JP6506867B2 - 水解性シートの製造方法 - Google Patents

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本発明は、水解性シートの製造方法に関する。
従来、トイレの清掃には、繰り返し使用される織布製の雑巾等が使われてきたが、これに替わって、近年、紙製の使い捨てのウェットシートが使用されるようになってきている。そして、この種のウェットシートは、洗浄剤が含浸された状態で提供され、また使用後にトイレに流して処理可能とされるものが好まれる。
かかるウェットシートにおいては、拭取り作業時の洗浄剤が含浸された湿潤状態において破れない紙力と、トイレ等に流した際に配管等に詰まらない程度の水解性を確保することが求められるところであるが、これらを効果的に達成する一つの技術として、その基材紙としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を含む水溶性バインダー等を添加した水解紙を用いることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許第3865506号公報
ところで、例えば、トイレの清掃にウェットシートを使用した場合、従来のウェットシートでは、便器の縁等を強く擦ると破れることがあった。そのため、水解性を確保しつつ、更に、強く擦ったときの破れにくさを向上させることが課題となっていた。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、水解性を確保しつつ、強く擦ったときの破れにくさを向上させた水解性シートの製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明の水解性シートの製造方法は、
パルプ及びカルボキシメチルセルロースを含有する実質的に水分散可能な複数プライの原紙シートに水性薬剤が含浸されており、
複数プライの目付が30〜150gsmであり、
前記水性薬剤には、前記カルボキシメチルセルロースに架橋反応を起こさせる架橋剤が含まれており、
前記原紙シートは全体にカルボキシメチルセルロースを含有し、
学振子として表面に網目模様が施されたPPバンドを用いた学振型摩擦堅牢度試験機による耐摩耗性試験をMD方向、CD方向で各3回実施し、それぞれ各3回の測定値の平均を算出し、それぞれの平均値が40回以上である水解性シートの製造方法であって、
湿紙を乾燥させて複数の原紙を抄造する抄紙工程と、
前記複数の原紙をプライ加工するプライ加工工程と、
を含み、
前記抄紙工程において前記原紙に前記カルボキシメチルセルロースを含むバインダー溶液を付与し、
前記プライ加工工程でプライ加工されたシートに対して前記バインダー溶液をさらに付与する溶液付与工程を含み、
前記溶液付与工程では、プライ加工されたシートの両方の外面に対応して設けられたスプレーノズルから前記バインダー溶液を対応する外面に噴射することを特徴とする。
請求項の発明は、請求項記載の水解性シートの製造方法において、前記抄紙工程では、ヤンキードライヤー上に移行された直後の湿紙に対して前記バインダー溶液をスプレーノズルから噴霧するようにすることを特徴とする。
本発明によれば、水解性を確保しつつ、強く擦ったときの破れにくさを向上させた水解性シートの製造方法を提供することができる。
本実施形態に係るトイレクリーナーの一例を示す平面図である。 (a)は、従来の紙の繊維配向を示す図、(b)は、本発明の繊維配向を示す図である。 トイレクリーナーのエンボス部分の拡大図及び断面図である。 エンボスの接触面積の一例を示す説明図である。 本実施形態に係るトイレクリーナーの製造方法を示すフローチャートである。 本実施形態に係るトイレクリーナーの製造設備(溶液付与設備)の一例を示す模式図である。 本実施形態に係るトイレクリーナーの製造設備(加工設備)の一例を示す模式図である。 本実施形態に係るトイレクリーナーの他の一例を示す平面図である。 本実施形態に係るトイレクリーナーの他の一例を示す平面図である。 図9のA−A部分拡大図である。 (a)は、図10のB−B切断部端面図、(b)は、図10のC−C切断部端面図である。 抄造装置の一例を示す概略図である。
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態である水解性シートを詳細に説明する。但し、発明の範囲は、図示例に限定されない。
なお、本発明である水解性シートにおいて、水解性シートはトイレクリーナー100を一例にして説明するが、本発明の水解性シートにはトイレクリーナー以外の清拭用途の薬液を含浸させたウェットティシューなども含まれる。また、トイレクリーナー100の製造時の紙の搬送方向をY方向(縦方向)、搬送方向に直交する方向をX方向(横方向)として説明する。
[トイレクリーナー100の構成]
まず、トイレクリーナー100の構成について説明する。
トイレクリーナー100は、複数枚(例えば、2枚)の原紙シートがプライ加工(積層)されたものであって、所定の薬液が含浸されている。また、トイレクリーナー100のシート全面には、図1に示す通り、2種類のエンボスEM11及びEM12がエンボス加工により施されている。なお、2種類のエンボスEM11及びEM12により生じる清掃対象物等との接触面積は、100mm当り、15mm〜30mm程度であることが好ましい。
例えば、エンボスEM11は菱形格子となるように配置されることにより、エンボスEM11が正方格子や矩形格子に配置される場合と比較して拭きムラを軽減することができる。また、エンボスEM12は、エンボスEM11の間に配置されている。
また、トイレクリーナー100は、折り加工されることにより、Y方向の中央部で2つ折りに折り畳まれる。そして、折り畳まれた状態で保管用のプラスチックケースや包装フィルム内等に保管され、使用時には必要に応じて広げて使用される。なお、トイレクリーナー100の折り畳み方は、2つ折りに限ることはなく、例えば、4つ折りにしても良く8つ折りにしても良い。
また、本実施形態のトイレクリーナー100の原紙シートは、トイレを掃除した後、そのまま便器の水溜りに廃棄できるように、水解性の繊維集合体から構成されている。
繊維集合体としては、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)と針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)と、を混合した繊維を使用する。好適な原料繊維としては、当該原料繊維の成分のうち広葉樹晒クラフトパルプの配合割合が50重量%を超えるもの、すなわち広葉樹晒クラフトパルプに対する針葉樹晒クラフトパルプの配合比が1/1未満となるものがあげられる。針葉樹晒クラフトパルプに対する広葉樹晒クラフトパルプの配合比を多くすることで、繊維間隙間が減少し、水分蒸散が抑制されるため、乾きにくさを向上させることができる。また、トイレクリーナー100の基材である原紙シートの表面強度を向上させるために、当該原紙シートには紙力増強のためのバインダー溶液としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を含む溶液が表面及び裏面から塗布されており、トイレクリーナー100は、厚み方向の中央から表面及び裏面に向かうにつれてCMCの含有量が増加した状態となっている。これにより、トイレクリーナー100は、水溶性バインダーを均一に含浸させた従来品に比べて便器の縁等を強く擦っても破れにくくなっている。
