しかしながら、特許文献1に開示された埋設型枠は、背面に打設されるコンクリートとの一体化を図るために、押出方向に多くのリブが列設され、パネル背面の全面に比較的小さな瘤状体および穴がリブおよびリブ間の溝に沿ってまんべんなく形成される。パネル厚の薄いコンクリートパネルにこのような形状のリブや瘤状体および穴を加工して生産するには、セメントと骨材を主原料に補強繊維を混練したものをパネル成型型枠に押し込み、押し出して成型する、押出成型による製造方法が採用される。このため、上記従来の壁面パネルの製造には、押出成型を行うための専用設備が必要となり、設備が備わった工場でしか製造できない。しかも、特許文献1に開示された埋設型枠のような壁面パネルを製造する押出成型では、リブの側面に間隔をあけて膨らんで押出方向に一定の形を呈さない瘤状体の押出成型タイミング時においてのみ瘤状体の形状に応じて成型金型の型枠形状を一時的に変化させるような、通常の押出成型に比べて高度な製造技術や、溝の底面に間隔をあけて窪んで押出方向に一定の形を呈さない穴を形成するために、押出成型後に二次加工などが必要とされる。
本発明は、通常の製造設備が備わった一般的な工場であれば、特別な設備投資を行うことなく製造することが可能な、裏込めコンクリートと一体化を図れる壁面パネル、およびそれを用いた壁面構造を提供することを目的とする。
このために本発明は、パネル背面に裏込めコンクリートが打設されてパネル背面の裏込めコンクリートと一体となって構造物を構成する壁面パネルにおいて、パネル背面の基準面から突出して突出端に平面を有するパネル背面にまばらに配置される凸部と、凸部の周りの複数箇所に凸部と所定長にわたって並びパネル背面の基準面から窪んで底に平面を有し側面が凸部の側面と並んで段差を形成する凹部とを備えることを特徴とする。
本構成によれば、壁面パネルは、パネル背面にまばらに配置される凸部、および、その凸部の周りの複数箇所に凸部に並んで形成される凹部により、パネル背面の基準面からの凸部の突出高さ寸法および凹部の深さ寸法が壁面パネルの厚さ方向に合わさった大きな寸法の段差が、凸部の周りの複数箇所に形成される。したがって、壁面パネルとその背面の裏込めコンクリートとは、この大きな段差によって高い密着力で相互が付着し、壁面パネルの厚さが薄い場合であっても壁面パネルと裏込めコンクリートとの一体化が図れる。このため、多くのリブを列設すると共に小さな凹凸をパネル背面にまんべんなく形成し、押出成型を行うための専用設備が必要となる従来の壁面パネルとは異なり、パネル成型材料を型枠に打設することで、裏込めコンクリートと一体化を図れる壁面パネルを製造することができる。このため、通常の製造設備が備わった一般的な工場においても、パネル成型用の型枠を製作するだけで製造設備が整い、特別な設備投資を行うことなく、裏込めコンクリートと一体化を図れる壁面パネルを製造することが可能になる。また、特別な設備投資を行う必要がないので壁面パネルの製造コストが総体的に抑制されると共に、パネル成型材料を型枠に打設することで壁面パネルを製造できるので生産性が向上する。また、プレート本体の裏面から多数の突起物が突出する特許文献2に開示されたような壁面パネルとは異なり、パネル背面からこのような突起物は突出しないため、壁面パネルの梱包時等における取り扱いが容易になる。
また、本発明は、段差を形成する凸部の側面に、突出端に形成される平面の面積を増やす向きの傾斜がついていることを特徴とする。
本構成によれば、凸部の突出端に形成される平面の面積を増やす向きに凸部の側面につけられる傾斜が、逆勾配になって硬化した裏込めコンクリートと係合し合い、裏込めコンクリートから壁面パネルが離れようとする力に対向するようになる。このため、壁面パネルの裏込めコンクリートに対する一体性が向上する。
また、本発明は、段差を形成する凹部の側面に、底に形成される平面の面積を増やす向きの傾斜がついていることを特徴とする。
本構成によれば、凹部の底に形成される平面の面積を増やす向きに凹部の側面につけられる傾斜が、逆勾配になって硬化した裏込めコンクリートと係合し合い、裏込めコンクリートから壁面パネルが離れようとする力に対向するようになる。このため、壁面パネルの裏込めコンクリートに対する一体性が向上する。
また、本発明は、段差を形成する凸部の側面に、突出端に形成される平面の面積を減らす向きの傾斜がついていることを特徴とする。また、段差を形成する凹部の側面に、底に形成される平面の面積を減らす向きの傾斜がついていることを特徴とする。また、段差を形成する凸部の側面が基準面に直交することを特徴とする。また、段差を形成する凹部の側面が基準面に直交することを特徴とする。
これら本構成によれば、壁面パネルの製造に使用される型枠治具に傾斜をつける必要がないので、型枠治具を簡素化することができる。また、段差が逆勾配になって裏込めコンクリートと係合し合い、裏込めコンクリートから壁面パネルが離れようとする力に対向するようになるという効果は低下するが、上記の各発明によって奏されるその他の効果は同様に奏される。
また、本発明は、段差が、壁面パネルの積み上げ方向に沿って形成される合計の長さの壁面パネルの積み上げ方向長さに占める割合、または、壁面パネルの積み上げ方向に直交する方向に沿って形成される合計の長さの壁面パネルの積み上げ方向に直交する長さに占める割合が略50%であることを特徴とする。
段差が、壁面パネルの積み上げ方向長さまたはこれに直交する長さに占める割合が略50%より大きくなると、段差と裏込めコンクリートとの接触面積が大きくなって相互の付着力が増すことで、壁面パネルと裏込めコンクリートとの一体化が強化されるが、凹部が大きくなる分、壁面パネルの剛性が低下する。一方、段差が、壁面パネルの積み上げ方向長さまたはこれに直交する長さに占める割合が略50%より小さくなると、段差と裏込めコンクリートとの接触面積が小さくなって相互の付着力が減ることで、壁面パネルと裏込めコンクリートとの一体化が弱まる。また、これと共に、壁面パネルと裏込めコンクリートとの境界面を介して相互が交錯する量が減ることで、この境界面を裏込めコンクリート側に突出する壁面パネルの凸部、および、この境界面を壁面パネル側に突出して凹部に入り込む裏込めコンクリートが、この境界面に沿った方向にかかる剪断力に対向する耐力が弱まる。この剪断力は、壁面パネルと裏込めコンクリートとがそれぞれ異なる向きにずれることで生じる。しかし、本構成によれば、段差が、壁面パネルの積み上げ方向長さまたはこれに直交する長さに占める割合が略50%に設定されるので、壁面パネルと裏込めコンクリートとの一体化を図りながら壁面パネルの剛性を確保できると共に、壁面パネルと裏込めコンクリートとの境界面に沿った方向にかかる剪断力に対向する耐力を確保できる。
