以下、添付の図面を参照しながら、本発明による記録装置および記録方法の一例を詳細に説明するものとする。なお、本明細書において、「記録」とは、文字、図形など有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わない。また、人間が視覚で近くしうるように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターンなどを形成する、あるいは、媒体の加工を行う場合も含むものとする。
「記録媒体」とは、一般的な記録装置などで用いられる紙に限定されるものではなく、布、プラスチックフィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革などインクを受容可能な材料を含むものとする。「インク」とは、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターンなどの形成または記録媒体の加工、あるいは、インクの処理(例えば、記録媒体に付与されるインク中の色材の凝固または不溶化)に供され得る液体を含むものとする。
「ノズル」とは、特に説明のない限り、インクを吐出する吐出口、吐出口に連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括して称するものとする。「基板」とは、シリコン半導体からなる単なる基体を表すのではなく、各素子や配線などが設けられた構成を表すものである。また、基板上とは、単に基板の上を表すだけでなく、基板の表面や表面近傍の基板内部側をも表すものである。
図1は、本発明による記録装置を示す概略構成斜視図である。図2は、図1のIIa−IIa線断面図であり、(a)は記録ヘッドによる記録処理時の図であり、(b)は記録ヘッドの回復処理時の図である。図3(a)は、記録ヘッドに対するワイピングを説明する説明図であり、図3(b)は、図3(a)のIIIb−IIIb線断面図である。
この図1に示す記録装置10は、ラインタイプの記録装置であって、ロール状に巻かれた連続紙などの記録媒体100を、所定の方向(搬送方向)に搬送する搬送部12を備えている。なお、搬送部12において搬送される記録媒体100については、ロール状に巻かれた連続紙に限定されるものではなく、カットシートであってもよい。また、記録装置10は、搬送される記録媒体100に対してインクを吐出して記録を行う記録部14と、記録部14の記録ヘッド18(後述する。)に対して回復処理を行う回復ユニット16とを備えている。なお、記録装置10はさらに、記録部14の搬送方向(往方向)下流側には、記録された記録媒体100を所定の長さでカットするカットユニット(不図示)、カットユニットにおいてカットされた記録媒体100を受ける排紙トレイ(不図示)などを備えている。こうした記録装置10の全体の動作については、記録装置10と接続されるコントローラ36(図4参照)により制御されている。
より詳細には、搬送部12(搬送手段)は、記録媒体100を搬送方向において往復移動(往方向および復方向への搬送)可能な複数の搬送ローラ対12aを有している。搬送ローラ対12aは、モーター(不図示)の駆動により回転する搬送ローラ12a−1と、付勢されて搬送ローラ12a−1に当接し、搬送ローラ12a−1に従動して回転する従動ローラ12a−2とを有して構成されている。
また、記録部14は、それぞれ異なる色彩、例えば、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、K(ブラック)のインクを吐出する4つの記録ヘッド18を備えている。なお、記録ヘッド18については、1つの色彩のインクに対して1つの記録ヘッドが設けられるようにしてもよいし、1つの色彩のインクに対して複数の記録ヘッドが設けられるようにしてもよい。また、記録ヘッド18から吐出するインクの種類および数については、上記した4つに限定されるものではない。
各記録ヘッド18は、インクが貯留されたインクタンク(不図示)にインクチューブ(不図示)を介して接続されており、このインクタンクからインクチューブを介してインクが供給される。4つの記録ヘッド18は、搬送部12上において昇降可能に設けられたホルダー20に一体的に保持されており、ホルダー20を介して一体的に昇降して、搬送部12において搬送される記録媒体100と記録ヘッド18との間の距離を変更可能な構成となっている。
