以下、添付図面を参照しながら本実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
第1実施形態に係る燃料噴射弁10の構成について、図1を参照しながら説明する。燃料噴射弁10は、不図示の内燃機関に設けられ、当該内燃機関に燃料を噴射し供給するための装置である。本実施形態では、上記の燃料として気体燃料が用いられる。燃料噴射弁10は、ハウジング100と、ニードル200と、可動コア300と、固定コア400と、コイル600と、を備えている。
ハウジング100は、その全体が概ね筒状の容器として形成された部材である。後述のニードル200、可動コア300、及び固定コア400は、いずれのハウジング100の内部に収容されている。図1では、ハウジング100がその長手方向を上下方向に沿わせた状態が描かれている。後に説明するように、燃料噴射弁10では、ハウジング100の長手方向に沿ってニードル200が移動することにより、燃料の出口である噴孔511の開閉が切り換えられる。
具体的には、ニードル200が図1における上方向(噴孔511から導入口143に向かう方向)に移動すると、噴孔511が開かれて燃料の噴射が開始される。このため、当該方向のことを以下では「開弁方向」とも称する。
噴孔511から燃料が噴射されている状態から、ニードル200が図1における下方向(導入口143から噴孔511に向かう方向)に移動すると、噴孔511が閉じられて燃料の噴射が停止される。このため、当該方向のことを以下では「閉弁方向」とも称する。
ハウジング100は、第1筒状部材110と、第2筒状部材120と、第3筒状部材130と、第4筒状部材140と、を有している。これらはいずれも略円筒状の部材として形成されており、それぞれの中心軸を互いに一致させた状態で配置されている。
第1筒状部材110は、ハウジング100のうち、燃料の流れる方向に沿って最も下流側となる位置に配置された部材である。第1筒状部材110は、磁性体であるフェライト系ステンレスによって形成されている。第1筒状部材110の内部には空間111が形成されており、この空間111に後述のニードル200が収容されている。
第1筒状部材110のうち最も閉弁方向側の端部には、噴射ノズル500が内側に圧入され溶接されている。噴射ノズル500はハウジング100の一部をなすものであって、円筒部520と閉塞部510とを有している。円筒部520は円筒状に形成された部分である。円筒部520は、その中心軸を第1筒状部材110の中心軸と一致させた状態で、第1筒状部材110の内側に嵌め込まれている。円筒部520の内周面521は、ニードル200の摺接部222(後述)が当接した状態で摺動する面となっている。
閉塞部510は、円筒部520のうち閉弁方向側の端部を塞ぐように形成された部分である。閉塞部510には噴孔511が形成されている。噴孔511は、第1筒状部材110の中心軸に沿って閉塞部510を貫くように形成された貫通穴である。噴孔511によって、第1筒状部材110の内部の空間111と外部空間とが連通されている。噴孔511は、燃料噴射弁10から噴射される燃料の出口として形成されている。このように、燃料噴射弁10では、燃料を噴射するための噴孔511が、ハウジング100の長手方向における一端に形成されている。
閉塞部510の内面には、噴孔511の周囲を囲むように弁座512が形成されている。弁座512は、噴孔511を塞ぐために、ニードル200のシール部221(後述)が当接する部分である。
噴射ノズル500は、その全体がマルテンサイト系ステンレスによって形成されており、その硬度を高めるために焼き入れ処理が施されている。また、噴射ノズル500のうちニードル200が当接する部分、すなわち弁座512と内周面521とには、窒化処理が施されている。内周面521には、摩擦力を低下させるためのDLCコートが更に施されていてもよい。
第1筒状部材110のうち噴射ノズル500とは反対側(つまり開弁方向側)の部分は拡径されており、当該部分から更に上方側に向かって伸びるように拡径円筒部112が形成されている。拡径円筒部112の内面は、後に説明するように可動コア300の一部が当接した状態で摺動する部分となっている。このため、拡径円筒部112の内周面には窒化処理が施されている。拡径円筒部112のうち開弁方向側の端部には、第2筒状部材120のうち閉弁方向側の端部が接続されている。
