都会の解体現場等で見られるように、ビル等の建物を解体作業するに際しては、その外周部に作業足場を確保するために仮設養生体が設けられることが通常である。仮設養生体は、作業足場の確保以外にも、落下養生や外部への塵埃の飛散防止、防音等を目的として解体対象建物の側面全体を覆うシート等の遮蔽体を取り付けるためにも利用されることがある。
例えば、仮設養生体は解体施工中の建物の側方にのみ設けられるのが一般的であるが、近年では、建築施工時には雨天等においても作業可能なように、仮設養生体に施工中の建物の上方を覆う屋根を備え、該建物上部の施工現場の全天候化を図るものも開発されている。このように屋根を備えた仮設養生体を設置するには、建物の低層部を構築するまでの間に、仮設養生体の建物の側方を覆う部分を枠組足場材やパイプ製のトラス材等によって組み上げ、この後に屋根を架設するようにしている。
例えば下記特許文献1には、作業を円滑かつ安全に行うことができ、さらには仮設養生体組立の工期短縮化を図ることのできる仮設養生体の屋根を提供することを解決課題とし、建築施工時の建物を覆う発明が開示されている。これによれば、構築中の建物を覆うように設けられて、工事進捗に伴って漸次上方へ盛り替えられる仮設養生体の屋根であって、該屋根が、該屋根の連続する方向において定められた間隔を隔てて複数本設けられたチャンネル材と、前記屋根の連続する方向において互いに隣接する前記チャンネル材間に張設された複数本のレール材と、これらレール材に沿って移動自在に係合されて、前記フレーム材と略平行に延在する複数本のフレーム材と、互いに隣接するフレーム材間に取り付けられて柔軟性を有した屋根シートとから構成されていることが記載されている。しかし、特許文献1は建築施工中の上方への積み上げにかかる全天候型を目的とする屋根シートを設ける発明であるから、多層階建築物の解体現場における利用を目的とするものではなく、解体作業時には利用することができない。
また、下記特許文献2には、アスベスト成型板を用いた建物を解体する際に、アスベスト成型板が全く割れないように一枚ずつボルトを外して取り外すような作業を行うとすると、そのような作業は危険を伴い、また時間およびコストが掛かりすぎて、実際には不可能であり、コストを低減させるためにユンボ等の重機やハンマー等の打撃工具を用いて建物を解体する際には、必ずアスベスト成型板が割れて内部に含有されているアスベストが周囲に飛散してしまうという問題点を解決することを目的とする発明が開示されている。
この文献によれば、アスベスト成型板が用いられている建物を解体する際に、アスベストの飛散を確実に防ぐことのできるアスベスト成型板の解体時における飛散防止工法を提供するものであり、アスベスト成型板が屋根、天井、壁等に用いられている建物を解体するに際し、前記建物の側周に立設された足場にシートをかけて、該建物の側周を密閉養生しておき、前記アスベスト成型板に飛散防止薬液を吹き付けた後、該アスベスト成型板を破壊することが記載されている。
そしてこのような構成によって、アスベスト成型板が屋根、天井、壁等に用いられている建物を解体するに際し、建物の側周に立設された足場にシートをかけて建物の側周を密閉養生しておき、アスベスト成型板に飛散防止薬液を吹き付けた後、アスベスト成型板を破壊することとしたため、重機等やハンマー等の打撃工具を用いてコストを低減させて建物を解体することができ、また、この解体時に、アスベスト成型板には飛散防止薬液が吹き付けられて飛散が防がれており、アスベスト成型板が割れてもアスベストが飛散することがなく、また、建物の周囲は予めシートで密閉養生されているため、外部へアスベストが飛散することがなく、安全性を確保して良好に建物を解体することができるとされている。
また、これによりさらに、建物の窓や、建物外周と足場間の床面にも、シートをかけて養生しておくことにより、窓からのアスベストの飛散を防ぎ、また、床面上のアスベストが側溝へ流れることをも、確実に防ぐことができるものとなるとされている。さらに、下記特許文献2によれば、アスベスト成型板の破壊作業時にも、建物内の空中に飛散防止薬液を散布することとしたため、破壊作業時にアスベスト成型板が割れてアスベストが飛散した場合でも、アスベストの浮遊粉塵が外に飛散しないようにすることができると記載されている。また、解体作業後にシートに飛散防止薬液をかけてシートをコーティングすることにより、密閉養生用のシートにもアスベストが付着している恐れがあるため、飛散防止薬液でシートをコーティングして、アスベストの飛散を確実に防ぐことができるものとなることが記載されている。