記録ヘッド18は、インクジェット方式によりインクを吐出する構成となっており、例えば、発熱素子を用いた方式、ピエゾ素子を用いた方式、静電素子を用いた方式、MEMS素子を用いた方式など、公知の技術を用いることができる。また、記録ヘッド18は、搬送部12において搬送される記録媒体100と対向する面(ノズル面)18aにおいて、インクを吐出するノズルが搬送方向と交差(本実施形態では直交)する方向(所定方向)に並設されてノズル列24を形成している。そして、ノズル面18aにおいては、図3(b)のように、ノズル列24が、搬送方向に沿って複数(本実施形態では4つ)並設されている。なお、以下の説明において、搬送方向と直交する方向を、シートの幅方向、あるいは、単に幅方向と称することとする。
ノズル列24の幅方向の長さは、記録装置10において記録可能な記録媒体100の最大幅をカバーすることが可能な長さとする。また、記録ヘッド18は、図3(a)のように、ベース基板21上に、ノズルチップ22が配置されている。このノズルチップ22は、インクを吐出する複数のノズル列24が形成されたノズル面18aを構成するとともに、各ノズルに対応して形成されたエネルギー素子(発熱素子など)が埋め込まれているノズル基板を備えている。
回復ユニット16は、記録部14の搬送方向(往方向)下流側に配設されており、搬送方向に移動可能な移動部16−1と、移動部16−1において、幅方向に移動可能に設けられたワイパー16−2とを備えている。移動部16−1は、搬送部12上に配設された一対のガイドレール26上に摺動可能に配置され、モーター(不図示)の駆動によって、搬送方向を往方向および復方向に移動可能となっている。また、ワイパー16−2は、搬送方向に沿って複数(本実施形態では4つ)並設されている。そして、各ワイパー16−2は、回復ユニット16が回復位置に位置し、かつ、記録ヘッド18が所定位置まで下降したときに、ノズル面18aにおいてノズル列24を含むその近傍をワイピング可能となるように、移動部16−1上に設けられている。回復位置とは、ホルダー20を介して上昇した記録ヘッド18の真下であって、ワイピングの際に回復ユニットが位置する位置である。
ワイパー16−2は、ノズル列24およびその近傍に付着したインクや塵埃を払拭するためのブレード16−2aと、ブレード16−2aを支持するホルダー16−2bとを備えている。ホルダー16−2bは、ベース部材30に固定的に配置されており、ベース部材30は、移動部16−1において幅方向に延設されたシャフト34に摺動可能に設けられている。また、ベース部材30は、モーター(不図示)の駆動により回転駆動する駆動ベルト32に接続されている。これにより、ベース部材30は、シャフト34を介して移動部16−1において幅方向に移動可能に構成されている。従って、ベース部材30に固定的に設けられたワイパー16−2は、このベース部材30の移動に伴って、移動部16−1において幅方向に移動可能な構成となっている。
そして、記録装置10では、所定のタイミングで回復処理を行うものであり、この回復処理の際には、まず、ホルダー20を介して記録ヘッド18を退避位置まで上昇する。退避位置とは、搬送方向に移動する回復ユニット16に接触しない位置である。次に、記録媒体100への記録ヘッド18による記録を妨害しない待機位置に位置する回復ユニット16について、図2(b)のように、移動部16−1を介して、各記録ヘッド18に対してワイパー16−2によりワイピング可能な回復位置まで移動する。その後、記録ヘッド18を所定位置まで下降した後に、ベース部材30を介してワイパー16−2を幅方向で移動して、ブレード16−2aによりノズル面18aを払拭するワイピングが行われる。
コントローラ36は、図4のように、記録装置10の動作の制御処理やデータ処理などを実行する中央処理装置(CPU)38を備えている。CPU38には、全体の動作や種々の処理を実行するための所定のプログラムを格納したROM40と、CPU38によるプログラム実行時に必要な各種レジスタなどが設定されたワーキングエリアとしてのRAM42とが接続されている。なお、記録装置10では、例えば、CPU38、ROM40およびRAM42によりコントローラ36を構成している。