トイレクリーナー100は、学振子としてPPバンドを用いた学振型摩擦堅牢度試験機による耐摩耗性試験をMD方向、CD方向で各3回実施し、それぞれ各3回の測定値の平均を算出し、それぞれの平均値が40回以上となるようにする。
上記耐摩耗性試験の方法は、トイレクリーナー100を3つ折りにし、測定部分を学振型摩擦堅牢度試験機で擦り、目視で紙面に毛羽立ちや破れ等のダメージが確認された時点の回数を計測する。
上記耐摩耗性試験では、トイレクリーナーを実際に使用する場面を想定、すなわち汚れが付着したことにより便器の縁等がザラザラした状態を想定し、表面に網目模様が施されたPPバンドを学振子として使用している。これにより、トイレクリーナーの実際の使用時を想定した環境試験が可能となり、トイレクリーナーが実際の使用時に耐え得るか否かについて信頼性の高い評価を行うことができる。また、上記耐摩耗性試験では、トイレクリーナーが実際の使用時に耐え得る目安として40回以上であることを条件としているが、MD方向で45回以上、CD方向で50回以上であることがより好ましい。
また、トイレクリーナー100は、縦横の繊維配向の比率(縦/横)が0.8〜2.0であることが好ましく、1.0であることがより好ましい。
紙の製造工程である抄紙工程においては抄紙機のワイヤーの上に繊維を敷き詰めて搬送方向に流すため、一般的には、紙は、抄紙機の搬送方向である縦方向に多くの繊維が並んでいる(例えば、縦:横=2.3:1等。図2(a)参照)という特性がある。そのため、横方向の繊維密度が薄く繊維が断裂しやすい。即ち、拭くときの方向によって破れやすい。そこで、本実施形態においては、図2(b)に示すように、トイレクリーナー100の縦横の繊維配向比率を0.8〜2.0、好ましくは、1.0とすることで、どの方向から拭いても破れにくいトイレクリーナー100を提供することができる。なお、縦横の繊維配向の比率は、MD及びCD方向の湿潤強度の比により求めることができる。
また、本実施形態のトイレクリーナー100には、所定の薬液(水性薬剤)が含浸されており、具体的には、水性洗浄剤の他、香料、防腐剤、除菌剤、紙力増強剤、有機溶剤等の補助剤を含む所定の薬液が含浸されている。当該薬液は、トイレクリーナー100の基材である原紙シートの重量に対して150〜300重量%含浸させることが望ましい。
薬液としては、適宜のものを使用することができ、例えば、水性洗浄剤としては、界面活性剤の他、低級又は高級(脂肪族)アルコールを使用することができる。香料としては、水性香料の他、オレンジオイル等の油性香料の中から、一種又は数種を適宜選択して使用することができる。防腐剤としては、例えば、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン等のパラベン類を使用することができる。除菌剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、ポピドンヨード、エタノール、セチル酸化ベンザニウム、トリクロサン、クロルキシレノール、イソプロピルメチルフェノール等を使用することができる。紙力増強剤(架橋剤)としては、ホウ酸、種々の金属イオン等を使用することができる。有機溶剤としては、グリコール(2価)、グリセリン(3価)、ソルビトール(4価)等の多価アルコールを使用することができる。
また、上述した薬液の成分の補助剤については適宜選択可能であり、必要に応じて他の機能を果たす成分を薬液に含ませてもよい。
エンボスEM11は、図3(a)に示すように、膨出部PR21が曲面の形状を有している。
また、エンボスEM12は、図3(b)に示すように、膨出部PR22が平面の形状を有している。
そして、エンボスEM12は、エンボスEM11の間に配置されているので、エンボスEM11の膨出部PR21及びEM12の膨出部PR22は近接して密着することにより、図3(c)に示すように連なったエンボスEM21として形成されることになる。
また、エンボスEM11の膨出部PR21とエンボスEM12の膨出部PR22が近接するだけであって、連なっていない場合であってもよい。
このように形成された2種類のエンボスEM11及びEM12により、清掃対象物等との接触面積を増やすことができるので、トイレクリーナー100の硬さが緩和されて、拭き取り性能が高くなる。
すなわち、トイレクリーナー100のシート全面に、膨出部PR21が曲面であるエンボスEM11と、膨出部PR22が平面であるエンボスEM12を組み合わせて形成することにより、拭取り作業時にトイレクリーナー100に力が加わった時点で各エンボスが変形して、初めて接触面積が増加することになるので、接触面積を増加させると共に、各エンボスの変形に起因して、しなやかさも向上することになる。
例えば、図4(a)に示すように、単一のエンボスEM11の場合には、拭取り作業時にトイレクリーナー100に加わる力によりエンボスEM11が変形して生じる接触面積CN31は、エンボスEM11近傍に離散的に生じる。これに対して、2種類のエンボスEM11及びEM12を組み合わせた場合には、図4(b)に示すように、拭取り作業時にトイレクリーナー100に加わる力によりエンボスEM11及びEM12が変形して生じる接触面積CN32は、図4(a)の接触面積CN31と比較して、増加することが分かる。
また、2種類のエンボスEM11及びEM12は、通常のエンボスの効果を同様に得ることができ、トイレクリーナーの風合い、吸収性及び嵩高性等を向上させることができる。さらに、連なったエンボスEM21は、通常のエンボスと同様に、エンボスを施すことによる見栄えの良さの効果も得ることができる。
[トイレクリーナー100の製造方法]
次に、トイレクリーナー100の製造方法について説明する。
図5は、トイレクリーナー100の製造方法を示すフローチャートである。図6は、トイレクリーナー100の原紙シートに対してバインダー溶液を付与する溶液付与設備の模式図である。図7は、図6に示す溶液付与設備でバインダー溶液が付与された原紙シートを加工する加工設備の模式図である。
トイレクリーナー100の製造方法では、図5に示すように、先ず、抄紙機(図示省略)で原紙となる紙を抄造する抄紙工程(S1)を行う。
次いで、図5及び図6に示すように、溶液付与設備において、抄造された原紙を巻取った複数(例えば、2本)の1次原反ロール1,1からそれぞれ繰り出される連続乾燥原紙1A,1Aをプライ加工しプライ連続シート1Bとするプライ加工工程(S2)と、プライ連続シート1Bに対してバインダー溶液を付与し連続シート1Cとする溶液付与工程(S3)と、連続シート1Cを乾燥させる乾燥工程(S4)と、乾燥させた連続水解性シート1Dをスリットし巻取るスリット・巻き取り工程(S5)とを行う。なお、1次原反ロールは2本以上であれば適宜本数を変更可能であるが、以下の説明においては、2本使用する場合の例について説明する。
