JP2019182678A - 多孔質炭素の製造方法 - Google Patents

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聡則 井上
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Abstract

【課題】本発明は、低い製造コストで、嵩密度が大きく、かつ単位体積当たりの比表面積が大きい多孔質炭素を高い製造効率で製造できる多孔質炭素の製造方法の提供を目的とする。【解決手段】本発明の多孔質炭素の製造方法は、無灰炭が溶媒中に溶存する溶液を準備する工程と、上記準備工程の溶液中の溶媒を揮発する工程と、上記溶媒揮発工程で得られる固形分を成型する工程と、上記成型工程後の固形分の成型体を加熱処理する工程とを備え、上記溶媒が、酸素原子又は窒素原子を含み、かつ大気圧における沸点が50℃以上250℃未満である有機化合物を主成分とし、上記溶液における無灰炭の含有量が5質量%以上50質量%以下である。【選択図】図1

Description

本発明は、多孔質炭素の製造方法に関する。
表面に直径がミクロン又はナノメーターオーダーの細孔を有し、高い比表面積を有する多孔質炭素は、吸着材として有用である。この多孔質炭素の製造方法としては、例えば炭素原料を水蒸気やアルカリ性物質により賦活して比表面積を増大させる方法(特開2012−41199号公報)、有機質樹脂を酸化マグネシウム等の酸化物(鋳型粒子)と混合し炭素化した後、上記酸化物を取り除く方法(特開2016−41656号公報)などが挙げられる。
上記従来の多孔質炭素の製造方法では、原料を炭素化する工程に加えて、アルカリ性物質による賦活処理や鋳型粒子の除去処理を行う工程が必要であり、製造効率が低下すると共に製造コストも上昇する。
上記従来の多孔質炭素の製造方法では、炭素を侵食処理することでその表面に空隙を形成する。このような方法にあっては、比表面積は概ね侵食の程度に比例する。一方、比表面積を大きくすべく侵食の程度を大きくすると、内部に形成される空間も大きくなり、多孔質炭素自体の嵩が増す。このように嵩の増した、つまり嵩密度の低下した多孔質炭素では、単位質量当たりの比表面積が大きくなったとしても、単位体積当たりの比表面積はむしろ減少する傾向にある。
ここで、多孔質炭素の使用状態を考えると、例えば蓄電池に用いる場合であれば、多孔質炭素は一定体積の容器に多孔質炭素を充填して用いられる。つまり、多孔質炭素には単位面積当たりの比表面積が大きいこともさることながら、単位体積当たりの比表面積が大きいことが求められる。このため、多孔質炭素は嵩密度が大きいことが好ましい。
さらに、嵩密度の低下は多孔質炭素の強度の低下を意味するから、耐久性の観点からも多孔質炭素の嵩密度は大きいことが求められる。
特開2012−41199号公報 特開2016−41656号公報
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、低い製造コストで、嵩密度が大きく、かつ単位体積当たりの比表面積が大きい多孔質炭素を高い製造効率で製造できる多孔質炭素の製造方法の提供を目的とする。
上記課題を解決するためになされた発明は、無灰炭が溶媒中に溶存する溶液を準備する工程と、上記準備工程の溶液中の溶媒を揮発する工程と、上記溶媒揮発工程で得られる固形分を成型する工程と、上記成型工程後の固形分の成型体を加熱処理する工程とを備え、上記溶媒が、酸素原子又は窒素原子を含み、かつ大気圧における沸点が50℃以上250℃未満である有機化合物を主成分とし、上記溶液における無灰炭の含有量が5質量%以上50質量%以下である。
当該多孔質炭素の製造方法は、酸素原子又は窒素原子を含み、かつ大気圧における沸点が上記範囲内である有機化合物を主成分とする溶媒中に無灰炭を溶存させた溶液を用いる。無灰炭は石炭や石油ピッチに比べ炭素化収率が高いので、当該多孔質炭素の製造方法は多孔質炭素の製造効率が高い。
また、当該多孔質炭素の製造方法では、上記溶媒を用い、上記溶液における無灰炭の含有量を上記範囲内とすることで、溶媒揮発工程において無灰炭が溶存した状態から溶媒が容易に脱離するので、得られる固形分に多数のミクロ孔が誘起される。当該多孔質炭素の製造方法では、このミクロ孔の誘起された固形分を成型し、嵩密度を高めた後に加熱処理を行うので、製造される多孔質炭素の嵩密度を高められる。
さらに、上記固形分の主成分となる無灰炭は石炭や石油ピッチに比べ酸素等のヘテロ元素の割合が高いため、加熱処理時に結晶成長し難い。このため、加熱処理工程においてもミクロ孔が維持され、成型による嵩密度の向上と相まって単位体積当たりの比表面積を大きくすることができる。
また、当該多孔質炭素の製造方法は、賦活処理や鋳型粒子による処理を必要としないので製造コストを低減できる。
従って、当該多孔質炭素の製造方法を用いることで、低い製造コストで、嵩密度が大きく、かつ単位体積当たりの比表面積が大きい多孔質炭素を高い製造効率で製造できる。
上記溶媒揮発工程として、上記溶液を噴霧乾燥する工程を備え、上記噴霧乾燥工程で、上記溶液が噴霧される雰囲気温度を150℃以下とするとよい。溶媒揮発工程を噴霧乾燥により行うことで製造コストを低減できる。また、溶液を噴霧する温度を上記上限以下とすることで、溶媒が揮発して生じた細孔が潰れることを抑止できる。従って、低コストで比表面積が大きく、かつ緻密な多孔質炭素を製造できる。
上記溶媒揮発工程として、上記溶液の電界紡糸により、基板表面に微細繊維状の固形分を堆積する工程を備えるとよい。電界紡糸により嵩密度の大きい固形分を得易いので、製造される多孔質炭素の嵩密度をさらに高められる。
加熱処理工程で得られる多孔質炭素の嵩密度が0.5g/cm以上となるように、成型工程の成型圧力を制御するとよい。加熱処理工程で得られる多孔質炭素の嵩密度が0.5g/cm以上となるように成型工程の成型圧力を制御することで、単位体積当たりの比表面積をさらに増大できる。
上記成型圧力としては、0.8ton/cm以上3.0ton/cm以下が好ましい。上記成型圧力を上記範囲内とすることで、固形分の形状を維持したまま嵩密度を高められるので、単位体積当たりの比表面積を維持しつつ、得られる多孔質炭素の強度が高められる。
上記溶液準備工程として、石炭及び溶媒を混合する工程と、上記混合工程で得られたスラリー中の上記石炭から上記溶媒に可溶な成分として無灰炭を溶出させる工程と、上記溶出工程後のスラリーから上記無灰炭が溶存する溶液を分離する工程とを備えるとよい。上記溶液準備工程として、上記溶出工程を備えることで、石炭の溶媒抽出処理により無灰炭を溶媒に溶出できる。従って、この無灰炭が溶媒に溶出した溶液を溶媒揮発工程で用いることにより、無灰炭を固形物として取り出す必要がなくなるため、多孔質炭素の製造コストをさらに低減できる。