記録装置10では、CPU38が搬送部12に接続され、CPU38によって、モーター(不図示)を介して搬送ローラ12a−1を駆動し、記録媒体100を搬送方向で搬送するように制御される。また、CPU38が回復ユニット16に接続され、CPU38によって、モーター(不図示)を介して移動部16−1およびベース部材30を移動して、記録ヘッド18に対して回復動作(ワイピング)を行うよう制御される。さらに、CPU38には、記録ヘッド18が接続され、CPU38によって、記録ヘッド18からのインク滴の吐出動作を制御する。なお、CPU38には、図示しない昇降部が接続され、CPU38によって、回復ユニット16による回復処理の際にはホルダー20を介して記録ヘッド18を上昇し、記録部14による記録の際にはホルダー20を介して記録ヘッド18を下降する。
また、記録装置10は、記録画像を表す画像データに対して、所定の画像処理を行う画像処理部44を備えている。なお、画像データは、例えば、ホストコンピュータ(不図示)からコントローラ36を介して画像処理部44に入力される。また、画像処理部44によって処理されたデータを2値データに変換する2値化処理部46を備えている。さらに、2値データをマスクパターンを用いて間引いて往方向または復方向の1回の移動に対応した分割データを生成する分割データ生成部48を備えている。
より詳細には、画像処理部44は、例えば、入力されたRGB各色成分の記録画像を表す画像データによって再現される色域を、記録装置10によって再現される色域内に写像するためのデータ変換を実行する。また、変換されたデータに基づき、各データが示す色を再現するインクの組み合わせに対応した色分解データであるCMYK各成分濃度データを求める処理を行い、各色に分解されている分解データのそれぞれに対して階調変換を行う。また、2値化処理部46は、画像処理部44によって変換された多値の濃度画像データに対してハーフトーン処理などを行った後に、2値データ(ビットマップデータ)に変換する。また、分割データ生成部48は、搬送方向の往方向または復方向の1回の動作(パス)において記録するための分割データを生成する。分割データは、例えば、単位領域を記録するためのパス数に基づいて均等に間引かれて生成される。なお、本実施形態では、ユーザが、例えば、操作子(不図示)などを介してパス数を設定するものとする。
コントローラ36は、分割データ生成部48で生成された分割データに基づいて、搬送部12および記録ヘッド18を駆動して記録を行うこととなる。即ち、分割データに基づいて、搬送方向の往方向(第1方向)および復方向(第2方向)に記録媒体100を移動させながら、記録ヘッド18からインクを吐出して記録を行う、所謂、マルチパス記録を行う。
ここで、図5乃至図8を参照しながら、コントローラ36により実行される具体的な記録動作について説明する。図5は、単位領域を記録するパス数が奇数のときの比較例による記録動作を説明する説明図である。図6は、単位領域を記録するパス数が偶数のときの比較例による記録動作を説明する説明図である。図7は、単位領域を記録するパス数が奇数のときの実施例による記録動作を説明する説明図である。図8は、単位領域を記録するパス数が偶数のときの実施例による記録動作を説明する説明図である。各図において、矢印は、記録媒体100に対する記録ヘッド18の相対的な移動を表し、その向きは移動方向を表し、その長さは移動量を表している。
〈記録動作の比較例〉
例えば、9パスで単位領域を記録する、つまり、記録しながら移動する記録搬送を、搬送方向の往方向および復方向に交互に9回行うことで、単位領域に対して分割データに基づく記録を行う場合には、図5のようにして記録が行われる。
即ち、1回目の記録搬送(1パス目)では、記録媒体100における記録開始位置から、記録媒体100を上流側から下流側(往方向)に移動しながら記録する。なお、図5における矢印の向きは、記録媒体100に対する記録ヘッド18の相対的な移動方向を表している。このため、固定された記録ヘッド18に対して、記録媒体100を往方向で移動すると、矢印は、図中の上方から下方に向かう。また、記録媒体100を復方向(下流側から上流側)で移動すると、矢印は、図中の下方から上方に向かう。こうした矢印の向きは、図6〜8においても同様である。
