JP2019193684A - 油分を含むエマルションを用いた癒着防止剤 - Google Patents

油分を含むエマルションを用いた癒着防止剤 Download PDF

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JP2019193684A JP2017004326A JP2017004326A JP2019193684A JP 2019193684 A JP2019193684 A JP 2019193684A JP 2017004326 A JP2017004326 A JP 2017004326A JP 2017004326 A JP2017004326 A JP 2017004326A JP 2019193684 A JP2019193684 A JP 2019193684A
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田畑 泰彦
Yasuhiko Tabata
泰彦 田畑
隆英 村上
Takahide Murakami
隆英 村上
幸大 山下
Yukihiro Yamashita
幸大 山下
一郎 土黒
Ichiro Tsuchiguro
一郎 土黒
紗也香 森
Sayaka MORI
紗也香 森
昌久 田能村
Masahisa Tanomura
昌久 田能村
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Abstract

【課題】高脂質濃度のエマルションを含むことができる癒着防止剤の提供。【解決手段】本発明は、下記一般式(I)で表される脂質化合物、油分、及び界面活性剤を水相中に含有するエマルション組成物を含む、癒着防止剤に関する。(式中、X及びYはそれぞれ水素原子を表すか又は一緒になって酸素原子を表し、nは0〜2の整数を表し、mは1又は2を表し、は一重結合又は2重結合を表し、Rはグリセロール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジグリセロール、トリグリセロール、グリセリン酸、キシロース、ソルビトール、アスコルビン酸、グルコース、ガラクトース、マンノース、ジペンタエリスリトール、マルトース、マンニトール、及びキシリトールからなる群から選択されるいずれか1つから1つの水酸基が除かれた親水性基を表す)【選択図】なし

Description

本発明は、油分を含むエマルションを用いた癒着防止剤に関する。
生体組織や臓器の癒着は、手術後に発生する典型的な合併症である。その発生頻度は腹
部手術では55%以上であり、患者にとっては慢性的な腹部痛、腸閉塞、不妊症など深刻
な病状が持続することになる。癒着は、腹部手術以外に、胸部外科や脳外科でも発生する
手術後の普遍的な問題となっている。
手術後の癒着を防止する目的で、医療現場においては、患部と癒着可能性のある臓器と
の間にフィルム状又はシート状の癒着防止材をバリアとして挿入する技術が使用されてい
る。例えば、ジェンザイム社によって開発された、ヒアルロン酸ナトリウムとカルボキシ
メチルセルロースを2:1の割合で含有する半透明のフィルムであるセプラフィルム(R
は、生体吸収性の癒着防止材として術後に使用されている。しかし臓器は平面でなく複
雑に入り組んでおり、このようなフィルム状又はシート状の癒着防止材は、組織・臓器の
凹凸のある部分や操作可能な範囲が狭い部位を完全に覆うように適用することは難しい。
またフィルム状又はシート状の癒着防止材には、外科手袋に付着しやすいという問題や、
外科手術の際に損傷部位に適切に貼付するのが難しく、破れたりずれたりしやすいため、
取り扱いには高度な外科技術を要するという問題もある。
近年、多糖類誘導体を含むハイドロゲルを用いた癒着防止剤が開発されている(特許文
献1)。また、活性エステル基を導入した架橋性多糖誘導体からなる、ゲル状の癒着防止
剤も知られている(特許文献2)。しかしそれらの癒着防止剤は、粘度が高いものが多く
注入等の容易な適用手段が使用しにくいため、適用に大規模な装置が必要になったり、狭
い部位に適用しにくいなどの問題がある。そこで、簡便に適用でき、狭い部位にも適用可
能な、操作性が高いさらなる癒着防止剤の開発がなお望まれている。
一方、様々な両親媒性化合物が、水中で液晶を形成することが知られており、化粧品分
野、医薬品分野などで様々な用途に利用されている。近年、低温(6℃未満)においても
高い安定性を示す非ラメラ液晶を形成可能な両親媒性の脂質化合物が開発され、徐放性製
剤におけるその液晶の利用が知られている(特許文献3、4)。この化合物を皮膚外用剤
において経皮浸透促進のために用いることも知られている(特許文献5)。さらに、この
化合物について癒着防止効果が報告された(特許文献6)。しかし、従来の癒着防止剤に
ついてはさらなる改良がなお求められている。
国際公開第WO 2010/119994号 国際公開第WO 2005/087289号 国際公開第WO 2006/043705号 国際公開第WO 2011/078383号 特開2012−17318号公報 国際公開第WO 2014/178256号
本発明は、高脂質濃度のエマルションを含むことができる癒着防止剤を提供することを課
題とする。
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、所定の脂質化合物を
用いたエマルションに油分を加えることにより、高脂質濃度のエマルションを含む癒着防
止剤を提供することができること、さらに、高脂質濃度でも高い保存安定性を示し、かつ
生体組織や臓器に対する高い癒着防止効果を発揮できることを見出し、本発明を完成する
に至った。
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] 下記一般式(I)で表される脂質化合物、油分、及び界面活性剤を水相中に含有
するエマルション組成物を含む、癒着防止剤。
Figure 2019193684
(式中、X及びYはそれぞれ水素原子を表すか又は一緒になって酸素原子を表し、nは0
〜2の整数を表し、mは1又は2を表し、
Figure 2019193684
は一重結合又は2重結合を表し、Rはグリセロール、エリスリトール、ペンタエリスリト
ール、ジグリセロール、トリグリセロール、グリセリン酸、キシロース、ソルビトール、
アスコルビン酸、グルコース、ガラクトース、マンノース、ジペンタエリスリトール、マ
ルトース、マンニトール、及びキシリトールからなる群から選択されるいずれか1つから
1つの水酸基が除かれた親水性基を表す)
[2] エマルション組成物が前記脂質化合物を15重量%以上の量で含む、[1]に記
載の癒着防止剤。
[3] エマルション組成物が前記脂質化合物を21〜50重量%の量で含む、[1]又
は[2]に記載の癒着防止剤。
[4] エマルション組成物が、液晶エマルションである、[1]〜[3]のいずれかに
記載の癒着防止剤。
[5] 前記式中のRがグリセロール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジグリ
セロール、及びキシロースからなる群から選択されるいずれか1つから1つの水酸基が除
かれた親水性基を表す、[1]〜[4]のいずれかに記載の癒着防止剤。
[6] 前記脂質化合物が、以下:
モノO−(5,9,13−トリメチルテトラデカ−4−エノイル)グリセロール、
モノO−(5,9,13−トリメチルテトラデカ−4,8,12−トリエノイル)グリセ
ロール、
モノO−(5,9,13−トリメチルテトラデカノイル)グリセロール、
モノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカ−4−エノイル)ジグリセロー
ル、
モノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカノイル)エリスリトール、及び
1−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル)−β−D−キシロピラノシ

のいずれかである、[1]〜[5]のいずれかに記載の癒着防止剤。
[7] 油分が炭化水素油、エステル油、又は植物油である、[1]〜[6]のいずれか
に記載の癒着防止剤。
[8] 油分がスクワラン、スクアレン、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オク
チルドデシル、テトラヒドロファルネシル酢酸メチル、ヒマシ油、及びオリーブ油からな
る群より選択される、[1]〜[7]のいずれかに記載の癒着防止剤。
本発明によれば、高脂質濃度のエマルションを含むことができ、保存安定性の高い癒着
防止剤を提供することができる。
サンプルNo.3のSAXSの強度分布を示す図である。逆ヘキサゴナル液晶を示している。 サンプルNo.8のSAXSの強度分布を示す図である。逆ヘキサゴナル液晶を示している。 サンプルNo.9のSAXSの強度分布を示す図である。逆ヘキサゴナル液晶を示している。 サンプルNo.11のSAXSの強度分布を示す図である。スポンジ相を示している。 サンプルNo.12のSAXSの強度分布を示す図である。スポンジ相を示している。 サンプルNo.14のSAXSの強度分布を示す図である。逆ヘキサゴナル液晶を示している。 サンプルNo.17のSAXSの強度分布を示す図である。逆ヘキサゴナル液晶を示している。 サンプルNo.23のSAXSの強度分布を示す図である。逆ヘキサゴナル液晶を示している。 サンプルNo.26のSAXSの強度分布を示す図である。逆ヘキサゴナル液晶を示している。 サンプルNo.27のSAXSの強度分布を示す図である。逆ヘキサゴナル液晶(ブロード)を示す。 サンプルNo.28のSAXSの強度分布を示す図である。逆ヘキサゴナル液晶を示している。 サンプルNo.30のSAXSの強度分布を示す図である。スポンジ相を示している。 サンプルNo.31のSAXSの強度分布を示す図である。スポンジ相を示している。 サンプルNo.33のSAXSの強度分布を示す図である。スポンジ相を示している。 サンプルNo.35のSAXSの強度分布を示す図である。逆ヘキサゴナル液晶を示している。 サンプルNo.37のSAXSの強度分布を示す図である。逆ヘキサゴナル液晶を示している。 サンプルNo.38のSAXSの強度分布を示す図である。Pn3mキュービック液晶を示している。
以下、本発明を詳細に説明する。
1.脂質化合物(脂質)
本発明に係る癒着防止剤は、下記一般式(I):
Figure 2019193684
で表される化合物を含有する。この化合物は両親媒性の脂質化合物であり、生体組織や臓
器に対する癒着を阻止又は低減する効果(癒着防止効果)をもたらすことができる。
一般式(I)中、X及びYはそれぞれ水素原子を表すか又は一緒になって酸素原子を表
す。
一般式(I)中、nは0〜2の整数(好ましくは、1又は2)を表し、mは1又は2を
表す。一般式(I)で表される脂質化合物において、nとmの組み合わせは、n=0、m
=1;n=0、m=2;n=1、m=1;n=1、m=2;n=2、m=1;又はn=2
、m=2のいずれであってもよい。
式中の:
Figure 2019193684
は一重結合又は2重結合を表す。
一般式(I)中のRは2つ以上の水酸基を有する親水性基、特に、グリセロール、エリ
スリトール、ペンタエリスリトール、ジグリセロール、グリセリン酸、トリグリセロール
、キシロース、ソルビトール、アスコルビン酸、グルコース、ガラクトース、マンノース
、ジペンタエリスリトール、マルトース、マンニトール、及びキシリトールからなる群か
ら選択されるいずれか1つから1つの水酸基が除かれた親水性基を表す。一般式(I)中