また、下記特許文献3には、組立て、解体が容易で、晴天時や暴風雨時には簡単に収納でき、通常の降雨時のみに使用する経済的な土木工事用テント式屋根を実現することが開示されている。そのテント式屋根は、地盤上に立設した1本の主柱1と、この主柱の頂部から放射状に配置された少なくとも3本の主柱ロープ3と、主柱1に挿通されたリング体2と、頂点部分に設けた円孔をリング体2の外周に接合した山形状のシート4と、リング体からシート4の稜線に沿って放射状に配置されたテント支持ロープ5と、主柱ロープ3とテント支持ロープ5のそれぞれの下端を地盤に結合するアンカー基礎9と、リング体2の昇降装置14とから構成される。
建築物解体現場においては、当該建築物が民家や歩道及び車道または線路に近い場合等にはとりわけ飛散物の発生を防止することに留意しなければならない。特に昨今、安全性に対する意識や注意は社会的に高まっており、通行人に対する飛散物による傷害や近隣通行等車両への飛散物による損傷は何としても回避したいところである。また、新幹線等の線路近隣における解体現場から、仮に飛散物が線路上に飛散等すれば、新幹線が停止することになってその後安全点検確認作業を行うことになる等、その影響は極めて大きいものといえる。
本実施形態で説明する多層階建屋解体時の上方飛散防止養生システムにおいては、解体フロアとその下層階に対して、所定の大きさの養生シート支持柱挿入孔をそれぞれ設けて、当該養生シート支持柱挿入孔に養生シート支持柱を挿入する。養生シート支持柱は、例えば複数本(典型的には6000mm×3本)のH鋼を接続延伸して構成することができる。また、養生シート支持柱挿入孔は、挿入される養生シート支持柱が上下方向に移動可能な程度かつ養生シート支持柱の径より大きすぎない程度の大きさ(例えば400mm×400mm矩形)とする。
養生シート支持柱は、解体フロアとその下層階にそれぞれ設けられた各養生シート支持柱挿入孔に挿入されて、当該挿入箇所で固定支持されることにより、安定した状態で、解体フロアから上方へ所定高さだけ凸設されるものとなる。そして、このように凸設された養生シート支持柱を、解体フロアの頭上全体に張架される飛散防止養生シートを支持するための支持柱として利用する。
このように構成された養生シート支持柱は、上層階から順次に解体が進行して、解体フロアが順次下層階へと変動していった場合でも、さらにその下層階に養生シート支持柱挿入孔を設け、順次降下させて上下離間した少なくとも二つの孔部分で支持固定されるものとする。従って、養生シート支持柱は、極めて安定して凸設されるだけでなく、頭頂部に飛散防止養生シートを係止された状態を維持したまま上下方向に容易に高さ変動させることが可能となる。
また、解体フロアが地上階等低層階に到達した場合には、養生シート支持柱は、地下階があれば地下階フロアに設けられた養生シート支持柱挿入孔を利用して、地下に降下させることも可能である。さらに、養生シート支持柱は、地上階付近では、例えばH鋼継ぎ足し本数を下側(地面側)から撤収して減らすことにより、頭頂部に飛散防止養生シートを係止したままその凸設高さを調整することも可能である。
このようにして、本実施形態で説明する上方飛散防止養生システムは、養生シート支持柱の頭頂部において飛散防止養生シートを支持した状態を維持したままで、当該養生シート支持柱の凸設高さを、解体進捗に応じて自在に調整変更可能に構成される。このため、作業者が解体フロアの変更に対応して逐一養生シート支持柱の頭頂部へ昇降して取り付け等調整作業をする必要がなく、安全かつ低コストで迅速な上方飛散防止養生高さ調整作業等が可能となる。作業者が養生シート支持柱の頭頂部へ足場を組んで昇降して、高い位置で飛散防止養生シートを取付け/取り外し等作業するのは、解体作業の最初と最後との1回ずつのみで済む。そこで、以下図面に基づいてさらに詳細に説明する。
図1(a)は、本実施形態にかかる複数階建屋1000に設置された飛散防止養生シート4000を上空から観察した状態を説明する平面図であり、図1(b)は解体フロア1100に設けられた養生シート支持柱挿入孔3500と挿入される養生シート支持柱3000との関係を示す図である。図1(b)においては、養生シート支持柱3000の典型例としてH250mmのH鋼を示している。
