以下、添付図面を参照しながら本実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
第1実施形態に係る燃料噴射弁10の構成について、図1を参照しながら説明する。燃料噴射弁10は、不図示の内燃機関に設けられ、当該内燃機関に燃料を噴射し供給するための装置である。本実施形態では、上記の燃料として気体燃料が用いられる。燃料噴射弁10は、ハウジング100と、ニードル200と、可動コア300と、固定コア400と、コイル600と、を備えている。
ハウジング100は、その全体が概ね筒状の容器として形成された部材である。後述のニードル200、可動コア300、及び固定コア400は、いずれもハウジング100の内部に収容されている。図1では、ハウジング100がその長手方向(ハウジング100の中心軸方向ともいえる)を上下方向に沿わせた状態が描かれている。後に説明するように、燃料噴射弁10では、ハウジング100の長手方向に沿ってニードル200が移動することにより、燃料の出口である噴孔511の開閉が切り換えられる。
具体的には、ニードル200が図1における上方向(噴孔511から導入口153に向かう方向)に移動すると、噴孔511が開かれて燃料の噴射が開始される。このため、当該方向のことを以下では「開弁方向」とも称する。
噴孔511から燃料が噴射されている状態から、ニードル200が図1における下方向(導入口153から噴孔511に向かう方向)に移動すると、噴孔511が閉じられて燃料の噴射が停止される。このため、当該方向のことを以下では「閉弁方向」とも称する。
ハウジング100は、第1筒状部材110と、第2筒状部材120と、第3筒状部材130と、第4筒状部材140と、第5筒状部材150と、を有している。これらはいずれも略円筒状の部材として形成されており、それぞれの中心軸を互いに一致させた状態で配置されている。
第1筒状部材110は、ハウジング100のうち、燃料の流れる方向に沿って最も下流側となる位置に配置された部材である。第1筒状部材110はマルテンサイト系ステンレスによって形成されており、その硬度を高めるために焼き入れ処理が施されている。第1筒状部材110の内部には空間111が形成されており、この空間111に後述のニードル200が収容されている。
第1筒状部材110のうち最も閉弁方向側の端部には、噴射ノズル500が内側に圧入され溶接されている。噴射ノズル500はハウジング100の一部をなすものであって、円筒部520と閉塞部510とを有している。円筒部520は円筒状に形成された部分である。円筒部520は、その中心軸を第1筒状部材110の中心軸と一致させた状態で、第1筒状部材110の内側に嵌め込まれている。円筒部520の内周面521は、ニードル200の摺接部222(後述)が当接した状態で摺動する面となっている。
閉塞部510は、円筒部520のうち閉弁方向側の端部を塞ぐように形成された部分である。閉塞部510には噴孔511が形成されている。噴孔511は、第1筒状部材110の中心軸に沿って閉塞部510を貫くように形成された貫通穴である。噴孔511によって、第1筒状部材110の内部の空間111と外部空間とが連通されている。噴孔511は、燃料噴射弁10から噴射される燃料の出口として形成されている。このように、燃料噴射弁10では、燃料を噴射するための噴孔511が、ハウジング100の長手方向における一端に形成されている。
閉塞部510の内周面には、噴孔511の周囲を囲むように弁座512が形成されている。弁座512は、噴孔511を塞ぐために、ニードル200のシール部221(後述)が当接する部分である。
噴射ノズル500は、その全体がマルテンサイト系ステンレスによって形成されており、その硬度を高めるために焼き入れ処理が施されている。また、噴射ノズル500のうちニードル200が当接する部分、すなわち弁座512と内周面521とには、窒化処理が施されている。内周面521には、摩擦力を低下させるためのDLCコートが更に施されていてもよい。
第1筒状部材110のうち噴射ノズル500とは反対側(つまり開弁方向側)の部分は拡径されており、当該部分から更に開弁方向側に向かって伸びるように拡径円筒部112が形成されている。拡径円筒部112の内周面は、後に説明するように可動コア300の一部が当接した状態で摺動する部分となっている。このため、拡径円筒部112には窒化処理が施されている。拡径円筒部112のうち開弁方向側の端部には、第2筒状部材120のうち閉弁方向側の端部が接続されている。