のRは、グリセロール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジグリセロール、及び
キシロースからなる群から選択されるいずれか1つから1つの水酸基が除かれた親水性基
であることがさらに好ましい。
なお本発明において、一般式(I)中の表記:
Figure 2019193684
は当該脂質化合物が幾何異性体のE体(シス体)若しくはZ体(トランス体)又はそれら
の混合物であることを意味する。
一般式(I)で表される脂質化合物の例としては、下記一般式(II)で表される脂質
化合物が挙げられる。
Figure 2019193684
一般式(II)中、X及びYはそれぞれ水素原子を表すか又は一緒になって酸素原子を
表し、nは0〜2の整数(好ましくは、1又は2)を表し、mは1又は2を表す。一般式
(II)中のRはグリセロール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジグリセロー
ル、グリセリン酸、トリグリセロール、キシロース、ソルビトール、アスコルビン酸、グ
ルコース、ガラクトース、マンノース、ジペンタエリスリトール、マルトース、マンニト
ール、及びキシリトールからなる群から選択されるいずれか1つから1つの水酸基が除か
れた親水性基を表し、Rのより好ましい例はグリセロール、エリスリトール、ペンタエリ
スリトール、ジグリセロール、及びキシロースからなる群から選択されるいずれか1つか
ら1つの水酸基が除かれた親水性基である。X及びYがそれぞれ水素原子を表す場合、R
はグリセロール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジグリセロール、グリセリン
酸、及びキシロースからなる群から選択されるいずれか1つから1つの水酸基が除かれた
親水性基であることが好ましい。X及びYが一緒になって酸素原子(エステル結合)を表
す場合には、Rはグリセロール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、及びジグリセ
ロールからなる群から選択されるいずれか1つから1つの水酸基が除かれた親水性基であ
ることが好ましい。但しn=0の場合、Rはエリスリトール、ペンタエリスリトール、ジ
グリセロール、及びキシロースからなる群から選択されるいずれか1つから1つの水酸基
が除かれた親水性基であることが好ましい。
なお本発明において、一般式(II)中の表記:
Figure 2019193684
は当該脂質化合物が幾何異性体のE体(シス体)若しくはZ体(トランス体)又はそれら
の混合物であることを意味する。
一般式(II)で表される脂質化合物の好ましい具体例としては、例えば以下のエステ
ル化合物が挙げられる。
・n=0、m=1の化合物
モノO−(3,7,11−トリメチルドデカ−2,6,10−トリエノイル)グリセロ
ール
グリセリン酸3,7,11−トリメチルドデカ−2,6,10−トリエニル
・n=0、m=2の化合物
モノO−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカ−2,6,10,14−テト
ラエノイル)グリセロール
モノO−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカ−2,6,10,14−テト
ラエノイル)エリスリトール
モノO−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカ−2,6,10,14−テト
ラエノイル)ペンタエリスリトール
モノO−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカ−2,6,10,14−テト
ラエノイル)ジグリセロール
グリセリン酸3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカ−2,6,10,14−テ
トラエニル
・n=1、m=1の化合物
モノO−(4,8,12−トリメチルトリデカ−3,7,11−トリエノイル)グリセ
ロール
グリセリン酸4,8,12−トリメチルトリデカ−3,7,11−トリエニル
・n=1、m=2の化合物
モノO−(4,8,12,16−テトラメチルヘプタデカ−3,7,11,15−テト
ラエノイル)グリセロール
モノO−(4,8,12,16−テトラメチルヘプタデカ−3,7,11,15−テト
ラエノイル)エリスリトール
モノO−(4,8,12,16−テトラメチルヘプタデカ−3,7,11,15−テト
ラエノイル)ペンタエリスリトール
モノO−(4,8,12,16−テトラメチルヘプタデカ−3,7,11,15−テト
ラエノイル)ジグリセロール
グリセリン酸4,8,12,16−テトラメチルヘプタデカ−3,7,11,15−テ
トラエニル
・n=2、m=1の化合物
モノO−(5,9,13−トリメチルテトラデカ−4,8,12−トリエノイル)グリ
セロール
モノO−(5,9,13−トリメチルテトラデカ−4,8,12−トリエノイル)エリ
スリトール
モノO−(5,9,13−トリメチルテトラデカ−4,8,12−トリエノイル)ペン
タエリスリトール
モノO−(5,9,13−トリメチルテトラデカ−4,8,12−トリエノイル)ジグ
リセロール
グリセリン酸5,9,13−トリメチルテトラデカ−4,8,12−トリエニル
・n=2、m=2の化合物
モノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカ−4,8,12,16−テト
ラエノイル)グリセロール
モノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカ−4,8,12,16−テト
ラエノイル)エリスリトール
モノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカ−4,8,12,16−テト
ラエノイル)ペンタエリスリトール
モノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカ−4,8,12,16−テト
ラエノイル)ジグリセロール
グリセリン酸5,9,13,17−テトラメチルオクタデカ−4,8,12,16−テ
トラエニル
一般式(II)で表される脂質化合物としては、例えば以下のエーテル化合物又はグリ
コシド化合物が挙げられる。
・n=0、m=1の化合物
モノO−(3,7,11−トリメチルドデカ−2,6,10−トリエニル)グリセロー

モノO−(3,7,11−トリメチルドデカ−2,6,10−トリエニル)エリスリト
ール
モノO−(3,7,11−トリメチルドデカ−2,6,10−トリエニル)ペンタエリ
スリトール
1−O−(3,7,11−トリメチルドデカ−2,6,10−トリエニル)−D−キシ
ロピラノシド
・n=0、m=2の化合物
モノO−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカ−2,6,10,14−テト
ラエニル)グリセロール
モノO−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカ−2,6,10,14−テト
ラエニル)エリスリトール
モノO−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカ−2,6,10,14−テト
ラエニル)ペンタエリスリトール
1−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカ−2,6,10,14−テト
ラエニル)−D−キシロピラノシド
モノO−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカ−2,6,10,14−テト
ラエニル)ジグリセロール
・n=1、m=1の化合物
モノO−(4,8,12−トリメチルトリデカ−3,7,11−トリエニル)グリセロ
ール
モノO−(4,8,12−トリメチルトリデカ−3,7,11−トリエニル)エリスリ
トール
モノO−(4,8,12−トリメチルトリデカ−3,7,11−トリエニル)ペンタエ
リスリトール
1−O−(4,8,12−トリメチルトリデカ−3,7,11−トリエニル)−D−キ
シロピラノシド
・n=1、m=2の化合物
モノO−(4,8,12,16−テトラメチルヘプタデカ−3,7,11,15−テト
ラエニル)グリセロール
モノO−(4,8,12,16−テトラメチルヘプタデカ−3,7,11,15−テト
ラエニル)エリスリトール
モノO−(4,8,12,16−テトラメチルヘプタデカ−3,7,11,15−テト
ラエノイル)ペンタエリスリトール
1−O−(4,8,12,16−テトラメチルヘプタデカ−3,7,11,15−テト
ラエニル)−D−キシロピラノシド
・n=2、m=1の化合物
モノO−(5,9,13−トリメチルテトラデカ−4,8,12−トリエニル)グリセ
ロール
モノO−(5,9,13−トリメチルテトラデカ−4,8,12−トリエニル)エリス
リトール
モノO−(5,9,13−トリメチルテトラデカ−4,8,12−トリエニル)ペンタ
エリスリトール
1−O−(5,9,13−トリメチルテトラデカ−4,8,12−トリエニル)−D−
キシロピラノシド
モノO−(5,9,13−トリメチルテトラデカ−4,8,12−トリエニル)ジグリ
セロール
・n=2、m=2の化合物
モノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカ−4,8,12,16−テト
ラエニル)グリセロール
モノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカ−4,8,12,16−テト
ラエニル)エリスリトール
モノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカ−4,8,12,16−テト
ラエニル)ペンタエリスリトール
1−O−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカ−4,8,12,16−テト
ラエニル)−D−キシロピラノシド
モノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカ−4,8,12,16−テト
ラエニル)ジグリセロール
一般式(I)で表される脂質化合物の別の例としては、下記一般式(III)で表され
る脂質化合物が挙げられる。
Figure 2019193684
一般式(III)中、X及びYはそれぞれ水素原子を表すか又は一緒になって酸素原子
を表し、nは0〜2の整数(好ましくは、1又は2)を表し、mは1又は2を表す。
一般式(III)中のRは2つ以上の水酸基を有する親水性基を表し、特に、グリセロ
ール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジグリセロール、グリセリン酸、トリグ
リセロール、キシロース、ソルビトール、アスコルビン酸、グルコース、ガラクトース、
マンノース、ジペンタエリスリトール、マルトース、マンニトール、及びキシリトールか
らなる群から選択されるいずれか1つから1つの水酸基が除かれた親水性基を表す。
なお本発明において、一般式(III)中の表記:
Figure 2019193684
は当該脂質化合物が幾何異性体のE体(シス体)若しくはZ体(トランス体)又はそれら
の混合物であることを意味する。
一般式(III)で表される脂質化合物の好ましい具体例としては、例えば以下の化合
物が挙げられる。
モノO−(5,9,13−トリメチルテトラデカ−4−エノイル)グリセロール
モノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカ−4−エノイル)グリセロー

モノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカ−4−エノイル)エリスリト
ール
モノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカ−4−エノイル)ペンタエリ
スリトール
モノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカ−4−エノイル)ジグリセロ
ール
一般式(I)で表される脂質化合物のさらに別の例としては、下記一般式(IV)で表
される脂質化合物が挙げられる。
Figure 2019193684
一般式(IV)中、X及びYはそれぞれ水素原子を表すか又は一緒になって酸素原子を
表し、nは0〜2の整数(好ましくは、1又は2)を表し、mは1又は2を表す。
一般式(IV)中のRは2つ以上の水酸基を有する親水性基を表し、特に、グリセロー
ル、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジグリセロール、グリセリン酸、トリグリ
セロール、キシロース、ソルビトール、アスコルビン酸、グルコース、ガラクトース、マ
ンノース、ジペンタエリスリトール、マルトース、マンニトール、及びキシリトールから
なる群から選択されるいずれか1つから1つの水酸基が除かれた親水性基が挙げられる。
一般式(IV)で表される脂質化合物の好ましい具体例としては、例えば以下の化合物
が挙げられる。
モノO−(5,9,13−トリメチルテトラデカノイル)グリセロール
1−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル)−β−D−キシロピラノ
シド
モノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカノイル)グリセロール
モノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカノイル)エリスリトール
モノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカノイル)ペンタエリスリトー

1−O−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカニル)−β−D−キシロピラ
ノシド
2.本発明で用いる脂質化合物の性質
上記脂質化合物は本発明に係る癒着防止剤の主要な構成成分の1つとして用いることが
できる。本発明に係る癒着防止剤に用いる脂質化合物は、液晶化合物であり、水性媒体中
で非ラメラ液晶を形成することができる。なお本明細書中、脂質化合物を含む水性媒体を
「脂質化合物/水系」と表すことがある。
本発明で用いる脂質化合物によってエマルション中で形成される非ラメラ液晶は、ラメ
ラ液晶ではない構造体であり、具体的には、例えば、キュービック液晶、逆ヘキサゴナル
液晶又はスポンジ相(L3相)でありうる。本発明で用いる脂質化合物によってエマルシ
ョン中で形成される非ラメラ液晶はまた、これらの液晶相を2つ以上含んでもよい。
キュービック液晶は、II型キュービック液晶であることが好ましい。キュービック液
晶の構造は、一般にI型とII型に分類される。「水中油型」構造をとる場合をI型キュ
ービック液晶、逆に「油中水型」構造をとる場合をII型キュービック液晶という。I型
とII型は、脂質化合物/水系の相挙動から判定することができる。例えば、I型の場合
、脂質化合物/水系の水含有量を増加させていくと、他の液晶(例えばラメラ液晶)から
、さらにはミセルへと転移し、最終的には均一な水溶液となる。これに対し、II型液晶
では、ある一定以上の水量となると、飽和量の水を含んだ液晶と過剰な水が共存する「液
晶+過剰水」の二相となり、水量を増しても均一な水溶液となることはない。
キュービック液晶はまた、結晶学的空間群Ia3dに属するキュービック液晶(以下、
Ia3dキュービック液晶)、結晶学的空間群Pn3mに属するキュービック液晶(以下
、Pn3mキュービック液晶)、又は結晶学的空間群Im3mに属するキュービック液晶
(以下、Im3mキュービック液晶)であってよいが、Pn3mキュービック液晶である
ことがより好ましい。
本発明に係る脂質化合物は、広範な環境条件下で高い安定性を示す。例えば、本発明に
係る脂質化合物は疎水性基としてイソプレノイド鎖を有することを特徴とし、疎水性基と
してオレイン酸などの直鎖脂肪鎖を有する脂質化合物と異なり、加水分解に対する耐性が
高く、酸化安定性も比較的高い。本発明に係る脂質化合物はまた、液晶を取り得る温度領
域が広く、クラフト温度が低く、低温(6℃以下、好ましくは0℃又はそれ以下)でも安
定して液晶を形成することができる。
脂質化合物によって形成されるエマルション中の液晶構造の解析は、常法により行うこ
とができるが、例えば以下の方法を用いた小角エックス線散乱(SAXS)測定により解
析できる。
小角エックス線散乱(SAXS)測定によるエマルション中の液晶構造の確認
脂質化合物を含むエマルションサンプルを例えばソーダガラス製や石英製などのエック
ス線キャピラリーチューブに入れた後、キャピラリーを酸素バーナーで封じ、SAXS測
定に供すればよい。SAXS測定は、市販の機器を用いて行うことができ、例えば、NA
NO Viewerナノスケールエックス線構造評価装置(Rigaku製)を用いて測
定を行うことができる。
SAXS測定の結果、それぞれの液晶構造に特有の以下の散乱ピークの比(ピーク間隔
)を示すかどうかを確認することにより、エマルション中の液晶構造を確認することがで
きる。
Pn3mキュービック液晶の比:
Figure 2019193684
Ia3dキュービック液晶の比:
Figure 2019193684
Im3mキュービック液晶の比:
Figure 2019193684
逆ヘキサゴナル液晶に特有の比:
Figure 2019193684
また当業者に周知の方法に従って、SAXSの強度分布データからピークの値を算出し
、さらにそれらの逆数の比を求めれば容易に空間群と格子定数を決めることができる。
一方、スポンジ相(L3相)のSAXS測定においては、ブロードな散乱ピークが観測
される。
本発明に係る癒着防止剤に用いる脂質化合物は、それ自体が低い粘度を示す。具体的に
は、本発明に係る癒着防止剤に用いる脂質化合物は、化合物自体が、25℃での測定値で
好ましくは15.0Pa・s以下、より好ましくは11.0Pa・s以下、さらに好まし
くは6.0Pa・s以下の粘度を有する。この粘度は、例えば、粘度・粘弾性測定装置(
Gemini II、マルバーン社)を使用し、温度25℃にて測定することができる。
3.脂質化合物の合成
本発明で用いる脂質化合物は、後述の実施例の記載を参照して合成することができる。
あるいは、一般式(III)で表される脂質化合物は、例えば、国際公開第WO 201
1/078383号に記載された合成法に従って合成することができる。また、一般式(
IV)で表される脂質化合物は、例えば、国際公開第WO 2006/043705号に
記載された合成法に従って合成することができる。さらに、一般式(II)で表される脂
質化合物は、例えば、国際公開第WO 2014/178256号に記載された合成法に
従って合成することができる。
一般式(I)で表される脂質化合物は、一般的には、1分子の多価アルコール(好まし
くは、グリセロール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジグリセロール、グリセ
リン酸、トリグリセロール、キシロース、ソルビトール、アスコルビン酸、グルコース、
ガラクトース、マンノース、ジペンタエリスリトール、マルトース、マンニトール、又は
キシリトールであり、より好ましくは、グリセロール、エリスリトール、ペンタエリスリ
トール、ジグリセロール、グリセリン酸、キシロースである)に、1分子の長鎖炭化水素
(好ましくは、長鎖脂肪酸又は長鎖アルコール)がエステル結合、エーテル結合、又はグ
リコシド結合により結合したエステル化合物、エーテル化合物、又はグリコシド化合物で
ある。
本発明に係る一般式(I)で表される脂質化合物は、例えば以下のようにして製造(合
成)できる。
第1に、前記の一般式(I)で表される化合物のうち、式中のXとYが一緒になって酸
素原子を表しているエステル化合物(下記の一般式(VI))は、例えば、下記一般式(
V)で表されるエステル化合物と親水性化合物R−OHとのエステル交換反応により製造
することができる。エステル交換反応の反応条件は特に限定されないが、例えば、酸若し
くは塩基触媒を用いて実施される。
Figure 2019193684
さらに、エステル化合物(一般式(VI))は一般式(V)で表されるエステル化合物
に対応するカルボン酸と親水性化合物R−OHとのエステル化により製造することができ
る。エステル化の反応条件は特に限定されないが、例えば、酸若しくは塩基触媒、塩化チ
オニルなどのハロゲン化剤又は縮合剤を用いて実施される。
親水性化合物R−OHのR中の一部あるいは全ての水酸基を保護して、エステル交換反
応あるいはエステル化反応を実施することがある。この場合、エステル交換反応あるいは
エステル化反応後、脱保護することによりエステル化合物(VI)を製造することができ
る。
第2に、前記の一般式(I)で表される化合物のうち、式中のXとYがともに水素原子
であるエーテル化合物(下記一般式(IX)で表される化合物)は、例えば、下記一般式
(VII)で表される脱離基Zを有する化合物と親水性化合物R−OHとのエーテル化反
応、又は下記一般式(VIII)で表されるアルコールと脱離基Zを有するR−Zとのエ
ーテル化反応により製造することができる。エーテル化の反応条件は特に限定されないが
、例えば、塩基を用いて実施される。親水性化合物R−OHのR中の一部あるいは全ての
水酸基を保護して、エーテル化反応を実施してもよい。この場合、エーテル化反応後、脱
保護することによりエーテル化合物(IX)を製造することができる。
Figure 2019193684
第3に、前記の一般式(I)で表される化合物のうち、XとYがともに水素原子であり
Rが糖残基である一般式(IX)で表されるグリコシド化合物は、例えば、下記の通り、
一般式(VIII)で表されるアルコールと、アノマー位を脱離基Zとして水酸基を保護
した糖類R''−Zのグリコシル化反応を行い、脱保護(R''→R)することにより製造す
ることができる。
グリコシル化反応の反応条件は特に限定されないが、例えば、ルイス酸を用いて実施さ
れる。脱保護の反応条件も特に限定されないが、特定の保護基に対してグリコシド結合を
損なわない脱離反応条件を選択して実施される。
Figure 2019193684
さらに、前記の一般式(I)で表される化合物のうち、XとYがともに水素原子であり
Rがカルボニル基である一般式(IX)で表されるエステル化合物は、例えば、一般式(
VIII)で表されるアルコールと、水酸基を保護したグリセリン酸エステルとのエステ
ル交換又は水酸基を保護したグリセリン酸とのエステル化後、脱保護することにより製造
することができる。
上記の一般式(V)、(VII)、及び(VIII)の化合物は、限定するものではな
いが以下のようにして合成することができる。
式中n=2、m=2、及び、n=2、m=1であるエステル化合物(式(V))は、例
えば、相当する3級アルコールから、オルト酢酸エステルを用いたジョンソン・クライゼ
ン反応によって得られる。
式中n=1、m=2;又はn=1、m=1であるエステル化合物(式(V))は、例え
ば、相当する式中n=0、m=2;又はn=0、m=1であるアルコール(式(VIII
))の水酸基をブロモ化した後、金属マグネシウムを添加して得たグリニャール試薬を二