ここで、「主成分」とは、最も含有量の多い成分を意味し、例えば含有量が50質量%以上の成分をいう。
以上説明したように、本発明の多孔質炭素の製造方法を用いることで、低い製造コストで、嵩密度が大きく、かつ単位体積当たりの比表面積が大きい多孔質炭素を高い製造効率で製造できる。
図1は、本発明の一実施形態に係る多孔質炭素の製造方法を示すフロー図である。 図2は、図1の溶液準備工程のフロー図である。 図3は、図2とは異なる実施形態に係る多孔質炭素の製造方法の多孔質炭素の製造方法を示すフロー図である。 図4は、電界紡糸部を示す模式的概略図である。
[第一実施形態]
以下、本発明に係る多孔質炭素の製造方法の第一実施形態について説明する。
当該多孔質炭素の製造方法は、図1に示すように、溶液準備工程S1と、溶媒揮発工程S2と、成型工程S3と、加熱処理工程S4とを備える。当該多孔質炭素の製造方法は、溶媒揮発工程S2として噴霧乾燥工程S21を備える。また、当該多孔質炭素の製造方法は、図2に示すように溶液準備工程S1として、混合工程S11と、溶出工程S12と、分離工程S13とを備える。以下、各工程について説明する。
<混合工程>
混合工程S11では、石炭及び溶媒を混合する。この混合工程S11は、例えば石炭供給部、溶媒供給部、及び混合部により行える。
(石炭供給部)
石炭供給部は、石炭を混合部へ供給する。石炭供給部としては、常圧状態で使用される常圧ホッパー、常圧状態及び加圧状態で使用される加圧ホッパー等の公知の石炭ホッパーを用いることができる。
石炭供給部から供給する石炭は、無灰炭の原料となる石炭である。上記石炭としては、様々な品質の石炭を用いることができる。例えば無灰炭の抽出率の高い瀝青炭や、より安価な低品位炭(亜瀝青炭や褐炭)が好適に用いられる。また、石炭を粒度で分類すると、細かく粉砕された石炭が好適に用いられる。ここで「細かく粉砕された石炭」とは、例えば石炭全体の質量に対する粒度1mm未満の石炭の質量割合が80%以上である石炭を意味する。また、石炭供給部から供給する石炭として塊炭を用いることもできる。ここで「塊炭」とは、例えば石炭全体の質量に対する粒度5mm以上の石炭の質量割合が50%以上である石炭を意味する。塊炭は、細かく粉砕された石炭に比べて未溶解な固体の石炭の粒度が大きく保たれるため、後述する分離部での分離を効率化することができる。ここで、「粒度(粒径)」とは、JIS−Z8815:1994のふるい分け試験通則に準拠して測定した値をいう。なお、石炭の粒度による仕分けには、例えばJIS−Z8801−1:2006に規定する金属製網ふるいを用いることができる。
上記低品位炭の炭素含有率の下限としては、70質量%が好ましい。一方、上記低品位炭の炭素含有率の上限としては、85質量%が好ましく、82質量%がより好ましい。上記低品位炭の炭素含有率が上記下限未満であると、溶媒可溶成分の溶出率が低下するおそれがある。逆に、上記低品位炭の炭素含有率が上記上限を超えると、供給する石炭のコストが高くなるおそれがある。
なお、石炭供給部から混合部へ供給する石炭として、少量の溶媒を混合してスラリー化した石炭を用いてもよい。石炭供給部からスラリー化した石炭を混合部へ供給することにより、混合部において石炭が溶媒と混合し易くなり、石炭をより早く溶解させることができる。ただし、スラリー化する際に混合する溶媒の量が多いと、後述する昇温部でスラリーを溶出温度まで昇温するための熱量が不必要に大きくなるため、製造コストが増大するおそれがある。
(溶媒供給部)
溶媒供給部は、溶媒を混合部へ供給する。上記溶媒供給部は、溶媒を貯留する溶媒タンクを有し、この溶媒タンクから溶媒を混合部へ供給する。上記溶媒供給部から供給する溶媒は、石炭供給部から供給する石炭と混合部で混合される。
溶媒供給部から供給する溶媒は、酸素原子又は窒素原子を含む有機化合物を主成分とする。このように上記溶媒の主成分を酸素原子又は窒素原子を含む有機化合物とすることで、溶媒と無灰炭との親和性が高まり、抽出される溶液における無灰炭の含有量を高め易い。その結果、多孔質炭素の収量が増加するので、多孔質炭素の製造コストが低減できる。このような溶媒としては、ピリジン(CN)、テトラヒドロフラン(CO)、ジメチルホルムアミド((CHNCHO)、N−メチルピロリドン(CNO)などが挙げられる。中でも無灰炭と親和性が高いピリジン及びテトラヒドロフランが好ましい。なお、酸素原子又は窒素原子を含む有機化合物は1種類であってもよく、また2種類以上の有機化合物が混合されていてもよい。
上記溶媒の大気圧における沸点の下限値としては、50℃であり、60℃がより好ましく、65℃がさらに好ましい。一方。上記溶媒の沸点は、250℃未満であり、210℃未満がより好ましく、160℃未満がさらに好ましい。上記溶媒の沸点が上記下限未満であると、無灰炭が十分に溶解せず無灰炭の含有量を高められないおそれがある。逆に、上記溶媒の沸点が上記上限以上であると、溶媒揮発工程S2において溶媒の脱離に伴う圧力が不足するため、多孔質炭素の細孔が十分に形成されないおそれがある。
(混合部)
混合部は、石炭供給部から供給する石炭及び溶媒供給部から供給する溶媒を混合する。
上記混合部としては、調製槽を用いることができる。この調製槽には、供給管を介して上記石炭及び溶媒が供給される。上記調製槽では、この供給された石炭及び溶媒が混合され、スラリーが調製される。また、上記調製槽は、攪拌機を有しており、混合したスラリーを攪拌機で攪拌しながら保持することによりスラリーの混合状態を維持する。
調製槽におけるスラリー中の無水炭基準での石炭濃度は、溶媒の種類等により適宜決定されるが、上記石炭濃度の下限としては、5質量%が好ましく、10質量%がより好ましい。一方、上記石炭濃度の上限としては、65質量%が好ましく、40質量%がより好ましい。上記石炭濃度が上記下限未満であると、溶出工程S12で溶出される溶媒可溶成分の溶出量がスラリー処理量に対して少なくなるため、溶液に含まれる無灰炭の含有量が不十分となるおそれがある。逆に、上記石炭濃度が上記上限を超えると、溶媒中で上記溶媒可溶成分が飽和し易いため、上記溶媒可溶成分の溶出率が低下するおそれがある。
なお、混合部の調製槽で調製されたスラリーは、溶出工程S12で処理される。
<溶出工程>
溶出工程S12では、混合工程S11で得られたスラリー中の石炭から溶媒に可溶な石炭成分として無灰炭を溶出させる。溶出工程S12は、昇温部及び溶出部により行うことができる。
