JP2019173205A - 水解性シート - Google Patents

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Abstract

【課題】強く擦ったときの破れにくさを向上させつつ、使用者がどの方向に持って使用した場合においても、十分なしなやかさが確保された水解性シートを提供する。【解決手段】水溶性バインダーが添加された原紙シートに対して薬液を含浸させたトイレクリーナー100であって、複数の凸エンボスEM1及び凹エンボスEM2が形成され、凸エンボスEM1及び凹エンボスEM2は、MD方向、CD方向共に、1mm以上3mm以下の長さであり、MD方向10cm、CD方向10cmの正方形の範囲において、両者を合わせて350個以上、550個以下の形成数となるように形成されている。【選択図】図1

Description

本発明は、水解性シートに関する。
従来、トイレの清掃には、繰り返し使用される織布製の雑巾等が使われてきたが、これに替わって、近年、紙製の使い捨てのウェットシートが使用されるようになってきている。そして、この種のウェットシートは、洗浄剤が含浸された状態で提供され、また使用後にトイレに流して処理可能とされるものが好まれる。
このようなウェットシートにおいては、トイレ等に流した際に配管等に詰まらない程度の水解性を確保しつつ、拭取り作業時の洗浄剤が含浸された湿潤状態において、便器の縁等を強く擦っても破れない紙力を有することが求められる。
水解性を確保しつつ、紙力を向上させる手段としては、例えば、基材紙としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を含む水溶性バインダー等を添加した水解紙を用い、さらに基材紙にエンボス加工を施すという手段が用いられるが、徒にウェットシートの強度を高めようとすると、しなやかさが低下し、便器の縁のような曲面にウェットシートを沿わせ難くなり、拭き取り性が低下してしまう。そこで、強く擦ったときの破れにくさを向上させつつ、しなやかさの低下を抑制した水解性シートに係る発明が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特開2017−14655号公報
常に十分な拭き取り性を発揮させるためには、使用者がどのような方向に持ってウェットシートを使用しても、これが便器の縁のような曲面に追従するだけのしなやかさを有することが求められる。しかしながら、従来のウェットシートにおいては、エンボスの形状に偏りがあること等の理由により、あらゆる方向において十分なしなやかさを確保することは困難であった。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、強く擦ったときの破れにくさを向上させつつ、使用者がどの方向に持って使用した場合においても、十分なしなやかさが確保された水解性シートを提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、
水溶性バインダーが添加された原紙シートに対して薬液を含浸させた水解性シートであって、
複数のエンボスが形成され、
当該エンボスは、
MD方向、CD方向共に、1mm以上3mm以下の長さであり、
MD方向10cm、CD方向10cmの正方形の範囲において、350個以上、550個以下の形成数となるように形成されていることを特徴とする。
本発明によれば、強く擦ったときの破れにくさを向上させつつ、使用者がどの方向に持って使用した場合においても、十分なしなやかさが確保された水解性シートを提供することができる。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の水解性シートにおいて、
前記エンボスは、MD方向とCD方向の長さが等しいことを特徴とする。
本発明によれば、さらにシートのしなやかさを向上させることができる。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の水解性シートにおいて、
前記エンボスは、当該水解性シートの平面視において、正方形の各辺の中央部に窪み部が形成され、各角が丸められた形状となるように形成されていることを特徴とする。
本発明によれば、シートのしなやかさをさらに向上させることができる。
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の水解性シートにおいて、
前記窪み部は、当該水解性シートの平面視において、深さが0.1mm以上、0.4mm以下であることを特徴とする。
本発明によれば、シートのしなやかさをさらに向上させることができる。
請求項5に記載の発明は、請求項3又は4に記載の水解性シートにおいて、
前記エンボスの各角は、曲率半径が1.0mm以上、2.5mm以下となるように丸められていることを特徴とする。
本発明によれば、シートのしなやかさをさらに向上させることができる。
請求項6に記載の発明は、請求項1から5のいずれか一項に記載の水解性シートにおいて、
前記エンボスは、当該水解性シートの一の面に凸となる凸エンボスと、他の面に凸となる凹エンボスと、を含むことを特徴とする。
本発明によれば、シートの両面につき、同様の性能とすることが可能となる。
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の水解性シートにおいて、
前記凸エンボスと、前記凹エンボスとはMD方向と、CD方向とのいずれの方向においても交互に並ぶように互い違いに配置されていることを特徴とする。
本発明によれば、エンボスの配置が規則的となり、シートの全面において、その性能に差が生じ難くなる。
請求項8に記載の発明は、請求項1から7のいずれか一項に記載の水解性シートにおいて、
MD方向及び/又はCD方向と平行な折り目において所定回数折り畳まれており、
前記折り目は、前記エンボスと重ならない位置に形成されていることを特徴とする。
本発明によれば、エンボスを崩すことなくシートをコンパクトな形状とすることができる。
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の水解性シートにおいて、
MD方向及び/又はCD方向と平行なミシン目を備え、
当該ミシン目は、前記折り目と重なる位置に形成されていることを特徴とする。
本発明によれば、1枚のトイレクリーナーを複数回に分けて使用し易くなる。
本発明によれば、強く擦ったときの破れにくさを向上させつつ、使用者がどの方向に持って使用した場合においても、十分なしなやかさが確保された水解性シートを提供することができる。
実施形態に係るトイレクリーナーの一例を示す平面図である。 (a)は、従来の紙の繊維配向を示す図、(b)は、本発明の繊維配向を示す図である。 図1の一部分の拡大図である。 図3のIV-IV部における断面図である。 実施形態に係るトイレクリーナーの製造方法を示すフローチャートである。 実施形態に係るトイレクリーナーの製造設備(溶液付与設備)の一例を示す模式図である。 実施形態に係るトイレクリーナーの製造設備(加工設備)の一例を示す模式図である。 抄造装置の一例を示す概略図である。 比較例1のトイレクリーナーにおけるエンボスの形状を示す図である。
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態である水解性シートを詳細に説明する。但し、発明の範囲は、図示例に限定されない。
なお、本発明である水解性シートにおいて、水解性シートはトイレクリーナー100を一例にして説明するが、本発明の水解性シートにはトイレクリーナー以外の清拭用途の薬液を含浸させたウェットティシューなども含まれる。また、トイレクリーナー100の製造時の紙の搬送方向をY方向(縦方向、MD方向)、搬送方向に直交する方向をX方向(横方向、CD方向)、XY面と直交する方向をZ方向として説明する。
[トイレクリーナー100の構成]
まず、トイレクリーナー100の構成について説明する。
トイレクリーナー100は、複数枚の原紙シートがプライ加工(積層)されたものであって、所定の薬液が含浸されている。原紙シートの枚数は問わないが、3枚の原紙シートが積層された3プライのシートであることが好ましい。3プライのシートであれば、プライ数の少ないシートと比較して、シートの層に空気が入りやすく、トイレクリーナー100をやわらかくしなやかにすることができる。特に、エンボスの入りが強い場合においても硬くなりすぎないことから、強度を向上しつつ、シートのしなやかさを維持し易くなる。