また、本発明は、凹部が、その周囲に、パネル強度を保つ厚さを有する柱状領域を壁面パネルの積み上げ方向およびこれに直交する方向に連続して確保して形成されることを特徴とする。
本構成によれば、壁面パネルの積み上げ方向およびこれに直交する方向に連続してパネル強度を保つ厚さを有する柱状領域が凹部の周囲に確保されることで、凹部の形成によってパネル厚が薄くなるのに起因してパネル強度が低下するのが最小限に抑えられる。したがって、壁面パネルの厚さを最大限に薄くし、かつ、パネル重量を抑えることが可能になる。
また、本発明は、壁面パネルの積み上げ方向に形成される柱状領域が壁面パネルの積み上げ方向に直交する方向に占める合計の長さの、壁面パネルの積み上げ方向に直交する長さに占める割合、および、壁面パネルの積み上げ方向に直交する方向に形成される柱状領域が壁面パネルの積み上げ方向に占める合計の長さの、壁面パネルの積み上げ方向長さに占める割合がそれぞれ略50%であることを特徴とする。
本構成によれば、柱状領域が、壁面パネルの積み上げ方向およびこれに直交する方向に形成される割合がそれぞれ略50%に設定されることで、壁面パネルの積み上げ方向およびこれに直交する方向における壁面パネルの剛性が確保され、壁面パネルの厚さを最大限に薄く、かつ、パネル重量を抑えながら、壁面パネルの強度を維持することができる。
また、本発明は、凸部が、壁面パネルの積み上げ方向におけるパネル上端およびパネル下端から所定間隔をあけて形成されることを特徴とする。
本構成によれば、パネル上端およびパネル下端にあく所定間隔に裏込めコンクリートが入り込み、入り込んで硬化したコンクリートが凸部の上下方向の移動を抑制するので、壁面パネルの積み上げ方向におけるズレが止められる。また、壁面パネルを積み上げる際に上下の壁面パネル相互を連結させるために用いられる連結部材の取り付け位置が、パネル上端およびパネル下端にあく所定間隔内において自由に選べ、連結部材の取り付け位置の自由度が増す。また、壁面パネルをずらし積みなどで積み上げる際、隣接する壁面パネルの上端または下端から突出する連結部材と凸部との干渉を、パネル上端およびパネル下端にあく所定間隔によって防ぐことができる。
また、本発明は、パネル背面から突出する端部が裏込めコンクリートに埋められて固定されるアンカー材をパネル背面に着脱自在に備えることを特徴とする。
本構成によれば、パネル背面に形成された凸部および凹部に加えてアンカー材を併用することで、壁面パネルの裏込めコンクリートに対する一体性がさらに向上する。
また、本発明は、パネル成型用の型枠にパネル背面側からコンクリートが打設されて製造されることを特徴とする。
壁面パネルの厚さに相当する幅で開口する壁面パネルの側端側からコンクリートを打設して、壁面パネルを製造することにすると、パネル背面に凸部および凹部を有するため、パネル成型用型枠の構造が煩雑化する。特に、凸部および凹部の側面に傾斜がつけられる壁面パネルの場合には型枠構造の煩雑度は増す。しかし、本構成によれば、パネル背面側からコンクリートが打設されるパネル成型用型枠を容易に製作できるので、安価にパネル成型用型枠を製作することができる。しかも、コンクリートの打設面積が大きいので、生産性が大幅に向上する。このため、壁面パネルの製造コストは総体的に低減される。また、コンクリートが打設されるパネル背面側の打設面は、パネル前面側の滑らかに仕上がる型枠面に比べると、ざらつく面になる。このため、壁面パネルは、パネル背面に打設される裏込めコンクリートとの付着性が向上する。
また、本発明は、下段のパネル本体に設けられた連結部材の下段のパネル本体から突出した端部が上段のパネル本体の背面に当接して上段のパネル本体の背面を押さえると共に、上段のパネル本体に設けられた連結部材の上段のパネル本体から突出した端部が下段のパネル本体の背面に当接して下段のパネル本体の背面を押さえて、上段のパネル本体の壁面背面側へ倒れる力が各連結部材を介して上段および下段の各パネル本体の背面で受けられて上段のパネル本体が下段のパネル本体上に自立し、隣接する上段および下段の各パネル本体が複数段斜めに積み上げられて壁面を構成することを特徴とする。
本構成によれば、壁面パネルを多段に積み上げる際、壁面パネルのパネル厚が薄くても、壁面パネルを傾いた状態に支えるサポート材を使用することなく、壁面パネルは連結部材によって傾いた状態に自立する。また、壁面パネルは、裏込めコンクリートが固まるまでの間、裏込めコンクリートの側圧に耐えられる強度があれば良い。このため、パネル厚を薄くして、その製品コストを抑制することができると共に、その施工性を向上させることができる。
また、本発明は、上記の壁面パネルと、各段のパネル本体を保持して各段のパネル本体が転倒するのを防止する転倒防止部材と、各段のパネル本体の背面に転倒防止部材と共に所定の高さまで順次打ち継いで埋められて複数層に形成される裏込めコンクリートと、打ち継がれるコンクリートを通る少なくとも1本の補強鉄筋とを備えて、壁面構造を構成した。
本構成によれば、各壁面パネルの背面に順次打ち継いで埋められて複数層に形成される裏込めコンクリートは、打ち継がれるコンクリートを補強鉄筋が通ることで、一体化が図られる。したがって、パネル背面の凸部と凹部によって壁面パネルと裏込めコンクリートとの一体化が図られると共に、複数の層に重なって打ち継がれて形成される各層の裏込めコンクリートどうしの一体化が図られる。このため、裏込めコンクリートに大きな構造物の構築に耐えられる強度が備わるため、壁面パネルを薄く形成することができる。壁面パネルは、そのパネル厚が薄いほど、その製品コストを抑制できると共に、その施工性を向上させることができる。
また、本発明は、上記の壁面パネルと、各段のパネル本体を保持して各段のパネル本体が転倒するのを防止する転倒防止部材と、各段のパネル本体の背面に転倒防止部材と共に所定の高さまで順次打ち継いで埋められて複数層に形成され、各層におけるコンクリートの水平打ち継ぎ面が壁面パネル側が高くその反対側が低い段になってその段が構造物の敷設延長方向に延在して形成される裏込めコンクリートと、壁面パネル側およびその反対側に打ち継がれるコンクリートをそれぞれ通る各々少なくとも1本の補強鉄筋とを備えて、壁面構造を構成した。
本構成によれば、裏込めコンクリートが複数層に形成され、各層におけるコンクリートの水平打ち継ぎ面が壁面パネル側が高くその反対側が低い段に形成される。したがって、この段が、上層に打設される層の裏込めコンクリート背後にかかる土圧を受け、上層に打設される層の裏込めコンクリートが構造物前面側へ動くのを補強鉄筋と共に抑止する。このため、パネル背面の凸部と凹部によって壁面パネルと裏込めコンクリートとの一体化が図られると共に、複数の層に重なって打ち継がれて形成される各層の裏込めコンクリートどうしの一体化がより強固に図られる。また、裏込めコンクリートの一体化がより強固に図られるので、裏込めコンクリートに大きな構造物の構築に耐えられるより大きな強度が備わる。