第2筒状部材120は、ハウジング100のうち、燃料の流れる方向に沿って第1筒状部材110よりも上流側となる位置に配置された円筒形状の部材である。第2筒状部材120の内径及び外径は、拡径円筒部112の内径及び外径とそれぞれ等しい。第2筒状部材120は、非磁性体であるオーステナイト系ステンレスによって形成されている。第2筒状部材120のうち開弁方向側の端部には、第3筒状部材130のうち閉弁方向側の端部が接続されている。
第3筒状部材130は、ハウジング100のうち、燃料の流れる方向に沿って第2筒状部材120よりも上流側となる位置に配置された円筒形状の部材である。第3筒状部材130の内径及び外径は、第2筒状部材120の内径及び外径とそれぞれ等しい。第3筒状部材130は、磁性体であるフェライト系ステンレスによって形成されている。第3筒状部材130のうち開弁方向側の部分には、第4筒状部材140のうち閉弁方向側の部分が内側に圧入され溶接されている。
第4筒状部材140は、ハウジング100のうち、燃料の流れる方向に沿って最も上流側となる位置に配置された略円筒形状の部材である。第4筒状部材140はオーステナイト系ステンレスによって形成されている。第4筒状部材140のうち最も開弁方向側の端部には導入口143が形成されている。導入口143は、外部から導入される燃料の入口として形成された開口である。
第4筒状部材140の内部に形成された空間141のうち、導入口143の近傍となる位置には、フィルタ142が設けられている。フィルタ142は、導入口143から導入された燃料に含まれる異物を捕集するためのものである。
ニードル200は、ハウジング100の内部に配置された棒状の部材である。ニードル200は、その中心軸をハウジング100の中心軸に移動させた状態で、ハウジング100の長手方向(図1では上下方向)に沿って移動可能な状態で配置されている。ニードル200はマルテンサイト系ステンレスによって形成されており、硬度を高めるために焼き入れ処理が施されている。ニードル200のうち噴射ノズル500側の端部には、シール部221が形成されている。
ニードル200が可動範囲のうち最も閉弁方向側まで移動すると、図1に示されるようにシール部221が弁座512に当接し、噴孔511が閉じられた状態となる。これにより、噴孔511からの燃料の噴射が停止される。ニードル200が開弁方向側に移動し、シール部221が弁座512から離れると、噴孔511が開かれた状態となる。これにより、噴孔511からの燃料の噴射が行われる。このように、ニードル200は、ハウジング100の内部において移動することにより、噴孔511の開閉を切り換えるための部材として設けられている。
ニードル200の側面のうち、シール部221よりも僅かに開弁側となる位置には、外方に向けて突出する摺接部222が複数形成されている。摺接部222は、その先端を円筒部520の内周面521に当接させた状態で摺動する部分である。複数の摺接部222は、ニードル200の周方向に沿って並ぶように形成されている。互いに隣り合う摺接部222同士の間には、燃料が通るための経路として凹部223が形成されている。ニードル200のうちシール部221及び摺接部222には、窒化処理が施されている。摺接部222には更にDLCコートが施されている。これにより、摺接部222と内周面521との間における摩擦抵抗が低下している。
ニードル200は、後に説明する可動コア300を上下方向に貫いた状態で配置されている。ニードル200の上端部分は、可動コア300の上端よりも更に上方側に配置されている。ニードル200の上端部分における側面には、外方に向けて突出するように大径部210が形成されている。大径部210のうち可動コア300側(つまり閉弁方向側)の面は、可動コア300の端面302に当接している。
ニードル200の内部には空間201が形成されている。空間201は、ニードル200のうち大径部210の開弁方向側端部から、可動コア300よりも閉弁方向側となる位置まで伸びるように形成された凹状の空間である。ニードル200のうち開弁方向側の端部では、空間201が外部に開放されている。空間201のうち可動コア300よりも閉弁方向側となる位置では、ニードル200に貫通穴202が形成されている。この貫通穴202により、空間201と空間111とが連通されている。
可動コア300は、その全体が略円柱形状に形成された部材である。可動コア300は、その中心軸をハウジング100の中心軸に移動させた状態で、ニードル200と共にハウジング100の長手方向(図1では上下方向)に沿って移動可能な状態で配置されている。先に述べた「開弁方向」は、可動コア300及びニードル200が噴孔511から遠ざかる方向、ということもできる。また、「閉弁方向」は、可動コア300及びニードル200が噴孔511に近づく方向、ということもできる。