また、トイレクリーナー100のシート全面には、エンボス加工により、図1に示す通り、全面に、凸エンボスEM1と、凹エンボスEM2とが形成されている。
また、トイレクリーナー100は、折り加工されることにより、例えばY方向の中央部で2つ折りに折り畳まれる。そして、折り畳まれた状態で保管用のプラスチックケースや包装フィルム内等に保管され、使用時には必要に応じて広げて使用される。なお、トイレクリーナー100の折り畳み方は、2つ折りに限ることはなく、例えば、4つ折りにしても良く8つ折りにしても良い。好ましい折り畳み方については後述する。
〔原紙シート〕
また、本実施形態のトイレクリーナー100の原紙シートは、トイレを掃除した後、そのまま便器の水溜りに廃棄できるように、水解性の繊維集合体から構成されている。
繊維集合体としては、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)と針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)と、を混合した繊維を使用する。好適な原料繊維としては、当該原料繊維の成分のうち広葉樹晒クラフトパルプの配合割合が50重量%を超えるもの、すなわち広葉樹晒クラフトパルプに対する針葉樹晒クラフトパルプの配合比が1/1未満となるものがあげられる。針葉樹晒クラフトパルプに対する広葉樹晒クラフトパルプの配合比を多くすることで、繊維間隙間が減少し、水分蒸散が抑制されるため、乾きにくさを向上させることができる。また、トイレクリーナー100の基材である原紙シートの表面強度を向上させるために、当該原紙シートには紙力増強のためのバインダー溶液としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を含む溶液が表面及び裏面から塗布されており、トイレクリーナー100は、厚み方向の中央から表面及び裏面に向かうにつれてCMCの含有量が増加した状態となっている。これにより、トイレクリーナー100は、水溶性バインダーを均一に含浸させた従来品に比べて便器の縁等を強く擦っても破れにくくなっている。なお、水溶性バインダーはCMCに限られず、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)等を用いてもよい。
また、トイレクリーナー100は、縦横の繊維配向の比率(縦/横)が0.8〜2.0であることが好ましく、1.0であることがより好ましい。
紙の製造工程である抄紙工程においては抄紙機のワイヤーの上に繊維を敷き詰めて搬送方向に流すため、一般的には、紙は、抄紙機の搬送方向である縦方向に多くの繊維が並んでいる(例えば、縦:横=2.3:1等。図2(a)参照)という特性がある。そのため、横方向の繊維密度が薄く繊維が断裂しやすい。即ち、拭くときの方向によって破れやすい。そこで、本実施形態においては、図2(b)に示すように、トイレクリーナー100の縦横の繊維配向比率を0.8〜2.0、好ましくは、1.0とすることで、どの方向から拭いても破れにくいトイレクリーナー100を提供することができる。なお、縦横の繊維配向の比率は、MD及びCD方向の湿潤強度の比により求めることができる。
原紙シートとしては、トイレクリーナー100の外層(表面及び裏面)を構成する原紙シートと、その間に挟まれた内層を形成する原紙シートとで、同一のシートを用いてもよいし、異なる性質のシートを用いてもよい。
例えば、外層につきアクリル分割繊維等を含む汚れの掻き取り性に優れた原紙シートを用い、内層につきレーヨン等のセルロース系繊維等を含む薬液の保持性に優れた原紙シートを用いれば、汚れの掻き取り性と、薬液の保持性の両方の性質を改善させることができる。
また、例えば、トイレクリーナー100の外面を構成するシートに、微細な孔部が形成されていてもよい。この場合、内層を形成するシートから、含浸された薬液が染み出し易くなる。このような孔部を形成する場合、後述の凸エンボスEM1の平面部EM12及び凹エンボスEM2の平面部EM22を避けて形成されていれば、なお好ましい。この場合、清掃時に直接被清掃面に接することの多い凸エンボスEM1の平面部EM12及び凹エンボスEM2の平面部EM22を避けて孔部が形成されることで、孔部によるシートの強度の低下を抑えることができる。
〔薬液〕
また、本実施形態のトイレクリーナー100には、所定の薬液(水性薬剤)が含浸されており、具体的には、水性洗浄剤の他、香料、防腐剤、除菌剤、紙力増強剤、有機溶剤等の補助剤を含む所定の薬液が含浸されている。当該薬液は、トイレクリーナー100の基材である原紙シートの重量に対して150〜300重量%含浸させることが望ましい。
薬液としては、適宜のものを使用することができ、例えば、水性洗浄剤としては、界面活性剤の他、低級又は高級(脂肪族)アルコールを使用することができる。香料としては、水性香料の他、オレンジオイル等の油性香料の中から、一種又は数種を適宜選択して使用することができる。防腐剤としては、例えば、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン等のパラベン類を使用することができる。除菌剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、ポピドンヨード、エタノール、セチル酸化ベンザニウム、トリクロサン、クロルキシレノール、イソプロピルメチルフェノール等を使用することができる。紙力増強剤(架橋剤)としては、ホウ酸、種々の金属イオン等を使用することができる。有機溶剤としては、グリコール(2価)、グリセリン(3価)、ソルビトール(4価)等の多価アルコールを使用することができる。
また、上述した薬液の成分の補助剤については適宜選択可能であり、必要に応じて他の機能を果たす成分を薬液に含ませてもよい。
〔エンボス〕
トイレクリーナー100のシート全面には、上述のとおり、多数の凸エンボスEM1と、凹エンボスEM2とが形成されている。
凸エンボスEM1は、図1における紙面の手前側に凸型となるように形成されたエンボスであり、凹エンボスEM2は、図1における紙面の奥側に凸型、すなわち図1における紙面の手前側に凹型となるように形成されたエンボスである。
凸エンボスEM1と、凹エンボスEM2とは、図1及び図3に示すように、X方向、Y方向のいずれにおいても交互に並ぶように互い違いに配置されている。
この場合、X方向とY方向との間の斜め方向においては、図1及び図3に示すように凸エンボスEM1又は凹エンボスEM2が直線上に並ぶこととなるが、このような直線がX方向又はY方向となす角度は、45°に近いことが望ましく、具体的には、40°から50°の範囲内であることが好ましい。この場合、シートの方向による性質の違いがより生じ難くなる。
なお、図1及び図3においては、凸エンボスEM1と、凹エンボスEM2とがX方向及びY方向に沿った列上に並ぶ場合につき図示したが、エンボスの配置はこれに限られず、例えば、菱形に格子を形成するようにして、凸エンボスEM1と、凹エンボスEM2とが配置されていてもよい。
(凸エンボス)
凸エンボスEM1は、X方向の長さと、Y方向の長さとが略同一となり、X方向、Y方向共に、1mmから3mmの長さとなるように形成されている。X方向、Y方向共に、1.5mmから2.5mmの長さであればさらに好ましい。なお、この場合、X方向又はY方向の長さとは、凸エンボスEM1がX方向又はY方向において最も長くなっている部分の長さのことをいい、図3においては、凸エンボスEM1の、窪み部EM11が形成されていない最もX方向又はY方向に突出した部分の、エンボスが形成されていない平坦部分との境界となる位置における長さのことをいう。
具体的な形状としては、図3に示すように、Z方向から見て、正方形の各辺の中央部に窪み部EM11が形成され、各角が丸められた形状となるように形成されていることが好ましい。
窪み部EM11は、平面視において、深さ(Z方向から見た場合の、凸エンボスEM1がX方向又はY方向に最も突出している部分から、窪み部EM11が最も凹んでいる部分までの、X方向又はY方向に沿った距離)が、0.1mmから0.4mmであることが好ましく、0.2mmから0.3mmであることがさらに好ましい。この場合に、段落0042で述べる窪み部EM11の効果を高めることができる。
また、凸エンボスEM1のZ方向から見た場合の各角の曲線部分は、曲率半径が1.0mmから2.5mmであることが好ましく、1.3mmから2.1mmであることがさらに好ましい。この場合に、段落0042で述べる効果を高めることができる。
また、凸エンボスEM1は、図4に示すように略台形状の断面形状を有し、上部にXY面と平行な平面状となる平面部EM12が形成されている。凸エンボスEM1は、Z方向に、トイレクリーナー100のエンボスが形成されていない部分からみて、好ましくは0.5mmから3mm、さらに好ましくは1mmから1.5mmの高さを有するように形成されている。