次いで、図5及び図7に示すように、加工設備において、上記スリット・巻き取り工程(S5)で巻取った2次原反ロール11から繰り出される連続水解性シート1Dに対してエンボス加工を施すエンボス加工工程(S6)と、エンボス加工が施されたエンボス済シート1Eに対して仕上げ加工を施す仕上げ加工工程(S7)とを行う。なお、各工程の詳細については、後述する。
〔抄紙工程〕
まず、本実施形態にかかる抄紙工程(S1)について説明する。本発明の抄紙工程(S1)では、例えば、公知の湿式抄紙技術により抄紙原料を抄紙して原紙シートを形成する。すなわち、抄紙原料を湿紙の状態とした後に、ドライヤーなどによりこれを乾燥して、薄葉紙、クレープ紙などの原紙シートを形成する。
原紙シートの原料としては、例えば、既知のバージンパルプ、古紙パルプなどを利用でき、少なくともパルプ繊維を含むものである。この原料となるパルプは、特にLBKPとNBKPを適宜の割合で配合したものが適する。なお、パルプ繊維以外の繊維として、レーヨン繊維や合成繊維などが含有されていてもよい。
また、本発明の原紙シートには、凝集剤として、アニオン性アクリルアミド系重合体(以下、「アニオン性PAM」する。)が含有される。アニオン性PAMとは、アクリルアミド系単量体とアニオン性単量体とを共重合して得られる重合体である。
アクリルアミド系単量体としては、アクリルアミド単独や、アクリルアミドと以下のようなアクリルアミドと共重合可能なノニオン性単量体等と、の混合物である。アクリルアミドと共重合可能なノニオン性単量体としては、メタクリルアミド、N、N−ジメチルアクリルアミド、N、N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−アクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン、N−ビニルロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミドが例示される。これらは単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
アニオン性単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、及びこれらの中和塩が例示される。
なお、アニオン性PAMの水溶性を損ねない程度であれば、スチレン、アクリルニトリル、(メタ)アクリル酸エステル等の単量体を配合してもよい。
アニオン性PAMの添加量としては、好適には、10〜1000ppm程度である。このような、パルプと同電荷のアニオン系の凝集剤を用いて抄紙することで、原紙シートの凝集を低下させることができ、毛細管現象により水解性を向上させることができる。
なお、原紙シートには、上述したパルプ及び凝集剤の他、湿潤紙力剤、接着剤、剥離剤等の抄紙用薬品を適宜用いてもよい。
また、本発明の実施形態では、後述する溶液付与設備の溶液付与工程でバインダー溶液が付与されるが、抄紙工程の段階でバインダー溶液を付与するようにしてもよい。
抄紙工程でもバインダー溶液を付与した場合、得られる水解性シート全体の強度を高めることができ、後工程の溶液付与工程で更にバインダー溶液を付与することにより、当該水解性シートの表面強度をより一層高めることができるようになる。
抄紙工程でバインダー溶液を付与する方法としては、例えば、抄紙原料であるパルプを含む分散液中に水溶性バインダーと該水溶性バインダーのパルプ繊維への定着剤を添加して、これを原料として湿式抄造する方法が知られている(特開平3−193996号公報)。つまり水溶性バインダーを内添する方法である。また、パルプを含む分散液からシートを湿式抄紙し、プレス脱水或いは半乾燥した後に水溶性バインダーを噴霧乾燥或いは塗工乾燥して、所定量の水溶性バインダーを含有する繊維シートを製造することも可能である。つまり水溶性バインダーを外添する方法である。この際には、プレス脱水を行うよりも熱風通過乾燥機などのプレ乾燥方式を用いた方が、低密度でより水解性の良い繊維シートを得ることができる。更に上述の湿式抄紙法ではなく、水を使わずにパルプ繊維を乾式で解繊して、ウェブを形成した後に水溶性バインダーを噴霧し、その後乾燥して繊維シートを製造することも可能である。いわゆるエアレイド製法である。
図12には、バインダーとして水溶性バインダーを用いた場合の繊維シートの製造に好ましく用いられる製造装置の一例の概略図が示されている。図12に示す製造装置(湿式抄造機)は、フォーマー14と、ワイヤーパートと、第1ドライパート17と、スプレーパートと、第2ドライパート24とを備えて構成されている。
フォーマー14は、調製装置(図示せず)から供給された完成紙料を所定の濃度に調節してワイヤーパートへ供給するものである。図示しない調製装置は、パルプ繊維等の原料を離叩解する装置と、離叩解された原料にサイズ剤、顔料、紙力増強剤、漂白剤、凝集剤等の添加剤を添加する添加装置とを備え、水解紙の特性に応じた所定濃度の原料からなる紙料を完成紙料として調製するように構成されている。また、パルプスラリーにバインダーを混合することも可能である。ワイヤーパートは、フォーマーから供給された完成紙料を抄き網に湿紙として形成するものである。第1ドライパート17は、ワイヤーパートにおいて形成された湿紙を乾燥させるものである。スプレーパートは、第1ドライパート17で乾燥された紙にバインダーを噴霧するものである。第2ドライパート24は、スプレーパートでバインダーが噴霧され湿潤状態になっている紙を乾燥させるものである。
フォーマー14から供給された完成紙料がワイヤーパートにおいて抄造され、ワイヤー15上に湿紙が形成される。湿紙は、ワイヤーパートに設置されているサクションボックス16による吸引によって水分が除去され、所定の水分率となされる。次いで湿紙は、第1ドライパート17に導入されて乾燥される。第1ドライパート17はスルーエアードライヤー(以下、TADという)から構成されている。TADは、周面が通気性を有する回転ドラム18と、該回転ドラム18をほぼ気密に覆うフード19とを備えている。TADにおいては、所定温度に加熱された空気がフード19内に供給されるようになされている。加熱された空気は回転ドラム18の外側から内部に向けて流通する。湿紙は、図12中、矢印方向に回転する回転ドラム18の周面に抱かれた状態で搬送される。TAD内を搬送されている間、湿紙にはその厚み方向へ加熱空気が貫通し、それによって湿紙は乾燥され紙となる。
第1ドライパート17で得られた紙には、スプレーパートにおいてバインダーを含む水溶液(バインダー溶液)が噴霧される。スプレーパートは第1及び第2ドライパート17,24間の位置である。両ドライパート17,24は、コンベアを介して連結されている。