可動コア300は、その全体が磁性体であるフェライト系ステンレスによって形成されている。可動コア300は、概ね第1筒状部材110の内側となる位置に配置されている。可動コア300の中央には、これを上下方向(つまりハウジング100の長手方向)に沿って貫くように貫通穴319が形成されている。先に説明したニードル200は、この貫通穴319に挿通されている。ニードル200の外側面は、貫通穴319の内面に当接した状態で摺動可能となっている。
既に述べたように、可動コア300のうち開弁方向側の端面302には、ニードル200の大径部210が当接している。端面302のうち大径部210の周囲の部分は、後に説明するように、開弁時において固定コア400の端面402に衝突する部分となっている。
可動コア300の側面のうち閉弁方向側の部分には、他の部分よりも外方に向けて突出する突出部301(図2を参照)が形成されている。可動コア300は、この突出部301を拡径円筒部112の内面に当接させた状態で、ハウジング100の長手方向に沿って移動する。
固定コア400は、可動コア300と同様に、その全体が略円柱形状に形成された部材である。固定コア400は、その中心軸をハウジング100の中心軸に移動させた状態で、ハウジング100の内部に固定されている。固定コア400は、磁性体であるフェライト系ステンレスによって形成されている。固定コア400が設けられている位置は、可動コア300よりも開弁方向側において、可動コア300と隣り合う位置である。固定コア400のうち可動コア300側の端面402は、開弁時において、可動コア300のうち開弁方向側の端面302が衝突する部分となっている。図1のようにニードル200のシール部221が弁座512に当接しているときにおいては、端面402と端面302との間には隙間が形成されている。
固定コア400の中央には、これを上下方向(つまりハウジング100の長手方向)に貫くように貫通穴420が形成されている。先に説明したニードル200の空間201は、この貫通穴420によって第4筒状部材140の空間141に連通されている。
貫通穴420のうち可動コア300側の部分には、ニードル200の大径部210が挿通されている。大径部210の外周面は、貫通穴420の内周面に当接している。ニードル200は、開弁方向側の部分である摺接部222と、閉弁方向側の部分である大径部210と、の2箇所において、上下方向に沿って移動可能な状態で支持されている。
固定コア400は、概ね第3筒状部材130の内側となる位置に配置されている。固定コア400の外側面は、第3筒状部材130の内面に対して溶接によって固定されている。
コイル600は、電流の供給を受けて磁力を生じさせるものである。コイル600はボビン610に巻かれた状態で、ハウジング100のうち第2筒状部材120の全体と、第3筒状部材130の一部とを外側から覆うように配置されている。コイル600に電流が供給されると、固定コア400、可動コア300、第1筒状部材110の拡径円筒部112、及び第3筒状部材130等を磁束が通るように磁気回路が形成される。その結果として、固定コア400と可動コア300との間に磁気吸引力が発生する。この磁気吸引力によって、可動コア300は、ニードル200と共に開弁方向側に移動する。コイル600に対する電流の供給が停止すると、上記の磁気吸引力は0となる。その際、可動コア300は、後述のスプリング820の付勢力によって、ニードル200と共に閉弁方向側に移動する。
燃料噴射弁10のその他の構成について説明する。固定コア400に形成された貫通穴420のうち開弁方向側の部分近傍となる位置には、アジャスティングパイプ430が圧入され固定されている。アジャスティングパイプ430は円筒形状の部材であって、その内側には貫通穴431が形成されている。貫通穴431は、ハウジング100の長手方向に沿ってアジャスティングパイプ430を貫くように形成されている。
貫通穴420のうちアジャスティングパイプ430の下方側には、スプリング820が配置されている。スプリング820は、その伸縮方向が、ハウジング100の長手方向に沿っている弾性部材である。スプリング820の一端は、アジャスティングパイプ430の閉弁方向側端部に当接している。スプリング820の他端は、ニードル200のうち大径部210の開弁方向側端部に当接している。スプリング820は、その長さを自由長よりも短くした状態となっている。このため、ニードル200の大径部210は、スプリング820からの力によって可動コア300に対して押し付けられている。その結果、スプリング820は、ニードル200と可動コア300との両方を閉弁方向側に付勢している。