また、具体的な断面形状としては、上底が下底に対して70%から80%の長さとなり、エンボスが形成されていない平面部分とエンボスの側面部分とがなす角度が60°から70°となる台形状となることが望ましい。
また、凸エンボスEM1の断面形状は、図4に示すような略台形状には限られない。例えば、上面が球面上となるように形成され、断面において上部が円弧上となるように形成されていてもよい。この場合、シートのしなやかさが維持されやすくなる。
なお、凸エンボスEM1の上面は、上記のように平面部EM12が形成されていてもよいが、その他に例えば、凸エンボスEM1の上面にさらに凹部又は凸部が形成されていてもよい。この場合、凹凸が増加し、エンボスによるシートの強度向上の効果を高めると共に、シートの拭き取り性をさらに高めることができる。このような凸部及び凹部は、凸エンボスEM1の上面において、X方向及びY方向の両方向において、交互に並ぶように配置されていることがさらに望ましい。
(凹エンボス)
凹エンボスEM2は、凸エンボスEM1をZ方向に反転させた形状及び大きさに形成され、図3に示すように、Z方向から見て、正方形の各辺の中央部に窪み部EM21が形成され、各角が丸められた形状となるように形成され、図4に示すように略台形状の断面形状を有し、下部にXY面と平行な平面状となる平面部EM22が形成されている。
なお、凹エンボスEM2の下面は、上記のように平面部EM22が形成されていてもよいが、その他に例えば、凹エンボスEM2の下面にさらに凹部又は凸部が形成されていてもよい。この場合、凹凸が増加し、エンボスによるシートの強度向上の効果を高めると共に、シートの拭き取り性をさらに高めることができる。このような凸部及び凹部は、凹エンボスEM2の下面において、X方向及びY方向の両方向において、交互に並ぶように配置されていることがさらに望ましい。
(エンボスの形成数)
凸エンボスEM1及び凹エンボスEM2は、トイレクリーナー100の単位面積、具体的にはX方向10cm、Y方向10cmの正方形の範囲において、両者を合わせて350個以上、550個以下の形成数となるように形成されている。両者を合わせて400個以上、500個以下の形成数であればさらに好ましい。
具体的には、例えば、MD方向(Y方向)において20列、CD方向(X方向)において22列となるように配置して、計440個のエンボスが形成されるようにする。
また、各エンボスの間隔は、MD方向、CD方向共に、好ましくは0.5mmから3mm、さらに好ましくは1mmから2mmである。
(エンボスの効果)
エンボス加工は、シートの強度、シートの嵩高性、拭き取り性及びデザイン性等を高める効果を有するが、本発明において重要となるのは、シートの強度を高める効果である。
エンボス加工は、シートの強度を向上させる効果を有するが、シートに立体的にエンボスが形成されると、エンボスが形成された部分は必然的に折れにくくなり、シートが折れるのは、主としてエンボスの間の部分ということになる。したがって、大型のエンボスを少数形成するようにした場合、シートの強度は向上するものの、シートの折れやすい部分が少なくなり、シートのしなやかさが失われる。
これに対し、小型のエンボスを多数形成するようにした場合、シートの折れやすい部分は多くなり、しなやかさは維持されるものの、シートの強度を向上させる効果が十分に得られない。
この点、エンボスの大きさが上記の範囲、すなわちX方向、Y方向共に、1mmから3mmの長さであり、このようなエンボスを上記の数、すなわちX方向10cm、Y方向10cmの正方形の範囲において、凸エンボスEM1と凹エンボスEM2の両者を合わせて350個以上、550個以下となるように形成すれば、シートの強度を十分に向上させつつ、シートのしなやかさを保つことができる。
なお、具体的なしなやかさとしては、後述の実施例において示す剛軟性に関する試験方法において、MD方向、CD方向、斜め方向(MD方向及びCD方向の両者となす角が45度となる方向)のいずれにおいても、35mm以下の値を示すことが好ましい。
また、上述のように、シートはエンボスが形成された部分では折れにくく、エンボスの間の部分で折れ易くなることから、シートの方向によってエンボスの長さが異なると、シートの使用方向によって、そのしなやかさに差異が生じてしまう。
この点、本実施形態のように、凸エンボスEM1及び凹エンボスEM2を、X方向と、Y方向とにおいて略同一の長さを有するように形成することによって、シートのX方向及びY方向に加え、X方向とY方向の間の斜め方向においても、エンボスの長さの差が小さくなり、シートの使用方向によるしなやかさの差異が生じ難くなる。
また、エンボスの具体的な形状が、図3に示すように、Z方向から見て、正方形の各辺の中央部に窪み部EM11又は窪み部EM21が形成され、各角が丸められた形状となるように形成されていることによって、水解性シートを複数積層する際や折り畳む際等に、くぼみによってエンボスの位置が誘導されるため、これを重ねやすくなり、また、窪みに汚れが引っ掛かり易くなり、拭き取り性も向上させることができる。
また、エンボスの各辺の中央部に窪み部EM11又は窪み部EM21が形成されていることによって、X方向とY方向との間の斜め方向においても、トイレクリーナー100を折り易くなる。さらに、窪み部EM11又は窪み部EM21によって、平面視におけるエンボスの周長が長くなり、原紙シートもエンボスに沿って伸びることから、エンボスがしっかりと形成され易くなる。
また、平面視において、各角が丸められた形状となるように形成されていることによって、X方向とY方向との間の斜め方向においても、トイレクリーナー100を折り易くなる。また、後述するトイレクリーナー100の製造過程におけるエンボスの形成時において、シートがエンボスロールの凹部に入り込み易くなり、エンボスがしっかりと形成され易くなる。
[シートの折り畳まれ方]
トイレクリーナー100は、X方向及び/又はY方向に平行な折り目において複数回折り畳まれる折り畳み加工がなされることによって、保管用のプラスチックケースや包装フィルム等に収納できる大きさとされるが、この際の折り目は、凸エンボスEM1及び凹エンボスEM2が形成されていない平坦部分に形成されていることが好ましい。
この場合、シートを折り畳みやすく、かつ、折り畳み加工によって、エンボスを崩してしまうことを防止することができる。
また、折り畳み回数としては、例えば、図1に示すMD方向に長い矩形状のトイレクリーナー100を、まず、MD方向と平行な折り目によって、CD方向に一度折り畳み、これをCD方向と平行な折り目によって、MD方向に二度折り畳むことによって、八つ折りとすることができる。また、MD方向、CD方向に一度のみ折り畳み、四つ折りとされていてもよい。
また、例えば、CD方向又はMD方向において、断面がZ型となるように3つの折り目が形成されるように折り畳まれていてもよい。この場合、折り畳まれたシートを広げ易くなる。
[ミシン目]
トイレクリーナー100には、これを分割するためのミシン目が設けられていてもよい。
例えば、図1に示すMD方向に長い矩形状のトイレクリーナー100につき、MD方向の中央部にCD方向と平行なミシン目を設け、これをMD方向に2分できるようにする。
さらに、CD方向の中心部にMD方向と平行なミシン目も設け、トイレクリーナー100を4分できるようにしてもよいし、更なるミシン目を設けて、トイレクリーナー100をさらに細かく分割できるようにしてもよい。
これによって、1枚のトイレクリーナーを均等に分割することが可能となり、使用者が複数回に分けて使うことが容易となる。
このようなミシン目は、上記の折り畳み時における折り目と重なる位置に設けることも、異なる位置に設けることもできる。
ミシン目が折り目と重なる位置に設けられた場合、ミシン目の強度をさらに低下させることができ、ミシン目が折り目と異なる位置に設けられた場合、ミシン目の強度の低下を抑えることができる。したがって、折り目と重なる位置にミシン目を設けた場合、使用者がミシン目によってシートを分割し易くなる。これに対し、折り目と異なる位置にミシン目を設けた場合、ミシン目によって使用者が意図せずにシートを分割してしまうおそれを低減することができる。
また、エンボスの形状を崩さないように、ミシン目は、凸エンボスEM1及び凹エンボスEM2が形成されていない平坦部分に形成されていることが好ましい。
[トイレクリーナー100の製造方法]
次に、トイレクリーナー100の製造方法について説明する。