コンベアは、それぞれ矢示方向に回転する上コンベアベルト20と下コンベアベルト21とを備えている。コンベア20は、第1ドライパート17のTADによって乾燥されて紙をこれら両ベルト20,21間に挟持した状態で第2ドライパート24へ搬送するように構成されている。上コンベアベルト20の下流側の折り返し端には真空ロール22が配置されている。真空ロール22は、上コンベアベルト20の裏面に紙を吸着させ、その吸着状態下に上コンベアベルト20を搬送させるようになっている。
図12に示すように、スプレーパートはスプレーノズル23を備えている。スプレーノズル23は第2ドライパート24の下方で且つ真空ロール22に対向するように配設されている。スプレーノズル23は、真空ロール22に向けてバインダーを含む噴霧液を噴霧して、紙に該噴霧液を添加(外添)するものである。
スプレーパートにおいてバインダーが供給された後、紙は第2ドライヤーパート24へ搬送される。第2ドライヤーパート24はヤンキードライヤーから構成されている。噴霧液が噴霧されて湿潤状態となっている紙は、フード26内に設置されたヤンキードライヤーの回転ドラム25の周面に抱かれた状態で搬送される。回転ドラム25に抱かれて搬送されている間に紙の乾燥が進行する。
なお、スプレーパートにおいてバインダーを供給する位置は、第1及び第2ドライパート17,24間の位置であればよく、例えば、上コンベアベルト20の上方(図12に示す第1及び第2ドライパート17,24間の矢印位置)からバインダーを噴霧するようにしてもよい。また、さらに第2ドライパート24で乾燥させた後の紙に対して上方(図12に示す第2ドライパート24の右側の矢印位置)からバインダーを噴霧するようにしてもよい。また、第1及び第2ドライパート17,24間、及び第2ドライパート24の後において、バインダーを噴霧する方向は上方からに限らず、下方からでも、上下両方からでもよい。
本実施形態では、抄紙工程において、原紙シートの縦横の繊維配向の比率(縦/横)が0.8〜2.0、好ましくは1.0となるように調整が行われる。繊維配向の調整は、例えば、抄紙機において、抄紙原料をワイヤーパートに供給する角度を調整することで行うことができる。抄紙原料を供給する角度は、例えば、ヘッドボックスのスライス開度を調整することにより行うことができる。または、抄紙機の搬送方向(走行方向)と直交する方向に振動を与える等により繊維配向を調整することとしてもよい。
〔連続乾燥原紙〕
連続乾燥原紙1Aの物性としては、好適には、目付けが15〜75gsm程度である。また、プライ加工された水溶性バインダーを含むシート(連続水解性シート1D)の目付けは、30〜150gsm程度である。なお、目付けは、JISP 8124に基づくものである。
連続乾燥原紙1Aは、後述するプライ加工工程(S2)、溶液付与工程(S3)、乾燥工程(S4)、スリット・巻き取り工程(S5)を経て、プライ加工された水解紙となり、更に、後述するエンボス加工工程(S6)、仕上げ加工工程(S7)を経て、トイレクリーナー100に加工される。
〔プライ加工工程〕
次いで、本実施形態のプライ加工工程(S2)について説明する。プライ加工工程(S2)では、図6に示すように、原反ロール1から連続的に繰り出される各連続乾燥原紙1A,1Aを、その連続方向に沿ってプライ加工しプライ連続シート1Bとする重ね合わせ部2に供給される。重ね合わせ部2は、一対のロールで構成され、各連続原紙1A,1Aをプライ加工し、プライ加工されたプライ連続シート1Bを形成する。なお、連続乾燥原紙1A,1A同士を重ね合わせる際に、連続乾燥原紙1A,1A同士がずれにくくなるように、ピンエンボス(コンタクトエンボス)で軽く留めておいてもよい。
〔バインダー溶液〕
次いで、バインダー溶液について説明する。バインダー溶液は、カルボキシルメチルセルロース(CMC)を水溶性バインダーとして含むものである。バインダー溶液中におけるカルボキシルメチルセルロースの濃度としては、1〜30重量%、好ましくは、1重量%以上、4重量%未満とする。
他方、CMCについては、そのエーテル化度が0.6〜2.0、特に0.9〜1.8、更に好ましくは1.0〜1.5であるのが望ましい。水解性と湿潤紙力の発現が極めて良好となる。
また、CMCは、水膨潤性のものを用いることができる。これは、薬液中の特定金属イオンの架橋により、未膨潤化のままシートを構成する繊維をつなぎとめる機能を発揮し、清掃・清拭作業に耐えうる拭き取りシートとしての強度を発現することができる。
バインダー溶液中のカルボキシルメチルセルロース以外の成分としては、ポリビニルアルコール、デンプンまたはその誘導体、ヒドロキシプロピルセルロース、アルギン酸ナトリウム、トラントガム、グアーガム、キサンタンガム、アラビアゴム、カラギーナン、ガラクトマンナン、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、プルプラン、ポリエチレンオキシド、ビスコース、ポリビニルエチルエーテル、ポリアクリル酸ソーダ、ポリメタアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸のヒドロキシル化誘導体、ポリビニルピロリドン/ビニルピロリドン酢酸ビニル共重合体等のバインダー成分が挙げられる。
水解性が良好となる点や架橋反応により湿潤強度を発現しうる点からカルボキシル基を有する水溶性バインダーを用いることが好ましい。
カルボキシル基を有する水溶性バインダーは、水中で容易にカルボキシラートを生成するアニオン性の水溶性バインダーである。その例としては多糖誘導体、合成高分子、天然物が挙げられる。多糖誘導体としてはカルボキシメチルセルロースの塩、カルボキシエチルセルロース又はその塩、カルボキシメチル化デンブン又はその塩などが挙げられ、特にカルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩が好ましい。
合成高分子としては、不飽和カルボン酸の重合体又は共重合体の塩、不飽和カルボン酸と該不飽和カルボン酸と共重合可能な単量体との共重合体の塩などが挙げられる。不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマール酸などが挙げられる。これらと共重合可能な単量体としては、これら不飽和カルボン酸のエステル、酢酸ビニル、エチレン、アクリルアミド、ビニルエーテルなどが挙げられる。特に好ましい合成高分子は、不飽和カルボン酸としてアクリル酸やメタクリル酸を用いたものであり、具体的にはポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸メタクリル酸共重合体の塩、アクリル酸又はメタクリル酸とアクリル酸アルキル又はメタクリル酸アルキルとの共重合体の塩が挙げられる。天然物としては、アルギン酸ナトリウム、ザンサンガム、ジェランガム、タラガントガム、ペクチンなどが挙げられる。
〔溶液付与工程〕
次いで、本実施形態の溶液付与工程(S3)ついて説明する。溶液付与工程(S3)では、図6に示すように、プライ連続シート1Bの両方の外面(連続乾燥原紙1A,1Aをプライ加工した時に連続乾燥原紙1A,1A同士が対向しない面)に2流体方式または1流体方式の各スプレーノズル3,3により上述のバインダー溶液を噴霧して連続シート1Cを生成する。