第1筒状部材110のうち、可動コア300の閉弁方向側となる部分には、凹状の空間SP2が形成されている。空間SP2にはスプリング810が配置されている。スプリング810は、その伸縮方向が、ハウジング100の長手方向に沿っている弾性部材である。スプリング810の一端は、可動コア300のうち閉弁方向側の端部(具体的には、後述の弁体320)に当接している。スプリング810の他端は、第1筒状部材110のうち空間SP2の底面に当接している。
スプリング810は、その長さを自由長よりも短くした状態となっている。このため、可動コア300は、スプリング810からの力によってニードル200の大径部210に対して押し付けられている。その結果、スプリング810は、ニードル200と可動コア300との両方を開弁方向側に付勢している。スプリング810とスプリング820とが設けられていることにより、大径部210と可動コア300とが互いに当接している状態が維持されている。スプリング810は、上記のように開弁方向に向けて付勢することにより弁体320を可動コア300に押し付けるものであって、本実施形態における「付勢部材」に該当する。
本実施形態では、スプリング820の付勢力が、スプリング810の付勢力よりも大きくなっている。このため、コイル600に対する電流の供給が停止しており、固定コア400と可動コア300との間に磁気吸引力が発生していないときには、ニードル200のシール部221が弁座512に当接した状態、すなわち噴孔511が塞がれた状態に維持される。
コイル600、第4筒状部材140、第3筒状部材130、及び第2筒状部材120は、樹脂900によって外側からモールドされている。この樹脂900の一部は外側に向かって突出しており、この突出した部分がコネクタ910として形成されている。コネクタ910は、コイル600に対して電流を供給するための線が接続される部分である。コネクタ910の内側には給電端子920が配置されている。給電端子920は、コイル600に繋がる給電線の一端に設けられた端子である。コイル600への電流の供給はこの給電端子920から行われる。
樹脂900のうち、第3筒状部材130をモールドしている部分の更に外側には、ホルダ700が配置されている。ホルダ700は磁性体からなる筒状の部材であって、拡径円筒部112の外側となる位置から、コイル600の開弁方向側端部よりも更に開弁方向側となる位置まで伸びるように形成されている。ホルダ700の内側であって、且つコイル600よりも開弁方向側となる位置にはカバー710が配置されている。カバー710は、磁性体からなる略円管状の部材であって、第3筒状部材130を外側から囲むように配置されている。カバー710のうちコネクタ910の近傍となる部分は、コネクタ910との干渉を避けるために切り欠かれている。このため、図1においては、第3筒状部材130の右側となる位置においてのみカバー710の断面が表れている。ホルダ700及びカバー710は、コイル600で発生した磁束が通る磁気回路の一部を成すものである。
燃料噴射弁10の動作について説明する。第4筒状部材140には、導入口143から燃料が供給されている。コイル600への電流供給が行われていないときには、既に述べたように噴孔511は閉じられている。このため、燃料噴射弁10の内部は燃料によって加圧された状態となっている。
コイル600への電流供給が開始されると、固定コア400と可動コア300との間に磁気吸引力が発生し、可動コア300は開弁方向側に移動する。その際、ニードル200の大径部210は可動コア300の端面302に当接しているので、可動コア300と共にニードル200も開弁方向側に移動する。ニードル200のシール部221が弁座512から離れて、噴孔511が開かれた状態になるので、噴孔511からの燃料の噴射が開始される。
燃料は、導入口143から空間141に流入した後、貫通穴431、貫通穴420、空間201、貫通穴202、及び空間111を順に通り、噴孔511から噴射される。
噴孔511が開かれている状態で、コイル600への電流供給が停止されると、固定コア400と可動コア300との間に磁気吸引力が働かなくなる。可動コア300及びニードル200は、スプリング820の付勢力によって閉弁方向側に移動し、最終的にはシール部221が弁座512に当接した状態、すなわち噴孔511が塞がれた状態となる。これにより、噴孔511からの燃料の噴射が停止される。
