を挙げることができる。
式(AN−7)で表されるテトラカルボン酸二無水物の例としては、下記の式で表される化合物を挙げることができる。
式(AN−8)で表されるテトラカルボン酸二無水物の例としては、下記の式で表される化合物を挙げることができる。
式(AN−9)で表されるテトラカルボン酸二無水物の例としては、下記の式で表される化合物を挙げることができる。
式(AN−11)で表されるテトラカルボン酸二無水物の例としては、下記の式で表される化合物を挙げることができる。
式(AN−12)で表されるテトラカルボン酸二無水物の例としては、下記の式で表される化合物を挙げることができる。
式(AN−15)で表されるテトラカルボン酸二無水物の例としては、下記の式で表される化合物を挙げることができる。
ポリイミドおよびポリイミド前駆体の合成原料には、公知の非光反応性ジアミンも用いることができ、さらに、その他のモノマーとしてジヒドラジドを併用してもよい。
非側鎖型ジアミンと側鎖型ジアミンを適切に使い分けることにより、それぞれに必要なプレチルト角に対応することができる。
式(DI−13)において、R23は独立して炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基または−Clを表し、pは独立して0〜3の整数であり、qは0〜4の整数である。
式(DI−14)において、環Bは単環の複素環式芳香族基を表し、R24は水素原子、−F、−Cl、炭素数1〜6のアルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルキニル基を表し、qは独立して0〜4の整数である。qが2以上であるとき、複数のR24は互いに同一であっても異なっていてもよい。
式(DI−15)において、環Cは複素環式芳香族基または複素環式脂肪族基を表す。
式(DI−16)において、G24は単結合、炭素数2〜6のアルキレン基または1,4−フェニレン基を表し、rは0または1である。そして、環を構成する炭素原子に結合位置が固定されていない基は、その環における結合位置が任意であることを示す。
式(DI−13)〜式(DI−16)において、環に結合する−NH2の結合位置は、任意の位置である。
上記式(DI−1)〜(DI−16)の側鎖を有さないジアミンとして、以下の式(DI−1−1)〜式(DI−16−1)の具体例を挙げることができる。
式(DIH−2)において、環Dはシクロヘキサン環、ベンゼン環またはナフタレン環を表し、この基の少なくとも1つの水素原子はメチル基、エチル基、またはフェニル基で置換されてもよい。式(DIH−3)において、環Eはそれぞれ独立してシクロヘキサン環、またはベンゼン環を表し、この基の少なくとも1つの水素原子はメチル基、エチル基、またはフェニル基で置換されてもよい。複数のEは互いに同一であっても異なっていてもよい。Yは単結合、炭素数1〜20のアルキレン、−CO−、−O−、−S−、−SO2−、−C(CH3)2−、または−C(CF3)2−を表す。式(DIH−2)および式(DIH−3)において、環に結合する−CONHNH2の結合位置は、任意の位置である。
ポリイミドおよびポリイミド前駆体の合成原料には、その他のモノマーとして、モノイソシアネート化合物を併用することができる。モノイソシアネート化合物を用いることにより、得られるポリイミドおよびポリイミド前駆体の末端が修飾され、分子量が調節される。この末端修飾型のポリイミドおよびポリイミド前駆体を用いることにより、例えば本発明の効果が損なわれることなく液晶配向剤の塗布特性を改善することができる。モノマー中のモノイソシアネート化合物の含有量は、モノマー中のジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物の総量に対して1〜10モル%であることが、前記の観点から好ましい。モノイソシアネート化合物としては、例えばフェニルイソシアネート、およびナフチルイソシアネートが挙げられる。
上記のモノマーからのポリイミド前駆体およびポリイミドの合成は、公知の合成条件を用いて行うことができる。例えばテトラカルボン酸二無水物の総仕込み量は、ジアミンの合計1モルに対して、0.9〜1.1モルの比率であることが好ましい。
このイミド化反応において、脱水剤と脱水閉環触媒の割合は、0.1〜10(モル比)であることが好ましい。脱水剤と脱水閉環触媒の合計使用量は、当該ポリアミック酸の合成に使用したテトラカルボン酸二無水物のモル量の合計に対して1.5〜10倍モルであることが好ましい。このイミド化反応に用いる脱水剤、触媒量、反応温度および反応時間を調整することによって、イミド化の程度を制御することができ、これによりポリアミック酸の一部のみがイミド化した部分ポリイミドを得ることができる。得られたポリイミドは、反応に用いた溶剤と分離し、他の溶剤に再溶解させて液晶配向剤として使用することもできるし、あるいは溶剤と分離することなく液晶配向剤として使用することもできる。