プライ加工工程においてプライ加工された直後のプライ連続シート1Bは、連続乾燥原紙1A,1Aが単に重なっているに過ぎないため、溶液付与工程においてプライ連続シート1Bの両面から、バインダー溶液をスプレーノズル3,3で塗布すると、連続乾燥原紙1A,1Aが離れた状態でバインダー溶液を付与する場合と実質的に同様であり、バインダー溶液が厚さ方向に浸透し、搬送中にシート同士が密着し、スリット・巻取り工程で圧着する中で、さらに浸透するのである。
なお、バインダー溶液の噴霧方法として、プライ連続シート1Bの片方の外面に上述のバインダー溶液を噴霧するようにしても良い。また、上述の1次原反ロール1,1からそれぞれ繰り出される連続乾燥原紙1A,1Aの少なくとも一方のシートの外面(各シートが対向しない面)に対して、2流体方式のスプレーノズルより上述のバインダー溶液を噴霧し、直後に当該連続乾燥原紙1A,1Aをプライ加工することにより、上述の連続シート1Cと同等のシートを生成するようにしても良い。
2流体方式のスプレーノズル3は、2系統に分けられた圧縮空気と液体を混合し、噴射させる方式のスプレーノズルであり、圧縮した液体を単独で噴射させる1流体方式のスプレーノズルに比べて、液体をきめ細かく均一に噴霧することができる。
本実施形態で2流体方式のスプレーノズルを使用する場合、プライ加工されたプライ連続シート1Bの各々の外面に高い圧力(噴射圧1.5MPa以上)でバインダー溶液(粘度400〜1200MPa.s)を塗布するので、シートの厚さ方向にバインダー溶液を含浸させやすい。
一方、本実施形態で1流体方式のスプレーノズルを使用する場合、プライ加工されたプライ連続シート1Bの各々の外面に噴射圧1.5MPa以下でバインダー溶液(粘度400〜1200MPa.s)を塗布することで、シートの厚さ方向にバインダー溶液を含浸させやすく、シート表面にバインダー溶液を均一に塗布させやすくしている。
このようにして、プライ連続シート1Bの外面にバインダー溶液を噴霧することで、トイレクリーナー100は、厚み方向において中央(両面に塗布した場合)又はバインダー溶液の非塗布面(片面に塗布した場合)からバインダー溶液の塗布面に向かうにつれて水溶性バインダーの含有量が増加した状態となるので、水解性を確保しつつ、表面強度を向上させることができ、強く擦ってもダメージが生じにくいトイレクリーナー100を製造することが可能となる。
〔乾燥工程〕
次いで、本実施形態の乾燥工程(S4)について説明する。乾燥工程(S4)では、図6に示すように、乾燥設備4において、上述の連続シート1Cのバインダー溶液中の不溶な液分を蒸発させて、有効成分、特にCMCを繊維に対して定着させる。
ここで、連続シート1Cの外面から厚み方向内側に向かうにつれて、バインダー溶液の浸み込む量が減少していくことから、当該厚み方向内側に向かうにつれて、CMCの定着量が減少することとなる。そのため、後述する仕上げ加工工程(S7)で薬液が含浸された際、当該厚み方向内側に向かうにつれて、架橋反応が起こり難く、空隙を多く有することから、シート内部に当該薬液を閉じ込めた状態とすることができる。これにより、得られるトイレクリーナー100を乾き難くすることができる。
乾燥設備4としては、連続シート1Cに対して熱風を吹き付けて乾燥させるフード付きドライヤー設備が利用できる。なお、シート同士をより密着させるために、プレスロールやターンロールを設置し、乾燥工程(S4)の前に当該プレスロールや当該ターンロールに連続シート1Cを通しても良い。
また、上記乾燥設備として赤外線照射による設備を用いても良い。この場合、上記連続シート1Cの搬送方向に複数の赤外線照射部を並列し、搬送される当該連続シート1Cに対して赤外線を照射して乾燥を行なう。赤外線により水分が発熱し乾燥されるものであるため、熱風によるドライヤーと比較して、均一な乾燥が可能であり、後段のスリット・巻き取り工程においての皺の発生が防止できる。
〔スリット・巻き取り工程〕
次いで、本実施形態のスリット・巻き取り工程(S5)について説明する。スリット・巻き取り工程(S5)では、プライ加工された連続水解性シート1Dをオフラインの加工機で加工する際の原反とするために、上述の乾燥工程(S4)で乾燥されCMCの定着が図られた連続水解性シート1Dをテンションを調整しながら、スリッター5で所定の幅にスリットし、ワインダー設備6において、巻き取ることとなる。巻き取り速度は、プライ加工工程(S2)、溶液付与工程(S3)、乾燥工程(S4)を考慮して適宜定める。過度に早いとシートの破断が生じ、過度に遅いと皺が発生するのでこれに留意する。
スリット・巻き取り工程(S5)で、プライ加工された連続水解性シート1Dが圧着されることにより、連続水解性シート1Dがより一体化され、1枚相当のシートとなる。
〔エンボス加工工程〕
次いで、本実施形態のエンボス加工工程(S6)について説明する。エンボス加工工程(S6)では、図7に示すように、2次原反ロール11から繰り出される、連続水解性シート1Dに対して、エンボスロール12によって、シート全面に所定の形状をなすエンボス加工が施される。このエンボス加工は、シートの強度、嵩高性、拭き取り性等を高めるとともに、デザイン性を高めることを目的としてなされている。
〔仕上げ加工工程〕
次いで、本実施形態の仕上げ加工工程(S7)について説明する。仕上げ加工工程(S7)では、図7に示すように、仕上げ加工設備13において、エンボス済シート1Eの裁断加工、裁断された各シートの折り加工、折り加工がなされた各シートへの上記薬液の含浸、当該薬液を含浸させた各シートの包装を一連の流れで行う。ここで、薬液に含有される架橋剤は、CMCを水溶性バインダーとして用いた場合、多価金属イオンを用いることが好ましい。特に、アルカリ土類金属、マンガン、亜鉛、コバルト及びニッケルからなる群から選択される1種又は2種以上の多価金属イオンを用いることが、繊維間が十分に結合されて使用に耐え得る湿潤強度が発現する点、及び水解性が十分になる点から好ましい。これらの金属イオンのうち、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、コバルト、ニッケルのイオンを用いることが特に好ましい。
以上の各工程を経ることにより、トイレクリーナー100が製造される。
上述のトイレクリーナー100の製造方法にあっては、
水溶性バインダーを含んでいない複数の原紙をプライ加工するプライ加工工程と、
プライ加工されたシートに対してバインダー溶液を付与する溶液付与工程と、
前記バインダー溶液を付与されたシートを乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥工程で乾燥させた前記シートを所定幅にスリットし巻き取る巻取り工程と、
を含み、
前記溶液付与工程は、プライ加工されたシートの両方の外面に対応して設けられたスプレーノズルから前記バインダー溶液を対応する外面に噴射したこととなる。
なお、上記プライ加工工程では、水溶性バインダーを含んでいない複数の原紙をプライ加工するほか、水溶性バインダーを含む複数の原紙をプライ加工するようにしてもよい。