酸化炭素と作用させるか、又はシアン化物による置換反応を行い加水分解することによっ
てカルボン酸を得た後、さらにエステル化することによって得られる。
式中n=0、m=2、及び、n=0、m=1であるエステル化合物(式(V))は、例
えば、相当するカルボン酸をエステル化することによって得られる。
式中n=2、m=2;n=2、m=1;n=1、m=2;n=1、m=1;n=0、m
=2;又はn=0、m=1であるアルコール(式(VIII))は、例えば、式中n=2
、m=2;n=2、m=1;n=1、m=2;n=1、m=1;n=0、m=2;又はn
=0、m=1であるエステル化合物(式(V))又はそのカルボン酸を水素化アルミニウ
ムリチウム等で還元することによって得られる。
式中n=2、m=2;n=2、m=1;n=1、m=2;n=1、m=1;n=0、m
=2;又はn=0、m=1である脱離基Zを有する化合物(VII)は、例えば、n=2
、m=2;n=2、m=1;n=1、m=2;n=1、m=1;n=0、m=2;又はn
=0、m=1であるアルコール(式(VIII))をトシル基若しくはメシル基等のスル
ホニルオキシ基、又は塩素原子、臭素原子若しくはヨウ素原子等のハロゲン原子などの脱
離基に変換することによって得られる。
合成された化合物については、NMR測定等の常法により、目的の化合物が得られたこ
とを確認しておくことが好ましい。
4.エマルション組成物及び癒着防止剤
上記の脂質化合物、油分、及び界面活性剤を水相中に含有するエマルション組成物(エ
マルション)は、癒着防止効果を有する。本発明は、上記の脂質化合物、油分、及び界面
活性剤を水相中に含有するエマルション組成物を含む癒着防止剤を提供する。
本発明に係るエマルション組成物(すなわち、乳化液)は、上記の脂質化合物、油分、
界面活性剤、及び水を含む微粒子を水相中に分散状態で含有する。本発明に係る、上記の
脂質化合物、油分、及び界面活性剤を水相中に含有するエマルション組成物は、いわゆる
液晶/水型(L/W型)エマルション(液晶エマルション)又は水中油型(O/W型)エ
マルションとして観察される。本発明に係るエマルション組成物は液晶エマルションであ
ることがより好ましい。本発明に係るエマルション組成物が液晶エマルション(液晶エマ
ルション組成物)である場合、上記の脂質化合物、油分及び水を含む液晶が界面活性剤に
よって微粒子形態で安定化され、水相中に分散している。そのような微粒子に含まれる液
晶は、非ラメラ液晶(ラメラ液晶ではない構造体)であり、具体的には、例えば、キュー
ビック液晶、逆ヘキサゴナル液晶又はスポンジ相(L3相)でありうる。上記の液晶はま
た、これらの液晶相を2つ以上含んでもよい。なお、上記微粒子中には、他の成分をさら
に含んでもよい。
本発明に係るエマルション組成物は、油分を含む。本発明では様々な油分を使用するこ
とができる。油分としては、以下に限定するものではないが、例えば、炭化水素油、エス
テル油、及び植物油や動物油などの油脂、ベヘニルアルコール、ステアリルアルコールな
どの高級アルコール、ステアリン酸、パルミチン酸などの高級脂肪酸等が挙げられる。油
分は、好ましくは、炭化水素油、エステル油、及び植物油からなる群から選択される少な
くとも1種であってよい。
炭化水素油としては、例えば、スクワラン、スクアレン、流動パラフィン、プリスタン
等が挙げられる。
エステル油としては、例えば、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデ
シル、テトラヒドロファルネシル酢酸メチル、トリイソオクタン酸グリセリル、トリ(カ
プリル酸/カプリン酸)グリセリル、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル、テトラ2−
エチルヘキサン酸ペンタエリスリット、オクタン酸セチル、ラウリン酸ヘキシル、パルミ
チン酸オクチル、ステアリン酸イソセチル、イソステアリン酸イソプロピル、イソパルミ
チン酸オクチル、オレイン酸イソデシル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチ
ル、リンゴ酸ジイソステアリル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、ミリ
スチン酸ミリスチル、ミリスチン酸セチル、オレイン酸デシル、ジメチルオクタン酸ヘキ
シルデシル、乳酸セチル、乳酸ミリスチル、酢酸ラノリン、イソステアリン酸イソセチル
、ヒドロキシステアリン酸コレステリル、12−ヒドロキシステアリル酸コレステリル、
ジ−2−エチルヘキシル酸エチレングリコール、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル
、モノイソステアリン酸N−アルキルグリコール、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール
、ジ−2−ヘプチルウンデカン酸グリセリン、トリ−2−エチルヘキシル酸トリメチロー
ルプロパン、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、テトラ−2−エチルヘキシ
ル酸ペンタンエリスリトール、トリ−2−エチルヘキシル酸グリセリン、トリイソステア
リン酸トリメチロールプロパン、2−エチルヘキサン酸セチル、2−エチルヘキシルパル
ミテート、トリミリスチン酸グリセリン、トリ−2−ヘプチルウンデカン酸グリセライド
、ヒマシ油脂肪酸メチルエステル、オレイン酸エチル、アセトグリセライド、パルミチン
酸2−ヘプチルウンデシル、アジピン酸ジイソブチル、N−ラウロイル−L−グルタミン
酸−2−オクチルドデシルエステル、アジピン酸ジ−2−ヘプチルウンデシル、エチルラ
ウレート、セバチン酸ジ−2−エチルヘキシル、ミリスチン酸2−ヘキシルデシル、パル
ミチン酸2−ヘキシルデシル、アジピン酸2−ヘキシルデシル、セバチン酸ジイソプロピ
ル、コハク酸2−エチルヘキシル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、クエン酸トリ
エチル等が挙げられる。
植物油としては、例えば、オリーブ油、ヒマシ油(カスターオイル)、ホホバ油、ロー
ズヒップ油、アボガド油、ツバキ油、コーン油、ナタネ油、ゴマ油、サザンカ油、シソ油
、アマニ油、サフラワー油、綿実油、大豆油、落花生油、茶実油(ティーシードオイル)
、カヤ油、コメヌカ油、アンズ油、グレープシード油、ヒマワリ油等が挙げられる。
本発明で用いる油分の特に好ましい例として、スクワラン、スクアレン、ミリスチン酸
イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、テトラヒドロファルネシル酢酸メチル、
ヒマシ油、及びオリーブ油からなる群から選択される1つ又は2つ以上の組み合わせが挙
げられる。
本発明に係るエマルション組成物は、さらに界面活性剤を含む。本発明で用いる界面活
性剤は、液晶形成に悪影響を及ぼしにくく、また上記の脂質化合物、油分及び水を含む液
晶を水相中に安定的に微粒子形態で分散させることができる界面活性剤が好ましい。その
ような例として、親水性のエチレンオキシドと疎水性のプロピレンオキシドのブロック共
重合体(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール)、ポリオキシエチレンア
ルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ
油をはじめとする、非イオン性界面活性剤が挙げられる。非イオン性界面活性剤としては
、分子量が1000以上(より好ましくは、5000以上)のものがより好ましい。エチ
レンオキシドとプロピレンオキシドのブロック共重合体としては、ポリオキシエチレン(
200)ポリオキシプロピレン(70)グリコール、ポリオキシエチレン(196)ポリ
オキシプロピレン(67)グリコール、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピ
レン(30)グリコール、ポリオキシエチレン(120)ポリオキシプロピレン(40)
グリコールなどが挙げられる。これらエチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロック
共重合体は、プルロニック(R)、ポロキサマー(R)、ユニルーブ(R)、プロノン
R)などの様々な名称で市販されている。界面活性剤の特に好ましい例として、ポリオキ
シエチレン(200)ポリオキシプロピレン(70)グリコール、ポリオキシエチレン(
196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール(プルロニック(R)F127;ユニ
ルーブ70DP−950B、ポロキサマー(R)407)等が挙げられるが、これらに限
定されない。なお、本発明で用いる上記脂質化合物は両親媒性であるが、本発明では上記
脂質化合物を界面活性剤の範囲に含めないものとする。
本発明では、油分を添加することにより、エマルションの調製を容易にするとともに、
エマルションの安定性を高めることができる。油分を含む本発明のエマルション組成物は
、脂質化合物を従来よりも高い濃度で含有する場合でも、エマルション状態で容易に調製
することができ、また高い保存安定性を示す。本発明のエマルション組成物は、エマルシ
ョン組成物の総重量に対し、上記脂質化合物を15重量%以上含む場合でも、高い保存安
定性を示す。本発明のエマルション組成物は、エマルション組成物の総重量に対し、上記
脂質化合物を好ましくは15重量%以上、より好ましくは18〜50重量%、さらに好ま
しくは21〜50重量%、特に好ましくは21〜40重量%、例えば21〜30重量%、
21〜35重量%又は25〜40重量%の量で含みうる。
本発明のエマルション組成物は、油分を、好ましくは、脂質化合物の含量の0.5〜4
0重量%、より好ましくは1〜30重量%、例えば5〜30重量%、7〜15重量%又は
10〜20重量%の量で含みうる。本発明のエマルション組成物はまた、エマルション組
成物の総重量に対し、油分を、好ましくは0.05〜20重量%、より好ましくは0.0
5〜10重量%、例えば0.1〜10重量%、1〜5重量%又は2〜10重量%含みうる
本発明のエマルション組成物は、適当量の界面活性剤を含むが、好ましくは、脂質化合
物の含量の10〜40重量%、より好ましくは20〜40重量%、例えば20〜30重量
%の量で界面活性剤を含みうる。本発明のエマルション組成物はまた、エマルション組成
物の総重量に対し、界面活性剤を、好ましくは1.5〜20重量%、より好ましくは3〜
15重量%、例えば3〜10重量%、4.5〜10重量%又は5〜8重量%含みうる。
一実施形態では、本発明に係るエマルション組成物は、脂質化合物として、モノO−(
5,9,13−トリメチルテトラデカ−4−エノイル)グリセロール、モノO−(5,9
,13−トリメチルテトラデカ−4,8,12−トリエノイル)グリセロール、モノO−
(5,9,13−トリメチルテトラデカノイル)グリセロール、モノO−(5,9,13
,17−テトラメチルオクタデカ−4−エノイル)ジグリセロール、モノO−(5,9,
13,17−テトラメチルオクタデカノイル)エリスリトール、及び1−O−(3,7,
11,15−テトラメチルヘキサデシル)−β−D−キシロピラノシドからなる群から選
択される少なくとも1つを含みうる。さらなる実施形態では、本発明に係るエマルション
組成物は、脂質化合物として、モノO−(5,9,13−トリメチルテトラデカ−4−エ
ノイル)グリセロール、モノO−(5,9,13−トリメチルテトラデカ−4,8,12