(昇温部)
昇温部は、混合工程S11で得られたスラリーを昇温する。
昇温部としては、内部を通過するスラリーを昇温できるものであれば特に限定されないが、例えば抵抗加熱式ヒーターや誘導加熱コイルが挙げられる。また、昇温部は、熱媒を用いて昇温を行うよう構成されていてもよく、例えば内部を通過するスラリーの流路の周囲に配設される加熱管を有し、この加熱管に蒸気、油等の熱媒を供給することでスラリーを昇温可能に構成されていてもよい。
昇温部による昇温後のスラリーの温度は、使用する溶媒に応じて適宜決定されるが、例えば80℃以上120℃以下とできる。上記スラリーの温度が上記下限未満であると、溶出率が低下するおそれがある。逆に、上記スラリーの温度が上記上限を超えると、溶媒が気化し過ぎるためスラリーの濃度を制御することが困難となるおそれがある。
また、昇温部の圧力としては、特に限定されないが、常圧(0.1MPa)とできる。
(溶出部)
溶出部は、上記混合部で得られ、上記昇温部で昇温されたスラリー中の石炭から溶媒に可溶な石炭成分を溶出させる。この溶媒可溶成分の主成分は無灰炭であり、この溶媒可溶成分を溶出した液体は、溶媒揮発工程S2の溶液として用いることができる。なお、無灰炭は、灰分が5質量%以下又は3質量%以下であり、灰分をほとんど含まず、水分は皆無であり、また例えば原料石炭よりも高い発熱量を示す。
溶出部としては、抽出槽を用いることができ、この抽出槽に上記昇温後のスラリーが供給される。上記抽出槽では、このスラリーの温度及び圧力を保持しながら溶媒に可溶な石炭成分を石炭から溶出させる。また、上記抽出槽は、攪拌機を有している。この攪拌機によりスラリーを攪拌することで上記溶出を促進できる。
なお、溶出部での溶出時間としては、特に限定されないが、溶媒可溶成分の抽出量と抽出効率との観点から10分以上70分以下が好ましい。
<分離工程>
分離工程S13では、溶出工程S12後のスラリーから上記無灰炭が溶存する溶液を分離する。具体的には、分離工程S13では、上記スラリーを上記溶液及び溶媒不溶成分に分離する。この分離工程S13は、分離部により行うことができる。なお、溶媒不溶成分は、抽出用溶媒に不溶な灰分と不溶石炭とを主として含み、これらに加え抽出用溶媒をさらに含む抽出残分をいう。
(分離部)
分離部における上記溶液及び溶媒不溶成分を分離する方法としては、例えば重力沈降法、濾過法、遠心分離法を用いることができ、それぞれ沈降槽、濾過器、遠心分離器が使用される。
以下、重力沈降法を例にとり分離方法について説明する。重力沈降法とは、沈降槽内で重力を利用して溶媒不溶成分を沈降させて固液分離する分離方法である。重力沈降法により分離を行う場合、無灰炭が溶存する溶液は、沈降槽の上部に溜まる。この溶液は必要に応じてフィルターユニットを用いて濾過した後、後述する噴霧部に排出される。一方、溶媒不溶成分は、分離部の下部から排出される。
また、重力沈降法により分離を行う場合、スラリーを分離部内に連続的に供給しながら上記溶液及び溶媒不溶成分を沈降槽から排出することができる。これにより連続的な固液分離処理が可能となる。
分離部内でスラリーを維持する時間は、特に限定されないが、例えば30分以上120分以下とでき、この時間内で分離部内の沈降分離が行われる。なお、石炭として塊炭を使用する場合には、沈降分離が効率化されるので、分離部内でスラリーを維持する時間を短縮できる。
なお、分離部内の温度及び圧力としては、昇温部による昇温後のスラリーの温度及び圧力と同様とできる。
上記溶液における無灰炭の含有量の下限としては、5質量%であり、8質量%がより好ましい。一方、上記溶液における無灰炭の含有量の上限としては、50質量%であり、40質量%がより好ましく、25質量%がさらに好ましい。上記無灰炭の含有量が上記下限未満であると、単位量あたりの溶液から得られる多孔質炭素の量が減少するので、製造効率が低下するおそれがある。逆に、上記無灰炭の含有量が上記上限を超えると、相対的に溶媒の量が不足し、溶媒が脱離する勢いが不十分となるため、ミクロ孔が十分に形成されないおそれがある。なお、上記無灰炭の含有量は、混合部で溶媒に加える石炭の量により調整することができる。
一方、上記溶媒不溶成分からは、溶媒を蒸発分離させて副生炭を得ることができる。副生炭は、軟化溶融性は示さないが、含酸素官能基が脱離されている。そのため、副生炭は、配合炭として用いた場合にこの配合炭に含まれる他の石炭の軟化溶融性を阻害しない。従って、この配合炭は例えばコークス原料の配合炭の一部として使用することができる。また、副生炭は一般の石炭と同様に燃料として利用してもよい。
<噴霧乾燥工程>
噴霧乾燥工程S21では、無灰炭が溶媒中に溶存する上記溶液を噴霧乾燥する。この噴霧乾燥工程S21は、噴霧部により行うことができる。
(噴霧部)
上記噴霧部としては、噴霧器を用いることができる。この噴霧器としては、公知のフラッシュ蒸留器やサイクロンを挙げることができる。
このような噴霧器は、分離部からの供給配管を通じて噴霧部に供給される溶液に噴霧用ガスを噴射する噴霧ノズルを有する。上記噴霧ノズルは、例えば2流体ノズルや4流体ノズルに供給配管を接続した構成とすることができる。上記噴霧ノズルは複数設けられてもよい。この場合、噴霧ノズル数(孔数)は、噴霧用ガスが噴射される空間の大きさ等により適宜決定される。
噴霧ノズルのノズル径の下限としては、0.1mmが好ましく、0.2mmがより好ましい。一方、噴霧ノズルのノズル径の上限としては、0.5mmが好ましく、0.4mmがより好ましい。噴霧ノズルのノズル径が上記下限未満であると、溶媒が不足し、溶媒の脱離が不十分となるため、ミクロ孔が十分に形成されないおそれがある。逆に、噴霧ノズルのノズル径が上記上限を超えると、得られる多孔質炭素の径が大きくなり易いため、多孔質炭素の比表面積(単位面積当たりの比表面積及び単位体積当たりの比表面積、以降単位面積当たりの比表面積及び単位体積当たりの比表面積の両方を意味する場合、単に「比表面積」ということがある)が不十分となるおそれがある。
上記噴霧器では、加熱された噴霧用ガスを噴霧ノズルにより上記溶液に衝突させることで上記溶液を微細化し分散させる。噴霧用ガスの衝突により霧状となった溶液のうち溶媒は、フラッシュ蒸留器やサイクロンの中で、自己顕熱及び加熱された噴霧用ガスからの熱量付与により蒸発する。当該多孔質炭素の製造方法では、上記溶媒の大気圧における沸点が250℃未満であるので、霧状の溶液の各滴から溶媒が容易に脱離する。霧状となった溶液は、この溶媒の脱離により乾燥し、無灰炭を主成分とする固形分が得られる。無灰炭に起因する炭素を主成分とする炭素層の内部に溶媒が閉じ込められた状態から溶媒が脱離してこの固形分が生成されるためと考えられるが、この固形分は、炭素を主成分とし、中空部を構成する炭素層を備える。また、上記炭素層は、溶媒の脱離により誘起される複数のミクロ孔を有する。