その後、2回目の記録搬送(2パス目)では、1回目の記録搬送が終了した位置から記録媒体100を復方向に移動しながら記録する。以降の記録動作では、直前の記録搬送における記録の終了位置を記録の開始位置として、記録媒体100を当該直前の記録搬送における搬送方向と逆方向に移動しながら記録する。
こうした記録処理では、隣接する単位領域の境界部分では、連続する2つの記録搬送について、記録の終了位置と記録の開始位置とが一致している。即ち、偶数回の記録搬送(第2記録搬送)の記録の開始位置が、直前の奇数回(第1記録搬送)の記録搬送の記録の終了位置と一致するとともに、偶数回の記録搬送の記録の終了位置が、直後の奇数回の記録搬送の記録の開始位置と一致している。そして、偶数回の記録搬送では、直前の奇数回の記録搬送により記録した領域に折り返すように記録を行っている。
この場合、3、4、12、13回目の記録搬送における記録について、搬送方向において記録位置にズレが生じていると、単位領域Bの上流側の端部(単位領域Cとの境界部分)にバンディングが生じる。3、4回目の記録搬送における記録と、12、13回目の記録搬送における記録とが、重複するときにはバンディングが他の記録よりも濃く表れ、離間するときにはバンディングが他の記録よりも薄く表れる。
また、例えば、8パスで単位領域を記録する場合には、図6のようにして記録が行われる。1〜7回目の記録搬送は、9パスで単位領域を記録する場合と同様の記録動作となる。8回目の記録搬送では、7回目の記録搬送が終了した位置から記録媒体100を復方向に移動しながら記録する。9回目の記録搬送では、8回目の記録搬送が終了した位置から記録媒体100を往方向に搬送するが、単位領域1つ分だけ記録することなく移動した後に、分割データに基づいて記録しながら移動する。以降の記録動作では、偶数回の記録搬送では、直前の奇数回の記録搬送における記録の終了位置を記録の開始位置として、記録媒体100を復方向に移動しながら記録する。また、奇数回の記録搬送では、直前の偶数回の記録搬送における記録の終了位置から単位領域1つ分だけずれた位置を記録の開始位置として、記録媒体100を往方向に移動しながら記録する。
こうした記録処理では、隣接する単位領域の境界部分において、連続する2つの記録搬送では記録の終了位置と記録の開始位置とが一致している箇所が存在する。また、単位領域の記録が終了した直後の記録搬送では、単位領域1つ分だけ記録することなく移動した後に、記録しながら移動するようにしている。即ち、偶数回の記録搬送における記録の開始位置と、直前の奇数回の記録搬送における記録の終了位置とが一致している。また、8回目以降の偶数回の記録搬送における記録の終了位置と、直後の奇数回の記録搬送における記録の開始位置とが、単位領域1つ分だけずれている。この場合、3、4、11回目の記録搬送による記録について、搬送方向において記録位置にズレが生じていると、単位領域Bの上流側の端部にバンディングが生じることとなる。
〈記録動作の実施例〉
そこで、本願発明では、隣接する単位領域の境界において、所定の記録搬送による記録の終了位置と、その直後の記録搬送による記録の開始位置とを異ならせるようにした。これにより、隣接する単位領域の境界部分に、バンディングが発生したとしても、当該バンディングを人が視認し難くなる。
具体的には、例えば、9パスで単位領域を記録する場合には、図7のようにして記録を行う。この場合、1〜9回目の記録搬送で用いられる分割データは、回数が増加する毎に単位領域1つ分だけ搬送方向に長くする。1、3、5、7、9回目の記録搬送では、記録媒体100を往方向に、分割データに基づいて記録しながら移動した後に、単位領域1つ分だけ記録することなく移動する。なお、1回目を除く3、5、7、9回目の記録搬送は、直前の記録搬送が終了した位置から記録搬送を開始することとなる。2、4、6、8回目の記録搬送では、記録媒体100を復方向に、分割データに基づいて記録しながら移動する。なお、2、4、6、8回目の記録搬送は、直前の記録搬送が終了した位置から開始することとなる。
これにより、1、3、5、7回目の記録搬送における記録の終了位置と、2、4、6、8回目の記録搬送における記録の開始位置とが、単位領域1つ分だけずれて異なる位置となる。3、5、7、9回目の記録搬送における記録の開始位置と、2、4、6、8回目の記録搬送における記録の終了位置とは一致しているが、一致している位置は記録媒体100における記録開始位置であって、隣接する単位領域の境界に位置していない。