第2筒状部材120は、ハウジング100のうち、燃料の流れる方向に沿って第1筒状部材110よりも上流側となる位置に配置された円筒形状の部材である。第2筒状部材120の内径及び外径は、拡径円筒部112の内径及び外径とそれぞれ等しい。第2筒状部材120は、磁性体であるフェライト系ステンレスによって形成されている。第2筒状部材120のうち開弁方向側の端部には、第3筒状部材130のうち閉弁方向側の端部が接続されている。
第3筒状部材130は、ハウジング100のうち、燃料の流れる方向に沿って第2筒状部材120よりも上流側となる位置に配置された円筒形状の部材である。第3筒状部材130の内径及び外径は、第2筒状部材120の内径及び外径とそれぞれ等しい。第3筒状部材130は、非磁性体であるオーステナイト系ステンレスによって形成されている。第3筒状部材130開弁方向側の端部には、第4筒状部材140のうち閉弁方向側の端部が接続されている。
第4筒状部材140は、ハウジング100のうち、燃料の流れる方向に沿って第3筒状部材130よりも上流側となる位置に配置された円筒形状の部材である。第4筒状部材140の内径及び外径は、第3筒状部材130の内径及び外径とそれぞれ等しい。第4筒状部材140は、磁性体であるフェライト系ステンレスによって形成されている。第4筒状部材140のうち開弁方向側の部分には、第5筒状部材150のうち閉弁方向側の部分が内側に圧入され溶接されている。
第5筒状部材150は、ハウジング100のうち、燃料の流れる方向に沿って最も上流側となる位置に配置された略円筒形状の部材である。第5筒状部材150はオーステナイト系ステンレスによって形成されている。第5筒状部材150のうち最も開弁方向側の端部には導入口153が形成されている。導入口153は、外部から導入される燃料の入口として形成された開口である。
第5筒状部材150の内部に形成された空間151のうち、導入口153の近傍となる位置には、フィルタ152が設けられている。フィルタ152は、導入口153から導入された燃料に含まれる異物を捕集するためのものである。
ニードル200は、ハウジング100の内部に配置された棒状の部材である。ニードル200は、その中心軸をハウジング100の中心軸に移動させた状態で、ハウジング100の長手方向(図1では上下方向)に沿って移動可能な状態で配置されている。ニードル200はマルテンサイト系ステンレスによって形成されており、硬度を高めるために焼き入れ処理が施されている。ニードル200のうち噴射ノズル500側の端部には、シール部221が形成されている。
ニードル200が可動範囲のうち最も閉弁方向側まで移動すると、図1に示されるようにシール部221が弁座512に当接し、噴孔511が閉じられた状態となる。これにより、噴孔511からの燃料の噴射が停止される。ニードル200が開弁方向側に移動し、シール部221が弁座512から離れると、噴孔511が開かれた状態となる。これにより、噴孔511からの燃料の噴射が行われる。このように、ニードル200は、ハウジング100の内部において長手方向に沿って移動することにより、噴孔511の開閉を切り換えるための部材として設けられている。
ニードル200の側面のうち、シール部221よりも僅かに開弁方向側となる位置には、外方に向けて突出する摺接部222が複数形成されている。摺接部222は、その先端を円筒部520の内周面521に当接させた状態で摺動する部分である。複数の摺接部222は、ニードル200の周方向に沿って並ぶように形成されている。互いに隣り合う摺接部222同士の間には、燃料が通るための経路として凹部223が形成されている。ニードル200のうちシール部221及び摺接部222には、窒化処理が施されている。摺接部222には更にDLCコートが施されている。これにより、摺接部222と内周面521との間における摩擦抵抗が低下している。
ニードル200は、後に説明する可動コア300を図1の上下方向に貫いた状態で配置されている。ニードル200の開弁方向側端部は、可動コア300の開弁方向側端部よりも、更に開弁方向側に配置されている。ニードル200の開弁方向側部分における側面には、外方に向けて突出するように大径部210が形成されている。大径部210のうち可動コア300側(つまり閉弁方向側)の面は、可動コア300のうち開弁方向側の端面に当接している。