−トリエノイル)グリセロール、モノO−(5,9,13−トリメチルテトラデカノイル
)グリセロール、モノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカ−4−エノイ
ル)ジグリセロール、モノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカノイル)
エリスリトール、及び1−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル)−β
−D−キシロピラノシドからなる群から選択される少なくとも1つを含み、かつ油分とし
てスクワラン、スクアレン、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル
、テトラヒドロファルネシル酢酸メチル、ヒマシ油、及びオリーブ油からなる群より選択
される少なくとも1つを含みうる。好ましい実施形態では、本発明に係るエマルション組
成物において、表1及び表6に示す各サンプル又は試験で使用した脂質、油分、及び界面
活性剤の組み合わせを有利に用いることができる。
本発明に係るエマルション組成物は水性媒体を含む。主に水性媒体により水相が構成さ
れる。水性媒体は、特に限定するものではないが、注射用水、滅菌水、精製水、蒸留水、
イオン交換水、超純水などの水;生理的食塩水、塩化ナトリウム水溶液、塩化カルシウム
水溶液、塩化マグネシウム水溶液、硫酸ナトリウム水溶液、硫酸カリウム水溶液、炭酸ナ
トリウム水溶液、酢酸ナトリウム水溶液等の電解質水溶液;リン酸緩衝溶液やトリス塩酸
緩衝溶液などの緩衝溶液;エタノール、グリセリン、エチレングリコール、ブチレングリ
コール等の水溶性有機物を含有する水溶液;グルコース、スクロース、マルトース、又は
ヒアルロン酸若しくはその塩等の糖を含有する水溶液;ポリエチレングリコール、ポリビ
ニルアルコール、カルボキシビニルポリマー等の水溶性高分子を含む水溶液であってよい
。本発明のエマルション組成物において用いる水性媒体は、生理学的に許容される水又は
水溶液であることが好ましい。水性媒体の含量は、エマルション組成物の総重量に対して
、典型的には40〜90重量%、好ましくは50〜80重量%であるが、これらの範囲に
限定されるものではない。本発明に係るエマルション組成物はエタノールを含んでも含ま
なくてもよく、そのエタノール含量は、エマルション組成物の総重量に対し、限定するも
のではないが、例えば0〜5重量%でありうる。なお本明細書において「重量%」は「質
量%」に置き換えることができる。
本発明のエマルション組成物を含む癒着防止剤は、他の物質をさらに含んでもよい。
本発明のエマルション組成物は、油相と水相を混合し、乳化することにより調製するこ
とができる。水相としては、水性媒体、又は水性媒体と水溶性成分の混合液を用いること
ができる。より具体的には、上記の脂質化合物、油分、及び界面活性剤、並びに必要に応
じて他の成分を混合し溶解することにより油相を調製した後、それを水相に添加するか又
はそれに水相を添加して撹拌等による混合、及び、微粒子化(エマルション化)によって
、本発明のエマルション組成物を調製できる。油相を調製する際、溶解を促進するために
加温してもよく、例えば40〜60℃(一例では50℃)に加温してもよい。水性媒体は
必要に応じて常温のものであっても加温又は冷却したものであってもよい。あるいは、界
面活性剤や他の成分を油相ではなく水相に溶解し、その水相と、上記の脂質化合物及び油
分を含む油相とを混合してもよい。得られた混合液をさらに高圧ホモジナイザー、超音波
ホモジナイザー、回転式ホモジナイザー、湿式ジェットミル、ディスパーザー、ホモミキ
サー等の装置を用いて微粒子化(エマルション化)することができる。その中でも、粒子
径がより小さく、かつ、より均質に分散させるために、高圧下で、典型的には高圧ホモジ
ナイザーで微粒子化(エマルション化)することがより好ましい。しかし油相と水相の混
合、及び、微粒子化(エマルション化)は、ここで記載した方法には限定されず、エマル
ションを作製するための任意の方法を用いて行うことができる。このようにして、脂質化
合物、油分、及び界面活性剤を水相中に含有するエマルション(エマルション組成物)を
調製することができる。
本発明に係るエマルション組成物、及びそれを含む癒着防止剤は、癒着の恐れがある生
体組織や臓器に適用することにより、生体組織や臓器の癒着を防止することができる。本
発明において「癒着防止効果」とは、生体組織や臓器が他の生体組織や臓器と癒着して剥
離困難になる状態を防止するか、及び/又は癒着を完全に抑制する(阻止)若しくは低レ
ベルに抑制する(低減)効果をいう。
本発明に係るエマルション組成物、及びそれを含む癒着防止剤の癒着防止効果は、適用
された組織又は臓器の表面において、エマルション中の生体付着性の高い微粒子が組織上
に高密度に定着して、被覆を形成することにより、もたらされるものである。形成された
被覆が、組織又は臓器と他の組織又は臓器との接触を妨げることで、癒着が阻止又は低減
される。
本発明に係るエマルション組成物及び癒着防止剤の癒着防止効果は、開腹した動物モデ
ルの組織又は臓器切開部に本発明に係るエマルション組成物又は癒着防止剤を適用し、腹
を閉じた後、切開縫合部の経過を観察することにより確認することができる。具体的には
、ラットを腹部正中切開(例えば約30mm)で開腹し、左右の上腹部壁側腹膜に約20
mmの切開を加え、完全に止血した後、(例えば5−0絹糸を用いて)腹膜切開部を連続
縫合閉鎖し、一方の側の腹膜切開縫合部を覆うように本発明に係るエマルション組成物又
は癒着防止剤を適用し、次いで腹壁を縫合閉鎖し、さらにこの手術の一定期間後(例えば
7日後)に再び開腹して腹膜切開縫合部に癒着がみられるかどうかを評価すればよい。本
発明に係るエマルション組成物又は癒着防止剤を適用しなかった側の腹膜切開縫合部は、
無処置対照として用いることができる。
本発明に係るエマルション組成物又は癒着防止剤の適用は、その剤形に応じた方法で実
施すればよい。この評価におけるエマルション組成物又は癒着防止剤の適用量は、典型的
には、脂質量で10〜20mgとなる量とすることが好ましい。
癒着防止効果は、例えば、癒着強度について、以下のようにスコアリングすることによ
って評価することができる。
・グレード0 癒着なし
・グレード1 軽い牽引で剥離可能な癒着(組織損傷を伴わない)
・グレード2 強い牽引で剥離可能な癒着(組織損傷を伴わない)
・グレード3 強い牽引での剥離により組織損傷を伴う癒着
複数の動物モデルを用いて同じ実験を行い、癒着強度スコアの平均値を算出する。無処
置対照と比較して癒着強度スコアの平均値が低い場合、本発明に係るエマルション組成物
又は癒着防止剤は、剥離困難な強い癒着を低減することができ、癒着防止効果が認められ
ると判断することができる。
癒着防止効果はまた、例えば、癒着範囲率を算出することによって評価することができ
る。癒着範囲率(%)は、切開縫合部の長さに対する癒着長さの割合(%)である。複数
の動物モデルを用いて同じ実験を行い、癒着範囲率の平均値を算出する。無処置対照と比
較して、癒着範囲率(%)が低いほど、本発明に係るエマルション組成物又は癒着防止剤
は癒着範囲をより狭めることができ、より高い癒着防止効果が認められると判断すること
ができる。
本発明では、本発明に係るエマルションに油分を配合することにより、癒着防止効果を
向上させることができる。油分を含む本発明に係るエマルション組成物又は癒着防止剤は
、高い癒着防止効果を有する。特に高濃度(例えば、エマルション組成物の総重量に対し
て15重量%以上、特に18重量%以上)の脂質化合物を含有する本発明に係るエマルシ
ョン組成物又は癒着防止剤は、癒着を生じにくくすることができる。
なお上記脂質化合物自体の癒着防止効果は特許文献6(国際公開第WO 2014/1
78256号)において実証されている。
本発明に係るエマルション組成物及び癒着防止剤は、好ましくは、高い脂質濃度であっても高い保存
安定性を示し、長期の保存期間にわたり凝集物(凝集塊など)の生成を抑制することがで
きる。本発明のエマルション組成物及び癒着防止剤においては、例えば、1カ月以上、好
ましくは2カ月以上、さらに好ましくは3カ月以上、特に好ましくは10カ月以上(例え
ば14カ月)の保存期間の経過後でも、含まれる微粒子の平均粒子径が大きく変化せず、
凝集物(特に、凝集塊)の生成が効果的に抑制される。
また、本発明に係るエマルション組成物では、油分を配合することにより、高脂質濃度
であっても粘度の上昇が抑制されている。そのため本発明では、油分を配合することによ
り、高脂質濃度でもエマルション組成物の調製を容易にすることができる。したがって本
発明に係るエマルション組成物を含む癒着防止剤は、粘度の上昇が望ましくない剤形、例
えばスプレー剤や注射剤等に用いる上でも有用である。
本発明に係るエマルション組成物及びそれを含む癒着防止剤は、任意の剤形(典型的に
は、非経口剤形)に製剤化されてもよいが、エアゾール剤やポンプスプレー剤などのスプ
レー剤、塗布剤、注射剤等の、生体組織又は臓器上に直接適用することができ、かつ操作
性がよい剤形に製剤化されることが好ましい。本発明において、スプレー剤とは、手動、
動力、噴射剤(ガス)又は他の任意の手段によって圧力をかけることにより目的物質を液
滴状、霧状、微粒子状、又は泡状等に噴出させる剤形の医薬をいう。スプレー剤は、目的
物質を噴出させる際にガス(例えば空気)を容器内に送り込む(例えばガスコンプレッサ
ー等により)ためのものであってもよいし、スプレーチップを用いて噴出させるためのも
のであってもよい。本発明においてエアゾール剤とは、同一容器内に目的物質とともに充
填した噴射剤の圧力により目的物質を噴出させる剤形の医薬をいう。本発明においてポン
プスプレー剤とは、霧吹き器などの手動式スプレー容器や動力式の噴霧器などを用いて、
噴射剤を利用せずに目的物質を噴出させる剤形の医薬をいう。本発明に係るエマルション
組成物及び癒着防止剤は、医用材料であってよく、「癒着防止材」と称される場合がある
本発明に係るエマルション組成物及び癒着防止剤は、製薬上許容される担体及び/又は
添加剤などをさらに含む組成物であってよい。製薬上許容される担体及び添加剤は、安定
なエマルション形成を顕著に損なわない限り、使用する剤形に合わせて当業者が適切なも
のを選択することができる。製薬上許容される添加剤としては、例えば、医薬に一般に使
用される保存剤、矯臭剤、着色剤、pH調整剤等が挙げられるが、これらに限定されない。
本発明は、本発明に係るエマルション組成物又は癒着防止剤を、患者の患部、具体的に
は癒着のおそれがある部位、具体的には組織修復が起こると想定される部位(例えば体内
の炎症部位又は損傷部位)に有効量で適用することを含む、患部における生体組織又は臓
器の癒着を防止する方法も提供する。そのような癒着のおそれがある部位の具体例として
は、体内の外因性又は内因性の炎症部位、手術における切開部位などの創傷部位、手術中
に触れるなどの人為的処理によって組織表面が損傷した部位などが挙げられる。癒着のお
それがある部位は、好ましくは体内の組織又は臓器にある部位である。本発明において「
損傷部位」とは、手術、外傷、疾患等により損傷を受けた組織又は臓器の部分をいう。本
発明に係るエマルション組成物又は癒着防止剤を適用する組織又は臓器の例としては、腹
膜、小腸、大腸、直腸、胃、十二指腸、盲腸、肝臓、子宮、卵管、リンパ管、心臓、心膜
、肺、硬膜(脊髄、脳)、脳、卵巣、腱等が挙げられるが、これらに限定するものではな
い。典型例では、本発明に係るエマルション組成物又は癒着防止剤は、手術の際、切開部
(例えば、切開縫合部)、切開部周囲、又は切開部を有する臓器全体に適用される。本発明に係るエマルション組
