JP2019171546A - 表面被覆切削工具及びその製造方法 - Google Patents

表面被覆切削工具及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】耐摩耗性及び耐チッピング性に優れた表面被覆切削工具及びその製造方法を提供する。【解決手段】基材と、前記基材を被覆する被膜とを備える表面被覆切削工具であって、被膜は、複数個の柱状結晶を有する第1硬質層を含み、柱状結晶のそれぞれは、下記式(1)TiCxNz−x(1)(式(1)中、0.45≦x<0.70および0.80≦z≦1.20である)で示される第1単位層と、下記式(2)TiCyNA−y(2)(式(2)中、0.70≦y≦1および0.80≦A≦1.20である)で示される第2単位層とが交互に積層された多層構造を有し、柱状結晶において、基材に最も近接する層は第2単位層である。【選択図】図1

Description

本発明は表面被覆切削工具及びその製造方法に関する。
従来、基材と該基材を被覆する被膜とを備える表面被覆切削工具において、被膜としてTiCN層およびTiC層のうちいずれか一方、または両方を含むものが知られている。
Geun-Woo, Park、他1名、「Structural and Mechanical Properties of Multilayered CVD TiC/TiCN Coatings with Variations of Multilayer Period」、Materials Science Forum、スイス、Trans Tech Publications、2007、vols.534-536、p.1233-1236(非特許文献1)には、切削工具用の被膜として、超硬合金上にCVD法(化学気相蒸着法)により形成されたTiCとTiCNとの積層構造を含む被膜が開示されている。
Anongsack Paseuth、他4名、「Microstructure, mechanical properties, and cutting performance of TiCxN1-xcoatings with various x values fabricated by moderate temperature chemical vapor deposition」、Surface & Coatings Technology、スイス、Elesevier、2014、vol.260、p.139-147(非特許文献2)には、切削工具用の被膜として、超硬合金上にCVD法により形成されたTiC1−xからなる被膜が開示されている。
Geun-Woo, Park、他1名、「Structural and Mechanical Properties of Multilayered CVD TiC/TiCN Coatings with Variations of Multilayer Period」、Materials Science Forum、スイス、Trans Tech Publications、2007、vols.534-536、p.1233-1236 Anongsack Paseuth、他4名、「Microstructure, mechanical properties, and cutting performance of TiCxN1-xcoatings with various x values fabricated by moderate temperature chemical vapor deposition」、Surface & Coatings Technology、スイス、Elesevier、2014、vol.260、p.139-147
非特許文献1では、CVD法において、TiCN層及びTiC層の原料ガスとして、CHを含むガスを用いている。CHは約1000℃以上でないと熱分解しない。このため、CHを用いるCVD法は、1000℃以上の高温条件下で行われている。この条件下では、被膜の形成中に、超硬合金からなる基材と被膜との間で相互拡散が起こりやすく、基材と被膜との界面に脆化層であるη層が形成されやすい。
また、非特許文献1では、CVD法が1000℃以上の高温条件下で行われるため、基材に蒸着する原子が基材上で移動しやすいため、結晶成長の方向が一定になり難く、粒状結晶が成長しやすい。粒状結晶からなる被膜では、結晶界面が多いため破壊起点が増加し、脆性破壊により被膜が脱落しやすく、被膜の耐チッピング性が低下する。
非特許文献2では、CVD法において、TiC1−x層の原料ガスとして、TiCl、CHCN、C、N及びHを用い、840℃の温度条件下で成膜が行われている。この条件下では、TiC1−x層中のCの含有量が大きくなる傾向がある(例えば0.65<x<0.9)。TiC1−x層において、Cの含有量が大きくなると、硬度は向上するが、耐チッピング性が低下する。更に、TiC1−x層において、Cの含有量が大きくなると、酸化開始温度が低下する傾向があり、耐酸化性において改善の余地がある。
また、非特許文献2では、被膜がヤング率の高い(422)面に強配向しているため、被膜が破壊しやすく、耐チッピング性において改善の余地がある。
更に、非特許文献2では、成膜温度が低いため、原料ガス中のCが凝集して炭化し、TiC1−x層内にフリーカーボンとして混入してしまう。フリーカーボンが膜中に含まれると膜が疎構造となり破壊起点が増加するため、被膜の耐チッピング性が低下する。
そこで、本目的は、耐摩耗性及び耐チッピング性に優れた表面被覆切削工具及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明の一態様に係る表面被覆切削工具は、
[1]基材と、前記基材を被覆する被膜とを備える表面被覆切削工具であって、
前記被膜は、複数個の柱状結晶を有する第1硬質層を含み、
前記柱状結晶のそれぞれは、下記式(1)
TiCz−x (1)