本発明によれば、通常の製造設備が備わった一般的な工場であれば、特別な設備投資を行うことなく製造することが可能な、裏込めコンクリートと一体化を図れる壁面パネル、およびそれを用いた壁面構造を提供することができる。
次に、本発明による壁面パネルの第1の実施形態について説明する。
図1(a)は第1の実施形態による壁面パネル1Aの背面図、同図(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)および(i)は、壁面パネル1AのA−A線破断矢視図、B−B線破断矢視図、C−C線破断矢視図、D−D線破断矢視図、E−E線破断矢視図、F−F線破断矢視図、G−G線破断矢視図およびH−H線破断矢視図である。
壁面パネル1Aは、後述するように(図5および図6参照)、パネル背面に裏込めコンクリート10が打設されて、パネル背面の裏込めコンクリート10と一体となって構造物である擁壁を構成する。壁面パネル1Aは薄い板厚のコンクリートパネルであり、長方形状に成型されている。壁面パネル1Aの左端には、パネル前面側が左方に張り出した係合部1a、壁面パネルの右端には、パネル背面側が右方に張り出した係合部1bが形成されている。これら係合部1a,1bは、壁面パネル1Aが左右方向に並べられて壁面が形成される際、お互いに係合し合って壁面にその裏面に通じる隙間が形成されるのを防ぐ。
壁面パネル1Aのパネル背面には、壁面パネル1Aの積み上げ方向である上下方向に沿って、2列の凸部1cが平行に並んでまばらに配置されている。これら凸部1cは、壁面パネル1Aの積み上げ方向におけるパネル上端およびパネル下端から所定間隔dをあけて形成されている。また、左方の凸部1cの周りの4箇所には凹部1dが形成されており、右方の凸部1cの周りの右上方を除く3箇所には凹部1dが形成されている。右方の凸部1cの周りの右上方には、凹部1dに代えて水抜き穴1eが形成されている。各凸部1cは、パネル背面の基準面1fから突出して、突出端に平面を有する。各凹部1dは、凸部1cと所定長にわたって並び、パネル背面の基準面1fから窪んで、底に平面を有する。
凹部1dの側面は凸部1cの側面と並んで、各凸部1cの両側部に段差1gを形成している。この段差1gは、同図(c)に点線の円で囲まれた一部拡大図に詳細に示される。本実施形態では、段差1gを形成する凸部1cの側面に、凸部1cの突出端に形成される平面の面積を増やす向きの傾斜がついている。また、段差1gを形成する凹部1dの側面には、凹部1dの底に形成される平面の面積を増やす向きの傾斜がついている。段差1gは、壁面パネル1Aの積み上げ方向に沿って形成される合計の長さの、壁面パネル1Aの積み上げ方向長さに占める割合が略50%である。この割合は、60%〜40%の範囲にあることが好ましい。本実施形態では、壁面パネル1Aの積み上げ方向に沿って形成される1つの段差1gの積み上げ方向長さは135mmであり、段差1gの積み上げ方向長さの合計は270mm(=135×2)である。また、壁面パネル1Aの積み上げ方向長さは500mmである。したがって、上記の割合は54%(=100×270/500)になっている。
また、壁面パネル1Aのパネル背面における所定間隔dがあけられたところには、複数の埋め込みナット2がインサート成型されて、設けられている。これら埋め込みナットには、後述する(図5および図6参照)アンカー材6や、連結部材7をパネル背面に取り付けるためのボルト8が螺合させられ、アンカー材6および連結部材7はパネル背面に着脱自在に取り付けられる。アンカー材6は、所定長のボルトからなり、パネル背面に取り付けられてパネル背面から突出する端部が、裏込めコンクリート10に埋められて固定される。また、連結部材7の表面に突出するボルト8の頭部側も、裏込めコンクリート10に埋められて、アンカー材6と共に、壁面パネル1Aを裏込めコンクリート10に固定させるアンカーとなる。連結部材7は、積み上げる上下の壁面パネル1Aどうしを連結する。
凸部1cおよび凹部1dは、図2に斜線で示す、パネル強度を保つ厚さを有する柱状領域1hを壁面パネル1Aの積み上げ方向およびこれに直交する方向に連続して確保して、形成される。図2(a)は、この柱状領域1hを表す壁面パネルの背面図、同図(b)は平面図、同図(c)は側面図である。壁面パネル1Aの積み上げ方向においては、凸部1cの2列の形成列に幅が170mmで高さが500mmの柱状領域1h1,1h2、中央で上下に並ぶ凹部1dの列どうしの間に幅が130mmで高さが500mmの柱状領域1h3、左方で上下に並ぶ凹部1dの列と壁面パネル1Aの左端との間に幅が65mmで高さが500mmの柱状領域1h4、右方で水抜き穴1eと凹部1dが上下に並ぶ列と壁面パネル1Aの右端との間に幅が65mmで高さが500mmの柱状領域1h5が形成されている。また、壁面パネル1Aの積み上げ方向に直交する方向には、左右に並ぶ凹部1dの行どうしの間に幅が70mmで横方向長さが1000mmの柱状領域1h6、下方で左右に並ぶ凹部1dの行と壁面パネル1Aの下端との間に幅が80mmで横方向長さが1000mmの柱状領域1h7、上方で左右に並ぶ凹部1dと水抜き穴1eの行と壁面パネル1Aの上端との間に幅が80mmで横方向長さが1000mmの柱状領域1h8が形成されている。
これら柱状領域1hに図示するように補強鉄筋3を配置して壁面パネル1Aを成型することで、薄い板厚の壁面パネル1Aの強度を増すことができる。壁面パネル1Aの積み上げ方向に形成される柱状領域1h1,1h2,1h3,1h4,1h5が壁面パネル1Aの積み上げ方向に直交する方向に占める合計の長さ600mm(=65+170+130+170+65)の、壁面パネル1Aの積み上げ方向に直交する長さ1000mmに占める割合は60%(=100×600/1000)、および、壁面パネル1Aの積み上げ方向に直交する方向に沿って形成される柱状領域1h6,1h7,1h8が壁面パネル1Aの積み上げ方向に占める合計の長さ230mm(=80+70+80)の、壁面パネル1Aの積み上げ方向長さ500mmに占める割合は46%(=100×230/500)であり、それぞれ略50%である。これら割合も、60%〜40%の範囲にあることが好ましい。
壁面パネル1Aは、パネル成型用の型枠にパネル背面側からコンクリートが打設されて製造される。図3(a)および(b)、並びに図4は、このパネル成型時、型枠の抜き勾配と逆勾配になる傾斜を側面に有する凸部1cおよび凹部1dの成型法を説明するためのパネル背面図および断面図、並びに背面斜視図を示す。なお、図3および図4においては水抜き穴1eに代えて凹部1dが形成されている態様を示す。