本発明で用いるポリイミドまたはポリイミド前駆体を含む膜は、例えばポリイミドまたはポリイミド前駆体を含む液晶配向剤を基板上に塗布して塗膜を形成し、その塗膜から溶剤を揮発除去することにより形成することができる。
液晶配向剤が含むポリイミドまたはポリイミド前駆体は、それぞれ1種類であっても2種類以上であってもよい。なお、本明細書中では、ポリイミドまたはポリイミド前駆体のうちの1種類のみを含む液晶配向剤を単層型液晶配向剤といい、ポリイミドおよびポリイミド前駆体のうちの2種類以上を含む液晶配向剤をブレンド型液晶配向剤ということがある。2種類以上は、ポリイミドのうちの2種類以上であっても、ポリイミド前駆体のうちの2種類以上であってもよく、1種類以上のポリイミドと1種類以上のポリイミド前駆体を組み合わせたものであってもよい。ここで、単層型液晶配向剤に用いるポリイミドまたはポリイミド前駆体は光反応性基を有するものである。ブレンド型液晶配向剤に用いるポリイミドまたはポリイミド前駆体は、少なくとも1種が光反応性基を有していればよく、光反応性基を有していないポリイミドまたはポリイミド前駆体を含んでいてもよい。液晶配向剤の保存安定性、液晶配向剤の表示素子基板への印刷性、および形成される液晶配向膜の特性のバランスを重視する場合は、ブレンド型液晶配向剤であることが好ましい。
ポリアミック酸同士の混合からなる液晶配向剤では、上層に偏析させたいポリマーをポリイミドとすることで層分離を発現させることもできる。
薄膜の上層に偏析するポリアミック酸またはその誘導体を合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物は、式(AN−1−1)、式(AN−2−1)、式(AN−3−1)、式(AN−4−5)、および式(AN−4−17)で表される化合物が好ましく、式(AN−4−17)がより好ましい。式(AN−4−17)においては、m=4または8が好ましく、m=8がより好ましい。
薄膜の上層に偏析するポリアミック酸またはその誘導体を合成するために用いられる式(2)で表されるジアミン以外のジアミンおよびジヒドラジドとしては、式(DI−4−1)、式(DI−4−13)、式(DI−4−15)、式(DI−5−1)、式(DI−7−3)、および式(DI−13−1)で表される化合物を用いるのが好ましい。中でも、式(DI−4−13)、式(DI−4−15)、式(DI−5−1)、および式(DI−13−1)で表される化合物を用いるのがより好ましい。式(DI−5−1)において、m=1、2または4が好ましく、m=4がより好ましい。式(DI−7−3)においてはm=3、n=1が好ましい。
薄膜の下層に偏析するポリアミック酸またはその誘導体を合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物としては、式(AN−1−1)、式(AN−1−13)、式(AN−2−1)、式(AN−3−2)、および式(AN−4−21)で表される化合物が好ましく、式(AN−1−1)、式(AN−2−1)、および式(AN−3−2)がより好ましい。
薄膜の下層に偏析するポリアミック酸またはその誘導体を合成するために用いられるジアミンおよびジヒドラジドとしては、式(DI−4−1)、式(DI−4−2)、式(DI−4−10)、式(DI−4−18)、式(DI−4−19)、式(DI−5−9)、式(DI−5−28)、式(DI−5−30)、式(DI−13−1)、および式(DIH−2−1)で表される化合物が好ましい。中でも、式(DI−4−1)、式(DI−4−18)、式(DI−4−19)、式(DI−5−9)、および式(DI−13−1)で表される化合物がより好ましい。式(DI−5−30)において、k=2であるジアミンが好ましい。
本発明の液晶配向膜は、スマートフォン、タブレット、車載モニター、テレビ等、液晶ディスプレイ用の液晶組成物の配向制御に用いることができる。液晶ディスプレイ用の液晶組成物の配向用途以外に、光学補償材やその他すべての液晶材料の配向制御に用いることができる。また本発明の液晶配向膜は大きな異方性を有するので、単独で光学補償材用途に使用することができる。
次に、本発明の液晶表示素子について説明する。