ニードル200には、その開弁方向側の端部から、閉弁方向に向かって後退するように凹部201が形成されている。凹部201は、ニードル200のうち大径部210の開弁方向側端部から、可動コア300よりも閉弁方向側となる位置まで伸びるように形成された凹状の空間である。ニードル200のうち開弁方向側の端部では、凹部201が外部に開放されている。凹部201のうち可動コア300よりも閉弁方向側となる位置では、ニードル200に貫通穴202が形成されている。この貫通穴202により、凹部201と空間111とが連通されている。
可動コア300は、その全体が略円柱形状に形成された部材である。可動コア300は、その中心軸をハウジング100の中心軸に移動させた状態で、ニードル200と共にハウジング100の長手方向(図1では上下方向)に沿って移動可能な状態で配置されている。先に述べた「開弁方向」は、可動コア300及びニードル200が噴孔511から遠ざかる方向、ということもできる。また、「閉弁方向」は、可動コア300及びニードル200が噴孔511に近づく方向、ということもできる。可動コア300は、可動側高硬度部310と可動側低硬度部320とを有している。
可動側高硬度部310は、その一部(後述の拡径部311を除く部分)が可動側低硬度部320よりも内側となる位置に配置された略円筒形状の部分である。可動側高硬度部310は、非磁性体であり且つ比較的硬度の高い材料であるマルテンサイト系ステンレスによって形成されている。可動側高硬度部310には、その硬度を高めるために焼き入れ処理が施されている。可動側高硬度部310の中央には、これをハウジング100の中心軸に沿って貫くように貫通穴313が形成されている。先に説明したニードル200は、この貫通穴313に挿通されている。
可動側高硬度部310のうち開弁方向側の端面には、ニードル200の大径部210が当接している。尚、可動側高硬度部310の開弁方向側の端面の一部は、後に説明するように、開弁時において固定コア400に当たる部分となっている。可動側高硬度部310の開弁方向側の端面では、ニードル200の大径部210が当接する部分と、固定コア400に当たる部分と、のそれぞれに対して窒化処理が施されている。また、大径部210のうち閉弁方向側の端面にも窒化処理が施されている。
可動側高硬度部310のうち閉弁方向側の部分は拡径されており、側方に向けて突出する拡径部311が形成されている。拡径部311の外周面312は、第1筒状部材110のうち拡径円筒部112の内周面に当接している。可動コア300が移動する際には、拡径部311の外周面312が拡径円筒部112の内周面に当接した状態で摺動する。外周面312には窒化処理が施されており、更にDLCコートが施されている。
可動側低硬度部320は、可動側高硬度部310よりも外側となる位置に配置された略円筒形状の部分である。可動側低硬度部320は、その内周面を可動側高硬度部310の外周面に当接させた状態で、可動側高硬度部310に対し所謂「打ち込み」によって固定されている。可動側低硬度部320の閉弁方向側の端面は、可動側高硬度部310の拡径部311に当接している。
可動側低硬度部320は、磁性体であるフェライト系ステンレスによって形成されている。その結果、可動側低硬度部320は、可動側高硬度部310よりも硬度が低い部分となっている。ハウジング100の内部において可動側低硬度部320が配置されている位置は、第2筒状部材120と概ね対向する位置となっている。
可動側低硬度部320の開弁方向側の端面の位置は、可動側高硬度部310の開弁方向側の端面の位置よりも、僅かに閉弁方向側となっている。換言すれば、可動側高硬度部310の開弁方向側の端面は、可動側低硬度部320の開弁方向側の面よりも、僅かに開弁方向側(つまり固定コア400側)に向けて突出している。
固定コア400は、可動コア300と同様に、その全体が略円柱形状に形成された部材である。固定コア400は、その中心軸をハウジング100の中心軸に移動させた状態で、ハウジング100の内部に固定されている。固定コア400が設けられている位置は、開弁方向側において可動コア300と隣り合う位置である。図1のようにニードル200のシール部221が弁座512に当接しているときにおいては、固定コア400と可動コア300との間には隙間が形成されている。固定コア400は、固定側高硬度部410と固定側低硬度部420とを有している。