(式(1)中、0.45≦x<0.70および0.80≦z≦1.20である)
で示される第1単位層と、下記式(2)
TiCA−y (2)
(式(2)中、0.70≦y≦1および0.80≦A≦1.20である)
で示される第2単位層とが交互に積層された多層構造を有し、
前記柱状結晶において、前記基材に最も近接する層は前記第2単位層である、表面被覆切削工具である。
本発明の他の一態様に係る表面被覆切削工具の製造方法は、
[2]上記[1]に記載の表面被覆切削工具の製造方法であって、
基材を準備する工程と、
前記基材上に被膜を形成する工程とを備え、
前記被膜を形成する工程は、第1単位層形成工程と第2単位層形成工程とを含み、
前記第1単位層形成工程及び前記第2単位層形成工程は、反応温度800℃以上950℃以下、かつ、圧力0.05atm以上1.0atm以下の条件下で行われ、
前記第1単位層形成工程において、TiCl、CHCN、N及びHを含む第1原料ガスを用いて、下記式(1)
TiCz−x (1)
(式(1)中、0.45≦x<0.70および0.80≦z≦1.20である)
で示される第1単位層を形成し、
前記第2単位層形成工程において、TiCl、C及びHを含む第2原料ガスを用いて、下記式(2)
TiCA−y (2)
(式(2)中、0.70≦y≦1および0.80≦A≦1.20である)
で示される第2単位層を形成し、
前記第1単位層形成工程及び前記第2単位層形成工程は、前記第2単位層形成工程から開始される、表面被覆切削工具の製造方法である。
上記態様によれば、耐摩耗性及び耐チッピング性に優れた表面被覆切削工具及びその製造方法を提供することができる。
本発明の一実施の形態に係る表面被覆切削工具の被膜の断面のSEM(走査電子顕微鏡)写真である。 図1に示される表面被覆切削工具の被膜の断面を模式的に示す図である。 図1中の柱状結晶を含む部分を拡大して示すSEM(走査電子顕微鏡)写真である。 図3に示される柱状結晶を含む部分を模式的に示す図である。 本発明の一実施の形態に係る表面被覆切削工具の被膜の断面の光学顕微鏡写真である。
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
本発明の一態様に係る表面被覆切削工具は、
(1)基材と、前記基材を被覆する被膜とを備える表面被覆切削工具であって、
前記被膜は、複数個の柱状結晶を有する第1硬質層を含み、
前記柱状結晶のそれぞれは、下記式(1)
TiCz−x (1)
(式(1)中、0.45≦x<0.70および0.80≦z≦1.20である)
で示される第1単位層と、下記式(2)
TiCA−y (2)
(式(2)中、0.70≦y≦1および0.80≦A≦1.20である)
で示される第2単位層とが交互に積層された多層構造を有し、
前記柱状結晶において、前記基材に最も近接する層は前記第2単位層である、表面被覆切削工具である。
本発明によれば、耐摩耗性及び耐チッピング性に優れた表面被覆切削工具を提供することができる。
(2)前記多層構造の積層周期は、20nm以上4000nm以下であることが好ましい。これによると、多層構造における層間剥離を抑制することができ、耐摩耗性、耐熱性および耐チッピング性に優れた表面被覆切削工具を提供することができる。
(3)前記式(1)中のxと、前記式(2)中のyとが、y−x≧0.25の関係を満たすことが好ましい。これによると、表面被覆切削工具の耐摩耗性及び耐チッピング性をバランス良く向上することができる。
(4)前記第1硬質層は、1.0体積%以下の量のフリーカーボンを含むことが好ましい。これによると、表面被覆切削工具の耐摩耗性及び耐チッピング性を更に向上することができる。
本発明の他の一態様に係る表面被覆切削工具の製造方法は、
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の表面被覆切削工具の製造方法であって、
基材を準備する工程と、
前記基材上に被膜を形成する工程とを備え、
前記被膜を形成する工程は、第1単位層形成工程と第2単位層形成工程とを含み、
前記第1単位層形成工程及び前記第2単位層形成工程は、化学気相蒸着法により、反応温度800℃以上950℃以下、かつ、圧力0.05atm以上1.0atm以下の条件下で行われ、
前記第1単位層形成工程において、TiCl、CHCN、N及びHを含む第1原料ガスを用いて、下記式(1)
TiCz−x (1)
(式(1)中、0.45≦x<0.70および0.80≦z≦1.20である)
で示される第1単位層を形成し、
前記第2単位層形成工程において、TiCl、C及びHを含む第2原料ガスを用いて、下記式(2)
TiCA−y (2)
(式(2)中、0.70≦y≦1および0.80≦A≦1.20である)
で示される第2単位層を形成し、
前記第1単位層形成工程及び前記第2単位層形成工程は、前記第2単位層形成工程から開始される、表面被覆切削工具の製造方法である。
本発明によれば、耐摩耗性及び耐チッピング性に優れた表面被覆切削工具を提供することができる。
(6)前記第1単位層形成工程において、第1原料ガス中のHガスの含有量は60体積%以上98体積%以下、かつ、第2単位層形成工程において、第2原料ガス中のHガスの含有量は90体積%以上99体積%以下であることが好ましい。これによると、第1単位層及び第2単層中にフリーカーボンが混入することを抑制することができる。
[本発明の実施形態の詳細]
本発明の一実施形態にかかる表面被覆切削工具の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本明細書において化合物を化学式で表わす場合、原子比を特に限定しない場合は従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるものではない。たとえば単に「TiCN」と記す場合、「Ti」と「C」と「N」の原子比は50:25:25の場合のみに限られず、また「TiC」と記す場合も「Ti」と「C」の原子比は50:50の場合のみに限られず、従来公知のあらゆる原子比が含まれるものとする。