10回目以降の記録搬送で用いられる分割データは、単位領域9つ分の記録を行うデータとなる。そして、10回目以降の偶数回の記録搬送では、直前の奇数回の記録搬送が終了した位置から記録媒体100を復方向に、分割データに基づいて記録しながら移動する。また、奇数回の記録搬送では、直前の偶数回の記録搬送が終了した位置から記録媒体100を往方向に、単位領域1つ分だけ記録することなく移動した後に、分割データに基づいて記録しながら移動する。その後、さらに記録媒体100を往方向に単位領域1つ分だけ記録することなく移動する。10回目以降の記録搬送では、こうした偶数回の記録搬送と奇数回の記録搬送とを交互に繰り返し行う。
また、記録媒体100の記録終了位置を含むその近傍を記録する記録搬送では、用いられる分割データは、搬送方向における情報量が所定量に満たなくなる。なお、所定量については後述する。分割データに基づく情報量が所定量に満たない場合、奇数回の記録搬送では、直前の偶数回の記録搬送が終了した位置から往方向に、単位領域1つ分だけ記録することなく移動する。その後、往方向に移動しながら分割データに基づいて記録する(記録搬送番号(k−7)、(k−5)、(k−3)、(k−1)参照)。また、偶数回の記録搬送では、直前の奇数回の記録搬送が終了した位置から復方向に移動しながら分割データに基づいて記録する(記録搬送番号(k−8)、(k−6)、(k−4)、(k−2)、k参照)。
この場合、図5に示す比較例と比較して、隣接する単位領域の境界部分に発生するバンディングが視認し難くなる。例えば、単位領域B、Cの境界部分にバンディングが発生するときには、図7に示す実施例では、2回目の記録搬送における記録の開始位置と、11回目の記録搬送における記録の開始位置との間で記録位置のズレが生じることとなる。このように、図7に示す実施例では、図5に示す比較例と比べて、バンディングの発生に関与する記録搬送の回数が少ない。
ところで、バンディングの視認され易さは、バンディングの発生に関与する記録搬送の回数と、バンディングの発生位置を跨ぐ記録搬送の回数との比に大きく依存する。即ち、バンディングの発生に関与する記録搬送の回数が少ないほど、また、バンディングの発生位置を跨ぐ記録搬送の回数が多いほど、バンディングは視認され難くなる。これは、最終的にその領域に記録されるインクの記録デューティに対して、バンディングの発生に関与する記録デューティが相対的に小さくなることによる。
ここで、比較例では、図5のように、各単位領域の境界では、バンディングの発生に関与する記録搬送の回数は「4」、バンディングの発生位置を跨ぐ記録搬送の回数は「7」となる。具体的には、単位領域B、Cの境界では、3、4、12、13回目の記録搬送による記録がバンディングの発生に関与する。また、5〜11回目の記録搬送による記録がバンディングの発生位置を跨ぐ。これに対して、実施例では、図7のように、各単位領域の境界では、バンディングの発生に関与する記録搬送の回数は「2」、バンディングの発生位置を跨ぐ記録搬送の回数は「8」となる。具体的には、単位領域B、Cの境界では、2、11回目の記録搬送による記録がバンディングの発生に関与する。また、3〜10回目の記録搬送による記録がバンディングの発生位置を跨ぐ。このように、実施例による記録動作では、比較例による記録動作と比べてバンディングが視認され難くなる。
また、8パスで単位領域を記録する場合には、図8のようにして記録を行う。この場合、1〜8回目の記録搬送で用いられる分割データは、回数が増加する毎に単位領域1つ分だけ搬送方向に長くする。1、3、5、7回目の記録搬送では、記録媒体100を往方向に、分割データに基づいて記録しながら移動した後に、単位領域1つ分だけ記録することなく移動する。なお、1回目を除く3、5、7回目の記録搬送は、直前の記録搬送が終了した位置から記録搬送を開始することとなる。また、2、4、6、8回目の記録搬送では、記録媒体100を復方向に、分割データに基づいて記録しながら移動する。なお、2、4、6、8回目の記録搬送は、直前の記録搬送が終了した位置から開始することとなる。