成物又は癒着防止剤は、癒着のおそれがある部位、例えば創傷部位や炎症部位など、に接
触するであろう体内部位に適用してもよい。
損傷部位(例えば、創傷部位)や炎症部位などの患部への適用は、本発明に係るエマル
ション組成物又は癒着防止剤の剤形に応じた方法を用いればよい。例えば、本発明に係る
エマルション組成物又は癒着防止剤がポンプスプレー剤であれば、例えば汎用的な手動式
などの非ガス噴射式のスプレー容器を用いて、本発明に係るエマルション組成物又は癒着
防止剤を損傷部位(例えば、創傷部位)や炎症部位などの患部にスプレーすることができ
る。内視鏡下手術や腹腔鏡下手術の場合には、内視鏡下手術や腹腔鏡下手術の際に用いる
スプレーノズル等を用いて本発明に係るエマルション組成物又は癒着防止剤を損傷部位(
例えば、創傷部位)などの患部にスプレーすることもできる。本発明において「スプレー
する」とは、圧力をかけて目的物質を液滴状、霧状、微粒子状、又は泡状等に噴出させる
(噴霧及び/又は噴射させる)ことをいう。本発明に係るエマルション組成物又は癒着防
止剤がエアゾール剤であれば、ガス噴射式エアゾール容器を用いて、損傷部位(例えば、
創傷部位)や炎症部位などの患部に本発明に係るエマルション組成物又は癒着防止剤を噴
出させればよい。本発明に係るエマルション組成物又は癒着防止剤が塗布剤であれば、適
量を取り、損傷部位(例えば、創傷部位)や炎症部位などの患部に塗布すればよい。本発
明に係るエマルション組成物又は癒着防止剤が注射剤の場合には、損傷部位(例えば、創
傷部位)や炎症部位などの患部に癒着防止剤を注入すればよい。
本発明に係るエマルション組成物又は癒着防止剤は、損傷部位(例えば、創傷部位)や
炎症部位などの患部を十分に覆うことができる量で損傷部位(例えば、創傷部位)や炎症
部位などの患部に適用することが好ましい。本発明に係る癒着防止剤の具体的な適用量は
、好ましい一実施形態では、適用部位1cm当たりの上記脂質化合物の量で0.1mg
〜300mg、例えば0.1〜100mg、5〜300mg又は1〜60mgでありうる
本発明に係るエマルション組成物又は癒着防止剤を適用する対象(患者)は、典型的に
は、ヒト、家畜、愛玩動物、実験動物等などの哺乳動物を始めとする動物である。外科手
術、外傷、疾患等により組織(臓器)が損傷を受けたか又は受けると見込まれる対象が特
に好ましい。外科手術には、開腹手術の他、内視鏡下手術や腹腔鏡下手術なども含まれる
本発明に係るエマルション組成物又は癒着防止剤は、本発明に係るエマルション組成物
又は癒着防止剤を患部に適用した後、腹壁縫合等のさらなる医療処置を行う前に、一定時
間の待機時間を設けてもよいが、設けなくてもよい。本発明に係るエマルション組成物又
は癒着防止剤は、所定の待機時間を設けなくても、ごく短時間のうちに、エマルション中
の生体付着性の高い微粒子が組織上に高密度に定着し、患部を効果的に被覆することがで
きる。
本発明に係るエマルション組成物又は癒着防止剤を患部に適用した後、腹壁縫合等のさ
らなる医療処置を必要に応じて行い、癒着防止処置を完了する。本発明に係るエマルショ
ン組成物又は癒着防止剤は生体適合性が高く、また通常は、癒着防止機能を発揮した後に
体内で分解・排出されることから手術等により後で除去する必要がなく、有利に利用でき
る。
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲は
これら実施例に限定されるものではない。
なお、下記実施例1、3に記載した各化合物自体の粘度は粘度・粘弾性測定装置(Ge
mini II、マルバーン社)を使用し、温度25℃にて測定した。
[実施例1] モノO−(5,9,13−トリメチルテトラデカ−4,8,12−トリエ
ノイル)グリセロールの合成
Figure 2019193684
200〜250mmHgの減圧下、グリセロール9.2g(0.10mol)及び炭酸
カリウム0.28g(2.0mmol)の乾燥N,N−ジメチルホルムアミド(20mL
)溶液に、85℃で5,9,13−トリメチルテトラデカ−4,8,12−トリエン酸メ
チル(ファルネシル酢酸メチル)13.9g(50.0mmol)を徐々に滴下し、同一
温度で3時間撹拌した。この間、反応で生じたメタノールは留去した。得られた反応溶液
を酢酸エチル/ヘキサン混合溶媒(1:1,150mL)で希釈し、水、飽和重曹水、飽
和食塩水(2回)で洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過後濃縮することによ
って得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10
0:0〜0:100)で精製することにより、表題の化合物8.22g(収率49%)を
無色透明液体として得た。得られた化合物についてH−NMR測定及び粘度測定を行っ
た結果は以下の通りである。
H−NMRスペクトル(270MHz,CDCl,TMS)δ:1.5−1.8(
m,12H),1.9−2.1(m,8H),2.1(brs,1H,OH),2.25
−2.45(m,4H),2.56(brs,1H,OH),3.59(dd,J=5.
6,11.2Hz,1H),3.68(dd,J=3.6,11.2Hz,1H),3.
92(m,1H),4.14(dd,J=6.0,11.6Hz,1H),4.21(d
d,J=4.8,11.6Hz,1H),5.02−5.16(m,3H)
粘度:0.26Pa・s(せん断速度92 1/s)
合成されたモノO−(5,9,13−トリメチルテトラデカ−4,8,12−トリエノ
イル)グリセロールを、ファルネシル酢酸グリセリルとも称する。
[実施例2] モノO−(5,9,13−トリメチルテトラデカノイル)グリセロールの
合成
Figure 2019193684
5,9,13−トリメチルテトラデカン酸メチル50.3g(177mmol)に2,
2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノール70g(0.53mol)と炭酸
カリウム36.7g(266mmol)を添加し、200〜250mmHgの減圧下、8
5℃で3時間撹拌した。この間、反応で生じたメタノールは留去した。得られた反応溶液
を減圧濃縮(50℃→210℃、1.4kPa→0.38kPa)した後、シリカゲルカ
ラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル)で精製することにより、5,9,13
−トリメチルテトラデカン酸(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メ
チル43.0g(収率63%)を得た。
5,9,13−トリメチルテトラデカン酸(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン
−4−イル)メチル32.7g(85.0mmol)のテトラヒドロフラン(340mL
)溶液に、室温で3M塩酸85mLを添加し、同一温度で5時間撹拌した。この反応溶液
を酢酸エチル(300mL)、飽和重曹水(400mL)に加えて分液した。得られた有
機層を飽和食塩水で洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過後濃縮することによ
って得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル)で精
製することにより、表題の化合物28.7g(収率98%)を無色透明液体として得た。
得られた化合物についてH−NMRを測定した結果は以下の通りである。
H−NMRスペクトル(270MHz,CDCl,TMS)δ:0.7−0.9(
m,12H),0.95−1.45(m,16H),1.45−1.75(m,3H),
2.34 (t, J=7.4Hz, 2H),3.60(dd,J=5.8,11.5
Hz,1H),3.70(dd,J=4.0,11.5Hz,1H),3.94(m,1
H),4.15(dd,J=5.9,11.7Hz,1H),4.21(dd,J=4.
7,11.7Hz,1H)
合成されたモノO−(5,9,13−トリメチルテトラデカノイル)グリセロールを、
飽和C17グリセリンエステルとも称する。
[実施例3] モノO−(5,9,13−トリメチルテトラデカ−4−エノイル)グリセ
ロールの合成
Figure 2019193684
グリセロール0.65g(7.1mmol)及び炭酸カリウム0.59g(4.3mm
ol)の乾燥N,N−ジメチルホルムアミド(3.5mL)溶液に、80℃で5,9,1
3−トリメチルテトラデカ−4−エン酸メチル(テトラヒドロファルネシル酢酸メチル)
1.0g(3.5mmol)をゆっくり滴下した。100℃で18時間撹拌した後、反応
液に1M塩酸を添加し、エーテルで抽出した。抽出液を飽和重曹水、飽和食塩水で順次洗
浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過、濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラム
クロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン混液)で精製することにより、表題の化合物
を無色透明液体として得た。
得られた化合物について、H−NMR測定及び粘度測定を行った結果は以下の通りで
ある。
H−NMRスペクトル(300MHz,CDCl,TMS)δ:0.80−0.9
0(m,9H),1.00−1.70(m,15H),1.97(td,J=7.8,1
7.0Hz,2H),2.13(t,J=6.1Hz,1H,OH),2.25−2.4
5(m,4H),2.55(d,J=5.2Hz,1H,OH),3.50−4.00(
m,3H),4.10−4.25(m,2H),5.08(t,J=6.7Hz,1H)
粘度:0.48Pa・s(せん断速度92 1/s)
合成されたモノO−(5,9,13−トリメチルテトラデカ−4−エノイル)グリセロ
ールを、C17グリセリンエステルとも称する。
[実施例4] モノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカ−4−エノイル
)ジグリセロール
Figure 2019193684
60〜70mmHgの減圧かつ窒素気流下、ジグリセロール259g(1.56mol
)及び炭酸カリウム1.58g(1.15mmol)の乾燥N,N−ジメチルホルムアミ
ド(700mL)溶液に、78〜83℃で5,9,13,17−テトラメチルオクタデカ
−4−エン酸メチル199g(0.564mol)を徐々に滴下した。同一温度で10時
間撹拌した後、75℃でギ酸を添加しpHを4に調整した。得られた溶液を減圧濃縮した
後、t−ブチルメチルエーテル(1.5L)で希釈し、生じた不溶物を濾別した。得られ
た濾液を10%重曹水で2回洗浄した後、活性炭(8g)で処理し脱色した。濾過後濃縮
して得られた残渣をエタノールで溶解し、セルロースパウダーで濾過した。濃縮して得ら
れた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル混液)で精製す
ることにより、表題の化合物を透明粘性液体として得た。
得られた化合物について、H−NMR測定を行った結果は以下の通りである。
H−NMRスペクトル(300MHz,CDCl3,TMS)δ:0.80−0.9
0(m,12H),1.00−1.70(m,22H),1.97(ddd,J=6.9
,7.8,17.4Hz,2H),2.20−2.45(m,4H),3.50−4.1
0(m,8H),4.10−4.25(m,2H),5.08(dd,J=6.6,6.