可動コア300の更に詳細な構成について、図2を参照しながら説明する。図2には、図1のうち可動コア300及びその近傍の部分が拡大して示されている。
図2に示されるように、可動コア300には複数の貫通穴310が形成されている。本実施形態では、貫通穴310は4つ形成されており、これらがハウジング100の中心軸を囲むように、周方向に沿って等間隔に並んでいる。
貫通穴310は、可動コア300の移動方向(つまりハウジング100の長手方向)に沿って、可動コア300を貫くように形成されている。このため、可動コア300よりも開弁方向側の空間SP1と、可動コア300よりも閉弁方向側の空間SP2との間は、それぞれの貫通穴310によって互いに連通されている。尚、空間SP1は、可動コア300の端面302と、固定コア400の端面402と、の間に挟まれた空間である。
固定コア400の貫通穴420を通る燃料の一部は、大径部210の周囲にある隙間を通って空間SP1に流入する。また、第1筒状部材110の空間111を通る燃料の一部は、ニードル200の周囲にある隙間を通って空間SP2に流入する。このため、空間SP1及び空間SP2はいずれも、燃料によって満たされた状態となっている。
仮に、可動コア300に貫通穴310が形成されていなかった場合には、空間SP1と空間SP2との間における燃料の流通は殆ど行われない。このため、開弁時において可動コア300が開弁方向側に移動すると、空間SP1の容積が小さくなることに伴って、空間SP1における燃料の圧力が上昇する。その結果、当該圧力によって可動コア300の動きが阻害されてしまい、燃料噴射弁10の開弁応答性が低下してしまうこととなる。
これに対し、本実施形態では上記のように可動コア300に貫通穴310が形成されている。このため、開弁時において可動コア300が開弁方向側に移動し、空間SP1の容積が小さくなると、空間SP1に存在していた燃料の一部が貫通穴310を通って空間SP2に流入する。空間SP1における燃料の圧力が上昇し過ぎることは無く、圧力によって可動コア300の動きが阻害されてしまうことはない。
本実施形態では、可動コア300のうち閉弁方向側の端面303の一部が、開弁方向側に向けて後退しており、これにより凹状の空間311が形成されている。ハウジング100の長手方向に沿って見た場合においては、空間311は、それぞれの貫通穴310と重なるような円形の範囲に形成されている。当該円形の中心は、ハウジング100やニードル200の中心軸上の点となっている。
空間311には、弁体320が配置されている。ハウジング100の長手方向に沿って見た場合においては、弁体320は、空間311の略全体と重なるような円形の板状部材となっている。弁体320は、本実施形態では非磁性体であるオーステナイト系ステンレスステンレスによって形成されている。弁体320の中央には、これをハウジング100の長手方向に沿って貫くような円形の貫通穴321が形成されている。貫通穴321の内径は、可動コア300に形成された貫通穴319の内径と概ね等しい。貫通穴321にはニードル200が挿通されている。
先に述べたスプリング810の開弁方向側端部は、弁体320のうち閉弁方向側の面に対して当接している。このため、弁体は開弁方向に向けて付勢されており、閉弁時においては可動コア300に押し付けられた状態となっている。つまり、スプリング810は、弁体320に対して開弁方向の力を加えることにより、弁体320及び可動コア300の全体を開弁方向に向けて付勢している。
弁体320の機能について説明する。開弁時においては、既に述べたように可動コア300が開弁方向に移動し、空間SP1の容積が次第に小さくなって行く。このとき、全ての貫通穴310は弁体320によって塞がれた状態となっているので、可動コア300が動き始めた直後においては、空間SP1からは燃料が流出しない。空間SP1における燃料の圧力は次第に大きくなって行き、可動コア300及びニードル200の移動速度はこの圧力によって僅かに減少する。つまり、弁体320によって上昇した空間SP1の燃料の圧力が、可動コア300に対して所謂ダンパーとして作用することとなる。これにより、可動コア300が固定コア400に衝突する際における速度が低減される。