これにより、1、3、5、7回目の記録搬送における記録の終了位置と、2、4、6、8回目の記録搬送における記録の開始位置とが、単位領域1つ分だけずれて異なる位置となる。3、5、7回目の記録搬送における記録の開始位置と、2、4、6回目の記録搬送における記録の終了位置とは一致しているが、一致している位置は記録媒体100における記録開始位置であって、隣接する単位領域の境界に位置していない。
9回目以降の記録搬送で用いられる分割データは、単位領域8つ分の記録を行うデータとなる。そして、9回目以降の奇数回の記録搬送では、直前の偶数回の記録搬送が終了した位置から記録媒体100を往方向に、単位領域1つ分だけ記録することなく移動した後に、分割データに基づいて記録しながら移動する。その後、さらに記録媒体100を往方向に単位領域1つ分だけ記録することなく移動する。また、偶数回の記録搬送では、直前の奇数回の記録搬送が終了した位置から記録媒体100を復方向に、分割データに基づいて記録しながら移動する。9回目以降の記録搬送では、こうした奇数回の記録搬送と偶数回の記録搬送とを交互に繰り返し行う。
また、記録媒体100の記録終了位置を含むその近傍を記録する記録搬送では、用いられる分割データは、搬送方向における情報量が所定量に満たなくなる。なお、当該記録搬送は、上記した9パスで単位領域を記録する場合と同じためその詳細な説明は省略する。
この場合、図6に示す比較例と比べて、隣接する単位領域の境界部分に発生するバンディングが視認し難くなる。例えば、比較例では、図6のように、各単位領域の境界では、バンディングの発生に関与する記録搬送の回数は「4」、バンディングの発生位置を跨ぐ記録搬送の回数は「6」となる。具体的には、単位領域B、Cの境界では、3、4、11、12回目の記録搬送による記録がバンディングの発生に関与する。また、5〜10回目の記録搬送による記録がバンディングの発生位置を跨ぐ。これに対して、実施例では、図8のように、各単位領域の境界では、バンディングの発生に関与する記録搬送の回数は「2」、バンディングの発生位置を跨ぐ記録搬送の回数は「7」となる。具体的には、単位領域B、Cの境界では、2、10回目の記録搬送による記録がバンディングの発生に関与する。また、3〜9回目の記録搬送による記録がバンディングの発生位置を跨ぐ。このように、単位領域を偶数パスで記録する場合でも、実施例による記録動作では、比較例による記録動作と比べてバンディングが視認され難くなる。
このようにして、実施例による記録動作では、隣接する単位領域の境界に、所定の記録搬送による記録の終了位置と、その直後の記録搬送による記録の開始位置とを異ならせて、マルチパス記録により記録媒体に対して記録を行うようにしている。即ち、本実施形態では、コントローラ36などが、記録ヘッド18による記録媒体100への記録を制御する記録制御手段として機能している。なお、記録制御手段には、分割データ生成部48などを含むようにしてもよい。
以上の構成において、ホストコンピュータから画像データが入力されると、画像処理部44および2値化処理部46を介して、分割データ生成部48において、画像データに基づく分割データを生成する。分割データ生成部48で生成される分割データは、記録搬送番号と関連付けられ記憶される。
記録媒体100の記録開始位置を含む領域を記録する分割データ(単位領域Aへの記録を含む分割データである。)は、記録搬送の回数が1増加する毎に記録領域が単位領域1つ分増加するように生成される。また、記録媒体100の記録終了位置を含む領域を記録する分割データは、記録搬送の回数が1減少する毎に、記録領域が単位領域1つ分減少するように生成される。さらに、それ以外の分割データは、記録領域が単位領域p個分(「p」は単位領域を記録するパス数)となるように生成される。
分割データが生成された後に、ユーザによって操作子などを介して記録開始の指示が入力されると、記録処理が開始される。図9は、記録処理の詳細な処理内容を示すフローチャートである。図9のフローチャートで示される一連の処理は、CPU38がROM40に記憶されているプログラムコードをRAM42に展開して実行される。あるいは、図9におけるステップの一部または全部の機能をASICや電気回路などのハードウェアで実現してもよい。