また、図1(c)は、飛散防止養生シート4000を設置した複数階建屋1000を側方から観察した状態を説明する側面断面図であり、図1(d)は、養生シート支持柱3000の典型的構成例として、各6000mmの支持柱が3本接続延伸されて合計18000mmの長さに構成される例を説明する図である。
養生シート支持柱3000は図1に例示するH鋼に限定されるものではなく、飛散防止養生シート4000を支持し得る棒状体であれば任意のものを利用してもよい。また、その接続本数も3本に限定されるものではなく任意本数を継ぎ足して任意長さに構成することができる。また、養生シート支持柱挿入孔3500は、図1に例示する形状や大きさものに限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内で任意の形状や大きさとすることができる。
図1に示すように、複数階建屋1000の屋上階(RFL)を解体フロア1100として、解体フロア1100とその下層階フロア1200(5FL)に対して、計6か所矩形形状に養生シート支持柱挿入孔3500を設けて、それぞれ養生シート支持柱3000(1)乃至3000(6)(以下、適宜養生シート支持柱3000と総称する)を、解体フロア1100から上方に8m凸設する。この例では、養生シート支持柱3000を18mとして構成しているので、解体フロア1100の下には10m下方に潜っている状態となる。
このため、図1に示すように、下層階フロア1200(5FL)及びさらにその下層階フロアの4FL下にまで養生シート支持柱3000が到達しており、それぞれのフロアにおいて、養生シート支持柱挿入孔3500を設けて挿入されている。また、図1示すように、解体されるべき複数階建屋1000の周囲を囲むように、その側壁周囲に沿って仮設足場2000が設置されている。
図1において飛散防止養生シート4000は、養生シート支持柱3000の頭頂部に係止されておりその荷重の一部が養生シート支持柱3000に支持されている。また、飛散防止養生シート4000の辺縁部は、仮設足場2000に係止されており、その係止高さは好ましくは養生シート支持柱3000の頭頂部への係止高さより低い位置とされる。
これにより、飛散防止養生シート4000から仮設足場2000へ印加される荷重や引っ張り力が低減されるので、飛散防止養生シート4000を安定して安全に保持できるものとなる。なお、図1等においては、説明の都合上、複数階建屋1000を5階建ての建物として示し地下階を有しないものとしても示しているが、これに限定されるものではなく、任意の階数の建物であってよく地下階を有していてもよい。
また、図1に示すように、各養生シート支持柱3000の間には矩形辺を構成するようにワイヤー6000が張架されており、ワイヤー6000により飛散防止養生シート4000が支持されている。なお、ワイヤー6000は、図1(a)に示す養生シート支持柱3000(3)及び3000(4)から左方向仮設足場2000へ、並びに、養生シート支持柱3000(1)及び3000(6)から右方向仮設足場2000へ、も張架されており、それぞれ飛散防止養生シート4000を支持する構成を例示している。
また、図1において符号5000は、サポート四角支柱であって、各フロア間(5FLと4FLとの間、4FLと3FLとの間、3FLと2FLとの間等)において、解体作業に伴う落盤が発生しないように支持する機能を有するものである。
図2乃至図4は、図1に示す本実施形態の飛散防止養生シート4000を複数階建屋1000に設置する手順を説明する図である。以下の全ての図面において、図1に対応する箇所については同一の符号を付してその説明を省略するものとする。図2(a)において、作業者が複数階建屋1000の解体フロア1100である屋上階(RFL)からその下層階フロア(5FL〜2FL)すべてに、養生シート支持柱3000の差し込み口となる養生シート支持柱挿入孔3500を手作業にて設ける。図2の例では、各フロアの対応する養生シート支持柱挿入孔3500は垂直方向に配置されているものとする。養生シート支持柱挿入孔3500は、その後一時的に敷板等で塞いでおくことが安全上の観点からは好ましい。
次に図2(b)に示すように、解体フロア1100に位置するクレーンで養生シート支持柱3000を吊り上げて、解体フロア1100の養生シート支持柱挿入孔3500から垂直下方に降ろす。この場合に、養生シート支持柱3000の完成長さ18mを吊り上げて降ろすのは困難な場合もあるので、まずは6mの支持柱を単本で挿入降下させることが好ましい。