固定側高硬度部410は、固定側低硬度部420よりも内側となる位置に配置された略円筒形状の部分である。固定側高硬度部410は、非磁性体であり且つ比較的硬度の高い材料であるマルテンサイト系ステンレスによって形成されている。固定側高硬度部410には、その硬度を高めるために焼き入れ処理が施されている。固定側高硬度部410のうち可動コア300側の端面は、可動コア300の可動側高硬度部310が当たる部分となっている。このため、当該端面には窒化処理が施されている。固定側高硬度部410は、固定コア400のうち閉弁方向側の部分にのみ配置されている。
固定コア400の中央には、固定側高硬度部410及び固定側低硬度部420の両方を、ハウジング100の中心軸に沿って貫くように貫通穴401が形成されている。先に説明したニードル200の凹部201は、この貫通穴401によって第5筒状部材150の空間151に連通されている。
貫通穴401のうち可動コア300側の部分には、ニードル200の大径部210が挿通されている。図1に示されるように、当該部分における貫通穴401の内径は、他の部分における貫通穴401の内径よりも大きくなっている。大径部210の外周面211は、貫通穴401の内周面に当接している。
ニードル200は、上記の外周面211と、先に述べた摺接部222と、のそれぞれにおいて、開弁方向及び閉弁方向に移動可能な状態で支持されている。これらのうち、開弁方向側に配置された方の外周面211のことを、以下では「第1被支持部200A」とも称する。また、閉弁方向側に配置された方の摺接部222のことを、以下では「第2被支持部200B」とも称する。
上記のような態様に替えて、ニードル200のうち可動側高硬度部310に対向している部分が、可動側高硬度部310によって支持されている態様としてもよい。この場合、ニードル200のうち可動側高硬度部310に対向している部分が「第1被支持部200A」ということになる。
固定側低硬度部420は、その全体が固定側高硬度部410よりも外側となる位置に配置された略円筒形状の部分である。固定側低硬度部420は、その内周面を固定側高硬度部410の外周面に当接させた状態で、固定側高硬度部410に対して溶接によって固定されている。
固定側低硬度部420は、磁性体であるフェライト系ステンレスによって形成されている。その結果、固定側低硬度部420は、固定側高硬度部410よりも硬度が低い部分となっている。ハウジング100の内部において固定側低硬度部420が配置されている位置は、第4筒状部材140と概ね対向する位置となっている。固定側低硬度部420の外側面は、第4筒状部材140の内周面に対して溶接によって固定されている。
固定側低硬度部420の閉弁方向側の端面の位置は、固定側高硬度部410の閉弁方向側の端面の位置よりも、僅かに開弁方向側となっている。換言すれば、固定側高硬度部410の閉弁方向側の端面は、固定側低硬度部420の閉弁方向側の端面よりも、僅かに閉弁方向側(つまり可動コア300側)に向けて突出している。固定側高硬度部410の閉弁方向側の端面は、その全体が、可動側高硬度部310の開弁方向側の端面に対向している。
コイル600は、電流の供給を受けて磁力を生じさせるものである。コイル600はボビン610に巻かれた状態で、ハウジング100のうち第3筒状部材130の全体と、第4筒状部材140の一部とを外側から覆うように配置されている。コイル600に電流が供給されると、固定側低硬度部420、可動側低硬度部320、第2筒状部材120、及び第4筒状部材140等を磁束が通るように磁気回路が形成される。その結果として、固定コア400と可動コア300との間に磁気吸引力が発生する。この磁気吸引力によって、可動コア300は、ニードル200と共に開弁方向側に移動する。コイル600に対する電流の供給が停止すると、上記の磁気吸引力は0となる。その際、可動コア300は、後述の付勢部材820の付勢力によって、ニードル200と共に閉弁方向側に移動する。
燃料噴射弁10のその他の構成について説明する。固定コア400に形成された貫通穴401のうち、開弁方向側の部分には、アジャスティングパイプ430が圧入され固定されている。アジャスティングパイプ430は円筒形状の部材であって、その内側には、ハウジング100の長手方向に沿って貫くように貫通穴431が形成されている。