次に、本実施形態のCMCを外面から塗布したトイレクリーナー(実施例)と、従来のCMCを均一に含浸したトイレクリーナー(比較例1、2)について、強く擦った場合のダメージを評価した結果、及び丈夫さに関する使用評価を、表1を用いて説明する。
<実施条件>
実施例 原紙の素材: パルプ100%
秤量:45g/m
プライ数:2プライ
水溶性バインダー及びその含有量:CMC 1.2g/m(スプレー塗布)
薬液成分:界面活性剤、グリコールエーテル、除菌剤、香料、水等
薬液含浸率:200%
エンボス加工:有
比較例1 原紙の素材: パルプ100%
秤量:約45g/m
プライ数:2
水溶性バインダー及びその含有量:CMC 1.0g/m
薬液成分:界面活性剤、グリコールエーテル、香料、水等
薬液含浸率:200%
エンボス加工:有
比較例2 原紙の素材: パルプ100%
秤量:30g/m
プライ数:3
水溶性バインダー及びその含有量:PVA 1.5g/m
薬液成分:界面活性剤、エタノール、除菌剤、香料、水等
薬液含浸率:200%
エンボス加工:有
<試験方法>
試験片(トイレクリーナー)はプライを剥がさずに幅75mm×長さ240mmでMD方向とCD方向にそれぞれ切り取って、幅方向の両端部領域が重なるように3つ折りにし、測定部分を学振型摩擦堅牢度試験機で擦り、目視で紙面に毛羽立ちや破れ等のダメージが確認された時点の回数を計測する。この計測をMD方向、CD方向で各3回実施し、それぞれ各3回の測定値の平均を算出する。なお、学振型摩擦堅牢度試験機による試験条件は下記のとおりである。
・学振型摩擦堅牢度試験機:テスター産業株式会社製 品番AB301
・摩擦子:形状 □20mm×R50mm
荷重 200gf(白綿布止め、アーム含む)
単位面積あたりの荷重 50gf/cm(荷重200gf/接触面積4.0
cm
摩擦子の綿布止めにPPバンド(積水樹脂株式会社 品番19K(幅15mm
×長さ60mm))1枚を隙間が生じたり、しわが生じたりしないように、ね
じ止めで摩擦子に固定する。
・試料台:形状 R200mm
ストローク 120mm
往復速度 30cps
・試験片(トイレクリーナー):幅25mm(プライを剥がさず幅75mmを3つ折り)
×長さ240mm(試料台側)
・試験手順:(1)試験片を試料台に弛まないように取り付ける。
(2)摩擦子を試料台に静かに降ろす。
(3)スタートSWを押して試験開始。
・判定方法:10回ずつ学振させて試験片の状態を確認し、目視で紙面に毛羽立ちや破れ
等のダメージが確認された時点の回数を計測した。
上記試験では、トイレクリーナーを実際に使用する場面を想定、すなわち汚れが付着したことにより便器の縁等がザラザラした状態を想定し、表面に網目模様が施されたPPバンドを学振子として使用している。これにより、トイレクリーナーの実際の使用時を想定した環境試験が可能となり、トイレクリーナーが実際の使用時に耐え得るか否かについて信頼性の高い評価を行うことができる。
<評価方法>
上述の実施例、比較例1、2をそれぞれ80名のユーザに実際に使用してもらい、使用した際の丈夫さへの満足度を、「満足」、「やや満足」、「どちらでもない」、「やや不満」、「不満」の5段階評価で回答してもらった。
Figure 0006506867
表1に示す試験結果のとおり、実施例は、比較例1、2に比べて強い表面強度を有し、実際の使用時を想定した環境下で強く擦った際の毛羽立ちや破れ等のダメージが生じにくいことがわかった。そして、実施例は、MD方向、及びCD方向のいずれの方向でも平均値がトイレクリーナーが実際の使用時に耐え得るか否かの目安となる数値(40回)を超えており、実際の使用時に耐え得ることがわかった。一方、比較例1、2は、MD方向、及びCD方向のいずれの方向でも平均値がこの目安となる数値を下回っており、実際の使用時に耐え得ることができないことがわかった。
また、実施例は、トイレクリーナーが実際の使用時に耐え得るか否かの目安となる数値(40回)を、CD方向で優に超えることがわかった。このことから、トイレクリーナーのCD方向がどの方向であるかを使用者が判別することができるようにしておく(例えば、CD方向を示す矢印をトイレクリーナーの紙面に付す)ことにより、便器を拭く際に使用者は手のストローク方向とCD方向とを一致させてトイレクリーナーを使用することができるようになるので、清掃途中でトイレクリーナーが破れてしまうことをより一層抑制することができる。
また、表1に示す使用評価の結果のとおり、実施例は、比較例1、2に比べて、「満足」と回答するユーザの割合が格段に多いことがわかった。すなわち、実施例のようにトイレクリーナーが実際の使用時に耐え得るか否かの目安となる表面強度の数値を上述の試験で40回以上となるようにすることにより、トイレクリーナーは、水解性を確保しつつ、強く擦っても破れにくくなることが裏付けされたこととなる。
なお、表1に示す各使用評価に対応する数値は、当該評価を行ったユーザの割合をパーセント表示したものである。また、表1に示す平均は、「満足」を5点、「やや満足」を4点、「どちらでもない」を3点、「やや不満」を2点、「不満」を1点とし、各評価に対応する点数と当該評価の回答数を掛け合算し、合算した値を回答者数で除した値である。
以上、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
本発明の実施形態等の説明に際しては、膨出部PR21が曲面の形状を有しているエンボスEM11と、膨出部PR22が平面の形状を有しているエンボスEM12を例示しているが、必ずしもこの形状に限定されるものではなく、例えば、エンボスEM11及びエンボスEM12の膨出部が高さの異なる平面の形状であってもよい。また、例えば、エンボスEM11の膨出部が平面の形状であり、エンボスEM12の膨出部が曲面の形状であってもよい。
言い換えれば、膨出部の形状が同一形状ではない2種類のエンボス(第1のエンボス及び第2のエンボス)であって、第1のエンボスの周囲に、第2のエンボスが配置されるものであれば、各エンボスの膨出部の形状はどのようなものであってもよい。
また、本発明の実施形態等の説明に際しては、膨出部が平面のエンボスEM12は、膨出部が曲面のエンボスEM11の間に配置されているが、エンボスEM11が互いに交差するものであってもよい。
また、本発明の実施形態等の説明に際しては、すべてのエンボスEM11及びEM12が、図1の図面手前方向に凸になっているが、図面手前方向に凸なエンボスEM11及びEM12と、図面手前方向に凹なエンボスEM11及びEM12を交互に配置するものであってもよい。
例えば、図8に示すように、図8の図面手前方向に凸なエンボスEM11及びEM12(実線部分)と、図8の図面手前方向に凹なエンボスEM11及びEM12(破線部分)を交互に配置することにより、エンボス加工により水解性シートの表面強度を高めると共に、トイレクリーナー100両面のどちらでも拭き取り性能の高い水解性シートを提供することができる。
また、本発明の実施形態等の説明に際しては、エンボスEM11の膨出部PR21及びEM12の膨出部PR22は近接して密着することにより、連なったエンボスEM21として形成されているが、エンボスEM11の膨出部PR21及びEM12の膨出部PR22は近接するだけで密着しないものであってもよい。