図示しない型枠へのコンクリートの打設は、図3(b)に示す矢示方向Aから行われる。凸部1cおよび凹部1dは治具4a,4bを用いて成型され、型枠へのコンクリート打設時、治具4a,4bは、図3(b)の左方および図4の右方に示すように、合わさって1塊の状態に型枠上方に保持される。この状態で型枠にコンクリートが打設されることで、逆勾配になる傾斜を側面に有する凸部1cおよび凹部1dが成型される。成型後、図3(b)の中央寄りおよび図4の左方に示すように、まず、治具4bが垂直上方に抜かれる。続いて、治具4bが凸部1cから離れる向きの水平方向に移動されてから、垂直上方に抜かれる。
図5は、壁面パネル1Aを多段に積み上げて構築される擁壁を施工中に斜め上方から見下ろした斜視図である。同図において図1と同一または相当する部分には同一符号を付してその説明は省略する。なお、同図においても、図3および図4と同様、水抜き穴1eに代えて凹部1dが形成されている態様を示す。
擁壁は地盤上に形成される現場打ちの基礎コンクリート5上に構築される。基礎コンクリート5上には最初に1段目の壁面パネル1Aが敷設延長方向に並べられる。1段目の壁面パネル1Aの背面上方における埋め込みナット2には、パネル背面に連結部材7を取り付けているボルト8が螺合しており、背面下方における埋め込みナット2にはボルト8が単体で螺合している。次に、各ボルト8と、基礎コンクリート5に埋設された鉄筋16との各間に転倒防止部材9が溶接されて設けられ、1段目の壁面パネル1Aの転倒が防止される。次に、1段目の壁面パネル1Aの背後に裏込コンクリート10が打設され、裏込コンクリート10に補強鉄筋11が設けられる。
裏込コンクリート10は、コンクリートの水平打ち継ぎ面が壁面パネル1A側が高く、その反対側が低い段10aになって、その段10aが構造物である擁壁の敷設延長方向に延在して形成される。補強鉄筋11は、壁面パネル1A側およびその反対側に打ち継がれる裏込コンクリート10をそれぞれ通って各々少なくとも1本が設けられる。
次に、1段目の壁面パネル1Aの上方に2段目の壁面パネル1Aが積まれる。2段目以降に積まれる各壁面パネル1Aの背面上方および下方には、埋め込みナット2およびボルト8によって連結部材7が取り付けられる。ボルト8は、アンカー材6と同様に、パネル背面から突出する端部が、裏込めコンクリート10に埋められて固定される。なお、同図では、埋め込みナット2の図示は省略している。また、壁面パネル1Aにアンカー材6が取り付けられる場合には、同図に3段目に浮いて記載された壁面パネル1Aのように、壁面パネル1Aの背面左方上下および右方上下の各埋め込みナット2、または必要に応じて壁面パネル1Aの背面中央の上下などに設けられる図示しない各埋め込みナットに取り付けられる。
連結部材7は長方形状の板材が短手方向にコの字状にパネル背面側へ曲げられた形状をしており、パネル背面に取り付けられる側の端部におけるパネル背面側への曲げ高さが高く形成され、この曲げ高さの高い足高部7aがパネル背面に当接してボルト8によってパネル背面に取り付けられる。ボルト8は頭部がない寸切りボルトで、この取付の際には、足高部7aに形成された穴にボルト8が挿通されて、ボルト8にナットを螺合させることで、足高部7aがパネル背面に固定される。これにより、連結部材7の反対側の端部は、壁面パネル1Aの上端または下端から上方または下方に突出し、上下に隣接する壁面パネル1Aの背面との間に隙間を形成する。連結部材7のこの反対側の端部にはボルト15が螺合しており、このボルト15の先端のパネル背面側への突出量を調整することで、連結部材7の反対側の端部は、ボルト15を介して上下に隣接する壁面パネル1Aの背面と係合する。
2段目以降の壁面パネル1Aは、下段の壁面パネル1Aのパネル本体に設けられた連結部材7の下段のパネル本体から上方に突出した端部が上段の壁面パネル1Aのパネル本体の背面にボルト15を介して当接して、上段のパネル本体の背面を押さえると共に、上段のパネル本体に設けられた連結部材7の上段のパネル本体から下方に突出した端部が下段のパネル本体の背面にボルト15を介して当接して、下段のパネル本体の背面を押さえる。これにより、上段のパネル本体の壁面背面側へ倒れる力がボルト15および連結部材7を介して上段および下段の各パネル本体の背面で受けられて、上段のパネル本体が下段のパネル本体上に自立し、上下に隣接する上段および下段の各パネル本体が複数段斜めに積み上げられて、壁面パネル1Aによって壁面が構築される。
なお、本実施形態では、壁面が敷設延長方向に曲がって曲線施工される場合について説明している。このため、連結部材7の壁面パネル1Aから突出する端部にパネル背面との間に隙間を設け、この隙間にボルト15を突出させて、その先端をパネル背面に当接させている。しかし、壁面が敷設延長方向に直線施工される場合には、各段の壁面パネル1Aのパネル面が面一になり、連結部材7の反対側の他端部とパネル背面との間に隙間を設ける必要がない。このため、パネル背面に取り付けられる端部に足高部7aが設けられない連結部材7を使用することもできる。この場合、連結部材7の反対側の端部は、上下に隣接する壁面パネル1Aの背面と直接係合するため、ボルト15は不要となる。
図6は、このように壁面パネル1Aを積み上げて構築される擁壁における壁面構造の断面図である。同図において図5と同一または相当する部分には同一符号を付してその説明は省略する。擁壁の壁面構造は、壁面パネル1Aと、連結部材7と、各段の壁面パネル1Aのパネル本体を保持して各段のパネル本体が転倒するのを防止する転倒防止部材9と、各段のパネル本体の背面を転倒防止部材9と共に所定の高さまで順次打ち継いで埋められる複数層に形成され、各層におけるコンクリートの水平打ち継ぎ面が壁面パネル1A側が高くその反対側が低い段10aになってその段10aが擁壁の敷設延長方向に延在して形成される裏込めコンクリート10と、壁面パネル1A側およびその反対側に打ち継がれる裏込めコンクリート10をそれぞれ通る各々少なくとも1本の補強鉄筋11とを備えて構成され、地盤12に敷設された基礎砕石13上に基礎コンクリート5を介して構築される。なお、同図では補強鉄筋11の図示は省略している。