次に、図2(c)に示すように、解体フロア1100の養生シート支持柱挿入孔3500から垂直下方に挿入した6mの支持柱が、解体フロア1100から1m程凸設されている状態で、一時仮止めする。この場合の固定には、例えば図13に示すような火打ち材(斜め補強材)を用いることができる。図13は、養生シート支持柱挿入孔3500へ挿入降下されたH鋼を火打ち材3600で仮固定する状態を説明する図である。
次に、図2(d)に示すように、クレーンで、解体フロア1100から1m程凸設されている支持柱上に二本目の支持柱(例えば600mm長さ)を吊り上げて、図13(d)に例示するように接続する。これにより、この時点での養生シート支持柱3000は600mm×2本で1200mmとなる。
続いて、図3(a)に示すように、1200mmとなった養生シート支持柱3000から、火打ち材3600を解除した上でクレーンを使ってさらに下降させる。そして、再び、解体フロア1100の養生シート支持柱挿入孔3500から垂直下方に挿入した12mの支持柱が、解体フロア1100から1m程凸設されている状態で、火打ち材3600を用いて一時仮止めする。
次に、図3(c)に示すように、クレーンで、解体フロア1100から1m程凸設されている支持柱上に三本目の支持柱(例えば600mm長さ)を吊り上げて、図13(d)に例示するように接続する。これにより、この時点での養生シート支持柱3000は600mm×3本で1800mmとなる。そして、図3(d)において、解体フロア1100より下層の下層階フロア1200(5FL)及び好ましくはさらにその下層階フロア(4FL)において、養生シート支持柱3000を火打ち材3600で仮固定した後、解体フロア1100の火打ち材3600を解除する。
解体フロア1100の火打ち材3600は養生シート支持柱3000をより安定的に保持する観点からは残存させておいても良いとも思われるが、解体フロア1100は解体に伴って多くの粉塵や破砕片・飛散物が発生し煩雑化することも多いことから、より安全で広い作業空間を確保するためにも撤収しておくことが好ましい。また、この後の飛散防止養生シート4000を張架する作業では、解体フロア1100の養生シート支持柱3000近辺に足場を組んで作業員が昇降することになるので、この場所の火打ち材3600は撤収しておくことが好ましい。
次に、図4(a)において、解体フロア1100の養生シート支持柱3000に沿ってローリングタワー(作業員足場)を組み立てて、各養生シート支持柱3000の頭頂部間に、例えば矩形辺を構成するようにワイヤー6000を張る。そして、図4(b)において、当該ワイヤー6000及び養生シート支持柱3000の頭頂部に、飛散防止養生シート4000を取り付ける。この場合に、ワイヤー6000及び飛散防止養生シート4000を張架するツールとして、レバーブロック(登録商標)(緊張器)を用いることもできる。また、飛散防止養生シート4000は、例えばメッシュシートとすることができ、5mmメッシュのダイオネット(登録商標)を用いることもできる。なお、ワイヤー6000は、最も外側の各養生シート支持柱3000から仮設足場2000へも張架させることが好ましい。
また、図5は、解体作業の進捗に伴う解体フロア1100の下層階への進行に際し、飛散防止養生シート4000を重機を用いて降下させる手順を説明する図である。図5(a)に示すように、(1)レバーブロック等によりワイヤー6000及び飛散防止養生シート4000を緩め、(2)火打ち材3600は全て撤収し、(3)養生シート支持柱3000を例えば16mmワイヤー5m×2本を用いて吊り下げながら降下させる。
また、図5(b)に示すように、(4)先程手順(2)で撤収した火打ち材3600をそれぞれ一つ下層階において設置して養生シート支持柱3000を仮固定し、その後(5)養生シート支持柱3000を再びレバーブロック等により緊張・張架させる。なお、仮設足場2000への係止箇所は、手作業でより下位置に係止し直すことができる。