貫通穴401のうちアジャスティングパイプ430よりも閉弁方向側の部分には、付勢部材820が配置されている。付勢部材820は、その伸縮方向がハウジング100の長手方向に沿っている弾性部材であって、具体的にはコイルばねである。付勢部材820の一端は、アジャスティングパイプ430の閉弁方向側端部に当接している。付勢部材820の他端は、伝達部材50の開弁方向側端部に当接している。
伝達部材50は、その中心軸をハウジング100の中心軸に一致させた状態で配置された棒状の部材である。伝達部材50は、その大部分が凹部201の内部に収容されている。伝達部材50のうち閉弁方向側の端部は、凹部201のうち最も閉弁方向側の端部(つまり凹部201の底)に当接している。伝達部材50のうち開弁方向側の端部は、凹部201から開弁方向側に向けて突出している。当該部分には、外方に向けて突出するように大径部52が形成されている。大径部52のうち開弁方向側の端面には、上記のように付勢部材820の他端が当接している。
大径部52のうち開弁方向側の端面の中央部分には、更に開弁方向側に向けて突出する突出部53が形成されている。突出部53は円柱形状となっており、その中心軸はハウジング100の中心軸と一致している。突出部53は、付勢部材820の内側に挿通されている。
付勢部材820は、その長さを自由長よりも短くした状態となっている。このため、伝達部材50は、付勢部材820からの力によって、凹部201のうち最も閉弁方向側の端部に対して押し付けられている。その結果、付勢部材820は、伝達部材50とニードル200との両方を閉弁方向側に付勢している。
このように、付勢部材820は、ニードル200に、噴孔に向かわせる方向(つまり閉弁方向)の力を加えるためのものとして設けられている。凹部201のうち最も閉弁方向側の端部は、ニードル200のうち、付勢部材820からの力を受ける部分となっている。当該部分のことを、以下では「作用部200C」とも表記する。
本実施形態では、付勢部材820からの力は、伝達部材50を介してニードルの作用部200Cへと伝達される。このように、本実施形態では、付勢部材820のうち閉弁方向側の端部と、作用部200Cとの間に、付勢部材820からの力をニードル200に伝達するための伝達部材50が配置されている。
可動コア300の閉弁方向側には、付勢部材810が配置されている。付勢部材810は、その伸縮方向がハウジング100の長手方向に沿っている弾性部材であって、具体的にはコイルばねである。付勢部材810の一端は、可動側高硬度部310の閉弁方向側の端面に当接している。付勢部材810の他端は、第1筒状部材110のうち開弁方向側の端部近傍に形成された段差部分に当接している。
付勢部材810は、その長さを自由長よりも短くした状態となっている。このため、可動コア300の可動側高硬度部310は、付勢部材810からの力によってニードル200の大径部210に対して押し付けられている。その結果、付勢部材810は、ニードル200と可動コア300との両方を開弁方向側に付勢している。付勢部材810と付勢部材820とが設けられていることにより、大径部210と可動側高硬度部310とが互いに当接している状態が維持されている。
本実施形態では、付勢部材820の付勢力が、付勢部材810の付勢力よりも大きくなっている。このため、コイル600に対する電流の供給が停止しており、固定コア400と可動コア300との間に磁気吸引力が発生していないときには、ニードル200のシール部221が弁座512に当接した状態、すなわち噴孔511が塞がれた状態となる。
コイル600、第4筒状部材140、及び第5筒状部材150の一部は、樹脂900によって外側からモールドされている。この樹脂900の一部は外側に向かって突出しており、この突出した部分がコネクタ910として形成されている。コネクタ910は、コイル600に対して電流を供給するための線が接続される部分である。コネクタ910の内側には給電端子920が配置されている。給電端子920は、コイル600に繋がる給電線の一端に設けられた端子である。コイル600への電流の供給はこの給電端子920から行われる。