このような本実施形態によれば、壁面パネル1Aは、パネル背面にまばらに配置される凸部1c、および、その凸部1cの周りの4箇所に凸部1cに並んで形成される凹部1dにより、パネル背面の基準面1fからの凸部1cの突出高さ寸法および凹部1dの深さ寸法が壁面パネル1Aの厚さ方向に合わさった大きな寸法の段差1gが、凸部1cの周りの複数箇所に形成される。したがって、壁面パネル1Aとその背面の裏込めコンクリート10とは、この大きな段差1gによって高い密着力で相互が付着し、壁面パネル1Aの厚さが薄い場合であっても壁面パネル1Aと裏込めコンクリート10との一体化が図れる。このため、特許文献1に開示された、多くのリブを列設すると共に小さな凹凸をパネル背面にまんべんなく形成し、押出成型を行うための専用設備が必要となる従来の壁面パネルとは異なり、パネル成型材料であるコンクリートを型枠に打設することで、裏込めコンクリート10と一体化を図れる壁面パネル1Aを製造することができる。このため、通常の製造設備が備わった一般的な工場においても、パネル成型用の型枠を製作するだけで製造設備が整い、特別な設備投資を行うことなく、裏込めコンクリート10と一体化を図れる壁面パネル1Aを製造することが可能になる。また、特別な設備投資を行う必要がないので壁面パネル1Aの製造コストが総体的に抑制されると共に、パネル成型材料を型枠に打設することで壁面パネル1Aを製造できるので生産性が向上する。また、プレート本体の裏面から多数の突起物が突出する特許文献2に開示されたような壁面パネルとは異なり、パネル背面からこのような突起物は突出しないため、壁面パネル1Aの梱包時等における取り扱いが容易になる。
また、本実施形態の壁面パネル1Aによれば、凸部1cの突出端に形成される平面の面積を増やす向きに凸部1cの側面につけられる傾斜が逆勾配になり、硬化した裏込めコンクリート10と係合し合い、裏込めコンクリート10から壁面パネル1Aが離れようとする力に対向するようになる。このため、壁面パネル1Aの裏込めコンクリート10に対する一体性が向上する。さらに、本実施形態の壁面パネル1Aによれば、凹部1dの底に形成される平面の面積を増やす向きに凹部1dの側面につけられる傾斜も逆勾配になり、硬化した裏込めコンクリート10と係合し合い、裏込めコンクリート10から壁面パネル1Aが離れようとする力に対向するようになる。このため、壁面パネル1Aの裏込めコンクリート10に対する一体性が一層向上する。
また、段差1gは、壁面パネル1Aの積み上げ方向長さに占める割合が略50%より大きくなると、段差1gと裏込めコンクリート10との接触面積が大きくなって相互の付着力が増すことで、壁面パネル1Aと裏込めコンクリート10との一体化が強化されるが、凹部1dが大きくなる分、壁面パネル1Aの剛性が低下する。一方、段差1gが、壁面パネル1Aの積み上げ方向長さに占める割合が略50%より小さくなると、段差1gと裏込めコンクリート10との接触面積が小さくなって相互の付着力が減ることで、壁面パネル1Aと裏込めコンクリート10との一体化が弱まる。また、これと共に、壁面パネル1Aと裏込めコンクリート10との境界面を介して相互が交錯する量が減ることで、この境界面を裏込めコンクリート10側に突出する壁面パネル1Aの凸部1c、および、この境界面を壁面パネル1A側に突出して凹部1dに入り込む裏込めコンクリート10が、この境界面に沿った方向にかかる剪断力に対向する耐力が弱まる。この剪断力は、壁面パネル1Aと裏込めコンクリート10とがそれぞれ異なる向きにずれることで生じる。しかし、本実施形態の壁面パネル1Aによれば、段差1gが、壁面パネル1Aの積み上げ方向長さに占める割合が略50%に設定されるので、壁面パネル1Aと裏込めコンクリート10との一体化を図りながら壁面パネル1Aの剛性を確保できると共に、壁面パネル1Aと裏込めコンクリート10との境界面に沿った方向にかかる剪断力に対向する耐力を確保できる。
また、本実施形態の壁面パネル1Aによれば、壁面パネル1Aのパネル背面上端およびパネル背面下端にあく所定間隔dに裏込めコンクリート10が入り込み、入り込んで硬化したコンクリートが凸部1cの上下方向の移動を抑制するので、壁面パネル1Aの積み上げ方向におけるズレが止められる。また、壁面パネル1Aを積み上げる際に上下の壁面パネル1A相互を連結させるために用いられる連結部材7の取り付け位置が、パネル背面上端およびパネル背面下端にあく所定間隔d内において自由に選べ、連結部材7の取り付け位置の自由度が増す。また、壁面パネル1Aをずらし積みなどで積み上げる際、上下に隣接する壁面パネル1Aの上端または下端から突出する連結部材7と凸部1cとの干渉を、パネル背面上端およびパネル背面下端にあく所定間隔dによって防ぐことができる。
また、本実施形態の壁面パネル1Aによれば、壁面パネル1Aの積み上げ方向およびこれに直交する方向に連続してパネル強度を保つ厚さを有する柱状領域1hが図2に示すように凹部1dの周囲に確保されることで、凹部1dの形成によってパネル厚が薄くなるのに起因して壁面パネル1Aのパネル強度が低下するのが最小限に抑えられる。特に、柱状領域1hは、壁面パネル1Aの積み上げ方向およびこれに直交する方向に形成される割合がそれぞれ略50%に設定されることで、壁面パネル1Aの積み上げ方向およびこれに直交する方向における壁面パネル1Aの剛性が確保され、壁面パネル1Aの厚さを最大限に薄く、かつ、パネル重量を抑えながら、壁面パネル1Aの強度を維持することができる。
また、本実施形態の壁面パネル1Aによれば、壁面パネル1Aのパネル背面に形成された凸部1cおよび凹部1dに加えてアンカー材6を併用することで、壁面パネル1Aの裏込めコンクリート10に対する一体性がさらに向上する。
また、壁面パネル1Aの厚さに相当する幅で開口する壁面パネル1Aの側端側からコンクリートを打設して、壁面パネル1Aを製造することにすると、パネル背面に凸部1cおよび凹部1dを有するため、パネル成型用型枠の構造が煩雑化する。特に、凸部1cおよび凹部1dの側面に傾斜がつけられる本実施形態のような壁面パネル1Aの場合には、型枠構造の煩雑度は増す。しかし、本実施形態によれば、壁面パネル1Aのパネル背面側からコンクリートが打設されるパネル成型用型枠が使用され、パネル成型用型枠を容易に製作できるので、安価にパネル成型用型枠を製作することができる。しかも、コンクリートの打設面積が大きいので、生産性が大幅に向上する。このため、壁面パネル1Aの製造コストは総体的に低減される。また、コンクリートが打設されるパネル背面側の打設面は、パネル前面側の滑らかに仕上がる型枠面に比べると、ざらつく面になる。このため、壁面パネル1Aは、パネル背面に打設される裏込めコンクリート10との付着性が向上する。
また、本実施形態の壁面パネル1Aによれば、壁面パネル1Aを図5に示すように多段に積み上げる際、壁面パネル1Aのパネル厚が薄くても、壁面パネル1Aを傾いた状態に支えるサポート材を使用することなく、壁面パネル1Aは連結部材7によって傾いた状態に自立する。また、壁面パネル1Aは、裏込めコンクリート10が固まるまでの間、裏込めコンクリート10の側圧に耐えられる強度があれば良い。このため、壁面パネル1Aは、パネル厚を薄くして、その製品コストを抑制することができると共に、その施工性を向上させることができる。