<表面被覆切削工具>
本発明の一実施の形態に係る表面被覆切削工具について、図1〜図4を用いて説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係る表面被覆切削工具の被膜の断面を示す図である。図2は、図1に示される表面被覆切削工具の被膜の断面を模式的に示す図である。図3は、図1中の柱状結晶を含む部分を拡大して示すSEM(走査電子顕微鏡)写真である。図4は、図3に示される柱状結晶を含む部分を模式的に示す図である。
図2に示されるように、本発明の一実施の形態に係る表面被覆切削工具10は、基材1と、前記基材1を被覆する被膜2とを備える。被膜2は、基材1の全面を被覆することが好ましいが、基材1の一部が被膜2で被覆されていなかったり、被膜2の構成が部分的に異なっていたとしても本実施形態の範囲を逸脱するものではない。
本実施形態の表面被覆切削工具は、ドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップなどの切削工具として好適に使用することができる。
<基材>
本実施形態の表面被覆切削工具10に用いられる基材1は、この種の基材として従来公知のものであればいずれも使用することができる。たとえば、超硬合金(たとえばWC基超硬合金、WCの他、Coを含み、あるいはTi、Ta、Nb等の炭窒化物を添加したものも含む)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウムなど)、立方晶型窒化硼素焼結体、またはダイヤモンド焼結体のいずれかであることが好ましい。
これらの各種基材の中でも、特にWC基超硬合金、サーメット(特にTiCN基サーメット)を選択することが好ましい。これは、これらの基材が特に高温における硬度と強度とのバランスに優れ、上記用途の表面被覆切削工具の基材として優れた特性を有するためである。
<被膜>
本実施形態の表面被覆切削工具10に含まれる被膜2は、少なくとも1層の第1硬質層3を含む限り、他の層を含んでいてもよい。他の層としては、たとえば下地層5(TiN、TiC、TiBN等)、中間層6(TiBNO、TiCNO等)、アルミナ層7、最表面層8(TiN、TiCN、TiC等)等を挙げることができる。
被膜2は、基材1を被覆することにより、耐摩耗性や耐チッピング性等の諸特性を向上させる作用を有するものである。
被膜2は、合計で6〜30μm、好ましくは6〜25μmの厚みを有することが好適である。厚みが6μm未満では、耐摩耗性が不十分となる場合があり、30μmを超えると、断続加工において被膜と基材との間に大きな応力が加わった際に被膜の剥離または破壊が高頻度に発生する場合がある。
<第1硬質層>
本実施形態において、第1硬質層3は、複数個の柱状結晶4を有する。図4に示される通り、柱状結晶4のそれぞれは、1層の第1単位層4a及び1層の第2単位層4bとが交互に積層され、全体として1層以上の第1単位層4a及び1層以上の第2単位層4bを含む多層構造を有する。柱状結晶4において、基材1に最も近接する層は第2単位層4bである。
上記第1単位層4aは、下記式(1)
TiCz−x (1)
(式(1)中、0.45≦x<0.70および0.80≦z≦1.20である)
で示される組成を有する。
上記第2単位層4bは、下記式(2)
TiCA−y (2)
(式(2)中、0.70≦y≦1および0.80≦A≦1.20である)
で示される組成を有する。
上記の第1硬質層3は、このような構成を有することにより、耐摩耗性と耐チッピング性とがバランス良く向上するという優れた効果を示す。この理由は、下記(i)〜(vi)の通りと推察される。
(i)第1硬質層3は、複数個の柱状結晶4を含むため、粒状結晶から構成される場合よりも粒界が少なく、破壊起点が減少し、被膜の脱落や欠損が生じにくい。よって、第1硬質層3は優れた耐チッピング性を有する。
(ii)一般にTiCNからなる層において、炭素と窒素の合計に対する炭素の原子比が少ないほど、耐チッピング性及び耐熱性が向上するが、耐摩耗性は低下する傾向がある。一方、TiCNからなる層において、炭素と窒素の合計に対する炭素の原子比が大きいほど、耐摩耗性が向上するが、耐チッピング性及び耐熱性は低下する傾向がある。第1硬質層3は、炭素の含有量が比較的少ないTiCNからなる第1単位層4aと、炭素の含有量が比較的多いTiCN又はTiCからなる第2単位層4bとを交互に積層して含むため、耐摩耗性と耐チッピング性とがバランス良く向上し、耐熱性も向上する。
(iii)第1硬質層3は、第1単位層4aと第2単位層4bとの多層構造となっているため、亀裂の粒内伝播(柱状結晶4の内部における亀裂の伝播)を抑制することができる。これにより、第1硬質層3の耐チッピング性が向上する。
(iv)第1単位層4aと第2単位層4bとは格子定数が異なるため、第1単位層4aおよび第2単位層4bの結晶格子内に歪が生じ、歪がない場合に比べて第1単位層4aおよび第2単位層4bの硬度が高くなる。これにより、第1硬質層3の耐摩耗性が向上する。
(v)第1硬質層3に含まれる柱状結晶4において、基材に最も近接する層は第2単位層4bである。これは、基材1上に柱状結晶4を例えばCVD法で形成する際に、第2単位層4bが初めに形成されたことを示す。第2単位層4bは、炭素の含有量が比較的多いTiCN又はTiCからなる層であり、配向性指数TC(hkl)においてTC(200)が最大である。したがって、第2単位層4b上に第1単位層4a及び第2単位層4bを交互に積層して形成される多層構造からなる柱状結晶4は(200)面に配向しており、柱状結晶4は基材表面に対して垂直方向(被膜2の厚さ方向)に均一に成長する。これにより、柱状結晶4中の強度のばらつきが小さくなり、第1硬質層3の耐摩耗性及び耐チッピング性が向上する。