上記噴霧ガスとしては、空気を用いてもよいが、不活性ガス、例えば窒素を用いることが好ましい。不活性ガスは、反応性が低いので生成される固形分の組成に与える影響が少ない。また、溶媒の沸点以下の比較的低い温度においても気体であるため、蒸発した溶媒と噴霧ガスとの分離が容易である。
溶液に衝突させる上記噴霧ガスの圧力(噴霧圧力)の下限としては、0.1MPaが好ましく、0.2MPaがより好ましい。一方、上記噴霧圧力の上限としては、1MPaが好ましく、0.5MPaがより好ましい。上記噴霧圧力が上記下限未満であると、噴霧用ガスの衝突による溶液の分散が不足し、得られる多孔質炭素の径が大きくなり易い。このため、多孔質炭素の比表面積が不十分となるおそれがある。逆に、上記噴霧圧力が上記上限を超えると、溶媒が気化し難く、溶媒の脱離が不十分となるため、ミクロ孔が十分に形成されないおそれがある。
上記噴霧ガスの流量の下限としては、1L/minが好ましく、1.5L/minがより好ましい。一方、上記噴霧ガスの流量の上限としては、3L/minが好ましく、2.5L/minがより好ましい。上記噴霧ガスの流量が上記下限未満であると、噴霧用ガスの衝突による溶液の分散が不足し、得られる多孔質炭素の径が大きくなり易い。このため、多孔質炭素の比表面積が不十分となるおそれがある。逆に、上記噴霧ガスの流量が上記上限を超えると、噴霧される溶媒の滴の径が小さくなり過ぎ、溶媒の脱離が不十分となるため、ミクロ孔が十分に形成されないおそれがある。
上記溶液が噴霧される雰囲気温度は、溶媒の揮発過程で無灰炭中に生じる細孔が潰れることを回避する観点で決定される。無灰炭の溶融開始温度(軟化開始温度)は原料石炭や製造条件によって異なるが、通常150℃以上200℃以下である。従って、上記雰囲気温度は、この温度域以下で設定される。さらに、本発明者らが検討した結果、溶媒の揮発過程にある、つまり溶媒が残っている状態の無灰炭の溶融開始温度は、溶媒を含まない無灰炭の溶融開始温度よりも低い場合があることが判明した。従って、上記雰囲気温度の上限としては、150℃で好ましく、130℃がより好ましい。上記雰囲気温度が上記上限を超えると、溶媒が急激に揮発して生じた細孔が潰れるおそれがある。一方、上記雰囲気温度の下限としては、溶媒が適度な蒸気圧を示す温度であればよく、具体的には上記雰囲気温度は、溶媒の固化温度より大きく、通常室温(25℃)又は室温以上とされる。
分離部からの供給配管を通じて噴霧部に供給する上記溶液の送液速度の下限としては、1孔当たり100mL/hが好ましく、150mL/hがより好ましい。一方、上記送液速度の上限としては、1孔当たり1000mL/hが好ましく、500mL/hがより好ましい。上記送液速度が上記下限未満であると、単位時間あたりに得られる多孔質炭素の量が減少するので、製造効率が低下するおそれがある。逆に、上記送液速度が上記上限を超えると、上記溶液に付与される熱量が不足し、溶媒の脱離が不十分となるため、ミクロ孔が十分に形成されないおそれがある。
分離部からの供給配管を通じて噴霧部に供給する上記溶液の温度の下限としては、40℃が好ましく、50℃がより好ましい。一方、上記溶液の温度の上限としては、100℃が好ましく、80℃がより好ましい。上記溶液の温度が上記下限未満であると、上記溶液に付与される熱量が不足し、溶媒の脱離が不十分となるため、ミクロ孔が十分に形成されないおそれがある。逆に、上記溶液の温度が上記上限を超えると、溶液が持つ熱量により溶媒が急激に揮発して生じた細孔が潰れるおそれがある。
また、噴霧部で得られる固形分は噴霧部内で自然冷却され、室温(25℃)以上50℃以下の温度で排出される。
噴霧部で得られる固形分は、溶液の送液速度、温度や噴霧ガスの圧力等を調整することで、繊維状とすることも粒子状とすることもできるが、粒子状とすることが好ましい。このように噴霧乾燥工程S21で得られる固形分を粒子状とすることで、表面にミクロ孔を誘起し易くできるので、得られる多孔質炭素の比表面積をさらに増大できる。
噴霧部で得られる固形分を粒子状とする場合、上記固形分の平均径の下限としては、1μmが好ましく、2μmがより好ましい。一方、上記固形分の平均径の上限としては、20μmが好ましく、10μmがより好ましい。上記固形分の平均径は、主に噴霧乾燥工程S21で噴霧する溶液の滴の大きさにより決まる。この噴霧する溶液の滴の大きさは主に噴霧圧力及び送液速度で決まるから、固形分の平均径が上記範囲内となるように噴霧圧力及び送液速度を調整するとよい。上記固形分の平均径が上記下限未満であると、それは噴霧する溶液の滴の大きさが小さいことを意味し、つまり溶液から脱離する溶媒の量が少ない。このためミクロ孔が十分に形成されないおそれがある。逆に、上記固形分の平均径が上記上限を超えると、体積に対して表面積が小さくなるため、固形分の比表面積が不十分となるおそれがある。
<成型工程>
成型工程S3では、噴霧乾燥工程S21で得られる固形分を成型する。成型方法としては、公知の圧縮成型、押し出し成型、造粒法等を用いることができる。
この成型工程S3は、公知の成型機を用いて行うことができる。成形機に用いる金型のキャビティの大きさ及び形状は、多孔質炭素の使用目的に応じて適宜決定されるが、例えば直径15mm以上25mm以下、深さ25mm以上35mm以下の円筒状とできる。
また、成型工程S3での成型は、上記固形分に可撓性が不足する場合は、上記固形分にバインダーを添加して行うことが好ましい。なお、上記固形分に可撓性がある場合には、バインダーを含めずに成型することもできる。
バインダーを添加して成型を行う場合、上記バインダーとしては、炭素収率が低く、固形分の細孔に浸透し難い物質、例えば水や水溶性高分子を用いるとよい。上記水溶性高分子としては、デンプン、糖蜜、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。バインダーを炭素収率が低く、固形分の細孔に浸透し難い物質とすることで、得られる多孔質炭素粒子の多孔質性の低下を抑止できる。
バインダーを添加して成型を行う場合、得られる成型体に対する上記バインダーの添加量の下限としては、2質量%が好ましく、4質量%がより好ましい。一方、上記バインダーの添加量の上限としては、10質量%が好ましく、8質量%がより好ましい。上記バインダーの添加量が上記下限未満であると、成型性が不十分となるおそれがある。逆に、上記バインダーの添加量が上記上限を超えると、成形性の改善効果に対して製造コストが大きくなり過ぎるおそれがある。