また、本発明の実施形態の説明に際しては、エンボスEM11の形状として、円形若しくは楕円形の形状を例示しているが、エンボスの形状は方形、多角形等の任意の形状でよい。
また、図3におけるエンボスEM11及びEM12の膨出部の高さHT21及びHT22は、例えば、0.40mm〜0.75mmであることが好ましい。エンボスの膨出部の高さは、キーエンス製デジタルマイクロスコープで表面を3D測定することで測定することができる。
例えば、高さが0.40mm未満であると、拭き取り時の摩擦が強くなって、拭き取りがしにくく、また、高さが0.75mmを超えると、包装時にエンボスEM11及びEM12の形状がくずれやすくなって、見栄えが悪くなる。
また、トイレクリーナーのエンボスパターンは、上述のパターンに限らない。図9は、トイレクリーナー100のエンボスパターンのみを変更したトイレクリーナー101の平面図、図10は、図9のA−A部分拡大図、図11(a)は、図10のB−B切断部端面図、図11(b)は、図10のC−C切断部端面図である。
図9〜図11において、凹部e2は、凸部e1を反転した形状である。凸部e1と凹部e2は、交互に一例に配置され、この列が多列に、かつ隣り合う列における凸部e1と凹部e2が互いに半ピッチずれるように配列されたエンボスパターンを形成している。このように、凸部e1及び凹部e2が縦方向においても横方向においても交互に形成されていることで、凸部同士や凹部同士が一列に並んでいるエンボスパターンよりも汚れの拭き取り性を向上させることができる。なお、凸部e1と凹部e2の形状は、特に限定されず、円形、楕円形、多角形等が用いられる。各形状を組み合わせたものとしてもよい。
また、本発明の実施形態等の説明に際しては、スプレー方式によりバインダー溶液を塗布するようにしたが、1次原反ロール1から連続的に繰り出される連続乾燥原紙1Aに対して、ドクターチャンバー方式(一つのバックアップロールに対して対になる二つの刷版ロールと、各刷版ロールと対になるアニロックロールと、各アニロックスロールに対して薬液を付与するドクターチャンバーを備える転写設備)、もしくは/および、3ロール方式(一つのバックアップロールに対して対になる二つの刷版ロールと、各刷版ロールと対になるアニロックロールと、各アニロックスロールに対して薬液を付与するディップロールと、ディップロールに薬液を付与するパンを備える転写設備)によってバインダー溶液を塗布するようにしてもよい。つまり、複数の原紙(連続乾燥原紙1A)がプライ加工されてなる水解性シートの製造方法において、水溶性バインダーを含んでいない複数の原紙のうち、前記水解性シートの表面及び裏面となる原紙の少なくとも何れか一方の面に対してバインダー溶液を付与(転写)する溶液付与工程と、前記複数の原紙をプライ加工するプライ加工工程と、プライ加工されたシートを乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥工程で乾燥させた前記シートを所定幅にスリットし巻き取る巻取り工程と、を含み、前記溶液付与工程は、前記水解性シートの表面及び裏面となる原紙の少なくとも何れか一方の面に対応して設けられた印刷機から前記バインダー溶液を対応する原紙に転写するようにする。
なお、上記溶液付与工程では、水溶性バインダーを含んでいない複数の原紙のうち、水解性シートの表面及び裏面となる原紙の少なくとも何れか一方の面に対してバインダー溶液を付与するほか、水溶性バインダーを含む複数の原紙のうち、水解性シートの表面及び裏面となる原紙の少なくとも何れか一方の面に対してバインダー溶液を付与するようにしてもよい。
単なるロール転写では、所望量の薬液を付与するためには、極めて高濃度の薬液が必要となり、かかる薬液は粘度が高くなるためにロール転写で均一転写することができない。また、粘度を低くするために濃度を低くすれば、上述のとおり所望の付与量とすることができない。このように乾燥原紙に対して薬液を付与することが極めて困難なことであることから、ドクターチャンバー方式、もしくは/および、3ロール方式を採用する。
一つのバックアップロールに対して対となる刷版ロールを設けるドクターチャンバー方式、もしくは/および、3ロール方式を採用することにより、各刷版ロールにおける付与量が少なくとも、合計量において十分な量の薬液を乾燥原紙に対して付与できる。また、バックアップロールが一つであることにより、極めて均一に付与できる。これは、バックアップロールが一つであることで、最初の刷版ロールから次の刷版ロールまでの間の張力が極めて安定して一定であることから、二つの刷版ロールで二段階付与しても、連続原紙に対して極めて均一に薬液を付与することができるのである。また、二つの刷版ロールの間隔が短くなることから、最初の刷版ロールで薬液が付与された後、直ちに次の刷版ロールでの付与がなされことからも、付与ムラなく均一転写ができるのである。このような効果は、単に、バックアップロールと刷版ロールを一対二段にしただけでは得ることはできない。
また、より好ましくはドクターチャンバー方式で薬液を付与する方が、3ロール方式より幅方向でより均一に安定して薬液を転写できるため好ましい。
さらに、薬液が付与された連続紙を乾燥させる乾燥工程を有する。この乾燥工程は、連続紙に直接的に接触しない間接乾燥が望ましく、特に赤外線照射によるものが望ましい。間接乾燥の場合には皺の発生が抑制される。特に、赤外線照射によるものとすると、紙面各所の乾燥が均一に生ずるので、乾燥時における皺や歪みなどの発生が効果的に防止できる。
以下にドクターチャンバー方式を例に詳しく説明する。
このドクターチャンバー方式による転写設備は、一つのバックアップロールに対して一つの刷版ロールが設けられている。
バインダー溶液を塗布する際の塗布加工速度は30〜100m/分で操業され、より好ましくは50〜80m/分で操業される。30m/分未満では乾燥されるまえにクレープが伸びてしまい、後工程で加工しづらいという問題がある。逆に100m/分超過では十分な転写量が得られなかったり、幅方向での塗布量のバラツキにより、湿潤強度や水解性にバラツキが生じる。
上記バックアップロールの直径は250〜420mmが適当である。直径が250mm未満であると刷版ロールとバックアップロールの接地面積が少なくなり安定的な塗布ができなくなる。直径が420mm超であっても製造上の問題はないが、設備費用が過多にかかるため好ましくない。
上記刷版ロールには、これにバインダー溶液を受け渡すアニロックスロールがそれぞれ設けられており、このアニロックスロールに対しては、これにバインダー溶液を受け渡して付与するドクターチャンバーが設けられている。また、ドクターチャンバーに対しては、これにバインダー溶液を受け渡して付与するスネークポンプが、アニロックスロールの溶液パンに供給するための送りと戻りの両方に設置されており、ドクターチャンバーに対して粘度の高いバインダー溶液の移送が可能となっている。
1次原反ロール1から繰り出された連続乾燥原紙1Aは、適宜のガイドロールを介して、バックアップロールに巻き掛けられて、適宜の張力と表面の安定性が付与される。