図5は、トイレクリーナー100の製造方法を示すフローチャートである。図6は、トイレクリーナー100の原紙シートに対してバインダー溶液を付与する溶液付与設備の模式図である。図7は、図6に示す溶液付与設備でバインダー溶液が付与された原紙シートを加工する加工設備の模式図である。
トイレクリーナー100の製造方法では、図5に示すように、先ず、抄紙機(図示省略)で原紙となる紙を抄造する抄紙工程(S1)を行う。
次いで、図5及び図6に示すように、溶液付与設備において、抄造された原紙を巻取った複数(例えば、2本)の1次原反ロール1,1からそれぞれ繰り出される連続乾燥原紙1A,1Aをプライ加工しプライ連続シート1Bとするプライ加工工程(S2)と、プライ連続シート1Bに対してバインダー溶液を付与し連続シート1Cとする溶液付与工程(S3)と、連続シート1Cを乾燥させる乾燥工程(S4)と、乾燥させた連続水解性シート1Dをスリットし巻取るスリット・巻き取り工程(S5)とを行う。なお、1次原反ロールは2本以上であれば適宜本数を変更可能であるが、以下の説明においては、2本使用する場合の例について説明する。
次いで、図5及び図7に示すように、加工設備において、上記スリット・巻き取り工程(S5)で巻取った2次原反ロール11から繰り出される連続水解性シート1Dに対してエンボス加工を施すエンボス加工工程(S6)と、エンボス加工が施されたエンボス済シート1Eに対して仕上げ加工を施す仕上げ加工工程(S7)とを行う。なお、各工程の詳細については、後述する。
〔抄紙工程〕
まず、本実施形態にかかる抄紙工程(S1)について説明する。本発明の抄紙工程(S1)では、例えば、公知の湿式抄紙技術により抄紙原料を抄紙して原紙シートを形成する。すなわち、抄紙原料を湿紙の状態とした後に、ドライヤーなどによりこれを乾燥して、薄葉紙、クレープ紙などの原紙シートを形成する。
原紙シートの原料としては、例えば、既知のバージンパルプ、古紙パルプなどを利用でき、少なくともパルプ繊維を含むものである。この原料となるパルプは、特にLBKPとNBKPを適宜の割合で配合したものが適する。なお、パルプ繊維以外の繊維として、レーヨン繊維や合成繊維などが含有されていてもよい。
また、本発明の原紙シートには、凝集剤として、アニオン性アクリルアミド系重合体(以下、「アニオン性PAM」する。)が含有される。アニオン性PAMとは、アクリルアミド系単量体とアニオン性単量体とを共重合して得られる重合体である。
アクリルアミド系単量体としては、アクリルアミド単独や、アクリルアミドと以下のようなアクリルアミドと共重合可能なノニオン性単量体等と、の混合物である。アクリルアミドと共重合可能なノニオン性単量体としては、メタクリルアミド、N、N−ジメチルアクリルアミド、N、N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−アクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン、N−ビニルロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミドが例示される。これらは単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
アニオン性単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、及びこれらの中和塩が例示される。
なお、アニオン性PAMの水溶性を損ねない程度であれば、スチレン、アクリルニトリル、(メタ)アクリル酸エステル等の単量体を配合してもよい。
アニオン性PAMの添加量としては、好適には、10〜1000ppm程度である。このような、パルプと同電荷のアニオン系の凝集剤を用いて抄紙することで、原紙シートの凝集を低下させることができ、毛細管現象により水解性を向上させることができる。
なお、原紙シートには、上述したパルプ及び凝集剤の他、湿潤紙力剤、接着剤、剥離剤等の抄紙用薬品を適宜用いてもよい。
また、本発明の実施形態では、後述する溶液付与設備の溶液付与工程でバインダー溶液が付与されるが、抄紙工程の段階でバインダー溶液を付与するようにしてもよい。
抄紙工程でもバインダー溶液を付与した場合、得られる水解性シート全体の強度を高めることができ、後工程の溶液付与工程で更にバインダー溶液を付与することにより、当該水解性シートの表面強度をより一層高めることができるようになる。
抄紙工程でバインダー溶液を付与する方法としては、例えば、抄紙原料であるパルプを含む分散液中に水溶性バインダーと該水溶性バインダーのパルプ繊維への定着剤を添加して、これを原料として湿式抄造する方法が知られている(特開平3−193996号公報)。つまり水溶性バインダーを内添する方法である。また、パルプを含む分散液からシートを湿式抄紙し、プレス脱水或いは半乾燥した後に水溶性バインダーを噴霧乾燥或いは塗工乾燥して、所定量の水溶性バインダーを含有する繊維シートを製造することも可能である。つまり水溶性バインダーを外添する方法である。この際には、プレス脱水を行うよりも熱風通過乾燥機などのプレ乾燥方式を用いた方が、低密度でより水解性の良い繊維シートを得ることができる。更に上述の湿式抄紙法ではなく、水を使わずにパルプ繊維を乾式で解繊して、ウェブを形成した後に水溶性バインダーを噴霧し、その後乾燥して繊維シートを製造することも可能である。いわゆるエアレイド製法である。
図8には、バインダーとして水溶性バインダーを用いた場合の繊維シートの製造に好ましく用いられる製造装置の一例の概略図が示されている。図8に示す製造装置(湿式抄造機)は、フォーマー14と、ワイヤーパートと、第1ドライパート17と、スプレーパートと、第2ドライパート24とを備えて構成されている。
フォーマー14は、調製装置(図示せず)から供給された完成紙料を所定の濃度に調節してワイヤーパートへ供給するものである。図示しない調製装置は、パルプ繊維等の原料を離叩解する装置と、離叩解された原料にサイズ剤、顔料、紙力増強剤、漂白剤、凝集剤等の添加剤を添加する添加装置とを備え、水解紙の特性に応じた所定濃度の原料からなる紙料を完成紙料として調製するように構成されている。また、パルプスラリーにバインダーを混合することも可能である。ワイヤーパートは、フォーマーから供給された完成紙料を抄き網に湿紙として形成するものである。第1ドライパート17は、ワイヤーパートにおいて形成された湿紙を乾燥させるものである。スプレーパートは、第1ドライパート17で乾燥された紙にバインダーを噴霧するものである。第2ドライパート24は、スプレーパートでバインダーが噴霧され湿潤状態になっている紙を乾燥させるものである。
フォーマー14から供給された完成紙料がワイヤーパートにおいて抄造され、ワイヤー15上に湿紙が形成される。湿紙は、ワイヤーパートに設置されているサクションボックス16による吸引によって水分が除去され、所定の水分率となされる。次いで湿紙は、第1ドライパート17に導入されて乾燥される。第1ドライパート17はスルーエアードライヤー(以下、TADという)から構成されている。TADは、周面が通気性を有する回転ドラム18と、該回転ドラム18をほぼ気密に覆うフード19とを備えている。TADにおいては、所定温度に加熱された空気がフード19内に供給されるようになされている。加熱された空気は回転ドラム18の外側から内部に向けて流通する。湿紙は、図8中、矢印方向に回転する回転ドラム18の周面に抱かれた状態で搬送される。TAD内を搬送されている間、湿紙にはその厚み方向へ加熱空気が貫通し、それによって湿紙は乾燥され紙となる。
第1ドライパート17で得られた紙には、スプレーパートにおいてバインダーを含む水溶液(バインダー溶液)が噴霧される。スプレーパートは第1及び第2ドライパート17,24間の位置である。両ドライパート17,24は、コンベアを介して連結されている。
コンベアは、それぞれ矢示方向に回転する上コンベアベルト20と下コンベアベルト21とを備えている。コンベア20は、第1ドライパート17のTADによって乾燥されて紙をこれら両ベルト20,21間に挟持した状態で第2ドライパート24へ搬送するように構成されている。上コンベアベルト20の下流側の折り返し端には真空ロール22が配置されている。真空ロール22は、上コンベアベルト20の裏面に紙を吸着させ、その吸着状態下に上コンベアベルト20を搬送させるようになっている。
図8に示すように、スプレーパートはスプレーノズル23を備えている。スプレーノズル23は第2ドライパート24の下方で且つ真空ロール22に対向するように配設されている。スプレーノズル23は、真空ロール22に向けてバインダーを含む噴霧液を噴霧して、紙に該噴霧液を添加(外添)するものである。