成型工程S3では、後述する加熱処理工程S4で得られる多孔質炭素の嵩密度が0.5g/cm以上、より好ましくは、0.8g/cm以上となるように、成型工程S3の成型圧力を制御するとよい。加熱処理工程S4で得られる多孔質炭素の嵩密度が上記下限以上となるように成型工程S3の成型圧力を制御することで、単位体積当たりの比表面積をさらに増大できる。一方、成型工程S3では、加熱処理工程S4で得られる多孔質炭素の嵩密度が0.95g/cm以下、より好ましくは、0.9g/cm以下となるように、成型工程S3の成型圧力を制御するとよい。加熱処理工程S4で得られる多孔質炭素の嵩密度が上記上限以下となるように成型工程S3の成型圧力を制御することで、ミクロ孔が潰れて、単位体積当たりの比表面積が減少してしまうことを抑止できる。
成型工程S3での成形後の固形分の嵩密度の下限としては、0.6g/cmが好ましく、0.9g/cm以上がより好ましい。一方、上記固形分の嵩密度の上限としては、1.1g/cmが好ましく、1.0g/cm以上がより好ましい。上記固形分の嵩密度を上記範囲内とすることで、加熱処理工程S4で得られる多孔質炭素の嵩密度を上述の範囲内とすることができる。
上記成型圧力の下限としては、0.8ton/cmが好ましく、1.0ton/cmがより好ましい。一方、上記成型圧力の上限としては、3.0ton/cmが好ましく、2.5ton/cmがより好ましい。上記成型圧力が上記下限未満であると、後述する加熱処理工程S4で得られる多孔質炭素の嵩密度が不足し、多孔質粒子の強度や単位体積当たりの比表面積が不足するおそれがある。逆に、上記成型圧力が上記上限を超えると、固形分の有するミクロ孔が潰れ易くなり、得られる多孔質粒子の単位体積当たりの比表面積が返って減少するおそれがある。
成型工程S3での加圧時間は、成形後の固形分の形状の安定化と製造効率との観点から適宜決定されるが、例えば0.5分以上3分以下とされる。
また、固形分の成型は、製造コストの観点から加温を伴わない室温(例えば25℃)で行うとよい。あるいは、成型性を改善するために加温して行ってもよい。その際の金型温度としては、200℃以下が好ましい。金型温度が上記上限を超えると、得られる成型性の改善効果に対して製造コストの上昇が大き過ぎるおそれや、得られる多孔質炭素の多孔質性が低下するおそれがある。
<加熱処理工程>
加熱処理工程S4では、成型工程S3後の固形分の成型体を加熱処理する。この加熱処理工程S4は、加熱部により行うことができる。
(加熱部)
加熱部は、成型工程S3後の成型体の固形分を炭素化する。この炭素化により多孔質炭素が得られる。
上記加熱部としては、例えば公知の電気炉等を用いることができ、固形分を加熱部へ挿入し、内部を不活性ガスで置換した後、加熱部内へ不活性ガスを吹き込みながら加熱を行うことで固形分の炭素化ができる。上記不活性ガスとしては、特に限定されないが、例えば窒素やアルゴン等を挙げることができる。中でも安価な窒素が好ましい。
噴霧部で溶媒の脱離により生じたミクロ孔は、例えば炭素原料として石炭ピッチ等を用いる場合、この加熱部での加熱処理により固形分の炭素以外の成分の揮発や、炭素の結晶化が進むため、ミクロ孔が収縮して塞がれ易く、緻密な(多孔質ではない)炭素粒子となり易い。これに対し、当該多孔質炭素の製造方法では、炭素原料に無灰炭を用いる。無灰炭は、石炭や石油ピッチに比べ酸素等のヘテロ元素の割合が高いため、加熱処理時に結晶成長し難く、また炭素以外の成分の割合が少ない。従って、当該多孔質炭素の製造方法では、加熱部で加熱処理を行ってもミクロ孔が維持され易く、製造される炭素粒子の多孔質性を維持し易い。
加熱処理工程S4での加熱温度の下限としては、500℃が好ましく、700℃がより好ましい。一方、上記加熱温度の上限としては、3000℃が好ましく、2800℃がより好ましい。上記加熱温度が上記下限未満であると、炭素化が不十分となるおそれがある。逆に、上記加熱温度が上記上限を超えると、設備の耐熱性向上や燃料消費量の観点から製造コストが上昇するおそれがある。なお、昇温速度としては、例えば0.01℃/min以上10℃/min以下とすることができる。
また、加熱処理工程S4での加熱時間の下限としては、10分が好ましく、20分がより好ましい。一方、上記加熱時間の上限としては、10時間が好ましく、8時間がより好ましい。上記加熱温度が上記下限未満であると、固形分の炭素化が不十分となるおそれがある。逆に、上記加熱時間が上記上限を超えると、多孔質炭素の製造効率が低下するおそれがある。
なお、炭素化を行う前に不融化を行ってもよい。この不融化処理により固形分が互いに融着することを防止できる。不融化は、例えば公知の加熱炉を用いて酸素を含む雰囲気中で加熱することにより行う。酸素を含む雰囲気としては、一般に空気が用いられる。
不融化を行う場合の不融化処理温度の下限としては、150℃が好ましく、180℃がより好ましい。一方、上記不融化処理温度の上限としては、300℃が好ましく、280℃がより好ましい。上記不融化処理温度が上記下限未満であると、不融化が不十分となるおそれや、不融化処理時間が長くなり、非効率となるおそれがある。逆に、上記不融化処理温度が上記上限を超えると、不融化される前に固形分が溶融するおそれがある。なお、昇温速度としては、例えば0.01℃/min以上10℃/min以下とすることができる。
また、不融化を行う場合の不融化処理時間の下限としては、10分が好ましく、20分がより好ましい。一方、上記不融化処理時間の上限としては、120分が好ましく、90分がより好ましい。上記不融化処理時間が上記下限未満であると、不融化が不十分となるおそれがある。逆に、上記不融化処理時間が上記上限を超えると、多孔質炭素の製造コストが不必要に増大するおそれがある。
当該多孔質炭素の製造方法における炭素化収率の下限としては、30質量%が好ましく、50質量%がより好ましい。上記炭素化収率が上記下限未満であると、製造コストの低減効果が不十分となるおそれや、炭素以外の揮発成分によりミクロ孔が塞がれ、製造される多孔質炭素の比表面積が低下するおそれがある。当該多孔質炭素の製造方法は、無灰炭を用いるので、この炭素化収率が高い。また、炭素化収率は例えば溶液中の無灰炭の含有量により調整できる。一方、炭素化収率の上限は、特に限定されず、100質量%であってもよいが、無灰炭を用いる場合、通常75質量%程度である。ここで、「炭素化収率」とは、加熱処理工程S4前の原材料中の有機物質の質量に対する加熱処理により得られる炭素物質の質量比を表し、当該多孔質炭素の製造方法においては、成型工程S3で得られる成型体の質量に対する多孔質炭素の質量比を表す。なお、成型工程S3でバインダーを添加して成型を行う場合、成型体の質量には上記固形分に加えバインダーの質量が含まれる。