空間SP1の圧力が上昇し過ぎてしまうと、先に説明したように可動コア300の動きが必要以上に阻害され、燃料噴射弁10の開弁応答性が低下してしまうこととなる。本実施形態では、空間SP1の圧力が上昇し、スプリング810からの力よりも大きくなると、図3に示されるように、当該圧力によって弁体320が閉弁方向側(つまり、可動コア300から離れる側)に移動し、それぞれの貫通穴310が開放された状態(つまり、流路断面積がそれまでよりも大きくなった状態)となる。このため、空間SP1における燃料の圧力が上昇し過ぎてしまうような事態が防止される。本実施形態では、空間SP1の圧力がダンパーとして適切に作用し、且つそれを超えない程度に収まるように、スプリング810の力が調整されている。
弁体320が可動コア300から離れた後は、空間SP1から空間SP2へと燃料が流入するので、空間SP1における燃料の圧力は低下する。ただし、当初よりも狭くなった空間SP1に存在する燃料のスクイズ力により、可動コア300が急激に減速される。可動コア300が固定コア400に衝突する際における速度が更に低減されるので、衝突に伴う可動コア300やニードル200の跳ね返りが生じてしまうことが無い。
尚、空間SP1にける燃料の圧力が上記のように低下すると、スプリング810からの力によって弁体320は再び開弁方向側に移動し、それぞれの貫通穴310を塞いだ状態となる。このため、開弁が完了して燃料が噴射されているときには、それぞれの貫通穴310は弁体320によって塞がれた状態となっている。
閉弁時においては、可動コア300が閉弁方向に移動し、空間SP2の容積が次第に小さくなって行く。このとき、全ての貫通穴310は弁体320によって塞がれた状態(つまり、流路断面積が0の状態)となっているので、空間SP2からは燃料が流出しない。空間SP2における燃料の圧力は次第に大きくなって行き、可動コア300及びニードル200の移動速度はこの圧力によって僅かに低下する。つまり、弁体320によって上昇した空間SP2の燃料の圧力が、可動コア300に対して所謂ダンパーとして作用することとなる。これにより、可動コア300がハウジング100(具体的には第1筒状部材110)に衝突する際における速度が低減される。
空間SP2における燃料の圧力が上昇すると、当該圧力によって、弁体320は更に可動コア300に押し付けられる。このため、閉弁が開始されてから完了するまでの全期間において、それぞれの貫通穴310は弁体320によって常に塞がれたままの状態となっている。
本実施形態では、空間SP2にスプリング810を収容する必要が有るので、空間SP2の容積は空間SP1に比べて大きくなっている。このため、閉弁動作中において燃料のスクイズ力が生じたとしても、空間SP2における燃料の圧力が上昇し過ぎてしまうことは無く、当該圧力によって可動コア300の動きが妨げられ過ぎてしまうことは無い。
以上のように、本実施形態に係る燃料噴射弁10では、可動コア300に貫通穴310が形成されており、貫通穴310は弁体320が設けられている。この弁体320が動作することによって、可動コア300が閉弁方向に移動する際に貫通穴310を通る燃料の流量(本実施形態では0である)が、可動コア300が開弁方向に移動する際に貫通穴310を通る燃料の流量よりも小さくなっている。このような流量の変化は、弁体320が、貫通穴310の出口部分における流路断面積を変化させることによって実現される。
尚、上記のような流量の差は、可動コア300が移動を開始してから停止するまでの期間における、少なくとも一部の期間において生じればよい。換言すれば可動コア300が閉弁方向に移動する際に貫通穴310を通る燃料の流量と、可動コア300が開弁方向に移動する際に貫通穴310を通る燃料の流量とが、一時的に互いに等しくなっていてもよい。例えば本実施形態では、閉弁時及び開弁時のいずれにおいても、可動コア300の移動が生じた直後の期間における燃料の流量は0となっている。
本実施形態では、貫通穴310が複数形成されており、全ての貫通穴310の流路断面積が、一つの弁体320によって同時に変化するように構成されている。このような態様に替えて、それぞれの貫通穴310に対応した複数の弁体320が、貫通穴310毎に設けられている態様としてもよい。
図4には、ニードル200のリフト量の時間変化の一例が示されている。同図においては、閉弁時におけるニードル200のリフト量が「P1」として示されており、開弁完了時におけるニードル200のリフト量が「P2」として示されている。
図4の線L2は、可動コア300に貫通穴310が一つも形成されていない場合の比較例における、ニードル200の動作示すグラフである。この場合、開弁時においては空間SP1の燃料の圧力が上昇し過ぎてしまうことにより、ニードル200のリフト量は非常に緩やかに上昇している。つまり、燃料噴射弁10の開弁応答性が悪くなってしまっている。