本発明の液晶表示素子は、本発明の液晶配向膜を有する点に特徴がある。本発明の液晶配向膜およびその形成方法の説明と好ましい範囲、具体例については、液晶配向膜の欄の記載を参照することができる。
本発明の液晶表示素子は、液晶配向膜が本発明の液晶配向膜であることにより、液晶配向膜が優れた液晶配向性を発揮して、良好な残像特性と高いコントラストが得られる。
本発明の液晶表示素子について詳細に説明する。本発明は、対向配置されている一対の基板と、前記一対の基板それぞれの対向している面の一方または両方に形成されている電極と、前記一対の基板それぞれの対向している面に形成された液晶配向膜と、前記一対の基板間に形成された液晶層と、前記対向基板を挟むように設置されている一対の偏光フィルムとバックライトと駆動装置とを有する液晶表示素子において、前記液晶配向膜が本発明の液晶配向膜により構成されている。
[重量平均分子量(Mw)の測定]
ポリアミック酸の重量平均分子量は、2695セパレーションモジュール・2414示差屈折計(Waters社製)を用いてGPC法により測定し、ポリスチレン換算することにより求めた。測定に使用したサンプルは、得られたポリアミック酸をリン酸−DMF混合溶液(リン酸/N,N−ジメチルホルムアミド=0.6/100:重量比の混合溶液)で、ポリアミック酸濃度が約2重量%になるように希釈したものである。カラムにはHSPgel RT MB−M(Waters社製)を使用し、リン酸−DMF混合溶液を展開溶媒として、カラム温度50℃、流速0.40mL/minの条件で測定を行った。標準ポリスチレンには東ソー(株)社製のTSK標準ポリスチレンを用いた。
AC残像は国際公開2000/43833号パンフレットに記載の方法に従って測定した。
具体的には、作製した液晶セルの輝度−電圧特性(B−V特性)を測定し、これをストレス印加前の輝度−電圧特性:B(before)とした。次に、液晶セルに4.5V、60Hzの交流を20分間印加した後、1秒間ショートし、再び輝度−電圧特性(B−V特性)を測定した。これをストレス印加後の輝度−電圧特性:B(after)とした。そして、測定した各B−V特性の電圧1.3Vにおける輝度を用い、下記式にて輝度変化率ΔB(%)を求めた。ΔB(%)の値が小さいほど、AC残像の発生を抑制できること、すなわち液晶配向性が良好であることを意味する。
ΔB(%)=[B(after)1.3−B(before)1.3]/B(before)1.3
式において、B(before)1.3はストレス印加前のB−V特性における1.3Vでの輝度を示し、B(after)1.3はストレス印加後のB−V特性における1.3Vでの輝度を示す。
輝度変化率ΔBは以下の基準で評価した。
ΔB(%)が1.5%未満:◎(最良)
ΔB(%)が1.5%以上2.0%未満:〇(良)
ΔB(%)が2.0%以上3.0%未満:△(可)
ΔB(%)が3.0%以上:×(不可)
また、ストレス印加前のB−V特性における最小輝度と最大輝度の比を用いてコントラスト(CR)を求めた。CRの値が大きいほど、明暗表示が鮮明であることを意味する。
CR=B(before)max/B(before)min
式において、B(before)maxはストレス印加前のB−V特性における最大輝度を示し、B(before)minはストレス印加前のB−V特性における最小輝度を示す。
コントラストCRは下の基準で評価した。
CRが3500以上:◎(最良)
CRが3250以上3500未満:〇(良)
CRが3000以上3250未満:△(可)
CRが3000未満:×(不可)
液晶表示素子の電圧保持率(VHR)は、「水嶋他、第14回液晶討論会予稿集p78(1988)」に記載の方法に従い、60℃で、波高±5Vの矩形波をセルに印加して測定した。電圧保持率は、印加した電圧がフレーム周期後どの程度保持されているかを示す指標であり、この値が100%であれば、全ての電荷が保持されていることを意味する。
電圧保持率(VHR)の測定は、ΔBとCRがいずれも可レベル以上である液晶配向膜に対して行った。すなわち、下記の実施例1〜18と比較例1b〜18bの各液晶配向膜について電圧保持率(VHR)を5V、30Hzの条件で測定し、実施例nに対する比較例nbの電圧保持率低下幅(%)の大きさを計算して、以下の基準で評価した(nは1、2、3・・・18である)。
VHR低下幅が0.2%未満:◎(最良)
VHR低下幅が0.2%以上0.3%未満:○(良)
VHR低下幅が0.3%以上:×(不可)
本実施例でワニスの調製に使用したジアミンを、熱反応性を有する光反応性ジアミン、反応性を有しない光反応性ジアミンおよび非光反応性ジアミンに分けて下記に示す。なお、熱反応性を有する光反応性ジアミンには、式(2)で表されるジアミンを使用した。