<多孔質炭素粒子>
当該多孔質炭素の製造方法を用いることで、例えば平均径0.5nm以上2nm以下の細孔を有する多孔質炭素粒子を製造することができる。当該多孔質炭素粒子は、窒素、水素、一酸化炭素等のガス吸着材、水処理用吸着材、電子部品などに好適に用いることができる。
以下、当該多孔質炭素の製造方法を用いて製造される多孔質炭素粒子の特徴について説明する。
上記多孔質炭素粒子の細孔容積の下限としては、0.02cm/gが好ましく、0.1cm/gがより好ましく、0.15cm/gがさらに好ましい。上記細孔容積が上記下限未満であると、多孔質材料として用いることが困難となるおそれがある。一方、上記細孔容積の上限としては、特に限定されないが、通常0.5cm/g程度である。なお、「細孔容積」とは、HK法により細孔分布を測定し、細孔を円筒形と仮定した場合の積算細孔容積を指す。
上記多孔質炭素粒子の細孔はミクロ孔が多く、メゾ孔やマクロ孔が少ないことが好ましい。つまり、上記多孔質炭素粒子の細孔のうち、直径0.5nm以下の細孔のLog微分細孔容積は、0.1cm/g以上が好ましく、0.15cm/g以上がより好ましい。また、直径2nm以上4nm以下の細孔のLog微分細孔容積は、0.05cm/g未満が好ましく、0.03cm/g未満がより好ましい。直径0.5nm以下の細孔のLog微分細孔容積が上記下限未満、又は直径2nm以上4nm以下の細孔のLog微分細孔容積が上記上限以上であると、上記多孔質炭素粒子の密度が低くなり、機械的強度が低下するおそれがある。なお、直径0.5nm以下の細孔のLog微分細孔容積の上限は、特に限定されないが、通常0.5cm/g程度である。また、直径2nm以上4nm以下の細孔のLog微分細孔容積の下限は、0cm/gが好ましく、直径2nm以上4nm以下の細孔を有さなくともよい。なお、ある直径における「細孔のLog微分細孔容積」は、次のようにして算出される値である。まず、HK法により細孔分布を測定する。この測定により、細孔を円筒形と仮定した場合の底面の直径Dに対する積算細孔容積分布Vが得られる。この分布を元に測定ポイント間の差分細孔容積dVを細孔直径Dの対数扱いでの差分値d(LogD)で割った値を求めることで、Log微分細孔容積が算出できる。
上記多孔質炭素粒子の細孔はミクロ孔が多いため、上記多孔質炭素粒子は緻密でありながら、単位質量当たりの比表面積が大きい。上記多孔質炭素粒子の単位質量当たりの比表面積の下限としては、300m/gが好ましく、350m/gがより好ましく、400m/gがさらに好ましい。単位質量当たりの比表面積が上記下限未満であると、多孔質材料として用いることが困難となるおそれがある。一方、単位質量当たりの比表面積の上限としては、特に限定されないが、通常3000m/g程度である。なお、上記多孔質炭素粒子の単位質量当たりの比表面積は例えば溶液中の無灰炭の含有量、溶媒の種類、噴霧条件等により調整できる。
上記多孔質炭素粒子の嵩密度の下限としては、0.5g/cmが好ましく、0.8g/cmがより好ましい。一方、上記嵩密度の上限としては、0.95g/cmが好ましく、0.9g/cmがより好ましい。上記嵩密度が上記下限未満であると、単位体積当たりの比表面積が不足し、一定の体積に充填される実際の使用状態において、表面積や強度が不足するおそれがある。逆に、上記嵩密度が上限を超えると、嵩密度を高めるために成型する際にミクロ孔が潰れて、単位体積当たりの比表面積がかえって減少するおそれがある。
上記多孔質炭素粒子の単位体積当たりの比表面積の下限としては、200m/cmが好ましく、250m/cmがより好ましく、300m/cmがさらに好ましい。単位体積当たりの比表面積が上記下限未満であると、一定の体積に充填される実際の使用状態において、表面積や強度が不足するおそれがある。一方、単位体積当たりの比表面積の上限としては、特に限定されないが、通常2000m/cm程度である。
<利点>
当該多孔質炭素の製造方法は、酸素原子又は窒素原子を含み、かつ大気圧における沸点が50℃以上250℃未満である有機化合物を主成分とする溶媒中に無灰炭を溶存させた溶液を噴霧乾燥する。無灰炭は石炭や石油ピッチに比べ炭素化収率が高いので、当該多孔質炭素の製造方法は多孔質炭素の製造効率が高い。
また、当該多孔質炭素の製造方法では、上記溶媒を用い、上記溶液における無灰炭の含有量を5質量%以上50質量%以下とすることで、溶媒揮発工程S2(噴霧乾燥工程S21)において無灰炭が溶存した状態から溶媒が容易に脱離するので、得られる固形分に多数のミクロ孔が誘起される。当該多孔質炭素の製造方法では、このミクロ孔の誘起された固形分を成型し、嵩密度を高めた後に加熱処理を行うので、製造される多孔質炭素の嵩密度を高められる。
さらに、上記固形分の主成分となる無灰炭は石炭や石油ピッチに比べ酸素等のヘテロ元素の割合が高いため、加熱処理時に結晶成長し難い。このため、加熱処理工程S4においてもミクロ孔が維持され、成型による嵩密度の向上と相まって単位体積当たりの比表面積を大きくすることができる。
また、当該多孔質炭素の製造方法は、賦活処理や鋳型粒子による処理を必要としないので製造コストを低減できる。
従って、当該多孔質炭素の製造方法を用いることで、低い製造コストで、嵩密度が大きく、かつ単位体積当たりの比表面積が大きい多孔質炭素を高い製造効率で製造できる。
さらに、当該多孔質炭素の製造方法では、溶媒揮発工程S2として、上記溶液を噴霧乾燥する工程を備え、噴霧乾燥工程S21で、上記溶液が噴霧される雰囲気温度を150℃以下とする。当該多孔質炭素の製造方法では、溶媒揮発工程S2を噴霧乾燥により行うことで製造コストを低減できる。また、溶液を噴霧する温度を上記上限以下とすることで、溶媒が揮発して生じた細孔が潰れることを抑止できる。従って、当該多孔質炭素の製造方法を用いることで、低コストで比表面積が大きく、かつ緻密な多孔質炭素を製造できる。
[第二実施形態]
以下、本発明に係る多孔質炭素の製造方法の第二実施形態について説明する。
当該多孔質炭素の製造方法は、図3に示すように、溶液準備工程S1と、溶媒揮発工程S2と、成型工程S3と、加熱処理工程S4とを備える。当該多孔質炭素の製造方法は、溶媒揮発工程S2として噴霧乾燥工程S21を備える。また、当該多孔質炭素の製造方法は、溶液準備工程S1として、溶解工程S14を備える。
<溶解工程>
溶解工程S14では、溶媒に無灰炭を溶解する。この溶解により無灰炭が溶媒中に溶存する溶液が得られる。