(vi)第1硬質層3に含まれる柱状結晶4は、岩塩型結晶構造を有し、低ヤング率である(200)面に配向している。これにより、第1硬質層3の耐チッピング性が向上する。
本実施の形態において、第1硬質層3は複数個の柱状結晶4のみにより構成されていてもよいし、柱状結晶4とともに粒状結晶等の他の結晶領域を含んでいてもよい。第1硬質層3が他の結晶領域を含む場合は、第1硬質層3に占める柱状結晶4の体積割合は、50体積%以上が好ましく、70体積%以上がより好ましく、100体積%が更に好ましい。柱状結晶4の体積割合が50%未満になると、上記の柱状結晶に由来する第1硬質層の耐摩耗性及び耐チッピング性の向上効果が得られなくなる場合がある。
第1硬質層3中に柱状結晶が存在すること、及び、第1硬質層3中の柱状結晶4の体積割合は、被膜の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察することにより確認することができる。具体的には、被膜の断面をArエッチングによりCP加工し、加工面を日立株式会社製電界放出型走査電子顕微鏡SU6600を用いて、拡大倍率10000倍で観察することにより、柱状結晶部分と非柱状結晶部分が存在することを確認できる。さらに、柱状結晶部分と非柱状結晶部分の面積比を算出し、柱状結晶部分の面積比を、第1硬質層中の柱状結晶の体積割合とすることができる。
第1硬質層3に含まれる柱状結晶4は、基材表面に対してほぼ垂直方向(すなわち被膜の厚み方向)に成長したものであり、たとえば幅(径)が30nm以上500nm以下であり、長さが1000nm以上10000nm以下の形状を有する。なお、粒状結晶とは、柱状結晶のように一方向に結晶成長したものではなく、略球状や不定形の形状をした100nm以上1000nm以下の粒子サイズを有するものをいう。柱状結晶や粒状結晶の大きさは、X線解析(XRD)の測定結果に基づき、シェラーの式より算出することができる。
柱状結晶4の平均粒径は、30nm以上80nm以下が好ましく、30nm以上60nm以下がより好ましい。柱状結晶の平均粒径が30nm未満であると、第1硬質層において粒界が増加し、耐チッピング性が低下する場合がある。一方、平均粒径が80nmを超えると、耐摩耗性が低下する場合がある。ここで粒状結晶の平均粒径とは、XRD(out−of−plane)で測定したTiCの(422)ピークの半価幅からシェラーの式(定数K=0.9)を用いて導出した値を意味する。なお柱状結晶の平均粒径とは、上記の柱状結晶の幅(径)と同義である。
柱状結晶4のアスペクト比は、40以上が好ましい。アスペクト比が40未満であると、高温切削条件下での耐摩耗性が低下する傾向がある。アスペクト比の上限値は特に制限されないが、製造上の観点から400以下が好ましい。ここでアスペクト比とは、柱状結晶の幅(径)を柱状結晶の長さで除した値を意味する。
柱状結晶4の平均粒径及びアスペクト比の測定は、以下のように行うことができる。まず、被膜2の断面を鏡面加工して、柱状結晶4を有する第1硬質層3の粒界をエッチングする。そして、第1硬質層3の膜厚の1/2にあたる箇所で、基材と水平方向にある各結晶の幅を粒径とし、各結晶の粒径をSEMを用いて測定して平均値を求める。なお、測定箇所は20箇所とする。第1硬質層3の膜厚を、得られた平均値で除し、この算出値を柱状結晶のアスペクト比とする。
本実施の形態において、柱状結晶4のそれぞれは、下記式(1)
TiCz−x (1)
(式(1)中、0.45≦x<0.70および0.80≦z≦1.20である)
で示される第1単位層4aと、下記式(2)
TiCA−y (2)
(式(2)中、0.70≦y≦1および0.80≦A≦1.20である)
で示される第2単位層4bとが交互に積層された多層構造を有し、柱状結晶4において、基材1に最も近接する層は第2単位層4bである。
第1単位層4aは、TiCz−x(ただし、0.45≦x<0.70および0.80≦z≦1.20である)という組成を有する。この組成は、炭素と窒素の合計に対する炭素の原子比が比較的少ないことを意味する。一般にTiCNからなる層において、炭素と窒素の合計に対する炭素の原子比が少ないほど、耐チッピング性及び耐熱性が向上する。したがって、第1単位層4aを含む柱状結晶4は、優れた耐チッピング性及び耐熱性を有する。
TiCz−xにおいて、xが0.45未満の場合、十分な硬度が得られず、耐摩耗性が不十分となる。一方、xが0.70以上の場合、第1単位層4aと第2単位層4bとの組成が近くなるため、異なる組成の第1単位層と第2単位層とを積層することにより、耐摩耗性と耐チッピング性とをバランスよく向上させるという効果を得ることができない。xは、0.45≦x≦0.65の範囲が好ましく、0.50≦x≦0.60の範囲がより好ましい。なお、TiCz−xにおける「Ti」と「C」および「N」の合計との原子比は、「Ti」を1とする場合、「C」および「N」の合計は0.80〜1.20である。
第2単位層4bは、TiCA−y(ただし、0.70≦y≦1および0.80≦A≦1.20である)という組成を有する。この組成は、TiCNからなる層において、炭素と窒素の合計に対する炭素の原子比が比較的多いこと、又は、Nを含まないTiCからなる層であることを意味する。TiCNからなる層において、炭素と窒素の合計に対する炭素の原子比が大きいほど、耐摩耗性が向上する。したがって、第2単位層4bを含む柱状結晶4は、優れた耐摩耗性を有する。
耐摩耗性と耐チッピング性をバランスよく向上させるという効果をより大きくする観点からは、第1単位層4aおよび第2単位層4bにおける炭素と窒素の濃度差を大きくする、すなわちy−xの絶対値を大きくすることが望ましい。yは、0.85≦y<1の範囲が好ましく、0.90≦y<1.00の範囲がより好ましい。なお、TiCA−yにおける「Ti」と「C」および「N」の合計との原子比は、「Ti」を1とする場合、「C」および「N」の合計は0.80〜1.20である。