スプレーパートにおいてバインダーが供給された後、紙は第2ドライパート24へ搬送される。第2ドライパート24はヤンキードライヤーから構成されている。噴霧液が噴霧されて湿潤状態となっている紙は、フード26内に設置されたヤンキードライヤーの回転ドラム25の周面に抱かれた状態で搬送される。回転ドラム25に抱かれて搬送されている間に紙の乾燥が進行する。
なお、スプレーパートにおいてバインダーを供給する位置は、第1及び第2ドライパート17,24間の位置であればよく、例えば、上コンベアベルト20の上方(図8に示す第1及び第2ドライパート17,24間の矢印位置)からバインダーを噴霧するようにしてもよい。また、さらに第2ドライパート24で乾燥させた後の紙に対して上方(図8に示す第2ドライパート24の右側の矢印位置)からバインダーを噴霧するようにしてもよい。また、第1及び第2ドライパート17,24間、及び第2ドライパート24の後において、バインダーを噴霧する方向は上方からに限らず、下方からでも、上下両方からでもよい。
本実施形態では、抄紙工程において、原紙シートの縦横の繊維配向の比率(縦/横)が0.8〜2.0、好ましくは1.0となるように調整が行われる。繊維配向の調整は、例えば、抄紙機において、抄紙原料をワイヤーパートに供給する角度を調整することで行うことができる。抄紙原料を供給する角度は、例えば、ヘッドボックスのスライス開度を調整することにより行うことができる。または、抄紙機の搬送方向(走行方向)と直交する方向に振動を与える等により繊維配向を調整することとしてもよい。
〔連続乾燥原紙〕
連続乾燥原紙1Aの物性としては、好適には、目付けが15〜75gsm程度である。また、プライ加工された水溶性バインダーを含むシート(連続水解性シート1D)の目付けは、30〜150gsm程度である。なお、目付けは、JISP8124に基づくものである。
連続乾燥原紙1Aは、後述するプライ加工工程(S2)、溶液付与工程(S3)、乾燥工程(S4)、スリット・巻き取り工程(S5)を経て、プライ加工された水解紙となり、更に、後述するエンボス加工工程(S6)、仕上げ加工工程(S7)を経て、トイレクリーナー100に加工される。
〔プライ加工工程〕
次いで、本実施形態のプライ加工工程(S2)について説明する。プライ加工工程(S2)では、図6に示すように、1次原反ロール1から連続的に繰り出される各連続乾燥原紙1A,1Aを、その連続方向に沿ってプライ加工しプライ連続シート1Bとする重ね合わせ部2に供給される。重ね合わせ部2は、一対のロールで構成され、各連続乾燥原紙1A,1Aをプライ加工し、プライ加工されたプライ連続シート1Bを形成する。なお、連続乾燥原紙1A,1A同士を重ね合わせる際に、連続乾燥原紙1A,1A同士がずれにくくなるように、ピンエンボス(コンタクトエンボス)で軽く留めておいてもよい。
なお、図6においては、2枚の連続乾燥原紙1A,1Aをプライ加工し、2プライのプライ連続シート1Bとする場合につき図示したが、これに限られず、同様にして、3枚以上の連続乾燥原紙1A…をプライ加工し、3プライ以上のプライ連続シートとすることも可能である。
〔バインダー溶液〕
次いで、バインダー溶液について説明する。バインダー溶液は、カルボキシメチルセルロース(CMC)を水溶性バインダーとして含むものである。バインダー溶液中におけるカルボキシメチルセルロースの濃度としては、1〜30重量%、好ましくは、1重量%以上、4重量%未満とする。
他方、CMCについては、そのエーテル化度が0.6〜2.0、特に0.9〜1.8、更に好ましくは1.0〜1.5であるのが望ましい。水解性と湿潤紙力の発現が極めて良好となる。
また、CMCは、水膨潤性のものを用いることができる。これは、薬液中の特定金属イオンの架橋により、未膨潤化のままシートを構成する繊維をつなぎとめる機能を発揮し、清掃・清拭作業に耐えうる拭き取りシートとしての強度を発現することができる。
バインダー溶液中のカルボキシルメチルセルロース以外の成分としては、ポリビニルアルコール、デンプンまたはその誘導体、ヒドロキシプロピルセルロース、アルギン酸ナトリウム、トラントガム、グアーガム、キサンタンガム、アラビアゴム、カラギーナン、ガラクトマンナン、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、プルプラン、ポリエチレンオキシド、ビスコース、ポリビニルエチルエーテル、ポリアクリル酸ソーダ、ポリメタアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸のヒドロキシル化誘導体、ポリビニルピロリドン/ビニルピロリドン酢酸ビニル共重合体等のバインダー成分が挙げられる。
水解性が良好となる点や架橋反応により湿潤強度を発現しうる点からカルボキシル基を有する水溶性バインダーを用いることが好ましい。
カルボキシル基を有する水溶性バインダーは、水中で容易にカルボキシラートを生成するアニオン性の水溶性バインダーである。その例としては多糖誘導体、合成高分子、天然物が挙げられる。多糖誘導体としてはカルボキシメチルセルロースの塩、カルボキシエチルセルロース又はその塩、カルボキシメチル化デンブン又はその塩などが挙げられ、特にカルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩が好ましい。
合成高分子としては、不飽和カルボン酸の重合体又は共重合体の塩、不飽和カルボン酸と該不飽和カルボン酸と共重合可能な単量体との共重合体の塩などが挙げられる。不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマール酸などが挙げられる。これらと共重合可能な単量体としては、これら不飽和カルボン酸のエステル、酢酸ビニル、エチレン、アクリルアミド、ビニルエーテルなどが挙げられる。特に好ましい合成高分子は、不飽和カルボン酸としてアクリル酸やメタクリル酸を用いたものであり、具体的にはポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸メタクリル酸共重合体の塩、アクリル酸又はメタクリル酸とアクリル酸アルキル又はメタクリル酸アルキルとの共重合体の塩が挙げられる。天然物としては、アルギン酸ナトリウム、ザンサンガム、ジェランガム、タラガントガム、ペクチンなどが挙げられる。
〔溶液付与工程〕
次いで、本実施形態の溶液付与工程(S3)ついて説明する。溶液付与工程(S3)では、図6に示すように、プライ連続シート1Bの両方の外面(連続乾燥原紙1A,1Aをプライ加工した時に連続乾燥原紙1A,1A同士が対向しない面)に2流体方式または1流体方式の各スプレーノズル3,3により上述のバインダー溶液を噴霧して連続シート1Cを生成する。
プライ加工工程においてプライ加工された直後のプライ連続シート1Bは、連続乾燥原紙1A,1Aが単に重なっているに過ぎないため、溶液付与工程においてプライ連続シート1Bの両面から、バインダー溶液をスプレーノズル3,3で塗布すると、連続乾燥原紙1A,1Aが離れた状態でバインダー溶液を付与する場合と実質的に同様であり、バインダー溶液が厚さ方向に浸透し、搬送中にシート同士が密着し、スリット・巻取り工程で圧着する中で、さらに浸透するのである。
なお、バインダー溶液の噴霧方法として、プライ連続シート1Bの片方の外面に上述のバインダー溶液を噴霧するようにしても良い。また、上述の1次原反ロール1,1からそれぞれ繰り出される連続乾燥原紙1A,1Aの少なくとも一方のシートの外面(各シートが対向しない面)に対して、2流体方式のスプレーノズルより上述のバインダー溶液を噴霧し、直後に当該連続乾燥原紙1A,1Aをプライ加工することにより、上述の連続シート1Cと同等のシートを生成するようにしても良い。
2流体方式のスプレーノズル3は、2系統に分けられた圧縮空気と液体を混合し、噴射させる方式のスプレーノズルであり、圧縮した液体を単独で噴射させる1流体方式のスプレーノズルに比べて、液体をきめ細かく均一に噴霧することができる。
本実施形態で2流体方式のスプレーノズルを使用する場合、プライ加工されたプライ連続シート1Bの各々の外面に高い圧力(噴射圧1.5MPa以上)でバインダー溶液(粘度400〜1200MPa.s)を塗布するので、シートの厚さ方向にバインダー溶液を含浸させやすい。
一方、本実施形態で1流体方式のスプレーノズルを使用する場合、プライ加工されたプライ連続シート1Bの各々の外面に噴射圧1.5MPa以下でバインダー溶液(粘度400〜1200MPa.s)を塗布することで、シートの厚さ方向にバインダー溶液を含浸させやすく、シート表面にバインダー溶液を均一に塗布させやすくしている。