また、本実施形態の壁面パネル1Aを用いた壁面構造によれば、図5に示すように、裏込めコンクリート10が複数層に形成され、各層におけるコンクリートの水平打ち継ぎ面が壁面パネル1A側が高く、その反対側が低い段10aを持つように形成される。したがって、この段10aが、上層に打設される層の裏込めコンクリート10背後にかかる土圧を受け、上層に打設される層の裏込めコンクリート10が擁壁の前面側へ動くのを補強鉄筋11と共に抑止する。このため、パネル背面の凸部1cと凹部1dによって壁面パネル1Aと裏込めコンクリート10との一体化が図られると共に、複数の層に重なって打ち継がれて形成される各層の裏込めコンクリート10どうしの一体化が図られる。また、裏込めコンクリート10の一体化が図られて、裏込めコンクリート10に大きな擁壁の構築に耐えられる強度が備わるため、壁面パネル1Aを薄く形成することができる。壁面パネル1Aは、そのパネル厚が薄いほど、その製品コストを抑制できると共に、その施工性を向上させることができる。
なお、壁面パネル1Aを用いた壁面構造では、段10aを持つように形成されたが、段10aは必ずしも必要でなく、裏込めコンクリート10から壁面パネル1Aに作用する荷重が小さい場合や、補強鉄筋11の径を大きくしたり補強鉄筋11の本数を増やすことで調整して裏込めコンクリート10の強度が確保される場合には、無くてもよい。つまり、裏込めコンクリート10の各層におけるコンクリートの水平打ち継ぎ面は平らに形成されてもよい。このような段10aの無い構成によっても、各壁面パネル1Aの背面に順次打ち継いで埋められて複数層に形成される裏込めコンクリート10は、打ち継がれるコンクリートを少なくとも1本の補強鉄筋11が通ることで、一体化が図られる。したがって、パネル背面の凸部1cと凹部1dによって壁面パネル1Aと裏込めコンクリート10との一体化が図られると共に、複数の層に重なって打ち継がれて形成される各層の裏込めコンクリート10どうしの一体化が図られる。このため、段10aが無くても、強鉄筋11の径を大きくしたり補強鉄筋11の本数を増やすことで、裏込めコンクリート10に大きな擁壁の構築に耐えられる強度が備わるため、壁面パネル1Aを薄く形成することができ、段10aが不要になるのと相俟ってさらに施工性よく壁面構造を構築することができる。段10aを持つように形成される壁面構造は、裏込めコンクリート10の一体化がより強固に図られるので、裏込めコンクリート10に大きな擁壁の構築に耐えられるより大きな強度が必要とされる箇所に適用されると好適である。すなわち、裏込めコンクリート10に必要とされる強度に応じて、段10aを持たせたり持たせなかったり、また、補強鉄筋11の径や本数を適宜調整することで、構築する箇所に最適な強度を備えた壁面構造を実現することができる。
次述する壁面パネル1B〜1Nを用いた壁面構造についても、壁面パネル1Aを用いた壁面構造と同様であり、段10aを持つように形成されたり、段10aを持たないように形成されてもよい。
また、上記の第1の実施形態では、壁面パネル1Aの背面に凸部1cを2列にまばらに配置した場合について説明したが、図7に示す、第1の実施形態の変形例による壁面パネル1Bのように、壁面パネル1Bの背面に凸部1cを3列にまばらに配置し、各凸部1cの周りの4箇所に凹部1dを形成するように構成してもよい。図7(a)は第1の実施形態の変形例による壁面パネル1Bの背面図、同図(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)および(h)は、壁面パネル1BのA−A線破断矢視図、B−B線破断矢視図、C−C線破断矢視図、D−D線破断矢視図、E−E線破断矢視図、F−F線破断矢視図およびG−G線破断矢視図である。同図において図1と同一または相当する部分には同一符号を付してその説明は省略する。このような第1の実施形態の変形例による壁面パネル1Bによれば、第1の実施形態による壁面パネル1Aと同様な作用効果が奏されるが、凸部1cおよび凹部1dの個数、並びに、裏込めコンクリート10と係合し合う段差1gが増えるため、裏込めコンクリート10から壁面パネル1Bが離れようとする力に対向する力も増え、壁面パネル1Bの裏込めコンクリート10に対する一体性が向上する。
図8(a)は本発明の第2の実施形態による壁面パネル1Cの背面図、同図(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)および(i)は、壁面パネル1CのA−A線破断矢視図、B−B線破断矢視図、C−C線破断矢視図、D−D線破断矢視図、E−E線破断矢視図、F−F線破断矢視図、G−G線破断矢視図およびH−H線破断矢視図である。同図において図1と同一または相当する部分には同一符号を付してその説明は省略する。
第2の実施形態による壁面パネル1Cは、凸部1cおよび凹部1dの側面に傾斜がつけられておらず、同図(c)に点線の円で囲まれた一部拡大断面図に示すように、凸部1cおよび凹部1dの側面が垂直に形成され、段差1gに傾斜がつけられない点だけが、第1の実施形態による壁面パネル1Aと相違する。つまり、段差1gを形成する凸部1cの側面は基準面1fに直交し、段差1gを形成する凹部1dの側面も基準面1fに直交する。第2の実施形態による壁面パネル1Cによれば、第1の実施形態のように、段差1gが逆勾配になって裏込めコンクリート10と係合し合い、裏込めコンクリート10から壁面パネル1Cが離れようとする力に対向するようになるという効果は低下する。しかし、壁面パネル1Cと裏込めコンクリート10との確実な一体化が要求されない擁壁等に壁面パネル1Cが使用される場合には、壁面パネル1Cの製造に使用される型枠治具に傾斜をつける必要がないので、図3および図4に示す治具4a,4bのように2つに分割せずに、1つに簡素化することができる。また、第1の実施形態による壁面パネル1Aによって奏されるその他の効果は同様に奏される。
上記の第2の実施形態では、壁面パネル1Cの背面に凸部1cを2列にまばらに配置した場合について説明したが、図9に示す、第2の実施形態の変形例による壁面パネル1Dのように、壁面パネル1Dの背面に凸部1cを3列にまばらに配置し、各凸部1cの周りの4箇所に凹部1dを形成するように構成してもよい。図9(a)は第2の実施形態の変形例による壁面パネル1Dの背面図、同図(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)および(h)は、壁面パネル1DのA−A線破断矢視図、B−B線破断矢視図、C−C線破断矢視図、D−D線破断矢視図、E−E線破断矢視図、F−F線破断矢視図およびG−G線破断矢視図である。同図において図8と同一または相当する部分には同一符号を付してその説明は省略する。このような第2の実施形態の変形例による壁面パネル1Dによれば、第2の実施形態による壁面パネル1Cと同様な作用効果が奏されるが、凸部1cおよび凹部1dの個数が増えるため、壁面パネル1Dの裏込めコンクリート10に対する一体性が向上する。