第1単位層4aの組成TiCz−x(ただし、0.45≦x<0.70および0.80≦z≦1.20である)におけるxと、第2単位層4bの組成TiCA−y(ただし、0.70≦y≦1および0.80≦A≦1.20である)におけるyとは、y−x≧0.25の関係を満たすことが好ましい。これによると、柱状結晶4において、第1単位層に由来する優れた耐チッピング性と第2単位層に由来する優れた耐摩耗性とが、バランス良く向上するという効果を得ることができる。y−xの値は、0.30≦y−x≦0.50の範囲がより好ましく、0.35≦y−x≦0.50の範囲が更に好ましい。
第1単位層4a及び第2単位層4bの組成(チタン、炭素、窒素の原子比)、並びに被膜中の他の層の組成は、被膜の断面をEPMA(電子プローブマイクロアナライザー)装置を用いて測定することにより確認することができる。
また、柱状結晶4は、岩塩型結晶構造を有し、低ヤング率である(200)面に配向している。これにより、第1硬質層3の耐摩耗性が向上する。
ここで、配向性指数TC(hkl)とは、下記の式(3)により規定されるものである。
式(3)中、I(hkl)は(hkl)面のX線回折強度を示し、I0(hkl)はJCPDS標準(Joint Committee on Powder Diffraction Standards(粉末X線回折標準))による(hkl)面を構成するTiCとTiNのX線粉末回折強度の平均値を示す。なお(hkl)は、(111)、(200)、(220)、(311)、(331)、(420)、(422)、(511)の8面であり、式(3)の右辺の中括弧部分は、これら8面の平均値を示す。
そして、配向性指数TC(hkl)においてTC(200)が最大となるとは、上記全8面について式(3)により配向性指数TC(hkl)を求めると、TC(200)が最大値を示すことを意味し、これは柱状結晶が(200)面に強配向することを示している。このように(200)面が配向面となることにより、基材表面に対して柱状結晶が垂直方向に揃って成長することになる。これにより、柱状結晶中の強度のばらつきが小さくなり、第1硬質層の耐チッピング性及び耐摩耗性が向上する。
柱状結晶4の(200)面の配向性指数TC(200)は、1.5以上6.0以下が好ましく、3.0以上6.0以下がより好ましい。これによると、柱状結晶の均一性が良好となり、第1硬質層の耐チッピング性及び耐摩耗性が向上する。
第1単位層4aと第2単位層4bとが交互に積層された多層構造において、積層周期は20nm以上4000nm以下が好ましい。積層周期が20nm未満であると、膜厚が小さく均一な膜を形成することが難しい場合がある。一方、膜厚が4000nmを超えると、第1単位層4aと第2単位層4bとの硬度差(強度差)が過大になり、層間剥離が起こり、十分な耐チッピング性を得ることが難しい場合がある。ここで、積層周期とは、隣り合う1層の第1単位層4aと1層の第2単位層4bとの合計厚みを意味する。積層周期は、50nm以上500nm以下がより好ましく、50nm以上200nm以下が更に好ましい。
多層構造において、隣り合う1層の第1単位層4aと1層の第2単位層4bとの厚みの比は、1:1〜3:1の範囲であることが好ましい。これによると、第1硬質層の耐摩耗性及び耐チッピング性がバランス良く向上する。
多層構造において、積層周期の繰返し数は10以上1000以下であることが好ましく、100以上500以下がより好ましい。これによると、第1単位層と第2単位層とを積層することにより、耐摩耗性と耐チッピング性とをバランスよく向上させるという効果を十分に得ることができる。なお、繰返し数とは、隣り合う1層の第1単位層と1層の第2単位層との組み合わせを1周期とした場合の、多層構造全体における周期数を意味する値である。
1層の第1単位層4aの厚みは、10nm以上200nm以下であることが好ましく、20nm以上100nm以下であることがより好ましい。これによると、第1単位層による耐チッピング性及び耐熱性の向上効果を十分に得ることができる。
1層の第2単位層4bの厚みは、10nm以上200nm以下であることが好ましく、20nm以上100nm以下であることがより好ましい。これによると、第2単位層による耐摩耗性の向上効果を十分に得ることができる。
第1硬質層3の全体の厚みは、3μm以上15μm以下であることが好ましく、4μm以上10μm以下であることがより好ましい。厚みが3μm未満では、連続加工において十分に耐摩耗性を発揮できない場合があり、15μmを超えると、断続切削において耐チッピング性が安定しない場合がある。
柱状結晶において、第1単位層4aと第2単位層4bとが交互に積層して多層構造を形成していることは、図5に示されるように、被膜の断面を光学顕微鏡で観察し、コントラストの差を多層構造を示すものとして確認することができる。また、被膜の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)、EPMA(電子線プローブマイクロアナライザー)又はTEM(透過型電子顕微鏡)を用いて観察することによっても確認することができる。
積層周期、第1単位層の厚み、第2単位層の厚み、及び、第1硬質層の厚みは、被膜の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察することにより測定することができる。具体的には、日立株式会社製電界放出型走査電子顕微鏡SU6600を用いて加速電圧10kVで観察を行い、拡大倍率5000倍で柱状結晶領域の長さを測定することで膜厚を規定できる。