このようにして、プライ連続シート1Bの外面にバインダー溶液を噴霧することで、トイレクリーナー100は、厚み方向において中央(両面に塗布した場合)又はバインダー溶液の非塗布面(片面に塗布した場合)からバインダー溶液の塗布面に向かうにつれて水溶性バインダーの含有量が増加した状態となるので、水解性を確保しつつ、表面強度を向上させることができ、強く擦ってもダメージが生じにくいトイレクリーナー100を製造することが可能となる。
〔乾燥工程〕
次いで、本実施形態の乾燥工程(S4)について説明する。乾燥工程(S4)では、図6に示すように、乾燥設備4において、上述の連続シート1Cのバインダー溶液中の不溶な液分を蒸発させて、有効成分、特にCMCを繊維に対して定着させる。
ここで、連続シート1Cの外面から厚み方向内側に向かうにつれて、バインダー溶液の浸み込む量が減少していくことから、当該厚み方向内側に向かうにつれて、CMCの定着量が減少することとなる。そのため、後述する仕上げ加工工程(S7)で薬液が含浸された際、当該厚み方向内側に向かうにつれて、架橋反応が起こり難く、空隙を多く有することから、シートの表面強度を向上させつつ、しなやかさの低下を抑制することができる。また、シート内部に上記薬液を閉じ込めた状態とすることができる。これにより、得られるトイレクリーナー100の拭き取り性を向上させることができるとともに、トイレクリーナー100を乾き難くすることができる。
乾燥設備4としては、連続シート1Cに対して熱風を吹き付けて乾燥させるフード付きドライヤー設備が利用できる。なお、シート同士をより密着させるために、プレスロールやターンロールを設置し、乾燥工程(S4)の前に当該プレスロールや当該ターンロールに連続シート1Cを通しても良い。
また、上記乾燥設備として赤外線照射による設備を用いても良い。この場合、上記連続シート1Cの搬送方向に複数の赤外線照射部を並列し、搬送される当該連続シート1Cに対して赤外線を照射して乾燥を行なう。赤外線により水分が発熱し乾燥されるものであるため、熱風によるドライヤーと比較して、均一な乾燥が可能であり、後段のスリット・巻き取り工程においての皺の発生が防止できる。
〔スリット・巻き取り工程〕
次いで、本実施形態のスリット・巻き取り工程(S5)について説明する。スリット・巻き取り工程(S5)では、プライ加工された連続水解性シート1Dをオフラインの加工機で加工する際の原反とするために、上述の乾燥工程(S4)で乾燥されCMCの定着が図られた連続水解性シート1Dをテンションを調整しながら、スリッター5で所定の幅にスリットし、ワインダー設備6において、巻き取ることとなる。巻き取り速度は、プライ加工工程(S2)、溶液付与工程(S3)、乾燥工程(S4)を考慮して適宜定める。過度に早いとシートの破断が生じ、過度に遅いと皺が発生するのでこれに留意する。
スリット・巻き取り工程(S5)で、プライ加工された連続水解性シート1Dが圧着されることにより、連続水解性シート1Dがより一体化され、1枚相当のシートとなる。
〔エンボス加工工程〕
次いで、本実施形態のエンボス加工工程(S6)について説明する。エンボス加工工程(S6)では、図7に示すように、2次原反ロール11から繰り出される、連続水解性シート1Dに対して、エンボスロール12によって、シート全面に所定の形状をなすエンボス加工が施される。このエンボス加工は、シートの強度、嵩高性、拭き取り性等を高めるとともに、デザイン性を高めることを目的としてなされている。
〔仕上げ加工工程〕
次いで、本実施形態の仕上げ加工工程(S7)について説明する。仕上げ加工工程(S7)では、図7に示すように、仕上げ加工設備13において、エンボス済シート1Eの裁断加工、裁断された各シートの折り加工、折り加工がなされた各シートへの上記薬液の含浸、当該薬液を含浸させた各シートの包装を一連の流れで行う。ここで、薬液に含有される架橋剤は、CMCを水溶性バインダーとして用いた場合、多価金属イオンを用いることが好ましい。特に、アルカリ土類金属、マンガン、亜鉛、コバルト及びニッケルからなる群から選択される1種又は2種以上の多価金属イオンを用いることが、繊維間が十分に結合されて使用に耐え得る湿潤強度が発現する点、及び水解性が十分になる点から好ましい。これらの金属イオンのうち、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、コバルト、ニッケルのイオンを用いることが特に好ましい。
以上の各工程を経ることにより、トイレクリーナー100が製造される。
さらに、仕上げ加工工程(S7)においては、トイレクリーナー100にミシン目を入れてもよい。具体的には、トイレクリーナーの所定位置に、MD方向及び/又はCD方向と平行にカッターやブレード等によってミシン目を入れる。これによって、1枚のトイレクリーナーを均等に分割することが可能となり、使用者が複数回に分けて使うことが容易となる。
上述のトイレクリーナー100の製造方法にあっては、
水溶性バインダーを含んでいない複数の原紙をプライ加工するプライ加工工程と、
プライ加工されたシートに対してバインダー溶液を付与する溶液付与工程と、
前記バインダー溶液を付与されたシートを乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥工程で乾燥させた前記シートを所定幅にスリットし巻き取る巻取り工程と、
を含み、
前記溶液付与工程は、プライ加工されたシートの両方の外面に対応して設けられたスプレーノズルから前記バインダー溶液を対応する外面に噴射したこととなる。
なお、上記プライ加工工程では、水溶性バインダーを含んでいない複数の原紙をプライ加工するほか、水溶性バインダーを含む複数の原紙をプライ加工するようにしてもよい。
次に、本発明の実施例及び比較例に係るトイレクリーナーにつき、その剛軟性、引張強度及び表面強度について試験を行った結果について説明する。
〔実施例及び比較例の構成〕
以下の実施例及び比較例に係るトイレクリーナーを用意した。
(実施例)
パルプ及びポリビニルアルコール(PVA)繊維を用いて製造した原紙(配合割合:パルプ98.0重量%、PVA繊維2.0重量%)を3枚重ね、3プライのプライ連続シート(目付90g/m)を形成した。
このようなプライ連続シートに、図1及び図3に示したパターンのエンボスを形成した。
具体的には、MD方向10cm、CD方向10cmの正方形の範囲に、エンボスがMD方向20列、CD方向22列配置されるようにし、凸エンボスEM1及び凹エンボスEM2を併せて、当該範囲に計440個のエンボスが形成されるようにした。
また、各凸エンボスEM1及び各凹エンボスEM2は、MD方向、CD方向共に3mmの長さとなり、エンボスが形成されていない部分からの高さが1mmとなるように形成した。
また、薬液としては、成分として、界面活性剤を0.5重量%、エタノールを5重量%、除菌剤を0.5重量%、安定化剤を4重量%、香料を0.5重量%、水を89.5重量%
の割合で混合したものを用い、これを薬液含浸率が170%となるように含浸させた。
(比較例1)
MD方向10cm、CD方向10cmの正方形の範囲に、エンボスがMD方向26列、CD方向31列配置されるようにし、凸エンボスEM1及び凹エンボスEM2を併せて、当該範囲に計806個のエンボスが形成されるようにした。
また、凸エンボス及び凹エンボスを、いずれも図9に示すMD方向に長い形状(凸エンボスEM1A及び凹エンボスEM2A)とした。具体的な大きさは、いずれもMD方向2mm、CD方向1mmの長さとなり、エンボスが形成されていない部分からの高さが1mmとなるように形成した。
その他の構成は実施例1と同様である。
(比較例2)
MD方向10cm、CD方向10cmの正方形の範囲に、エンボスがMD方向13列、CD方向22列配置されるようにし、凸エンボスEM1及び凹エンボスEM2を併せて、当該範囲に計286個のエンボスが形成されるようにした。
また、各凸エンボスEM1及び各凹エンボスEM2は、MD方向3mm、CD方向7mmの長さとなり、エンボスが形成されていない部分からの高さが1mmとなるように形成した。
その他の構成は実施例1と同様である。
(比較例3)
MD方向10cm、CD方向10cmの正方形の範囲に、エンボスがMD方向17列、CD方向20列配置されるようにし、凸エンボスEM1及び凹エンボスEM2を併せて、当該範囲に計340個のエンボスが形成されるようにした。
また、各凸エンボスEM1及び各凹エンボスEM2は、MD方向、CD方向共に5mmの長さとなり、エンボスが形成されていない部分からの高さが5mmとなるように形成した。
その他の構成は実施例1と同様である。
〔試験方法〕