図10(a)は本発明の第3の実施形態による壁面パネル1Eの背面図、同図(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)および(i)は、壁面パネル1EのA−A線破断矢視図、B−B線破断矢視図、C−C線破断矢視図、D−D線破断矢視図、E−E線破断矢視図、F−F線破断矢視図、G−G線破断矢視図およびH−H線破断矢視図である。同図において図1と同一または相当する部分には同一符号を付してその説明は省略する。
第1の実施形態による壁面パネル1Aは、壁面パネル1Aの背面における凸部1cの周りの4箇所に、凸部1cと所定長にわたって並んで凹部1dが形成されていた。第3の実施形態による壁面パネル1Eは、パネル背面における凸部1cの周りの2箇所に、凸部1cの長さと同じ長さにわたって並んで凹部1dが形成されている点だけが、第1の実施形態による壁面パネル1Aと相違する。第3の実施形態による壁面パネル1Eによれば、第1の実施形態による壁面パネル1Aと同様な作用効果が奏されるが、裏込めコンクリート10と係合し合う段差1gの長さが長くなるため、裏込めコンクリート10から壁面パネル1Eが離れようとする力に対向する力も増え、壁面パネル1Fの裏込めコンクリート10に対する一体性が向上する。
上記の第3の実施形態では、壁面パネル1Eの背面に凸部1cを2列にまばらに配置した場合について説明したが、図11に示す、第3の実施形態の変形例による壁面パネル1Fのように、壁面パネル1Fの背面に凸部1cを3列にまばらに配置し、各凸部1cの周りの2箇所に凹部1dを形成するように構成してもよい。図11(a)は第3の実施形態の変形例による壁面パネル1Fの背面図、同図(b)、(c)、(d)、(e)、(f)および(g)は、壁面パネル1FのA−A線破断矢視図、B−B線破断矢視図、D−D線破断矢視図、E−E線破断矢視図、F−F線破断矢視図およびG−G線破断矢視図である。同図において図10と同一または相当する部分には同一符号を付してその説明は省略する。このような第3の実施形態の変形例による壁面パネル1Fによれば、第3の実施形態による壁面パネル1Eと同様な作用効果が奏されるが、凸部1cおよび凹部1dの個数、並びに、裏込めコンクリート10と係合し合う段差1gの本数が増えるため、裏込めコンクリート10から壁面パネル1Fが離れようとする力に対向する力も増え、壁面パネル1Fの裏込めコンクリート10に対する一体性が向上する。
なお、図10に示す第3の実施形態による壁面パネル1Eおよび図11に示すその変形例による壁面パネル1Fでは、壁面パネル1Aの積み上げ方向長さに占める段差1gの割合が略50%より大きくなり、凹部1dが大きくなる分、壁面パネル1E,Fの剛性は低下する。しかし、裏込めコンクリート10から壁面パネル1E,Fにかかる側圧が小さく、壁面パネル1E,Fに剛性が要求されない場合には、壁面パネル1E,Fと裏込めコンクリート10との一体化が強化されるため、有効となる。
図12(a)は本発明の第4の実施形態による壁面パネル1Gの背面図、同図(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)および(i)は、壁面パネル1GのA−A線破断矢視図、B−B線破断矢視図、C−C線破断矢視図、D−D線破断矢視図、E−E線破断矢視図、F−F線破断矢視図、G−G線破断矢視図およびH−H線破断矢視図である。同図において図1と同一または相当する部分には同一符号を付してその説明は省略する。
第1の実施形態による壁面パネル1Aは、壁面パネル1Aの背面における凸部1cがパネル上端およびパネル下端から所定間隔dをあけて形成されていた。第4の実施形態による壁面パネル1Gは、パネル背面における凸部1cの上下端がパネル上端およびパネル下端にまで達し、所定間隔dをあけずに形成されている点だけが、第1の実施形態による壁面パネル1Aと相違する。第4の実施形態による壁面パネル1Gによれば、第1の実施形態のように、凸部1cが所定間隔dをあけて形成されることに起因する効果は奏されないが、その他の効果は第1の実施形態による壁面パネル1Aと同様に奏される。また、裏込めコンクリート10と係合し合う凸部1cの長さが長くなるため、裏込めコンクリート10から壁面パネル1Gが離れようとする力に対向する力も増え、壁面パネル1Gの裏込めコンクリート10に対する一体性が向上する。
上記の第4の実施形態では、壁面パネル1Gの背面に凸部1cを2列にまばらに配置した場合について説明したが、図13に示す、第4の実施形態の変形例による壁面パネル1Hように、壁面パネル1Hの背面に凸部1cを3列にまばらに配置し、各凸部1cの周りの4箇所に凹部1dを形成するように構成してもよい。図13(a)は第4の実施形態の変形例による壁面パネル1Hの背面図、同図(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)および(h)は、壁面パネル1HのA−A線破断矢視図、B−B線破断矢視図、C−C線破断矢視図、D−D線破断矢視図、E−E線破断矢視図、F−F線破断矢視図およびG−G線破断矢視図である。同図において図12と同一または相当する部分には同一符号を付してその説明は省略する。このような第4の実施形態の変形例による壁面パネル1Hによれば、第4の実施形態による壁面パネル1Gと同様な作用効果が奏されるが、凸部1cおよび凹部1dの個数、並びに、裏込めコンクリート10と係合し合う段差1gの本数が増えるため、裏込めコンクリート10から壁面パネル1Hが離れようとする力に対向する力も増え、壁面パネル1Hの裏込めコンクリート10に対する一体性が向上する。
図14(a)は本発明の第5の実施形態による壁面パネル1Kの背面図、同図(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)および(i)は、壁面パネル1KのA−A線破断矢視図、B−B線破断矢視図、C−C線破断矢視図、D−D線破断矢視図、E−E線破断矢視図、F−F線破断矢視図、G−G線破断矢視図およびH−H線破断矢視図である。同図において図1と同一または相当する部分には同一符号を付してその説明は省略する。
第5の実施形態による壁面パネル1Kは、段差1gを形成する凸部1cおよび凹部1dの各側面に、第1の実施形態による壁面パネル1Aと逆向きの傾斜がつけられている。つまり、同図(c)に点線の円で囲まれた一部拡大断面図に示すように、段差1gを形成する凸部1cの側面に、凸部1cの突出端に形成される平面の面積を減らす向きの傾斜がついている。また、段差1gを形成する凹部1dの側面には、凹部1dの底に形成される平面の面積を減らす向きの傾斜がついている。第5の実施形態による壁面パネル1Kによれば、第1の実施形態のように、段差1gが逆勾配になって裏込めコンクリート10と係合し合い、裏込めコンクリート10から壁面パネル1Kが離れようとする力に対向するようになるという効果は低下する。しかし、第2の実施形態による壁面パネル1Cと同様に、壁面パネル1Kと裏込めコンクリート10との確実な一体化が要求されない擁壁等に壁面パネル1Kが使用される場合には、壁面パネル1Kの製造に使用される型枠治具に傾斜をつける必要がないので、図3および図4に示す治具4a,4bのように2つに分割せずに、1つに簡素化することができる。また、第1の実施形態による壁面パネル1Aによって奏されるその他の効果は同様に奏される。