第1硬質層3中のフリーカーボンの量は、1.0体積%以下が好ましい。ここでフリーカーボンとは、TiC化合物あるいはTiCN化合物として存在しておらず、C−C結合のアモルファスカーボンや遊離カーボンを意味する。第1硬質層中のフリーカーボンの量が1.0体積%を超えると、フリーカーボンを起点として亀裂が発生しやすく、第1硬質層の耐チッピング性が低下する場合がある。フリーカーボンの量は、0.1体積%以下がより好ましく、フリーカーボンを含まないことが最も好ましい。フリーカーボンの量はXPS(X線光電子分光法)装置を用いて測定することができる。具体的には、XPSのC−1sスペクトルの位置と強度比から算出することができる。(結合性カーボン(TiC)の結合エネルギーは281.3〜281.7eV、非結合性カーボン(フリーカーボン)は283.8〜284.7eV)。
第1硬質層3は、ナノインデンター法で測定した硬度が26GPa以上35GPa以下が好ましく、28GPa以上34GPa以下がより好ましい。これによると、第1硬質層は十分な硬度を有する。なお、硬度の測定は、ISO14577に準拠した方法で行い、測定荷重は10mN(1g)とする。第1硬質層の硬度は、基材断面において、断面の法線方向から荷重をかけて測定する。測定箇所を基材方向から膜厚方向に沿って等間隔で10点設定し、該10点における硬度の平均値を第1硬質層の硬度とする。
<他の層>
本実施形態の被膜2は、第1硬質層3以外の他の層を含むことができる。このような他の層としては、例えば、下地層5、中間層6、アルミナ層7、最表面層8等を挙げることができるが、これらのみに限定されるものではない。
下地層5は、基材と被膜との密着性を高めるために基材の直上に形成される。下地層5は、TiN、TiBN等からなり、平均厚みが0.1〜2.0μmであることが好ましい。
中間層6は、第1硬質層3とアルミナ層7との密着性を高めるために両層の間に形成される。中間層6は、TiCNO、TiBNO等からなり、平均厚みが0.3〜3.0μmであることが好ましい。
アルミナ層7は、耐酸化性に優れ、鋼の高速切削時に発生する熱による摩耗(酸化摩耗)や鋳物の切削時の耐溶着性に優れるため、第1硬質層3よりも表面側に形成される。アルミナ層7は、α型酸化アルミニウム等からなり、平均厚みが2〜15μmであることが好ましい。
最表面層8は、刃先が使用済か否かの識別性を示すために被膜の最表面に形成される。最表面層8は、TiN、TiCN、TiC等からなり、平均厚みが0.3〜2.0μmであることが好ましい。
<表面被覆切削工具の製造方法>
本発明の一実施の形態に係る表面被覆切削工具の製造方法は、基材を準備する工程と、基材上に被膜を形成する工程とを備える。
被膜を形成する工程は、第1単位層形成工程と第2単位層形成工程とを含む。第1単位層形成工程及び第2単位層形成工程は、化学気相蒸着法により反応温度800℃以上950℃以下、かつ、圧力0.05atm以上1.0atm以下の条件下で行われる。第1単位層形成工程において、TiCl、CHCN、N及びHを含む第1原料ガスを用いて、下記式(1)
TiCz−x (1)
(式(1)中、0.45≦x<0.70および0.80≦z≦1.20である)
で示される第1単位層を形成する。第2単位層形成工程において、TiCl、C及びHを含む第2原料ガスを用いて、下記式(2)
TiCA−y (2)
(式(2)中、0.70≦y≦1および0.80≦A≦1.20である)
で示される第2単位層を形成する。第1単位層形成工程及び第2単位層形成工程は、第2単位層形成工程から開始される。上記で説明した第1硬質層は、このような方法により形成することができる。
<基材を準備する工程>
基材としては、上記で説明した基材を準備する。
<被膜を形成する工程>
次に、基材上に被膜を形成して、表面被覆切削工具を得る。本実施形態では、被膜のうち、第1単位層4aおよび第2単位層4bの形成は、化学気相蒸着装置の反応室内に、第1原料ガス及び第2原料ガスを交互に供給して行う。第1原料ガスにより第1単位層が形成され、第2原料ガスにより第2単位層が形成されるため、第1単位層形成工程と第2単位層形成工程とを交互に行うことで、第1単位層と第2単位層とが交互に積層した多層構造を含む第1硬質層を形成することができる。なお、基材の直上には、基材と被膜との密着性を高めるために下地層を形成することができる。
被膜を形成する工程において、第1単位層形成工程及び第2単位層形成工程は、第2単位層形成工程から開始する。これにより、多層構造において基材に最も近接する層は第2単位層となる。上記で説明したように、第2単位層は配向性指数TC(hkl)においてTC(200)が最大である。したがって、第2単位層上に第1単位層及び第2単位層を交互に積層して形成される多層構造は(200)面に配向しており、ヤング率が低く、優れた耐チッピング性を有する。
第1原料ガスは、TiCl、CHCN、N及びHを含む。第2原料ガスは、TiCl、C及びHを含む。なお、第2原料ガスには窒素が含まれていないが、第2単位層には窒素が含まれる場合がある。この理由は、反応室内に供給するガスを第1原料ガスから第2原料ガスに変更する際に、第1原料ガス中の窒素が反応室内に残留しており、この窒素が第2原料ガスに混入するためと考えられる。
従来法(例えば非特許文献1)では、CVD法でTiCNやTiCからなる層を形成するために、原料ガスとしてCHを含むガスが用いられていた。CHは約1000℃以上でないと熱分解しないため、CHを用いるCVD法は、1000℃以上の高温条件下で行われていた。
この条件下では、得られたTiCNやTiCからなる層は、粒状結晶から構成され、粒界が多いために破壊起点が増加し、この破壊起点から亀裂が進展して被膜の脱落や欠損が生じる場合があった。また、被膜の形成中に、超硬合金からなる基材と被膜間で相互拡散が起こり、基材と被膜の界面に脆化層であるη層が形成される場合があった。