図4の線L3は、可動コア300に貫通穴310が形成されており、且つ弁体320が設けられていない場合の比較例における、ニードル200の動作示すグラフである。この場合、開弁時においては空間SP1の燃料の圧力がほとんど上昇しないので、ニードル200のリフト量は当初から急激に上昇している。その結果、可動コア300が固定コア400に激しく衝突し、ニードル200の跳ね返りが生じてしまっている。
また、閉弁時においては空間SP2の燃料の圧力がほとんど上昇しないので、ニードル200のリフト量は当初から急激に下降している。その結果、可動コア300がハウジング100に激しく衝突し、閉弁時においてもニードル200の跳ね返りが生じてしまっている。
図4の線L1は、本実施形態におけるニードル200の動作を示すグラフである。開弁時においては、弁体320の動作によって空間SP1の燃料の圧力が適切な範囲内に保たれる。このため、線L2の比較例よりも早く且つ線L3の比較例よりも低い速度で、ニードル200のリフト量が増加する。本実施形態では、燃料噴射弁10の開弁応答性を確保しながらも、開弁時におけるニードル200の跳ね返りが防止されている。
閉弁時においては、線L2の比較例と同じ速度でニードル200のリフト量が減少する。このため、閉弁時においてもニードル200の跳ね返りが防止されている。
本実施形態では、非磁性体であるオーステナイト系ステンレスによって弁体320が形成されている。仮に、フェライト系ステンレスのような磁性体によって弁体320が形成されていた場合には、コイル600で生じた磁束の一部が弁体320を通ることにより、弁体320と可動コア300との間に磁気吸引力が働いてしまい、弁体320が適切に動作しなくなってしまう可能性がある。そこで、本実施形態では上記のような非磁性材料によって弁体320を形成することで、弁体320と可動コア300との間に磁気吸引力が働いてしまう事態を防止している。
尚、本実施形態のように弁体320を金属材料(つまり導電体)によって形成した場合には、弁体320の一部で渦電流が生じることに伴って、可動コア300と固定コア400との間における磁気吸引力が低下してしまう可能性がある。このような事態を防止するためには、弁体320を絶縁体によって形成することが好ましい。絶縁体としては、例えば、セラミックスや樹脂などを用いることができる。
本実施形態のように燃料として気体燃料が用いられる場合には、燃料によって生じるスクイズ力が小さいので、開弁時や閉弁時における可動コア300の移動速度が上昇しやすい。このため、本実施形態のように弁体320を設けたことによる効果が特に生じやすい。ただし、以上に説明したような構成は、液体燃料を噴射する燃料噴射弁に適用することもできる。
第2実施形態について、図5を参照しながら説明する。以下では、第1実施形態と異なる点について主に説明し、第1実施形態と共通する点については適宜説明を省略する。
図5に示されるように、本実施形態に係る可動コア300には、貫通穴310とは別に貫通穴330が形成されている。貫通穴330は、貫通穴310と同様に、可動コア300の移動方向に沿って可動コア300を貫くように形成されている。ただし、貫通穴330は貫通穴310よりも外周側となる位置に形成されているので、ハウジング100の中心軸に沿って見た場合においては、貫通穴330は弁体320と重なっていない。空間SP1と空間SP2とは、貫通穴330によって常に連通された状態となっている。尚、本実施形態では貫通穴330は1つだけ形成されている。
このような構成においては、弁体320によって貫通穴310が塞がれている場合であっても、可動コア300が移動する際には、燃料は貫通穴330を通ることにより空間SP1と空間SP2との間を移動する。その結果、開弁時及び閉弁時のいずれにおいても、可動コア300に対する燃料によるダンパー効果が低減される。
このように、本実施形態では、弁体320によって塞がれることの無い貫通穴330を追加で形成しておくことにより、可動コア300の移動速度が第1実施形態の場合よりも早くなるように調整されている。貫通穴330の内径や数を適宜調整することにより、図4の線L1に示されるようなリフト量の時間変化を、より理想的なものに近づけることが可能となる。
上記と同様の調整を行うために、弁体320の一部(貫通穴310と重なる部分)に微小な貫通穴を形成することとしてもよい。当該貫通穴の径や個数を調整することで、可動コア300の移動速度を第1実施形態の場合よりも早くなるように調整することができる。
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。