そして、このバックアップロールに巻き掛けられた連続乾燥原紙1Aに対して、刷版ロールにてバインダー溶液がロール転写される。
ここで、刷版ロールは、凹溝のないベタ版仕様のシームレスロールとし、連続乾燥原紙1Aの全体にバインダー溶液をベタ印刷の如く付与する。この刷版ロールとして用いられるシームレスロールは、タイプロールのスリーブにゴム板を巻きつけ釜に入れて過熱溶接し、研磨して成形したものである。材料として用いるゴム板は所定の目的に応じて材質や硬度、色等を選択することができる。
他方、刷版ロールにバインダー溶液を受け渡すアニロックスロールの線数及びセル容量は、バインダー溶液の濃度にもよるが、線数60〜120線/インチ、セル容量40〜90ml/m2とするのが望ましい。線数が60線/インチ未満であると刷版ロールに過度のバインダー溶液が受け渡され、結果的に連続乾燥原紙1Aに対して刷版ロールからムラを持ってバインダー溶液が付与されるおそれが高まる。反対に、線数が120線/インチを超えると十分な量かつ刷版ロールの周面全体にバインダー溶液を受け渡すことが困難となる。また、セル容量が40ml/m2未満であると十分な量のバインダー溶液を刷版ロールに受け渡すことが困難となり、セル容量が90ml/m2を超えても歩留まりの悪化を招くだけである。
なお、上述のようにバインダー溶液が付与(転写)される連続乾燥原紙1Aは、プライ加工する際に最上層又は最下層となる原紙のみを対象とする。つまり、例えば、3プライ加工する場合、中層となる連続乾燥原紙1Aに対してはバインダー溶液を付与(転写)しない。
また、上記のドクターチャンバー方式では、連続乾燥原紙1Aに対してバインダー溶液を転写、すなわち、プライ加工工程の前、連続乾燥原紙1Aに対してバインダー溶液を転写するようにしているが、プライ加工工程の後、プライ加工されたプライ連続シート1Bに対してバインダー溶液を転写するようにしてもよい。
つまり、複数の原紙(連続乾燥原紙1A)がプライ加工されてなる水解性シートの製造方法において、水溶性バインダーを含んでいない複数の原紙をプライ加工するプライ加工工程と、プライ加工されたシートに対してバインダー溶液を付与(転写)する溶液付与工程と、前記バインダー溶液を付与されたシートを乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥工程で乾燥させた前記シートを所定幅にスリットし巻き取る巻取り工程と、を含み、前記溶液付与工程は、プライ加工されたシートの少なくとも何れか一方の外面に対応して設けられた印刷機から前記バインダー溶液を対応する外面に転写するようにする。
なお、上記プライ加工工程では、水溶性バインダーを含んでいない複数の原紙をプライ加工するほか、水溶性バインダーを含む複数の原紙をプライ加工するようにしてもよい。
このように、ドクターチャンバー方式でバインダー溶液を転写する場合、粘度の高いバインダー溶液を塗布することができるので、シート内部までバインダー溶液が浸透することを抑制することができる。よって、シート表面にのみCMCを定着させることが可能となる。なお、ドクターチャンバー方式でバインダー溶液を転写する場合のほか、例えば、ホットメルト樹脂塗工用のコーターによりバインダー溶液をシート表面にコーティングするようにしてもよい。かかる場合もシート表面にのみCMCを定着させることが可能となる。
また、本発明の実施形態等の説明に際しては、図6に示す溶液付与設備の溶液付与工程でバインダー溶液が付与されるようにしたが、抄紙工程の段階でバインダー溶液を付与するようにしてもよい。
つまり、複数の原紙(連続乾燥原紙1A)がプライ加工されてなる水解性シートの製造方法において、前記複数の原紙をそれぞれ抄造する抄紙工程を含み、前記抄紙工程は、抄造中の湿紙に対してバインダー溶液を付与するようにする。
具体的には、抄紙工程では、例えば、抄紙網で形成された湿紙をフェルト上に載せて搬送するとともに、そのフェルト上の湿紙をタッチロールを介してヤンキードライヤーに移行させ、そのヤンキードライヤーに付着されて搬送される過程で湿紙を乾燥させて原紙を得るが、上述のヤンキードライヤー上に移行された直後の湿紙に対してバインダー溶液をスプレーノズルから噴霧するようにする。
このように、抄紙工程でもバインダー溶液を付与した場合、得られる水解性シート全体の強度を高めることができ、後工程の溶液付与工程で更にバインダー溶液を付与することにより、当該水解性シートの表面強度をより一層高めることができるようになる。
また、本発明の実施形態等の説明に際しては、水溶性バインダーとしてCMCを用いたが、ポリビニルアルコール(PVA)を用いてもよい。
その他、トイレクリーナー1の細部構成に関しても、本発明の趣旨を逸脱することのない範囲で適宜変更可能である。
100、101 トイレクリーナー
1 1次原反ロール
1A 連続乾燥原紙
1B プライ連続シート
1C 連続シート
1D 連続水解性シート
1E エンボス済シート
2 重ね合わせ部
3 スプレーノズル
4 第1乾燥設備
5 スリッター
6 ワインダー設備
11 2次原反ロール
12 エンボスロール
13 仕上げ加工設備
14 フォーマー
15 ワイヤー
16 サクションボックス
17 第1ドライパート
18 回転ドラム
19 フード
20 上コンベアベルト
21 下コンベアベルト
22 真空ロール
23 スプレーノズル
24 第2ドライパート
25 回転ドラム
26 フード
EM11 エンボス
EM12 エンボス
EM13 エンボス
PR21 膨出部
PR22 膨出部

Claims (2)

  1. パルプ及びカルボキシメチルセルロースを含有する実質的に水分散可能な複数プライの原紙シートに水性薬剤が含浸されており、
    複数プライの目付が30〜150gsmであり、
    前記水性薬剤には、前記カルボキシメチルセルロースに架橋反応を起こさせる架橋剤が含まれており、
    前記原紙シートは全体にカルボキシメチルセルロースを含有し、
    学振子として表面に網目模様が施されたPPバンドを用いた学振型摩擦堅牢度試験機による耐摩耗性試験をMD方向、CD方向で各3回実施し、それぞれ各3回の測定値の平均を算出し、それぞれの平均値が40回以上である水解性シートの製造方法であって、
    湿紙を乾燥させて複数の原紙を抄造する抄紙工程と、
    前記複数の原紙をプライ加工するプライ加工工程と、
    を含み、
    前記抄紙工程において前記原紙に前記カルボキシメチルセルロースを含むバインダー溶液を付与し、
    前記プライ加工工程でプライ加工されたシートに対して前記バインダー溶液をさらに付与する溶液付与工程を含み、
    前記溶液付与工程では、プライ加工されたシートの両方の外面に対応して設けられたスプレーノズルから前記バインダー溶液を対応する外面に噴射することを特徴とする水解性シートの製造方法
  2. 前記抄紙工程では、ヤンキードライヤー上に移行された直後の湿紙に対して前記バインダー溶液をスプレーノズルから噴霧するようにすることを特徴とする請求項記載の水解性シートの製造方法。
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