本実施の形態に係る製造方法では、原料ガスとしてCHを用いず、800℃程度で分解するCを用いるため、CVD法の反応温度を800℃以上950℃以下という低温にすることができる。この条件下では、第1単位層及び第2単位層は、柱状結晶を含み、粒界が減少するため、耐チッピング性が向上する。また、基材と被膜の界面にη層が形成されないため、基材と被膜との密着性が向上する。反応温度が800℃未満であると、原料ガス中の塩素が第1単位層及び第2単位層中に残留し、硬度が低下する場合がある。一方、反応温度が950℃を超えると、粒状結晶が形成されやすい。また、基材と被膜の界面にη層が形成される場合がある。反応温度は、成膜速度および結晶粒径の観点から、800℃以上900℃以下が好ましく、830℃以上900℃以下がより好ましい。
なお、原料ガスとしてCHを用いない他の従来法(非特許文献2)もある。この技術では、CVD法でTiCNからなる層を形成するために、原料ガスとしてTiCl、CHCN、C、N及びHを含むガスが用いられていた。この場合、反応温度を840〜900℃の低温にすることができるが、原料ガス中のCが凝集して炭化し、TiCNからなる層内にフリーカーボンとして混入する可能性があった。フリーカーボンは破壊起点となるため、被膜の耐チッピング性が低下する可能性があった。
本発明者らは、被膜へのフリーカーボンの混入を抑制する方法を検討した結果、第1単位層形成工程において、第1原料ガス中のHガスの含有量を60体積%以上98体積%以下、かつ、第2単位層形成工程において、第2原料ガス中のHガスの含有量を90体積%以上99体積%以下とすることが有効であることを見出した。第1原料ガス中のHガスの含有量とは、反応室内で第1単位層を形成する際の、反応室内の温度及び圧力における値である。第2原料ガス中のHガスの含有量とは、反応室内で第2単位層を形成する際の、反応室内の温度及び圧力における値である。
第1原料ガス中のHガスの含有量、及び、第2原料ガス中のHガスの含有量が前記の範囲であると、第1原料ガス及び第2原料ガスに含まれるCがHガスにより拡散されるため、Cが凝集して炭化することを抑制でき、もって第1硬質層中にフリーカーボンが混入することを抑制することができる。第1単位層形成工程において、第1原料ガス中のHガスの含有量は80体積%以上98体積%以下がより好ましい。第2単位層形成工程において、第2原料ガス中のHガスの含有量は95体積%以上99体積%以下がより好ましい。
第1単位層形成工程において、第1原料ガス全体の流量は、第1単位層の均一性の観点から、1分あたり、反応室の体積の10倍以上30倍以下が好ましく、10倍以上25倍以下が更に好ましい。また、第2単位層形成工程における第2原料ガス全体の流量は、第2単位層の均一性の観点から、1分あたり、反応室の体積の10倍以上30倍以下が好ましく、10倍以上25倍以下が更に好ましい。ここで、原料ガスの流量は、反応室内で第1単位層及び第2単位層を形成する際の、反応室内の温度及び圧力における値である。
第1原料ガス中の、TiCl、CHCN、N及びHの含有量は、所望の第1単位層の組成に合わせて適宜変更することができる。例えば、第1原料ガスの組成は、TiClを0.5体積%以上2.5体積%以下、CHCNを0.1体積%以上1.0体積%以下、Nを5体積%以上40体積%以下、Hを残部とすることができる。
第2原料ガス中の、TiCl、C及びHの含有量は、所望の第2単位層の組成に合わせて適宜変更することができる。例えば、第2原料ガスの組成は、TiClを0.5体積%以上4.0体積%以下、Cを0.5体積%以上5.0体積%以下、Hを残部とすることができる。
第1単位層形成工程及び第2単位層形成工程において、反応室内の圧力は、0.05atm以上1.0atm以下である。これによると、反応温度800℃以上950℃以下において、柱状結晶を含む被膜を安定して形成することができる。圧力は、0.1atm以上0.5atm以下が好ましい。
本実施の形態における被膜が、第1単位層及び第2単位層以外の層を含む場合、これらの他の層は従来公知の化学気相蒸着法や物理的蒸着法により形成することができる。一つの化学気相蒸着装置内において、第1単位層及び第2単位層と連続的に形成できるという観点から、他の層は化学気相蒸着法により形成することが好ましい。
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
[試料1〜試料27]
<基材の準備>
基材の原料粉末として、TiCを0.5重量%、Crを0.5重量%、Coを10重量%、WCを89重量%含む混合粉末を準備した。該混合粉末を、所定の形状に成形した後、1300〜1500℃で1〜2時間焼結することにより、形状がCNMG120408N−GZ(住友電工ハードメタル社製)である超硬合金製の基材を得た。
<被膜の形成>
各試料の基材上に化学気相蒸着法により、TiN層(下地層)、第1硬質層(第1単位層及び第2単位層の多層構造)、TiCNO層(中間層)、Al層(アルミナ層)、TiN層(最表面層)をこの順で形成した。なお、試料2〜27では、第1硬質層の形成工程においては、第2単位層から成膜を開始し、その後、第1単位層及び第2単位層を交互に形成した。試料1では、第1硬質層の形成工程において、第1単位層のみを形成し、第2単位層を形成しなかった。下地層、中間層、アルミナ層、最表面層の原料ガス組成及び成膜条件(反応室内圧力、反応室内温度、流量)を表1に示す。第1単位層及び第2単位層の原料ガス組成、成膜条件(反応室内圧力、反応室内温度、流量、なお表2中、流量「x」とは、1分あたりの第1原料ガス全体の流量および第2原料ガス全体の流量が、反応室の体積のx倍であることを示す。)、及び積層周期を表2に示す。
各試料をSEM(走査電子顕微鏡)で観察したところ、試料2〜試料27では、多層構造が確認できた。
各試料の第1単位層及び第2単位層の組成をEPMA装置を用いて測定した。なお、全ての試料において、第1単位層はTiCz−x(ただし、0.45≦x<0.70およびz=1.0である)で示され、第2単位層はTiC1−A(ただし、0.70≦y≦1およびA=1.0である)で示される。前記式における「x」、「y」および「y−x」の値を表3の「組成」の欄に示す。
各試料の第1硬質層中のフリーカーボン含有量をXPS装置を用いて測定した。結果を表3に示す。