上記実施例及び比較例のトイレクリーナーにつき、以下の試験を行った。
(剛軟性に関する試験方法)
上記実施例及び比較例のトイレクリーナーにつきプライを剥がさずに幅25mm×長さ120mmでMD方向、CD方向及び斜め方向(MD方向及びCD方向の両者となす角が45度となる方向)にそれぞれ切り取って、カンチレバー法(JISL1913:2010)に基づき、カンチレバー形試験機の斜面の方向に押し出し、当該試験片の一端が当該斜面に接した時点の押し出された距離を計測する。この計測を各6回実施し、各6回の測定値の平均を算出する。
・試験手順:(1)一端が45°の斜面をもつ表面の滑らかな水平台の上に試験片の短辺
をスケール基線に合わせて置く。
(2)試験片を上記斜面の方向に緩やかに滑らせて、試験片の一端の中央点
が当該斜面と接したとき他端の位置をスケールによって読む。
(引張強度に関する試験方法)
上記実施例及び比較例のトイレクリーナーにつき、MD方向及びCD方向の引張強度を測定した。具体的には300mm×300mmの原紙を用いて作成した、上記実施例及び比較例に対応するサンプルにつき、湿潤引張強度[cN/25mm]を測定した。引張強度を測定する際、上記サンプルは、JISP8113に準じてダンベルカッターで幅25mm×120mmに裁断し、試験機条件を引張速度500mm/分、チャック間距離50mmとして測定を行った。なお、各湿潤引張り強度の値は、5回測定を行った引張強度の平均値である。
(表面強度に関する試験方法)
試験片(トイレクリーナー)はプライを剥がさずに幅65mm×長さ230mmでMD方向とCD方向にそれぞれ切り取って、幅方向の両端部領域が重なるように3つ折りにし、測定部分を学振型摩擦堅牢度試験機で擦り、目視で紙面に毛羽立ちや破れ等のダメージが確認された時点の回数を計測する。この計測をMD方向、CD方向で各6回実施し、それぞれ各6回の測定値の平均を算出する。なお、学振型摩擦堅牢度試験機による試験条件は下記のとおりである。
・学振型摩擦堅牢度試験機:テスター産業株式会社製 品番AB301
・摩擦子:形状 □20mm×R50mm
荷重 200gf(白綿布止め、アーム含む)
単位面積あたりの荷重 50gf/cm(荷重200gf/接触面積4.0
cm
摩擦子の綿布止めにPPバンド(積水樹脂株式会社 品番19K(幅15mm
×長さ60mm))1枚を隙間が生じたり、しわが生じたりしないように、ね
じ止めで摩擦子に固定する。
・試料台:形状 R200mm
ストローク 120mm
往復速度 30cps
・試験片(トイレクリーナー):幅22mm(プライを剥がさず幅65mmを3つ折り)
×長さ230mm(試料台側)
・試験手順:(1)試験片を試料台に弛まないように取り付ける。
(2)摩擦子を試料台に静かに降ろす。
(3)スタートSWを押して試験開始。
・判定方法:10回ずつ学振させて試験片の状態を確認し、目視で紙面に毛羽立ちや破れ
等のダメージが確認された時点の回数を計測した。
上記試験では、トイレクリーナーを実際に使用する場面を想定、すなわち汚れが付着したことにより便器の縁等がザラザラした状態を想定し、表面に網目模様が施されたPPバンドを学振子として使用している。これにより、トイレクリーナーの実際の使用時を想定した環境試験が可能となり、トイレクリーナーが実際の使用時に耐え得るか否かについて信頼性の高い評価を行うことができる。
試験の結果を表Iに示す。
Figure 2019173205
〔評価〕
実施例においては、あらゆる方向において剛軟性に係る試験結果が35mm以下の低い数値に保たれているのに対し、比較例1から3においては、いずれかの方向において高い数値を示している。したがって、実施例と比較例1から3との比較により、エンボスがMD方向、CD方向共に1mmから3mmの長さであり、このようなエンボスをMD方向10cm、CD方向10cmの正方形の範囲において、凸エンボスEM1と凹エンボスEM2の両者を合わせて350個以上、550個以下となるように形成することで、シートの強度を保ちつつ、方向を問わずしなやかさが維持されたトイレクリーナーを実現できることが分かる。
以上、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
本発明の実施形態等の説明に際しては、スプレー方式によりバインダー溶液を塗布するようにしたが、1次原反ロール1から連続的に繰り出される連続乾燥原紙1Aに対して、ドクターチャンバー方式(一つのバックアップロールに対して対になる二つの刷版ロールと、各刷版ロールと対になるアニロックスロールと、各アニロックスロールに対して薬液を付与するドクターチャンバーを備える転写設備)、もしくは/および、3ロール方式(一つのバックアップロールに対して対になる二つの刷版ロールと、各刷版ロールと対になるアニロックスロールと、各アニロックスロールに対して薬液を付与するディップロールと、ディップロールに薬液を付与するパンを備える転写設備)によってバインダー溶液を塗布するようにしてもよい。つまり、複数の原紙(連続乾燥原紙1A)がプライ加工されてなる水解性シートの製造方法において、水溶性バインダーを含んでいない複数の原紙のうち、前記水解性シートの表面及び裏面となる原紙の少なくとも何れか一方の面に対してバインダー溶液を付与(転写)する溶液付与工程と、前記複数の原紙をプライ加工するプライ加工工程と、プライ加工されたシートを乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥工程で乾燥させた前記シートを所定幅にスリットし巻き取る巻取り工程と、を含み、前記溶液付与工程は、前記水解性シートの表面及び裏面となる原紙の少なくとも何れか一方の面に対応して設けられた印刷機から前記バインダー溶液を対応する原紙に転写するようにする。
なお、上記溶液付与工程では、水溶性バインダーを含んでいない複数の原紙のうち、水解性シートの表面及び裏面となる原紙の少なくとも何れか一方の面に対してバインダー溶液を付与するほか、水溶性バインダーを含む複数の原紙のうち、水解性シートの表面及び裏面となる原紙の少なくとも何れか一方の面に対してバインダー溶液を付与するようにしてもよい。
単なるロール転写では、所望量の薬液を付与するためには、極めて高濃度の薬液が必要となり、かかる薬液は粘度が高くなるためにロール転写で均一転写することができない。また、粘度を低くするために濃度を低くすれば、上述のとおり所望の付与量とすることができない。このように乾燥原紙に対して薬液を付与することが極めて困難なことであることから、ドクターチャンバー方式、もしくは/および、3ロール方式を採用する。
一つのバックアップロールに対して対となる刷版ロールを設けるドクターチャンバー方式、もしくは/および、3ロール方式を採用することにより、各刷版ロールにおける付与量が少なくとも、合計量において十分な量の薬液を乾燥原紙に対して付与できる。また、バックアップロールが一つであることにより、極めて均一に付与できる。これは、バックアップロールが一つであることで、最初の刷版ロールから次の刷版ロールまでの間の張力が極めて安定して一定であることから、二つの刷版ロールで二段階付与しても、連続原紙に対して極めて均一に薬液を付与することができるのである。また、二つの刷版ロールの間隔が短くなることから、最初の刷版ロールで薬液が付与された後、直ちに次の刷版ロールでの付与がなされことからも、付与ムラなく均一転写ができるのである。このような効果は、単に、バックアップロールと刷版ロールを一対二段にしただけでは得ることはできない。
また、より好ましくはドクターチャンバー方式で薬液を付与する方が、3ロール方式より幅方向でより均一に安定して薬液を転写できるため好ましい。
さらに、薬液が付与された連続紙を乾燥させる乾燥工程を有する。この乾燥工程は、連続紙に直接的に接触しない間接乾燥が望ましく、特に赤外線照射によるものが望ましい。間接乾燥の場合には皺の発生が抑制される。特に、赤外線照射によるものとすると、紙面各所の乾燥が均一に生ずるので、乾燥時における皺や歪みなどの発生が効果的に防止できる。
以下にドクターチャンバー方式を例に詳しく説明する。
このドクターチャンバー方式による転写設備は、一つのバックアップロールに対して一つの刷版ロールが設けられている。
バインダー溶液を塗布する際の塗布加工速度は30〜100m/分で操業され、より好ましくは50〜80m/分で操業される。30m/分未満では乾燥されるまえにクレープが伸びてしまい、後工程で加工しづらいという問題がある。逆に100m/分超過では十分な転写量が得られなかったり、幅方向での塗布量のバラツキにより、湿潤強度や水解性にバラツキが生じる。