本実施例でワニスの調製に使用したテトラカルボン酸二無水物を下記に示す。
本実施例で液晶配向剤の調製に使用した溶剤を下記に示す。
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
BC:ブチルセロソルブ(エチレングリコールモノブチルエーテル)
本実施例で液晶セルの液晶層に使用したネガ型液晶組成物Aの組成を下記に示す。
本実施例で使用したワニスは、下記の手順で調製した。ここで、ワニスの調製例1〜7で調製したワニスは、熱反応性を有する光反応性基であるアゾベンゼン構造を含むポリアミック酸の溶液(液晶配向剤)である。ブレンド用ワニスの調製例1〜3で調製したブレンド用ワニスは、アゾベンゼン構造を含まないポリアミック酸の溶液(液晶配向剤)であり、ワニス1〜7にブレンドして使用するものである。
攪拌翼、窒素導入管を装着した100mLの3つ口フラスコに、ジアミン(4−1)を2.2409g、N−メチル−2−ピロリドンを64.0g加えた。この溶液に、テトラカルボン酸二無水物として、(AN−4−17、m=8)を3.7591g加え、室温で24時間攪拌した。この反応液に、ブチルセロソルブを30.0g加え、生成したポリマーが目的の重量平均分子量になるまで、70℃で加熱攪拌した。その結果、ポリマーの重量平均分子量が9,000であり、樹脂分濃度(固形分であるポリマー濃度)が6重量%であるワニス1を得た。
ジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物として用いる化合物を、表1に示すように変更したこと以外は、調製例1と同様にして樹脂分濃度が6重量%のワニス2〜7を調製した。このとき、ポリマーの合成条件は、重量平均分子量が5,000から20,000の範囲になるように調整した。生成したポリマーの重量平均分子量を表1に示す。なお、表1において、ジアミンとして2以上の化合物が掲載されている調製例では、その全ての化合物を合わせてジアミンとして使用したことを意味し、テトラカルボン酸二無水物として2以上の化合物が掲載されている調製例では、その全ての化合物を合わせてテトラカルボン酸二無水物として使用したことを意味する。角括弧内の数値は、配合比(モル%)を表し、「−」はその欄に対応する化合物を使用していないことを意味する。表2においても、同様である。
ジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物として用いる化合物と配合比を、表2に示すように変更したこと以外は、調製例1と同様にして樹脂分濃度が6重量%であるブレンド用ワニス1〜8を調製した。生成したポリマー成分の重量平均分子量を表2に示す。
各調製例で調製したワニス1〜7、ブレンド用ワニス1〜3を使用して、下記の手順で液晶配向剤(配向剤1〜18)を調製し、その液晶配向剤を用いて液晶配向膜を製造した。
攪拌翼、窒素導入管を装着した50mLのナスフラスコに、ワニス1(10.0g)を秤取って投入し、そこにN−メチル−2−ピロリドン(1.4g)、ブチルセロソルブ(0.6g)を加え、室温で1時間攪拌して樹脂分濃度5重量%の配向剤1を得た。
この配向剤1を、FFS電極付きガラス基板およびカラムスペーサー付きガラス基板に、スピンナー法により、2,000rpmで15秒間基板を回転させることで塗布した。塗布後、基板を60℃で1分間加熱し、溶剤を蒸発させることで液晶配向剤の膜を形成した。この液晶配向剤の膜に、ウシオ電機(株)製マルチライトML−501C/Bを用い、基板を50℃に加熱しながら、基板の鉛直方向から、偏光板を介して波長365nmの紫外線直線偏光を2.0J/cm2の照射量で照射し、光配向処理を行った。この光配向処理を行った配向剤の膜に、220℃にて30分間加熱焼成処理を行い、膜厚100nmの液晶配向膜を形成した。
ワニス1の代わりに、表3に示すワニスを用いて配向剤2〜7を調製し、膜に照射する紫外線直線偏光のエネルギー量と、照射の際の基板の加熱温度を、表3に示す値に変更したこと以外は、実施例1と同様にして液晶配向膜を形成した。
攪拌翼、窒素導入管を装着した50mLのナスフラスコに、ワニス1(3.0g)と、ブレンド用ワニス1(7.0g)をそれぞれ秤取って投入し、そこにN−メチル−2−ピロリドン(3.5g)およびブチルセロソルブ(1.5g)を加え、室温で1時間攪拌して樹脂分濃度4重量%の配向剤8を得た。
この配向剤8を配向剤1の代わりに用い、膜に照射する紫外線直線偏光のエネルギー量と、照射の際の基板の加熱温度を、表4に示す値に変更したこと以外は、実施例1と同様にして液晶配向膜を形成した。