各試料の膜厚をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて測定した。結果を表3に示す。
各試料の柱状結晶のX線回折強度をXRD(X線回折)装置を用いて測定し、(200)面の配向性指数TC(200)を算出した。結果を表3に示す。
各試料の柱状結晶のアスペクト比を以下の手順で測定した。まず、被膜の断面を鏡面加工して、柱状結晶を有する第1硬質層の粒界をエッチングした。そして、第1硬質層の膜厚の1/2にあたる箇所で、基材と水平方向にある各結晶の幅を粒径とし、各結晶の粒径をSEMを用いて測定して平均値を求めた。なお、測定箇所は20箇所とした。第1硬質層の膜厚を、得られた平均値で除し、この算出値を柱状結晶のアスペクト比とした。結果を表3に示す。
各試料の第1硬質層の硬度の測定は、ISO14577に準拠した方法で行い、測定荷重は10mN(1g)とした。第1硬質層の硬度は、基材断面において、断面の法線方向から荷重をかけて測定した。測定箇所を基材方向から膜厚方向に沿って等間隔で10点設定し、該10点における硬度の平均値を第1硬質層の硬度とした。
<性能評価>
各試料の切削性能を以下のようにして評価した。
各試料の表面被覆切削工具について、以下の切削条件により刃先チッピング、膜剥離、または逃げ面摩耗量(Vb)が0.30mmになるまでの衝撃回数(ただし最小桁は四捨五入した)を測定するとともに刃先の最終損傷形態を観察した。結果を表3に示す。
欠損または逃げ面摩耗量(Vb)が0.30mmになるまでの衝撃回数が多いもの程、耐摩耗性及び耐チッピング性に優れていることを示す。また、最終損傷形態が正常摩耗に近いもの程、耐チッピング性に優れていることを示す。
最終損傷形態において、「正常摩耗」とはチッピング、欠けなどを生じず、摩耗のみで構成される損傷形態(平滑な摩耗面を有する)を意味し、「刃先チッピング」とは切れ刃部に生じた大きな欠けを意味し、「膜剥離」とは断続切削時に発生する衝撃応力によって膜が剥がれる状態を意味する。
<切削条件>
被削材:FCD450−4溝材外径強断続切削加工
周速:250m/min
送り速度:0.30mm/rev
切込み量:1.5mm
切削液:あり
試料2〜27は、本発明の一実施形態に係る表面被覆切削工具であり、比較例である試料1よりも耐摩耗性及び耐チッピング性が優れていた。試料2〜23は、フリーカーボンの含有量が0.01体積%以下であり、耐摩耗性及び耐チッピング性が非常に優れていた。
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形することも当初から予定している。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 基材
2 被膜
3 第1硬質層
4 柱状結晶
4a 第1単位層
4b 第2単位層
5 下地層
6 中間層
7 アルミナ層
8 最表面層
10 表面被覆切削工具

Claims (6)

  1. 基材と、前記基材を被覆する被膜とを備える表面被覆切削工具であって、
    前記被膜は、複数個の柱状結晶を有する第1硬質層を含み、
    前記柱状結晶のそれぞれは、下記式(1)
    TiCz−x (1)
    (式(1)中、0.45≦x<0.70および0.80≦z≦1.20である)
    で示される第1単位層と、下記式(2)
    TiC1−A (2)
    (式(2)中、0.70≦y≦1および0.80≦A≦1.20である)
    で示される第2単位層とが交互に積層された多層構造を有し、
    前記柱状結晶において、前記基材に最も近接する層は前記第2単位層である、表面被覆切削工具。
  2. 前記多層構造の積層周期は、20nm以上4000nm以下である、請求項1に記載の表面被覆切削工具。
  3. 前記式(1)中のxと、前記式(2)中のyとが、y−x≧0.25の関係を満たす、請求項1又は請求項2に記載の表面被覆切削工具。
  4. 前記第1硬質層は、1.0体積%以下の量のフリーカーボンを含む、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の表面被覆切削工具。
  5. 請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の表面被覆切削工具の製造方法であって、
    基材を準備する工程と、
    前記基材上に被膜を形成する工程とを備え、
    前記被膜を形成する工程は、第1単位層形成工程と第2単位層形成工程とを含み、
    前記第1単位層形成工程及び前記第2単位層形成工程は、化学気相蒸着法により、反応温度800℃以上950℃以下、かつ、圧力0.05atm以上1.0atm以下の条件下で行われ、
    前記第1単位層形成工程において、TiCl、CHCN、N及びHを含む第1原料ガスを用いて、下記式(1)
    TiCz−x (1)
    (式(1)中、0.45≦x<0.70および0.80≦z≦1.20である)
    で示される第1単位層を形成し、
    前記第2単位層形成工程において、TiCl、C及びHを含む第2原料ガスを用いて、下記式(2)
    TiCA−y (2)
    (式(2)中、0.70≦y≦1および0.80≦A≦1.20である)
    で示される第2単位層を形成し、
    前記第1単位層形成工程及び前記第2単位層形成工程は、前記第2単位層形成工程から開始される、表面被覆切削工具の製造方法。
  6. 前記第1単位層形成工程において、第1原料ガス中のHガスの含有量は60体積%以上98体積%以下、かつ、第2単位層形成工程において、第2原料ガス中のHガスの含有量は90体積%以上99体積%以下である、請求項5に記載の表面被覆切削工具の製造方法。
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