すなわち、この方法によれば、飛散防止養生シート4000の架設高さを下降させる場合に、飛散防止養生シート4000それ自体の高さは単独で調整することなく、係止されている養生シート支持柱3000をそれごとまるまる全体として下降させるものとなる。このため、高い位置における飛散防止養生シート4000係止作業を都度行う必要がなく、極めて簡便・迅速かつ安全に行えるものとなる。なお、図5(c)は重機による養生シート支持柱3000の降下作業を拡大して説明しており、図5(d)は養生シート支持柱挿入孔3500に挿入されている養生シート支持柱3000を説明している。図5(d)に例示するように、H鋼はH250として、重量が支持柱一本あたり80kgのものを使用してもよく三本接続して養生シート支持柱3000全体を1.36tとしてもよい。
また、図6及び図7は、解体作業の進捗に伴う解体フロア1100の下層階への進行に際し、飛散防止養生シート4000を手作業により降下させる手順を説明する図である。図6(a)において養生シート支持柱3000沿いに枠組足場(タチウマ)を組み立てて、図6(b)において解体フロア1100下(下層階フロア1200の天井部分)の養生シート支持柱3000に火打ち材3600を固定する。これにより、当該天井部位の火打ち材3600がそのフロアの床面まで到達した時点がちょうど当該一フロア相当分の高さだけ降下したことになり、逐一高さを測定する必要なく一フロア相当分降下させることができる。
そして、図6(c)において解体フロア1100と下層階フロア1200の火打ち材3600を解除する。ここで、図6(d),(e)は、チェーンブロックを角パイプで上階フロアから養生シート支持柱3000の一例であるH鋼、に沿って吊り下げる構成を説明する詳細図である。
続いて、図7(a)に示すように、チェーンブロックを用いて作業員が養生シート支持柱3000を降下させる。この時、養生シート支持柱3000の頭頂部にはワイヤー6000と飛散防止養生シート4000が取り付けられているが、これらの緊張を少し緩めてからせり下げることが好ましい。続いて、図7(b)に示すように、解体フロア1100より下の下層階フロア1200及びさらにその下層階において、火打ち材3600を固定する。なお、図7(c)は、1.6tチェーンブロックを用いた作業員による養生シート支持柱3000の降下作業を説明する拡大図である。
図8は、複数階建屋1000の解体作業を説明する概要図であり、図9乃至図12は、複数階建屋1000の解体作業をさらに詳細に説明する図である。図8(a)において、まず複数階建屋1000の解体フロア1100(RFL)上に立設された外壁を解体してから、その床面である解体フロア1100自体を破砕等により解体する。
次に、図8(b)において仮設足場2000の高さを一フロア相当分低く構成してから、養生シート支持柱3000を階下に向けて降下させる。これに伴い、飛散防止養生シート4000の高さも降下させることができる。次に、新たな解体フロア1100(5FL)の外壁を解体して後、その床面(5FL)を解体する。
続いて、図8(c)において仮設足場2000の高さを一フロア相当分低く構成してから、養生シート支持柱3000の下端に新たな支持柱を接続して長くし、養生シート支持柱3000を階下に向けて降下させる。これに伴い、飛散防止養生シート4000の高さも降下させることができる。次に、新たな解体フロア1100(4FL)の外壁を解体して後、その床面(4FL)を解体する。
続いて、図8(d)において仮設足場2000の高さを一フロア相当分低く構成してから、養生シート支持柱3000を階下に向けて降下させる。これに伴い、飛散防止養生シート4000の高さも降下させることができる。次に、新たな解体フロア1100(3FL)の外壁を解体して後、その床面(3FL)を解体する。そして、最後に飛散防止養生シート4000が不要である場合には、養生シート支持柱3000を撤収することができる。
図8においては、2FLの天井までの高さが他の階よりも高いので2FLと3FLとの高さ間隔が他の階の高さ間隔よりも長い。このような場合でも、養生シート支持柱3000は新たな支持柱を継ぎ足し接続させて長さを調節できるので、下層階の養生シート支持柱挿入孔3500にまで届いて支持されるように調整対応可能である。なお、図9乃至図12の個々の作業説明については各図面の記載から明らかであるとともに、図8と重複することとなるのでここでは省略する。
(破砕機と養生シートとの高さ関係について)
図10(b)等に示しているように、破砕機等の破砕作業を遂行する重機と、その上方の養生シートとは、好ましくは常に8m〜10mの高さとなるように養生シート高さを調整する。すなわち、現に破砕作業をしているフロアに対して所定高さとするものではなく、破砕対象フロアに関係なく現に重機が配置されているフロアから常に所定の高さとなるように養生シート高さを調整することが好ましい。