上記の第5の実施形態では、壁面パネル1Kの背面に凸部1cを2列にまばらに配置した場合について説明したが、図15に示す、第5の実施形態の変形例による壁面パネル1Lのように、壁面パネル1Lの背面に凸部1cを3列にまばらに配置し、各凸部1cの周りの4箇所または3箇所に凹部1dを形成するように構成してもよい。図15(a)は第5の実施形態の変形例による壁面パネル1Lの背面図、同図(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)および(i)は、壁面パネル1LのA−A線破断矢視図、B−B線破断矢視図、C−C線破断矢視図、D−D線破断矢視図、E−E線破断矢視図、F−F線破断矢視図、G−G線破断矢視図およびH−H線破断矢視図である。同図において図14と同一または相当する部分には同一符号を付してその説明は省略する。
このような第5の実施形態の変形例による壁面パネル1Lによれば、第5の実施形態による壁面パネル1Kと同様な作用効果が奏されるが、凸部1cの個数が増えるため、壁面パネル1Lの裏込めコンクリート10に対する一体性が向上する。また、3列の中央に位置する凸部1cの周りにおける4箇所の凹部1dは、同図に示すように、隣接する各凸部1cとの間で、それぞれ、2箇所の凹部1dを共有するように構成することができる。このような構成によれば、上記効果を奏しながら、壁面パネル1Lの幅方向の寸法を抑制することができる。
また、上記の第1,第3および第4の各実施形態による壁面パネル1A,1Eおよび1G、並びに、その変形例による壁面パネル1B,1Fおよび1Hは、図16(a)に示す断面図のように、凸部1cおよび凹部1dの各側面に傾斜がつけられて段差1gが形成された。また、上記の第2の実施形態による壁面パネル1Cおよびその変形例による壁面パネル1Dは、同図(b)に示す断面図のように、凸部1cおよび凹部1dの各側面に傾斜がつけられず、各側面は垂直に形成された。
しかし、第1,第3および第4の各実施形態による壁面パネル1A,1Eおよび1G、並びに、その変形例による壁面パネル1B,1Fおよび1Hにおいては、同図(c)に示す壁面パネル1Iのように、凹部1dの側面にだけ、凹部1dの底に形成される平面の面積を増やす向きに傾斜をつけるように構成してもよい。本構成によっても、凹部1dの側面につけられる傾斜が逆勾配になって硬化した裏込めコンクリート10と係合し合い、壁面パネル1Iの裏込めコンクリート10に対する一体性が一層向上する。また、同図(d)に示す壁面パネル1Jのように、凸部1cの側面にだけ、凸部1cの突出端に形成される平面の面積を増やす向きに傾斜をつけるように構成してもよい。本構成によっても、凸部1cの側面につけられる傾斜が逆勾配になって硬化した裏込めコンクリート10と係合し合い、壁面パネル1Jの裏込めコンクリート10に対する一体性が一層向上する。
また、上記の第5の実施形態による壁面パネル1K、並びに、その変形例による壁面パネル1Lは、図17(e)に示す断面図のように、凸部1cおよび凹部1dの各側面に、図16(a)に示す傾斜と逆の傾斜がつけられて、段差1gが形成された。しかし、第5の実施形態による壁面パネル1K、並びに、その変形例による壁面パネル1Lにおいては、同図(f)に示す壁面パネル1Mのように、凹部1dの側面にだけ、凹部1dの底に形成される平面の面積を減らす向きに傾斜をつけるように構成してもよい。また、同図(g)に示す壁面パネル1Nのように、凸部1cの側面にだけ、凸部1cの突出端に形成される平面の面積を減らす向きに傾斜をつけるように構成してもよい。
これらの構成によっても、壁面パネル1M、1Nと裏込めコンクリート10との確実な一体化が要求されない擁壁等に壁面パネル1M、1Nが使用される場合には、壁面パネル1M、1Nの製造に使用される型枠治具に傾斜をつける必要がないので、図3および図4に示す治具4a,4bのように2つに分割せずに、1つに簡素化することができる。また、段差1gが逆勾配になって裏込めコンクリート10と係合し合い、裏込めコンクリート10から壁面パネル1M、1Nが離れようとする力に対向するようになるという効果は低下するが、第1の実施形態による壁面パネル1Aによって奏されるその他の効果は同様に奏される。
また、上記の各実施形態および各変形例では、凸部1cを壁面パネル1A〜1Nの積み上げ方向である上下方向に形成した場合について説明した。しかし、凸部1cを壁面パネル1A〜1Nの積み上げ方向と直交する左右方向に形成し、その凸部1cの周囲に凹部1dを形成するように構成してもよい。
凸部1cを壁面パネル1A〜1Nの積み上げ方向と直交する左右方向に形成した場合においても、左右方向に延在する段差1gは、壁面パネル1A〜1Nの積み上げ方向に直交する長さに占める割合が略50%より大きくなると、段差1gと裏込めコンクリート10との接触面積が大きくなって相互の付着力が増すことで、壁面パネル1A〜1Nと裏込めコンクリート10との一体化が強化されるが、凹部1dが大きくなる分、壁面パネル1A〜1Nの剛性が低下する。一方、段差1gが、壁面パネル1A〜1Nの積み上げ方向に直交する長さに占める割合が略50%より小さくなると、段差1gと裏込めコンクリート10との接触面積が小さくなって相互の付着力が減ることで、壁面パネル1A〜1Nと裏込めコンクリート10との一体化が弱まる。また、これと共に、壁面パネル1A〜1Nと裏込めコンクリート10との境界面を介して相互が交錯する量が減ることで、この境界面を裏込めコンクリート10側に突出する壁面パネル1A〜1Nの凸部1c、および、この境界面を壁面パネル1A〜1N側に突出して凹部1dに入り込む裏込めコンクリート10が、この境界面に沿った方向にかかる剪断力に対向する耐力が弱まる。この剪断力は、壁面パネル1A〜1Nと裏込めコンクリート10とがそれぞれ異なる向きにずれることで生じる。しかし、凸部1cを壁面パネル1A〜1Nの積み上げ方向と直交する左右方向に形成した場合においても、段差1gの、壁面パネル1A〜1Nの積み上げ方向に直交する長さに占める割合を略50%(60%〜40%)に設定することで、壁面パネル1A〜1Nと裏込めコンクリート10との一体化を図りながら壁面パネル1A〜1Nの剛性を確保できると共に、壁面パネル1A〜1Nと裏込めコンクリート10との境界面に沿った方向にかかる剪断力に対向する耐力を確保できる。