この溶解には、調製槽を用いることができる。上記調製槽としては、例えば第一実施形態の混合部と同様に構成された調製槽が挙げられる。
上記溶媒は、酸素原子又は窒素原子を含む有機化合物を主成分とするものであり、大気圧における沸点が50℃以上250℃未満である。上記溶媒としては、第一実施形態の溶媒と同様のものが挙げられる。
また、上記無灰炭は、石炭を原料として、例えば混合工程と、溶出工程と、分離工程と、蒸発工程とを備える無灰炭の製造方法により得ることができる。
(混合工程)
上記無灰炭の製造方法における混合工程は、第一実施形態の混合工程S11と同様に行える。
なお、上記混合工程で混合する溶媒は、酸素原子又は窒素原子を含む有機化合物を主成分とするものには限定されず、石炭を溶解するものであればよい。このような溶媒としては、例えば石炭由来の2環芳香族化合物であるメチルナフタレン油、ナフタレン油等を挙げることができる。
(溶出工程)
上記無灰炭の製造方法における溶出工程は、第一実施形態の溶出工程S12と同様に行える。
上記溶出工程での昇温部による昇温後のスラリーの温度の下限としては、300℃が好ましく、360℃がより好ましい。一方、上記スラリーの温度の上限としては、420℃が好ましく、400℃がより好ましい。上記スラリーの温度が上記下限未満であると、石炭を構成する分子間の結合を十分に弱められず、溶出率が低下するおそれがある。逆に、上記スラリーの温度が上記上限を超えると、スラリーの温度を維持するための熱量が不必要に大きくなるため、多孔質炭素の製造コストが増大するおそれがある。
また、上記昇温部の内部圧力の下限としては、1.1MPaが好ましく、1.5MPaがより好ましい。一方、上記昇温部の内部圧力の上限としては、5MPaが好ましく、4MPaがより好ましい。上記昇温部の内部圧力が上記下限未満であると、溶媒が蒸発により減少し、石炭の溶解が不十分となるおそれがある。逆に、上記昇温部の内部圧力が上記上限を超えると、圧力を維持するためのコスト上昇に対して得られる石炭溶解の向上効果が不十分となるおそれがある。
(分離工程)
上記無灰炭の製造方法における分離工程は、第一実施形態の分離工程S13と同様に行える。
上記分離工程での分離部内は、加熱及び加圧することが好ましい。上記分離部内の加熱温度の下限としては、300℃が好ましく、350℃がより好ましい。一方、上記加熱温度の上限としては、420℃が好ましく、400℃がより好ましい。上記加熱温度が上記下限未満であると、溶媒可溶成分が再析出し、分離効率が低下するおそれがある。逆に、上記加熱温度が上記上限を超えると、加熱のための運転コストが高くなるおそれがある。
また、分離部内の圧力の下限としては、1MPaが好ましく、1.4MPaがより好ましい。一方、上記圧力の上限としては、3MPaが好ましく、2MPaがより好ましい。上記圧力が上記下限未満であると、溶媒可溶成分が再析出し、分離効率が低下するおそれがある。逆に、上記圧力が上記上限を超えると、加圧のための運転コストが高くなるおそれがある。
(蒸発工程)
蒸発工程では、上記分離工程で分離した液体分から溶媒を蒸発させる。この溶媒の蒸発分離により無灰炭(HPC)が得られる。
上記溶媒を蒸発分離する方法としては、一般的な蒸留法や蒸発法(スプレードライ法等)を含む分離方法を用いることができる。上記液体分からの溶媒の分離により、上記液体分から実質的に灰分を含まない無灰炭を得ることができる。
上述のようにして得た無灰炭を溶媒中に溶存させた溶液における無灰炭の含有量の下限としては、5質量%であり、8質量%がより好ましい。一方、上記溶液における無灰炭の含有量の上限としては、50質量%であり、40質量%がより好ましい。上記無灰炭の含有量が上記下限未満であると、単位量あたりの液体分から得られる多孔質炭素粒子の量が減少するので、多孔質炭素の製造効率が低下するおそれがある。逆に、上記無灰炭の含有量が上記上限を超えると、相対的に溶媒の量が不足し、溶媒が脱離する勢いが不十分となるため、後述する噴霧乾燥工程S21で得られる固形分にミクロ孔が十分に形成されないおそれがある。
<噴霧乾燥工程>
噴霧乾燥工程S21では、無灰炭が溶媒中に溶存する上記溶液を噴霧乾燥する。この噴霧乾燥工程S21は、第一実施形態の噴霧乾燥工程S21と同様の装置を用いて同様に行うことができる。
<成型工程>
成型工程S3では、噴霧乾燥工程S21で得られる固形分を成型する。この成型工程S3は、第一実施形態の成型工程S3と同様の装置を用い同様に行うことができる。
<加熱処理工程>
加熱処理工程S4では、成型工程S3後の固形分の成型体を加熱処理する。この加熱処理工程S4は、第一実施形態の加熱処理工程S4と同様の装置を用い同様に行うことができる。
<利点>
当該多孔質炭素の製造方法では、無灰炭を直接溶媒に溶解することで、無灰炭が溶媒中に溶存する溶液を得る。このため、無灰炭を抽出する際に使用する溶媒と、多孔質炭素を得るための溶液に使用する溶媒との種類を変えることができる。従って、無灰炭の抽出と多孔質炭素の製造とをそれぞれ最適化できるので、多孔質炭素の収率を高めることができる。
[第三実施形態]
以下、本発明に係る多孔質炭素の製造方法の第三実施形態について説明する。
当該多孔質炭素の製造方法は、図1の噴霧乾燥工程S21に代えて電界紡糸工程を備える。つまり、当該多孔質炭素の製造方法は、溶媒揮発工程S2として、電界紡糸工程を備える。当該多孔質炭素の製造方法は、電界紡糸工程以外の各工程は、図1と同様であるため、詳細説明を省略する。以下、電界紡糸工程について説明する。
<電界紡糸工程>
電界紡糸工程では、溶液準備工程S1で得られる溶液の電界紡糸により、基板表面に微細繊維状の固形分を堆積する。
電界紡糸は、例えば図4に示すようにシリンジ1と基板2とを有する電界紡糸部により行える。具体的には、電界紡糸は、上記溶液をシリンジ1に入れ、シリンジ1のノズル1aと基板2との間に電圧Eを印加することで行われる。ノズル1aと基板2との間に電圧Eを印加すると、ノズル1a先端の液滴表面に電荷が集まり、互いに反発して、円錐状となる。さらに印加電圧Eを増し、電荷の反発力が表面張力を超えると上記溶液はノズル1aの先端から基板2へ向かって噴出される。噴出された溶液流3が細くなると表面電荷密度が大きくなるため、電荷の反発力が増し、溶液流3はさらに引き伸ばされる。その際、溶液流3の比表面積が急速に大きくなることにより溶媒が揮発し、基板2の表面に微細繊維状の固形分(微細繊維4)が紡糸される。このように電界紡糸では、比較的簡単な装置で微細繊維4を作製できる。なお、図4ではノズル1aは1つであるが、複数のノズル1aを備え、同時に複数の微細繊維を作製してもよい。