これは、養生シートの高さは飛散防止の観点からは低ければ低いほど良く、すなわち破砕対象フロアに近接配置するほど好ましいものとなるが、これでは重機の作業空間を確保することが現実には困難となる。このため、重機の作業空間のみを確保可能となる程度の最低限の高さに養生シートを配置することが好ましいものとなる。
このような作業空間を確保するための高さは、破砕対象フロアや破砕対象箇所により決定されるというよりも、現実には重機が配置されているフロアからの高さに大きく依存する。さらに詳細には、重機の作業アームの長さに依存して当該アームが作業工程に応じて移動し動作するための空間が必要となる。
従って、破砕作業等を遂行する重機の配置フロアから常に8〜10m程度の高さ空間を確保するように、養生シートを高さ設定することにより、当該重機による破砕作業が、当該配置フロアであっても図10(b)や図12(c)に示すようにその上階であっても、いずれに対してもスムースに遂行されることが可能となるものである。この観点から、破砕作業を遂行する重機は、各アームあたりの長さを短くしたショートリーチ仕様の重機を使用することが好ましい。ショートリーチ仕様の重機は、アームが短くアーム本数が増やされている場合もあって、比較的狭小なスペースにおいても周囲への接触や衝突を回避しながら良好な作業を遂行することが可能である。(図22ご参照)
また、図14はH鋼差し込み口を形成する作業を断面で説明する図であり、図15はH鋼ピース固定の作業を当該工程実施写真と対比して断面で説明する図であって図3(a)に対応する作業を説明するものである。ここで、ピースとは、図面の記載から明らかなように、例えば火打ち材(斜め補強材)等のH鋼固定部材を意味する。また、図16は、ワイヤー等の設置作業を当該工程実施写真と対比して断面で説明する図であって図4(a)に対応する作業を説明するものである。また、図17は、重機が設置されるフロアよりも高い位置のフロアを解体するいわゆる見上げスラブ解体の作業を当該工程実施写真と対比して断面で説明する図でって図10(a)に対応する作業を説明するものである。
また、図18は、チェーンブロック等の取付け作業を当該工程実施写真と対比して断面で説明する図であって図6(e)に対応する作業を説明するものである。図19は、H鋼せり下げ作業を当該工程実施写真と対比して断面で説明する図であって図7(a)に対応する作業を説明するものである。また、図20は、作業員によるH鋼せり下げ作業を当該工程実施写真と対比して断面で説明する図であって図7(c)に対応する作業を説明するものである。図21は、ピース固定作業を当該工程実施写真と対比して断面で説明する図であって図7(b)に対応する作業を説明するものである。また、図22は、ショートリーチの破砕重機の典型例を説明する図である。
また、図23は、実施形態の現場を説明する図であって、図23(a)が作業員によるチェーンブロック取り付け作業を説明する図であり、図23(b)が作業員による火打ち材(斜め補強材)の設置作業を説明する図であり、図23(c)乃至図23(d)、図23(f)、図23(h)、図23(i)が、それぞれ頭上に本実施形態の養生シートを張架した状態で、重機による破砕作業を遂行している状態を説明する図である。また、図23(e)は、作業員によるチェーンブロックを利用したH鋼の降下作業を説明する図であり、図23(g)は、火打ち材(斜め補強材)で確実にフロアに固定されている状態をH鋼を説明する図であってかつH鋼は当該フロアを下方に貫通している状態を説明する図である。
また、図24乃至図27は、本実施形態の養生シートを頭上に張架した状態で破砕機(ショートリーチ)によるビルの解体作業を試行実験している現場状況を説明する図である。
本発明の飛散防止養生システムは、上記した実施形態等における説明に限定されるものではなく、当業者に自明な範囲でかつ本発明の開示する技術思想の範囲内において、適宜改良し、または/および適宜組み合わせ適用やアレンジして用いることが可能である。本書面内で例示される工具や材料は、適宜公知の他のツール等に置き換えて使用することも可能である。また、上述の説明から明らかなように本発明の複数階建屋1000とは、地上から上方にのみ複数階を備えるものに限られず、地上は1階建てでも地下階が存在すれば適用可能であり、複数フロアが存在すれば足りるものである。