樹脂900のうち、第4筒状部材140をモールドしている部分の更に外側には、ホルダ700が配置されている。ホルダ700は磁性体からなる筒状の部材であって、拡径円筒部112の外側となる位置から、コイル600の開弁方向側端部よりも更に開弁方向側となる位置まで伸びるように形成されている。ホルダ700の内側であって、且つコイル600よりも開弁方向側となる位置にはカバー710が配置されている。カバー710は、磁性体からなる略円管状の部材であって、第4筒状部材140を外側から囲むように配置されている。カバー710のうちコネクタ910の近傍となる部分は、コネクタ910との干渉を避けるために切り欠かれている。このため、図1においては、第4筒状部材140の右側となる位置においてのみカバー710の断面が表れている。ホルダ700及びカバー710は、コイル600で発生した磁束が通る磁気回路の一部を成すものである。
燃料噴射弁10の動作について説明する。第5筒状部材150には、導入口153から燃料が供給されている。コイル600への電流供給が行われていないときには、既に述べたように噴孔511は閉じられている。このため、燃料噴射弁10の内部は燃料によって加圧された状態となっている。
コイル600への電流供給が開始されると、固定コア400と可動コア300との間に磁気吸引力が発生し、可動コア300は開弁方向側に移動する。その際、ニードル200の大径部210は可動コア300の可動側高硬度部310に当接しているので、可動コア300と共にニードル200も開弁方向側に移動する。ニードル200のシール部221が弁座512から離れて、噴孔511が開かれた状態になるので、噴孔511からの燃料の噴射が開始される。
燃料は、導入口153から空間151に流入した後、貫通穴431、貫通穴401、凹部201、貫通穴202、及び空間111を順に通り、噴孔511から噴射される。
開弁方向側に移動し始めた可動コア300はその後、固定コア400に当たって止まる。本実施形態では既に述べたように、可動側高硬度部310の開弁方向側の端面が、固定コア400側に向けて突出しており、固定側高硬度部410の閉弁方向側の端面が、可動コア300側に向けて突出している。このため、可動コア300は、可動側高硬度部310が固定コア400に当たる一方で、可動側低硬度部320は固定コア400には当たらない。また、固定コア400のうち固定側高硬度部410には可動コア300が当たるのであるが、固定側低硬度部420には可動コア300が当たらない。
つまり、本実施形態では、可動コア300のうち比較的硬度の高い部分(可動側高硬度部310)と、固定コア400のうち比較的硬度の高い部分(固定側高硬度部410)とが互いに衝突する。このため、固定コア400及び可動コア300のいずれにおいても、衝突による損傷の発生が抑制される。
噴孔511が開かれている状態で、コイル600への電流供給が停止されると、固定コア400と可動コア300との間に磁気吸引力が働かなくなる。可動コア300及びニードル200は、付勢部材820の付勢力によって閉弁方向側に移動し、最終的にはシール部221が弁座512に当接した状態、すなわち噴孔511が塞がれた状態となる。これにより、噴孔511からの燃料の噴射が停止する。
本実施形態では、ニードル200のうち付勢部材820から力を受ける部分である作用部200Cが、従来のようにニードル200の開弁方向側端部に配置されているのではなく、これよりも閉弁方向側となる位置に配置されている。このように構成されていることの効果について、図2及び図3を参照しながら説明する。
図2には、付勢部材820からの力がニードル200の作用部200Cに加えられている状態、が模式的に示されている。同図においては、付勢部材820のうち開弁方向側の端部から、第1被支持部200Aまでの距離が「G1」と示されている。また、付勢部材820のうち開弁方向側の端部から、作用部200Cまでの距離が「P」と示されている。更に、付勢部材820のうち開弁方向側の端部から、第2被支持部200Bまでの距離が「G2」と示されている。
ところで、コイルばねのような付勢部材820からニードル200に加えられる力には、閉弁方向に沿った方向の力のみならず、閉弁方向に対して垂直な方向の力も含まれることがある。後者の力(以下では、当該力のことを「サイドフォース」とも称する)は、ニードル200のうち支持されている部分(つまり第1被支持部200Aや第2被支持部200B)を、ハウジング100等のうちニードル200を支持している部分に対して押し付けてしまうので、ニードル200等の摩耗を促進してしまうこととなる。