上記バックアップロールの直径は250〜420mmが適当である。直径が250mm未満であると刷版ロールとバックアップロールの接地面積が少なくなり安定的な塗布ができなくなる。直径が420mm超であっても製造上の問題はないが、設備費用が過多にかかるため好ましくない。
上記刷版ロールには、これにバインダー溶液を受け渡すアニロックスロールがそれぞれ設けられており、このアニロックスロールに対しては、これにバインダー溶液を受け渡して付与するドクターチャンバーが設けられている。また、ドクターチャンバーに対しては、これにバインダー溶液を受け渡して付与するスネークポンプが、アニロックスロールの溶液パンに供給するための送りと戻りの両方に設置されており、ドクターチャンバーに対して粘度の高いバインダー溶液の移送が可能となっている。
1次原反ロール1から繰り出された連続乾燥原紙1Aは、適宜のガイドロールを介して、バックアップロールに巻き掛けられて、適宜の張力と表面の安定性が付与される。
そして、このバックアップロールに巻き掛けられた連続乾燥原紙1Aに対して、刷版ロールにてバインダー溶液がロール転写される。
ここで、刷版ロールは、凹溝のないベタ版仕様のシームレスロールとし、連続乾燥原紙1Aの全体にバインダー溶液をベタ印刷の如く付与する。この刷版ロールとして用いられるシームレスロールは、タイプロールのスリーブにゴム板を巻きつけ釜に入れて過熱溶接し、研磨して成形したものである。材料として用いるゴム板は所定の目的に応じて材質や硬度、色等を選択することができる。
他方、刷版ロールにバインダー溶液を受け渡すアニロックスロールの線数及びセル容量は、バインダー溶液の濃度にもよるが、線数60〜120線/インチ、セル容量40〜90ml/m2とするのが望ましい。線数が60線/インチ未満であると刷版ロールに過度
のバインダー溶液が受け渡され、結果的に連続乾燥原紙1Aに対して刷版ロールからムラを持ってバインダー溶液が付与されるおそれが高まる。反対に、線数が120線/インチを超えると十分な量かつ刷版ロールの周面全体にバインダー溶液を受け渡すことが困難となる。また、セル容量が40ml/m2未満であると十分な量のバインダー溶液を刷版ロ
ールに受け渡すことが困難となり、セル容量が90ml/m2を超えても歩留まりの悪化
を招くだけである。
なお、上述のようにバインダー溶液が付与(転写)される連続乾燥原紙1Aは、プライ加工する際に最上層又は最下層となる原紙のみを対象とする。つまり、例えば、3プライ加工する場合、中層となる連続乾燥原紙1Aに対してはバインダー溶液を付与(転写)しない。
また、上記のドクターチャンバー方式では、連続乾燥原紙1Aに対してバインダー溶液を転写、すなわち、プライ加工工程の前、連続乾燥原紙1Aに対してバインダー溶液を転写するようにしているが、プライ加工工程の後、プライ加工されたプライ連続シート1Bに対してバインダー溶液を転写するようにしてもよい。
つまり、複数の原紙(連続乾燥原紙1A)がプライ加工されてなる水解性シートの製造方法において、水溶性バインダーを含んでいない複数の原紙をプライ加工するプライ加工工程と、プライ加工されたシートに対してバインダー溶液を付与(転写)する溶液付与工程と、前記バインダー溶液を付与されたシートを乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥工程で乾燥させた前記シートを所定幅にスリットし巻き取る巻取り工程と、を含み、前記溶液付与工程は、プライ加工されたシートの少なくとも何れか一方の外面に対応して設けられた印刷機から前記バインダー溶液を対応する外面に転写するようにする。
なお、上記プライ加工工程では、水溶性バインダーを含んでいない複数の原紙をプライ加工するほか、水溶性バインダーを含む複数の原紙をプライ加工するようにしてもよい。
このように、ドクターチャンバー方式でバインダー溶液を転写する場合、粘度の高いバインダー溶液を塗布することができるので、シート内部までバインダー溶液が浸透することを抑制することができる。よって、シート表面にのみCMCを定着させることが可能となる。なお、ドクターチャンバー方式でバインダー溶液を転写する場合のほか、例えば、ホットメルト樹脂塗工用のコーターによりバインダー溶液をシート表面にコーティングするようにしてもよい。かかる場合もシート表面にのみCMCを定着させることが可能となる。
また、本発明の実施形態等の説明に際しては、図6に示す溶液付与設備の溶液付与工程でバインダー溶液が付与されるようにしたが、抄紙工程の段階でバインダー溶液を付与するようにしてもよい。
つまり、複数の原紙(連続乾燥原紙1A)がプライ加工されてなる水解性シートの製造方法において、前記複数の原紙をそれぞれ抄造する抄紙工程を含み、前記抄紙工程は、抄造中の湿紙に対してバインダー溶液を付与するようにする。
具体的には、抄紙工程では、例えば、抄紙網で形成された湿紙をフェルト上に載せて搬送するとともに、そのフェルト上の湿紙をタッチロールを介してヤンキードライヤーに移行させ、そのヤンキードライヤーに付着されて搬送される過程で湿紙を乾燥させて原紙を得るが、上述のヤンキードライヤー上に移行された直後の湿紙に対してバインダー溶液をスプレーノズルから噴霧するようにする。
このように、抄紙工程でもバインダー溶液を付与した場合、得られる水解性シート全体の強度を高めることができ、後工程の溶液付与工程で更にバインダー溶液を付与することにより、当該水解性シートの表面強度をより一層高めることができるようになる。
また、本発明の実施形態等の説明に際しては、水溶性バインダーとしてCMCを用いたが、ポリビニルアルコール(PVA)を用いてもよい。
その他、トイレクリーナー100の細部構成に関しても、本発明の趣旨を逸脱することのない範囲で適宜変更可能である。
[用語の説明]
明細書中の下記の用語は、特に記載がない限り、以下の意味を有するものとする。
(薬液含浸率)
水溶性バインダー塗布後の原紙シートの質量と、含浸させる薬液の質量とを測定し、原紙シートの質量に対する含浸させる薬液の質量の割合を算出したものをいう。
(目付)
JIS P 8124:2011に従って測定した坪量をいう。
(シート、エンボス等の長さ)
水解性シートを、テンションが掛かっていない状態で平坦な面に置き、当該状態で測定した長さをいう。
100 トイレクリーナー
EM1 凸エンボス
EM11 窪み部
EM2 凹エンボス
EM21 窪み部

Claims (9)

  1. 水溶性バインダーが添加された原紙シートに対して薬液を含浸させた水解性シートであって、
    複数のエンボスが形成され、
    当該エンボスは、
    MD方向、CD方向共に、1mm以上3mm以下の長さであり、
    MD方向10cm、CD方向10cmの正方形の範囲において、350個以上、550個以下の形成数となるように形成されていることを特徴とする水解性シート。
  2. 前記エンボスは、MD方向とCD方向の長さが等しいことを特徴とする請求項1に記載の水解性シート。
  3. 前記エンボスは、当該水解性シートの平面視において、正方形の各辺の中央部に窪み部が形成され、各角が丸められた形状となるように形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の水解性シート。
  4. 前記窪み部は、当該水解性シートの平面視において、深さが0.1mm以上、0.4mm以下であることを特徴とする請求項3に記載の水解性シート。
  5. 前記エンボスの各角は、曲率半径が1.0mm以上、2.5mm以下となるように丸められていることを特徴とする請求項3又は4に記載の水解性シート。
  6. 前記エンボスは、当該水解性シートの一の面に凸となる凸エンボスと、他の面に凸となる凹エンボスと、を含むことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の水解性シート。
  7. 前記凸エンボスと、前記凹エンボスとは、MD方向と、CD方向とのいずれの方向においても交互に並ぶように互い違いに配置されていることを特徴とする請求項6に記載の水解性シート。
  8. MD方向及び/又はCD方向と平行な折り目において所定回数折り畳まれており、
    前記折り目は、前記エンボスと重ならない位置に形成されていることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の水解性シート。
  9. MD方向及び/又はCD方向と平行なミシン目を備え、
    当該ミシン目は、前記折り目と重なる位置に形成されていることを特徴とする請求項8に記載の水解性シート。
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