6Hz,1H)
[実施例5] モノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカノイル)エリス
リトールの合成
Figure 2019193684
窒素雰囲気下、5,9,13,17−テトラメチルオクタデカン酸10g、塩化メチレ
ン20mlにピリジンを1滴加え、室温で塩化チオニル5.2gを滴下した。滴下終了後
、1時間還流し、減圧下に濃縮して5,9,13,17−テトラメチルオクタデカン酸ク
ロリドを10.5g得た。
エリスリトール2.56g、ピリジン2.21g、乾燥DMF70mlを混合し加熱溶
解させた。室温まで冷却し、上記で得られた5,9,13,17−テトラメチルオクタデ
カン酸クロリド5gを塩化メチレン10mlに溶解した溶液を滴下し、滴下後1時間室温
で攪拌した。得られた反応液に塩化メチレン100mlを加え、飽和食塩水で3回洗浄し
、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過、減圧濃縮した後、シリカゲルカラムクロマトグ
ラフィーで精製することにより、透明半固体状のモノO−(5,9,13,17−テトラ
メチルオクタデカノイル)エリスリトールを2.83g得た。HPLC分析による本品の
純度は、1−O−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカノイル)エリスリトー
ル91.6%、2−O−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカノイル)エリス
リトール8.4%であった。またH−NMR測定の結果は以下の通りであった。
H−NMRスペクトル(270MHz、CDCl3,TMS)δ:0.8−0.9(
m,15H),1.0−1.7(m,26H),2.11(br.s,1H),2.33
(t,J=7.9Hz,2H),2.66(br.s,1H),2.75(br.s,1
H),3.6−3.9(m,4H),4.29−4.36(m,2H)
[実施例6] 1−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル)−β−D−
キシロピラノシドの合成
Figure 2019193684
アルゴン雰囲気下、乾燥させたモレキュラーシーブ4A(2g)に、減圧乾燥したテト
ラ−O−アセチル−β−D−キシロピラノシド(5g、15.7mM)、100mlの塩
化メチレンを加え、10〜30分攪拌した。5〜8℃に冷却後、1M塩化スズの塩化メチ
レン溶液16mlを滴下し、室温で20分撹拌した。−10℃まで冷却した後、3,7,
11,15−テトラメチルヘキサデカノール(4.69g、15.7mM)の16ml塩
化メチレン溶液を30分程かけて滴下し、そのまま4時間攪拌を続けた。この溶液を飽和
炭酸水素ナトリウム水溶液に注ぎ、塩化メチレン100mlで3回抽出した後に、水で洗
浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濾過し、濃縮した。次いで混合物をシリ
カゲルカラムクロマトグラフィーで精製した(溶出溶媒:ヘキサン−酢酸エチル混合溶媒
)。
得られた1−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル)−β−D−キシ
ロピラノシドトリアセテートをメタノール5.5mlに溶解し、これに0.05Mのナト
リウムメチラート2.5mlを加えた。室温で4.5時間攪拌した後、等量の1N塩酸を
加えて中和した。溶液を濃縮した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製(溶出
溶媒:クロロホルム−メタノール混合溶媒)した後、減圧乾燥し、表題の化合物1−O−
(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル)−β−D−キシロピラノシドを、白
色ワックス状の固体として得た。H−NMR測定の結果は以下の通りであった。
H−NMRスペクトル(270MHz、CDCl3,TMS)δ:0.8−0.9(
m,15H),0.95−1.75(m,24H),2.71(brs,1H,OH),
2.87(brs,1H,OH),3.26(brs,1H,OH),3.37(dd,
J=8.0,11.9Hz,1H),3.4−3.65(m,3H),3.74(m,1
H),3.90(m,1H),4.04(dd,J=4.2,11.9Hz,1H),4
.37(d,J=6.0Hz,1H)
[実施例7] 油分を含むエマルションの調製
後掲の表1に示す配合比に従って、実施例1〜3で合成した化合物(脂質)、油分、界
面活性剤としてプルロニックF127(ユニルーブ(R)70DP−950B、日油株式
会社、又はAldrich P2443)、及びエタノール(EtOH;サンプルNo.
13及び19には添加しない)を混合した後、50℃の湯浴で溶解した。得られた溶液に
注射用水(大塚蒸留水)を添加後、薬匙又はスターラーチップで撹拌して、懸濁液とした
。さらに、この懸濁液を高圧ホモジナイザー(スターバストminimo、スギノマシン
製)で分散させることによって、微粒子を含有する白色のエマルションNo.1〜37を
調製した。これらエマルションは、それぞれ10〜30gの量で調製した。
脂質に対して1%以上の様々な種類の油分を添加することによって、脂質濃度15〜1
8%のエマルションはもとより、脂質濃度18%より高濃度のエマルションも成功裏に調
製された。
[比較例1] 油分を含まないエマルションの調製
表1に示す配合比に従い、油分を添加しないこと以外は実施例7と同様にして、微粒子
を含有する、脂質濃度13.5%のエマルションNo.38、脂質濃度15%のエマルシ
ョンNo.39、脂質濃度18%のエマルションNo.40、脂質濃度12%のエマルシ
ョンNo.41を調製した。これらエマルションは、7.39g(No.38)、又は2
0g(No.39、40、及び41)の量で調製した。
油分を含まないこれらのエマルションは、脂質濃度の上昇に伴い粘性が高まり、脂質濃
度18%のエマルションまで、高圧ホモジナイザーを用いた調製が可能であった。
[実施例8] 各エマルションの粒子径分布の測定
実施例7又は比較例1で調製したサンプルNo.1〜41の各エマルションに対して、ゼータサイザーNano−ZS(マルバーン製)を使用して、動的光散乱法により粒子径分布を測定した。測定サンプルは各エマルションを蒸留水で200倍希釈することにより調製した。各エマルションについて測定された平均粒子径(nm)(Z−Average)とPdI(多分散指数)を表1に示す。PdIの測定結果によって示されるように、試験したいずれのエマルションについても狭い径分布であった。
Figure 2019193684
[実施例9] 各エマルションの液晶構造の解析
実施例7又は比較例1で調製したサンプルNo.3、8、9、11、12、14、17、23、26、27、28、30、31、33、35、37、及び38の各エマルションについて、NANO Viewerナノスケールエックス線構造評価装置(Rigaku製)を使用して、小角エックス線散乱(SAXS)による構造解析を行った。各エマルションを大気圧下にてキャピラリーに導入し、減圧状態の装置内で測定(試料自体は大気圧下)した。得られたSAXSの強度分布を図1〜17に示す。サンプルNo.3、8、9、14、17、23、26〜28、35、及び37のエマルションから得られた散乱強度分布(図1〜3、6〜11、15、16)では、少なくとも2本の散乱ピークが観測された。ピークの比は逆ヘキサゴナル液晶に特有の比1:√3:2を示したことから、それらのエマルションは逆ヘキサゴナル液晶の微粒子が水相に分散した液晶エマルション(ヘキサソーム)であることが示された。一方、サンプルNo.11、12、及び30,31,33のエマルションから得られた散乱強度分布(図4、5、12〜14)では、ブロードな散乱ピークが観測され、それらのエマルションはスポンジ相(L3相)の微粒子が水相に分散した液晶エマルションであると考えられた。さらに、サンプルNo.38のエマルションから得られた散乱強度分布(図17)では、少なくとも6本の散乱ピークが観測され、ピークの比は結晶学的空間群Pn3mに属するキュービック液晶に特有の比√2:√3:√4:√6:√8:√9を示したことから、そのエマルションは結晶学的空間群Pn3mに属するキュービック液晶の微粒子が水相に分散した液晶エマルション(キューボソーム)であることが示された。
[実施例10] ポンプスプレー剤の作製
実施例7又は比較例1で調製したサンプルNo.2〜4、6、8〜12、14、17、18、20、21、23、26〜28、30、31、33、及び35〜38の各エマルション4〜5mLを、それぞれ、手動式簡易スプレーボトル(スプレーバイアルNo.2、マルエム製)に充填することによって、ポンプスプレー剤を作製した。
各ポンプスプレー剤について、試験面まで約2cmの距離を離して、1回スプレーしたところ、エマルションが付着した範囲は、いずれも略円形となった。全てのポンプスプレー剤の噴霧状態を表2に示した。また、サンプルNo.2、4、6、8〜12、14、17、18、20、23、30、31、33、及び35〜38を用いた各ポンプスプレー剤につき、1回スプレーあたりの噴霧量(mg)とそれに含まれる脂質量(mg;換算値)(n=5の平均値)、及び、1回スプレーあたりの噴霧面積(cm2)(n=3の平均値)も表2に示した。表2に示す通り、噴霧状態に多少の違いはあるが、いずれのサンプルもスプレーボトルを使用して噴霧することができた。
Figure 2019193684
[実施例11] 油分を含むエマルションの癒着防止効果の評価
10週齢雌Wistarラットを用いて各ポンプスプレー剤の癒着防止効果を評価した。実施例10で作製した、サンプルNo.2、4、6、9、10、14、17、18、30、31、33、37を、ポンプスプレー剤として用いた。まず、ラットに対しペントバルビタールを用いて全身麻酔を施行し、仰臥位とし、約30mmの腹部正中切開で開腹した。左右の上腹部壁側腹膜に約20mmの切開を加え、完全に止血した。5−0絹糸を用いて左右の腹膜切開部を6針で連続縫合閉鎖した。
続いて、腹膜右側の切開縫合部に対して、各ポンプスプレー剤を縫合部まで約2cmの距離から2回スプレーして、縫合部を被覆した(サンプル適用側)。腹膜左側の切開縫合部には何も適用しなかった(非適用側/対照)。腹膜右側の切開縫合部にサンプルを適用して、待機時間0分又は5分後、腹壁を2層で縫合閉鎖して手術を終了した。
手術7日後、再度全身麻酔を施行し、開腹した。下記の癒着強度スコアリング及び癒着範囲率の定義に従って、サンプル適用側と非適用側の切開縫合部における癒着を評価した。
癒着強度:
・グレード0 癒着なし
・グレード1 軽い牽引で剥離可能な癒着(組織損傷を伴わない)
・グレード2 強い牽引で剥離可能な癒着(組織損傷を伴わない)
・グレード3 強い牽引の剥離により組織損傷を伴う癒着
癒着範囲率:
約20mmの切開縫合部に対する癒着長さの割合(%)
癒着防止効果を評価した結果(試験No.1〜13)を表3に示す。
Figure 2019193684