記録処理が開始されると、まず、記録搬送の回数を表す記録搬送番号を表す係数「n」を初期化する(S902)。即ち、S902では「n=1」に設定する。次に、nが奇数か否かを判断する(S904)。S904において、nが奇数であると判断されると、n>mか否かを判断する(S906)。即ち、S906では、「n」が、単位領域を記録するパス数を示す値「m」よりも大きいか否かを判断する。なお、単位領域を記録するパス数は、予め設定されている。
S906において、n>mでないと判断されると、直前の記録搬送が終了した位置から、記録搬送番号「n」に関連付けられた分割データに基づいて、記録媒体100を往方向に搬送しながら記録を行う(S908)。なお、S908では、n=1のときには、記録媒体100における記録開始位置から、分割データに基づく記録を行うこととなる。次に、記録媒体100を往方向に、単位領域1つ分だけ記録することなく移動する(S910)。即ち、S906においてn>mでないと判断されると、記録媒体100を往方向に搬送して、記録を伴う移動を行った後に、記録を伴わない移動が行われる。
その後、nをインクリメントして(S912)、記録搬送番号「n」に関連付けられた分割データがあるか否かを判断する(S914)。S914において、分割データがないと判断されると、この記録処理を終了する。また、S914において、分割データがあると判断されると、S904に戻る。
S904において、nが奇数でない、つまり、偶数であると判断されると、直前の記録搬送が終了した位置から、記録搬送番号「n」に関連付けられた分割データに基づいて、記録媒体100を復方向に搬送しながら記録を行う(S916)。その後、S912に進み、以降の処理を実行する。
S906において、n>mであると判断されると、分割データに基づく記録媒体100の情報量が所定量未満か否かを判断する(S918)。なお、所定量については、単位領域1つ分の搬送方向における搬送量と、単位領域を記録するためのパス数とを積算した値とする。例えば、単位領域1つ分の搬送方向における搬送量が4ドット、単位領域を9パスで記録する場合、所定量は36ドットとなる。従って、この場合には、S918では、分割データの搬送方向における情報量が36ドット未満であるか否かを判断することとなる。
S918において、所定量未満でない、つまり、情報量が所定量以上であると判断されると、直前の記録搬送が終了した位置から、記録媒体100を往方向に単位領域1つ分だけ記録することなく移動する(S920)。次に、記録搬送番号「n」に関連付けられた分割データに基づいて、記録媒体100を往方向に移動しながら記録を行う(S922)。その後、記録媒体100を往方向に単位領域1つ分だけ記録することなく移動し(S924)、S912に進む。即ち、S918において所定量未満でないと判断されると、記録媒体100を往方向に搬送して、記録を伴わない移動を行った後に、記録を伴う移動を行い、その後さらに記録を伴わない移動が行われる。
また、S918において、所定量未満であると判断されると、直前の記録搬送が終了した位置から、記録媒体100を往方向に単位領域1つ分だけ記録することなく移動する(S926)。その後、記録搬送番号「n」に関連付けられた分割データに基づいて、記録媒体100を往方向に搬送しながら記録を行い(S928)、S912に進む。即ち、S918において所定量未満であると判断されると、記録媒体100を往方向に搬送して、記録を伴わない移動を行った後に、記録を伴う移動が行われる。
以上において説明したように、記録装置10は、記録装置10では、記録処理において、記録搬送における記録の終了後、あるいは、記録の開始前に単位領域1つ分だけ記録することなく移動するようにした。これにより、隣接する単位領域の境界において、所定の記録搬送による記録の終了位置と、その直後の記録搬送による記録の開始位置とを異ならせることができる。これにより、各単位領域の境界に記録されるインクの記録デューティに対する、当該境界においてバンディングの発生に関与する記録デューティが相対的に小さくなる。このため、記録装置10では、隣接する単位領域の境界部分にバンディングが発生したとしても、当該バンディングが視認し難くなる。
(他の実施形態)
なお、上記した実施の形態は、以下の(1)乃至(5)に示すように変形してもよい。
(1)上記実施形態では特に記載しなかったが、記録装置10は、実施例による記録動作と、比較例による記録動作とを選択的に実行可能な構成としてもよい。