基板2としては、導電性があるものであれば特に限定されないが、金属板、金属箔、炭素基板等を用いることができる。
ノズル1aの先端部の内径(ノズル内径)の下限としては、0.2mmが好ましく、0.4mmがより好ましい。一方、上記ノズル内径の上限としては、0.7mmが好ましく、0.6mmがより好ましい。上記ノズル内径が上記下限未満であると、得られる微細繊維4が細くなるため切れ易く、長繊維を得ることが困難となるおそれがある。逆に、上記ノズル内径が上記上限を超えると、得られる微細繊維4の径が大きくなるため、製造される多孔質炭素の比表面積が低下するおそれがある。
紡糸間距離(ノズル1aの先端と基板2との距離)の下限としては、10cmが好ましく、12cmがより好ましい。一方、紡糸間距離の上限としては、20cmが好ましく、18cmがより好ましい。紡糸間距離が上記下限未満であると、溶媒が十分に揮発せず、電界紡糸が困難となるおそれがある。逆に、紡糸間距離が上記上限を超えると、得られる微細繊維4が細くなるため切れ易く、長繊維を得ることが困難となるおそれがある。
上記ノズル1aと基板2との間の印加電圧Eの下限としては、10kVが好ましく、12kVがより好ましい。一方、上記印加電圧Eの上限としては、30kVが好ましく、20kVがより好ましい。上記印加電圧Eが上記下限未満であると、微細繊維4を安定して形成できないおそれがある。逆に、上記印加電圧Eが上記上限を超えると、得られる微細繊維4の径の分布が広がり易くなるため、製造される多孔質炭素が不均質となるおそれがある。
溶液流3の流量(1つのノズル1aからの溶液の吐出量)の下限としては、1ml/hが好ましく、1.5ml/hがより好ましい。一方、溶液流3の流量の上限としては、3ml/hが好ましく、2.5ml/hがより好ましい。溶液流3の流量が上記下限未満であると、微細繊維4を安定して形成できないおそれがある。逆に、溶液流3の流量が上記上限を超えると、微細繊維4の径が大きくなるため、製造される多孔質炭素の比表面積が低下するおそれがある。なお、溶液流3の流量は、ノズル内径及び印加電圧Eにより制御できる。
基板2表面に堆積する微細繊維4の平均径の下限としては、0.5μmが好ましく、0.7μmがより好ましい。一方、上記微細繊維4の平均径の上限としては、5μmが好ましく、3μmがより好ましい。上記微細繊維4の平均径が上記下限未満であると、微細繊維4が切れ易く、長繊維を得ることが困難となるおそれがある。逆に、上記微細繊維4の平均径が上記上限を超えると、製造される多孔質炭素の比表面積が低下するおそれがある。なお、上記微細繊維4の平均径は、制御性の観点から主に電界紡糸の印加電圧Eにより制御される。また、上記微細繊維4の平均径は、ノズル内径や紡糸間距離により調整することもできる。
なお、基板2表面に堆積した微細繊維4は、基板2から剥離される。
<利点>
当該多孔質炭素の製造方法では、無灰炭の優れた電界紡糸性により微細繊維4が切断されることなく連続的かつランダムに基板2上に堆積する。従って、当該多孔質炭素の製造方法を用いることで長繊維の多孔質炭素を得易い。また、当該多孔質炭素の製造方法では、電界紡糸により嵩密度の大きい固形分を得易いので、製造される多孔質炭素の嵩密度をさらに高められる。
[その他の実施形態]
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。
上記第一実施形態では、混合工程の混合部が調製槽を有する構成について説明したが、混合部はこの構成に限らず、溶媒と石炭との混合ができれば、調製槽を省略してもよい。例えばラインミキサーにより上記混合が完了するような場合には、調製槽を省略して供給管と分離部との間にラインミキサーを備える構成としてもよい。このように各工程で用いられる装置構成は、上記実施形態に限定されない。
上記第二実施形態では、無灰炭を溶媒抽出により製造する方法を説明したが、無灰炭の製造方法はこれに限定されず、例えば石炭と水素供与性溶媒との混合加熱により製造された無灰炭を用いることもできる。
上記第三実施形態では、図1、つまり第一実施形態の噴霧乾燥工程に代えて電界紡糸工程を備える多孔質炭素の製造方法について説明したが、第二実施形態(図2)の噴霧乾燥工程に代えて電界紡糸工程を備える多孔質炭素の製造方法も本発明の意図するところである。
以上説明したように、本発明の多孔質炭素の製造方法を用いることで、低い製造コストで、嵩密度が大きく、かつ単位体積当たりの比表面積が大きい多孔質炭素を高い製造効率で製造できる。従って、当該の孔質炭素の製造方法を用いて製造される多孔質炭素は、ガス吸着材、水処理用吸着材、電子部品等として好適に用いることができる。
1 シリンジ
1a ノズル
2 基板
3 溶液流
4 微細繊維
E 電圧

Claims (6)

  1. 無灰炭が溶媒中に溶存する溶液を準備する工程と、
    上記準備工程の溶液中の溶媒を揮発する工程と、
    上記溶媒揮発工程で得られる固形分を成型する工程と、
    上記成型工程後の固形分の成型体を加熱処理する工程と
    を備え、
    上記溶媒が、酸素原子又は窒素原子を含み、かつ大気圧における沸点が50℃以上250℃未満である有機化合物を主成分とし、
    上記溶液における無灰炭の含有量が5質量%以上50質量%以下である多孔質炭素の製造方法。
  2. 上記溶媒揮発工程として、上記溶液を噴霧乾燥する工程を備え、
    上記噴霧乾燥工程で、上記溶液が噴霧される雰囲気温度を150℃以下とする請求項1に記載の多孔質炭素の製造方法。
  3. 上記溶媒揮発工程として、上記溶液の電界紡糸により、基板表面に微細繊維状の固形分を堆積する工程を備える請求項1に記載の多孔質炭素の製造方法。
  4. 加熱処理工程で得られる多孔質炭素の嵩密度が0.5g/cm以上となるように、成型工程の成型圧力を制御する請求項1、請求項2又は請求項3に記載の多孔質炭素の製造方法。
  5. 上記成型圧力が0.8ton/cm以上3.0ton/cm以下である請求項4に記載の多孔質炭素の製造方法。
  6. 上記溶液準備工程として、
    石炭及び溶媒を混合する工程と、
    上記混合工程で得られたスラリー中の上記石炭から上記溶媒に可溶な成分として無灰炭を溶出させる工程と、
    上記溶出工程後のスラリーから上記無灰炭が溶存する溶液を分離する工程と
    を備える請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の多孔質炭素の製造方法。
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