いずれのサンプルも、非適用側と比較して、癒着強度と癒着範囲率の両方で、サンプル
適用側で高い癒着防止(低減)効果を示した。同一組成のサンプルは、待機時間の有無にかかわらず、高い癒着防止効果を示した(試験No.4 vs. 試験No.5;試験No.6 vs. 試験No.7;及び試験No.8 vs. 試験No.9)。なお、試験No.1〜13の試験結果全体において、観察された癒着の大半は脂肪との癒着であったが、脂肪以外の臓器(例えば、小腸、大腸、盲腸、肝臓)との癒着数は、非適用側で8例であったのに対してサンプル適用側で4例であった。このように、サンプル適用側では脂肪以外の組織/臓器との癒着も防止(低減)されていた。
[比較例2] 油分を含まないエマルションの癒着防止効果の評価
実施例10で作製した、脂質濃度13.5%の油分を含まないサンプルNo.38を用いたポンプスプレー剤について、実施例11に示した方法に従って癒着防止効果を評価した。その結果を表4に示す。
Figure 2019193684
本サンプルは、非適用側と比較して、サンプル適用側で癒着強度の低減を示した。一方、非適用側と比較して、サンプル適用側で癒着範囲率が低減したものの、油分を含むサンプルによる評価結果(試験No.1〜13)と比較すると癒着範囲率は相対的に高く、癒着防止効果はやや劣っていた。
[比較例3] セプラフィルムによる癒着防止効果の評価
実施例11に示した方法を用い、但しポンプスプレー剤を適用する代わりに、サンプル適用側に縦2cmx横3cmの大きさのセプラフィルム(科研製薬株式会社)断片1枚を貼付して、癒着防止効果を評価した(ラット数5匹、待機時間なし)。その結果、非適用側の癒着強度は平均±標準偏差2.4±1.3、癒着範囲率は平均±標準偏差64±46%であったのに対し、セプラフィルム適用側の癒着強度は平均±標準偏差2.4±1.3、癒着範囲は平均±標準偏差60±47%であり、セプラフィルムの使用による癒着防止効果はほとんど認められなかった。
[実施例12] 各エマルションについての安定性試験
実施例7で調製したサンプルNo.1、2、7、9、10、13、14、18〜21、23、24、30〜32、及び35〜37の各エマルション(油分を含有)をガラス製バイアル(スクリュー管瓶No.2又はNo.5、マルエム製)中に室温で保存し、表5に示す経過期間後の粒子径分布を測定した。粒子径分布の測定にはゼータサイザーNano−ZS(マルバーン製)を使用した。測定サンプルは各エマルションを蒸留水で200倍希釈することにより調製した。各エマルションの経過期間後の平均粒子径(nm)(Z−Average)とPdI(多分散指数)を、エマルション調製直後の平均粒子径(nm)及びPdI(表1より転記)とともに、表5に示す。また比較例1で調製したサンプルNo.38〜41の各エマルション(油分不含)についても同様の方法で一定期間にわたり室温で保存し、経時変化を観察した。なおサンプルNo.13及び19のみ、エタノール不含である(表1参照)。
Figure 2019193684
油分を含むサンプルNo.1、2、7、9、10、13、14、18〜21、23、24、30〜32、及び35〜37の各エマルションについて、調製直後と一定期間経過後の平均粒子径とPdIの測定値から示されるように、室温保存後に粒子径分布の大きな変化は見られず、凝集塊も生じなかったことから、いずれのエマルションも安定であることが示された。
一方、油分を含まないサンプルNo.41のエマルションについて、調製直後から2ヵ月経過後までの平均粒子径の変化は、脂質濃度が12重量%と最も低いにもかかわらず、+25.3nmであり、大きな増加が見られた。さらに、油分を含まないサンプルのエマルション(サンプルNo.38〜41)においては、室温で1ヵ月以内に小さな凝集物が目視で確認され、それが経時的に成長して、凝集塊となった。
[実施例13] 各エマルションのせん断粘度の測定
実施例7に記載する方法により、実施例3で合成したC17グリセリンエステル、油分、プルロニックF127(ユニルーブ(R)70DP−950B、日油株式会社)、エタノール、及び注射用水(大塚蒸留水)を用い、表6に示す配合比に従ってエマルションを調製した。各エマルションについて、粘度・粘弾性測定装置(Gemini II、マルバーン社;コーンプレートφ40mm、コーン角度1°)を使用し、温度25℃において、せん断速度1〜4,000 1/s、及び、10,000 1/sでせん断粘度の測定を行った。
せん断速度100 1/s、及び、10,000 1/sにおける粘度(Pa・s)を表6に示す。なお典型的なせん断速度は、押し出し成形では1〜100 1/s、刷毛塗り塗材では10〜1,000 1/s、スプレー剤で10,000〜100,000 1/sとされている。
Figure 2019193684
脂質濃度15%及び18%のスクアレン又はミリスチン酸イソプロピルを含むエマルションの粘度を、油分を含まないエマルションの粘度と比較すると、いずれの脂質濃度においても、油分を含むエマルションの粘度が油分を含まないエマルションの粘度を下回った(試験No.15又は試験No.19の粘度 < 試験No.24の粘度、試験No.16又は試験No.20の粘度 < 試験No.25の粘度)。
さらに、脂質濃度21%のスクアレン又はミリスチン酸イソプロピルを含むエマルションの10000 1/sでの粘度は、脂質濃度18%の油分を含まないエマルションの粘度も下回った(試験No.17及び試験No.21の粘度<試験No.25の粘度)。
表6に示す結果から、脂質含有エマルションへの油分の添加は、脂質濃度の増加に伴う粘度の上昇を抑制し、この作用が高脂質濃度のエマルションの調製を容易にすることが示された。
[実施例14] 油分を含むエマルションの癒着防止効果の評価
サンプルNo.12とNo.15の癒着防止効果を評価した。
実施例11に示した方法に従って、実施例10で作製したサンプルNo.12のポンプスプレー剤をスプレーすることにより切開縫合部に適用し、癒着を評価した。
実施例7で調製したサンプルNo.15は薬さじで塗布した。具体的には、まず、10週齢雌Wistarラットに対しペントバルビタールを用いて全身麻酔を施行し、仰臥位とし、約30mmの腹部正中切開で開腹した。左右の上腹部壁側腹膜に約20mmの切開を加え、完全に止血した。5−0絹糸を用いて左右の腹膜切開部を6針で連続縫合閉鎖した。続いて、腹膜右側の切開縫合部に、平均65mgのサンプルNo.15を薬さじを用いて塗布して(約3cm2の範囲)、縫合部を被覆した(サンプル適用側)。腹膜左側の
切開縫合部には何も適用しなかった(非適用側/対照)。腹膜右側の切開縫合部にサンプルを適用してすぐ、腹壁を2層で縫合閉鎖して手術を終了した。その後の癒着の評価は、実施例11と同様にして実施した。その結果を表7に示す。
Figure 2019193684
ポンプスプレー剤の剤形のサンプルNo.12、及び塗布剤の剤形のサンプルNo.15はいずれも、非適用側と比較して、癒着強度と癒着範囲率の両方で、サンプル適用側で高い癒着防止(低減)効果を示した。
[実施例15] 各エマルションについての安定性試験
実施例7で調製したサンプルNo.3、8、10、11、12、14及び15の各エマルションについて、実施例12に示した方法により室温で一定期間経過後の粒子径分布を測定した。各エマルションの一定期間経過後の平均粒子径(nm)とPdIを、エマルション調製直後の平均粒子径(nm)及びPdI(表1より転記)とともに、表8に示した。
Figure 2019193684
保存期間後、油分を含むサンプルNo.3、8、10、11、12、14及び15の各エマルションはいずれも安定であることが示された。10ヵ月又はそれ以上に及ぶより長期間の室温保存後もエマルションは安定であった(サンプルNo.10及び14参照)。
本発明の癒着防止剤は、高濃度でも安定性の高い癒着防止剤として有利に用いることができる。

Claims (8)

  1. 下記一般式(I)で表される脂質化合物、油分、及び界面活性剤を水相中に含有するエ
    マルション組成物を含む、癒着防止剤。
    Figure 2019193684
    (式中、X及びYはそれぞれ水素原子を表すか又は一緒になって酸素原子を表し、nは0
    〜2の整数を表し、mは1又は2を表し、
    Figure 2019193684
    は一重結合又は2重結合を表し、Rはグリセロール、エリスリトール、ペンタエリスリト
    ール、ジグリセロール、トリグリセロール、グリセリン酸、キシロース、ソルビトール、
    アスコルビン酸、グルコース、ガラクトース、マンノース、ジペンタエリスリトール、マ
    ルトース、マンニトール、及びキシリトールからなる群から選択されるいずれか1つから
    1つの水酸基が除かれた親水性基を表す)
  2. エマルション組成物が前記脂質化合物を15重量%以上の量で含む、請求項1に記載の
    癒着防止剤。
  3. エマルション組成物が前記脂質化合物を21〜50重量%の量で含む、請求項1又は2
    に記載の癒着防止剤。
  4. エマルション組成物が、液晶エマルションである、請求項1〜3のいずれか1項に記載
    の癒着防止剤。
  5. 前記式中のRがグリセロール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジグリセロー
    ル、及びキシロースからなる群から選択されるいずれか1つから1つの水酸基が除かれた
    親水性基を表す、請求項1〜4のいずれか1項に記載の癒着防止剤。
  6. 前記脂質化合物が、以下:
    モノO−(5,9,13−トリメチルテトラデカ−4−エノイル)グリセロール、
    モノO−(5,9,13−トリメチルテトラデカ−4,8,12−トリエノイル)グリセ
    ロール、
    モノO−(5,9,13−トリメチルテトラデカノイル)グリセロール、
    モノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカ−4−エノイル)ジグリセロー
    ル、
    モノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカノイル)エリスリトール、及び
    1−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル)−β−D−キシロピラノシ

    のいずれかである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の癒着防止剤。
  7. 油分が炭化水素油、エステル油、又は植物油である、請求項1〜6のいずれか1項に記
    載の癒着防止剤。
  8. 油分がスクワラン、スクアレン、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルド
    デシル、テトラヒドロファルネシル酢酸メチル、ヒマシ油、及びオリーブ油からなる群よ
    り選択される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の癒着防止剤。
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