ワニス1およびブレンド用ワニス1の代わりに、表4に示すワニスおよびブレンド用ワニスをそれぞれ用いて配向剤8〜18を調製し、膜に照射する紫外線直線偏光のエネルギー量と、照射の際の基板の加熱温度を、表4に示す値に変更したこと以外は、実施例8と同様にして液晶配向膜を形成した。
紫外線直線偏光の照射の際に基板を加熱せずに室温としたこと以外は、実施例1〜18と同様にして液晶配向膜を形成した。ここで、液晶配向剤には実施例1〜18で調製した配向剤1〜18と同じものを各比較例で使用した。
液晶配向剤として表3、4に示すものを用い、液晶配向剤の膜に照射する紫外線直線偏光のエネルギー量を表3、表4に示す値に変更したこと以外は、比較例1a〜18aと同様にして液晶配向膜を形成した。ここで、各比較例で使用した配向剤1〜18は、実施例1〜18で調製した配向剤1〜18と同じものである。
各実施例および各比較例で液晶配向膜を形成した基板2枚を、液晶配向膜が形成されている面を対向させ、かつ、対向する液晶配向膜の間に液晶組成物を注入するための空隙が形成されるように貼り合わせた。このとき、基板の向きは、光配向処理の際に各液晶配向膜に照射した直線偏光の偏光方向が互いに平行になるような向きにした。この貼り合わせた基板間の空隙に、ネガ型液晶組成物Aを注入し、注入口を光硬化剤で封止して、セル厚4μmの液晶セル(液晶表示素子)を作製した。得られた液晶セルについて、ストレス印加前とストレス印加後の1.3Vにおける輝度変化率ΔB、および、ストレス印加前のB−V特性における最大輝度と最小輝度の比CRを測定し、AC残像特性とコントラスト特性を評価した。その結果を表3、4に示す。
実施例1〜18、比較例1a〜18aのうちΔBとCRが共に可レベル以上であったもの、比較例1b〜18bのうちΔBとCRが共に可レベル以上であったものについては、液晶セルを作製し、VHRを測定した。液晶配向膜が形成された基板2枚を、液晶配向膜が形成されている面を対向させ、かつ、対向する液晶配向膜の間に液晶組成物を注入するための空隙が形成されるように貼り合わせた。このとき、基板の向きは、光配向処理の際に各液晶配向膜に照射した直線偏光の偏光方向が互いに平行になるような向きにした。この貼り合わせた基板間の空隙に、上記のネガ型液晶組成物Aを注入し、セル厚7μmの液晶セル(液晶表示素子)を作製した。作製した各液晶セルについて、5V、30Hzで電圧保持率(VHR)を測定した。その結果を表3、4に示す。表3、4中で「VHR(%) 5V,30Hz」のマスに斜線が引かれているものは、ΔBとCRの少なくとも一方が不可レベルであったため、VHRの評価を行わなかったこと、またはマスが実施例nのそれであり、比較例na、比較例nbのVHRを評価するための基準であることを意味している(nは1、2、3・・・18である)。
このことから、液晶配向剤の膜を加熱しながら偏光紫外線を照射する本発明によると、室温で照射を行う場合に比べて少ないエネルギー量で配向を促進でき、そうして製造された液晶配向膜を用いることにより、VHRが高く表示品位の高い液晶表示素子が実現することがわかった。
Claims (10)
- トランス-シス光異性化を起こす光反応性基を有するポリイミドまたはポリイミド前駆体を加熱しながら偏光紫外線を照射して得た液晶配向膜。
- 前記光反応性基が、アゾベンゼン構造であることを特徴とする、請求項1に記載の液晶配向膜。
- 前記式(P1)で表される構成単位が、下記式(P2)で表される構成単位であることを特徴とする、請求項3に記載の液晶配向膜。
ベンゼン環の水素原子は置換基で置換されていてもよい。]
*は、式(P2)におけるベンゼン環への結合位置を表す。] - トランス-シス光異性化を起こす光反応性基を有するポリイミドまたはポリイミド前駆体を含む膜を基板上に形成した後、前記基板を加熱しながら、前記膜に偏光紫外線を照射する工程を含む液晶配向膜の製造方法。
- 前記基板の加熱温度が、40℃〜200℃であることを特徴とする、請求項5に記載の液晶配向膜の製造方法。
- 前記基板の加熱温度が、60℃〜150℃であることを特徴とする、請求項5に記載の液晶配向膜の製造方法。
- 前記偏光紫外線の照射量が、0.25J/cm2〜4.0J/cm2であることを特徴とする、請求項5〜7のいずれか1項に記載の液晶配向膜の製造方法。
- 請求項1に記載の液晶配向膜を含むことを特徴とする液晶表示素子。
- 前記液晶表示素子が、横電界型液晶表示素子であることを特徴とする、請求項9に記載の液晶表示素子。
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