ニードル200等で摩耗が生じると、燃料噴射弁10の動作特性が時間と共に変化してしまい、噴射量が指令値からずれてしまう可能性がある。また、摩耗によって生じた摩耗粉が、弁座512とシール部221との間に噛み込んでしまい、閉じているはずの噴孔511から燃料が漏出してしまう可能性もある。このため、摩耗の原因となるサイドフォースは可能な限り小さくすることが好ましい。
サイドフォースは、付勢部材820のうちその開弁方向端部、すなわちアジャスティングパイプ430に当接している部分において、アジャスティングパイプ430から受ける力が一様とはならないことに起因して生じることが多い。例えば、図1において、付勢部材820の上端のうち右側の部分においてアジャスティングパイプ430から受ける力が、付勢部材820の上端のうち左側の部分においてアジャスティングパイプ430から受ける力よりも大きくなってしまうような状態が生じ得る。このような偏荷重が生じると、ニードル200には偏荷重に伴うモーメントが加えられてしまう。当該モーメントの大きさを「M」とすると、図2の位置に配置された作用部200Cには、以下の式(1)で示されるサイドフォースFPが働くこととなる。
FP=M/P・・・・・・(1)
サイドフォースFPは、第1被支持部200Aや第2被支持部200Bに分配されて働くこととなる。このうち、第1被支持部200Aを貫通穴401の内周面に押しけるように働くサイドフォースFG1は、以下の式(2)で示される。
FG1=FP(G2−P)/(G2−G1)・・・・・・(2)
また、第2被支持部200Bを噴射ノズル500の内周面521に押しけるように働くサイドフォースFG2は、以下の式(3)で示される。
FG2=FP(P−G1)/(G2−G1)・・・・・・(3)
尚、式(1)、(2)、(3)に示される「P」、「G1」、「G2」は、それぞれ図2に示される「P」、「G1」、「G2」のことである。
図3には、作用部200Cの位置を示す上記の「P」(横軸)と、サイドフォースFG1、FG2のそれぞれの大きさ(縦軸)との関係が示されている。同図に示されるように、PがG1に等しい場合、すなわち、従来のように作用部200Cがニードル200の開弁方向側端部に配置されているような場合には、第1被支持部200Aに加えられるサイドフォースFG1は最も大きくなり、サイドフォースFPと同じ大きさとなる。
一方、PがG1よりも大きくなると、それに伴って、第1被支持部200Aに加えられるサイドフォースFG1は小さくなって行く。
上記の知見に鑑みて、本実施形態では、ニードル200のうち付勢部材820からの力を受ける部分である作用部200Cを、第1被支持部200Aと第2被支持部200Bとの間となる位置に配置している。尚、「第1被支持部200Aと第2被支持部200Bとの間となる位置」とは、第1被支持部200Aよりも閉弁方向側であり、且つ第2被支持部200Bよりも開弁方向側の位置を意味する。
このような構成においては、サイドフォースFPが第1被支持部200Aに集中してしまうことが無く、第1被支持部200Aと第2被支持部200Bとで分散される。その結果、第1被支持部200A及び第2被支持部200Bのそれぞれに働くサイドフォースは、いずれもサイドフォースFPに比べて小さくなるので、ニードル200やこれを支持する部材の摩耗を抑制することができる。
また、付勢部材820によるサイドフォースは、上記のように、付勢部材820のうちニードル200とは反対側の端部で生じた偏荷重に起因することが多い。本実施形態では、偏荷重の発生場所である上記端部から、作用部200Cまでの距離が比較的長くなるので、ニードル200等に働くサイドフォースを更に小さくすることができる(つまり、式(1)におけるPが大きくなり、これによりサイドフォースFPが小さくなる)。その結果、ニードル200等の摩耗が更に抑制される。
作用部200Cの位置を工夫することによる付随的な効果について、図4を参照しながら説明する。図4(A)には、比較例に係る燃料噴射弁のニードル200及び可動コア300が模式的に示されている。この比較例では、従来と同様に、作用部200Cがニードル200の開弁方向側端部に配置されている。同図の矢印F1は、作用部200Cに働く付勢部材820からの力を示している。また、同図の矢印F2は、開弁時において可動コア300に働く磁気吸引力を示している。同図の点300Aは、可動コア300のうち、可動コア300の各部(具体的には可動側低硬度部320の各部)に働く磁気吸引力の合力が作用する点を示している。矢印F2で示される磁気吸引力は、その全てが点300Aに働くものとみなすことができる。尚、点300Aは、可動コア300をその中心軸を通る面において切断した断面においては、図4のように「点」となるのであるが、実際には、上記中心軸を囲むような円管状に分布しているものである。