例えば、記録装置10は4色のインクを用いて記録する構成であるが、単位領域毎にインクの記録順が異なる。一般的に、単位領域を記録するパス数が少ない場合、この記録順の違いが記録結果において色味の違いとして現れ易くなり、記録品位の低下の要因となる。これに対して、単位領域を記録するパス数が多い場合、記録順の違いが記録結果において色味の違いとして現れ難い。このため、単位領域を記録するパス数が少ない場合には、色味の違いが顕著になり、バンディングが生じたとしても当該バンディングを視認し難くなる(当該バンディングが目立たなくなる。)。
従って、単位領域を記録するパス数に応じて、実施例による記録動作を実行するか、あるいは、比較例による記録動作を実行するかを決定するようにしてもよい。即ち、この場合、まず、単位領域を記録するパス数が、所定のパス数以下か否かを判断する。そして、所定のパス数より多いと判断されると、単位領域の境界において、連続する記録搬送の一方の記録搬送における記録の終了位置と他方の記録搬送における記録の開始位置とを異ならせるようにした実施例による記録動作(第1記録処理)を実行する。また、所定のパス数以下であると判断されると、単位領域の境界において、連続する記録搬送の一方の記録搬送における記録の終了位置と他方の記録搬送における記録の開始位置とを一致させるようにした比較例による記録動作(第2記録処理)を実行する。
また、例えば、記録装置10は種々の記録媒体に対して記録することが可能である。一般に、インクを受容する、あるいは、インクと反応することで、発色を向上させるコート層を備えた記録媒体などでは、インクの記録順によって色味の違いが現れ易くなる。このため、記録順の違いによって色味の違いが顕著になる記録媒体に対して記録する場合には、色味の違いが顕著になることでバンディングが視認され難くなる(バンディングが目立たなくなる。)。一方、他の記録媒体に対して記録する場合には、色味の違いが比較的目立たなくなるため、バンディングが生じると当該バンディングが視認され易くなる。
従って、記録媒体の種類に応じて、実施例による記録動作を実行するか、あるいは、比較例による記録動作を実行するかを決定するようにしてもよい。即ち、記録する記録媒体が、記録順の違いによって色味の違いが顕著になる所定の記録媒体か否かを判断し、所定の記録媒体であると判断されると比較例による記録動作を実行するようにし、所定の記録媒体でないと判断されると実施例による記録動作を実行する。なお、所定の記録媒体については、記録装置10で使用するインクの性能、目的とする記録品位などから適宜に設定する。
(2)記録装置10では、不良ノズルを検出するための検出部を設けるようにしてもよい。この検出部は、例えば、CPU38に接続されている。そして、CPU38により、記録媒体100に対して不良ノズルを検出するためのパターンが記録されると、検出部で当該パターンを読み取る。検出部で読み取ったデータは、CPU38に出力され、CPU38において当該データに基づいて不良ノズルを検出する。また、記録装置10は、例えば、特許文献1のように、各記録ヘッド18を幅方向に移動可能な移動機構を備えるようにしてもよい。これにより、ノズル不吐出やノズルのバラツキによる影響を低減することができるようになる。
(3)上記実施形態では、隣接する単位領域の境界において、所定の記録搬送による記録の終了位置と、直後の記録搬送による記録の開始位置とを異ならせるために、分割データに基づく記録の前後に、単位領域1つ分を記録することなく移動するようにした。しかしながら、記録することなく移動する移動量については、単位領域1つ分に限定されるものではなく、例えば、単位領域2つ分あるいはそれ以上としてもよい。
(4)上記実施形態では、固定的に配置された記録ヘッド18に対して、記録媒体100が搬送方向の往方向および復方向で搬送されるようにしたが、これに限定されるものではない。即ち、記録媒体100と記録ヘッド18との位置関係が相対的に搬送方向の往方向および復方向に移動する構成であればよい。
(5)上記実施形態では、S918において、分割データに基づく記録媒体100の搬送量が所定量未満か否かを判断するようにしたが、これに限定されるものではない。即ちS918では、記録媒体100における記録終了位置を含む領域に対して記録する記録搬送か否かを判断可能であれば、どのように判断してもよい。