図4(A)に示される比較例においては、閉弁方向に向かう力を受ける作用部200Cが、開弁方向に向かう力を受ける点300Aよりも、開弁方向側に位置している。このため、開弁時においては、矢印F1、F2によって示される力のバランスが崩れると、ニードル200及び可動コア300の全体が、例えば矢印ARに示されるような回転方向の力を受けてしまう可能性がある。その結果、第1被支持部200A等には更に大きなサイドフォースが加えられてしまう可能性がある。
これに対し、本実施形態に係る燃料噴射弁10では、図4(B)に示されるように、作用部200Cの位置が、磁気吸引力の合力が作用する点300Aよりも閉弁方向側の位置となっている。つまり、閉弁方向に向かう力を受ける作用部200Cが、開弁方向に向かう力を受ける点300Aよりも、閉弁方向側に位置している。
この場合、閉弁方向側にある作用部200Cが閉弁方向に向かう力を受けて、開弁方向側にある点300Aが開弁方向に向かう力を受ける。その結果、矢印F1、F2によって示される力は、むしろ、ニードル200の中心軸を、よりハウジング100の中心軸に一致させるように働くこととなる。これにより、第1被支持部200A等に加えられるサイドフォースが更に小さくなるという効果が得られる。
尚、作用部200Cの位置は、磁気吸引力の合力が作用する点300Aよりも閉弁方向側の位置であればよいのであるが、本実施形態のように、可動コア300の閉弁方向側端部よりも更に閉弁方向側の位置とすることが好ましい。
第2実施形態について、図5を主に参照しながら説明する。以下では、第1実施形態と異なる点について主に説明し、第1実施形態と共通する点については適宜説明を省略する。
本実施形態に係る燃料噴射弁10では、アジャスティングパイプ430と付勢部材820との間に支持部材450が配置されている。支持部材450は概ね円柱形状の部材であって、その中心軸はハウジング100の中心軸に一致している。支持部材450は、その外周側の面を、固定側低硬度部420に形成された貫通穴401の内周面に当接させた状態で配置されている。図6に示されるように、支持部材450には、その中央をハウジング100の中心軸に沿って貫くように貫通穴451が形成されている。また、支持部材450のうち閉弁方向側の端面には、当該端面の中央部から開弁方向側に後退するように凹部452が形成されている。凹部452は、付勢部材820のうち開弁方向側の端部近傍の部分を受け入れて支持する部分となっている。
図5に示されるように、本実施形態では伝達部材50が設けられておらず、付勢部材820が凹部201の内側まで伸びている。付勢部材820のうち閉弁方向側の端部は、凹部201の底の部分、すなわち作用部200Cまで伸びており、作用部200Cに直接当たっている。
このように、伝達部材50を介することなく、付勢部材820が作用部200Cに直接当たり力を加えるような態様であっても、第1実施形態で説明したものと同様の効果を奏する。
第3実施形態について、図7を参照しながら説明する。以下では、第1実施形態と異なる点について主に説明し、第1実施形態と共通する点については適宜説明を省略する。
本実施形態に係る燃料噴射弁10では、付勢部材820の全体がコイルばねとして形成されているのではなく、付勢部材820のうち閉弁方向側の部分に直線部821が形成されている。直線部821は、閉弁方向に沿って(つまりハウジング100の中心軸に沿って)直線状に伸びる棒状の部分となっている。本実施形態では、直線部821のうち閉弁方側の端部が、作用部200Cに直接当たっている。
つまり、本実施形態でも上記の第2実施形態と同様に、伝達部材50が設けられておらず、付勢部材820が凹部201の内側まで伸びている。本実施形態では、付勢部材820の一部である直線部821のうち編弁方向側の端部が、作用部200Cに直接当たっている。このような態様でも、第1実施形態で説明したものと同様の効果を奏する。
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。